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里道プロジェクト 平松家納屋の改装 - 東京理科大学・小布施町まちづくり
里道プロジェクト 平松家納屋の改装 東京理科大学・小布施町まちづくり研究所 ■納屋の状況(改装前) 屋根:錆びて朽ちてしまったトタンの上から、トラック 用の分厚いシートが被せてある。 壁:柱、貫、筋交い以外、何も施されていない。 床:土。雨が当たらないため、乾燥し土埃が舞う。 その他、農機具や使われていない古材などが大量に保管 されている。これらを、できる限り有効活用する。 小舞かき:2009 年 10 月 17 日~ 18 日 上)改装前の納屋 左から順に) ・農家が仕事の中で、様々な 用途で使用する、 「はぜ棒」 使用していないものが多く ある。 ・地面から掘り起こされた石 ・納屋に保管されていた古材 屋根・地面:2010 年 5 月 14 日~ 17 日 □地域の素材を、地域の技術で 新築するのではなく、今ある既存の建物を、地域の素材、 技術を用いて整備することで、地域の特徴が現れた、この 場所にしかない居場所が出来ると考える。 誰でも手に入るもので、地域の人々が簡単に施工を行え ることは、改修後の維持管理が容易に行えるという利点も ある。根曲がり竹や葦等、北信地域特有の自然素材だけで なく、納屋に眠っている古材、古瓦、石等、どこにでもあ 古瓦 根曲がり竹 葦 るものを素材として利用していく。 ■壁の補修 日差しや風のコントロールのために、土壁の下地となる 「小舞(こまい) 」を編む。 小舞には通常、竹が用いられるが、竹があまり採ること のできない北信地域では、 葦を使用するのが一般的である。 竹よりも強度の弱い葦は、二本ずつ束ねながら等間隔に 編みこんでいく。 葦小舞の、 繊細な編目から抜けていく光や風が心地よい。 上)編まれた小舞 密度を変えている 左から順に) ・間渡し竹を、柱と貫の間に 固定する ・間渡し竹に葦で小舞を編む ・葦と細縄で編まれた小舞 □「小舞(こまい) 」とは 小舞とは、間渡し竹で軸を組み、水平、垂直方向に葦を藁縄で編みこんだものであ る。小舞の内側と外側から土を塗り、仕上げたものが土壁である。 今回は、本来見えなくなってしまう小舞を、あえて全面に出すことで、光と風が通 り抜ける、この地域にしかない休憩所を目指した。 小舞下地の土壁 ■完成した納屋 ■屋根の補修 傷んでしまった屋根材(トタン・シート)を取り除き、 雨露を凌ぐことができる、必要最低限の補修を施す。 野地板や垂木などの保存を考慮し、湿気は透すが、水は 透さない、 「透湿防水シート」を採用した。 和紙のように軽く、丈夫であることから、屋根荷重の軽 減にもつながる。 透湿防水シートを押さえる為に、よしずを重ねる。 風雨にさらされるため、燻された葦が荒縄で編まれてい 上)完成した屋根 左)北信五岳に見守られなが らの作業 (透湿防水シート) る、ある程度耐久性のあるものを用いた。 さらに、使われていない「はぜ棒」を再利用して、よし ずの押さえに用いた。 ■地面の補修 まず、土埃が舞うほど乾ききった地面に、砕石を被せ、 叩き締めることで、地盤を安定させる。 安定した地盤の上に、土、石灰、砂利、少量のセメント □地元の職人の協力 を混ぜたものを均等に被せ、さらに叩き締め、 「三和土(た 職人の方に計画段階から相談に乗って頂き、当日 たき) 」仕上げにする。 も丁寧に指導して頂いた。素人の道具ではできな 柱の根元は、土の水分で腐らないように、古瓦を細かく い、材料の加工や調達などに関して、職人たちはな 割ったものを撒く。 くてはならない存在である。また、 長年の経験から、 内と外の境界には、 納屋に残されていた古材を再利用し、 三和土仕上げ 小舞の間を抜けて入り込む夕日 敷居を設けた。 空気中の二酸化炭素 □「三和土(たたき) 」とは 三和土とは、その名前の通り、土と石灰、にがりという、 三種の材料を混ぜ合わせ、叩き締めることで地面を舗装す (a)炭酸カルシウム (b)水和物 職人との打ち合わせで描いた、 無知な私たちの無理な提案と、職人の経験から来 屋根の施工スケッチ 小舞の編み方を丁寧に指導して頂く るアドバイスで、 納屋は新しい姿へと生まれ変わる。 土粒子 三和土が固まる仕組みは、 石灰が空気中の二酸化炭素や、 いる。にがりは、土の水分を保ち、石灰の反応をサポート も、私たちの計画には必要不可欠である。 □作業に参加した学生たち る、伝統の建築技術である。 土中の水分と反応し、硬化することで、土粒子を固定して 地域の気候にあった素材選びや工法についての知識 三和土の構造(INAX 総合技術研究所) する役目を果たしている。この石灰の反応には時間がかかり、本来ならば一週間ほど養生しておく必要があるが、 今回は少量のセメントを混ぜることで、初期強度を高め、養生期間を短縮させている。 近年、三和土の技術は、その経済性や耐久性、また自然環境への負荷の少なさが見直され、アンコール遺跡の修 復や、歩道の舗装へも応用され始めている。 左から順に) ・工事用の機械を用いて地面 を叩き締める ・腐らないように、柱の根元 に撒かれた古瓦 ・古材を再利用して、新たに 設けられた敷居 小舞かき(2009/10/17~10/18) 屋根・三和土(2010/05/14~05/17)