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- - 147 7-3-4 鱗翅目 <概 況> ( ) 、 。 チョウ・ガ類 鱗翅目 は昆虫の
7-3-4
<概
鱗翅目
況>
チョウ・ガ類(鱗翅目 )は昆虫の中では甲虫 、ハチ類についで3番めに種数の多いグループである 。
しかし、約20万種といわれるチョウ・ガ類のうち、そのほとんどはいわゆるガ類で、チョウは1割程
度の約2万種である。
徳島県は、剣山を中心とした山地帯にはまだ自然林が見られ、チョウ類ではブナ科植物の新芽を幼
虫の食樹とするゼフィルス類や多様な樹種に依存するガ類など、種数、個体数ともに多い。しかし、
チョウ類は県内では100種あまりが確認されている一方で、ガ類の種数がほとんどわからないため、
このグループ全体の正確な種数は把握されていない状況である。今後、分布状況や生息状況の調査な
どが進めば、さらに種類数は増えると考えられる。
生息状況については、近年、農薬の使用や河川の改修のほか、人による里山の木々の間伐や枝落と
しなどが行われなくなったこと、採草地の放置などによって植物遷移が進行したことなどにより個体
数が激減している種も多く、里山環境の維持・保全などが重要な課題となっている。
また、地域の生物相の独自性の維持や遺伝子的な攪乱防止の観点から、外来種の偶発的な侵入・定
着のほか、外来種を含む他地域の種の人為的な持ち込み等による生態系破壊の危険性が指摘されてい
る。
(注)ガ類については、古くは個人的な出版物の目録なども見られるが、図鑑などが充実していない時期だけに現状
では
そのまま利用できる可能性は低い。そのため、以下では主にチョウ類の状況について整理している。
(1)現
状
①確認種数・分類群
四国に分布が確認されているチョウは、すでに見られなくなったものも含めて117種である。 そ
のうち徳島県内に生息する記録のあるチョウ類は111種で、日本産のチョウのおよそ半分の種が産す
ることになる。ただし、これらのうちの数種はすでに絶滅したと考えざるを得ないものや、非常に個
体数が減少しており、このままでは絶滅の恐れがあるものもいくつか見られる。
県内におけるチョウ類の単発的な採集記録は数多くあるが、県内に生息するチョウ類全種を対象に
したものとしては、溝口修氏らによって当時得られているすべての種(102種)がまとめられたもの
がある(溝口ら,1957 )。しかし、その後は全県を対象にしたものはなく、日本鱗翅学会四国支部編
の「四国の蝶」(1979)がそれまでの記録を網羅したものとしては唯一である。
チョウに関する最近の話題として、これまで散発的に愛媛県、香川県で得られていたウラミスジシ
ジミが、県西部の山地に多産することが県内の研究家らによって確認されている。これまで四国には
分布しないチョウの一種として、愛媛県や香川県の記録を疑問視する人もいたが、今回の発見で四国
にもかなり広範囲に分布していることが確認された。
しかし、他県の状況や日本産のチョウの研究の進展状況から見ても、チョウ類ではこれ以上種数が
増える可能性は少ないと考えられる。一方、ガ類の生息状況の詳細な調査がなされれば、このグルー
プとしての種数は今後、大幅に増加することは確実である。
②チョウ類相の概要
徳島県の植物相は、県南部の太平洋岸を中心とした暖温帯植物区から、剣山を中心とした1000mを
超える山地に見られる亜寒帯植物区まで、豊かな植物相を有しており、さらに吉野川や那賀川などの
河川敷は変化に富んだ自然環境を形成している。
こうした自然条件の中に南方系の種としては、ミカドアゲハ、ナガサキアゲハ、イシガケチョウ、
近年分布を拡大しつつあるサツマシジミ、ヤクシマルリシジミなどが見られる。また、剣山山系など
の岩場に見られるツマジロウラジャノメは日本国内でも北海道と東北、それに四国の石鎚山系と剣山
山系にしか分布しておらず、有名な北方系の遺存種である。
しかしながら、1960年代以降、絶滅あるいは個体数が激減しているチョウが多く見られるようにな
り、その主な原因は開発による生息地の激減あるいは悪化によるものと考えられたが、里山に生息す
る種においては、むしろ農作業に伴って行われていた草刈りや火入れ、クヌギなどの枝を利用しての
炭焼きなどの作業が行われなくなり、ススキやササなどに覆われたために、草本類や新芽を食草とし
て利用できなくなったことによるものと考えられている。そのような種としては、オオウラギンヒョ
ウモン、ウラギンスジヒョウモンなどのヒョウモンチョウ類、ウラナミアカシジミやウラゴマダラシ
ジミなどかなりいると思われる。
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③絶滅のおそれのある種
徳島県版レッドデータブックには、チョウ・ガ類は19種が記載されている。
絶滅危惧Ⅰ類
絶滅危惧Ⅱ類
準絶滅危惧
留意
計
4種
5種
6種
4種
19種
これらは、ほとんどがチョウ類で、ガ類ではほとんど情報がなく、わずかにオオミノガ1種だけが
絶滅危惧Ⅰ類に扱われている 。ただし 、オオミノガは、環境悪化や生息地の減少という要因ではなく 、
オオミノガヤドリバエという寄生バエによる減少で、他の種とはまったく状況が異なっている。
④外来種の状況
チョウ・ガ類は幼虫時代の食草として、植物を食するものがほとんどで、しかもチョウ類ではか
なり食草の種が限定されるため、日本へ侵入しても定着できる種はそれほど多くない。さらに生活史
の中で休眠態を持たない場合には日本の明確な四季のうち、冬の乾燥と低温を乗り切るのは容易では
ない。しかし、日本と同緯度の地域から侵入すると冬期に休眠あるいは活動を低下させることで日本
への定着に成功し、大きな問題になる場合もある。
チョウ・ガ類では、明らかに人為的な持ち込みが知られるものや、あるいは何らかの輸入物資につ
いて偶然に侵入したものかいくつか知られている。偶発的なものとして最も有名なものはヒトリガ科
のアメリカシロヒトリで、一時は日本の街路樹をすべて食べ尽くすのではないかというほど心配され
たが、定着後、時間の経過とともに天敵などの働きによってほとんど問題にならなくなっている。徳
島県でも同様の展開で、侵入直後の街路樹の被害は相当なものであったようであるが、現在はそのよ
うな大発生はきわめて散発的で、ほとんど被害は見られない。
もう一種は沖縄本島に定着したバナナセセリである(最近、鹿児島県の与論島にも分布拡大したと
いう情報もある)が、この種も定着直後の、すべてのバショウ類を食害しているというような状態は
数年しか続かず、現在はその地域の昆虫の一種として存在するに過ぎなくなっている。これらの種は
いずれも在日アメリカ軍の基地周辺から発生が確認されていることから、米軍の物資について入って
きたものと考えられている。
さらに、1996年になって北海道と青森県に侵入して大きな問題になっているのが、オオモンシロチ
ョウである。この種はもともとヨーロッパに分布していた種であるが、南米大陸やアフリカなどにそ
の分布を広げ、農業害虫として大きな問題を引き起こした。さらにヨーロッパからロシアの沿海州ま
で分布を広げ、日本への侵入と時期を同じくしてサハリンにも侵入したことがわかっている。本種の
日本への侵入・定着は人為的なものではなく、風に乗っての分布拡大と考えられている(上野、1997
;八谷、2002など )。
オオモンシロチョウの幼虫は、近縁種のモンシロチョウやスジグロシロチョウと違って、幼虫が群
棲し、キャベツなどのアブラナ科植物に対する被害は甚大なものである。そのため応用関係の部局で
は日本での分布拡大の防止に努めているが、北海道はすでに全域に分布を拡大しているようである。
本州では、現在のところ青森県だけで、南下の報告はみられない。しかし、この種についても、チョ
ウ類の愛好家の間では全国的に卵や成虫での交換が行われ、飼育して標本を得ようとしている場合が
ある。本種が野外に逃げ出すようなことになると、農業上の被害は計り知れないものになると予想さ
れ、このような問題のある種に対して、交換で全国的に移動させる行為はあまりにも軽率であるとい
わざるを得ない。
このような偶発的な侵入のほかに、人為的に持ち込まれたものが、日本に定着したと考えられてい
るものにホソオチョウがある。これはチョウの愛好家が朝鮮半島から持ち込んだものを野外に放した
ものが定着したと言われている。ホソオチョウは、幼虫の食草が、日本にもともと分布しているジャ
コウアゲハと同じウマノスズクサで、ホソオチョウのために関東地方ではジャコウアゲハが駆逐され
ていると報じられたこともある。
1999年、北海道で日本から初めて確認された種としてカラフトセセリがいるが(伊東,2000;永井,
2000;八谷,2002)、これは現在のところ紋別郡滝上町から隣接する網走支庁管内の狭い範囲だけで
見られるという。本種は全北区に広く分布し、サハリン南部まで見られる種であることから、自然飛
来も考えられるが、発生地がオホーツク側の狭い範囲であることから、八谷(2002)は人為的な持ち
込みではないかと考えられているとしている。しかし、麻生・関口(2001)は 、ヨーロッパやロシア 、
サハリン、中国、北アメリカ産の本種のDNA解析を行い、北海道のものはサハリンやロシア、中国
のものとは大きく異なっており、アメリカのウィスコンシン州のものと完全に一致したことから、輸
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入牧草についての移入ではないかと推測している。
さらに 、ごく最近になって、大陸産のアカボシゴマダラが関東地方で採集されている(神保・高桑,
2002;浅野,2002)。この種もおそらくは愛好家が持ち込んだものを放したもの、と考えられている
が 、チョウの愛好家の間では 、すでに卵や幼虫などが配られ 、飼育されているという。安易な放蝶は 、
自然にどのような影響を与えるか見当がつかないことであり、厳に慎むべきことであろう。
(2)今後の課題
①現状把握の強化
県内におけるチョウ・ガ相については、まだ調査が十分とはいえない。特にガ類においては生活史
や生息地の状況はもとより、各種の分布すら詳細な調査が行われていない状況であり、ほとんど実態
が把握できていない。今後の早急な調査が望まれる。
②生息環境の保全
チョウ・ガ類はその幼虫期の食性はほとんどが植物食であり、豊かな植生がそのままこのグループ
の良好な生息環境を意味する。河川敷から里山環境の身近な雑木林、剣山のような高い山地帯の樹相
が多様であるほどこのグループの種の構成は豊かになる。また、身近であるほどその重要性は見落と
されがちであるが、里山環境の維持はきわめて大切であり、特に住宅地や工業用地の造成に関係した
大規模な開発行為に当たっては、十分な生息状況の把握を行うとともに、環境に配慮した工法の採用
などが必要である。
③種の多様性の保全
この群の、特にチョウ類においては、甲虫目のホタルと同様に、個体数が減ったものを飼育・増殖
して野外に放すことで自然を再現しようという考え方が各地で見られる。このような考え方は、特に
県あるいは市町村の天然記念物に指定されているような種に関して多いが、その地域に生息していた
種でない限り、逆に生物の遺伝子多様性を損なう可能性が高く、安易に行うべきではない。
また、日本の他の地域から持ち込んだ種を、県内で放していつでも見たいという考え方もあるが、
本来そこに分布していなかった種を持ち込むことは、その地域の生態系に及ぼす影響がまったくわか
らない状況においては極めて危険な考え方である。
さらに、国外のチョウ類の生きた個体の持ち込みが禁止されている中で、個人的にそのような行為
を隠れて行い、日本国内に放すことは、これまでの日本の自然の成立過程や歴史性を無視したきわめ
て悪質な行為であり厳に慎むべきである。
日本は、アジア大陸から別れて長い時間をかけて現在の生物相が成立してきているだけに、大陸に
は日本の種の母体となったものが多く生息しており、朝鮮半島や中国大陸からそのような種を持ち込
むと、日本の生物相の独自性や遺伝子的な攪乱が起こることは明らかである。他の地域や国外の生き
た成虫が手軽に手に入るとしても、安易にそのような行為を行わないことや、飼育などを行う場合に
は十分な責任と自覚が必要である点について、愛好家などへの普及啓発が望まれる。
<引用文献>
・浅野勝司.2002.アカボシゴマダラを鎌倉市で採集.月刊むし、(374): 41.
・麻生紀章・関口正幸.2001.日本鱗翅学会関東支部2001年春の集い講演要旨集, p.21-23.
・伊東秀晃.2000.カラフトセセリの分布状況-2000年の発生記録-.蝶研フィールド, 15(9):10-14.
・上野雅史.1997.オオモンシロチョウについての一考察(第一報 ).やどりが, (169): 25-41.(半
翅類)
・神保賢一路・高桑正敏.2002.横浜市で採集されたアカボシゴマダラ.月刊むし, (374): 40-41.
・永井 信.2000.カラフトセセリの分布調査.Jezoensis, (27): 8.
・日本鱗翅学会四国支部編.1979.四国の蝶.229 pp. 日本鱗翅学会四国支部.
・八谷和彦.2002.海を渡ってきた北方系のチョウたち-その侵入と定着-.昆虫と自然, 37(3):12-15.
・溝口 修・西岡靖夫・日浦 勇.1957.徳島県産蝶類目録.昆虫科学, (5): 6-60.
(注)
昆虫の各グループに関する参考文献のうち主なものは、別途まとめて記載。
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