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日本災害情報学会 「第3次デジタル放送研究会」 第2回現地視察調査報告

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日本災害情報学会 「第3次デジタル放送研究会」 第2回現地視察調査報告
日本災害情報学会
「第3次デジタル放送研究会」
第2回現地視察調査報告
■テーマ:局地的雨風観測と防災の研究最前線
平成 21 年 7 月中国・九州北部豪雨、群馬県館林市の竜巻発生をはじめ、このと
ころ不安定な大気の状態に因る異常な災害が続いている。昨夏の「ゲリラ豪雨」以
来、やはり気象・水文観測技術の進展により改善された情報こそ、水・土砂防災の
ベースを担うのではないかという切り口から、つくばの 3 研究所の協力を得、局地
的な大雨・突風などの観測・予測の現状と今後の実用化の見通し、そして、防災・
減災に資するためにどう伝えようとしているのかなどの研究最前線の解説をうかが
い、あわせて各研究所の施設を見学した。
■開催日:2009 年 8 月 24 日(月)
時 刻
視 察 先
№
10:00~12:00
第一部:
国土交通省国土技
術政策総合研究所
1
ゲリラ豪雨対策
2
CommonMP プロジェクト
3
平成 21 年 7 月中国・九州北部豪雨による土
砂災害への対応
4
施設見学(河川水理実験施設、下水道水理実
験施設)
5
MP レーダによる土砂・風水害の発生予測研
究プロジェクトの全容
6
雑司ヶ谷の都市型水害
7
北関東での雷雲観測
8
道路浸水深計の概要紹介
9
館林の竜巻突風災害
10
施設見学(MP レーダ処理施設)
11
GPS による大気計測の原理、GPS の数値予
報への同化法、豪雨予測への適用例の紹介、
今後の研究計画
12
施設見学(大型気象風洞実験施設、低温実験
施設)
13:00~15:00
15:30~17:00
■参加者:藤吉
(敬称略) 大谷
田代
長屋
萩原
福長
三島
第二部:
独立行政法人防災
科学技術研究所
第三部:
気象庁気象研究所
内
容
洋一郎(大妻女子大学教授・代表)、天野 篤(アジア航測・幹事)
、
周(国土技術政策総合研究所水害研)
、
大輔(気象キャスターネットワーク)
、中村 功(東洋大学教授)
、
和宏(国土技術政策総合研究所地震防災研)、西村 真一郎(朝日放送社友)
、
健太(富士通アドバンストエンジニアリング)、
秀彦(NHK 放送文化研究所)
、前田 哲良(都立南平高等学校教諭)
、
和子(セコム IS 研究所)
1
No.1
第一部 国土交通省国土技術政策総合研究所(10:00~12:00)
報告:セコム IS 研究所
1.国総研所長
三島 和子
西川和廣氏ご挨拶
「国土交通省の研究所では政策立案などソフト対策を中心に扱っている。ハード対策は土木
研究所で行っている。本日はわざわざお越し頂き感謝申し上げる。当研究所の研究内容につき、
理解を深めていただければと願っている」
2.研究説明
河川研究所河川研究室長 服部敦氏
テーマは以下の3つ。(別紙配付資料)
①ゲリラ豪雨
②CommonMP
③中国・九州北部豪雨
①ゲリラ豪雨(河川研究所河川研究室長
服部氏)
豪雨の 2 要件は、短時間に急激に成長すること、および狭い範囲に集中的に降ること。東京
では内水被害が増加し、1993 年からの 10 年で被害額は約 1000 億円にも達している。都市機
能が麻痺する例も出ている。
豪雨を正確に捉え、迅速な初動体制と施設の整備を目指すため新型レーダを開発した。
2
現状の局地豪雨の監視体制
C バンドレーダによる局地豪雨監視を行
っている。メッシュサイズは 1 ㎞、更新間
隔は 10 分。広い範囲を瞬時に観測できる
のが強みだが、更新間隔が長く、急激に発
達して多量の雨をもたらす局地豪雨を捉え
るには不十分。また、雨量の補正に使用し
ているアメダス地上雨量観測網(雨量観測
所があるところ)は、正確な雨量観測がで
きるが設置間隔が粗く、小さいスケールの
局地豪雨の発生や雨域の状況を正確に把握
するには不十分。
→ 局地豪雨に対応した観測体制が十分に
整備されておらず、まだ改良の余地がある。
MP(マルチパラメータ)レーダによる豪
雨監視体制の強化
X バンドを使用。C バンドより波長が短
く解像度が高い。同じ局地豪雨でも、MP
レーダでとらえた観測図は C バンドレーダ
のそれよりはるかに詳細に捉えられている。
複数レーダで取り囲み、見逃しがないよ
うに工夫している。
平成 22 年度の導入予定:中国東部2基、
中国西部2基、九州北部4基、九州南部1
基、中部(静岡)3基、東北1基。
MP レーダ観測の問題
・ 降雨減衰による雨量推定精度の低下
降雨により電波強度が著しく減衰し、精
度が低下。C バンドレーダとの連携による
雨量推定などで対応。
・ 狭い観測範囲
C バンドの波長は 120 ㎞ほど捉えられる
のに対し、X バンドは 60 ㎞程度。複数台
の MP レーダのネットワーク化により、観
測可能範囲を拡大する方法を採用。
3
豪雨監視体制の強化
豪雨対策には、大きく 3 つある。
①流域対策:都市部などではアスファルト
に雨水がしみこまないので、貯留浸透施設
を設置するなど流域でできるだけ雨水をた
めこむ
②施設整備・運用:河道、下水道整備や貯
留施設の整備、整備施設の運用
③避難方策:情報周知、避難態勢、水防活
動
避難方策の強化
豪雨監視情報は次の 3 つに役立てたい。
①豪雨監視、②移動予測(現在のことは分
かるが、将来は早めの避難対策のために不
可欠)、③浸水予測(どこでマンホールがあ
ふれそうか、も)
この 3 つについてのアプリケーションを
今年度中めどに開発中。
「雨量監視システムの構築」
「移動予測システム構築」
「浸水予測情報の配信」
Q&A
Q:防災科研の X バンド MP レーダの観測
は確か 5 分ごと。1 分ごとにデータ更新す
るのは詳細だと思うが、その違いは何か。
A:MP レーダは雲を立体的に把握するこ
とができ、防災科研は三次元でボリューム
スキャンしているので時間がかかるが、こ
ちらは地上ぎりぎりの降水量にフォーカス
するので可能となる。
Q:X バンドで全国をカバーするには膨大
な数のレーダが必要ではないか。
A:C バンドとうまく連携していくことを
考えている。また、技術開発も併せて行っ
ていく。都市部に被害集中しているので、
3 大都市圏から順次導入。
Q:近年の土砂災害は 100 年来土砂災害が
起こっていない地域で起こったものが 9 割
と聞いた。導入地域に過去の災害歴なども
加味されるのか。
A:土砂災害危険箇所など砂防区域にも導
入していく予定である。中国、九州北部に
は 22 年度中に導入予定。
4
Q:土砂災害警戒警報にも活用されるようになるのか。
A:将来的には有効活用したいと考えているが、開発段階のためまだ何とも言えない。
5
No.2
②CommonMP(河川研究所河川研究室長
服部氏)
日本の河川のデータ、ソフトの現状と課題
各社のエンジン、各社のソフト互換性のな
いデータがその都度ばらばらの構造で作られ、
汎用化されていないこと。
そのため、水理・水文モデルの研究開発が
低迷している。
河川技術者にとっては、自ら水理・水文分
析を行う機会が減少し、河川技術者の技術力
の低下、河川データの質の低下が悪循環とな
っている。
海外の水理・水文解析ソフトの状況
・欧州:OPEN MI(Open Modeling Interface
and Environment)
・ 米 国 : OMS ( Object-oriented Modeling
System)
共通プラットフォームがある。
過去日本でも京大の椎葉先生が中心となっ
て OHyMoS(オハイモス)という共通プラッ
トフォーム型ソフトが 1990 年代前半に作成
された。技術者・研究者はプラットフォーム
につなぐだけで自分の行いたい計算やほしい
データが取得出来る仕組み。
しかし、物質循環モデルだけではなく、
「水・物質循環解析ソフトウェア共通プラッ
トフォーム」の開発が望まれており、それに
より研究開発の活性化に寄与する。
6
CommonMP の検討対象範囲
水循環の複雑系のうち、3 年程度を目安と
して雨水流出や河道水理を中心とした水理・
水文量の解析を対象として開発する。
平成 20 年度はプロトタイプを開発した。
7
共通プラットフォームの特徴
GUI(Graphical User Interface)、ユーザ
が使いやすいソフトを目指す。
http://framework.nilim.go.jp/
で試作版を見ることが出来る。意見、バグ出
し作業中。
8
Q&A
Q:プログラム言語は何か。
A:C#を使用している。既存の FORTLAN
とのラッピング(互換性?)も検討している。
9
No.3
③中国・九州北部豪雨(危機管理技術研究センター砂防研究室長
小山内信智氏)
資料の表紙写真は衛星
「だいち」から撮った衛
星画像。印刷の関係で少
し見づらいが、土砂の崩
壊がいたるところで起こ
っている様子がうかがえ
る。
崩壊分布図
防府市の北側に崩壊が
集中している。赤枠で囲
った部分が徒歩で調査し
た箇所。
あまり話題になってい
ないが、防府市内で 100
カ所以上の集落に影響が
ありそうな土石流が発生
した。報道では真尾地区
の土石流が多く取りあげ
られた。
10
地質図 土地分類基本
調査:防府、1969
地図上ピンクで示され
ているところが、花崗岩
質岩石。今回の被害地域
に重なっている。
11
土砂移動実績 2 日間雨
量、地質図の重ね合わせ
黒い線は累積降雨量を
表している。同じ降雨量
でも、花崗岩質の地域で
災害が多発していること
が分かる。
平成 21 年 7 月中国・九
州北部豪雨により生産
された土砂量について
およそ福岡ドーム 1.3
杯分の土砂が発生。
ライフケア高砂では石
礫はほとんど見られない。
石礫は上流で止まり、細
かい土砂が侵襲してきた
ようである。
7/21 の降雨の状況(国
土交通省真尾観測所)
21 日早朝から強い降
雨。
「ふた山降雨」であり、
二つ目の山で災害が発生
した。
12
7/21 のスネークライン
7 時過ぎに土砂災害警
戒情報が防府市に入った
が、すでに防府市防災担
当は現場からの報告など
で混乱しており、警報を
全く認識することができ
なかった。
スネークラインが分か
る人が見れば、この雨の
降り方が危険であること
が一目瞭然。誤報の可能
性は低く、逃げるべき災
害であったと考えている。
13
14
15
砂防施設の効果(防府
市剣川)
砂防えん堤が土砂や
流木を受け止め、下流
への土砂流出を抑制し
た。砂防えん堤として
は一定の機能を果たし
た。一部の報道で「砂
防えん堤が壊れた」と
書かれたが、砂防えん
堤で破壊されたものは
1 つもなく、治山ダム
で壊れたものがあった。
剣川下流への細粒土
砂と流木の流出状況
剣川本川下流域では
不安定土砂を処理する
必要が生じている。こ
のままでは降雨のたび
に土砂が流出するため。
山口県防府市の八幡
谷川の砂防えん堤の
効果
ジャングルジムのよ
うな形がスリットタイ
プの砂防えん堤。最近
は、流木が橋梁に引っ
かかって川がせき止め
られ、あふれるという
災害形態が増えている
ため、こうした形状の
砂防えん堤のニーズが
高まっている。
16
Q&A
Q:スネーク曲線の情報提供は、観測されてから 20 分強のタイムラグがある。
Q:防府市内では 100 箇所以上で土石流が発生したとのこと。今回被害を受けなくても、危な
かった集落もあると思う。そうした集落への普及啓発はどのように行われているのか。
A:集落によっては、ぱらぱらと土砂が落ちてきたりして、ある程度住民の皆さんには自覚が
できたのではないかと思うが、下から見ると分からず、ヘリで見なければ非常にわかりにくい
現場が多いのは事実。しかるべき機関がこうした現実について情報提供するべきだと思う。
Q:土砂災害警戒情報を住民はどのように受け止め、理解しているだろうか。
A:住民も、市町村担当者も自分の問題と受け止めていないのが最大の問題。情報はいろいろ
出せるようになったが、これらを有効活用していくためには、地道に教育的活動をしていくし
かないように思う。
Q:今回の土砂災害発生箇所数は土砂災害警戒区域の中でどの程度の割合を占めるのか?
A:危険渓流と把握されているところ 105 箇所中で土石流が発生しているので、非常に高い確
率で発生した。稀有な事例だと思う。
17
大規模災害時の市町村の体制上の課題等
(「NHK の取材対応用に作成したペーパーで、誤解の無いように丁寧に話したが、実際の番組
では 10 秒程度しか紹介されなかった」とのこと。災害対策上非常に重要なポイントがまとめ
られているので転記)
□大規模災害時の市町村の体制上の課題
・ 大規模災害は、毎年のように起こるものでないため、それに専任的に対応する職員を確保
しておくことが困難。
・ 実際に災害が発生したときに、通常業務以外で発生する多くの事象に対して対応する職員
を即時に集めることは、小さな組織のパイの中では困難。
・ 行政は、発生する事象に対して、順次対応していかなければならないため、災害現象が多
数になり、業務がオーバーフローしてしまうと、対応の優先順位を判断することも困難に
なる。
□土砂災害対応に関する2つの難しさ
・ 土砂災害は「最後に起こる災害」である。まず、大雨警報が発表され、さらに強雨が続い
た場合に、重要変更として「土砂災害警戒情報」が発表される。つまり、浸水、内水氾濫、
洪水、道路のり面の崩壊、等が発生し、職員が対応に忙殺されるようになった後に土砂災
害が発生する。そのため、土砂災害への十分な準備が困難。
・ 土砂災害は「見えにくい災害」である。洪水の場合は、水が溢れなくても、堤防の上端近
くまで水位が上がれば災害の切迫性が理解できる。しかし、土砂災害の場合は、土砂災害
警戒情報が発表されたとしても、自分の家の裏山が必ず崩れるわけではないため、何も起
こらず、情報が「はずれた」と感じることが普通である。しかしながら、それは「危険」
が 0%だったのではなく、斜面内の地下水位は間違いなく上昇しており、災害発生条件の
99%まで達していたが、運良く 100%に達しなかったと考えるべきである。
□危険区域内の住民の方の心構え
・ 災害時の安全確保に関して、行政が全ての面倒を見てくれると考えるべきではない。入手
できる情報を元に、自分自身で判断を行おうと思っておくべきである。
土砂災害警戒情報は、自分の家の裏山に関しては「はずれる」場合が多いが、「オオカミ
少年」的な受け止め方をすべきではない。次は「100%」に達してしまうかもしれない。
18
No.4
④施設見学
河川水理実験施設
「2004 年新潟・福島豪雨で氾濫した刈谷田川洪水再現実験デモ」
スケールは、およそ 1/40。川の流れるスピードは、およそ 1/10。
実験開始
→徐々に川
の水位が上
がり、堤防
越水→破堤
の過程がま
ざまざと再
現された。
実験施設
とはいえ、
急激な水位
と流速の上
昇には恐怖
感を覚える。
破堤後はみ
るみるうち
に住宅街に
浸水が広が
り、川の水
位が急激に
低下してい
く様が見て
取れた。
19
20
写真1 刈谷田川の普段の
姿
写真2 刈谷田川の普段の姿
を見つめる見学者
写真3 水量を増やし、人工的
に破堤を起こす
21
写真4 破堤箇所アップ。
みるみるうちに住宅地に浸水
下水道水理実験施設
「マンホールアクリル管路模型実験デモ」
大量の雨水が下水に流れ込むことにより、マンホールの蓋が飛ぶ事象を再現。
高知県でマンホールの蓋が外れ、通行人が穴に落下して死亡する事例が発生。40 キログラム
もあり、頑丈に打ち付けてあるはずのマンホールの蓋がなぜ外れるのか?再現実験の結果、急
激に下水管に流れ込む雨水が大量の空気を巻き込み、空気銃の原理で下水管の空気を圧迫する
ためだと判明。TBS のテレビ番組でマンホールの蓋を使った実証実験を視聴。その後のデモで
は、4000 キロリットル(実験漕にためるだけで 15 分かかるという)の水を一気にアクリル管
に流したところ、数十秒でマンホールに見立てた穴の発泡スチロールのボールが空気圧で吹き
飛ばされるさまが確認できた。
どこから何が吹き飛ばされるか事前に示されなかったため、参加者一同度肝を抜かれた。
写真5 水理実験施設から河川研究室に移動
写真6 マンホールのフタ飛び実験施設
22
写真8 フタが空圧で飛び、一瞬の間の後に水が猛烈な勢いで噴き出す。
以前放映された TBS の TV 番組のVTRで確認
写真7 実験用の 1500 リットルの水をためる貯
水槽(青い槽)
写真9 下水管に見立てたアクリル管
写真10 フタ飛びのメカニズムを説
明いただく。「空気銃の原理」で皆
納得。
23
日本災害情報学会
「第3次デジタル放送研究会」
第2回現地視察調査報告
No.5
第二部 独立行政法人防災科学技術研究所(13:00~15:00)
報告:アジア航測株式会社
1.防災科研理事長
天野 篤
岡田義光氏挨拶
「今日は当研究所を訪ねていただき感謝している。自然災害全般を研究の対象にしているが、
全国の地震観測や兵庫の大型震動台など地震災害関係の予算が大きい。次にいま期待をかけて
いるのが、MP レーダを使った気象災害関係であり、ぜひ、今日は議論を深めていっていただ
きたい」
2.出席者(敬称略)
岡田
酒巻
中根
三隅
清水
義光 理事長
文香 企画部広報普及課
和郎 水・土砂防災研究部
良平
〃
慎吾
〃
鈴木 隆 企画部長
眞木 雅之 水・土砂防災研究部長
岩波 越 水・土砂防災研究部
前坂 剛
〃
①MP レーダによる土砂・風水害の発生予測研究 ― X-NET ―(眞木氏)
はじめに出席者全員の自己紹介のあと、水・土砂防災研究部長の眞木雅之氏から「MP レー
ダによる土砂・風水害の発生予測研究」プロジェクトの全容と背景について説明を受けた。
24
z
本日の趣旨
局地的な大雨や突風などの観測、予測
の現状と今後の実用化の見通し、とくに
気象水文観測技術の進展に伴って改善さ
れた防災情報を知りたいという趣旨だと
理解している。これから気象レーダを用
いた観測技術を紹介する。
z
在来型 C バンドレーダと X バンド MP
レーダによる気象観測
基礎的な知識として、気象レーダのタ
イプを説明する。
1) 在来型レーダ
C バンドの在来型気象レーダは、振幅
情報、反射因子から Z-R 関係式で、面的
な降雨強度を算出する。現在、国内外で
広く使われている。DSD の時空間変動、
途中の降雨による減衰、雹の混在ほか、
諸々の誤差要因を有し、瞬間瞬間で Z が
過小または過大に評価される。定量化す
るためには地上雨量計による補正が欠か
せない。現業では国土交通省解析雨量と
して、全国を 1 ㎞メッシュ、30 分間隔で
観測されている。
25
2) ドップラーレーダ
ドップラーレーダは、電波の照射方向
の雨滴移動により生じる受信信号周波数
の変化から、動径風を測る。一部の気象
レーダで実運用されている。
3) マルチパラメータレーダ
水平偏波と垂直偏波を同時に用い、雨
滴形状(大きくなると扁平化)を反映し
た比偏波間位相差など、各種のパラメー
タから降水に関する詳細な情報が得られ
る。KDP-R 関係式による方法は、Z-R 関
係式が被る誤差要因の影響が少なく、地
上雨量計による補正を必要としないため、
レーダ本来がもつ特性である瞬時性をフ
ルに発揮できる。
26
z
防災科研での気象レーダを用いた研
究の歴史
1963 年 国立防災科学技術センター設立
1969 年 初代レーダ 在来型レーダによ
る研究(人工降雨、雷雨)
1988 年 X-DOP ドップラーレーダによ
る研究(吹雪)
1994 年 X-POL 〃(吹雪、降水システ
ム)
2000 年 MP-X マルチパラメータレーダ
による研究開始(QPE、豪雨災害)
MP-Ka/W 〃(降水過程、人工
降雨・降雪)
2003 年 MP-X による海老名での定点観
測開始(土砂災害、都市型洪水)
2006 年 X-NET レーダネットワーク構
築(都市型災害)
27
z
MP レーダの導入
2000 年に導入した MP レーダシステ
ム。左は雲を見るため、右は雨を見るた
めの装置。4 トントラックに積んでいた。
2003 年に雨を見るためのレーダを、海
老名市に固定し、半径 80 ㎞の定点観測
を開始。
28
z
現在の防災科研での気象レーダを用
いた研究プロジェクト
① 次世代豪雨強風監視システム
レーダネットワーク X-NET 構築
正確な雨量~風観測情報提供
1 時間先の短時間雨量予測
② 浸水被害危険度予測システム
主に都市型内水はん濫予測
検証用に簡易型道路浸水深計開発
③ 土砂災害発生予測システム
主に表層崩壊
社会でデータを使うところとの連携も
進めている。
29
z
X バンドレーダネットワーク
波長 3 ㎝を用いる小型レーダ。防災科
研の MP レーダ 3 台と、日本気象協会、
中央大学、防衛大学、電力中央研究所、
山梨大学の研究機関の協力で、関東地方
を広くカバー。新しい都市防災システム。
30
z
X バンドレーダネットワークの特長
群のメリットが発揮され、ビームの広
がりが抑えられ空間分解能が高い、かつ
最低観測高度が低いために正確。
31
32
z
雨量観測事例の比較
MP レーダのほうが解像度が高く、国
土交通省解析雨量で見逃されている雨域
が捕捉されている。
z
雑司ヶ谷の例
非常に強い雨により大きな被害が起き
た。地上雨量計のピーク 59.5 ㎜に対し、
レーダでは 100 ㎜以上が観測された。
33
34
z
降雨予測の精度
発達途中の積乱雲による雨の予測は難
しい。今後の研究課題。
z
風の観測
台風では、目の回りの風の分布情報が
ベクトルで詳細に得られた。館林の竜巻
の事例では、竜巻そのものを捉えるは難
しいが、引き起こす親雲は観測できた。
35
36
z
X バンドレーダネットワークを利用
した災害発生予測システム
①藤沢市との共同研究で実施している
リアルタイム浸水被害危険度予測「あめ
リスクナウ」
、および現地検証のための道
路浸水深計の開発、②実効雨量による土
砂災害発生予測支援システム、③リアル
タイム強風情報。
37
z
まとめ
気象レーダは、10~15 年の研究段階を
経て、逐次、現業用レーダに実用化され
てきた。今は、ドップラーレーダが導入
されている。MP レーダ観測の KDP-R 関
係式はレーダ気象学の技術革新手法。
X-NET の成果もあり、X バンド MP レ
ーダは 2010 年から国土交通省で多数整
備される予定。
課題の局地的大雨の予測精度は、とく
に積乱雲の発達初期段階をどう捉えるか
が鍵で、マルチセンシングとデータ同化
による解決を考えている。
Q&A
Q:防災科研のレーダは半径 80 ㎞圏が定
量観測範囲となるのか。
A:そのとおり。C バンドの 120 ㎞圏に
相当し、定量観測ができる。
Q:国土交通省の表で更新時間 5 分と 1
分に実況プロダクトが分けられているが、
それはレーダの回し方が違うのか。
A:検討中だが、下層付近は必ず 1 分ご
とにレーダを回す。残った約 40 秒部分
について、仰角を上げて上空をボリュー
ムスキャンする方法が使える。
Q:風のベクトルについては、雨粒の移
動なのか、それともふたつの観測時間間
の差分なのか。
A:雨粒の動きを捉えている。
これらレーダ観測の風や雨の情報は、
リアルタイムで見えるようになっている。
なにかあったら、すぐ情報を見てメカニ
ズムなどの分析ができる。これは、レー
ダの性能と、安価な高速通信が使えるよ
うになったおかげ。
38
No.6
②平成 20 年 8 月 5 日豊島区付近の大雨:X-NET による観測(三隅氏)
続いて、水・土砂防災研究部の三隅良平氏
から、具体的に「平成 20 年 8 月 5 日豊島区
付近の大雨:X-NET による観測」について説
明を受けた。
z
豊島区雑司ヶ谷の災害事例
当日 11:30 の段階で気象情報を確認したが、
注意報や警報は出ていなかった。その後から
雨が降り始め、さらに突然激しくなった。よ
って、下水道の老朽化改修工事の作業を中止
して上がれという連絡をした。中にいる人に
は外の様子はわからず、通常どおり道具を片
付け、交通量の少ない 20 番のマンホールか
ら上がる体制を取った。しかし、あっという
間に流れが強くなり、1 人は 22 番から上がっ
て助かったが、わずか 40 分の間で 5 人が犠
牲になった。
z
かつての地形
元々鶴巻川だったところを暗渠にしている
ので、下水道に水が集まりやすい構造だった。
39
z
X-NET による観測
X-NET で 5~10 分サイクルで観測し
ていた。気象庁の合成レーダでは見え方
が粗くて、このような突発的、局所的な
雨の集中域は捉え切れていない。地上雨
量計の位置から離れており、補正もうま
くなされなかった。X-NET(500m平均)
と地上雨量計(点)の比較では、少しな
めらかになっているが、速報値としては
十分な精度が得られている。
40
z
X バンド MP レーダによる観測
この日は、多数の積乱雲が発生した。
時間スケールで 1 時間、空間スケールで
数㎞に集中していた。雨を縦に観測する
と高さは 9 ㎞を超える。1 時間に 4 回ほ
ど上から強いエコーが降りてきている。
非常に強い雨を降らせた要因は、少し
寿命の長い積乱雲がつくられた、風が弱
くて移動が遅かった、直立した構造を有
していたことがあげられる。
41
No.7
③北関東での雷雲観測について(岩波氏)
続いて、水・土砂防災研究部の岩波越氏から、
『MP レーダを用いた土砂・風水害の発生予測
に関する研究』「北関東での雷雲観測について」
と題し、新たに始めた観測の説明を受けた。
z
局地的短時間豪雨の観測
ゲリラ豪雨の観測、予測の課題解決のため、
①短い時間間隔で観測する
②積乱雲の発生域での早期検知
③雲の段階から捉えて追跡
④監視のみならず、数値モデルにデータ同化
を考えている。
42
z
積乱雲のできはじめの把握
南関東の X-NET に加え、夏場、北関東
に可搬型の X バンド MP レーダと雲レーダ
を仮設し、積乱雲の発生域を観測範囲に。
気象協会のドップラーレーダと組み合わせ
て水平風も捉える。
z
真岡 X バンド MP レーダによる観測例
一昨日夕方の事例で、発達した積乱雲が
捉えられている。
43
z
鹿沼雲レーダによる観測例
積乱雲は、発生から消滅まで 1 時間弱。
最初は下層で気流が集まり雲ができ、その
後発達すると雨粒のサイズになり、成熟期
になると地上に降ってきて、その後消滅す
るプロセスを繰り返す。
従来のセンチ波のレーダでは、雨ができ
てこないと探知できなかった。それより手
前の雲の部分を検知するためにミリ波(波
長 8 ㎜)の雲レーダを用いている。感度は
100 倍以上いい。車載型で西の山のほうに
向けて観測している。同時にステレオ写真
観測をしている。
8 月 19 日の例では、レーダで水平にスキ
ャンすると北西側にエコーがかかっており、
雲の鉛直断面ではエコー頂が 4~5 ㎞ある。
8 月 14 日は、南西側で、エコー頂 3.5 ㎞位。
写真ではともに輪郭がはっきりしない積乱
雲である。どのような雲が、雲レーダや X
バンド MP レーダでどう捉えられ、どう発
達していくかなどの情報を集めている。
z
将来の観測システム
積乱雲の一生を観測するシステムを考え
ている。発生、発達の部分で下層の気流が
重要で、光を使ったドップラーライダーを
ネットワーク化して監視する。雲ができた
ら、雲レーダで早く検知する。さらに降水
ができたら X バンド MP レーダで、積乱雲
を自動的に認識して局所的に追跡し、短い
時間間隔で三次元的に情報を得る。
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No.8
④道路浸水深の自動観測システム(中根氏)
続いて、水・土砂防災研究部の中根和郎氏か
ら、
「道路浸水深の自動観測システム」の説明を
受けた。
z
背景と目的
MP レーダで 1 時間先までの道路の浸水予測
を行っているが、現地で比較検証するための観
測機器として開発。
非常に安くて耐久性があり、市町村で実際に
使えるものを目標に考案した。
z
センサーの概要
ロガーの長さ 20 ㎝、直径 6.5 ㎝、センサーの
電極が 1 ㎝間隔で、コンパクト。浸水時に電源
が入り、5 分間隔で観測を始める。
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z
観測データの伝送
観測データは、au by KDDI の Packet
One 網のデータ通信サービスを利用し、
Internet を経由して集めている。サーバ
に浸水情報が入ったときには、予め登録
している防災担当者にメールで配信する
仕組み。また観測データは、リアルタイ
ム浸水被害予測情報「あめリスク・ナウ」
の Web サーバにとりこんで提供してい
る。
46
z
観測状況
藤沢市内の浸水しやすい 7 地点(路地
裏の道路の電柱、アンダーパスの壁面な
ど)に設置して試験観測している。
今年 8 月 17 日の雷雨時には、アンダ
ーパスの浸水事例が捉えられ、防災担当
者に通知した。
47
z
MP レーダ 10 分雨量との対比
アンダーパスの浸水深は、強い雨に反
応して瞬時に上がり、弱まるとすぐに下
がる。短時間の降雨量に依存して、非常
に早い応答をすることが観測された。
z
今年度の計画
藤沢市内の浸水しやすい場所に全部で
12 台設置して監視を続け、行政担当者と
情報共有を行う。
Q&A
Q:つい先頃テレビで紹介されたのは?
A:片瀬の市民会館の前の電柱、オープ
ンスペースで浸水していたところ。
Q:浸水深計の情報が藤沢市の防災担当
者の携帯に連絡が行くとの話だが、そこ
から浸水している箇所の市民への情報提
供はどういうかたちでしているのか。
A:まだ実際の防災に役立てるところま
ではいっていない。いま勉強会をしてい
るところ。
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No.9
⑤館林竜巻の突風災害について(清水氏)
最後に、水・土砂防災研究部の清水慎吾氏
から、
「館林竜巻の突風災害について」の説明
を受けた。
z
概要
ちょうど 1 ヶ月前の 2009 年 7 月 27 日、群
馬県館林市で竜巻が発生し、幅 50m、長さ
6.5 ㎞の限られた領域に多くの被害が出た。
過去の竜巻事例の共通点は、被害領域の長さ
はあるが幅が限られていることで、非常にス
ケールが小さく、強い現象である。
レーダは距離が離れるとビームが広がり分
解能が悪くなるため、1 台だけでこのような
小さな現象を捉えるのは難しい。複数台のレ
ーダネットワークにより、近くで捉えるチャ
ンスを増やすことが重要。今回、羽生市にあ
る日本気象協会のドップラーレーダから 10
㎞の地点で竜巻が捉えられ、今後の研究に役
立つデータが得られた。
z 竜巻を引き起こす擾乱の階層構造
① マソサイクロン:低気圧などの擾乱
② メソサイクロン:親雲の集団(10 ㎞スケ
ールの積乱雲)
③ ミソサイクロン:1 ㎞スケールの親雲
(X-NET で観測可能に)
④ モソサイクロン:竜巻そのもの
z
当日の天気概況
日本列島に停滞した寒冷前線に伴う積乱雲
群(親雲の集団)が、群馬県館林市付近で急
発達し、水平スケール 30~50 ㎞程度の大き
さになった。南西から北東に雨域が観測され、
館林市付近では非常に強い雨が降っていた。
49
z
観測された渦の中心と被災地
14 時頃にレーダで捉えた渦の中心位
置(赤丸)と被害領域とは合致。南側に
も、もう一つ渦(青丸)が検出された。
z
水平観測結果
気象協会のレーダから 10 ㎞離れた位
置に雨域が見られる。色はドップラー速
度を示し、寒色系の近づく風と暖色系の
遠ざかる風とのペアが接するところを中
心に、1 ㎞程度の強い渦が存在している。
これは竜巻本体ではなく、さらに小さい
50m程度の竜巻を発生させた。1 ㎞程度
の渦は、13 時 56 分から 14 時 11 分のお
よそ 15 分間続いた。
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z
三次元観測結果
14 時頃の渦の中心位置を上空までプ
ロットすると、このときにだけ一致する。
つまり、鉛直方向に直立した渦の管の構
造が見られる。この現象は、上空の強い
上昇流に伴う渦の伸長により渦度の強化
が起こったものと見られ、兆候が捉えら
れた可能性がある。
z
今後
この貴重な事例の詳細な解析を行うこ
とで、竜巻の発生、発達のメカニズムの
解明や、早期検出の技術開発への貢献が
期待される。
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No.10
⑥意見交換(全般)
Q&A
Q:雑司ヶ谷の雨の観
測事例で、東京アメッ
シュとの比較はどうな
のか?
A:当時は比較してい
ない。東京アメッシュ
は時空間分解能が細か
く、地上雨量計でも検
証している。今年から
MP と比較しているが、
非常に強い雨がライン
状に並んで横切るよう
な場合など、X バンド
に顕著な減衰により後
ろ側が見えなくなるた
め、Z の補正では限界
がある。KDP を使った
方法とは違う。
Q:気象庁が進めてい
る C バンドレーダのド
ップラー化で竜巻の観
測は難しいのか?
A:一般にレーダから
の距離が離れるほどビ
ームが広がるので、直
径 1 ㎞以下の現象は捉
えにくいのではないか。
X バンドでも、今回の
例のように近くで見る
ことが大事。
Q:局地的な現象を予測する上で、雲レーダで発達しはじめた部分を観測するのはすごくいい
と思う。もうひとつのファクターとして雷があると思うが、とくに雲間放電を取り入れるのは
どうか?
A:雷そのものの予報は非常に難しい。雷が起きやすい雲かどうかまでは、ある程度検出でき
る。というのは、降水粒子、雨なのか霰なのか雹なのかは、偏波を使うと区別できる。霰のよ
うな場合は、かなりな確率で雷を引き起こすので、場所まではわからないが、ある程度予測で
きる。
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Q:発達するときに、
上昇の速度は捉えられ
るのか。
A:水平風は求まる。
水平風から上昇流を推
測する。このときに問
題になるのは、上空の
上限をきちんとおさえ
ないと誤差が出ること。
鉛直流を高精度で求め
るのは難しい。
Q:鉛直を測るのでは
なくて、水平から推測
すると。
A:強い上昇流や下降
流があるかどうかまで
はわかる。精度は、上
まで捉えたときは変分
法でやれば 0.5m位。
上空のデータがとれな
いと高度 2 ㎞で 3~4
mの誤差になる。雨は
下を見ればいいが、風
の上昇流を捉えるには
積乱雲の上がどこまで
発達しているかを捉え
なければ質量保存で求
められない。たまには
スキャニングで上を見
にいかないと精度が出
ない。理想的には、光
を使ったライダーで雲
ができる前の段階から一連の風の様子を捉えることで、将来、できればいいと考えている。
Q:気象庁はなかなか竜巻だと言わない。現地で被害調査してから判断しているが、こういう
方法で早目に言えるようにはなるのか?
A:館林ではビデオに撮っている人がいる。気象庁は現地の被害調査をした上で断定している。
レーダ網がかなり密に配置されるようになれば検出できるはず。レーダのようなリモートセン
シングか現地の被害状況からしかわからず、原始的な風向風速計は役に立たない。
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日本災害情報学会
「第3次デジタル放送研究会」
第2回現地視察調査報告
No.11
第三部 気象庁気象研究所(15:30~17:00)
報告:気象キャスターネットワーク
① GPS を用いた大雨の予測(予報研究部第2研究室
田代大輔
小司禎教氏)
テーマは、
「数値予報の原理」
「観測データとデータ同化」、
「GPS による大気計測」、
「GPS
の数値予報への利用」。
将来的には、ナウキャストへの応用も考えているが、今回は省略。
■ 数値予報の原理
数値予報は、現在の天気予報の根幹技術である。
○ 数値予報の考え方…離散的な格子点で大気を代表
各点における気象要素の時間変化を計算
○ 現在の日々の天気予報で用いられているのは、メソスケールモデル(MSM)
MSM…日本付近の領域モデル、解像度(解析)15km、(予報)5km
注意報・警報もこれを利用
→数値予報が直接表現できる現象は、概ね格子間隔の 5 倍以上の空間スケール
=MSM で表現できる現象は 20~30km の現象が限界、個々の積乱雲は無理
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→精度向上への2つのアプローチ
・ モデルの高度化…高速処理手法、パラメタリゼーションの高度化、
境界(地表面)の高精度化
・ 初期値の高度化…新しい観測データの利用、データ同化技術の高度化
現状、水蒸気の情報は再現できてないこともある
■ 観測データとデータ同化
○ データ同化とは
初期値より前の時間の第一推定値と観測値のズレを、予報のモデルその
ものを使って修正し、解析値として初期値を求め、そこから初期値以降の
予報を続ける。
■ GPS による大気計測
豪雨発生時に特に重要な情報の一つに、下層大気の水蒸気量がある。
○ 気象学における GPS 水蒸気センサーの重要性
・水蒸気変動は、地上気象観測や 12 時間間隔の高層観測網で把握が困難
・水蒸気センサーとしての GPS は、
「全天候型」
「高精度」
「高時間分解能(数
分~数十分)
」という特徴がある
○ GPS について
・1980 年代に作られ、90 年代に運用開始
・大気中の水蒸気によって、GPS による位置計測に誤差がでる
→逆に遅れを解析することで、大気中の水蒸気量を推定
・水蒸気はほとんどが 3km 以下…地上気温による部分が大きい
・日本の GPS 観測密度は世界一…国土地理院の観測網は 1200 地点以上
(アメダス観測は約 1300 地点)
※ 水蒸気解析には AMeDAS の気温、地上官署の気圧が必要だが、
日本は GPS 観測密度が AMeDAS と同等の密度で、水蒸気解析が
可能になっている
■ GPS の数値予報への利用
可降水量(鉛直積算水蒸気量)を推定し、数値予報初期値解析に加える
55
■ まとめ
・日本の優位性…世界で唯一?GEONET によるメソスケールの水蒸気解析が可能
・将来的にはナウキャストへの応用も考えている…局地的大雨への対応
■ 私見
水蒸気センサーとしての GPS を利用した天気予報の実用化、中でも局地的大雨
の予報の実用化については、まだ研究段階の部分が大きい。ただし、データ同化
実験などを通し、梅雨前線の集中豪雨のような数 100km 規模の現象については、GPS
水蒸気データの利用による精度向上が実用化しつつある。
(※1)
また将来的には、降水ナウキャスト(※2)への応用も考えられ、既に同化実験な
ども行われている。局地的大雨を、より早く予測・検知・伝達できるシステムの実用
化に期待したい。
※1)平成 21 年 10 月 28 日より、気象庁メソ数値予報モデル(MSM)の初期値を作成する
メソ解析において、GPS データから得られる水蒸気データの利用が開始された
http://www.jma.go.jp/jma/press/0910/27a/MSM_GPS.pdf
※2)降水ナウキャスト…10 分間隔で発表される、1 時間先までの 10 分間雨量予報
実際には、10 分間雨量を 6 倍して 1 時間雨量に換算した値を表示
http://www.jma.go.jp/jp/radnowc/
気象研究所・小司氏の説明を受ける
56
No.12
② 施設見学
■ 大型気象風洞実験施設
風速と気温の鉛直分布を人工的に作り出し、自然界の流れに類似した大気境界層を
形成させて実験を行うことができる施設を見学。
風洞装置の説明
風洞装置に入れる模型(“気象庁周辺”)
大型風洞装置
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■ 低温実験施設
雲が発生するような0度以下の低温を再現し、低温下における気象現象の解明する
ための実験などを行う場所。私たちも氷点下 15 度の世界を体験。
温施設の説明を受ける
低温下で作った雪の結晶
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