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気候変動下での山岳生態系のモニタリングの意義と

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気候変動下での山岳生態系のモニタリングの意義と
気候変動下での山岳生態系のモニタリングの意義とその方向性
Monitoring of mountain ecosystems under climate change: its significance and perspectives
工藤 岳
*
Gaku KUDO
*
北海道大学地球環境科学研究院
Faculty of Environmental Earth Science, Hokkaido University
摘 要
山岳生態系は気候変動に対して最も脆弱な系であり,地球環境変化の生態系への影
響を検出するのに適している。これまでに,世界各地で生物の生理的応答,季節応答,
分布域の変化など多くの事例が報告されており,種の絶滅,個体群衰退,多様性の減
少,植生変化の進行が明らかである。しかしながら,山岳地域における気象データの
集積は大変乏しく,生態系変化を引き起こしている要因解析のためには,地域特有の
生育環境変化のモニタリングが必要である。これまでに報告された国内外の山岳生態
系の変化を概説し,気候変動下にある山岳生態系の生態系監視システムの構築と保全
管理計画策定に向けた提案を行った。
キーワード:気候変動,高山植物,山岳生態系,生態系管理,モニタリング
Key words:climate change, alpine plants, mountain ecosystem,
ecosystem management, monitoring
1.はじめに
山岳生態系は,寒冷な気候条件のために森林が発
達できない,標高の高い地域に成立しており,その
広さは地球上の全陸域面積の 3%程度である。そこ
には局所的環境に適応した独特の生物群集が存在
し,固有種や希少種の割合が極めて高い,生物多様
1)
性のホットスポットである 。ヨーロッパアルプス
や中央アジアの山岳地域は古くから家畜の放牧に利
用されてきたが,我が国の山岳地域(特に高山帯)の
ほとんどは人為的影響が極めて少なく,原生の自然
状態が残されている貴重な生態系である。山岳生態
系は,水源涵養やレクリエーションなど,様々な生
態系サービスを有している。また,人間の生活圏か
ら離れているために大気,土壌,水質などの人為的
汚染が少ないので,大気降下物の測定や気象観測場
所としても適しており,地球環境変化を監視するセ
ンサーとしての機能もある。
一方で,寒冷気候下にあり,急峻な山岳地形の上
部に断片的に形成される山岳生態系は,地球温暖化
に対して最も脆弱な生態系である。近年の地球温暖
化によるさまざまな気候変動の影響が,世界各地の
2)
山岳生態系で報告されている 。生物の分布域の変
化,生活環の変化,希少種の絶滅と移入生物の拡
大,種多様性の減少などの深刻な現状に対して,山
岳生態系の生物多様性と生態系機能をどのように保
全・管理して行くべきか,早急な対応が迫られてい
る。このような背景を踏まえ,世界各地の山岳地域
における気候変動の影響を検知し,環境への影響を
調べ,情報を共有していくための国際的な研究推進
組織である Mountain Research Initiative( MRI)が
2011 年に設立され,その事務局がスイスの Bern 大
学に設置された(詳しくは,http://mri.scnatweb.ch
参照)。
気候変動に対する高山やツンドラ生態系の脆弱性
に着目した国際プロジェクトがいくつかある。全球
規 模 で の 山 岳 生 態 系 モ ニ タ リ ン グ プ ロ ジ ェクト
GLORIA(GLobal Observation Research Initiative in
では,
Alpine Environments; http://www.gloria.ac.at)
世界各地の山岳域で植生や種多様性の変化が起きて
3),4)
。また,温暖化実験
いることが明らかにされた
によりツンドラ生態系の応答を予測する国際ツンド
ラ 実 験 プ ロ ジ ェ ク ト ITEX(International Tundra
Experiment; http://www.geog.ubc.ca/itex/)で は,
全球スケールでの温暖化への植物の応答解析が進ん
5),6)
。その一方で,我が国の地域山岳生態系
でいる
で進行している生態系変化の実態把握や気候変動の
影響を緩和する対策は,ほとんど手つかずの状態で
ある。環境省生物多様性センターの長期生態系モニ
タリングプロジェクト(モニタリングサイト 1000 ;
http://www.biodic.go.jp/moni1000/)の一環として,
2010 年に高山生態系のモニタリングが始まった。
受付;2014 年 10 月 29 日,受理:2014 年 1 月 30 日
*
〒 060-0810 札幌市北区北 10 条西 5 丁目,e-mail:[email protected]
2014 AIRIES
3
工藤:山岳生態系のモニタリングの意義と方向性
しかし,モニタリング対象となっている地域は 5 山
域
(大雪山,富士山,北アルプス,南アルプス,白
山)のみであり,多くは中部山岳域に集中してい
る。集積されたデータの解析や運用についても,ま
だ検討の段階にある。この先,山岳自然公園や生態
系保全地域における生態系監視体制の必要性はます
ます高まり,適切かつ効果的な生態系保全手法の適
用が求められるであろう。
これらの状況を踏まえ,本稿では気候変動が山岳
生態系に及ぼす影響プロセスについて概説し,生態
系監視システムの構築と気候変動に対する保全管理
計画策定に向けた提案を行う。本稿は,環境省環境
研究総合推進費「気候変動に対する森林帯-高山帯
エコトーンの多様性消失の実態とメカニズムの解明
(D-0904,平成 21~23 年度)
」の研究成果に基づく
ものである。このプロジェクトは主に植生変動を主
体として行われたが,山岳生態系全般への適用を念
頭においたものである。
2.気候変動の山岳生態系への影響プロセス
気候変動に対する高山生態系の応答は,図 1 に示
すようなステップで進行すると考えられる。気候変
動は温度上昇,降水量の変化,積雪環境の変化を引
き起こし,生物の生育環境(養分・水分・温度)や生
育期間の変化をもたらす。生育環境の変化は,個々
の生物の生活環,成長速度,生存率,繁殖活性など
に影響を及ぼす
(生理生態学的反応)。その結果,そ
れぞれの種個体群は拡大あるいは衰退し,より適し
た環境へと生育場所の移動が生じるかも知れない
図 1 気候変動が陸域生態系に及ぼす生態学的影響の
プロセス.
4
(個体群生態学的反応)。群集を構成する個々の種の
応答は種間相互作用を変化させ,群集組成の変化を
もたらし(群集生態学的反応),最終的には広域スケ
ールの種多様性の変化(景観生態学的反応)や種個体
群の遺伝的多様性の変化を引き起こす可能性がある
(分子生態学的反応)。すなわち,気候変動が生態系
へ及ぼす影響を評価するには,分子から景観スケー
ルにまたがる広い生態学的視野が必要となる。
3.気候変化のモニタリング
多雪環境にある我が国の山岳生態系において,地
域あるいは局所的な積雪パターンは生物群集のタイ
プや種多様性を決定する重要な環境要素である。し
たがって,山岳生態系の長期環境変動を解析する上
で,気温,降水量,日射量,積雪パターンのモニタ
リングは不可欠である。近年,雪渓の規模縮小や消
失時期の早期化が進行していることが,白山の千蛇
7)
ヶ池雪渓 や大雪山のヒサゴ沼雪渓で報告されてい
8)
る 。また,植物の生育は積雪の影響を強く受ける
地表付近の温度に規定されるので,地表温度や地温
9)
も重要な情報となる 。現在のところ,気象庁の山
岳気象観測所は富士山のみである。山岳域での気象
観測は,特定の研究施設あるいは大学の研究室レベ
ルで維持運営されている場合が多く,長期的に安定
した情報を共有できる段階には達していない。信州
大学山岳総合研究所では,2002 年から 2010 年にか
けて,中部山岳域の標高 1,500 ~ 3,070 m に及ぶ 10
地点において,気象観測網の整備を行っており,今
10)
後の山岳気象データ蓄積が期待される 。
大まかな気温変動については,山域や季節に特有
の気温低減率を用いて,近隣の気象観測所の気温デ
10),11)
。しかし,降水量,日射
ータより推定できる
量,積雪パターンは極めて局所的なので,低標高の
気象観測所のデータから推定するのは難しい。「モ
ニタリングサイト 1000 高山帯」の登録地において
も,気象観測項目は気温,地表温度,地温のみであ
り,降水量や積雪量,日射量の計測は含まれていな
い。厳しい山岳環境で通年に渡る長期気象観測は大
変難しい。現有する山岳気象ステーションの情報収
集,データ共有のためのネットワーク作り,観測維
持のサポート体制の確立が必要である。
我が国の山岳域における気候変動の解析例は限ら
11)
れるが,Yoshino によると,本州の山岳地域では
1971 ~ 2000 年の 30 年間に多くの山域で温暖化傾
向が認められた。しかし,標高の高い山岳域では比
較的緩やかな上昇速度であった(0.013 ~ 0.029℃ /
年)。著者が長期観測を続けている大雪山ヒサゴ沼
調査地(標高 1,700 ~ 1,900 m)では,1980 年以降 30
年間で年平均気温は 0.033℃ / 年の速度で上昇傾向
にある(図 2)。気温上昇は特に 1980 年代後半から
1990 年代初頭にかけて顕著で,わずか 5 年ほどの
地球環境 Vol.19 No.1 3−11
(2014)
図 3 気候変動によって引き起こされる山岳生態系
の変化プロセス.
個体,個体群,群集,生態系スケールの応答の関連性を示す.
図 2 大雪山ヒサゴ沼調査地における年平均気温と
雪渓の消失時期の経年変化.
2000 年以前の気温データは,糠平温泉郷の気象データ(気象
庁)
より推定した.灰色の線は年変化,赤色の線は 5 年間の移
動平均値を示す.
間に約 1℃平均気温が上昇したことが判明した。さ
らに,雪渓の消失時期も 1988 年から 2013 年までの
25 年間で 0.41 日 / 年の速度で早まっており,春の
平均気温
(3 ~ 5 月)上昇との関連が示された。山岳
生態系で温暖化と雪解けの早期化が進行しているこ
とを示す証拠である。同様の現象はスイスアルプス
でも観測されており,1975 年から 2010 年までの 35
年間で,森林限界付近の夏の平均気温は 0.058℃ /
年の速度で上昇し,融雪時期は 0.35 日 / 年の速度
12)
で早まっているとの報告がある 。
急激な気温上昇が起きた 1990 年代には,大雪山
の湿生植物群落で急激な植生変化が観察された。湿
生お花畑の主構成種であるエゾノハクサンイチゲ
(Anemone narcissiflora ssp. sachalinensis)の 個 体 群
が急速に衰退し,5 ~ 6 年ほどの間にほとんど消滅
してしまったのだ。その引き金として,それに先立
って起きた急速な温暖化の影響が考えられる(本特
13)
集,川合・工藤の章参照) 。このように,地域ス
ケールの気象情報は生態系変化の解析に非常に重要
であり,地域性を反映した山岳気象観測システムの
充実が望まれる。
4.生態系変化のモニタリング
気候変動が個々の生物に及ぼす影響として,生理
特性,生物季節(フェノロジー),分布の変化があ
14)
る 。気候変動に対する個々の生物の応答は,群集
内の生物間相互作用を改変し,さらなる分布域の変
化や地域個体群の絶滅を引き起こす。そして,群集
組成や種多様性を変化させていく(図 3)。したがっ
て,気候変動に対する個々の生物の応答を生物間相
互作用や環境改変作用に関連させてとらえていく視
点が重要となる。以下に,生理特性,生物季節特
性,分布特性に関するモニタリングのポイントとな
る事柄を解説する。
4.1 生理特性のモニタリング
温暖化や大気の二酸化炭素濃度の上昇は,生物の
成長,繁殖,光合成活性,代謝活性に影響する。寒
冷地域の温暖化は生育期間を延長するので,高山性
の動植物の成長を促す可能性があるが,温暖化に伴
う積雪の減少や土壌乾燥化などは植物の成長に負に
15)
作用する 。日本の山岳域を特徴づけるハイマツ
(Pinus pumila)の年枝伸長は,夏の気温の増大によ
り促進される。日本各地のハイマツ帯で近年伸長量
16),17)
,ハイマツの分布域が拡大している
が増加し
こ と が 報 告 さ れ て い る(本 特 集, 金 子 ら の 章 参
18),19)
。ハイマツの年枝伸長はモニタリングサイ
照)
ト 1000 高山帯の測定項目になっており,全国の登
録地で定期的な計測が始まっている。
一方で,春の雪解けの早まりにより霜害の頻度が
7)
高まり,ハイマツの枝枯れが報告されている 。常
緑性の植物は,春の温暖化で耐寒性が弱まり,その
20)
後の霜害の危険性が高まる 。雪解け後 2 ~ 3 週間
のうちに気温が-1.5℃以下になると,霜害の危険性
12)
が高まることが知られている 。4 月の気温が一時
的に高まった 2012 年には,大雪山の風衝地でガン
コウラン
(Empetrum nigrum var. japonicum)やハイ
5
工藤:山岳生態系のモニタリングの意義と方向性
図 4 一時的な春の温暖気象によって引き起こされた
ガンコウランの凍害.
2012 年,大雪山コマクサ平にて撮影.
マツの枝枯れが多数観察された
(図 4)
。同様に,冬
期の積雪量の減少は冠雪による断熱効果を低下さ
せ,凍害の影響を高める。スウェーデンのツンドラ
では,真冬に一時的に積雪がなくなり,ガンコウラ
ンやコケモモ
(Vaccinium vitis-idaea)
が広範囲にわた
21)
り凍害を受けた例が観察されている 。温暖化によ
る凍害・霜害のリスク増大は,突発的な影響として
22)
高山生態系においては重要である 。
温暖化に伴う生育期の生理活性の増大は,生産性
を向上させ,植物種間の競合を加速する可能性があ
23),24)
。野外温暖化実験や積雪環境操作実験にお
る
いても,温暖環境下で種間競争が高まり,種多様性
25)- 27)
。大雪山系
の減少が起こると報告されている
においても近年チシマザサ(Sasa kurilensis)が分布
域を広げ,湿生植物群落の種多様性の低下を引き起
13)
,28)
。
こしている
(本特集,川合・工藤の章参照)
また,生物が持つ環境改変機能にも着目する必要
がある。植物の成長促進は,リター供給量の増加
や,蒸散を高めることにより土壌の乾燥化を促すこ
とにつながる。寒冷地域における温暖化は土壌微生
物の活性化を促し,有機物分解速度を早めることに
より物質循環を活発化すると予測される。高山・ツ
ンドラ生態系では,低木の侵入により局所的な雪の
吹き溜まりが形成され,雪の断熱効果により冬期の
土壌凍結が弱まり,土壌微生物の活性化により無機
化が促進される。低木はその養分を利用することに
より,さらに分布を拡大する,という正のフィード
29)
バック作用が報告されている 。八甲田山域では森
林帯からハイマツ帯に至る標高傾度に沿った生態系
モニタリングシステムの構築が行われ,森林動態,
土壌生成,バイオマス生産などの長期データの収集
30)
が始まっている
(本特集,田中らの章参照) 。
4.2 生物季節
(フェノロジー)のモニタリング
近年の気候変動により,植物の開花・開葉・落葉
6
時期,昆虫の休眠スケジュールや発生頻度,動物の
渡りの時期,プランクトンの発生時期など様々な生
31)- 37)
。
物の季節応答の変化が多数報告されている
気象庁では,サクラの開花日やモンシロチョウの初
見日など,多くの生物の季節性に関する長期的な記
録が蓄積されており,これらの長期データを用いた
38),39)
。フェノ
気候変動との関連も解析されている
ロジー変化は一般に秋よりも春に顕著であり,植物
の開花・開葉,動物の休眠解除,昆虫の羽化・発生
時期は春に早まる傾向がある。フェノロジー変化は
温度依存性によるもので,あらゆる生物群を込みに
した解析では,春のフェノロジー変化は 2.8 日 /10
36)
年の速度で早まっているという 。また,1℃の気
温上昇により春のフェノロジーは 4.6 日早まるとい
34)
う解析結果もある 。しかし,気候変動に対する応
答速度は個々の生物で大きく異なり,群集構成種間
でも変異が大きい。
多雪高山環境では,雪解けのタイミングが植物の
8),40),41)
。高山植
フェノロジーに強い影響を及ぼす
物の開花時期はそれぞれの種に固有の有効積算温度
9)
で決まるので ,植物が実際に経験する雪解け後か
らの温度が重要となる。積雪のほとんどない風衝地
植物群落では,春の気温変化により開花時期の推定
が可能であるが,遅くまで雪渓が残る雪田植物群落
の開花時期は,局所的な融雪時期の変異により大き
く変動する。そのため,雪田群落のほうが風衝地群
8)
落に比べて開花時期の年変動は激しい 。山岳生態
系における景観スケールのフェノロジーは,風衝地
と雪田という対照的なハビタットの複合体としてと
らえることが重要である。
植物の開花フェノロジー変異がもたらす生態学的
影響として,植物自身の繁殖成功と送粉系を巡る植
物-ポリネーター(花粉媒介者)相互作用がある。寒
冷な山岳生態系では,ポリネーターの活性は季節の
進行に伴って高まるので,開花時期の早まりは受粉
サービスの低下を引き起こし,種子生産の減少につ
42)
ながる場合が多い 。また,地形や立地環境の多様
性を含めた景観スケールの開花フェノロジーは,花
を資源として利用する多くの昆虫群集にとって重要
な環境要素である。温暖化に伴う融雪時期の早期化
は,高山植物群落の開花時期を早め,地域全体とし
ての開花期間を短縮させる。これは,訪花性昆虫に
とって,資源の利用期間が短くなることを意味す
る。また,これまで融雪時期が異なっていた場所に
成立していた植物群落では,温暖化により,開花期
の重なりが大きくなると,植物間でポリネーター獲
得競争が高まる可能性がある。さらに花粉媒介を通
しての遺伝子流動が促進され,植物個体群間の遺伝
43)
構造にも影響が及ぶ可能性もある 。
気候変動に対する植物と植物を利用する動物のフ
ェノロジー応答が異なる場合,それまで維持されて
いた生物間相互作用が崩壊する危険性が高まる(フ
地球環境 Vol.19 No.1 3−11
(2014)
ェノロジカルミスマッチ)
。例えば,北米ロッキー
山脈では近年の温暖化によりマーモットの冬眠明け
の時期が年々早まっているが,餌となる高山植物の
開葉時期がそれほど変わらないために,冬眠直後に
35)
餌不足になりやすいという 。同様に,訪花性昆虫
の出現時期と蜜源植物の開花時期にもフェノロジカ
44)
ルミスマッチが報告されている 。大雪山において
も温暖な年には高山植物群集の開花時期が早まり開
花期間も短縮されるが,主要なポリネーターである
マルハナバチ群集の季節活性は開花時期の変動とは
同調せずに,ミスマッチが起こり易いことが確認さ
45)
れている 。移動能力を持つ動物や昆虫のフェノロ
ジーは,冬眠場所や越冬場所の環境により影響され
るので,それぞれの生物の習性に応じた調査が必要
となる。
山岳生態系における生物のフェノロジーの定量化
は,植生変化や気象観測に比べて大変な労力が必要
なため,長期的なデータは大変少ない。大雪山で
は,2008 年より市民ボランティアによる高山植物
群集の開花フェノロジー調査が行われており,毎年
9)
詳細なデータが蓄積されている 。また,開花に要
する温度要求性から積算温量モデルを作成し,過去
に㴑って開花日の変化を推定した解析では,ヒダカ
ソウ
(Callianthemum miyabeanum)の開花日が過去
100 年間で 7.6 日早まっているという結果が得られ
46)
ている 。目視によるフェノロジー調査の代わりと
して,インターバルカメラを用いたフェノロジー調
査の試みが進んでいる(本特集,小熊・井出の章参
47)
照) 。また,景観スケールのフェノロジー計測手
法として,リモートセンシングを利用した広域解析
19)
の試みも行われている
(本特集,金子らの章参照) 。
衛星データの解析により,大陸スケールの開葉時期
48)
や紅葉時期の定量化も可能である 。一方で,気候
変動に対する個々の生物の生活環の応答を定量化す
るには,やはり目視観察による方法に頼らざるを得
ない。
4.3 生物分布のモニタリング
気候変動が生物の分布に及ぼす影響は,地理的ス
ケールの分布域のシフト,群集スケールの種組成や
種多様性の変化,個体群スケールの拡大・縮小に分
けて考えると理解しやすい。地理的スケールでは,
高緯度あるいは高標高への分布域シフトが多くの種
で報告されている。多くの報告事例のメタ解析によ
ると,生物の分布境界は高緯度地域へ 610 m/ 年,
高 標 高 へ 61 cm/ 年 の 速 度 で 変 化 し て い る と い
35)
う 。森林帯の上昇は高山植物の生育場所の縮小を
引き起こす。世界各地の山岳域 166 地点で過去 100
年間の森林限界の変動を解析した例では,62%の山
岳域で上昇傾向が認められ,森林限界の下降が認め
49)
られたのはわずか 1%であった 。そして森林帯の
上昇は冬季の気温上昇と相関が高いという。我が国
においても,八甲田山では森林帯の上昇が航空写真
解析によって検出されている(本特集,田中らの章
30)
参照) 。しかし,他の山岳域における森林限界の
変動に関する解析は,ほとんど行われていない(も
しくはデータが公開されていない)のが現状である。
樹木の垂直分布変化は,気温だけでなく水分環境
との関連も重要である。気候変動が乾燥ストレスを
高めるように作用する場合には,温度変化に伴う森
林限界の上昇は起こらないであろう。過去の気候変
動に対する樹木の成長応答を解析する手法として,
年輪解析が一般的に用いられる。さらに水分ストレ
スの指標となる木部組織の安定同位体比解析によ
り,気候変化がもたらす生理生態学的影響をより具
50)
体的に解析できる(本特集,宮田らの章参照) 。
温暖化に伴い高山植物の分布も変化している。ヨ
ーロッパアルプスでは,高山植物の分布上限が 10
51)
~ 40 cm/ 年上昇しているという 。その結果,山
頂付近の高山植物群落の種多様性は増大傾向にある
が,地中海性気候にある山岳域では,温暖化に伴う
乾燥化により生理的な活性が低下し,多様性の減少
4)
が起きている 。また,気温上昇や積雪の減少に伴
い,より低地性の植物が高山帯に分布を拡大し,高
山 植 物 と の 競 合 が 進 行 し て い る 例 も 知 ら れてい
52)
る 。特に,高山やツンドラでは低木植物の分布拡
53),54)
。大雪山や上越山
大が各地で報告されている
地では,チシマザサの分布拡大により既存の高山植
物群落の種構成が変化し,種多様性の低下が起きて
18),28)
。ハイマツやチシマザサのように増殖力
いる
の旺盛な優占種は,被圧作用や土壌・水分環境改変
作用が強いので,気候変動に伴う分布域の変化をモ
ニタリングすることが重要である。航空写真や衛星
画 像 に よ る 地 理 情 報 シ ス テ ム(GIS:Geographic
Information Systems)を用いた分布域変化の定量化
と将来の動態予測は,大変有用である(本特集,金
19)
子らの章参照) 。
山岳生態系には多くの希少種や固有種が生育して
おり,その多くは絶滅危惧種として保護対象となっ
ている。これらの種の個体群変動のモニタリング
は,個体群の存続可能性を評価する上で大変重要で
ある。先に述べたように大雪山では,エゾノハクサ
ンイチゲ群生地がわずか 10 年ほどで消滅してしま
った。アポイ岳では固有種ヒダカソウの個体群が衰
55)
退し ,南アルプスでは固有種のキタダケソウ
(Callianthemum hondoense)の個体群存続が危惧さ
56)
れている 。しかし,高山植物で個体群動態が長期
57)
間記録された事例は極めて少ない 。地域個体群の
衰退が盗掘や人為的な環境改変に起因するものであ
れば,生育地の保全や監視により個体群を維持する
ことができるかもしれない。一方で,気候変動に伴
う環境変化が個体群衰退の引き金になっている場合
には,制限となっている環境要因の特定が不可欠で
ある。そして,個体群動態モデルの構築により,地
域個体群の安定性や絶滅の危険性を評価すること
7
工藤:山岳生態系のモニタリングの意義と方向性
が,具体的な保全対策を考える上で重要となる。ま
た,山岳生態系では個体群が山域毎に極度に分断化
されている事例も多く,移植や播種による個体群維
持を導入する際には,地域個体群に固有の遺伝的多
様度についての検討も必要となる
(本特集,平尾の
58)
章参照) 。
5.山岳生態系監視システムの構築
気候変動に対する山岳生態系の影響を総合的に把
握するには,景観,群集,個体群,遺伝子といった
スケール横断的な監視システムの構築が必要とな
る。そしてその運用は,(1)植生変化や種の分布域
変化の検出と定量化,
(2)変化を引き起こしている
メカニズムの解明,
(3)気候変動に対する生態系変
化の将来予測や生物多様性への影響予測というプロ
セスでなされるべきである(図 5)
。
生態系監視の空間スケールは,広域,地域,特定
個体群に分けられる。広域監視システムでは,大規
模な環境改変や植生変化が進行している地域の抽
出,その変化を引き起こしている要因の特定,脆弱
性マップ等による定量化などを行なう。その基礎情
報として,衛星画像や航空写真などのデータベース
の集積が重要となる。地域監視システムでは,種多
様度をベースとした群集構造や種構成のセンサス,
植生タイプを代表する優占種個体群の変動,地域的
な植生変化を引き起こしているメカニズムの解明,
群集の開花フェノロジーといった生物季節の記録を
行う。モニタリングサイト 1000 高山帯の計測項目
の多くはこのスケールに含まれる。また,現地での
長期モニタリングに加え,環境操作実験などのアプ
ローチが必要となる場合もあるだろう。局所個体群
図 5 山岳生態系監視システムの導入により期待される
温暖化影響の解明と,山岳生態系保全管理計画
実施への適用.
気候変動による生態系変化と連動した柔軟な管理手法の策定と実
施(順応的保全管理)の構築が重要となる.
8
監視システムでは,固有種や絶滅危惧種など特定種
の分布や個体群動態,地域個体群の遺伝的多様度の
評価などを行う。特定種の保全には,地域個体群に
特有の生態型(エコタイプ)化や生物間相互作用にも
59)
着目する必要がある(本特集,市野らの章参照) 。
生態系監視システムの運用により,環境変化に対
して脆弱で注目すべき立地,植生帯,群集タイプが
特定でき,重点監視地域の選定基準ができる。変化
のメカニズムが明らかになれば,生態系への影響予
測が可能となり,生態系変化の予測マップの作成に
つながる。そして,その予測を踏まえて具体的な生
態系保全管理計画の策定と実行がなされるべきであ
る。
6.保全・生態系管理政策へのフィードバック
我が国の主要山岳域のほとんどは,国立公園,国
定公園,原生自然保全地域,都道府県の保全地域に
指定されており,生態系への人為的影響は少ない。
しかし,これまで述べてきたように,原生自然状態
にある山岳生態系で,気候変動による急速な変化が
進行している。この変化をどのように受け止め,対
処していくべきかについての行政上の明確な基準が
ないのが現状である。気候変動によってもたらされ
る植生変化,動植物種の生息地・分布域の変化,種
の絶滅,多様性の減少といった生態系変化を軽減さ
せる対策をどの程度行うべきかという,自然生態系
管理についての行政的な理念と立場をまず,明確に
する必要がある。
実際の保全管理計画の策定に際しては,個々の山
域の地域性を十分に考慮する必要がある。山岳地域
の植生は,わずかな立地環境の違いを反映したモザ
イク状パッチとして識別できる。地質,地形,気象
環境は山域ごとに様々であり,地史的な背景も異な
る。また,多くの高山性生物は,山域ごとに遺伝的
分化が起きている可能性が高い。立地環境,生物
相,遺伝的組成のいずれにおいても極めて地域性に
富む山岳生態系においては,山域単位での保全管理
政策が重要である。
気候変動が山岳生態系に及ぼす影響は,温度変化
に対する直接的な生物の応答だけではなく,様々な
環境要因の間接効果や生物間相互作用を介した複合
作用として現れる場合が多い。さらに,気候変動の
影響は一様ではなく,極めて時間的な変動が大き
い。近年では,猛暑,豪雨,干ばつ,豪雪など,異
常気象の頻度が高まっている。それに伴う生物の応
答も,急速に変化する場合もあるだろう。したがっ
て,保全管理政策も気候変動や生態系のその時々の
応答に対処した柔軟なものである必要がある。その
ためには,それぞれの山岳地域単位での継続的なモ
ニタリングと連動した順応的保全管理体制の確立が
重要となる。
地球環境 Vol.19 No.1 3−11
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工藤 岳
Gaku KUDO
1962 年,東京都生まれ。北海道大学
地球環境科学研究院准教授。東京農工大
学農学部卒。北海道大学大学院環境科学
研究科博士課程修了。
専門は植物生態学,
送粉系生態学,気候変動と生態系応答。
山岳生態系や冷温帯林で植物の繁殖生態,送粉系を巡る生物
間相互作用,
気候変動に対するフェノロジー応答などを研究。
大雪山での高山生態系調査は,1987 年より継続しているラ
イフワーク。主な著書に,『大雪山のお花畑が語ること:高
山植物と雪渓の生態学』
(京都大学学術出版会)
,
『高山植物の
自然史-お花畑の生態学』
(北大図書刊行会,編著)
,
『Ecology
and Evolution of Flowers』
(Oxford University Press,
共著)
など。
11
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