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卵巣癌( PDF 371KB)

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卵巣癌( PDF 371KB)
N―342
日産婦誌59巻9号
クリニカルカンファレンス
(腫瘍領域)
;3.婦人科癌再発例に対する治療
3)卵巣癌
座長:藤田保健衛生大学教授
宇田川康博
久留米大学産婦人科
准教授
札幌医科大学教授
牛嶋 公生
斉藤
豪
はじめに
上皮性卵巣癌に対する初回治療成績は,化学療法剤の進歩,手術器械,周術期管理技術
の向上により,全体の40∼50%の症例が臨床的寛解に到達できるようになった.しかし
ながらⅢ,Ⅳ期癌においてはその80%が再発する.卵巣癌の原発巣は腹腔全体であり,
その再発のパターンはさまざまである.また,一旦再発した後の生存曲線はプラトーにな
ることはない.つまり再発卵巣癌は治癒を期待することが困難な疾患であるという認識が
必要である.しかしながら,再発の時期,状況によっては治療戦略の適切な選択により生
存期間の延長がもたらされる場合がある.
卵巣癌再発の特徴
当 科 に お け る1990年 以 降
2005年までに当科で治療した卵
巣癌症例のうち,一旦臨床的に寛
解を得られた後の再発症例112例
を対象に,初回再発の部位を検討
した.原発巣である骨盤内および
腹腔内への再発例は55%であり,
残りの45%は腟断端,後腹膜や
表在リンパ節あるいは,肝臓,脾
臓,肺などの実質臓器など多岐に
わたっていた(表1)
.他の婦人科
腫瘍とは異なり,腹腔全体という
広範な原発病巣が一旦消失してか
(表 1) 卵巣癌の初回再発部位(n= 112)
久留米大学 1990~ 2005
腹腔内
骨盤内
腟断端
後腹膜リンパ節
表在リンパ節
肝臓,脾臓
膀胱
骨
脳
肺
副腎
33(
29.
5%)
29(
25.
9%)
17(
15.
2%)
8( 7.
1%)
7( 6.
3%)
7( 6.
3%)
3( 2.
7%)
3( 2.
7%)
2( 1.
8%)
2( 1.
8%)
1( 0.
9%)
原発巣への再発
(55.
4%)
遠隔転移再発
(44.
6%)
重複する場合は主たる病巣一カ所とした
Recurrent Epithelial Ovarian Cancer : Characteristics and Treatment Procedure
Kimio USHIJIMA
Department of Obstetrics & Gynecology, Kurume University School of Medicine, Fukuoka
Key words : Ovarian cancer・Recurrence・Prognostic factor・Second-line
chemotherapy・Surgical resection
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2007年9月
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ら現れるため,初回再発といえど
も,血行性,リンパ行性にさまざ
まな場所に再発する.また,寛解
から再発までの期間もさまざまで
ある.腫瘍マーカーの上昇も必ず
しも再発時に上昇するとは限ら
ず,いつ,どこに,どのような形
態で再発してくるかが予測できな
いという特徴がある.
卵巣癌再発後の予後因子
(図 1)
再発後の二次的寛解の有無と再発後生存期間
再発後に臨床的無病が得られた症例に有意に長い生
存期間が得られた.
それでも,再発から死に到るま
での期間は患者個々に異なってい
るのであり,なんらかの因子が再
発後の予後に関連していることが
窺われる.そこで再発症例に対し,
次のような項目について,再発後の生存期間を規定する因子となりうるかを検討した.
1.年齢(50歳以上 vs 50歳未満)
2.臨床進行期(Ⅰ,Ⅱ期 vs Ⅲ,Ⅳ期)
3.組織型(漿液性腺癌,類内膜腺癌 vs 明細胞腺癌,粘液性腺癌を含むその他)
4.初回治療終了から再発までの期間(6カ月以内か vs 6カ月以降か)
5.初回再発の形式(孤在性再発 vs 癌性腹膜炎のような多発性の病巣)
6.再発後の治療内容(化学療法のみ vs 手術や放射線を加えた集学的な治療)
これら 6 項目について,再発からの生存期間を比較してみた.初回治療終了から再発
までの期間が6カ月以降であること,孤在性の病変であること,化学療法に加え,手術や
放射線など集学的な治療が行われた症例において生存期間が延長していた.結果的に二次
的な寛解が得られた症例では再発以降の生存期間の中央値は41カ月であり,一方,二次
的寛解に到達しなかった症例では15カ月に留まっていた
(図1)
.一方,初回治療時の病巣
の拡がりを表す臨床進行期,化学療法の感受性の違いを示す組織型は,初回治療時には予
後因子となるが,再発後の生存期間には影響していなかった.ただし,6カ月以内の再発
例は再発形式,治療内容の如何にかかわらず予後不良であった.
再発卵巣癌の治療戦略
全身療法(化学療法)
再発症例に対しての二次化学療法(second-line chemotherapy)
については,寛解から
再発までの期間が,その奏効率に大きく影響することはよく知られている.プラチナ製剤
が初回治療に用いられ,少なくとも前治療から6カ月以上経過した後の再発症例はプラチ
ナ感受性あり(platinum-sensitive)とされ,40∼60%の奏効率が期待されるが,6カ月
未満の再発例はプラチナ抵抗性(platinum-resistant)
とされ,15%程度の奏効率しか望
めない1)∼3).したがって,platinum-sensitive の症例ではまず化学療法が検討されるべき
である.薬物の選択には,前治療歴があることを考慮して,毒性には十分留意すべきであ
るが,全身状態のよい(Performance Status 0∼1)症例では単剤より併用療法のほうに
高い奏効率が報告されている4).画像上測定可能な病変が存在する場合は,抗癌剤の抗腫
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瘍効果を直接判定できる貴重な症例であり,登録可能な施設においては,新規薬剤の臨床
治験や,新しい多剤併用化学療法の多施設共同臨床研究のプロトコールに適格であるかど
うかを検討し,症例をリクルートする努力が求められる.その際,患者へ試験の意義を十
分に説明し,文書での同意を得ることは当然である.
Platinum-resistant である症例,もしくは既に second-line chemotherapy が行われ
た後の症例については,その期待される奏効率の低さを考慮し,毒性の軽い治療を薬剤選
択の重要な因子とすべきである4).例外的にエトポシド内服50mg"
day 3週間連続投与,
1週間休薬,塩酸イリノテカン(CPT-11)
60∼70mg2(day 1,15)
の併用療法において
5)
44%の奏効率および11カ月の無増悪期間が報告されており ,骨髄抑制に十分注意すべ
きであるが,今後検討されるべきレジメンである.
局所療法
1.手術療法
切除可能な臓器への実質内孤在性再発例には,切除を検討すべき症例が存在する.肝臓
や脾臓,肺,脳などは本来,転移を起こしやすい臓器であるが,有効な化学療法剤がない
時代は,転移が明らかとなる以前に多くが死亡していた.最近の他臓器内孤在性再発は,
化学療法に感受性の高い腫瘍にお
いて,進行癌でありながら原発巣
がよく制御されている症例が 2
年以上の期間を経て出現してくる
場合が多い6).同じ孤在性再発で
あっても,腹腔内の病巣では,以
前の開腹術による癒着により腫瘍
へのアプローチが困難なケース
(写真 1) 卵巣癌における FDGPETの応用
や,周辺臓器の合併切除を余儀な
再発に対する手術療法の可否の検討
くされる場合がある.また,CT
卵巣癌再燃後の症例に二次化学療法後による効果を
などの画像診断で検出不能な微小
認め,残存する 2カ所の病巣への切除を計画した.
な播種病変が存在する場合があ
り,外科的切除の決定には慎重を
期する必要がある.再発例に対し
積極的に外科的治療を行っている
Chi et al. によれば,30カ月以上
経過して再発した孤在性病変で,
切除により残存が0.5cm 以下と
なることが可能な場合に切除によ
る生存期間の延長が期待できると
している.逆に12カ月以内の再
発で,癌性腹膜炎が疑われる場合
には適応がないとしている7).最
近婦人科 腫 瘍 に お い て も FDGPET が他の画像診断と組み合わ
(写真 2) 既知の腫瘤以外にも,PETにて肝臓実質
せることで保険適応となった.卵
内に多数の集積を認めたため切除を断念した.その
巣癌再発疑いの症例に PET-CT
後肝病変の増大により原病死された.
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2007年9月
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を施行することで,治療方針の変更があり得る8).具体的には腫瘍マーカーが上昇しても
再発の確定ができず経過観察となっていた症例に薬物療法が開始されたり,微小病変の同
定により試験的開腹術が回避された症例などである.我々も孤在性病変以外に CT で不明
であった微小病変が PET により検出され,無益な開腹を回避できた症例を経験している
(写真1,2)
.
2.放射線療法
限局した病巣で,照射による障害が少ないと考えられる部位(表在リンパ節,腟断端,
胸壁,骨,脳など)
への局所制御としては極めて有効な手段である.出血や痛みなどの症
状緩和目的のための放射線療法も存在する.複数の活動性の病変がある場合には,どの病
巣が症状,予後を規定しているかを考え,局所療法の可否を検討する必要がある.
緩和医療への転換点
再発後の治療が一旦は奏効したとしても,いずれの時期かには再燃し,最終的には癌治
療の終焉がやってくる.しかしながら積極的な癌治療から緩和医療への転換の時期を決定
することは容易ではなく,米国でも癌患者でない場合は比較的早期に緩和医療への転換を
望むと答えているのに対し,実際の卵巣癌患者では,多くの女性が最後まで積極的治療を
求めている9).緩和医療と癌治療の境界は必ずしも明確でない場合もあるが,たとえ未施
行の治療法が残っていても,治療による侵襲が有益性を上回る状況であれば,その時点が
緩和的医療への転換点である.その決定は患者の意思により行われるべきである.
まとめ
再発卵巣癌は治癒が困難な疾患であり,その治療法選択のキーワードは個別化であろう.
化学療法剤の治療成績は統計的に出せたとしても,化学療法を続けることが,その症例に
適しているとは限らない.治療による生存期間の延長は,患者の状態と再発の出現様式に
よるところが大きく,個々の症例に最良の治療方針を選択するには,治療者の知識と経験
が必要である.現病の把握と将来の展開を予測し,治療効果と侵襲に関する知識を得てい
なければならない.治療遂行のためには,他科にも協力を仰がねばならず,他科領域につ
いての知識も必要となる.また,治療法の決定には,患者の意志が最も尊重されなければ
ならないが,その選択肢が患者にとって無益とならぬよう,QOL を考慮した慎重な対応
が求められ,患者には正しい判断を導くための適切な情報を与えられる権利がある.
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