Comments
Description
Transcript
FB加工に使われる冷間工具鋼
「最新ファインブランキング技術の現状と展望」 FB 加工に使われる冷間工具鋼 ウッデホルム ㈱ 日 原 政 彦 FB 用金型に用いられる冷間工具鋼は、現在各種の製鋼法によって作られており、その特長を生かして付加価値 の高いプレス部品の製造に大きく寄与している。冷間工具鋼における技術動向ならびに諸特性について述べる。 工やナノ加工の進展に伴い、素材結晶粒の微細化、均 1.はじめに 質化、内部欠陥レベルの極限化などが図られ高機能化 プレス金型関係業界の出荷額は、金型産業全体の や高品質化の達成は益々重要な技術課題になっている。 39%(1,821 億円、18 年度、全体:4,669 億円)を占め、 ここでは、素形材産業にとって重要な役割を担って 国内ではプラスチック成形金型と同様に大きな市場規 いる金型材料の中でも、冷間工具鋼における製造技術 模を持っている。日本の金型産業は「モノづくり」の の動向ならびに工具鋼の諸特性について概要を述べる。 基盤技術を担い非常に高度な技術的ノウハウが蓄積さ れた技術領域であり、これらの金型から生み出される 2.冷間工具鋼の技術動向 各種の高品質な製品は、産業界の発展に大きく貢献し 冷間金型用工具鋼の鋼種には、溶製鋼、粉末鋼、ス ている。 プレーホーミング(Spray Forming、SF と言う)鋼な 今日の自動車産業は、軽量化や安全対策の需要から どにより製造されている。図 1 は、冷間金型用工具鋼 プレス用工具鋼においても薄肉化や高強度化の進歩が の使用要求項目および材料特性要因を示す。 著しい。特に、自動車ボディー、メンバー部品や構造 プレス部品や製品の製造には、非常に多岐にわたる 部品では、高強度ハイテン(高張力鋼板)の使用が増 加工手法があり、その各加工技術領域では求められる 加している。それらの進歩発展に伴い冷間工具鋼に求 特性が異なるものの、安定製品の製造には材料の安定 められる、各鋼種の材料特性・機能性も高度化してき 化、高品質化および高機能化が求められている。 ている。 一般的にユーザから求め られる工具鋼の特性は、金 型の使用目的により、(1) 耐 摩 耗 性、(2)耐 欠 け 性、 (3)焼付き性、 (4)耐クラッ ク性、 (5)熱疲労特性、 (5) 耐鏡面性、(5)シボ加工性、 (6)耐 疲 労 特 性、(7)機 械 加 工 性、(8)耐 食 性、(9) 溶接性などがあり、各産業 分野・使用用途別に工具鋼 の品質向上や改善が図られ ている。 また、工具鋼においても、 加工技術の進歩、超微細加 図 1 冷間金型用工具鋼の特性要因 最新ファインブランキング技術の現状と展望 このように工具鋼の製造技術は、ユーザの求める製 鋼素材の主要元素成分と生地組織のコントロールによ 品品質の高級化に伴い素材性能も改善され、機械的特 り機械加工性を向上させている。 性、物理的特性、化学的特性、機械加工性や溶接性な 図 3 は、各種の冷間工具鋼における耐摩耗性と耐 どの諸特性が改善されている。 チッピング特性との関係を示す。 また企業では、工具鋼に対して機械加工性、リード 通常の溶製鋼は、粉末鋼や SF 鋼に比べ、粗大炭化 タイムや生産性向上のために各種の諸要求を満たす材 物の存在と組織の不均一性により靭性低下や耐チッピ 料の提案が多い。 ング性が低下する。なお、現在製造されているウッデ 工具鋼の品質向上は、合金設計、凝固シミュレーショ ホルム社製の粉末工具鋼は、第 3 世代の高清浄化粉末 ンによる特性改善や不純物濃度の低減化と新溶解法の 鋼であり、高品質な粉末素材から工具鋼に製造され、 開発(ESR、VAR、P-ESR などの再溶解プロセス)に 高靱性と耐摩耗性の向上した素材が提案されている。 よって高性能で高品質な鋼種を製造している 1) , 2) , 3) 。 図 4 は、冷間工具鋼に主として使用される粉末工具 3) 図 2 は、工具鋼の疲労限に及ぼす炭化物および介在 鋼の製造技術の変遷を示す 。今日では不純物や非金 物サイズの変化を製法プロセスの違いから示す。工具 属介在物の少ない高い清浄度を持った微粉末と焼結過 鋼の溶解プロセスの違いにより、素材中に存在する介 程による結晶粒微細化および高硬度炭化物の微細分散 在物や炭化物サイズは異なり、溶解・製法プロセスの 化製法を併用することにより、生地の延性・靭性、耐 開発・改善により欠陥サイズの微細化が達成され、そ 焼付き性および耐チッピング特性を向上させている。 れに伴い疲労強度は増加する傾向を示す。 図 5 には、各種の第 3 世代粉末工具鋼(VANADIS また、素材中の不純物濃度の減少(清浄化の改善) 系)と溶製工具鋼(SKS、SKD 12、SKD 11)との衝撃 と炭化物の微細化は、切り欠き靭性の向上や耐チッピ 値に与える炭化物形態の変化を示す。 ング特性が著しく改善されるために、今日では、合金 粉末鋼種は、炭化物の微細分散化や組成調整などに より、衝撃値が従来材に比べ各試験方向ともに著しく 図 4 粉末工具鋼の時代的変遷 図 2 工具鋼の疲労限と炭化物・介在物サイズの関係 図 3 冷間工具鋼の位置付け 図 5 粉末工具鋼の衝撃値と組織観察 向上している。 し、冷間や熱間工具鋼が製造され、現在では、径 500 今日の冷間工具鋼は、自動車車体の軽量化、燃料消 ×長さ 2,500 mm 程度(約 3 トン)のビレットが作ら 費率の改善、安全性の要求から、ボディー鋼板への高 れている。 張力鋼(700 から 500 MPa 程度のレベル、ヨーロッパは この方法は製造コストの低減、省エネルギーが達 1,000 MPa 程度を使用)の適用範囲が増加している。鋼 成されるばかりか、ミクロ偏析、空孔の減少および 板の高強度化に伴ない冷間工具鋼は、硬さの向上、耐 高い添加元素濃度の工具鋼製造(冷間材料、高速度工 摩耗性、切欠き靭性ならびに耐チッピング特性などの 具鋼など)が可能になり、耐摩耗性を要求される冷間 諸特性が求められる。 工具鋼、ロール材、切断刃、破砕刃、建設機械や特 なお近年では、冷間工具鋼であっても、ガラス混入 殊用途の産業機械、機械構造用部品などに効果を発 樹脂製品の需要増加に伴いプラスチック成形用金型と 揮している。 して高炭素系の合金工具鋼が耐摩耗性、耐かじり性や 図 7 は、SF 法により製造された冷間工具鋼と通常の 耐焼付き性の改善に寄与している。 溶製材(SKD 11)における組織の比較を示す。SF 法に 図 6 は、SF 法による工具鋼の製造方法とインゴッ よる素材は、非常に微細な組織が得られる特徴があり、 ト(ビレット)を示す。この製法は、溶融金属を特殊 初晶炭化物の成長も少なく均一な分散状態を示す。 なアトマイザーから溶融金属を噴霧しながら、ベース 図 8 は、各種の冷間工具鋼における耐摩耗性評価を プレート上を回転させて連続的にビレットを積層させ ピン・オンディスク試験で行った結果を示す。 4) る製造方法である 。 2 種類の SF 工具鋼は、他の粉末鋼や溶製鋼に比べ非 この製造方法は、従来アルミニウムや銅素材の製 常に良好な耐摩耗性を示している。 造に適用されていたが、工具鋼への製造技術が確立 図 9 は、粉末冷間工具鋼と溶製鋼の 20 万ストローク 図 6 スプレーホーミング法(SF 法)による工具鋼の製造 4) 図 8 冷間工具鋼の耐摩耗性の比較 スプレーホーミング(SF 法) 通常溶製法 図 7 スプレーホーミング(SF)法による鋼種と 通常溶製法(SKD 11材)の組織比較 図 9 粉末冷間工具鋼と溶製鋼との耐摩耗性の比較 最新ファインブランキング技術の現状と展望 表 1 冷間金型用工具鋼の適用領域 操業製品数 (目安) 摩耗発生形態・鋼種選択 凝着摩耗 (Adhesive) 混合摩耗 (Mixed) 引掻き摩耗 (Abrasive) ARNE(SKS) 54 ∼ 56 HRC CARMO 54 ∼ 60 HRC ARNE(SKS) 54 ∼ 6 HRC CALMAX 54 ∼ 60 HRC 中期サイクル (ミドルラン) CALMAX 54 ∼ 58 HRC RIGOR(A2,D12) SVERKER 21 54 ∼ 62 HRC (D2, SKD11) CALDIE 58 ∼ 60 HRC 58 ∼ 62 HRC 長期サイクル (ロングラン) VANADIS 6 56 ∼ 62 HRC VANADIS 6 60 ∼ 64 HRC 短期サイクル (ショートラン) ARNE(SKS) 54 ∼ 62 HRC SVERKER 3(D1) 58 ∼ 62 HRC VANADIS 6 60 ∼ 64 HRC 表 2 自動車用鋼板のブランキング推奨材料 被加工材 (HT: High tensile strength steel) 軟 鋼(MS) 高張力鋼 (通常 HT) 高張力鋼 (エクストラ HT) 高張力鋼 (ウルトラ HT) 被加工材の 材料強度 (TS:MPa) 冷 間 工 具 鋼の 種類・選択 特記 (クリアランスなど) < 250 CALMO, CALMAX, SLEIPNER ダイ,クリアランス: 板厚の 4 ∼ 6 % 250 ∼ 450 CALMO, CALMAX, SLEIPNER, CALDIE ダイ,クリアランス: 板厚の 5 ∼ 8 % 450 ∼ 500 CALMO, CALMAX, CALDIE 500 ∼ 700 SLEIPNER, VANADIS4, VANADIS6 700 ∼ 1,400 SLEIPNER, VANADIS6 ダイ,クリアランス: 板厚の 7 ∼ 10 % 硬さ:58 ∼ 64HRC ダイ,クリアランス: 板厚の 10 ∼ 14 % 硬さ:60 ∼ 64 HRC 終了後のエッジ部分の摩耗を比較した結果を示す(材 被加工材の材質、強度、硬さにより使用する冷間工 料強度、1,400 MPa の高張力鋼で比較)。粉末鋼は通常 具鋼の選択が異なり、各製造方法により最適な鋼種を の溶製鋼に比べ、非常に安定した操業とエッジの摩耗 選択しなければ有効な結果が得られない。 の少ないことが明確になる。 粉末冷間工具鋼は、生地に M 6 C(1,700 HV)および 参考文献 VC(2,800 HV)炭 化 物 が 微 細 に 均 一 分 散 し た 形 態 に 1 )H. J. Spries: 5th international Conference on Tooling, なっていることから、摺動摩耗、焼付き、チッピング などが長時間の操業においても非常に少ない。また、 エッジの形状も非常に安定した形態を示す。 そ れ に 比 べ て、SKD 11(AISI D 2)や CALDIE、 CALMAX などの溶製材は靭性が粉末鋼に比べ高いが Sep(1999)25. 2 )清水崇行他:電気製鋼, Vol. 76, No.4(2005)229. 3 )日原政彦:型技術別冊, 5 月(2005)83. 4 )C. Spregelhauer: 6th international Conference on Tooling, Sep(2002)923. 炭化物形態が不均一分散していることからエッヂの摩 耗が著しい。 表 1 および表 2 は、冷間金型用工具鋼の適用領域を 一般材料の製造数と自動車用鋼板への適用事例を各々 示す(弊社ブランド名記載)。 ウッデホルム株式会社 http://www.uddeholm.co.jp/ 〒105−0003 東京都港区西新橋 3−16−11 愛宕イーストビル 10 F TEL 03−5473−4641 FAX 03−5473−7691