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自己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級をつくるための研究

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自己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級をつくるための研究
−教相(2)−
自己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級をつくるための研究
−特別活動における開発的・予防的教育相談活動を取り入れた指導を通して−
一般留学生
藤波
貴
研究の概要
本研究は,小学校4年生の子どもを対象として,少人数の学級における固定化した人間関係から起
こるであろう不登校をはじめとした問題行動に対応するため,開発的・予防的教育相談活動を取り入
れた指導を通して,どの子どもにも居心地のよい学級をつくることをねらいとしたものである。特別
活動において,構成的グループエンカウンターを行うことにより,自己肯定感が高まり居心地のよい
学級をつくることができると考え,本研究に取り組んだ。
キーワード
自己肯定感
Ⅰ
居心地
構成的グループエンカウンター
少人数の学級
概念くずし
ルールの定着
主題設定の理由
1
子どもたちの現状
最近の子どもたちについて,ベネッセコーポレーションの各種調査を見ると,友だちから「嫌われ
ないように」「仲間はずれにされないように」と,常に気をつかいながら過ごしていることがうかが
える。めまぐるしい社会の変化,ゲームやインターネットの普及,習い事や学習塾通いの子どもの増
加や遊べる場所の減少などにより,子どもたちが群れて遊ぶことが少なくなったこと。さらには,子
どもたちの好奇心を刺激するものが多様になり,価値観も多様化してきたことなどによると考えられ
る。このような状況の中で,子どもたちは,友だちとのかかわり方に自信がもてず,差し障りなく相
手にあわせ,嫌われないようにと常に緊張して過ごしている。
子どもたちは,友だちとのかかわり方に関心が高く,友だちに嫌われないように自分の気持ちを抑
えて相手にあわせ,疲れてしまう。また,悩みを相談する友だちがいない子どもが,多くなってきて
いる。
平成17年度学校基本調査によると,平成16年度における不登校の児童生徒数は,いまだに12万人を
超えている。不登校を引き起こした原因として,「友達関係をめぐる問題」によるケースも多い。
子どもたちが安心して学校生活を送るために,学級経営において友だちとのかかわり方の指導が,
今後さらに重要になってくる。
2
学校における教育相談の現状
近年,学習障害(LD),注意欠陥/多動性障害(ADHD)などの子どもの存在や,保護者による子ど
もへの虐待について,社会の関心が高くなってきている。それに伴って,学校教育においてそれらの
子どもたちへの適切な指導や支援が求められている。学級担任による指導や支援はもとより,学校内
での教育相談やサポートなどの体制も必要となってくる。
ほとんどの小学校において,教育相談は学級担任や養護教諭あるいは生徒指導担当が行っているの
が現状である。このような状況の中では,子どもたちと一番かかわりをもっている学級担任が,重要
− 1 −
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な役割を担っている。
松原達哉氏(立正大学)は,著書「学校カウンセリング援助と指導の基礎・基本」(学事出版)で
学校カウンセリングについて「学校の教師が担任や教科教育指導者として,学級活動や教科指導など
で行うカウンセリング」「児童・生徒の学校・家庭・社会生活などにおける適応上の問題について,
相談助言をすることである」と述べている。また,「スクールカウンセラーや専門的研修を積んだ教
師による,特定の児童・生徒への専門的指導・援助」「すべての教師によるすべての児童・生徒を対
象とするカウンセリングの『心』を生かした教育指導」の2つの側面があるとしている。
特に後者については,これまでも学級指導や生徒指導,進路指導等の教育活動のあらゆる場面で行
われてきたことであり,しかも開発的・予防的教育相談(「Ⅲ研究の基本的な考え方」参照)とし
て,今後さらに重要になってくるものと言える。
3
学級の実態から
本研究で対象とする学級は,第4学年13名(男子8名,女子5名)である(以下本学級という)。
研究協力校(以下本校という)は,各学年10名前後の単学級の小規模校である。若干の転出入がある
が,どの学年も入学してからほぼ同じメンバーのまま学年が進んでいく。学級の中には,就学前の保
育所も一緒という子どもも多い。
本校の子どもたちは,それぞれの学年や集団の中で,友だちととても密接にかかわっている。小さ
い頃からお互いによく知っている仲なので,子どもたち同士の助け合いもすぐにできている。また,
異学年との活動も多く,その集団の中で人間関係を学ぶこともできる。教師の指導や支援も一人一人
に対して,よりきめ細かく行えたり,どの学年の子どもにも全職員でかかわる体制ができている。
低学年のうちは,どの子どもものびのびと素直に感情を表し過ごしている。しかし,中学年以降に
なるとしだいに人間関係が固定化し,その集団の中でのかかわり方や役割がはっきりしてくる。その
ことにより,学級や集団の中でも自己主張できる子どもと周りに合わせる子どもに分かれていく。そ
のような状況のなかで,自己主張できる子どもたちの言動に振り回される傾向が強くなり,しだいに
人間関係でのストレスがたまってしまう。また,小規模校ゆえに人間関係が一度崩れてしまうと,学
級の中での逃げ場がなくなってしまうケースも見うけられた。
本学級のQ−Uによる学級満足度尺度の結果では,学級生活満足群にプロットされている子どもは
6名で,学級全体の約46%になっている。この中には,学級のリーダー的な子どもや自己中心的な言
動が目立つ子どもが含まれている。承認得点では,17点以上が学級全体の約76%となっていて,友だ
ち同士,あるいは教師から認められていると感じている子どもが多い。
しかし,被侵害得点においては,13点以上が学級全体の約46%を占めている。調査項目のうち「い
やなことを言われたり,からかわれたりして,つらい思いをする」「グループをつくるときなどに,
すぐにグループに入れないで,最後のほうまで残ってしまう」と感じている子どもが多かった。これ
は,半数近くの子どもたちが,学級や集団の中での友だちとのかかわりにおいて,何らかのストレス
を感じていることを示している。
河村茂雄氏(都留文科大学)は,著書「Q−Uによる学級経営スーパーバイズ・ガイド小学校編」
(図書文化)の中で,横伸びしたプロットを示す学級について,「学級のルールが定着していない学
級内では,自己主張がはっきりできる(そういうグループの一員である)子どもたちは学級生活満足
群におり,そうではない子どもたちは侵害行為認知群にいる」と述べている。本学級の学級満足度尺
− 2 −
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度の分布は,横伸びしたタイプであり,河村氏が述べている「ルールの確立」が必要な状況がうかが
える。
子どもたちが,落ち着いて学校生活を送り,学習へ向かっていくには,学習の場である学級が安心
できる居心地のよいところでなくてはならない。
居心地よく過ごせるようにするためには,ありのままの自分が出せることと,それを受け入れる集
団でなくてはならない。ありのままの自分を出すには,自分のよいところやよくないところを知り,
受け入れる必要がある。ありのままの自分を受け入れることで,自分を好きになり,自信へとつなが
って自己肯定感をもつことができる。
この感情をもつために,自分のことを知り(自己理解),受け入れ(自己受容),友だちを認めた
り認められたり(他者理解)する活動を開発的・予防的教育相談活動を通して行っていこうと考え
る。
そして,自己肯定感を高めることにより情緒の安定が図られ,居心地のよい学級になり,いじめや
不登校,問題行動などを防ぐことができるものと考える。
Ⅱ
研究の目標
少人数の学級で,自己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級にするために,学級活動の
時間,朝の会・帰りの会などの特別活動において,自己理解,自己受容,他者理解を中心とした開発
的・予防的教育相談活動の指導を工夫し,学級経営に役立てる。
Ⅲ
1
研究の基本的な考え方
居心地のよい学級とは
文部科学省は,不登校問題に関する調査研究協力者会議の答申(平成15年4月)「今後の不登校へ
の対応の在り方について(報告)」の中で, 学校の取組の「魅力あるよりよい学校づくりのための
一般的な取組」において,「具体的には児童生徒にとって,自己が大事にされている,認められてい
る等の存在感が実感でき,かつ精神的な充実感の得られる『心の居場所』として,さらに,教師や友
人との心の結び付きや信頼感の中で主体的な学びを進め,共同の活動を通して社会性を身に付ける
『絆づくりの場』として,十分に機能する魅力ある学校づくりを目指すことが求められる。すべての
児童生徒にとって,学校を安心感・充実感の得られるいきいきとした活動の場とし,不登校の傾向が
見え始めた児童生徒に対しても,不登校状態になることを抑止できる学校であることを目指すことが
重要である。」としている。
この中で「心の居場所」は,「自己が大事にされている,認められている等の存在感が実感でき,
かつ精神的な充実感の得られる」こと。さらには,「すべての児童生徒にとって,学校を安心感・充
実感の得られるいきいきとした活動の場」としている。これは,安心でき,精神的に安定することが
できる場所であり,「居心地のよい場所(学級)」と考える。
居心地のよい学級とは,場所や部屋などの物理的な空間の中での快適さだけでなく,所属している
学級や集団の中で自己が大切にされ認められており,安心できる,リラックスできるなど精神的に安
定することができる学級と考える。
自己中心的な子どもたちに振り回され,いじめやトラブルに巻き込まれないように防衛している子
どもたちは,常に緊張し続けることになりストレスがたまり,安心して学校生活を送ることができ
− 3 −
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ず,居心地が悪くなってしまう。
子どもたちは,1日の生活の中で長時間過ごすことになる学級が,リラックスできる居心地のよい
学級であることを望んでいる。どの子どもも自信をもち,他者から認められ,ありのままの自分で過
ごすことができる居心地のよい学級づくりが必要である。
2
自己肯定感について
自己肯定感とは,「自己自身の存在に対する認識として,自己の身体的な特徴や能力や性格などに
ついて肯定的に考えたり,感じたりする感情をさす。」(「教育用語辞典」編集委員代表
則・片上宗二
山﨑秀
ミネルヴァ書房)と定義される。
マズロー(Maslow,A.H.)の欲求段階において,自己実現の欲求のためには,その下位の欲求である
自尊の欲求,所属の欲求が満たされることとしている。自尊の欲求は,周りから認めてもらいたいと
する欲求である。また,所属の欲求は,集団帰属の欲求で,あたたかく迎えてくれる集団や個人を求
める欲求である。自己肯定感は,この2つの欲求によりもつことができるものであり,自己実現へ向
かうための大切な感情である。
子どもたちが,安心して存在が認められる人間関係づくりをめざし,どの子どもにも居心地のよい
学級であることにより,一人一人が生き生きと過ごすことができる。そのためには,自分に自信をも
ち,自分を肯定する気持ちが必要になってくる。
図1に示すように,自己肯定感が高
(図1)自己肯定感が高まる過程
まった状態は,自分のよさを知り(自
自己肯定感が高まる
己理解),ありのままの自分を受け入
れ自分のことが好きになること(自己
受容)であり,他者から認められた
他者
認め合う
自分が好き
自信
認め合う
他者
り,受け入れられたりすること(他者
理解)により,自己肯定感が育つと考
える。さらには,よいところだけでな
ありのままの自分
く,よくないところも含め,ありのま
まの自分を受け入れることも必要とな
ってくる。
抑制
他者
かかわり
よいところ
よくないところ
よくないところとして,自己中心的
認め合う
な言動があげられる。子どもたちが成
長する過程で,自分を中心にして物事
を考え,他者を考慮することができな
かかわり
他者
反省
他者
い発達段階であり,他者とのかかわり
の中で,自分の欲求や興味が他者とは
違うことを知り,自分を抑制することができるようになる。自分を抑制することは,人間として自立
していくために必要な発達であり,他者とのかかわりの中で求められるものである。
したがって,自分の中にあるよくないところについて知り,受け入れるなかで,抑制したり変容し
たりしていかなくてはならないと考える。
自己肯定感をもち,高めていくために,他者とのかかわり,特に,友だちや担任など身近で受け入
− 4 −
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れられていると感じるものから認められることが必要である。自分の存在が認められ,受け入れられ
ている実感がもてるとき,ありのままの自分を肯定的にとらえることができる。
3
開発的・予防的教育相談活動について
(1)開発的・予防的教育相談について
学校教育相談について,今井五郎氏(前東京成徳短期大学)は,著書「学校教育相談の実際」(学
事出版)の中で,「生徒が自己実現の欲求を持ち,自らの内に秘めた力によって自己実現をはかるよ
う援助する。」ことと述べている。教育相談には,開発的・予防的教育相談と治療的教育相談があ
り,今井氏は同著書の中で,開発的・予防的教育相談について,「一般生徒に対する援助を開発的教
育相談と呼んでいます。また,開発的教育相談によって生徒が目標を持ち,努力し,成就感が得られ
ると,問題行動を未然に防ぐことができます。これは,予防的教育相談と呼ばれますが,開発的教育
相談と予防的教育相談は,その機能を分けることが難しく,統合されたものと考えます。筆者等は,
このような援助を一括して,開発的・予防的教
育相談と呼ぶことにしています。」と定義して
(図2)3段階の心理教育的援助サービス
いる。
学級担任は,教科,道徳,特別活動,総合的
な学習の時間などの学習の場面や学習以外の学
校生活の場面において,あらゆる機会に,学級
開発的・予防的教育相談
一次的援助サービス
(すべての子ども)
すべての子どもとかかわったり,あるいは個別
にかかわったりして,子どもたちの自己実現に
二次的援助サービス
(一部の子ども)
向け,指導や支援を行っている。開発的・予防
的教育相談は,図2に示すように,学級全体に
対してすべての教育活動の中で行われるもので
三次的援助サービス
(特定の子ども)
あり,この教育相談を日常的に,計画的に実施
することにより,子どもたちは生き生きと学校
生活を送ることができ,問題を未然に防ぐこと
ができる。
(2)構成的グループエンカウンターについて
エンカウンターについて,國分康孝氏(東京成徳大学)は,著書「エンカウンター」(誠信書房)
の中で,「心とこころのふれあいである。ホンネとホンネの交流である。」と述べている。
エンカウンターには,「構成的」「非構成的」なものがある。構成的とは,「枠を与える」という
ことである。その主な枠が,5つある。グループのルール,グループサイズ,グループの構成員,制
限時間,エクササイズをする際の条件,である。枠を設定することにより,心的外傷の予防ができ,
自己表現しやすくなり,現実原則の体験学習ができる。
「構成的グループエンカウンター事典」(総編集國分康孝・國分久子
図書文化)において,「構
成的グループエンカウンターは,ふれあいと自他発見を目標とし,個人の行動変容を目的としてい
る。」としている。
構成的グループエンカウンター(以下エンカウンターという)は,エクササイズとシェアリングが
− 5 −
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柱となっている。
エクササイズは,心理面の発達を促す課題であり,6種類(自己理解,他者理解,自己受容,信頼
体験,感受性の促進,自己主張)に分けられている。
シェアリングは,わかちあいやふりかえりのことである。エクササイズを振り返り,感じたことや
気付いたことを明確にし,ねらいを定着させる。
このエクササイズ,シェアリングを介して,エンカウンターの目的や目標を達成することになる。
エンカウンターでは,枠を設定することとリーダーの介入が行われ,参加者の心的外傷を防ぐ。介
入は,ねらいからはずれたり,心的外傷のおそれがあったりしたときに軌道修正することである。
自己理解,自己受容,他者理解のエクササイズを意図的計画的に実施することは,自己肯定感を育
むのに有効であると考える。
(3)特別活動における構成的グループエンカウンターについて
学習指導要領において,特別活動の目標を次のとおり示している。
望ましい集団活動を通して,心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図るとともに,集団の一
員としての自覚を深め,協力してよりよい生活を築こうとする自主的,実践的な態度を育てる。
小学校指導要領解説の特別活動編において,「特別活動が集団活動を特質としているのも,集団活
動を通して,児童の個性を伸長するとともに,集団の一員としての自覚を深めるなど,豊かな人間
性,社会性を育成することにある。」としている。また,特別活動の内容において「『望ましい集団
活動』を展開することが前提」としている。
宮川八岐氏(文部省初等中等教育局小学校課教科調査官)は,著書「新小学校教育課程講座特別活
動」(ぎょうせい)において,望ましい集団活動の条件を示すなかで,「一人一人の自発的欲求が尊
重され,互いの心理的な結びつきが強いこと。」「成員相互の間に所属感や所属意識,連帯感や連帯
意識があること。」「集団の中で,自由な相互交渉が助長されるようになっていること。」と述べて
いる。
また,宮川氏は同著書で,学級活動の活動内容の「(2)日常生活や学習への適応及び健康や安全
に関すること」の「希望や目標を持って生きる態度の形成」において,「自己の理解を深め個性の伸
長を図るなど自己を見つめる内容」を示している。これは,自己理解にかかわる内容である。また,
「望ましい人間関係の育成」では,「一人一人の児童の健全育成を図るためには,様々な人間関係を
経験させることが必要である。」と述べている。これらは,自己理解や他者とかかわることによる他
者理解と考える。
さらに,前述した学級の実態から,本学級はルールを定着させるための取組が必要であることがう
かがわれた。ルールやマナーを身に付け,健全な人間性や社会性を育てることは,特別活動のねらい
である。ルールを守る体験を通し,「守ると楽しい」と感じることで,しだいにルールが定着してい
く。エンカウンターは,ルールという枠が与えられエクササイズを行っていく。ルールを守ることに
より,ふれあいがうまれ,望ましい人間関係につながる。
したがって,望ましい集団活動や人間関係づくりにおいて,エンカウンターを用いることがより効
果的であると考える。
− 6 −
−教相(2)−
Ⅳ
研究の具体的目標
小学校第4学年の学級活動の時間,朝の会,帰りの会などにおいて,〔1〕の構成的グループエン
カウンターのエクササイズの配列を計画し,〔2〕の学習過程で展開することによって,〔3〕の自
己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級と感じられる人間関係をつくる。
〔3〕 自己肯定感を高め,どの子どもにも居心地のよい学級をつくる
自己肯定感が高まる
居心地のよい学級
・自分を好きになる
・安心してリラックスできる人間関係
・自信
・ありのままの自分でいられる人間関係
・互いによさを認め合える人間関係
〔2〕 学習過程
ショートエクササイズ
導 インストラクション
入 エクササイズのねら
いを把握する
〔1〕 エクササイズ
学級活動の時間
導 ウォーミングアップ
入 自由歩行
インストラクション
展
朝の会,帰りの会のショートエクササイズ
○自己理解,他者理解
自他のよいところを知る
○自己受容
ありのままの自分を受け入れる
展
エクササイズ
開
エクササイズ
学級活動の時間のエクササイズ
○自己理解,他者理解
自分のよいところや
よくないところを知る
○自己受容
ありのままの自分を受け入れる
○他者理解
友だちを認めたり,認められたりする
開
シェアリング
ま 学習のまとめ
と をする
め
Ⅴ
1
シェアリング
ま 学習のまとめ
と をする
め
研究の方法と内容
研究方法
(1)方法
授業研究
(2)対象
小学校
第4学年
(3)実施期間と時数
学級児童数13名(男子8名
女子5名)
平成17年8月∼11月
授業実践(8時間)事前事後調査のための時間(2時間)
計10時間
(4)検証資料
ア
事前に収集する資料
学校生活意欲尺度(Q−U),学級満足度尺度(Q−U)
教研式POEM(児童理解カード)
イ
授業期間中に収集する資料
教師による観察記録
ウ
事後に収集する資料
児童によるふり返りカード
学校生活意欲尺度(Q−U),学級満足度尺度(Q−U)
教研式POEM(児童理解カード)
− 7 −
−教相(2)−
2
研究内容
(1)学習活動を進めるに当たって
学級活動の時間,朝の会や帰りの会などで,自己理解,自己受容,他者理解をねらいとしたエクサ
サイズを中心に構成的グループエンカウンターを行う。自己肯定感をもち,高めるためには,他者と
のかかわりが重要であり,友だちや教師とのかかわりがもてるエクササイズを実施していく。また,
本学級の実態や少人数の学級の固定化した人間関係から,概念をくずす内容のエクササイズやルール
の定着を促進させることを考慮する。
朝の会や帰りの会では,友だちとの信頼体験や自分と他者との違いを体験するエクササイズを行
い,学級活動の時間に行うエクササイズへとつなげていく。
エクササイズを実施するにあたり,自己開示に対して抵抗がある場合には,強要せずに認めること
を指導する。また,非難する言動に対しては,介入し心的外傷を防いでいく。
(2)活動計画
ア
実施計画
月
計
画
内
容
8月
・ショートエクササイズによるリレーションづくり(週1回10分から15分)1回
9月
・ショートエクササイズによるリレーションづくり(週1回10分から15分)3回
10月
・ショートエクササイズによるリレーションづくり(週1回10分から15分)1回
・友だちとのかかわり方を体験するエクササイズ
・友だちとのかかわりと信頼を体験するエクササイズ
・自分のよさを知るエクササイズ
・他者から認められるエクササイズ
11月
・ショートエクササイズによるリレーションづくり(週1回10分から15分)1回
・自分のよさを知るエクササイズ
・互いを認め合う友だち関係づくりのエクササイズ
イ
朝の会,帰りの会でのショートエクササイズ(8月∼11月
ねらい
他者理解
エクササイズ
内
10∼15分ずつ7回)
容
先生とビンゴ
教師の好きな食べ物について,ビンゴを通して知り,教師との関係づくりを行う。
自己理解・
じゃんけんチャ
「勝った方がチャンピオン」,「負けるが勝ちチャンピオン」,「あいこじゃんけん」の
他者理解
ンピオン
3種類を3回ずつやる。
自己理解・
あわせアドジャ
4∼5人組をつくる。「アドジャン」と言いながら,じゃんけんの要領で0∼5までの数
他者理解
ン
字を手で示す。グループ全員が同じ数字になるように出す。ルールとして,同じ人が同じ
感受性の
心をひとつに
数字を2回続けてだすことはできない。
促進
信頼体験
2人組でハードカバーの本を一緒に持つ。1人が主になって本を自由に動かす。もう1人
は相手の動きに従う。役割を交代して同様に行う。
トラストアップ
2人組になり,向かい合って座る。足を伸ばしてつま先をつけ,手をつなぐ。同時に立ち
上がる。
信頼体験
団結の塔
5∼6人組になり,新聞紙の上に全員が乗る。時間設定をして,その間崩れずに新聞紙の
上に乗り続ける。
自己受容・
他者理解
3つの発見
1日を振り返り,①友だち,②自分,③何でもについてカードを記入する。5日間,同様
に繰り返す。(次の学級活動の時間に,互いのカードを読み,シェアリングをする。)
− 8 −
−教相(2)−
ウ
学級活動指導案(10月∼11月
動
内
6時間)
時
活
容
第
□ ウォーミングアップをする
教
師
の
支
援
備
考
1
●3つのスピードで歩く。
時
●歩きながら近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
マグネット
●気持ちのいい強さでハイタッチ
をするように指示をする。
移動黒板
□ グループをつくる
掲示物
カ
□ インストラクション
くじ引き用の色玉
ム
●ねらいを知る。
オ
①エクササイズを楽しんで,友だち同士が仲良くなる。
ン
②ルールを守ることが大切なんだということを知る。
●エクササイズのやり方を知る。
①一列に並ぶ。10mくらい離れて,相手グループの代表が立つ。
②相手グループの代表のところまで走って行き,ジャンケンをする。
●1つのグループと一緒に実演し
ながら説明をする。
③勝った場合は,代表の後ろを回って列に戻り,次の人にタッチして,
列の最後に並ぶ。
④負けた場合は,「カム・オン(come on)」と叫んで,自分のグルー
プを呼ぶ。呼ばれたら1列のまま走ってきて,代表の後ろを回り元の
位置に戻る。ジャンケンに勝つまで続ける。
⑤最後の人が相手グループの代表に勝ち,列に戻ったら終了。
●特に守るルールは,「呼ばれるまで待つ」。
●声が小さい場合には,身振りで
□ エクササイズ
伝えてよいことを説明する。
□ シェアリング
●間を開けないように声をかけ,
●チームごと,代表が司会役になり1人ずつ発表する。
□ まとめ
●ふり返りカードに記入する。
ついては,評価する。
第
□ ウォーミングアップ
2
●3つのスピードで歩く。
時
●歩きながら近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
●割り箸を使って,「心をひとつに」をする。
結
●役割を交代する。
く
●2人組で振り返る。
ず
□ 2チームに分かれる
し
●チームごとリーダーを決める。
ふり返りカード
画板
●ぶつからないように,お互いに
注意して歩くように指示する。
●2人組をつくる。
団
列の状態を告げる。
●自分や友だちの新しい気づきに
移動黒板
●割り箸を落とさないように,は
マグネット
じめはゆっくり動かすようにさ
掲示物
せる。
くじ引き用の色玉
●いろいろな動かし方を指示する。
□ インストラクション
●ねらいを知る。
友だちと仲良くなる。
●デモンストレーションを見て,やり方を理解する。
①2つのグループに分かれる。
●エクササイズとねらいを移動黒
②片方のグループの児童が背中合わせに腕組みをし,マットの中央に車
座に座る。その際に足を前に伸ばす。
板に掲示し,全員がわかるよう
にする。
③もう1つのグループの児童が,団結している児童の足を1分間引っ張
り,事前に決められた線の外に引っ張り出そうとする。
④団結とくずしを交代する。
●特に守るルールは,「足だけ引っ張る」。
●ルールを掲示し,確認する。
□ エクササイズ
●乱暴な行為やケガがないように
□ シェアリング
審判をする。
●チームごと,リーダーが司会役になり1人ずつ発表する。
□ まとめ
ふり返りカード
●ふり返りカードに記入する。
画板
第
□ ウォーミングアップ
3
●今,気持ちいいと感じる速さで歩く。
− 9 −
−教相(2)−
時
●歩きながら,近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
●全員とできるように指示する。
『3つの発見』
□ インストラクション
レ
●ねらいを知る。
掲示し,全員がわかるようにす
る。
−
ブ
●やり方を知る。
ン
①班ごと集まる。
ス
②ワークシートを回し読みする。
ト
□ エクササイズ
●エクササイズとねらいを黒板に
●嘲笑したり,非難したりしてい
−
□ シェアリング
る子には,肯定的に受け入れる
ミ
●班長が司会役になり1人ずつ発表する。
ように指導する。
ン
『ブレーンストーミング』
グ
□ インストラクション
●エクササイズとねらいを黒板に
●ねらいを知る。
掲示し,全員がわかるようにす
①考えを持ち,発表することができる。
る。
掲示物
ワークシート
掲示物
ワークシート
②友だちの考えを知る。
●デモンストレーションを見て,やり方を理解する。
①たくさんの割り箸があったら何が作れるか,思いついたことを紙に書
く。
②グループ内で発表し合う。
③グループごとに出されたことを学級全体に発表する。
□ エクササイズ
●友だちの意見を肯定的に受け入
□ シェアリング
れるようにさせる。
●班長が司会役になり1人ずつ発表する。
□ まとめ
ふり返りカード
●ふり返りカードに記入する。
画板
第
□ ウォーミングアップ
4
●今,気持ちいいと感じる速さで歩く。
時
●人数を同じにするために,担任
に参加してもらう。
掲示物
●歩きながら,近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
●2人組をつくり,「トラストウォーク」をする。
くじ引き用の色玉
●2人で,「トラストウォーク」をやって,感じたことや気づいたこと
☆
を話す。
い
□ インストラクション
く
●ねらいを知る。
つ
自分を見つめ直す。
●デモンストレーションを見て,やり方を理解する。
ワークシート2
①2枚のワークシートに名前を書き,1枚集める。
枚
②1枚へ自分があてはまると思う項目について,☆を4個塗る。
画板
③ランダムに配られたワークシート(☆が塗られていない)の人につい
て,☆を4個塗る。
④2枚のワークシートを見て,自分がつけたものと友だちがつけたもの
を比べる。
□ エクササイズ
□ シェアリング
●班になり,司会役を決めて1人ずつ発表する。
●もう一つのねらいを知る。
●無記名のワークシートがないか
友だちがどう思っているのかを知る。
確認する。
□ まとめ
●うれしい気持ちや意外だったこ
●ふり返りカードに記入する。
ふり返りカード
とを話すようにさせる。
第
□ ウォーミングアップ
5
●今,気持ちいいと感じる速さで歩く。
時
●歩きながら,近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
●3つのグループをつくり,リーダーを決める。
くじ引き用の色玉
□ インストラクション
●エクササイズとねらいを黒板に
− 10 −
掲示物
−教相(2)−
私
は
●ねらいを知る。
掲示し,全員がわかるようにす
友だちのことを知り,もっと仲よくなる。
る。
わ
●やり方を理解する。
た
①事前に書いた「私はわたしよ」の中の2つをランダムに読み上げ,あ
し
よ
てはまると思う人の名前をワークシートに書く。
②答え合わせをする。
●3人の教師の「私はわたしよ」をやってみる。
●特に守るルールは,「考えているふりをする」。
ワークシート
□ エクササイズ
画板
□ シェアリング
●リーダーが司会役になり,グループごとに1人ずつ発表し合う。
●否定的な発言や態度に注意させ
□ まとめ
ふり返りカード
る。
●振り返りカードに記入する。
●自分や友だちのことで初めて知
ったことなど発表させる。
第
□ ウォーミングアップ
6
●今,気持ちいいと感じる速さで歩く。
時
●歩きながら,近くになった人とハイタッチをしてあいさつをする。
●全員とできるように指示する。
●3つのグループをつくり,リーダーを決める。
くじ引き用の色玉
□ インストラクション
掲示物
無
●ねらいを知る。
人
①自分の考えを言う。
島
②お互いに認め合おうとする。
S
●やり方を理解する。
品物のワークシート
O
□ エクササイズ
画板
S
●1人で考えて,品物の中から8個選び,順番を決める。
●生き抜くために必要なものを基
●椅子だけ寄せて円くになり,発表し合う。選んだ理由も発表する。
準に考えさせる。
●グループの友だちの発表を聞いて,もう一度考えて品物を選び,赤鉛
筆で順番を書く。
●もう一度円くなり,最終決定を発表する。
●訂正した場合には,なぜそうし
□ シェアリング
たのか理由を発表させる。
●リーダーが司会役になり,グループごと1人ずつ発表する。
ふり返りカード
□ まとめ
●ふり返りカードに記入する。
Ⅵ
1
研究の結果と考察
居心地のよい学級について
(1)Q−Uから
事後調査でのQ−Uの学級満足度尺度にお
(図3)学級満足度尺度得点別の学級平均点
いて,学級生活満足群にプロットしている子
どもの割合が,約46%から約62%に増加して
承認得点
いる。特に,被侵害得点が13点以上の子ども
が6名から2名に減った。なかでも,被侵害
事前
被侵害得点
事後
得点が一番高かった子どもが,事後調査では
12点減少していた。
5
また,承認得点と被侵害得点の学級平均点
は,図3が示すとおりとなった。事後調査に
おいて,承認得点が0.9点上がり,被侵害得点が2.6点下がった。
− 11 −
10
15
20
(点)
−教相(2)−
承認得点が上がったということは,他者から認められるようになったと感じていることであり,被
侵害得点が下がったということは,学級の中でつらいと感じることがなくなってきたということであ
る。承認得点の項目別の結果を見ると,平均点が上がったものとして「気持ちをわかってくれる人が
いる」(0.6点上昇),「クラスの人は協力したり応援したりしてくれる」(0.4点上昇)がある。エ
ンカウンターでのエクササイズやシェアリングにおいて,他の人の話に対して肯定的に聞くことを徹
底したことにより,エクササイズで感じたことや気付いたことを発言できる雰囲気になり,他の人と
違っていても受け入れてもらえると思えるようになったあらわれだと考えられる。
また,学校生活意欲尺度の下位領域「学級
(図4)「学級の雰囲気」の項目別学級平均点
の雰囲気」の学級平均点が上がった。図4の
ように,「学級の雰囲気」の3項目の変容を
クラスはまとまりがある
見ると,「クラスは明るく楽しい感じがす
る」が0.5点上がっている。
クラスは協力し合っていると思う
事前
事後
子どもたちは,この学級の雰囲気が変わ
り,居心地がよいと感じられるようになって
クラスは明るく楽しい感じがする
きたと考えられる。
2
2.5
3
3.5
4
(点)
これは,エンカウンターを実施したことに
より,エクササイズを通してルールに対する意識が高まったこと,自分が感じたことや気付いたこと
を言っても非難されず受け入れてもらえると感じられるようになったこと,他者を受容することの3
点ができるようになってきたからであると考えられる。
自己理解,自己受容,他者理解をねらいとするエクササイズを行ったことで,自己について気付く
ことができた。さらに,シェアリングを2人組からグループや班,学級全体へと段階的に構成するこ
とにより,全員が自分の感じたことや考えを発表するようになり,他の人の感情や考えを知ることが
できた。感じていることが同じであると確認できたことで仲間意識を高め,逆に違っていても非難さ
れることなく肯定的に受け入れられた活動から居心地のよい雰囲気に感じられるようになったと言え
る。
(2)POEMから
教研式POEM(児童理解カード)は,8つの特性(受容感,効力感,セルフコントロール,不安
傾向,対人積極性,向社会性,攻撃性,原因帰属)についての測定結果に基づいて,不適応行動の存
否を発見することができる標準化された質問紙検査である。それぞれの特性が,低い場合は不適応で
あり,高い場合は過剰適応と判断する。したがって,POEMでは,それぞれの特性が適度な水準に
あることが望ましいと判断する。
8種の特性のうち,セルフコントロールにおいて,事後調査では適応状況を示す子どもが事前調査
の2倍近くになり,不適応状況を示す子どもがいなくなった。この特性が適度な水準範囲にあると,
かんしゃくをおこさず,がまんすることができる状態にあることを示す。
学習状況の経過観察から自己中心的な言動をしがちな子どもは,その言動をコントロールすること
ができるようになった。また,他の子どもたちは,同調したり,振り回されたりしないですむように
なったことによるものと推測される。
また,対人積極性と攻撃性においても,変容が見られた。対人積極性は,人前でも自分の思ったこ
− 12 −
−教相(2)−
とや言いたいことを相手に積極的に伝えられるかを示すものである。この特性でも,適応状況を示す
子どもが増え,不適応状況を示す子どもが減った。エンカウンターのエクササイズやシェアリングに
おいて,自分が感じたことや考えたことを言っても受け入れてもらえると感じられるようになったこ
とが,こうした変容につながったものと考えられる。
攻撃性が適度な水準であると,誰とでも仲良くできたり,他人と協調して生活したりすることがで
きることを示す。この特性においては,不適応状況の子どもがいなくなり,適応状況の子どもが増
え,この結果から好転していることがわかる。
これら3つの特性の変容は,エンカウンターにより,友だちとのかかわりの中で,自分の感情を自
制したり,感情を伝えたりできるようになったことと,友好的な雰囲気が感じられるようになった結
果であると推測される。
2
自己肯定感について
自己肯定感は,自分を見つめ,よさを知り(自己理解),ありのままの自分を受け入れ(自己受
容),友だちを認めたり友だちから認められたり(他者理解)することによりもつことができると考
えた。自己理解,自己受容,他者理解の変容から自己肯定感について検証していく。
(1)自己理解について
自己理解をねらいとしたエクササイズを表1のように計画し,実施した。朝の会でのショートエク
ササイズは,ゲーム的な要素があり,子どもたち同士のかかわりづくり(リレーションづくり)やシ
ェアリングの雰囲気づくりを目的として行った。「じゃんけんチャンピオン」のエクササイズ後のふ
り返りカードの自由記述で,「ずっとチャンピオンになれなくてくやしかったです。」「私は,じゃ
んけんが弱い方だったのに勝ちじゃんけんも負けるが勝ちじゃんけんも勝って,自分でもびっくりし
ています。」など,エクササイズを振り返って,自分に気付いている子どももいた。
学級活動の第3時で行った「ブレーンス
トーミング」では,①個々に考える,②班
になり発表する,③班でアイディアを出し
合う,という3段階でエクササイズを進め
た。①の個々に考えた時のことを振り返
り,ネガティブな面について感じたり,気
付いたりしている子どもがいた。エクササ
(表1)自己理解をねらいとしたエクササイズ名
ショートエクササイズ
2回目
じゃんけんチャンピオン
ショートエクササイズ
3回目
あわせアドジャン
学級活動
第3時
ブレーンストーミング
学級活動
第4時
☆いくつ
学級活動
第5時
私はわたしよ
学級活動
第6時
無人島SOS
イズ後のふり返りカードの自由記述は,次
のとおりである。
・自分でやるとき,少しつらかった。
・1人で考えたとき,わからなくてどうしようと思ったけど,みんなで考えてよかった。
・1人で考えるときよりも,みんなで考えた方がたくさんアイディアがうかぶなと思いました。
第4時の「☆いくつ」では,自分のよいところや得意なことを自己評価して,他者評価と比べるエ
クササイズを行った。他者評価を無作為に割り振って行ったことで,評価してもらった人がわからな
い状況ということもあり,評価してもらった点が一致しているとさらなる自信になり,一致していな
− 13 −
−教相(2)−
くても新たに自分のよいところの理解につながった。このエクササイズで,自分のよいところや得意
なことを改めて見つめることになり,自分のことを評価するのに考え込んでしまう子どもが数名い
た。自分を見つめ,自分のよいところや得意なことを認識するよい機会となり,自信を深めていた。
学級活動の授業では,各時間の導入の段階でウォーミングアップとして自由歩行を継続して行っ
た。この自由歩行では,①ふだん歩いている速さよりも速く歩く,②ふだん歩いている速さで歩く,
③ふだん歩いている速さよりもゆっくり歩く,④今,一番気持ちいいと感じる速さで歩く,という4
段階の歩き方を基本にして行った。第3時はゆっくり歩く自由歩行だけを行い,第4時以降は子ども
たちが自由歩行に慣れてきたので,②の段階から行った。エクササイズの導入段階で,この自由歩行
を行ったことにより,自分の気持ちを見つめることができた。また,この自由歩行を導入時に継続し
たことや,歩いている様子をフィードバックしたことで,自分への気付きにつながったと言える。
以上のことから,エクササイズやシェアリング,他者とのかかわりから自分を見つめ,自己理解を
深めることができたと考えられる。
(2)自己受容について
自己受容をねらいとしたエクササイズは,
「3つの発見」(表2)である。このエクサ
サイズは,1週間継続して帰りの会でその日
(表2)自己受容をねらいとしたエクササイズ名
ショートエクササイズ
6回目
3つの発見
学級活動
第3時
3つの発見
を振り返り,①友だち,②自分,③何でも,
の3つについて発見したことを記録した。次週の学級活動の授業の中で,班毎に記録したワークシー
トを回し読みしてわかちあった。表3は,Aさんの1週間の記録である。
(表3)「3つの発見」の記録(Aさん)
①友だち
10月17日
Kさん
10月18日
Dさん
10月19日
Cさん
10月20日
10月21日
②自分
歌の声がきれいで,がんば
っていた。
社会の昔調べで,30年前と
かわけているときに,てき
ぱきと動いていてがんばっ
た。
そうじの時,てきぱきと動い
ていて,終わったら手伝い
に来てくれた。
そうじをちょっとがんばっ
た。
3,4年の合音で,カントリ
ーロードを歌ったとき,口
を大きく開けてがんばっ
た。
歌の時,リズムにのってが
んばった。
Jさん
大きい声ときれいな声が出
るようになったと発見した。
Lさん
ソプラノにうつってもうまくで
きるということを発見した。
今日,家庭科室のそうじを
しているときに,すみにほ
こりがあるんだなと発見し
た。
5校時の授業で,算数の
問題をとくのをがんばっ
た。
− 14 −
③何でも
みんなよくがんばった。
朝のクリーン活動で,ゴミを
ひろってくるとき,班の人た
ちの全員がゴミをがんばっ
てひろっていた。
きのうのふれあい集会のく
す玉コーナーで,1年生の
男の子が,最後のほうでは
1人で作れるようになってい
た。
歌の最後の時,今までで一
番うまかったのでビックリし
た。
マラソンタイムの時「雲を見
れば速く走れるんだよ。」と
Lさんが言ったので,やって
みたら速くなった。
−教相(2)−
子どもたちは,このエクササイズで自分のことや友だちのことについて1日を振り返り,自分や友
だちへの気付きを意識化することができた。また,友だちが発見してくれた自分のよいところやがん
ばったことをフィードバックしてもらうことで,自己受容することもできた。
1日目から3日目までは,同じ班の中で,発見する友だちを事前に指定しておいた。4日目と5日
目は,違う班の友だちを指定した。同じ班の友だちが発見してくれたことを学級活動の授業の中で回
し読みすることで,自分のがんばっていたところやよいところに気付き,受け入れることができた。
この「3つの発見」のエクササイズの他に,「☆いくつ」のエクササイズでも自己受容ができたと
考えられる。「☆いくつ」では,他者から評価してもらい,自分自身の評価と違う評価に対して,次
のように肯定的に受け入れている内容をふり返りカードに記述をしている子どもたちがいた。
・みんな,ぼくのことをこういうふうに思ってくれているんだなぁーと感じて,うれしかったです。
・友だちがぬってくれたのを見たら,ひとつしか同じではなくて,いろいろなことを考えて発見してくれ
てうれしかった。
・2つ合っててうれしかったです。1個だけちがったけど,友だちがちがうことをかいてくれてて,楽し
かったです。
・今日の「☆いくつ」で,ぼくはこんないいところがあったんだなぁと思いました。
・わたしは,自分で1つもぬっていないのが,友だちからもらったのに2つもぬってあって,うそーと
思ったし,うれしく感じました。
このように,自分では気付いていないことを友だちからフィードバックしてもらうことで,自己受
容が高められたと考えられる。
第5時の「私はわたしよ」のエクササイズでも,自分のネガティブな面を紹介している子どもも数
名いた。ネガティブな面をさらけ出すことができるということは,ネガティブな面も自分の中にある
と認めて受け入れているからであると考えられる。
以上のように,自己受容について,子どもたちに個人差はあるものの,全体としてよい方向へと変
容が見られた。
(3)他者理解について
他者理解をねらいとしたエクササイズを表4のように行った。
学級活動の第4時の「☆いくつ」におい
て,子どもたちは,友だちのよいところや
がんばっていることを認めたり,自分のよ
いところやがんばっていることを認められ
たりすることができた。
第6時の「無人島SOS」において,子
どもたちは,個々の知識の違いや思考の判
断基準の違いを知ることができた。エクサ
サイズ後のふり返りカードの記述は,次の
(表4)他者理解をねらいとしたエクササイズ名
ショートエクササイズ
1回目
先生とビンゴ
ショートエクササイズ
2回目
じゃんけんチャンピオン
ショートエクササイズ
3回目
あわせアドジャン
ショートエクササイズ
6回目
3つの発見
学級活動
第3時
3つの発見
学級活動
第4時
☆いくつ
学級活動
第6時
無人島SOS
とおりである。
− 15 −
−教相(2)−
・みんないろいろなことを感じているんだなあと思いました。
・最初に自分で考えたものを発表したり,ともだちのを聞いたりしてるとき,なるほどあそっかと思っ
たものがあったし,友だちはあんなことを考えているのかなどがわかってよかったです。
・人の意見と同じこともあったし,人の意見とちがうのもあった。しなものはいっしょなのに,意見が
ばらばらで他にもこんなことに使えたなと思いました。
・発表するときに,みんなの考えがよくわかってよかった。みんな一人一人意見がちがって,みんな
考えはちがってもみんな考えているんだなと思いました。
・友だちと同じ考え,ちがう考えがあったけど,なっとくできてよかった。
このように,子どもたちは,友だちの考えを聞き,納得したり,気付いたりすることができた。考
え方や判断の仕方の違いを知ることで,互いに認め合うことができたと言える。
また,第5時の「私はわたしよ」は,自己理解をねらいとするエクササイズであるが,友だちの知
らない自分の性格や経験などを紹介し合うことで他者理解につながったエクササイズである。このエ
クササイズは,友だちの知らない自分の性格や経験などを読み上げ,誰なのかを当てるという内容で
ある。自分以外の12人のうち,5人を当てたのが最高であった。子どもは,友だちの新しい面を知る
ことができた。
エクササイズ以外にも,シェアリングにおいて,子どもたちは他者理解をすることができた。シェ
アリングを2人組からグループや班,学級全体へと段階的に構成することにより,全員が自分の感じ
たことや考えを発表するようになり,他者の感情や考えを知ることができた。
これらのことから子どもたちは,エクササイズとシェアリングにより他者理解を高めることができ
たと考えられる。
以上述べてきたように,自己理解,自己受容,他者理解についてそれぞれ向上方向の変容を見るこ
とができたことから,自己肯定感を高めることができたと考える。
Ⅶ
1
研究の成果と今後の課題
研究の成果
本研究において,特別活動にエンカウンターを用いたことにより,少人数の学級での固定化した人
間関係の中で,新たな概念をもたせられたことやルールを意識させ定着させることができた。これに
より,子どもたちは所属している学級を居心地がよいと感じることができるようになり,本学級にと
ってエンカウンターは有効であった。
少人数の学級であっても,一人一人の生い立ちや生活環境が違うこと,感じ方や考え方が違うこと
をエンカウンターのエクササイズとシェアリングにより,実体験として知ることができた。「☆いく
つ」「私はわたしよ」のエクササイズにより,今まで何でも知り合えていると思った友だちでも知ら
なかった一面を知り,概念をくずことができた。また,2人組やグループをつくる時に,くじ引きを
用いたことで,友だちと新たなかかわりをもつことができた。それらにより,新たな親近感が生ま
れ,敬遠しがちであった友だちとも心理的距離を近づけることができた。
検証資料の中には,事後調査の数値が下がってしまった項目もある。これについては,本研究によ
り,自分を見つめ自分のことを意識するようになったことや学級内での友だち関係のバランスが変わ
− 16 −
−教相(2)−
ってきたことによるものと考えられる。固定化した人間関係や概念に,エンカウンターを通して新し
い気付きが生まれ,新しいかかわりをつくり始めることができた。
担任の学校生活の観察から,授業後の子どもたちの様子を次のように述べている。
・「自分は,自分なんだ」という意識が出始めてきている。
・他の人からの言動に対して,受け止め方が多様になりトラブルを回避できるようになってきている。
・自分の考えをなかなかはっきり進んでいえない子どももいるが,自分の思ったことを自分なリの言
葉で表現できるようになった。
・友だちを思いやる言葉をいえるようになった。
・今までとは違う子どもが,少しではあるがリーダー性を発揮して,いい方に働きかけられるように
なった。
・生活班で学級会の話し合いをするとき,司会,記録等を班長以外の人が分担して行うようになっ
た。
・当番活動,係活動を担当でよく話し合い,実施するようになった。
「自分は,自分なんだ」という意識は,まさしく自己肯定感であり,子どもたちは自信をもち,他
者とかかわることができるようになったと言える。
本研究では,学級活動の授業に先立ち,朝の会や帰りの会でショートエクササイズを行った。子ど
もたちは,このショートエクササイズで友だちといろいろなかかわりがもて,学級活動の授業で自分
や友だちのことをたくさん気付くことができた。気付きを生むには,認められ受け入れられる学級の
雰囲気が大切であり,朝の会や帰りの会で行ったショートエクササイズがとても有効であった。
2
今後の課題
本研究は,学級の児童の実態や学級の雰囲気,さらには学級経営と密接にかかわっている。授業と
授業の合間の担任教師による指導,支援により,授業で学習したことや体験したことが定着していく
ものと考えられる。また,固定化した人間関係や表面的なつきあいから,感情を交流し合える関係に
するためには,年間を通しての実施計画も含めて,継続的なエンカウンターの取組が必要ある。
今回の研究では,本学級の子どもたちの実態や事前調査のQ−Uから研究の実施計画を立てた。エ
クササイズの配列において,本学級では子どもたちの変容が見られたが,より効果があるエクササイ
ズや配列を検討する余地がある。
実施したエクササイズは,参考文献をもとに本学級に合わせてアレンジしたが,子どもの発達段
階,生活経験,学習の実態等を十分に把握した上で,エクササイズのアレンジ,インストラクション
やシェアリングの工夫や方法などを綿密に計画していく必要があると感じた。
エンカウンターを実施して一番感じたことは,介入の大切さと難しさである。特に,エクササイズ
やシェアリングを時間どおりに展開しようとするあまり,介入のタイミングを逃したり,見落とした
りしてしまった。エクササイズ中の非難したり責めたりする言動に対して介入することで,その子ど
もたちの自他理解をより深められたのではないかと思う。
時間の余裕により,教師の心の余裕も生まれ,介入できたのではないかと感じた。今後実施するに
あたっては,時間の構成をしっかり立て,ゆとりをもってエンカウンターを行いたい。
− 17 −
−教相(2)−
参考文献
・学校カウンセリング援助と指導の基礎・基本
松原達哉編著
学事出版
・Q-Uによる学級経営スーパーバイズ・ガイド小学校編
河村茂雄他
・平成16年度長期研修員研究報告書
企画・編集
山梨県総合教育センター
・平成14年度長期研修員研究報告書
図書文化
・学校教育相談の実際
仙台市教育センター
・不登校問題に関する調査研究協力者会議答申
今井五郎編著
学事出版
「今後の不登校への対応の在り方について(報告)」
・学校心理学
文部科学省
石隈利紀著
誠信書房
・エンカウンター
國分康孝著
誠信書房
・構成的グループエンカウンター事典
國分康孝・國分久子総編集
研究協力校
図書文化
山梨市立牧丘第二小学校
校長
武井今朝英
・エンカウンターで学級が変わる小学校編1∼3
國分康孝監修
図書文化
・エンカウンターで学級が変わるショートエクササイズ集1∼2
國分康孝監修
図書文化
・構成的グループエンカウンター・エクササイズ50選
研究協力員
青柳
仁美
山梨市立牧丘第二小学校教諭
大久保裕子
甲府市立大国小学校教諭
明治図書
小俣
昭陽
北杜市立武川小学校教諭
・構成的グループエンカウンター・ミニエクササイズ56選小学校版
志田
市造
山梨市立牧丘第一小学校教諭
髙添
勉
甲州市立大和小学校教諭
充
教育相談部研修主事(主担当)
八巻寛治著
八巻寛治著
明治図書
・現代カウンセリング事典
國分康孝監修
金子書房
・教育用語事典
研究指導者
山﨑英則・片上宗二編集
・新小学校教育課程講座
ミネルヴァ書房
特別活動
宮川八岐著
太田
大久保久美
教育指導部研修主事
平成17年度
山梨県総合教育センター
ぎょうせい
・開発的カウンセリングを実践する9つの方法
栗原慎二編著
ほんの森出版
・構成的グループエンカウンターの原理と進め方
國分康孝+片野智治著
・学校現場で使えるカウンセリング・テクニック
諸富祥彦著
誠信書房
上
一般留学生研究報告書
誠信書房
・教研式POEM児童理解カード手引き
執
図書文化
− 18 −
筆
者
一般留学生
藤波
貴
Fly UP