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ダウンロード - 名も無き市民の会
プロレス興行に学ぶ政治アピールについて 名も無き市民の会 事務局長 藤原興 2016.7.30 1993 年に「UFC」という総合格闘技大会が開かれたことがありました。この大会は参加者でもっ とも華奢であった柔術家のホイス・グレイシーが大活躍し優勝したことで、「グレイシー柔術」の名 前が一般にも広まり、その後の日米での総合格闘技ブームのさきがけとなりました。 当然、ライバル興行であるプロレスは人気を落としましたが、2016 年現在では、総合格闘技ブー ムは沈静化し、やはりストーリーを見せるタイプのプロレス興行の人気が日米とも盛り返しています。 特に最近では、プロレス興行に「参戦」経験のあるドナルド・トランプが米国大統領候補筆頭にあ がり、新日本プロレス出身の馳浩が文部科学大臣として活躍するなど、「プロレスをわかっている」 ことが政治的な強さに結びつくことが明らかになってきているようです。 改めて最近のプロレス興行を簡単に俯瞰して、とくに政治面に応用する上で重要な出来事にコ メントをしたいと思います。 ○「バトルオブビリオネアーズ」 2007 年に開催された米国WWEの「レッスルマニア 23」の興行は、米国のショープロレスにおい て大きな話題をあつめました。 当時、米国不動産王としてしられていたドナルド・トランプ氏が、WWEのオーナーであるビンス・ マクマホン氏にリング内外で挑発をしたことからストーリーが構築され、「レッスルマニア 23」の興行 において、両者は代理人のレスラー同士を戦わせることになりました。 当時、ビンス、トランプ双方の大げさな髪型が「ハゲを隠す為のかつらではないのか?」と噂され ていたことから、負けたほうがバリカンで髪を刈られる条件です。 この試合はビンスが負けて髪を刈られることになるのですが、全米的に話題となり、その後のトラ ンプの政治的発言増大につながっていくことになったと言われています。 もともとプロレス向きであるとビンスから誘われて盛り上げ役として参加したトランプ氏ですが、こ のときに得たプロレスショー的身振り手振りは、どうやら現在の大統領選挙にむけた活動にも大い に役立っているようです。 なお、WWEは現在、株式上場にあたりプロレスの試合にはすべて「シナリオ」が存在することを 公言したうえで運営されています。ですが、人気は一層膨れ上がっているのです。 ○インテリプロレスラーの増加 現在のプロレスラーの質の面において、大きな変化が見られるのは「勉強のできるタイプ」の増 加があげられます。 プロレスファンに大卒レスラーの走りは誰だと問えば、昔は長州力(専修大学)、ジャンボ鶴田 (中央大学)の両名が必ず上がっておりましたが、現在では特に闘魂三銃士時代の一人である馳 浩(専修大学を卒業後、母校の高校で国語教師をしていた)が文部大臣として活躍していることか ら、インテリプロレスラーの代名詞になってるのは皆さんご存知のとおりです。 00年代以降、総合格闘技におされて低迷するプロレス人気を引っ張ったのは柔道出身の小川 直也(明治大学)、桜庭和志(中央大学)、永田裕志(日体大)、ケンドー・カシン(早稲田)、棚橋 弘至(立命館)といった、レスリングや柔道で有名な大学出身者が並びます。 特に 00 年代以降のレスラーたちは、シナリオマッチと総合格闘技双方に精通し、お客を再びプ ロレスに呼び戻す立役者となり、現在もトップレスラーとして人気です。 ○オタクレスラーの急増 また、00 年代以降において顕著なのは「オタク」的なレスラーの急増です。 現在、日本でもっとも大規模の団体である新日本プロレスでは、オカダ・カズチカ、内藤哲也、棚 橋弘至の三選手がIWGP保持を会社から認められているトップ3選手のようです。 このうち、棚橋は先も紹介したように立命館のレスリング部出身ですが、同時に学生プロレスにも よく出場しており、当時、同志社の学生プロレスラーだったレイザーラモンHGと深い交流がありま す。学生プロレスというのは、当然、「プロレスオタクの学生たちが行うプロレス」のことです。 また、オカダ・カズチカ、内藤哲也は学歴はないもののともに中の上の家庭出身のようで育ちが よく、天然のオタク青年的気質があります。特に内藤哲也は、自他共に認めるプロレスマニアであ り、トップ選手になった今も新日本プロレスのファンクラブ会員であり、おそらくプロレスクイズなどの 大会でも大活躍するマニア知識量と目されています。 (また、政治的なアピール目的から外れますが、オカダ・カズチカのプロレススタイルは、天龍源一 郎やリック・フレア等々の往年の人気選手を綺麗にコピーしており、やはりオタク気質は濃いです) オカダも内藤も華があり、現在大人気のレスラーですが、この二人の人気はプロレス以上に「マイ クアピール」の巧みさにあると多くの内外関係者が指摘しており、現在、朝の情報番組で人気のプ ロレスラー「スイーツ真壁」こと真壁刀義も、この二人の試合をはじめプロレス解説に回るときには、 「観客をいかに味方につけるか」そこを上手に理解して競り合いを行っているのが今のプロレスで あるという旨のコメントをよく行っています。 プロレスラーとして人気をえるためには、いまやレスラー自身が誰よりもプロレスオタクであり、ファ ンの求めた展開を上手に取り入れ上手に裏切るということが要求され始めている様子です。 政治も現在、SNSの発展により「政治オタク」的な層が増加しており、発言力を強めています。今 後はプロレスラー的な振る舞いを体得した活動家がより人気になるのは確実であろうと思います。 ○スーパーササダンゴマシンの登場 また、プロレス界の注目すべき動きとして、スーパーササダンゴマシンの登場があげられます。 彼の正体は、新潟県の金型会社の取締役であると同時にレスラーを続けていたマッスル坂井氏 なのですが、彼は2014年のDDT興行のタイトルマッチにおいて、突如「パワーポイントを使って、 これから行われる試合の意義と、私の取り組みをすべて観客に事前にプロモーションする」という 前代未聞のパフォーマンスを行いました。坂井は経営学修士でもあり、関連する経済用語を面白 おかしく取り入れながら観客に存在をアピールして話題となり、その後、いくつかのテレビ番組取 材や地元新潟の商工会などから公演依頼が舞い込むなど異例の人気となります。 本来退屈なプレゼンテーションをエンタメ化してプロレスに取り込むことに彼が成功した以上、同 じ手法を政治に応用するのもそれほど難しくないのかもしれません。