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看護師職場の協力行動一日本と中国の調査から

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看護師職場の協力行動一日本と中国の調査から
大阪市 立大学看護学雑誌
【
研究報告】
第 8 巻 (2012.3)
看護師職場の協力行動 一日本 と中国の調査か ら
C ooperative actions in nurse w orkplaces:A s a result of the research in Japan and C hina
智慧1)
郭
C hie K aku
作 田 裕美2 )
佐藤
H irom iSakuda
美幸 3)
M iyukiSato
要
坂口 桃子4)
M om oko Sakaguchi
旨
本研究の 目的は、 看護師の職場の組織心理学的特徴 を理解す る一助 として 「職場 の協 力行動」 を取 り上げ、 さらに
看護職能固有の特 質 を探求す るために、 政治 ・ 経済 ・ 文化的 に背景が異 なる 日本 と中国の 2 国間の看護師職場の協力
行動の特徴 について比較 を試み ることである。 日本の 5 施設 180名、 中国の 8 施設257名 の看護師を対象 に自記式質問
紙調査 を行い合計368名の有効データを得た。 分析の結果、 看護師の協力行動 として、 「責任 ・誠実行動」 「組織支援行動」
「対人的援助行動」 の 3 因子が抽 出され、 職場の協力行動尺度得点お よび下位次元得点のすべてにおいて中国看護師の
方が有意に高かった。
キーワー ド : 看護師、 協力行動、 日中比較
Ⅰ. はじめに
S.等 によ り理論 的発展 を遂 げて きた (斉藤、 2005)。 目
標管理は、 日本医療機能評価機構 による病院機能評価の
近年、 高齢化 に伴 う医療経済の逼迫 に伴い、 医療か ら
中にも入 ってお り、 高品質の医療サー ビスを提供す る病
福祉へ、 施設か ら在宅への流れ を受け、 コス トパ フォー
院の指標 に もなっている。 看護界で も目標管理に関す る
マ ンスの良いコ ・ メデ ィカルや看護師への役割期待が高
実践報告は2000年頃か ら増加 している。 (川添 、2002)、 (平
まっている。 看護界では、 役割拡大 に備 えるべ く、 看護
井、 2005) (吉永他、 2006)、 (高橋他、 2010)0
基礎教育の高等教育化や専門分化が推進 されている。 こ
しか し、 目標管理 と成果主義 による効率性 の追求が、
の医療費抑制政策 は、 病院に効率性 と質の向上 を同時に
看護師の職場 の人材マネジメ ン トとして適切か どうかの
求めてお り、 病院は漫然 とした経営では成 り立たず、 人
議論が、 導入前か ら欠落 していた感が否めない。 病院看
事評価制度の見直 しや 目標管理の導入が一般化 した。 昨
護の仕事の成果 は、 患者の健康の維持 ・ 回復、 あるいは
今では、 目標達成度を昇給やボーナス査定に反映 させ る
安寧 な死の看取 りである とす るな らば、 患者がその成果
病院が増 えている。
を得 るに関与 した要因は、 患者の個人特性 ・ 治療効果 ・
現
目標管理 とは、 経営哲学者D rucker,P.F .が、 著書 『
サポー トの有無等 々、 変数 は多数あ り、 この中か ら厳密
代の経営J の中で 「 目標 と自己管理 によるマネジメン ト」
に看護師 (しか も看護師個 々人) の働 きの成果 を抽出す
(M anagem ent by O bjectives and Self -control) を提示
ることが可能であろ うか。
したことに始 まり、 Schleh,E .C ., M cG regor.D .,odiorne,G .
一方で、 近年 になって医療や介護の場 に働 くケアの担
2011年10 月17 日受付 2012年 1 月10 日受理
1) 上海市浦東新区浦南病院
2)
京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻
3)
宇部 フロンティア大学
4)
大阪市立大学大学院看護学研究科
* 連絡先 : 坂 口桃子
〒545-0051 大阪市阿倍野区旭町 1 丁 目 5 -17 大阪市立大学大学院看護学研究科
ー2 5
-
い手による痛 ましい患者虐待事件の報道が散見 されるよ
うになった。 リアリテ ィシ ョックによる新卒者の早期離
揚子江デルタ地域 の三級 甲等病院 を選定 した。
3) 対象者
職や中堅のバ ー ンアウ トも職場 の課題 であ り続 けてい
先行研究 よ り、 働 く人々の組織 コミッ トメ ン トは組
る。 ワークライフバ ランスの概念の浸透 によって、結婚 ・
織参入後 5 - 6 年 日まで低下 し、 その後上昇す るJ 字
育児 ・ 介護等 による女性 の労働市場か らの一次撤退 を防
型の カー ブを措 くこと (若林 ,
止する施策 も進め られ、 看護師が継続 して働 くことが よ
のキャリア発達の視点か ら、 キャリア初期か ら中期 に
り可能 な方向で職場環境が整備 されつつあるが抜本的な
注 目す る必要性があると考 え、 組織 コミッ トメン トと
解決に至 らず、 わが国の女性の就労パ ター ンは先進諸国
職務満足 が下降す る時期 を避 け、 経験年数 5 年以上 の
で唯一M 字型 カーブを特徴 としている。
看護師を対象者 とした。
我 々は、 こうした現象の背景 に組織のマネジメ ン ト手
1987)、 また、 看護 師
4) リクルー トの方法
法が関与 しているのではないだろうか と考えた。 行 き過
日本首都 圏におけるすべ ての特定機能病院23施設の
ぎた目標管理 ・成果主義 は、 組織 の公共性 の軽視 を生み、
看護部長宛 に研究の協力依頼 を出 し、 5 施設 よ り了承
結果 として組織全体 としてのパ フォーマ ンスを低下 に導
を得 られた。 これ ら研究同意 を得 られた 5 施設 に勤務
く可能性 があ る と考 え られ る。 個 の ワー クモテ ィベ ー
す る看護 師180名 を対象 とした。 中国側で は、 筆頭研
ションの向上 を目指す 目標管理 ・ 成果主義の対極 に位置
究者のパ ーソナルネッ トワークを利用 し、 揚子江デル
する、 職場 における公共性 はいかにマネジメン トされる
タ地域 における三級 甲等病院の研究協力者 に協力依頼
べ きか とい う観点か ら、 職場の協力行動 に着 目した。
を出 し、 8 施設 よ り了承 を得 られ、 8 施設 に勤務す る
近年、 組織心理学、 経営学の分野で離職防止や業績の
看護師257名 を対象 とした。
向上 にかかわる重要 な概念 として組織市民行動が注 目さ
れて きている。 組織市民行動 とは、 任意の行動であ り公
2 . データ収集方法
式の報酬 システムによって直接 もしくは明確 に承認 され
日本では、 看護部長宛 に書面 を もって調査協力依頼
ているものではな く、 集合的に組織の効率 を促進するも
を行い、 同意が得 られた施設の看護部長に調査対象者
(O rgan, 1988, 1995)。 本稿 で は、 組 織市民
の選出を依頼 した。 回収 は調査対象者各 自で研究者宛
行動の類似概念 として職場の協力行動 をとらえ、 看護師
てに郵送 して もらい、 留 め起 き期 間を 1 カ月 とした。
のであ る
職場の協力行動の特徴 を把握す ることを目的 とす る。
中国では、 病院に勤めている協力者 に書面 をもって調
査協力依頼 を行 い、 協力者が調査対象者 を選 出 した。
Ⅱ. 用語の定義
回収 は研究者が出向 き一括 回収 を した。
本研 究では看護師職場 の協力行動 を、 「病 院に勤務す
る看護 師の任 意 の行動 であ り、 公式の報酬 シス テムに
3 . 測定用具の概要
1 ) デモグラフィックデー タ
よって直接 もしくは明確 に承認 されて いる もので はな
対象者の年齢、 性別、 取得免許、 最終専 門学歴、 勤務
く、 組織構成 メ ンバーである看護師個 々人が 自ら進んで
経験年数、 転職回数、 就業形態、 職位、 配属部署である。
積極的に協力行動 をとることによって結果 として組織の
追加項 目として、離職意思の有無 を確認する項 目を加 え、
効率 を促進す る もの」 と定義 した。
「離職意思 な し」 「離職意思有 (看護職へ )」 「離職意思有
(ほかの仕事へ転職)」 の 3 つの選択肢か ら 1 つ を選択す
Ⅲ. 研究方法
るように した。
2 ) 職場の協力行動調査票
1 . 調査対象
看護師が組織の内外で 自分の持 ち場以外の仕事 を自発
的に行 う行動 に焦点 を当て、Sm ith, O rgan
1) 対象国
看護師職場の協力行動の普遍性 と個別性 を考察する
お よび田中
& N ear(1983)
(2004) が先行研究で使用 している組織市民
ために、 政治 ・ 経済 ・ 文化背景の異 なる 日本 と中国の
行動尺度 を一部援用 し、 看護師の職場 ・ 職務 内容 に合致
看護師を対象 とした。
す るように改変 し、 さらに 「仕事で間違いに気づいた ら
2) 対象施設
す ぐそれを正す」、 「制服や聴診器等支給 された物の手入
対等性 を担保す る 目的で対象施設は 2 国間で似通っ
れ をする」 を加 え16項 目か らなる質問紙 を作成 した。 尺
た条件の病院 とし、 日本首都 圏の特定機能病院 と中国
度は 5 段階の リッカー トスケールとし、 1 は 「 まった く
- 26 -
大阪市立大学看護学雑誌
第 8 巻 (2012 .3)
表 1 . 日中看護師の属性比較
あては まらない」、 3 は 「 どち らともいえない」、 5 は 「非
常 にあて は まる」 として、 点数が高 くなるほ どそれぞれ
日本 (n= 123)
次元 の度合 いが高 くなる ように得点化 した。
n (% )
116 (94.3%
5 ( 4.1%
2 ( 1.6%
1 ( 0.8%
40 (32.5%
33 (26.8%
18 (14.6%
8 ( 6.5%
14 (ll.4 %
5 ( 4.1%
4 ( 3.3%
53 (43.1%
37 (30.1%
ll ( 8.9%
20 (16.3%
2 ( 1.6%
88 (7 1.5%
9 ( 7.3%
22 (17.9%
2 ( 1.6%
2 ( 1.6%
75 (61.0 %
24 (19.5%
8 ( 6.5%
6 ( 4.9%
6 ( 4.9%
2 ( 1.6%
84 (68.3%
37 (30.0%
2 ( 1.6%
22 (17.9%
33 (26.8%
0 ( 0%
13 (10.6%
5 ( 4.1%
1 ( 0.8%
9 ( 7.3%
8 ( 6.5%
0 ( 0%
2 ( 1.6%
0 ( 0%
3 ( 2.4%
0 ( 0%
2 ( 1.6%
0 ( 0%
4 ( 3.3%
19 (15.4%
性別
女性
男性
4 . 測定用具の信 頼性
無 回答
本調査 の前 に、 日本で は病 院 に勤務す る看 護 師 ・ 大学
院修士課程 の学生計 11名 を、 中国で は病 院 に勤務す る看
年齢
20 -24歳
25-29歳
30-34歳
35-39歳
40-44歳
45-49歳
50-54歳
経験年数
5-9年
10-15*
16-19年
20年以上
最終専門学歴
専 門学校
護 師 11名 を対 象 にプ レテス トを実 施 し、 C ronbach の α
係数 を求め0.85 を得 た。 なお、 中国版 質問紙 につ いて は、
研 究代 表者が 日本語か ら中国語 に翻訳 した もの を上海外
国語大学 日本語学科呉雲珠准教授 の校 閲 を通 して使用 し
た。
無 回答
5 . デー タ分析方法
デ ー タ分析 に は統 計解 析 パ ッケ ー ジ ソ フ トSPSS for
w indow s17 を用 い、 有 意水 準 を 5 % と した。 因子 分析
無 回答
には主 因子法、 プロマ ックス回転 を行 い、 平均 の差 には
t 検定 を行 った。
短大
大学
6 . 倫理的配慮
大学 院
対象者 には、 研 究 の趣 旨 ・ 協 力へ の 自由意 思 の尊重 ・
無 回答
プ ライバ シーの保護等 につ いて文書 で事前 に説 明 し、 質
転職 回数
なし
1回
2回
3回
3 回以上
問紙 の 回収 を もって研 究- の 同意 が 得 られ た と判 断 し
た。 また、 本研 究 は滋賀 医科大学倫 理委員会 の審査 を受
け承認 を得 た上で実施 した。
無 回答
Ⅳ. 結果
役職
非管理者
主任+ 師長
日本 側 対 象 は5施 設 180名、 回収 数 は123名 (回収 率
無 回答
68 % ) で、すべ て有効 回答 (有効 回答率 100% ) であ った。
所属
成 人内科
成 人外科
中 国側 対 象 は 8 施 設257名、 回収 数 は257名 (回収 率
高齢者
100% ) で、有効 回答 は245名 (有効 回答率95.3% ) であった。
小児
婦 人産科
1 . 対象者 の基本属性
精神
救急.Ⅰ
CU.CCU
OP 茎
両 国対象者 の属性 を表 1 に示 した。
日本 に勤務す る 日本人看護 師 (以後 日本看護 師 とす る)
で は、 離 職 意 思 の あ る看 護 師 が59 名 (48.8 % )、 離 職 意
中央材料
思 の ない看護 師が62名 (50.4 % ) で あ った。 中国で働 く
透析 室
訪 問看護
中国人看護 師 (以後 中国看護 師 とす る) で は、 離職意思
外来
のあ る看護 師が 119名 (48.6 % )、 離 職意思 の ない看 護 師
診療 連携
が 118名 (48.2% ) であった。
看護管理室
なお、 表 1 の結 果か ら、 女性 看護 師の割合 が圧倒 的 に
伝染
大多数 を占める (中国側が10
0 % 、 日本側が% % )。 性別役
ⅤⅠ
P
割分業の意識が変化 しつつあるとはいえ、 日本男性 の場合、
その他
ライフス タイルや職業意識等が女性 とは異 なる点、 お よび
-
2
7
-
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
中国(n=245)
n (% )
245 (100% )
0 ( 0% )
0
0% )
9 ( 3.7% )
82 (33.5% )
77 (31.4 % )
50 (20.4 % )
12 ( 4.9% )
ll ( 4.5% )
4 ( 1.6% )
0 ( 0% )
84 (34.3% )
79 (32.2% )
45 (18.4% )
35 (14.3% )
2 ( 0.8% )
27 (ll.0% )
142 (58.0% )
75 (30.6% )
0 ( 0% )
1 ( 0.4 % )
213 (86.9% )
24 ( 9.8% )
5 ( 2.0 % )
1 ( 0.4% )
2 ( 0.8% )
0 ( 0% )
218 (89.0% )
26 (10.6% )
1 ( 0.4% )
48 (19.6 % )
106 (43.3% )
19 ( 7.8% )
3 ( 1.2% )
1 ( 0.4% )
0
0% )
34 (13.9% )
23 ( 9.4% )
1 ( 0.4 % )
0 ( 0% )
0 ( 0% )
1 ( 0.4% )
0 ( 0% )
1 ( 0.4% )
0 ( 0% )
2 ( 0.8% )
5 ( 2.0% )
(
(
中国のデータと比較検討するため、 以下の検証では男性看
因子 は、 トラブルを抱 える人 を助けるや同僚の手助 けを
護師のデータを除外 し女性看護師のみを対象 とした。
す る等 の項 目で因子負荷量 が高 く、 「対人的援助行動」
に関する因子 とした。 また、 因子 ごとに α係数 を算出 し
2 . 職場の協力行動調査票尺度の検討
た。 その結果、第 1 因子「責任 ・誠実行動」の α係数は0.90 、
職場の協力行動に関す る16項 目.について主因子法によ
第 2 因子 「組織支援行動」 の α係数 は0.77 、第 3 因子 「対
る因子分析 を行 ったところ 4 因子が抽出された。 次に因
人援助行動」 の α係数は0.75 であることか ら、 高い信頼
子負荷 が.45 に満 たなか った 3 項 目を削除 し、 再 び主因
性が確認 された。
子法で因子分析 を行 った。 固有値 1.0 の基準 を設 け、 さ
3 . 職場の協力行動 に関する日中看護師の比較
らに因子の解釈の可能性 を考慮 し 3 因子 とした。 因子数
は、スクリープロッ トにより判断 し 3 因子 とし、プロマ ッ
日中看護師の職場の協力行動 を比較するために、 それ
クス回転 を行った。 その因子パ ター ンを表 2 に表す。
ぞれの職場 の協力行動の平均値お よび標準 偏差 を算 出
第 1 因子は、 整理整頓や使用物品を大切 に扱 う、 間違
し、 対応のない t 検定を行 った。 その結果、 表 3 に示す
いに気づけばす ぐに正すなど職務 ・ 職場 における責任感
ように、 組織市民行動の全体お よび下位次元 3 因子 とも
や誠実 さの項 目で負荷量が高 く、 「責任 ・ 誠実行動」 に
に中国看護師の方が有意に高かった。
関する因子 とした。 第 2 因子は、 職場の宣伝 をす るや優
また、 職場の協力行動の下位次元 3 因子の平均値の高
秀な人材 を職場 に招 く等の組織愛護 と支援の項 目で負荷
さは、 日中看護師 ともに 「責任 ・ 誠実行動」、 「対人的援
量が高 く、 「組織支援行動」 に関す る因子 とした。 第 3
助行動」、 「組織支援行動」 の順であった。
表 2 . 看護師職場の協力行動尺度の因子分析結果
項 目番号
Ju 5 1
Ju 4 9
q. 5 0
d 52
d 44
d 43
d 45
JU 4 7
d 48
d 46
d 39
uJ 3 7
d 38
項 目内容
貴覧 #
実
組警義援
0 .00 6
0 .12 5
0 .157
0 .138
-0 .133
-0 .18 7
-0 .12 2
0 .8 82
0 .8 0 1
0 .7 7 1
0 .7 37
0 .7 16
0 .6 6 8
0 .6 5 6
0 .0 0 7
-0 .1 13
0 .08 5
0 .12 9
0 .0 6 1
-0 .1 13
物品 を整理整頓する
物品 を大事にする
使 う範囲 をきれいに掃除する
物品の手いれをする
責任 をもって最後 まで行 う
間違いに気づいた らす ぐ正す
注意 を行 き届 く
職場以外でも職場 を宣伝 する
優秀な人材 を自分の組織 に招 く
職場のイベン トを外部 に紹介 する
トラブル を抱 える人 を助 ける
同僚の手助 けをする
同僚の代 わりに手伝 う
固有値
累積寄与率
全体の o 係数
0 .0 9 7
0 .0 5 1
0 .04 7
1.7 0 9
5 5 .9 2 4
5 .5 6 1
4
2 .7 7 7
品 温
o
-0 .0 9 6
-0 .14 1
・0 .12 3
-0 .02 6
0 .139
0 .17 9
0 .146
0 .0 18
0 .0 9 0
0 .0 5 7
0 .7 10
0 .6 7 3
0 .6 15
M ean ±SD
対人的援助行動
組織支援行動
' : p < .05 , '' : p < .0 1,
日本 (n - 118)
3.7 ±.43
中国 (n- 245)
4.0 士.55
4.0 ±.55
3.8 士.63
2.7 ±.79
4.5 士.59
4.0 士.81
3.4 士.86
''' : p < .001
- 28 -
0 .7 7
0 .7 5
0 .8 6
表 3 . 職場の協力行動/ 日中看護師の比較
責任 ・ 誠実行動
0 .9 0
1.3 3 5
6 6 .1 9 6
n - 363
協力行動
係数
7.03…
7.96…
2.20●
5.63
…
大阪市立大学看護学雑誌
V . 考察
第 8 巻 (2012 .3)
本研 究 で看護 師職場 の協 力行動 として、 「責任 ・ 誠
実行 動 」、 「組 織 支援 行 動 」、 「対 人 的援 助 行 動 」 の 3
1.
つ の下位 次元 を見 出 したが、 組 織 市 民 行動研 究 の現
対象の属性
男性看護師の割合 について、 日本 は4.1% であったが,
況 で は、 下位 次元 は研 究者 に よって まち まちであ る。
中国は 0 であった。 近年になって中国で も男性看護師の
Podsakof et al. (2000) は、 組 織市民行 動研 究 の包括
養成が増 えてはいるが、 本研究の対象者 には経験年数に
的な レビュー を行 い、 組織市民行動 を以下の 7 つ に分
制限を加 えたために新 しい情勢の変化が未だ反映 されて
けてい る。 ① 仲 間 を助 け るな どの援助 行動 (H elping
いないもの と考えられた。 また、 中国看護師の専門学歴
behavior) ② 不平 を言 わず に仕事 を行 うスポー ツマ ン
について、 大専 (短期大学に相当する) 及び大学卒が約
シップ (Sportsm anship) ③組織 に対す る善意の行動 な
90 % を占めているが、 専門学校卒の看護師が病院で仕事
どの組織忠誠 (O rganizational loyalty) ④組織のルール
をしなが ら、 継続教育を通 して学位 を取得 した者が多数
や規則 を守 る組織 的服従 (O rganizational com pliance)
を占めると考 えられる。
⑤建設的な提案 な どを行 う個人的な自発性 (Ⅰ
ndividual
転職回数については、 日本看護師が中国看護師 より圧
initiative) (む責任 を積極的に引 き受けようとする市民的
倒的に高かった。 中国女性の場合 は、 結婚育児等 による
道徳心 (C ivic virtue) (丑自発 的 に自己研 鍵 を行 う自己
退職が少ない上、 看護師免許更新制度を実施 している中
開発 (Self-developm ent) である。
今 回抽 出 した 3 つの下位 次元 をPodsakoffらの分類 に
国では退職すると免許更新制度上、 不利 になることも理
由 として考 えられる。
照 らす と 「責任 ・ 誠実行動」 は、 組織的服従、 市民道徳
離職意思の有無 については、 日中両国看護師 ともに約
心 を包含 し、「組織支援行動」 は、組織忠誠、 自発性 を、「対
半数の者が、 今の職場 を変わ りたい と考えていることに
人的援助行動」は援助行動 に対応するもの と考 えられる。
な り、 看護師の離職願望に関す るか ぎり国家の政治 ・ 経
我 々の尺度には、 スポーツマ ンシップ、 自己開発 に対応
済的、 文化的背景 に関係な く、 ある種普遍的な看護師の
する次元 を備 えてお らず、 看護師の職務 ・ 職場の特徴 を
働 き方観 に何 らかの要 因が求め られることが示唆 され
鑑みれば検討すべ き次元であると考 えられた。
た。
2 ) 看護師職場の協力行動の 日中比較
日中両国看護師の平均値 の間には有意 な差が確認 さ
2 . 看護師の職場の協力行動
れ、 日本看護師 より中国看護師の方が職場の協力行動 を
1 ) 職場における協力行動
より高 く行 っていることが明 らかになった。 本研究では
組織の業績に直接結びつ く中核的な職務 を円滑 に遂行
看護師の職場の協力行動の生起 メカニズムを検証 してい
す るために取 る従業員の 自発 的な支援活動 の職場 の機
ないので不明ではあるが、 同 じアジア文化圏に属 してい
能促進 に及 ぼす効果 は、 30年以上 も前 にK atz & K ahn
て もそれぞれの国の固有の歴史が育てた文化風土が異な
(1966) によって論 じられた。 彼 らは、 職場の中には職
ること、 国家体制 とそれに付随 した個人の労働観お よび
務記述書に明記 されているわけで もな く、 誰の役割で も
看護師の働 き方が両国間では異なること等が影響 してい
ないが誰かがや らなければ職場の機能が遅滞する仕事が
るもの と推察で きる。
多 く存在 し、 誰かが 自発的にこのような仕事 を担 うこと
日本の病 院看護提供 システムは、 G H Q 主導 による戦
で職場の業務 は円滑 に進んでい くとし、 これを役割外行
後の看護改革 をスター トとして、 時代時代の医療の動向
動 (extra-role behavior) と呼んだ。 田中に よれば、 組
や看護師の需給バ ラ ンス と同調 して様 々に変遷 して き
織市民行動の萌芽概念 は、 Sm ith , O rgan,& N ear (1983)
た。 ことに看護方式は、 機能別看護か らチームナ- シン
が とらえた 「協力、 有用性、 示唆、 善意の姿勢、 愛他主
グ、 固定チームナ- シング、 プライマ リーナ- シングへ
義による無数の行動」 に認め られる。 その後、 O rgan に
と、 看護 とは何か、 看護であるもの とそ うでない ものを
よっては じめて概念定義 され、 組織 における行動の内、
識別 した上で、 一人ひとりの患者 を入院か ら退院まで一
(∋従業員が行動 を示 したことに対 してはっきりと報酬 さ
貫 して責任 を持 って看護す る体制へ と変化 して きた。 そ
れるわけではな く、 示 さなかったことに対 して罰せ られ
して、 より看護師個人の 自立 と自律 を重視する方式に舵
ることもない もの、 ②従業員の職務記述書 に含 まれない
を切 って きた。 かつては勤務 シフ トごとに申し送 りがあ
もの、 ③従業員が彼 らの職務の 1 つ として行 うよう訓練
り、 そこで詳細 に引 き継 ぎがなされた。 この場 は、 新人
されていない もの、 という 3 つの条件 を満たす もの と定
看護師に気づ さを与 える教育の場 として、 期せず して副
義付けられる (田中、 2001)0
次的効果 も生んでいた。 現在では、 患者のケアに必要な
ー29 -
情報の収集は、 受け持 ち看護師の責務 となっている。 新
て、 役割過負担 は従業員の対人的援助 に負 に関係 してい
人 も中堅 もエキスパー トも、横のつなが りが希薄な 「個」
る こ とを明 らか に した。 Jex & T hom asの理論 は、 常態
で働 く姿が通常 となった。 自分 に割 り振 られた今 日の職
的に人員不足状態 にある中国看護師にあては まるのでは
務だけが責務 とな り、 職場内協力 を生み出 しがたい状況
ないか と考 え られた。 現在の ところ、 中国看護師は保身
を作 り出 している。
的に職場内協力行動 を行 うが、 役割過負担 に より 「対人
一方、 中国看護師の場合 は、 転職のチ ャンスが多 くな
く、 定年 まで働 くことが一般的であることか ら、 職場の
的援助」 お よび 「対組織的援助」 をおろそか に して しま
う事態 も危倶 される。
ためになることを意図 した行動 を取 ることは、 労働者の
保身的な行動 ともいえる。 中国では、 中華人民共和国建
Ⅵ. 結論
国 5 年 目に当たる1954年 に 「男女平等原則」 が憲法に書
き込 まれ、 国家の基本政策 として施行 されることになっ
看護師職場の協力行動の特徴 を把握す ることを目的に
た。 さらに1992年 に 「中華人民共和 国女性権利保障法」
日本 と中国の看護師368名 を対象 に調査 を行 い、 以下 の
が策定 され、女性の権利 に関する法整備が進んだ。 現在、
結論 を得た。
都市部の女性 は男性 と同様の社会参加形態 をとるように
1 . 着講師の協力行動 として、 「責任 ・ 誠実行動 」 「組織
な り、 定職についている女性 は定年退職 まで働 くことが
支援行動」 「村人的援助行動」 の 3 因子 を抽出 した。
通常の形である。 日本女性 のように、 結婚 ・ 出産 ・ 育児
2 . 協力行動の全体お よび下位次元 3 因子 ともに中国看
で一次的に職場 を撤退す ることは極めて まれである。 労
護師の方が有意 に高かった。
働基準法 に よって90 日間の出産休 暇 は規定 されている
3 . 協力行動の下位次元 3 因子の平均値の高 さは、 日中
が、 育児休暇制度はない。 それで も中国女性 は離職を選
看護 師 ともに 「責任 ・ 誠実行動 」、 「対 人 的援 助行
択 しない。 継続 した職歴 を積み上げることのメ リッ トを
動」、 「組織支援行動」 の順であった。
理解 しているか らである。 組織 に居続 けることのメリッ
4 . 看護師の協力行動の生起 メカニズムに及 ぼす要 因 と
トのために職場 内協力行動 をとることは極めて合理的な
して、 国家体制 ・ 歴史文化的背景、 看護方式、 看護
選択であるといえる。
師不足 が関与 していることが考察 された。
この ような背景の中 にあって も、 看 護 師の離職率 は
増加傾 向にある。 2007年、 中国衛生部 に よる696施設の
謝辞
3級総合病院を対象 に した調査 に よる と、 看護師総数の
30.2% を占める契約型看護師 (非正規雇用) の平均離職
本研究 を行 うにあた り, 質問紙調査 にご協力 くだ さい
率 は5.7 % であ った。 調査対象施設の看 護師人数対病床
ました対象施設の看護管理者の方々お よびご回答いただ
数比 は0.38 : 1 であった。 これは 日本の実質配置 13対 1 、
きました皆様 に深 く感謝 申 し上げます。
看護比率2.6対 1 に相 当す る。 2005年 に衛生部が制定 し
なお、 本研究 は、 滋賀医科大学大学院医学系研究科修
た 「病 院管理評価指針」 では、 看護師配置基準 は、 一般
士課程看護学専攻 に提 出 した修士論文の一部 に加筆修正
病棟 の看護 師人数大病床 数比 は0.40 : 1 (日本の実質配
を加 えた ものである。
置13対 1 、 看護比率2.6対 1 に相 当) が規定 されているに
もかかわらず、 その規定に達 している病 院は稀少である
文献
(中華折理学会、 2008)。 したが って、 1 人の看護師に大
中年折理学会 (2008) : 制定折士条例的背景w w w .cnabx.
量の仕事が課せ られていることは明 らかである。
職場内協力行動 に影響する要因の 1 つ に役割過負担が
ある。 Jex & T hom as (2003) は、 「 自分が厳 しい仕事 を
org.cn/A rticle_Show .asp?A rticleID - 904 , 2008年11月
20 日検索. (中国語)
要求 されている と従業員が感 じる場合 に最 も予想 される
平井 さよこ (2005) : 看護 における 目標管理導入 の現状
反応 は、 その大 きな仕事量 をこなすために一生懸命 に働
一看護界 における 目標管理導入の傾向 と課題、 看護、
くとい うことである。 その結果、 従業員 は自由裁量的な
57 (7)、 16-19
時間をあまり持てな くなるであろう。 したがって、 他の
Jex ,S .M .,& T h om asJ ,L . (2003) : relation s betw een
従業員 に対する利他主義的行動 に従事す る機会 はより少
stressors and group perceptions:M ain and m ediating
な くなる。 さらに、 この要因を経験す る従業員が、 自分
eff ects.W ork and Stress,17,158-169.
の組織 に対 して幅広い関心 を持 たな くな りやすい」 とし
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