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韓国製トラクタの営農現場における利用状況について 筑波大学大学院

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韓国製トラクタの営農現場における利用状況について 筑波大学大学院
韓国製トラクタの営農現場における利用状況について
筑波大学大学院生命環境科学研究科 ○石崎理有・小池正之 瀧川具弘・長谷川英夫
1.緒言
近年,世界貿易機関(WTO)に係る貿易協定をめぐる論議が活発である。我が国は 2002 年 11
月からシンガポールと,2005 年4月からメキシコと経済連携協定を締結したが,それに伴い,
営農現場では資材費低減に向けたさまざまな取組みがなされている。2006 年 3 月,JA 全農は資
材費低減の一環として韓国製トラクタの取扱いを行うことを決めたが,その動向は関係者の注目
するところとなっている。
本研究は,営農現場における利用状況の分析を試み,当面の課題と今後の展望に対する考察を
行ったので報告する。
2.国内市場参入状況
貿易統計によると,当該トラクタは 1988
年前後から輸入が始まっている(図1)。販
売価格は日本製同出力形式の 6 割~7 割であ
る。普及地域は機関出力 51kW 未満トラクタ
の 3/4 が関東地方で,51kW 以上の約半数が
年間累計輸入台数(台)
(資料:財務省貿易統計)
韓国
イギ リス
フランス
ドイツ
2000
1500
1000
500
北海道で使用されている状況であった。
主要メーカーは 4 社あり,その概要を表 1
0
1988
1992
1996
2000
2004
西暦
に記す。
図1 トラクタの輸入元国別台数の変遷
表 1 韓国製トラクタメーカーの概要
大同工業
メーカー
提携メーカー
Daedong
東洋物産産業
Co., Tong
国際綜合機械
Yang Kukje
LS Cable
Machinery
Ltd.
Moolsan Co., Ltd.
Co., Ltd.
クボタ
ヰセキ
ヤンマー
三菱
Case IH
John Deere
New-Holland
Branson・Century
Montana
LS・三菱
(過去の実績を含む)
海外販売ブランド名
Kioti
搭載エンジン
Daedong
ヰセキ・Daedong
日立・ヤンマー
Perkins
三菱重工・クボタ
John Deere
Lombardini
備考
ア メ リ カ の ガ ー 昭 和 時 代 に ヰ セ キ 日 立 製 の 油 圧 装 置 ,2005 年 , LG
デ ン ト ラ ク タ 市 が 国 内 販 売 を し た ス イ ス 製 の 電 磁 バ Cable から LS
場 に て 大 き な シ ことがある
ェアを持つ
ルブなどを使用
Cable に 社 名
変更
※Web ページおよび販売店聞き取り情報より作成
3.営農現場における利用状況
( 1 ) 2006 年 6 月 上 旬 , A 県 B 地 域 の 畑 作 農 家
対して聞き取り調査を行った。この地域は畑作地帯
であり,集落農家戸数は約 20 戸,経営規模は 10ha
以上の農家が多数を占めている。調査農家は約 10ha
の耕地をトラクタ 5 台(13,14,19,33,35kW)で管理し
ており,うち1台が韓国製であった。ここでは,基
本的に各トラクタは特定の作業を行うよう,装着作
業機は機体と一体化して使用している。遠距離の圃
場へのトラクタ運搬は,トラックにより行ってい
た。
図2 韓国製トラクタ
(2)当該機導入時期は 2001 年であり,購入価
格は 320 万円であった。機関出力は 35kW であり,キャビンを装備している(図2)。5 年間の稼
働時間は 300h であり,その値は我が国の年間平均稼働時間 50h とほぼ同水準であった。
(3)問題点として,PTO 軸がエンジン停止時に回転せず作業機の着脱が難しいこと,自動水
平装置の応答性が遅れがちであることなどが挙げられた。また,前輪タイヤのラグ高さが大きい
ため,舗装路走行時にロードノイズを拾い,ステアリング特性・静粛性に影響を及ぼすこと,重
心位置が低いためロータリ作業機とのマッチングが不適切であることなどの指摘もあった。基本
車体構造や電気系統については,特段の問題はなかった。
(4)ユーザーがトラクタに期待する性能の水準については,我が国での性能水準は相対的に高
く,国産機と比べ明らかに性能面での相違が認められるため,当面その期待には満足度の十分な
形では応えられないものと考えられた。
4.今後の課題
(1)経営規模と当該機の価格および維持経費との関係において,経費削減効果は相当程度に大
きいことが認められた。しかし燃料消費量については,搭載機関が自社製でない機種もあり,機
体性能とのマッチングの面から燃費特性評価についてはさらに調査する必要があることが分かっ
た
(2)機体と装着作業機の“なじみ”については,ユーザーの厳しい評価に曝されることが予想
される。機体設計上,農作業の負荷特性に配慮した改善の必要性が指摘できた。
(3)普及状況によっては,安定した部品供給網の面的広がりを維持することが必要となるため ,
部品供給システムの新たなサービス体制構築が喫緊の問題になると思われた。
(4)韓国メーカーは社員数を低く抑えて人件費の抑制に努め,同時に主要部品に関しては他企
業との提携により低コストを達成し,低価格商品の供給を可能としている。しかし,その戦略で
もって今後も品質の維持・向上が図れるかどうかについては懸念が残る。
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