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USリサーチ - みずほ総合研究所

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USリサーチ - みずほ総合研究所
NO. 017
2002 年6月 20 日
USリサーチ
MIZUHO US RESEARCH
「強いドル」の時代は終わったのか?
<要旨>
n
5月以降、ドルが対ユーロ、対円で下げ足を強める中で、その動向に注目が集まっている。今
回のドル下落が多くのエコノミストが予言してきた「強いドル」時代の終焉を意味するものな
のかどうかは、米国経済のみならず世界経済にとっても極めて重要な意味を持つことになる。
そこで本稿ではマクロ的な観点からドルを取り巻く環境を整理すると共に、簡単に先行きを展
望してみた。
n
実質実効レートでみれば依然として「強い」状況にあるドルではあるが、経常収支赤字の拡大
に歯止めが掛からないことに加え、財政バランスの悪化によって「双子の赤字」に戻ってしま
ったことが、米国経済、ひいてはドルの先行きに暗い影を投げかけている。
n
資本収支面からは、近年増勢を強めていた直接投資による資金流入が企業買収の落ち込み等を
背景に大きく減少する中で、証券投資への依存度が増している。証券投資による資金流入に鈍
化傾向がみられること、安定的な資金という意味では直接投資による資金流入が望ましいこと
等の問題は残るものの、今のところ米国に世界の資金が集まるという傾向自体には大きな変化
はみられない。
n
米国の IS バランスの調整過程で、ドル高が多少調整される可能性は否定できないが、
「強いド
ル」のトレンドが変わったと判断するのは時期尚早と考える。昨年の例からも明らかなように、
米国経済の失速は世界経済に様々な影響を及ぼす。米国の景気鈍化は他国のリセッションに繋
がりかねず、米国の利下げは世界的な金融緩和局面を招来する。その結果、米国にとって、景
気格差や金利差に起因する大規模な資金フローの変化が定着する可能性は少ない。
「強いドル」
のトレンドが本格的に変わるのは、構造改革によって日本経済が活力を取り戻し、また、通貨
統合の成果が顕現化して欧州経済が効率性を増した後となろう。それまでは、結局、米国、ひ
いては世界経済は「強いドル」と共存して行かざるを得ないものと思われる。
みずほ総研 NY シニアエコノミスト
牛窪 恭彦
Tel: 212-282-4361
E-mail: [email protected]
1
ニューヨーク
富士総合研究所ニューヨーク事務所
MHRI/FRIC
New York
5月以降、ドルが対ユーロ、対円で下げ足を強める中で、その動向に注目が集まっている(図
表1)
。ドルの下落が話題に上るのは何も今に始まったことではない。80 年代半ばに経常収支赤
字のサスティナビリティという形でドルの下落リスクが取り上げられて以来、ドル暴落シナリオ
は周期的に新聞紙上を賑わせて来た。また、エコノミストも米国経済のリスク要因としてしばし
ばドルの下落を指摘してきた。しかしながら、90 年代半ば以降、そうした予想に反して略一貫し
てドルが上昇する中、ドル暴落シナリオを唱えるエコノミストは「狼少年」となってしまった感
すらある。
ところが、今回は様子が少々異なるようである。今次局面でのドル下落の背景としては、一時
に比してユーロや円の保有に対する投資家の選好が増していることもさることながら、ドル保有
の魅力が相対的に低下したことが指摘されている。もちろん、基本的には外需頼みという薄氷の
回復パスを辿っている日本経済、景気回復が本格化する前にそれに水を差しかねないインフ圧力
が燻り始めている欧州経済との比較では、マイナス成長を1四半期で脱するという驚くべき回復
力を示した米国経済になお分があることは言うまでもない。しかしながら、90 年代後半にかけて
の眩いばかりの米国経済(もちろんその一部は IT バブルを映じた蜃気楼であった訳であるが)
を知る投資家にとって、第2四半期以降の景気回復テンポの鈍化に加え、「米国経済は何かおか
しいぞ」との不安を抱かせるに十分な幾つかの材料が浮上している。例えば、①Enron 破綻以降、
Arthur Andersen、Dynegy、Adelphia、Tyco 等の大企業に蔓延していることが判明したコーポレー
ト・ガヴァナンスの弛緩、②軍備拡大に加えて保護主義的な政策指向を強める政府、③生産性の
上昇が必ずしも企業収益の増加・株価上昇に結び付かないことが明らかになってきたこと、その
結果、株価が予想を上回る期間にわたって低迷を余儀なくされていること等である。とりわけ米
国型資本主義の根幹を揺るがしかねない①の問題は深刻である。
図表1 ドル相場の推移(対ユーロ、対円)
Yen/$
12-Jun-2002
03-Jun-2002
22-May-2002
13-May-2002
02-May-2002
23-Apr-2002
12-Apr-2002
03-Apr-2002
25-Mar-2002
14-Mar-2002
05-Mar-2002
22-Feb-2002
12-Feb-2002
01-Feb-2002
23-Jan-2002
11-Jan-2002
$/Euro
02-Jan-2002
0.98
0.96
0.94
0.92
0.90
0.88
0.86
0.84
136
134
132
130
128
126
124
122
120
何れにしろ、今回のドル安が多くのエコノミストが予言してきた「強いドル」時代の終焉を意
2
MIZUHO US RESEARCH
June 20, 2002
MHRI/FRIC
New York
味するものなのかどうかは、米国経済のみならず世界経済にとっても極めて重要な意味を持つこ
とになる。仮に「強いドル」が修正される場合でも、それが秩序ある形で進むかどうかが重要と
なる。そこで本稿では、マクロ的な観点からドルを取り巻く環境を整理すると共に、簡単に先行
きを展望してみたい。
まず、足許のドルのレベル感を確認してみよう。例えばドルが対円、対ユーロで減価していて
も、その他の通貨に対して増価していれば、必ずしも「ドル安」とは言えない。全体としてドル
がどのような状況にあるのかを把握するためには実質実効為替レートを見る必要がある。実質実
効為替レートとは、ドルの様々な通貨に対する交換レートを、当該国との貿易ウェートで加重平
均し、更に米国と当該国とのインフレ格差で調整したものである。連銀が月次で発表している指
標をみると(図表2)、足許、やや軟化こそしているものの、依然としてドルの大幅な修正が行
われたプラザ合意(1985 年9月)前後の水準で推移していることが分かる。対円、対ユーロ1 で
の下落にも拘わらず、今のところ全体として「強いドル」は維持されているといえよう。
図表2 ドルの実質実効為替レート
0101
9907
9801
9607
9501
9307
9201
9007
8901
8707
8601
8407
8301
8107
1973/3=100
8001
130
125
120
115
110
105
100
95
90
85
80
では「強いドル」は米国経済にどのような影響を及ぼすのであろうか。この点に関してはエコノミ
ストの間でも意見の分かれる処ではあるが、少なくとも 90 年代後半においては「強いドル」が米経
済の好循環の中核を成していたことは間違いない。そもそも「強いドル」という言葉が市場で定着
し始めたのは、クリントン政権後期の財務長官にルービン氏が就任して以降のことである。前任
のベンツェン長官が、急拡大する対日貿易赤字の解消を狙って露骨な円高誘導を行ったのとは対
照的に、ルービン氏は為替相場に関して「強いドルは国益である」とのコメントをひたすら繰り
返した。中期的にみれば為替相場は実体経済を映す鏡であるため、
「強いドル」は米国と他国の
成長率格差を反映していたに過ぎないとの見方も出来なくはないが、一方で「強いドル」政策が
90 年代後半における米経済の高成長において中核的な役割を担っていたこともまた明らかであ
る。即ち、①ドル高による輸入物価の下落が、過熱傾向にあった内需のもたらすインフレ圧力を
1
実質実効レートの算出に利用されるウェイトはユーロ圏と日本で約3割である。
3
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June 20, 2002
MHRI/FRIC
New York
緩和した、②物価の安定が低金利を可能とし、IT 関連を含む設備投資ブームを側面支援した、
③ドル高に伴う海外からの資金流入が株高・債券高に繋がり、それが設備投資をファイナンス面
から支えたほか、資産効果によって個人消費を押し上げた、④以上述べたような要因を背景とし
たインフレなき高成長が更なるドル高を招いた、といった好循環が働く中でドルは一貫して上昇
した。
但し、米国経済の成長率が一時に比して鈍化する中で、
「強いドル」の弊害も表面化している。
当然のことながらドル高は米国製品の価格競争力を殺ぐほか、海外での売上のドル評価額を減少
させる方向に働く。また、消費財や加工度の低い資本財を中心に海外製品の輸入が増加するため、
国内生産の回復を抑制することも考えられる。連銀のマクロモデルを用いたシミュレーションに
よると、ドルの実質実効レートが 10%上昇した場合、1 年目の実質 GDP を 0.4%、CPI を 0.4%そ
れぞれ押し下げるとの試算が得られている。更にドル高が金融緩和の効果を減殺している側面も
ある。図表3は金融緩和の波及ルートの代理変数に関して、今次利下げ局面以降の推移をみたもので
ある。アヴェイラビリティ・ルート(社債スプレッド)、為替ルート(ドルの実質実効為替レート)、
資産価格ルート(Wilshire5000)に関して、何れも今次利上げ局面直前の 2000 年 12 月が1となる
ように基準化(各変数が1以下の場合に金融緩和の効果を発揮)してある。FF レートの急低下とは
対照的に、為替ルートを含む他の要因は何れも1を上回っており、金融緩和の効果を上手く伝達して
いない様子が見て取れる(図表3)。
図表3
1.8
金融緩和の効果
2000/12=1
%
7.0
0205
0204
0203
0202
0201
0.0
0112
0.4
0111
1.0
0110
0.6
0109
2.0
0108
0.8
0107
3.0
0106
1
0105
4.0
0104
1.2
0103
5.0
0102
1.4
0101
6.0
0012
1.6
Wilshire 5000
Real Broad Trade-Weighted Exchange Value of the US$
Moody's Corporate Bond Yield, Baa-Aaa
FF(right scale)
結局、「強いドル」は実体経済が好調な時はプラスに働くが、米経済が変調を来している際にはマ
イナスに働くということになる。では、景気が不透明感を増している時は「弱いドル」が好ましいの
であろうか。この点に関しては、巨額の経常収支赤字を抱え、海外からの資金流入にそのファイナス
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MIZUHO US RESEARCH
June 20, 2002
MHRI/FRIC
New York
を依存する米国にとって、ドル安は常にドル暴落に繋がるリスクがあることに留意を要する。経常収
支赤字がこのまま未来永劫拡大し続けることは不可能であり、どこかの時点でドル急落という形
で調整が行われざるを得ないということは、予てより理論面からも指摘されてきた通りである。
本日発表された 2002 年第1四半期の国際収支統計をみても、経常収支赤字の拡大傾向が明らか
である2 (図表4)。米国の経常収支は 1982 年に赤字に転じて以降、90 年代初頭にかけて赤字幅
を縮小し、91 年には湾岸戦争に伴う移転収支の増加もあって一時的に黒字に転じたものの、その
後は略一貫して赤字幅を拡大させてきた。2001 年の経常収支赤字は 3,934 億㌦と過去最高を記録
した一昨年(4,103 億㌦)比ではやや縮小したが、2002 年第1四半期は再び赤字の拡大傾向が顕
著となり、四半期ベースの実額で過去最高となった(昨年第 4 四半期 950.9 億㌦→第1四半期
1,124.9 億㌦)。経常収支赤字拡大の主因は貿易収支の悪化であり、それはもっぱら輸入の増大に
因っている。企業部門では急減した在庫の復元に取り組んでいるが、その際、増産の一部が輸入
増で代替されていることが影響しているとみられる。90 年代に多くの米企業が生産拠点の海外シ
フトを進めた結果、国内の増産は資本財を中心に多くの輸入を誘発する傾向を強めた。従って、
景気の回復局面では、従来にも増して輸入が増加し易い環境にあると考えられる。輸入の増加傾
向は、同じく本日発表された4月の貿易統計からも窺える(3月:1,108.9 億㌦→4月:1,160.5
億㌦)
。
図表4
20
経常収支の推移
$bil
%
2.0%
0
1.0%
-20
0.0%
-40
-1.0%
-60
-2.0%
-80
-3.0%
-100
-4.0%
As % of GDP(right scale)
Q1/01
Q3/99
Q1/98
Q3/96
Q1/95
Q3/93
Q1/92
Q3/90
Q1/89
Q3/87
Q1/86
Q3/84
Q1/83
Q3/81
-5.0%
Q1/80
-120
通常、景気後退期や成長率が鈍化する局面では、経常収支赤字は縮小もしくは少なくとも拡大
テンポは鈍化する傾向にあるが、景気循環に拘わらず一向に拡大が止まらない経常収支赤字を前
に、最近のドルの下落はついに「最後の審判」が下された兆候ではないかとの主張が勢いを増す
訳である。確かに主要先進国における経常収支赤字の調整メカニズムに関する連銀のサーベイで
なお、今回の国際収支統計の発表に際して、新推計方法の採用や最新情報を踏まえた統計の大幅
な改訂が行われた(1995 年以降のデータ)。その結果、主に米国の対外長期負債及びそれに伴う対外
利払いが下方修正され、経常収支赤字も従前に比して下方修正された(例えば 2001 年の経常収支赤
字 4,174 億㌦→3,934 億㌦)。
2
5
MIZUHO US RESEARCH
June 20, 2002
MHRI/FRIC
New York
は、経常収支の調整は赤字が GDP 比でみて5%に達した時点で始まり、調整過程で所得の伸びの
鈍化と実質為替レートの 10∼20%の減価が約3年間に渡って生じることが示されている。米国の
場合、第1四半期でみて経常収支赤字の GDP 比は 4.3%に達しており、過去の主要先進国の例に
照らせば「危機的水準」に近付きつつあることになる。基軸通貨国である米国においては、上記
試算結果を単純に当てはめることはやや無理があるが、巨額の経常収支赤字に絡む潜在的な調整
圧力がドル相場や長短金利のボラティリティを増幅する合、世界経済に及ぼす影響は甚大なもの
となる。
更に看過してならないのは、最近の経常収支赤字の拡大が財政の赤字化を伴いながら進行して
いること、即ち米国経済が「双子の赤字」に逆戻りしている点である。これは経常収支赤字が拡
大する一方で、財政の黒字化が進んだ 90 年代後半との大きな相違である。IS バランス上は事後
的に「民間バランス+財政バランス=経常収支」の関係が成り立つ。仮に財政部門が赤字になっても、
日本のように民間部門でそれを上回る巨額の黒字が発生していれば、事後的に経常収支は黒字となる。
これに対して、米国経済は、民間、財政バランスの双方が赤字となる中で、経常収支が大幅赤字とな
っているとの解釈が可能である(図表5)。
図表5
6.0
部門別 IS バランスの推移
As % of Nominal GDP:%
4.0
2.0
0.0
-2.0
-4.0
Household
Government
Q1/02
Q3/01
Q1/01
Q3/00
Q1/00
Q3/99
Q1/99
Q3/98
Q1/98
Q3/97
Q1/97
Q3/96
Q1/96
-6.0
Corporate
Overseas
注)統計上の誤差の存在により合計はゼロとならない
既に実施された減税や歳出拡大を受けて政府部門の IS バランスの悪化(投資超過幅が拡大)傾向
は続くとみられ、経常収支の動向は民間部門の IS バランスに依存することになる。民間部門は家計
と企業に大別される。企業部門に関しては、設備投資や在庫保有に係る資金需要の落ち込みを背景に、
近年、IS バランスは改善を続けてきたが、今後、在庫の復元が行われ、また、設備投資も緩慢ながら
も回復に転じることが予想される中で、企業部門の IS バランスは再び悪化(投資超過幅が拡大)す
ることが予想される。一方、別稿でも指摘したように 3 、米国のリセッションを軽微にとどめる上で
功績の大きかった個人消費が減速する中で、大きな流れとしては家計部門の IS バランスは改善(貯
3
みずほ US リサーチ8号「先送りされた調整∼家計貯蓄率を中心とする考察∼」
6
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MHRI/FRIC
New York
蓄率は上昇)して行く可能性が高い。もっとも、今のところ、個人消費の減速は緩やかなテンポに留
まっており、財政バランスの悪化を考え合わせると、今後、企業部門の設備投資が回復する場合、長
期金利に上昇圧力が生じるリスクがある。長期金利の上昇は、債務比率の上昇している家計・企業両
部門に負の影響を及ぼし、景気回復のモメンタムを阻害する方向に働くとみられる。一方、家計貯蓄
率が急上昇する場合は、民間部門全体の IS バランスが改善するため、設備投資が回復しても長期金
利の上昇は回避されるが、それは個人消費の急落によって景気がダブルディップに陥るリスクが高ま
ることを意味する。このように「双子の赤字」を抱えてしまったことにより、米国経済は景気の回復
テンポがなかなか加速しないジレンマに陥ることになる。
もちろん、海外からの資金流入に支障がなければ、個人消費増(家計貯蓄率の低下)、設備投
資増、財政赤字の拡大、経常収支赤字の拡大が、金利や為替の変動を招くことなく共存すること
が可能となる。そこで巨額の経常収支赤字がどのようにファイナンスされているのかに関して、
資本収支の動向をみてみよう。経常収支がモノの取引に焦点を当てているのに対し、資本収支は
その背後のカネの動きを捉えている4 。2001 年は、近年増勢を強めていた直接投資による資金流
入が企業買収の落ち込み等を背景に大きく減少する一方で、証券投資への依存度が拡大した。
2002 年第1四半期も同様の傾向が続いている。
証券投資による資金流入に鈍化傾向がみられるこ
と、安定的な資金という意味では直接投資による資金流入が望ましいこと等の問題は残るものの、
今のところ米国に世界の資金が集まるという傾向自体には大きな変化はみられない5 。
図表6 資本収支の動向
200
150
$bil
公的準備等
100
その他
50
0
証券投資
-50
直接投資
-100
資本収支
Q1/02
Q4/01
Q3/01
Q2/01
Q1/01
Q4/00
Q3/00
Q2/00
Q1/00
Q4/99
-150
4
本来、経常収支の赤字と資本収支の黒字の絶対値は等しくなる筋合いにあるが、実際には統計の
集計方法の違いによるズレが生じ、かなり巨額の「統計上の誤差」(Statistical Discrepancy)が発
生する。
5
但し、財務省が別途発表している月次ベースの証券投資統計では、毎月安定して証券投資による
資金流入がみられた昨年、一昨年に比べると、月ごとのボラティリティが増していることが示されて
おり(近年大幅な流入をみせていた欧州からの証券投資は、1、2月に流入テンポが大きく落ち込ん
だ後、3月に一転して急増)、投資家がナーバスになっている様子が窺える点には留意を要する。
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MHRI/FRIC
New York
第1四半期の経常収支赤字が拡大したことを受けて、ドルは対ユーロ、対円で下げ基調を強め
ている。確かに、投資家のドルに対する認識の変化を受けて、また、米国の IS バランスの調整
過程で、ドル高が多少調整される可能性は否定できないが、「強いドル」のトレンドが変わった
と判断するのは時期尚早と考えている。結局、米国は国際経済学でいうところの「大国」である。
ここで「大国」とは自国の景気変動や経済政策が、世界経済や金利水準に影響を与え得る国を指
す。昨年の例からも明らかなように、米国経済の失速は世界経済に様々な影響を及ぼす。米国の
景気鈍化は他国のリセッションに繋がりかねず、米国の利下げは世界的な金融緩和局面を招来す
る。その結果、米国にとって、景気格差や金利差に起因する大規模な資金フローの変化が定着す
る可能性は少ない。先ほど、
「双子の赤字」によって米国経済の回復テンポは加速し難い状況が
続くということを述べたが、それはとりもなおさず、日・欧経済も不冴えな状況が続く可能性が
高いことを意味している。
投資家のドル資産を保有するインセンティブがやや減退する傾向にあることは、見方を変えれ
ば、米国一国依存のグローバルマネーフロー体制から脱却する絶好のチャンスともいえる。こう
した好機を上手く利用できるかどうかは欧州、日本経済次第である。「強いドル」のトレンドが
本格的に変わるのは、構造改革によって日本経済が活力を取り戻し、また、通貨統合の成果が顕
現化して欧州経済が効率性を増した後となろう。それまでは、結局、米国、ひいては世界経済は
「強いドル」と共存して行かざるを得ないものと思われる。ワールドカップ・サッカーでは世界
チャンピオンのフランス、対抗馬のアルゼンチン、ポルトガルがまさかの予選敗退となり、米国、
韓国、セネガル等の新興勢力がベスト8に名を連ねる波乱が生じたが、国際通貨の世界ではドル
の支配が今暫く続くことになりそうである。
注)本稿は筆者の個人的な見解であり、情報提供のみを目的として作成されています。
8
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