...

『社会的サービス機能の広域的集約・分担・連携』【H24年6月掲載】

by user

on
Category: Documents
31

views

Report

Comments

Transcript

『社会的サービス機能の広域的集約・分担・連携』【H24年6月掲載】
社会的サービス機能の広域的集約・分担・連携
姥浦道生*
Abstract: This paper deals with the consolidation, assignation and cooperation for the provision of the public
services especially in the rural area in the depopulation society. As a general theory, maintenance method of them can
be broken down into nine patterns; closing, improvement of accessibility, miniaturization, decentralization,
concentration, temporalization, new-structuring / substitution, complexing of the facilities and privatization. The form
of the regional cooperation can also be broken down into four patterns; combination of horizontal - vertical and
cooperation – division of functions. In the latter half, the author introduces the actual situation on retaining the retail
function, regional cooperation in Japan and Germany. As a conclusion, he indicates the importance of the linkage of
public service provision planning and special planning.
キーワード:社会的サービス機能、広域連携、コンパクトシティ、ドイツ
1. 社会的サービス機能と“コンパクトな都市・地域”
1-1 社会的サービス機能とは
我々の生活は、教育、文化、医療などさまざまな社会的サー
ビスが提供されることによって成立している。
そのような社会的
人の数だけあるが、概ね、一つ一つの市街地・集落の空間的まと
まりは“コンパクト”にし、それらを相互に交通・情報等で“ネ
ットワーク化”するという、分散的集中型の多核的空間構造を有
する都市・地域像と捉えることができるだろう。
サービスは少なからずそのための施設、
すなわち社会的サービス
この点、社会的サービス機能の配置には、将来的な人口の空
施設と結びついて提供されている。例えば、教育的サービスにつ
間的配置を規定・誘導するという側面がある。人々は基本的には
いては主として学校や図書館等の施設を通じて、
また文化的サー
より便利な場所に住みたいという希望を有しており、
それはこの
ビスについては主として文化会館や市民ホール等の施設を通じ
社会的サービス機能の集積する区域であるからである。
したがっ
て提供されている。
このような公共機関が中心となって整備する
て、この社会的サービス機能の配置については、都市・地域構造
公共施設に加えて、
日々の食料や日用品を入手するための小売店
の目指すべき将来像を意識しつつ決定することが重要である。
をはじめとした商業施設や日々の健康を支える病院をはじめと
とはいうものの、コンパクトシティを目指すからといって単
した医療施設などの民間施設も、
ここで言う社会的サービス施設
純に中心部の居住者のみに社会的サービスを提供すればいいと
に含まれる。
いうものではない。ここで特に問題となってくるのが、人口が急
これらの施設は、特に高度経済成長期以降、次々と新しく建
激に減少しているネットワークの“末端”地域である。サービス
設されてきた。その背景としては、もちろん何より人口の増加と
の提供と施設整備とが密接に結びついている中で、
施設整備をあ
それに伴う市街地の拡大が挙げられるが、
それ以外にも技術の進
らゆる場所でくまなく行うということは現実問題として不可能
歩と生活水準の高まりによる要求されるサービス水準の高度化、
である以上、
すべての人に平等に高い水準で社会的サービスを提
自動車の普及に伴う人々のモビリティの高まりによるサービス
供するわけにはいかないことは明白である。
地域内/毎に一定の
圏域の拡大等も挙げられる。
差異が生じることはやむを得ない。しかし、健康で文化的な生活
しかし現在すでに、あるいは少なくとも近い将来、ほとんど
を送るために最低限の社会サービスを国民に提供することは、
政
の自治体が人口減少・少子高齢化・財政難に陥ることが予測され
府の義務である。したがって、それを適切に保障していくこと、
ている。そのような状況下では、これまで通りに社会的サービス
すなわち社会的サービス機能を住民の空間分布に適合するよう
施設を建設し、
そのサービスを提供することが困難になってきて
に適切に配置していくことも重要な課題である。
いる。のみならず、このような施設の少なからぬ部分が今、ちょ
うど更新期にある。
そこで、それにあわせてこれらの機能を今後どのように再編
ここで注意しなければならないのが、社会的サービス機能を
有する施設の整備は各部門別計画に基づき「縦割り」的に行われ
るという点である。しかし、ここまで述べてきたように、社会的
し、人口減少している都市・地域の空間形態と適合させていくの
サービス施設を空間的にどのように配置するかは重要な問題で
かが課題となってきている。
(注1)近年各地で「公共施設見直
あり、
その配置を空間戦略と密接に結びつけて行うことが肝要で
し計画」が策定されているのは、このような流れによるものであ
ある。
る。
1-3 広域的集約の必要性
1-2 社会的サービス機能とその空間的配置
さて、現在、持続可能性を充足するために一般に目指されて
さて、社会的サービス機能の提供は必ずしも自治体ごとに行
われる、
または行われるべきものとは限らない。
特に前述の通り、
いる都市・地域の物的空間像は、
“コンパクトシティ”と言われ
住民からの要求水準の高まりに伴い、
一自治体でそのような必要
るものである。この言葉の具体的に指す内容は、その言葉を使う
な社会サービス機能を提供することが困難になってきている場
*
東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻
合もある。しかし、そのためにその提供機能をグレードダウンさ
表1 人口減少に対応した社会的サービス機能の維持方策
(出典:参考文献1をもとに筆者加筆・修正)
せることは、住民の生活の質(QOL:Quality of Life)の低下をも
たらし、
ひいては更なる人口減少等の問題を引き起こすことにな
りうる。
そこでその解決策の一つとして、自治体域を超えて、広域的
に社会的サービスの提供を行うことが考えられる。その場合、集
約・分担・連携も自治体域を超えて行うことになる。
2. 人口減少時代の社会的サービス機能の維持・対応に関する計
画理論
②
ための広域連携の態様について述べていく。
・公共交通網の改善
・道路整備
・学校の複式学級化
・バス路線網の削減
④ 小規模分散化
・合併浄化槽の導入
・支所への権限移譲
⑤ 集中化
・学校の統合
・商業施設の大型化
⑥ 一時化
・移動販売の導入
・移動図書館
⑦
新・再構築/
代替化
⑧ 複合化
ドイツ連邦政府が 2010 年に出した報告書『広域的観点からの
生活基盤維持計画』においては、人口減少に対応した社会的サー
アクセス性の
改善
③ 縮小化
2-1 人口減少に対応した社会的サービス機能の維持方策
次に、社会的サービス機能の維持のための対策の多様性とその
・小中学校の閉鎖
・市民会館の閉鎖
① 廃止・閉鎖
⑨
民営化/
地域化
?
・インターネット授業の配信
・宅配サービスの活用
・商業施設と集会施設の併
設化
・施設管理の民間委託化
ビス機能の維持方策として、以下の通り挙げている(表1、注 2)
。
第一に考えられているのが施設の「廃止、閉鎖」であり、生徒
第七は「新・再構築/代替化」であり、学校への通学ではない
数の減少した小中学校や利用者数の少ない文化施設の閉鎖など
テレビ電話やインターネットを通じた授業配信などが挙げられ
が挙げられる。最も単純な、分かりやすい形の対応と言えるが、
る。特に近年の情報技術革新の進展は目覚ましいものがある。そ
それで利便性が損なわれる人たちからは大きな反対運動が起こ
れを活用することで、
これまでとはまったく異なるサービス供給
される場合も少なくない。特に小学校の閉鎖は、地区の衰退に直
システムの構築が可能になり、
施設整備自体が不要になる場合も
結するため、その傾向が強い。
ある。
第二には「アクセス性の改善」であり、特に公共交通による周
第八は「複合化」であり、例えば商業施設と談話・集会施設の
辺地域からサブセンターを含む中心へのアクセス性を担保する
併設が挙げられる。
ここでは一つの施設だけではなく複数の種類
ことが挙げられる。
サービスの提供拠点が少なくなったとしても、
の施設を複合化させることで利便性を高め、
ひいては需要の拡大
ネットワークの改善によって、それに伴う QOL の低下を最小限
とそれに伴う機能維持を意図するものである。
に抑えることが可能になる。
最後は「民営化・地域化」であり、インフラのサービス提供主
第三には「縮小化」であり、バスネットワークの縮小や学校の
体としての公営企業体を民営化したり、
施設管理を民間や地域に
複式学級化等が挙げられる。
これは完全に廃止まではしないもの
委託したりすることが挙げられる。地域のボランティアや NPO
のその有する機能を縮小させることであり、
眼目は需要の減少に
などによる公共交通サービスの提供も、ここに含まれるだろう。
対応してその機能のレベルを下げつつも、
または下げることで当
サービスの提供が困難になる最大の理由は経済性である。
したが
該機能自体を維持していこうとすることにある。
って、民営化等によって施設の維持管理等のコストを削減し、そ
第四には「小規模分散化」であり、大規模集中型の下水処理施
のサービスの提供を存続させることがこの眼目である。
設ではなく合併浄化槽をはじめとした小規模分散型の処理施設
このように、人口減少等の地域の状況の変化に対応しつつ社会
の建設を行うや、
本庁から支所に権限委譲を行うこと等が挙げら
的サービスを提供するための手法としては、
一般に想定されてい
れる。需要密度が低い場合、それを収集するコストを考えると分
るように単なる統廃合だけではなく、様々なものがあり、提供サ
散的に当該需要に対応した方がさまざまな観点から有利であり、
ービスの内容と地域の状況とを勘案して最適なものを選択する
また小回りが利くため需要の変化や技術革新等にも対応しやす
ことが重要になってくる。なお、これらの手法は互いに排他的で
いというメリットがある。
第五には「集中化」であり、学校の統合、商業施設の大型化・
拠点化などが挙げられる。これは、需要を集中させて必要な需要
はなく、
総合的に組み合わせることで地域に合ったソルーション
となることは言うまでもない。
2-2 連携:
「協働」
「機能分担」
「水平」
「垂直」
量を確保することで、比較的高次の機能を維持・展開していこう
もう一つの観点として、複数の拠点をどのように相互に関係付
とするものである。この場合、サービスの供給拠点自体は減少す
けながらサービス機能の提供していくのか、
という連携形態の問
るため、アクセス性の改善(通学バスや買い物バスなど)と一体
題がある。拠点間の広域的関係性の計画問題である。
的に行わなければ QOL の低下に結びついてしまう。
第六は「一時化」であり、移動販売や移動図書館などが挙げら
これは、連携様態の差異からは、
「協働型連携」と「機能分担
型連携」に、また連携自治体間の規模の差異からは「垂直的連携」
れる。
当該サービス機能を一つの場所で固定的に提供することが
と「水平的連携」に分類することができる(図 1)
。このうち「協
需要と比較して過大な場合、それを一時化・移動化させることに
働型連携」とは、複数の自治体が一体的に住民等への都市機能・
より、
拠点数自体は減らすことなくサービスの提供が可能になる。
サービスの提供を行うことであり、例えば図書館の相互利用、産
協働
機能分担
垂直的
市町村
連携
水平的
市町村
連携
注) ・円の大きさは自治体の規模を表す
・色は濃いほど高次の都市機能を表す
図 1 社会的サービス機能維持のための
広域的連携の類型策
業の共同誘致な
ことで、難民化まではしていないのではとも言われている。
(逆
どが挙げられる。
に言うと、
本当に難民化した場合には最早そこに住み続けること
この連携様態は、
はできないと捉えることもできる。
)
サービス提供の
また逆に商業施設を維持するために、それ単独ではなく、公共
効率性が向上す
施設と併設して整備するということも行われている。
商業施設は、
るというメリッ
商業的に魅力ある個店である必要性重要性は論を待たないが、
住
トがあることに
民にとっては単に生活必需品を入手する場としてのみならず、
そ
加え、それぞれ
れを一つのきっかけとして地区の他の住民と交流・共同活動も図
の自治体の機能
る場としても重要である。そこで談話・活動空間を有する公共施
は阻害されるこ
設――とはいっても集会室程度であるが――を商業施設に併設
とが少ないため、
することで、
施設利用に伴う住民の満足度を上げることが可能に
比較的協力関係
なる。それにより、住民がより頻繁に商業・公共施設の両方を利
を構築しやすい。
用することになり、これらの施設の永続化にもつながるという、
一方「機能分担型連携」とは、各都市がそれぞれの特徴を生かし
住民側、商業施設運営側、また公共側のいずれにとってもメリッ
て異なる種類の都市的機能を計画的分野横断的に整備・維持させ
トのある、Win-Win の関係を構築することが可能になる。
る連携様態である。
3-2 定住自立圏構想
この「機能分担型連携」のうち「垂直的機能分担型連携」とは、
日本においては、社会的サービス水準の一律的向上を図るため、
中心都市がより高次の都市機能を基本的に保持し、
そのサービス
戦後数多くの広域圏施策がさまざまな省庁によって行われてき
の提供圏域を周辺自治体にも及ばせるという、
自治体間ヒエラル
た。中でも近年、人口減少を背景とした社会サービス提供のため
キー関係を基礎とした連携である。一方、
「水平的機能分担型連
の計画的広域的な取り組みとして行われているのが、
定住自立圏
携」とは、近接・隣接した類似規模の都市間の連携であり、複数
構想である。これは、
「選択と集中」
「集約とネットワーク」をキ
の自治体が同次元の、
すなわち同一の圏域を対象とした相互に異
ーワードに、中心市と周辺市町村が「定住自立圏形成協定」を締
なる種類のサービスを補完的に提供する形態をいう。
中心都市が
結することで連携・役割分担を行い、生活に必要な都市機能の確
複数の隣接・近接する類似規模の都市によって構成される場合な
保、結びつきやネットワークの強化、圏域マネジメント能力の強
どでは、このような水平的機能分担型連携によって、地域として
化等により、
安心して暮らせる地域を創出することを目的として
はより高次の都市機能を具備することが可能になりうる。また、
いる。
人口減少や財政状況の悪化等に伴い各自治体が単独では現在有
2012 年 2 月現在で、73 市が中心市宣言を行っている(注3)
。
する都市機能レベルを維持すること自体が困難になってきてい
これまでの取り組み事例をまとめると概ね、
核となる中心市に中
る状況下では、
このような連携様態の重要性は増してきていると
核的医療施設をはじめとする高次の社会的サービス機能を集約
いえる。
し、それと周辺自治体を道路・公共交通ネットワークで結び、周
以上、ここまで総論的に社会的サービス機能とその空間計画的
辺からのアクセスを担保する、
というヒエラルキー型を基本とし
整備について述べてきた。以下では各論的に、商業サービス機能
た垂直的連携となっている。これは、規模の小さな周辺自治体に
の提供、日本における計画的な取り組み、そして海外・ドイツに
とっては自前で高次のサービス拠点を整備することなくサービ
おける取り組みに関して、事例的に述べていく。
スの提供を受けることが可能になる一方で、
中心自治体にとって
もサービスの提供圏域を広域的にすることで当該拠点の維持に
3. 各論・事例
必要な需要量を確保することが可能になるという、
双方にとって
3-1. 商業サービス機能の提供
のメリットがある。その他にも、図書館や体育館、運動施設など
住民に提供すべき社会的サービスの中でも、特に重要なものの
一つが商業サービスである。特に食料品や日用生活品など、生活
必需品を扱う店舗へのアクセスが確保されていないということ
の公共施設の相互利用化、救急・消防機能の共同化などの水平的
協働型連携も見られる。
それに加えて、同規模の自治体が一体となって中心市となる
は、日々の生活が成り立たない、すなわちいわゆる「買い物難民」
「複眼型」の定住自立圏も散見され、その一部は水平的機能分担
化するということを意味するからである。
型連携を目指している。
とはいうものの、
このような連携態様は、
とはいうものの、そのような物の提供は店舗がなくても可能で
都市・地域の縮退プロセスにおいては類似規模の自治体間での一
ある。例えば近年はカタログやインターネットによる注文・配達
部都市機能の放棄に結びつく場合もあるため、
どの都市がどのよ
という宅配システムが整備されてきている。その意味では、単に
うな機能をどの程度具備するのかという点に関する調整が難し
施設の整備にとらわれず、
多様な手段の中から商業サービスの提
い。
特に住民の日常生活との関連性の深い生活利便施設の立地に
供のために最適なものを選択することが求められる。
過疎地の限
ついては調整が困難であり、それらを積極的に「間引く」
、すな
界集落化やそれに伴う買い物難民化が一般には言われているが、
わち一部自治体の施設を計画的に廃止するというところまでは
現実にはそのような地域の住民はこれらの手法などを活用する
実態的にはほとんど行われていない。
本来的にはそれを進めてこ
そ効率的かつ高度な社会的サービスが提供可能になるにもかか
さまざまな計画・施策がとられていることが分かる。但し、その
わらず、である。これを計画的にどのように進めるのかについて
ためには、いくつかの「壁」を取り除く必要がある。
は、理論の構築と実践の両方が、まだ今後の課題として残されて
第一には「ハードとソフト」の壁である。社会的サービス機
いる。
能の提供のためには、
社会的サービス施設というハード整備が必
3-3 ドイツにおける社会的サービス機能維持のための広域連携
要な場合もあるが、場合によってはソフトと組み合わせて、また
ドイツにおいて広域レベルの拠点整備、すなわち各種社会的サ
は――サービスレベルは多少落ちてもコスト的メリットが大き
ービスを空間的集中的に整備するための計画・調整を行う基礎と
い場合が少なくない――ソフト的手法のみで提供することも可
なるのが、中心地システムである。原則としてヒエラルキー構造
能である。それらを総合的に勘案して、地域にあったサービス提
をとっており、州などが広域計画、すなわち州計画や地域計画に
供手法を考えていくことが必要である。
おいて各自治体を上位中心地・中位中心地・下位中心地などにラ
第二には「縦割り」の壁である。社会的サービス機能はさま
ンク付けして指定する(図 2)
。その位置づけをもとに、部門別
ざまな分野にまたがっており、それらは通常、縦割り的に整備さ
の公共施設の整備場所や整備水準なども決定されることになる。
れるものである。
それらが単独では成立しなくなってきていると
それによって、
適切な圏域内に適切な水準の都市施設等を計画的
ころに人口減少時代の社会的サービス機能の維持管理の問題が
に整備・維持し、以って国土全域において一定の水準以上の社会
あるわけだが、
それらを空間的に組み合わせること――機能分担
的サービスを提供することを目的としている。
や統合化――によって、
両立または並立させることが可能になる
近年は、特に人口減少の激しい旧東ドイツの低密居住地域にお
いて、
このような拠点をどのように維持していくのかが課題にな
っている。そこで例えばブランデンブルク州においては、下位の
場合もある。部門別計画という「縦の糸」を、空間計画という「横
の糸」で紡ぎ織りなしていくということである。
第三には「横割り」の壁である。地方分権が進行し、基礎自
中心地指定を行わず、
上位の中心地に社会的サービスを集中させ
治体に多くの事柄が委ねられている昨今ではあるが、
特に広域レ
ることで拠点の「選択と集中」化を進めた。その一方で、従来の
ベルの社会的サービス機能の維持については、
基礎自治体同士で
指定基準では拠点となる中心地がなくなってしまう地域が出て
ボトムアップですべてを行うことは現実的に困難である。
そのよ
くるという状況が生じたため、要件を緩和し指定数を増やした。
うな場合には、
広域政府が主導的または調整的な役割を果たすべ
さらに、その緩和要件も満たさない地域については、複数の自治
きであろう。
体を共同で「連携中心地」や「機能分担型中心地」として指定し、
第四には「官民」の壁である。これまでは例えば商業機能で
単独で拠点とするには規模が小さい自治体間の分野横断的機能
あれば基本的には民が、
文化機能であれば基本的には官が整備を
分担型連携を積極的に促進することによって、
複数自治体に共同
してきた。しかし、これからは社会的サービス機能としてこれら
で社会サービス提供機能を担わせようとしている。この場合、定
を一体的に捉え、相互に連携・役割分担をしていくことが重要に
住自立圏構想と同様、
自治体間で機能分担の基本的枠組みに関す
なってくる。
る連携協定が締結されており、
それぞれの自治体の有する既存の
一般に、地域住民が主体となりつつ、行政等他の主体と協働
社会サービス機能の特徴を踏まえて今後の整備の在り方が示さ
して行う地域の環境や価値を維持・向上させるための総合的・戦
れている。
略的取り組みは、
「エリアマネジメント
(地域経営)
」
と言われる。
人口減少社会におけるエリアマネジメントの重要な要素の一つ
4. 社会的サービス機能のための地域連携の課題
以上見てきたように、いずれの国・地域においても、
「コンパ
クトシティ」化を目指して周辺部の「縮退」を積極的に進めると
が、まさにこのようなさまざまな「壁」を越えて、さまざまな知
恵を出し合い工夫を重ねて、
社会的サービス機能を地域に持続的
に提供していくことである。
いうよりはむしろ、
その周辺部に対しても社会的サービス機能を
一定水準を維持しつつ持続的に提供していくことを目的として、
補注
(1) 以下、
「都市」という場合には基本的には自治体域を指し、
「地
域」という場合にはそれを越えた広域圏を指す。
(2) 一部筆者が加筆している。
(3) 総務省まとめによる。
参考文献
1) Bundesministerium für Verkehr, Bau und Stadtentwicklung (Hrsg.):
„Regionale Daseinsvorsorgeplanung“, Werkstatt: Praxis 64, 2010
2) 姥浦道生、瀬田史彦「ドイツにおける水平的機能分担型広域
連携に関する研究」日本都市計画学会学術論文集、46-1、pp.99-107、
図 2 ドイツ(ブランデンブルク州)における中心地指定の状況
(出典:ブランデンブルク州計画、一部筆者改変)
2011.0
Fly UP