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「多様化する工芸」・クラフト創造都市ワークショップ 報告

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「多様化する工芸」・クラフト創造都市ワークショップ 報告
「多様化する工芸」・クラフト創造都市ワークショップ 報告
日 時
2011 年 10 月 5 日(水)・6 日(木) 10:00~17:30
会 場
金沢市民芸術村パフォーミングスクエア
主 催
金沢創造都市推進委員会・金沢市
協 力
大阪市立大学都市研究プラザ・NPO法人都市文化創造機構
1
ごあいさつ
金沢市は、2009 年6月のユネスコ創造都市ネットワーク・クラフト分野での認定
以来、「手仕事のまち・金沢」を発信して、担い手の育成や文化のビジネス化を 進
めるために、国内外の創造都市をお招きしたフォーラムを開催してきました.
本年は2日間にわたるワークショップ形式で、若手キュレーター・工芸作家同士
の交流から、これからの工芸の発展やそのために都市がなしうること、新しい創造都
市間の連携について議論が深まることを期待しております.
金沢市長 山 野 之 義
金沢には藩政期から受け継がれてきた伝統工芸をはじめとして、今日に至る ま
で、文化と産業を支えてきたものづくりの精神があり、一昨年のフォーラムでは こ
れを“Craftism”と称させていただきました.
本日ご参加いただいた皆さまにとって、本ワークショップが示唆に富むとともに、
21世紀において持続的に発展する創造都市の実現に向け、実り多きものとなる
よう願っております.
金沢創造都市推進委員会実行委員長 福光 松太郎
開催趣旨
本ワークショップは「多様化する工芸」をテーマとしています.
本来ワークショップとは「作業場」や「工房」を意味しますが、現代においては参加者が経験や作業を披露し
たりディスカッションをしながら、スキルを伸ばす場の意味を持つようになっております.
創造都市において活躍されている若手キュレーターや作家をゲストとして招き、金沢の若手工芸家とともに
経験、想い、考え方を披露し、ディスカッションをすることで、お互いのスキルを伸ばすことは、これからの金沢
の工芸にとってかけがえのない経験になると考えられます.
若手工芸家が海外のキュレーターや作家の感性とふれあうことにより、多様化するニーズを肌で感じて新た
な制作につなげていくこと、海外のキュレーターが金沢の工芸に触れることで、その国際的な発信につながるこ
とが期待されるものです.
この度のワークショップによって、互いの経験を共有し、より緊密な関係の構築に向けた議論を深めることが
できれば、幸甚に存じます.
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第 1 日目 10 月 5 日(水)
10:00-16:35 キュレーターからの視点 『多様なまなざし』
10:10 - 11:35 村田 大輔 (金沢 21 世紀美術館キュレーター:金沢市)
2005 年
「Another Story」
2006-07 年 「リアル・ユートピア – 無限の物語」
2008 年
「ロン・ミュエック」
2008-09 年 「杉本博司 歴史の歴史」
2009 年
「広瀬光治と西山美なコの“ニットカフェ・イン・マイルーム”」
2010 年
「Alternative Humanities ~ ヤン・ファーブル×舟越桂」
2011-12 年 「サイレント・エコー」
など
■ Daisuke Murata
『グレン・グールドの技術観に基づく、造形芸術の世界について』
ピアニスト、グレン・グールド(1932-1982)は、
「技術」について次のように述べている。
「
「技術」
とは単なるテクニックという狭い意味ではなく、人の身体性、精神性を含む総体的な才能、総合的な
音楽の再現能力のことである。」こうした技術観や「工芸的造形」という視座を手がかりに、私は造形
芸術を展観し、展覧会を実現してきた。今年 4 月から金沢 21 世紀美術館で開催中の「サイレント・
エコー」展はこれまでの私の視点を更に深めたものであり、自己、技術、対象の十全な融合によって
生み出される表現世界を考察している。グールドの技術観を参照することにより、西洋近代主義的芸
術論や美術批評とは異なる眼差しで、造形芸術に向き合うことが可能となる。
13:00 - 13:55 沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
1996 年
国民大学(美術)博士号
2004 年
ソウル芸術フェスティバル
2007-10 年 カーサリビング-テーブルデコフェア
2011 年
ソウルリビングデザインフェア
■ Shim, Ji-soo
第 1 回個展(韓国クラフト推進財団ギャラリー、ソウル)
第 2 回個展(トングインギャラリー、ソウル)
韓国クラフト コンペティション 特別賞(国立現代美術館、ソウル)
ソウル現代陶芸コンテスト 選出(ソウル記者センター)
『自らの手掛けてきた作品と利川』
私の作品と私の暮らしている利川について話をした
い。私はソウルで生まれたが、34 歳のある春の日、偶然
に利川に立ち寄り、満開の桃の花にひとめぼれしてこの
まちに移り住んだ。利川に来る前は、自分自身の考えを
表現したいという思いが強かったが、次第に作品をとお
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して他人とコミュニケーションをするという方向に変わってきた。利川の季節の移ろいや自然の美し
さは、作家にインスピレーションを与え、また、豊富な陶土、石材、鉄などの素材に惹かれて多くの
芸術家たちが外からやってきて創作活動を続けており、2010 年 7 月にユネスコ創造都市に選ばれて
いる。伝統的な作家から、大学を出たばかりの新人まで多様な作風をもつ 300 人以上の陶芸家たちが
活動しており、毎年その人口は増え続けている。
14:00 - 14:55 倪 学軍
(グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
深圳グラフィックデザイン協会の WEB デザインや協会の展示活動に積極的に参加して、「グ
ラフィックデザイン in China」ブロンズ賞、優秀賞などを数多く受賞。
近年、主に展覧会企画とクリエイティブ活動に携わっている。2010 年には日本グラフィック
デザイナー協会の招きで来日し、日本のデザイナーと交流。
■ Ni XueJun
2008 年-華僑城 T 街創意市活動の企画を 3 年間担当
2010-2011 年 華僑城創意文化園 T-Studio プログラム 青年クリエイティブ支持計画
2010 年 深圳国連設計の都大会が主催した無形文化遺産民間工芸展
2010 年 大梅沙「砂浜音楽まつり」クリエイティブ市活動
2009 年 深圳・香港 都市/建築 二都ビエンナーレ南山会場の企画 など
『新興都市・新たな創造力』
シンセンは中国のデザインの中心地であり、2008
年 11 月にユネスコ創造都市にデザイン部門で認定さ
れた。30 年前には香港に接する漁村地域だったが、
1980 年 8 月に中国で初めての経済特区に指定され、
経済開放政策の下に香港とも関係を強めながら急速な
発展を遂げ、1,300 万人の人口を持つ現代都市へと変
貌した。シンセンで展開される多様なアート、デザイ
ン活動と展覧会は、さらに多くの若者をこのまちの創造的なデザイン企業へと引き寄せている。この
ような工芸創作などの身近な創造的活動やデザイン活動は、美術館の中ではなく、日々まちで展開さ
れており、それをより多くの人々に知ってもらう必要がある。暮らしの中での豊かさを人々に感じて
もらうために、私たちは、オリジナル、ユニーク、面白さ、インタラクティブ、デザイン、芸術、生
活、環境保護等をキーワードにデザイン活動に取り組んでいる。
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15:10 - 16:35
ニコラサ M. シャベズ
(国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
1996 年 5 月 ニューメキシコ大学スペイン語/歴史 学士号
2001 年 5 月 ニューメキシコ大学イベリア人学/歴史 博士号
2001 年 6 月からスパニッシュコロニアルアート美術館アシスタントキュレーター
2003 年 12 月からアルバカーキ美術館(歴史)準キュレーター/サイトマネージャー
2007 年 11 月からサンタフェ国際フォークアート美術館キュレーター
■ Nicolasa M. Chávez
展覧会
2011 年 「Walking on Sunshine」 国際的な春・夏季展
2010 年 「Feasts and Festivals」 国際的な秋期展
2009 年 「El Corazón de la Cultura」 ニューメキシカンアート&カルチャーの 400 年展
『現代のニューメキシコ クラフト伝統』
ニューメキシコ州サンタフェはロッキー山脈の麓、
海抜約 2100mの高燥地帯に位置し、人口 7 万人の小
さな街でありながら 2005 年 7 月にクラフト&フォー
クアート分野でユネスコ創造都市に認定されている。
1千年以上前のアメリカ先住民集落に続く 250 年に渡
るスペインの植民地化の歴史、その後のアメリカ各地
や他国からの移民などによる多様な伝統民芸、生活文
化が重層し、陶器、織物、かご・ビーズ細工、アクセサリー、木彫、ブリキ細工等の創造活動が盛ん
である。6,500 人以上のアーティストが住み、150 を超えるギャラリー、50 以上の視覚芸術機関と舞
台芸術団体、そして 8 つの美術館がある。多くのアーティストが伝統的な素材と技法を使用している
が、まちのコンテンポラリーな雰囲気の中で独自のスタイルを作成し、伝統的な主題を新しい材料で
表現する作家が何人も生まれている。
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第 2 日目 10 月 6 日(木)
10:10-15:15 作家からの提案 『工芸との出会い』
佐合 道子 (陶芸)
金沢美術工芸大学博士課程 在学
2009 年 現代工芸への視点-装飾の力(東京)
2010 年 佐合道子展-蠢(東京)
2011 年 金沢美術工芸大学修士号
■ fossil
私は、日頃から植物や動物、菌類、細胞等の自然物を観察している。人が自然物と対峙した時、そ
の存在を全く違和感なく受け入れているように、自分の作品も鑑賞者にとって自然に受け入れられる
ものであってほしいと思い、自然物の様相を参考にし、その存在感を念頭に置いた作品づくりへと進
んできた。姿かたちだけでなく、その有り様から生を感じられる作品を目指し制作を続けている。
中村 有希 (漆芸)
金沢美術工芸大学博士課程 在学
2010 年 生新の時 2010(石川県輪島漆芸美術館)
2011 年 JAPAN Urushi art exhibition
(ムスタリングギャラリー/ドイツ)
2011 年 漆展(伊丹市立工芸センター)
■ 生命の欠片 10_02
私は現在、
「生命」と「つなぐ」をキーワードに蒐集した素材と漆による制作に取り組んでいる。
蒐集した素材(貝殻や骨、サンゴなど)が生きてきた時間はその物の”形”となって表れている。そ
れらのパーツを樹液である漆によってつなぎ、形作るという制作プロセスは、生き物が死に、微生物
によって分解され、あらたな命を作り上げていくという生命の循環を思い起こさせる。そういった目
には見えない生命の気配を表現していきたい。
木瀬 浩詞 (金工)
2005 年 東北芸術工科大学大学院 修了
2005 - 2008 年 金沢卯辰山工芸工房
2008 - 2011 年 (財)宗桂会月浦工房
■ 銅の粒
伝統的な金属の加工法の一つであり、平板な金属板を金鎚や木槌で何千、何万回と打ち叩くことで、
立体へ変形させる手絞り技法に取り組んでいる。手絞りは、叩き続けることで一枚の平らな金属の板
が徐々に縁の部分から立ち上がり、柔らかな器の形となっていく不思議と面白さを実感することがで
きる。金属を変化させる際に現れる表情に着目し、銅板を使った様々な絞り方を模索している。
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増田 守世 (陶芸)
1990 年
2005 年
2009 年
2009 年
2010 年
金沢大学卒業
日本現代工芸美術展 現代工芸賞
日本現代工芸美術展 本会会員賞
日本美術展覧会 特選
石川現代美術展 美術文化特別賞
■ SAIDO 器
建設コンサルタント会社で働いているときに通い始めた陶芸教室で作陶と出会った。初期の焼き締
めも、色や模様を使うようになった今も、基本的な制作方法は変わっていない。表現するものが決ま
っていて、それを実現する手段として土や釉薬を使っているわけではなく、土を触り釉薬を試作する
中で見つかった質感や色、
表情を一つ一つ積み上げ、階段を上るように作品まで導いてもらっている。
藤野 征一郞 (漆芸)
1998 年 金沢美術工芸大学修士号
2002 年 金沢卯辰山工芸工房
2010 年- 金沢美術工芸大学非常勤講師
■ FLOWER-62l
漆工芸の技術の基本は、塗や下地を積層させて(塗り重ねて)いくことに尽き、その面白さは、素
材の複合によって生まれる極めて大胆で繊細な質感表現だと思う。造形の表層にこの多様な質感表現
が存在することで、一層素材の魅力が深まると信じ、日々思考を重ね制作している。手に触れる間合
いに作品が存在することが重要であり、近距離で観て手で触って実感できる「用途」が必要だと思う。
坂井 直樹 (金工)
1998 年 東京芸術大学工芸科卒
2000 年 東京芸術大学鍛金修士課程
2003 - 2005 年 東京芸術大学講師
2005 - 2008 年 金沢卯辰山工芸工房
■ 湯のこもるカタチ
私は「金属を身近に」をテーマとし、鍛金で作品をつくっている。金属は、丈夫で破損が少なく熱
に強いが、重く、錆びる。しかし「錆び」によって鉄の冷たさが温かく変化していく。金鎚を使い思
いどおりのカタチに近づけていく長い作業の中で、重く冷たくのしかかる鉄が生まれ変わっていく瞬
間を手の中で感じ取り、温かみやぬくもりを感じる、心が落ち着く「モノ」を生み出していきたい。
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見附 正康 (陶芸)
1997 年 石川県立九谷焼技術研修所卒業
2006 年 経済産業大臣指定伝統工芸士に認定
2007 年・2009 年 個展 オオタファインアーツ(東京)
2007 年・2011 年 日本陶芸展入選
■ 赤絵細描 陶箱
私は、九谷焼技術研修所を卒業後、福島武山氏(赤絵作家)の元での 10 年間の修行を経て独立した。
九谷焼赤絵は伝統的に花鳥風月や人物画等の図柄が多いが、私は文様、パターンの面白さに大変興味
があり、古来のものを取り入れて幾何学的文様を工夫して製作している。それを花瓶、蓋物、茶碗、
カップ等に用い、伝統的赤絵を活かした作品を現代のライフスタイルに取り入れてもらえるようにし
ていきたい。
青木 千絵 (漆芸)
2010 年 金沢美術工芸大学博士号
2005 年 日本漆器工芸奨励賞受賞
■ BODY 10-1
漆が持つブラックホールのような深い艶は痛み、苦しみといった様々な負の感情を与え、同時に内
に秘めた強い生命力を感じさせる。私の作品の多くは、スタイロフォーム原型による乾漆技法で制作
されており、私にとって漆とは、形だけでは表現できないことを可能する唯一無二の素材である。今
後も、自分の中に広がる「闇」と対話し、その「闇」の存在を感受してもらえる作品を作り続けたい。
藤原 絵里佳 (陶芸)
2008 年 金沢美術工芸大学大学院修士号
2010 年 金沢卯辰山工芸工房 修了
第 66 回 金沢市工芸展 金沢市工芸協会会長奨励賞
第 1 回 金沢・世界工芸トリエンナーレ
現在、金沢市内で制作。金沢美術工芸大学実習助手
■ radiate
私は、土のもつ表情、焼くことによって生まれる変化に魅力を感じ、焼き締めによる窯変表現を軸
とする作品を制作しており、その存在感、落ち着き、中に静かに流れているエネルギーのようなもの
を美しいと感じている。つくろうとする意志と素材や技法のもつ特性が追いかけあい、手で直接触れ
る作業に加え最終的には窯に委ねることであらわれてくる不思議さがいつも私を楽しませてくれる。
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植埜 貴子 (漆芸)
2009 年 富山大学高岡短期大学部専攻科修了
金沢卯辰山工芸工房を経て
今年春より、独立
■ 29
私の作品は、底が丸くなっていたり、車輪が付いており、おもちゃのように手で触ったり、突いて
転がすことが出来る。作品は、どこかに飾られるのではなく、所有物として、まるで子供が自分のお
気に入りのぬいぐるみにするように大切に扱ってほしい。漆を用いるのは、漆芸品が多くの人に与え
る特別な感覚を作品に付加したいためである。楽しんで作ることを念頭に、表現の中で遊んでいきた
い。
羽場 文彦 (陶芸)
1998 年 金沢美術工芸大学卒業
2005・2006 年 (個展)ギャラリー双葉
2009・2011 年 (個展)トキ・アートスペース
2011 年
(個展)GALERIE SOL
■ 記憶の扉・箱
記憶という言葉をテーマとして、存在するということ
を表現している。物体
が在ることを強調するために、見るものが異なる全体像を想像できる部分的な形体を用い、タイルの
様なパターンや写真を使っている。土・陶が、焼くことにより半永久的な素材に変わることに魅力を
感じている。土以外の素材によって制作した原型から、陶に置き換えることは記録や標本作りにも似
た行為のように思う。
15:50-17:00 ディスカッション 『未来への扉』
トータルコーディネート:秋元 雄史 (金沢 21 世紀美術館館長)
東京藝術大学美術学部油画科卒業、
1991 年から 2004 年 6 月まで(株)ベネッセコーポレーションに勤務し、
美術館の運営責任者として国吉康雄美術館、ベネッセアートサイト直島
(旧・直島コンテンポラリーアートミュージアム)の企画運営に携わり、
1997 年から 2002 年まで直島・家プロジェクト(第一期)を担当。
1992 年から 2004 年までベネッセアートサイト直島チーフキュレーター。
2004 年から 2006 年 12 月まで地中美術館館長/(財)直島福武美術館財団常務理事、
ベネッセアートサイト直島アーティスティックディレクター。
2007 年から現職。
© CHISATO HIKITA
■ Yuji Akimoto
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パネリスト:
村田 大輔
(金沢 21 世紀美術館キュレーター:金沢市)
沈 志修
(現代陶磁器職人:利川市)
倪 学軍
(グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
ニコラサ M. シャベズ
(国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
ディスカッション
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
「未来への扉」を開くものとして、2 日間のワークショップが行われ、ある成果があった。次なる
ステップに向かって交流が促進されていけばよいと思う。キュレーターと作家の立場の違いやそれぞ
れが活動している都市や地域の違い、また文化的な背景も異なるが、違いの確認だけに終わるのでは
なく、共通の課題、テーマを見つけていくことが大事である。そのきっかけになればと思う。
沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
日本と韓国の作家の活動とはいろんな違いがあると思う。本日、発表のあった作家の作品は質感や
技法の研究がよくなされており、金沢は、伝統を守りながらも現代的であり、芸術的に優れたまちで
あると認識することができた。
倪 学軍 (グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
3 日間の滞在で、金沢は本当に良く伝統的なものを保存しているまちだと思う。現代的な生活様式
の中にも伝統的なものを良く活かしており、さらに発展させるためにも色々な工夫がなされている。
特に若い作家たちを力強く支えており、若い作家たちが伝統的な工芸を勉強し、その上で創造を行っ
ていることを痛感した。
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ニコラサ M. シャベズ (国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
この 2 日間、異なった様式、気持ち、伝統の重さ、陶磁器から金属加工、テキスタイルなど多様な
作品や言動に接し多くの印象を受けた。金沢における工芸と工芸に関わる人々が、伝統を基本としな
がら、それぞれの個性も生かしていることを見せてもらった。まったく異なった伝統を持っていても
アートは影響し合うものであり、ニューメキシコにおいても、外部からの様々な影響のもとにそれが
培われてきた。個々人が、伝統的なアートにも学びながら、オリジナル、クリエイティブであろうと
している。それはまた、金沢における活動であり、素晴らしい工芸の伝統を引き継ぐものだと理解で
きた。
村田 大輔 (金沢21世紀美術館キュレーター:金沢市)
フォークアート、工芸といった分野、あるいは伝統、現代といった枠組みの違いがあるが、どのま
ちでも人が何かをつくり、創造することに重きを置いており、そこから様々な表現が生まれているこ
とを再確認できたのが嬉しい。なぜ人は作品を創り、表現してゆくのかということを、日本、アメリ
カ、中国、韓国の事例を見ながら、もう一度考えるきっかけが出来た。金沢で活動している作家のプ
レゼンテーションでは、どのようなプロセスでつくっているのか写真で見せてくれ、どういう思いで
つくっているのかを語ってくれた。今後、ワークショップというスタイルだけでなく、日常レベルで
もいろんな作家と交流が出来ればと改めて感じた。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
次に、昨日の「キュレーターからの視点」での発表を振り返りつつ、さらに話を深めていきたい。
沈さんは、利川に移ってから、作品制作が自身のための表現から、人とコミュニケーションを深める
ためのものになったと言うことだった。人との間を意識して作品を作るようになった。きっと利川と
いうまちには、作家の姿勢を変えていく魅力があるのではないかと思う。また利川には、沈さんと同
様に外から移り住んだ工芸作家が多いということだった。利川の魅力をもう少し話していただけない
か。
沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
利川から、多くのものを得ているが、たとえば作品づくりのためのマーケティング情報やキーワー
ドをもらっている。それによって、いろんな人との交流も出来たし、私を含めた作家の作品が変わる
きっかけになっていると思う。利川から勧められたアートフェアに参加すると、作品のディスプレイ
にもアドバイスをもらう。個展を開くとディスプレイやコレクターを集めるのが大変だが、利川では
支援があってそれほど苦労がいらない。江戸時代から伝統と美意識を持っている都市である金沢と比
べると利川は小さなまちであるが、交流をとおしてさらに発展が出来るのではないかと思う。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
11
倪さんによれば、シンセンは急激に人が増え、都市化がすすんでいるが、だから人々の暮らしを豊
かにするデザインが必要だと話された。しかし、今は豊かさの象徴として、まずはいろいろな物がほ
しい。デザインにこだわることも必要だが、物質的にもっと豊かになりたい。だから美術やデザイン
は後回しと考える市民もいるのではないかと思う。みんなが、デザインが必要だということに理解が
あるのか。
倪 学軍 (グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
全ての人が美術やデザインを必要だと思っているわけではないと思う。しかし、私と同じようにデ
ザイン関係の仕事をしている人は、シンセンという新しいまちのなかで、新しい芸術的な環境をつく
り上げようと努力しており、
人々の芸術に対する考え方や生活様式にも影響を与えたいと思っている。
私たちの仕事を通してシンセンは、
少しずつ変わってきた。
利益とか金銭ばかりに関心を向けないで、
創造都市になることに目を向ける人が多くなった。シンセンの芸術家や作家もまちを変えことを意識
し始めている。シンセンを創造都市にするようにさらに努力したい。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
フォークアートということばを聞くとある先入観を持ってしまう。民族色が強く、地域的な色合い
の濃いもの。あるいは近前近代的な色合いが濃いもの、といった具合だ。言葉が持つイメージはいが
と重要で、私たちの見方を決めてしまう。フォークアートと聞いて、好感を持つ人もいれば、全く関
心を示さない人もいると思う。そこでフォークアートについてのニコラサさんの考え方を知りたい。
また、一般にアメリカでどのように受け取られているか。また、その中で、ニコラサさんの美術館は
どういう活動をしているのかを知りたい。
ニコラサ M. シャベズ (国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
私たちの美術館の名でもある「フォークアート」は、1950 年代には今日とは意味が異なっていた。
当時は、アングロアメリカ人がいわゆるローカルな人々がつくるものに対して注目し名付けていた。
フォークアートの伝統、芸術はいわゆる先住民の人たちが使い、自分たちの世界のためにつくってき
たものであった。現在は、以前と同じような作品であっても、必ずしも日常生活で使われてはいない
かもしれないが、他の人が、装飾用に自分が気に入ったから買っていく。たとえば、リタブロー(retablo)
という絵画は、もともとは宗教的な像であり祭壇で使われてきた。現在でも同じ目的で使っている人
もいるが、ほとんどは州を訪れた外部者によって芸術作品あるいは装飾品として買われ、それぞれの
家に飾られている。フォークアートと
いう伝統的なアートが、私たちのミュ
ージアムで紹介することによって、い
わゆるポジションが上がってきたとも
言えると思う。以前からフォークアー
12
トは、
その社会の次の世代へと引き継がれていくものとしてあったわけであり、
確かに今もそうだが、
現在では、学生たちが大学でニューメキシコのアートとしても学んでいる。現在ではファインアート
であると認識されている。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
村田さん、ここまでの話を受けてコメントをいただきたい。
村田 大輔 (金沢21世紀美術館キュレーター:金沢市)
ニコラサさんの話で興味深かったのが、色々な眼差しがあるということだと思う。誰がフォークア
ートという言葉を使うか、誰が展示するのか、そして誰が見るのか、こうしたことを考察していかな
ければならない。それをふまえて我々には、一体何が出来るのだろうかを考えることが重要だと感じ
ている。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
つくり手も買う人も、細かくジャンル分けして見ているわけではない。もっとストレートに作品に
反応しているし、つくっているときもこれは伝統工芸か現代工芸かなどは考えずに制作している。そ
れを紹介していく美術館の仕事というのは大きな意味を持っている。もっとアーティストや見る人た
ちにとって、自由に解釈できるような場をつくり出していく必要があると思う。
ここで話を変えたい。2 日間、4 都市を代表する方と話しあってきたが、このような交流をさらに
促進していくために、どのようなことが必要かについて話を進めていきたい。
村田 大輔 (金沢21世紀美術館キュレーター:金沢市)
様々な可能性をつくり出していくべきだと思う。金沢のみならず日本という特殊な近代化を経て、
現代まで続いている社会は、ニューメキシコでも話が出てきたと思うが、いわゆる「周縁」として存
在している。そういう共通の問題、あるいは異なる問題を抱えている中での人間の創造を考えるとい
うのは、非常に重要なことだと思っている。そのことにつながることを一つあげてみたい。このユネ
スコ・クラフト創造都市金沢のシンボルマーク「TETOMEDES」にも大きく描かれているが、「手」
は、言葉として日本語の中で様々な重要な意味を持っている。
「手が早い」、
「手遅れ」、
「手塩にかける」、
「手を染める」など日常生活でもよく使われている。これは、これまでも工芸についてのシンポジウ
ムで言われている。
「手」
、あるいは人間の身体がどういう役割を果たし、創造性とどうつながってい
るのかということも、この 4 都市のキュレーターや作家などが交流し、一緒に考えていけたら面白い
と思う。
ニコラサ M. シャベズ (国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
サンタフェでは、インターナショナル・フォークアート・マーケットを毎年、開催しており、80 カ
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国以上の参加がある。そこに積極的に参加してもらうというのも、一つの方法であると思う。他にも、
サンタフェ美術工芸大学を中心とするアーティストの交流、財団による6ヶ月間の滞在プログラムが
ある。アートというのは、真空から生まれるものではない。コンテンポラリーであろうと伝統であろ
うと、様式は自分が選び取るものだが、その土台にはやはり交流があって、その結果、一つを選択で
きる。私たちの美術館はインターナショナル・フォークアートを志向している。たとえば1週間、来
てもらえれば、ニューメキシカン陶芸などにも接し、伝統や様式を学び、刺激を受けることができる。
ニューメキシコにあっても、ここではないこと、新しいものがあると思う。コンタクトが重要である。
倪 学軍 (グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
シンセンにある様々な資源、自然を利用し、プラットフォームを作って若い作家たちに、機会を提
供するように努力したい。金沢からも若い作家たちも参加できるワークショップを開催して交流した
い。今回、ワークショップに参加して、作家に対する行政、協会など支援があることも分かった。シ
ンセンに帰れば、他のグループや政府から支援も得て居る若い作家たちが発展出来るようなプラット
フォームをつくりたい。また、金沢には、シンセンの作家たちを招いてもらえればと思う。
沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
利川には、
世界規模の陶磁器ビエンナーレがあり、
世界から作家を招いて 1 ヶ月間一緒に制作して、
展示するワークショップなどを開いている。それは全て市民にオープンにしているが、そこから色々
な交流、文化が生まれている。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
人同士の交流、中でも作家の交流を事業として継続していった方がよいと思う。しかしこれが実際
に可能なのか、4 都市で開催するという話になったとき、実施する施設などは考えられるのか。
沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
優れた作家たちがたくさんいるので可能性は十分あると思う。自分だけでは力不足なのですぐには
答えを出せないが、利川に戻ったら金沢にすばらしい作家が大勢いると是非紹介したい。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
時間も残り少なくなってきたので会場からも質問を受けたい。参加者から何か質問があればお願い
したい。
大樋 年雄 (金沢創造都市推進委員会幹事・金沢市工芸協会副理事長)
一人の作家を大きく育てるために、色々な地域の人たちと交流をして、何か
出来ないかなといつも思っている。今日も、プレゼンテーションで仕事を見て
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もらったように金沢にはたくさんの優れた若手作家が住んでいるが、十分なチャンスを与えられてい
ないように感じている。利川、シンセン、サンタフェから来られた方が、自分のまちの誰かと金沢に
住む若いこれからの作家を組み合わすことで面白いことが生まれないかとか、そちらにある文化をこ
こに持って来れば何か新しいことが始まるのではというようなアイデアがあれば、聞かせてほしい。
倪 学軍 (グラフィック&マルチメディアデザイナー:シンセン市)
私たちの会社のスポンサーにあたる大手グループの支持を得て、今後、金沢の作家を招いて、シン
センで展覧会に参加してもらえる可能性は高いと思う。
ニコラサ M. シャベズ (国際フォークアート美術館 キュレーター:サンタフェ市)
たくさんの交流の機会があると思う。今すぐに思い浮かぶのは、ニューメキシコには、金銀細工、
鋳物を作っているコミュニティがある。そういう金属クラフトの伝統を持つ地域と金沢が交流しては
どうか。ニューメキシコでは、鉄や金銀細工のクラフトは 1 人のアーティストが、1人か2人の弟子
を教えるという形で続いているが、錫クラフトは伝統もあり、今でもポピュラーでたくさんのアーテ
ィストがいる。この錫クラフトの作品は小さなものであるが、私たちも注目し、広く紹介しているの
で、そこに金沢から作家を招き入れて交流できるのではないか。サンタフェは小さなまちなので、違
った世界から来てもらうことは、自分たちの伝統を見つめ直すのにもよい機会になると考えている。
沈 志修 (現代陶磁器職人:利川市)
陶磁器には実に様々な技法があることは勉強になった。特に漆工芸は、韓国とはまったく違うので
すごく驚き、また不思議にも思った。日本には茶道の伝統があるが韓国にはないので、鉄でつくられ
た急須や釜などはない。それも日本的な「和」が感じられる作品であり、是非韓国でも紹介してみた
い。
村田 大輔 (金沢21世紀美術館キュレーター:金沢市)
私はニューメキシコにとても興味を惹かれた。作品写真の説明を聞いていると、金沢の作家との共
通点もたくさん見つかった。また、自分の目だけではなくて、ワークショップの前に行われたエクス
カーションを含めて、作品に触れて作家や参加者のコメントを聞くことによって「そういう見方もあ
るんだ」とか、
「そういう質問は面白いな」と感じるところがあり、すごく勉強になった。多様なもの
の見方を持つためには、オープンにすることとフレキシブルに考えていくことの重要性を感じた。こ
のような交流はとても大切なものだと認識した。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
誰もがこのような場の必要性や意義を感じていると思う。多様な眼差し、立場、意見をお互いにオ
ープンにやり取りすることが自分の固定観念、習慣的に考えていたことを、見直すよい機会になる。
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一つの提案としては、出来るところからだが、若手作家、アーティストの交換、レジデンスを行うと
いうアイデアがあると思う。もう一つは、その交流を形にしていくための展覧会が必要だろう。その
成果を見せていくことが重要であり、そのためにはキュレーター、プロデューサーなどの密なやりと
りが必要になると思う。2 日間は長いように思ったが、終わってしまえばあっという間でもあった。
ここにご参加いただいた皆さん、作家の皆さんにお礼を申しあげたい。
佐々木 雅幸 (金沢創造都市推進委員会副実行委員長)
主催者を代表して最後に挨拶を申しあげたい。今回のワークショップを持つ
そもそものきっかけは、2009 年に金沢市がユネスコの創造都市ネットワークに
クラフト部門で登録されたことにある。この創造都市ネットワークが生まれた
背景には、20 世紀後半から 21 世紀への初めにかけて、非常な勢いで起きたグ
ローバリゼーションがある。グローバリゼーションは、大変暴力的な形として
金融の世界で起きた。21 世紀は、本当は希望に満ちた世紀のはずだったが、大
変不安なスタートを切ってしまった。2001 年の 9・11 同時多発テロもまだ記憶
に新しい。2008 年 9 月 15 日にはリーマンブラザーズが破産し、それ以降世界経済は全く不安定にな
ってしまった。こういう非常に不安定な世界の中で、もっと別の豊かなグローバリゼーションの可能
性はないのかということをみんなが考えるようになった。
金融の世界だけが一つのマーケットとなり、
あるいは一つの基準となることはおかしい。もっと世界は多様であり、特に世界の都市や地域にある
文化や芸術の多様性を認め合って、グローバリゼーションを考え直そうという動きが広まってきた。
それを推進するために、ユネスコは、世界中の都市に文化や芸術を大事にしてそれを一つの経済のシ
ステムにまでしようと呼び掛けた。短期的な金儲けではなく、21 世紀は、長期的に人間の生活を豊か
にしながら、経済も社会もうまくいくような経済、クリエイティブ・エコノミーの世紀にしたいとい
うことである。人々が自らの創造性を限りなく発展させ、社会も豊かになり、世界の都市や地域も急
激な成長はしないが、ゆっくりと着実に成長していこうとしている。このような方向を持つ創造都市
ネットワークという呼びかけを、私どもも、ユネスコも提唱している。今では、世界の 29 都市がネ
ットワークに入っている。その 20 都市程が昨年 12 月にシンセンに集まりネットワークを発展させる
ために大いに議論した。今年 11 月にはソウルで会議がある。私は昨年、金沢市の代表としてシンセ
ンの会議に行き、クラフト&フォークアートのネットワークに入っているサンタフェ、利川、今日は
来てないがエジプトのアスワンの担当者も含めて、共同してできるプロジェクトがないかと1時間ほ
ど話し合った。金沢市としては、若いアーティストやクラフト分野、あるいはキュレーターの交流事
業を行いたいという話をし、それがこのような形で実現した。先程、話が出たように、この金沢のワ
ークショップを引き継いで、サンタフェ、利川、シンセンに次々と持続的に交流事業が進展していく
ことを期待しており、そのスタートをとてもよい形で切れたと喜んでいる。
この 2 日間は、金沢のこれからのコンテンポラリーなクラフト&アーツの展開にとっても大事な情
報を得る機会となっただろう。印象深く思ったのは、クラフトあるいは工芸の素材と技法、それを支
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えている都市の風土や自然が、必ず発表者の作品、プレゼンテーションの中に共通に浮かび上がって
くることである。私たち日本人にとって、半年前の 3 月 11 日に起きた大地震と大津波の悲劇がある。
人間の命はとても儚いし、大自然は美しいけれど、しかし一方で非常に暴力的であることを思い知っ
た。その中で、我々の命、生き方を再度見つめなおす機会になった。そういうものは、きっとそれぞ
れのアート、クラフト作品に反映している。世界の眼は、日本がどのように立ち直ってゆくのか、日
本のアートやクラフトはどんな形でこの悲劇を乗り越えるメッセージを伝えようとしているのか注目
している。それを、我々はこれから金沢の新しい工芸、クラフト&アートに込めて発信していきたい。
このまちが持っている非常に豊かな歴史的蓄積、
小さなまちだけれども影響力が小さいわけではなく、
むしろ小さいけれども逆に非常に強い力を持っているということを改めて感じる。それは、今日の大
きいテーマであるこのまちが育てた工芸の多様性があるからである。この多様性と、新しいネットワ
ークであるサンタフェ、
利川、
シンセンのそれぞれの都市が持っている創造力が付け加わっていくと、
さらに大きな流れになると思う。この創造都市ネットワークのクラフト&フォークアートのジャンル
の中で、世界的な大きな新しいブームメントが出来てくるとよいと思いながら 2 日間聞いていた。今
日の午前中の挨拶の中で山野市長が、金沢はユネスコのネットワークの中で、もっと大きな積極的な
役割を果たしたいと言われた。そのためには、2015 年にユネスコ・ネットワークの世界的な会議を金
沢で開催したい、
このワークショップは、
そのための一つステップとして考えていると話されていた。
これは、金沢が創造都市に向けた事業を、本格的、持続的に進めるという決意が示されたものであろ
う。今日集まっている若い人たちが、金沢は本当に世界で恥じることのない創造都市になるという決
意を共有してもらえるとありがたい。
秋元 雄史 (金沢21世紀美術館館長)
最後に今回のワークショップの締めくくりとして、参加者の皆さんと共通
の認識を持ち、アジェンダを採択したい。
(アジェンダよみあげ)
この 2 日間のワークショップのまとめとして、このアジェンダを採用して
よろしいか。
(拍手)
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「ワークショップ等による新たな連携を築くための金沢アジェンダ」
“クラフト創造都市ワークショップ 2011”
(10 月 5 日・6 日)に参加した私たちは、ワークショッ
プにおける発表と討論を通じて、以下のとおり、共通の目標をもって行動することを宣言するもので
ある。
工芸は人々の文化的アイデンティティの象徴であり、伝統と結びつくとともに、将来に引き継がれ
ていくものである.単に過去を模倣するだけではなく、伝統を礎として磨かれてきた技能と創造性に
よる多様性のなかに、工芸の可能性が見いだせる。
同時に工芸は、他者とのコミュニケーションを促すとともに、創造的な活動と市民生活を結びつけ
るものでもあり、創造都市においては、そうした相互作用を日常的に引き起こす場を提供することが
肝要である。
そのために、以下の諸点について、参加者一同で合意し、ワークショップ等を通じた情報や経験の
共有、人的交流の推進に向けて、各方面に働きかけるものとする。
(1) 工芸における伝統を礎とした多様性を認め、新たな価値の創造を目指す
(2) 都市、分野、作り手・目利き・使い手など、様々な境界を越えた相互作用を促す人的交流を推
進する
2011 年 10 月 6 日
クラフト創造都市ワークショップ参加者一同
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