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4 05 - Kyoto University Research Information Repository

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4 05 - Kyoto University Research Information Repository
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<講演1>セックス - 語りたい?語れない?
田中, 雅一
京都大学 附置研究所 ・センター シンポジウム : 京都から
の提言-21世紀の日本を考える (2009), 4: 5-13
2009-12-01
http://hdl.handle.net/2433/89667
Right
Type
Textversion
Presentation
publisher
Kyoto University
講 演1
「セ ッ ク ス
語 りた い?語
人文科学研究所教授
1は
田中
れ な い?」
雅一
じめ に
人 文 科 学 研 究 所 の 田 中雅 一一
と申 します。 私 は過 去20年
間 ほ どセ ックス とは一 体 何 なの か とい うことを 考
えて きました 。 まだ まだ途 中で す け れ ども、 この 機 会 にセ ックス につ い て皆 さん と一緒 に考 え、 この講 演 会
の共 通 の テー マ であ る学 問 のつ な が りにつ い てお 話 が でき れ ば、 と思 い ます。
私 のタイ トル です が 、これ は ず ば り「
セ ックス」。そ れ 自体 はあ まり意 味 が な い ので す が 、副 題 が 「語 りたい?
語 れ な い?」 とい うことで 、 これ は 皆 さん の気 持 ち、 とい うよりは、 私 自身 の心 情 と考 えて い た だ きた い と
思 い ます。事 務 局 か らどうい うタイ トル にす るの か と問 わ れ たとき に、まさに私 自身 の 気 持 ちとして 「セ ックス 、
語 りた い。 だ けども、 語 れ な い 」 とい う意 味 で考 えつ い たタイ トル で す。
さて、今 か らちょうど10年
前 に読 売 新 聞 社 か ら 『
性 の風 景 』 とい うル ポ が公 刊 され ました。 これ は、 読
売 新 聞紙 上 に連 載 され て い た記 事 を ま とめ た もの で す。 そ こで は、 つ ぎ の ような 主 張 が な され て い ます
(73ペ ー ジ)。 性 は秘 め られ たもの だ 。 タブー に なるか らこそ魅 力 的 だ と考 える人 も多 い 。 しか し、 雑 誌 の
ヘ ア ヌー ドが 氾 濫 す るな ど商 業 的 な 性 表 現 が進 む一・
方 で、 日常 的 に性 を 語 る文 化 が 育 ってい な い 、 とい う
の も現 実 で あ る、 と。 多 分 この矛 盾 は 現 在 で も認 め られ る と思 わ れ ます。 語 れ な い 、 とい うの は 、個 人 の
問題 で は な く、社 会 の風 潮 とも言 えます。
私 が い つ もあ っけらか ん と人 っび らに性 につ い て語 って い るか とい うと、 決 して そ うで は あ りませ ん 。 今
回 も益 川 先 生 と一 緒 に、 一緒 に と言 うと変 で す け ど、 同 じポ スター に名 前 が 出るとい うの で、 本 来 な らば 家
族 に 自慢 で きるはず なんで す が 、私 の タイ トル が ちょっと、や っぱ り家 族 には 見 せ られ な い な と思 い まして、
ひ た隠 しにしてい ま した。18歳
と22歳
にな る二 人 の息 子 が い ます が 、 子 供 にもあ まり教 えた くな い。 そ
れ か ら、私 自身 の親 は昭 和2年 と昭和5年 生 まれ なんで す けれ ども、 親 に もや は り知 らせ た くな い 、 と思 っ
て何 も伝 えない でい ました。 しか し、 読 売 新 聞 の販 売 力 の お か げ とい い ます か 、 この 講 演 会 の 連 載 記 事 が
掲 載 され ます と、近 所 の購 読者 の 方 か らこうい う記 事 が 載 ってい るけ ど、 お 宅 の旦 那 さんで しょ、 とか 言 わ
れて、 家 の者 に も知 られ て しまい ま した。 今 日は下 の子 供 が 来 たい と言 って い た んで す け ども、 来 な いで
ほ しい と断 りました 。 そ うい う感 じで す か ら、 私 自身 もほ ん とうは性 につ い て あま り語 りた くな い。 とくに家
族 の者 と語 りた くな い とい うの が 実 情 で す。 私 は 、 セ ックス につ い て は決 して進 ん でい る とか 、大 っぴ らだ
とか 、特 殊 だとい うことで は な い ので す。
23月15日
宗 教 とセ ックス
さて、
本 題 に入 りたい と思 い ます が 、まず2つ の キー ワー ドを提 案 したい と思 い ます。 どち らも日にちで す。
この2つ の 日を ちょっと考 えなが らお話 を 進 めて い きたい と思 い ます。
ひ とつ は今 日の 日付 で もある3月14日
、 これ は若 い人 にとって は非 常 に重 要 な期 日です が ご存 知 で しょ
5
うか。 バ レンタイ ンデ ー とペ アに な ってい る 日で す ね 。 ホワイ トデー と
い って バ レンタイ ンデ ー の とき に女 性 か ら贈 り物 を もらった男 性 の方 が
女 性 に対 してお 返 しをす る 日。 もうひ とつ は3月15日
3月15日
。
とい うの はあ したで すね 。 あ したは 、今 日い らしてい る名
古 屋 の 方 の 中 には ご存 じの 方 もい らっしゃる か と思 い ます が 、 愛 知 県
小 牧 市 にあ る田 縣 神 社 の 豊 年 祭 が 開催 され る 日です。 田縣 神 社 には 御
歳 神(み としの か み)と 玉 姫 命(た まひ め の み こと)が 祭 られ てい て、
(写真1)
子 宝 、安 産 、 恋 愛 成就 、縁 結 び 、 夫 婦 円 満 に効 験 が ある神 社 として信
仰 され てい ます。 この 日に 大 男 茎 形(お お お わせ が た)と い う名 前 の
男 根 が 奉 納 され ます。 これ は、 男 性 の 性 器 、 そ れ も直 径60セ
ン チで
2メ ー トル 余 の ヒノキ材 で で きて い て、宮 大 工 の方 が 毎 年 つ くります。
それ を厄 年 に 当 た る男 性 たち が担 い で 祈 願 します。 そ の 写 真 とビデオ
を 今 か らお 見 せ した い と思 い ます。 写 真 は1995年
と1996年
に
撮 影 した もので す。
(写 真2)
写 真1は 神 社 の 建 物 の ひ とつ で す が 、 そ
の 中 に写 真2の よ うな男 根 型 の奉 納 物 が 祭
られて い ます。 それ 以 外 に も非 常 に小 さな 男
根 が た くさん あ るの が分 か ると思 い ます。 写
真3が 毎 年 新 しくつ くられ るもの で す。 一 年
前 に奉 納 され たもの は どうな るの か とい うと、
(写真3)
近 隣 の お 店 な ど に 引 き取 られ て い き ま す。
私 もそ うい う場 所 に 行 っ た ことが あ ります け ど、そ の とき は き しめ ん 屋 さん で し た 。
(写真4) ち ゃ ん と店 内 に 飾 られ て い ま す(写
真4)。
こうい うもの を 見 な が らき し め ん を
食 べ て お い しい か どうか 、 とい うの はまた別 の話 だ と思 い ます け どね 。
写 真5の 絵 馬 をみ て ください 。 ここに も男 根 が あ しらわ れ て い るの が わ か ります。 写 真6は 境 内 で売 ら
れ て い る縁 起 もの の お 札 で す。 これ は、 私 も持 ってい ます けど、 よく見
ます と、 実 際 に男 根 の 形 を した彫 り物 み た い な もの が ぶ らさが って い ま
す。 こうい う写 真 をお 見 せ す ると、 境 内は 男 根 だ らけ じゃな い か と思 わ
れ るか もしれ ませ ん が 、そ の とお りです。 写 真7で は、 上 の 方 にぶ らさ
が ってい る もの は単 な る鈴 では な くて男 根 の 形 を した もので す ね 。 写 真
8の 石 塔 も男 根 を 模 して い ます。
写 真9が
(写真5)
お 祭 りの一 部 です。 これ が新 し
●
壷』墜
(写真6)
(写真7)
6
(写真8)
い奉 納 物 で す。
写 真10も
お 祭 りの写 真 で す が 、今 度 は 若 い 女 性 た ちが 非 常 に大 事
に、 子 供 を 抱 えるような 形 を して小 さな 男 根 を 抱 い て(と い っても人 間
の平 均 よ り大 き い です が)、 神 社 の 周 りを 巡 ります。 皆 さん 、 非 常 に楽
しそ うに や ってい るように見 えます ね 。
さて、小 牧 市 の 田 縣神 社 につ い て は これ くらい に して、 ほ か の事 例 に
(写真g)移
りま す 。 私 は90年
代 か ら こうい うお 祭 りを で き る だ け 見 た い と思 っ
て い ろい ろ回 って い ます。
私 の 出身 地 の近 くにあ る和 歌 山県 加 太 の淡 島 神 社(写 真11)は3
月3日 のひ な流 し、人 形 流 しとい うの が 有 名 です。 ここに は、 家 庭 で 簡
単 に処 分 で きない 人 形 が た くさん 納 め られて い ます。 写 真12は
、 日々
の 処 分 を 待 つ 人 形 たち で す。 境 内
のい たるところに この ようにた くさんr
(写真10)の 人 形 が 置 か れ てい ます。
人 形 以 外 に 、 もうひ とつ 有 名 な ことが あ ります。 お 祭 りには な って い
ない で す が 、特 に婦 人 病 や 性 に 関係 す るような、 あるい は生 殖 に関係
す るよ うな 病 気 を治 して くれ る神 社 とい うことで有 名 で す。 また子 宝 祈
願 で も有 名 で す。 中で もユ ニ ー クな の は、 自分 の 使 ってい た 下 着 や ブ(写
真11)
ラジ ャー な どを ビニ ー ル 袋 に入 れ て、 ビニ ー ル 袋 に名 前 を 書 い た り、
ある い は 絵 馬 と一 緒 に奉 納 した りす る行 為 で す。 授 預 所 で は あ た らし
い 下 着 が 売 られ てい ます。 これ を身 に付 け ると、 効 験 が あ るの だ そ う
.ピ 」
で す。 写 真13は
、 本 殿 の裏 に ある建 物(末 社)で す。 ちょっと見 に
くい か と思 い ます が 、 ビニ ー ル 袋 に 吊 され てい る もの が 、 実 は女 性 の
下 着 で す。 この 格 子 戸 に はた くさん の 絵 馬 が 捧 げ られ て い ます ね 。 こ'
の 建 物 の 中 に は 、 た くさん の 男 根 の 奉 納 物 が 見 られ ます(写
ti.
真14)。(写
真12)
同 じよ うな 事 例 を も うひ とつ 紹 介 し た い と思 い ま す 。 そ れ は 、 若 宮 八
幡宮 とい う川 崎市 にあ る神 社 で 、 その 境 内 には金 山神 社 が あ ります。 こ
r.
鮭{d
腎f蔦
こで も男根 をみ ん な で担 い で町 を練 り歩 きます(写
㌧
書
十 ・●
の神 社 で は 「か な まら祭 」 とい うお 祭 りが 、4月 に 開催 され ます が 、 こ
真15)。
先 ほ どの
田 縣 神 社 な どは もうちょっと厳 か な 感 じが す るん で す け ども、 こち らは
もっとカ ー ニ バ ル の ような楽 しさを 醸 し出 し
、
て い ま す 。 この 神 社 で は 、 ち ょうど エ イ ズ が
(写 真13)
日 本 に も は や り出 し た とき に 、 うち は エ イ ズ
に 効 くん だ 、 と半 分 冗 談 で 主 張 し始 め て い
ま し た 。 お 猿 が あ りま す ね 。 見 ざ る 、 聞 か
ざ る 、 言 わ ざ る とい うや つ 。 この お 猿 に あ と
2つ 付 け 足 して 、 見 ざ る 、 聞 か ざ る、 言 わ
ざ る 、せ ざ る 、さ せ ざ る とい うの を 作 りま した 。
「せ ざ る」 の 方 は 、 要 は 前 の 方 を 押 さえ て い
(写 真14)
(写真15)
7
るん で す 。 「
させ ざ る」 の 方 は 後 ろ
の 方 を 押 さえ て い る。 当 時 は 男 性
同 性 愛 者 の 不 治 の 病 だ とい う考 え
が 強 か った こともあ ります。 そ うい う
お 猿 を 売 り出 した りして、 ま さに 楽
しくや ろ うとい うよ うな ところ が よ く
分 か ります。
(写真16)
(写真17)
この お 祭 りに は、 女 装 す る男 性 たち と外 国 人 の仮 装 とい う2種 類 の
'引ド
異 装 者 が 見 られ ます。 外 国人 の仮 装 とい うの は 、鎧 兜 を 着 た り着 物 を
着 る場 合 で す(写 真16)。
これ は この神 社 が 貸 し出 してい ます。着 物
5'
を 借 りて着 てい る女 性 が 男 根 の 上 に座 ってい ますね(写 真17)。
18は
写真
私 で す が 、 隣 の外 国 人女 性 が 驚 い てい ます。 また、 写 真15で
は亀 井 戸 にあ る女 装 クラブの ひ とたち が神 輿 を担 いで い ます。 こうい う
神 輿 が 町 を 練 り歩 きます。 そ して、 一 般 の 参 加 者 が 途 中で 写 真 な どを
撮 りま す(写
(写真18)
真19)。
この御 神 輿 の巡 行 の 前 に境 内で 大 根 を 男 性 の性 器 あ るい は 女 性 の性 器 の 形
に彫 るんです。 そ れ を巡 行 のあ とに競 りに か けます(写 真20)。
も来 ますの で、 有 名 人 の 彫 った大 根 が 場 合 に よっては2,000円
わ りと有 名 人
とか3,000円
で
売 られ るとい うことです。そ して、 こん な 大 根 を持 って踊 った りします。
3問
い か ける
ここで 簡 単 に ま とめ て お き た い と思 い ます 。 この シ ン ポ ジ ウム の テ ー マ は 学 際
的 な 学 問 の つ な が りと い うこと で す が 、 そ の 前 に 考 え て 頂 き た い の は 、 学 問 と(写
真19)
,い
ゼ
重嘱
斎"4
ヘ メ
'』bメ
セw
意 識 に 由 って どん どん 変 化 して い くとい うことで す。 一 度 つ くられ て しま
うと、 そ れ を変 化 させ るの は非 常 に難 しい んです が 、 しか し、 世 の 中 は
どん どん 変 わ って い きます ので新 しい 問題 が あ らわ れ て くる。10年
前
な ら学 問 の 対 象 にな らな か ったテ ー マ も研 究 対 象 にな ってい く。 そうい
一ら
rr
うの は 必 ず し も既 に で き 上 が っ て い る もの で は な くて 、 対 象 と か 問 題
1、 ・
(写 真20)
う意 味 で は、 セ ックス も現 代 で は重 要 な テ ー マ で はな い か と思 い ます。
学 問 とい う活 動 は 、す で に蓄 積 され てい る膨 大 な 知 識 に触 れ 、 学 習
す る とい うことだ と思 うん です。 これ を身 につ け て、 それ を応 用 す る。 しか し、 そ の 一 方 で 、 自分 で 切 り開
いて い く必 要 が あ る。 自分 の 持 って い る、 自分 自身 が 感 じた 問 題 意 識 が必 要 です。 さらに、 驚 い た ことや
疑 問 に思 った こと、 あ るい は それ を解 決 した い とい う切 実 な気 持 ちが 重 要 で 、 そうい う感 情 に正 直 に なって
ほ しい と思 い ます。 そ こか ら 「
な ぜ そ うな の か」 とか 「
一 体 これ は何 な の か」 とい う問 い が 出て くると思 う
ん です。 常 にそ うい う問 い を立 て ることが非 常 に 大事 だ と思 うの です が、 その 問 い を 立 てる とい うこと自体
もあ る意 味 で は学 習 の結 果 で は ない か と思 い ます。 単 にAはBで
あ るとい うことを学 ぶ の では な くて、Aは
Bで あ る、 とい うの は どうい うことな のか とい う問 い 立 て 自体 を 学 ぶ ことも重 要 な の です。 た だ 、 関 心 が な
い と見 えて こな い とい うこともある と思 うんで す。 じゃあ、 その 関心 は一 体 どこか ら来 るの で しょうか。 これ
は非 常 に難 しい 問い だ と私 は思 って い ます。
8
今 紹 介 した お祭 りにして も、 皆 さん は どう思 わ れ たか 分 か りませ んが 、 私 が今 まで い ろん な大 学 でこうい
うお 祭 りの ビデ オや 写 真 を 最 初 に見 せ て、感 想 を 書 い てもらい ます。 そ うす ると、少 な くとも多 くの学 生 たち、
18、19歳
の 学 生 たち は たい へ ん 驚 きます。 まず 一 番 多 く出 て くる疑 問 は 、 日本 で性 とい うの は こん な
に大 っぴ らだ った の か 、宗 教 とい うの は む しろ性 と関 係 ない と思 って い た けど、必 ず しもそ うじゃな い だ 、
とい う驚 きで す。 現 代 日本 で、 性 とい うの は ほ ん とうに タブ ー な の か 。 こん な お 祭 りが 、 至 る ところ とは 言
い ませ ん が 、 実 際 に行 わ れ てい ると考 える と、 日本 とい う国 は性 につ い てどん なふ うに思 って い るん だろ う
か と、今 まで の 自分 たち の考 え方 だ け では判 断 できな い 、 そ うい う考 え方 も生 まれ て くるわ け です。
また 、この お話 の は じめ に、性 とい うの はそ う簡 単 には語 れ な い んだ と言 い ました。それ は 何 故 か とい うと、
プライ ベー トな もの な の だか ら語 れ な いん だ とも言 える と思 うんです。 しか し、実 際 は こん な ふ うに公 にや っ
て い る。 そ うす ると、 わ い せ つ 物 陳 列 罪 とい うの は 一 体 何 なの か と思 うわ けで す。 今 、 私 は 学 問 の 名 を 借
りて 皆 さん にお 見 せ して い ます が 、 これ は わ い せ つ 物 陳列 罪 に 当 ては まらな い の か とか 、 あ るい は 、 この
お祭 り自体 犯 罪 じゃな い の か とい うことを 考 える人 もい るか もしれ な い。 実 際 に歴 史 的 に見 れ ば、 こうい う
お祭 りは非 常 に野 蛮 で 恥 ず か しい とい うことで廃 止 され てい った とい うの も事 実 です。 江 戸 時代 に は もっと
た くさん の こうい うお祭 が各 地 にあ った と思 うんで す。 そ れ が や っぱ り明 治 維 新 の文 明 開 化 とい うスロー ガ
ンの 中 で消 えてい った。 こうい うもの を見 せ たらヨー ロッパ の 人 たち に恥 ず か しい とい うことで実 際 には な く
なってい った。
一方で
、 じゃあ、 性 に関 わ る祭 りは何 で許 されて い るの か とな ると、伝 統 だ った らい い ん じゃな い の か と
い う議 論 も出 て くると思 い ます。 で は 、 何 で 、例 えば ポ ル ノは だめ で 伝 統 はい い の か 。伝 統 だ った ら何 で
もい い の か とい うと必 ず しもそうで はな い。
この ように、 こうい うお祭 を見 る だ けで もい ろん な 問 い か け が生 まれて くると思 い ます。 その 問い か けを
ひ とつ ひ とつ 答 えるようにしてい くと、 い ろん な ことが 実 は分 か ってくるん じゃない か と考 えてい ます。
4米
兵 との 出会 い
学 問 の つ な が りとい う点 で い えば 、 もうひ とつ 、 これ らの祭 り
「'L
、
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・
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一
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世
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出
ミ ﹃
岩 国 、 そ うい うところか らた くさん の 観 光 バ ス が 来 て い ます(写
日本 人 は こうい うお祭 に こん な観 光 バ スで は行 か な い
■ .
脚
占
¶頸 .
神 社 に行 け ば 、横 須 賀 とか座 間 、 そ れ か ら横 田、 少 し遠 くだ と
・隔
冒
とつ は 女 装 者 なん です。 もうひ とつ は、 米 兵 で す。 あ した も田縣
i.
}
1 ﹂
.、
お祭 りで私 が 出会 った人 たち に は 二 種 類 の 他 者 が い ま した 。 ひ
真21)。
$
﹂
と思 う経 験 を して い ます。 豊 年 祭 とか か な ま ら祭 、 こうい う性 の
國
﹁■
"
を 通 じて 私 自身 の 人 生 の 中 で 非 常 に大 事 な つ な が りを 感 じた な
」.
し と
り
ん で す。 み ん な どちらか と言 うと密 か に一 人 で行 くわ けで す が 、 アメリカの 人 たち は 「これ ぞ 日本 だ」 と、
何 とな く誤 解 してい ますの で、 観 光 バ スを 連 ね てや って きます。
このバ ス は基 地 の 中 にある旅 行 会 社 が 組 織 す るん です。 こうい うお祭 が あるか らみ ん な行 きませ ん か 、と。
彼 らが 使 う観 光 バ ス とい うの は 、 厳 密 には 軍 隊 の バ ス だ か ら軍 用 車 なん です。 軍 用 車 と言 って も、 実 際 に
は普 通 の バ ス と同 じで、別 に機 関銃 とか が取 り付 けられ てい るわ け では あ りません 。 で も、軍 用 車 で す か ら、
お酒 を飲 ん だ り歌 った りして騒 いで は い けな い し、 席 を勝 手 に移 動 しては い け な い 、 な どの規 律 が あ ると
聞 きました。
私 は1996年
の 春 に川 崎 の お 祭 りで初 め て米 兵 と出会 って、 話 を す る機 会 が あ りま した 。 そ の とき、
9
米 兵 が 非 常 に近 くに感 じられ ました 。私 は こう思 った ので す。 私 もす ご く偏 見 に とらわ れ て い たな 、 と。 そ
れ は どうい う意 味 での 偏 見 な の か とい うと、 い ままで は、 多 分 にマス コミの報 道 の せ い で もあ ります が 、 戦
争 とか 犯 罪 とか 国際 関係 とい った 政 治 的 な文 脈 で しか 、米 兵 を見 て こな か った 。 そ れ が 、思 い もか けな い
ところで こうい う人 たちに 出会 った とい うことです。
考 えて 見 れ ば 、 米 軍 あ るい は 日本 に 住 ん で い る米 兵 につ い て、 私 た ち は 実 は 何 も知 らな い ことに気
づ か され ま した 。 そ の 理 由 は 幾 つ もあ ります。 例 え ば 、 私 た ち 自身 が 戦 後 日本 社 会 の タブ ー 領 域 とし
て 軍 隊 とい うもの を 見 て い る。 あ る い は 日本 人 特 有 の 軍 事 ア レル ギ ー とい うことば もあ ります。 米 兵 、
そ の家 族 、あ るい は 関 係 者 は 日本 に10万
人 か ら11万
人 い ます。 これ は 、実 は 大 きな 数 な んで す が 、
外 国 人 登 録 の 対 象 に な りませ ん か ら、 彼 らは 日本 に 住 ん で い る外 国 人 とい う形 で は 統 計 上 は 現 れ て き
ませ ん 。 彼 らは ヴィザ を とらな くて もい い わ け です。 直 接 基 地 に入 ってきて基 地 の 中で住 む こともで きます。
私 たち はか れ らに つ い て ほとん ど知 らな い。 もちろん 知 ってる人 もい る と思 い ます け ど、 少 な くとも私 は 知
らな か った 。
私 は 、 そ れ 以 来 基 地 とい うの は どん な と ころ な ん
﹃
だ ろ うか と考 え 始 め 、 この10年
一
調 査 もして い ま す 。 ここで 少 し、 この 調 査 に つ い て 紹
介 した い と思 い ま す 。 日本 に 来 る とき は 、 アメ リカ 兵
み
一
,Lご
㌦
一㌔・.r宰.こ
「 ・1"
い う冊 子 を もらい ま す(写
もう一 つ 、DestinationJapanと
い う冊 子 が
一・
あ りま す(写
≡ 、
¶-
真22)。
"
櫛岬"
'一
た ち はWelco〃aetoJapanと
羅風
凸
間 、基 地 を 対 象 に
して い い と思 うで す が 、 この 冊 子 の 表 紙 に あ る 地 図
真23)。
これ は 、 『目的 地 日本 』 と訳
.a
(写真22)(写
真23) を 見 る と分 か りま す よ うに 、 沖 縄 が 日本 本 ± と 同 じく
らい の 大 き さ に な って い る 。 これ は 、 ア メ リカ 側 か ら見 れ ば 、 沖 縄 に75%の
基 地 が 集 中 して い ま す か ら
本 ± よ りも大 事 、 あ る い は 同 じ くらい 大 事 だ とい う気 持 ち を 物 語 って い ま す 。
私 が い ろ い ろ基 地 の ことを 調 べ 始 め て 幾 つ か 驚 い た ことが あ るん で す け ど、 す こ しそ の 話 を して 、 また 皆
さ ん の 期 待 して い る セ ック ス の ほ うに 移 りた い と思 い ま す 。 これ
(写 真24)は
何 な の か とい い ま す と、私 あ て に 届 い た 封 筒 で す 。
どこか ら来 て い る か とい うと、英 語 で 書 い て い ま す が 、フ ァミリー ・
サ ー ビ ス ・セ ン タ ー 、 これ は 米 兵 の 家 族 を 支 援 す る セ ン ター か
ら届 い て い ます 。 そ の 下 にUS.FleetActivities,SaseboJapanと
な って い ま す 。 佐 世 保 に あ る 海 軍 基 地 か ら私 あ て に 送 ら れ た 手
紙 な ん で す 。 と こ ろ が 、 こ の 左 を 見 れ ば わ か りま す よ うにAir
Mailと
な っ て い ま す ね 。 これ は 非 常 に お か しな こと で す よ ね 。(写
真24)
佐 世 保 か ら送 っ て、 な ぜ 外 国 の 郵 便 物 と して 日本 に 来 る の か 。 ど うして か とい い ま す と、 郵 便 物 を 基 地 内
の ポ ス トに投 函 す る と、 す べ て サ ン フ ラ ン シス コ に 集 め られ ま す 。 そ れ か ら、 サ ン フ ラ ン シ ス コ か ら 日本 に 、
この 場 合 京 都 に 送 られ ます 。 ところ が 、 佐 世 保 の 基 地 の フェ ン ス を 一 歩 出 て 手 紙 を 郵 便 ポ ス トに 入 れ れ ば 、
そ れ は 普 通 の 国 内 郵 便 に な り80円
で 済 む ん で す 。 こうい う事 例 か ら基 地 とい うの は 極 め て 奇 妙 な 世 界 だ
とい うこと に 非 常 に驚 き ま した 。 単 に米 兵 と は 一 体 だ れ な の か とか 、 米 兵 の 家 族 は ど うして い る の か とい う
よ り以 前 に 、 この 基 地 とい うもの が 非 常 に 何 か 奇 妙 な 場 所 な ん だ 、 と思 った 次 第 で す 。
こうい うことも 、 川 崎 の お 祭 に 行 って 初 め て 米 兵 と知 り合 えて わ か って き た ことな の で す 。
10
基 地 は 閉 鎖 的 です が、 開放 的 にな る こともあ りま
す。 写 真25は
』配己畠粍
、 岩 国基 地 の オー プ ンデ ー とい い ま
τ■
す か 、 基 地 が 年 に1度 、 一 般 に 開放 され さまざまな
Jr躍 二AklムN葛
催 し物 が な され る 日が あ ります が 、 そ の パ ンフ レッ
トで す。 こうい うときに は ミッキー マ ウス と、 ちょっと
}
古 いで す が、 ピカ チュー とが 一 緒 に並 んでい ます。
写 真26は
、 米 兵 が 日本 に連 れて くる子 供 たちの
Ju5t餉rKi{1且
ため のガ イ ドブ ックで す。 そ の 中 に は、 割 り箸 の 使
い方 が 解 説 され てい て、 実 際 に割 り箸 を 張 りつ け て
(写真25)
(写真26)
あります(写 真27)。
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こうい うふ うに して、私 自身 は、 米 兵 に関 して も、 またセ ックスに 関 し
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て も偏 見 とい うもの を どうや って 取 り除 い てい ったらい い の か につ い て
考 えさせ て きました 。 それ が学 問 をす ることの 一 つ の 意 味 で は な い か と
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思 って い ます。 ただ 、 偏 見 を 実 際 に取 り除 くとい うの は非 常 に難 しい の
(写真27)
で 、 少 な くともそ れ を意 識 す ることが大 事 で は ない か と思 ってい ます。
それ じゃ、 セ ックス の場 合 は どうな のか とい うと、 セ ックス とい うテ ー マ は 非 常 に難 しい。 在 日米 軍 をめ
ぐる偏 見 を意 識 す ることよりもむ ず か しい。 た だ 単 に私 たち が 恥 ず か しい とい うだ けで は な くて、 セ ックス
を 語 る言 葉 、私 たちが 自由 に語 れ るような 言 葉 が まだ生 み 出 され てい な い ので は な い か。結 局 、私 た ちは 「
あ
れ」 とか 「それ 」 とか、 そうい う指 示 代 名 詞 を 使 って 日常 的 に も話 を してい る状 況 で は ない か 。 こうした状
況 を私 たちが 変 えて い く必 要 が あるだ ろうと思 うので す。 た だ、 その 場 合 で も、 非 常 に難 解 な 医学 的 な 用
語 で置 き換 えれ ば い い の か とい うと、 そ うで もな い。 一 方 に性 科 学 とい う非 常 に厳 格 な 、 外 か ら見 れ ば 少
な くともきち っとしてい る医 学 の 分 野 が ある。 他 方 に、私 たちが 酒 を 飲 ん だ りしたら出て くるような わ い談 と
い うの が あ る。 その ちょうど中 間あ た りに性 の研 究 領 域 が 生 まれ れ ばい い 、 とい うのが 私 の考 えるセ ックス
へ のアプ ロー チで す。 そ の うえで そ れ は、 どちらに対 して も批 判 にな れ ば い い と考 えて い ます。
性 科 学 の 方 はどうして もセ ックス を 身 体 や ホ ル モ ン の 問題 として とらえて しまって、 人 の 心 、 性 に関 す る
心 の 問題 み たい な もの はな お ざ りにされ て しまってい る。 他 方 、 わ い 談 とい うの は 一見 楽 しそ うに見 えます
が、 や っぱ りそ こで不 愉 快 だ と思 って い る人 が い る。特 にわ い 談 とい うの は仲 間 とそ うでな い 人 とを む しろ
分 けるような、 そ うい う機 能 を 果 た して い ます。 昔 だ った ら多 分 、 男 性 と女 性 、 わ い談 のわ か る男 たち とわ
い談 に乗 れ な い 堅 ぶ つ の 女 とい った 対 立 で す。 そ うい う中で 、 わ い談 を喜 ぶ ような女 性 は特 別 視 され ると
私 自身 は 、 セ ックスを 研 究 テ ー マ に 選 ん だ 学 生 の ころは 女 性
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どの お 祭 だ とか アダル トビデ オ だ とか 、 秘 宝 館 な どの 調 査 を しま
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最 近 で は強 精 剤 につ いて調
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鎖 され て しまい ま した(写 真28)。
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した。 秘 宝 館 も先 ほどの 田縣 神 社 の 隣 にあ った ので す が 、 もう閉
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性 が認 め られ るか らで す。 マス ター ベ ー シ ョンを 出 発 点 に、 先 ほ
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ら、 一 般 に性 に た い して 受 け身 とされ て い た女 性 の性 へ の 能 動
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のマ ス ター ベ ー シ ョン が す ご く気 にな りま した 。 自分 でや るの な
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夢
い う図式 が あ った 。
(写真28)
べ てい ます。 最 初 、私 は この講 演 が名 古 屋 で 行 わ れ るとい うことい うことで した ので 、 強 精 剤 につ い て話 を
す るの が い い の で はな い か 、 と思 い ました。 と言 い ますの も、名 古屋 に は、 この世 界 で 非 常 に有 名 な 「あ
か ひ げ 薬 局 」 が あ ります。 あか ひ げ薬 局 は 、1988年
にで きた お店 で、 明 る く強 精 剤 を売 ろうとい う薬
局 です。 この 薬 局 の 本 店 が 名 古 屋 で す か ら、 強 精 剤 の 話 を しようか な と思 ったの です が 、 今 回の 講 演 会 の
対 象 が高 校 生 だと教 えられ たの であ きらめ ました。高 校 生 に強 精 剤 の 話 を してもあまり意 味 が ない か らで す。
最 近 は3Pと
か、また 、
売 春 婦 との対 話 な どもや ってい ます。 そ れ か ら、一 番 最 近 の 成果 としては 『
フェティ
シズ ム研 究 』 とい う論 文 集 で す ね 。 これ を京 都 大 学 の学 術 出版 会 か ら3巻 企 画 して い るん です が 、1巻 が
最 近 出 ました 。 こうい うもの を今 、 研 究 してい ます。 このように、 セ ックス とい うテー マ は 実 は い ろん な とこ
ろに広 が ってい くと私 は 思 って い ます。
63月15日
告 白 か誘 惑 か?
最 後 にもう一 つ の キー ワー ド、3月15日
の 方 は 最 初 にお 話 しました が、3月14日
、つ まりホワイ トデ ー
とい うの は一 体 何 な の か とい うことを 述 べ た い と思 い ます。 こち らの ほ うが、 高 校 生 を対 象 に したテ ーマ に
な るで しょう。 彼 らの頭 の 中 は クリス マス あ たりか らホワイ トデ ー まで、 恋 愛 モ ー ドにな ってい る はず で す。
す で に述 べ ま したように、 ホ ワイ トデー とい うの は 、要 はバ レンタイ ンデ ー とペ アに なってい る 日です。
で は 、バ レンタイ ンデー とい うの は一 体 何 なの か とい うと日本 で は女 性 による 「告 白の 日」 です。
で は 、 告 白の 反 対 は何 な の か。 告 白しな い ことで しょうか 。 つ ま り、 自分 の想 い を 明 か さな いで 、 沈 黙
す るの が 告 白 の反 対 な の で しょうか 。 私 は 、 告 白の 反 対 は誘 惑 で は な い か と思 って い るん です。 誘 惑 とい
うの は 、 一 見 、 告 白と変 わ らない じゃない か と思 うん です が 、 告 白とい うの は、 まさに 自分 が 「好 きだ」 と
伝 えて、 あ とは どうにで もして ください 、 そ うい う態 度 で す よね 。 だか ら、 告 白 をめ ぐる問題 とい うのは 、 告
白 した後 で は な くて告 白 され るまでの ゲー ムで す。
それ に対 して誘 惑 とい うの は誘 惑 の後 が 問題 では な い か と思 って い ます。 誘 惑 とい うの は、 じゃ、 どこが
お もしろい のか 。私 は 、「
誘 惑 する」とい うの は 非常 に奇 妙 な 動 詞 だ と思 って い ます。「
私 が あ な たを誘 惑 す る」
とい うの は何 を求 めて い るの か とい うと、誘 惑 の対 象 であ るあ な たが 私 を 好 き にな って ほ しい とか 近 寄 って
ほ しい とか 、声 を か けて ほ しい とい うことです。 とい うことは、 主 語 であ る私 と、 目的 語 であ るあ なた の 関
係 が誘 惑 とい う動 詞 で逆 転 するわ け です。 そ の意 味で 、 実 は極 めて珍 しい 動 詞 で はな い で しょうか。
この 点 につ い て言 語 学 者 の 立川 健 二 さん は 、 「
誘 惑 す るとは 積 極 的 に他者 に働 きか け ることで はあ るが 、
にもか か わ らず、 他 者 に従 属 した弱 い 立 場 に立 つ ことで ある」 と述 べ て い ます(立 川 健 二r誘 惑論
語 としての 主 体 』新 曜 社 、1991年
、39頁)。r私
言
は弱 い ん だ。 あ な た、何 とか して くだ さい よ」とい うメッ
セー ジ を投 げ か けて い る、 とい うわ けで す。 フランスの 思 想 家 ジ ー ン ・ボ ー ドリヤ ー ル は、 「
誘 惑 とは 弱 点
を 攻 め るように と他 者 に呼 び か け る挑 発 なん だ」と(宇 波 彰 訳 『
誘 惑 の 戦 略 』法 政 大 学 出 版 局 、1985年
110頁)。
、
誘 惑 者 は他 者 に、 これ は 私 の言 葉 です が 、 能 動 的 に なれ と働 きか ける。
もうひ とつ 誘 惑 につ い て重 要 な の は、 誘 惑 とい うの は 、要 は 頭 で は な くて身 体 が 問題 だ とい う点 で す。
日本 語 で は 「口説 く」 とい う言 葉 が あ ります。 これ は、 言 葉 で説 くとい う意 味 だ と思 い ます け ども、 口説 く
とい うよりも以 上 に、 誘 惑 で は しぐさが 大 事 な 意 味 を 持 ちます。 セ ックスを 研 究 テ ー マ に してい る私 にとっ
て は、 告 白よ り誘 惑 の方 が非 常 に魅 力 的 な 言 葉 です。
かつ て、 上 野 千 鶴 子 さん は、 名 古 屋 の某 予 備 校 で 、 たい へ ん 有 名 な 講 演 をされ ます(rマ ザ コン少 年 の
末路
男 と女 の 未 来 』 河 合 ブ ックレット1、 河 合 文 化 教 育 研 究 所 、1986年)。
そ こで 、 彼 女 は 子 供
が大 人 に なる大 きな変 化 の ひ とつ は 、 親 に秘 密 が で きることだ 、 と述 べ て い ます。 そ れ は どん な 秘 密 な の
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か と言 い ます と、 性 につ いて です。 み ん な が み ん な そ うだ とは 言 い ませ ん が 、 あ るとき か ら親 に性 につ い
て 聞 くの が 恥 ず か しい と思 い 始 め る。 また、 自分 の1生的 な経 験 を親 に話 す な んて、 とん で もな い と思 い 始
める。 これ が 大 人 へ の 第 一 歩 だ と上 野 さん は述 べ てい ます。
私 の視 点 か ら言 うと、 子 供 か ら大 人 へ の 第 一 歩 は、 告 白 モー ドか ら誘 惑 モ ー ドへ と恋 愛 の 作 法 を 変 える
ときで は な いで しょうか。 告 白 は 少 年 少 女 たち の恋 愛 に欠 か せ ませ ん 。 で す が 、告 白は 、誘 惑 に比 べ ると
きわ め て単 純 でお もしろ くな い か け ひ きで す。 その 意 味 で、 告 白モ ー ドか ら誘 惑 モ ー ドに変 わ った 時 、 子
供 は大 人 に な ると言 えるの で は な い で しょうか 。 そ れ は また 、恋 愛 関 係 にセ ックス が 欠 か せ な い世 界 へ の
第 一 歩 で もあ ります。
最 初 の テー マ に戻 ります が 、 「
語 れ ない?語 りたい?」 とい うの は、 セ ックス につ い ての 私 の気 持 ちだ け
で な く、 学 問 的 な 態 度 を 表 してい る とも言 えます。 「
語 りた い」 とい うの は 、私 が 学 問 として性 につ い ての
言 葉 を つ くりた い、 言 葉 を 生 み 出 した い とい う意 味 で の 「
語 りたい 」 で す。 しか し一 方 で、 「
語 れ な い 」、
あるい は もっと言 えば 「
語 りた くない 」 とい うの は、 告 白とい う形 で語 りた くな い 、 とい う気 持 ちを表 してい
ます。
7お
わ りに
そ ろそ ろ、 まとめ てみ ます。 性 の話 を しな が ら、最 後 に誘 惑 とい う動 詞 に た どりつ きま した。 セ ックス と
誘 惑 は きっても切 れ な い 関係 に あ ります。 で もそれ だ けで は な い と思 い ます。 あ らゆ る領 域 に誘 惑 が潜 ん
で い るか らです。 そ の ような 領 域 の ひ とつ に学 問 があ ります。繰 り返 しにな ります が 、学 問 とい うの は 知 識
の伝 達 ・継 承 に留 ま りませ ん 。 そ れ 以上 の実 践 で す。 そ れ はまさに誘 惑 です。 この誘 惑 に皆 さん もぜ ひ乗 っ
て ほ しい 。 もしか した ら私 の ように誤 った 道 に入 って、 言 い わ けを してい るとい うこともあ るか もしれ な いで
す けども、 そ うい うことを恐 れ ない で、 誘 惑 され た り、 したりす る ことを 楽 しん で ほ しい と思 い ます。 誘 惑 が
お もしろい の は、主 客 が逆 転 す るところだと言 い ました。 つ ま り、大 学 で 学 問 を行 う私 たち は、教 師 も学 生 も、
この誘 惑 の世 界 で は一 方 通 行 的 な 関係 は存 在 しない とい うことで す。 お 互 い に誘 惑 す る(学 び 合 う)世 界
こそ が大 学 の 理 想 です し、 その 理 想 に近 い のが 研 究 に専念 できる人 たち が集 う附 置 研 究 所 だ と思 い ます。
以 上 で す。 ご清 聴 あ りが とうござ い ました。
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