Comments
Description
Transcript
第7号 SSS07
日本サイン学会誌・SSS 07 日本サイン学会平成19年度 研究論文・研究報告・制作ノート ■研究論文 富山の屋外広告物を改善する4つの方策 武山 良三 (富山大学芸術文化学部) ■制作報告 ホテルの改装に伴う、客室やフロアーサインのイメージ制作 井上孝二 (日本ニューラルネット/武蔵野美術大学・通信教育部) 、太田幸夫 (多摩美術大学) 「食」 を扱う新店舗へ、空間・素材・ビジュアルの提案と実施 井上孝二 (日本ニューラルネット/武蔵野美術大学・通信教育部) 、太田幸夫 (多摩美術大学) ■研究ノート 新しい大阪・ミナミのサインの実地調査研究 大橋武 (大阪市立デザイン教育研究所/大橋武デザイン事務所) 3 2 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 研究論文 研究論文 表示を想定したサインの設置も求めら 面1枚あたりの文字数、半角率を求め インターチェンジのサイン計画 れる。 た。半角率とは英数字の割合を示すも 広告目的別では、120面(56.1%)が のである。いずれも昨年の富山駅前を 道 路 標 識 な ど の 公 共 系 表 示 、 62 面 武山 良三 (富山大学芸術文化学部) 1.はじめに 富山県では立山連峰に代表される美 しい景観を活かした観光振興に力を入 本稿ではサイン景観ウォッチング事 初めて訪れる可能性も高いので、一目 業を総括し、現状の問題点を整理する で自分の目的とする行き先が視認でき と共に改善への方向性を提案する。 る道路標識が設置されなければならな れている。 2002年 9月に富山県景観条 例を公布、 2006年1月には富山県良好 な都市景観形成懇談会を設置し、特に い。多くは最寄りの市町村名など代表 2.ICのサインに求められる機能 富山県への主要アクセス手段として 的地名が表示されるが、その ICを使う は、鉄道、飛行機、船、自動車がある。 訪れる率の高い名所・旧跡、観光拠点 て議論を行ってきた。また、同年3月 鉄道は JRの北陸本線、城端線、氷見線、 や公共施設なども表示する必要がある には「とやまの玄関口」におけるウェ 高山線に47駅があり、1日平均56,000 ルカム・サインのあり方検討委員会を 人(平成16年*1)余りが利用している。 きる情報量には限度があり、詳しい施 設け、空港や駅、インターチェンジに 富山空港では、東京、札幌、福岡など 設案内と簡潔な誘導案内の組み合わせ おけるサイン整備について調査および に加え韓国・ソウル、中国・大連、上 が重要である。加えて、道路状況や催 改善案の検討を行っている。 海、ロシア・ウラジオストクへの定期 事などに対応するサインも求められる。 便があり、1日平均2,900人(平成16年 機能的な情報に加えて、旅の楽しみ に屋外広告物を設置している業者の集 *2)が利用している。ICは北陸道、東 を醸し出すような演出情報も不可欠で まりである富山県屋外広告美術協同組 海北陸道、能越道に 16の ICがあり、1 ある。歓迎の意を表すおもてなしの情 合でも広告景観の改善を目指した活動 日平均 70,000台(平成 16年* 3)が利 報や地域特性を表現するサインが求め に力を入れている。 2005年8月にサイ 用している。数字的には主交通手段が られる。演出情報には文字や図だけで ン景観ウォッチング事業を立ち上げ富 鉄道から車に移行していることが明確 なく、花や緑、実物を用いたモニュメ 山駅周辺の屋外広告物を調査、行政関 であり、 ICの重要度が高まっているこ ントなどの表現も効果的である。 係者と検討会を開催すると共にその結 とがわかる。近年は日常的にも利用で 果を富山デザインフェア 2005にパネル B.近隣の利用者に対して などの整備が進み、遠距離だけでなく 近隣の利用者は土地勘もあり、必ず 近距離の移動にも使われるケースもあ しも道路標識を見なくても良いが、地 る。従って、 ICでは来県者と地域生活 点名称や誘導案内の有無を把握するこ とは知人などの来訪者へ道案内を行う 者の両者に対応した情報提供が求めら 際に有効である。また、祭りやイベン れている。 トなどの催事は、表示されてはじめて 気が付くこともある。地域活性化に繋 A.遠隔地からの来街者に対して がる情報として積極的に掲示したいが、 遠くから富山県を訪れる来街者に とって ICは地域との最初の接点になる。 これらがばらばらに設置されると見た 目にも悪い。あらかじめこれらの情報 業は 2006年も継続され、対象を富山県 内16箇所のインターチェンジ(以降IC) とし、 8月の予備調査に続き 9月には富 山県や魚津市、立山町の屋外広告物担 当者と共に現場調査を行い、検討を行 うと共にその結果を富山デザインフェ ア2006で展示した。 などのサービス系、 22面( 10.3%)が た。また、黒部、魚津、小杉の各 ICで 製造系であった。 は代表的な広告物の実測調査も行った。 画面文字数は、1枚の画面に記載され 集計の結果、サイン画面総数は214面、 た文字数を示す。平均で 41.9文字であ 平均するとひとつの ICで約 13面であっ るが、駅前における同種の調査からこ た。設置画面が最も多かったのは、小 の数値は極めて高く、例えば JR富山駅 矢部 IC の 29 面、次いで立山 IC の 23 面、 南側のデータと比較すると3.4倍の文字 小杉 ICの 22面であった。文字数も小矢 量であった。 部ICが一番多く1,248文字が表示されて きるハイウェイオアシスや ETCゲート 図 1 県や関係市町村の屋外広告物担当者と 図 2 調査結果は富山デザインフェアで2年 業者組合が合同で現場視察を行い問題点を議 連続展示、来場者へ屋外広告物の課題を訴え 論した。 た。 4 他地域との比較ができる資料を作成し が、一方で走行しながら瞬時に判断で こうした動きを受けて、県内で実際 心を高める取り組みを行った。この事 はじめ全国のデータが蓄積されており、 (29.0%)がレジャーや一般の小売店舗 近隣都市名に対する配慮も求められる。 問題が多いとされる屋外広告物につい 展示して、この問題に対する県民の関 3.富山県内ICの実態調査 県内 16ICにおける屋外広告物の設置 状況を 2006年 8月 22日〜 9月 13日の間、 5日間に分けて調査した。調査対象エ リアは IC出口ゲートから結節するアク セス道分岐点とし、その周辺に設置さ れたすべての道路標識並びに屋外広告 物の画面写真を撮影した。画面に表示 されたすべての文字をテキストデータ 化し、設置された画面数、文字数、画 いた。 5 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 研究論文 図4 設置数が一番多かった小矢部IC。料金所 図5 小杉ICでも多数の屋外広告物が設置され 図6 富山ICでは分岐点が高速道路敷地内にあ 図12 下り坂のカーブを運転しながら理解す 図13 美しい景観を誇る黒部峡谷の玄関とは 図14 黒部ICと道路構造が似ている立山ICはサ を出てからすぐに設置が始まり、T型交差点に ている。縦長の高さは約12m、幅は1.8m。 るため屋外広告物は立っていない。 るには困難なサイン。手前の安全なエリアを活 用すべきである。 思えない黒部IC。官民入り乱れて多数のサイン イン設置状況もまた酷似している。 が設置されている。 はずらりと並んでいる。 図7 同じ内容が重複して表示される小矢部IC。結局情報量が増えてしまいどちらを見て良いかわ からない。 図8 後付で取り付けられたサインは表示が見 図9 小さな文字で細かな情報が書かれた屋外 難いだけでなく煩雑な印象を与える。砺波IC。 広告物。ドライバーには読めない上、本来主張 したい情報を見難くしている。高岡IC。 図10 枝で見えなくなった画面。表示された 図11 汚れた画面は景観に悪影響を与えるだ 文字も一部がはがれている。朝日IC。 けでなく、広告そのものの効果を低下させる。 朝日IC。 6 4.問題点 調査を通じて以下の問題点が明らか になった。 1)乱立 道路管理者が設置している標識類か ら、行政機関の主要施設案内、民間の 屋外広告物が重なるように重なるよう に設置されている ICが多数あり、乱立 している印象を与えている。 2)重複 何度も同じ地点名や施設名が重複し て表示されており、どちらを見ればよ いかと迷いわかりにくい。 3)後付 最初に計画されたサインはバランス 良くデザインされているが、情報が追 加される度に十分な配慮が成されなく なり、色や書体が不揃いになる傾向が ある。情報の変更や追加に対応できる ようなデザインについても検討が必要 である。 4)書き過ぎ ひとつの画面に情報を盛り込み過ぎ である。読めないほど小さな文字が記 載されている例もあるが、 IC周辺に設 置されたサインはドライバーが運転し ながら読むものであり、視認性や可読 性に対する配慮が不可欠である。設置 環境的には、歩行者を対象とする駅前 の画面より文字数が少なくあるべきで ある。 5)管理の悪さ 後付でも指摘したように、まちの情 報は時と共に変化する。イベントなど で一次的に必要になる情報もある。さ まざまな変化に適応しつつ、良好な状 態を保つための表示方法、器具構造、 設置方法が求められる。また、屋外サ インは排気ガスや降雪、強風など過酷 な条件下で傷みも早い。清掃や定期的 な書き換えを含めた管理体制を確立す る必要がある。 6)不適切な位置 道路標識は主に分岐点に設置される が、分岐する手前で車線変更を終えて おかなければならない場合がある。ま た、赤信号の停止中であれば読めても、 青信号で後続車が迫っている場合は何 も確認できない。加えて、運転に注意 が必要な下り坂カーブでの表示なども 危険である。詳細な施設案内などは車 を一旦停止して見られるような場所を 確保するなど設置位置を再検討すべき である。 7)ホスピタリティの欠如 ICは地域に対する最初の接点として 機能すべき地点であり、いわば地域の 顔になるべき場所である。従って、来 図15 立山ICに設置されたサインに表示された文字。 訪者を個々良く迎えると共に、地域の 魅力を伝える必要がある。単に屋外広 告物で「ようこそ」と表示するだけで なく、よく手入れした花壇を設けるな どホスピタリティの表現方法を工夫す る必要がある。 8)連携の悪さ 単体では良いデザインでも全体とし て見たときに不調和が生じる。高さや 画面形状、器具の色、設置間隔など全 体を見渡して調整する必要がある。ま た、 ICから一般道に入った後も情報が 継続的に提供されることが重要である。 ICでいくら大きく表示しても、それが フォローされなければ有効に機能させ ることはできない。目的地へ移動する ドライバーの視点にたってより広域的 なサイン計画が求められる。 図16 黒部ICと立山ICに共通する問題点。 7 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 研究論文 5.改善提案 を整理し、複数のサインを連続的に用 管理が不可欠であるため、広告収入に ICに求められる機能で分析したよう に、対象としては A.遠隔地からの来街 者と B.近隣の利用者がある。共に確か な案内誘導を行う必要があるが、Aに対 しては予備知識が無くても一目で理解 できるよう、できる限り明解な道案内 であることが求められる。また、旅の 楽しみを演出するウェルカム・サイン 機能も加えなければならない。 一方Bに対しては、経路情報よりむし ろ目的情報の提供が求められる。祭り やイベントなどの情報を提供すること で地域活性化を促進することができる。 また、これらに対応した特別な経路案 内も必要である。 ICに求められる機能を満たすために、 サイン計画として次の3点について検 討したい。 いて案内する“サインシステム”の導 よって総合サインが美しく保たれる体 入が不可欠である。 制を構築する。 サインシステムは、案内経路が複雑 な地下鉄などの公共交通施設で定着し 3)協議機関の設置 ている案内手法である。例えば、地下 関係性を重視した広域サインシステ 鉄のホームでは、各階段、改札から出 ムを実施するためには、調整作業が不 られる出口を示した一覧案内が設置さ 可欠である。関係者による協議会を設 れ、利用者はその案内で示された大括 置することで良好なデザインを基盤か りの方面案内や出口にふられた記号を ら支えるしくみづくりを行う。ここで 追っていくだけで目的場所へ移動でき は地域全体の案内誘導体系を起案する るように設計されている。この手法を ほか、各画面表示情報の管理、商業広 応用した広域サインシステムの導入が 告に対するデザイン審査・指導を行う。 確保されている。これらのスペースを有効に活 用したい。黒部IC。 求められる。 注釈 2)総合サインの導入 広域サインシステムにおいて、 IC前 *1 JR各駅旅客輸送状況 西日本旅客輸送鉄 道株式会社金沢支社 は最重要拠点であり多くの情報を表示 *2 富山空港の利用状況 富山県富山空港管 しなければならない。これらを集約す 理事務所 ることで美しく、また維持管理性も向 *3 高速道路インターチェンジ別出入交通量 上させるのが総合サインである。大き 日本道路公団北陸支社、富山県道路公社 確かな案内誘導を行うためにはまず さを単位化したモジュールを決めるこ (上記3項目は富山県統計年鑑以下の富山県 表示する情報を吟味し、理解できる範 とで、さまざまな ICの設置状況に対応 1)サインシステムの導入 図22 料金所から分岐点までは十分な距離が 総目次/第10章 運輸及び通信 十分な文字の大きさを確保するなどし http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/lib/al ができる。 総合サインには民間の広告物の設置 面ですべてを表示することができない も合わせて検討する。問題点で指摘し が、読み取り地点とそこで必要な情報 たとおり屋外に設置したサインは維持 ン設置位置を再考し、前後関係の連携を重視したサインシステムを構築する。 図23 分岐した後の補足情報の提供も重要で ある。設置可能なスペースも十分ある。黒部IC。 ホームページより 囲の量に絞り込み適切な手法、例えば、 しながら、部材の共有などを図ること て表示すべきである。当然ひとつの画 図21 黒部ICおよび立山ICに代表される改善案。ドライバーに必要な情報とそれを提供すべきサイ manac/_10/index.html) 参考文献 1)良好な都市景観形成するための屋外広告物 のあり方について/富山県良好な都市景観形成 懇談会/平成18年 2)景観と屋外広告物に関する意識調査/富山 県/平成18年 3)「とやまの玄関口」におけるウェルカム・ サインのあり方 report:1、 report:2/武山良三、 島津勝弘/平成18年 図17 複雑な経路を複数のサインを用いて案 図18 IC付近の施設を集約的に表示した集合サ 内誘導するサインシステム。東京メトロ。 インの事例。北陸自動車道路鯖江IC。 図24 総合サインのデザイン例。集合させることで見やすく、美しいデザインとする。地域イメージを訴求すると共に、地域経済が活性する情報を提 供する。また、設置・維持管理には民間の資本やノウハウを導入する。 図19 ホスピタリティの表現は文字よりも花 図20 ウェルカム・サインの事例。世界的な 図25 木曽路ではIC前をはじめ沿道に統一的な 図26 木曽広域公共サイン整備事業のパンフ 図27 などを用いる方が効果的である。富山県宇奈月 町。 リゾートとして知られる米国オーランドにある シーワールド。 サインが整備されている。 レット。広域連合をつくることで統一的な整備 を可能にした。 断的な情報交換と意志決定ができる組織づくり が求められる。 8 ICのサインに関わる関係者が集まり、横 9 日本サイン学会誌・SSS 07 制作報告 制作報告 イナー立ち会いのデジタルデザイン工房は、今 ホテルの改装に伴う、客室やフロアーサインのイメージ制作 日のサインデザインを的確に具体化する重要な ネオ・和風「雪」 「月」 「花」 をシンボライズし、サインデザインへ反映 を扱うマシンとオペレーターによる、機械と人と ファクターとなっている。コンピューターのシステム の関係性だが制作物の最終目的が「何を」 「何 井上孝二 (日本ニューラルネット/武蔵野美術大学) 、太田幸夫 (多摩美術大学) 処に」 「何のために」 「どのように」 という必要目的 を解決しない限り具体化できない。私達の共 同プロジェクトはデジタルデザイン工房にて常に、 1. はじめに 東京赤坂ホテルニューオータニ (本館) のリ ニューアルに対しプレゼンテーションを計画。デ 予想とする場合もある。ホテルの室名サインの 施主の立場と同時に第三者(一般の人や生活 場合は、原寸のプレゼンを設置場所へ持ち込 者) の意識や見方を十分検討し、サンプルを広 み合意を得た。 い場所に置き、皆で話し合い、意見交換し、ス 紙面の縮尺デザインや CRT画面での検討 キルアップを実現している。更に、工房に集まり 体化する、サイン・コミュニケーション。 のみでは、なかなか決定に至らない。事前の 最終設置や周辺状況を考慮にいれ、利用する 手間仕事になるがデジタルの環境を有利に扱 人々の立場にたって最終のサインを制作したサ 2. ネオ・和風のキーワードから発想するサイン えば、選定物の実寸で設置場所へ持ち込むこ インデザイン表現も見のがせない。 ジタル制作を素材に活用し、新たな表現を具 デザイン とは十分に可能となる。2つめの要因は、施主 ホテル本館の建築構造は、幹から三本の枝 から制作者へと縦割り構造では決定が難しく、 5. サイン分野のデザインワークを反映したイメー が出たような三角構造。三棟の区別があり、こ 今回は末端からの素材提案で主要の決定事 ジ作り の三棟にそれぞれ漢字のネーミングを付け、A 項が皆の合意で得られたことにある。その結 ビジュアルデザインの範疇にイメージや雰囲気 棟=「雪」 、B棟=「月」 、C棟=「花」 とゾーニング・ 果、短納期でありながらデザイン、制作、加工、 を表出し、状況や空間を演出するデザインワー キーワードを設定し、それぞれのイメージデザイ 施工とスムーズに運び、サイン設置はオープン クもサインデザインと考える。ネオ・和風イメージ ンを試みた。 までに間に合わせることができた。 を顧みて、国内外の利用客をはじめ、毎日仕事 室名サインは、新聞受けであり、チャイムボタ サイン会社( 4)制 ( 1)施主( 2)設計会社( 3) ン付きで部屋の案内の重要な役割を果たして 作加工、施工会社の図式の中で、2、3、4を いる。A,B,C棟は各々で20〜30の客室があり、 取り持つグラフィックデザイナーとサインデザイ プッシュボタンの穴の直径が約0.5mm足りない ホテルとお客とのやり取りは室名サインで行われ ナー及びそのプロデュースを制作管理人が兼 ため設置後、部分修正を施しスイッチを違和 ている。4〜10階の7フロアーと13〜15階の3 ね備え、常に連絡を取り、決めたことも大きな 感なくスムーズにした。 フロアーのリニューアルだが、指定の 10 フロ 要因の一つである。 アーの室名サインだけでも160〜180室の制作 この背景としては「サイン・コミュニケーション で必要とする管理者の立場など、サインに関係 する全ての人を対象に考え制作した。例えば、 6. まとめ となる。第一期は、平成 18年 11月;C棟「花」 の実施計画」が参考になった。制作、施工及 サインを多角度にとらえ、考え、具体化する方 を完了させ、第二期は、平成19年5月;B棟「月」 び管理、メンテナンスの徹底によりクオリティーが 法を何人もの人達と意見交換しながらスキル を完了させた。単純な数字のみの案内のプ 高まり、同時に関わる人達の判断や即連絡し アップする試みは、やがて次のステップへと繋 レートにネオ・和風の模様をデザインしゾーニン あうことで難関を突破し、具体化できた。また、 がる。 「ホテル」 という公共の場で、歓待や慰安 グの意味や特徴を表現した。都心の真只中で 九州大会での地下鉄トータルデザインのデザイ や好イメージを存続するサインデザインであるか 外国人も多く利用する由緒あるホテルだが、最 ンポリシー 「ヒューマン、コミュニティー、アドバンス どうか、今後、実際に使用された経過を見守っ 終決定のイメージはネオ・和風だった。 トマインド」の 3項目が思い出され、実践のキー てゆきたい。 3 棟の工事完了は、平成 19 年 9 月の予定。 ワードとして念頭に起き進行したことも効果的 ホテルの構造物の一部として利用し、訪れる訪 だった。人を中心に捕らえた時の制作者マイン ・施主:ホテルニューオータニ 問者へ好イメージを与える配慮をデザインプロ ドとして考えれば、設計者、デザイナー、制作 ・設計及びトータルディレクション・監修: セスに盛り込み、その結果、独自の制作ノウハ 者、加工、施工者と仕事に向かう姿勢が、先 (株)日建スペースデザイン・安藤勢津子 ウとなった。 のキーワードによって皆の共通の指針となった。 ・サインプロデュ−ス・管理・進行:(株) トモエ 3. 原物 (素材、サイズが最終のモノ) による現 4. スキルを求めた蓄積が、独自のノウハウとな ・ビジュアル及びサインデザイン:(株) クリエイティ 実の設置場所でプレゼンテーション り活かされる 何度か関係者が設置場所へ集まり、空間や ビジュアルデザインを具体化する手法に、デジ 照明等の状況を判断し、その場で検討し決定 タルプリントシステムがある。写真のジャンルで された制作報告である。 は、現像所やラボラトリーであり、デザインであ ブハウスギャルソン・渡辺清和 ・サイン制 作・加 工・施 工:日本 ニューラルネット (株) ・井上孝二 ・テクニカルアート 従来のデザイン決定時は、デザインプランで ればデザインスタジオやプレゼンテーションス 参考文献 優れた設計図や完成予想図により判断し、決 ペースなど言い方は様々であるが、明るい場所 ・太田幸夫他「サイン・コミュニケーション」柏書房 定する場合が多い。空間を扱うジャンルでは、 でオペレータと出力システムのある環境は、現 ・武山良三「sign design handbook」 (社)日本サ パースペクティブ(遠近法) や模型を作り、完成 在のデザイン工房といえる。制作段階で、デザ インデザイン協会 10 11 日本サイン学会誌・SSS 07 制作報告 制作報告 「食」 を扱う新店舗へ、空間・素材・ビジュアルの提案と実施 味のレシピを店舗エレメントに反映させる、ビジュアル優先プラン 井上孝二 (日本ニューラルネット/武蔵野美術大学) 、太田幸夫 (多摩美術大学) した。このビジュアルメディアの選択は、光を のエレメントを決めていった。 (4) 今日、 「食」 に関した店舗デザインを考 通す内照式フイルムに表と裏から同一に見 (1) 空間や素材において 察する時、赤色の (全面) 使用には避難の声 えるように、反転した画像を貼り合わせて仕 健康的なナチュラル思考が背景にあり、 こ 上げた。外の壁面はテント加工でアピール のキーワードを床、壁、天井と外観に配慮し 地域、あるいは街並みとの相関関係で決定 し、実際の料理写真を厳選して随所に配置 た。 されるのではないかと考える。更に、赤色使 した。施工前から検証した店舗空間は、雰 囲気を具現化し独自のイメージを醸しだし た。キーポイントのランプシェード37個は、昼 1. はじめに 立地条件にかなう生活密着型 総合ショッピングエリアの誕生 最近の都市を形成する顕著な動向は、 都市中心に、あるエリアごとリニューアルし、 新たな拠点とする場合がある。東京の場合 では、国内はもとより海外へもアピールし、多く の人が集まる商業エリアとして成立している。 東京新丸ビルとその周辺のリニューアルは、 ま さに画期的な傾向といえる。しかし、都心か ら離れた生活者にとっては、多極分散型あ るいは地元で身近なショッピングを求めてい る。都市を離れた首都圏で設立した新しい ショッピングエリアの出現と、 その中の一店舗 をとりあげ今回の制作報告を試みる。店舗 を形成する各種のエレメント (インテリア:床 壁天井、形態、カラー、素材) は、都心や地方 と余り変わらないのが現状。それは地域を 越えて訪れる人への感動を与える 「場」 の確 保や創造に他ならず、 サインやデザインをベー シックに捕えると立地を問わず需要に応える アイディアやクオリティーがそのエリアを活性 化させ、存続させる結果となる。 埼玉県北部に位置する 「ビバモール加 須」 の立地は、流通および産業の拠点として 今後大きな発展が期待されている。総敷 地 面 積:158,738m 2 に 総 店 舗 面 積: 34,621m2が計画され、 日用雑貨のビバモー ルと共に 約 50 店 舗で成 立された 新しい ショッピングエリアの誕生であり、 その一角に せた先人の先駆けの精神に触れ、 デザイン 夜の同一イメージを保ち訪れるお客のビジュ が聞かれることを考慮し、実施する場所や 用が一店舗で成立することと、地域での成 (2) カラー計画 食材やイタリアンレストランを理解できる象 立に赤がどのように係わるのか今後、考察 を深めたい。 徴としてトマトを点在させイメージ制作を計る。 位置したイタリアンレストラン 「カプリチョーザ プランから実施に至るまでその精神性を基 アル訴求に役立っている。店舗装飾の際 店」 の新装提案 (空間・デザイン・素材・ビジュ に展開した。ビジュアルな内容については、 に、 ミリ単位をあらそう場面が何度もあった (3) 赤 (暖色系) と食の店舗の関係。及び街 所在地:埼玉・加須 アル・動線など) のプランから制作、実施まで 食材分析により野菜が豊富であることから、 が、完成し意図した所に配置されると、 その 並み形成との関係を考える。 完成年月:2006年10月 を述べる。 2. 味のレシピを店舗のエレメントに反映 空間・素材・ビジュアルに配慮し、多角度に 対応しながらサインデザイン展開を試みた。 地方都市といえども、関東平野を俯瞰して見 れば、 ほぼ中心に位置する埼玉県加須市の 開発であり、工場の跡地を利用し、 市の経 済発展に寄与する新しいスタイルの流通・産 業拠点といえる。この商業エリアの中央に位 置する 120m2 の店舗が「カプリチョーザ加 須店」 である。デザインプランと表現要素は、 「食」 文化を支えるイタリアンレストランを意識 した考え方と表現にある。新店舗の屋内外 へビジュアル優先のプランを提案。特に店 内に点在する37個のランプシェードには、 ビ ジュアルアイデアを盛り込み、昼と夜を問わず 印象に残るビジュアルイメージ効果を果たし た。厚みのある木調合板を壁面にレイアウト し、葉の形態のあるグリーンの太い円柱を 天井に据え、 ナチュラル感を出しながら、壁 面では 「食材:野菜中心」 を単純化し、集合す るカット表現で雰囲気や深みを出した。店 鋪内外や昼夜の 「見え」 の印象やイメージの 統一化を図り、遠近の視認性を高めるため、 真っ赤なトマトのランプシェードを点在させ た。リラックスしながらゆとりを体験できる空 間作りをデザイン提案の骨子とした。 3. 創立者の精神が店舗づくりに役立った 店名: 「カプリチョーザ」 ビバモール加須店 使う野菜の単化表現を試みた。一番多く使 こだわりが一種の空間の質として見とれてく 用するトマトはイタリア料理には欠かせず、 デ る。サインデザインの表現は多様だが、随所 えば、 コカコーラ、 ジョナサン、 ガスト、 つぼ八、 ザインエレメントのポイントとした。その結果、 で難題を乗り越えて成果づいたことに気付 和民など思い浮かぶ。色彩や色相は微妙 赤く熟したトマトの写真を37個のランプシェー く。 に違うが暖色系が圧倒的に多い。今回の ドに展開した。幾度となく施主の意見を取り 入れながら微細なところで多くのプレゼンを 実施し、具体的表現に結びつけた。 床から約 2m に位置するガラスのランプ シェードの外側へのトマトの表現に留まらず、 お客がテーブルに座り、 下からランプシェード を覗いた時も同一のトマトが見えるように配慮 4.まとめ 日本の食文化を支える味の領域は、 半世 紀前と現在では遙かに差がある。しかし、 「美味しく味わう」 などを満たす不変的な言 葉から、 サインデザインの上では人間に訴求 する最もベーシックな素材を選択し一つ一つ 一般的に食を扱う商材に赤が多い。例 設計監理:ミズタニデザインスタジオ 水谷晶人 施工: (株) 阪急製作所・ (株) 創工房 ビジュアルデザイン制作施工 :日本ニューラルネット (株) 店舗設計では、 マークのサイズ指定がありそ クライアント: (株) WDI れに従ったが、 その他の規制やガイドライン 撮影:上田克郎 は無かった。赤いテントに「食材」 を単純化 表現で展開した結果、 「食」 を扱う店鋪イメー 参考文献 ジは高まったが、店鋪全体を見渡すと、 そこ ・太田幸夫、他著 :「サイン・コミュニケーション」柏 だけ特に際 立たせた印 象は 感じられな 書房 かった。 ・武山良三著:「sign design handbook」 (社) 日本サインデザイン協会 図7.壁面デザイン (施工後) 図2.遠方からの店舗外観 図5. ランプシェード試作(赤と緑の見えの差) 図3.店舗の外観(昼の見え方) 図4.店舗の外観(夜の見え方) 図8. インフォメーションから見た店内(施工後) 施主の料理に対する考え方 (味に対する コンセプト) が形を変えて店舗形成の方向付 けに役立った。言い換えるならば、 イタリア 料理のパイオニア的存在であるカプリチョー ザの経営方針に 「日本の多くの人へ、安く美 味しくイタリア料理を味わってもらい、多くの人 の美味しいという笑顔のために・・・ 」 と言う指 図1.店舗の位置 国土地理院100万分の1(2) 12 針がある。海外料理文化を日本へ根付か 図6.施工完成後の店内:木とグリーン (イスと円柱) そして、 ランプシェードの点的アクセント 図9.店舗の外観(夜の見え方) 13 日本サイン学会誌・SSS 07 制作ノート 6. 「なんばCITY」 ①現 状 個性的な店舗が少ない印象。 ②問題点 案内サインが少なく不親切。 ③改善策 照明を明るくサインを明確に。 研究ノート 新しい大阪・ミナミのサインの実地調査研究 大橋武 (大阪市立デザイン教育研究所/大橋武デザイン事務所) I.はじめに 大阪らしさを象徴するミナミに新たな風 が吹き始めた。 ここ数年、難波周辺を中心に再開発が 進み、ミナミに賑わいと活気が戻ってきた。 その核に2003年、ユニークな緑化都市の 大型複合施設「なんばパークス」が誕生。 また、百貨店の増築や新規出店と並行し てミナミのシンボル、道頓堀川の両岸に遊 歩道が整備された。 一方、キタでは西梅田界隈やJR大阪駅 の再開発計画が進行中で、市内の主要な 繁華街が大きく変貌を遂げようとしている。 その様変わりを始めたミナミのサインが、 「美しく便利で安全性」が保たれているか。 また環境の中でユニバーサルデザインの 機能が十分発揮されているか、について 学生の目で実地調査を行なった。携わっ たのは、大阪市立デザイン教育研究所の 1年生全員( 40名)で 2006年 11月、授業 の一環としてグループ別に 7ブロックを検 証したので、研究結果の概要をリポートす る。 その前に、同教育研究所の特色につい てお知らせしたい。同研究所は、文部科 学省が認定する 2年制のデザイン専修学 校として1988年、大阪市阿倍野区文の里 に開校。ヴィジュアル、スペース、プロダク トの3コースに分かれている。なお、講師 陣には、大手企業やデザイン事務所で活 躍する第一線のデザイナーを中心に編成 され、最新のデザインツールと設備の中で 高度で実践的な教育を行なっている。とく に最近は、企業とのコラボレーションやプ ロジェクト学習を主軸としたカリキュラムに よる実務を兼ねた授業が増加している。 II.調査方法 調査に際してミナミの代表的なストリート を選択し、1グループ 5・6名がカメラとメ モ持参で下記のチェックポイントに基づき 丹念に調査した。なお、UDについては 健常者のみならず、予め各自が高齢者や 14 障害者から意見を聴取し参考にした。 Ⅴ.調査結果と評価方法 <チェツクポイント> ンと講評結果の概要を報告する。なお、 1.店舗ファサードが斬新で美しいか。 ディスプレイやサインが斬新かつ適正な 表現で周辺環境にマッチしているか。 2.案内誘導が瞬時に分かりやすいか。 情報がシンプルで見やすく、適切な位 置に表示されているか。 3.安全に目的地にたどり着けるか。 歩行に際し障害物がなく、アクセス面で 安全、正確に目的地に到達できるか。 4.操作面の使いやすさは万全か。 自販機や情報案内装置がある場合、誰 もが便利で操作がしやすいか。 講評には筆者のほか、外部から実務経験 グループ別調査研究のプレゼンテーショ 豊富な当学会会員・吉田恵三氏と吉川友 佳子氏(両氏とも日本サイン株式会社勤務) 7.湊町(OCAT・JR難波駅) ①現 状 ミナミの玄関としては雑然とし て暗いイメージ。 ②問題点 段差が多い。清掃やメンテが 不十分。 ③改善策 定期的にクリーンアップを。 <評価の所見> 以上、7グループによるプレゼンの結果 に委嘱した。 について紙面の都合で上位 3グループの 講評のあと、1)調査内容と分析力 2)問題提起と改善提案 3) プレゼンテー ション力の3項目を基準にABCランクで採 点した。 寸評をご紹介する。 1.アメリカ村 観察力と問題分析が優れ、 ユニークな改善提案が高い評価に。 ミナミ周辺のマップ 2.道頓堀川遊歩道 バリアフリーの問題 提起と 「憩いの場」の提案は説得力があっ た。 3. 「なんば CITY」 複雑な全コースを分 かりやすく分析、改善策とプレゼン力が出 色で良かった。 <プレゼンの要点> 1.ヨーロッパ村 ①現 状 ヨーロッパ風の店舗が少ない。 ②問題点 汚い立看板が景観を阻害。 ③改善策 不法看板と駐輪を追放して III.調査区域の選定 よりお洒落な街に。 繁華街の中で広域の御堂筋、心斎橋筋、 道頓堀や新設の「なんばパークス」を除き、 下記の7ブロックを選定し、学生のリクエス 2.アメリカ村 トにより担当区域を分担した。 ①現 状 若者向きの店舗が多い。 ②問題点 狭い歩道に不法駐輪が多く、 街全体が雑然としている。 <調査区域> ③改善策 コインバック式駐輪場とゴミを入 1.ヨーロッパ村(周防町、御堂筋東) れたくなるようなゴミ箱の設置を。 2.アメリカ村(周防町、御堂筋西) 3.道頓堀川遊歩道 4.地下街「なんばウォーク」 3.道頓堀川遊歩道 ①現 状 整備後間もないためか各店舗 5.地下街「なんなんタウン」 の裏側のイメージが残存。木 6. 「なんばCITY」 製の床は安らぎ感がある。 7.湊町(OCAT・JR難波駅) ②問題点 車いすが入れず障害者に不 親切な印象。 Ⅳ.調査日程 ③改善策 入りやすい入口の改善を。 2006年10・11月の毎木曜日、 「サインの 基礎概論」の講義のあと、午前中4週にわ たり下記の日程で実施した。 4.地下街「なんばウォーク」 ①現 状 全般的に安全歩行に配慮。 1.10月26日 オリエンテーション ②問題点 マップや案内表示が不鮮明。 2.11月2日 実地調査と検証 ③改善策 非常口の安全サインを明確に。 3.11月9日 グループ別結果の分析と まとめ 4.11月30日 プレゼンと講評 5.地下街「なんなんタウン」 ※11月16日は入試、23日は秋分の日 ①現 状 改装直後でフレッシュな感覚。 ②問題点 案内板が過剰で煩雑感あり。 のため休講。 ③改善策 非常用の避難誘導のサインを。 <採点表> ※上位3グループ 1 2 VI.反省と課題 1 .学生には短時間の知識修得のため、 問題点の追求不足など疑問が残った。 3 2.さらに研究内容の精度を高め、将来各 商店組合や行政に対し前向きな提言を試 みたい。 4 ①調査内容と分析力 ②問題提起と改善提案 ③プレゼンテーション力 1. A A A 2. B A’ A 3. A A A VII.まとめ 終わりに、今回の学生による大阪・ミナミ の実地調査研究の総合所見として、 1.公共交通機関に比べ、民間事業主や 5 各商店組合では UDに対する認識が低く、 概ね後手になっている模様。 2.学生が本研究を通じて社会が求める 普遍的なサインの重要性や地下街におけ る避難誘導対策などについて認識を深め たこと。が挙げられるだろう。 6 調査区域の写真 1.ヨーロッパ村 2.アメリカ村 3.道頓堀川遊歩道 4.地下街「なんばウォーク」 5.地下街「なんなんタウン」 6. 「なんばCITY」入口付近 7 7.湊町 (OCAT・JR難波駅) 15 第17回日本サイン学会研究大会 2006東京大会 (土) − 22日 (日) 2006年10月21日 ■第1日 (土) 2006年10月21日 ●総会・研究大会 会場 : コトブキDIセンター2階ホール 東京都港区浜松町1-14-5(株)コトブキ内 パネルトーク 「デザインの新しい世界」 佐藤優、宮沢功、武山良三、木村浩 ■ 参加のお 申し込みは、 同封のはがき 参加申し込み かEmailで の場合、10 お願いします 月6日までに 。 sss@geijut ご投函くださ su.tsukub い。 a.ac.jp ■ 総会を欠 席される会員 は、委任状を お願いします 。 ●研究発表 武山良三「インターチェンジにおけるサイン計画 (仮) 」 島津勝弘「富山ライトレール/電停個性化スペースの新たな広告計画」 入江寿彦・田中一雄・斉藤綾子・功能澄人「広告付きバスシェルターの展開について」 宮沢功「環境化する屋外広告物」 (仮) 」 井上孝二「LEDを使用した古代ガラスの光 太田幸夫「景観としての屋外サインの評価」 (10月22日) エキスカーション ■第2日 ●視察 1 渋谷駅周辺視察 試行設置のデジタル案内版視察 平成18年 度日本サイ ン学会総会 Qフロント周辺3面表示を含む大型画像装置 渋谷駅ファサードのデザイン その他、ビルボード広告、 ●視察 2 原宿駅、歩道橋下集合、原宿駅から南青山まで徒歩にて視察 原宿駅HARAJYUKU FASHON JOY BOAD、駅構内広告 ブランドショップ建築デザイン視察 OMOTESANDO HILLS視察 16 17 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・シンポジウム 研究大会・シンポジウム 景観法と屋外広告 レポート:坂野長美 「保全」に軸足が寄っていたのに対し、新 面が大きいと思っているわけで」 と洩らさ しい「景観創出」にも一つ重点が置かれて れたような社会通念の根強さに、それも いるのは一前進と思えた。 道理と嘆かせるような、過密都市はもとよ 屋外広告物法も、まず従来は「美観風 り都市化の及ぶところ全国的に現出する 致を維持し」 とあった冒頭部分が、 「良好 その生態も相変わらず。とはいえ他方で な景観を形成し、もしくは風致を維持し」 は既に日本の現代デザインの一環として、 と変更されたのを始め、幾つかの改正ポ 高い質的レベルに達しているサインデザイ イントとともに改めてこのピラミッドに組み ンが少なくないのもまた事実。この落差縮 込まれている。例えば従来の制度では市 小のためにも重要な質の問題を、どう判 「景観法が屋外広告のあり方に与える内容」 町村レベルの権限外だった屋外広告物 定するのかが難しいところなのである。 舟久保敏 (国土交通省都市計画課 景観室 課長補佐) 条例も、上位自治体と協議の上だが制定 基調講演 可能になったとある。こうした中で規制強 パネルディスカッション「景観と屋外広告について・I」 モデレーター: 佐藤優 (九州大学教授・日本サイン学会会長) パネルディスカッション「景観と屋外広告 見てとれるが、一つの懸念材料は、高さ・ について・I」 長さや面積比など量的規制に終始してい パネリスト: た従来制度に対し、色彩・形態・形状な 鶴田洋久 (小田原市都市部まちづくり景観課長補佐) 武山良三 (富山大学教授・日本サイン学会理事) フリーディスカッション「景観と屋外広告について・II」 く要点に絞った概略記録を試みたい。理 「都市公園法」と併せて「景観三法」が、 解不足や独断部分も多々ありそうだが、そ 国土交通省・環境省・農林水産省合同と こは広くご意見をお寄せいただければ幸 いう画期的体制のもとに制定されたのは いである。 平成 16年( 2004)6月。翌年 6月には全面 今回シンポジウムのメンバーリングは上 施行されて、いよいよ国も本腰入れての景 記プログラムの通り。実行委員長は宮沢 観行政新時代が滑り出している。この時 功氏であった。 ( 期日:10月 21日/会場: 期に当たり日本サイン学会では、恒例秋の 浜松町・コトブキDIセンター) ここでまずモデレーターの佐藤氏から、 舟久保氏の講演 どデザインに関わる質的側面、つまり定量 から定性への一歩踏み込んだ規制強化 疑問点が指摘された。とくに今後は「各自 援の仕組み」 として、景観行政団体から各 が見られることだろう。これはサインに限 治体とも、景観維持のため広告に対する 種民間組織、具体的な景観計画とその実 らず各種建築・工作物にも同様に適用さ 規制は厳しくなる傾向にある」 というくだり 遠藤歓 (電通 アウト・オブ・ホームメディア局企画業務推進部長) 「景観法」、運用上関連の「都市緑地法」 化と緩和との微妙なバランス関係変動も かねて景観法審議文書に関する幾つかの 施レベルまで、細大もらさず綿密な組織 れるものだが、特に屋外広告物には手厳 には異議ありと、次のような所信表明がさ 的体系化がされている。 しいことになりそうだ。舟久保氏も、 「とも れたのは特記できる。 「私は規制が厳しく 例えばまず行政面では、景観行政の一 すれば屋外広告物は景観阻害要因と捉え なるとは思っていなくて、先ほども申し上 元化と、意欲ある市町村がその担い手と られる場合が多い。実は私自身、こういう げたように今回の景観法の趣旨の中には なるのが狙いの「景観行政団体」の確立。 やはり誘導と企画という二つの側面があ 実は、法律施行と同時に都道府県・政令 るだろう、と。これは規制を厳しくするとい た。これに対して企画からの自主性のもと、 市・中核市は総て自動的にこれになってい うよりも、自分たちの意思をもって景観をつ さまざまな組織が協力して街づくり・景観 るそうで、従って日本全国どこでも必ず、こ くっていこうという方法になるのではない など、コントロールの側面が強調されてい づくりに関わる事が出来るという、2つの の法律に基づく景観行政団体が既に現存 か。規制という言葉は、少しここではふさ 側面を持った点が画期的な変化ではない していることになる。しかし地域とは全国 わしくないのではないか、という風に思っ か」。 一律ではなく、地域特性に応じてニーズも ている」。 多様だし、何よりも地域の住民生活に密 基調講演「景観法が屋外広告のあり方に 接な関連性を持つ問題だけに、もっとも身 「景観法と屋外広告物 小田原市の事例 年次大会を『景観法と屋外広告』 をテーマ 与える内容」舟久保敏(国土交通省都市 近な行政団体である市町村が特に望まれ 報告」鶴田洋久(小田原市まちづくり景観 に開催、これに正面から取り組もうとする 計画課 景観室 課長補佐) ている…と、つまりはまだまだ過渡的状況 課の景観担当主査) 姿勢を意欲的に打ち出した。当日午前中 会長挨拶 の研究発表もテーマ関連の実践的研究が 中心。とくに午後の部のシンポジウムは、 ではあるけれど、この団体が景観法利用 続いて基調講演者・舟久保氏の「景観 シンポジウムは、サイン学会新会長・佐 各種の制度活用を行う主体となるという。 弁する小田原市の事例で開かれた。バネ 大きな特徴は、氏の明快な整理によると、 ともあれその策定になる 「景観計画」 ・ 「景 ラーの鶴田洋久氏は、小田原市まちづく 「良好な景観」が「現在及び将来の国民共 観地区」指定制度の創設。地権者合意の り景観課の景観担当主査として、長年そ 通の資産」であることを初めて明示したこ ルール作りに関わる「景観協定」。住民・ の実地に当たられて来たベテラン。従っ 事業者と関係行政機関協同の場としての て微に入り細に渡って解説されるその取 藤優氏の開会挨拶とパネラー紹介に始 に切り結ぶようで興味深く、問題提起にも まったが、その中で新法に寄せる期待が 富むなどで好成果を納めた。以下、紙数 次のように述べられた。 「従来の屋外広告 の制約上その全記録の余裕はないためご 法や景観条例ではもっぱら規制とか誘導 と。これを根拠に「良好な景観」形成を促 18 シンポジウムのモデレーター:佐藤会長 パネル・1は、その行政の立場を一つ代 緑三法」概説が展開された。今回法規の サインを巡る日本的社会状況とリアルタイム 大会実行委員長の宮沢副会長 の上で、景観計画の作成をはじめとして 進する各種支援ツールを整備したことにあ 「景観協議会」。さらに住民主導の取り組 り組みは、法規を実務レベルに落とした るという。その説明のために「景観法の概 みを、NPOや公益法人などと結び、専門 場合の 1モデルケースと言えるものであっ 要と施行状況について」 と題する克明な 職能面から支援する仕組みの「景観整備 た。 資料も配布され、図表化要素も豊富で大 機構」指定。こうした総てに認可権限を持 小田原は神奈川県西部に位置する人 いに理解を助けてくれた。中でも眼目は、 つのも今の「景観行政団体」で、最終的に 口約20万の中都市で、特例市にも指定さ 従来の景観条例ではこれに抵触する事例 は国策に帰結する…と、見事な整合性を れている。立地は箱根連山の緑で三方を に対して改善勧告までは出来るが強制力 持つピラミッド構造がそこに現出している 囲まれた平地部の、丹沢湖を水源とする は無かったのを、それが可能な法的根拠 のは一驚ものであった。ほか詳述の余裕 酒匂川の扇状地。この第一級河川は、い を与えたこと。そのために「行為規制と支 はないけ れど、従 来 景 観 行 政と言 えば ま一つの芦ノ湖を水源とする早川とともに、 19 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・シンポジウム 案だったが、地権錯綜してはかどらないと か自動販売機についても色を決めて規制 も進んでいる。その際には中間地帯の建 ころへ 、突 然 マンション 計 画 が 持 ち上 している。屋外広告物もまた、位置や大き 物の高さとか屋上看板の規制、現存する がったりした。もしこれが建ち上がれば、 さばかりではなく色彩の基準を盛り込んだ 老朽看板の撤去に赤い色の看板も規制し 箱根の山並みへ続く貴重な緑の景観が損 ものを定めている。例えば広告物の文字 よう…などと考慮中。このように「景観にま なわれるし、第一現天守閣周りの歴史景 以外の部分で3分の1を超えるものについ つわることでできることは、何でもやってい 観も台無しになってしまう。市民も問題視 ては彩度で制限する…など。これは従来 こうという姿勢で臨んできた」 と結ばれた。 し始める中で急遽文化庁とも相談、国史 は規制誘導に止どまっていたのが変更命 結局は規制に終始されてしまわれたよ 跡として指定を受けて、市が買い取ること 令ができるようになったため、それにはや うでもあれば、景観行政というものが如何 で事なきを得たという、苦い経験もあるそ はりある程度納得されるような客観的基準 に地に足付けた歩みの一歩一歩の蓄積 が必要と、建築物から屋外広告物までの なのかを改めて理解、景観行政団体も並 基準づくりに努めた一環のようだ。 大抵では務まらないお役目なのだと実感 うだ。 最近では、先のもと宿場町の景観形成 鶴田氏の発表 地区に起ち上がって問題化した、条例破 小田原市の景観計画は、2段構成に りマンションというかの悪質な事例も出た なっているのも1特色とある。それは基準 できた。 という。最初の届け出では、宿場町にふ ベースと目標値で、特定届け出行為とは さわしい景観色の「白っぽいもの」にという 総て変更命令が効くものになっているため、 「アウト・オブ・ホームメディア最新情報」遠 指導に合致していたのが、工事中は青い 基準ベースでは最低限の守りを固めるべ 藤歓(電通アウト・オブ・ホームメディア局 養生幕に覆われたままで進行状況は窺え くチェックし、もし違反があれば命令まで 部長) ず、実は条例違反の着色ビルと解ったこ 発動する。さらにより良い町づくりのため 河口部でも鮎が捕れるという清流で、それ ろには後の祭り。ひともめしたけれど結局 に目標となるものを定めて、そこには推奨 パネル・2では、民間と 「広告」の立場を らが流れ込む相模湾の海岸線も変化に は押し切られて、 「市の条例をなぜ守らせ 色も各種上げられているというもの。その 代表して日本の広告代理店最大手の電通 を起こさせる。従ってターゲットに強いの が特徴で、OHメディアはそこで非常に有 と市民の批判も続出した。 富む、という豊かな自然に恵まれている。 られないのか」 遠藤氏の発表 更新についても条例で遵守するように定め 登壇。パネラーの遠藤歓氏は、そのアウ その一方で、戦国大名の雄として知られ 市としても今後への悪影響もおそれて「非 ている。もともと城周辺では屋上広告物は ト・オブ・ホームメディア局部長を務める、 効な手段だという。 る小田原北条氏時代からの城下町、東海 常に危機感を持っていた」。つまるところ 禁止、ネオン照明も同じくだったりしてい 業界歴戦のプロフェッショナルである。 道随一の宿場町としても栄えたという歴史 は景観条例実施による誘導行政の限界の たので、それはそのまま継承。 「実効ある 風土でもある。ただし関東大震災に戦災 ため、景観法の成立は待ち望まれていた 制度は早く取り入れたい」 と、従来の蓄積 く隙間を制汗剤の広告に利用…といった 被害も大きかったので、小田原城址に寺 ところのようだ。従って同法施行は平成 は生かしながら、変更命令が可能になる ユーモラスな事例も提示された。車内広 社などの文化財の他は、中心部には古い 16年(2004)12月17日といち早く、県から 町並みなどほとんど残っていないという辺 景観行政団体の同意を得たのもその同日。 りでは、かなり平均的な地方中規模近代 直ちに翌 17年( 2005)2月 11日には景観 都市でもある。 行政団体として発足、10年の余を経て見 ここでの景観まちづくり事業には、今回 直しの時期がきていた総合景観計画の新 新法の母胎となった景観条例以来の前段 規策定と、同時に可能となった屋外広告 階がある。いち早く昭和60年代からスター 物条例の制定にも乗り出している。 ト、平成元年( 1989) には国のモデル都 小田原市の場合、その中で「色彩環境」 市指定も受けて、同2年(1990) に都市計 というものに一つ重点が置かれているの 画マスタープラン作成、同5年(1993) には が大きな特色である。景観計画区域は市 条例をつくり、それに基いて市内全域に、 域全域。中で特に景観上必要不可欠な 小田原市の事例 景観に影響を及ぼすような建物の高さ制 範囲に、景観計画重点区域を定めている。 限や、色とか緑化について誘導を図って 代表的には小田原城天守閣が聳える城 の形態意匠ではなく 「色彩に注目し、色で きたというもので、同時に景観形成地区も 址公園と、新幹線・在来線のターミナル駅 城下町にふさわしい景観をつくっていこう」 指定。国史跡の小田原城址公園を巡り、 で市の表玄関の小田原駅を結ぶ一帯だ と方向を定めたのが契機のようだ。 堀端シンボルロードとか、もと宿場町の中 が、この間の距離が近々500メートル程度 そのためまず重点地区内のいろいろな 心部で衰退していた商店街地区などの修 とあり、景観上望まれるイメージは相反す 建物とか看板調査をしてみると、小田原の 景整備に努めてきた。しかしそこにひと波 る。城側は国の史跡で同時に都心部の 場合比較的多かったのがベージュ系の色 乱を巻き起こし始めたのが、バブル期以 貴重な緑地帯。特に静謐な雰囲気を要す 調だったという。この界隈の視覚的主役 来の中高層マンション攻勢だという。新幹 るのに対して、駅側は総て商業地域で城 は城と周りの緑であり、建物はそれに不 線からも望める小田原城の現天守閣は、 ばかりではなく箱根など名所観光の玄関 調和ではないものをということで、駅周辺 藩政期大久保氏時代のものだが、その西 口でもあり、 「にぎわいはいくらでも欲しい ではベージュ系は彩度 6 以下に抑える。 けれども」やはり城下町というイメージで 他の青みや赤みが強いとか、グリーンが 方の八幡山という地域には北条氏時代の 城址もあり、その辺りは古い遺跡の宝庫だ 「にぎわいの中にも風格のある町づくり」が かった色などはぐっと抑えて、彩度 0.5以 とか。従って市としても買収はかねての懸 行われなくてはならない。それには建物 下というように定めた。まだ各種工作物と 20 「アウト・オブ・ホーム・メディア」、略して OHメディアとはアメリカ発生の新概念で、 その背景には近年のグローバルに加速化 ような範囲には洩らすことなく網をかけ、 する変革の時代が、屋外広告にも及ばし 制度化した…という形である。 て来た大きい状況変化があるようだ。氏 それでも手を焼いてしまうのが、メイン は開口一番、その「もっとも大きな原因は の駅前通りでも大手テナント撤退後の空き 肝心な生活者、いわゆる消費者の変化。 ビルとか、横町の界隈空間などに増殖し 2番目は広告主の変化。 3番目はメディア てやまぬ看板類、法規では自家用広告と そのもの が 変 わってきたこと」だという。 規定される種類のもののようだ。掲出許 「消費者」が「生活者」 と呼び替えられ始 可・無許可の区別もつかず、悪貨が良貨 めたのも興味深いけれど、その変化とは を駆逐する勢いで時には建築外観も覆い 「単純に言えば、街にいる時間がすごく増 尽くして色彩氾濫。小田原の景観計画の えたこと。それだけにアウトドアで広告に モットーは「歴史と文化の香るまち」だが、 接触する時間が重要になってきた」。他方 特に外部者にはどこが歴史で文化だと批 で広告主の変化では「コンタクトポイント」 判されたり、ここにも何か住民のルールづ が一つ重視され始めた。これは電通用語 くりが必要では、と指摘されたりもするそう で、博報堂ではタッチポイントと言うそうだ だ。しかしそれは別に小田原には限らぬ が、 「街に出て消費行動に対する気分が盛 現象だし、この種草の根サインもまた都市 り上がっているという時間、場面、場所、 の活力の 1源泉には違いない。頭の痛い 気分。この4ポイントをとらえて広告をやっ ていこう」 というもので、消費者のとらえ方 ところのようだが、市ではこれからいろい も従来のリサーチ手法のような「量の視点 ろと商店街との話し合いを進めるなど、地 ではなく、質の視点に変わっている」。そ 区景観との取り組みも今後拡充して、屋 れは街なかで刻々に変わるターゲット層そ 外広告物規制についても併せて条例化し れぞれのニーズを、それぞれに違うコンタ ていく予定という。あとは眺望の問題にも クトポイントごとにとらえて、そこに適切な いま少し手を広げたく、これでは国道1号 メッセージを置くというもののようで、それ 線からの小田原城のヴィスタを、市の公共 が消費者心理を即座に動かし購買行動 施設建て替えと絡んで修景整備する計画 具体的には交通広告と結ぶ場合が示さ れ、バスで吊り革を握る人の脇の下に開 告では明らかに屋外広告物の範疇外とし ても、もちろんそればかりではない。メディ アの変化もまた大きく、従来型の新聞・テ レビにインターネット時代の各種新媒体と 多極化しているのは周知のとおり。OHメ ディアの特徴は、それらとの組み合わせも 必要に応じ自由自在というメディアミックス 性にもあり、特にテレビCMとの連動は今 や常套手段とある。つまりは「家庭外」 と 標榜しながら 「家庭内」にまで忍び込んで いるという、きわめて網羅的な概念なのが また特徴である。その中で屋外広告物も、 かつてのネオンサインのようにそれ単体で 自立するものではなく、OHメディアの広 汎でフレキシブルな網の目の一部分として 完全に組み込まれていて、何となく影が薄 くなってきたような形でもある。しかし逆に この網の目から一つ抜け落ちているのが、 今回本論の「景観」なのだ…とも気づく。 しかしそこはやはり避けては通れない テーマとして景観と広告論議に移ると、こ こでもまた時流の最先端の一断面を切り 取るような話が展開された。結論を先に 述 べると、遠 藤 氏 は「 景 観 三 法 制 定 で OHメディアは活性化へシフトする」。なぜ 21 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・シンポジウム なら景観保全エリアと広告活性化エリアと 期を通じて異彩を放ったのが、アサヒビー 作替えを屋外からするものはやはり法規内 会会員でもあるし、今回テーマを巡る研 なお定性的側面が文字通り色濃く保持さ の分離・両立が望めるから、と積極的に ルがかねて実施していたスーパードライ だが、内部からしかできない場合は法規 究実績の蓄積は並々ではないことも知悉 れていることの立証として傾聴させるもの 受け止めているようだ。 があった。 アート公募展の晴れの発表の場というもの 外とされているためである。ただしテレビ している。従ってお詫びとともに、いずれ その1実証として提示された事例が、電 で、これなど「非常に森ビルさん好み」の 朝日の場合はその程度のものではない冒 は氏自筆の研究発表として本誌面が飾ら そのために「赤」 という、広告主好みで 通新本社ビルも聳え立つ汐留地区の地下 ものであったとか。最近はこうした街と 険のようで、 「自主ビルだからこそ出来た」。 れることを期待して、この度の氏のスタン 景観上はもっぱら悪役視されてきた色を 街である。街区始動とともにここでもまず アートの結びつきの場も、OHメディアの これも法規にみごと準じている。 スを以下に抄録させていただくに止どめ 主役に押し出し、色の中でも看板役者級 る。 のその真価を発揮させてみせたのもサイ 街づくり協議会を、入居企業と商店街が 新マーケットとして開けつつある形勢のよ 協同して立ち上げたが、それはこれまで うだ。 ほかにも国内外から多数・多彩、電通 制作には限らず紹介されたこの種事例は それは、これまでとは「また違った切り ン学会初。同様の意味で思い起こすのが、 午前の部で「建築・環境化する屋外広告」 の話とは逆に街の活性化が目的。 「もしく とはいえ最もその本領発揮と見えたの やはり刺激新鮮で、時代の最先端を走る 口」の提示で、氏自身も屋外広告の現状 は街がこれから民活事業をするための資 が、都市空間を舞台に新奇なアイデアが 広告というものの面白さを改めて再認識さ には批判的なのだが、その実態と改善対 と題して発表された宮沢功氏の研究であ 金づくりとして、広告をうまく活用していこ 競われるキャンペーン広告の数々である。 せるものがあった。締めくくって遠藤氏は、 策の間には明らかにズレがあるのではな る。 「環境に寄与する屋外広告の可能性 う」 というもので、従って協議会には土地 中でも有名なのがアテネオリンピック当時 次のように発言された。これらは短期限定 いかと常々思ってきた。つまり 「結果に対 を探る」をサブタイトルに、19世紀末以来 の所有者からさまざまな借地権の持ち主 に、六本木ヒルズの朝日テレビ本社ビル の仮設物だが、 「もしこういうダイナミックな していろいろと言っているだけで、原因に の広告と街頭サインの変遷を海外デザイ 全員に、プラス東京都港区が入っている。 で展開されたアディダスのブルーカードプ シーンをある地域に恒常的に置くとすれ ついては全く問われていないというのが ン史上に探り、デザインとアート、そして広 従って「逆にこれまでは広告ができなかっ ロジェクトだという。テレビ番組と同調し ば、インパクトも何もなくなるし地域支援に 基本的な考え方」。それを突き詰めると 告主との力関係の変化にも視点を当てた 力作だが、特に一驚したのは、ここでも国 たエリア」に広告導入の道が開けた。こ た企画で、全国のサッカーファンから寄せ もならないと思う」。そこに一過性のイベン 結局は、 「広告物の主体とは広告業者で れはいま東京都内でも再開発地区各所で られたメッセージを記入したブルーカード トとか期間限定行事の意味があるが、広 武山氏の発表 はなく行政でもなくて、広告主と消費者。 内外豊富に提示された資料写真に、新宿 試みられており、汐留の地下街などはそ が、ガラス張りのファサード全面に内貼り 告クリエーターには上記のような飛躍的な この2者がどういう風に関係付けられるの 歌舞伎町や大阪ミナミの道頓堀などの過 の一典型例だという。 された青一色の大壁面がバック。そこに 発想が苛酷なまでに求められる。それは 改革についても丹念に努めてこられてい かがポイント」 というものである。 激な広告景観地帯も轡を並べたことで 安藤忠雄建築で話題を呼んだ「表参道 吉本のお笑い芸人が命綱で吊り下げられ 「いわゆるスタティックな街というのも大事 ヒルズ」の工事中の仮設塀も、やはり 「街 てサッカーに興じる、というスリリングなパ だと思うが、アクティブな街をどうつくるか 題に関わっている立場から「マンション問 その後の論旨展開は先述のとおり本格的 学術的メスが初めて差し込まれたようにも づくりを意識した新しい広告の考え方」の、 フォーマンスで、会期 2週間中・1日3回実 という手法も重要。街に元気をつける— 題など、我々と同様の悩みも抱えている」 研究論文に待つとして、特に記憶に鮮明 見え、また世に数多い学術団体・デザイン る」 と感心。氏自身地元・福岡で景観問 ここで録音テープが切れているため、 あった。それは直視に耐えない病患部に、 ただし典型例というよりはきわめて特殊解 演。実見できる人数は限られているとして ことにも共感しながら、色彩以外の「多機 なのは、氏が上記のスタンスを巡って打ち 関係団体などを見渡しても、こうした挑戦 的な事例であったようだ。これには当然 も、テレビ番組を通じ、また実見者のケー 能な形態・形状、それからデザインなどに 出したシンボリックな主題色が赤。そして ができるのはサイン学会の他にはないと、 — そこは広告主が一番望んでいるところ なので」。 「今日は広告主の代理人のような 森ビルも絡んでいるけれど、この「日本最 タイとか口コミでの喧伝も期待できるという 形で話しをしているけれども、広告主サイ 長規模級のロングボードの仮囲い」を、如 もので、初のOH効果実験の試みでもあっ ドには、そういう要望が強くあるということ 何に広告として活用できるようにするかは を少し認識していただければ」…と。 たようだ。これはカンヌ国際広告賞の金賞 「広告代理店が考えること」。氏自身これ 広告代理店、即広告主の代理者として を獲得して、国際的にも高く評価されたと を手がけたというが、 「本来は絶対広告は の生の声が聞かれたのは貴重な機会だ いう。 出来ないところ」なのが総面積の 2分の 1 ほか、同時期に 日航ベイサイド大阪で、 し、クライアントと呼ばれるその広告主が 日本でもトップクラスの企業揃いなのはさ 同じく大壁面で垂直 100メートル走という まではこれも1話題となった緑化壁。残り すが電通。しかしそれだけに、今後「い 半分が地元商店街の表参道欅会の持ち 壮挙も実現している。東京都だとおそらく わゆるサインボードとか、通常の屋外広告 分で、最後に残った4分の1に広告利用許 OKは出なかったのが、 「大阪府さんはな とは違う考え方」の広告が、ますます増え 可が、渋谷区と相談した結果の特例措置 ぜか出た」 という事例である。一時性が る傾向にあるというOHメディアの行方に で下りたという。 「これは 1年以上広告とし 特徴のジャンルだから別に規制も何もな いのかと思えば、やはりそうはいかない種 てあり、1カ月媒体として 12カ月 12枠、ほ は、面白がってばかりはいられないある距 類のもののようで、そこを如何にクリアーし 離感も一つ感じられたものである。 ぼ 12枠が全部あっさり売れた。さすが表 て合法的に突破するかのあの手この手も 参道というところで」。さすが森ビルの顔 また広告人の腕の見せ所のようだ。例え シンポジウム「景観法と屋外広告」 ——とも言えそうだが、それだけに広告 ば 先 のシート内 貼りもその 一 つ。つまり 主選定からその内容、最終的なデザイン 「屋内」には法規は チェックまでの質的コントロールは徹底して 「屋外広告物」だから、 佐藤氏は、小田原の事例については 及ばない。もっと細かく言えば、内部の造 「非常に緻密な対策を立て、市民意識の いるのが森ビルポリシーだという。なお全 と、挑発 は、まだ取り組めないでいるという辺り」 を、 「赤という色が本当に悪いのか」 的なまでに問題提起したことである。それ ン学の可能性を貴重に思えたものである。 に関わる面への宿題を残した。 が国内外で収集した豊富な資料映像と市 ともあれ宮沢氏は、こうした都市サインの 電通には「かなり警戒しながらのプレゼ 民対象のアンケート調査、360度調査とい 生態も 「景観構成要素として活用するコン ンテーション」だったが、 「内容がとても楽 う独自に開発した景観写真なども駆使し トロール手法の開発が必要」 と、ここでも しかった」 と、広告特有の新鮮さを追求す ながら説得的に展開された。例えば「京 やはり 「デザインの質」に言及。それをガイ る力で、楽しい手法がこれからも大いに 都とか金沢とか、景観にうるさい町で必ず ドする手法として「地域特性に準じたきめ 開発されることを期待し、 「それがアクティ 出てくる」赤に白抜き文字を赤白反転させ 細かなガイドラインなど、景観の視点から ブな町をつくっていく原動力になっていく る指導手法。それが本当に景観上有効か 見た積極策検討」を提案して結んだ。た だろう」 と肯定的。しかし先の「コンタクト といえば、アンケートに見る数字では支 だし「規制」ではなく…と。 ポイント」には「 2 つの問題があると思う。 持・不 支 持 率 が 全く同 等 だったりする。 22 会場風景 その辺ほとんど異口同音の形だが、全 まずはしっかりとデザインコントロールをし 「要するに問題なのは、赤と白の向こうに 編通じて改めて、定性面の問題を巡って ていくこと」。次に「広告を付けていい場 あるメッセージ。特に文字とかマークがあ はやはり単なる行政主導ではなく、サイン 所と駄目な場所をちゃんと見極めるという るということは 、一目でその 企 業 のメッ もその一環とする専門職能の横割り連携 ことだろうと思う」 と、消費者 —— いや生 セージを受け取ること」。それを抜きにし と、佐藤氏の言う企画段階からの参加を 活者にとって日常繰り返し接触させられる た単なる色彩評価で、果たして問題解決 特に求めたいものだと切に思う。もう一つ ポイントだけに一つ釘をさした。また条例 し得るかどうか。つまりは「デザインという これは私見だが、広告業界では既に主流 突破のくだりには、 「さらに厳しくて抜け穴 のは関係性の上に成り立っているわけで、 化しているOHメディアの多様な展開には、 のない条例をつくればいいのか」、逆に制 パネルディスカッション:左寄り佐藤氏、舟久保氏、鶴田氏、遠藤氏、武山氏 発足以来の地下資源のように抱えるサイ いま少し伺いたかった…と、やはり定性 1つのルールでは決められないのが一番 約が新しいクリエーションのバネともなるよ の問題点というか、難しいところだと思う」。 うな多 少 のゆとりを残 す 方 が いいのか 、 これは、今回シンポジウムに一貫してつ 判断に迷う風で保留された。 きまとってきた量に対する質、つまり定性 的評価の側面に単刀直入に切り込んだ問 パネル・3の武山良三氏については、ま 題提起だったと思う。それが色彩という、 定性的要素の中でも最も早くから科学的 ず最初にお断りしておかねばならないの 研究が進み、体系化・定量化され社会的 が、上記のようにまとめるには紙数も、録 にも客観的基準として通用しいる要素にも、 音テープ記録も尽きたことである。幸い学 屋外広告従来の概念ではカバーし切れな いものがある。その点いま一度、 「屋外広 告」 と 「広告」 と 「サイン」 という三つ巴に意 味性混乱している用語の再整理と、概念 再構築も必要な時期ではないかと、自身 客観的基準もなく混用してきただけに痛感 しているところである。 (文責:坂野長美) 23 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・研究発表梗概 研究発表梗概 富山ライトレール/電停個性化スペースの新たな広告計画 富山駅北口 島津勝弘 (島津環境グラフィックス有限会社) 立山連邦 神通峡 おわら風の盆 ちんどん祭り インテック 本社前 奥田中学校前 環水公園 富山薬学 専門学校 下奥井 粟島 (大阪屋ショップ前) 越中中島 富岩運河 中島閘門 鱒の寿司 売薬 旧駅舎 (すれ違い) 城川原 旧駅舎 (車両基地) 旧駅舎 (すれ違い) 犬島新町 蓮町 大広田 馬場記念公園 米田家別荘 「静嘉亭」 住友運河 旧制富山高校 琴平神社 東岩瀬 競輪場前 岩瀬大町通り 競輪場 岩瀬浜 北前船 岩瀬曳山車祭 ● 各電停駅のテーマコンセプト 今回の路面電車化の事業は、旧 JR富山 賛いただいた地元企業の名称は左上に 港線が北陸新幹線開業に伴う連続高架 小さく表示されるだけで、当初は担当者 化工事の影響を受けるため、存続か廃線 からも本当に売れるの?との心配される で決断する必要に迫られたが、富山市長 意見も有りましたが、富山の企業の寛大 の強いリーダーシップにより、厳しくなる さも有るだろうが、今回はしっかりとデザ 地方財政を踏まえ、これまでの自動車利 インした事が、企業価値を高める広告と 用を中心とした拡散型の都市から公共交 して評価いただき、市民からもこうした地 通を活用し都市機能を集約した「コンパ 域の新たな取り組みに貢献する企業とい 1〜3、富山市内を走る低床型LRT:7編成の車両 に各アクセントカラーが設定されています。 4〜5、バリアフリー対応のプラットホーム。 6〜12、各駅の個性化スペース:富山市在職在住 のデザイナー15名による、地域風土の特徴を美し く伝えた個性的で質の高いグラフィック表現となっ ています。 クトなまちづくり」が必要とした指針から、 うメッセージが伝わったように思う。 13〜14、思いやりベンチ(ドネーションプレート): 電停のベンチは記念寄付金によって設置されまし た。寄付をいただいた方々には、氏名や企業名 及び記念メッセージを刻んだ金属プレートを取り 付けています。 既存の軌道を有効に活用して、高齢者も 含め誰でもが自動車を使わなくても安心 して快適に暮らせるまちづくりへの第一 歩となる計画である。 将来的には、3年後を目指して駅南の 既存の路面電車軌道の環状線化、8年後 4 5 6 7 8 3 10 11 12 13 14 の北陸新幹線高架化事業が完了した後 には、駅南の路面電車との接続が予定さ れ 富 山 の 公 共 交 通 の 南 北 軸 が 構 築し 、 ●富山ライトレールトータルデザインチーム 交通ネットワーク形成と中心市街地の活 全体デイレクション・インフラデザイン:GK設計[宮沢功(デイレクター)、 入江寿彦、 西潟眞佐子] 若尾講介] 性化に大きな役割を果たすようになる。 車両デザイン・インテリアデザイン:GKインダストリアルデザイン[菅泰考、 今回のトータルデザインの中で具体的な Vl計画・車両カラー色彩デザイン・ユニホーム:島津環境グラフィ ックス[島津勝弘、 竹内健人、 井澤鉄之助、 野 取り組 みとして、車 両 や 電 停 からユ ニ 島博子] ホームなどの基本デザインに加え、新た 広告・広報デザイン:デザイン総研広島[山田晃三、 佐藤伸矢] なデザインの手法として、どのような市民 参加があり、地元企業の参画が考えられ るか検討を行い、市民参加の手法として、 車両デザインの最終イメージにおける市 民アンケート、車両の愛称の公募、電停 に設置したベンチのドネーションによる市 民協賛にご協力いただき、地元企業には 電停個性化スペースの地域特性をテーマ にした 地 元 デ ザイナーによる企 画 型ビ ジュアルのスポンサードなど新たな広告 手法にご協力いただいた。 1 これは電停広告の新たな挑戦であって 折角、白く綺麗な車両を走らせる電停に 雑な広告だけは設置したくない思いで、 何とかしたいと地元デザイン協会に協力 を依頼し、デザイナーの参加への公募を 呼び掛けていただき、各駅のテーマコン セプトを作り15名による15の個性が出来 上がった。施工方法も透過性のある景 観に配慮したデザインとなっている。協 24 2 3 25 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・研究発表梗概 研究発表梗概 広告付きバスシェルターの展開について 入江寿彦 (GK設計) 、田中一雄 (GK設計) 、功能澄人 (GK設計) 、斉藤絢子 (GK設計) 1.広告収入を活用したバスストップ整備 事業 欧州をはじめとする諸外国では、バス ストップ等のストリートファニチュア整備に おいて、その計画、設計、施行、維持管 理までを広告収入によって賄い、自治体 などの道路管理者には一切の財政的負 担をかけない料金徴収型の PPP( Public Private Partnership)方式が広く実施され ている。これは今日業界最大手となって いる J.C.Decaux社の創業者であるジャ ン・クロード・ドゥコ一によって 1964年に フランスで始められたものである。 このビジネス形態は、屋外広告事業者 による都市環境整備の実施システムであ り、各 都 市 ごとに 全 域 の 長 期 独 占 契 約 (15年〜30年) を結び、バスストップ等に 設置された広告板の収入によって、スト リートファニチュア整備費に充当している。 その対象物はバスストップ、キオスク、自 動トイレ、都市サイン、街路照明、ベンチ、 ゴミ箱などであり、各国の整備事情に よって異なっているが、中心となるものは バスストップである。 この事業は、以下のような三つの特徴を もつ。 などの設置には、より多くの広告板の運 は目覚しく、従来の日本では考えられな 設計のデザインにより本格的な事業実施 用が必要とされる。また、この事業は膨 いような高いクオリティを持ったバスス に至っている。 大な初期投資を長い時間をかけて回収 トップが登場してきている。こうした状況 するため、自治体は事業者と長期間の独 は、収益効率の高いビジネス展開により、 占的契約を結ぶ必要がある。このバスス 成熟した事業展開がなされている結果で トップの設計、施工、維持管理までを無 ある。 償で行うためには、最低でも10年程度の また、広告物は、一定期間の広域大量 契約期間必要と言われている。一般に 展開を基本としているため、必然的に広 は、15年〜 20年の契約となっており、し 告物のクライアントは大手企業が中心とな かも一都市一事業者の独占長期契約で る。その結果、広告のデザインも優れた ある。たとえば、ベルリン市は 30年間の グラフィックデザイナーの手によるものが 一括契約をwall社と結んでいる。そのた 多くなり、結果的に良質な景観を生み出 め PPP事業者は余裕をもって質の高いス すものともなっている。 (※本稿は「国際交通安全学会誌 Vol. 29No.4平成 17年 3月 PPP事業による 都市交通施設整備とデザインの役割・田 中一雄」を要約修正したものである) トリートファニチュアの整備が進められる 2.日本の変化 上記のように、屋外広告の収益を用い た都市整備は、様々な優れた特徴をもつ ・徹底したメンテナンス 事業形態であるが、屋外広告物法の規制 バスストップは、毎週又は隔週の徹底 と単年度契約を基本とする日本の公共事 した清掃メンテナンスが行われ、破損し 業の原則に阻まれ、これまで日本に導入 た場合には直ちに完堂に修理される。こ されることはなかった。しかし、2003年 のことは、景観的に常に良好な状態が保 たれるばかりでなく、利用者にとって日常 1月 31日、国土交通省は「バス停留所に 的に清潔で快適なバスストップが提供さ 設置される上屋に対する広告物の添加 れることになり、公共交通利用の誘引を に係る道路占用の取扱いについて」を通 生むこととなる。これまで、日本の場合は 達を出すに至った。これによって、世界 数年に一度の塗装補修すら満足に行わ 各地で実施されているバス停広告を用 れず、清掃に至っては皆無に等しい状況 い た PPP 事 業 が 、日本 でも実 施 可 能と を考えると、決定的な違いである。また、 なった 。これを受けて、同年 3 月 31 日、 ・無償整備 メンテナンスのための人材も必要となり、 岡山市で日本で始めて欧州型の公告付バ 公共側はバスストップ等の道路使用許 新たな雇用の創出を生むものともなる。 可を与えるだけで、一切の責用負担なく スストップが設置された。これは、ドゥ ・良好な景観の形成 良質なストリートファニチュアを市民に提 コーグループのMCドゥコ一社によって設 国によって程度差はあるが、一般に欧 供できる。そのため税収がなくとも都市 置運用され、岡山市は一切の費用負担な 環境の整備が民間資金活用で実施できる。 州の都市景観は広告規制が厳しい。そ く良質なバスストップを設置することがで のなかで、例外的にバスストップ広告は また、契約条件によっては、自治体は道 きた。そのオリジナルデザインは、ノーマ 許可されており、適度な広告の量的バラ 路占用料等の責用を広告事業者から徴 ン・フォスターによろものであり、従来の ンスが保たれている。また、広告のデザ 収することも可能である。但し、このバス 日本のバス停とは異なった良質なものと インは、質が良く吟味されており、風景 ストップの無償設置(バス停 1 基あたり なっている。また、そこに設置される広 のアクセントともなっている。さらに、バ 告も質の高いものが吟味され、新しい都 150〜 1000万円)、無償維持管理を成立 スストップの設計には、ノーマン・フォス 市景観が形成されつつある。さらに横浜 させるためには、ひとつの自治体単位で ターをはじめ、J.M.ヴィルモツト、フィリッ 市も、2004年2月、市営バス停留所の整 200基から 300基の広告板( 1.2×1.8 m× プ・スタルクなど超一流の建築家やデザ 備管理に、欧州型の屋外広告収益を活 2 面)の運用が必要と言われており、ス イナーが起用され、魅力的な都市景観を 用した「バス停留所上屋整備及び維持管 ケールの大きな契約が条件となる。さら 生み出している。そのデザイン的な充実 理業務」を募集すると発表し、その後GK に、欧州で設置されている全自動トイレ 26 状況にある。 (図.1) 27 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・研究発表梗概 公共施設との共生 研究発表梗概 なっているヨーロッパのブランドショップは、 著 建築・環境化する屋外広告 名な建築家による新しい建築様式をブランド 東京都が都バスへのラッピング広告を始 ショップそのもののアイデンティティとして都市 めてから、多くの自治体でもそれに追従する 環境に寄与する屋外広告の可能性を探る の中に表出している。そしてそれらの連続が 動きが盛んである。又、最近ではバスシェル つくる街並みは、 ひとつの特徴的な景観とし ターへのポスター掲示も可能になった。都市 宮沢 功(GK設計) て評価できる。 活動の中で、 広告を含めた民間情報が重要 なことから好ましい傾向だと考えるが、 その扱 地域性を表現する広告環境 研究発表の主旨 サンドルなどがポスター作家として活躍した。 い方にはいろいろ問題が多い。公共性の高 日本の様々なところで見られる特徴的な いバス、 電車、 公共施設、 避難誘導施設など 景観形成のマイナス要因として捉えられ これら芸術家にとって商業広告はその直接 ることができ、都市の時間・空間を演出する 繁華街、 銀座、 六本木、 大阪の道頓堀、 京都 に関しては建築物に付帯する広告以上に やすい屋外広告の過去と現在の状況を観 的有用性を離れて、 これまでにない斬新な形 要素を持つといえる。 の木屋町などはそれぞれの地域として特徴 その機能、景観的影響、情報のプライオリ 察し、都市景観を構成する要素としての屋 式やテーマの源泉となり、都市のなかに新し 的である。これらは街並みとあいまって個々 ティを検討し、 より景観形成に寄与する方向 外広告の役割を探る。公共環境を構成する い感覚を刻む、芸術の伝播媒体として有効 の看板の特徴的な連続がその地域の界隈 で推進することが大切である。 情報・空間要素としての仮囲い 大きな要素としての屋外広告の役割は何か、 であった。 屋外広告の機能と景観形成に積極的に機 能する環境広告の可能性を考察する。 性を出している。これらは、地域の文化や風 土が自然発生的に表出したものであるが、 まとめ 擦り合わせることによって、部分的にしろ、建 とはいえ半年、 長いものは2〜3年近く覆われ 屋外広告のコントロール(規制ではなくガイド いたのである。 築にとっての現代性を獲得したのである。 る面積は、広告媒体としても環境媒体として ライン)も地域の特徴を引き出した方法で行う りとしての環境広告の可能性」 として、今後 商業建築(店鋪、 パビリオン) にある「広告の も重要である。仮設物であるがゆえに限定さ ことによって、 それぞれの商業地区の特徴を の検討課題として以下を提案したい。 芸術とデザインの分化 メッセージ」はもはや、建築を構成する他の れた時間の中での感動や刺激を与え、街を 表出し地域の活性かにつなげる事ができる。 ① 活性化媒体としての屋外広告:屋外広 造形的な要素と切り離すことは不可能となり、 活き活きとしたものにできるのではないだろう ニューヨークのタイムズスクエアの例は、 地 コンクリートと鉄とガラスの言語が、文字と看 か。 術革新、 メディアの拡大などに伴いその領域 しかし、 カッサンドルは1947年ポスターに はますます拡大している。景気の低迷、 自治 対する幻想を捨てる、 その理由はクライアント 体の財政確保の手段としての規制緩和は、 の意向が強くなりデザイナーはクライアントの 屋外広告の氾濫に拍車をかけている。 囲いも近来大きく様相を変えている。短期間 絶を飛び越える仕事として受け止められて 屋外広告の現状 現在の屋外広告は印刷、 シートなどの技 建物や再開発などの工事中に必要な仮 ポスターは純粋芸術と応用芸術の間の断 板の美学に融合したのである。 希望に従わざるを得なくなり、 それがとても耐 1935年、 オスカ・ニチケの広告館は建築 一方、景観法の施行に伴い地方自治体 え難いことであった。商業性と芸術性の葛 の枠を超えて広告そのものが景観としてどう 建築と一体化し、 環境化する屋外広告 建築物、特に商業建築に取り付いていた 以上いろいろの現象を述べたが、 「街づく 告を都市の活性化要因として活用する。 域再生の手法として、屋外広告に焦点をあ て成功した数少ない例である。マンハッタン ② 新しい公共性の概念:民間情報の持つ の中で屋外広告物についての特徴的なガイ 公共性に目を向け, 「官」 「民」が融合した新 ドラインを適用することによって、 としの構造と しい公共性の概念の必要性。 では屋外広告に対し、景観形成という視点 藤があったのである。このような状況の少し 機能するかを試みたものとして注目に値する。 看板や広告物も変化を見せている。建築と からの規制が厳しくなる傾向にある。結果と 前、 アメリカでは1920年代から1930年代に これは、 建物の全面に取り付けられ、 18m四 広告のバランスを考え建物全体の一部とし して、現在の都市景観は無政府状態的混 画家と広告デザイナーの分化が始まり、 専門 方の金属の格子による広告用のファサード て調和させる方法から、設計当初から広告 乱にあるといっても過言ではない。 のデザイナーをかかえた広告代理店がうま で。広告主の需要に応じて、日、週、月、単 スペースを前提とした建築設計が見られるよ れている。 位で貸与される。 これは構想に終わり実現は うになってきた。事例にある中国、北京の建 でなく立体的、空間的、環境的、 そして情報 しなかったが、 時間と広告主の意向によって 外 SOHOや三里屯の商業コンプレックスの ネットワーク (目に見えない意識としてのエリ 変化する広告の壁は、 シャンゼリーゼを魅力 開発などでは、広告壁面による個性的な建 ア感覚) として広がっていく。特に現在顕著 ④ 質を確保し、望ましい広告物としてコント 的に変化さたであろう。 築郡がそれぞれの特徴的界隈を形成するよ なのは映像媒体である。これは他の媒体に ロール:屋外広告の持つ特徴を生かすため、 うに計画されている。屋外広告の持つ景観 比べ情報量が格段に大きい、 景観的には強 デザインの質をガイドする手法、地域特性に 形成のポジティブな要素を効果的に活用し 烈な光の環境をつくる、 コンピューター制御に 準じた決めの細かなガイドライン等、景観の た例といえる。 よって周辺の媒体との総合的な連動が可能 視点から見た積極策(規制ではない)を検討 である。広告媒体としても魅力的であると同 する。 その原因はどこにあるのか、 ひとつは非常 に抽象的、総括的な屋外広告物法の内容、 行政としてデザインの質に踏み込みにくいた め、 その内容は数量規制、面積規制、抽象 的表現に頼らざるを得ないことにある。 コミュニケーション媒体としての統合化 1923年芸術と技術の一致を目指したバ ウハウスは、 芸術は、 日常生活のなかに溶け 建築・環境化する広告 又、広告関連技術の発達、広告表現の 込み、日常的な生活用品へと開かれるべき 拡大に法制度が追いつかないことが上げら である。 とし、 コミュニケーション手段としてあ 屋外広告の現状は商業的思考と公共的 れる。 以上、現状を認識した上で1900年代の ヨーロッパにおける屋外広告の状況を参考 にしてみたい。 らゆる物を取り込んだ。広告活動の勢いを 節度が相容れず、1900年代の芸術と商業 支えるものは、 ポスター、 ネオン・サイン、 建築で の葛藤のような様相を表している。このよう 一方では、建築そのものが広告媒体とし あり、 それらは都市のなかに、感覚の新しい な中で景観的な視点から屋外広告に状況 て主張するケースも見られる。近年、話題に 航跡を刻むようになる。 を見ると、環境形成に対し、以下の様な新 1924年の商業展覧会ホールとキオスクの 建築自体の広告媒体としての変化 しても有効なランドマークとして機能している。 ③ 時間・空間の演出:屋外広告が持つ時 映像がつくる情報環境 これからの屋外広告は、平面的媒体のみ 節性、 大胆さ、 演出性という機能を都市景観 の賑わい、楽しさなどの演出に積極的に活 用する。 時に、 これらを駆使するには、公共環境への 影響を十分に考えなければならない。 しいいくつかの可能性が見える。 企画では、 ヘルベルトバイヤーはあらゆる広 時間・空間を演出するビルボードサイン 芸術の表現媒体としての広告 告媒体の統合、 つまり、 光、 音、 映画、 さらには 1890年代から1900年代ロートレック、 ピ エール・ボナール、 オーブリー・ビアズリー、 カッ 煙りまでもが、 通行人の注意をひくことが出来 ビルボードサインはコンピューター処理によ る媒体として取り込んだ。建築は広告に身を る印刷技術、印刷素材の進歩などのより、 そ の大きさ、表示場所の自由性が大幅に拡大 している、大型のものについてはデザイン性 も優れ、場所性やテーマによっては街の効 果的な演出として機能している。季節や流 行、社会状況に敏感に反応するビルボード はそのデザイン、 テーマなどをコントロールする ことにより、都市環境にある種の感動を与え 28 29 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・研究発表梗概 研究発表梗概 「現世と未来を結ぶ」 サイン・コミュニケーション (事例報告) LEDによる「光の壁」全体のカラー計画及びデザインプラン 井上孝二(日本ニューラルネッ ト/武蔵野美術大学) 30 31 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・研究発表梗概 研究発表梗概 景観としての屋外サインの評価 太田幸夫(多摩美術大学) 、 牧谷孝則(NPO法人サインセンター) 、 沼尾真美子(NPO法人サインセンター) 福城茂生(NPO法人サインセンター) 、 内藤昭資(ブリッジワークス) 、 杉浦江里子(トーナビタ) 1. はじめに C やや目立って、ややわかりやすく、PR NPO法人サインセンターでは2006年9 効果がやや高いと評価されている。この 月、 「景観サインデザイン評価」と題するア 3 項目以外ではいずれも「どちらでもな ンケート調査を実施した。ここではその い」が最も多く、評価不明の例といえる。 概要を報告し、改善点などを考察する。 D 全項目で4と評価する人が最多で、総 じて評価は高い。特に、「デザイン」につ いては 5と 4の評価が同数。「よいデザイ 2. 調査方針 1)景観サインデザインの用語の意味を、 ンを一つ選ぶ」では、17人の人が Dを選 「景観としてのサインデザイン」、あるいは んでおり、Bより 2人少ない2位となって 「景観を形成するサインデザイン」と捉え、 いる。 サイン自体のデザインの評価にとどまらず E 「第一印象は」と「共感できる程度」では 景観を形成する構成要素としてのサイン 「どちらでもない」が最多。その他の項目 デザイン評価を試みた。 は評価4であり、比較的高い。 2)調査主体であるNPO法人サインセン F 「目立ちやすさ」と「PR効果」と「共感で ターとしては、評価対象サインの評価を きる程度」では、「どちらでもない」が最多 行わず、不特定多数の被験者の評価を であり、他の項目は4に集まって、Eに次 見取ることに目的を置いた。 ぐ評価。 3)調査の対象事例を抽出する基準とし ては、その屋外サインのスポンサーに調 査結果を提示して、サインデザインと景観 4. 調査対象サインデザイン事例に対す 形成の向上に役立つ評価ポイントを活用 るフリーコメント例 してもらうことに狙いを置いた。 ・Aは目立たないけど落ち着いている。 4)それ故、景観への配慮がなされずに、 ・Aはビル自体がサインというか宣伝に 目立てば良いといったサインデザイン類 なっており、まとまりがあっていい。 は今回の調査対象から除外した。 ・街中にて広告やサインがうるさいと思 う時がある。 Aぐらいのなじみ方は景観 的にいい。 3.アンケートの集計結果 ・B に見られるフチを文字にするアイディ アンケート回答数は53、任意の人に用 紙を手渡して回答を依頼。回収率は約 アがとてもきれいで画期的だ。 ・Dはサインのデザインと、使われている 95%。回答内容は以下の通り。 色が気持ちよい。 A やや目立たないが、景観的にプラス ・Dは見る人の目の高さで圧迫感がなく、 と評価されており、「デザイン」と「わかり やすさ」についてはやや良好。他の項目 文字も読み易い大きさだ。人の形のよう に つ いては 、「ど ちらでもない 」が 多く、 なオブジェは小さいが、目を引く。 Fもサ 今回のアンケート対象のA〜Fでは比較的 インが低い位置にあり、無駄なくスッキリ していて圧迫感がなく、景観全体に安心 意見が分かれた例。 感がある。Cはどのサインも大きく、派手 B 全項目について 4以上の評価が最多 であり、今回のアンケート対象のA〜Fで で、圧迫感があって見たくない。 ・よいデザインは Dであるが、Eも目立つ は最も高い評価を受けた。特に、「第一 印象は」と「目立ちやすさ」、「PR効果」に し、とてもきれいだ。 ついては 5とする人が最多である。なお、 ・Eのような控えめなデザインの方が、か 「よいデザインを一つ選ぶ」の項目では、 えって目立つ。 もっとも多くの支持を集めた。 ・Fの写真の下にある水に惹かれる。 32 5. 調査に対するフリーコメント例 ・実際の場所に行った時は、違った印象 を受けるかもしれない。 ・自然素材を使ったサインを見てみたい。 ・景観的に悪い例などを入れて、バラエ ティある調査がほしい。 ・街に合うデザインはそれぞれ違う。 ・目立つこと、分かり易さ、PR効果はそ れぞれ違うので、よいデザインを一言で は言い尽くせない。 ・周囲の景観との調和を質問できる項目 や写真もあるとよい。 ・写真では周囲の様子がわからないので、 総合的に判断するのは難しい。 ・写真の撮り方だけで良否はつけ難い。 6. まとめ 今回の調査から以下の通り、今後検討を 必要とする問題点を抽出できる。 1)本来は昼夜間のサインの見え方を総 合的に評価することが必要。 2)今後継続して調査を実施する予定。 3)その際、調査用紙に掲出する事例の 写真は約半数を入れかえる。それにより 比較検討が繰り返され、累積結果を抽出 出来るかどうか検討課題といえる。 4)今回のアンケート調査は第 1回目であ るため、その調査方法自体をテストケー スとして検討するのもねらい。8種類の評 価項目の妥当性、あるいは 5段階の評価 の数値とその内訳の妥当性などを検証す る意味合いがある。フリーコメントの活用 法も今後の課題。 5)評価対象の事例として抽出した 6点の 写 真 の 選 出 基 準 は 特 に 定 めて い な い 。 景観の構成要素として景観形成に相応の 働きをしている、との判断によって抽出し た。サインの調査対象を景観形成の視点 で評価する写真の撮り方、並びに写真の 示し方など、引き続き検討されなくては ならない。 33 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・エキスカーション 2006東京大会第2日目 エキスカーション報告1 辻村匡(TJデザイン) 2日目エキスカーションは渋谷、 原宿あたりの 散策です。歩くことでこの付近の景観や街 並みを体験することにしました。平成 18年 10月の渋谷から南青山の街の表情です。 を検索しているようです。 表参道ヒルズの道路向かいにディオールビル が建っています。外観の印象は白ですが先 ここから歩いて原宿方面へ向かいました。 ほどのt's harajukuとは違い外壁のガラスの 渋谷と原宿の間でそれほど話題になる建築 のためかごく僅かにゆれるため柔らかい空 渋谷は若者が集う街です。駅前の横断歩 や店舗があるのかと思いながら散策している 間を演出しているようです。夜間の照明も美 道はNHKの夜19時のニュースの番組最後 とやはり、 いくつか発見があります。 しいとのことですが、 昼間のため照明の効果 内部に白いカーテンを配置してそれが空調 を見ることはできませんでした。 に時々映像が写るのでご覧になられた方も 多いと思います。 さて原宿駅近くの交差点「神宮前」に到着 さらに道路を東南へ進むとTOD'S表参道ビ しました。原宿駅の南口から東南に伸びて ルが建っています。 (TOD'Sはイタリアの靴・ 実際にこの付近にいて感じるのは屋外広告 いるのが有名な通り、表参道です。駅から約 バッグのブランドです。 このビルの設計:伊東 そのものが競い合っているということ、 言い換 200mほどのあたりが神宮前交差点です。 豊雄氏) えると周辺の景観は広告の見本市のようで この交差点で最も有名な建物と言えば t's (ティーズ原宿:設計竹中工務店) harajuku です。外壁の白の波板とガラスが清潔な印 象を受けます。最近の傾向として白を基本に している商業施設をよく見かけますが、 この 建築がこの界隈だけでなく、 トレンドとしてのラ ンドマーク的役割をはたしているようです。 表参道の交差点を東南へ進みます。ここか らはまさに高級ブランド通りと言うにふさわし い界隈です。この通りを歩いて最初に目に 付くのはやはり表参道ヒルズです。 (通り左、 北側)同潤会青山アパート跡地の再開発プ ロジェクトとして建築家の安藤忠雄氏による 設計で今年2月11日に開業されました。 ビル の高さは道路のけやき並木を意識している のでそれほど高くはないのですがビル内部は ゆったりとした広さを感じます。 外観はひじょうに個性的でコンクリートの樹木 す。おそらく日本中でこのあたりがもっとも顕 著な例と言えるでしょう。 液晶による広告は動画としての情報量が多 い分、短時間にどれだけの訴求力があるの かと考えさせられます。視覚伝達のメディアと して主観的な印象は別にしても、 東京→日本の中心→渋谷→若者が集まる →流行に敏感→企業広告の重要拠点 この地点にいるだけでそのようなことを直感 します。 さて目線の高さに戻ります。駅前広場にはモ ニターによる地図情報の端末機が設置され ており遊び感覚で操作しながら周辺の位置 関係がわかるようになっており、 たいへん興味 がガラスの構造体を包んでいるような印象を 受けます。外観は道路のけやき並木をイメー ジしているようですがひじょうに豪奢な樹木 (コンクリート) です。 さらに200m歩くと表参道、交差点がありま す。 ここで歩行者の流れは北、 南、 東とまばら 当日配布された資料1、2 に別れメインストリートとしての雰囲気は一段 落します。 さにクリスタルタワーと形容できる外観です。 さらに東南(まっすぐ進む)へ歩き、 日本人デ 内部空間も床や階段に一体感があり、 どこ ザイナーのブランドビルを通過するとプラダビ か異次元の空間に迷い込んだ不思議さが ルが現れます。 この付近で、 最も独創的な建 あります。設計はヘルツォーク&ド・ムーロン 造物です。法規上の容積率いっぱいにその まま、 ガラスブロックを積み上げているので、 ま ファッションの表舞台であること。言い方を換 2008年に開催される北京オリンピックのスタ ジアムの設計も担当しています。ここで予定 は終了し解散となりました。 (H&deM)男性二人組でスイスのバーゼル に事務所を構えているそうです。 えると、界隈全体が流行を生み出す実験場 所のようです。多くの店舗が並び活性化して、 人が服(衣装) を替え流行を作るように、 建築 もまた意匠を替える (ビルの建替え) ことで新 さてこの界隈を散策して感じたことは流行や 陳代謝を繰り返えしていることでしょう。 それは、 けっして尽きることのない消費欲の 表れであります。冒頭にも述べましたように屋 をそそられます。まるでパソコンで地図情報 外広告もまた消費欲を映し出す鏡かもしれま せん。特にこの界隈はエネルギーに溢れてい ますが、 だからと言ってなんでもあり、 ではなく 景観との調和やその地域がもつ「良さ」であ り 「らしさ」を見失ってはいけません。景観や 屋外広告の問題は時間のかかることですが どのように調和を見出すべきか、 問題意識を 持ち続けたいものです。 t's harajuku 34 表参道ヒルズ 表参道ヒルズの内部 渋谷駅前のデジタル地図案内板 TOD'S表参道ビル プラダビルで記念撮影 35 日本サイン学会誌・第7号・SSS 07 第17回研究大会2006東京大会・エキスカーション 2006東京大会エキスカーション報告2 渋谷〜南青山界隈を視察して 熊谷可奈子(日の出工芸株式会社) 今回この視察に参加して、一番目に付いた のは神宮前6丁目にオープンした『b6』神宮 前。 私から見ると、 建物正面全体がサインの役割 を果たしているように思えた。 神宮前界隈では乱雑なサインや、 ビルが立ち 並び、青山方面に歩くと高級なイメージが伝 わってくるが、 この建物入口では爽やかさや、 明るさ、 癒しを感じた。 b6入口誘導サイン 〔参照 http://www.b6-web.jp/about/〕 同じく『 、b6』入口。 入口脇の誘導サインは樹脂成形だろうか。 最近、弊社も樹脂成形に力を入れているた め、 とても興味深かった。建物全体からサイ 神宮前のb6 (撮影:木村浩) ンを感じた。 柱の中にはリサイクルされたPET素材が入っ 当日配布された資料 3 原宿の交差点付近の喫煙場所 ている。夜になると発行するそうだ。 このような説明文も柱に記されているが、渋 谷から原宿まで歩いて一服の合間に見ると、 適度に気持ちも一息つくことができるように感 じた。 今回、 日本サイン学会研究大会に初めて参 加し、 様々なサインを見ることができた。今回 視覚や、第 6感に受けた刺激を今後生かし ていきたい。 渋谷スクランブル交差点:QFRONT 36 表参道ヒルズ LOEWE Louis Vuitton Dior Cartier 37 学会本部より ●学会誌への投稿 学会誌では、サインに関わる研究論文、制 作報告、研究ノート、レポートなど、学会員 2.投稿料 論文: 論文以外: です。デジタイズされた写真は図中に表示 の画素( pixel)数以上のデータで入稿して 5,000円 無料 ください。 から広く投稿を募集します。 なお、論文は、平成20年度より審査を行な います。 ●会費について 3.原稿締めきり 研究論文:2008年6月30日 論文以外の原稿:2008年7月31日 学生会員制度 学会活動を活発にするためには学生の参 投稿区分 加が不可欠です。そこで学生会員制度を 1.論文:サインに関する研究成果をまとめ た学術的な価値のある論文。論文審 査会によって行う審査に合格したものを (掲載頁数は6〜8頁) 2.掲載します。 制作報告:会員が携わった制作の報告。 (掲載頁数は2〜4頁) 3. 研究ノート:サインに関する資料、調査、 実測、総計、実験などの研究報告。 (掲 4.載頁数は2〜4頁) レポート:サインやデザインに関する事例 や活動のレポート。 (掲載頁数は2〜4頁) 4.入稿原稿について 文字原稿はワープロやパソコンでタイプ したデジタルデータ (保存形式はテキス トデータ) とします。図像は図版や写真 (ポジ・紙焼き) の原稿でもデジタイズし たデータでもどちらでも構いません。 文字数や画像サイズにつきましては下 記の学会誌のフォーマットを参考にご検 討ください。なお、実際のレイアウトは 本部に一任ください。 設けています。なお、学生会員はその学業 を修了した時点で一般個人会員に移行し、 個人会員の年会費を納めるものとします。 学会費 学生会員 個人会員 法人会員 年会費 入会金 5,000円 12,000円 24,000円 5,000円 10,000円 20,000円 郵便振込 学会誌フォーマット 口座番号: 00160-0-132395 サイズはA4、1行18〜20文字で51行、3段 加入者名: 日本サイン学会 第7号 (SSS06) 投稿について です。 1.投稿申込み 2008年4月30日までに、投稿内容をA4 用紙 1枚にまとめた要旨を添え本部に 投稿申込をしてください。 図 1はタイトルページで、図 2は本文ページ ●現在の会員数(平成19年10月1日現在) です。Aには投稿原稿のタイトル、執筆者の 個人会員 氏名と所属を明記するスペースです。B・ 法人会員 75名 6名 C・Dは挿入される画像スペースの基本案 A D 188 x 40 mm 58 x 40 mm 571 x 394 pixel以上 日本サイン学会誌第7号 SSS 07 発行日 平成19年12月1日 発行者 日本サイン学会会長 佐藤優 デザイン・編集 木村浩 印刷 株式会社いなもと印刷 〒300-0007 茨城県土浦市板谷6-28-8 B 58 x 80 mm 571 x 797 pixe以上 C 122 x 80 mm 1,200 x 797 pixel以上 学会本部 〒305-8754 茨城県つくば市天王台1-1-1 筑波大学芸術学系木村研究室内 電話+FAX 029-853-2822 Email Web 図1 タイ トルページのフォーマッ ト 38 [email protected] http://cookie.geijutsu.tsukuba.ac.jp/sss/ 図2 本文ページの基本フォーマッ ト 39