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既婚男性の肛門周囲にみられた尖形コンジローマの1例
高井, 計弘; 久米, 春喜; 小島, 弘敬
泌尿器科紀要 (1990), 36(5): 631-633
1990-05
http://hdl.handle.net/2433/116893
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
631
泌 尿 紀 要36:631--633,1990
既 婚 男性 の肛 門周 囲 にみ られ た尖 形 コ ン ジ ロー マ の1例
日本 赤 十字 社 医 療 セ ンタ ー泌尿 器 科(部 長 ・小 島弘 敬)
高井
A CASE
OF
計 弘,久
米
CONDYLOMA
THE
ANUS
IN
春 喜,小
島
弘敬
ACCUMINATUM
A
MARRIED
AROUND
MAN
Kazuhiro Takai, Haruki Kume and Hiroyuki Kojima
From the Department
of Urology,JapaneseRedCrossMedicalCenter
A 34-year-old man was admitted to our hospital with warts around the anus persisting for the
past four months as the chief complaint.
There was no history of anal intercourse.
All laboratory examinations
of syphilis, hepatitis, chlamydia tranchomatis,
acquired immunodeficiency
syndrome and other sexually transmitted
diseases (STD) were negative.
After application of
amantadine, the warts disappeared completely in about two weeks. With diversification of sexual
encounters, such a case of anal warts as a type of STD may increase in the domain of urology
as well.
(Acta Urol. Jpn. 36: 631-633, 1990)
Key
words:
Perianal
area,
緒
Condyloma
accuminatum
時 な どに そ の 存 在 を 自 覚 す る よ うに な っ て き た た め,
言
1989年1月26日
尖 形 コ ンジ ロー マは最 近,国 内外 で そ の発 生 数 の増
加が 認め られ,STD研
究 会 の全 国調 査 で は,非 淋
菌 性 尿道 炎 お よび 子 宮頸 管 炎,淋 疾 に つ い で症 例 数第
3位 と い う1).そ の 発 生 部位 は 男 性 で は 陰 茎 の冠 状
当 科 を 受 診 し た.
初 診 時 現 症:胸
陰 茎,包
皮 内 板,外
腹 部 に 理 学 的 異 常 所 見 は な か った.
板,外
尿 道 口,陰
の 乳 頭 状,鶏
冠 状,集
尖 形 コ ン ジ ・一 マ 様 で あ っ た が,鑑
門 部 に もみ られ る とい うが,皮 膚 科 に 比 べ2),泌 尿 器
部 を 切 除 し顕 微 鏡 的 検 索 を 行 っ た.直
科 で は実 際 に肛 門 部 の尖 形 コ ンジ ローマを 見 る機 会は
病 変 は 認 め な か っ た.
ンジ ロー マを認 め た既 婚 男 性症 例 を 経験 した の で,報
告 す る.
初診 時 検 査所 見
(一),TPHA(一),HBs抗
血 液 血 清 検 査:梅
患者:34歳,男
例
性.歯 科 医 師
既 往 歴1尿 道 炎 の既 往 は な し.小 児 期 に ア トピー性
皮膚 炎 あ り.2年
前 陰茎 に 径2mm程
度 の疵 贅 を みた
が,自 然 消失 した.
家 族 歴:6年
前 に結 婚 。4歳2歳
の2児 あ り.家
族 に 疵贅 を持 つ もの はい な い.
最 近 の婚 外 性 経験:1年
日本 女性,7ヵ
前 に韓 国 女性,10ヵ
月前 に
月前 に フ ィ リピ ン女 性.男 性 経験 は,
今 まで1度 もな い.
現病 歴=1988年10月
頃 よ り肛 門 周 囲 の無 痛 性 小腫 瘤
に気 づ くが放 置 して い た.次 第 に そ の数 が 増 え,排 便
別 診 断 の た め,一
腸 内に は 同様 の
毒 反 応,緒
原(一),HBs抗
血 清 ウ イ ル ス 検 査:HSVlIgG(FA)10x未
症
陰 部皮 膚
籏 性 の 腫 瘤 を 認 め た(Fig.1).
溝,亀 頭 部,包 皮 の 内側 な どで あ り,約10%o前 後 に肛
少 な い と思 われ る,今 回わ れ われ は 肛 門周 囲 に尖 形 コ
嚢,会
に 異 常 所 見 は 認 め な か っ た.肛 門 周 囲 に 高 さ が 約lcm
Fig.1.Grossappearanceofcondylomaaccumi.
natumaroundtheanus.Nolesions
werefoundaroundtherectum.
方法
体(+),
満,
632
泌尿 紀 要36巻5号1990年
HSVlIgM(FA)10×
未 満,ク
テ ィスIgG抗
体40×
(EIA法)陰
性.尿
白 血 球(一),細
ラ ミ ジ ア トラ コ マ
未 満,HIV(HTLV-3)抗
沈 査:蛋
白(一),赤
体
血 球(一),
尖 形 コン ジ ロー マは20歳 か ら40歳 の 性 活動 の盛 ん な
年 代 が大 半 で あ り1>,皮 膚 と粘 膜 の移 行 部 の 浸潤 した
部 位 に で き,男 女の 肛 門周 囲 に も見 られ,そ の割 合 は
10%前 後 とい う1・2・8)(Table1:文 献1)よ
菌(一).
り引用),
しか し,女 性 では 婦 人科,男 性 で も皮 膚 科,外 科(肛
門科)を 受診 す る こ とが 多 く,泌 尿器 科 医 が見 る肛 門
麟髄
ミ
毒,
周囲 の 尖 形 コ ンジ ローマは,意 外 に少 ない の では な い
か と思 わ れ る.
糧
礪懸騒 闘
TableL
Primarysiteofcondylomaaccumina・
tum(fromtheSTDStudySociety1))
閣
閣囲 麗圏 ■ 國
部位
囲醐麹団園
亀
男(284例)女(46例)
症例 数%部
位
亀 頭冠 部
冠 状溝
会 陰 部817.4
19869.7
膣 前 庭1839.1
包 皮小 帯
Fig.2.Microscopicfindingsofthebiopsied
specimen(H.Estaining;×50)
小陰 唇
包 皮内板9834.5
病 理 所 見:高
度 の 乳 頭 症(papillomatosis),表
部 の 錯 角 化(parakeratosis),棘
thosis),空
細 胞 層 の 肥 大(acan-
れ,condylomaaccuminatumt/こ
経 過:外
日を2週
た.ポ
層
胞 化 し た 細 胞 質(koilocytosis)が
っ た(Fig.2).悪
症例 数%
頭
み ら
一致 す る所 見 で あ
1839.1
陰 茎皮 膚
6422.5
大陰 唇
715.2
陰 嚢皮 膚
51.8
肛 門周 圖
6i3.0
肛 門周 囲
72.5
膣
壁
1328.3
外 尿道 ロ
238.1外
性 所 見 は み られ な か った.
来 治 療 と し て,塩
クリトリス
尿
尿 道 口510.9
道
酸 ア マ ン タ ジ ン100mg/
間 内服 さ せ た と こ ろ,腫
瘤は 完 全 に消 失 し
ドフ ィ リ ンは 使 用 し な か っ た.5ヵ
月経 過 後 の
現 在 再 発 は み られ て い な い.
肛 門 部 の 尖 形 コ ン ジ ロ ー マ の 病 因 に つ い て は,な
十 分 解 明 され て い な い.外
お
国 で はhomosexualityと
の 関 係 が 強 く示 唆 さ れ て い る.肛
門 部 に尖 形 コ ンジ
ロ ー マ の 発 生 を 認 め た 者 の83%がhomosexua1か
考
察
尖 形 コ ン ジ ロ ー マ は,尋
bisexualで
常 性,足
底,青
年性 扁 平 疵
贅 な ど と と もに ウイ ル ス 科 に 属 す る ヒ ト乳 頭 腫 ウ イ ル
ス(humanpapillomavirus,HPV)に
る1・3).HPVは
よ って 生 じ
培 養 不 可 能 で,ウ
は ヒ トの 臨 床 材 料 以 外 に は で き ず,血
ィル ス を 得 る こ と
立 さ れ て い な い1).最
りHPVに50種
HPVの
清 学 的診 断 も確
近DNAhybridization法
によ
以 上 の 型 が 存 在 す る こ と が 判 明 し,
型 と 各 種 病 変 と の 相 関 が 知 られ た4).尖
形 コ
あ っ た と い う4).
本 邦 で は,肛 門 部 尖 形 コ ン ジ ロ ー マ とhomosexua1ityと
の 関 係 が 明 らか に 証 明 され て い る も の は な い .
剃 毛 の よ う な 機 械 的 刺 激 で 発 生 した も の も あ り9),ウ
イ ル ス の 存 在 す る 皮 膚 に 外 傷 な どの 誘 因 が 加 わ っ た た
め の 発 症 と も 考 え ら れ る.尖
器
肛 門 以 外 で も 口唇,膀
る4).陰
形 コ ンジ ロー マは 生殖
な ど に 発 生 した 報 告 が あ
茎 に お け る 尖 形 コ ン ジP一
マの 発生 部 位 が外
傷 に よ りウイ ル スの 侵入 を 受 け やす い 部 位 で あ る こ と
ン ジ ロ ー マ か ら は6型
と11型 と が 主 と し て 見 い だ され
を 考 え る と1),肛
る5).ま
のDNAが
ウ イ ル ス に よ る 汚 染 部 と表 皮 粘 膜 移 行 部 の 外 傷 好 発 部
た16型
と18型
率 に 検 出 さ れ,HPVと
岩 沢 ら は6例
子 宮 癌 組 織 か ら高
発 癌 との 関 係 が 注 目 され る5)
の 陰 茎 癌 の 組 織 か ら16型 を 検 出 し て い
る6).
位 と が 重 な る こ と に よ る と も 考 え られ る.
しか し,本 邦 で も 性 の 多 様 化 が 見 られ る 現 在,肛 門 周
囲 に 尖 形 コ ン ジ ロ ー マ が み ら れ た 場 合 は,欧
ま た 最 近 ウ イ ル ス の 増 殖 を 要 し な いHPVのDNA
の 臨 床 材 料 か ら の 検 出 も可 能 と な っ た7).こ
個 々 の 症 例 の 検 討 の 他 に,HPVの
個 体 で の 分 布,発
門 部 の 尖 形 コ ン ジ ロ ー マ の 発 生 も,
病 率,発
さ れ る こ と が 期 待 さ れ る.
の ご と く肛 門 性 交 の 可 能 性 も 考 え,ル
れ に より
感 染 頻 度,感
染
癌 との関 係 な どが 明 らか に
米 の報 告
ーチ ンの 尿道 炎
の 検 査 以 外 に 梅 毒,肝
炎 ウ イ ル ス,AIDSウ
イ ル ス,
の 血 清 抗 体 な ど も,今
後 は十 分 検索 す る必 要 が あ る と
思 わ れ る.
本 症 例 で は,他
のSTDの
合 併 は 認 め ず,肝
炎 ウ
高 井,ほ
イ ル ス,AIDSウ
か:肛
イ ル ス と もに陰 性 で あ った.ま
た
既 婚 者 で2児 が あ り,問 診 で も妻 以外 の 他 の異 性 との
接 触 は あ った が,男 性 経 験 は 否 定 して お り,積 極 的 に
コ ン ジp一
2)新
3)山
月前 の フ ィ リピ ン女 性 も考 え られ
村 雄 一,久
い とい う.塩 酸 アマ ソタ ジ ソは,パ
7)岩
ドフ ィ リ
沢 晶 彦,熊
形 コ ン ジ ロ ー マ,ME・
崎 秀 昭,稲
葉 憲 之,白
見 澤 裕 吉,清
谷 和 人,計
基 礎 的 検 討.産
澤
浩,深
水 文 七,河
沢 一 雄,武
西 十 九 三,久
田
保 田
良 恵 治,石
川
対 す
し い 簡 易 検 出 法 の
る 新
明=Human
婦 人 科 の 世 界40:841-846,1988
8)RosembergSK:Subclinicalpapillomavirus
infectionofmalegenitalia.Urology26:
た.尖 形 コ ソジ ロー マ の 自然 史 で は 自然 退縮 例 もあ
は ある と思わ れ た.
本 悦 明:尖
papillomavirusに
を2週 間
間 の短 期 に 消 失 した こ と よ り,そ の可 能性
山
DICO20:8479。8482,1989
浩 一,守
いが,2週
皮 性 腫 瘍.pl5-25,中
京,1980
Dermatol16=376-384,1987
6)岩
る ゆ.本 症 例 で は,病 変 の 一部 を 生検 後,ポ
りS》,塩酸 ア マ ンタ ジ ンの 効 用 と直 接 結 び つ け られ な
真=A
現 在 皮 膚
warts).Anepidemiologicview。JAmAcad
敏,高
投与 した と こ ろ,尖 形 コ ンジ ローマは,完 全消 失 し
寺
Am1=123-143,1987
で あ り,尖 形 コ ンジ ロー マ に も 有 効 と い う報 告 があ
ンを 使 わ ず に 塩 酸 アマ ンタ ジ ン100mg/日
野 英 春,清
5)ChungTY=Condylomataacuminata(genital
ーキ ン ソソ症候 群
の 治療 薬 として使 用 され て い るが,本 来 抗 ウイ ル ス剤
淳,佐
lornavirusinfections.InfectDisClinNorth
門部 の 尖形 コ ン ジ ロー マで は,な か に は歯 状 線 を 越 え
て直 腸 に お よぶ もの もあ り,治 療 に 抵 抗す る もの が多
膚 科Mook4:
4)KirbyPandCoreyL=Genitalhumanpapil・
ドフィ リンの外 用 がす す め られ て い るが,肉 眼 的 には
治癒 して も,再 発 を繰 り返 す 症 例が 多 い とい う1).肛
木 田
科 学 大 系.第9巻.上
書 店,東
ポ
形 コ ン ジ ロ ー ム.皮
良 性 腫 瘍 の 表 皮 性 腫 瘍 お よ び 表 皮 増 殖
るが,確 認 はで きなか った.
尖 形 コ ソジ ロー
一マの治 療 に つ い ては,10∼25%の
ム.ProgMed6:1375-1382,1986
村 真 人:尖
186-195,1986
ホ モセ ク シュ ア ルな 関係 を 認 め る所 見は なか った,感
染源 と しては,7カ
633
門 周 囲 ・尖 形 コ ン ジ ロ ー マ
554-557,1985
9)大
原 国 章,中
西
浩:尖
形
コ ン ジP一
マ.STD
66:3-4,1985
10)JungEGandGrafeA;virustatische
behandlungeruptiverWarzen.Dtsch
文
1)鷺 山和 幸=STDと
献
しての 外性 器 皮 膚 病変.尖 形
MedWochenschr96:1863-1866,1971
(ReceivedonAugust8,1989Ac
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