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「WB」vol.019(全ページ)
明転 A いつまでも女の子女の子言うんじゃねー! B 過ぎてるっつうの! こちとら AB 噓ばっかり! 噓ばっかり! ウォータープルーフ 噓ばっかり! AB 噓ばっかり! 噓ばっかり! ウォータープルーフ 噓ばっかり! 肩からたすきの女 A と B。 皆様が形作った列を見た時、私は目頭が熱くなりま ︵出張版︶ ご覧頂ければと思います。 ︵会長副会長目配せ︶ AB 噓ばっかり! 噓ばっかり! ウォータープルーフ 噓ばっかり! B えー、ウォータープルーフといえばもちろんマスカ ラですが、私長年疑問に思っていることがあります。 A あら、初耳。そうなの、副会長? B ええ、会長。お話し致します。男性の中にはあまり トルといいますのは、個々に多少の違いはあります ご存知ない方もおられるでしょうが、マスカラのボ ます。その中にマスカラ液というものが入っており、 が、だいたいぶっとい万年筆のような形状をしてい 内蔵のブラシを出し入れすることによって、マスカ ラ液をブラシにつけ、そしてそのブラシをまつ毛に 一はけ二はけするとあーら不思議、目元にインパク トが生まれます。私、今となってはマスカラなしの 人生なんて 日たりとも想像したくありません。我 が人生で消費したマスカラの本数はある時点で我が と思います。そしてまさにその時こそが、私が大人 人生で消費した鉛筆の本数を上回ったのではないか の階段を上った時ではないかと思います。まあそん な人生走馬灯はいいのですが、そうしてマスカラを 使い続ける中、一つどうにも拭いきれない気持ち悪 さがあったのです。それはですね、マスカラの替え時、 これは一体いつがベストタイミングなのだろうか、 ということでございます。マスカラ液が一液も残ら ないほど使い切ったという経験もないですし、マス まことしやかな もあります。ボトルの中の様子が カラに関しては使い切る時が替え時ではないという まったく伺えないため、これはもうすぐなくなるぞ という目測がまったくつかず、落ち着かない思いで す。いっそマスカラのボトルがハミガキ粉のチュー ブのように、使った端からつぶしていけるような単 純明快な構造をしていてくれたら。内部の秘密を解 え 世に、土偶展に並んでいるあなた方は本当に素晴ら B 時間待ちです。 皆様あっての A 先日土偶展に列ができているという情報をキャッチ した時、私は胸にポッと小さな灯が灯ったような心 持ちになりました。そんなことがあるのかと思いま した。そうして本日その情報が真実であるかどうか A えーはじめてお目にかかります。我々[ちふれ]と チを取り出し目頭を押さえる︶ した。ああ、またぶりかえしが。︵Aポケットからハンカ らうべく、やってきたのですが、実際博物館の前に を確かめるべく、また真実であるならば皆様をねぎ 申しまして、社会にはびこる噓をあばくため日夜活 ︵Bもハンカチを出し同じ動作︶ 失礼しました。正直私は日本の未来は明るいな、と 思ったのです。うれしかったのです。不況だと言 と人それぞれてんでばらばらな方向にダッシュする いつつも、おしゃれだロハスだ二次元だサブカルだ、 現代社会。けれどなんだかんだ言ったって土偶展に である、ということなのです。普段は職場近くの公 園を拠点として活動しておりますが、本日は皆様に 超越した力があるのです。H&Mに列ができる日本 列できるんじゃない、と。土偶展には人類を束ねる な日本が大好きです! 日本もまだまだ捨てたもの じゃない。そのことに気付かせてくれた土偶展とあ A えー、本題はこれで済みましたが、 時間待ちの列 と礼︶ AB ありがとうございます!︵2人高校野球の選手のように深々 たいです。あなた方は希望の星です。本当にありが なた方に、我々[ちふれ] 、心からの感謝をお伝えし よりも、土偶展に列ができる日本が好きです。そん B 出張[ちふれ]でございます。 A それにしても上野なんてひさしぶりね、副会長。そ れにいい天気だこと。︵微笑んで空を仰ぐ︶ とうございます! 晴らしい、皆様は素晴らしいです! まずそれをお 伝えしたかった。本当に感服しております。感服す れ]が皆様にお伝えしたいこと。それはですね、素 B ︵同じく微笑んで空を仰ぐ︶ そうですね、会長。 A 、そ えーコホンッ ︵周りの空気に気が付いたように咳払い︶ れでは早速本題に参りたいと思います。我々[ちふ してここまでやって参りました。 どうしてもお伝えしたいことがございまして、こう すべて[ちふれ]であり、つまりは我々も[ちふれ] 要するにですね、女性が団体を結成したら、それは 式名称をご存知でしょうか? ﹁全国地域婦人団体 連絡協議会﹂です。なんて間口の広い名称でしょう。 動しております、皆様、化粧品会社[ちふれ]の正 1 の中、皆様少々退屈もされていることと思います。 たけなみゆうこ しい! B 時間待ち! トレビアン! しかも A この 時間待ちは誇りに思っていい 時間待ちだと 思います。 1 1 せっかくですので我々[ちふれ]のいつもの活動を 1 設定 東京国立博物館の前。 ることしきりです。列ができる場所といえば、開店 と読んでください。 聞き入るリアクション。 おでこにはちまき、 前のH&Mしかないのではというこのわびしいご時 「私」はすべて「わたくし」 A はかたずを飲んで 30 1 1 バカバカしく演じてください。 のようにすがすがしく演じてください。 強くうなずく。 今回もこれ以上ないってくらい 小津監督の名作、 「お早よう」のラストシーン B もうんうんと してください。 客フリ そして替え時の目安を構造的に理解できたなら、今 入っていてどう減っていくのかを見せてもらえれば、 一度でいいのです。マスカラ液がどれぐらい内部に な容器に入ったマスカラを販売してほしい。たった すこぶる曖昧模糊な状態です。ですから、一度透明 んとなくそろそろかな?﹂とぬるっと判断していて、 神秘に挑みたくなる時もしばしばです。今の所、 ﹁な フィーユのように年齢を重ねたい﹂ですか。土偶ぐ 気とか運気とかうるさいよと思います。何が﹁ミル をこちらに押し付けてくるのはやめて頂きたい。景 て一番良い時だっただけで、自分の思い出アルバム かいないからです! いくらバブルの頃が楽しかっ たか知りませんけども、それはあなたの人生にとっ 覚えたくらいです。なぜなら誰も乗り損なってなん ました。正直な所、バブル世代にはじめての殺意を り損なった方 この次こそ ご一緒に﹂とか歌って おられまして、これには笑いを通り越して腹が立ち 明するべく、マスカラのボトルを叩き割り、世紀の です。政治だけではなく、化粧品にも透明性が叫ば 後安心してマスカラと付き合っていけるというもの ルにも透明性を! A 副会長、素晴らしい着眼点です。成長しましたね。 皆様、ともに叫びましょう。 て参りましたので、ここで終わらせて頂こうと思い まだまだ言いたいことはありますが、閉館時間が迫っ れでは副会長、私たちも僭越ながら列に参加させて [ちふれ] 、こんなにうれしいことはございません。そ ます。皆様の退屈しのぎにでもなっていれば、我々 代とは何だろうかずっと考えております。きっかけ AB マスカラボトルにも透明性を! A 副会長、ありがとう。皆様、副会長に大きな拍手を! B ︵腕時計を見て慌てて︶会長! 時間です! A あら、大変。長々とご清聴ありがとうございました。 らい長生きしてから言ってみろ。 出してください。 れている昨今ですが、ここは一つ、マスカラのボト いそいそ感を それでは次は私の番でございます。実は私、最近世 頂きましょうか。 B ええ、この列の末席に加われるなんて光栄ですね、 会長。 Matsuda Aoko ︵2人、うきうきと下手にはける︶ A ほんとね、副会長。これは未来へ続く列よ。 B あらすごい、最後尾があんなに遠く。 A 楽しみねえ、土偶。 B 楽しみですねえ、土偶。 暗転 松田青子 Ta k e n a m i Yu k o 身近な物事や人がむらがる流行を、半歩ずれたところから眺め、たっぷりのユーモア と適量の毒を含んだ文章で切り取る、期待の新人作家。 たけなみゆうこ ﹂で読 脱力感ただよう線描から、建築パースまで幅広く手掛けるイラストレーター。 ﹁ウォータープルーフ噓ばっかり!﹂の本 は、 ﹁早稲田文学③﹂ ・増刊﹁ むことができます。 はずしながら移動。 JASRAC 出1004299-001 はちまきとたすきを は、一曲の歌でした。先日とある歌番組で、とある 歌手の特集をしていまして、で、私も 代の頃よく 聴いたなあなんて懐かしい気持ちで観ていましたん ですけども、新曲が出たということで、ご本人のイ ンタビューが流れたのです。かいつまんで言います と、 ﹁最近の世の中はみんな元気がないので、でも私 で、この歌でみんなを元気にしたい﹂ということで はものすごく活気があった頃の日本を知っているの した。で、薄々嫌な予感がしつつ観ていれば、その 新曲﹁とろけるリズム﹂の歌詞がですね、 ﹁世界中バ テぎみの中 女は常にマイペース 運気は景気良く アゲアゲです﹂ ﹁彼氏が今 プチ不調 自腹切って助 けちゃおう!﹂ ﹁年齢不詳モテキャラで ミルフィー ユのように年齢を重ねたい﹂ ﹁最強ウェーブに乗って GO GO ﹂など正気かと思う ストッパーはずせ ようなセリフのオンパレード。しかも﹁前の波に乗 U 30 10 ﹁ トークショー ﹃青脂﹄を読む ﹁出張 早稲田文学﹂吉祥寺ゼミナール∼ウラジーミル・ソローキン 望月哲男 松下隆志 市川真人﹂開催決定! 六月十二日︵土︶吉祥寺﹁百年﹂にて。詳細は こ ん な 事 に な っ て し ま っ て い ま す 7 体 の う ち の ト ル ス ト イ 4 号 と い う 不 思 議 な 設 定 で す 執 筆 活 動 を 行 う と 生 ま れ る さ れ た ロ シ ア の 古 典 ・ 有 名 作 家 が ﹁ 青 脂 ﹂ は ク ロ ー ン と し て 再 生 お材永こ 話料久の なのエ物 の﹁ネ語 で青ルは す脂ギ 2 0 が﹂ をー 6 獲を 8 作 得る年 した、 よ うめ との す る ﹁ウま 青ラず 脂ジ一 ﹂ー方 ! ! ミの ル A ・面 ソに ロは ー キ ン の 出早 ま稲 し田 た文 ! !学 の 3 号 楽ど しち めら まか すら よも ! ! ﹁ 体黙 声細 に読 ﹂胞 と が一﹁ 熱つ言違 と一葉い しつ﹂ が朗 てに伝読 残 わは り る ま 気頭 し がだ た しけ まじ しゃ たな く ﹁ 聖特 家別 族付 ﹂録 のと 朗し 読て D 古 V 川 D 日 2 出 0 男 0 さ 分ん ! !本 人 に よ る 面 白 い で す 立 ち 止 ま る 事 を 許 さ れ 歩 き 出 し た ﹁ 子 供 ﹂ と ﹁ 悲 劇 ﹂ が お 好 き ﹂ な ど 間 の ﹁ 文 学 ﹂ の 距 離 が な く な っ た ﹁ 大 人 ﹂ の し ま し た よ 物全あ言何 語てたえと っをたなも て かい る い 気 空 が 気 が ﹁ 国 語 教 科 書 は な今 ん号 とも 両 A 面 ! ! 斎対な﹁重西 藤談ん親松原 美やだ子清理 奈 ろっさ恵 子 うてん子 さ ﹂ のさ ん ん と か も し 出 す 娘 さ ん の 笑 顔 が 東 浩 紀 さ ん と 表 紙 ・ グ ラ ビ ア の ﹁ コ ド モ と / の / に / 文 学 ﹂ 篠 山 紀 信 撮 影 A 面 の 特 集 は も う 一 方 の ﹁ 文 学 ﹂ 子 供 と 大 人 の 間 の *第23回早稲田文学新人賞選考委員をされました。受賞作・青沼静哉「ほか♨いど」ものってます! 夏 に お 会 い し ま し ょ う モ ー ニ ン グ ・ ツ ー で 第﹁ 草 2 子 話ブ 執ッ 筆ク 中ガ ! !イ ド ﹂ お ま け の お 知 ら せ 早 稲 田 文 学 は な る よ う な 気 が し ま す 道大そ 標切の にな中 何か から を自 見分 つに けと るっ て ― にて近日告知予定。お問い合わせは 〇四二二 二七 六八八五︵百年︶まで。 http://www.100hyakunen.com/ ― 小 説 を 書 き あ げ る と ク ロ ー ン は 仮 死 状 態 に … 百年 サイト OLD/NEW SELECT BOOKSHOP ― 入 り 青 脂 が た ま っ て い く の だ そ う な 草 子 で す ! あ ふ れ て く 情 報 が 窒 息 し そ う な ほ ど 変 身 し て い く 時 代 目 ま ぐ る し い 速 さ で 色 ん な も の が 興 味 深 い で す そ れ ぞ れ の ﹁ 変 身 ﹂ 、 作 家 さ ん の あ ろ う 5 人 の 存 在 し て い た で デ ジ タ ル が 身 の ま わ り に 生 ま れ た 時 か ら ﹁ 増 構 30 変刊成歳 身のさ以 ﹂ テれ下 ーての マい人 はる達 で の お 知 ら せ も ! ワ セ ブ ン ユ ー サ ン ジ ユ ウ そ し て 増 刊 言古 葉川 日 出 男 さ ん の 04 P O P ン ョ シ ∼ ベ リノ ❸ ワセブン POP のつくりかた ① POP を切り取り線にそって切る。 ② 4 つ折にして、矢印からふくろを開く。 ③開いたふくろをつぶす。 ④裏返して、同じようにふくろを開いてつぶす。 ⑤出来上がり。 この数年、販促ツールとして注目を集める POP。店頭で読んで「これ書いたひと、わか ってる!」とニヤリとしたひとにとっては、自分と書店を繋ぐツールとも言えます。だった らぼくらも! やってみたい! そんなわけで、本誌デザイナーとともに、書店を訪ねてみ ました。第三回は、紀伊國屋書店新宿本店・藤本浩介さんと、デザイナー・奥定泰之さんで す。現在発売中の「早稲田文学③」と増刊「U30」関連の POP をつくっていただきました! (紀伊國屋書店新宿本店:東京都新宿区新宿 3-17-7 TEL:03-3354-0131) 全 4 面の POP は、貼り付け方次第でいろんな見せ方ができます。詳しくは、 早稲田文学ウェブサイト(www.bungaku.net/wasebun/)で! 異性になりたい、 というのが今の欲望のモードなのかもしれない。 「30歳以下の書き手」たちが捉えた欲望のかたちをぜひ一読あれ! 木堂椎「笑い飛ばして、笑い飛ばしてよ」、 早稲田文学③・U30 短篇競作〈変身〉 。小林里々子「ぼくのあな」 、 ィの愉しみ パロデ と思うほど、 トランスセクシュアルがテーマとなる 読書の喜び 「男子の本懐」 とは、 り 折 山 山 折 り 2 著 そ 共者 ん 通名 な ウ こす と考 ラ え 青 ﹁傑ん る タ が ジ 小 の ー イ頭 沼 早作 説 は な ト を ミ静 の 言 稲 ホ田 ル 偶ル よ ・ が こ葉 哉 に ー文 然に ぎ ソ﹁ とで最 ム学 ぶで﹁ ら ロ か最高 ほ ー ず は青 に ラ③本 ももの キ か っ ﹂ 無﹂ は ン ンは し楽小 も の い ﹁♨ れ し 飛 い一 王、 な 青い な く 説 文読 は 文 で学 い 脂ど い遊と ん ず め 2 す界 字 ⋮んは ﹂ だ 篇 は﹂ と が ⋮ だ !のるだ 。 。 、 、 谷 折り 女性化することなのか?…… ︵ フ ァ ウ ル 疑 惑 ☆ 検 証 中 ︶ 谷 折 り 間宮緑「禿頭姫」 。 何者かに変われるとすれば、 切り取り線 稲 ま 稲 の れ﹁ シ 作 あ ン 本 学 脂 ジ を 事 こ こ た 一 載 ち で 広 田 ず 田 に る 紙 そ ー ﹂ の で の り ア に 文 は 文 示 現 の 労 な の と 作に さ 望 は く 。 の 代 ミ も 20 、 つ い 日 訳 を 品あ れ ま 話 海 文 い 画 世 知 表 本 ル目 学 1学 唆 在 本 外 題 学 た る れ か 的 、 が た 本 出 祝が て 期 紀 ら 的 作 ・玉 ③ 年 い 語 困 福日 る の て に 文 愛 は と 最 れ な は ソの ﹂ ぶら な 本 亡 の 学 。 い は 好 本 雑 の び 。 難 。 に し り同 か な 後 て 書 、 ロひ 時 誌 未 る 本 定 な た語 ま 、 た ぼ フ 者 ね る の い き 現 ーと の り ァ 。 の 発 が 来 作 着 テ いと ず 全 つ 新 売 2 を﹂ て 作 長 る 手 代 の さ キ 。し は 体 こ 、 ン み か 品 編 ソ と ロキ が 刊 の 翻 ん ン の 、 て な ス さ 冊 考と つ せ 、 そ ら だ 小 ロ し シ ﹁ れ 、 え 言 づ た ト し読 こ 三 か 訳 あ ら 、 。 説 ー て ア ﹁ ウ い が 早 た 早 る わ ず ロ 本 で キ 日 文 青 ラ き 訳 を てめ う 分 い 。 を 者 見 、る し の 掲 待 だ 、 購 い 訳 待 ク ら 有 て い 得 題 導 あ 紹 さ 読 こ さ 望 そ も に 生 号 ナ さ の ン 介 そ る 界 と 不 に の 数 た ロ が 名 再 の れ げ ロ 文 ボ い ︵ も ね 前 な 2 ル グ れ 的 す と れ す れ 入 浩 ら デ 一 々 可 が う ︶ 作 た と ロ っ と さコ ド ーる 作 生 。 た 関 な 国 す て す 紀 な チ 0 る 現 ど 学 た 本 方 と 思、 し も 品 り 家 る 、 る を て る わ め 青 ィ 家 の さ の も フ ﹂ ス ン 読 る の 想 ャ 0 や 代 ﹂ 新 全 た 本 の 、 同 テ た は ら と、 と 脂 極 る 、 的 と 簡 こ 言 か だ に 。 選 像 ー 0 ニ 的 の人に に、 ダ﹁ も議 編 S 作パ ド じ ス 彼 似 に7 ト は と よれ は 秘 と 永 プ 、 単 と わ ら 者 対 た 号 な ソ な ら コ て エ に ク 、 賞 を 年 く ず こ ぜ 評 力 の あ 依 を F のロ ス 青 、 研 さ 久 ロ 時 に ジ青 に い る ひ よ ﹂ ﹁代 ニ 意 沼受し っロ ャ脂 語造 お 的 読デ ト ら で の も と、 フ ん う 執ロ ク 究 れ エ ジ は 本 オ に な は 、 シ ト ー ス 、 ど 、 語 ス な 以コ 匠 静賞 併 り ︵ エ い 笑 描 似 4 。 筆 アロ が る ネ ェ 2 作 第て キレ﹂ ら 、お = みィ ル 読 ︶ 選集 降動 う 文 ど︵ フ 奇 え 写 つ 体 スキ 作 登 活 のー 行 青 ル ク 0 のス い と 全 哉 作 23 想 ン に と れ 団 か 画 メ ま ケ 文 が る 考 妙 の さ を ー 家 = ス 像 ま 同る卑 ダ 学 場 動 古ン わ 脂 ギ ト 6 物 す す チ が れ 作 委的 ウ と 2は ﹁ 回 力が み 様。 猥 ジ 的こ ク キ に の な ない ト 2 ー が 8 語 の れ と で た す ほ 早 ろ い る 典 イ た 品 員で ェ い ち 号 語 ャ な だロ ー 変 だ ん い 問 主 年 をる ぐ 臭 翻 ﹁ れ に ︶ 4 、ち る 得 ・し て 獲 。 い に ・ 匿 ブ っ ゃ か か 稲 を 、 の レ 世 。ー ら 形 が と 姿 。 パ 、 。 導 東 名 カ た ん に ♨ 田 広 紙 な 、 │ │ 切 り 取 り 線 ご当地 文学 Saito Minako 斎藤美奈子 広島県の尾道は林芙美子の町である。尾道駅に近い商店街の入り口に 古里温泉︵ここにも芙美子の文学碑と像がある︶。そしてこの後、 ﹃放浪 館や文学碑がある︶。ついでにいえば本籍は母の故郷・鹿児島県桜島の 旧作異聞 年生。 年、 ﹃妊娠小説﹄で評論活動を は じ め る。 古 典 と ベ ス ト セ ラ ー、 時 事 問 題 か ら マ ン ガ・ ア ニ メ ま で、 題 材 の 硬 軟 を 問 わ ず 舌 鋒 鋭 く 論 じ る 著 作 に は、 読 者 の 物 の 見 方 を ひ っ く り 返 す﹁ 目 か ら ウ ロ コ﹂が満載。 ﹃文芸誤報﹄ ﹃本の本﹄など。 はカバンを傍らにしゃがみこむ芙美子の像が建ち、観光名所である千光 夫が住む尾道に彼女が帰ったときの記述である。 尾道が登場するのは第二部の真ん中あたり。八月のある日、母とその で、ぜひご覧ください。芙美子﹂と書かれた看板が出ていた。林芙美子 ︵ 大 正 一 一 ︶ 年 か ら 五 年 に わ た る 雑 記 帳 か ら 一 部 を 抜 粋 し た 本 で あ る。 逆 に い う と、 こ の 部 分 以 外 に 引 く べ き 箇 所 は 見 つ か ら な い。 ﹃放浪記﹄ ろう。千光寺山の文学碑にも、だからこの部分が引用されているのだが、 ﹃放浪記﹄の中でも、ここはもっとも美しい尾道の描写といっていいだ は尾道を描いた作品ではないのである。 浪記﹄には、この正編、続編、戦後発表分が、第一部、第二部、第三部 残りが公表されたのは戦後になってからのこと。現在の新潮文庫版﹃放 を出版した。しかし、当局の検閲を恐れた未発表部分はそれでも残った。 出版元の改造社は、続いて同じ雑記帳から別の部分を拾った﹃続放浪記﹄ も に 尾 道 に 移 住 し た 子 ど も の 頃 を 描 い た 小 説 デ ビ ュ ー 作﹃ 風 琴 と 魚 の ほとんど書き残していない。唯一の例外は行商で生計を立てる両親とと って思い出深い土地であるのは事実だろう。が、芙美子は尾道のことを を志したのも尾道での女学校時代である。その意味で、ここが彼女にと 歳まで、約六年間をすごした町だ。初めての恋愛をしたのも尾道、文学 尾道は芙美子が小学五年に編入した一三歳から女学校を卒業する一九 として収録されている。同時期の内容が三度も螺旋状にくり返されるの 町﹄で、これは戦前の海辺の町の活気が伝わる好短編だけど、尾道市の を大事に大事に愛でることで尾道の林芙美子観光は成立し、一方、肝心 かくて作家の年譜と﹃放浪記﹄の中のほんのちょっぴりの尾道の記述 観光資源としては地味すぎると判断されたのだろうか。 ﹃放浪記﹄第一部は︿私は北九州の或る小学校で、こんな歌を習った事 の町とテキストの間には、不思議なねじれが生じているのだ。 の﹃放浪記﹄の中に尾道を探そうとすると裏切られたように感じる。こ そう、林芙美子の生地は北九州の門司なのだ︵門司にも芙美子の資料 があった﹀と書き出される。あれっ、九州なの? 道にかんする記述を探すと、これがまた意外と少ない。 という風に一筋縄ではいかない﹃放浪記﹄なんだけど、この中から尾 だから、頭が混乱するのも当然なのだ。 記﹄が出版されたのは一九三〇︵昭和五︶年だが、評判がよかったため、 もうひとつは、この本の構成がたいへん込み入っていること。﹃放浪 詩あり、読んだ本の感想あり、日記風の記述あり、日々の悩みを綴った ていた﹀ 向うにドックの赤い船が、帆柱を空に突きさしている。私は涙があふれ 拡がって来る。赤い千光寺の塔が見える、山は爽かな若葉だ。緑色の海 汽車が尾道の海へさしかかると、煤けた小さい町の屋根が提灯のように ︿海が見えた。海が見える。五年振りに見る、尾道の海はなつかしい。 これ。どうなってんの ﹂と思うにちがいない。 しかし、﹁では原作も﹂と思って﹃放浪記﹄を手にした人は﹁なーに は尾道市民に愛されているのだなあ、と訪れた人はみな思うだろう。 し離れた市立図書館にも﹁私のコーナーがこの図書館の中にありますの 記﹄の舞台は東京に移り、女中や女工やカフェの女給など、職を転々と 94 した彼女のフリーター生活が綴られていくことになる。 56 寺公園には﹃放浪記﹄の一節を採った芙美子の文学碑。その近くの﹁お 『放浪記』 のみち文学の館﹂の一角には芙美子の書斎を再現した記念館があり、少 (新潮文庫) 箇所あり。今日の感覚でいえば、ブログみたいなものなのだ。 読み物ではないってこと。﹃放浪記﹄は芙美子が一九歳だった一九二二 理由のひとつは、小説のように登場人物やストーリーがはっきりした !? 06 vol.19 編集・発行 Published by 大日方純夫 Edited by 芳川泰久(Editor in Chief) 窪木竜也 朴文順 07 奥定泰之 momoko p09 青木誠也 山崎貴之 矢萩多聞 p02-03 都丸尚史 和野潤 早稲田文学会/早稲田文学編集室 169-0051 東京都新宿区西早稲田 1-9-12 小池第一ビル 203 TEL/FAX 03-3200-7960 http://www.bungaku.net/wasebun/ 青山南 江中直紀 貝澤哉 十重田裕一 三田誠広 山本浩司 市川真人 (Concept & Direction) 印刷 凸版印刷株式会社 112-8531 東京都文京区水道 1-3-3 TEL 03-5840-4845 FAX 03-5840-1676 http://www.toppan.co.jp/ ▼春は出会いと別れの季節、だからではないけれど、谷川氏 + 枡野 氏の「子アリ・バツアリ」対談は後からじわじわ効いてきます。深 夜に自室で読むことをオススメ。▼今号も様々な方の力を借り、ご 迷惑をかけつつ、本誌と増刊発売お知らせ号をお届けします。 (K) ▼次号 vol.20 からリニューアル予定。今号広告マンガをお願いした 玉川さんや、話題のアノひとやあのひとの連載も? K くんが進行 ぜんぶ切り盛りしてくれるぶん企画に専念できてます。乞う御期待。 ▼望月旬々氏の連載は編集部都合でお休みです、すみません。 (Ic) ノリオ ・ モブ Special thanks to フリーペーパーなんだから、 街へ出てゲットしろ、 もしくは郵送で送ってもらえ、 俺の文章はデータじゃねえよ。 Design 2010 年 4 月 25 日発行(年4回刊) 横山絢音 福井咲貴 立花聡子 関口拓也 近藤景亮 より引用︶ e-mail WB Waseda Bungaku Free Paper ︵※編集部注 モブ・ノリオ氏の ⋮という著者の意向により、﹁絶対兵役拒否宣言﹂は紙版でのみ掲載しております。 : ❾ い い に い 身 書 笑 笑 て と 床 姿 胸 声 う あ 持 に 微 子 に ゃ 切 る 込 あ た 体 室 い ん 見 し に を に が 淡 に あ つ 小 呼 笑 供 こ っ れ 。 ん ふ 。 の が 声 で る た は 現 四 し 々 教 そ 自 さ び む ら の た 切 だ れ い 奥 ぐ が い こ 線 し す 角 た と 室 う 分 く さ 大 し 板 な れ こ 出 ま へ し 花 る と を る 。 い 。 続 で だ の 潰 ま 人 く を ど に と し 、 落 ゃ の の は 描 影 ぼ 図 本 い は 、 手 れ さ の は 挿 と 吐 ば て 誰 ち ぐ よ だ で き が ん 書 を て な 今 と た れ 口 し さ 言 い と し か て し う ろ き だ 揺 や 室 握 い く は 、 文 た 元 ゃ ね わ た 、 ま に い ゃ に う な し ら り が る た 、 美 ぬ 字 苦 を い ば れ 息 外 い 顔 く に 散 。 い 、 い と 生 手 足 図 袋 る が い 見 で な る へ そ を 間 な っ 振 が 美 で 人 ま が 音 書 先 い 寄 気 て み ら の を 遮 零 う 覗 、 る た り 、 袋 起 の れ 震 が 室 生 机 る 持 は せ な も っ れ だ か 目 。 。 向 小 先 き 形 、 え 止 に の の 辺 ち ぞ る い さ て だ っ れ は 押 胸 こ さ 生 上 を 音 る み 来 ﹁ 感 な に っ ク の る し た た 乾 し の う な の が し も の 、 て 読 触 く 顔 と ラ が こ 、 そ 。 な い つ 奥 と 声 形 る た な を 後 い 書 が 揺 が し ス ひ と チ ャ う 目 ら た ぶ が す に に 。 色 く 隠 ろ る の 波 れ 歪 た メ ど な イ な が 、 ま さ 静 る 耳 な そ が 本 し の の 時 の て む も イ く が ム 文 濾 目 ま れ か 身 を る れ 本 棚 て 方 だ 間 よ い 。 の ト 癪 ら が 字 し か 茶 た に 体 傾 。 は を が 瞼 で っ ﹂ う る 焦 だ を だ 、 鳴 が て ら 色 残 焦 を け 影 や 手 並 を 遠 た で に 。 点 っ 眺 っ 本 っ せ 身 こ い 骸 げ 押 る は が に び き 慮 。 、 押 瞬 の た め た を た め 体 と 字 が 、 し 顔 真 て し 机 つ が い し く ぼ 。 、 。 抜 。 ぎ の ば を 丸 四 止 は 黒 ほ て と く ち つ 寄 と や 満 そ い あ 内 が 映 ま 角 め 薄 に っ 座 椅 閉 な も せ 、 け 足 し た っ に 一 し っ い た く 濡 そ し 子 じ 囁 の た 本 た げ て あ て 吸 斉 て て 図 時 微 れ り 、 が た き よ 。 を 目 に 、 と 、 。 見 て 、 水 島 君 は 大 人 っ ぽ い 本 を 読 む の ね 、 先 生 び っ く り し ち を 借 り た の だ と 声 高 に 叫 ん で い る の が 見 え る 。 貸 出 カ ー ド を 目 を 凝 ら せ ば 、 そ こ に ひ ら が な で 書 か れ た 名 前 が こ こ か ら 本 が 挿 し こ ま れ る 。 そ の 、 ざ ら り と し た 白 が 本 棚 を 染 め る の に あ っ た の で 、 本 棚 か ら は 次 々 と 本 が 取 り 出 さ れ 、 替 わ り に 板 授 業 の 時 は 、 必 ず 一 人 一 冊 本 を 借 り る と い う の が お 約 束 で く 憶 え て い る 。 図 書 室 は 、 平 生 の 静 け さ が 破 ら れ 、 ぐ ん と 明 る か っ た の を よ 時 た ま 、 思 い 出 し た か の よ う に 突 然 授 業 で 連 れ て 行 か れ る n a n a k i k a e 本好きがこうじて手製本やブックカバーまで自作してしまう 「文学少女」 。ブログ日記「日々是読書(http://gosui.exblog. jp/) 」が人気を博し、 「彷書月刊」で連載を持ちつつ、風呂敷 に教科書や本を包んで学校や図書館通い。永遠の愛読書は『崖 の館』 (佐々木丸美) 、 『自負と偏見』 (オースティン) 。 ③ 夜 果 て の キ ャ ラ バ ン 絶 え る こ と の な い 望 み は 、 果 て ぬ 夜 が 遠 い 朝 を 追 う さ ま に 似 て い る 。 じ 混 じ る 苦 さ に 、 本 を 閉 じ た 。 そ の 時 の 後 ろ 姿 が 、 茶 色 い 行 間 に 溶 け て い る 。 古 い 本 の 甘 い 匂 い に ひ と す あ の 日 、 美 袋 先 生 は そ れ だ け を 言 っ て 去 っ て し ま っ た 。 そ う 。 新 く ん と い う の 。 私 は 美 袋 で す 。 四 月 か ら 週 に 一 度 授 業 を 持 ち ま す 。 な く な る 。 口 を つ い て 出 た の は お 礼 で は な く 、 名 前 だ っ た 。 は 不 思 議 そ う な 顔 を し た 。 静 か な 目 に 、 き ゅ う に 何 を 言 え ば い い の か わ か ら が 出 て い く と こ ろ だ っ た 。 呼 び と め た 廊 下 で 、 本 を 開 こ う と し て い た そ の 人 の 方 に 祖 父 の 本 が 挟 ま っ て い た 。 引 き 戸 の 立 て る 音 に 振 り 向 く と 、 細 い 人 影 で は な か っ た よ う に 思 う 。 気 が つ け ば 分 厚 い 辞 書 類 が 高 く 積 ま れ て お り 、 下 本 に 熟 れ た 指 が 紙 の 上 を す べ る の を 見 て い た の は 、 そ ん な に 長 い 間 の こ と る め た 。 き れ い に 外 れ て い る か ら 、 だ い じ ょ う ぶ 。 告 げ ら れ た こ と ば を 咀 嚼 す る の に 大 分 か か っ た 。 頷 く と 、 そ の 人 は 唇 を ゆ 直 し ま し ょ う か 。 大 切 な 本 な の で し ょ う 。 の 中 に 閉 じ こ め ら れ て 見 上 げ た 先 に は 、 知 ら な い 大 人 が 立 っ て い た 。 ふ た つ に 分 か た れ た 本 を 見 つ め て い る と 、 目 の 前 が 翳 っ た 。 細 く 伸 び た 影 書 室 で 開 い た 時 に 、 は た り と 音 が し て 、 表 紙 と 本 文 が 離 れ て し ま っ た 。 か っ て い た 。 そ の ま ま 何 度 か 読 ん で い た の だ が 、 ち ょ う ど 一 年 前 の 今 頃 、 図 と い う 響 き が す き で 読 み 始 め た 時 に は す で に 綴 じ 糸 が 緩 み 、 表 紙 が 剝 が れ か と い う 一 文 か ら 始 ま る こ の 本 は 、 も と も と は 祖 父 の も の だ っ た 。 ぬ る い 夜 ぬ る い 夜 を は し る 獣 が い る な ら ば 、 そ れ は 人 の か た ち を し て い る 。 ら か い 本 を 開 く と 、 古 い 本 の 匂 い が 立 ち の ぼ っ た 。 は 茶 色 に 染 め た 紙 を 綴 じ た も の で 、 時 が 沁 み た よ う に け て い る 。 綴 じ の 柔 す と 、 ゆ っ く り と 天 鵞 絨 の よ う な 手 触 り の 表 紙 が 顔 を 出 す 。 厚 み の あ る 本 文 に 感 じ ら れ 、 紙 で 作 ら れ た 函 の 角 を 指 で る 。 函 の 側 面 か ら 覗 く 本 の 背 を 押 葉 擦 れ に ま ぎ れ 、 と ろ と ろ と 薄 ら ん で い く 。 膝 に 載 せ た 本 の 重 み だ け が 身 近 こ の 四 角 く 薄 暗 い 部 屋 で は 、 何 も か も が 遠 い 。 外 の ざ わ め き す ら や さ し い 押 し 当 て る と 、 薄 桃 の 花 が 揺 れ る の が 見 え る 。 あ と ど れ だ け 本 を 読 め ば お れ の 足 は 床 に つ く よ う に な る の だ ろ う 。 窓 に 頰 を そ う し て い た よ う に 張 出 窓 に 腰 掛 け る と 、 浮 い た ま ま の 上 履 き の 先 が 見 え た 。 放 課 後 の 図 書 室 は 春 の 気 配 に 泥 ん で た ゆ た っ て い た 。 美 袋 先 生 が い つ し か 08 World 3 ぼくは勇者に向いてない『残像に口紅を』編 “ 「やるつもりだし、もうやっているのかもしれないよ」佐治はまたに は『残像に口紅を』を読んで、はじめて「小説がどう語られるか?」 『残像に口紅を』という小説は、奇妙だ。 に興味を持った。音がなくなりモノゴトが消失していく。それと 主人公が、小説の中にいるってことに気がついている。 “話が省略されたらしい。いつまでも身がすくんだままでは進展が ないからだろう なんて考えるのだ。だが小説を書いているのは、そ う考えた主人公で、でも本当は筒井康隆という作家が書いていて、 同時に小説は奇怪な文章になっていく。なっていかざるをえない。 だって、文字が使えなくなっていくんだもの! なにしろ、第三部に入ると、世界からはすでに「あ 」と「ぱ 」と 「せ 」と「ぬ 」と「ふ 」と「ゆ 」と「ぷ 」と「べ 」と「ほ 」と「め 」 頭がこんがらがってくる。蛇が自分の尻尾を呑み込むウロボロスと と「 ご 」と「 ぎ 」と「 ち 」と「 む 」と「 ぴ 」と「 ね 」と「 ひ 」と いう図章がある。そんな感じの小説だ。 「ぼ 」と「け 」と「へ 」と「ぽ 」と「ろ 」と「び 」と「ぐ 」と「ぺ 」 でも、考えてみれば、ぼくは、どうなんだろう? 図書館で出会っ と「 え 」と「 ぜ 」と「 ゔ 」と「 す 」と「 ぞ 」と「 ぶ 」と「 ず 」と た少女に手をつかまれて、突然現れた穴に引きずりこまれて、次々 「づ 」と「み 」と「ざ 」と「ど 」と「や 」と「じ 」と「ぢ 」と「き 」 と手渡される本を読みながら、奇怪な冒険のまっただなかにいる。 と「 で 」と「 そ 」と「 ま 」と「 よ 」と「 も 」と「 げ 」と「 ば 」と 今さっきだって、そうだ。まさに牛頭の巨人が、ぼくめがけて剣を 「り 」と「ら 」と「る 」が消えている。だから、文章もこんなふう 振り下ろそうとしていたのだ。 “勝夫はついに着いた。疲れたな。発汗していた。しかし断崖 だ。 そこにまた現れた少女。手渡されたのが『残像に口紅を』だ。 に立って典雅な快感。晴れ渡った暮れ方の紅の彩雲は偉観だ 。残 「現在われわれは、その小説の中にいるんだからね」という主人公 “なんてこ ってる二十一しかない音を使って、小説が進んで行く。 の言葉は、ぼくがつぶやくべき台詞じゃないだろうか? った。勝夫の慨嘆。意外。囲いが立っていたのだった。勝夫は突 ぼくも、何かの小説、っていうよりも、これはテレビゲームかな、 っ立った。だいたいこんな板の囲いなんてなかったのに 。 そんな虚構の中にいるって考えたほうが理にかなっている。かなっ そして、これ以降も、どんどん音が消えていく。そう、最後に てるかな? ぼくは、こうして本当にいる。それは実感として知っ は、すべての音が消えるのだ。この表現のアクロバット。文章の ている。哲学者じゃないから、その実感も虚構かもしれないとか言 サーカス。言葉のマジック。 「どう語られるのか」が強いベクトル わない。そうすると、やっぱりテレビゲームの中にいるなんていう となって、ぼくは読んだ。読むのをやめられなかった。 馬鹿馬鹿しい考えを持ち出すより、へんなことに巻き込まれている 気づいたら、牛男も消えていた。ってことになってれば良かっ (もしくは、ぼくの頭がへんになっている!)って考えたほうがいい たのだけど、現実はそんなふうにはならなかった。読み終わって、 のかな。 ふーっと充実のため息をついた瞬間に、巨大な牛男の剣が振り下 『残像に口紅を』の奇妙さは、まだある。なんと、章が進むにつれ ろされた。激痛が走った。 “つまり『か』がなくなれば て、音が、ひとつずつ消えていくのだ。 『漢字』とか『鏡』とか『ぴかぴか』とか『フォーカス』とかのこと ばもなくなる 。しかも、言葉がなくなると、その実体も存在 できなくなってしまう。 「ぬ」がなくなると「いぬ」がいなく なる。 「ふ」がなくなると娘の「文子」が消失してしまう。一 緒に食事していた人物が一瞬にして消えてしまう。新幹線も消 えて、移動もままならない。 他の登場人物は、理解不能な事態に困惑し混乱し悲しむ。が、 主人公はこの小説を書いている本人という設定なので、この事 態を理解している。理解していても、悲しんだり困惑したりは するのだけども。 今まで、ぼくは小説を読むとき「なにが語られるか」を楽し んでいた。どんな冒険だろうか。どんなかわいいキャラが出て 09 くるだろうか。どうやって危機を脱するのだろうか。でも、ぼく やりとした。 「現在われわれは、その小説の中にいるんだからね」 新 城 カ ズ マ Sinjow Kazma 生年不詳。無類のSF好き高校生の青春小説 『サマー/タイム/トラベラー』はじめ多く の著作をもち、 『ライトノベル「超」入門』 『物 語工学論』等の評論も手がける。ブログ「散 歩男爵」 「twitter(id:SinjowKazma) 」も鋭 意更新中。長篇『15 24』等。 性に出 未来の公共 第 03 回◉ ったら QNE-PP03 某月某日、都内の某ファミレスにて̶ 新城「 (携帯にむかって)や、ほんとにすみません、原稿遅れてます。NOVA2 の短篇に手間取ってしまって。 はい、なんとか今週中には。……さあて大変だ、〆切間近で睡眠不足で、おまけに肩こりがひどくて体が動 かない。ちなみに今回頂戴した題材は……LayeredReading……レイヤー化された電子書籍だって? 電子書 籍のページ上に、ちょうど半透明の薄い膜を敷いたようにすることで、読書中の内容や関連情報について会 話を交わせる、と。最近話題の Kindle とか iPad とかにも繫がるのかな……」 F「そこが肝要でござります、殿」 新「わ、また変なのが現れた。君がもしかして、 の電子書籍リーダー?」 F「さにあらず。拙者、中興の祖・電子書籍の五世孫にして電網往来レイヤー技術の粋を集めたる未来型御 側衆、その名もソーシャル・フィルタリング・サービス之丞兼末と申すもの。以後見知りおき下されい。おや、 だいぶ御肩が凝っておりまするな、どれ一つ拙者が」 新「………………(←呆然としたまま肩をもまれる) 」 F「殿、そこで『なんだ君は!』云々とツッコんでくださらぬと、話が前へ進み難く御座れば」 新「あ、そうか。ごめん。で、一体君は何なんだよ! ソーシャル……ネットワーク・サービスだったらも う間に合ってるよ。ツイッターもタンブラーもやってるし、mixi も入ってるし」 F「畏れながら、殿、SNS では御座らん。SFS、フィルタリングに御座候。最前より御覧の、そのブログ記事、 レイヤー電子書籍の更に先をゆくものにて。そも、レイヤーとは何ぞや。電子書籍の偉大なりし由縁とは何 ぞや。その縁起より語りおこせば、上の世、神君デカルトの夢の裡より……」 (以下、約四百年分のコンピュータの歴史が語られること二時間半) ウェイトレス「おかわりは、いかがですか?」 新「あ、じゃあカルピスソーダを。ええと、それで何だっけ。ああそうだ、パソコンがネットになって携帯 化して SNS で位置サービスが電子パッドしたところだったね。最初はリンク、次にコメントとタグ、そして レイヤー表現があらゆる人々と場所と書物の『今』『ここ』を繫ぎ始めた、と」 F「左様! して、その次に生まれしが、我らフィルター四兄弟に御座候。電子書籍発売の当初こそ、やれ こちらの機種が軽いだの、あちらの機種がお得だのと、朝家をあげての喧しさ。しかして書物電子化の本質は、 実に出版と放送と通信の完全融合、即ち意見表明行為の万民への開放にありしこと、未来においては既に常 識の当たり前の言わずもがな也。かくして四海万民が一斉に己が意見を表明し、それを整頓すべくタグとレ イヤーが付されたりしも、当然ながら―」 新「―今度はタグとレイヤーが多すぎて、自分にとって意義深い情報を見つけるのが面倒くさくなる。な るほど、それでフィルタリングか。究極の助言システム、カスタムメイドの情報濾過&味付けサービスだ!」 F「文字・音声・映像はもちろん、匂い・肌触り・気温・街の雰囲気に至るまで、増やすも減らすも自由自 在にて。殿、ちょびっとお試しあれ」 新「 (未来っぽいメガネをかけさせられて)おお、これは! ファミレス店内が広々としたアール・デコ調に なって、ウェイトレスも美人だらけ!……そういえばネット通販のアマゾンも、昔から『おすすめ』機能が あったな。あれも、ものすごい勢いで有能になっていって、ほんとに『自分でも気づかなかったけれど自分 には必要そうな/面白そうな/意義のある書籍』をどんどん教えてくれたっけ」 F「いや御明察! アマゾンの守殿は、実は我らが母方の大叔父にて御座候」 新「でも、あの機能は便利すぎてちょっと怖いんだよね。『自分でも気づかなかったけど自分にとって意義あ るもの』を次々に教えてくれるってことは、その間に僕は『自力で見つけてたかもしれない別の情報』に出 いそこねてるわけで。自力で試行錯誤するチャンスを奪われてるとも言える。だろ?」 F「確かに、初期にはそのような議論も御座ったとか。曰く、フィルタリング機能が有能過ぎて、心地良い 情報のみに浸るようになる。曰く、厳しい他人の意見に耳を貸さぬようになる。曰く、親はどこまで子のフ ィルタリングを設定すべきや。もしも狂信的なる親が子供らの幼少期に強烈にして歪みたるフィルターを与 えたる場合、それは果たして正統なる教育か、それとも社会に有害なる狂信の伝授拡散か。そしてついには、 政府はどこまで国民をフィルタリングするが善き政治なりや……」 新「なんか今と変わらない話題だなあ。でも君のフィルタリング機能ってのは、今よりもっと完璧なわけで ……これじゃ気にくわない情報と決して出 わずに済む、というか、出 いたくても出 えない。星新一の ショートショートみたいだ」 F「や、そのへんの設定は如何様にもお好みで」 新「でも、わざわざ気にくわない情報と出 いたがる人なんて滅多にいないだろ。ていうか『出 い情報と出 いたがってる情報に含まれちゃう。本当に嫌な出会い頭、最悪 いたがる』時点で、それは出 いたくな で胸がむかつくような未知の情報ってのは、目に入って来なくなり……公共性という概念そのものが消え失 せてしまい……いや、すでにそうなってるのかも。表現の自由・言論の自由が完璧に保障されても、目をそ らす技術がそれ以上に発達してたら、表現の自由は本当にあるんだろうか? 『表現の自由』というのは、そ の裏側に『本当にむかつくウザい意見を(少しは)摂取する義務』が必須なんじゃなかろうか?」 F「何を仰りたいので御座りますか、殿」 新「うーん。実は僕にもまだ結論は出てないんだけど。とりあえず本日のおすすめ書物はこれで: 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』 ラス・カサス(岩波文庫) SFS 之丞くん、君の時代にこうした本はまだ読まれてるのかな? それとも、誰でも読めるけど 実際は誰ひとり読むことなく、この本のデータだけが電子の海でまどろみ続けているのかな? ……SFS 之丞くん? あれ、どこに行ったんだい? SFS 之丞くん? ウェイトレスさん?……」 10 Y o s h i m o t o R y u uji 年生。有限会社 や 言語を習得、 歳から自作ソフトの配布を始め、 ﹃高度情報化がもたらす社会への影響﹄をサイトで発表、反響を呼ぶ。 年に BASIC C 13 96 したような各都道府県や個別の図書館が公開して とも思ってるんです」吉本さんがそう言って見せて いる OPAC(Online Public Access Catalog)を「どう有 くれた開発画面では、Google マップの世界地図上 効活用するか」 、私たちの生活にどういかしてゆく に、各国の主要な国立図書館の所在地を示してい か、という視点にある。 るらしい、いくつものバルーンが浮かんでいる。 「図書館の現状の検索システムの使いづらさは、 その地図の中央やや右にある小さな日本の、さら キーワードや書名を知らないと、検索できないとこ に中央付近を拡大していった先、名古屋から JR 中 ろにある」と吉本さんは言う。 「実際に図書館に行 央本線で北上して 1 時間ほどの中津川からさらに くのは、雑多感のある棚を見ているうちにおもしろ ふた駅長野に近づいた坂下駅近くに、RY SYSTEM い本に出会うからであって、それを実際にやってる はあるのだった。 ひとは、わざわざ検索なんてしない。逆に、そもそ ふだん分散しているメンバーが集中的に顔をあ い意味がない。図書館に行かなくて Amazon で本 二階のオフィスで吉本さんは、 「カーリル」開発の を買うひとも、欲しい本を買うことしかしていない。 きっかけとなった中津川市の図書館システムの開 じゃあ、キーワードや書名を知らないひとでもおも 発について、次のように語り始めた。 しろい本に出会うにはどうしたらいいか……メンバ 「最初は、中津川市に新しい図書館をつくるときの ーでそんな話をしていたんです」と。 システム開発でした。でも、計画された図書館が そこから生まれた「カーリル」はだから、ある種 実際にできあがるまで数年かかる以上、そのころに の「ブック・ポータル」的な役割意識を、生まれな 本と図書館がどうなっているかわからない。しかも がらにして持っている。すでに今日現在のバージョ いちばん驚いたのは、現行の図書館がネットに公開 ンでも、トップページから入れるカテゴリーにはた している検索・予約システムに登録しているひと自 とえば「作家から探す」があって、芥川や漱石から 体、驚くほど少ないことでした」 村上春樹、村上龍や金原ひとみ、綿矢りさに至る そもそも中津川市の防災情報システムを手掛け まで、 「ジャケ買い」的に書き手の写真が並んでい ていた吉本さんは、分散化したコミュニティ(職場、 たり、 「今日、誕生日の作家」 (たまたまこの原稿を 地域、学校……等)の情報システムをゆるやかに 書いている 4 月 11 日はときた洸一と小林秀雄の名 結合し、ユーザーがそれらの情報を横断的に受けと 前が並んでいた。 「機動戦士ガンダム 00」を見つけ るシステムを開発していたのだという。それも、た たひとが「考えるヒント」にも出会ってしまう、そ んに一次的なシステムを開発するだけでなく、住 んな偶然がそこでは Wikipedia をもとにした「誕生 民をそれらにどう誘導し、どう情報を届けて利用に 日」で文脈化されているのだ)のリンクがある。 導くかというアーキテクチャの構築を地方自治体規 それらは現時点で、 「カーリル」のシステムが 模で手掛けていて、たとえば火事情報のシステム OPAC の情報に加えて活用している、Amazon の は、119 番通報があると自動的に登録者にメールが 書誌情報や Wikipedia の記述項目に由来している 送られるようになっている。誤報もそのまま送られ (それゆえ「今、話題の本」のカテゴリーにはちょ るが、 「火事が多いから注意しましょう、というの っと意外なものまであって、そのイタズラ心もおも が防災情報の主旨なのだから、誤報でも機能を果 しろい) 。だが本質においてそれは、書籍が電子化 たすんです」と吉本さん。 「行政や公共サービスの されてはるかに膨大な数になり、書店や取次ある これからの役割」が裏テーマだったという彼の中津 いは出版社に限られていたアクセスポイントもどん 川での仕事にこれ以上ここでは踏み込まないが、発 どん拡散してゆく近い未来において、ひとびとがな 想じたいがユニークかつ合目的性の高い試みを行 にを頼りに「本」を読むのか、という視点の提案で っ て い る 吉 本 さ ん が(RY SYSTEM の サ イ ト あるはずだ……そんなイメージを吉本さんから聞い http://rysys.co.jp/ を訪れると、小学生からC言語 たとき、 『紙の本が亡びるとき?』という自著で を使いこなしたプログラマーである彼の中学・高校 グーグル的な数値処理や Amazon の「この本を読 時代の論考や、ご母堂による魅力的な観察記録〔?〕 んでいるひとはこんな本も…」的な連結が優越して を読むことができる) 、以前からの仲間である Nota ゆく未来を懸念した筆者がなぜこの 「 カーリル 」 に のメンバーたちとインターネットを利用して自分た 直感的に惹かれたか、わかった気がした。そうして ちの日常を記録し便利にする「ライフログ」をテー 中津川に来て、 「背表紙もスキャンできるスキャナ マに行った企画会議から生まれたのが、 「カーリル」 ーを自分で作っちゃおうかな」といたずらっぽく笑 だったのだ。 うDIY的な吉本さんたちによって作られているこ 図書館の蔵書情報の横断検索は、たとえば東京 とに、ただの絵空事でない可能性をあらためて感じ たのだった。 3 帰京して、中津川での会話を回想しながら「カー リル」のサイトを訪れると、 「カーリルが世界中の 図書館に対応」というリリースが早速アップされて 「カーリル (http://calil.jp/)は、世界の図 いる。 「 」 書館を検索対象に追加し、4 万 3000 館以上の図書 館/図書室の蔵書検索に対応しました」 。予告され た「いつか」がわずか半日後だったとは!……その 日がエイプリル・フールだと思い出すのは、もう 10 時間くらい後のことである。 ★ 「ひとびとがなにを頼りに「本」を読むのか」とい う視点は、 「図書館」という存在がこれまでも、ま たこの先にはそれ以上に担うだろう役割とも、むろ ん大きくかかわっている。 だから「予想以上に大きくて驚いています」とい う図書館関係者の反応(国立国会図書館『カレントアウ 「カーリルの中の人」が語る「カーリル」 ェアネス -E』所収 の裏側 http://current.ndl.go.jp/e1035)は今後もっとも っと大きく育っていくだろうし、Amazon や Google、 Apple をはじめとする電子出版の無限分岐と図書館 的な公共性との挟撃を受けるだろう書籍流通や出 版にとっても、単純に現行のビジネスモデルの生 き残りだけでなく、自分たちと「読むこと」との関 係を再構築してゆく手がかりやモデルのひとつにな るはずだ。 その先にはどんな未来が描かれているのか― そのことを知るために次号では、大学で Creative Commons も含めた著作権法を学び、大学院で情報 系の HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)を 研究したという、Nota の代表 CEO である洛西一 周さんに話を聞く予定だ。 (続く) ・図書館蔵書検索サイト「カーリル」http://calil.jp ・カーリルのブログ「カリブロ」http://blog.calil.jp/ ・Twitter http://twitter.com/caliljp 公開されている。国内の出版刊行物の網羅を目指 す国立国会図書館には「国立国会図書館蔵書検索・ 申込システム」がある。 前者を使えば、自分の読みたい本がどの図書館 にあって貸出中かどうかもわかり、図書館で事前に 登録すれば予約もできるし、それらの都道府県を 越えた横断検索システムも、 「カーリル」に先行し net/ はじめ存在する。後者は、古典籍から現在の 念上は)すでに検索できる。 そもそも 「 カーリル 」 のメンバーたちは、直接に 図書館の委託を受けてそれを開発したわけでもな ければ、特別な情報にアクセスできるパスを持っ ているわけでも(現時点では)ないのだから、 「カ ーリル」の特異性や魅力は、そうした部分にのみあ るのではない。 「カーリル」のおもしろさは、前記 メンバーたち。中央手前が吉本さん Nota て 09 年 9 月に公開された「Libron」http://libron. 開発合宿での を創業、慶応義塾大学を経て現職。 RY SYSTEM うに、すでに四十の都道府県でそれぞれに実施・ 刊行物に至るまで、日本国内のすべての本が(理 11 も図書館に行かないひとたちにとっては、検索じた わせて開発する合宿宿舎にもなるという一戸建て 都の「東京都公立図書館横断検索」システムのよ 2 図 代表取締役。 歳でパソコンに出会い、まもなく RY SYSTEM 9 図 吉本龍司 82 「いつか世界中の図書館を「カーリル」でつなごう あなたの﹁オススメ﹂ つくりませんか? 『白痴』 『言わなければよか ったのに日記』 ドストエフスキー 早稲田文学編集室 サイトからダウンロード した専用シートをプリント ❶オリジナルWBをつくって配布!↓﹁今月のウチのオススメ﹂には、 て! 図書館だより﹂欄で書籍を紹介してくださる図書館関係者の方 ❷ 本 を 紹 介 し て く れ る 司 書 さ ん・ 図 書 館 員 さ ん、 大 募 集 スメ﹂を、カラーで紹介させていただきます。。 を募集しています。ご応募いただいたなかから毎号 みなさんオリジナルの﹁WB﹂を作ってみませんか? アウト↓記入・入力↓切り取り↓貼り付けられるようになっています。 ! ↓﹁ 教 え 名の方の﹁オス 1 深沢七郎 知ったかぶりしなくても、 だいじょうぶ。 『海に落とした名前』 『ハーモニー』 多和田葉子 伊藤計劃 自分探しをする前に。 道徳の時間専用 読む頭痛薬。 拡張版 図書館蔵書検索サイト 「カーリル」 が拓く未来 図 ご応募いただける方は、氏名・住所・電話番号・メールアドレス・ 所属施設名を添えて、 記載の送付先まで、メール・郵便・FAX等 でお送りください。 p.7 「泣ける純愛」読むなら。 text : Maeda Louis 1 今年の 3 月 10 日に公開され、わずか 6 日間で 65 思ったことがあるかもわかる。本の詳細情報を開く 万件もアクセスされたのが、図書館検索サイト「カ と、その本の書誌データと収蔵情報、関連書籍や 二十代後半を中心とした若いメンバーたちの開 ーリル」http://calil.jp/ だ。全国の公共図書館・図 読者によるレヴューなどが表示され、さらには(近 発した「カーリル」は、いま現在でも多くの可能性 や利便性を持ち、 「カーリル」が外部から接続・利 ネットワークを介した分散型の開発形態なのだ。 書室を中心に 4300 以上に対応した蔵書検索サイト くの図書館に蔵書されていなかったり貸出中だった で、ユーザーが任意に指定・登録した複数エリア り、あるいは借りるより持っていたいと思った場合 用する図書館システムに携わっているひとたちはじ の図書館システムから、希望する蔵書の有無や、 など)ネット書店で直接それを購入することもでき め多くの同世代や同業者の直接・間接のアクセス その本が貸出中かどうかを調べることができる。そ るのだった。 を受けているが、そこに秘められているのは今日的・ のサイトに、いま注目が集まっている。 3 月の公開時からひとつき足らずの今日まででも、 共時的なシステムの利便性にとどまらず、近い将 「カーリル」のトップページ(2010 年 4 月 10 日現在)は、 あれこれと機能が実装・追加されている「カーリル」 来の「本」やそれを読む環境、さらには「本」が生 図1のようなものだ。自分が調べたいエリアを選び は、開発時点でもひじょうに柔軟な体制をとってい まれる環境にもかかわってゆく可能性でもある……。 、検索ボックスに書名や著者 図書館名を設定(図 2) る。 「カーリル」のサービス主体は「紙 copi」等の 、設定したエリアの図書館に 名を入力すると(図 3) ソフトウェアやインターネット・サービス/企画を 岐阜県中津川市で行政システムの開発に携わって 収められた関連書籍の書影つきリストと、その本が 行う米国 San Jose の企業 Nota 社(代表・洛西一周) いる、㈲ RY SYSTEM の吉本龍司さんのもとを訪 貸出中かどうか、さらに(それ以前に登録してあれ だが、メンバーは京都・岐阜・神奈川などにいて、 れた。 「カーリル」公開から 3 週間、4 月 1 日の朝 ば)過去に自分がその本を読んだことや読みたいと それぞれ Nota 以外の仕事も多く手掛けるという、 である。 そうした直感のもと、Nota のメンバーであり、 12 『算法少女』 遠藤寛子 吉野朔美 読んだら誰かに教えたい 『短歌パラダイス』 て! 図書館だより﹂欄で書籍を紹介してくださる図書館関係者の方 史実と創作のすてきな交錯 ❶オリジナルWBをつくって配布!↓﹁今月のウチのオススメ﹂には、 中島京子 『弟の家には本棚が ない』 早稲田文学編集室 サイトからダウンロード した専用シートをプリント 『イトウの恋』 を募集しています。ご応募いただいたなかから毎号 こんな先生に習いたかった みなさんオリジナルの﹁WB﹂を作ってみませんか? 和算の論理性にびっくり 網野善彦 アウト↓記入・入力↓切り取り↓貼り付けられるようになっています。 『日本の歴史をよみ なおす』 あなたの﹁オススメ﹂ つくりませんか? 日本はもちろん世界各地の図書館ではたらく人たちがイチオシの本を紹介 ! 小林恭二 バラのアーチと青春の声響く都立小松川高校グ のですが、中高生にはちょいと手ごわいので、ま ずこの小説から始めて下さい。旅行家である英国 江戸川区立小松川図書館です。 人女性が、明治初期に東京から北海道まで旅した 時の従者が、伊藤という青年で、旅行記にたびた 合えていたらばと、いつも思っている本 5 冊です。 び登場します。英語が堪能で、なかなか使える男 1 冊目は網野善彦氏の『日本の歴史をよみなお のようである伊藤のその後について、日本側の記 録はほとんど残っていません。『イトウの恋』は、 議な歴史観にひかれ、たどり着いたのが網野氏で この伊藤の手記が発見されたという設定で現在と した。 過去、日本と英国を交錯しながら進むミステリー 1 仕立てのラブストーリーです。重要な役で中学生 れるイザベラ・バードの旅行記が読みたくなるは 背文書」 、 「落書起請」 、 「犬神人」などテクニカル ずです。 ターム満載ですが、やさしく丁寧に語る網野氏の 次は漫画読書エッセイ『弟の家には本棚がな 人柄に惹き付けられ、歴史への興味がガンガンわ い』。漫画家吉野朔美が、誰かにあげたい、教え こうやって形成されてきたのだと、実感できます。 いてくる本です。 たいという衝動にかられる本や俳句・映画・馬・ オランウータン、噓、一郎、刑、台湾、邪、芽、 2 冊目は遠藤寛子の『算法少女』 。千葉あきと 男爵などのマニアックな題材の本を、読書中毒の あざらし、塗り絵などの不思議なお題から生まれ いう少女が高度な和算を学び、今で言う数学問題 友人たちとのやりとりとともに漫画で紹介してい 出てくる短歌の数々。わくわくするほど楽しいで 集を江戸時代に出版したという事実に驚かされま きます。短歌を 4 コマにしたり、漫画家ならでは す。私のイチオシは、「台湾の蛇屋のむすめ楊月 す。その『算法少女』という実在の本から創作さ の視点がおもしろい。1 冊の本から、次に読みた 麗(ヤンユイレイ)樹下にうたへばそのこゑなび れたお話です。円周率やピタゴラスの定理、無限 い本がどんどんあふれ出て来る。これこそ読書の く」です。この歌合の企画者兼著者の小林氏が語 級数まで登場します。和算なんて何の役に立つの 醍醐味です。 る短歌と俳句の決定的な違いにはびっくりします。 広げる戦いは、平安のむかしから日本の文学とは だという世の中で、知識に対するあきの真摯な姿 この本で紹介されている『短歌パラダイス』が 勢に心が躍ります。原典を和算の入門書として解 5 冊目です。短歌なんてもう滅びかけたものと思 中学生の頃から読書感想文が大嫌いでした。読 説した『和算書「算法少女」を読む』もお薦め。 っていましたが、20 名の現代歌人による歌合(う んで面白かったのだから、それでいいじゃないと 最近出版された『天地明察』も和算が満載の時代 たあわせ)、熱海の熱闘 2 日間を読むと世界が変 思っていたからです。評価の対象でなく、誰かに 小説です。 わります。歌合は短歌を競う対抗合戦であり、判 大好きな本を紹介するためだと、こんなに楽しく 3 冊目は『イトウの恋』 。歴史好きの私としては 者(はんじゃ)=ジャッジ、方人(かたうど)= 書けるのですね。みなさんも素敵な本にめぐり合 『イザベラ・バードの日本紀行』をお薦めしたい プレイヤー、念者(おもいびと)=応援者が繰り えたら、友だちにその本を紹介してください。 知りたければぜひ御一読下さい。 ご応募いただける方は、氏名・住所・電話番号・メールアドレス・ 所属施設名を添えて、 記載の送付先まで、メール・郵便・FAX等 も登場します。読み終えれば、作中で I.B と称さ なく実証により日本を読み解いていきます。 「紙 でお送りください。 女性、日本という国号を話し言葉で論じ、常識で ! ↓﹁ 教 え す』 。ジブリの「もののけ姫」を見て、その不思 名の方の﹁オス 御紹介するのは、私自身が中高生の時にめぐり さん ❷ 本 を 紹 介 し て く れ る 司 書 さ ん・ 図 書 館 員 さ ん、 大 募 集 矢野京子 ラウンドに囲まれた地域図書館が、私の勤務する 日本の転換期、中世の頃の文字、貨幣、差別、 13 江戸川区立小松川図書館・司書 スメ﹂を、カラーで紹介させていただきます。。 短歌は戦い! p.7 枡野浩一 郎さんとかも、子どもの気持ちを書くのがすごいうまいんですよね。で も僕自身は、 「どうしてこんなに ?」って不思議になるくらい、子ども な」と思っていると、子どもの方から近づいてくれるんですよ。 のときのことをほとんど覚えてないんです。 谷川 なんかヤバい(笑)。 谷川 ぼくも記憶で書いているんじゃないんですよ。現在ただいま自分 枡野 あと印象的だったのは、数年前に TVCM に出たことがあって。 のなかに、子どものときに感じたベーシックな感情がいまだにある。淋 そのころ下北沢の道で通りすがった子どもが、僕の顔を見て「こんにち しいとか不安とか、そのころと変わらないんです。それを書けば子ども は」 って挨拶したんです。そうしたら隣のお母さんがびっくりしてて。 「な の気持ちになるという、そういう書きかたなんですね。 んであの人に挨拶したの ?」と訊いてる声が、あとから聞こえた。最初 枡野 『にほんごの話』って対談集のなかでも、 「人間の年齢を木の年輪 僕も理由がわからなくて、「生き別れの息子のたましいが乗り移ったの の比喩で考えるようになった」と言っていましたよね。子どもの部分が か。神様からのメッセージか」とか思ったんです。でもそうじゃなくて、 中心にあって、その外にどんどん広がっていくように、歳をとっていく。 子どもってけっこう人の顔を覚えているから、「あ、TV で見たことがあ 谷川 そう、ぼくは「年輪説」なんです。 る」と思ったんじゃないかな。でも、そういうことにいちいち動揺して 枡野 それは、いつでも核の部分に触れることができるんですか ? しまう。 谷川 いや、意識下にあるから、すぐに取り出せないけれど、それがあ 谷川 小学生に短歌を教えに行ったりもしたんでしょう ? ることを知っていると、ぼんやりしているときにぽっと出てきたりはす 枡野 ええ、NHK の「課外授業ようこそ先輩」という番組で、母校の るんです。 小学校 6 年生の子たちに。離婚直後で、とてもまいっていたし、人生で 枡野 僕は、高校生くらいの自分には比較的すぐに戻れるんです。『僕 いちばんガリガリに瘦せていたときでした。子どもたちが「結婚してる は運動おんち』が高校生の話なんですが、わりと自然に書けた。でも、 の ?」ってかわいく質問するから、「いや、離婚しちゃったんだよねー」 それ以下の子ども時代はとても遠い。印象としては、なにも考えていな って笑顔で話したりして辛かったんですけど……。 くて、いつも機嫌が良くて鼻歌を歌っているような子だったんです。 谷川 そういう話は、子どもたちにウケるでしょう ? 谷川 不安とかそういうものはあまりなかった ? 枡野 意外とわかってくれる子が多かったです。あと子どもでも、親子 枡野 今思うと「知能障害があるんじゃないか」と思うくらいで。ふつ 関係が苦しくて「大人」になってしまった子が、とてもいい短歌をつく うに学校に行っていたし、そんなには問題視されていなかったけれど、 るんです、それこそ親子の確執を赤裸々に描いたような(笑)。でも、 キョトンとして「世間のことなんてどうでもいい」と思っているという 「この短歌を放映すると、保護者からクレームが来るから」と学校の先 生に言われて、泣く泣くボツにしたりとか。 ★ か。 谷川 世間はともかくとして、たとえば「母親がいなくなっちゃうんじ ゃないか」とか「いつ自分が死ぬのか」と想像して怖くなって眠れなく 谷川 ぼくは子どもに向けて書くときに、ある時期までは子どもを「読 なることはなかった ? 自分のふとんからそっと出ていって、母親がち 者」として対象化していたんです。それが、佐野洋子の影響が強いのだ ゃんといるところを覗いて確かめるとか ? けれど、自分の内部にある「抑圧している子ども」を外に出そうという 枡野 それが不思議で、小さいときから、ひとりぼっちでも平気で、 「お ふうに発想が転換した。そういうことってある ? 自分のなかの幼児性、 母さん、僕寝るからあっち行ってよ」と言う子どもだったみたいで。母 子ども性を意識すること。 親がそれを悲しい顔で僕に言うんです。 枡野 谷川さんは佐野さんと結婚される前から、「家庭画報」で子ども 谷川 じゃあ、結婚もしなくていいような人なんだ。奥さんも「あっち の詩を連載されたりしていましたよね ? 子どもの写真つきの。 行ってよ」って言われたら辛いよね(笑) 。 谷川 やったかも。 枡野 それも原因なのかな……。本当に、子ども時代の自分がなにを考 枡野 《うまれずにしんだ/おねえちゃんをおこして/うしろのしょう えていたのか、ちっともわからない。僕が会えない息子にすごく感情移 めんだあれ》 (詩集『子どもの肖像』収録作「かお」後半部分より)とか、 入するのも、自分の少年性みたいなものに危うさを感じているからかも ひらがなばかりで書かれた詩でした。それを読んで、 「なんて子どもの しれないです。僕、物心ついたと思うのは20歳くらいなんですよ。最 気持ちがよくわかってるんだろう、でもこれは子どもが読んでもわから 近なんて、 「自分はまだ童貞なんじゃないか ?」って錯覚しそうになる ない詩かもしれない」って……。子どもの言葉を借りた、大人がはっと んです。 「バツイチ、子どもありの41歳」なのに(笑)。 する詩、ってところがある。 谷川 そうね、『はだか』という詩集が子ども性のはっきり出たものな *注 「広告批評」2004年1月号。 んだけれど、明らかに大人向けなんですよね。 枡野 そうか、佐野洋子さんの書かれるものが子ども性なのか。 まだまだ続く熱い「人生相談」 。怒濤の完全版を2010年5月中旬ごろ「早 谷川 あの人は記憶力もいいしね。 稲田文学編集室ウェブサイト」で公開決定 ! http://masuno.de/blog/今回の対談タイトルも枡野氏による。 枡野 僕には、子ども性は欠けているかもしれません。劇作家の前田司 68 年生。歌人。短歌を中心に、小説・エッセイ・作詞・現代詩・脚本など幅広く手がける。そして作る本はどれも﹁一仕掛け﹂あって楽しい。 ﹃ハッピーロンリーウォーリーソング﹄ 、 ﹃一人で始める短歌入門﹄など著作多数。 枡野 街で小さい子を見ると、じっと見つめちゃうんです。「触りたい M a s u n o K o i chi 谷川 息子さん以外の子どもと話したりすることはあるの ? 14 谷川俊太郎 Ta n i k a w a S h u n t a r o ﹃家族の肖像﹄など著作多数。 年生。詩人。翻訳、劇作、絵本、作詞などジャンルを超えて活躍。その作品は、こどもから大人まで誰もが読んだことがあるほど、長年愛され続けている。 ﹃谷川俊太郎 詩集選﹄全 巻、 31 3 枡野 情報は、本当にちょっとしか入ってこないんですけれど、息子は ぼくはひとりっ子でしょう。もう完全にマザコンで、母親がまた100% 僕に似て、運動ができないらしいんです。それに勉強もできなくて、将 愛してくれた。それで、父と母とぼくは、小説家の丹羽文雄が三角関係 棋だけが好きなんですって。それで、去年、『僕は運動おんち』って小 として書いたことがあるぐらいの関係だったわけ。父はぼくが生まれた 説を書いたんです。とてもお気軽な青春小説なんですが、息子が読んだ 直後から浮気をしているしね。彼はだいたい離れた座敷でずうっと仕事 ら、「ああ、お父さんもそうだったんだ」と思うかなって。今はそうや しているんです。ご飯も一緒に食べないのがふつう、一緒に遊んでくれ って、書くものに子どもへのメッセージを暗に込めるしかできなくって。 ることもほとんどなくて、遠い存在でしたね。話すようになったのは、 『結婚失格』もカバーを外した表紙にメッセージを詩として書いたんで す。それでも隠れるようにしたのは、「本文に堂々と載せるのは違うん じゃないか ?」と思ったから。 枡野 歴史のテストだ(笑) 。 谷川 枡野さんの本を元奥さんは読んでいるのかな ? 谷川 すごくいやでさ。そういうときも、母親経由で「やめてほしい」 枡野 読んでないと思います。あるときまで送ったりもしていたんです って言うんですよ。父親の方も、何かあると母親を通して言う。「君子 が。『結婚失格』も、主人公の「速水」があまりいい夫じゃないように の交わりは淡きこと水のごとし」って故事があるけれど、本当に対立と フェアに書いたんです。読んだ人はみんな、「これじゃあ離婚するよ」 か軋轢とかなかったです。 って言う。 枡野 もうずっと離れた感じで ? 谷川 フィクションなんだよね ?(笑) 谷川 ただ、父親観はいろいろ変化していきました。いちばん大きな変 枡野 ええ、主人公の男は AV 監督に、奥さんはドラマ脚本家にして、 化は、うちの両親は、ふつうに仲良くやっていると思い込んでいたのね。 エピソード一個一個もつくっています。でも、実際に経験したことをも だけどそうじゃなくて、もうゴタゴタがたくさんあったわけ。それから とに書いたんです。別に「いい人」と思ってほしいわけじゃないんです もうひとつは、母が認知症になったときの父の態度ですね。もう典型的 が、「奥さんが読んでくれるといいな」と思っているし、子どもが大き な「日本の男」で、自分は手を出さない。 「インテリってのはダメだ」 くなって読んだときに「こんなことがあったんだ」と思ってもらいたい って思いましたね(笑) 。 なと。 枡野 小さいころから「お父さんはインテリだ」って理解していました ? ★ 谷川 そんなことはなかったけれど、なにしろ本がずうっと壁みたいに 枡野 谷川さんは 3 度結婚されていますけれど、お子さんに会えない時 ある家じゃないですか。それに何か書いているわけだし。検印紙って、 期はありました ? むかし本の奥付に著者が判子を押してたやつだけれど、それを母親の手 谷川 ないです。2番目の妻の子どもで、別れたときには子どもも大人 伝いでやるわけですよ。コタツの上に何百枚も並べて、押していくわけ になっていましたから。 じゃない。 「友だちのお父さんとは違うことをやっている」って意識は 枡野 ずっと交流があったんですね。お子さんたちは、小さいころから あった。まあ、ぶきっちょな人だから、子ども目線で話しかけるのとか 「お父さんは詩人の谷川俊太郎だ」という意識をもっていたんですか ? 絶対できなかった人。 谷川 自分たちは思っていないけれど、学校で父親の職業を聞かれて恥 枡野 谷川さん自身は、初期から子どもに向けた詩も書いていらっしゃ ずかしかったみたい(笑)。 るし、そのへんは「反面教師」だったんですか ? 枡野 「お父さんは詩人」ってなかなか言えないですよね(笑) 。 谷川 ぼくは枡野さんとは違って、最初っから商売。三好達治にいちお 谷川 そう、それもずっとついてまわるからね。娘はいまニューヨーク う認められて、 「文學界」に載って、徐々に注文が来だす。でも、ぼく でぜんぜん違う仕事をしているから関係ないけど、息子のほうは音楽で、 は大学に行っていないし、 「どうやって食っていこうか」がいちばん大 一緒に舞台に出たりしているから、どうしてもね。何よりぼく自身、 「哲 きな問題だった。それで「書くしかない」と思って、来る注文でできる 学者・谷川徹三の息子」っていまだに書かれる。 ことはぜんぶ引きうけていたんです。子どもを対象にしはじめたのも、 枡野 お父様とは良好な関係だったんですか ? マーケットとして、いわゆる現代詩よりも童話とか童謡のほうが金にな 谷川 ひじょうに淡白な関係ですね。 ると踏んだからなんです。 枡野 最初に詩を発表したときも、お父様に読ませたということですが。 枡野 それはたいへん明確な姿勢で、すがすがしい。 谷川 大学にも行かずにぶらぶらしてたから、「お前、これからどうす 谷川 みんなに嫌がられますけどね、詩はそういうもんだと思っていな んだ」みたいな話になったんです。それで詩のノートを渡した。彼は若 いから。十代の終わりから「商売でやるんだ」とはさすがに考えていな いころに詩を書いていたから、ある程度はわかったんです。丸つけたり かったけれど、 「なんとか食わなきゃいけない」というのが、「いい詩を 三角つけたりするから、「なんだ、この野郎 !」みたいな感じだったん 書こう」という意識よりもはるかに強かったのは確かなんです。あと、 だけど(笑)。それで三好達治さんのところに持っていってくれたわけ ぼくは「詩人になろう」って思ってなかったから。たまたま、詩みたい だから、いちおう認めてもらえたんでしょうね。 なのが書けただけの話なんです。 枡野 僕の場合、思春期には親とあんまり良好な関係じゃなかったんで 枡野 運動が得意そうなところもそうだし、谷川さんは詩人っぽくない す。むしろ離婚してから仲良くなりました。あと歳を重ねて、だんだん ですよね。昔、詩人たちが海辺で撮影した集合写真を見たことがあるん 父親に似てきたんです。敵と味方が極端に分かれたり、物忘れが激しく です。詩人たちはみんなガリガリなのに、谷川さんだけはスポーツマン ていつも書類なくしたり。「血筋って恐ろしいな」ってときどき思うん みたいなんですよ。 です。その分、父親がよくわかるようになってきた。 谷川 日に焼けててね、なんかかっこよかったんだ、あのころ(笑)。 谷川 お父さんとは何か衝突があったの ? 枡野 「この中で詩人じゃない人、誰 ?」って言われたら、みんな谷川 枡野 事件はないんですけれど、思春期の男ってそうじゃないですか ? さんを指すんじゃないかって。 本当にいやでした。「日航機事故」ってありますよね。あれ、父がいつ 谷川 「詩人とはこういうもの」って先入観が枡野さんにもあるんだ。 も乗っている便だったんです。ニュースを聞いたときには「あ、死んだ みんなそうなんだけれど。 のか」と思ったぐらいなんだけれど、その日は偶然に乗らなかった。そ 枡野 でも、だからこそ、谷川さんはジャンルのエッジというか輪郭を のときに「自分は父親が死ねばいいと思ってるんだ」とびっくりして。 つくる仕事をされてきたのかもしれませんよね。 いま振り返ると、そこまで憎まれるべき父親ではないんです。単に理系 谷川 どうなんだろう。昔から詩壇みたいなものが漠然とあったわけで な人で、子どもとの会話が「風はなぜ吹くか ?」とか理系話ばかりだっ す。中だけで完結している感じの。それがすごくいやで、「誰にでも読 たんです。谷川さんも、お父様が哲学者だと……。 んでもらえるような詩を書きたい」というのが最初からあったんです。 谷川 うちは、コミュニケーションがなくて済んでいた親子なんです。 15 ぼくが学校に行かなくなったころからです。たまに一緒に旅行すると、 「この場所は誰の城だったか ?」って。 ★ WA S E D A b u n g a k u F r e e P a p e r 愉し い 文 学 Wonderful BUNGAKU 谷川俊太郎 + 枡野浩一 新城カズマ 米光一成 + ナカシマカズユキ nanakikae モブ・ノリオ 斎藤美奈子 玉川重機 松田青子 + たけなみゆうこ 今日マチ子 ﹁はるかな る 息 子 へ 言 葉 を 届 け た い ﹂ 歌人は詩人に相談をした vol.19_2010_spring ¥0 対談 たにかわしゅんたろう 谷 + 郎 川俊太 枡野 お久しぶりです。前に雑誌で対談したのは、2003年の末くらい 枡野浩一 ますのこういち う入りこめない感じなのは確かで。 でしたね。ちょうど僕が離婚した後で。 谷川 5人も子どもがいて、「ひとりぐらい返してもいい」とか思わな 谷川 対談でもその話をしたんだよね。枡野さんとは、そういう危機的 いのかな ? * な状況のときに会うことが多い気がする。 枡野 彼女のいまのパートナーは、その連れ子のお母さんには会わせて 枡野 そうなんです。相変わらずいい状態じゃなくて、最近は母が倒れ いるんです。だけど、僕の元奥さんは、その行為自体を「心が不安定に て入院中なんです。それに、ずっと息子にも会えないまま。もう10歳 なってしまう」って非難する調子でエッセイに書いている。 になったんですよ……。(その後、看病疲れで父も別の病院に入院) 谷川 「別れた父親に会わせちゃいけない」って信じているわけか。 谷川 ぜんぜん会えてないの ? よく映画なんかだと、父親が物陰から 枡野 結局、その人の人生観との戦いになってしまうんです。僕は普段 子どもがどうしてるか見るじゃない。それはやってないの ? はわがままな方なのに、この場合は「向こうに譲らなきゃ」って気持ち 枡野 1回やったんです、保育園で。『結婚失格』という離婚を題材に があるから、よりこじれているんだと思うんです。そのへん、同じよう した小説にも書きました。そうしたら、この本を読んだ、法律を勉強中 なトラブルにあった人が身近にいないので。 の若い男の人が「枡野さんがストーカーみたいに子どもに会いに行って 谷川 そうだよね(笑)。別れた奥さんは、子どもに枡野さんのことを いて、奥さんからしたら恐ろしい行為だ」(大意)ってツイッターで書 どういうふうに言っているんだろうね。スパイしてくれそうな共通の友 いていたんです。結局、頑固な側が勝っているというか。別れた奥さん 人いないの ? も、いま3度目の結婚をして子どもが5人いるんですね。 枡野 それが、僕と別れた奥さんのどちらかに二分しちゃったんです。 谷川 本当、へえー。 ふたり共通の編集者もいるんですけれど、やっぱり仕事だからか何かを 枡野 最初の旦那さんのときの子が1人、僕との間の子が1人、それに 聞いても曖昧な返事が来るし。 再婚相手の連れ子がいて、さらに2人生まれたんです。そうなると、も 谷川 子どもの様子はぜんぜんわからないの ?