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「ロングテール」現象による地方物産振興の条件

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「ロングテール」現象による地方物産振興の条件
05-01015
「ロングテール」現象による地方物産振興の条件
北 島 啓 嗣
福井県立大学経済学部講師
1. はじめに
本研究の問題意識の出発点は、地方の活性化にある。地方には、地元資本をベースとする中小企業が特定
地域に集積しつつ産地を形成する「地場産業」が存在する。しかし、地場産業も近年、国内市場の飽和化、
中国、韓国、東南アジア諸国の追上げ、後継者難、全国的なブランドとの競合など厳しい環境変化に直面し、
概して苦しい状況におかれているといえるだろう。
地域の産業のうち、地域外からの需要を対象として生産活動を営むものは地域の持続的成長を可能に地域
の盛衰を左右する。日本の場合、1950 年代後半期以降、鉄道網の発展、高速道路の整備により、空間統合
(spatial integration)が行われている。この結果、地域内のみの市場を対象とする地場産業は、国外を含
む他地域との厳しい競合にさらされている。地方の都市化も進んでおり、外食産業や大規模小売業が地方で
もあたりまえに見られる。これらの企業は、 大規模な都市での成功を背景に、地方においても市場を席巻し
ている。都市部は、重要な資源へのアクセスの面で比較優位性を持つ。さらに都市部には、集積の利益を持
つ。これらの要素を背景に、大量に生産された製品を、安いコストで消費者に提供する外食産業や大規模小
売業が発展した。これらは、規模の経済その他の経済効率を持たない地場産業に打撃を与えた。そして、店
舗を使用した販売では、販売数量が過少である商品は、利益を上げにくく切り捨てられる。少量生産の地方
ブランドを作る地場産業は、この切り捨ての対象になりやすい。
一方、インターネット上における販売(以下eコマースと略す)においてはその効率性から、全国区のブ
ランドイメージを確立出来ない過少な販売数量の商品においても利益を計上できる、という議論がある。従
って、販売から相当時間を経過した商品やニッチ商品でも生き残ることができる。この現象を称して「ロン
グテール(Long Tail:長い尾)」現象という。近年、ロングテール現象に対し、注目が集まっている(Chris
Anderson,2006)。これにより、相対的に知名度の少ないブランドにおいてもeコマースの世界では効率よく販売
が可能になる。同様に、または印刷、電波媒体等のメディアを利用した既存の通信販売においても限定的な
がらこの現象は生じているだろう。
知名度の少ない地方かつ中小企業のもつ商品およびそのブランドに、このロングテール現象がチャンスを
提供する可能性がある。
そのための条件は何か。それを考察するのが本研究の目的である。
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2. ロングテール現象とは何か
ロングテール(Long Tail)とは、ある商品群のある一定期間における売上を商品単位で集計し、縦軸に売
上を取り、横軸に商品名を並べるABC分析を行ったときに、グラフ上に現れる特徴に由来している。流通
企業の取り扱う商品は、基本的に多数であり、それを様々に組み合わせて提案する(図1)。ABC 分析(ABC
analysis)は、多品種を扱う企業において、主として売上高を基準として分析し、多数の商品に対しどのよ
うに経営資源を配分するかの意志決定を行う手法である。対象となる商品を A、B、C のグループに分け、重
要度に応じて売場スペースを与える。稀少資源たる売り場スペースを効率的に利用するために、売上につな
がらず、過剰な在庫となる C ランク商品=「死に筋」商品の発生を防止する。そのために「死に筋」商品を
把握し、製品の頻繁な入れ替えを迅速に行う。売上高の低い商品は、店頭の面積当たりの効率を引き下げる。
また、それに関わる人当生産性を下げる。また倉庫をふさぎ、在高を圧迫する。相対的に知名度が少なく、
生産量も少ない地方発ブランドは、この死に筋に位置する可能性が高い。これは、製品を製造するものにと
っても大きな問題である。ある品目の販売数量の多寡は利益に直結する。それは、単に売上が増大するとい
うことにとどまらない。ブランドは知られていない場合、不利になる。よく知られていない、ということは
販路が確保できないということに直結する。地方発ブランドが製品はたとえ品質が良くても、苦戦を強いら
れる原因はそこにある。
これらは、店舗の特性上、交通の便が良く、消費者に近い、稀少資源たる立地、すなわち地価の高い立地
を有効に利用するために必要な方策である。既存の経営においては、ある程度以上売れる商品を峻別し、取
り扱う。このグラフの左側の商品群で収益の大半を稼ぐ。それ以外の商品は、商品のバリエーションを見せ
るために取り扱うが、損失をもたらす存在である。従って、グラフの左側の「ロングテール」部分は、利益
を志向するならば極力絞り込むべき存在である。しかし、eコマースにおいては、この構造が変化している
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といわれる。米国のアマゾン・コム、あるいは、アップルの「iチューンズ・ミュージックストア(iTM
S)」での音楽ダウンロードが事例として知られている。
日本においても、アズワン株式会社の事例がある。同社は、研究用機器機材、医療用機器、半導体機器お
よび産業用の先端技術備品の開発と販売を行っている企業である。企業あるいは病院、研究機関、大学への
通販という独自の販売形態である。インターネットによるオンライン受注と高効率の物流ノウハウをもって、
リードタイムを短く配送できる体制を整えている。主要な商品は、研究・実験用の機材である。単価が10
円程度の試験管等の小物から、100万円程度の高額品である計測機器といった製品まで取り扱う。その品
目は、約 40,000 アイテムにも及ぶ。インターネットだけではなく、顧客に約10種類の印刷カタログを年間
約50万部発行している。インターネット上では、「アズワンサイバーカタログ」というサイトを開設してい
る。アズワンの年間売上は405億円。利益率も高い(営業利益率も 11.8%)
。約 40,000 アイテムにも及ぶ
商品を取り扱っているが、年間 1000 万円を超える売上を持つ、いわばABC分析でいうAランク商品は百数
十点程度であり、売れ筋の商品でも年間500から1000個程度しか売れない。すなわち、この効率の悪
いとされるCランクの、「ロングテール」で売上を稼いでいるビジネスモデルである。これだけの商品点数を
持ちながら受注の9割は受注の翌日に出荷出来ている、とされる(日経情報ストラテジー 2006/8 号および
同社HP)
では、これらは大手の企業であるが、さらに、ニッチ商品を取り扱いながら全国を商圏としている企業の
事例を挙げる。
三和メッキ工業はメッキ加工、金属の表面処理加工の製造加工業である。福井県に立地し、資本金が1,
000万円、従業員32名の企業である。硬質クロム、硬質アルマイト、無電解ニッケルなどの各種メッキ
を行っているが、最近はユニークなサービスを試みて注目されている。メッキにおける、少量生産、短納期、
特殊素材への表面処理、製品開発などの「ニッチ」なメッキの分野を開拓し、自動車・バイク・自転車・イ
ンテリアなど個人用メッキの分野を開拓した。ホームページ上に、
「必殺!めっき職人」
というサイトを開設、
全国からこの特殊な需要を集めている。自動車・バイク・自転車・ホビー・インテリア・宝飾のパーツをメッキや
塗装によって、加工する。例えば、古いパター(ゴルフ用品)の再生、思い出のあるボール等のメッキ加工
などの需要は全国に存在すると思われるが、これまでは効率の面から顧みられることのなかったロングテー
ル・サービスが、ホームページの利用によって、地方都市において生まれている。
3. 立地の問題
eコマースを含む通信販売とは、販売業者が郵便,電話,eメールその他の通信方法で直接(ダイレクト)
に顧客からの購入申込みを受け,配送その他の方法で注文の商品を顧客に届ける販売の形態である。顧客は,
各種のメディアによって提供される商品の情報から商品を選択して購入を決断する。代表的なメディアは、
カタログ,新聞・雑誌の広告,ダイレクト・メール,ちらし,テレビ・ラジオのコマーシャルなどであるが、加
えて、近年はインターネットによるeコマースが隆盛しつつある。元来、通信販売は 19 世紀末から20世紀
のはじめ、特にアメリカの地方都市や農村など,人口が希薄で店舗の未発達な地帯において隆盛した。そこ
には、手近な所で入手できない商品をいつでも購入できるメリットがあったが、し 1930 年代に入って自動車
の普及による消費の広域化に伴う交通費用の低減により、次第にチェーン・ストアに押されるようになった。
ロングテール現象が地方の振興に貢献する可能性を探るために、eコマースを含む通信販売が地方におい
て立地可能かを検証してみる必要があるだろう。
通販企業の立地状況を商業統計から見てみる(表 1)。人口千人当りの全国平均の通販販売額は 24.18 百万
円である。小売販売額全体でみた場合は、同様に、人口千人当りの全国平均を見た場合は、3176.9 百万円で
ある。これを都道府県別に見た場合見る。さらに都道府県毎の比較を容易にするために、全国平均を100
とした指数を計算した。
小売業の販売額は、都道府県単位で見ても立地の影響を強く受ける。それが顕著に表れるのは、東京都、
大阪府といった大都市圏とその周辺に立地する県の状況であろう。東京は、人口千人当りの販売額は、1357.1
百万円、指数では 130 であるのに対し、その周辺に立地する埼玉県は、指数では 82.4,千葉県は 86.5、神奈
川県は 93.0 である。
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これは、小売吸引力の状況を表している。小売吸引力とは、一般に店舗や商店街、ショッピングセンター
などの商業集積が地域の購買力を自店舗あるいは地域にどれだけ吸引できるかを示す数値である。この小売
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吸引力と商圏は密接に関連しており、小売吸引力の地理的な範囲が商圏と呼ばれる。
小売吸引力=商業人口÷行政人口×100
商業人口=ある都道府県の小売業年間商品販売額÷(全国の小売業年間商品販売額÷全国の人口)
すなわち、小売吸引力とは、相対的にその地域が他の地域から、どの程度購買力を吸引しているかを示す
係数であり、商業人口≧行政人口の場合、100 以上となり、商業人口<行政人口の場合、100 未満となる。
この場合は、埼玉、千葉、神奈川の各県は、大きな商業集積を持つ東京都に、小売業の販売を吸引されて
いる。同様に、関西圏における大阪府に対する奈良県、京都府に対する滋賀県にもこの構図が成り立つ。
では、通信販売においてはどうか。小売吸引力を持つ指数が100を超える都道府県は、香川県(680.19)、
京都府(314.13)
、東京都(280.63)、長崎県(177.50)、大阪府(165.08)、静岡県(132.34)、熊本県(105.53)
である。対して指数が低い都道府県は、石川県(19.19)、富山県(23.21)
、滋賀県(28.56)、宮崎県(29.10)
などである。
東京、大阪等一般に企業が多く立地している都市部の指数が高いのはいわば当然である。しかし、香川県、
長崎県、熊本県などの例外があり、これまでの小売業の立地条件とされた人口集積の多さや交通の便の良さ
とはかけ離れた都道府県にも通販企業の立地が可能であることを示している。これらは、通信販売によるロ
ングテール現象、すなわち、衰退期あるいは C ランクの商品の集積による利益追求の概念を拡張し、地方ブ
ランドに光を当てる可能性がある。地方ブランドの大きな問題であった流通経路から排除されるという問題
を消費者とダイレクトな経路構築によって解消するからである。
通信販売における上位の三社はセシール、ニッセン、ベルーナである。まず、この三社の立地を確認して
みる。指数の特に高かった香川県、京都府には、大手通販企業が立地し、これが指数を押し上げている大き
な原因である。
香川県には、セシールの本社が立地し(香川県高松市多賀町 2-10-20)、出荷は同じ香川県の香川県さぬき
市に3箇所もの物流施設を設置している。東京渋谷に、クリエイティブセンターを設けているものの、面積
にして 212 ㎡にすぎず、主要な業務は香川県で行われている。同様に、京都府には、ニッセン(京都市南区
吉祥院)が立地している。ニッセンの物流センターは、福井県あわら市にあるが、高速道路に面していると
はいえ、小売業の立地の適地とはいえない場所に存在する。 ベルーナは、埼玉県上尾市に本社及び流通セ
ンターを持っている。関東圏内とはいえ、決して都心部とはいえない。
このような企業の立地におけるケースを見ても大手企業の中心施設・拠点が大都会ではなく地方都市にお
かれ。いわゆる店舗を保有する小売業とは立地の論理が異なっていることは明らかである。このようにみる
限り、地方都市においても、全国を商圏とする小売業を立地させることが可能であることが理解される。現
代の地場産業育成は製造業に注目が集まる一方で、小売業への目配りは相対的に乏しかったが、ロングテー
ル現象は商業による地方振興の可能性を拓く。
e コマースを含む通信販売企業は、店舗を構える小売業と異なり、必ずしも市場に物理的な距離の近い、
消費地に隣接する場所に立地していない。地方都市においても、通販企業の立地は可能であり、また首都圏
内であっても商業地ではない場所に立地している。これらは、地方の活性化に資する可能性がある。その可
能性は、いわゆる「ものづくり」といったフレーズで工業に偏った感のある地方産業政策を考え直す可能性
を示唆する。また、その地方における通信販売の可能性は、地方の持つ物産の供給地により近く立地するこ
とにより、これらのロングテール商材に流通経路を確保する可能性を高める。
地方産品の多くは歴史をもつものや、その地域の風土を生かしたもの、という特性から、製品としては成
熟期あるいは衰退期にあるものが多い。地場産業の代表的な例、漆器、和食器、絹織物などはプロダクト・
ライフサイクルの上からは、衰退期にあるものといえるだろう。こうした商品群は、例えば大型小売店舗で
ある量販店、百貨店においては取り扱う店舗面積を縮小されつつある。
eコマースにおいて観察されるロングテール現象は、これら衰退期にある商品に大きな機会を提供する。
これは、従来の流通経路では不利な状況におかれていた地方発ブランドにとって、競争条件の平等化(equal
footing)でもある。
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4. 検索の問題
地方の相対的に知名度の少ないブランドにおいては、店舗を構え希少資源たる店舗面積の制約を受ける店
舗立地型よりも、e コマースのほうが効率よく販売が可能になる。これがロングテール現象の帰結である。
しかし、それにはまず、条件がある。その商品が、顧客に「発見」されることである。
「発見」とは、数多い
ホームページ、情報の中から顧客に見いだされることである。換言すれば、検索の問題である。
店舗を構える流通業においては地価の高い立地を有効に利用するために、生産能力、広告費などの不足に
よる知名度不足の商品は、死に筋として売り場を確保できない。この事実によって、特に、地方産品は不利
な状況に置かれてきた。消費者は、希望する商品を購買するために、その商品の価格に加えて取引費用を負
担しなくてはならない。その取引費用は、まず、購入する店舗までの交通手段に対する料金等の支払いであ
る「交通費用」、同時にその往復及び購入に要する時間の「機会(時間費用」、商品決定と購入場所の決定に
要する情報に対する費用である「探索費用」がある。情報の不完全な現実の社会においては、購入する商品
が購入者の欲求を満たすものであるかどうかは分明ではない。
加えて、購入すべき商品を決定したとしても、
それがどこでいかなる価格で購入できるのかは、探索をおこなわねばわからない。
購入者に取っての通信販売の利点は、この取引費用の節約にある。家庭もしくは職場等で購入が可能であ
る処から、交通費用がかからず、また機会費用のうち、往復に要する時間が節約される。時間費用は特にe
コマースにおいて軽減される。商品に関する情報は販売者から一方的に流されているのではなく,消費者が
家庭から必要とする情報を検索することができる。
消費者の取引費用を節減するためには、交通の便が良い、そして補完的な商品が多く揃う商業集積の中に
ある、探索費用節減のメリットのあるブランドを有する街またはショッピングセンターにある、などの条件
がプラスに働く。当然、これらのいわゆる商業面における「一等地」の場所は稀少資源であり、それを利用
するための経費は増大する。
ロングテール現象によって、時間費用は大きく軽減された。しかしながら、探索費用にはまだ問題を残し
ている。今度は、数ある e コマースの中から、知名度に劣る地域発ブランド、地方産品が顧客に「検索」さ
れ発見されなければならない。前提として知名度が劣る地方産品は、そのために様々な努力が求められるが、
その有力な方策が、有力なショッピングモールへの出店、アクセス解析の活用である。
「仮想商店街」というべき、インターネット上のショッピングモールが、ブロードバンドの普及により発展
してきた。現在では、インターネットの利用者は 7000 万人と推計され、人口普及率は約 55%とされている
(インターネット白書 2005)。インターネットの利用者のうち7割弱がブロードバンドの利用者である。イ
ンターネット利用者のうち約9割がオンラインショッピングの経験を持っており、アマゾン・ドットコムの
隆盛に象徴される書籍類の他、衣料・ファッション・アクセサリー、旅行・宿泊予約、CD/DVDなどの
利用が多い。さらに、産地直送品、食料品、ギフト・中元歳暮なども比較的よく利用されている。
e コマースの黎明期には他に先んじて参入するだけで競争優位を得られるファーストムーバーアドバンテ
ージが存在した。しかし、e コマースが普及期にある現在、競争は、いかに集客を行うか、そして、その来
店客にいかに購買をしてもらうかといった、e コマース同士の競争に移りつつある。ショッピングモールに
先んじて出店をするということそのこと自体が、競争優位をもたらすということはもはやない。地方物産品
は、顧客に検索され、発見されることは難しい地方産品が競争を優位にするためには、情報技術をいかに有
効に活用し、集客あるいは購買に結びつけるかという実践的な経営手法の能力構築が必要とされている。
アクセスログを解析する試みは、このインターネットのショッピングサイトにいかに集客するか、サイト
の使い易さをいかに向上させるか、などの問題について基礎となるデータを提供している。アクセス・ログ
の収集と管理は、元来はサーバーの管理者の管理のための方策であった。そのために、現在でも、マーケテ
ィングの諸概念を有効に利用した分析は少ない。これが、アクセスログ解析を利用しながら、売上、利益の
拡大といった実践経営が求める方策が成功しない要因になってはいないか。
現行のアクセスログ解析のソフトウエアには、e コマース専用をうたったものはなく、しかも高額である。
そして、広報あるいは IR、採用活動、広告活動を目的としたものと共用である。市販のアクセスログ解析の
ソフトウエアが50万から数百万円と高額であり、購入が可能なのは比較的経費に余裕のある大企業に限ら
れるという事情がある。大企業かつeコマースを行っている企業は相対的に少数であるので、アクセスログ
解析は、広報あるいはIR、採用活動など、「売上」を必ずしもともなわないユーザーに販売されているとい
う事情がある。従って、我々は、地方物産をロングテール現象によって販売しようとするとき、このアクセ
スログ解析を有効に活用するノウハウを構築する必要がある。それもロングテール現象を地域振興に活かす
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場合の大きな条件となる。
5. おわりに
ロングテール現象は、地方にとって大きなチャンスを提供しつつあることが、いくつかの事例および、e
コマースを含む通信販売の分析によって確認された。本研究の目的は、その現状を踏まえて、ロングテール
現象を地方物産の振興に貢献させるために、従来では不足している要素を指摘することであった。
e コマースを含む通信販売企業は、店舗を構える小売業と異なり、必ずしも市場に物理的な距離の近い、
消費地に隣接する場所に立地していない。地方都市においても、通販企業の立地は可能であり、また首都圏
内であっても商業地ではない場所に立地している。インターネットによって、地理的な懸隔が解消される可
能性については多くの指摘があった。しかし、現在、インターネットを利用する e コマース以前に、従来の
メディアを利用した通信販売においても、この現象は確認された。これらは、地方の活性化に資する可能性
があり、工業に偏った感のある地方産業政策を考え直す余地があると考えられる。また、その地方における
通信販売の可能性は、地方の持つ物産の供給地により近く立地することにより、これらのロングテール商材
に流通経路を確保する可能性を高める。
しかしながら、それには、顧客に検索によって発見されるという条件がつく。前提として知名度が劣る地
方産品は、そのために様々な努力が求められるが、その有力な方策がアクセス解析の活用である。しかし、
地方の中小企業においては、それを有効に活用し売上、利益の拡大といった経営が求める方策が成功しては
いない。現行のアクセスログ解析のソフトウエアには、eコマース専用をうたったものはないのがその一因
である。それが、検索におけるノウハウの不足の一因となっている。ソフトウエアは広報あるいは IR、採用
活動、広告活動を目的としたものと共用である。これは、市販のアクセスログ解析のソフトウエアは高額で
あり、購入が可能なのは比較的経費に余裕のある大企業に限られる。結果、中小企業においてはほとんど導
入がすすんでいない。また、導入したとしても使いこなせてはいない。アクセスログ解析は、広報あるいは
IR、採用活動など、「売上」を必ずしもともなわないユーザーに販売されている。
我々は、地方物産をロングテール現象によって販売しようとするとき、このアクセスログ解析を有効に、
そして中小企業の相対的に乏しい資金と人材の中で導入し、分析する手法を構築していかなければならない。
主要参考文献:
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Books
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日経情報ストラテジー 2006/8 号
101
〈発
題
名
e コマースにおけるインストア・マーチ
ャンダイジング
表
資
料〉
掲載誌・学会名等
経営情報学会・オフィスオートメ
ーション学会 春季全国発表大会
予稿集
発表年月
2006年6月
通販立地に関する一考察
経営情報学会2006年秋全
国発表大会予稿集
2006年11月
Eコマースにおける消費者行動の測定と
分析 Long Tail 現象の実践のために
関西実践経営32号
会関西支部
2006年12月
102
実践経営学
Fly UP