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省電力社会への転換

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省電力社会への転換
ひっ ぱく
昨年の大震災後の電力需給逼迫をきっかけに、わが国の電
力制度改革に向けた議論が活発である。
「エネルギー基本計
画」を見直すなかでの「電力自由化」や「周波数変換設備の
増強」などであるが、電力の供給 側の議論が多いように思
う。昨年の計画停電や「電力使用制限令」の発動など、強制
的手段による需要抑制を経験したため、安定的な電力供給が
喫緊の課題であるとの認識は間違いないが、電力消費を抑制
省電力社会への転換
するといった需要側の議論も必要ではないだろうか。
そもそも、わが国は、1人当たり電力消費量が世界で4番目に多く、世界の電力消費量
の6%(アメリカ・中国に次いで3番目)を消費する国であり、しかもその自給率は、原子
力を除けば4%にすぎない。今後、世界的には人口が増加し、エネルギー需給の逼迫と価
格の上昇が必至であるなかで、わが国の電力事情は食料と同様に、安全保障面からも極
ぜ い じゃく
めて脆弱な状況にある。
昨夏に「電力使用制限令」が発動された東京電力管内では、結果としてピーク電力で
18%、7~8月通期で14%の使用電力の削減が実現した。各家庭においても、エアコン
や照明器具などでの節電が実施されたが、当面はやむを得ないとしても、我慢をしながら
強制的に行われる節電は長続きしない。長期的視点に立って、需要者が主体的に「節電
型社会」に転換していくことが必要である。そのためには、国が「いつまでに、どれくら
い電力の消費を削減する」という具体的な目標を打ち出し、国民のコンセンサスを醸成し
ていくことが重要である。また、温室効果ガス削減対策として選択した「原子力発電の拡
大」が、現実的には困難となった現在、安定性や経済性に多くの課題があるとしても、再
生可能エネルギーによる発電の拡大を進めざるを得ない。その点についても、いつまで
に、発電電力量のどのくらいを賄うことを目指すのか、具体的な目標を掲げ、わが国の方
「節電型社会」を実現するためには、ビルの省エネ仕様や新築住宅断熱基準の義務化
(社)
や、照明のLED化や電気製品の消費電力規制など、法的な規制強化も必要だと思う。ま
た、再生可能エネルギーによる発電拡大のためには、初期投資に対する助成や電力買い取
ほ てん
りの補償、電気料金の上昇による企業や国民の負担増に対する補填といった、大きな財政
負担も必要になる。何十年をかけて社会を変革していくには、国と地方行政が主導力と規
制力を発揮すべきで、いたずらに市場原理に委ねて、企業の参入と撤退を繰り返すような
事態を招いてはならない。
「電力自由化」や再生可能エネルギー拡大については、諸外国
やわが国各地に、先進事例だけでなく学ぶべき失敗例も多い。さらに、需要者が主体的に
節電に取り組めるようにするためには、需要者自らが使用する電力の供給先を選択した
り、使用時間や量をコントロールすることが可能になる仕組みが必須であり、そのために
長い間浸ってきた電力大量消費社会を転換していくには、長い時間とかなりのコストが
掛かることを覚悟しなければならない。しかし、これまでの社会を大きく変革していくこと
を、今、表明することは、1000年に1度の災害に遭遇したわれわれの義務であり、責任
(いながき しんじ)
発送電分離やスマートメーターの普及などは、短期間のうちに整備することが大事である。
JC総研 前常務理事●
稲垣伸司
向性を内外に向けて宣言することが重要である。
ではないだろうか。
JC総研レポート/2012年 夏/VOL.22
省電力社会への転換◆巻頭言
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