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フラナガンはトレーラーの窓から、 複雑な気持でゴールをながめた。 確か

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フラナガンはトレーラーの窓から、 複雑な気持でゴールをながめた。 確か
イギリス
アメリカ
18 チ ャー ルズ
アイルラン ド
オー ス トラ リア
4
52
30
19 ラ ッツ
ア メリカ
4
54
10
20 ス ヴォボダ
オー ス トリア
4
54
20
21 モ ンテス
キューバ
4
55
40
イタ リア
ベ ル ギー
5
06
05
5
07
01
ニュー ジー ラン ド
5
08
40
ポー ラン ド
5
09
01
6
41
08
ッフェイ
22マ
ュエル
23 デ│サ
2 4 コー ラン
2 5 シュ ミッ ト
(総合 729位 )K.シ ェ リダ ン ア メ リカ
女子 第 1位
メキシヨ
4
51
35
フ ィンラン ド
4
51
55
フフンス
4
51
56
4
52
10
15 ブ ア ン
フフンス
亜
1含
'デ
ナ
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4
43
12
4
46
50
アメリカ
4
48
10
`
ドイ ン
4
49
80
イギ リス
アメ リカ
完走者数 '1821名 平 均速度 (第 1位 )19分 46秒/マ イル
秒
時間 分
レ
つ
11軍
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労移;I王
抗
対E宅
,ス
︽ミ ンスキ ー ︾ の踊 り 子
ポ モ ナ 。ヒル ( 2 9 マイ ル )
1 9 3 1 年3 月 2 1 日 土 曜 日
、
。
、
フラナガ ンはト レー ラー の窓 から 複雑 な気持 でゴー ルをなが めた 確 かに レー スから落
、
、
伍者 が出 るたび に 彼 のポ ケ ットには三百ド ルが転 がり 込む のだ が 肝 心な のは ︽スター︾ の
、
。
誰 もが傷 つかな いこと で ま た全 体 の員数 を かな り多 め にそ ろ え ておく ことだ った 彼 はド
ク ・コー ルと モーガ ンが並 ん でゴ ー ルイ ンし、ま たサー レイ卿 と ヒ ュー ・マク フ ェイ ルが ウ ィ
リ アムズ ・オー ル =アメリカ ンズ やドイ ツのチー ムを押 えた のを見 て満 足 した。 サー レイ の参
、
。
、
加 は喜 び でもあ ったが 同時 に問題 もあ った 喜 び は 彼 の存在 によ ってこの レー スに独特 の
。
、
ニ ュー ス価値 がもたらされる ことだ 問題 は フラナガ ンが イギ リ ス貴 族 の扱 い方 にま ったく
。
、
心得 が な いこと にあ った 彼 はブ ロード ウ ェイ で見 た ノ エル ・カ ワード の劇 や ニ ューイ ング
、
ラ ンド中産階級 に関 す るわず か の知識をもと に イギ リ ス訛を想像 しなが ら喋 り方 の練習 を重
。
。
ねた だ がそれは何 の役 にも立 たな か った フラナガ ンは根 っから の アイ ルラ ンド系 ニ ュー ヨ
ー ク っ子だ った のだ。
ミンスキ ー 〉の 踊 り子
131《
、
。
彼 はま たサー レイ にど う呼び かけたらよ いのか ま る で見当 が つかな か った 貴族 の敬称 を
。
使 う にし ても ﹁ユア ・ハイネ ス﹂と か ﹁ユア ・ワー シ ップ ﹂ ではあまり に堅苦 しく聞 える 結
。
、
、
局 司ユア ・ロード シ ップ ﹂ に落 ち ついたが これもなる べく 口にしな いですま せた か った
。
サー レイ の食事 と宿所 の問題 はも っとめんど うだ った サー レイ は自 分 の食事 と宿所 は別 に
。
、
、
するよう に要求 し 事実 専 用 のト レー ラーを持 ち 込む ことま で申 し出 た フラナガ ンは彼 が
、
。
、
。
食事 を別 にとる こと には同意 した と にかく 食事 は個人 の問題 にすぎ な い だ が サー レイ
。
、
が別個 の居 住設備 を用意 する こと は認 めな か った なぜなら こ のイギ リ ス貴族 が専 用 のト レ
ー ラーを持 ち 込んだら、何 十名 も いる スポ ンサー付 の他 の参 加者 が彼 の真 似 を し、そ の結果 、
トラ ンス ・アメリカ の 一団 はまもなく、 いちば ん のろ い車 に合 わ せ て進 む大幌馬車隊 のような
。
様相 を呈 し始 めるだ ろう からだ
。
フラナガ ンは窓際を離 れ た 彼自身 のキ ャビ ンは フオード ・コーボ レー シ ョンの手 でぜ いた
くな設備 を施 され ており、風 呂 と シャ ワー、 ラジ オ に電話 、さら に、豪勢 なベ ヒ シ ュタイ ンの
、
。
ピ アノま で据 え つけてあ った。も っとも フラナガ ンはピ アノを弾 けな い のだが コーナー の
。
、
、
糖蜜 ︾と銘打 った 黒 いブ リキ の大型 ド ラ ム缶 が 三本 並 ん で いる こ こ に
冷蔵庫 の右側 に ︽
、
は これ から の長 い道中 フラナガ ンとウ ィラード ・ク レイ の需要 を賄 う九ガ ロンの密輸 ウ ィ ス
、
。
キーが収 ま っていた これ はキ ューバ から漁船 で運ば れ ニ ュー ョー ク の ヘネ シー の倉庫 を経
、
。
て 闇市場 に流 れ込んだ も のだ この国 ではす でに 一九 二 一年 から禁制品 の酒 が何 百万ガ ロン
も ひそ かに出 回 って、愛飲家 の喉をうるおし ていた。キ ューバ のウ ィ スキー はまさしく ︽ほん
ンま でも ⋮ ⋮ ﹂
﹁人 形 み た いな ?﹂ フラナガ ンが 訊 き返 し た 。
。
、
。
ウ ィ ラ ー ド が 完 走 者 の リ スト に指 を 這 わ せ た ﹁ケ イ ト ・シ ェリダ ン ニ ュー ヨー ク出 身
、
。
七百 二十 九 位 です さ っそ う と し て 絵 に画 いた よ う な べ っぴ ん です ぜ ﹂
﹁べ っぴ ん ?﹂ フラナガ ンが言 った 。﹁ほん と に器 量 が い い のか い ?﹂
﹁ご 自 分 で確 か め て下 さ い﹂ と言 って、 ウ ィラー ド は ト レー ラー の窓 の外 を 指 差 し た 。 ブ ルネ
ット の女 が はだ し で、 記者 用 テ ント から出 てき た と ころ だ った 。 ポ ラー ド と コワ ル スキ ー が付
。
き添 って いる
、
。
フラ ナガ ンは若 い女 を 注 意 深 く 観 察 し た 女 性 スポ ー ツ選 手 のご 多 分 にも れ ず 彼 女 も胸 の
、
、
。
ふく ら み は小 さ いが 乳 首 は尖 って シ ャ ツを ぴ ん と盛 り 上げ て いる のが 目 に つく ケ イ ト の
、
、
、
肉 体 の大 き な特 徴 は スポ ー ツ選 手 ら し い た る み のな い臀 部 と 均 整 のと れ た 筋 肉 質 の長 い
、
も の︾ で そ の質 は彼 ら が ロ スア ンジ ェル スで心配 しな が ら飲 ん だ 日本 産 と か いう ク イ ー ン ・
。
ジ ェー ムズ ・ス コ ッチ ・ウ ィ スキ ー を はる か にし の い で いた
、
。
猛 然 と タ イプ を 叩 い て いた ウ ィラード ・ク レイが 手 を 休 め て ボ スを 見 上 げ た
﹁スタ ー ト は上 出来 でし た ね ﹂ と ウ ィラード が言 った 。デ ︼
ち ら が ラ スヴ ェガ ス入 り す る 頃 は
。
、
パ ラ マウ ント の フィ ル ムも 仕 上 が って いる でし ょう ド ク ・コー ル ス コ ット ラ ンド の マク フ
ェイ 、 ー レイ 、 フ ィ ンラ ンド の エ ス コラ、 メキ ン コの マルチネ ス、 ド イ ツ のチー ム、 オ
サ
ル
卿
。
、
︲ メリ カ ンズー ー
ー ルー
ア
みん な 好 調 な ゴ ー ルイ ンです おま け に あ の人 形 みた いな シ ェリダ
逢かなるセントラルパーク 132
ミンスキ ー 〉の 踊 り子
133《
。
、
、
、
腿 そ し て形 のよ い す んなりとした足首 にあ った けれども こう した特徴だ けが彼女 の魅
、
。
力 を形づ く っている のではな い ケイト の全身 からは生 き生 きとした 燃 えるような色気 が発
、
、
。
散 し ていた それ は自分 が何者 で 何をし ている かに ついての 完 壁な確信 から生ま れ てくる
。
も のだ ろう 。 フラナガ ンはウ ィラード に顔を向 けた
﹁ミ ス ・シ ェリダ ンに、わたしが会 いた いからと伝 え て来 い﹂と彼 は命 じた。
、
フラナガ ンはケイト ・シ ェリダ ンが彼 のト レー ラー のすぐ外 に立 って 傍 ら のジ ャーナ リ ス
トと喋 っている のを しば らく見守 った。ウ ィラードが近づ くと、彼 女 は に っこり とした。″
暖か
。
、
み のある 女 らし い笑顔 が フラナガ ンの印象 に残 った 彼 はこれま でにも女性 スポ ー ツ選手を
。
、
、
、
、
見 ていたが 大半 は毛深 く て 腿 の太 い 色気 と は無縁 な女丈夫 だ った だが シ ェリダ ンは
、
ま さしく女そ のも のだ︱ ︱ ひ ょ っとしたら スター にもなれる のでは? 彼女 が ウ ィラード と
。
一緒 にト レー ラー のほう に歩 いてきた
、
ケイ ト ・シ ェリダ ンが キ ャビ ンに入ると フラナガ ンはウ ィラード に座 を はずす よう にと合
。
。
、
図 し た だが 助手 は魅 せられたよう に戸 口に立 っていた
﹁掛 けなさ い、 ミ ス⋮⋮ ?﹂ フラナガ ンが言 った。
﹁シ ェリダ ンです ﹂女が答 え た。﹁ケイト ・シ ェリダ ンです ﹂
﹁
何 か飲 み物 でも ?﹂
。
、
ケイ トはうなず いて 周囲 に並 んだ一
象華な設備 を見 回した や っと彼女 は肘掛 け椅 子 の柔 ら
。
。
か い座席 に腰を おろした フラナガ ンが レモネード のグ ラ スを渡 し た
。
﹁ど う思 う ?﹂彼 はト レー ラー の
後部 に目を走 ら せ て言 った ﹁し ゃれ て いるだろう ?﹂
、
ケイ トはぐる っと見 回し て うなず いた。彼女 のち んまりとした足 と、き れ いにペデ ィキ ュ
、
アの施 され た爪を見 て フラナガ ンは顔 を赤 らめた。彼女 が こんな かわ いい足 でどう や って第
。
一区間 を乗 り切 った のかふしぎだ った ケイトが彼 の視線 に気づ いた。
﹁あん た の足 は⋮⋮﹂ フラナガ ンが言 った。
﹁調 子 は上 々よ﹂とケイ トは相 手 の当惑 ぶりを しむ よう な 日 り だ った。﹁レー
楽
ぶ
スのた め に
。
一年間鍛 え たん です レー スには耐 えられます ﹂
﹁カ レ ッジ で陸 上 でも や っていた のかね ?﹂
﹁いいえ 。 カ レ ッジ には い っぺんも ってな いし、 トラ ックだ って
行
一度 も走 った ことがありま
。
せん あ たし は学生選 手 じ ゃな いん です﹂彼 女 は レモネード のグ ラ スを 日に運 んだ 。
﹁それ じ ゃ︱︱ それじ ゃ、どう し てこれ に
参加 した のかね ?﹂
﹁ずば りお金 のため です 。去年 の今頃 、あたし は ︽ミ ンスキー︾ バ ラ
の
エテ ィ ・シ ョー に出 て
。
、
いま した 一晩 に三回 シ ョーを や って 週 二十ド ルです 。それ から 、 ト ラ ンス ・アメリカ のこ
とを読 ん で、あなたが 二十 五万ド ルの賞金 を出 す ことを知 りま した。あ たし の足 で三 ヵ月持 ち
こたえ たら で けど︱︱
す
﹂
。
﹁ただ し、あんたがそ の範囲 に入 っていたら の だ と フラナガ ンが 口を
話 ﹂
挟 んだ
。
﹁そう です 。あ たしが勝 てば の話 です﹂と言 って、 ケ イ トは を
脚 組 んだ ﹁
最 初 あ たし は 一ブ
、
ロックも走 れな か ったけど 、
一ヵ月訓練 したら 八 マイ ルを ノ ンスト ツプ で走 れる よう にな り
迄かなるセン トラルパーク 134
ミンスキ ー 》 の踊 り子
135《
。
、
ま した。もちろん、 スピ ード はありま せん でも トラ ンス ・アメリカは短距離 の レー スじ ゃ
。
、
な いし 九 ヵ月後 には 二時間 で十 五 マイ ル以上 こなせるよう にな ってま した あ たし は レー ス
、
。
を こう見 て います 誰 も ト レー ニング では十 五 マイ ル レー スでは 二十 六 マイ ルぐら いし か走
っていま せん。それな ら、あ たし にチ ャ ンスがあ った ってお かしく はな いでし ょう ?﹂
﹁し かし!⋮﹂と フラナガ ンが言 いかけた。
﹁し かし、何 です ?﹂ ケイ トが突 っ込んだ。﹁ええ、あ たし はただ の女 の子 です 。あな た はそ
。
、
。
、
うお っし ゃりた いん です 。そう でし ょう フラナガ ンさん ついで に言 わ せ て下 さ い あ たし
。
、
こ の レー スに出 るため にち ょ っと手間 を かけ て調 べたん です 図書 館 に行 って 解剖学 の本 を
。
、
読 みあさりま した 肉体的 に見 ると 三千 マイ ルを走 って女がた いていの男 にかなわな いと い
、
う理由 はな いん です。それ に、苦 しみ に耐 えると いう こと にな ったら あ たしたち女 はた っぷ
り経験 を積 ん でいます わ﹂
﹁悪気 はな いんだよ。 ミ ス ・シ ェリダ ン﹂と ウ ィラード が割 って入 った。﹁ただ 、わ れわ れ は
ご婦 人 が長距離 に出 た って話を 一度 も聞 いた ことがな いだ けなんだ ﹂
司それな ら、まちが いなく ここに 一人 いるわけよね﹂ ケイトは席 を立 って、ド アのほう に体を
。
、
。
ー
向 けた ﹁
他 に何 か フラナガ ンさん ?﹂ フラナガ ンは か ぶりを振 った ケ イ トは ウ ィラ ド
。
にウ ィ ンクし て出 てい った
、
、
フラナガ ンは赤 いビ ロード張 り の揺り椅子 にど っかり坐り込ん で 葉巻 を取 ろうと テーブ
。
ルに手 を伸ば した
﹁
完走者 は何名 だ ?﹂
。
。
ウ ィラードが鉛筆を な めなが ら答 えた ﹁
最後 の集 計 で は千 八百 二十 一名 です ト ラ ック に
。
拾 われ た者 ある いは失格 した連中 は百 八十 一名 三十名 はまだど こかをう ろ ついて います ﹂
。
。
﹁
何 て こ った ︱﹂ フラナガ ンは窓 の外 に目を や った 夕闇が濃 くな って いた
﹁そう た いした こともな いでし ょう﹂とウ ィラード が言 った。﹁あ の連 中 は棄権 し て ロ スア ン
。
、
ジ ェル スに引 き返 した かも しれま せん ひど いもんだ 三 マイ ルぐ ら いであき らめた連中 も い
。
るんだ からあきれます よ 一台 目 の収容 トラ ックが待機 していた のは コロシアムの五 マイ ル先
。
、
です から それより手前 で落 ち こぼれた連中 は誰 も ⋮⋮﹂彼 はあき れたよう に首を振 った
﹁いま いま し い﹂と フラナガ ンは葉巻 を噛 みながら吐 き捨 てるよう に言 った。
まし た﹂
﹁い った い、おま えはど う思 ってるんだ ?﹂と言 って、彼 は噛 み切 った葉巻 の端を層 かご に吐
。
き捨 てた
﹁わたし の考 え です か﹂とウ ィラードが答 えた。﹁わ れわ れ は スターを 一人 、手 に入 れ た って
。
こと です よ、ボ ス あ の子が持 ち こたえれば ですがね﹂
﹁あ の子が絶対 、落ち こぼれな いよう にし てやらな いと いかんな ﹂ フラナガ ンが葉巻 に火を つ
。
。
、
。
けなが ら言 った ﹁あ の子 は銀行 に預 けた金 な んだ お い 銀 行預 金 な んだ ぞ 器量 よし の女
、
。
はみんなそうだ おま え はち ゃんと あ のレデ ィたち のめんどうを見 てやれよ﹂
﹁オー ケー、ボ ス﹂と ウ ィラード は言 った。﹁さ て、仕事 の話 です が、係 が初 日 の集 計 を終 り
迄かなるセン トラルパーク 196
ミンスキ ー 〉の 踊 り子
137《
﹁だ けど 、あ の連中 はど う します ? ラ︼
れ以上先 に進 めなくな った ラ ンナー です よ﹂
﹁どう いう意味だ ?﹂
﹁つま り、ど う扱 う か ってこと で。連中 はど う や って戻 るん です ?﹂
﹁そんな ことおれが知 るも のか!﹂ フラナガ ンは カ ッとし て、両腕 を突 き出 し た。﹁そ い つら
。
、
、
は スター トしたとき に ルー ルはわ か っていた はずだ 沈 む か泳 ぐ か 殺 る か殺 られる か それ
。
、
がゲ ー ムと いうも のじ ゃな いのか トラ ック競技 で落伍 したから って いち いち審判 が連 れ一
戻
だ
れた連中 に頼 まれ て話 し に来 たん です﹂
﹁な る ほど 、 ミスター ・マ ッコイ﹂ フラナガ ンは穂 やかに応 じた。
﹁テ ントに戻 った連中 にはひど い状態 の者 が います 。われわれ はど う や って ロスア ンジ ェルス
L 戻 ったら いいかわ からなく て﹂
、
、
﹁
出身 はど ち ら かね ミ スター ・マッコイ?﹂ フラナガ ンは不安 そうな ラ ンナー に椅 子を勧 め
。
ウ ィ スキー瓶 の コルク栓 を歯 で抜 いた
﹁ごぞ ん じな いかもしれま せんが、 ミ スター ・フラナガ ン。リ メリ ック郡 のキ ルモイと いう小
さな町 です ﹂
﹁そう かね。名前 は聞 いた ことがあ る﹂ フラナガ ンはウ ィ スキー のグ ラ スを アイ ルラ ンド人 に
。
差 し出 した
﹁で、ど う や ってはるば る ロスア ンジ ェル スま で来 た のかね ?﹂
、
、
顔 つきを和 らげ て マ ッコイはウ ィ スキーを ひと 口に飲 み下 したが 生 の辛 さ にむ せ て目 に
。
涙を浮 かべた
、
。
マッ コイは演をすす った ﹁
去年 の二月 のこと です が リ メリ ック の ︽スター︾紙 の主 催 で
。﹁
、
それ
十五 マイ ルの予選 レー スがあ ったん です ﹂彼 はま た茨 をす すり グ ラ スを下 に置 いた
、
で 優勝者 にはトラ ンス ・アメリカに参加 できるよう に ロスま で の旅費 が出 たん です﹂
、
フラナガ ンは 二 つのグ ラ スにもう 一度 ゆ っくりと ウ ィ スキーを注ぎ 入れ て片方 を 口に運 ん
。
し てく れるな ん て思 っち ゃいかん﹂
司でも 、 これ はトラ ック競技 じ ゃな いん です よ﹂ と ウ ィラード は食 い下 が った。﹁中 にはひど
。
いけがを した者 も いるん です ひど く気分 が悪 く て医者 にかか っている者 も います よ﹂
﹁駄 日だ !﹂ フラナガ ンがわ め いた。﹁そんな話 は聞 き たくもな い。 や つら は ここま で来 た ん
。
。
だ 帰 る手段 く ら いは自分 で見 つけられるだ ろう 甘 や かしては いかん﹂
。
、
。
キ ャビ ンのド アが ノ ックされた ウ ィラードがド アをあ けた ラ ンナー の 一人 で 頭 の禿 げ
。
かか った初老 の男 がおず おず入 ってき た
。
フラナガ ンは相手 に聞 えな いよう に毒づ いた
、
、
。
男 の足 は惨愴 たるも ので 爪が 一枚 はがれ もう 一枚も浮 き上が って いる 明 ら かに幾度 も
、
。
、
転倒 し たと見え て 両肘 も胸も真赤 にすりむ け て いた 右 のこめかみ には血が にじ み 右 の頬
。
。
はま る で紙 やすりを かけたようだ 男 の姿 は ラ ンナーよりも負 けたプ ロ ・ボ クサーを思 わせた
﹁マ ッコイと いいます﹂と男 は名乗 った。﹁リ メリ ック郡 の者 です 。 わ た し は ト ラ ック に拾 わ
逢かなるセントラルパーク 138
ミ ン ス キ ‐ 》 の 踊 り子
139《
﹁そう や って、 はるば る こちら へ た のに、
来
第 一日日 で何 も かもご破算 と いうわけ かね ?﹂
、
マ ッコイ はうなず いて ま たグ ラ スを手 に取 り、中身 を のぞき込 ん でから、残 りを飲 み干し
。
、
た ﹁だ けど キ ルモイ にいた って ろくな こと はな か ったん です。少 な く とも わ たし は カ リ フ
オル ニアを こ の日 で見ま した。 こ の世 の中 、何 ごとも、
一か八かや ってみな けり ゃわ かりま せ
。
ん そう でし ょう ?﹂
。
、
﹁そうだ 、 ミ スター ・マ ッコイ﹂と フラナガ ンが
調 子を合 わ せ た ど か八 か や ってみな け
り ゃわ からん﹂
。
彼 はウ ィ スキーをちびちび な めながら訊 いた ﹁ロスア ンジ ェル スに戻 る足 が必要 な者 は何
名 ぐら いいると思 う ?﹂
。
マ ッコイは首 を横 に振 った ﹁は っきりとはわ かりま せんが、百人 は超 え ている でし ょうね。
。
一九 三 一年 二月 二十 四日午前 七時半 百 二十 六 マイ ルの地点 に建 てられ た フラナガ ンヴ ィル
、
。
で三度 目 の取 り壊 しが行 なわれ ていた ラ ンナー用 のテ ントは七時 に解体 がすん で 巨 大な食
。
堂用 テ ントだ けがまだ立 って いた 病人 や負傷者 を ロスア ンジ ェル スに運 ぶトラ ックは丘 の向
、
、
。
こう に消 え つつあ った マダ ム ・ラ ・ゾ ンガ と仲間 たち の 一行 は早 朝出発 し て 日下 モ ハー
、
翌朝 トラ ンス ・アメリカ ・レー スの負傷者 の第 一陣 が トラ ック で ロスア ンジ ェル スに連 れ
、
一 され 残 った ラ ンナー はサ ン ・ベ ルナ ルデ ィノを過ぎ て モハーヴ ェ砂漠 に向 かう 二十 四 マイ
戻
。
、
ルず つ二区間 の コー スに挑 み ま た百十名 が棄権 し て ロスア ンジ ェル スに引 き返 し て い った
トラ ンス ・アメリカ の 一団 は費 肉 を落 し て身軽 にな った。
るんだ ︱﹂
﹁病院 で の治療 を必要 とす る者 は誰 でも最初 の 一週間 は全 額 わ たし の負 担 で治療 が受 け られ る
。
こと にする これ であんた の質問 の答 え にな ったかね ?﹂
。
、
マ ッ コイ はよう やく は にかみを捨 てて 顔を ほ ころば せ た ﹁あ な たが われ われ を打 っち ゃ
、
、
るわ けがな い とわたしは仲間 に言 ってや ったん ですよ ミスター ・フラナガ ン﹂
﹁でも ⋮⋮﹂ウ ィラードが 口を挟 んだ。﹁あな たはさ っき︱︱ ﹂
﹁ウ ィラード﹂ フラナガ ンが制 した。﹁わたし の今 、言 った こと が聞 え た ろう 。 いう通 り にす
﹁あす の朝 、あんた方 を トラ ックで ロスア ンジ ェル スに送 り届 けよう﹂と フラナガ ンが言 った。
他 の連 中 は友 だち や親威 の車 に便乗 し て引き返 しま したよ﹂
フラナガ ンはうなず いて、舌 にく っついた
を取り除 いた。
の
葉
巻
薄
片
﹁
と
と っ 、
き
に
ひ
お
た
て
イ
最
つ
い
い
後
訊
て
ア
言
は
ルラ ンド 人 の目 を ま っす ぐ 見 つめ た。
﹂
彼
﹁あん た ははるば る ここま で来 て、 一日目 に レー スで
第
失格 し た︱︱ そ れ でも参 加 し ただ け の
値打 ち はあ った のかね ?﹂
﹁もち ろ ん でさ﹂ マッ コイはウ ィスキー の りを み干 しな がら ち が った。﹁ ャ ン
残
チ
スが
飲
立 上
、
。
あ ったら ま た出ます よ 今度 こそ はも っと頑張 れる でし ょう﹂ フラナガ ンはに っこりとし て、
ウ ィラード に顔 を向 けた。 ウ ィラード はぽかんとボ スを見返 した。
逢 かな るセ ン トラルパ千 ク 1 4 0
ミ ン ス キ ー 〉 の 踊 り子
141《
ヴ ェに近 い、十 マイ ル先 の道路を バー ストウ方 面 に向 か っていた。 ラ ンナー たち は朝 食 中 か、
、
。
川 で俸 を洗 う か 何人 かず つかたま って雑談 に花 を咲 かせている
ド イ ツ ・チー ムは他 の連中 と離 れ て、ぴ っちり した半円形を つくり、 コー チの フオルクナー
。
の話 に耳 を傾 け ていた
、
、
二 三百 ヤード先 ではウ ィリ アムズ 。オー ル =アメリカ ンスの四人が倒 れ た丸 太 に腰 かけ て
。
いる いきり た った コー チ のど なり声 はサボ テ ンの切り株 が散 らば った平地 のど こにいても聞
。
えた
。
小川 では幾人 か の男 がパ ンツ 一枚 にな って体を洗 っている
﹁お い、 みんな﹂ド クがパ ンツをゆ るめて清流 に宰 を洗 わ せな が ら言 った。デ ▼﹂で ど る
丸
気
こと はな いんだぜ﹂
ケイト ・シ ェリダ ンがド ク のグ ループ のそばを通 り かか った。 マク フ ェイ ルと モトガ ンはあ
、
。
わ てふた めき 小石 のご ろご ろした川を横 切 って シャ ツを取り に行 こう とした ド クはそ の場
、
、
を動 かず パ ンツを下げ たまま 堂 々と股間 を水 にさらし ている。
﹁あ たし のことなら気 にしな いで﹂ケイトが両手 を腰 に当 てて言 った。﹁あ ん たたちを ても
見
た いし て驚 き はしな いから﹂彼 女 の日 は 一瞬 、水 に濡 れ て、淡 い朝 日 の中 に輝 く モーガ ンの体
。
にとま った
﹁わ たし はド ク ・コー ルだ﹂と言 って、ド クが手 を し出 した。それ から は の 中 を で
差
彼 他 連
顎
。
。
。
示 し た ﹁あ れが ヒ ュー ・マク フ ェイ ル ス コット ラ ンド から や ってき た 小 さ い のが ホ ア
﹁十五 マイ ルよ﹂
一あん た はト レー ニング の距離 の二倍半ま ではこなせると思う 。そ の先 は何 とも言 えな いね﹂
﹁ど う いう ことなんだ い?﹂ ヒ ューが訊 いた。とうとう彼 は川 から飛び出 し て、 ユッカ の葉 に
。
かけた タオ ルを手 にと った
﹁こ い つは長 距離 ラ ン エ ング で使 う大ざ っぱ な 目安 な んだ﹂ とド ク は説 明 した。﹁たと えば 、
、
あ んた のふだん のト レー ニ ング の距離 が十 二 マイ ルとしたら 二十 六 マイ ルの マラ ソ ンは こな
が ら突 っ込んだ
もしれな いわね﹂
﹁これま で 一度 にど のく ら い走 った ことがある ?﹂ド クが粗 いタオ ルで胸 をご しご し こすりな
。
る かど う かは知 らな いけど ﹂
﹁スポ ンサーが いる のかい?﹂
﹁とん でもな い。 ニ ュー ョー ク市 は 二人 の男 を後援 しただけ で、女 には 一セ ントだ って出 そう
、
、
。
としな か ったわ でも そ の二人組 はき のう ト ラ ックで引 き上げ た から 結局 あ たし の勝 ち か
、
。
ン ・マルチネ スーー メキ シ ョ人だ それ から あ のお喋 り は﹂ド クは彼 女 が モーガ ンに興味 を
。﹁ ー ンっ
ていう ﹂ ヽ
モ ガ
持 って いる のに気づ いていたず ら っぽく言 った
。
ケイ トはうなず いて自 己紹 介を した
﹁レー スに残 ったご婦 人 はあ んただけ かい?﹂とド クが訊 いた。
﹁いいえ、き のう の晩 、あたし の後 から何 人 かゴ ー ルに入 ったわ。あ の人 たちが こ の先 も続 け
逢 かな るセ ン トラルバ ー ク 1 4 2
ミンスキ ー 〉の 踊 り子
143《
。
せる はず だ 最後 の六 マイ ルはき ついが、それ でもあせらず に行 けば何 と か乗 り切れる。ま た、
、
規則的 に十 五 マイ ルず つ走 っていたら 三十 マイ ルのレー スは手 に負 えな いこと はな いだろう
し、ぎ りぎ り 四十五 マイ ルま では伸ば せる かも しれな い。ただ 、 ヵ月 、 る日も
三
間 来
来 る 日も
それを続 けられるかどう か︱︱ こ い つは の問題 だがね﹂
別
﹁そ れ で、あなたたち の中 に、 か 当 に自
誰 本
信 のある人 はいる の?﹂ ケイトがド クから他 の男
たち に目を移 しながら訊 いた。
て いる よ う な も のな ん だ
は つかな いんだ ﹂
﹁ご め ん な さ い、突 っか か った り し て﹂ ケ イ ト は自 分 のお こり っぽさ を 認 め てす な お にあ やま
った 。
司 にし ち ゃいな いさ と ド ク は に っこり し て言 った 。﹁わ れ わ れ は かな り の長 旅 を と も にし
﹂
気
、
。
。
、
み ん な 同 じプ ー ルで泳 い で いる のさ お 互 い 好 き にな った ほう
たば かり な んだ よ
で毎 日 こな せ た ら
だが ね﹂
﹁そ れ ビ ゃ、 あ たし に は無 理 かも し れ な い って こと ?﹂ ケ イ トが食 って か か った 。
﹁誤 解 し な い で欲 し いね 、 お嬢 さ ん ﹂ ド ク は両 手 を 上 げ て、 ケ イ ト を な だ め た 。﹁あ ん た は初
。
。
、
日 に 三十 マイ ルを 七時 間 以内 で走 った わ た し の知 る限 り た い へん な好 タ イ ムだ こ の調 子
、 ー
。
、
、
勝 利 の可能 性 も な し と し な い だ けど お嬢 さ ん レ スはま だ 蓋 を あ け
、
。
ー
誰 が 六月 に マジ ソ ン ・スク ウ ェア ・ガ デ ンに たど り つく か 誰 にも 見 当
て こと はな いはず だ わ ﹂
司そ れ は わ から ん さ ﹂ ド ク が静 か に言 った 。﹁ただ 、 あ ん た が レー ス に賭 け て み る こと は自 由
だ から ﹂
﹁本 当 に ︽ミ ン スキ ー︾ で踊 って いた のか い ?﹂ ド クが彼 女 と 並 ん で ト ラ ン ス ・ア メリ カ の本
。
。
部 のほう に戻 り な が ら訊 いた 他 の二人 は後 ろ に従 って いた
﹁あ れ が踊 り と いえ る のな ら ね 。
一日十 五 マイ ル の ラ ン ニ ング が あ れ よ り も はる か にき つい っ
﹁そ う よ ﹂ ケ イ トが言 った 。東 ミ ン スキ ー︾ の シ ョー で毎 日 六時 間 、 ステー ジ に立 って いた ん
、
小柄 な メキ シ コ人 は両手を広げ 真白 な歯 並 みを のぞ かせ て子供 っぽ い笑 顔 にな った。﹁そ
、
。
の通 り です ド クさん ぼく は 一日に五十 マイ ル走 った ことなん て 一度 もな いし、週 に六日走
った こともな い﹂ ,
、
﹁そ れを聞 いて安 心したわ ケイ トはそう っ
﹂
言 てから 急 にば つが悪 くな った。男 たちが じ っ
と彼 女 を見 つめていた。男ば かり のラ ンナー のグ ループ に、 こんなす らりとした美女 が り
割 込
ん でき た のだ から無 理もな い。
﹁そ れ はそう と﹂ド クがとう とう った。﹁
言
あ んたは確 か に レー ス向 き のみご とな脚 を し て い
るね﹂ド クは年 の功 に物 を いわ せ て、他 の男 たち の感 じ ている ことを 口に出 した のだ った。 モ
ーガ ンと マク フ エイ ルはそば に って、 タオ
立
ルでぎごちなく体 を拭 いて いる。
﹁いい質問 だ﹂ド クは首 の ろを こすりながら っ 。﹁
後
言 た 答 え は ノーだ︱︱ 誰 にも自 信 な ん か
。
あ り や し な い だ か ら、 そ れ だ け レー スの成 行 き は興 味 深 いわ け だ。 ど う 思 う か ね、 ホ ア
ン?直
迄かなるセン トラルパーク 144
ミンスキ ー 〉 の踊 り子
145《
力 ︶ ︶ ﹂
。
、
ていた女 たち の中 に さら に四十 マイ ルの劫罰 を受 け に行 こう とする者 は多 く はな か った 朝
。
、
早 く ケイ トは丘 の向 こう の砂漠 を見渡 した ほとんど真平 らな砂 漠 は無限 とも いえる広 がり
。
、
を見 せ て 遠 く にかすむ褐色 の丘陵地帯 のほう に伸び ていた ケイ トは胃袋 の縮 む ようなお の
、
。
のきを覚 え た それ は ミ ンスキー の ステージ で 初 めてぴ かぴ か の飾 りを つけた半裸 の姿を 千
。
人 も の客 の目 にさらし て踊 ったとき に味 わ った戦慄 と変 らな か った 彼 女 は唇をぎ ゅ っと噛 ん
。
。
。
だ あ の試練 には打ち勝 った のだ 今度だ って勝 てるはずだ
、
スピ ー カー から流 れる ウ ィラード の声 で ラ ンナーたちが トラ ンス ・アメリカ本部 のほう に
、
。
ー ー
少 しず つ集 ま ってき た ま もなく 生き残 った千 六百名余り のラ ンナー の大部 分が スピ カ
。
、
の前 に広 が る でこぼこ の地面 に腰 をおろした
﹁みな さん、聞 えます か?﹂ ウ ィラード の大声 が響 いた。
、
剛に
フラナガ ンが トラ ンス ・アメリカ ・ト レー ラーを背 にし て ウ ィラード の横 の マイク の一
。
、
。
立 った お気 に入り の西部劇 スター ト ム ・ミ ック スを真似 たカウボ ー イ服 を着 込ん でいる
﹁チ ャー ルズ ・C ・フラナガ ンです 。ま たお目 にかかります。次 の区間 の参 加資格 を得 られ た
、
。
、
、
、
みな さん お めでとう ﹂彼 は間 を置 いて 一同 を なが め回 した ﹁さ て みな さん 女 子 の先
、
、
頭 を 切 っておられる ニ ュー ョー ク出身 のケイ ト ・シ ェリダ ン嬢 に わ たし は格別 の敬意 を表
した いと思 います 。ど う か立 っていただ けます か、 ミ ス ・シ ェリダ ン﹂
。
、
ケイ ト ・シ ェリダ ンが立 ち上 がると 賞賛 の拍手 と 口笛 が湧 き起 って彼 女を包 み込んだ
。
、
フラナガ ンは両手 を上げ て静粛 を求 め 先 を続 けた
﹁あ の人 はあんまりお喋 りじ ゃな いん でし ょう ?﹂
﹁多 く は喋 らんね。ただ 、 こい つは弁論大 じ ゃな い。と い っても、 これ から
会
十週間 以上 の つ
きあ いな んだ。 三十 マイ ルの間 には、みんなも っと親 しくなるだろう ﹂
。
そ れ はケイト の願 いでもあ った 振 り向くと、 マク フ エイ ルと マルチネ スが熱 心 に議論 を し
。
ている のが目 に入 った モーガ ンは 二人 の数 ヤード後 ろを歩 いて いる。 ケイ トはこ の男 たち も
自分 と同 じよう に感 じ て いる のだろう かと いぶか った。彼 ら の肉体 はど れも引 き締 ま って、 い
。
かにも強靭 そう に見えた ケイ トには最初 の百 二十 マイ ルですら、た い へんな難行 だ った。そ
し て、今 、彼女 は三百 マイ ル以上 にわたる砂漠 の縁 で第 四区間 の スター トを迎 えようとし てい
。
、
、
た これ から砂 の道 と丘 サボ テ ン ヨシ ュアの本 、褐色 の砂塵 が果 てしなく続 く のだ 。す で
。
にケイ トは レー スに残 った数少 な い女 の 一人 らし か った テ ントで打 ち ひしがれ てすす り泣 い
。
二人 はもう モーガ ンたち の何 ヤード か先 を歩 いていた ケイトが モーガ ンのほうを首 で示 し
。
た
、
。
﹁
ー
っ
?
し
う
ン
ど
こ
ら
ら
あ
ガ
の
モ
て
い
か
た
か
の
人
来
﹂
彼女 は無関 心を装 ってたずねた
。
。
、
。
ド ク はあ っさり一
肩をすく めた ﹁くわし いこと は知 ら ん だ けど よく走 る男 だ ト レー ニ
。
ング ・キ ヤ ンプ では、 みんな から ︽
鉄 の男 ︾ って呼ば れ ていた モーガ ンの体 は 一オ ンスの脂
、
。
肪 も ついてな いから ラ ンニ ング にはおあ つらえ向きだ や つはかなり のと ころま で残 るだろ
スノ﹂
進かなるセン トラルパーク 146
ミンスキ ー )の 臨 り子
147《
﹁こ のほか に、ネブ ラ スカ のジ エー ン ・コノリーさん、カ ンザ ス ・シテ ィー
のキ ャシイ ・マガ
イ アさん、 サ ンフラ ンシ ス コのパ トリ シア ・ペイ シ ユさんも忘 れるわ け には いきま せん。ど な
たも完走者 の総合順位 では前半 に入 っておられます 。お嬢 さん方 、お立 ち下 さ い﹂
、
一人ず つ立ち上がり 同 じような喝 と 口 の に えら た。
宋
笛
音
れ
迎
。
﹁さ て、今度 は最年少 ラ ンナー に りまし ょう と フラナガ ン
移
が言 った ﹁十 七歳 のジ ム ・ピ
﹂
。
アー ス君 です サ ン ・ベ ルナ ルデ ィノ高校 の生 徒 で、日下 、七百位 を占 め ています 。わたし の
、
記憶 では これだ け の長 距離 で これだ け の好 成 績 を挙 げ た高 校 生 はあ り ま せ ん。ジ ム、ど う
、
ぞ﹂ ほ っそりした 金髪 の若者 が恥 ず かしそう に立ち上がると、さ ら に盛 大な拍手喝宋 が浴 び
。
せられ た
﹁そし て、最後 はわれわれ の最年長 ラ ンナー です。 はるば る
英 国 のサウサ ンプ ト ンから来 られ
た チ ャー ルズ ・C ・フオ ック スさん です 。四百 一位 に入 っておられます 。明 日、 フォ ック スさ
ん は六十 四歳 になられます ﹂白 い頬髯 の老人 に心 から の声援が送 られ、さ ら に年長 ラ ンナー の
。
幾人 かが立 ち上が って賞讃 を受 けた 拍手喝宋 は 一分 以上も鳴 り止ま な か った。
。
、
﹁オー ケー、 みなさん。お か に﹂ フラナガ ンは
静
両手を上げた ﹁さ て 本題 に入りまし ょう。
。
本 日は 二十 マイ ルず つ二区間 を走 ります こ の第 一区間 には コカ コー ラ社 が 五百 、 三百 、百 、
、
五十 ド ルの賞金 を懸 け ており 第 二区間 には フオード自動車 がやはり同額 の賞金を設 け ていま
。
、
、
す そ れ から 本 日 初 め ての ︽カ ット︾を行 な い、 四十 マイ ルの通算 タイ ムが八時間 を超 え
た ラ ンナー は失格 とします 。 これ にパ スするた め の平均速 度 は 一マイ ル約 十 二分 とな りま す。
﹁そう です ﹂
﹁じ ゃあ 、毛布 をもう
一枚増 やし てもらえま せん かね ?﹂
フラナガ ンは初 めて返答 に詰 まり、 マイクから顔 をそむけ て、傍 ら のウ ィラードを見 た。助
。
手 は にや にやし ている 落ち つきを取 り戻す と、 フラナガ ンは失 って いる ラ ンナーたち のほう
。
に向 き直 った ﹁そ の件 に ついては助手 のク レイが然 る べく取 り計 ら いま す 、 ミ スター ・マ ッ
グ ロー﹂ と フラナガ ンは答 えた。﹁テキサ スの方 々はよ ほど皮膚 が薄 いと見 えますな﹂
こ のあ と、食 べ物 や救急施設 など に ついて矢継 ぎ早 や に質問が浴び せられ、 ミー テ ィ ング は
。
十 五分後 に終 った
。
モーガ ンは人 ご みを抜 け出 し て、 キ ャ ンプ のはず れ に行 き、岩 に腰 を お ろ しヽ
た 五百 ド ル
。
ーー こ の金 は
是非 とも自 分 のも のにする必要 があ った
野営 をす るん です かい?﹂
何 かご質 問 は?﹂
﹁お願 いします、 ミ スター ・フラナガ ン ド イ ツ ・ ー
チ ムの コー チ、 フオ ルク ナーが立 った。
﹂
﹁
前半 と後 半 の間 に休憩 はある のです か?﹂
﹁ええ 。 四時間 ん で、
の日 しを けるよう にし ています﹂
休
真
間
昼
射
避
﹁水 と食 べ物 の補給 はど うな っていま か?
す
﹂
﹁一区間 に十 ヵ所 の
補給 ポ イ ントを設 け てあります﹂
、
、
続 いて 半自 の頬髯 を はやした テキサ ス出身 の マ ッグ ローが立 ち 上 が った。﹁ま た今 夜 も
逢 かな るセ ン トラルパ ー ク 1 4 8
ミ ン ス キ ー ) の 踊 り子
149《
だ
、
わず か 二十 マイ ル走 るだ け で ベ セ ルにいる息子 の マイケ ルに半年 分 の金 を送 ってやれる の
。
、
。
。
ペ ンシルヴ ェニア州ベ セ ル 彼 の生きが いはそ こにある のだ った 今頃 マイケ ルはあ の
。
三千 マイ
ベ セ ルの 一九 二九年冬 はきび し い時節だ った。黒 い陰 気な製鋼所 が操業 を停 止し、唸 りを発
す る溶鉱炉 が鳴 りを ひそ め てからす でに三 ヵ月 た っていた。黒ず んだ大 きな町 は凍 て つく よう
、
な寒気 に包 まれ 黒 い雪 に覆 われ て、すす けた街路 はそ こに住む スト中 の鉄鋼労働者 に劣 らな
。
い陰気 さを漂 わ せ ていた
スト ライキ に異議 を唱 えた労働者 はいな か った。 モーガ ンがとう とう ストライキ の採決 に踏
、
み切 ったとき 冬空を突 き刺 し て林 のよう に腕 が上がり 、イタリ ア、 スコット ラ ンド 、ポ ー ラ
ンド 、 アイ ルラ ンド系 の労働者 も みな、 これ に加 わ った。彼 らは時 間給 に ついてわず か五 セ ン
トの賃 上げ を要求 しただ けだ ったが、経営者側 はそれを 一蹴 した。 モーガ ンの
交渉相 手 は恰幅
、
。
のいい 手 の柔 らか い男 たちだ った 生涯 に 一度 も、火を吹 く貪欲 な溶 鉱炉 に、 シャベ ルで汗
ま みれ にな って石炭 をく べたことなど な い連中 だ。
、
、
モーガ ンは疾病手当 保険 工場内 での負傷 、 こ の町 の、ぞ っとする ほど高 い幼児死 亡率 に
モーガ ンの根性
あば ら家 で楽 しそう にク ック ッと喉を鳴 らしながら遊び たわむれ て いる ことだろう
︱⋮。
ル彼方 の モ ハーヴ ェ砂漠 にいる父親 のことも忘 れ て
進かなるセントラルパー ク 150
ー ガ ンの根 性
151 モ
。
。
、
ついて繰 り返 し意 見を述 べたが 何 の役 にも立 たな か った 彼 ら には関 わり のな いことな のだ
、
こ の男 たち は話 に耳 を傾 けはしたが モーガ ンは自分 で喋 りながら早 く も無力感 を味 わ ってい
。
。
た も はや スト ライキ のほかに解決 の道 はな か った
。
、
モーガ ンは軍事作戦並 み の綿 密 な スト計画を立 てた まず 数 ヵ月前 に購 入し てあ った食糧
、
。
、
が ミ ツシ ョン ・ホー ルに備蓄 され た ま た 直 ち に スト基金 が設 けられ て 特別 に困窮 した家
、
。
、
庭 の需要 に応 じる態 勢 が整 った さら に 電話 と子供 たち のリ レー による連絡 シ ステ ムで 三
。
千軒 の家庭 は絶 えず接触 を保 てるよう にな った
し かし、彼 らも これ ほど の酷寒 に対 し ては備 えを固 めていな か った。そし て、経営陣 はそれ
。
、
、
を知 って いた のだ 一月 になると 病気 にかかる子供が増 え 二月 にはそ のうち の六名 が死 亡
。
し、 二月 には自分 の食事 をがま んし ていた母親 たち の一
泉えが目立ち始 めた
。
、
、
、
モーガ ンは男 たち の まず筋肉 が そ し て遂 には精神ま でが萎 え ていく のを見守 った 毎 日
、
、
彼 は鏡 を のぞ いて 幾年 にもわ たる重労働 で形づくられ た頑健 な肉体 が脂肪 ではなく そ の下
、
。
の回 い繊維 を消耗 し つつある のを確 かめたも のだ った 一
泉えた肉体 は自 らを食 い 最後 の蓄 え
。
、
。
に手 を伸ば し かけ て いた モーガ ンは自身 の決意 がぐ ら つく のを感 じた と にかく 五 セ ント
、
、
。
の賃 上げがなく ても 彼 らは生 き ていた よ い生活 ではな か った かもしれな いが これも ひと
。
つの人生 だ った
。
、
彼 の妻 の ルー スは妊娠 の初期 にあ ったが 夫 と共 に耐 え ていた こ の暗 い日 々は 二人 で過 し
。
た楽 し い時代 のど のときよりも彼 らを強 く結び つけた 経営者側 の スト破 り の 一団︱︱ ニ ュー
ヨー ク のイー スト ・サイド の スラ ム街 で掻き集 められた百人 のならず者︱︱ が ミ ッシ ョン ・ホ
ー ルに襲 いかか ったとき、 ルー スも の たち とそ こに た。
、
他 女
い
組合員 たち は凍 て ついた ご つ
ご つの泥道 に四列 に並 ん で身 がま え ていた。容 とピ ケ ライ ンの柵だ けが彼 ら の頼 りだ った。百
、
ヤード先 には スト破 り の男 たちが、彼 らを運 ん でき た何台 も のバ スの前 に陣取 っていた。 い
。
ず れも夜 警︼棒 を握 り しめ てだ
。
流 血 の闘 いはあ っけなく終 った 組合側 に対 する第 一波 の攻撃 では 二十名 のならず者 がピ ケ
ライ ンとバ スの間 に広 がる こち こち の地 面 に足を とられ て立往生 さ せられた。だが 、組合側 の
、
戦 列もくずれ 鉄鋼労働者 の多 くが意識不明 にな って転 がる か、固 い地 面 の上 で呻 き声 をもら
。
す光景 が残 った
、
モーガ ンは周囲 を見回し 血 にま みれた容 をな めた。道路 の先 のほう にならず者 の 一団 が再
、
び集 ま って 重 そうな木箱 三個を ト ラ ックから下 ろし て いる。最初 は中 に何 が入 っている のか
、
見 えな か ったが モーガ ンはみぞ おち のあ たりが引 き絞 られる のを覚 え た。どう やら鉄容 が唸
りを生 じ て飛び かう肉弾戦 にはなりそうもな か った。
アイ ルラ ンド系 の大男 キ ャメ ロンが赤発を 血 でまだら に染 め て、 モーガ ンの後 ろ にや ってき
。
、
た ﹁お い みご と にや つら の鼻 っ柱 をく じ いてや ったぜ上
、
言 い終 る か終 ら ぬうち に キ ャメ ロンは のけぞ って倒 れた。右肩 にライ フルの 一弾を食 ら っ
。
、
。
た のだ 女一
房たち は金 切り声 を上げ て 一
号主連中 に下 が ってくれと懇願 し た 百 ヤード先 では
ならず者 たちが 一列 に並 ん で膝を つき 、 三度 目 の斉射 を浴び せ始 めた。
蓬 かな るセ ン トラルバ ー ク 1 5 2
ー ガ ンの 根1生
153 モ
、
。
じた。
は のような
コー ト
相
手
の
で
な
狐
男
顔
小
高
の
に
身
を
価
毛
皮
包 ん で いた
﹁シャープ だ﹂と名乗 って、男 が手袋 を はめた を し出 した
手 差
ので モーガ ンはじ ぶし ぶそれを
。
握 った ﹁あんたが危 な い目 に遇 っていると ころを何度 か見た。あ のすば し こさ は天下 一品だ 。
あ んた の身 のこな しが気 に入 ったよ﹂
シャープ は モーガ ンに自分 の話が通 じ ていな い のを悟 った。﹁め んど う な話 は省 くが、現 な
まを稼 いでみたく はな いかね ?﹂
。
﹁何 を やらせるんだ ?﹂ モーガ ンが わしげ に
疑
訊 いた
﹁殴 り合 いさ︱︱ 何週間 か前 にあんたがピ ケ ライ ンで っ
や ていたような や つだ よ﹂
。
﹁話 し てくれ﹂と言 って、 モーガ ンは
上衣 のポ ケ ット に両手を突 っ込んだ 二人が鉄柵を離 れ
、
て歩 き出 すと 彼 ら の周 り に自 い息 が立ち昇 って、身 を切るよう に冷 た い、 ひ っそ りとした大
。
気 の中 に消 え てい った
﹁殴 り合 う のだ ﹂と小男 は説明 しながらタバ コを く え た。﹁
。
わ
素 手 の殴 り合 いだ 何 を し ても
、
いいが 足だ けは使 えな い﹂
。
モーガ ンはかぶりを振 った ﹁おれは人を傷 つける た め に闘 った こと は 一度 もな い。相 手 が
、
向 か ってくる から やむを得 ず手 を出 したま でだ﹂
﹁あ んた はそれ で何を手 に入れ た ?﹂と言 って、 シ ャープ タ コ
。
は バ に火 を つけ た ﹁
仲 間 たち
はど うだ ? あんた は違中 のため に闘 った。そ し て、今 、 や つら は仕事 に戻 った と いう のに、
自分 は寒空 の下 で震 え ている。あ んた はあれ で何 を得 たんだ い、組合 の幹部 さん ?﹂
楽 にな る 日が来 る に違 いな いわ﹂
。
、
っ
ト
今 や当然 モーガ ンに鉄鋼所 で の仕事 はな か った 毎 日彼 は上衣 のポ ケ ッ に両手を突 込
。
、
、
ん で 黒 い鉄柵 の前 に立 ち 毎 日負 い返 され た
、
、
それ から ある冬 の朝 鉄柵 の前 から立ち去 ろうとした モーガ ンは肩 に手 が置 かれた のを感
、
、
モーガ ンはど なり つけ て組合員 たちを引 き戻 し 敵 の弾幕 から避 難 させた押それ から 生 き
、
っ
残 った連中 と共 に負傷者 を引 きず って凍 り ついた地 面を横 切り こち ら に通 てくるならず者
。
たち の進路 から遠ざ けた
、
、
スト破 り の 一団が傍 らを通 って ミ ッシ ョン ・ホー ルにたどり つく と 鉄鋼 労働者 たち は泣 き
、
。
、
そ の涙 は彼 ら の歴 れ上が った 無精髭 の濃 い顔 に凍 り ついた ホー ルに火を かけ て 食糧 の残
。
、
りを焼 き払 う のはな らず者連中 にと って わず か数 分 の仕事 にすぎ な か った
。
。
スト ライキ は終 った のだ モーガ ンは敗北 の味 を噛 みしめた スト基金 の残 り はまもなく治
、
、
︱︱ 時間
療費 に化 け 二週間後 には職場 放棄 に終 止符 が打 たれ て 労働者 たち は仕事 L戻 った
。
給 は以前 よりも五 セ ント下 が っていた
、
、
経営者側 は強制手段 を持 っており たとえそ れがなくとも 常 に時機 を待 つだ け の余 裕があ
、
。
、
った。彼 ら にと って、時間 が意味 す るも のは金銭 の損失 であ って 困窮 ではな い 一方 鉄鋼
。
。
、
労働者 の場合 それ は飢 えと生 命 の損失を意味 した 何 も かもがむな しく終 った
﹁いいえ﹂と ルー スは反論 した。﹁決 し て無駄 にはな らな か ったわ。 あな たが殴 ら れ た とき で
、
。
。
も よ。闘 う たび にあなた は強 くな っていく のよ たとえ闘 いに負 け ても ね き っと い つかは
逢 かな るセ ン トラル バ ー ク 154
ー ガ ンの根性
155 モ
﹁
ー
し
し 。
く
も
ン
ガ
を
モ
に
た
て
先
れ
は
せ
ず
見
﹂
話
敵
意
促
﹁場 所 は マグ ラ スの倉 庫 だ 。 セー ラ ムにあ る 。試 合 は 一晩 三 回 、 双 方 に大 が け ら れ る 。
金 賭
で
、
。
あ ん た の腕 が よ けれ ば 州 の興 行 チ ェー ンを 回 る こと にな る 稼 ぎ は悪 く な いぜ ﹂
司ど のく ら いだ ?﹂
﹁負 け ても 十 ド ルだ 。勝 てば 百 ド ルにな る 。 ど っち にし ても胴 元 の出 す だ ﹂ シ ャープ は冷 た
金
。
い大 気 の中 に煙 を吐 き 出 し た
﹁だ けど 、ど う し て、 お れ にそ ん な こと が でき る な ん て思 った ん だ ?﹂ モーガ ンが い ぶ か しげ
。
に質 し た
﹁
ら さ ﹂ と言 って、 シ ャープ は モー ガ ンの腕 を ぐ いと 押 し た 。﹁あ ん た のパ ン
あ
か
た
を
た
ん
見
、
。
、
無 駄 が な か った い いか こ い つは ︽ゴ ー ルデ ン ・グ ローブ ︾ の試 合 じ ゃな
チは切 れ が よく
。
いん だ ﹂
﹁ま ず 、 ど う す れば い い ?﹂
﹁ ず ク ラ ンシー に会 う こと だ ﹂ と 小男 は言 った 。﹁ミリガ ンの店 に いる よ ﹂
ま
、
モー ガ ンは ミリガ ンの酒 類 密 売 店 はよ く知 って いた が ク ラ ンシー と は聞 いた こと のな い名
。
だ った
﹁そ のク ラ ンシー って︱ ︱ 何 を し て いる人 だ ?﹂
、
﹁ボ ク サ ー づ く りを や って いる ﹂ と シ ャープ は言 った 。﹁以 単
削は堅 気 で ニ ュー ョー ク の ステ
ィ ル マ ンに勤 め て いた 。 や つに気 に入 ら れ た ら 、 あ と は問 題 な い﹂
二人 は朝 も や の中 を ゆ っく り 歩 い て ミリガ ンの店 に向 か った
。
﹁お れ は鉄 鋼 所 の争 議 で こ の男 を 見 て いる シ ャー プ が に り し 、
﹂
前 乗 出 て 台 に両 手 を ついた
﹁こ の目 で見 てる んだ 、 ク ラ ンシー ﹂
央 ポ ケ ット に落 し た
、
、
彼 は モー ガ ンの両手 を自 分 の手 に包 み 込 ん で締 め つけ て から 裏 に返 し 今 度 は指 の関 節 を 、
ま る で上 等 な陶 器 で でも あ る か のよ う に 一ヵ所 ず つ丹 念 に調 べ た 。 モー ガ ンは関 節 の平 ら な 、
、
。
硬 い し っかり し た つく り の手 を し て いた
。
﹁握 って み ろ ﹂ と言 って、 ク ラ ン シー はち ら と モー ガ ン
の顔 を 見 上 げ た デ もい つでポ ー ラ ン
ド 野 郎 の顔 か何 か殴 った こと が あ る か い ?﹂
﹁な い﹂ モー ガ ンはそ っけ な く 言 った。
ク ラ ンシー は顔 を そ む け て、 キ ューを 手 にと った 。﹁突 き 出 た骨 は 一本 も な い︱ ︱ オ ー ケ ー
。
。
だ 殴 り合 い に はお あ つら え向 き の手 を し て いる だ けど 、度 胸 の ほう は あ る のかな ?﹂彼 は
ビ リ ヤ ー ド 台 の端 で前 かが み にな って、ブ リ ッジ を つく り 、静 か に キ ュー を引 い て、黒 玉 を 中
。
イ ー モ ン ・ク ラ ンシー は セブ ン ・ボ ー ルを 中 央 ポ ケ ット に落 し 込 む と 、 キ ューを 置 い て、 日
。
か ら タバ コを抜 き と った シ ャープ と同 じく 、短 身 の、 ず ん ぐ り し た男 だ が 、 ボ ク サ ー 風 の、
、
。
平 べ った い 肉 の厚 い鼻 を し て いる
﹁手 を 出 し てみな ﹂ と ク ラ ンシーが 言 った 。
蓬 かな るセ ン トラル パ ー ク 1 5 6
ー ガ ンの 根性
157 モ
、
。
ク ラ ンシー はキ ューを下 に置 いた。﹁
確 かそ ん な話 を し て いたな デ ンプ シーを もう 一人
。
。
見 つけ てき たともな おま えがおれ にし て欲 し いこと はわ か ってる テ ック ス ・リ ッカード に
。
、
、
電話をす る ことだろう ? よし 一ヵ月 山ご もりし てこの男 に つきあ ってやろう それ から
、
倉庫 で腕 だ めしをする オーケー ?﹂
、
シャープ は安堵 の吐息 をもらし ビ リヤード台 から離 れた暗 がり に突 っ立 っている モーガ ン
。
のほう を見 や った
﹁ うだ い?﹂ シャープ が訊 いた。﹁や ってみる か?﹂
ど
。
モーガ ンはに っこりし てうなず いた
﹁もう ひと つある﹂ ク ラ ンシーが 口を添 えた。﹁パ ンチ の切れ味 は いい のか い?﹂
﹁わ からん﹂ モーガ ンが答 えた。﹁ただ、打 たれた ことは 一度 もな い﹂
。
ク ラ ンシー は ニヤ ッとした。パフにわ かるさ﹂彼 は シャープ にう なず いてみせた P ﹂のあ い
、
、 ャー
シ
プが連 れ てき た男 な ん か 娘 っ子がボ ウイ ・ナイ フを振 り回 し てる って感 じだ った
モーガ ンはタ スカ ロー ラ山中 でク ラ ンシーと過 し たト レー ニング の 一ヵ月 ほど苦 し い日 々を
。
。
経験 し た ことがな か った 自分 が何 を しようと し て いる かを ルー スには伏 せ てお いた 彼 女 は
。
夫 が職探 し のため にやむを得 ずベ セ ルを離 れる のだ と信 じ ていた シャープ は彼 に二十ド ルを
、
。
前払 いし て ルー スに送 ってくれ た モーガ ンは家 を離 れた最初 のころ は無我夢中 で何 も感 じ
、
。
な か ったが まもなく ク ラ ンシー の猛訓練 に耐 える つらさ の中 で自分 の家 が恋 しくな った 毎
日彼 は白 い息 を はあ はあ吐 きなが ら山道を五 マイ ル走 らきれた。顔 の汗 は凍 り つき、髪 に水 の
、
膜 が できると いう のに 羊毛 を裏 張りした厚地 のトラ ック ・スー ツの中 で モーガ ンの体 はうだ
。
っ
た
て
い
﹁ここ で死 ぬ思 いを味 わ ってお かなき ゃ食 って いかれな いぜ﹂と ク ラ ンシーが ウ ィ スキー の
瓶
。
コルク栓 を歯 で抜 きながら言 った 一日 のト レー エング がすん で、 二人 はごうごう と燃 えさ か
る暖炉 の前 に坐り込ん でいた。﹁シャープ の目 に狂 いはな か った。 あ ん た は根性 があ るよ、 モ
ーガ ン。パ ンチが効く かどう かはもう じせゎ かるだ ろう﹂
よう やく 一ヵ月 のラ ンニ ングと猛訓練 が終 ると、 クラ ンシーは モーガ ンを付近 の農 家 へ連 れ
。
。
てい った パ7
度 は腕だ めしだ﹂そ れ以上 の説明 はな か った
、
。
二人 はぬかる みと雪 の道 を通 って 大きな木造 の納屋 ま で歩 いてい った 泥とおが層 のま じ
っ 。 クラ ンシーが茶色 い鞄 を あけ て、軽 い革 のボ
し
り った
が
あ
て
た
の
は
ふ
わ
ふ
わ
力
合
納
屋
床
弾
。
ク シ ング用 のグ ローブを モーガ ンに渡 した。デ ︺
れを つけろ 手 を傷 め てもば かば かし いから
ぜ﹂
、
、
。
モーガ ンの顎 が引 き締 ま った ク ラ ンシー は彼 の前 を通 って キ ューを壁 の棚 L戻し てから
。
、
振 り向 いて にこやかに手 を差 し出 した
、
、
そ の日 の内 に モーガ ンは新品 の服 を ひとそろ いと ト レー ニング ・ブ ー ツ 一足 ライト ・グ
、
レー の スウ ェット ・スー ツを買 ってもら った。
一週後 彼 はクラ ンシー と共 に旧式 の フォード
。
、
に乗 り込 ん で ハリ スバ ーグ北西 のタ スカ ロー ラ山中 にある丸木 小屋 に向 か った
だ
進 かな るセ ン トラルパ ー ク 158
ー ガ ンの根性
159 モ
な﹂
、
。
。
モーガ ンはパ ツド入り の ぴ っちりしたグ ローブ に手 をす べり 込 ま せ た 妙 な感 触 だ った
ク ラ ンシーがグ ローブ の紐 を引 っぱ って、き つく締 め つけ た。﹁ど う だ い、手 ご たえ は ?﹂ モ
ーガ ンの返事 は納屋 の外 から聞 えたブ レーキ の軋 み音 に掻 き消 された。
﹁フオガ ー テ ィだろう﹂と言 っただ けで、ク ラ ンシー はくわし い説 明を せず 、な おもグ ローブ
。
の紐 を締 め続 けた
。
厚 いウー ルのタート ルネ ックを着 込んだ男 が納屋 に入 ってきた 一
肩にボ ク シ ング用グ ローブ
。
。
を かけ て いる それ はク ラ ンシーが モーガ ンに渡 したグ ローブ に似 て いた 男 は モーガ ンより
も年 長 で、 三十代 の半ば くら いだ った。背丈 は同 じだが、一
肩と胸 の分 厚 い筋肉 は モーガ ンを上
。
回 って いる
﹁ ん た の相手 だよ﹂と ク ラ ンシーが言 った。﹁チ ャ ック ・フォガ ー テ ィだ ﹂
あ
。
フォガ ー テ ィの平 べ った い顔 が ほころんだ
﹁おれ のた め にもう 一人 、引 っぱ ってき た のか い、 クラ ンシー ?﹂と彼 は軽 口を叩 き、 かが み
、
。
込ん で無造 作 にグ ローブを はめると 手を伸ば し て モーガ ンの手 を握 った ﹁よく来 てく れ た
、
。
、
な ﹂そう言 いながら フォガー テ ィは モーガ ンの右手を軽く つかんだ と同時 に 左 のグ ロー
、
。
ブが長 い弧 を描 いて モーガ ンの右顔面を強打 した
、
、
。
モーガ ンは床 に転 がり 裂 けた唇 をす ぼめ て 鮮 血ま じり の唾を吐 いた ま る で煉 瓦 で殴 ら
。
れたような 心地 だ った
、
モーガ ンはク ラ ンシーを見上げ コー チが こち ら に熱 い眼差 しを注 いで いる のに気 づ いた。
、
。
頭 が ふら つき 日の中 に火薬 のような苦 みが広 が った
こ のあ と の 半い、日 のまわる ような ひとときを 、 モーガ ンは闘 争 本 能 だ け で持 ち こた え た。
、
、
最初彼 は四 つん這 いにな って あ えぎながら 貴 重な何 秒 かを こ っそり稼 いで、頭 が は っきり
。
。
す る のを待 った や っと闘 える態 勢 が できた 頭 を左右 に振 りなが ら、 モーガ ンは立ち上 が っ
。
。
た フオガ ー テ ィが体を引 いて いる のに気づ いた 自信 た っぶり に最後 の 一撃 を見舞 おう とし
。
。
て いる のだ まさ にそ の通 りだ った フオガ ー テ ィは にや にやしなが ら後 ろ に下がり、両 のグ
ローブ を互 いに近寄 せた。防御 の姿勢を ややくず し て、相手が次 の 一打 を無造作 に繰 り出 そう
ィ
とす る構 え にな った のを 、 モーガ ンは見 てと った。
、
モーガ ンが左 で軽 く フ ェイ ントを かけると フォガ ーテ ィは右 でそれを払 い、獲物 に詰 め寄
った。が 、そ の利那 、今度 は モーガ ンの右 が鞭 のよう に 一閃 し、 フオガ ー テ イの鼻 っ柱 に叩 き
。
、
、
込ま れた メリ ッ と かす かな打 撲音 がし て フオガ ー テ イの鼻 から鮮 血が ほとば しる。彼 は
、
。
、
呻 きなが ら前 のめり に倒 れ 床 のおが層 に顎 を めり 込ま せた そ れ から 片膝 を立 ててゆ っく
り起 き上が ったが、ま た、ど さ っとくず おれた。闘 いは終 った のだ 。 ク ラ ンシーは十ド ル紙幣
、
、
を
れた ストリー ト ・フアイター
日のほう に向 か った。
一
枚
の
に
げ
て
倒
横
投
入
﹁ご くろうさ ん、大将 ﹂と ク ラ ンシーが言 った。﹁ ご ろな
手
相手 が見 つか ったら連絡 し てやる
よ﹂彼 は厚手 のセー ターを モーガ ンの肩 にかけ、鼻 と 口を タオ ルで拭 ってや った。 二人 は雪 と
。
、
ぬかる み の中を歩 いて車 に引 き返 した フオード に乗 り 込む と ク ラ ンシー はギ アを 入 れ て、
進かなるセン トラルパー ク 160
ー ガ ンの根性
161 モ
。
ベ セ ルに一
戻る日が や ってき た いよ いよ初 め て
。
。
凍 り ついた平 らな路面 の前方 を見 つめた ﹁シャープ があんたは腕 のある男 だ って話 し て いた
。
、
、
だ けど あ んたが本当 にも のになる かどう かは 打 たれたとき にど う出 る かで決ま るんだ い
つも フォガ ー テ ィを使 う のはそ のためさ﹂
。
。﹁
た いて い の場合 は これ で見当 が つく 十 人 のう
彼 はギ アを ト ップ に入れ てから横 を見 た
、
。
、
。
ち九人 は殴 られると引 き返 し て いく てめえ の血を見 て 度胆を抜 かれるんだ な そ こで と
。
、
。
ても こんなも のには つきあ えな い って思 ってしまう ってわ けだ お っと 誤解 しな いでく れ
。
、
だ から って や つらが臆病 ってことじ ゃな い 鉄鋼所 と か鉱 山 の下 で 一日十 二時間働 いている
。
。
。
、
連中 に臆病者 はいな いよ ただ 連中 はボ クサーじ ゃな い それだ け のことさ あ んたはボ ク
、
。
、
。
サーな んだ どう し てわ かる か って? 第 一に あんた は倒 れ ても起 き上 が った 第 二に 闘
、
。
。
、
志 があ った 第 二に 作戦 を考 えた そし て第 四に 相手を倒すだ け のパ ンチを持 っていた﹂
。
、
ク ラ ンシー は ハンド ルから右手 を放 し て モーガ ンの一
肩に回 し た ﹁まず 口 のけがを治 そう
。
、
。
や モーガ ン 今 から 二週 間 でな 次 の関門 はセー ラ ム倉庫だ ﹂
。
、
二人 は最後 の 一週間 を山中 の小屋 で過 し モーガ ンの唇 の傷 が癒 える のを待 った こ のとき
。
、
、
にな ってや っと ク ラ ンシーは打ち とけ て 街頭 ポ ク シ ング の真髄 を語 り始 めた 彼 の話 はチ
ェスの実戦 における駒 の動 かし方 を思わ せ、そ の後 モーガ ンがボ ク シ ング の世界 で生 き残 って
。
ー
いく のに大 いに役立 った 懸賞 ボ ク シ ング の ルー ルは十 八世紀 にイギ リ スのジ ャ ック ・ブ ロ
ト ンが初 め て編 み出 したも のだが、 クラ ンシー はそ の頃 から伝 わるボ ク シ ング の実戦 的知識 を
。
、
。
いろ いろ授 け てくれ た モーガ ンは彼 の助言を 一語 もらさず吸収 し 記憶 に刻 み込んだ 人里
、
ク レアト ンのセー ラ ム倉庫 は長年使 われ て いな か った。 ここにしま い込 ん であ った果物 を釘
、
にし て いた鼠 でさえ とう の音 に退散 し て他 の釘場 に移 っていた。周 囲を見 回して、 モーガ ン
。
、
は身 震 いし た 倉庫 の内部 はだだ っぴ ろく ひ っそりとし て凍 り つくよう に寒 い。暗 がり の中
で コンク リー ト の床 の真中 だ けが こう こうと照 らされ、男 たちが方陣 を つく って密集 し ている。
、
彼 らが大声 で何 か言 い合 うと 吐 く息 が煙 のよう に頭 上 によど んだ 。
、
モーガ ンの向 か い側 の コー ナー では 半裸 の男 が彼 に背を向 け、両脇 のセ コンド の一
肩に手 を
。
かけ て いた モーガ ンの初 の対戦相 手だ。男 は黒 いウー ルのト レー エング ・タイ ツの上 に黒 の
。
パ ンツを は いて いる 男 が こち ら に振 り向 いた ので、 モーガ ンはそ の顔 を見 た。 フオガ ー テ イ
、
、
に似 た 平 べ った い 不敵 な面がまえをし ている。 モーガ ンは内 心、喜 んだ 。 この男 な ら思 い
。
、
切り叩き のめし ても かまうま い 男 の白 い 筋 肉質 の体 から立ち昇 る湯気 が 、倉庫 のじ っとり
した、冷 た い空気 の中 に吸 い込ま れ てい った。男 はまる で闘 いのため に刃物 を研 ぐような調 子
、
で前 の容 を こすり合 わ せ それ から向 き直 って スツー ルに腰をおろし た。 セ ヨンド たちがそ の
、
、
首 と胸 を叩 いたり も んだりしながら 声を ひそ め て助言を与 え ていた。
、
白 い毛皮帽 に手袋 厚 い格 子縞 の上衣 と いう いでたち のリ ング マ スターが大声 で 一同 に静粛
、
を求 め そ の声 が鋼材 の梁 を渡 し た天丼 に餅 した。ざ わめきが消 え、期待 のこも った静寂 がと
離 れ た小屋 で の 一週間 は矢 のよう に過 ぎ去 り
。
の試合 に臨 む のだ
迄 かな るセ ン トラル パ ー ク 162
ー ガ ンの根性
163 モ
た
らぐるぐる回 った。息 づ か いの音 だ けが静寂 を破 った。
。
、
勝負 は 一発 でけりが ついた フオガー テ ィのときと同 じく モーガ ンは左 で打 つと見 せ かけ
、
。
て 相 手 の鼻 の横 に右 のパ ンチを叩き込んだ マ ッグ イ ンはど さ っと倒 れ、 コンクリー ト の床
、
。
に鼻 血を流 しながら しば し転 が っていた フォガ ー テ ィのよう に両手を ついてどう にか起 き
、
。
。
上が ったも のの マ ッグ イ ンはま た倉庫 の冷 た い床 に沈 み込んだ モーガ ンの初対戦 は終 った
。
。
観衆 はしんと鳴 りを ひそ め ている モーガ ンはク ラ ンシー に近寄 ってガ ウ ンを受 け取 った
﹁ここを出 よう﹂と彼 は震 えな がら言 った。
、
、
ポ ケ ットに百ド ルを収 め 車 で家 に送 られる道中 モーガ ンは胸 のむ か つきを味 わ って いた。
、
自分 の家 に帰 り着 くと 彼 は ルー スの前 で稼 いだ金 を テーブ ルの上 に広 げ た。﹁ほら、持 って
き ぞ、 ハニー﹂
た
。
モーガ ンは妻 のび っくり した顔 を見 た
﹁ど チ や って稼 いだ か知 り た いか?﹂彼 は右 の容を上げ て唾を吐 き かけ、それを テーブ ルに叩
。
き
け
た
つ
﹁人を殴 ったんだ﹂と彼 は言 った。涙が頬を伝 い落 ち た。﹁
ど こ か のくだ らな い野 郎 を殴 り 倒
した。そ れ で稼 いだ金 だ。 おれ はこれ から、おまえ とベビ ーを こう や って食 わせ ていく つもり
だ﹂
、
、
モーガ ンがそ の晩 の出来事 と それま でのいきさ つを語 り終 えると ルー スは両手 で彼 の顔
、
を起 し て 目を のぞ き 込んだ 。﹁モーグ 、あな た ほど 勇 気 のあ る人 を 知 ら な いわ。 スト リー
一礼 し て前 に出 た
、
。
、
ゴ ング の代 り に ニ ュー ト ラ ル ・コー ナー で誰 か が 笛 を 吹 い た モー ガ ンは立 ち 上 が る と
、
。
。 ッ
マ グ イ ンも 同 じ よ う に し た た っぷり 一分 問 ほど 二人 は相 手 を 見 な が
って代 った 。
。
、
、
リ ング マ スタ ー は モー ガ ンの相 手 に顔 を 向 け ﹁マ ッグ イ ン シカゴ 出 身 対 す る は ⋮ ⋮ ﹂
、
。
、
と告 げ て から 反対 側 に顔 を 回 し た ﹁チ ャ ック ・ペ ト ラ ック ブ ロ ンク ス出 身 ﹂ モー ガ シは
。
自 分 の リ ング ネ ー ムを 人 前 で聞 く のは初 め てだ った 自 分 が今 から し よ う と し て ぃる こと を突
。
、
き放 し て考 え る のに リ ング ネ ー ムは役 立 った
。
、
モー ガ ンは 一度 周 囲 に並 ん で成 行 き を見 守 る男 たち の緊 張 し た顔 を な が め回 し た 人 々の
。
こん な表 情 を彼 は これ ま で日 にし た こと が な か った 彼 ら が賭 事 のた め に こ こ に集 ま って いる
、
、
、
、
、
こと はま ち が いな いが 本 当 の願 いは 強 い男 が殴 ら れ 叩 き のめ さ れ ま た 自 分 た ち よ り
。
も恵 ま れ た連 中 が失 意 と屈 辱 を こう な る場 面 を 見 る こと にあ った のだ
、
モー ガ ンは今 や オ リ ンピ ック と は気 の遠 く な る ほど の隔 り が あ る暗 黒 スポ ー ツの世 界 に深
、
く踏 み 込 ん で いた。後 ろ暗 いけ れど 合 法 的 な プ ロ ・ボ ク シ ング の世 界 でさ え 法 律 的 に は これ
。
より も は る か にま しだ った
。
、
モー ガ ンが ス ツー ルに坐 る と ク ラ ンシー が首 の筋 肉 に マ ッサ ー ジ を施 し た
﹁気 楽 に やれ 。気 楽 にな ﹂ と ク ラ ンシーが言 った 。
、
、
モーガ ンは向 こう側 の相 手 を にら み つけ て 突 然 背 筋 に冷 た いも のが 這 い のぼる のを 覚 え
。
逢 かな るセ ン トラルパ ー ク 1働
ー ガ ンの根 性
165 モ
卜 ・フ ァイテ ィ ングがあな た のやる べき ことなら、おやりなさ い。そ の代 り、ち ゃんとやり通
す のよ﹂
、
。
ブ ロンク スの爆撃機 ︾ ペ ト ラ ック の リ ング ネ ー ムで 彼 は
モーガ ンはそ の通 り にや った ︽
。
、
。
さら に六試合を こなした いずれも セー ラ ム倉庫 でだ それ から 二 ヵ月後 モーガ ンは いよ い
、
よ 東 海岸 の工業諸都市 に根 を張 る ストリー ト ・ファイテ ィ ング興行 の大手 チ ェー ンに進出 す
。
る こと にな った
、
、
、
スト リー ト ・ファイテ ィ ング の興行 は完全 にもぐり で 空倉庫 造 兵願 の跡 深夜 の駅構内
。
。
など を使 ってひそ かに行 なわれ て いた 血 の匂 いと暗 がりが つきも のの世界だ った
。
、
、
時 々 試合 は長びく こともあ ったが モーガ ンは 一度 も負 けた ことがな か った ク ラ ンシー
。
、
、
は彼 に試合運び の駆引 きを身 に つけさ せ ボデ ィー の打 ち方 を教 え た ﹁い いか ボ デ ィーを
、
。
、
叩く んだ そうすり ゃ 相手 は頭 が ふら ついてくる﹂ モーガ ンがそ の忠告通 り に勝 つと 札び
。
らが リ ング サイド から次 々に投げ 込まれた
。
、
、
次 の年 になると モーガ ンとク ラ ンシー のきずな は い っそう強 さを増 した ただ それが外
。
の世界 では 一瞬 たりとも続 かな いも のである ことは 二人 とも心得 て いた こ のきずな は相 手 の
。
腕 と知識 に対す るそれぞれ の敬意 から生 じたも のだ った ク ラ ンシー の目 は殴り合 いの行 なわ
、
、
れるち っぽけな リ ングを タバ コの煙越 し にす かし て見 て 勝敗 の分 かれ日となる かもしれな
。
い相 手 のわず かな欠点を つかみとる ことが でき た モーガ ンの役 目 は こう した直観 と洞察 を爆
、
、
発的 な行動 に変 える こと すなわち クラ ンシー の目を通 して自分 の腕 力を生 かす こと にあ っ
、
、
けれど も モーガ ンと組 ん で興行的 には成功 した半面 クラ ンシー は彼 が ストリー ト ・フア
イテ ィ ングを実際 は少 しも好 き にな っていな いこと に気づ いた。
﹁そり ゃ、 こ い つは マジ ソ ン ・スクウ ェア ・ガ ーデ ンのゲー ムと は うさ﹂と ク ラ ンシー は日
違
。
、
、
癖 のよう に言 った ﹁だ けど こ っち はばあさん連中 に悲鳴を上げさ せ て いるわ けじ ゃな いし
。
中途 半 端 な勝負 でお茶 を濁す こともな い そ れ で誰 が損をする ? 時 には鼻 っ柱︱ ︱ あば らさ
、
えもだ︱︱ を へし折 られる や つも いるが 他 でも っと ひど い目 に遭 った かもしれな いんだ 。工
。
、
場 の事 故 と か炭鉱 の落盤 と かな い った い 誰 が損 をす るんだ い?﹂
。
モーガ ンはあえ て答 えな か った 自分 のし ている ことを決 し て好 き にはなれな か ったが、頭
の中 には ルー スの言葉 が い つも餅 し ていた︱︱ 好 い加減 にやるより は、ち ゃんと やり通 した ほ
うが いい。 ク ラ ンシー はよく、 こんな ことを言 って いた。﹁誰 だ って勝 ち た い。あ る いはそ れ
。
、
を 日に出 し て言 う だ けど そ の本 心 は負 けたくな い ってことな んだ ﹂
、
、
そ し て ある晩 相手 の男 が倒 れ てぐ ったり となり、 リ ング サイド から運び去 られる羽目 に
。
、
な った そ の場 から遠ざ けられた モーガ ンが右 の 届越 し に 倒 れ たボ クサーを見 ていると、 ク
、
ラ ンシーが急 き立 てて彼 を倉庫 から連 れ出 し、 フオード に押 し込んだ 。
一週間後 モーガ ンは
。
、
対戦相 手 の死を知 った 胸 のうず きを覚 えながら 彼 はむ っつりし て東海岸 のあち こちをうろ
、
、
。
つき回り 時 々 ルー スと息子 に会 うためにこ っそリベ セ ル ヘ帰 った 出来 る仕事 は手当 り次
。
。
。
第 にや ってみた 彼 にはわ か って いた スト リー ト ・ファイターとし て の生命 は終 った のだ
。
た
竜 か な る セ ン トラル パ ー ク 1 6 6
1 6 7 モ ー ガ ンの 根 性
。
、
ー
ニ ュー ョー ク の造船所 で働 いているとき モーガ ンは ル スの訃 報 を受 けと った 彼女 は 一
。 ー
、
週間前 に死 ん でいた のだが 手紙 が彼 の許 に届 くま でに六日も かか っていた モ ガ ンは 一度
、
、
も本気 で死 を考 えた こと はな か ったが い つも心 の底 には 自分 と ルー スは手を取 り合 って死
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の世界 に赴 くと いう 漠然 とした子供 っぽい考 えが根 を おろし て いた
、
っ 。
彼 は ニ ュー ョークから汽車 で四時間 かかるベ セ ルに戻 っても 一日し か滞在 しな か た そ
、
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れ以上 の長居 は危険 を招 く恐 れがあ ったからだ モーガ ンが墓前 に立 っていると 一日 の労働
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の終 りを告 げ る鉄鋼所 の警笛 が鳴 り響 いた こ の町が この鉄鋼所 が ル スを殺 した のだ あ
。
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る意味 では 頑 とし て闘 い続 けた モーガ ンも共犯者 だ った けれど も彼 にはわ か っていた ル
ー スが生 き て いれば 、再び彼 や、他 のす べて の数者 と同 じ道を歩 む ことだ ろう。 モーガ ンはこ
、
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ー ー
れま で い っさ いのも のを自 ら の肉 体 で獲ち取 ってき た ニ ュ ョ クを離 れる前 に 彼 は西部
。
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のど こか で アメリカ横断 の フット ・レー スが催 されると いう暉 を聞 いた 悲嘆 の中 でそ のと
。
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き は考 え ても みな か ったが 今 ルー スの言葉 が脳裡 に甦 った ︱︱ ﹁あなたく ら い勇気 のあ
、
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る人 は いな いわ やる べきだ と思 うな ら お やりなさ い そ の代 り ち ゃんとやり通 す のよ﹂
、
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こ の レー スに参加す る ことが モーガ ンの新 たな課題 とな った た やす いこと ではな いが 一
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年 の準備期 間 があ った
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まず モーガ ンは 一歳 の息 子 マイケ ルを エルミラに住む母親 のと ころ に連 れ てい った 未亡
。 ー
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人 の母 は愛 と庇護 の対象 となる べき もう 一人 の マイクを得 て喜 んだ モ ガ ンは彼 女 に自分
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の腹 づ もりを話 し 一週 間後 に西部 へ旅立 った
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一九 三 一年 二月 二十 四日午前 八時半 千 六百十名 のラ ンナーーー 男 子千五百 七十名 と女子 四
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十名︱︱ はバー ストウ に向 かう本街道 の入 口のすぐ近 く に 一団 と な って集 ま って いた ︽フラ
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ナガ ンヴ ィル︾ の取り壊 し はす でに終 っている ロスア ンジ ェル スでの緊 張 はす っかり解 け て
。
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いた 前 日 の第 二区間 では百名 以上が ふる い落 され 早 くも ラ ンナーたち の間 で優劣 の差 が明
ら かにな り始 め ていた。まだ本 当 の レー スと は いえな いも のの、先頭集団 のペ ー スは速 く、 マ
。
、
イ ル十分 を 切 っていた だが 今 は 二十 マイ ル区間 二 つのそれぞれ に総額 千ド ル以上 の賞金 が
。ト
ラン ス ・アメリカに勝 てる見 込 みは皆無 でも、もち ろん、 これら の賞金
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彼 が ロスア ンジ ェル スにたど り つくま で には時間 が かかり カ ンザ スでは資 金 稼 ぎ のブ ー
、
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ス ・フアイテ ィング ︵
小屋掛試合 ︶ で二 三 ヵ月 も道草 を食 った だが モーガ ンはそ の間 も
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毎 日最低 十 マイ ルのラ ンエングを欠 かさず ト ラ ンス ・アメリカ ・レー スの開催を 一ヵ月後 に
、
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控 えた 一九 二 一年 二月 には 三十 マイ ルを休 みなし に三時間ち ょ っと で走 る ことが でき た こ
。
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の頃 の彼 は ラ ンニング が好 き にな っていた 殴 り合 いと違 って ラ ンニング は誰も傷 つける こ
とがな いからだ 。ぶ っ倒 れ て、地 面 に長 々と伸び る こと はあ っても、誰 ひとり傷 つく者 は いな
。
いのだ
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モーガ ンは最後 の 一ド ルま で絞 りとろう と いう覚悟 でトラ ンス ・アメリカ に臨 み 早 いうち
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に金額 の大 き い区間賞金 のいく つかをさら ってしま おう と決 めた 好順位 で ニ ュー ヨー ク入り
し て、巨額 の賞金を手 に入れる自信 はま ったくな か った からだ 。
逢 かな るセ ン トラルパ ー ク 168
積 ま れ て いる のだ
ー ガ ンの根性
169 モ
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