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デジタルマンモグラフィにおける被ばくの極小化 (PDF形式、(1119kバイト

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デジタルマンモグラフィにおける被ばくの極小化 (PDF形式、(1119kバイト
技術レポート
デジタルマンモグラフィにおける
被ばくの極小化
Minimizing Dose in Digital Mammography
落合 是紀 1) Yoshinori Ochiai
ビアオ チェン 2) Biao Chen
アンドリュー スミス 2) Andrew Smith
アラン セミン 3) Alan Semine
株式会社日立メディコ XR営業本部
2)
Hologic, Inc.
3)
Newton-Wellesley Hospital
1)
マンモグラフィは、高い空間分解能と適切な被ばく線量を同時に要求されるため、高い技術が求められるX線検査手技である。
描出するべき対象は非常に小さな微小石灰化であるため、200ミクロン程度でも視覚化できるような高解像度が必要とされる 1)。
マンモグラフィは検診装置であり、被検者のX線被ばく量を合理的に許容できる限度まで低く抑える必要があるため、被ばく線量
も要求事項の一つである。
スクリーンフィルムマンモグラフィ時代
(デジタルマンモグラフィ以前)
には、何年にもわたる技術開発と臨床経験により、モリ
ブデン
(Mo)
が乳腺画像に最適なX線管陽極材料であることが分かっていた。しかし、デジタルマンモグラフィ時代の到来により、
最適な画像診断方法の再考が必要となった。デジタル画像受像器
(特に非晶質セレン検出器)
のダイナミックレンジが優れている
ため、別の陽極とフィルタ材料を再評価することとした。
治験および科学的な調査により、ロジウム
(Rh)
および銀
(Ag)
フィルタと組み合わせたタングステンX線管がすべての乳房の厚
さでデジタルマンモグラフィに最適であることが分かった。Selenia ※デジタルマンモグラフィシステムがすでに実現している卓越
した画質を維持しながらも、ほぼ 30%の被ばく線量低減率を見込んでいる。
X線管にタングステン
(W)
陽極を使用すると、デジタルブレストトモシンセシス
(DBT)
、ヨード造影およびデュアルエナジー乳
腺画像といった開発中の先進のアプリケーションにも優れた性能をもたらす。
Mammography is a very technically demanding radiographic procedure because it simultaneously requires high spatial
resolution and good dose performance. High resolution is needed because some objects that must be depicted are very
small microcalcifications, which can be visualized when they are as small as 200 microns1. Dose performance is also a
requirement, because mammography is a screening modality and patient x-ray dose must be kept as low as reasonably
acceptable. During the era of screen-film mammography(prior to digital mammography)
, years of engineering development and clinical experience showed that molybdenum
(Mo)was the optimal x-ray tube anode material for breast imaging. However, with the advent of digital mammography, the optimal methods of imaging need to be revisited. The superior dynamic range of digital image receptors(and amorphous Selenium detectors in particular)warrants the
reevaluation of alternative anode and filter materials.
Clinical trials and scientific investigations have found that a tungsten x-ray tube with rhodium
(Rh)and silver
(Ag)filters is optimal for use in digital mammography for all breast thicknesses and will allow for important dose reductions on
the order of 30%, while maintaining the excellent image quality already achieved with the Selenia ※ digital mammography
system.
The use of a tungsten
(W)anode in the x-ray tube also offers superior performance for some of the advanced applications under development, such as digital breast tomosynthesis
(DBT)
, iodinated contrast, and dual energy breast imaging.
Key Words: Mammography, Selenia, Tomosynthesis, Tungsten X-Ray Tube
*本技術レポートは「Minimizing Dose in Digital Mammography」
(Hologic, Inc.)
の日本語訳である。
46 〈MEDIX VOL.58〉
じHTC散乱線除去グリッドを使用しているため、この結論は
1.画像性能に関するX線管の影響
予期した通りであった。
1.1 背景
アナログマンモグラフィには、スクリーンフィルムの組み
合わせによって決まる非常に限定的なダイナミックレンジが
あり、モリブデンX線管からのスペクトルで画像を最適化す
90
る。タングステン陽極は、モリブデン陽極からのスペクトルよ
80
りも高いエネルギーの X線でより「硬い」スペクトルを放射
タル X線検出器のダイナミックレンジが広がると、デジタル
マンモグラフィにおいてより硬いスペクトルを適切に活用で
70
MTF
(%)
し、スクリーンフィルム画像への適性が低い。しかし、デジ
Tungsten Selenia
Molybdenum Selenia
100
60
50
40
き、タングステンX線管の使用およびフィルタの最適化も可
30
能となる。
20
10
0
1.2 検出量子効率
ACRファントム
(標準的な乳房)
に同一のシミュレートした
0
1
デジタルマンモグラフィシステムとモリブデン X線管を搭載
した Seleniaの被ばく線量について比較した。図 1の DQE曲
3
4
5
6
7
空間周波数(Lp/mm)
患者線量1.0mGyを照射した場合の検出量子効率
(DQE)
を用
いて、タングステン X線管を搭載した Hologic社製 Selenia ※
2
図 2:タングステンおよびモリブデン X 線管システムのMTF曲
線。タングステンおよびモリブデン搭載システムの解像
度は同等に高い値を示している。
線により、タングステンX線管搭載のSeleniaシステムは、モ
リブデン管を搭載したシステムよりも優れた画像を描出でき
1.4 ファントムの画像評価
ることが分かる。
モリブデンX線管に比べて優れたタングステンX線管の画
質を図 3に示した。この図では、モリブデン
(左)
とタングステ
80
Tungsten Selenia
Molybdenum Selenia
70
出された石灰化第 3 群と石灰化第 4 群を示している。ACR
ファントムへの線量は、両画像とも1.0mGyである。
60
DQE(%)
ン
(右)
X線管を使用して、同一の ACR認定ファントムから描
石灰化第 3 群は、下部に6 個、石灰化第 4 群は上部に6 個で
50
ある。
40
小さな石灰化第 4 群の詳細が、タングステン画像でかなり
30
20
10
0
0
1
2
3
4
5
6
7
石灰化
第4群
空間周波数(Lp/mm)
図 1:乳 房厚 4.5cm に対する典型的な線量レベルにおけるタ
ングステンおよびモリブデン X 線管を用いたシステムの
DQE 曲線。タングステンの DQE は、モリブデンよりも優
れている。
石灰化
第3群
1.3 解像度
変調伝達関数
(MTF)
を用いて、タングステンX線管を搭載
したSeleniaシステムとモリブデンX線管を搭載したSelenia
システムの解像度を比較した
(図 2)
。2 つの MTF曲線は、タ
ングステンX線管を搭載したSeleniaシステムとモリブデンX
線管を搭載した Seleniaシステムが同じ高解像度をもたらす
ことを示している。X線管の焦点サイズが同じであり、いずれ
の Seleniaデジタルマンモグラフィシステムも高い検出量子
効率
(DQE)
を有する同じセレン画像検出器を使用し、また同
モリブデン
タングステン
図 3:ACR ファントムの石灰化第 3、第 4 群画像。1.0mGy線
量で撮影。
(左がモリブデン画像、右がタングステン画
像)
。タングステン X 線管を使用するシステムは、石灰化
第 4 群において優れた可視性を認めている。
〈MEDIX VOL.58〉 47
鮮明になっている。システムの画像診断においては、タング
ステンX線管を搭載したシステムのMTFは、モリブデンX線
3.二重軌道陽極対単一軌道陽極 X線管
管を搭載したシステムと同等であり、タングステンシステム
スクリーンフィルムマンモグラフィの黄金期には、厚みの
のDQEは、モリブデンシステムよりも優れている。ファント
ある乳房の線量最適化を実現するために、いくつかのアナロ
ム画像で実証されたように、DQEが優れていると高画質な画
グのマンモグラフィ X線撮影装置に二重軌道陽極を装備した
像になる。これは、モリブデンX線管を搭載したSeleniaと比
X線管が使用された。二重軌道陽極の構成は、モリブデン/
較してタングステン X線管を搭載した Seleniaは優れたデジ
ロジウム陽極とモリブデン/タングステン陽極の組み合わせ
タルマンモグラフィ画像診断を行えるとする参考文献 2)
で示
が一般的である。ロジウムとタングステン軌道は、厚みのあ
された結論と完全に一致している。
る乳房画像診断で主に使用されている。モリブデン軌道は、
薄いものから平均的な乳房厚の画像に使用される。
2.被ばく線量に関するX線管とフィルタの影響
X線管/フィルタの組み合わせは、被ばく線量に著しい影響
二重軌道陽極は、陽極材料に多くの選択肢があるため有利
であるように感じられるかもしれないが、二重軌道 X線管を
使用するのは技術面で著しく不利な面がある。一方、単一軌
を与える。われわれの検証では、ロジウムおよび銀の両方を使
道 X線管は、信頼性がより高く、安価である。さらに二重軌
用するタングステンX線管搭載のSeleniaシステムは、モリブ
道 X線管の最大陽極熱容量は、単一軌道 X線管の最大陽極熱
デンX線管やモリブデンフィルタを使用する従来のシステムに
容量よりもかなり低い。単一軌道 X線管を装備した装置では、
比べて被ばく線量が低減することが示された。銀フィルタは、
厚みのある乳房に対して許容できる撮影時間
(モーション
乳房に厚みがある場合に使用し、より低い線量で優れた画像
アーチファクトの低減)
で撮影するのに必要な高管電流で照
診断の性能をもたらすだけでなく、患者の体動による問題を解
射できる。単一軌道 X線管がなければ、厚みのある乳房の画
決するための撮影時間を著しく減少させる。厚みがあり、かつ
像は透過不足、長時間露出のモーションボケの問題および低
密度の高い乳房を画像診断する場合、タングステン陽極は使
画質化を招くことになる。単一軌道タングステンX線管は、他
用するが銀フィルタを備えていないデジタルマンモグラフィシ
の二重軌道 X線管と比べ 2 倍から3 倍以上の最大陽極熱容量
ステムの性能では、臨床で使用するには十分ではない。
に対応している。
図 4は、乳房厚の関数としての測定された乳腺線量を示す。
デジタルマンモグラフィ画像性能の視点でさらに重要なの
標準的な 50/50 乳房におけるモリブデン X線管を搭載した
は、タングステンX線管をロジウムフィルタと組み合わせて
SeleniaシステムとタングステンX線管を搭載したSeleniaシス
使用することで、モリブデンフィルタと組み合わせて使用す
テムを相関させている。モリブデンX線管から線量1.6mGy、
るモリブデンX線管と比べ、同等もしくはそれ以上の画像性
タングステンX線管から線量1.0mGyをACRファントムに照
能が証明された。これはDQE測定、ファントムを使用した試
射するよう配置した。ほかの低線量モードも利用できる。選
験および臨床画像でも確認された。デジタルマンモグラフィ
択した線量モードに関係なく、タングステンX線管を使用す
システムにおいて、二重軌道 X線管は芳しくない選択である
ると、すべての乳房サイズにおいて、モリブデンX線管と比
ことをこの結果は示している。デジタルマンモグラフィメー
カーにとって、臨床的な利益なしに二重軌道 X線管を継続的
べ線量を著しく抑えられる。
に使用するよりも、タングステンX線管と併用する最適な X
線フィルタを提供することはより重要である。
平均乳腺線量(mGy)
4
Tungsten Selenia
Molybdenum Selenia
タングステンデジタルマンモグラフィの臨床的有用性
・被ばく線量の減少
3
・画質の向上
・トモシンセシス、デュアルエナジーおよび
造影マンモグラフィ など
2
先進のアプリケーション
1
0
0
10
20
30
40
50
60
圧迫乳房厚(mm)
70
80
図 4:タングステンとモリブデン X 線管 Selenia システムにお
ける乳房厚の関数としての典型的な平均乳腺線量。タン
グステン X 線管システムは、モリブデン X 線管システム
よりも低い線量である。ここで示した線量レベルに加え、
他の低線量モードも利用できる。
48 〈MEDIX VOL.58〉
4.臨床経験
デジタルマンモグラフィシステムのメーカーの大部分は、
性能の高さからタングステン X線管を提供している。特に、
Hologic社はSeleniaデジタルマンモグラフィシステムを使用
してタングステンによる画像診断の性能を評価した。倫理委
員会に承認され、被検者のインフォームド・コンセントを得た
調査プロトコルに従い、モリブデンシステムおよびタングステ
ンシステムの両方で検診と診断のためのマンモグラフィのた
めに来院した被検者を撮影した。タングステンX線管を使用
7.結論
した画像は、平均的な乳房厚に対し、モリブデンX線管を使
タングステンX線管を搭載したデジタルマンモグラフィシ
用した画像の約 65%の線量で撮影したところ、マンモグラ
ステムを使用すると、モリブデンまたはロジウム陽極を搭載
フィの読影経験が豊富な放射線科医による評価では、臨床上
した X線管と比較して画像診断性能が向上する。ロジウム
同等であるとされた。
フィルタとタングステン X線管を併用すると、モリブデン X
この評価に参加した放射線科医の一人、アメリカマサチュー
線管とモリブデンフィルタの併用と比較して性能が向上す
セッツ州NewtonのNewton-Wellesley Women’
s Imaging Cen-
る。厚みのある乳房には、銀フィルタの使用がモリブデンや
ter、乳房画像科医長 Alan Semine, MD. は、タングステンシス
ロジウムフィルタよりも優位である。陽極熱容量が高いこと
テムを使用しており、
「Seleniaシステムを用いたタングステン
で撮影時間を短くできるため、単一軌道 X線管が二重軌道 X
による画像撮影は、従来のモリブデンを組み合わせたSelenia
線管よりも優位である。ロジウムと銀フィルタを併用するタ
に比べて低い患者線量で同等の高品質デジタルマンモグラフィ
ングステンX線管との優れた組み合わせにより、幅広い乳房
が可能である」と評した。
厚にわたってデジタルマンモグラフィの最適な線量と画質性
能が得られる。さらに、タングステンX線管の使用は、乳房
5.先進のアプリケーション
トモシンセシスや高い管電圧でヨード造影剤を使用するマン
モグラフィといった先進のアプリケーションに最適である。
タングステンX線管を用いた画像診断は、特に開発中の先
進画像診断アプリケーションにも非常に適している。トモシ
ンセシス画像診断は画像収集中に焦点ボケが最小限になるよ
※ Seleniaはホロジック・インコーポレイテッド社の登録商標です。
うに、多くの短時間パルスの X線を生成する必要があるが、
タングステン陽極の高放射線出力により、より優れたトモシ
ンセシス画像診断を行える 3)。研究者は、ヨード造影剤を使用
した画像診断も含む造影マンモグラフィを研究している 4)。
このアプリケーションにおける画像の最適化は、ヨードのk吸
収端
(33keV)
以上の著しいエネルギー成分を伴う高い管電圧
を必要とする。もう一つのアプリケーションは、デュアルエナ
参考文献
1) Kopans DB. : Breast Imaging 3rd edition. Lippincott,
Williams & Wilkins. 2007, pg 446.
2) Dance DR, et al. : Influence of Anode/Filter Material
ジー画像診断の使用である。これにより高い管電圧による撮
and Tube Potential on Contrast, Signal-to-Noise
影を要する微小石灰化の可視性を向上させる 5)。
Ratio and Average Absorbed Dose in Mammography :
a Monte Carlo Study. Dance DR, et al. Br. J. Radiol.
6.考察
(2000)73
(874): 1056-67.
3) Smith AP, et al. : Initial Experience with Selenia Full
モリブデンX線管デジタルマンモグラフィシステムは、ス
Field Digital Breast Tomosynthesis. In : Proceedings
クリーンフィルムマンモグラフィと比べ、線量の 30%減少を
of IWDM Durham North Carolina, June 2004, Ed.
証明した 6)。デジタルマンモグラフィにタングステンX線管を
導入すると、画質に悪影響を与えずに放射線被ばくをさらに
Etta Pisano.
4) Jong RA, et al. : Contrast-enhanced digital mammog-
低減できる。これは、放射線防護において鍵となる概念、
raphy : initial clinical experience. Radiology. 2003 Sep
ALARA原則
(As Low As Reasonably Achievable : 合理的
228
(3): 842-50.
に可能な限り被ばくを低減する)
に確かに従っている。乳がん
の早期発見という面において、患者利益に対し相対的にマン
モグラフィにおける放射線被ばくは非常に低くなるが、ロジ
5) Bliznakova K, et al. : Dual-energy mammography :
simulation studies. Phys Med Biol. 2006 Sep 21 ; 51
(18)
: 4497-515.
ウムと銀のフィルタを併用するタングステンX線管システム
6) Schueler B. SU-FF-I-37 : A Comparison of Full-Field
では、患者被ばくを低減しながらも高画質を維持することが
Digital and Screen-Film Mammography Dose. Medi-
できる。
cal Physics,(2006)V33N6 : 2005.
低線量が望ましいが、画質と線量の間にはトレードオフの
関係がある。画質が劣化し、必要な空間分解能が不足する量
まで X線線量を低減する場合がある。マンモグラフィ画像で
200ミクロンと同程度に微小な微小石灰化を検出できるのに
十分な解像度画質が得られるように、画質を最適化すること
で妥協されることが多い。
〈MEDIX VOL.58〉 49
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