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台湾の特許制度を 理解しよう!

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台湾の特許制度を 理解しよう!
第 12 回
台湾の特許制度を
理解しよう!
大嶋洋一
台湾は,現在では半導体分野での活躍が目覚ましく,日
り,電子機器や半導体分野などに人材と資本を集中した結
本の電機・半導体メーカとのビジネスも盛んになってき
果,国際的な競争力を高めてきました.そして今日も,世
た.そのような中,今年(2002 年)1 月に台湾が世界貿易
界各地から高度な技術と豊富な資金を誘致するために,国
機構(WTO)への加盟を果たした.今回は,台湾が WTO
を挙げて知的財産権制度の体制の確立と実効化のために尽
へ加盟する前と後で,特許に関する法整備にどのような変
力しています.このような活動は,「知的財産権制度の整
化があったか,また現在の台湾の特許関連法の特徴につい
備が必須」という認識の下に行われています.
て解説する.
(編集部)
かつては模倣品製造においてトップだった台湾ですが,
最近では政府レベルでの徹底した知的財産権制度の指導の
パソコン,半導体といった電子機器について,
「世界の
成果もあって,着実に模倣品の製造・販売が減少する傾向
工場」として近年目覚ましい発展を遂げてきた地域の一つ
にあります.そして,諸外国からは2002 年のWTO 加盟を
が台湾です.そして,地理的な条件から日本企業も電子機
契機に,先進国レベルの知的財産権制度の運用水準を達成
器分野において台湾とのビジネス交流が活発です.また,
してほしいという期待が高まっています 注 1 .
2002 年 1 月に台湾が世界貿易機構(WTO)へ加盟したこと
により,今後,よりいっそう台湾とのビジネス機会が増加
することが予想されます.
しかし,その一方で,台湾での模倣品製造,販売といっ
た問題が指摘されています.技術流出を食い止め,適正な
技術移転を行うためには,技術者のみなさんが基本的な台
湾の知的財産権制度を理解することがたいせつです.
● 2 国間のみの協定から世界との協定へ
では,台湾の知的財産権制度は歴史的にどのように発展
し,WTO 加盟の前後でどのような変化があったのでしょ
うか.
台湾は,複雑な国際環境に置かれているため,国際連合
をはじめとする国際組織に加盟することが困難でした.そ
そこで今回は,台湾の知的財産権制度の概要を説明する
のため,表 1 に示すような知的財産権の保護に関する各種
とともに,台湾の特許情報の入手方法を紹介していきます.
条約に加盟することができず,その結果,世界の知的財産
なお,本稿の内容は筆者の個人的な見解として発表するも
権制度の保護に関する枠組みから孤立した状況に置かれて
のであり,公的な見解ではありません.
いました.一方で,工業化を推し進めた結果,諸外国との
貿易は盛んになり,対貿易相手国から知的財産権保護に対
1
台湾の知的財産権制度の歴史
する強い要求が出てきました.
こうした状況の中で,台湾は外国人に対する知的財産権
台湾は,1980 年代中ごろから積極的な工業化政策を採
の保護について,まず 2 国間の相互承認制度に委ねる手段
を採用しました.日本とも 1996 年 2 月 1 日から特許と実用
注 1 :WTO 加盟国には,
「貿易に関する知的財産権協定(TRIPS)
」を遵守
することが義務づけられている.
156 Design Wave Magazine 2002 November
新案の出願における優先権(右掲のコラム「優先権」を参照)
の相互承認を認める協約が成立しています.しかし,2 国
〔表1〕
知的財産権に関する諸条約
台湾が国際的なビジネスに参加するためには,
ここに挙げた各種条約に加盟することが必須で
あった.台湾と中国の「二つの中国」の問題か
ら,各条約への加盟がままならず,知的財産権
に関しては孤立状態であった.しかし,台湾政
府は WTO 加盟に向けて尽力してきた.
条約名
成立年
パリ条約
1883
ベルヌ条約
国際特許条約
(Patent Cooperation Treaty:PCT)
マドリッド・プロトコル
(マドプロ)
知的所有権の貿易面に関する協定
(Agreement on Trade-Related
Aspects of Intellectual Property
Rights:TRIPS 協定)
1886
対象となる知財
特許・実用新案,
意匠,商標
著作権
1978
特許
1989
商標
1995
知的財産権全般
内 容
内国民待遇,優先権,各国特
許独立の原則を定めた条約
著作権保護に関する取り決め
特許に関する国際出願の取り
決め
商標に関する国際出願の取り
決め
WTO 加盟国間において知的
財産権について最恵国待遇を
原則とする取り決め
間の協定だけでは外国人に対する知的財産権の保護は十分
などを法制化するなどして,着実に WTO 加盟のための準
ではありません.
備を進めてきたのです.
例えば,日本との優先権の相互条約が認められていると
いう協定では,あくまでも基礎となる出願は国内出願に限
2
似て非なる台湾と日本の知的財産権制度
られていました.つまり,日本の出願人が国際特許条約ル
ートの出願を基礎にしようとしても,それは認められませ
まず,台湾の知的財産権制度で特筆すべき点は,著作権,
んでした(PCT,p.158 のコラム「国際特許条約(PCT)」を
特許権,実用新案権,意匠権,集積回路保護権などの知的
参照).これは台湾が PCT に加盟していないため,台湾の
財産権を経済部知的財産局(以下,「知的財産局」とする)が
出願人は PCT 出願に基づく優先権を主張できないためで
包括的に掌握している点です.
す.台湾政府の立場としては日本出願人のみに優遇措置を
認めることは公平性の観点から許容できないのです.
●包括的権限を有する台湾の経済部知的財産局
こうした問題を解決するためには,どうしても WTO に
1998 年10 月15 日,台湾の立法院会議で経済部知的財産権
加盟することで国際貿易の正式な仲間入りを果たすことが
組織条例が可決しました.これにより,それまで中央標準局
必要になります.そして,台湾政府は知的財産権制度の国
の管轄だった特許権や商標権などを知的財産局の管轄に変更
内法を「貿易に関する知的財産権協定(TRIPS)」基準に合
しました.そして,著作権などを含めた知的財産権に関する
致するように改正しました.例えば,集積回路配置保護法
いっさいの権限を,新設の知的財産局に集約したのです.
column
優先権 ∼特許 Q&A コーナー∼
Q「. 優先権」ってどんな権利ですか?
A「. 優先権」とは,2 ヵ所で出願する場合,一定の条件を満足すれ
る期間は,特許,実用新案では最初の出願日から 12 ヵ月,意匠,
商標では 6 ヵ月です(図 A)
.
ば,後に出願したものも最初に出願した日に出願したものとみなす
権利を言います.この優先権には,
1)パリ条約による優先権
2)国内優先権
日本への最初の出願
2002年10月1日
12ヵ月
米国への出願
2003年10月1日
の 2 種類があります.パリ条約による優先権はパリ条約に加盟した
国に出願する場合に,国内優先権は国内出願どうしの場合に利用し
ます.優先権を主張することで,外国へ出願する場合には外国語の
この期間に出願する
場合には,優先権を
主張できる
12ヵ月を過ぎた
場合は,優先権
を主張できない
翻訳文を提出するまでの時間が稼げます.国内出願の場合には後か
ら思いついた発明もいっしょに盛り込めるので,より完成度の高い
特許を出願することができます.この優先権を主張することのでき
〔図 A〕最初に日本に特許を出願し,その後パリ条約による優先
権を主張して,米国に特許出願する場合
Design Wave Magazine 2002 November 157
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