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Positioning for change 米国の金融規制改革 US financial reform six months later ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 加速化する米国での金融規制改革 ドッド・フランク法成立後半年間の歩みと今後 ドッド・フランク法が成立してから 2011 年 1 月 21 日でちょうど半年を迎えました。 大統領の署名により同法が成立してからこ こ半年のうちに、 新しい監督機関を発足さ せ、 施行規則類を整備するプロセスは着 実に進行しています。 ただし依然として、 規則制定 (ルールメイ キング) を通じて規制の全局面を完全に整 備するまでには、 難しい対応を迫られる課 題が山積しています。 多数の規則類を作 成することに加え、 対処すべき問題の幅広 さや複雑さ、 複数の省庁が関与する必要 性などにより、 数多くの規則を規制当局が 一年以内に作成するのが困難になってい る状況もあります。いずれにしても我々は、 一年という時間軸が終わりに近づくにつれ て、 法案の全体像が次第に明確になり規 則類公表のペースがかなり加速するものと 見込んでいます。 提案内容に対し広く一般からの意見を求 めるなど、 今日に至るまでに規制当局が 取ってきた対応の背景には、 目下進行中 の変化が広範に及び、 しかも複雑を極め ていることが反映されています。 但し各社 は今、 最終的な詰めの段階までは至って いないとしても、 今後の方向性に関する一 定の感触をつかんだうえで、 新しい規制の 枠組みへの対応をスタートさせているとみ られます。 たとえば、 金融安定監視協議会 (FSOC) を情報収集と分析の面から支える金融調 査局 (OFR) は、 市場参加者の法人格レベ ルでの特定要素を手始めに、 データ基準 の整備に関する姿勢を鮮明にしつつありま す。 OFR はさらに、 できるだけリアルタイ ムに近いタイミングで、 非常に細かい、 取 引レベルのデータを求めていく意向も明ら かにしています。 それに加え、 提案の多く では、 ドッド・フランク法の店頭デリバティブ 取 引 に 関 す る 規 定 の 中 に あ る、 「デ ィ ー ラー」 や 「主要スワップ取引参加者」 のよう な、 改革の要素に関する予備的な基準を 規定しています。 またストレステストや自己 資本対策や破綻処理計画 (リビング・ウィ ル) に関する作業が進むにつれて、 大手 金融機関に対する健全性規制への要望が 引き続き高まっています。 これらの取組み は、 システム上重要とされる銀行とノンバ ンク金融会社双方 (SIFI) が今後求められ る、 健全性監督基準の強化にも影響を与 えるものとみられます。 規制上の正確な定義や要件に関しては 依然として不透明感があるものの、 金融 サービスセクター (金融機関) は、 今後決 定が予想される内容や、 早い段階から広く 認識されている面については、 少なくとも 新規則制定を見越した対応策に着手して います。 影響度調査を実施し、 各種の改 革課題がもたらす戦略上の影響や業務面 の影響を把握したうえで、 新しい要件に対 応すべく準備を整えている金融機関が多 いですが、 中には、 ルールメイキングの方 向性が明確になっている箇所に関して既に 大幅な変更を行い始めたところもありま す。 つまり、 多くの金融機関のビジネスモデ ルやインフラに広範な影響が及ぶことを考 えると、 早め早めに対応を図って、 新しい 規制基準への準拠だけでなく、 新しい戦略 上のビジネスチャンスを見極めることが何 よりも重要になってきます。 また 2011 年 の上半期は、 ドッド・フランク法の主な構成 要素にわたってルールメイキングが一層活 発になる時期であると見込まれます。 ただ しコメント受付期間が設けられているとして も、 規則が最終確定される際には実施ま での期間は非常に短いものになることを、 各行は覚悟する必要があるでしょう。 さらにドッド・フランク法の施行と同時に、 金融機関はバーゼル委員会による銀行監 督基準の改正である新しい自己資本基準 と新しい流動性基準の戦略的な影響にも 注意する必要があります。 これは 2010 年 12 月 16 日に公表され、 ドッド・フランク法への対処とほぼ同じ期間 での対応が求められているからです。 このように、 現時点では未定の部分が多 数残っている一方、 ドッド・フランク法成立 後半年間で行われた規制面からの作業 が、 今後の道筋に光明を灯したものになっ ていることは確かです。 ですがこれから先 の続く半年間は、 金融機関各行にとって正 念場にさしかかっていることもまた間違い ないでしょう。 米国の金融規制改革 | ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 1 改革に向けた第一歩 明らかになりつつある、 広範囲にわたる影響 目のストレステスト実施にも新たな目が 向けられ、 関心が高まりつつあり、 この 二 つ は 「シ ス テ ム 上 重 要 な 金 融 機 関 (SIFI)」 に課されるドッド・フランク法上 の要件になることが見込まれていま す。 一方でコリンズ修正にかかる規則 案では、 現行の銀行や持株会社向け の自己資本ルールに組み込まれた バーゼル I の水準で、 バーゼル II の 自己資本の枠組みにおける恒久的な 下限値 (フロアー) が設定されていま す。 ドッド・フランク法 関連の規制面からの作 業は、 成立後半年の間にその大半が準備 を終えました。 但し、 それにもかかわらず、 金融サービス業界の多くの局面に対し、 こ の作業は深刻な影響を及ぼすものとなりま した。 つまり、 以下のような多数の重点箇 所を直撃したものだったからです。 • 市場の安定とシステミック・リスクへの 対応 連邦金融監督機関の代表者で構成さ れ、 財務長官が委員長を務めるシステ ミック・リスクの監督機関である金融安 定 監 視 協 議 会 (FSOC) は、 2010 年 10 月 1 日に第一回目の会合を開き、 ノンバンクに関するシステミック・リスク の評価方法に関し、 報告や監督の強 化が見込まれる箇所を盛り込んだ、 叩 き台となる案を公表しました。 ま た 協 議 会 で は 当 初 の 活 動 を 通 じ て、 市場全体から詳細でリアルタイム でかつ個別取引レベルのデータの収集 を行い、 発生しつつある市場での問題 点を (早期に) 特定するという、 非常に 意欲的な検討課題を提案しています。 • 健全性規制・監督の強化 大手金融機関に対する健全性監督体 制は、 米国での新しい規制の策定を待 たずして、 着々と進んでいます。 破綻 処理計画の策定と監督機関による二度 2 • • ボルカー・ルールの導入 適用開始までの猶予期間が検討され ているものの、 一部の銀行では、 ボル カー・ルールの導入を見越して、 すでに 自己勘定取引やヘッジファンドやプライ ベートエクイティに対する投資の解約や 移管が始まっています。 2011 年 1 月 19 日に FSOC が公表した調査では、 許可されていない自己勘定取引などを 防止するために、 銀行に対するモニタ リングの厳格化やコンプライアンス体制 の整備などが提案されています。 透明性の向上と開示の拡充 ドッド・フランク法では、 格付機関に対 して透明性の強化が求められ、 負債エ クスポージャーに加えて SEC (証券取 引委員会) の監視義務が課されること になりました。 さらにドッド・フランク法で は 2012 年 7 月までに連邦法や規則 類から格付機関の格付に対する言及 (依拠) をすべて撤廃することを明記し ています。 また規制当局では 2010 年 に、 格付への言及に差し替わる代替手 段を検討するルールメイキングを公表 しましたが、 明白な代替案が目下見あ たらないという点で、 対応の難しさが浮 き彫りになりました。 外部格付の利用 に関する制限は市場の懸念を引き起こ し、 ほぼ即座に一時的な応急対策とし ての (規制) 措置が必要となりました。 SEC と 商 品 先 物 取 引 委 員 会 (CFTC) は、 店頭デリバティブ取引の 清算や開示という観点から、 ドッド・フラ ンク法に基づく広範なルールメイキング を行ってきました。 バイサイドとして、 SEC への登録が求められるようになっ たヘッジファンドやプライベート・エクイ ティ・ファンドの運用助言者は、 今後必 要となるコンプライアンス体制や報告イ ンフラの整備に取りかかっています。 • 消費者保護および投資家保護策の整 備 規制当局者は消費者保護と投資家保 護の双方に追われていました。 当面の 対応はドッド・フランク法成立前に決め られていたものが主ですが、 同法とも 概ね整合性のある手法での取り組みが 進められています。 デビットカードの加盟店手数料に関し て 2010 年 12 月 に FED が 提 案 し た 規則では、 消費者保護関連法の動向 次第でビジネス面にも影響が及ぶ (こ の場合は消費者向け金融関連収入) こ とが明らかになっています。 また金融セクターから公開企業までを 対象として、 SEC は役員報酬に関する 株主投票と開示の拡充に関する規則を 公表しました。 ドッド・フランク法成立後半年間の歩み:各方面による対応 規制面の対応 • 何百もの規則が未定で今後策定予定 です。 半年が経過した時点で、 規則制 定対象として挙げられている課題のう ち、 約 1/4 については予備段階の検 討に着手しており、 なかでも店頭デリバ ティブ取引、 投資家保護や消費者保護 対策、 システミック・リスクへの対応など に当面の取組みが絞り込まれていま す。 • 今後のルールメイキングの基礎となる ような多数の調査結果が公表されてい ますが、 もっと多くの調査が依然として 現在も進行中です。 監督面からの措置 • FSOC は、 「システム重要な金融機関」 の判断基準に関する規則案を公表しま した。 • 今までの OFR の提案は、 データ収集 と市場参加者の特定の基準にしぼりこ んだものとなっています。 • 連邦準備制度理事会(FRB)は、ドッド・ フランク法によって新しく発足する消費 者金融保護局 (CFPB) にも資金を拠出 しました。 • 2010 年 12 月に、 ニューヨーク連銀が 議 長 を 務 め る シ ニ ア・ス ー パ ー バ イ ザー・グループ (SSG) が公表した報告 書には米国の監督機関による提言も盛 り込まれており、 リスク選好度に関する 枠組みや IT インフラに関連して、 金融 業界を挙げて取り組むべき脆弱性を明 らかにしています。 • 大手米銀には、 自行の存亡を左右する ような自己資本や流動性の深刻な枯渇 に対応する方法に関しどういう策を整 備しているか、 監督機関に情報提供す るための、破綻処理計画(リビング・ウィ ル) の整備が求められています。 • 主要米銀 19 行に対する二度のストレ ステストを通じて、 ドッド・フランク法や SCAP (監督当局による資本評価プロ グラム) では、 ストレスベースの自己資 本の充実を図るよう取り組みが強化さ れています。 ストレステストでは、 バー ゼル III の自己資本基準と整合性がと れるように自己資本の充実を考慮する ことが求められており、 現在よりも厳し い基準へと移行することを考えた場合、 自己資本への影響を早急に評価するこ とが金融機関には求められています。 業界の対応 • 銀行の自己勘定取引の一部は、 ボル カー・ルール導入による移行期間を見 越してすでに解約や移管が進みつつあ ります。 • 資本市場での取引規模が大きい金融 機関は、 店頭デリバティブ取引に対す る新基準に対応できるよう、 自行のビ ジネスモデルの見直しに入っています。 • 業界では、 提案中の規則に関して積極 的に発言したり陳情を行っていますが、 規則制定のペースの早さに懸念を表明 する (市場) 参加者もいます。 特に、 デ リバティブ取引に関する一連の規則制 定の順序やその分量の多さのせいで、 パブリックコメントをつけるプロセスが面 倒なものになっているきらいがありま す。 世界的な取り組み • 2010 年 12 月 16 日に公表されたバー ゼル III の最終規則には、 各国の監督 当局の裁量で景気変動抑制的なバッ ファーを課せるという合意が織り込まれ ました。 • G-20 の取り組みは、 システミック・リス ク軽減策の提案等、 システミック・リスク へ の 規 制、 too big to fail (TBTF=大 き過ぎて潰せない金融機関への対応) や破綻処理体制の整備等に 重点が置 かれています。 米国の金融規制改革 | ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 3 4 現時点の状況 金融業界によるこれまでの対応 ドッド・フランク法に対する金融機関各行 のこれまでの対応の進捗度はまちまちで す。 但し、 一連の業界の対応や優先課題に 関するコンセンサスなどから、 サウンドプ ラクティスや重要な論点は以下の通り明ら かになりつつあります。 • 影響度の評価と予測 銀行業界の中でも、 資本市場での取 引が大勢を占めるグローバルな金融機 関は、 比較的早期に制定される規則の 影響を受けている場合が多く、 ドッド・フ ランク法が及ぼす影響への対応や分析 という点からみて取り組みが最も進んで いると考えられます。 大規模なノンバン ク金融会社は、 指定された場合に精査 の内容が追加され、 当局の監視の目 が厳しくなり、 自己資本基準その他の 健全性監督基準も厳しくなるような SIFI の指定を受ける可能性を探っているほ か、 業務上の要件の多数の変更にも注 意を注ぐようになっています。 大手金融 機関の多くは、 同法に関しあらゆる側 面にわたって体系的な影響度評価を実 施したうえで、 工程表 (ロードマップ) を 整備するとともにガバナンス体制を構 築することにより、 具体的な規制要件 の確定に至る過程から実際にその遵守 が求められることとなる効力発生時期 までの長期間にわたり、 優先順位をつ けての規制対応作業のみならず規制要 件案の変更等の管理にも万全を期そう としています。 またグローバルな金融機 関は、 米国以外の地域での規制の変 化への取組みとのつながりの中で、 そ の影響を見極め、 米国での取組みをそ れに連携させつつあります。 • 対応にあたる人材の確保 ドッド・フランク法がもたらす広範囲で 複数年にわたる変更を管理するため に、 盤石なガバナンス体制やプログラ ム・マネジメント・オフィス体制 (PMO) を 導入し、 新たな規制要件への対応状況 を監視し管理する金融機関の数が増え ています。 ドッド・フランク法が組織に及 ぼす戦略的な影響を考えて、 実施の取 り組みを仕切るリーダーには現場を熟 知している人材や経営戦略部門の人材 を充てている場合が多くみられます。 ま たコンプライアンス関連費用の増加だ けでなく、 ビジネス上の影響やビジネス 機会等の把握が影響度評価の重点とさ れています。 さらに、 プロジェクトへの実施状況の 監視や、 新しいルールメイキングに関 する進捗のモニタリングや管理を行うプ ロセスの整備が、 全社レベルのプログ ラム管理の主眼点となっているようで す。 • 優先度が高い取り組みへの着手 金融機関各行は、 実施までの期間が 短いものやリードタイムが長いものだけ でなく、 規制当局の方向性が明らかに なっている箇所に当面の優先順位を置 いて対応に着手しています。 またドッド・ フランク法の成立以前から進行中のプ ロジェクトに対する影響の再評価に加 え、 店頭デリバティ ブ取引、 ボ ルカ ー ルールへの対応等を優先課題として、 当面の取組みを絞り込んでいます。 また多数の金融機関では、 データや 報告、 インフラやガバナンスという観点 からも、 ドッド・フランク法が及ぼす広範 な影響に関する評価を進めているほ か、 それに伴って必要となる計画の立 案を行っています。 チェックリスト:目下の対応策 多面的な影響度調査の策定と 実行 柔軟な枠組みの整備による、 ルールメーキングの進展と 業界動向の最新状況の評価 優先順位付けした工程表 (ロードマップ) の作成 プログラムマネジメントオフィス (PMO) とガバナンス体制の整備 米国当局によるルールメイキン グおよび国際的基準設定の取り 組み状況双方の中止・管理プロ セス 成熟度診断と具体的な部分に 関する模擬テストの整備 データや IT 対応能力に対する 全社的な影響評価と投資計画の 見直し 優先度の高いプロジェクトに 関する計画立案と実行 米国の金融規制改革 | ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 5 先陣を切って 見えてきた最終ゴール この先の半年間は、 ドッド・フランク法の規 定の大半を最終規則化するとした着地点で ある成立後一年目に向けて、 規制当局の ルールメイキング作業が激増するものと見 込まれます。 中でも CFPB の発足、 証券化 商品を監視する規則類の策定、 店頭デリバ ティブ取引の集中清算と開示、 ヘッジファン ドやプライベート・エクイティファンドの運用 助言者登録、 ノンバンク金融会社に対する SIFI の基準の明確化、 破綻処理計画 (リビ ング・ウィル) の整備、 大規模銀行持株会 社に対する健全性基準の整備などがその 主眼点であると考えられます。 現時点で は、 新しい要件や監督当局の要望を満た せるような有効なプログラムを整備できるか どうかが金融機関の命運を左右するといえ るでしょう。 今後何カ月かにわたって金融 サービスセクターに降りかかる改革関連の 課題の大半は、 次の 6 つの分野に集約さ れるものと考えられます。 有効なプログラム管理体制を整備する 中でも、 初期段階で必要とされる作業と して考えられるものは以下の通りです。 1. プログラム管理体制 金融機関各行は、 複雑な業務全体に わたってドッド・フランク法が及ぼす多面 的な影響を評価することに加え、 アク ションプランを優先順位付けし、 今後の 規則制定の動向による影響、 市場から の反応やそれに関連した米国外での取 組みといった数多くの 「不確実性要素」 を管理する一方、 複数の実施プロジェク トを追跡管理できるような、 ダイナミック なプロセスとガバナンス体制を構築し維 持する必要があります。 • • ルールメイキングの把握プロセス、 自社のプログラムを監視する正式 なガバナンス体制の構築 • 現行の計画や実行中のプロジェクト への影響に加え、 ビジネス面、 財 務面、 オペレーション面及びテクノ ロジー面の影響を考慮に入れた、 実施可能な影響度評価の実施 • 戦略的側面と戦術的な側面双方を 兼ね備えた工程表と意思決定プロ セスの整備と、 投資需要、 リソース 配分やプログラムの相関関係を見 極めたうえでの、 今後の不安定要 素がもたらすリスクの管理 優先度が高い取り組みの洗い出し とその着手 2.店頭デリバティブ取引の清算に関する 取組み デリバティブ市場に波及する変化の程 度に加え、 さまざまなデリバティブ商品 の経済に与える影響がいまだに見えな いことが、 問題をややこしくしています。 また新しい規制上の変更の多くが 2011 年 7 月までに施行される予定で あるという事実が、 この問題をますます 難しくしています。 ドッド・フランク法によ る影響の分析には、 実施コストや長期 的な事業戦略やビジネス機会の評価も 含める必要がほか、 分析を通じて以下 のような点に関するレビューも不可欠に なるでしょう。 • • • • • • • ビジネスモデル プロダクトミックス クライアントモデル グループ構造と各法人の資本需要 清算や決済方法のオプション 担保管理と支払プロセス 報告要件 3.OFR (金融調査局) とデータに関する規 制報告の影響 新たに発足する調査機関はデータ報 告に関して広範な権限を有しており、 法 制化の早期の段階から、 データ収集や データ分析に対して積極的に幅広いア プローチを展開する意向が示されてい ました。 金融機関は、 法人格の識別等 を含むデータ基準や参照基準を強化 (厳格化) する必要が生じるでしょう。 ま た各行はリスク関連データや財務関連 データのタイムリーな照合等、 細かな取 引レベルの情報を迅速に作成できるよ うな体制を整える必要もあるでしょう。 こ の 結 果 と し て 多 数 の 金 融 機 関 で は、 データ・プライバシーという問題がもたら す負担も考慮しなくてはならない可能性 があります。 これらの要請に応えるにあ たっての課題としては、 • 当面は重点対応箇所に絞り込んだうえ で、 明確なデータガバナンス体制や品 質管理体制を整備すること 6 • 自社全体を通じて、 カウンターパー ティやアカウントを特定 (名寄せ) す るモデルを見直しすること • 必要に応じて、 すべての金融取引 関連データとそれに関する裏付デー タのデータ源を洗い出しすること (ス トラクチャー物、 住宅抵当貸付等に ついて) • 管理体制を支えるプロセスや報告体 制の構築を含めた、 監督基準の厳 格化に応えられるようなガバナンス やリスク管理体制の評価 • 報告に関するインフラ、 リスク管理シ ステム、 リスク管理体制、 IT インフ ラや IT の運用プロセスを強化し、 規 制当局が求めるリスク軽減に応えら れるようにすること • 社内のタクソノミ―を OFR のものと 擦り合わせすること が考えられます。 4.SIFIs に対する健全性監督強化への対 応と準備 システミック・リスクに対する新しい監 視体制では、 SIFIs に指定された銀行、 ノンバンク金融会社、 金融市場ユーティ リティなどに対する期待の高まりの影響 を金融機関が十分に把握することが求 められています。 監督基準は所要自己 資本や流動性要件に取り組むほか、 他 の 金 融 機 関 向 け の ク レ ジ ッ ト・エ ク ス ポージャーに関する報告内容の拡充、 破綻処理計画の整備、 ストレステスト内 容の強化、 リスク管理体制やガバナン ス体制の改善強化等が含まれていま す。 その中でも優先して対応すべき課題と して挙げられているものは以下の通りで す。 • システム上重要な金融機関 (SIFI) に指名された金融機関に対する監 督上の期待と、 FRB への監督体制 の一本化初年度に向けた、 準備態 勢評価の実施 • 高度監督下への移行に対応するた めの、 包括的な計画の立案と策定 5.IT とデータ管理体制の整備 データ収集や報告に関する需要の高 まりも、 ドッド・フランク法の成立を通じて 金融業界全般に広がっています。 これ までは規制当局へ報告されていなかっ たような、 財務、 リスク、 経営廻りの情 報や、 コンプライアンス環境に関する情 報などについても、 その収集や照合や 標準化が必要になりつつあるからです。 金融機関の IT インフラ整備策として、 リ スク関係の統制を通じてデータを連携さ せ、 リスク廻りや財務関係のデータを集 約・照合させるほか、 業績や報酬を監 視し、 自己資本や流動性要件の管理や 報告も行えるようにする必要が生じるで しょう。 情報管理や報告に関して、 (グ ループ内の) 法人格ごとに個別に管理・ チェックするという視点も重要になってき ます。 統合型の情報戦略や IT アーキ テクチャ整備計画には相当のリードタイ ムが必要になることを考慮すると、 金融 機関各行は複数年にわたるプロジェクト の対応範囲を定めたうえで実施に着手 し、 自社の IT アーキテクチャやデータ 管理能力の向上を図る必要があるで しょう。 今後の進捗についての成り行きを見 守っていく必要があります。 CFPB の運 用開始は 2011 年後半以降のことにり ますが、 消費者保護対策は引き続き監 督当局の重点対応箇所となっていま す。 FED は最近デビットカードの加盟店 手数料の上限に関する規則を公表しま した。 また不動産鑑定や預金に対する 利払い等に関する規則の変更も、 ビジ ネスの動向に重大な影響を及ぼすもの と見込まれます。 このためにとるべき優 先的な段取りは以下の通りです。 • 自行が手がけるプロダクツやその特 徴やサービス内容を評価し、 新しい 要件に合致するようにプロダクツが 適宜設計もしくは廃止されていること を確認したうえで、 将来の売上に及 ぼす影響を見極めること • 消費者関連の開示やデータ収集要 件上厳格化すべき点や、 IT インフラ の改善 (強化) すべき点等を見極め ること • データ収集や報告、 リスク分析にお ける利用等に関する期待の高まりに 応えること 6.消費者保護策の強化や整備への対応 金融機関は、 新しく発足する CFPB や それ以外の省庁が取り組む重点課題や 米国の金融規制改革 | ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 7 この先半年間を見据えて ドッド・フランク法成立半年間の歩みを通じ て、 新しい規制の枠組み整備には、 全社的 な変革が必要であることが明らかになってい ます。 したがって金融サービス業に携わる機 関は、 今後その変革を適切に管理できるよ う、 自社の準備対応状況の評価に取りかか る必要があるでしょう。 つまり、 適切なガバナ ンス (監視) 体制やプロセスの整備に加え、 この先半年間を見据えてドッド・フランク法の 優先課題に対処できるような、 実施プロジェ クト (計画) への着手が今すぐ求められてい るといえるのです。 調査 : • FSOC—ボルカー・ルール、 集中制限規制、 (証券 化商品に関する) 一定リスク保有 • SEC—受託者責任、 運用助言者に対する検査 廃止される • OTS の機能の省庁間の移管 ルールメイキング : FSOC—規定制定案はノンバンク金融会社と FMU • (金融市場ユーティリティ) に関する SIFI の基準 を決定 • 運用助言者登録に関する SEC の規定制定案 • 共同規則制定案 – 破綻処理計画 (リビング・ウィ ル) ルールメイキング : • インセンティブ報酬の委任状勧誘書類における 開示に関する、 SEC による規則制定案 • SEC の内部通報に関する最終規則 • デビットカードのインターチェンジフィー (売上交 換手数料) に関する FRB の最終規則 • 大規模 BHC (銀行持株会社) にの健全性基準 厳格化に関する FRB の規則制定案 • FSOC—ノンバンクと FMU の SIFI に関する基 準 (目標) 1 年後のマイルストン 発効日と最終決定規則 : • 店頭デリバティブ取引 • 資産担保証券 (ABS) に関する利益相反対応と 一定量のリスク保有規則 • SIFI に関する FSOC の当初の決定 • 消費者金融保護局の発足 (2011 年 7 月 21 日) • OTS の廃止 • 満期のない預金勘定への付利が認められる • 法人格特定子に関する目標期限 (2011 年 7 月 15 日) 2011年1月‐3月 規則の提案 : • 自己勘定取引に関する規則 (ボルカ―・ルール) 2011年4月‐6月 2011年7月 CFTC(米国商品先物取引委員会) とSECによる、店頭デリバティブ取引とスワップ取引決済に関する規則類の公表 規制面の 対応 • 店頭デリバティブ取引については引き続き規則制定の主眼であり、 新しい所要自己資本、 取引所の報告及び、 追加的なコンプライアンス 基準等はすべて、 ドッド・フランク法成立後一年以内に発効するものとされている • 各種の調査の結果によって、 実施と規則制定のペース加速へつながることも想定される • SIFI とされた場合、 銀行もノンバンクも健全性基準 (リスク管理実務、 レバレッジ、 流動性およびエクスポージャー・リミット等) が強化される 監督面か らの措置 だけでなく、 規制と監視の強化に直面することになる • SCAP (監督当局による資本評価監視プログラム) によるストレステストと OFR の取組みを通じて、 現行のデータ管理や報告面での課題が 浮き彫りにされる • 一定量のリスク保有義務化と利益相反に関する要件の導入により、 資産担保証券 (ABS)の仕組みは変わらざるを得ないと見込まれる • 金融機関は、 ドッド・フランク法が課す多様な要件に合わせられる、 有効なプログラム管理プロセスを整備する必要に迫られる • 金融機関は、ボルカー・ルールの導入によって自己勘定取引やヘッジファンドやプライベートエクイティへの投資が禁止されることを踏まえ、 業界の 対応 自行の組織や事業活動に求められる変更を明らかにする必要がある • 店頭デリバティブ取引市場に対して広範な変更が行われる結果、 業務内容やプロダクツや戦略や収益性の見直しを迫られる � • OFR のデータ収集・分析への取り組みに応え、 細かなデータ抽出要件を満たせるよう、 システムやプロセス上のニーズに対処する必要 • 新しい証券化商品への規制や CFPB の規則の導入の結果、 リテールビジネス、 ホールセールビジネスともに商品戦略やコンプライアンス プロセスの見直しや構築が必要になる 世界的な 取り組み • G20 ではトレーディング勘定の取扱と消費者保護対策への取り組みに一層重点的な焦点を当てている • FSB には、 G-SIFI の特定に関する枠組みと破綻処理計画の整備が求められている (2011 年 6 月) • 会計コンバージェンスが進むことで、 一連の改善された品質の高い基準体系の整備へとつながるものと見込まれる (2011 年 12 月) • 昨年秋の中間選挙の結果、 民主党が下院で多数派となり、 共和党が上院で多数を占める 「膠着状態 (ねじれ)」 になったことは、 ドッド・フ 政治と 規制 8 ランク法には影響を与えない見通しであるものの、 議会の監視の目が厳しくなったり財政支援が受けられなくなくなったりすることで、 規則 制定プロセスが滞る見込みもないはいえない • CFPB と OFR の発足および人材確保、 旧 OTS が持つ権限の OCC への移管には、 省庁間の協調が不可欠 アーンスト・アンド・ヤングによる規制関係業務への支援 ドッド・フランク法成立後半年間を通じて、 新 しい規制の遵守には、 金融機関各行による 全社的な変革が不可欠であることが明らか になりました。 この規制改革に対しては、 組 織全体に散らばるステークホルダーが一丸 となって対処する必要があるほか、 状況に 応じて今後発展や変化が見込まれる規制内 容に柔軟に適応できるような、 調整能力のあ るプロジェクトを複数年にわたって実施でき る体制を整える必要があるでしょう。 規制上の要件整備については、 その多くが まだ初期の段階を脱していないものの、 今後 を見越して対応を早めに行うに越したことは ありません。 なお私どもの規制対応アドバイザリー業務の 詳細や金融機関向けの対応方法につきまし ては、 www.ey.com/us/financialservices をご覧頂くか、 右記の担当者までお尋ねくだ さいますようお願い申し上げます。 Donald T. Vangel 会長室顧問 規制関係業務担当 アーンスト ・ アンド ・ ヤング (NY) +1 212 773 2129 [email protected] 谷村 英俊 新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 シニアプリンシパル +81 3 3503 1954 [email protected] 牧野 明弘 新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 シニアパートナー +81 3 3503 1954 [email protected] 深澤 厳木 新日本有限責任監査法人 金融アドバイザリー部 シニアマネージャー +81 3 3503 1954 [email protected] 米国の金融規制改革 | ドッド・フランク法成立後半年間の歩み 9 Ernst & Young ShinNihon LLC アーンスト・アンド・ヤングについて アーンスト・アンド・ヤングは、アシュアランス、税務、トランザク ションおよびアドバイザリーサービスなどの分野における世界的 なリーダーです。全世界の14万1千人の構成員は、共通のバ リュー(価値観)に基づいて、品質において徹底した責任を果し ます。私どもは、クライアント、構成員、そして社会の可能性の 実現に向けて、プラスの変化をもたらすよう支援します。 「アーンスト・アンド・ヤング」とは、アーンスト・アンド・ヤング・グ ローバル・リミテッドのメンバーファームで構成されるグローバ ル・ネットワークを指し、各メンバーファームは法的に独立した組 織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英 国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していま せん。詳しくは、www.ey.comにて紹介しています。 アーンスト・アンド・ヤング ジャパンについて アーンスト・アンド・ヤングジャパンは、新日本有限責任監査法 人、新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人、アーンストアン ドヤングトランザクションサービス株式会社およびアーンスト・ア ンド・ヤング・アドバイサリー株式会社など、日本におけるアーン スト・アンド・ヤングの9つのメンバーファームで構成されていま す。各法人は法的に独立した組織です。 アーンスト・アンド・ヤング FSO(日本エリア)について アーンスト・アンド・ヤング フィナンシャル・サービス・オフィス (FSO)は、競争激化と規制強化の流れの中で様々な要望に応 えることが求められている銀行業、証券業、保険業、アセットマ ネジメントなどの金融サービス業に特化するため、それぞれの 業務に精通した約3万5千人の職業的専門家をグローバルに有 しています。また、各業界の規制動向を予測し、潜在的な課題 に対する見解を提示するため、業種別にグローバル・ナレッジ・ センターを設け、規制動向の収集や業界分析を行っています。 アーンスト・アンド・ヤング FSO(日本エリア)は、グローバル・ ネットワークと連携して、約950人の金融サービス業に精通した 職業的専門家が一貫して高品質なサービスを提供しています。 © 2010 Ernst & Young ShinNihon LLC All Rights Reserved. 本書又は本書に含まれる資料は、一定の編集を経た要約形式の情報を 掲載するものです。したがって、本書又は本書に含まれる資料のご利用は 一般的な参考目的の利用に限られるものとし、特定の目的を前提とした利 用、詳細な調査への代用、専門的な判断の材料としてのご利用等はしな いでください。本書又は本書に含まれる資料について、新日本有限責任監 査法人を含むアーンスト・アンド・ヤングの他のいかなるグローバル・ネット ワークのメンバーも、その内容の正確性、完全性、目的適合性その他いか なる点についてもこれを保証するものではなく、本書又は本書に含まれる 資料に基づいた行動又は行動をしないことにより発生したいかなる損害に ついても一切の責任を負いません。 〒100-0011 東京都千代田区内幸町2丁目2番3号 日比谷国際ビル 新日本有限責任監査法人