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及び研究成果のインターネット上における公開による
04―01042 電磁波による地震発生予測の有効性の先進的研究における学術的貢献, 及び研究成果のインターネット上における公開による社会貢献(継続) 代表研究者 福 島 毅 千葉県立行徳高等学校教諭 共同研究者 浅 原 裕 株式会社先端力学シミュレーション研究所研究開発部研究員 1 研究の目的 1-1 研究の動機 本研究は平成17年度からの継続研究のため,研究動機の詳細については,平成17年度の成果報告書を参照願い たい。本研究では,アマチュアでも観測が比較的簡単に行える VHF 帯の電波観測を通じて,地震に先行すると される電磁波異常を検出,研究するものである(福島毅,2005) 。 1-2 理論的な裏付け 本研究の理論的裏付けについても,平成17年度の成果報告書に述べている。地震活動に伴い電磁気現象が現れ るメカニズムについては,現在のところ定説がない。定性的な仮説がいくつか提示されているのみである。観測 が先行しており,まずは現象の本質を捉えようとして観測実績を積み重ねるという工学的なアプローチを多くの 研究者が行っている。 平成18年に入り,この分野での大きな進展について研究発表されてはいない。しかしながら,フランスの人工 衛星 DEMETER の観測結果が公表され,地震に先行するとされる電磁波異常の検出報告および統計解析結果が 示された(Michel Parrot,2006)。 1-3 本研究のこれまでの経緯 電波による地震前兆現象の観測は,1996年に千葉県柏市の柏中央高校での試験観測からスタートした。その後, 市川市の行徳高校に場所を移して,1999年より継続的な観測を行っている。 現在では,メインの観測である電波観測の他に気象観測(雨量・気圧・気温・湿度・風向・風速・日照時間・ 紫外線など)や流星電波観測を行っている。その他に大阪大学と共同で広帯域環境電磁波の観測,東海大学と共 同でハムスターの行動監視による動物宏観異常観測を行っている。自前の観測機器での監視に加え,独立行政法 人防災科学技術研究所のHi-net(微小地震観測網)での地殻変動監視や,国土交通省水文水質データベースのテ レメータ欠測と地震発生との相関研究(福島毅,2005)なども行っている。 研究の手法や研究成果,観測の生データなどのすべての情報はインターネット上に公開している。これは, 「研究の透明性と第三者によるデータ利用が研究の推進につながるという見通し」と,「迅速な情報提供が,この 分野の研究においては欠かせない要素」と考えるからである。 2 研究の方法 2-1 観測システム概要 移動観測のシステムは,行徳高校や行徳高校方式の多点観測網で設置してきた観測システムを基本としている。 つまり従来の観測方法を変えることなく,移動場所での即時観測開始の実現を最大の特徴としている。なお,移 動観測では,観測場所での電波環境を知ることが重要であるので,入力信号のスペクトルをリアルタイムに見ら れる装置も導入した(福島毅,2006)。 車載することを考えて工夫した点は以下のとおりである。 ― 173 ― ¸ アンテナはアマチュア無線で市販されている車載用モバイルアンテナと,車を止めて地上高数mになる ポールを立ててその上にアンテナを設置するタイプの2種類を用意した。 ¹ 受信機は,行徳高校および多点観測で展開しているのと同型の受信機と,電波のスペクトルを直接見るた めに,アンテナからの出力を直接,スペクトル表示装置に入力するという2つの手法が可能なシステム構成 とした。 º データの保存は音声信号については,ノートパソコンに保存し,のちにこれらもスペクトル解析ソフトで 解析が可能なようにした。 » 車から発生するノイズを低滅させるために,カーバッテリーからの電源供給ではなく,それとは別系統の バッテリー電源と交流電源へのインバーターを装備した。また,車内でもデータ処理が行えるように,後部 シート座席において持ち運び式の電源供給ができるテーブルを自作した。 車載された受信機・ノートパソコンや後部座席シートのテーブルなどの備品を図1に示す。移動観測を行って いる外観を図2に示す。車載されている観測機器の詳細を図3に示す。 図1 移動観測システム観測車車内 図2 移動観測システム外観 ― 174 ― 図3 移動観測システム搭載観測機材 2-2 多点観測の拡張 いつ,どこで発生するかわからない地震前兆現象の検出をターゲットとした電磁波観測においては,1カ所の みの観測ではなく,多点での観測戦略が有効であることは言うまでもない。 昨年度は,多点観測するためのシステムの基本設計,開発および多点観測のポイントの選定,そして実際に神 奈川県の小田原市や千葉県の鴨川市で設置工事を行い,システムを稼働させた。ただし小田原観測点については, 機材を保守・メンテナンスしている事業者の都合により,2006年3月4日をもって,観測が終了した。 本年度は新たに新潟県長岡市と茨城県鹿嶋市などにも観測点を増設した。新潟県長岡市の観測点は,2004年10 月23日に発生した新潟県中越地震の震源から近く,現在でも余震が発生している地域であり,M4程度の地震発 生との相関を調べるのに参考となることが予想される。また,茨城県鹿嶋市は,茨城県沖・茨城県内陸などで頻 繁に発生するM3∼M5クラスの地震発生との相関を研究するのに理想的な場所である。 観測点の場所の詳細については,場所を明記することによって観測の妨害となる違法電波発信の危険があるた めに公表できないが,人工的なノイズの混入がないか事前に調査を行い,ノイズなどの問題がない場所に設置し た。2006年6月現在,新潟観測点と鹿嶋観測点でも順調にデータ取得を行っている。 2006年6月現在,本校の 49.5MHz の VHF 方式(行徳方式)の観測網の稼働状況は以下の通りである。この うち埼玉浦和観測点と滋賀彦根観測点については,行徳高校自然科学部が設置したものではなく,協力者による 同方式の観測点である。 行徳高校(千葉県市川市) 1999年より稼働開始 埼玉浦和観測点(埼玉県さいたま市) 2003年12月27日稼働開始 千葉鴨川観測点(千葉県鴨川市) 2004年7月28日稼働開始 静岡清水観測点(静岡県静岡市) 2004年9月25日稼働開始 静岡榛原観測点(静岡県榛原市) 2005年2月19日稼働開始 新潟長岡観測点(新潟県長岡市) 2005年7月29日稼働開始 千葉流山観測点(千葉県流山市) 2005年8月21日稼働開始 東京八王子観測点(東京都八王子市) 2005年8月25日稼働開始 滋賀彦根観測点(滋賀県彦根市) 2005年10月18日稼働開始 茨城鹿嶋観測点(茨城県鹿嶋市) 2005年12月10日稼働開始 これらの観測点の電波観測の記録は以下の URL に集約されている。 http://earthq.system-canvas.com/ なお,2006年8月には,三宅島に新たな観測点を稼働させるべく準備中である。 2-3 Hi-net 監視プロジェクト 今年度の研究では,移動観測とともに,独立行政法人 防災科学技術研究所のHi-net(微小地震観測網)によっ ― 175 ― て提供されている地震波形データを監視するプロジェクトもスタートさせている。 これは,Hi-net で提供している微小地震の生データを取得し,数時間・数週間・数ヶ月など様々なタイムス ケールで波形を監視できるようにしたプロジェクトである。 Hi-net で提供されている生データを広域で監視し,通常とは異なる特異な地殻変動を発見することを主な目 的としている。これを実現するためには,Hi-net で提供される生データを迅速に処理しグラフ化するサーバ群 およびソフトウエアが必要で,これらを準備し,監視をスタートした。 研究のプロジェクト内容や成果については以下の URL にてリアルタイムに公開している。 http://eq.nazarite.jp/hinet.php 3 3-1 結果 移動観測の候補地選定 移動観測では,地震活動と関連のあると思われる地域を早期に特定し,迅速に対象エリアに移動しなくてはな らない。 例えば将来的に巨大地震が起こるとされている東海エリアをターゲットとして移動観測を行っても,地震が数 時間∼数日以内に起きるという見通しがなければ,電磁波異常を実際に捕捉することは困難である。地震前の電 磁波異常は巨大地震で数ヶ月,M4クラスで数時間∼数日である。そこで,移動観測を実行する場合,比較的短 期間(数時間∼数日以内)で地震が起こるであろうと予想されるエリアを観測前に同定しなくてはならない。短 期的な地震予知の手法が明らかになっていない現在,短期間で地震が起こることが予想されるエリアを特定する ことがまず困難な課題として立ちふさがる。 そこで我々は国土交通省が提供している水文水質データベースを利用することとした。この水文水質データ ベースとは,リアルタイムに全国の河川の水量や雨量を監視し,周辺地域の治水に役立てるシステムである。観 測データはインターネット上で無料公開されている。このシステムでは,河川沿いの各観測点(以下,「無線テ レメータ観測点」と呼ぶ。)の観測情報を主に 70MHz 帯の無線テレメータで中継点に中継する。しかし,その 無線が観測場所によって途切れる場合がある。この場合,y装置自体の故障,zメンテナンスによる停止,{周 辺地域の電場異常の原因の3つの原因が考えられうる。yに関してはメンテナンス情報が後日インターネット上 で報告されるが,突発的な故障のケースは希である。zに関しては,事前にインターネット上で公開される。{ については観測の測定値なしということでデータ欄には「欠測」の文字が並ぶ。我々が注目するのは{について 図4 観測地点(十六橋)と2005年8月10日福島県沖地震 ― 176 ― のケースである。 従って,欠測がよく出るテレメータ観測点で,かつその前後に地震発生が多い観測点をリストアップする。そ して,このような観測点のうち,本研究の本拠地である行徳高校から短時間で車の移動が可能な無線テレメータ 観測点を候補地とした。今回の候補地は,静岡県中伊豆町の上大見および福島県会津若松市の十六橋である。 2005年8月10日,十六橋にて午前7時頃より欠測が出ているのをインターネットで確認した。この異常が昼間 から夕方まで続くかどうかは不透明であったが,機材を積み,現地に向かった。観測点の十六橋の場所を図4に 示す。図の一部は気象庁の震度データベース検索を使用した。 3-2 無音・無変調の電波雑音の観測 2005年8月10日,午後2時頃,福島県の猪苗代湖畔にある十六橋テレメータ観測所に到着した。十六橋観測所 (無線テレメータ 雨量局)の2005年8月10日の欠測は,後の調査で,午前 7:00∼7:50,8:10∼8:20, 8:40∼9:40,12:20∼12:40,13:30∼13:50,15:00∼15:10,21:50∼22:00であった。この間に電波 伝搬異常が生じてテレメータの無線が滞っていたことになる。 現地での天候は小雨であった。現地に到着してのち,移動観測のシステムセットアップを行った。アンテナは 車載のモバイルアンテナを使用した。受信機はスペクトル表示装置を直接接続し,スペクトルの状態を見られる ようにした。加えて音声出力ジャックから IC レコーダーにて音声信号を取り出し録音した。記録した音声を FFT 解析したものを図5に示す。小さな雑音や大きな「バシッ」というノイズ音が確認できた。 図5 音声の FFT 解析結果 14時20分頃より測定を開始した。70MHz∼75MHz 帯をスペクトル表示装置でモニタしたところ,観測開始か ら,多数の筋状の模様が表示されているのを確認した。この現象は,電波は出ているが音声雑音がなく無音な状 態にあることを意味する。また,この現象は,電波強度が高い状態が散発的に起きていることを示している。 本観測装置の観測とは別に,以下の現象が時間をほぼ同じくして起きた。y車に搭載されている音声ガイド付 き GPS カーナビゲーションシステムが,「GPS が不受信になりました」という音声合図を告げた。車は停止し ているので,橋の下やトンネルなどで起きる空間移動による GPS カーナビゲーションの不受信ではなく,同一 地点での時間的な電場環境の変化による GPS ナビゲーションの不受信ということになる。また,それとほぼ同 時に,800MHz 帯携帯電話の受信感度がアンテナマーク2レベルから突然圏外となった。 ― 177 ― これらの異常は十六橋周辺にて電場環境が広帯域で変化していることを示している。詳細な原因は不明である が,このことが,十六橋周辺でのテレメータ欠測について大きな影響を及ぼしていたことが推測される。 4 4-1 考察 地震活動との関連 同日15:12分,福島県沖の深さ 78km で M4.6 の地震が発生していた(図4)。また8月16日には,宮城県沖の 深さ 42km にて M7.2 の地震が発生している。GPS カーナビゲーションの異常や携帯電話の電波が圏外になっ た時刻と,福島県沖の地震発生とはほぼ同時である。 十六橋テレメータ観測点の欠測の発生と東北地方を震源とする地震との相関については,さらに調査が必要で ある。今回の移動観測では,地震に関連すると思われる電磁波異常の候補地を地震発生前に選定し,実際に現地 にて電波伝搬異常あるいは周辺電場の異常をスペクトルおよび音声信号で捕捉することができた。このことは, 当初の移動観測の目的を達成したという意味において,意義は大きいと思われる。 4-2 地形・地質構造との関連 これまでの本校の電波観測や水文水質データベースの無線テレメータ欠測の状況から,電波伝搬異常または電 場異常は均質な条件として日本列島の至る場所で現れるものではなく,その発生地域は,かなり地形地質の異方 性を反映するものではないかと考えている。 人間の体は電解質の皮膚からなるが,電気伝導度は微妙に違い,ツボが存在する。ギリシャの VAN 法におい ても,ツボとおぼしき場所での地電流観測が行われている。 今回,観測のターゲットとした静岡県中伊豆や福島県猪苗代での電波異常地域は,それぞれ天城山や磐梯山と いった火山に隣接している。火山地帯は地下水の影響で電気伝導度が変わりやすい地域として知られる。こう いった火山地帯では地殻変動での水脈の変動,流動電位の変化などを敏感に反映する可能性がある。また地形的 な影響については,鳥瞰図を見ると,無線テレメータの中継地点までは見通しが効いており,地形的影響のみに よるイレギュラーな電波異常の説明がつかない。 4-3 今後の方向性 地震活動と関連する電磁波異常は突発的に出現する。従って,今回のような移動観測を積み重ねることで,電 磁波発生のメカニズムを徐々に解明できるのではないかと期待できる。 また Hi-net 監視プロジェクトのノウハウを元に,これらの監視とともに独立行政法人防災科学技術研究所提 供の F-net(広帯域地震観測網)の提供データを使った広帯域地震波の監視も今後は行っていきたいと考えてい る。広帯域地震観測網では,超広帯域地震計によるゆっくりとした地殻変動の追跡が可能であり,これらの監視 と電波観測をリンクすることにより新たな知見がもたらされるかもしれない。 【謝辞】 本研究の推進にあたり,多点観測に関しては,民間企業の事業所や大学機関,個人宅を借りており,この場を 借りて関係諸氏に感謝申し上げます。なお,当研究は,(財)電気通信普及財団の研究助成金の交付をいただい た。 【参考文献】 福島 毅,2005,「無線テレメータの電波伝搬異常情報を使った地震前兆の試み」,地球惑星科学合同大会予稿 集2005,CD-ROM提供 福島 毅,2006,「猪苗代で観測した無音・無変調の電波雑音」,地球惑星科学合同大会予稿集2006,CD-ROM 提供 Michel Parrot,2006, 「The DEMETER satellite observations in relation with the seismic activity」,地球惑 星科学合同大会予稿集2006,CD-ROM 提供 ― 178 ― 〈発 表 資 料〉 題 名 猪苗代で観測した無音・無変調の電波雑音 掲 載 誌 ・ 学 会 名 等 地球惑星科学関連学会2006年合同大会予 稿集 ― 179 ― 発 表 年 月 2006年5月