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住宅地における燃料電池導入と電力・熱・水素による エネルギー

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住宅地における燃料電池導入と電力・熱・水素による エネルギー
18 – 3
第 21 回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンスにて発表
住宅地における燃料電池導入と電力・熱・水素による
エネルギーネットワーク
Introduction of Fuel Cells in Residential Area
and Energy Networks of Electricity, Heat and Hydrogen
安 芸 裕 久* ・山 本 重 夫*** ・前 田 哲 彦** ・近 藤 潤 次* ・石 井
Hirohisa Aki
Shigeo yamamoto
Tetsuhiko Maeda
Junji Kondoh
格*
Itaru Ishii
This paper presents the concept of interconnection of residential homes with energy networks of
electricity, heat (hot water) and hydrogen, and an analysis on the effects by optimization model.
The homes can share their energy equipment virtually by the networks. It provides flexible and efficient
operation of the equipment, and reduces partial load operations and start-stop operations, which damage
the efficiency or the life time of fuel processors.
Authors constructed a mathematical model which minimizes the energy cost of homes. Partial load
efficiency of the fuel processors, electricity consumption of pumps for hydrogen storage and hot water
interchanges were also considered. The results shows that the proposed system, i.e. the energy networks
of electricity, heat (hot water) and hydrogen provides the effects on energy cost reduction, energy
conservation and CO2 mitigation.
Keywords: Energy network, Fuel cell, Hydrogen energy
うといったことも必要になるだろう.
1.はじめに
一般住宅向けに固体高分子形燃料電池(PEFC)が,発電
筆者らは,そのような問題に鑑み,燃料電池の一般住宅
機能付給湯器として発売されようとするなど,一般消費者
への普及,水素ネットワーク社会との親和性および既存の
への燃料電池の普及が現実のものとなってきた.
エネルギーネットワークとの整合性を維持するようなエネ
ルギーネットワークの将来像を探る研究を行っている.
燃料電池は,水素を燃料とするため,水素ネットワーク
との親和性が良いとされる.しかし,水素ネットワークに
その具体例の一つとして,現在,一戸建て住宅を対象と
関しては,様々な技術課題,費用および既存エネルギーネ
し,住宅間を電力・熱・水素によるエネルギー融通網で相
ットワークとの整合性などの問題もあり,燃料電池本体に
互接続することを提案し,検討を行っている 2)3).
本稿では,その一戸建て住宅を対象としたエネルギーネ
比べ,議論が進んでいない.
ットワークの概要と数理計画モデルを用いてその効果の定
燃料電池を熱電併給発電設備として運用していく上での,
量的評価を試みた結果についえ述べる.
熱の有効利用や,燃料電池の燃料となる水素の供給などに
ついて議論も必要である.例えば,太陽光発電などの自然
2.住宅地におけるエネルギーネットワーク
エネルギーによる水素製造が検討されているが,現状では,
製造した水素の,将来・既存システムとの整合性を保った
国内で商品化されようとしている家庭用燃料電池には都
上での,輸送・貯蔵・消費の将来像やそこへ至る明確な道
市ガスから水素を得るための改質器が組み込まれている.
1)
筋は示されていない .
改質器は,部分負荷効率が悪く,起動時に暖機運転が必要
電力系統の安定運用という面からも,大量の分散型電源
となる,負荷変動への追従が著しく悪い,起動停止によっ
が各需要家によって無秩序に制御されることを避け,地域
て寿命へ悪影響が生じる,等といった問題がある.一方,
単位で分散型電源を連携・協調運用し,階層的な制御を行
燃料電池スタック自体は,部分負荷効率の低下もなく,暖
機運転もほとんど必要がない.スタックと改質器は,この
*
ように全く性質の異なる機器であるから,一般的には別々
独立行政法人産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門
〒305-8568 つくば市梅園 1-1-1 つくば中央第二事業所
代表著者 E-mail [email protected]
**
〒305-8564 つくば市並木 1-2-1 つくば東事業所
***
株式会社 KRI テクノサービス部
〒600-8813 京都市下京区中堂寺南町 134 京都リサーチパーク
に運用されるべきであろう.
筆者らは,水素の融通・貯蔵を含めた,電力・熱・水素
による需要家間のエネルギーネットワークを提案してきた.
1
現在,市販が予定されている住宅用燃料電池は,容量が 1kW
程度であり,住宅の電力負荷(特に夜間)を考慮すると大
き過ぎ,熱についても冬を除けば,使い切れない恐れが大
湯
きい.そこで,余剰電力や余剰熱(湯)を隣接する世帯へ
融通すれば,仮想的に複数の世帯で FC を共有できる.
従来,
水素
電力や熱の融通については,様々な研究が行われてきたが,
隣との間に配管
水素の融通を考慮した研究はほとんどない.
改質器 貯湯槽
水素貯蔵 燃料電池
電力・熱・水素を利用したエネルギーネットワークの概
念を図 1 に示す.この例では,5 世帯のうち 3 世帯が燃料電
電力
池を保有しているが,うち 1 世帯は改質器を保有していな
い.すべての住宅はエネルギーネットワークに接続されて
既存の配電網
おり ,エネルギー融通が可能となっている.電力は既存の
図1
配電網を通じて融通される.水素と熱(湯)は住宅の敷地
エネルギー融通
電気・熱・水素によるエネルギーネットワーク
による損失,融通配管や貯蔵装置に関する技術的,制度的
の下に新規敷設した配管を通じて融通される.
課題が未解決である,といった問題がある.
改質器はスタックと分離され,効率の良い定格運転を行
えばよく,部分負荷運転は最小限となる.水素の貯蔵先と
しては,各改質器の付近に小規模な貯蔵装置を設ける他,
3.最適化モデルを用いた分析
融通配管へも貯蔵できる(ラインパック).改質器は一定運
3.1 概要
転を続け,隣接した燃料電池が消費しなかった余剰の水素
提案システムを評価するために図 2 のような 8 世帯から
は適宜水素貯蔵に貯め,融通配管中の水素が不足してきた
なる住宅群を対象として,数理計画モデルを用い,最適化
ら任意の水素貯蔵から水素を放出して融通配管へ供給すれ
による分析を行った.目的関数は全 8 世帯のエネルギー費
ば良い.各スタックは融通配管又は隣接した改質器から水
合計の最小化とした.
素の供給を受けながら,負荷に追従して運転を続ければ良
分析に当たっては,スタックと改質器の保有状況の違い
い.
及び逆潮流とエネルギー融通の可否を表 1 の通りに想定し,
この場合,配管よりも水素貯蔵装置の圧力を高くしてお
各ケースの比較を行った.
けば,貯蔵時に圧縮動力を消費するが,融通時には動力を
3.2 条件設定
要しない.さらに,水素貯蔵にラインパックを併用すれば,
(1)機器構成
水素の融通に関して図 1 のような狭い範囲であれば,住宅
各住宅は貯湯槽を保有し,改質器を保有する住宅は水素
の地理的な位置関係や距離は無視できることとなる.
タンクを保有するものとした.改質器から得た水素は同一
湯については,スタック及び改質器からの排熱を湯とし
住宅の燃料電池へ供給されるか,ポンプで加圧されて水素
て回収し,貯湯槽に貯めておく.融通配管は貯湯槽同士を
タンクへ貯蔵される.水素タンクからは水素融通配管へ水
接続する.湯の場合,融通や貯蔵でわずかではあるが放熱
素を供給できる.燃料電池は同一住宅の改質器と水素融通
による損失とポンプ動力を消費する.
配管の両方から水素の供給を受けられる.燃料電池の排熱
このように,エネルギーネットワークによってスタック
は湯として回収され貯湯槽へ貯められる.湯の融通は図 2
や改質器などの機器及び余剰電力と熱(温水)を参加者(住
において住宅 1,2,5 と 6 の間及び 3,4,7 と 8 の各 4 世
宅)で共有できる.エネルギーネットワークのために新た
帯の間で可能とした.湯を融通する際は,送出側は貯湯槽
な配管の敷設が必要となるが,住宅密度の高い我が国では,
からの弁を開けて融通配管へ湯を流し,受取側がポンプで
住宅の敷地の下を通せば,隣接する住宅間への敷設は容易
湯をくみ上げて自らの貯湯槽へ貯めることとした.すべて
であると考えられる.
の住宅は湯の不足に備えてガス給湯器を保有することとし
本章で述べたように,水素の貯蔵・融通を,需要家間の
た.
エネルギー網に取り込むことで,燃料電池の改質器の部分
(2)需要データ
負荷運転や起動・停止を削減できる,将来,水素供給網が
需要データは別途実際の住宅において計測したデータを
整備された場合に供給網との親和性が良い,分散型電源の
加工して用いた.計測データの計測周期は一分単位となっ
余剰電力を水素として貯蔵し必要に応じて放出することで
ており,そのままでは一日分で 2880 点(電力需要,給湯需
連系する商用系統の負荷率改善が図られる,といった利点
要を合せて)となり,一年分ではその 365 倍となり,数理
が期待される.一方,水素の融通・貯蔵の際における加圧
計画問題としては規模が大きくなりすぎる.そこで,一年
2
計算結果のうち,各ケースのエネルギー費,一次エネル
ギー消費量及び二酸化炭素排出量を図 4 に示す.別途,計
住宅1 住宅2 住宅3 住宅4
算で求めた燃料電池なしの場合(電力は全て商用系統,湯
住宅5 住宅6 住宅7 住宅8
図2
は全てガス給湯器で賄う)を基準(100%)とし,それとの
相対的な値を%で示した.
分析対象住宅群
エネルギー費が最小となるのは,3a と 3b,つまり逆潮流
No.
表 1 各ケースの想定
燃料電池
改質器
逆潮流
(住宅番号) (住宅番号)
の有無に関わらず燃料電池が 4 台,改質器が 3 台の場合で
あった.CO2 排出量が最小となるのは,燃料電池が 3 台,改
融通
質器が 2 台の場合(1a と 1b)となった.一次エネルギー消
1a
2,3,5
2,3
可
可
2a
2,3,5
2,3,5
可
可
3a
2,3,5,7
2,3,5
可
可
4a
2,3,5,7
2,3,5,7
可
可
5a
2,3,5
2,3,5
可
不可
6a
2,3,5,7
2,3,5,7
可
不可
1b
2,3,5
2,3
不可
可
2b
2,3,5
2,3,5
不可
可
3b
2,3,5,7
2,3,5
不可
可
排熱回収
50 %
改質器本体効率(定格時運転)
80 %
追い焚き用給湯器効率
80 %
4b
2,3,5,7
2,3,5,7
不可
可
5b
2,3,5
2,3,5
不可
不可
6b
2,3,5,7
2,3,5,7
不可
不可
費量については,4a(燃料電池 4 台,改質器 4 台,逆潮流
可,エネルギー融通可)である.
このように重視する評価指標によって最適となるシステ
ムは異なる.共通しているのは,エネルギー融通可の場合
表2
各種設定値
項目
燃料電池本体効率
値
発電
水素タンク出入損失
を中間期,夏期及び冬期に分け,各期について代表的な一
43.75 %
5%
貯湯槽出入損失
0%
貯湯槽蓄熱損失
1 %/h
改質器最低負荷(対定格)
30 %
週間のみのデータを用いた.さらに,一週間分のデータを
改質器出力変化速度
30 分から 60 分程度の平均値を用いることで計算量を削減し
電力基本料金
260 円/kW
た.その際,単に平均を取ると短期的な需要の増加(需要
電力従量料金
26.82 円/kWh
スパイク)が均されてしまう.そこで,需要スパイクをで
電力逆潮流料金
きるだけ均さないように電力については,需要スパイクの
ガス基本料金
1 %/min
8.94 円/kWh
―
100 /Nm3
ガス従量料金
み一分単位のデータを用い(図 3)
,その他の時間帯につい
ては 30 分から 60 分程度の平均値を用いることとした.
電力 CO2 排出原単位
(3)各種設定値
昼間
97.1 C-g/kWh
夜間
72.8 C-g/kWh
ガス CO2 排出原単位
機器効率やエネルギー価格などの各種設定値を表 2 に示
電力一次エネルギー換算値
す.改質器の効率については部分負荷時の効率低下を考慮
電力二次エネルギー換算値
した.
ガス熱量
3.3 計算結果
湯熱量
60.0 kcal/L
電 力 需 要
電力融通損失
0.5 %
水素融通損失
1.0 %
湯融通損失
2.0 %
8.1 Nm3
水素タンク容量
追焚用給湯器容量
貯湯槽容量
スパイクまでの平均
260 285
水素ポンプ
320
時 刻 (分)
図3
湯ポンプ
電力需要データの加工
3
1.0 kW
0.81 Nm3/h
改質器容量
200
860 kcal/kWh
3,034.3 kcal/Nm3
燃料電池本体容量
60分平均
2,250 kcal/kWh
11,000 kcal/Nm3
水素熱量
前後20分間の区間平均との差が
大きいデータを取り出す
0.0575 C-g/kcal
42 kW
200 L
消費電力
吐出量
消費電力
吐出量
150 W
20 L/min.
150 W
10 L/min.
14
エネルギー費
CO2排出量
一次エネルギー消費量
夏
12
10
100
8
電力需要
kW
%:FCなしを100とする
120
6
80
FC発電
4
2
買電分
0
60
0
1a
2a
3a
4a
5a
図4
6a
1b
2b
3b
4b
5b
240
480
6b
図5
計算結果
720
Minutes
960
1200
1440
電力需給(3b:夏)
5
が融通不可の場合よりも良い結果となっていることである.
冬
4
燃料電池発電 (kW)
CO2 について,燃料電池の導入世帯数が少ないほど,排出
量が少ないのは,商用系統の夜間電力が原子力を主体とし
ており CO2 排出原単位が小さいことによる.
逆潮流が認められるか否かは配電事業の制度及び配電網
住宅7
3
住宅5
2
における技術的障害の有無によって決まるが,省エネルギ
1
ーの観点からは可能であることが望ましい.一方,エネル
0
住宅3
住宅2
0
240
480
ギー料金や CO2 排出量に与える影響はほとんどない.
図6
ケース 3b における電力需給の様子,燃料電池の運用及び
改質器の運用を図 5,図 6 及び図 7 に示す.
720
Minutes
960
1200
1440
燃料電池発電(3b:冬)
3
冬
図 5 は夏期の全世帯の電力需給を示したものである.電
改質器出力 (Nm3)
力需要が燃料電池 4 台の合計容量である 4kW を超えている
にも関わらず,燃料電池の発電量が 4kW に達しない場合が
ある.これは熱需要が少ないために発電したくても発電で
きないという事態が生じていることによる.
2
住宅5
住宅3
1
住宅2
図 6 及び図 7 は,各々燃料電池と改質器の負荷分担を示
0
したものである.図 6 を見ると,住宅 2 及び 3 の燃料電池
0
240
は定格で運転している時間が長く,ベースロード対応と言
480
図7
720
Minutes
960
1200
1440
改質器運用(3b:冬)
える.住宅 5 と住宅 7 の燃料電池は負荷変動分を供給して
おり,特に,住宅 7 はピーク対応と言えよう.
べきシステムは異なってくること,並びに,エネルギー融
本ケース(3b)では住宅 7 は改質器がないことに注意さ
通の導入によって全ての評価指標が小さくなることがわか
れたい.図 7 によると各改質器はほぼ定格で運転されてい
った.
る.改質器で製造した水素を同じ世帯の燃料電池に供給す
今後は,システムの詳細について検討を行うとともに,
る場合には損失が生じないが,貯蔵すると圧縮ポンプ動力
数理計画モデル,別途構築したシミュレータ及び実証シス
が必要となる.また,改質器が 3 台であるから燃料電池は 4
テムを用いて分析を続けていく予定である.
台あっても発電量は一日合計で 3 台分に制限される.
以上から,燃料電池 4 台と改質器 3 台という組み合わせ
参考文献
の場合,自然にベースロード対応とピーク対応という燃料
1)
電池の役割分担が生じる.
DOE; National Hydrogen Energy Roadmap, United
States Department of Energy, (2002).
2)
4.まとめ
H.Aki, et al.; Fuel Cells and Hydrogen Energy
Networks
in
Urban
Residential
Dwellings,
Proceedings of The 15th World Hydrogen Energy
本稿では,一戸建て住宅を対象とした電力・熱・水素に
Conference, 28I-05, (2004).
よるエネルギーネットワークについて述べた.さらに,数
3)
理計画モデルを用いた定量分析を行った.
安芸,他 8 名; 燃料電池を用いた住宅向けエネルギー
ネットワークに関する研究, 第 20 回エネルギーシス
分析の結果,エネルギー費,CO2 排出量及び一次エネルギ
テム・経済・環境コンファレンス, (2004), 25-28.
ー消費量のいずれの評価指標を重視するかによって選択す
4
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