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平成24年度版

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平成24年度版
スポーツ人文・応用社会科学系
なか
もと
ひろ
き
氏 名
中
本 浩 揮 講師
主な研究テーマ
□スポーツの熟達に関わる知覚-認知技能の研究
平成24年度の研究内容とその成果
「みる」のスポーツ科学
見下ろすような仮想上の視点のことをス
ポーツ現場では俯瞰的視点と呼ぶことがあ
我々の研究室では、昨年の「スポーツを
ります。彼の研究では、俯瞰的視点を使っ
科学する」などの報告にもあるように、
「み
てプレイしている選手は、どのような能力
る」ということに興味を持って研究をして
に優れているのかについて調べました。
います。そのため、本学の学部4年次に作
そこで注目したのが心的回転能力です。
成する卒業論文でも「みる」ことをテーマ
心的回転能力は、一般的に図1のような図
にした研究が多数行われています。そこで、
形を使って、左と右の図が同じものかどう
今年度の報告では、体育学を専攻する学部
かを回答させることで測定します。この判
生の研究を紹介したいと思います。
断を行うためには、頭の中で図をイメージ
し、それを頭の中で回転させる必要があり
1.サッカー選手の「みる」
ます。藤井君は、サッカーも同様に、ピッ
まずは、サッカー部の藤井紀之君の研究
チ上の選手、ボール、スペースなどを頭の
を紹介します。日本や世界で活躍するサッ
中でイメージし、それを上空から見たらど
カー選手には、
「まるでピッチの上からゲー
ムを見ているようだ」と表現される選手が
います。このようなピッチ空間を上空から
図1.メンタルローテーション課題
図2.俯瞰的視点が可能な人と不可能な人の心的回転テストの比較
のようになるか頭の中で回転させていると
たっと歩幅を調整し、ぽんっと飛ぶといっ
考えたのです。
た光景がよく見られます。そこで、濱出君
この仮説を検証するために、サッカーの
は、初級者が大きな歩幅調整をしないでう
プレイ中に俯瞰的視点を使いながらプレイ
まくハードルをまたぎ越すために、何か効
している大学サッカー選手とそうではない
果的なトレーニングはないかについて研究
選手に協力してもらいました。そして、心
しました。
的回転テストを行ったところ、俯瞰的視点
そこで注目したのが視線行動です。我々
ができる選手もできない選手も頭の中のイ
が日常生活において、大幅な歩幅調整なく
メージを正確に回転する能力は変わりませ
地面にある障害物をまたぎ越せるのは、遠
んでした。しかし、俯瞰的視点ができる選
方の時点で障害物の視覚情報を得て、身体
手は、できない選手に比べて、イメージを
と障害物との位置関係を適切に認識し、少
素早く回転する能力が顕著に優れていまし
しずつ歩幅を調整するからであるといわれ
た(図2)。
ています。また、転倒が良く起きる高齢者
このことから、サッカーのプレイ中に俯
の方の視線行動を転倒が少ない人と同じに
瞰的視点ができるかできないかは、イメー
なるように訓練すると転倒が減少するとい
ジを正しく操作できるか否かではなく、素
う報告もあります。濱出君は、ハードル走
早く操作できるか否かに関わっているとい
でも同じように、ハードルが上手な人とそ
えそうです。実際のサッカーのプレイ場面
うでない人には、視線行動の違いがあり、
では、瞬時に状況判断し行動を選択するこ
それをトレーニングによって修正すること
とが求められることから、心的操作の速度
で、ハードル直前の歩幅調整が改善される
がプレイ中の視点の個人差を決定する可能
のではないかと考え実験を行いました。
性は極めて高いと考えられます。今後は、
まず、ハードルの上手い人とそうではな
心的回転能力のトレーニングが、サッカー
い人の視線行動を調べてみました。その結
のプレイ中の俯瞰的視点の獲得につながる
果、図3の左のように、上手い人はハード
かについて研究していく予定です。
ルからかなり離れた時点でハードルを確認
し、その後は、ハードルよりもかなり前方
2.ハードル選手の「みる」
に視線を向けています。それに対し、図3
次に、陸上部の濱出広大君の研究を紹介
の右の未熟練者は、ハードルを見るのはま
します。陸上競技種目の一つであるハード
たぎ越す直前になってからです。おもしろ
ル走では、記録を向上させるために、歩幅
いことに、ハードルを1つ飛んでから次の
を大幅に調整しないでスムーズにハードル
ハードルを飛ぶまでの間に、ハードルを見
をまたぎ越す必要があります。しかし、体
た回数を調べると熟練者は10回程度、未熟
育の授業などでは、踏み切り直前でばたば
練者はその2倍の20回程度と大きな違いが
ありました。ここからわかることは、熟練
者はハードルを視野の中心ではなく、端っ
こで捉えながら走っていますが、未熟練者
は視野の中心でハードルを凝視して走って
いるということです。この結果に基づいて、
初級者に熟練者の視線がなぜ視野の端っこ
にあるかなどをおしえて、同じ視線行動を
練習するというトレーニングを行いまし
た。その結果、ハードル直前の歩幅の調整
が小さくなりました。
このように、意外にも視線行動を修正す
るだけで、うまくハードルが飛べるように
なる可能性が示されました。
これからの研究の展望
紙面の都合上、他の卒業研究の紹介はで
きませんでしたが、野球の視線行動を調べ
た学生やバスケットボールのシュート時の
視線行動を調べている学生がいます。みる
という行為は、人間が環境に応じて運動を
コントロールするということを考えるとと
ても重要です。心理学の領域では、このみ
るということに関する研究が現在でも膨大
な数行われています。今後も現場に役立つ
ような「みる」の研究を目指していきたい
と考えています。
図3.ハードル走中の視線行動(左が熟練者、右が未熟練者)
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