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台湾・オーストラリア

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台湾・オーストラリア
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・なぜ台湾を視察したのか 02
・訪問先とスケジュール 03
・台湾の被疑者取調べの録画・録音制度の概要 04
・なぜ台湾で録画・録音制度が立法化されたのか 04
・被疑者取調べへの弁護人立会いについて 05
・驚きの警察の取調室 06
・取調べの録画・録音のための設備 07
・法廷のような検察官の取調室 08
・取調べの録画・録音に対する警察・検察の評価 09
・台湾の調書の作り方 09
・日本と台湾の身体拘束手続の違い 10
・取調べの全過程を録画・録音しなければ効果半減 11
・取調べの録画・録音は真実発見のためにも必要 12
・台湾視察で分かったこと 13
・オーストラリアの場合(先進的な取調べ録画・録音システム) 14
・ニューサウスウェールズ警察・被疑者取調べの電磁的記録システム(ERISP) 14
01
これまでわが国に紹介された取調べ録画・録音制度を導入した国としてはイギリスが
中心であり、その他西欧諸国が紹介されることが多かったように思われます。ところが、
台湾でも被疑者の取調べの録画・録音制度があることを知りました。
台湾では、特に警察での取調べが虚偽自白を生じさせるなどの問題が明らかになった
ことで.まず1982年に被疑者取調べへの弁護人立会制度が作られ、さらに1998
年には、被疑者取調べの録画・録音制度が導入されました。
そこで、録画・録音制度導入の際台湾ではどのような議論がなされたのか、現在どの
ような方法で実施しているのか、さらに警察・検察・裁判所・弁護士会は録画・録音制
度に対してそれぞれどのような意見を持っているのかなどについて、刑事手続関係者か
ら聞き取り調査をするため、日本弁護士連合会のr取調べの可視化実現ワーキンググル
ープ」の有志で台湾を訪問することになりました。今回視察に参加したワーキンググル
ープのメンバーは以下の7人です。
団長・小坂井久(大阪弁護士会)、小川秀世(静岡県弁護士会).山下幸夫(東京弁
護士会)、秋田真志、財前昌和、南郷誠治、小橋るり(以上4人とも大阪弁護士会)
ちなみに現在ワーキンググループで
弁護人立会
テープ録音・ビデオ録画
把握している取調べの可視化の実施国
は右の表の通りです。この表を見るだ
けで、被疑者取調べに弁護人の立会い
イギリス
○
○
アメリカ
○
一部の州で○
フランス
○
○(少年事件)
ドイツ
○
×
イタリア
○
○
オーストラリア
○
台湾
○
○
韓国
○
×
日本
X
×
も録画・録音も認めていない日本がい
かに遅れているか一目瞭然です。
なお、韓国でも既に被疑者取調べへ
の弁護人立会が認められており、ワー
キンググループでは、3月10日から
○(一定の犯罪)
13日にかけて韓国を訪問しました。
韓国視察の報告も近々出す予定です。
02
2004年1月4日から7日にかけて以下の訪問先を視察しました.急きょお願いし
たにもかかわらずいずれの訪問先でも非常に歓迎していただき、こちらが恐縮するほど
でした。また、視察実現に当たっては、三井誠神戸大学教授.陳運財台湾・東海大学法
律系教授に大変お世話になりました。
中華民国内政部警政署刑事警察局(日本の警察庁に相当)
5日 午前
午後 台北市警察局中山分局(日本の警察署に相当)
台北地方法院検察署(東京地方検察庁に相当)
6日 午前
法務部検察司(法務省刑事局に相当)
午後
台北地方法院(東京地方裁判所に相当)
7日 午前
台北律師公会(東京の3つの弁護士会に相当)
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黙
03
台湾では、1998年に刑事訴訟法の改正が行なわれ、被疑者の取調べの録音・録画
制度が法制化されました。具体的には以下のような規定が設けられています。
■ 台湾刑事訴訟法第100条の1
①被告人取調べにあたっては.全過程を連続してテープ録音しなければならず、必要が
あるときには、全過程を連続してビデオ録画を同時に行わなければならない。ただし、
急速を要する状況がありかっこれを調書に明記した場合は、この限りでない。
②調書に記載された被告人の供述がテープ録音または録画の内容と符合しない場合には、
前項但し書きがある場合を除いて、その符合しなかった部分は証拠とすることができな
い。
(注)この条文はr被告人」となってい
ますが、台湾では検察官に送致された
時点でr被告人」と呼ばれるためです。
\
そしてこの規定は警察段階でのr被疑者」
にも準用されます(台湾刑事訴訟法
第100条の2)。
\顧.懸繭
巳玉響曇空塑竺逆㌧…
今回の視察旅行をコーディネートしてくださった陳運財教授の論文によると、立法化
されるに至るまでには以下のような経過をたどったようです。
台湾では1970年代に既に捜査当局内部から、取調べ過程を録画・録音することに
よって公判での被告人による自白の任意性の争いを減少させることが提案されていました。
1977年8月、当時の司法行政部(現在は法務部)は、 r検察官は、重大事件につい
て必要と認める場合には、職権で捜査手続きの全部または一部を録音させることができる。
04
当事者は取調べが行なわれる前に、検察官に対して録音機の使用を申し立てることがで
きる」という内部訓令を発しています。
こうして検察実務で始まった取調べ過程の録音は、その後1970年代後半から警察
でも行われるようになりました。
そして1990年4月には、法務部は新たな内部訓令を発して、取調べを録音すべき
事件の範囲をr重大事件』からrすべての刑事事件」に拡大し、また、録音の実効性を
担保するため、取調べの全過程を録音することなどの録音方法を明確化するとともに・
重大な事件やその他の事件については、検察官が必要と認めた場合には全部または一部
をビデオ撮影することを定めました。
このように台湾では捜査当局の側が取調べ過程の録画・録音に積極的だったというこ
とが日本との比較において非常に興味深いものがあります。ただ、実際には法務部の内
部訓令に違反して、録音する事件を選別したり、捜査機関が重要と判断した部分だけを
部分的に録音する事態がしばしばあったようです。
そのため1998年1月、議員の提案によって、刑訴法第101条の1が設けられ、
取調べ過程の録画・録音制度が立法化されるに至りました。
1982年には被疑者取調べに弁護人の立会いが認められ.2000年には、それま
で争いのあった、取調べに立ち会った弁護人の意見陳述権が明文化され、現在では以下
の条文が刑事訴訟法に設けられています。
■ 台湾刑事訴訟法第245条2項本文
被告人または被疑者の弁護人は、検察官または検察事務官、司法警察職員による被
告人または被疑者の取調べに立ち会って意見を陳述することができる。
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覧
■
一
『
05
訪問した警政署刑事警察局と中山分局では、取調室を見学させてもらうとともに、警
察官の方々と懇談する機会を持つことができました。
そこで見た取調室は驚きでした。下の図がある取調室の見取図ですが、周囲の壁には
事故防止用のラバーのようなものが貼られ、天井の一角には、被疑者が供述する様子を
撮影するためのビデオカメラが設置されていました(4頁の写真参照).最近街角によく
ある監視カメラのような小型のものです。録音用の集音マイクは机の下に見えないよう
に設置されています。
とても’」曲集音マイク・
録画用カメラ・監視力 机の下に見えないように
メラのようなものでし 設置していました.
た。
カメラで録画し
ている被疑者
が映し出された
モニタ
マジックミラー
になっている.
況を見るための
カメラは被疑者の顔と
上半身しか撮影して
モニタ
いませんでした。
廊下で取調ぺ状
録匿録音
用の機器
立ち会う
弁護人の
席
この机の下に集音用のマイクが
取り付けられていました。
06
取調室の横には録画・録音の機器とそれを操作する警察官のための小部屋があり、そ
こにあるモニタにカメラが撮影している画像が映り、また、マジックミラー越しに取調
室内の様子を見ることができます。弁護人の立ち会いは、取調室内の被疑者のすぐ横の
イスに座る場合と外の廊下の壁にあるモニタ越しで見守る場合があるようです。
こうした設備が全国の警察署に完備されているわけではないようですが、それでも日
本の閉鎖的な取調室との違いは、歴然としています。ただ、ビデオカメラが被疑者の顔
と上半身しか撮影していない点は視察団には不評でした。日本で導入する際には、被疑
者と取調官の両方の様子を撮影する必要があるでしょう(後で紹介しますが、オースト
ラリアではそうしています)。
一、“
、
一/一『
ビデオカメラには被疑者の顔と
上半身しか写りません。
\、.
、\
マジックミラーとなっており、
向こうの取調室からこちらの部屋
は見えません。 1
又 _ノ
20四! ]! 5
07
台北地方法院検察署では、検察官の取調室を見学しましたが、まるで小さな法廷のよ
うな部屋でした。検察官は法壇のような高い位置から被疑者を取調べ、その横に検察事
務官の席があり、そこに録画・録音用の機器がありました。弁護人の席は被疑者の席か
ら少し離れた後ろの方にありました。さらに驚いたのは、全国の拘置所や刑務所と検察
官の取調室がネットワークで繋がっていて、遠隔地にいる共犯者の取調べは、モニタを
通じて行なっているということです。拘置所職員との会話を実演してもらいましたが、
テレビ電話のような感じでした。調書については、検察官の取調べから拘置所等にファ
ックスを送り、それに署名指印したものをとりあえずその場でファックスで送り返させ、
原本は郵送させているとのことでした。
録音中であることを示すランプです。
被疑者はここに立って取調べを受ける
ようです。
、騒
饗
諏
驚
睡
一
律師(弁護人)が立ち会う際の席。
被疑者の立つ位置。
08
警政署刑事警察局と中山分局では警察官と懇談をする機会があり、また、警察官や検
察官との座談会のたびに、 r取調べの録画・録音によって何か支障が生じていないか」
と質問しましたが、誰もが、 r録画・録音されていることをそれほど被疑者は意識して
いない」 r録画・録音することはそれほど手間ではない』 r被疑者が答えるのに慎重に
なったが、その方がより正確である」との回答でした。実際に警察の取調室を見ても、
録画用カメラも録音用マイクも被疑者が意識しないよう配慮して設置されており、また、
録画・録音のための操作は別室で取調官以外の警察官が行なっており、取調べには支障
がないものと思われました。
ただ警察の取調べでは、刑事訴訟法の通り取調べの最初から録画・録音しているわけ
ではなく、調書を作成し始めてから、または、作成した調書を読み聞かせし始めてから
録画・録音を開始していることが多いようでした。明らかに前述の刑訴法に違反してい
ると思えたので、その点をどう考えるかと検察官に質問したところ、r警察で暴行を受
けたりすれば検察官に訴えることができるし、それが録画・録音されるので問題はない」
との回答でした。しかし刑訴法との関係について警察でも検察庁でもきちんとした説明
を受けることができず、疑問の残った点です。なお、検察官の取調べでは、法律に従っ
て取調べの最初から全部録音しているようでした。
台湾では、調書に取調べ開始時間や終了時間を記載しています。また、何回目に作成
された調書であるかも記載しています。こうした記載は取調べ状況を客観化し事後的に
検証可能なものにする工夫と言えます。日本では調書にはこうしたことは全く記載され
ておらず、取調べが何時間だったのか、何遍調書を作ったのかすら捜査側は明らかにし
“
調査筆録
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ここに回数が書かれる。
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ょうとしませんから、雲泥の差です。
さらに、調書は基本的に一問一答形式で作成しているようで、被疑者が自分で書いた
かのような形式を取っている日本の物語形式とは違います。
こうした点も日本の捜査当局に是非見習って欲しいところです。
一一一
A一
ここに開始時間.終了
時間が書かれる。
台湾の被疑者の身体拘束手続の流れは以下のようになっています。
捜査実務上、逮捕段階の24時間のうち警察が16時間、検察官が8時間、それぞれ
被疑者取調べに使うという扱いになっています。日本の場合、逮捕後48時間以内に警
察は事件を検察官に送らなければならず、検察官は受け取って24時間以内に勾留請求
をするか釈放するかを決めなければなりません。この点で台湾は逮捕段階の時間が短い
と言えます。
勾留期間については.日本の場合は原則10日間で、更に10日間の延長が可能とな
っていますから、台湾の方が勾留期間が長いようです。ただ台湾には日本と違い起訴前
での保釈がありますので、一概に比較できません。
また、日本の場合は勾留中も警察が取調べを行ない、毎日取調べをすることもありま
すが、台湾では勾留中は警察は取調べを行なわず、検察官も他の捜査をしながら被疑者
取調べをしているため、被疑者取調べを毎日することは少ないようです。したがって、
台湾の方が勾留期間が長いからといって取調べ時間が長いわけではないようですし、よ
り強制の要素が強いとはいえないと思われます。
いずれにしても、日本と台湾の身体拘束期間の長さの違いが、日本で取調べの録画・
録音制度を導入しない理由にならないことは明らかです。
︷
原則2か月
更に2か月の
24時間
延長可能
16時間・警察
8時間・検察
逮 捕
起訴・不起訴などの
勾 留
処分決定
囮
起訴前での保釈
10
台北地方法院では、トップである林院長(東京地裁所長に相当)を交えて、刑事裁判
を担当している裁判官と懇談しました。
そこでは、取調べの録画・録音が立法化され公判の審理がどう変わったかを中心に質
問しましたが、取調べの録画・録音によって任意性の立証方法が変わった、自分が担当
した事件で任意性を否定したケースもあるとのことでした。ただ、任意性を争う数その
ものはそんなに減っていないという印象で、その背景には、警察が最初から取調べを録画・
録音していないことがあるのではないかとの意見もありました。実際、警察署が録画・
録音する前の段階で暴行を受けたと被告人が主張するケースもあるようでした。
捜査側が取調べの全部ないし一部を録画・録音しなかった場合の調書の証拠能力につ
いても質問しましたが、裁判所の判断は様々で、最高裁は当然には否定しないという判
断を示しているが、現場の下級審裁判官は必ずしもそれに従っているわけではない、一
部録画・録音されていないために証拠能力を否定したこともあると、自信に満ちた発言
をされる裁判官もいました。
台湾の裁判官の経験は、取調べの全過程を録画・録音しなければ調書の任意性をめぐ
る争いは減らないこと、捜査側に全過程を録画・録音させるために、一部しか録画・録
音しなかった場合には証拠能力を認めないという制度にすべきことを示しています。
懇談会参加の
台北地方法院
の若手刑事裁
判官です。
11
弁護士会での懇談会では、台北律師公会の顧理事長を始め多数の役員方々に参加して
いただきました。
懇談会では、警察が取調べの途中からしか録画・録音していないことや弁護人立会い
を妨害することがあるなど、生々しい実態を聞くことができました。出席した弁護士自
身が、立ち会おうとしてネクタイをつかまれたことがあるとか、録画・録音されたもの
を証拠に使って、あるいは部分録音の不自然さを指摘して自白の任意性を裁判所に否定
させたことがあるなどの体験談も聞けました。
取調べの録画・録音制度を導入する前にどういう反対意見があったのかを質問したと
ころ、予算や手続の面倒さを理由とする反対はあっても、日本のようにr録画・録音さ
れると被疑者が真実を話さなくなる』という反対論はなかった。むしろ、録画・録音を
すれば、調書が本当に正確かどうかというr真実」が明らかになるというとらえ方がな
されたと発言されたのが印象的でした。その他、立会いの際の苦労話など刑事弁護の実
情を聞くことができ、非常に有意義な懇談となりました。
台北律師公会の会館フロアーで記念撮影。
前列右から2人目が顧理事長です。
12
今回の台湾視察によって、警察・検察・裁判所・弁護士という刑事手続に携わる様々
な立場の方々から貴重な意見を聞くことができました。台湾の進んだ制度や設備に驚く
とともに、日本の後進性を改めて痛感する視察となりました。
今回の視察に参加した私たちの結論は以下の通りです。
○ 取調べに携わっている警察官・検察官の発言にある通り、録画・録音しても取調べ
には支障はありません。台湾のような設備を作れば、被疑者がカメラやマイクを意識し
て供述しないという心配は払拭できます。また、取調官が録画・録音のための捜査に手
間取ることも避けられます.予算の問題が反対理由にならないことは言うまでもありま
せん。
○ 録画の方法については、被疑者の顔や上半身だけでなく、被疑者と取調官両方の姿
も撮影すべきです。複数の角度から撮影しているオーストラリアの実践例などを参考に
すべきでしょう。
○ 取調べを録画・録音することは、真実発見という点でも、違法な取調べの防止とい
う点でも効果があることは台湾でも認められていました。ただ、実効性を図るためには
取調べの全過程を録画・録音することが必要不可欠です。部分的な録画・録音では、自
白調書の任意性をめぐる争いが減らないことは台湾でも実証済みです。
○ 台湾でもそうであったように、取調べの全過程の録画・録音を義務付けても捜査機
関がそれに違反することは十分予想されます。それを許さないように、取調べの全部ま
たは一部を録音していない場合は供述調書の証拠能力が否定される規定を設けることが
必要不可欠です。
0 台湾と日本では.被疑者の身体拘束手続など刑事手続に違いがありますが、そうい
った手続の違いを理由に日本で取調べの録画・録音制度を導入することを拒むことなど
はできません。
13
オーストラリアでも、取調べの録画・録音システムが実現しています。
オーストラリアでは、1990年代初頭に、高等法院(オーストラリアの最高上訴裁
判所)によって、取調べ全過程の録画・録音がなされていない自白には、原則として・
証拠能力がないとするいくつかの判決が出され、微罪事件をのぞいて、取調べの全過程
が録画録音されるシステムが作られました。
シドニーなど、オーストラリアの中心都市があるニューサウスウェールズ州では、警
察における取調べでE.R.1.S.P(Electronic Recording of Interviews with Suspected
Person被疑者取調べの電磁的記録)というシステムが整備されました。
ERISPシステムでは、2種類の記録装置が使われます。取調室では、録画と録音が一体
になっているrハイブリッド・レコーダー」が使われます。コンパクトカセットのマス
ター録音テープを3本と、VHSフォーマットのマスター録画テープが1本同時に作成され、
改ざんが防止されます。
ERISPでは、録音された3本のマスターテープのうち1本は、取調べ終了後ただちに被
疑者に渡されることになっています。
取調室では、取調官と被疑者の位置があらかじめ決められており、取調べを受けてい
る被疑者のアップ映像と、取調官を含めた取調室全体の映像が同時に録画されます。こ
のため、取調べ全体の様子を検証することができます。
取調室(模擬取調べ)
左が被疑者役
右の取調官の奥に見える銀のケースが
ハイブリッド・レコーダー
(写真提供ニコラス・カウデリー・
ニューサウスウェールズ州検事総長)
14
/
㌧
、
、
\ 、
/
、
/
’
’
、
、
/
1一イニ
/
ノ
で捉える
’
カメラの真正面1 /
警察官席
広角レンズ
\
\
、
広角レンズ
被疑者席 /
\
警察官席
\一 、
、
一 1一 ■ 一
マイ
で捉える
,ノんグ
\ 、、
ERISP
ハイブリッド
システム
ERISPハイブリッド録画のイメージ図
:取調室全体と被疑者のアップの双方が録画される。
(IBA(国際法曹協会)報告書r日本における被疑者の取調べ一電磁的記録の導入」 (2003
年12月)より)
15
携帯用取調録音機
(写真提供:ニコラス・カウデリー・
ニューサウスウェールズ州検事総長)
一
尊fr
現場など、取調室以外で取調べが実施される際には、録音のみの携帯システムrトリ
プル・オーディオ・システム」が使われます。
このシステムでは、オーディオカセットのマスター録音テープを3本同時に作成され
ます。
ニューサウスウェールズ州では、ERISPの導入以後、取調べにおける警察官の不適切な
行為に対する抗議申立が激減し、裁判でも、そのような申立に対処するために費やす時
間が減りました。
他方、録画・録音導入後も、電磁的記録を拒否する被疑者は非常に少なく、依然とし
て自白は行われているといいます。そして、導入以前より、かえって、有罪答弁が増え
たのです。ERISPは、ニューサウスウェールズ州の警察をはじめ、すべての司法関係者か
ら高く評価されています。
このようなオーストラリアの経験からも、日本の取調べにおける録画・録音を拒否す
る理由がないことは明らかです。
16
台湾・オーストラリア
取調べの録画・録音の実情
日本弁護士連合会
〒100−0013
東京都千代田区霞ヶ関1−1−3 TEL O3−3580−9841
URL http://www,nichibenren.or、jp/
FAX O3−3580−2866
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