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根室地域におけるサケの自然再生産の現状と評価に関する研究

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根室地域におけるサケの自然再生産の現状と評価に関する研究
Title
Author(s)
根室地域におけるサケの自然再生産の現状と評価に関す
る研究
市村, 政樹
Citation
Issue Date
2015-03-25
DOI
Doc URL
http://hdl.handle.net/2115/58604
Right
Type
theses (doctoral)
Additional
Information
File
Information
Masaki_Ichimura.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
根室地域におけるサケの自然再生産の
現状と評価に関する研究
(Present status and evaluation on natural reproduction of
chum salmon in the Nemuro area, Hokkaido, Japan )
北海道大学大学院水産科学院
海洋生物資源科学専攻
Graduate School of Fisheries Sciences
Division of Marine Bioresource and Environmental Science
市
村
政
樹
Masaki Ichimura
平 成 27 年 ( 2015)
目次
第 1章
緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1.1 人 工 ふ 化 放 流 事 業 の 歴 史
1.2 野 生 魚 の 現 状 と そ の 重 要 性
1.3 シ ロ ザ ケ の 産 卵 行 動 と 産 卵 環 境
1.4 根 室 海 峡 に 流 入 す る 河 川 の 特 徴
1.5 本 研 究 の 目 的
第 2章
北 海 道 東 部 根 室 海 峡 周 辺 で 採 集 さ れ た 「 サ ケ マ ス 」 の DNA 分 析 に よ る 交
雑 判 別 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ 10
2-1.
材 料 お よ び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12
2.1.1 試 料 と DNA 抽 出
2.1.2 ミ ト コ ン ド リ ア DNA 分 析
2.1.3 核 DNA 分 析
2.1.4 種 特 異 的 な PCR 分 析
2.1.5 人 工 交 雑 個 体 の 親 種 の 確 認
2-2.
結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
2.2.1 ミ ト コ ン ド リ ア DNA 分 析
2.2.2 核 DNA 分 析
2.2.3 種 特 異 的 な PCR 分 析
2.2.4 人 工 交 雑 個 体 の 親 種 の 確 認
2.2.5「 サ ケ マ ス 」 の 父 親 種 と 母 親 種 の 確 認
2.2.6 交 雑 個 体 の 外 部 形 態
2-3.
考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 30
2.3.1 DNA 分 析 に よ る 親 種 の 判 別
2.3.2 交 雑 個 体 の 形 態 特 徴
2.3.3 交 雑 個 体 の 出 現 背 景
i
第 3章
3-1.
実 験 水 槽 に お け る シ ロ ザ ケ の 産 卵 行 動 の 観 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
材 料 お よ び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 36
3.1.1 実 験 水 槽 の 概 要
3.1.2 実 験 魚
3.1.3 産 卵 回 数 ・ 放 卵 数 測 定 実 験
3.1.4 河 床 か ら の 湧 出 水 と 産 卵 場 所
3-2.
結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 40
3.2.1 産 卵 回 数 お よ び 産 卵 各 回 の 放 卵 数
3.2.2 産 卵 時 に お け る 湧 出 水 の 選 択 性
3.2.3 産 卵 ま で に 要 す る 時 間
3-3.
考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 50
3.3.1 産 卵 回 数 と 放 卵 数
3.3.2 シ ロ ザ ケ の 湧 出 水 選 択 性
第 4章
4-1.
根 室 地 域 に お け る シ ロ ザ ケ の 自 然 再 生 産 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
材 料 お よ び 方 法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 53
4.1.1 産 卵 状 況
4.1.2 産 卵 床 に お け る 生 残 率 の 推 定
4.1.3 産 卵 適 地 の 推 定
4.1.4 シ ロ ザ ケ の 来 遊 数 と 河 川 回 帰 率
4-2.
結 果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 59
4.2.1 自 然 産 卵 魚 の 分 布
4.2.2 自 然 産 卵 魚 の 産 卵 時 期
4.2.3 発 眼 卵 の 生 残 率
4.2.4 産 卵 適 地 面 積
4.2.5 各 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ の 河 川 回 帰 率 と 遡 上 尾 数
ii
4-3.
考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77
4.3.1 自 然 再 生 産 状 況 と 産 卵 適 地
4.3.2 発 眼 卵 の 生 残 率 と 湧 水 の 選 択 状 況
4.3.3 各 河 川 に お け る 野 生 魚 由 来 の 自 然 産 卵 魚
4.3.4 野 生 魚 に よ る 再 生 産
第 5章
総 合 考 察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82
5.1 根 室 地 域 に お い て 産 卵 す る シ ロ ザ ケ の 現 状 と 問 題 点
5.2 産 卵 時 期 に よ る 野 生 魚 の 資 源 管 理
5.3 地 域 主 体 の 資 源 管 理 の 策 定
摘 要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 89
謝 辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 94
引 用 文 献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・ 95
iii
第 1 章
1.1
緒言
人工ふ化放流事業の歴史
我 が 国 に お け る サ ケ O n c o r h y c h u s k e t a( 以 下 ,シ ロ ザ ケ と す る )と カ ラ フ ト マ
ス O. gorbuscha の 人 工 ふ 化 放 流 事 業 は , 栽 培 漁 業 や 管 理 型 漁 業 の 成 功 例 と み な
さ れ て い る ( 帰 山 1 9 9 8 )。 し か し な が ら , 近 年 , 遺 伝 学 , 生 態 学 な ど 様 々 な 視 点
か ら 人 工 ふ 化 放 流 事 業 に よ る 弊 害 も 指 摘 さ れ る よ う に な っ て い る (例 え ば ,永 田 ・
山 本 2 0 0 4 ) 。人 工 ふ 化 放 流 事 業 が 本 格 的 に 導 入 さ れ る 以 前( 1 8 7 7 ~ 1 8 9 3 年 )の 北
海 道 で の シ ロ ザ ケ の 漁 獲 尾 数 は お よ そ 500〜 700 万 尾 で あ り , そ の ほ と ん ど が 野
生 魚 由 来 の 資 源 で あ っ た ( 小 林 2 0 0 9 )。
ここで,本論文では,ふ化場魚とはふ化場から放流され数年後に回帰している
個体,野生魚とは 1 世代以上にわたり産卵している個体,自然産卵魚とは親がふ
化 場 魚 か 野 生 魚 か 区 別 が つ か な い が 産 卵 し て い る 個 体 と 定 義 し た ( D r. P e t e r S .
R a n d , Wi l d S a l m o n C e n t e r 私 信 )。
明治時代に入り,産卵の保護を意図した河川内におけるサケ漁に関する規制が
行われ,加えて「蕃殖場」と呼ばれる区画では監視人を配置するなどの繁殖保護
策 が 行 わ れ た ( 秋 庭 1 9 8 8 )。 さ ら に , 江 戸 時 代 に 新 潟 県 三 面 川 で 行 わ れ て い た 産
卵 場 所 の 造 成 な ど 自 然 再 生 産 を 助 長 し 保 護 す る 方 策 で あ る 「 種 川 の 制 」( 横 川
2 0 0 5 ; 須 藤 1 9 8 5 )に 模 し た 制 度 を 導 入 し た こ と に よ り ,シ ロ ザ ケ の 資 源 は 維 持 さ
れ た と 考 え ら れ る 。 そ の 後 , 1 8 8 8( 明 治 2 1 ) 年 に 千 歳 川 に 「 千 歳 中 央 ふ 化 場 」 が
開設されたことにより,人工ふ化放流技術が導入される過程で,こういった自然
再 生 産 を 助 長 す る 施 策 は 急 速 に 後 退 し た( 秋 庭 1 9 8 8 ; 小 林 2 0 0 9 )。シ ロ ザ ケ の 増
殖体制が自然再生産からふ化事業へ施策が転換した背景には,当時,野生魚によ
る 稚 魚 の 生 残 率 が ふ 化 事 業 の も の と 比 べ て 1/4~ 1/7 と い う 誤 っ た 判 断 が な さ れ
た た め ,野 生 魚 に よ る 資 源 管 理 は 過 小 評 価 さ れ た た め と 考 え ら れ る( 小 林 2 0 0 9 )。
この時期シロザケの生態学的知見は乏しく,増殖・人工ふ化技術研究も見るべき
研 究 は 少 な か っ た( 佐 野 1 9 8 2 )。さ ら に ,1 9 3 4 年 ま で の ふ 化 事 業 は 民 間 ふ 化 場 に
よる経営であり,民間ふ化場の経営が捕獲した親魚の売却金に依存していたこと
から,ふ化放流よりも魚の捕獲自体を目当てとした経営体もあったためとも言わ
れ て い る ( 小 林 2 0 0 9 )。 そ の た め , 本 格 的 な 人 工 ふ 化 放 流 事 業 導 入 後 の , 1 9 0 0 ~
1 9 7 0 年 ま で の 漁 獲 尾 数 は お よ そ 3 0 0 ~ 5 0 0 万 尾 で あ り ,放 流 事 業 が 展 開 さ れ る 以
1
前 よ り も 低 い 水 準 で 推 移 し た( 帰 山 2 0 0 2 ; 小 林 2 0 0 9 )。そ の 後 ,給 餌 放 流 技 術 の
導 入 と 適 期 放 流 技 術 の 開 発 な ど 人 工 ふ 化 放 流 事 業 の 技 術 革 新 ( Kobayashi 1980;
M a y a m a 1 9 8 5 ; K a e r i y a m a 1 9 9 9 )に 加 え ,長 期 的 な 気 候 変 動 と 連 動 し た 要 因 に よ
り ( 帰 山 1 9 9 8 ), シ ロ ザ ケ 資 源 は 大 幅 に 増 加 し た と 考 え ら れ て い る 。 そ の 結 果 ,
2000 年 代 以 降 の 北 海 道 で の シ ロ ザ ケ の 沿 岸 へ の 来 遊 尾 数 は 年 変 動 が あ る も の の
5 0 0 0 万 尾 近 く に 上 り ( M i y a k o s h i a n d N a g a t a 2 0 1 2 ), 放 流 事 業 開 始 以 前 の 資 源
をはるかに上回っている。
1.2
野生魚の現状とその重要性
ふ化場魚は人為的な選抜による人工授精のため,野生魚のような産卵に参加す
る た め の 雄 同 士 の 争 い や ,雌 に よ る 産 卵 場 所 の 選 択 な ど の 自 然 淘 汰( G r o s s 1 9 8 5 ,
1 9 9 1 ) が 欠 け て い る ( M c L e a n e t a l . 2 0 0 5 )。 1 9 7 0 ~ 1 9 8 0 年 代 に か け て の 北 海 道
さけ・ますふ化場事業成績書によると,シロザケの人工ふ化放流に使用された親
魚 は ,お よ そ 雄 1 尾 に 対 し 雌 3 尾 で あ る 。人 工 受 精 で の 雄 と 雌 の 使 用 比 率 を 一 対
一 に 近 づ け る な ど 努 力 が な さ れ て い る が ( 石 黒 1 9 9 8 ), 現 在 も 雄 の 受 精 へ の 使 用
に人為的な選択が働いている。国内のシロザケは北米やロシアの野生魚と比べる
とハプロタイプ多様度が高いため,遺伝的多様性は大きいと考えられている
( Sato et al. 2004; Beacham et al. 2009) が , こ の 高 い 遺 伝 的 多 様 性 は , 1960
年代から頻繁に行われた発眼卵の移植により固有の河川群への遺伝的攪乱をもた
ら し た 可 能 性 が 高 い ( 永 井 ら 2 0 1 2 )。 現 在 の シ ロ ザ ケ の 資 源 状 況 に 多 く の 漁 業 者
が依存している現状において,その資源管理はあくまでも人工ふ化放流事業をベ
ースとすることは避けられない。しかしながら,シロザケ資源の持続可能な利用
のためには,人工ふ化放流事業によってもたらされる遺伝学的なリスクなども検
討 す る こ と が 必 要 で あ る ( A l t u k h o v e t a l . 2 0 0 0 ; M o r i t a e t a l . 2 0 0 6 )。 ま た , 近
年,サケ属魚類は海洋から栄養塩などを陸域生態系へもたらす物質循環の担い手
と し て の 重 要 性 も 指 摘 さ れ て い る ( 帰 山 2005; 伊 藤 ら 2004; Koshino et al.
2 0 1 3 )。し か し ,親 魚 の 大 部 分 は 遡 上 前 に 漁 獲 さ れ る の で ,我 が 国 の 野 生 サ ケ 類 に
よる物質循環は,河川生態系の構造と機能を維持するためには現時点では十分で
な い と 考 え ら れ て い る ( 帰 山 2 0 0 9 )。 し た が っ て , 遺 伝 的 観 点 や 健 全 な 河 川 生 態
系の維持の観点から,自然再生産による資源管理をおろそかにし,ふ化放流魚だ
けによる資源管理は好ましくない。これを改善するためには,野生魚による再生
2
産により資源を維持できる環境づくりが必要であり,そのためには現状の自然再
生産の実態を把握しなければならない。
我が国におけるシロザケの多くは人工ふ化放流事業によるものと考えられてい
た( 例 え ば ,佐 野 1 9 8 2 ; 秋 庭 1 9 8 8 )。し か し ,近 年 の 研 究 で は ,北 海 道 に お い て
野 生 魚 由 来 の 資 源 の 存 在 が 確 認 さ れ て い る ( 長 谷 川 ら 2 0 1 3 )。 北 海 道 内 の 流 路 延
長 8 km 以 上 の 230 余 り あ る 河 川 の な か で , 自 然 産 卵 魚 が 確 認 さ れ た 河 川 は 100
以 上 に の ぼ る 。 そ の う ち , 放 流 が 行 わ れ て い な い 河 川 は 50~ 60 河 川 で あ り , そ
の バ イ オ マ ス は 小 さ い と 推 定 さ れ て い る ( Miyakoshi et al. 2012) も の の , 現 時
点で自然産卵魚の保護は極めて現実的である。また,高度成長期以降,治水・利
水 を 目 的 と し た 河 川 工 事 が 進 み ,全 国 の 一 級 河 川 の 中 下 流 部 の 川 岸 の う ち 約 2 0 %
が 人 工 化 さ れ , ダ ム や 堰 な ど の 河 川 を 横 断 す る 工 作 物 も 増 加 し ( 中 村 2 0 1 3 ), 北
海 道 に お け る 河 川 地 形 の 多 様 度 は , 1950 年 代 か ら 2000 年 代 に か け て 平 均 し て
7 3 % 程 度 低 下 し た ( 福 島 ら 2 0 0 5 )。 そ の た め , シ ロ ザ ケ が 再 生 産 可 能 な 河 川 環 境
は,以前と比べて大幅に減少しているものと推察されるが,これを改善し,自然
再生産による資源の造成を図ることも,現状においてある程度可能であると考え
られる。
アメリカ合衆国におけるサケ科魚類の人工ふ化放流事業は,野生魚が減少する
要因となった乱獲やダム建設などの影響から,漁獲量を維持,保証するための安
易 な 政 治 的 な 手 段 と し て も 利 用 さ れ て い た ( B r o w n 1 9 9 5 )。 一 方 , 我 が 国 に お い
て は ,大 規 模 な 河 川 工 事 が 行 わ れ る 以 前 か ら 人 工 ふ 化 放 流 事 業 が 展 開 さ れ て お り ,
政治的手段としてではなく,純粋に資源増殖を目的としてものであったと考えら
れ る 。し か し な が ら ,1 9 7 0 年 以 前 に は シ ロ ザ ケ の 自 然 再 生 産 に 関 す る 研 究 は 少 な
く ( 佐 野 1 9 5 5 ; 佐 野 ・ 長 沢 1 9 5 8 ; 小 林 1 9 6 8 ), そ の 目 的 は , あ く ま で 低 迷 し て
い た 人 工 ふ 化 放 流 事 業 に 応 用 す る た め の も の で あ っ た( 佐 野 1 9 8 2 ; 秋 庭 1 9 8 8 )。
さらに,ふ化放流事業において河川で捕獲されたシロザケのうち,余剰親魚が生
じた場合,河川へ再放流することなく売却されていた。したがって,これらの研
究や事業において自然再生産による資源管理は考えられていなかったと推察され
る。シロザケの自然再生産による繁殖保護が継続し,人工ふ化放流事業と併用さ
れ て い た な ら ば ,1 9 0 0 ~ 1 9 7 0 年 ま で の 長 期 に わ た る 資 源 低 迷 は 避 け ら れ た と 考 え
られる。さらに,自然再生産するシロザケへの配慮から北海道における河川管理
体 制 お よ び そ の 保 全 方 法 も 大 き く 変 わ っ て い た 可 能 性 も あ る ( 帰 山 2002; 小 林
3
2 0 0 9 )。
1.3
シロザケの産卵行動と産卵環境
シロザケの自然再生産の実態を把握するためには,その産卵行動および産卵環
境 に 関 す る 基 礎 的 な 情 報 が 不 可 欠 で あ る 。 Duker (1977) お よ び Schroder (1973,
1 9 8 2 ) に よ る と ,シ ロ ザ ケ の 雌 個 体 は ,河 川 の 下 流 か ら 上 流 方 向 に か け ,4 〜 6 回
に分けて産卵を行い,一つの産卵床を形成する。サケ科魚類の産卵床内における
生残率の調査を進める上で重要である孕卵数および産卵回数については,これま
で に 多 く の 知 見 が あ る ( 例 え ば , S c h r o d e r 1 9 8 2 )。 し か し な が ら , 自 然 河 川 に お
いて,正確な産室場所およびその場所での各回の産卵数などを計測することは物
理 的 に 困 難 で あ る た め , そ の 研 究 例 が 少 な い ( Hawke 1978; Gaudemar et al.
2 0 0 0 )。ま た ,サ ケ 科 魚 類 が 産 卵 場 所 を 選 定 す る 条 件 と し て ,産 卵 場 所 の 流 速 ,水
深,底質および河床からの湧昇流などがあげられており,産卵場所は河床が砂礫
の 場 所 が 好 ま れ る ( 例 え ば , Bjornn and Reiser 1991) 。 さ ら に , シ ロ ザ ケ は 河
床から地下水や伏流水が湧きだす場所を選んで産卵するが,カラフトマスは河川
水 が よ く 浸 透 す る 場 所 を 選 択 す る と さ れ て い る( 佐 野・長 沢 1 9 5 8 ; 小 林 1 9 6 8 )。
矢 野 ら (2012) は , 砂 州 地 形 に よ り 発 生 す る 湧 水 ( 伏 流 水 ) が , 産 卵 環 境 に 寄 与
し て い る と 報 告 し て い る が ,細 部 に わ た る 実 証 は 自 然 河 川 で は 困 難 な 部 分 が 多 い 。
1.4
根室海峡に流入する河川の特徴
石 城 ( 1984) に よ る と , 北 海 道 東 部 根 室 海 峡 に 流 入 す る 河 川 は , 標 津 町 内 に あ
る 忠 類 川 と 伊 茶 仁 川 を 境 に 2 つ 対 照 的 な 河 川 形 態 が 存 在 す る( 図 1 - 1 )。そ の た め ,
河川ごとに現状を把握し,対策を検討する必要がある。忠類川以北の知床半島の
河川では,河床勾配が急であり,河川形態はほぼ全域が一つの蛇行内に複数の瀬
と 淵 が 存 在 し 白 瀬 で 淵 が 連 結 し て い る Aa 型 で あ り , 海 岸 線 近 く で は , 一 つ の 蛇
行 内 に 複 数 の 瀬 と 淵 が 存 在 す る Bb 型 の と こ ろ も 見 ら れ る が , 水 面 勾 配 が 緩 や か
な B c 型 は 見 ら れ な い 。一 方 ,忠 類 川 の 南 に 隣 接 す る 伊 茶 仁 川 よ り 南 の 河 川 で は ,
低 湿 な 原 野 の 湧 き 水 か ら は じ ま る た め , 標 津 川 の 上 流 域 を 除 い て Aa 型 の 部 分 は
な く ,部 分 的 に B b 型 の と こ ろ が 見 ら れ る 他 は ,ほ と ん ど が B c 型 の 流 れ に な っ て
い る ( 市 村 未 発 表 )。 つ ま り , 忠 類 川 以 北 の 河 川 で は , 通 常 の 河 川 の 上 流 域 が そ
のまま海へ流れ込んでおり,伊茶仁川以南の河川は典型的な湿原地帯の河川とい
4
える。この河川形態の違いを反映し,そこに住む魚類相が違う。例えば,イトウ
H u c h o p e r r y i の 生 息 域 は ,伊 茶 仁 川 以 南 の 湿 原 地 帯 の 河 川 で あ り ,忠 類 川 以 北 で
は 確 認 さ れ て い な い 。ま た ,ア メ マ ス Salvelinus leucomaenis も ,伊 茶 仁 川 以 南
では全ての河川で確認されているものの,忠類川以北ではごくまれに生息が確認
さ れ て い る 程 度 で ( 市 村 未 発 表 ), そ の 繁 殖 は 確 認 さ れ て い な い ( 石 城 1 9 8 4 )。
シロザケの産卵場所は,忠類川以北の河川では,ほぼ河口域から産卵が確認され
ているのに対し,伊茶仁川以南の河川では中流域から上流域で確認されている。
さらに,標津地域の河川においてシロザケが産卵を行っている河川について詳し
く見ると,その要因は不明であるが,上流域の産卵適所がまったく利用されない
河 川 が 複 数 あ る 。一 方 ,ふ 化 場 近 辺( 図 1 - 1 )に お い て は 産 卵 親 魚 の 分 布 密 度 が 高
く,雄による雌の産卵を阻害する行動や雌同士の繁殖競争が頻繁に観察されてい
る。さらに,同河川ではすでに形成された産卵床で再び産卵が行われる重複産卵
が 確 認 さ れ ,そ こ で は 掘 り 返 し に よ る 卵 の 流 失 が 観 察 さ れ て い る( 市 村 未 発 表 )。
したがって,根室海峡に流入する河川の将来にわたる自然再生産による資源の管
理体制を確立する上で,それら河川の自然再生産状況および産卵環境を定量的に
評価することが必要不可欠である。
知床半島内の河川ではダムなどの人工工作物によりサケ科魚類が遡上障害を受
け て い る( 例 え ば ,横 山 ら 2010)。そ の た め ,知 床 半 島 で は シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト
マ ス , 両 種 が 狭 い 範 囲 で 重 複 し て 産 卵 し て い る 河 川 も 多 い ( 小 宮 山 2 0 0 3 )。 シ ロ
ザケおよびカラフトマスは通常,同種間でペアリングを行うが,雄が異種の雌に
対 し て 求 愛 行 動 を す る ケ ー ス も ま れ に 観 察 さ れ て い る 。根 室 海 峡 で は ,
「サケマス」
と呼ばれるシロザケとカラフトマスの交雑種と考えられている個体も漁獲されて
いるが,
「 サ ケ マ ス 」個 体 に 関 す る 遺 伝 学 的 分 析 結 果 は な く ,そ の 親 種 の 特 定 は さ
れていない。
「 サ ケ マ ス 」が 交 雑 個 体 で あ れ ば ,こ れ ら が 自 然 環 境 下 に お い て シ ロ
ザケおよびカラフトマスと戻し交配することにより,さらには人工ふ化の現場で
種 を 見 誤 る な ど の 人 為 的 ミ ス よ り ,遺 伝 子 浸 透( 向 井 2 0 0 1 )が 起 こ り ,遺 伝 的 な
攪乱およびその資源に影響する可能性も考えられる。
1.5
本研究の目的
我が国のサケ属魚類の野生魚による再生産は,効率的なふ化事業を続ける上で
も,河川ごとの遺伝的固有性を維持する上でも,また河川流域の生物多様性と生
5
物 生 産 力 を 高 め る 視 点 か ら も , 重 要 で あ る ( 帰 山 2 0 0 2 )。 し た が っ て , 効 率 的 な
ふ化放流事業の推進と合わせて,野生魚をどのように保全して維持させるかは,
我が国のシロザケ資源の持続的利用と適正管理における重要なテーマである(宮
腰 2 0 1 4 )。
シロザケの野生魚の保全を考える上で,産卵場所となり,さらに稚魚の育成場
所となる河川環境の存在は極めて重要である。北海道では,流路延長,勾配,水
量,水温,産卵場所となる河床材料など自然要因に加え,ダムなどの工作物や河
川改修などの人為的な作用により,河川ごとにその構造が異なる。また,シロザ
ケの人工ふ化放流事業による放流数,河川捕獲の状況,さらには沿岸での漁獲圧
などの水産業に関わる諸条件も河川により異なる。そのため,それぞれの地域,
河川ごとに産卵環境や人為的な影響などの基礎的データの積み重ね,その実態を
明らかにし,それぞれの地域,河川に即したきめ細やかな方策を打ち出し,野生
魚の保全を図るべきである。
標 津 町 で は , 1892 年 に 標 津 川 , 薫 別 川 お よ び 忠 類 川 に , そ し て 1900 年 に 伊 茶
仁 川 に ふ 化 場 が 建 設 さ れ た ( 標 津 漁 業 協 同 組 合 1 9 8 8 )。 忠 類 ふ 化 場 は 採 卵 成 績 が
悪 か っ た た め 1 8 9 8 年 に 廃 止 さ れ ,1 9 3 4 年 に 再 開 し 捕 獲 と 採 卵 の み 行 わ れ て い る
が ( 秋 庭 ・ 末 武 1 9 8 4 ), 他 の 河 川 で は 継 続 的 に ふ 化 放 流 事 業 が 行 わ れ て き た 。 そ
の結果として,現在,標津川,伊茶仁川,忠類川,薫別川および元崎無異川の 5
水 系 に あ る ふ 化 場 か ら , 毎 年 約 7,500 万 尾 の シ ロ ザ ケ 稚 魚 が 放 流 さ れ て い る 。 標
津 町 に お け る シ ロ ザ ケ の 漁 獲 尾 数 は , 1990 年 代 に は 600 万 尾 近 く で あ っ た 。 し
か し な が ら , 放 流 数 に 大 き な 変 動 が な い に も か か わ ら ず , 近 年 の 漁 獲 尾 数 は 200
万 尾 前 後 と 3 分 の 1 近 く に 減 少 し て お り ,特 に 前 期 群 の 漁 獲 尾 数 が 減 少 し て い る
( 図 1-2) が , そ の 要 因 に つ い て は 不 明 で あ る 。 標 津 町 内 で 漁 獲 さ れ る シ ロ ザ ケ
の多くは,北海道内の他の地域同様に人工ふ化放流事業によるものと考えられて
い る が , 標 津 町 内 伊 茶 仁 川 に 遡 上 す る シ ロ ザ ケ の う ち , 11 ~ 3 3 % は 野 生 魚 で あ る
と の 報 告 も あ る ( 森 田 ら 2 0 1 3 b )。
本研究は,根室地域のシロザケの人工ふ化放流事業と野生魚の共存を可能とす
る資源保全と持続的利用の方策を提言することを目的とし,シロザケの自然再生
産の現状を評価した。第 2 章では,シロザケの自然産卵魚に対する他種による遺
伝的侵入とその要因を知るため,シロザケとカラフトマスの交雑の可能性がある
道東地域で「サケマス」と呼ばれる個体の遺伝学的な分析を行い,外部形態によ
6
るその判別を試みた。第 3 章では,シロザケがどのような河川環境を選択して産
卵するかを明らかにするため,実験用人工河川に産卵環境を再現し,シロザケの
産卵行動,産卵回数と各産卵時の放卵数の関係および湧水,河川浸透水による産
卵場所選択などの基礎的なデータを収集した。第 4 章では,標津地域各河川にお
けるシロザケの自然再生産の実態と発眼卵の生残率および各河川の産卵適地面積
を明らかにした。これらによって現在の自然再生産状況を精査し,野生魚による
資源維持の可能性を検討した。総合考察では,以上を総括し,根室地域の河川に
おける人工ふ化放流事業の枠組みの中で野生魚を増加させる方策を検討した。
7
図 1-1. 標 津 地 域 に お け る 河 川 と ふ 化 場 の 位 置 .
8
図 1-2. 標 津 町 に お け る シ ロ ザ ケ 月 別 漁 獲 数 の 経 年 変 化 .標 津 漁 業 協 同 組 合 さ け 水 揚
げ日報より作成.
9
第 2 章
北海道東部根室海峡周辺で採集された「サケマス」の
DNA 分 析 に よ る 交 雑 判 別
シロザケとカラフトマスは北日本における漁業の重要魚種であるが,その資源
の 多 く は 古 く か ら 行 わ れ て い る 人 工 ふ 化 事 業 に よ る と こ ろ が 大 き い ( 永 田 2009;
小 林 2 0 0 9 )。 北 海 道 に お け る 産 卵 の 盛 期 は , カ ラ フ ト マ ス が 9 月 中 旬 か ら 1 0 月
中 旬 , シ ロ ザ ケ が 1 0 月 か ら 11 月 で あ り ( 眞 山 1 9 8 9 ; 永 田 2 0 0 3 ; 加 藤 2 0 0 2 ),
カラフトマスがやや早い傾向があるものの,産卵時期は重複する。したがって,
自然環境下で交雑する可能性がある。
第 2 次 性 徴 発 現 時 の 外 部 形 態 に お い て ,シ ロ ザ ケ は 背 部 と 鰭 に 黒 点 が な く ,赤 ,
黄 , 紫 色 が 混 じ る 雲 状 斑 が 現 れ る ( 眞 山 1 9 8 9 ; 永 田 2 0 0 3 ; 加 藤 2 0 0 2 )。 一 方 ,
カラフトマスは背部と尾鰭に大きな楕円形の黒点があり,婚姻色は頭部と背部が
黒 っ ぽ い 灰 色 , 体 側 は 赤 紫 が か っ た 茶 色 で あ り , 腹 部 は 白 い ( 加 藤 2002; 眞 山
1 9 8 9 )。ま た ,産 卵 期 の 雄 は「 背 っ ぱ り 鱒 」と も 呼 ば れ ,体 が 側 偏 し 背 鰭 前 の 背 部
が 著 し く 隆 起 す る ( S u s u k i e t a l . 2 0 1 4 )。 こ れ ま で , 根 室 海 峡 周 辺 の 海 域 お よ び
河川ではシロザケの体型でありながら腹部が白く婚姻色が不明瞭な個体,また,
カラフトマスの体型でありながら体側に赤の雲状斑が出現する個体,さらに尾鰭
に小黒点がある個体など両種の混合型,もしくは両種にはない特徴がある個体が
採 集 さ れ て い る ( 小 宮 山 2 0 0 3 )。 こ れ ら を 漁 業 関 係 者 は シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス
の交雑個体として「サケマス」と呼称している。このような個体は,北米大陸ブ
リ テ ッ シ ュ コ ロ ン ビ ア に お い て も 採 集 さ れ て い る( H u n t e r 1 9 4 9 )。北 太 平 洋 で も
シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 交 雑 個 体 と み ら れ る 「シ ロ マ ス 」と 呼 称 す る 個 体 が 採 集
され,アイソザイム分析の結果,シロザケとカラフトマスの交雑個体とそれらの
個 体 の 戻 し 交 配 し た 個 体 で あ っ た こ と が 報 告 さ れ て い る( 沼 知 ら 1 9 7 9 )。さ ら に ,
中部ベーリング海で採集された交雑個体(シロマス)と推察される雌 1 尾は,ミ
ト コ ン ド リ ア DNA (mtDNA)と 核 DNA 分 析 の 結 果 , 親 種 が シ ロ ザ ケ 雌 と カ ラ フ
ト マ ス 雄 の 交 雑 個 体 で あ っ た ( A b e e t a l . 2 0 0 3 )。 こ の よ う に , 外 洋 域 で 採 集 さ れ
た「シロマス」個体は交雑個体であることが遺伝的に確認されている。一方,沿
岸で採集される「サケマス」個体に関する遺伝学的分析結果はなく,その親種の
特定はされていない。
「 サ ケ マ ス 」が 交 雑 個 体 で あ れ ば ,こ れ ら が シ ロ ザ ケ お よ び
カラフトマスと交雑することにより遺伝子浸透が起こり,遺伝的な攪乱およびそ
10
の 資 源 に 影 響 す る 可 能 性 も 考 え ら れ る ( 向 井 2 0 0 1 ; B e r n a t c h e z e t a l . 1 9 9 5 )。 ま
た,食品としての利用においては,適切な表示を困難とする要因にもなる。その
ため,交雑個体を判別する方法を確立させ,その出現をモニターすることは重要
である。
そ こ で ,本 章 で は「 サ ケ マ ス 」が 交 雑 個 体 で あ る か ど う か に つ い て D N A 解 析 手
法 を 用 い て 検 討 し ,「 サ ケ マ ス 」 の 核 D N A を 調 べ る こ と に よ り 交 雑 個 体 で あ る か
ど う か を 推 測 し た 。 さ ら に , mtDNA を 調 べ る こ と に よ り 母 親 種 を 推 測 し た 。 ま
た,遺伝的に交雑が確認された個体の外部形態における特徴を明らかにし,その
出現背景について考察した。
11
2-1
材料および方法
2.1.1 試 料 と DNA 抽 出
2005~ 2009 年 の 秋 に 根 室 海 峡 地 域 の 沿 岸 ま た は 河 川 で 採 集 さ れ , 外 部 形 態 か
ら 漁 業 関 係 者 が「 サ ケ マ ス 」と 判 断 し た 11 尾 を 用 い た( 表 2 - 1 , 図 2 - 1 )。ま た ,
同 時 期 ,同 海 域 で 採 集 さ れ た シ ロ ザ ケ 5 0 尾 お よ び カ ラ フ ト マ ス 2 1 尾 を 標 準 サ ン
プルとして用いた。持ち帰った「サケマス」の尾叉長,体重および生殖腺重量を
測定した後,側線鱗数および鰓耙数を計数した。同時に採取した鱗を用いて年齢
査 定 を 行 っ た 。ま た ,
「 サ ケ マ ス 」の 体 型 ,婚 姻 色 ,尾 鰭 や 背 面 に お け る 黒 点 の 有
無および雄については背部の張り出しの度合いを観察した。また,シロザケ雄と
カラフトマス雌,シロザケ雌とカラフトマス雄の組み合わせで人工交雑を行い,
得 ら れ た 後 代 ( 雑 種 F1) の 稚 魚 そ れ ぞ れ 3 尾 を 交 雑 個 体 の 標 準 サ ン プ ル と し た 。
測 定 し た「 サ ケ マ ス 」,シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス か ら 筋 肉 片 を 採 取 し ,冷 凍
保 存 (- 30℃ )し た 。 こ の 筋 肉 片 か ら 20-30 mg の 組 織 を 切 り 出 し , DNA 抽 出 キ ッ
ト ( Quick Gene 810, 富 士 フ ィ ル ム 社 ) に よ っ て DNA を 抽 出 し た 。
2.1.2
ミ ト コ ン ド リ ア DNA 分 析
シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス の 標 準 サ ン プ ル に つ い て ,m t D N A の AT P a s e 6 お
よ び NADH3 の 領 域 を 用 い て 分 析 し た 。 各 領 域 を 増 幅 す る プ ラ イ マ ー と し て ,
AT P a s e 6 に は P 0 1 と P 0 2 を , N A D H 3 に は P 2 1 と P 2 2 を ( O o h a r a a n d O k a z a k i
1 9 9 6 )そ れ ぞ れ 用 い た( 表 2 - 2 )。Ta q P o l y m e r a s e に は Ta k a r a E X Ta q T M H S( タ
カ ラ バ イ オ 社 ) を , ポ リ メ ラ ー ゼ 連 鎖 反 応 (PCR) に は サ ー マ ル サ イ ク ラ ー
( G e n e A m p P C R S y s t e m 9 7 0 0 , A p p l i e d B i o s y s t e m s 社 )を 用 い た 。反 応 溶 液 は ,
d N T P s 5 0 n m o l , 各 プ ラ イ マ ー 2 5 p m o l , 付 属 の b u f f e r 2 . 5 μ l , Ta q p o l y m e r a s e
2.5 units, 粗 全 DNA 溶 液 を 含 む 25 μl と し た 。 反 応 条 件 は 94℃ で 2 分 加 熱 後 ,
熱 変 性 94℃ 30 秒 , ア ニ ー リ ン グ 55℃ 30 秒 , 伸 長 72℃ 2 分 の サ イ ク ル を 30 回 行
い , 最 後 に 72℃ で 7 分 の 伸 長 を 追 加 し た 。 PCR 産 物 は , 1.5% ア ガ ロ ー ス ゲ ル
( NuSieve3:1, タ カ ラ バ イ オ 社 ) で 電 気 泳 動 後 , エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド で 染 色 し
て増幅産物を確認した。
PCR 増 幅 の 再 現 性 が 良 好 な 領 域 に つ い て , 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。 PCR 産 物 を
GFX フ ィ ル タ ー ( Amersham Bioscience 社 ) に よ り 精 製 し た 後 , BigDye
Te r m i n a t o r Ve r 3 . 1 C y c l e s e q u e n c i n g k i t ( A p p l i e d B i o s y s t e m s 社 ) と P C R に 用
12
い た 同 じ プ ラ イ マ ー を 用 い て ,シ ー ケ ン ス 反 応 を 行 っ た 。A B I 3 1 3 0 X L ジ ェ ネ テ イ
ッ ク ア ナ ラ イ ザ( A p p l i e d B i o s y s t e m s 社 )を 用 い て シ ー ク エ ン ス 反 応 し た 試 料 を
電気泳動し塩基配列を決定した。
2.1.3
核 DNA 分 析
シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス の 標 準 サ ン プ ル に つ い て , 核 DNA の 各 領 域 を 増
幅 す る た め , rDNA 領 域 に は プ ラ イ マ ー KP2 と 2.8S を ( Philips et al. 1992)
用 い , ま た , ニ ジ マ ス O . m y k i s s で 報 告 さ れ て い る ( D a l l a Va l l e e t a l .
2005) ア ロ マ タ ー ゼ B-1 遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を も と に , イ ン ト ロ ン 領 域 を 増 幅 す
る プ ラ イ マ ー を 新 た に 設 計 し , PCR 増 幅 で き る か 検 討 し た 。 な お , PCR は 上 記
mtDNA 分 析 と 同 じ 条 件 で 行 っ た 。 再 現 性 よ く PCR 増 幅 で き た 領 域 に つ い て ,
標準サンプルのシロザケとカラフトマス 4 尾ずつの塩基配列分析を行った。
PCR 産 物 を 上 記 方 法 と 同 様 に 精 製 後 , TOPO TA Cloning Kit ( Invitrogen 社 )
を 用 い て サ ブ ク ロ ー ニ ン グ し た 。 形 質 転 換 し た 大 腸 菌 8 ク ロ ー ン か ら M13 と
M13R の プ ラ イ マ ー に よ っ て PCR 増 幅 さ せ , 同 プ ラ イ マ ー を 用 い て 上 記 方 法 で
塩基配列分析を行った。
2.1.4
種 特 異 的 な PCR 分 析
種 特 異 プ ラ イ マ ー を 用 い た P C R に よ る 種 判 別 手 法 を 開 発 す る た め ,m t D N A 分
析 と 核 DNA 分 析 に よ っ て 得 ら れ た 塩 基 配 列 か ら 遺 伝 子 解 析 ソ フ ト DNA space
(日立社)を用いてシロザケとカラフトマスで異なる塩基部位を探索した。この
情 報 を も と に , シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス 特 有 の 塩 基 が 3’ 末 端 に 位 置 す る よ う に
さ ま ざ ま な プ ラ イ マ ー を 設 計 し た 。 検 討 し た 領 域 の forward と reverse の プ ラ イ
マ ー と 設 計 し た シ ロ ザ ケ 種 特 異 的 な プ ラ イ マ ー に よ っ て , P C R 分 析 を 行 っ た 。種
特 異 的 な P C R 産 物 の 再 現 性 を 高 め る た め ,ア ニ ー リ ン グ 温 度 を 5 5 ℃ か ら 6 0 ℃ ま
で変えて比較検討した。
2.1.5
人工交雑個体の親種の確認
シロザケ精子とカラフトマス卵およびシロザケ卵とカラフトマス精子を人工授
精 し ,ふ 化 さ せ て 卵 黄 が 吸 収 さ れ る ま で 飼 育 し た 。開 発 し た m t D N A と 核 D N A の
PCR 法 を 用 い た 親 種 の 判 別 が 有 効 で あ る か 確 認 す る た め , こ れ ら を 材 料 に PCR
13
を 行 い ,そ の 結 果 か ら 親 の 種 を 判 別 し た 。併 せ て ,シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の D N A
を 等 量 ず つ 混 ぜ て , 上 記 の PCR 分 析 を 行 っ た 。
14
図 2-1. 根 室 地 域 の 沿 岸 お よ び 河 川 で 捕 獲 さ れ た 「 サ ケ マ ス 」 の 外 部 形 態 写 真 .
15
表 2-1. 2005 年 か ら 2009 年 に 根 室 地 域 の 沿 岸 お よ び 河 川 で 捕 獲 さ れ た 「 サ ケ マ ス 」
の生物情報.
Sample ID
Sakemasu1
Sakemasu2
Sakemasu3
Sakemasu4
Sakemasu5
Sakemasu6
Sakemasu7
Sakemasu8
Sakemasu9
Sakemasu10
Sakemasu11
Sampling
date
2008/9/10
2008/9/13
2008/9/22
2008/10/15
2008/10/19
2008/10/19
2008/10/24
2007/9/22
2007/10/30
2005/10/8
2009/9/19
Sampling
location
Shibetsu R.
Shibetsu R.
Coast of Shibetsu
Shibetsu R.
Shibetsu R.
Shibetsu R.
Shibetsu R.
Uebetsu R.
Shibetsu R.
Shibetsu R.
Ichani R.
16
Fork length
(mm)
630
558
634
648
680
634
652
614
610
521
488
Body weight
(g)
2895
1773
3090
2625
3035
2490
2805
2445
2230
1564
995
Sex
Age
female
3
male
2
female
2
male
4
female
4
female
4
female
4
male no data
female
2
female
1
male
1
表 2-2. シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 種 特 異 的 な プ ラ イ マ ー 情 報 .
Primer set
1)ATPase6
Primer name
P01
ChumATPSSP
P02
Primer Sequence 5'-3'
AAACTGACCATGAACCTAAGCTTCTTCGACCA
TCTTATCACCCTAAACATACTGtGA
GCTGCTGTAGCAATTAGTTG
2) NADH3
P21
ChumND3SSP
P22
CGATATGGCATAATCTTATT
AGTGCGGATTTGACCCACTAGGGgCC
AGACCGGGTGATTGGAAGTC
3) ITS2
ChumITS2SSP
PinkITS2SSP
2.8S
GCCCGCGTTACGCATGTGtTG
GCCTTCGTCCCCCTAAGgTA
ATATGCTTAAATTCAGCGGG
4) Aromatase B1
OmAromaB-1-5F1
OmAromaB-1-6R1
TGCCTCTCAACGGTCAGTGG
ATAGCAGCTCTTTCTCTGAG
17
2-2
2.2.1
結果
ミ ト コ ン ド リ ア DNA 分 析
シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス の 標 準 サ ン プ ル で mtDNA の PCR 分 析 を 行 っ た 。
そ の 結 果 , AT P a s e 6 お よ び N A D H 3 は い ず れ も 再 現 性 よ く 増 幅 で き た 。 し た が っ
て ,親 種 の 判 別 に 利 用 す る 種 特 異 P C R の 開 発 に は こ れ ら の 領 域 を 用 い た 。こ れ ら
の 塩 基 配 列 情 報 は , DDBJ/EMBL/GenBank に AB523886 か ら AB523901 お よ び
AB524887 か ら AB524901 と し て そ れ ぞ れ 登 録 し た 。
2.2.2
核 DNA 分 析
P C R 分 析 の 結 果 ,核 D N A で は 増 幅 率 が 高 か っ た I T S 1 と I T S 2 を 含 む r D N A 領
域 を 用 い る こ と に し ,ITS1 と ITS2 を 含 む 領 域 の 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。こ れ ら の
塩 基 配 列 情 報 は , DDBJ/EMBL/GenBank に AB524075 か ら AB524078 と し て 登
録した。
ま た ,ニ ジ マ ス ア ロ マ タ ー ゼ B - 1 遺 伝 子 の 第 2 イ ン ト ロ ン を 増 幅 す る よ う 設 計
し た プ ラ イ マ ー セ ッ ト 4( 表 2-2) に よ っ て , シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス で 安 定 し
て P C R 増 幅 産 物 が 得 ら れ た ( 図 2 - 2 )。 P C R 産 物 の 塩 基 配 列 を 比 較 し た と こ ろ ,
シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 間 に 約 190 bp の 欠 失 挿 入 が 見 ら れ た 。 ま た , シ ロ サ
ケ の 個 体 間 で こ れ と は 別 に 1 0 b p の 欠 失 挿 入 が 見 ら れ た ( 図 2 - 3 )。
2.2.3
種 特 異 的 な PCR 分 析
シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス の 標 準 サ ン プ ル の AT P a s e 6 領 域 と N A D H 3 領 域
のアライメント結果,および種特異的になるように設計したプライマーの位置と
シ ー ケ ン ス を ,図 2 - 4 , 2 - 5 に 示 す 。3 末 端 に シ ロ ザ ケ 特 有 の 塩 基 が く る よ う に し ,
更に 3 末端から 3 番目の塩基がミスマッチになるように塩基を変えてプライマー
を 設 計 し た ( 表 2 - 2 )。 N A D H 3 領 域 を 増 幅 す る プ ラ イ マ ー と シ ロ ザ ケ 特 異 的 な プ
ラ イ マ ー を 組 み 合 わ せ た マ ル チ プ レ ッ ク ス PCR を 行 う こ と に よ り , シ ロ ザ ケ で
は 約 300 bp と 約 500 bp の 2 本 の バ ン ド , カ ラ フ ト マ ス で は 約 500 bp の 1 本 の
バ ン ド が 確 認 さ れ た ( 図 2 - 6 )。 ま た , 同 様 に AT P a s e 6 領 域 を 増 幅 す る プ ラ イ マ
ー と ,シ ロ ザ ケ 特 異 的 な プ ラ イ マ ー を 組 み 合 わ せ て P C R を 行 う こ と に よ り ,シ ロ
ザ ケ で は 約 280 bp と 約 480 bp の 2 本 の バ ン ド , カ ラ フ ト マ ス で は 約 480 bp の
1 本のバンドが確認された。様々なプライマーを設計してアニーリング温度を変
18
え て P C R に よ り 増 幅 を 行 っ た が ,再 現 性 よ く 増 幅 産 物 が 得 ら れ た の は ,ア ニ ー リ
ン グ 温 度 を 55℃ と し て 表 2-2 に 示 し た プ ラ イ マ ー に よ る PCR の み で あ っ た 。 標
準 サ ン プ ル の シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス に 対 し て , 両 領 域 の PCR で 種 を 判 別
したところ,全て外部形態の種判別結果と一致した。
決 定 し た ITS1 と ITS2 を 含 む rDNA 領 域 の 塩 基 配 列 と , す で に 登 録 さ れ て い
る 塩 基 配 列( AF170538 と AF170538)も( Presa et al. 2002)併 せ て ア ラ イ メ ン
ト分析を行い,シロザケとカラフトマスをそれぞれ種特異的に増幅するプライマ
ー セ ッ ト を 複 数 設 計 し た 。P C R で 増 幅 さ れ た 種 特 異 的 な プ ラ イ マ ー の 塩 基 配 列 を
表 2-2 に , そ の プ ラ イ マ ー 位 置 を 図 2-7 に 示 す 。 そ の う ち , ITS2 領 域 に 設 計 し
た 2 つ の 種 特 異 的 な forward プ ラ イ マ ー と 2.8S reverse プ ラ イ マ ー の PCR 法 で ,
シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス に そ れ ぞ れ 特 異 的 な 増 幅 産 物 が 得 ら れ た ( 図 2 - 7 )。
シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス の 標 準 サ ン プ ル に 対 し , ITS 領 域 と ア ロ マ タ ー ゼ
B - 1 遺 伝 子 の 第 2 イ ン ト ロ ン を 増 幅 す る P C R で 種 を 判 別 し た と こ ろ ,全 て 外 部 形
態の種判別結果と一致した。
2.2.4
人工交雑個体の親種の確認
シ ロ ザ ケ 雌 と カ ラ フ ト マ ス 雄 の 人 工 交 雑 に よ り 得 ら れ た 個 体 で は , mtDNA の
PCR 法 に よ っ て 母 親 種 が シ ロ ザ ケ で あ る こ と を 示 す 2 本 の バ ン ド が 確 認 さ れ た
( 図 2 - 6 )。 ま た , 核 D N A の P C R 法 で シ ロ ザ ケ ま た は カ ラ フ ト マ ス に そ れ ぞ れ
特 有 の バ ン ド が 両 方 見 ら れ た( 図 2 - 8 )。こ の 結 果 は 父 親 種 が カ ラ フ ト マ ス ,母 親
種 が シ ロ ザ ケ を 示 す こ と か ら ,人 工 交 雑 に 用 い た 親 魚 種 の 組 み 合 わ せ と 一 致 し た 。
シ ロ ザ ケ 雄 と カ ラ フ ト マ ス 雌 の 人 工 交 雑 に よ り 得 ら れ た 個 体 は , mtDNA の PCR
法によって母親種がカラフトマスであることを示す 1 本のバンドが確認された
( 図 2 - 6 )。 加 え て , 核 D N A の P C R 法 に よ っ て シ ロ ザ ケ ま た は カ ラ フ ト マ ス に
そ れ ぞ れ 特 有 の バ ン ド が 両 方 見 ら れ た( 図 2 - 8 )。こ の 結 果 は ,父 親 種 が シ ロ ザ ケ ,
母親種がカラフトマスを示すことから,人工交雑に用いた親魚種の組み合わせと
一致した。
2.2.5
「サケマス」の父親種と母親種の確認
m t D N A と 核 D N A の 種 特 異 P C R 法 に よ っ て ,「 サ ケ マ ス 」 の 親 種 を 判 定 し た 。
分 析 の 結 果 ,「 サ ケ マ ス 」 11 尾 中 , 雄 3 尾 , 雌 3 尾 の 計 6 尾 が 交 雑 個 体 と 判 定 さ
19
れ た ( 表 4 - 3 )。 交 雑 個 体 と 判 定 さ れ た 上 記 「 サ ケ マ ス 」 で は , 全 て の 雄 ( 3 尾 )
は父親種がシロザケ,母親種がカラフトマスと判定された。これに対し,全ての
雌(3 尾)は父親種がカラフトマス,母親種がシロザケと判定された。また,漁
業 関 係 者 が「 サ ケ マ ス 」と 判 定 し た 個 体 の う ち 5 尾 は ,シ ロ ザ ケ と 判 定 さ れ た( 表
2 - 3 , 図 2 - 1 )。
2.2.6
交雑個体の外部形態
シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 交 雑 個 体 と 判 定 さ れ た「 サ ケ マ ス 」は ,年 齢 が 1 ~ 3
歳 , 側 線 鱗 数 が 136~ 143, 鰓 耙 数 が 22~ 28 の 範 囲 に あ っ た ( 表 2-4) ま た , 体
型,婚姻色,尾鰭の斑点,鱗の大きさなど複数の外部形態が両種の混合型もしく
は両種にはない特徴を示していた。雄の全ての交雑個体で成熟したカラフトマス
雄 の 特 徴 で あ る 「 背 っ ぱ り 」( 加 藤 2 0 0 2 ; 眞 山 1 9 8 9 ; S u s u k i e t a l . 2 0 1 4 ) が 顕
著ではないが認められた。交雑個体の婚姻色は個体差があるものの両種の混合型
であり,腹部の全体は白くなく,雄では赤の雲状斑が腹部まで出現し,雌では体
側の一部に赤みがあった。さらに,雌雄ともに白色の雲状斑が側線鱗付近から腹
鰭にかけて確認できた。交雑個体の尾鰭にはシロザケやカラフトマスにはない小
黒 点 が 6 尾 中 5 尾 で 確 認 さ れ た 。小 黒 点 は 尾 部 全 体 も し く は 尾 部 付 け 根 付 近 の み
に点在していた。加えて,交雑個体の雌では全ての個体で卵径にばらつきが見ら
れた。
これに対し,シロザケと判定された 5 尾は,シロザケ特有の赤,黄,紫色が混
じ る 雲 状 斑 の 婚 姻 色( 眞 山 1 9 8 9 ; 永 田 2 0 0 3 ; 加 藤 2 0 0 2 )の 面 積 が 小 さ く 不 明 瞭
ではあるものの,カラフトマスと一致する特徴は腹部全体が白いという点のみで
あり,その他の体型,鱗の大きさ,側線鱗数などの形態形質は全てシロザケと一
致していた。
20
M
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12
13
14
15 16
17
600bp
400bp
200bp
図 2-2. 核 DNA に お け る ア ロ マ タ ー ゼ B-1 遺 伝 子 断 片 の 増 幅 産 物 の ア ガ ロ ー ス 電 気
泳動像.
M は サ イ ズ マ ー カ ー , レ ー ン 1 ,2 ,4 − 1 2 は カ ラ フ ト マ ス ,レ ー ン 3 と 1 4 は 人 工 交 雑
個 体 , レ ー ン 13, 15−17 は シ ロ ザ ケ を 示 す .
21
22
65
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78
79
80
81
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83
84
85
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229
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327
332
345
359
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408
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424
425
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428
429
430
431
Variable site
chum1
chum2
chum3
chum4
pink1
pink2
pink3
pink4
pink5
pink6
pink7
pink8
pink9
pink10
A
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C
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C
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T
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C
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C
C
C
C
C
C
C
C
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461
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468
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471
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485
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487
488
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Variable site
chum1
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T
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-
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493
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498
499
500
501
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550
551
Variable site
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chum3
chum4
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pink5
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581
582
583
614
636
650
655
673
686
704
712
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756
Variable site
chum1
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chum4
pink1
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C
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G
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G
G
G
G
G
G
C
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
G
図 2-3. シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の ア ロ マ タ ー ゼ B-1 遺 伝 子 の 塩 基 置 換 部 位 .
点 は chum1 と 同 じ 配 列 を 示 す . ハ イ フ ン は 塩 基 の 欠 失 を 示 す . chum1-4 は シ ロ ザ ケ ,
pink1-10 は カ ラ フ ト マ ス を 示 す .
22
chum1
chum2
pink1
pink2
1
60
T T A T G A G C C C C A C A T A T T T A G G T A T C C C A C T T A T C G C T G T G G C G T T A A C C C T C C C A T G A A
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・ C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A ・・ A ・・・・・・・・・・・ G ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・ C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A ・・ A ・・・・・・・・・・・ G ・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
61
120
T T C T T T T C C C C A C C C C T T C T G C C C G A T G G C T G A A C A A C C G C C T A A T T A C C C T T C A A G G A T
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
121
180
G G T T C A T C A A C C G A T T C A C C C A A C A A C T T C T T T T A C C A C T T A A T C T A G G C G G T C A C A A A T
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ G ・・・・・・・・・・・・・
・ A ・・ T ・・・・・・・・ G ・・ T ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・ C ・・・・・・・
・ A ・・ T ・・・・・・・・ G ・・ T ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・ C ・・・・・・・
ChumATP6SSP
181
T C T T A T C A C C C T A A A C A T A C T G t G A
240
G A G C A G C T C T A C T A A C C T C T C T A A T A C T A T T T C T T A T C A C C C T A A A C A T A C T G G G A C T A C
・・・・・・・・・・ G ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・ G ・・ A ・・ G ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・ G ・・ A ・・ G ・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
241
300
T T C C A T A T A C A T T C A C C C C C A C C A C G C A A C T C T C A C T C A A T A T A G G C C T C G C A G T C C C G T
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ C ・・・・・ T ・・・・・・・・・・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
301
360
T A T G A C T C G C C A C A G T A A T T A T T G G T A T A C G A A A C C A A C C T A C C G C C G C C C T A G G T C A T C
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・ C ・・ C ・・ C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・ C ・
・・・・・・・ T ・・・・・・・・・・・ C ・・ C ・・ C ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ T ・・・・・・・・ C ・
chum1
chum2
pink1
pink2
361
420
T C T T G C C T G A A G G G A C C C C C G T C C C A C T A A T C C C T G T A C T G A T T A T C A T C G A A A C A A T T A
・・・・・・・・・・・・・ A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ A ・・・・・・・・・・・ G ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ A ・・・・・・・・・・・ G ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
421
458
G C C T T T T T A T C C G C C C C C T C G C C C T T G G C G T A C G A C T
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
chum1
chum2
pink1
pink2
図 2 - 4 . シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の AT P a s e 6 遺 伝 子 断 片 の 塩 基 配 列 の 比 較 .
点 は c h u m 1 と 同 じ 配 列 を 示 す . C h u m AT P 6 S S P は シ ロ ザ ケ 種 特 異 的 f o r w a r d プ ラ イ
マ ー の 配 列 部 分 で あ る . chum1 , chum2 , pink1 , pink2 は そ れ ぞ れ AB523891 ,
AB523892, AB523893, AB523894 と し て 登 録 し た 配 列 で あ る .
23
図 2-5. シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の NADH3 遺 伝 子 断 片 の 塩 基 配 列 の 比 較 .
点 は chum1 と 同 じ 配 列 を 示 す . ChumNADH3SSP は シ ロ ザ ケ 種 特 異 的 forward プ ラ
イ マ ー の 配 列 部 分 . c h u m 1 ,c h u m 2 ,p i n k 1 ,p i n k 2 は そ れ ぞ れ A B 5 2 3 8 9 8 ,A B 5 2 3 8 9 9 ,
AB523900, AB523901 と し て 登 録 し た 配 列 .
24
M
1
2
3
4
M
500bp
400bp
300bp
200bp
100bp
図 2-6. NADH3 領 域 の 種 特 異 的 な マ ル チ プ レ ッ ク ス PCR 法 に よ る 増 幅 産 物 の ア ガ
ロース電気泳動像.
M: サ イ ズ マ ー カ ー , 1: シ ロ ザ ケ , 2: シ ロ ザ ケ 雌 と カ ラ フ ト マ ス 雄 の 交 雑 個 体 , 3:
シ ロ ザ ケ 雄 と カ ラ フ ト マ ス 雌 の 交 雑 個 体 , 4:カ ラ フ ト マ ス .
25
ITS1
chum1
pink1
pink2
chum1
pink1
pink2
5.8S
1
60
T T A G C G G T G G A T C A C T C G G C T C G T G C G T C G A T G A A G A A C G C A G C T A G C T G C G A G A A C T A A
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
61
T G T G A A T T G C A G G A C A C A T T G A T C A T T G A C A C T T C G A A C G C A C T T T G C G G C C C C A G G T T
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.8S
120
C
・
-
ITS2
chum1
pink1
pink2
121
C T C C T G G G G C T A C G C C T G T C T G A G G G T C G C T T T G T C A T C A A T C G G A A
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
PinkITS2SSP
181
G C C T T C G T C C C C C T
G C A G C T G G G G C A G T C G C A G G C G G C C A C C G T G C A G C C T T C G T C C C C C T
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
chum1
pink1
pink2
241
300
G A C G G C T C G G T G G G T T T G T T G A G G A T G A G C T T C T G C T C T A C T T C C G - T T C C C C C G T G C G C
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ A - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - A ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
chum1
pink1
pink2
180
C C T C T G G G T T T C C
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
A
A
・
・
A
A
・
・
G
G
・
・
g
T
・
・
T
T
・
・
A
C A G A C C A
A ・ ・ ・ ・ ・ ・
A ・ ・ ・ ・ ・ ・
240
G
・
・
chum1
pink1
pink2
301
T C A T T C C T T T C C C T T T T C G C T T C G G C G A G A G G C G C C C A C G T T C C C
・ ・ - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ C ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ C ・ ・ ・ ・ ・ C ・ ・ - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ChumITS2SSP
361
G C C C G C G T T A C G C A T
G G C T G C C G G T G G A C T C T G T C T C T C C G T G C T G C C C G C G T T A C G C A T
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ T ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
chum1
pink1
pink2
421 G
480
- - G C T C G G G G T T A G G T T T G G G C T G C G G A G C T C C G A C C G C C G A C C T G A A A C G T A T T G A G A A
G C ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
G C ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ A ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
chum1
pink1
pink2
481
529
G T G T G A G C C C G G G C G A C C G G C C A C A A T C C - - - - - - - - - - - - - - - - - - ・ - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ C ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - - - - - - - - - - - - - - - - - - ・ - ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ - ・ ・ ・ ・ A ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ A T T C A C T T T G A C T A C G A C C
chum1
pink1
pink2
360
C G C A T G G T C T G G C G C
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
420
G T G t T
G T G G T - - - - - - - - - ・ C ・ ・ ・ T C T C G G G G T A
・ C ・ ・ ・ T C T C G G G G T A
図 2-7. シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の ITS2 領 域 の 塩 基 配 列 の 比 較 .点 は chum1 と 同 じ
配 列 を 示 す . 横 線 は 塩 基 の 欠 失 を 示 す .ChumITS2SSP と PinkITS2SSP は そ れ ぞ れ
シ ロ ザ ケ 種 特 異 的 forward プ ラ イ マ ー と カ ラ フ ト マ ス 種 特 異 的 forward プ ラ イ マ ー
の 配 列 部 分 を 示 す . c h u m 1 ,c h u m 2 ,p i n k 1 ,p i n k 2 は そ れ ぞ れ A B 5 2 4 0 7 7 ,A F 1 7 0 5 3 8 ,
AB524078, AF170539 と し て 登 録 し た 配 列 .
26
M
1
2
3
4
M
5 00bp
4 00bp
3 00bp
2 00bp
1 00bp
図 2-8. ITS1 領 域 の 種 特 異 的 な マ ル チ プ レ ッ ク ス PCR 法 に よ る 増 幅 産 物 の ア ガ ロ ー
ス電気泳動像.
M: サ イ ズ マ ー カ ー , 1: シ ロ ザ ケ , 2: シ ロ ザ ケ 雌 と カ ラ フ ト マ ス 雄 の 交 雑 個 体 , 3:
シ ロ ザ ケ 雄 と カ ラ フ ト マ ス 雌 の 交 雑 個 体 , 4:カ ラ フ ト マ ス .
27
表 2-3. 交 雑 個 体 と 推 定 さ れ て い た 「 サ ケ マ ス 」 に お け る mtDNA と 核 DNA の 種 特
異 PCR 法 に よ る 判 別 結 果 .
Sakemasu1
Sakemasu2
Sakemasu3
Sakemasu4
Sakemasu5
Sakemasu6
Sakemasu7
Sakemasu8
Sakemasu9
Sakemasu10
Sakemasu11
mtDNA
ATPase6 NADH3
chum
chum
pink
pink
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
pink
pink
chum
chum
chum
chum
pink
pink
28
Nuclear DNA
ITS2
Aromatase B-1
hybrid
hybrid
hybrid
hybrid
hybrid
hybrid
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
chum
hybrid
hybrid
chum
chum
hybrid
hybrid
hybrid
hybrid
表 2-4. 「 サ ケ マ ス 」 の 生 物 学 的 な 特 徴 .
Sample ID
Sakemasu1
Sakemasu2
Sakemasu3
Sakemasu4
Sakemasu5
Sakemasu6
Sakemasu7
Sakemasu8
Sakemasu9
Sakemasu10
Sakemasu11
Species
hybrid
hybrid
hybrid
chum
chum
chum
chum
hybrid
chum
hybrid
hybrid
Parentage
male female
pink chum
chum pink
pink chum
chum
chum
chum
chum
chum pink
chum
pink chum
chum pink
Sex
female
male
female
male
female
female
female
male
female
female
male
Nuptial
coloration*
chum + pink
chum + pink
silver
chum
chum
chum
chum
silver
silver
chum + pink
chum + pink
* “silver”は 未 成 熟 魚 を 示 す .
29
Abdomen
white
white
white
white
white
Caudal
fin
small spots
small spots
small spots
no spot
no spot
no spot
no spot
small spots
no spot
no spot
small spots
Age
3
2
2
4
4
4
4
no data
2
1
1
Lateral line
scales
143
141
136
133
128
126
141
no data
133
142
137
Gill
raker
27
24
22
24
24
26
23
no data
22
28
28
2-3
2.3.1
考察
DNA 分 析 に よ る 親 種 の 判 別
母 系 遺 伝 す る mtDNA の 2 領 域 の 本 PCR 法 に よ る 母 親 種 の 判 別 結 果 は , 外 部
形態による種判別結果および人工交雑に用いた母親魚種の組み合わせと一致した。
し た が っ て , mtDNA に よ る 親 種 判 別 で , 交 雑 個 体 の 母 親 種 が シ ロ ザ ケ と カ ラ フ
ト マ ス の ど ち ら で あ る か を 推 測 で き る 。 ま た , 核 DNA の 2 領 域 の PCR 法 に よ
り ,シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 父 親 種 を 判 別 で き る 。本 研 究 に お い て ,核 D N A で
あ る I T S 1 と ア ロ マ タ ー ゼ B - 1 遺 伝 子 の D N A 分 析 に よ り 「 サ ケ マ ス 」 11 尾 の う
ち 6 尾はシロザケとカラフトマスの交雑個体と判別された。
し か し な が ら ,交 雑 個 体 と 判 定 さ れ た 6 尾 お よ び シ ロ ザ ケ と 判 定 し た 5 尾 に つ
い て , シ ロ サ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 雑 種 F1 が シ ロ サ ケ ま た は カ ラ フ ト マ ス と 戻 し
交雑した個体,またはそれがシロザケまたはカラフトマスとさらに交配したもの
で あ る 可 能 性 は 否 定 で き な い 。 雑 種 F1 が 成 熟 し た 場 合 , 減 数 分 裂 よ り シ ロ ザ ケ
ま た は カ ラ フ ト マ ス 由 来 の 配 偶 子 を 持 つ 可 能 性 が あ る 。 そ の た め , 雑 種 F1 が 形
成 す る 配 偶 子 が 持 つ 両 遺 伝 子 の 組 み 合 わ せ や ,戻 し 交 配 の 組 み 合 わ せ に よ っ て は ,
確 率 は 低 い と 推 察 さ れ る が ,こ う い っ た 戻 し 交 配 に つ い て は 本 研 究 の 種 特 異 P C R
で は 検 出 で き な い 。 し た が っ て , 今 後 , 両 種 を 判 別 で き る 核 DNA マ ー カ ー の 数
を増やし,戻し交配であっても検出可能にする必要がある。また,交雑個体と判
明した「サケマス」6 尾のうち,雄は全て父親種がシロザケ,母親種がカラフト
マスであり,雌は全て父親種がカラフトマスと母親種がシロザケの組み合わせで
あ っ た( 表 2 - 4 )。サ ン プ ル 数 は 少 な い も の の ,シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 交 雑 個
体は,シロザケ親種と同性の子の生残率が高い可能性が示された。
2.3.2
交雑個体の形態特徴
本研究で交雑個体と判定された「サケマス」の婚姻色は,すべてシロザケとカ
ラフトマスの混合型を呈していた。さらに,シロザケおよびカラフトマス両種に
はない特徴として白色の雲状斑と尾鰭の小黒点が確認された。また,ほとんどの
カ ラ フ ト マ ス は 1 歳 で 成 熟 し ,ご く 稀 に 0 歳 お よ び 2 歳 で 成 熟 す る 個 体 が 出 現 す
る が , 本 研 究 で 交 雑 と 判 定 さ れ た 個 体 の 年 齢 は 1~ 3 歳 で あ る た め , シ ロ ザ ケ の
範囲に収まるものの,カラフトマスにはない 3 歳の個体が確認された。加えて,
交雑個体の雌では全て卵径にばらつきが見られた。本研究で確認した個体の卵は
30
全て未成熟であったため,退行卵の可能性があるものの,既報のシロザケとカラ
フ ト マ ス の 交 雑 個 体 に お い て も 卵 径 が 不 均 一 で あ る と 報 告 が あ る( 沼 知 ら 1 9 7 9 )。
したがって,交雑個体であるかの判別要素の一つとして卵径の不均一も挙げられ
る可能性がある。
このように,シロザケとカラフトマスの交雑個体は,両種の混合型の婚姻色,
尾 鰭 の 小 黒 点 の 有 無 お よ び 年 齢 で も 識 別 で き る ( 表 2 - 4 )。
2.3.3
交雑個体の出現背景
これまで,シロザケとカラフトマスの交雑試験結果では,交雑個体が高い生残
率 を 示 す こ と が 確 認 さ れ て い る( 疋 田・横 平 1 9 6 4 ; S i m o n a n d N o b l e 1 9 6 8 )。1 9 7 0
年代以前,当時のソビエト連邦と我が国ではシロザケとカラフトマスの交雑実験
放 流 が 行 わ れ た こ と が あ っ た ( 沼 知 ら 1 9 7 9 ; S i m o n a n d N o b l e 1 9 6 8 )。 し か し ,
現在はそのようなふ化放流実験は全く行われていない。したがって,本研究で確
認された交雑個体は自然環境下において発生したものと推察される。
知床半島内の河川では人工ふ化放流事業がさかんに行われているが,シロザケ
と カ ラ フ ト マ ス の 自 然 再 生 産 も 観 察 さ れ て い る ( 横 山 ら 2 0 1 0 )。 知 床 半 島 の 河 川
は川の長さが短く,河床勾配が急であり,河川形態はほぼ全域がほぼ全域が一つ
の 蛇 行 区 間 に 多 く の 瀬 と 淵 が 存 在 し 白 瀬 で 淵 が 連 結 し て い る Aa 型 で あ る ( 石 城
1 9 8 4 ; 可 児 1 9 4 4 )。さ ら に 知 床 半 島 内 の 河 川 で は ダ ム な ど の 人 工 工 作 物 に よ り サ
ケ 科 魚 類 が 遡 上 障 害 を 受 け て い る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い る( 桜 井・松 田 2 0 0 9 ; 横
山 ら 2 0 1 0 )。 そ の た め , 知 床 半 島 で は シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 産 卵 が 可 能 な 場
所は中流から下流域に限定され,さらにふ化場放水路近辺には,シロザケの親魚
が集中することもあり,両種が狭い範囲で重複して産卵している河川も多い(小
宮 山 2 0 0 3 )。シ ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス は ,通 常 同 種 間 で ペ ア リ ン グ を 行 う が ,
雄が異種の雌に対して求愛行動をするケースもまれに観察されている(小宮山
2 0 0 3 )。 こ の よ う な 場 合 , 雌 が 求 愛 行 動 を す る 異 種 の 雄 に 対 し て 噛 み 付 く な ど の
拒絶反応を示すものの,ふ化場用水の放水口付近の本流では,実際にシロザケ雌
と カ ラ フ ト マ ス 雄 で 産 卵 に 至 っ た ケ ー ス ( 図 2-9) も 確 認 さ れ て い る ( 森 ・ 内 山
1 9 9 7 )。
標 津 町 内 の 複 数 の 漁 業 関 係 者 に よ る と ,「 サ ケ マ ス 」 は 比 較 的 頻 繁 に 捕 獲 さ
れ,市場へ出す前に自家消費されるケースが多い。さらに判別が困難なため,交
31
雑個体がシロザケあるいはカラフトマスとして市場に流通している場合もあるも
のと判断される。このように,相当数の交雑個体が遡上し産卵している可能性が
高 い 。 属 は 異 な る が ヨ ー ロ ッ パ で は , タ イ セ イ ヨ ウ サ ケ Salmo salar と ブ ラ ウ
ン ト ラ ウ ト S. trutta の 交 雑 の 出 現 は , ダ ム な ど に よ る 遡 上 障 害 に 由 来 す る 産 卵
場 所 で の 過 密 に よ り 増 加 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る ( 例 え ば , Jansson and Öst
1 9 9 7 )。 同 様 に , 産 卵 環 境 が 異 な る ( 眞 山 1 9 8 9 ; 小 林 1 9 6 8 ) 両 種 の 間 に 交 雑 個
体が出現した背景には,ダムなどの河川横断工作物,さらには人工ふ化放流事業
によりある産卵場所で産卵親魚の個体群密度が産卵環境収容力を上回ることなど
があると考えられる。その原因解明には,当地域における交雑個体の出現数の年
変動と回帰尾数,産卵環境などとの因果関係および他地域における出現数との比
較が必要である。飼育環境下では,シロザケとカラフトマスの交雑個体(雑種
F1) と シ ロ ザ ケ あ る い は カ ラ フ ト マ ス の 交 雑 実 験 が 行 わ れ , そ の 稚 魚 の 生 存 も
確 認 さ れ て い る ( S i m o n a n d N o b l e 1 9 6 8 )。 し た が っ て , 自 然 環 境 下 に お い て 回
帰した交雑個体がシロザケおよびカラフトマスと戻し交配してシロザケおよびカ
ラフトマスに遺伝子浸透を引き起こす,さらには,現状においても遺伝的攪乱が
すでに起こっている可能性もある。そのため,他地域における交雑個体の出現状
況さらに遺伝子情報も併せ,今後も当地方におけるシロザケとカラフトマスの産
卵状況などの追跡調査を行う必要があると考えられる。
32
図 2-9. 植 別 川 に お け る シ ロ ザ ケ (Chum) と カ ラ フ ト マ ス (Pink) の 産 卵 行 動 の
水中写真(内山りゅう氏撮影).
33
第 3 章
実験水槽におけるシロザケの産卵行動の観察
シ ロ ザ ケ の 産 卵 行 動 に つ い て は ,こ れ ま で 多 く の 知 見 が あ る( 佐 野 1 9 5 9 ; T a u t z
a n d G r o o t 1 9 7 5 ; D u k e r 1 9 7 7 ; H e l l e 1 9 8 1 ; S c h r o d e r 1 9 7 3 , 1 9 8 2 )。 こ
れらの研究によると,産卵場所に到着したシロザケ雌は,広範囲にわたって下顎
を 川 底 に 向 け る n o s i n g( 産 卵 場 所 の 探 索 )と e x p l o r a t o r y d i g g i n g( 試 し 掘 り )を
繰 り 返 し , し だ い に exploratory digging の 回 数 が 増 え , 小 さ な エ リ ア に よ り 集
中するようになる。そこが産卵場所(産室)となり,尾鰭を川底にたたきつける
よ う に nest digging( 堀 り 行 動 ) と probing( 探 査 ) を 何 度 も 繰 り 返 し , 産 室 を
形 成 す る 。完 成 し た 産 室 は 円 錐 型 の 深 さ 20~ 40 cm の 窪 地 で ,雌 は 産 室 に 臀 鰭 を
差 し 入 れ ,口 を 大 き く 開 け て 雄 に 知 ら せ ,雄 が 横 に 並 び 口 を 開 け て 放 卵 放 精 す る 。
産 卵 後 , 雌 は 直 ち に 産 室 の や や 上 流 部 の 砂 利 を 産 室 に か ぶ せ る covering digging
( 埋 め 行 動 ) を 行 う 。 そ の 後 , covering digging に よ り , 上 流 側 に 出 来 た 窪 地 を
次 の 産 卵 場 所 ( 産 室 ) と し , 再 び nest digging を 繰 り 返 す 。 雌 は 下 流 か ら 上 流 に
かけて通常 4〜6 回に分けて産卵を行い,一つの産卵床を形成する。雌は,産卵
を 終 え る と 産 卵 場 所 に と ど ま り , post-spawning digging を 行 い な が ら , 他 の 雌
から産卵場所を守り,やがて死亡する。
サケ属魚類が選択する繁殖場所は,水温,水深,流速などのほか,流木や植生
によるカバーの有無,さらに河床材料および河床から湧出する水などの物理的な
要 因 が 影 響 を 及 ぼ し て い る こ と が 知 ら れ て い る( 総 説 と し て ,B j o r n n a n d R e i s e r
1991) 。 特 に , 産 卵 場 所 と し て は 河 床 が 砂 礫 の 場 所 が 選 択 さ れ る が , 同 一 河 川 で
はシロザケは冬期間でも水温が大きく低下しない地下水由来の湧水や,河川伏流
水が河床から湧出する場所を選んで産卵する場合が多く,カラフトマスは冬期間
水温が著しく低下する河川水がよく浸透する場所を選択するといわれている(佐
野 ・ 長 沢 l958; 小 林 1968; 鈴 木 l999) 。
シロザケの産卵場所および産室内における生残率との関係に関する基礎的な情
報は,野生魚による再生産を推進するうえで不可欠である。しかしながら,自然
河川ではシロザケ個体の産室場所,産卵回数および産卵毎の放卵数などの正確な
計 測 は 難 し い( 矢 野 ら 2 0 1 2 ) 。そ の た め ,研 究 例 が 少 な く( H a w k e 1 9 7 8 ; G a u d e m a r
e t a l . 2 0 0 0 ),野 外 で の 浸 透 水 と の 関 係 を 細 部 に わ た っ て 実 証 す る こ と は 極 め て 困
難である。
34
そこで,本章では,野外では得られていない産卵行動の詳細な科学的情報を得
る こ と を 目 的 と し て ,標 津 サ ー モ ン 科 学 館 の 実 験 水 槽( 魚 道 水 槽 )に お い て ,様 々
な 条 件 下 で シ ロ ザ ケ を 産 卵 さ せ ,シ ロ ザ ケ の 産 卵 回 数 と 産 卵 各 回 の 放 卵 数 の 関 係 ,
河床から湧出する水の条件と産卵場所の関係を明らかにした。
35
3-1
3.1.1
材料と方法
実験水槽の概要
実 験 は 2 0 0 3 年 〜 2 0 1 3 年 の 間 の 11 月 に , 標 津 サ ー モ ン 科 学 館 の 敷 地 内 屋 外 を
流 れ る 魚 道 水 路 を 仕 切 っ た 実 験 水 槽 ( 7.6 m×2.9 m, 深 さ 60 cm) で 行 っ た 。 実
験水槽は,館内から硬質ガラス越しに水槽内を観察できる構造となっており,コ
ン ク リ ー ト お よ び 鉄 格 子 で 仕 切 ら れ た “ 上 流 側 ” の A 槽 ,“ 下 流 側 ” の B 槽 の 2
つ の 水 槽 か ら な る 。 2 つ の 水 槽 の 底 面 積 は , そ れ ぞ れ 9.55, 10.83 m2 で あ り , 水
深 は 6 0 ~ 7 0 c m の 範 囲 を 維 持 し た ( 図 3 - 1 )。 実 験 水 槽 に は , 曝 気 し た 井 戸 水 ( 水
温 16.8℃ ) を A 槽 の 10 m お よ び 30 m 上 流 部 の 2 か 所 よ り 毎 分 10~ 30 リ ッ ト
ル給水した。なお,井戸水は外気で冷却するシステムとなっているため,実験水
槽 へ の 給 水 時 に は 水 温 が 5℃ 以 上 低 下 す る 場 合 も あ っ た 。
3.1.2
実験魚
産 卵 行 動 の 観 察 に は , 2003〜 2013 年 に 標 津 川 に 産 卵 遡 上 し , 河 口 か ら 1.8 km
上 流 に 位 置 す る 捕 獲 装 置( ウ ラ イ )で 捕 獲 さ れ た シ ロ ザ ケ 親 魚 を 用 い た 。親 魚 は ,
実験水槽の前後に設置した水槽で数日間馴致し,実験水槽に入れる際は,雌は腹
部の大きさから未産卵であることを確認し,さらに雌雄ともに腹部の触診により
その硬さから,生殖腺が完全に成熟し放卵,放精が可能であること確認して供試
魚とした。
3.1.3
産卵回数・放卵数測定実験
本 実 験 は 2 0 0 3 ~ 2 0 0 9 年 ま で の 11 月 に 人 工 湧 水 の 湧 出 地 点 を 計 9 箇 所 と し , 各
年 1 2 ~ 1 7 尾 の 雌 を 用 い て 産 卵 回 数 と 放 卵 数 の 測 定 実 験 を 行 っ た ( 図 3 - 2 )。 産 卵
行 動 の 観 察 は ,A 槽 お よ び B 槽 に そ れ ぞ れ 雌 雄 1 尾 ず つ 投 入 し ,サ ー モ ン 科 学 館
施設内から目視およびビデオ撮影を行った。放卵数の確認は,雌親魚死亡時の腹
腔 内 の 残 卵 が 1 0 0 粒 以 下 で あ る こ と ,か つ 全 て の 産 卵 に お い て 産 室 に 卵 が 収 ま っ
たことを目視で確認できた個体について,卵を掘り起こし,産卵各回の卵数を記
録した。卵の掘り起こしは,水槽の水位を低下させた後,砂利を取り除き,正確
な 産 室 の 位 置 を 確 認 し た 後 ,手 で 水 流 を 起 こ し て 扇 ぎ 入 れ る よ う に さ で 網 に 入 れ ,
網 に 入 り き ら な か っ た 卵 は 観 賞 魚 用 フ ィ ッ シ ュ ネ ッ ト ( 目 合 い 0.5 mm) を 使 用
して採集した。
36
3.1.4
河床からの湧出水と産卵場所
シロザケが産卵するためにどのような産卵場所を選択するかを明らかにするた
め,河床から湧出する水の種類を変えて,実験を行った。実験区としては,自然
条件下での地下水由来の湧水に見立て,曝気した井戸水を人工的に湧出させた湧
水区,水槽内の水をポンプで河床から湧出させた河川水区,そして水を湧出させ
な か っ た 無 湧 出 区 ( 図 3-2) に 分 け た 。
河 床 の 砂 利 か ら 湧 出 さ せ る た め に , 実 験 水 槽 底 面 に 敷 き 詰 め た 砂 利 ( 礫 径 5~
50 mm) の 下 25 cm の 深 さ に , 上 部 に 穴 を 開 け た 直 径 20 mm の ポ リ 塩 化 ビ ニ ル
製パイプを設置して実験水を通した。
2 0 0 9 ~ 2 0 11 年 は ,実 験 水 槽 内 の 環 境 を 自 然 河 川 の 状 況 に 近 づ け る た め に ,湧 水
の 湧 出 地 点 を 9 箇 所 設 け , そ れ ぞ れ の 場 所 か ら 毎 分 2 リ ッ ト ル , 計 18~ 20 リ ッ
ト ル の 水 を 湧 出 さ せ た 。ま た ,実 験 水 槽 の A 槽 と B 槽 ,そ れ ぞ れ の ガ ラ ス 面 と 直
角 に 配 置 す る 左 側 コ ン ク リ ー ト 面 の 交 点 を 原 点 と し ,ガ ラ ス 面 と 平 行 方 向 を X 軸 ,
ガ ラ ス 面 と 直 角 方 向 を Y 軸 と し ,産 卵 し た 個 体 の 各 産 室 中 央 部 の 座 標 を も と め た 。
湧 水 の 湧 出 地 点 の 座 標 ( X , Y: c m ) は A 槽 で は 4 か 所 , B 槽 で は 5 か 所 と し た ( 図
3 - 2 )。 シ ロ ザ ケ 親 魚 は , 雄 雌 各 1 尾 の 条 件 で 実 験 水 槽 に 同 時 に 投 入 し , 投 入 時 刻
および 1 回目 の産卵時 刻を記録 した。産卵場所は 産卵時に おおよそ の産卵位 置を
確認した後,卵の掘り起こしの際に産室および卵塊の中央部分の正確な位置を記
録した。
2 0 1 2 年 お よ び 2 0 1 3 年 に は ,底 面 か ら の 湧 出 水 の 条 件 と 産 卵 場 所 お よ び 産 卵 に
か か っ た 時 間 と の 関 係 を 詳 細 に 調 査 す る た め , A 槽 で は 2 0 11 年 ま で と 同 じ 地 点
で 井 戸 水 を 人 工 的 に 湧 出 さ せ ,B 槽 で は 井 戸 水 の 湧 出 地 点 を ,座 標 (80,80)の 1 か
所とした。B 槽ではこの湧出地点から毎分 5 L の実験水を底面から湧出させた。
温 度 デ ー タ ロ ガ ー ( HOBO temperature pendant data logger , Onset 社 製 )
を 水 槽 中 層 部 ( 水 深 25 cm) お よ び 実 験 水 の 湧 出 地 点 ( 地 下 25 cm) に 設 置 し ,
1 時間 ごとの 水温を計 測した 。底面から の水の 湧 出地点お よび水槽 内の流速 を計
測 す る た め ,電 磁 流 速 計( V P 3 0 0 0 型 ,K E N E K 社 : 最 小 1 / 1 0 0 0 m / s e c )お よ び プ
ロ ペ ラ 式 流 速 計( C R - 11 , コ ス モ 理 研 社 )を 用 い て ,A 槽 お よ び B 槽 内 に お い て ,
底 面 に 対 し て 砂 利 直 上 部 の 垂 直 方 向 お よ び 鉛 直 方 向 の そ れ ぞ れ 18 地 点 で 計 測 し
た 。 そ の 流 速 は , す べ て の 計 測 地 点 で ほ ぼ 0 cm/sec で あ っ た 。
37
(A)
7550
400
3350
3800
7550
400
3350
2850
A槽
3800
B槽
10.83㎡
9.55㎡
硬質ガラス
300
9.55㎡
格子
300
2850
A槽
(B)
B槽
10.83㎡
格子
硬質ガラス
2850 mm
2850 mm
硬質ガラス
水位 600
硬質ガラス
水位 600
砂利 250
砂利 250
図 3-1. 実 験 水 槽 の 概 要 . (A) 平 面 図 , (B) B 槽 の 断 面 図 ( 長 さ : mm) .
38
(A)
(B)
図 3 - 2 . 実 験 水 槽 に お け る 実 験 水 の 湧 出 地 点( 黒 丸 )の 平 面 図 . ( A ) 2 0 0 9 年 ~ 2 0 11 年 ,
(B) 2012 年 お よ び 2013 年 .
39
3-2
結果
3.2.1
産卵回数および産卵各回の放卵数
産 卵 し た 全 て の 雌 個 体 で n o s i n g ( 産 卵 場 所 の 探 索 ), e x p l o r a t o r y d i g g i n g ( 試
し 掘 り ),p r o b i n g( 探 査 ),n e s t d i g g i n g( 堀 り 行 動 )お よ び c o v e r i n g d i g g i n g( 埋
め行動)が確認された。雌の放卵は,全ての個体で雄の口開け後に行われた。
2 0 0 3 年 〜 2 0 0 9 年 の 間 ,実 験 に 用 い た 親 魚 数 の 合 計 は ,雄 が 9 8 尾 ,産 卵 に 至 っ
た 雌 が 96 尾 で あ っ た 。 そ の う ち , 各 回 の 産 卵 時 に 卵 が す べ て 産 室 に 収 ま っ た こ
と を 目 視 で 確 認 し ,か つ ,死 亡 時 に 残 卵 数 が 1 0 0 粒 以 内 の 条 件 を 満 た し た 雌 は 2 6
尾 で あ り , そ れ ら 個 体 の 産 卵 各 回 の 放 卵 数 を 解 析 に 用 い た ( 表 3 - 1 )。
2 0 0 3 年 ~ 2 0 0 9 年 の 実 験 に 供 し た 雌 の 尾 叉 長 は 平 均 ± 標 準 偏 差( m m )は ,6 11 ±
3 4 . 9( 範 囲 5 5 4 〜 6 9 0 ) m m で あ り , 算 出 し た 産 卵 前 の 孕 卵 数 は 平 均 2 1 3 6 ± 4 1 3 . 9
( 範 囲 1 3 7 3 〜 2 8 2 3 ) 粒 で あ っ た 。 総 産 卵 回 数 は 3 回 が 6 尾 ( 2 3 . 1 % ), 4 回 が 1 7
尾 ( 6 5 . 4 % ), 5 回 が 3 尾 ( 11 . 5 % ) で あ っ た ( 表 3 - 1 に 詳 細 を 示 す )。 総 産 卵 回 数
が い ず れ の 個 体 で あ っ て も ,産 卵 回 数 が 増 加 す る ご と に 放 卵 数 が 減 少 し た( 図 3 3 )。 3 回 産 卵 個 体 は 4 回 産 卵 個 体 に 比 べ て 孕 卵 数 が 少 な く ( 図 3 - 4 ), 4 回 産 卵 個
体 は ,1 回 目 ,2 回 目 の 放 卵 数 に つ い て は 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た も の の ,3 回
目 以 降 の 放 卵 数 は 大 き く 減 少 し た( Tu k e y - K r a m e r ; p < 0 . 0 1 )。こ の よ う に 各 個 体
の 産 卵 回 数 は 3~5 回 で あ り , 1 回 目 の 産 卵 で は 孕 卵 数 の 36.2±5.0% (n=26) を 放
卵 し , 4 回 目 は 放 卵 数 が 10.2%±4.5% (n=20) と 大 き く 減 少 し た 。 さ ら に 1 回 目
の 産 室 の 卵 数 と 孕 卵 数 に は 強 い 相 関 (r=0.757, n=26, p < 0.01)が 確 認 さ れ た ( 図
3 - 5 )。
3.2.2
産卵時における湧出水の選択性
実 験 水 槽 の 中 層 お よ び 底 面 か ら の 実 験 水 の 湧 出 地 点 の 水 温 ( 地 下 25 cm) を 測
定 し た 結 果 , 無 湧 出 水 区 の 実 験 水 槽 中 層 と 実 験 水 の 湧 出 地 点 の 水 温 差 は , 0.15±
0.24( 水 温 範 囲 : - 0.38〜 1.6) ℃ , 同 じ く 河 川 水 区 の 場 合 は 0.09±0.17( 同 : -
0 . 3 8 〜 0 . 4 8 )℃ ,同 じ く 湧 水 区 の 場 合 は , 水 温 差 が 2 . 4 ± 0 . 6 1( 同 : 1 . 0 〜 3 . 5 )℃ で
あ っ た ( 図 3 - 6 )。
2 0 0 9 〜 2 0 11 年 に , A 槽 お よ び B 槽 に お い て , 湧 出 地 点 を そ れ ぞ れ 4 か 所 お よ
び 5 か 所 設 け た 。 産 室 場 所 が 特 定 で き た シ ロ ザ ケ 雌 の 数 と 産 室 の 個 数 は 合 計 61
尾 ,産 室 場 所 は 125 箇 所 で あ っ た 。A 槽 で は 雌 28 尾 が 産 卵 し ,産 室 場 所 は 63 箇
40
所( 湧 水 区 2 3 尾 5 3 箇 所 ,無 湧 出 水 区 5 尾 1 0 箇 所 ),B 槽 で は 雌 3 3 尾 が 産 卵 し ,
産 室 場 所 は 6 2 箇 所( 湧 水 区 2 8 尾 5 3 箇 所 ,無 湧 出 水 区 5 尾 9 箇 所 )で あ っ た( 図
3 - 7 )。
各産室場所から最も近い湧出ポイントまでの距離は A 槽においては湧水区
( 2 6 . 6 ± 1 5 . 1 c m ) と 無 湧 出 水 区 ( 2 7 . 2 ± 3 0 . 7 c m ) で 差 は な か っ た が ( Tu k e y Kramer), B 槽 に お い て は 無 湧 出 水 区 ( 63.5±64.1 cm) よ り 湧 水 区 ( 38.1±32.0
c m ) の ほ う が 近 か っ た ( 図 3 - 8 )。 A 槽 と B 槽 を 合 計 す る と , 無 湧 出 水 区 ( 4 6 . 1
± 5 3 . 6 c m )よ り 湧 水 区( 3 1 . 1 ± 2 3 . 5 c m )ほ う が 近 か っ た ( Tu k e y - K r a m e r ; p < 0 . 0 5 ) 。
2 0 1 2 年 と 2 0 1 3 年 に B 槽 に お い て ,実 験 水 の 湧 出 地 点 を 1 か 所 と し て 産 卵 行 動
を 観 察 し た 結 果 , 合 計 43 尾 の 雌 の デ ー タ が 得 ら れ た 。 湧 水 区 は 13 尾 16 個 の 産
室 , 河 川 区 は 11 尾 1 4 個 , 無 湧 出 水 区 は 2 0 尾 2 2 個 の デ ー タ が 得 ら れ た ( 図 3 7 )。水 の 湧 出 ポ イ ン ト か ら そ れ ぞ れ の 産 室 ま で の 距 離( 図 3 - 8 )は ,湧 水 区( 2 4 . 1
±15.2 cm) と 河 川 区 ( 26.1±13.3 cm) の ほ う が 無 湧 出 水 区 ( 123.8±73.2 cm)
よ り 近 か っ た ( Tu k e y - K r a m e r ; p < 0 . 0 1 ) 。
3.2.3
産卵までに要する時間
2 0 0 9 ~ 2 0 11 年 の 間 ,湧 水 区 と 河 川 区 の 条 件 下 お よ び 無 湧 出 水 区 の 状 態 で ,親 魚
の 水 槽 投 入 か ら 初 回 の 産 卵 ま で の 時 間 を 計 測 し ,7 8 個 体 の デ ー タ が 得 ら れ た 。2 4
時 間 以 内 に 産 卵 し た 雌 個 体 数 は , 湧 水 区 で は 56 匹 中 49 尾 ( 87.5%) で あ っ た の
に 対 し ,無 湧 出 水 区 は 2 2 尾 中 1 0 尾( 4 5 . 5 % )と 産 卵 ま で 長 い 時 間 が か か っ た( 図
3 - 9 )。
2012 年 と 2013 年 に は , B 槽 に お い て 水 の 湧 出 地 点 を 一 箇 所 に し て , 水 槽 投 入
か ら 初 回 の 産 卵 ま で の 時 間 を 計 測 し , 合 計 43 尾 の 雌 の デ ー タ が 得 ら れ た 。 水 槽
投 入 時 か ら 初 回 産 卵 ま で 要 し た 時 間 は と 24 時 間 以 内 に 産 卵 し た 雌 個 体 数 は , 湧
水 区 ( 1 2 尾 ) に は そ れ ぞ れ 6 1 4 . 6 ± 3 8 2 . 9 ( 1 9 3 ~ 1 5 5 8 ) 分 と 11 尾 ( 9 1 . 7 % ), 河 川
区( 1 3 尾 )で は そ れ ぞ れ 7 3 5 . 5 ± 5 1 6 . 7 ( 2 4 0 ~ 1 8 1 7 ) 分 と 11 尾( 8 4 . 6 % )で あ っ た 。
こ れ に 対 し , 無 湧 出 水 区 ( 18 個 体 ) に は そ れ ぞ れ 1270±570.8 (245~2652)分 と
13 尾 ( 72.2%) で あ っ た ( 図 3-9) 。 水 槽 投 入 時 か ら 初 回 産 卵 ま で 要 し た 時 間 に
は ,湧 水 区 と 河 川 区 の 間 に は 差 が な く ( Tu k e y - K r a m e r ) ,無 湧 出 水 区 に は こ れ ら に
比 べ 2 倍 ほ ど 長 か っ た ( Tu k e y - K r a m e r ; p < 0 . 0 5 ) 。
41
(A)
(B)
(C)
図 3-3. 実 験 水 槽 に お け る シ ロ ザ ケ の 各 産 卵 回 に お け る 放 卵 率 (放 卵 数 / 孕 卵 数 )の
平 均 値 . エ ラ ー バ ー は 標 準 偏 差 を 示 す . (A) 3 回 産 卵 個 体 , (B) 4 回 産 卵 個 体 , (C) 5 回
産卵個体.
42
図 3-4. 実 験 水 槽 に お け る シ ロ ザ ケ の 各 産 卵 回 個 体 の 孕 卵 数 の 平 均 値 .エ ラ ー バ ー は
標準偏差を示す.
43
1200
1回目の放卵数(粒)
1000
800
600
y = 0.2603x + 208.47
r = 0.757
p < 0.01
400
200
0
1000
1200
1400
1600
1800
2000
2200
孕卵数(粒)
2400
2600
図 3-5. 実 験 水 槽 に お け る シ ロ ザ ケ の 孕 卵 数 と 1 回 目 の 放 卵 数 の 関 係 .
44
2800
3000
図 3-6. 実 験 水 槽 中 層 お よ び 湧 出 地 点 の 水 温 変 化 . 黒 矢 印 :湧 出 停 止 開 始 , 白 矢 印 :水
槽 循 環 水 開 始 , 赤 矢 印 :湧 水 開 始 .
45
(A)
(B)
図 3 - 7 . 実 験 水 槽 に お け る 実 験 水 の 湧 出 地 点 と 産 卵 場 所 の 平 面 図 . ( A ) 2 0 0 9 年 ~ 2 0 11
年 , (B) 2012 年 お よ び 2013 年 . 黒 丸 : 実 験 水 湧 出 地 点 , 赤 四 角 : 無 湧 出 水 区 の 産 卵
場所, 緑三角: 湧水区の産卵場所, 紫丸: 河川区の産卵場所. 縦軸および横軸の数値
は 起 点 と し た ガ ラ ス 面 左 端 か ら の 距 離 ( cm) .
46
( A)
35
30
個体数
25
20
15
10
5
0
10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 150 160 170 180 190
産室から実験水湧出地点までの距離(cm)
湧水区 n = 106
無湧出水区 n = 19
個体数
( B)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
20
40
60
80 100 120 140 160 180 200 220 240 260 280
産室から実験水湧出地点までの距離(cm)
湧水区 n = 16
河川水区 n = 14
無湧出水区 n = 22
図 3 - 8 . 実 験 水 槽 に お け る 実 験 水 湧 出 地 点 か ら 産 室 ま で の 距 離( c m ).( A )産 室 中 心
点 と 最 も 近 い 実 験 水 湧 出 地 点 ま で の 距 離( 2 0 0 9 ~ 2 0 11 年 ), ( B )B 槽 に お け る 産 室
中 心 点 と 実 験 水 湧 出 地 点 ま で の 距 離 ( 2012 お よ び 2013 年 ) .
47
( A)
12
10
個体数
8
6
4
2
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
産卵までに要した時間(h)
湧水区 n = 56
20
22
24 24h <
無湧出水区 n = 22
( B)
6
5
個体数
4
3
2
1
0
2
4
6
8
湧水区 n = 12
10
12
14
16
18
産卵までに要した時間(h)
河川水区 n = 13
20
22
24 24h <
無湧出水区 n = 18
図 3-9. 実 験 水 槽 に お け る 異 な る 環 境 下 で 雌 親 魚 が 産 卵 ま で に 要 し た 時 間 の 頻 度 分
布 . ( A ) 2 0 0 9 年 ~ 2 0 11 年 , ( B ) 2 0 1 2 年 お よ び 2 0 1 3 年 .
48
表 3-1. 実験水槽における産卵状況.(A)3 回産卵個体,(B)4 回産卵個体,(C)5 回産卵個体.
(A)
DATE
NO
♀3
2003/11/16
♀7
2004/11/21
♀9
2004/11/29
♀ 19
2007/11/11
♀ 22
2008/11/15
NO
DATE
♀ 26
2009/11/24
2003/11/16
平均値±SD ♀ 3
♀7
2004/11/21
♀9
2004/11/29
♀ 19
2007/11/11
NO
DATE
♀ 22
2008/11/15
♀♀26
2009/11/24
1
2003/11/3 NO
DATE
(B)
平均値±SD ♀ 2
2003/11/7
♀3
2003/11/16
♀4
2003/11/27
♀7
2004/11/21
♀6
2004/11/3
♀9
2004/11/29
♀8
2004/11/27
NO
DATE
♀ 19
2007/11/11
♀ 11
2005/11/21
♀
22
2008/11/15
1
2003/11/3
♀♀12
2005/11/25
2009/11/24
2
2003/11/7 ♀ 26
♀♀13
2005/11/28
平均値±SD ♀♀14
4
2003/11/27
2006/11/7
6
2004/11/3
♀♀15
2006/11/13
8
2004/11/27
♀♀16
2006/11/24
♀ 18
11
2005/11/21
♀
DATE
2007/11/6 NO
♀ 20
12
2005/11/25
♀
2007/11/22
♀♀
1 13
2003/11/3
2005/11/28
♀ 21
2007/11/24
♀♀
2 14
2003/11/7
2006/11/7
♀ 23
2008/11/18
♀♀
4 15
2003/11/27
2006/11/13
♀ 24
2008/11/20
♀♀
6 16
2004/11/3
2006/11/24
♀ 25
2009/11/2
♀8
2004/11/27
2007/11/6
平均値±SD ♀ 18
♀ 11
2005/11/21
♀ 20
2007/11/22
♀ 12
2005/11/25
♀ 21
2007/11/24
DATE
♀ NO
13
2005/11/28
♀ 23
2008/11/18
♀ 14
2006/11/7
♀♀24
5
2008/11/20
2004/11/2
♀ 1525
2006/11/13
♀ 10
2009/11/2
2004/11/30
♀ 16
2006/11/24
♀ 17
平均値±SD
2006/11/25
♀ 18
2007/11/6
平均値±SD
♀
20
2007/11/22
NO
DATE
♀ 21
2007/11/24
平 均
2008/11/18
♀5
最小値 ♀ 23
2004/11/2
2008/11/20
♀ 10
最大値 ♀ 24
2004/11/30
♀
25
2009/11/2
♀ 17
標準偏差
2006/11/25
平均値±SD
平均値±SD
(C)
DATE 平 均
最小値
NO
♀5
2004/11/2
最大値
2004/11/30
標準偏差 ♀ 10
♀ 17
2006/11/25
平均値±SD
尾叉長
1回目
2回目
3回目
4回目
放卵数
放卵率(% )
放卵数
放卵率(% )
残卵数
残卵率(% )
40. 6
451
31. 5
346
24. 1
54
3. 8
1433
577
716
47. 1
413
27. 2
383
25. 2
8
0. 5
1520
561
740
42. 8
629
36. 4
333
19. 2
28
1. 6
1730
632
尾叉長
566
873
36. 7
814
34. 2
603
25. 3
89
3. 7
2379
577
561
632
尾叉長
566
(mm)
尾叉長
588
630
(mm)
579.602
7± 28. 3
554
630
577
584
561
尾叉長
588
632
(mm)
602
566
630
690
588
602
649
579. 7±630
28. 3
608
584
622
588
665
尾叉長
602
674
(mm)
690
633
630
649
573
602
608
620
630
622
606
584
665
625
588
623.674
6± 32. 0
602
633
690
573
尾叉長
649
620
(mm)
608
606
605
622
625
575
665
623.
6± 32. 0
624
674
601. 3± 24. 7
633
尾叉長
573
(mm) 620
(mm)
605
575
624
620
573
690
31. 5
601. 3± 24. 7
3回目 19. 2
264
放卵数
放卵率(%
610
31. 0 )
346
423. 1± 147. 2
24.24.
0± 1
4. 4
716
47. 1
413
27. 2
383
25. 2
740
42. 8
629
36. 4
333
19. 2
36. 7
814
34. 2
603
873
1回目
647
47.
1
放卵数
(% )*
653 1回目
33.82
842
29.
放卵数
(%
)*
701. 742
8± 100. 7
41.
3±45. 6
35.
582
40. 6
883
35. 8
716
47. 1
653
34. 6
740
8
1回目 42.
631
31. 1
873
36.
7 )*
放卵数
(%
901
34.
2
647
47.29.
1
842
886
32. 98
653
33.35.
2 4
742
799
34. 9
701. 8±883
100. 7
41. 3±
5.86
35.
644
36.
6
653
34.26
661
34.
631
1046
901 1回目
1134
放卵数
886
758
842
799
523
742
644
769
883
661
842
653
1046
887
631
800.1134
1± 155. 0
901
758
31.61
40.
34.72
44.
(%32.
)*
33. 69
29.34.
8
34. 29
35.36.
4
37. 46
35.34.
8
36. 22
34.40.
6
36. 36
31. 1 7
35.44.
4± 3. 4
34.33.
2 6
886
9 2
523 1回目 32.34.
799
34.37.
9 4
769
放卵数
(% )*
644
36.36.
6
842
765
31. 42
661
34.36.
2
887
640
34. 13
1046
40.
64± 3. 4
800.
1± 155. 0
35.
659
26.
7
1134
44. 7
688. 0± 67. 4
30. 7± 3. 7
758
33.
6
1回目
523
34.(%
2 )* 34. 7
放卵数 783
620
769
605 573
765 523
606
842
575 690
640 1134
625
887
624 31. 5
659149. 6
623.
6±3±
32.
0 7 800.
1± 0±
155.
04
601.
24.
688.
67.
尾叉長
2回目 29. 9
410
放卵数
放卵率(%
681
34. 6 )
451
566. 3± 167. 1
32.31.
3±53. 4
放卵数
765
1回目
783
523
1134
640 149. 6
659
688. 0± 67. 4
37.31.
4 4 26. 7
36.34.
2 1 44. 7
36.26.
3 7 3. 8
35.30.
4±7±
3. 4
3. 7
34. 7
(% )*
26. 7
31. 4
44. 7
34. 1
3. 8
26. 7
30. 7± 3. 7
2回目
410
29. 9 )
放卵数
放卵率(%
681 2回目
34.36
855
30.
放卵数
放卵率(%
)4
566. 640
3± 167. 1
32.
3±53.
30.
451
31. 5
786
31. 8
413
27. 2
542
28. 7
629
4
2回目 36.
621
30. 6
814
34.
2
放卵数
放卵率(%
720
27. 3 )
410
29.30.
9
855
782
29. 03
681
34.30.
6
640
840
36. 75
566. 3±786
167. 1
32. 3±
3.84
31.
591
33.
6
542
28.47
587
30.
621
30.36
780
30.
720 2回目
27.63
803
31.
放卵数
放卵率(%
782
29.40 )
708
31.
855
30.
3 7
840
36.
439
28.
7
640
30.33.
5
591
678
32. 96
786
31.
8
587
30.34
798
34.
542
28.30.
7
780
754
30. 93
621
30.
6
803
701. 4±
116. 1
31.31.
1±62. 3
720
27.31.
3 4
708
782
0 7
439 2回目 29.28.
840
36.32.
7 9
678
放卵数
放卵率(%
)
591
33.34.
6
798
750
30. 83
587
30.30.
4
754
564
30. 09
780
30.
31± 2. 3
701.
4± 116. 1
31.
805
32.
6
803
31. 6
706. 3± 126. 3
31. 1± 1. 3
708
31.
4
2回目
439
28. 7 31.
放卵数702
放卵率(%
)1
678
750 439
798
564 855
754
805114. 2
701.
4±3±
116.
1 3
706.
126.
放卵数
750
2回目
702
439
855
564 114. 2
805
706. 3± 126. 3
32.30.
9 8 27. 3
34.30.
3 0 36. 7
30.32.
9 6 2. 1
31.31.
1±1±
2. 31. 3
31. 1
放卵率(% )27. 3
30. 8
36. 7
30. 0
2. 1
32. 6
31. 1± 1. 3
3回目
519
3 1
353 3回目 19.23.
503
22.21.
0 5
443
放卵数
放卵率(%
)
286
16.19.
3
458
609
25. 07
490
25.20.
4
509
395
21. 08
505
19.
68± 3. 5
513.
4± 113. 6
22.
462
18.
7
559
22. 0
488. 7± 109. 5
21. 6± 3. 2
675
29.
9
3回目
353
23. 1 22.) 6
放卵数510
放卵率(%
609
3回目
510
286
804
395 110. 5
462
488. 7± 109. 5
21.25.
5 0 16. 3
19.21.
7 0 29. 9
20.18.
8 7 3. 4
22.21.
8±6±
3. 53. 2
22. 6
放卵率(% ) 16. 3
25. 0
29. 9
21. 0
3. 4
18. 7
5回目
放卵率(% )
25. 3
499
24.66
505
19.
544 3回目
20.06
559
22.
放卵数
放卵率(%
519
19.93)
675
29.
804
28.
5 0
503
22.
353
23.
1
490
23.16.
3
286
443
21. 53
590
23.
9
490
25.74
458
19.
500
26.19.
5
505
509
20. 86
499
24.
6 0
559
513. 4±
113. 6
22.22.
8± 3. 5
544
20.29.
6 9
675
放卵数
4回目
放卵数
放卵率(% )
放卵数
放卵率(% )
残卵
52
3. 8
残卵数
残卵率(%
)
22
1. 1
54
3.1.
85
42. 2± 29. 0
2. 4±
8
0. 5
28
264
19. 2 )
放卵数
放卵率(%
610 3回目
31.50
804
28.
放卵数
放卵率(%
)4
423.490
1± 147. 2
24.
0±34.
23.
346
24. 1
590
23. 9
383
25. 2
500
26. 5
333
2
3回目 19.
499
24. 6
603
25.
3
放卵数
放卵率(%
544
20. 6 )
264
19.28.
2
804
519
19. 35
610
31.23.
0
490
503
22. 03
423. 1±590
147. 2
24. 0±
4.94
23.
286
16.
3
500
26.45
490
25.
443
609 286
458
395 804
509
462110. 5
513.
4±7±
113.
6 5
488.
109.
放卵数
孕卵数
(% )*
582
1回目 47. 1
647
放卵数
(% 2
)*
653
33.
582
701. 8± 100. 7
41.40.
3±65. 6
放卵率(% )
残卵
放卵数
554
(mm)
588
579.554
7± 28. 3
放卵数
5回目
(mm)
21. 6± 3. 2
4回目
放卵数
4回目
314
放卵数
220
放卵率(% )
11. 1
放卵率(% )
10. 5
201
8. 1
191
10. 1
98287 43
199
251 483
238
483117. 1
212.
5±3±
108.
3 9
340.
124.
251
483
5回目
放卵数
放卵率(% )
4. 11.
8 8 1. 7
8. 13.
5 4 19. 5
9. 19.
7 5 4. 5
9. 41±
4. 14. 1
14. 9±
4回目
232
10. 2
43 放卵率(% ) 1. 7
11.
8
483
19. 5
117. 1
340. 3± 124. 9
13. 4
4. 5
19. 5
14. 9± 4. 1
放卵率(% )
5回目
放卵数
放卵率(% )
20
0. 8
29
1. 5
56
2. 3
35± 18. 7
1. 5± 0. 7
5回目
放卵数
35
20
20
29
56
18.56
7
35± 18. 7
残卵
放卵率(%1.) 5
0. 8 0. 8
1. 5 2. 3
2. 3 0. 7
1. 5± 0. 7
35 5回目
1. 5
放卵数
放卵率(% ) 0. 8
20
2056
0. 8
2. 3
29
1. 5
18. 7
0. 7
1520
1. 6
1730
3. 7
2379
孕卵数
1373
52
3. 8 )
残卵数
残卵率(%
残卵
822
0.1.31
残卵数
残卵率(%
)
42. 2±
2.0.4±
7 29. 0
3 1. 5
54
3. 8
9
0. 4
8
0. 5
0
0. 0
28
6
残卵 1. 4.
88
3
89
3.
7
残卵数
残卵率(%
)
31
1. 2
52 8
3. 80. 3
77
2. 9
22 7
1. 10. 3
0
0. 0
42. 2± 29.
0
2. 4± 1.
5
319
1.0.84
60
088
5回目
放卵数
431
0 8
211 4回目 16.13.
14898
6. 54. 8
放卵数
放卵率(%
)
207
11. 8.
85
199
287
11. 8
188
9. 79. 7
238
251
13. 4
246
9.
5
212.
5± 108. 3
9.19.
41±
483
5 4. 1
43
1. 7
340. 3± 124. 9
14. 9± 4. 1
46
2.
0
4回目
211
13.
8 10.) 2
放卵数232
放卵率(%
287
放卵率(% )
放卵率(% )
8. 8
1
11.
10.
9.
71
190
9.54
246
9.
4回目
441
16.
43
1.
77
放卵数
放卵率(%
)
431
16.
46
2.
00
314
11.
1
148
6. 8
5
211
13.
220
10.11.
5
207
98
4. 8 8
201
8. 19. 7
188
199
8. 5
191
10. 9.
1
246
238
9. 75
19043
9. 41. 7
212. 5±
108. 3
9. 41±
4. 1
44146
16. 2.
70
放卵数
放卵数
5回目
放卵数
4回目 9. 4
190
放卵数
放卵率(%
)
441
16. 7
314
11.01
431
16.
220
10.
5
148
6. 5
201
207
191
188
89
5回目
1373
孕卵数
1966
1433
1734±
383. 8
1966
2823
孕卵数
1734±
383. 8
2099
1433
2469
1520
1886
1730
2030
孕卵数
2379
2637
1373
2823
2695
1966
2099
2290
1734± 383.
24698
1759
1886
1932
0.0.30
0.4.03
2030
2577
2637
孕卵数
2539
2695
2256
2823
2290
1529
2099
1759
2058
2469
1932
2329
1886
2577
2442
2030
2255. 2539
9± 358. 9
2637
2256
2695
1529
孕卵数
2290
2058
1759
2329
2435
1932
2442
1879
25779± 358. 9
2255.
2471
2539
2261. 7± 331. 9
2256
孕卵数
1529
2257
2058
2435
1529
2329
1879
2823
残卵
031
0.1.02
残卵数
残卵率(%
)
77
69
3.2.19
8 0
0. 30. 0
3
0. 2
7 31
0. 31. 8
70
3. 4
9 6
0. 40. 3
32
1. 4
0 0
0. 00. 0
54
2. 2
88 0
4. 30. 0
28. 5± 31. 2
1. 3± 1. 4
31 69
1. 23. 1
77 3
2. 90. 2
残卵
0 70
0. 03. 4
残卵数
残卵率(%
)
31 32
1. 81. 4
4
0. 2
6 54
0. 32. 2
0
0. 0
0 5± 31. 2
0.1.03± 1. 4
28.
6
0. 2
0
0. 0
3. 3± 3. 1
0. 1± 0. 1
69
3.
1
残卵
3残卵数 25
0. 2
残卵率(%
1.) 1
70 4
32 0
0
88
54 6 30. 1
28. 5±
21
3. 31.
3± 3.
残卵数
4
0
56
2. 3
6
35± 18. 7
1. 5± 0. 7
3. 3± 3. 1
3. 40. 2 0. 0
1. 40. 0 4. 3
2. 20. 2 1. 4
1. 3±
0.1.
1±40. 1
残卵
25
2442
2471
346. 5
2255.
9± 358.
9 9
2261.
7± 331.
1. 1
0 残卵率(% ) 0. 0
0.
2
88
4. 3
0. 0
30. 1
1. 4
0. 2
0. 1± 0. 1
孕卵数 2257
1529
2435 2823
1879 346. 5
2471
2261. 7± 331. 9
平 均
620
783
34. 7
702
31. 1
510
22. 6
232
10. 2
35
1. 5
25
1. 1
2257
最小値
573
523
26. 7
439
27. 3
286
16. 3
43
1. 7
20
0. 8
0
0. 0
1529
最大値
690
1134
44. 7
855
36. 7
804
29. 9
483
19. 5
56
2. 3
88
4. 3
2823
標準偏差
31. 5
149. 6
3. 8
114. 2
2. 1
110. 5
3. 4
117. 1
4. 5
18. 7
0. 7
30. 1
1. 4
346. 5
49
3-3
3.3.1
考察
産卵回数と放卵数
本 研 究 で の シ ロ ザ ケ の 産 卵 回 数 は 3 ~ 5 回 で あ り ,既 報 の 4 〜 6 回( D u k e r 1 9 7 7 ;
Schroder 1973,1982) と ほ ぼ 同 じ で あ っ た 。 シ ロ ザ ケ は 1 回 目 の 産 卵 で 孕 卵 数 の
35%程 度 を 放 卵 し , 最 後 の 産 卵 で 初 回 放 卵 数 の 1/2~1/4 を 放 卵 す る こ と が 知 ら れ
て お り( G r o o t a n d M a r g o l i s 1 9 9 1 ),マ ス ノ ス ケ O . t s h a w y t s c h a( H a w k e 1 9 7 8 )
お よ び タ イ セ イ ヨ ウ サ ケ ( Gaudemar et al. 2000) で は , 産 卵 回 数 が 増 え る ご と
に放卵数が減少する傾向が報告されている。本研究では,1 回目の産卵で孕卵数
の 3 6 . 2 % を 産 卵 し ,最 後 の 産 卵 に お け る 産 卵 数 の 初 回 産 卵 数 に 対 す る 比 率 は ,3 回
産 卵 個 体 に お い て は 60.2%, 4 回 産 卵 個 体 に お い て は 26.6%, 5 回 産 卵 個 体 に お
い て は 5.1%で あ り , 5 回 産 卵 個 体 を 除 い て , Groot and Margolis (1991) と ほ ぼ
同 様 の 値 で あ っ た ( 図 3 - 3 )。
産 卵 床 は 形 成 さ れ て か ら 時 間 が 経 過 す る に 伴 い ,そ の 形 状 の 判 別 が 困 難 に な る 。
その際,産卵床の中で確認が容易な場所は産卵床の上流部にあるピット部分であ
るため,北海道内で行われているシロザケの卵の掘り起し調査では,ピット部分
に 近 い 場 所 を 行 う 場 合 が 多 い( 佐 藤 信 洋 氏 ,私 信 )。本 研 究 結 果 か ら ,産 卵 回 数 を
経るに伴い放卵数が減少し,最後の産卵では放卵数が著しく減少することが判明
した。特にシロザケの産卵床の中でピット部分に近い産室は,最後の産卵場所で
あり,著しく放卵数が少ない可能性が高い。そのため,野外調査の際には,産卵
直後の産室直上部に目印を付けるなど,できる限り産卵 3 回目までの産室を調査
す べ き で あ ろ う 。 ま た , 本 研 究 で 用 い た 実 験 水 槽 で は , 総 産 卵 回 数 が 3~5 回 の 全
て の 個 体 で あ っ て も , 1 回 目 の 産 卵 で は , 孕 卵 数 の 約 36%を 放 卵 す る こ と が 確 認
さ れ ,1 回 目 の 産 室 の 卵 数 と 孕 卵 数 に は 強 い 相 関 が あ っ た 。し た が っ て ,1 回 目 の
産室の卵数を正確に計測できれば,その個体のおおよその孕卵数の推計が可能で
あると判断された。
3.3.2
シロザケの湧出水選択性
シロザケを水槽に入れられてから産卵に至るまでの時間は,河床から水が湧き
あ が っ て い な い 場 合 ,湧 い て い る 場 合 に 比 べ は ,有 意 に 長 く な っ た( 図 3 - 9 )。湧
水区と河川水区の条件下では,産卵に至るまでの時間に有意差は認められなかっ
50
た が , 河 川 水 区 で は 120 分 ほ ど 長 く な っ た 。 も し 産 卵 ま で の 時 間 が 長 い こ と が ,
より好適な産卵場所を期待しての減少だと仮定すれば,産卵場所として河川浸透
水 も 選 択 す る も の の ,地 下 水 由 来 の 湧 水 を よ り 選 択 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
また,湧水区と河川区のいずれの条件下でも,河床から水が湧出している位置を
判 別 し ,そ の 周 辺 で 産 卵 す る こ と が 確 認 で き た 。こ れ は 既 往 の 知 見 と 一 致 す る( 総
説 と し て , Bjornn and Reiser 1991) 。 河 床 か ら 河 川 水 が 湧 出 す る 場 所 を 選 択 す
る理由として,河床が起伏を繰り返して河川水との摩擦抵抗が大きくなるほど河
床礫の間に酸素を多く含んだ水が浸透し,礫に埋められた卵の発生が進む
( E d w a r d s 1 9 9 8 )こ と が 考 え ら れ る 。河 川 改 修 工 事 な ど に よ り ,河 川 の 構 造 が 単
純 化 さ れ た 河 川 で は( 福 島 2 0 0 5 ),産 卵 場 所 が 減 少 す る た め ,シ ロ ザ ケ の 繁 殖 場
所を維持するためにも,河川環境は良好に保たれている必要がある。一方で,湧
出地点を選定する要因については本実験では明らかとはならなかった。本実験で
は河床からの湧出水の水流は測定限界以下であり,水槽内と底面での水温差もほ
とんど確認できなかった。加えて,嗅覚や味覚による水の違いを認識できない水
槽循環水を用いた実験下でも正確に水の湧出地点を産卵場所として選択しおり,
ニオイなどを感知していたとは考えづらい。実験に使用した水槽内ではほぼ止水
であったことから,通常,絶えず流れのある自然河川と比較し,河床から湧昇流
を判別し易い条件下であったと推察されるが,底面からの水の湧出場所について
は,水温ばかりでなく,計測機器では検知できない水流を感知する可能性がある
と考えられる。
51
第 4 章
根室地域におけるシロザケの自然再生産
根室 海峡に流 入する河 川 は,標津町内に ある忠類 川と伊茶 仁川を境に 2 つ対 照
的 な 河 川 形 態 が 存 在 す る ( 石 城 1 9 8 4 )。 そ の た め , 将 来 に わ た る 自 然 再 生 産 に よ
る資源の管理体制を確立する上で,河川ごとに自然再生産状況および産卵環境を
定量的に評価することが必要不可欠である。しかしながら,我が国におけるシロ
ザ ケ の 自 然 再 生 産 に 関 す る 研 究 は 少 な く ( 佐 野 1955; 佐 野 ・ 長 沢 1958, 小 林
1 9 6 8 ), こ れ ま で , 標 津 地 域 各 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ の 自 然 再 生 産 に 関 す る 詳 細
な調査研究はなされていない。そのため,当地域におけるシロザケの漁業資源を
回復させるためにも,現状におけるシロザケの自然再生産の実態を明らかにし,
野生魚による資源造成の可能性を検討する必要がある。また,近年のシロザケの
来遊数の増減は,北海道 5 海区(オホーツク海区,根室海区,太平洋えりも以東
海 区 , え り も 以 西 海 区 お よ び 日 本 海 区 ) に お い て 異 な っ て お り ( Miyakoshi and
N a g a t a 2 0 1 2 ), 河 川 へ の 遡 上 尾 数 も 変 動 が あ る 。 そ の た め , 野 生 魚 に よ る 再 生 産
を図るうえで,当地域におけるシロザケの沿岸来遊数および河川遡上数の変動を
分析する必要がある。
本章では,根室地域の各河川におけるシロザケの自然再生産の現状を評価する
ため,産卵状況,発眼卵の生残率および産卵適地面積を算出し,さらに,各河川
の遡上状況を調べるため,沿岸漁業および人工ふ化放流事業の実態について分析
し,野生魚の再生産の可能性を検討した。
52
4-1.
4.1.1
材料および方法
産卵状況
産 卵 状 況 を , 2 0 1 2 年 は 9 月 7 , 3 0 日 , 1 0 月 9 , 1 7 , 2 5 日 , 11 月 1 4 , 2 6 日 , 1 2
月 4 お よ び 1 4 日 の 9 回 , 2 0 1 3 年 は 9 月 5 , 2 4 日 , 1 0 月 8 , 1 5 日 , 11 月 5 , 1 4 ,
25 日 , 12 月 3 日 の 8 回 , 標 津 川 , 伊 茶 仁 川 , 忠 類 川 , 薫 別 川 お よ び 元 崎 無 異 川
の 5 水 系 12 河 川 で 行 っ た 。 調 査 場 所 は , こ れ ま で 産 卵 が 確 認 さ れ て い た か , 遡
上 が 完 全 に 阻 害 さ れ る ダ ム や 滝 が 無 く , 産 卵 が 可 能 な 河 床 で あ る 28 定 点 を 選 定
し た ( 図 4 - 1 )。 な お , 定 点 に は ふ 化 場 近 辺 5 カ 所 も 含 ま れ る が , ふ 化 場 用 水 の
放水口には,遡上途中の親魚が数多く観察されることから,定点は放水口から最
低 30 m 以 上 離 れ た 場 所 を 選 定 し た 。
各 定 点 に お い て 流 路 長 100 m 以 上 の 区 間 で , 目 視 に よ り シ ロ ザ ケ の 産 卵 行 動
中の生体と死骸および産卵床の数をカウントし,同時に河川水温を記録した。な
お,死骸はそれ以前の調査でカウントした生体と死骸との重複を避けるため,目
視により死後 3 日以上経過した死骸の数を除外した。また,産卵床の確認は,
増水時および増水後にはその判別が難しく,産卵床が集中して重複した定点では
正確な確認が困難であるため,確実に判別できた産卵床の数のみを記録した。
な お ,調 査 を 行 っ た 2 0 1 2 年 と 2 0 1 3 年 に お い て ,標 津 川 で は ,増 水 に よ っ て ウ
ラ イ 上 流 部 へ の シ ロ ザ ケ の 遡 上 が 確 認 さ れ た の は , 2012 年 が 10 月 上 旬 お よ び 中
旬 , さ ら に 1 0 月 下 旬 か ら 11 月 の 中 旬 に か け て の 2 週 間 , 2 0 1 3 年 は 9 月 中 旬 ,
1 0 月 下 旬 , 11 月 上 旬 で あ っ た 。
4.1.2
産卵床における生残率の推定
産卵床内の発眼卵の生残率の推定は,自然再生産状況調査の際に確認した各産
卵 床 の 1 回 目 も し く は 2 回 目 の 産 室 の 直 上 部 に 目 印 を 付 け ,発 眼 時 期 に あ わ せ て
行った。産卵床上部の礫を掘起こし,産室を構成する礫と卵を確認した後にネッ
トを用いて卵を採集し,生きている発眼卵および死卵の数を計測した。その後,
生きている卵のみ,元の産室に埋め戻した。同時に,産卵場所に地下水由来の湧
水が存在するかを判別するため,産卵床上部の河川水温と産室内の水温を測定し
た。
産 室 上 の 2 mm 以 下 の 砂 泥 含 有 率 と 生 残 率 と の 関 係 を 明 ら か に す る た め , 産 室
53
直 上 部 の 礫 を ス コ ッ プ と 観 賞 魚 用 フ ィ ッ シ ュ ネ ッ ト ( 目 合 い 0.5 mm) で 採 集 し
た 。 礫 は 持 ち 帰 り , 乾 燥 さ せ た 後 , 目 開 き が 50‐ 0.25 mm の JIS 標 準 篩 を 用 い
て乾式篩分けを行い,それぞれの重量を記録した。
4.1.3
産卵適地の推定
各河川における産卵可能流路内における産卵適地の推定は下記の基準で行っ
た。
① これまで事前調査でシロザケの産卵が確認されている,もしくは河床
材 料 が サ ケ 科 魚 類 の 産 卵 に 不 適 で あ る 2 mm 径 以 下 の 砂 ( Koski
1 9 7 5 ), も し く は 1 2 8 m m 径 以 上 の 大 礫 ( K o n d o l f a n d Wo l m a n 1 9 9 3 )
が優先していないこと。
② 下流域にシロザケ親魚の遡上を大きく妨げる滝やダムが無い場所であ
ること。
③ ア メ マ ス , オ シ ョ ロ コ マ S. malma, サ ク ラ マ ス O. masou な ど 他 の サ
ケ科魚類が生息していること。
④ サ ク ラ マ ス の 主 要 な 産 卵 場 所 よ り 下 流 域 で あ る こ と ( 眞 山 2 0 0 4 )。
河 川 の 産 卵 適 地 の 計 測 は , Isaak et al. (2007)に 基 づ き , 次 の よ う に 行 っ た
( 図 4 - 2 )。
各 調 査 地 点 に お い て , 川 幅 を レ ー ザ ー 計 測 計 ( Laser 550AS, Nikon 社 ) あ
る い は 巻 尺 で 計 測 し , そ の 川 幅 の 約 10 倍 の 距 離 の 流 路 長 を 調 査 区 間 と し た 。
トランセクト(河川横断線)の間隔は,計測した川幅と等間隔とし,流路に対
し て 10 本 程 度 設 定 し た 。 各 ト ラ ン セ ク ト に お い て 川 幅 を 再 度 計 測 し , ま た ,
シ ロ ザ ケ が 産 卵 可 能 で あ る 水 深 10 cm 以 上 ( 小 林 1968, Soin 1954) の 川 幅
も 計 測 し た 。 さ ら に , 各 ト ラ ン セ ク ト に 水 深 10 cm 以 上 の 川 幅 に 応 じ て 3~5
箇 所 の 計 測 点 ( 縦 1 m×横 1 m の 方 形 枠 ) を 等 間 隔 で 設 け , 各 計 測 点 で 水 深 ,
6 割水深の流速を計測した。その後,箱メガネによる目視および
Gravelometer (US SAH-97)を 用 い て 枠 内 の 河 床 礫 の サ イ ズ を 明 ら か に し た 。
礫 の サ イ ズ は 直 径 , 2 mm 以 下 , 2~16 mm, 16~64 mm, 64~128 mm お よ び
128 mm 以 上 に 分 け , そ の 割 合 を 記 録 し た 。 サ ケ 科 魚 類 が 産 卵 す る 河 床 は , 砂
54
( ~ 2 mm 径 ) , 小 礫 ( 2~ 16 mm 径 ) , 中 礫 ( 16~ 64 mm 径 ) , 大 礫 ( 64~
256 mm 径 ) お よ び 巨 礫 ( 256 mm 径 以 上 ) な ど の 様 々 な 大 き さ で 構 成 さ れ て い
る ( Inoue and Nakano 1998) 。 シ ロ ザ ケ の 場 合 , 卵 が 納 ま る 産 室 に は 大 き な
礫を沈下させ礎石として使用し,さらに,細粒土砂を産卵床から排出している
( P e t e r s o n a n d Q u i n n 1 9 9 6 ) 。 K o n d o l f a n d Wo l m a n ( 1 9 9 3 ) に よ る と , サ ケ
科 魚 類 が 産 卵 す る 河 床 材 料 の 礫 径 ( 50%粒 径 ) は 体 長 の 1/10 程 度 ま で で あ
り , 一 方 シ ロ ザ ケ は 粒 径 1~4 cm 程 度 で あ る と 報 告 し て い る 。 こ れ ら の こ と か
ら , 本 研 究 で 計 測 し た 礫 径 組 成 の 中 で , 中 礫 ( 16~ 64 mm) が シ ロ ザ ケ の 産 卵
床基質の範囲に当てはまると判断した。したがって,本研究では,既知の報告
( K o n d o l f a n d Wo l m a n 1 9 9 3 ; J o h n s o n e t a l . 1 9 7 1 ) を 参 考 に , シ ロ ザ ケ が 産
卵 可 能 な 水 深 が 10 cm 以 上 , か つ , 流 速 が 83.8 cm/sec 以 内 で , 礫 径 16-64
mm で 構 成 さ れ る 河 床 を 産 卵 適 地 と し , そ の 面 積 を 計 測 し た 。
各調査区域での産卵適地面積は,次のように算出した。
① 方 形 枠 内 ( 1 m×1 m) の 水 深 と 流 速 を 測 定
② 方 形 枠 内 の 中 礫 ( 16~ 64 mm) の 面 積 を 測 定
③ トランセクト毎に方形枠内の平均産卵適地面積割合を計算
④ 隣り合ったトランセクトにおける平均産卵適地面積割合を算出
⑤ 隣 り 合 っ た ト ラ ン セ ク ト 間 の 水 深 10 cm 以 下 面 積 を 計 算 し , ④ の 平 均
産卵適地面積割合から,隣り合ったトランセクト間の産卵適地面積を
算出
⑥ ⑤から全てのトランセクト間の産卵適地面積を累計
本研究の河川調査では,産卵場としての湧水選択性の有無についての判別が困
難であった。そのため,第 3 章の人工河川での結果を踏まえて,主に湧水域を
産卵場所として選択するが,それ以外の場所でも産卵するとの前提で,湧水の有
無は確認せず,調査を行った
4.1.4
シロザケの来遊数と河川回帰率
北海道内各海区および標津地域における沿岸漁獲尾数と河川捕獲尾数の
55
1967~2013年 ま で の 経 年 変 化 お よ び 単 純 回 帰 率 {( 来 遊 数 / 3年 前 の 放 流 数 ) ×
1 0 0 } , 河 川 遡 上 率 {( 河 川 捕 獲 数 / 来 遊 数 ) × 1 0 0 },{( 河 川 捕 獲 尾 数 / 3 年 前 の 放
流 数 ) ×100} を , 北 海 道 さ け ・ ま す 増 殖 事 業 協 会 , 根 室 管 内 さ け ・ ま す 事 業 協
会 ( h t t p : / / s a k e - m a s u . o r. j p / h t m l / 0 7 - 0 1 . h t m l ) お よ び 標 津 漁 業 協 同 組 合 等 の 各
統計資料を用いて算出した。
56
図 4-1. 自 然 再 生 産 状 況 を 調 べ た 河 川 と 定 点 .
57
図 4-2. 産 卵 適 地 計 測 に 用 い た 各 調 査 地 点 設 定 の 模 式 図 . 川 幅 の 約 10 倍 の 距 離 の 流
路 長 を 調 査 区 間 と し , 川 幅 と 等 間 隔 の ト ラ ン セ ク ト ( 河 川 横 断 線 ), 流 路 に 対 し て
10 本 程 度 設 定 各 ト ラ ン セ ク ト に 水 深 10 cm 以 上 の 川 幅 に 応 じ て 3~ 5 箇 所 の 計 測 点
( 縦 1m×横 1m の 方 形 枠 ) を 等 間 隔 で 設 定 .
58
4-2.
4.2.1
結果
自然産卵魚の分布
シ ロ ザ ケ の 生 体 ,死 骸 お よ び 産 卵 床 を ,全 水 系 で 確 認 し た( 表 4 - 1 )。根 室 地 域
5 水 系 に お け る シ ロ ザ ケ の 産 卵 個 体 ( 生 体 数 と 死 骸 数 の 合 計 ) の 90%以 上 は , ふ
化 場 か ら 0.5 km 以 内 の 河 床 域 ( 全 28 定 点 の う ち 6 定 点 ) に 集 中 し て お り , 特 に
元 崎 無 異 川 と シ ュ ラ 川 の 各 ふ 化 場 近 辺 の 流 路 長 100 m 当 た り の 産 卵 個 体 の 年 累
計 数 は 1,000 尾 以 上 で あ っ た 。 一 方 , ふ 化 場 近 辺 以 外 で は , 忠 類 川 で は ふ 化 場 か
ら 4 k m 離 れ た 場 所 に も 全 産 卵 個 体 の 4 . 2 % が 見 ら れ た が ,そ れ 以 外 は ,ほ と ん ど
確 認 さ れ ず ,流 路 長 1 0 0 m 当 た り の 産 卵 個 体 の 年 累 計 数 は 1 0 尾 以 下 で あ っ た( 図
4 - 3 )。標 津 川 水 系 武 佐 川 の 各 支 流 の 1 6 定 点 の う ち ,シ ュ ラ 川 の ふ 化 場 近 辺 の 5 0 0
m 以 内 の 2 定 点 ( st.14 お よ び st.15) に お け る 産 卵 個 体 は 支 流 域 全 体 の 99.2% ,
産 卵 床 数 の 9 8 . 6 % が 確 認 さ れ た 。な お ,シ ュ ラ 川 ふ 化 場 放 水 口 か ら 3 0 ~ 3 , 0 0 0 m 上
流 区 間 で は ,平 水 時 に シ ロ ザ ケ の 遡 上 が 困 難 な 落 差 3 0 ~ 7 0 c m 前 後 の 落 差 工 が 1 6
基あった。
4.2.2 自 然 産 卵 魚 の 産 卵 時 期
産 卵 個 体 の 確 認 時 期 は , 全 体 と し て 9 月 か ら 1 2 月 で あ り , 11 月 に そ の 確 認 数
は 多 い 傾 向 が 見 ら れ た が ,河 川 や 定 点 ご と に 異 な っ て い た( 図 4 - 4 )。河 川 捕 獲 が
行 わ れ て い な い 忠 類 川 に お い て , 産 卵 個 体 は 下 流 域 に お い て 9~12 月 の 間 に 確 認
さ れ た が , 上 流 域 ( 河 口 か ら 上 流 13 km 以 上 ) に あ る 4 定 点 で は , 2013 年 の 9
月 に 8 尾 が 確 認 さ れ た も の の ,1 0 月 以 降 は 全 く 確 認 さ れ な か っ た 。ま た ,標 津 川
水 系 の ふ 化 場 が あ る シ ュ ラ 川 で は , 9 月 に お け る 産 卵 個 体 が 全 期 間 の 0.46% で あ
り,その数は著しく少なかった。また,シュラ川と同じ水系内の 4 支流での自然
産 卵 魚 の 確 認 数 は , 10 月 に 7 尾 ,12 月 に 1 尾 で あ っ た が ,シ ュ ラ 川 で の 確 認 数
が 一 番 多 か っ た 11 月 に は 全 く 確 認 さ れ な か っ た 。
4.2.3
発眼卵の生残率
発 眼 卵 の 生 残 率 は , 主 に 11 月 下 旬 以 降 に 産 卵 し た 個 体 の 産 卵 床 を 調 べ た ( 表
4 - 2 )。
2012 年 に , 5 水 系 8 河 川 10 定 点 で 75 個 の 産 卵 床 を 掘 起 し , 9,512 粒 の 卵 を
59
採 集 し た 。 そ の 生 残 率 は 44.9±43.8( 範 囲 0~100) %で あ っ た 。 2013 年 に は 5
水 系 5 河 川 7 定 点 で 50 個 の 産 卵 床 か ら 6,242 粒 の 卵 を 採 集 し た 。 そ の 生 残 率 は
51.9±29.1( 範 囲 0~99.1) %で あ っ た 。
発眼卵の生残率の平均値は,河川間および河川内でも産卵床により大きく異な
っ て い た ( 表 4 - 2 )。 2 0 1 2 年 と 2 0 1 3 年 に お い て 同 じ 定 点 で 発 眼 卵 の 生 残 率 の デ
ー タ が 得 ら れ た 箇 所 は , 元 崎 無 異 川 ふ 化 場 取 水 口 ( st. 2) と 薫 別 川 乳 薫 橋 ( st.
4 ) を 除 い て , ほ ぼ 同 様 の 結 果 が 得 ら れ た ( 図 4 - 5 )。 忠 類 川 , 2 0 1 2 年 の 薫 別
川 , 伊 茶 仁 川 の 発 眼 卵 の 生 残 率 は 他 の 調 査 定 点 と 比 べ て 高 か っ た ( 図 4 - 5 )。 産
室内の水温は,薫別川とシュラ川昭和橋を除いて,河川水とほぼ同じか,それよ
り 低 い 値 を 示 し た 。 薫 別 川 で は , 産 室 内 水 温 が 河 川 水 と 比 べ て 2.8~4.6℃ 高 い 値
を示しており,冬期間でも水温の低下は見られなかった。また,伊茶仁川は,冬
期 間 に お い て も 河 川 水 温 が 5.0℃ 前 後 も あ る 湧 水 が 多 い 河 川 で あ る が , 河 川 水 温
と 産 室 内 水 温 の 差 は ほ と ん ど 認 め ら れ な か っ た ( 表 4 - 2 , 図 4 - 6 )。
2012 年 に 元 崎 無 異 川 , シ ュ ラ 川 , 忠 類 川 , 伊 茶 仁 川 お よ び 薫 別 川 の 5 河 川 に
お い て , 産 室 上 の 2 mm 以 下 の 砂 泥 比 率 と 発 眼 卵 の 生 残 率 と の 関 係 を 調 べ た が ,
両 者 に は 有 意 な 関 係 は 認 め ら れ な か っ た ( 図 4 - 7 )。
4.2.4
産卵適地面積
2012 年 お よ び 2013 年 に , 標 津 地 域 5 水 系 8 河 川 の 25 か 所 に お い て 産 卵 適 地
面 積 を 計 測 し た 。そ の 結 果 , 5 水 系 8 河 川 の 産 卵 適 地 総 面 積 は ,約 1 6 0 , 0 0 0 m 2 で
あ り( 表 4 - 3 ),シ ロ ザ ケ の 産 卵 床 の 大 き さ は 平 均 2 . 2 6 m 2 ( S c o t t a n d C r o s s m a n
1973) で あ る こ と か ら , 雌 1 尾 当 た り の 産 卵 面 積 を 2 m2 と す る と , 雌 親 魚 約
80,000 尾 の 産 卵 が 可 能 と 推 計 さ れ た 。
各 調 査 河 川 の 産 卵 適 地 面 積 の 算 出 結 果 は 次 の 通 り で あ る ( 表 4 - 3 , 表 4 - 4 )。
元 崎 無 異 川 : こ れ ま で の 事 前 調 査 の 結 果 か ら , 産 卵 可 能 流 路 を 河 口 か ら 300~
2780 m の 間 と 判 断 し , そ の 中 の 4 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。 調 査 箇 所 の 平 均 川 幅 は
4.4~ 12.2 m で あ り , 流 路 長 100 m 当 た り の 産 卵 適 地 面 積 は 261.9±125.1 m2 で
あった。各調査ポイント間の距離と産卵適地面積で推計した結果,元崎無異川全
体 の シ ロ ザ ケ の 産 卵 適 地 面 積 は 15,043 m2 で あ っ た 。
薫 別 川 :河 口 か ら 上 流 2 0 0 ~ 4 4 5 2 m の 間 の 2 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。調 査 箇 所 の
60
平 均 川 幅 は 11 . 2 ~ 1 7 . 8 m で あ り , 流 路 長 1 0 0 m 当 た り の 産 卵 適 地 面 積 は 4 9 2 . 6 ±
292.3 m2 で あ っ た 。 累 計 し た 薫 別 川 全 体 の シ ロ ザ ケ の 産 卵 適 地 面 積 は 18,515 m2
であった。
忠 類 川:河 口 か ら 上 流 1 0 0 ~ 1 7 , 5 0 0 m の 本 流 7 か 所 お よ び 支 流 の イ ケ シ ョ マ ナ
イ 川 1 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。 本 流 域 の 調 査 箇 所 の 平 均 川 幅 は 17.5~ 42.2 m で あ
り ,流 路 長 1 0 0 m 当 た り の 産 卵 適 地 面 積 は 3 9 7 . 6 ± 2 8 2 . 2 m 2 で あ っ た 。忠 類 川 は ,
上流域では河床が岩盤である場所が多く,さらに中流から下流にかけても流速が
速 く ( 8 3 . 8 c m / s e c 以 上 ), 6 5 m m 以 上 の 大 礫 が 多 い た め , 水 表 面 積 に お け る 産 卵
適 地 面 積 割 合 は 4 . 5 ~ 3 4 . 1 % で あ り ,他 の 調 査 河 川 と 比 較 し 低 い 値 を 示 し た 。し か
しながら,忠類川の水表面積は本研究の調査河川の中で最大であるため,産卵適
地 面 積 は 全 調 査 河 川 の 約 半 数 に 当 た る 82,755 m2 で あ っ た 。
伊茶仁川:伊茶仁川は今回の調査河川の中で河川規模が小さく,産卵可能流路
も 最 も 短 か っ た 。す な わ ち ,産 卵 可 能 流 路 は 河 口 か ら 1 3 0 0 ~ 1 6 7 0 m の わ ず か 3 7 0
m の ふ 化 場 近 辺 で あ り ,そ の 中 の 4 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。調 査 場 所 の 平 均 川 幅 は
4.3~ 6.4 m と 調 査 河 川 の 中 で 最 も 狭 か っ た 。 流 路 長 100 m 当 た り の 産 卵 適 地 面
積 は 225.6±129.2 m2 で あ っ た 。 各 調 査 定 点 間 の 距 離 と 産 卵 適 地 面 積 を 累 計 し た
結 果 , 伊 茶 仁 川 全 体 の シ ロ ザ ケ の 産 卵 適 地 面 積 は 705 m2 で あ っ た 。 伊 茶 仁 川 で
は , 中 流 か ら 下 流 域 の 広 範 囲 で 2 mm 以 下 の 砂 泥 か ら な る 産 卵 に は 適 さ な い 河 床
が多かった。しかしながら,調査地点においては,水表面積に占める産卵適地面
積 割 合 が 60%以 上 と 高 い 値 で あ っ た 。
シ ュ ラ 川( 標 津 川 水 系 武 佐 川 支 流 ): こ れ ま で の 事 前 調 査 の 結 果 か ら ,産 卵 可 能
流 路 を 武 佐 川 合 流 点 か ら 上 流 300~ 4101 m の 間 と 判 断 し , そ の 間 の 3 か 所 で 調
査 を 行 っ た 。 調 査 箇 所 の 平 均 川 幅 は 8.7~ 10.9 m で あ り , 流 路 長 100 m 当 た り の
産 卵 適 地 面 積 は 376.2±203.1 m2 で あ っ た 。 累 計 し た シ ュ ラ 川 全 体 の シ ロ ザ ケ の
産 卵 適 地 面 積 は 14,694 m2 で あ っ た 。
イ ロ ン ネ ベ ツ 川 ( 標 津 川 水 系 武 佐 川 支 流 ): 武 佐 川 合 流 点 か ら 3 , 9 0 6 m 上 流 ま
で の 間 の 2 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。 調 査 箇 所 の 平 均 川 幅 は 10.0~ 12.0 m で あ り ,
流 路 長 100 m 当 た り の 産 卵 適 地 面 積 は 458.3±126.2 m2 で あ っ た 。 累 計 し た イ ロ
ン ネ ベ ツ 川 全 体 の シ ロ ザ ケ の 産 卵 適 地 面 積 は 18,821 m2 で あ っ た 。
ク テ ク ン ベ ツ 川 ( 標 津 川 水 系 武 佐 川 支 流 ): 武 佐 川 合 流 点 か ら 上 流 3 , 6 2 5 m の
61
間 の 2 か 所 で 調 査 を 行 っ た 。 調 査 箇 所 の 平 均 川 幅 は 9.1~ 10.2 m で あ り , 流 路 長
1 0 0 m 当 た り の 産 卵 適 地 面 積 は 2 2 8 . 8 ± 2 5 . 8 m 2 で あ っ た 。各 調 査 ポ イ ン ト 間 の 距
離と産卵適地面積を累計した結果,イロンネベツ川全体のシロザケの産卵適地面
積 は 9,462 m2 で あ っ た 。
4.2.5
各河川におけるシロザケの河川回帰率と遡上尾数
根 室 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 2004年 か ら 2013年 ま で の 10年 間 の 単 純 回 帰 率
{( 来 遊 数 / 3年 前 の 放 流 数 ) ×100}の 平 均 は 6.3%と 他 の 海 区 と 比 べ て 高 か っ た
( 図 4 - 8 ) 。 一 方 で , 根 室 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 河 川 遡 上 率 {( 河 川 捕 獲 数 / 来 遊
数 ) ×100} は , 近 年 , 減 少 傾 向 に あ り , 2004年 か ら 2013年 ま で の 過 去 10年 で
2 . 7 % と 全 道 で 最 低 で あ っ た ( 図 4 - 9 )。 そ の た め , 根 室 海 区 に お け る 河 川 回 帰 率
{( 河 川 捕 獲 尾 数 / 3 年 前 の 放 流 数 ) × 1 0 0 } の 過 去 1 0 年 の 平 均 も 0 . 1 6 % ( 図 4 10) と 他 海 区 よ り 低 い 状 況 に あ る 。
標 津 地 域 の 河 川 回 帰 率 は , 標 津 川 で 0.41%, 薫 別 川 で 0.08%お よ び 伊 茶 仁 川 で
0 . 11 % と 河 川 に よ り 差 が あ っ た ( 図 4 - 11 )。 現 在 , 標 津 地 域 で シ ロ ザ ケ の 放 流 事
業を行っている河川は,標津川,伊茶仁川,忠類川,薫別川および元崎無異川の
5水 系 で あ る が , 忠 類 川 は 1995年 か ら 捕 獲 を 廃 止 し て 稚 魚 の 放 流 の み を 行 っ て い
る 。 さ ら に , 元 崎 無 異 川 で は , 2006年 以 降 に 捕 獲 が 減 少 し , 2009年 以 降 の 河 川
に お け る 捕 獲 数 は 2 2 2 ~ 1 4 11 尾 と 著 し く 少 な く , 種 卵 が 不 足 し た 際 に 捕 獲 を 行 う
補完河川と位置づけられている。
62
(A)
(B)
図 4-3. 各 調 査 定 点 の 流 路 長 100m あ た り に お け る シ ロ ザ ケ の 産 卵 個 体 数 ( 生 体 数
と 死 骸 数 の 合 計 ) . (A) 2012 年 , (B) 2013 年 .
63
図 4-4. 各 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ の 産 卵 個 体 数 の 月 別 変 化 .
64
図 4-5. 2012 年 と 2013 年 に 確 認 し た 産 卵 床 内 の 発 眼 率 の 平 均 値 と 標 準 偏 差 . N は 産
卵床の調査数.
65
100
90
80
発眼時生残率(%)
70
元崎無異ふ化場
60
元崎無異国道
シュラ昭和橋
50
シュラふ化場
40
忠類上忠類
忠類ふ化場
30
伊茶仁ふ化場
20
薫別乳薫橋
10
0
-3
-2
-1
0
1
2
水温差(℃)
3
4
5
6
図 4-6. 各 河 川 に お け る 発 眼 卵 の 生 残 率 と 水 温 差 と の 関 係 . 水 温 差 と は 産 室 内 水 温
と河川水温との差を指す.
66
産卵床内の発眼卵の生残率 (%)
(A)
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
2 mm以下の砂泥含有率 (%)
40
50
0
10
20
30
2 mm以下の砂泥含有率 (%)
40
50
0
10
20
30
2 mm以下の砂泥含有率 (%)
40
50
産卵床内の発眼卵の生残率 (%)
(B)
100
80
60
40
20
0
産卵床内の発眼卵の生残率 (%)
(C)
100
80
60
40
20
0
図 4-7. 各 河 川 に お け る 発 眼 卵 の 生 残 率 と 産 室 上 の 砂 泥 含 有 率 と の 関 係 .
(A)元 崎 無 異 川 , (B)忠 類 川 , (C)シ ュ ラ 川 .
67
12
単純回帰率(%)
10
8
6
4
2
0
年
根室海区
オホーツク海区
日本海区
えりも以東
えりも以西
図 4-8. 北 海 道 内 各 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 単 純 回 帰 率 の 経 年 変 化 .
68
70
60
河川遡上率(%)
50
40
30
20
10
0
年
根室海区
オホーツク海区
日本海区
えりも以東
えりも以西
図 4-9. 北 海 道 内 各 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 河 川 遡 上 率 の 経 年 変 化 .
69
1.2
河川単純回帰率(%)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
年
根室海区
オホーツク海区
日本海区
えりも以東
えりも以西
図 4-10. 北 海 道 内 各 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 河 川 単 純 回 帰 率 の 経 年 変 化 .
70
1.2
河川単純回帰率(%)
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
年
元崎無異川
薫別川
伊茶仁 川
標津川
図 4 - 11 . 根 室 地 域 の 4 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ の 単 純 回 帰 率 の 経 年 変 化 .
71
表 4-1(A). 2012 年の各定点における流路長 100 m あたりのシロザケの生体数と死骸数および産卵床数.
st
河川
水系
調査ポイント
st. 1
本流
元崎無異橋
元崎無異川
st. 2
本流
ふ化場上流
st. 3
本流
薫別橋上流
薫別
st. 4
本流
乳薫橋
st. 5
本流
忠類橋
st. 6
本流
ふ化場横
st. 7
本流
上忠類橋
忠類川
st. 8
本流
砂防ダム下
st. 9
本流
討伐沢出会
st. 10
討伐沢
st. 11
イケショマナイ 下流
st. 12
伊茶仁川
本流
ふ化場下流
st. 13
東橋
st. 14
昭和橋
シュラ川
st. 15
ふ化場横
st. 16
平川橋
st. 17
ウラップ橋
st. 18
道々橋
ウラップ
st. 19
桜井橋
st. 20
西川北橋
標津川
st. 21
上武佐橋
イロンネベツ 西4号小橋
st. 22
st. 23
西4号橋
st. 24
クテクンベツ橋
クテクンベツ
st. 25
銀橋
st. 26
出雲橋
武佐
st. 27
とさ橋
st. 28
むさ橋
合 計
生体
23
1
0
0
10
0
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
37
9月
死骸
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
産卵床
12
0
0
0
5
0
7
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
24
生体
832
76
145
9
51
55
8
0
0
0
0
0
2
51
169
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
0
0
1401
10月
死骸 産卵床
11
11
6
67
5
62
0
46
5
35
14
47
0
9
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
1
2
9
12
16
120
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
67
703
72
生体
83
50
12
6
16
100
3
0
0
0
0
100
1
87
456
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
914
11月
死骸 産卵床
25
28
9
50
0
8
2
20
40
11
0
33
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
50
50
0
1
50
30
232
200
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
0
0
0
0
408
435
12月
生体
死骸 産卵床
101
53
62
0
0
21
1
0
0
0
0
0
0
0
0
20
0
30
0
0
0
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
30
34
29
1
0
3
15
107
18
161
108
52
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
329
302
216
生体
1039
127
158
15
77
175
14
0
0
0
0
130
4
153
786
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
0
0
2681
累計
死骸 産卵床
89
402
15
138
5
70
2
66
45
51
14
110
0
17
0
0
0
0
0
0
0
0
84
82
1
6
166
60
356
372
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3
0
0
0
0
777
1378
表 4-1(B). 2013 年の各定点における流路長 100 m あたりのシロザケの生体数と死骸数および産卵床数.
st
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
st.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
河川
元崎無異川
薫別
忠類川
伊茶仁川
標津川
水系
本流
本流
本流
本流
本流
本流
本流
本流
本流
調査ポイント
元崎無異橋
ふ化場上流
薫別橋上流
乳薫橋
忠類橋
ふ化場横
上忠類橋
砂防ダム下
討伐沢出会
討伐沢
イケショマナイ 下流
本流
ふ化場下流
東橋
昭和橋
シュラ川
ふ化場横
平川橋
ウラップ橋
道々橋
ウラップ
桜井橋
西川北橋
上武佐橋
イロンネベツ 西4号小橋
西4号橋
クテクンベツ橋
クテクンベツ
銀橋
出雲橋
武佐
とさ橋
むさ橋
合 計
生体
40
3
27
0
4
6
3
2
3
0
1
8
0
1
4
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
102
9月
死骸
0
0
2
0
1
0
1
0
0
1
1
2
6
1
4
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
19
産卵床
12
1
17
3
0
4
4
1
0
0
0
1
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
44
生体
212
22
10
5
12
12
6
0
0
0
0
33
0
0
18
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
2
0
0
334
10月
死骸 産卵床
14
85
5
12
9
23
4
5
1
5
1
4
2
7
0
0
0
0
0
0
0
0
1
30
0
0
0
0
0
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
37
174
73
生体
755
32
12
5
63
21
2
0
0
0
0
280
1
91
1083
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2345
11月
死骸 産卵床
114
377
10
30
24
100
0
3
50
84
9
30
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
94
50
5
0
145
70
235
323
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
686
1068
12月
死骸
生体
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
産卵床
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2
生体
1007
57
49
10
79
39
11
2
3
0
1
321
1
92
1105
0
0
0
0
0
2
0
0
0
0
2
0
0
2781
累計
死骸 産卵床
128
474
15
43
35
140
4
11
52
89
10
38
3
12
0
1
0
0
1
0
1
0
97
81
11
0
146
71
239
326
0
0
1
2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
743
1288
表 4-2(A). 2012 年の各河川の産卵床内におけるシロザケ発眼卵の生残率と河川状況.
卵数(粒)
河川名
定点
月日
産卵床数
元崎無異川
st. 1
0203
10
123 ±
元崎無異川
st. 2
0316
6
118 ±
元崎無異川
-
0327
9
忠類川
st. 5
0203
10
忠類川
st. 7
0327
3
81
薫別川
st. 4
0214
6
伊茶仁
st. 12
0214
10
シュラ川
st. 15
0301
シュラ川
st. 14
0316
st. 17
0301
ウラップ川
合 計
平均±SD
発眼卵の生残率(%)
河川水温
産室水温
範囲
(℃)
(℃)
27.0
0~78.6
1.8
-
14.8
0~35.0
1.8
1.6
5.6±4.1
±
24.3
0~65.7
2.7~3.5
2.0~4.7
13.7±8.5
±
32.3
0~100
6.1
5.9〜6.2
2.2±2.1
±
32.6
15.2~94.3
1.8~3.5
1.8~3.9
34.0±8.6
±
15.8
53.4~96.5
2.5
6.3〜6.9
19.5±9.6
79.8
±
24.2
17.5~97.0
5.1
5.1〜5.2
25.6±11.6
1300
30.8
±
33.3
0~77.4
6.4
6.2
-
1024
37.7
±
34.2
0~80.0
5.8
5.6~7.7
7.4±4.5
110~130
363
25.3
±
40.3
0~71.5
2.1
-
-
33~323
9512
44.9
±
43.8
0~100
1.8~6.4
1.6~7.7
11.9±10.2
平均±SD
範囲
合 計
76.5
53~323
1230
14.8
±
40.1
60~171
708
15.5
±
133 ±
65.8
38~258
1197
23.1
134 ±
64.4
48~259
1340
69.6
±
45.1
33~143
243
70.5
111 ±
31.8
58~147
667
82.1
144 ±
44.2
58~191
1440
10
130 ±
48.5
55~212
8
128 ±
46.3
47~188
3
121 ±
10.1
75
127 ±
53.7
産室上の砂泥含有率 (平均+SD)
12.6±4.2
表 4-2(B). 2013 年の各河川の産卵床内におけるシロザケ発眼卵の生残率と河川状況.
卵数(粒)
河川名
定点
月日
産卵床数
平均±SD
発眼卵の生残率(%)
範囲
合 計
平均±SD
河川水温
産室水温
範囲
(℃)
(℃)
産室上の砂泥含有率 (平均+SD)
元崎無異川
st. 1
0322
8
109 ±
11.9
85~120
869
17.2
±
28.2
0~80.8
4.0
1.4~4.1
-
元崎無異川
st. 2
0322
7
107 ±
40.0
37~164
750
57.4
±
29.9
0.9~89.6
3.3
0.1~3.1
-
忠類川
st. 5
0225
10
140 ±
40.6
106~200
1395
69.3
±
38.7
0~98.3
1.6
0.1~2.3
-
忠類川
st. 7
0225
2
79
±
51.6
42~115
157
92.4
±
9.5
85.7~99.1
2.9
2.1~2.6
-
薫別川
st. 4
0215
7
127 ±
25.1
97~175
887
47.8
±
29.3
0~76.3
0.3
3.1~4.9
-
81
伊茶仁
st. 12
0215
6
シュラ川
st. 15
0205
10
シュラ川
st. 14
0315
6
合 計
56
±
37.9
25~119
483
91.4
±
4.4
83.1~96.0
6.0
4.6~6.1
-
117 ±
26.6
81~171
1169
29.6
±
28.0
2.3~80.0
3.2
3.0~3.5
-
89
±
36.3
33~120
532
43.3
±
45.5
0~96.3
2.6
2.8~7.1
-
111 ±
36.4
37~200
6242
48.3
±
37.7
0~99.1
0.3~6.0
0.1~7.1
-
74
表 4-3. 根 室 地 域 各 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ の 産 卵 域 調 査 結 果 .
河川
忠類川
調査地点
本流
イケショマナイ川
元崎無異川
本流
薫別川
本流
伊茶仁川
本流
シュラ川
標津川
イロンネベツ川
クテクンベツ川
討伐沢合流点
砂防ダム上流
上忠類橋上流
上忠類橋
p3から下
p3から上
ふ化場上流
国道下
支流合流点上流
砂利採取場上流
ふ化場上流
国道橋上流側
上流(乳薫橋)
下流(小学校裏)
ふ化場上流
ふ化場横
ふ化場下流
最下流
上流(ふ化場横)
中流
東橋
上流(西4号橋)
下流(上武佐橋)
上流(銀橋)
下流( クテクンベツ橋)
調査年月日
調査区間長
(m)
st. 9 2012/8/9
st. 8 2013/8/22
- 2013/7/17
st. 7 2012/8/9
- 2013/7/17
- 2013/7/17
st. 6 2012/8/9
st.11 2013/8/22
- 2013/7/25
- 2013/7/25
st. 2 2012/12/11
st. 1 2013/7/25
st. 4 2012/12/11
st. 3 2012/12/11
- 2012/8/28
- 2012/8/28
st.12 2012/8/28
- 2012/8/28
st.15 2012/8/28
- 2012/8/28
st.13 2012/8/28
st.21 2012/12/14
st.23 2012/12/14
st.25 2012/12/14
st.24 2012/12/14
180
240
180
240
600
270
180
100
45
78
100
63
100
100
50
45
45
30
90
70
90
100
100
100
100
st
トランセ
クト数
10
13
10
13
13
10
13
11
10
14
11
10
11
11
11
10
10
6
10
8
10
11
11
11
11
75
川幅(m)
平均±SD 水深10cm以下
19.2±2.4
18.2
22.9±11.8 21.9±12.0
24.8±9.0 23.9±9.1
17.5±4.7
16.5
42.2±10.5 41.6±10.4
21.4±7.9 20.7±7.7
15.0±2.4
13.5
8.1±2.1
7.0±2.1
4.4±1.2
3.5±1.3
5.4±1.4
4.2±1.4
12.2±3.8
11.2
8.4±1.1
8.4±1.1
17.9±5.1
16.6
11.2±2.3
9.5
4.8±0.6
3.8
4.8±0.8
3.8
4.3±1.2
3.5
6.4±1.3
5.7
10.9±2.4
10.1
9.4±1.5
8.2
8.72±1.3
7.8
11.9±2.1
11.3
10±1.4
9.4
10.2±0.7
8.9
9.1±2.3
8.2
産卵適地面積(㎡)
調査区間 流路長100m
1,180.0
665.6
1,299.8
541.6
859.7
477.6
187.1
78.0
5,035.9
839.3
924.5
342.4
153.4
85.2
151.3
151.3
67.3
149.6
140.8
180.5
425.5
425.5
184.0
292.1
699.3
699.3
286.0
286.0
144.6
289.3
137.4
305.4
123.7
274.9
9.8
32.6
389.4
432.7
269.4
384.8
279.9
311.0
369.1
369.1
547.5
547.5
210.6
210.6
247.0
247.0
水表面積(㎡)
調査区間 適地面積割合(%)
3456
34.1
5790
22.4
5838
14.7
4200
4.5
25753
19.6
9491
9.7
2700
5.7
809
18.7
198
34.0
390
36.1
1100
38.7
541
34.0
1796
38.9
1120
25.5
239
60.6
217
63.3
195
63.3
160
6.1
981
39.7
660
40.8
785
35.7
1195
30.9
941
58.2
1020
20.6
910
27.1
表 4-4. 根 室 地 域 各 河 川 に お け る シ ロ ザ ケ 産 卵 適 地 面 積 の 推 定 .
河川名
元崎無異川
薫別川
忠類川
伊茶仁川
シュラ川
イロンネベツ川
クテンクンベツ川
合 計
調査箇所
調査区間長
(m)
4
2
8
4
3
2
2
25
286
200
1,990
170
295
200
200
3,341
トランセクト
数(合計)
45
22
93
37
43
22
22
284
流路長100m当たりの産卵適地面積(㎡) 産卵適地 推定した流
平均
261.9
492.6
397.6
225.6
376.2
458.3
228.8
76
± SD
± 125.1
± 292.3
± 282.2
± 129.2
± 203.1
± 126.2
± 25.8
範囲
面積(m2)
149.6~425.5
15,043
286.0~699.3
18,515
78.0~839.3
82,755
32.6~305.4
705
311.0~432.7
14,694
369.1~547.5
18,821
210.6~247.0
9,462
159,995
路長(m)
2,480
4,052
19,800
370
3,801
3,906
3,625
38,034
4-3.
4.3.1
考察
自然再生産状況と産卵適地
本研究では,自然再生産している個体を明確にふ化場魚と野生魚に識別するこ
とができなかった。そこで,それらの個体は自然産卵魚として扱った。シロザケ
の 自 然 産 卵 魚 は 5 つ の 水 系 の 全 て で 確 認 さ れ た 。 シ ロ ザ ケ の 産 卵 個 体 の 90%以
上 は , ふ 化 場 か ら 0.5 km 以 内 の 河 床 域 ( 全 28 定 点 の う ち 6 定 点 ) に 著 し く 偏
っており,それ以外の水系と支流では,忠類川を除いて,確認できない場所も多
く , 確 認 さ れ て も そ の 数 は き わ め て 少 な か っ た ( 図 4 - 3 , 表 4 - 1 )。 特 に , 標 津
川 水 系 武 佐 川 の 各 支 流 に お い て ( 1 6 定 点 ), そ の 傾 向 が 顕 著 で あ り , ふ 化 場 か ら
500 m 以 上 離 れ た 14 定 点 に お け る 自 然 産 卵 魚 の 確 認 数 は 全 体 の わ ず か 0.8% で
あり,その多くが産卵場所として利用されていなかった。
シュラ川にあるふ化場近辺と,武佐川の各支流を比較すると,産卵適地総面積
お よ び 1 0 0 m 当 た り の そ の 割 合 に 大 き な 違 い が な く ( 表 4 - 3 ), 河 川 形 態 も 大 き
な違いが認められなかった。さらに,シロザケの遡上を大きく阻害する人工工作
物も存在しないことから,河床から湧出する湧水および河川水については考慮に
入れていないものの,遡上が確認されない河川においても,シロザケの産卵環境
に大きな問題はないと判断される。さらに,シュラ川に遡上するシロザケはふ化
場用水の放水口には多数のシロザケが集まることから,ふ化場由来である可能性
が高いため,今後,その確認の必要がある。
また,シュラ川ふ化場近辺における産卵個体の集中は,ふ化場放水口より上流
域の落差工の存在もその要因の一つと考えられる。また,本研究において,ふ化
場のある忠類川およびシュラ川の 9 月における産卵個体の確認数は少なかっ
た。特に,産卵個体の密度が高いシュラ川においては,9 月における産卵個体の
確 認 数 が 全 期 間 の 0.46% と 著 し く 少 な か っ た 。 根 室 管 内 さ け ・ ま す 増 殖 事 業 協
会 事 業 報 告 書 に よ る と , 忠 類 川 お よ び シ ュ ラ 川 の ふ 化 場 で は , 過 去 10 年 , 前 期
群 ( 10 月 20 日 ま で の 採 卵 個 体 ) の 稚 魚 の 放 流 は な さ れ て い な い 。 シ ロ ザ ケ は ,
親子の産卵時期がほぼ一致することが知られているため(例えば,高橋
2 0 1 3 ), こ の ふ 化 場 に お い て 前 期 群 を 放 流 し て い な い こ と が , 9 月 に お け る 自 然
産卵魚が少ない要因と考えられる。したがって,本研究で調査を行った河川,特
に標津川水系のおいては,自然産卵魚の多くがふ化場魚である可能性が高く,野
77
生魚による再生産は少ないと考えられる。
本 研 究 で 調 査 し た 標 津 地 域 の 5 水 系 8 河 川 の 産 卵 適 地 面 積 は 約 160,000 m2 で
あ る が , こ れ ら の 産 卵 適 地 の 中 で , 100 m2 あ た り の 産 卵 床 数 が 1 個 以 下 の 総 面
積 は 全 体 の 55.6%で あ り , そ の 多 く は 利 用 さ れ て お ら ず , さ ら に ふ 化 場 近 辺 で は
自 然 産 卵 魚 の 密 度 が 極 め て 高 い こ と ( 産 卵 適 地 面 積 1 m2 あ た り 0.86~1.33 尾 )
が明らかとなった。今後の自然産卵魚による資源の育成には,産卵可能域でこれ
らの問題の解決が必要であると考えられる。
4.3.2
発眼卵の生残率と湧水の選択状況
既 存 の 報 告 で は , 自 然 産 卵 魚 の 発 眼 卵 の 生 残 率 は 90%を 超 え て い る ( 例 え
ば , 佐 野 1 9 5 5 , 佐 野 ・ 長 沢 1 9 5 8 )。 一 方 , 本 研 究 結 果 で 得 ら れ た 発 眼 卵 の 生 残
率 は 平 均 4 4 . 4 % ~ 5 1 . 9 % と 低 か っ た ( 表 4 - 2 )。 特 に 流 路 長 1 0 0 m 当 た り の 産 卵 個
体 の 年 累 計 数 が 1000 個 体 以 上 確 認 さ れ た 元 崎 無 異 川 と シ ュ ラ 川 の ふ 化 場 近 辺 に
お け る 発 眼 卵 の 生 残 率 の 2 か 年 の 平 均 値 は , そ れ ぞ れ 15.9% , 30.8% と 低 い 値
を 示 し た ( 図 4 - 5 )。
砂 泥 ( 直 径 < 2 mm) の 含 有 率 が 高 ま る と 産 室 内 部 の 水 の 透 過 が 阻 害 さ れ 溶 存
酸素量の低下により,サケ属魚類の産卵床内の生残率が低下することが知られて
い る ( K o s k i 1 9 7 5 )。 し か し , 本 研 究 で は , 各 河 川 に お い て 産 室 上 の 2 m m 以 下
の 砂 泥 含 有 率 と 発 眼 卵 の 生 残 率 と の 間 に 明 瞭 な 関 係 は み ら れ な か っ た ( 図 47 )。 ま た , 2 年 間 の 発 眼 卵 の 生 残 率 に 大 き な 年 差 が 確 認 さ れ な い 調 査 定 点 が 多 か
っ た ( 図 4 - 5 )。 産 卵 親 魚 の 密 度 が 高 い 場 合 , 掘 り 返 し や ( H a y e s 1 9 8 7 ; R o b e r t s
a n d W h i t e 1 9 9 2 ), 通 水 性 や 溶 存 酸 素 量 が 十 分 で な い 不 適 な 環 境 に お け る 産 卵 個
体も多くなる。これらの要因が発眼卵の生残率が低下させた可能性も考えられる
が,本研究では要因を特定することができなかった。また,本研究で得られた結
果 は , 両 年 と も に 主 に 12 月 上 旬 か ら 中 旬 に 産 卵 が 確 認 さ れ た 後 期 群 の 産 卵 床 で
あ っ た 。 卜 部 (2013)に よ る と , 白 老 町 の ウ ヨ ロ 川 で は 前 期 群 と 後 期 群 で は , 産
卵 床 内 の 水 温 が 異 な り , 前 期 群 は 冬 季 に 水 温 が 0℃ 近 く ま で 低 下 す る の に 対 し ,
後 期 群 は 最 低 で も 4℃ 程 度 に ま で し か 下 が ら な い 。 つ ま り 後 期 群 は 水 温 が 高 い と
ころに産卵場所を選択することにより,産卵時期の遅れを取り戻していると推測
し て い る 。 本 研 究 の 発 眼 卵 の 生 残 率 調 査 に お い て は , 11 月 中 旬 以 降 に 産 卵 し た
78
と考えられる産卵床で調査を行った。その中で,薫別川乳薫橋とシュラ川昭和橋
では河川水と産室内の水温差から,湧水がある場所において産卵を行っているこ
とが確認されたが,それ以外の河川では河川水温と同様か,もしくは低い値を示
し た ( 図 4 - 6 )。 し た が っ て , 薫 別 川 と シ ュ ラ 川 以 外 の 河 川 で 産 卵 を 行 う 後 期 群
の シ ロ ザ ケ は , 前 期 群 の シ ロ ザ ケ と 同 じ く , 冬 期 間 に 水 温 が 0℃ 近 く ま で 低 下 す
る河川水が湧出している場所,もしくは,産室内の水の動きが停滞している場所
を も 産 卵 場 所 と し て 利 用 と し て い る 可 能 性 も あ り ( 表 4 - 2 , 図 4 - 6 ), そ の こ と
も発眼卵の生残率が低い要因であると考えられる。
これまで,ふ化場魚由来の子は生活史初期の段階でその生残率が低いとの報告
も あ る (Fleming et al. 2000)。 北 米 の 春 遡 上 の マ ス ノ ス ケ で ふ 化 場 魚 ( 1 世 代 )
と野生魚では,抱卵数や産卵場所での寿命,産卵行動などには差異が見られない
が , 野 生 魚 の 雌 か ら 生 ま れ た 卵 が 稚 魚 に な る 確 率 は ふ 化 場 の そ れ よ り 6%ほ ど 高
く,その要因は産卵場所の選択,卵の埋め戻しの効率などわずかな差異が原因と
考 え ら れ て い る ( S c h r o d e r e t a l . 2 0 1 0 )。 し た が っ て , ふ 化 場 近 辺 に お い て 発 眼
卵の生残率の低い要因として,産卵したシロザケの分布密度が高いことに加え,
産卵親魚の多くがふ化場魚由来であったことも考えられる。
4.3.3
各河川における野生魚由来の自然産卵魚
本研究の結果において,標津川および元崎無異川では,ふ化場近辺で産卵個体
の密度が高いことが確認されたが,伊茶仁川,薫別川および忠類川における産卵
個体は比較的分散している傾向が見られた。
伊 茶 仁 川 に お け る 捕 獲 事 業 は , 例 年 11 月 下 旬 に 終 了 し て い る が , 1 2 月 中 旬 に
おいても自然産卵魚が確認されており,その産卵場所はふ化場より上流域でも確
認された。薫別川の産卵床内の水温は河川水温よりも高いため,シロザケは地下
水 由 来 の 湧 水 の 場 所 に 産 卵 し て お り , さ ら に , こ の 場 所 は ふ 化 場 か ら 700 m ほ
ど上流に位置していた。また,忠類川の産卵個体は,上流域において 9 月のみ
産 卵 が 確 認 さ れ , 10 月 以 降 は ふ 化 場 近 辺 に や や 集 中 す る も の の , 下 流 域 の 比 較
的広い範囲分布していた。したがって,これらの河川では,野生魚由来の親魚が
存在する可能性もあるため,今後,耳石標識放流などにより野生魚であるかの確
認をする必要があると考えられる。
79
4.3.4
野生魚による再生産
宮 腰 ら ( 2 0 11 ) は , 北 海 道 全 域 の 流 路 延 長 8 k m 以 上 の 2 3 8 河 川 を 対 象 と し て シ ロ
ザ ケ の 遡 上 と 自 然 産 卵 魚 の 有 無 を 調 査 し た 。 そ の 結 果 , 85の 非 放 流 河 川 に お い
て も シ ロ ザ ケ が 産 卵 を し て お り , 放 流 河 川 を 合 わ せ る と 206河 川 に お い て シ ロ ザ
ケの遡上が確認され,さらに沿岸漁業が始まる前の時期に多くのシロザケが遡上
している河川の存在も明らかとなった。したがって,沿岸漁業による漁獲圧が高
いことが,野生資源を保全する上での重要な課題であると考えられている
( M i y a k o s h i e t a l . 2 0 1 3 )。
根 室 海 区 に お け る シ ロ ザ ケ の 河 川 遡 上 率 {( 河 川 捕 獲 数 / 来 遊 数 ) × 1 0 0 } は ,
1999年 に 増 殖 河 川 の 河 口 域 の 規 制 が 緩 和 さ れ , 定 置 網 の 位 置 が 河 口 域 近 く へ 移
動 し て 以 降 , 減 少 し て お り , 2004年 か ら 2013年 ま で の 過 去 10年 で 2.7%と 全 道 で
最 低 で あ り ( 図 4 - 9 ), 河 川 回 帰 率 {( 河 川 捕 獲 尾 数 / 3 年 前 の 放 流 数 ) × 1 0 0 }
の 過 去 10年 の 平 均 も 0.16%( 図 4-10) と 他 海 区 よ り 低 い 。 そ の た め , 根 室 管 内
の多くの河川で採卵親魚が不足しており,河川間での移植が実施されている(平
成 2 0 - 2 5 年 度 根 室 管 内 さ け ・ ま す 増 殖 事 業 協 会 事 業 報 告 書 )。
さ ら に 根 室 地 域 に お け る 河 川 回 帰 率 は , 河 川 に よ り 大 き く 差 が あ り ( 図 411 ), 河 川 に お け る 捕 獲 尾 数 は , 2 0 0 4 ~ 2 0 1 3 年 平 均 値 で , 標 津 川 が 1 5 3 , 5 0 0 尾 で
河 川 捕 獲 計 画 数 ( 1 0 0 , 0 0 0 尾 ) を 上 回 っ て お り , 伊 茶 仁 川 ( 捕 獲 計 画 数 11 , 0 0 0
尾 ) が 8,267尾 , 薫 別 川 ( 同 13,500尾 ) が 7,543尾 で あ り , 計 画 数 を 上 回 っ た の
は 両 河 川 と も 2年 に 過 ぎ な か っ た 。 そ の た め , 標 津 町 内 の 標 津 川 以 外 の 河 川 で
は,親魚に余剰のある標津川由来の稚魚を移植し放流している状況にあり,さら
に,標津川由来の稚魚は隣町である羅臼町内の河川でも放流されている。
2009~ 2013年 の 根 室 地 域 に お け る シ ロ ザ ケ の 増 殖 事 業 で は , 雌 親 魚 1尾 あ た り
2,063粒 を 採 卵 し , そ の う ち 1,660尾 の 稚 魚 を 放 流 し , そ の 稚 魚 が 約 100尾 の 親 魚
と な っ て 回 帰 す る と 試 算 さ れ て い る ( 平 成 20-25年 度 根 室 管 内 さ け ・ ま す 増 殖
事 業 協 会 事 業 報 告 書 )。 こ の こ と は , 河 川 遡 上 率 か ら 1 0 0 尾 中 9 7 尾 は 沿 岸 で 漁 獲
さ れ , 3 尾 が 河 川 へ 遡 上 し 捕 獲 さ れ た 計 算 と な る ( 図 4 - 9 )。 野 生 魚 に よ る 再 生
産 を 考 え た 場 合 , 雄 1尾 と 雌 1尾 か ら 生 ま れ た 子 供 の 内 , 2尾 ( 雄 1尾 , 雌 1尾 ) 以
上が河川に回帰し,産卵しなければならない。現状における根室海区の河川回帰
率 ( 0.16%) か ら 2尾 の 親 魚 の 回 帰 を 逆 算 す る と 雌 1尾 か ら 生 産 さ れ る 稚 魚 が
80
1,250尾 必 要 に な る 。 前 述 の と お り , 同 海 区 の 人 工 ふ 化 放 流 に 使 用 さ れ る シ ロ ザ
ケ の 雌 1尾 あ た り 採 卵 数 は 2,063粒 で あ り , 本 研 究 結 果 か ら , 根 室 地 域 各 河 川 の
発 眼 卵 の 平 均 生 残 率 が 50%程 度 で あ る こ と か ら , こ の 時 点 で 生 残 数 は 約 1,000粒
となり,仔魚期と降海までの減耗を考慮に入れなくても,野生魚による再生産に
よって個体群を維持することはできない。
そのため,根室地域では河川回帰率が低いことにより,河川ごとの再生産が出
来ない状況にあり,さらに親魚を捕獲している河川において,ウライの上流へ親
魚が遡上するのは,ほぼ増水時のみに限られている。したがって,当地域におけ
る増殖親魚を確保するうえでも,野生魚による再生産を確立する上でも何らかの
形で現状の沿岸漁獲圧を軽減すること,さらには,自然再生産計画を立て,必要
に応じた親魚をウライの上流へ再放流することが重要である。
また,野生魚による再生産を確立する上で,ふ化場近辺において自然産卵魚が
集中し,さらに発眼卵の生残率が低い問題を解消する必要であるが,これら原因
は自然産卵魚の多くがふ化場由来である可能性がある。そのため,産卵する親魚
の遡上数を増やした上で,利用されていない産卵適地において,野生魚による再
生産を確立させることにより,これらの問題はある程度解決される可能性があ
る。
81
第 5 章
総合考察
以下 の総合考 察では ,第 4 章ま での結果 をもとに 根室地域 にお いて 産卵する シ
ロ ザ ケ の 現 状 と 評 価 を 行 い ,当 地 域 に お い て 野 生 魚 に よ る 自 然 再 生 産 を 向 上 さ せ ,
人工ふ化放流事業と共存させる資源保全と持続的利用について提言を行う。
5-1.
根室地域において産卵するシロザケの現状と問題点
本 研 究 か ら ,交 雑 個 体「 サ ケ マ ス 」の 出 現 を D N A 分 析 に よ っ て 確 認 で き た が ,
その出現要因については,明らかとならなかった。シロザケの産卵には,湧水や
河 川 水 が 河 床 か ら 湧 出 し て い る よ う な 河 床 が 必 要 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。ま た ,
現状において,産卵適地の多くが利用されていないことも明らかとなったため,
自然再生産状況,産卵環境の変化および人工ふ化放流事業の人為的要因などの経
年変化など,当地域における継続的な調査が必要である。
現状のシロザケの漁業資源を維持する上で,将来にわたっても人工ふ化放流事
業 は 北 海 道 に お け る 主 要 な 増 殖 手 段 で あ る ( 宮 腰 2 0 1 4 )。
帰 山 (1996)は , 日 本 産 シ ロ ザ ケ に つ い て は , 今 後 , 地 域 個 体 群 の 固 有 性 と 多 様
性を高め,数少ない野生個体群を維持増大していく必要があり,そのためには,
次の目的別に生産河川を四つに区分して管理していくことが重要であると述べて
いる。
野生資源:原種として,野生種として産卵により維持される個体群
遺伝資源:地域個体群の遺伝的特性をふ化放流により維持される個体群
漁業資源:漁獲を目的としたふ化放流により維持される個体群
多目的資源:環境・情操教育,知的観光,釣りなど多目的利用のための
個体群
ま た , 帰 山 (1996)は , 基 本 的 に こ れ ら 目 的 別 資 源 は 河 川 毎 に 区 分 さ れ る べ き と
し,目的別資源を維持するためには各河川において十分な遡上親魚を確保する必
要がある,としている。
第 4 章で示したように,根室海区では,他海区と比べシロザケの沿岸におけ
る 漁 獲 率 の 推 定 値 97% と 非 常 に 高 い こ と に よ り , 河 川 遡 上 数 が 少 な く , 人 工 ふ
化放流事業のための親魚確保に課題が残されている。したがって,現状の人工ふ
82
化放流事業を維持する上でも,野生魚による自然再生産を図る上でも,現状の沿
岸漁獲圧を何らかの形で緩和し,河川への遡上数を増加させ,さらに,必要に応
じた親魚をウライの上流へ再放流する方策を講じなければならない。そのために
は,河川の近辺にある定置網の位置の変更や,遡上数を確保するための漁獲量制
限などが考えられる。しかし,北海道もしくは海区全体でその方策を実行するに
あたり,各漁業協同組合および地元漁業者の合意形成が欠かせない。
本研究結果により,当地域においては,自然産卵魚による産卵密度に著しい偏
りが見られ,ふ化場周辺に集中していることから,自然産卵魚はふ化場魚が多い
と考えられた。各水系のシロザケ集団における遺伝的特性を維持することは重要
であるが,人工ふ化放流事業が行われている河川において卵の移植が盛んに行わ
れていたことから,各河川固有の遺伝子は攪乱を受けている可能性がある
( Yo k o t a n i e t a l . 2 0 0 9 ; 永 井 ら 2 0 1 2 )。 そ の た め , 各 河 川 固 有 の 遺 伝 子 を 受 け 継
いでいるシロザケは,発眼卵移植の対象外であって,ふ化放流に利用されていな
い 1 2 月 以 降 に 産 卵 し て い る 野 生 魚 で あ る と 考 え ら れ て い る ( 帰 山 2 0 1 3 )。 標 津
地 域 各 河 川 に お い て も ,ふ 化 放 流 事 業 が 120 年 以 上 に わ た り 続 け ら れ ,標 津 地 域
各 河 川 の シ ロ ザ ケ は ,千 歳 川 な ど の 系 統 も 移 植 さ れ て き た( 平 成 3 - 5 年 度 北 海 道
さ け ・ ま す ふ 化 場 事 業 成 績 書 )。ま た ,現 在 に お い て も 各 河 川 の 遡 上 親 魚 が 不 足 し
ていることから,近隣の他水系の親魚由来の稚魚の放流が行われている。そのた
め,根室地域においても,その川由来の遺伝的特性を持つ可能性があるのは,放
流 事 業 が 行 わ れ て い な い 12 月 以 降 に 遡 上 す る 系 統 で あ る と 考 え ら れ る 。
本研究結果から標津川の場合,増水時にウライ上流部へ遡上したシロザケは,
ふ 化 場 の あ る シ ュ ラ 川 に 遡 上 が 集 中 し ,さ ら に ふ 化 場 か ら 5 0 0 m 以 内 の 区 間 で 確
認 さ れ た 産 卵 個 体 は 全 体 の 99.2% を 占 め ,そ の 産 卵 密 度 は 非 常 に 高 か っ た 。そ の
一 方 ,ふ 化 場 が 無 い 各 支 流 に お い て は ,産 卵 に は 支 障 が な い も の の 判 断 さ れ た が ,
ほとんど遡上が確認されず,中には全く確認されない支流も見られた。標津川水
系において,自然産卵魚を増やすために,ふ化場近辺に集中している親魚を同じ
水系内の産卵が確認されていない支流へ移植放流することが考えられる。しかし
ながら,自然産卵魚を増やすにあたり,このように短期的な人為的な移植を行う
か , 長 期 的 に 自 然 状 況 に 任 せ る か は 議 論 の 余 地 が あ る 。 有 賀 ら (2014)に よ る と ,
シ ロ ザ ケ の 遡 上 が 途 絶 え た 豊 平 川 に お い て ,千 歳 川 由 来 の 稚 魚 が 放 流 さ れ て 以 降 ,
83
野生魚による再生産が続いたことによって,野生魚と放流魚の間で成熟年齢や繁
殖の 時期の違 いがみら れるよう になって おり,これは約 7 世 代で生 じた豊平 川 の
環境へ適応だと考えている。そのため,各支流において本来より生息していた個
体,さらには,現状のそれぞれの水系に遡上する個体をベースとすべきではある
が,長期間にわたり野生魚の再生産の維持を図ることにより,それぞれの河川の
特性に合った「野生魚集団」を創出できる可能性がある。
5-2.
産卵時期による野生魚の資源管理
本研究結果により,標津川水系のふ化場があるシュラ川において,9 月の産卵
個 体 確 認 数 は 16 尾 ( 全 期 間 確 認 数 の 0.46% ) と 著 し く 少 な か っ た が , こ れ は ,
シュラ川のふ化場において前期群を放流していないことが原因であると考えられ
た。シロザケは,親子の産卵時期がほぼ一致することが知られているため(例え
ば , 高 橋 2 0 1 3 ), 人 工 ふ 化 放 流 事 業 が 行 わ れ て い る 河 川 に お い て も , ふ 化 場 魚 と
野生魚の産卵時期を区別することによって遺伝資源と漁業資源の併用,さらには
野生魚の保全と人工ふ化放流事業との共存がある程度可能であると考えられる。
北 海 道 に 回 帰 す る シ ロ ザ ケ の 場 合 ,9 月 上 旬 か ら 1 0 月 上 旬 に か け て 沿 岸 で 漁 獲
さ れ る 前 期 群 は ,流 路 延 長 が 長 く 産 卵 場 が 上 流 域 に あ る 河 川( 小 林 1 9 8 5 )に ,1 0
月下旬以降に漁獲される後期群は,中~下流域に産卵場がある中小河川に回帰す
る 傾 向 が あ る ( 小 林 1 9 7 8 )。 し た が っ て , 当 地 域 に お い て も , 標 津 川 の よ う に 流
路 延 長 が 長 く ,さ ら に 忠 類 川 の よ う な 産 卵 場 所 が 上 流 域 に 多 く み ら れ る 河 川 で は ,
上流で産卵する前期群を活用すべきであろう。
現 状 に お い て , 根 室 海 区 の シ ロ ザ ケ 漁 の 期 間 は 9 月 1 日 ~ 11 月 3 0 日 で あ る
が , 2004~ 2013 年 ま で の 標 津 町 内 の 9 月 1~ 5 日 間 の シ ロ ザ ケ の 水 揚 金 額 は
5 4 , 6 6 1 千 円 ( 年 間 水 揚 金 額 の 1 . 8 % ) で あ り , 11 月 11 日 以 降 の 水 揚 金 額 は
4 6 , 6 7 3 千 円 ( 年 間 水 揚 金 額 の 1 . 5 % ) に 過 ぎ な い ( 表 5 - 1 )。 し た が っ て , 漁 業
者の負担を少ない実現可能な方策として,これらの時期に陸側の落とし網(金庫
網)を撤去するなどの自主的漁業規制により河川遡上数を増加させることが考え
られる。特に後期群については,採卵計画数が早期に達した場合などに,すべて
の シ ロ ザ ケ を 自 然 遡 上 さ せ る こ と も 可 能 で あ る と 考 え ら れ る 。 高 橋 ( 2013) に
よ る と , 11 月 下 旬 に 採 卵 し た 親 魚 の 子 の 回 帰 時 期 ( 河 川 捕 獲 時 期 ) は 11 月 中 旬
84
が ピ ー ク で あ る も の の 9 月 下 旬 か ら 12 月 上 旬 ま で の 広 範 囲 の 期 間 に わ た っ て い
ると報告している。したがって,その川由来の遺伝的特性を持つ可能性が高く
11 月 下 旬 以 降 に 産 卵 す る 野 生 魚 の 増 加 は , 河 川 ご と の 野 生 魚 集 団 を 維 持 す る だ
けでなく,漁業資源の増加につながる可能性もある。
5-3.
地域主体の資源管理の策定
現在,シロザケの増殖事業は道総研さけます・内水面水産試験場が総括管理を
行 っ て い る も の の ,野 生 魚 の 管 理 体 制 は 確 立 さ れ て い な い 。序 章 で 述 べ た と お り ,
野生魚を増やすためには,それぞれの地域,河川に即したきめ細やかな管理体制
づくりが必要不可欠であるが,このような問題点を解決し,管理体制を確立する
に あ た り ,「 里 海 」 づ く り の 手 法 ( 柳 1 9 9 8 ) を 導 入 す る こ と が 有 効 で あ る と 考 え
ら れ る 。里 海 づ く り に お い て は ,沿 岸 域 の 住 民 だ け で な く ,流 域 の 都 市 や 農 村 の
住民等の幅広い参画・協働によるボトムアップ型の取組が重要であるとされてい
る ( 西 田 2 0 1 4 )。
現在,北海道の各地域でシロザケの野生魚の復元へのボトムアップ型の取り組
み が 行 わ れ て い る 。 札 幌 市 内 を 流 れ る 豊 平 川 で は ,「 カ ン バ ッ ク ・ サ ー モ ン 運 動 」
に よ り シ ロ ザ ケ が 回 帰 す る よ う に な り ( 例 え ば , 岡 本 2 0 0 0 ), 北 見 地 区 で は , 北
見 管 内 さ け・ま す 増 殖 事 業 協 会 が 野 生 サ ケ の 調 査 事 業 を 行 っ て い る( 石 井 2 0 1 3 )。
また,石狩川上流域では,独立行政法人水産総合研究センターによる大規模な稚
魚 放 流 が 行 わ れ て お り ( 鈴 木 2 0 1 0 ), 放 流 し た 河 川 で は そ の 回 帰 が 確 認 さ れ て い
る ( 有 賀 ら 2 0 1 2 )。 本 研 究 の 調 査 地 で あ る 根 室 地 域 の 標 津 町 で は 自 然 再 生 産 に よ
る漁業資源づくりを目的として,標津漁業協同組合,標津さけ定置漁業部会,標
津町,根室管内さけ・ます増殖事業協会によって「標津町サケマス自然産卵調査
協 議 会 」が 発 足 し て い る 。地 域 主 体 の 方 策 を 実 行 す る た め に は ,
「標津町サケマス
自然産卵調査協議会」のような地域に根ざした活動も有効であると考えられる。
実 際 ,本 協 議 会 の 設 立 に あ た り ,野 生 魚 に よ る 再 生 産 を「 コ ス ト の 低 い 増 殖 事 業 」
( 森 田 ら 2013a)と 位 置 づ け ,漁 業 資 源 と 捉 え た こ と に よ り ,関 係 機 関 の 合 意 形
成 が 得 ら れ た 。さ ら に ,標 津 町 で は ,サ ケ の 水 族 館 で あ る「 標 津 サ ー モ ン 科 学 館 」
を設立し,たとえば,忠類川における産卵行動観察会など,サケに関わる様々な
教育活動を実践している。また日本で初めて河川におけるサーモンフィッシング
85
を 可 能 と し た 「 忠 類 川 サ ケ ・ マ ス 有 効 利 用 調 査 」 な ど , 帰 山 (1996)の い う 「 多 目
的資源」の活用を独自に行っている。このように当地域においてはシロザケを単
なる漁業資源という観点だけではなく,多目的資源の認識も他地域と比べ理解が
深いものと考えられる。
また,地域主体の管理体制による利点の一つに,シロザケが産卵する河川の管
理体制が挙げられる。河川法の適用される河川は,国が管理する一級河川,都道
府県が管理する二級河川に区分され,これら以外の河川は,市町村が管理する河
川法の規定が準用される準用河川と,河川法が適用されない普通河川に区分され
る。なお,普通河川は河川法の適用・準用を受けないが市町村が必要と考えた
時,条例などで河川範囲を独自に指定し管理している。本研究で調査を実施した
河川の中では,忠類川,標津川およびその支流であるウラップ川は二級河川であ
るが,その他の河川は普通河川に区分されている。したがって,準用河川および
普通河川に人工工作物などシロザケの遡上を妨げる障害物が存在した場合,その
河川がある市町村の裁量で改修が可能となる。加えて,本研究により確認された
産卵個体が集中している場所では,北米で行われているような自然石を河川に投
入 し て 産 卵 場 所 を 人 工 的 に 造 成 す る こ と も ( 例 え ば , House and Boehne 1985;
K l a s s e n a n d N o r t h c o t e 1 9 8 8 ), そ の 河 川 が あ る 市 町 村 の 裁 量 で 可 能 と な る 。
標津町サケマス自然産卵調査協議会は,その活動の一環の中で地元漁業者が現
地調査へ積極的に参加している。これにより,自然再生産による漁業資源の育成
ばかりでなく,野生魚による遺伝子保全や河川環境への理解も深まっている。実
際,標津川支流シュラ川のふ化場上流近辺の産卵個体密度が高いことを,調査の
参加者である漁業者関係者が問題視したことにより,遡上の障害となっていたふ
化 場 上 流 に あ る 落 差 工 に ス リ ッ ト を 開 け る 工 事 を 標 津 町 の 予 算 で 2014 年 に 行 っ
た。その結果,落差工の上流部でもシロザケの自然産卵魚が確認されている。さ
らに,標津川では,これまで売却されていた余剰親魚をウライの上流部へ放流し
て 追 跡 調 査 を 行 っ て い る ( 平 成 26 年 度 標 津 町 サ ケ マ ス 自 然 産 卵 調 査 協 議 会 役 員
会 報 告 資 料 )。
以上のことから,根室地域の河川におけるシロザケの野生魚を増加させるため
には,地域主体の資源管理方針の策定も有効な手段の一つであると考えられる。
シロザケの野生魚による再生産を,漁業資源さらには多目的資源として捉えるこ
86
とにより,単にシロザケの野生資源,遺伝資源の復活ばかりでなく,現状の河川
生態系における諸問題を地域単位で解決する原動力となる可能性がある。しかし
ながら,これら政策の実行に当たり,公的資金の投入を伴うことから,その効果
を的確に予測することが不可欠である。さらに,実行された政策についてはその
評価と説明責任があるため,高度な専門的知識が必要となるが,地域単位でその
効果を予測し,評価を行うことは困難である。さらに地域単位での漁業関係者の
みの取り組みは,生態系全体への配慮よりもシロザケの漁業資源の造成に偏る可
能性もある。したがって,これらの問題を解決するため,第三者による外部専門
家組織の立ち上げ,大局的な視点から現状の評価および将来行う方策について客
観的な評価を得る必要があると考えられる。
87
表 5-1. 標津町内におけるサケ定置網によるシロザケの水揚金額.
年
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
平均
標津町水揚
金額(千円)
2,940,715
3,958,646
3,798,016
4,383,361
2,830,084
2,280,612
2,292,345
2,382,817
3,421,362
2,906,842
3,119,480
9月1~5日
金額(千円)
%
71,891
2.44
62,083
1.57
77,713
2.05
84,825
1.94
43,574
1.54
50,937
2.23
16,384
0.71
41,059
1.72
36,940
1.08
61,208
2.11
54,661
1.75
尾数
95,192
61,678
64,240
76,207
36,083
40,482
11,773
21,905
33,888
40,805
48,225
金額(千円)
17,264
24,039
43,541
35,447
101,612
15,217
11,177
32,174
19,421
13,292
31,318
88
11月11~15日
%
0.59
0.61
1.15
0.81
3.59
0.67
0.49
1.35
0.57
0.46
1.00
尾数
38,732
37,703
55,284
41,011
79,483
15,961
11,555
27,759
18,997
13,321
33,981
11月16~30日
金額(千円)
%
尾数
14,357
0.49
42,729
18,458
0.47
34,437
16,655
0.44
24,076
22,644
0.52
28,318
36,983
1.31
33,987
7,824
0.34
9,654
8,201
0.36
9,768
15,435
0.65
13,996
8,046
0.24
7,923
5205
0.18
5,850
15,381
0.49
21,074
摘
要
1. 根 室 海 峡 周 辺 の 沿 岸 域 と 河 川 で は ,シ ロ ザ ケ と カ ラ フ ト マ ス の 中 間 的 な 外
部 形 態 を 有 す る 「 サ ケ マ ス 」 と 呼 ば れ る 個 体 が 採 集 さ れ る 。 そ こ で , DNA
分 析 に よ り 「 サ ケ マ ス 」 が 交 雑 個 体 で あ る か を 検 討 し た 。 両 種 の mtDNA
と 核 DNA の 塩 基 配 列 か ら 特 定 種 の 増 幅 産 物 が 得 ら れ る よ う に プ ラ イ マ ー
を 設 計 し , 種 特 異 PCR 分 析 に よ り 親 種 を 特 定 し た 。 DNA 分 析 の 結 果 , 漁
業 関 係 者 が 「 サ ケ マ ス 」 と 判 定 し た 11 個 体 中 , 6 個 体 が 交 雑 個 体 で あ り ,
5 個体はシロザケと判定された。交雑個体の複数の外部形態は両種の混合
型を示した。
2. 交 雑 個 体 が 出 現 し 回 帰 し た 個 体 が 確 認 さ れ た 背 景 に は ,知 床 半 島 地 域 に お
け る 人 工 ふ 化 放 流 事 業 お よ び ダ ム な ど の 人 為 的 な 要 素 に よ り ,両 種 の 産 卵
親 魚 が 局 所 的 に 集 中 し て い る 可 能 性 も 考 え ら れ た 。回 帰 し た 交 雑 個 体 が シ
ロ ザ ケ お よ び カ ラ フ ト マ ス と 戻 し 交 配 す る 可 能 性 も あ る 。し た が っ て ,交
雑 個 体「 サ ケ マ ス 」は シ ロ ザ ケ 遺 伝 子 の 集 団 構 造 を 脅 か す 可 能 性 も あ る こ
と か ら ,戻 し 交 配 で あ っ て も 検 出 可 能 な 手 法 を 確 立 し ,さ ら に 自 然 河 川 に
おける継続的なモニタリングの必要性がある。
3. 野 外 で は 得 ら れ な い 詳 細 な 産 卵 行 動 を 観 察 す る こ と を 目 的 と し て ,標 津 町
の標津サーモン科学館の実験水槽にシロサケの産卵河川の環境を再現さ
せ,その産卵行動,産卵回数と各産卵時の放卵数の関係を精査した。その
結 果 ,各 個 体 の 産 卵 回 数 は 3~5 回 で あ り ,1 回 目 の 産 卵 で は 孕 卵 数 の 36%
を 放 卵 し , 4 回 目 以 降 は 放 卵 数 が 10%と 大 き く 減 少 し た 。 そ の た め , 自 然
河 川 に お け る 発 眼 率 ,浮 上 率 な ど の 調 査 を 行 う 際 は ,で き る 限 り 放 卵 数 の
多 い 1 ~ 3 回 目 の 産 室 の デ ー タ の 適 用 が 重 要 で あ る 。さ ら に ,ま た ,1 回 目
の産室の卵数と孕卵数には強い相関があったため,1 回目の産室の卵数を
正確に計測できれば,その個体の孕卵数を推計できると判断された。
89
4. 実 験 水 槽 に お い て ,河 床 か ら 湧 出 す る 水 が シ ロ ザ ケ の 産 卵 場 所 選 択 に 及 ぼ
す 影 響 を 調 べ る た め ,河 川 水 と 温 度 差 が あ る 地 下 水 を 湧 出 し た 湧 水 区 ,水
槽 内 の 水 を 湧 出 し た 河 川 水 区 ,お よ び 湧 出 水 の な い 無 湧 出 水 区 の 3 条 件 下
で,正確な産卵場所を記録した。その結果,シロザケは湧水区と河川区に
お い て も ,河 床 か ら 水 が 湧 出 し て い る 地 点 を 正 確 に 判 別 し て ,産 卵 場 所 と
して選択していることが確認できた。
5. 実 験 水 槽 に お い て , 水 槽 投 入 か ら 初 回 の 産 卵 ま で の 時 間 を 湧 水 区 , 河 川 区
お よ び 無 湧 出 水 区 の 3 条 件 下 で 計 測 し た 。そ の 結 果 ,産 卵 ま で 要 し た 時 間
は 湧 水 区 と 河 川 区 の 間 に は 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た も の の ,河 床 か ら 湧
出 水 が 無 い 場 合 ,産 卵 床 選 択 か ら 産 卵 に 至 る ま で の 時 間 は ,1 , 2 7 0 ± 5 7 1 分
で あ り , 湧 出 水 が あ る 湧 水 区 ( 615±383 分 ) や 河 川 水 区 ( 736±517 分 )
に比べ,2 倍ほど長かった。そのため,標津川における後期群のシロザケ
は産卵場所として河床から河川水および地下水由来の湧水が湧出する場
所も選択することが確認された。
6. 根 室 地 域 の シ ロ ザ ケ の 産 卵 状 況 を 明 ら か に す る た め , 5 水 系 に 28 定 点 を
設け,その生体,死骸および産卵床の数を記録した。5 つの水系における
シ ロ ザ ケ の 産 卵 個 体 の 90%以 上 は , ふ 化 場 か ら 0.5 km 以 内 の 河 床 域 に 集
中 し て お り , 忠 類 川 で は ふ 化 場 か ら 4 km 離 れ た 場 所 に も 全 産 卵 個 体 の
4.2%が 見 ら れ た が , そ れ 以 外 は , ほ と ん ど 確 認 さ れ な か っ た 。
7. 根 室 地 域 の 各 河 川 に お け る 産 卵 床 内 の 生 残 率 を 推 定 す る た め , 発 眼 卵 の
掘り起し調査を行った。第 3 章の結果をもとに産卵床内の発眼卵の生残
率の推定は,各産卵床の 1 回目もしくは 2 回目の産室と推察される直上
部を付けたマークし,発眼時期に掘り起し調査を行った。各河川より採
集 し た 発 眼 卵 の 生 残 率 は , 2012 年 ( 44.9±43.8%, n=8 河 川 ) お よ び
90
2013 年 ( 48.3±37.7%, n=5 河 川 ) と も に 半 分 程 度 で あ り , 北 海 道 内 に お
け る 既 報 の 結 果 ( 92~ 98%) よ り も 低 か っ た 。 そ の 要 因 と し て , 産 卵 し
た産卵親魚の密度が高いことに加え産卵親魚の多くがふ化場魚由来であ
る可能性が示唆された。
8. 根 室 地 域 各 河 川 に 自 然 再 生 産 に よ る 資 源 造 成 の 可 能 性 を 探 る た め , 産 卵
可能面積の推定を行った。根室地域 5 水系 8 河川のシロザケ産卵適地面
積 は , 約 160,000 m2 と 推 定 さ れ た 。 た だ し , こ れ ら の 産 卵 適 地 の 中 で
100 m2 あ た り の 産 卵 床 数 が 1 個 以 下 の 総 面 積 は 全 体 の 55.6%で あ り , そ
の多くは利用されていなかった。この要因として,人工ふ化放流事業に
よる河川での親魚捕獲と沿岸での漁獲圧が高いため,野生魚の再生産が
少ない状況にあると推定された。野生魚の再生産を確保するためには,
河川遡上数を増加させるとともに,ふ化場近辺で高い密度で産卵する個
体を分散させる方策が必要であると考えられた。
9. 根 室 海 区 は 他 海 区 と 比 べ シ ロ ザ ケ の 沿 岸 に お け る 漁 獲 率 の 推 定 値 は 97%
と非常に高く,放流事業においても使用する親魚数に余裕がない状況で
ある。そのため,野生魚による再生産を図るためばかりでなく,ふ化場
魚の人工ふ化放流事業における親魚確保のためにも,現状の沿岸漁獲圧
を何らかの形で緩和する方策が必要であると考えられた。さらに親魚を
捕獲している河川でウライの上流へ親魚が溯上するのは,ほぼ増水時の
みに限られているため,自然再生産計画を立て,必要に応じた親魚をウ
ライの上流へ再放流することが重要である。
10.
各水系のシロザケ集団における遺伝的特性を維持することは極めて重
要 で あ る が ,根 室 地 域 各 河 川 の シ ロ ザ ケ は ,千 歳 川 な ど の 系 統 も 移 植 さ れ
ており,さらに,現在においても,根室 地域の多くの河川で採卵親魚が不
足 し て い る こ と か ら ,河 川 間 で の 移 植 が 行 わ れ て い る た め ,定 置 漁 業 お よ
91
び 放 流 事 業 が 終 了 す る 12 月 以 降 に 産 卵 す る 後 期 群 を 除 い て 河 川 ご と の 遺
伝的特性が失われている可能性が示唆された。
11.
各 河 川 由 来 の 野 生 魚 も し く は ,現 状 の 各 河 川 の 遡 上 個 体 を ベ ー ス に し て ,
長 期 間 に わ た り 野 生 魚 の 再 生 産 の 維 持 を 図 る こ と に よ り ,そ れ ぞ れ の 河 川
の 特 性 に 合 っ た 野 生 魚 集 団 を 創 出 す べ き で あ る 。11 月 下 旬 に 採 卵 し た 親 魚
の 子 の 回 帰 時 期 ( 河 川 捕 獲 時 期 ) は 9 月 下 旬 か ら 12 月 上 旬 ま で の 広 範 囲
の 期 間 に わ た っ て い る た め , そ の 川 由 来 の 野 生 魚 の 可 能 性 が 高 い 11 月 下
旬 以 降 に 産 卵 す る 自 然 産 卵 魚 を 増 加 さ せ る こ と は ,河 川 ご と の 多 様 な 野 生
資 源 お よ び 遺 伝 資 源 を 維 持 す る だ け な く ,漁 業 資 源 の 増 加 に つ な が る 可 能
性もある。
12.
根 室 海 区 の シ ロ ザ ケ 漁 の 期 間 は 9 月 1 日 ~ 11 月 3 0 日 で あ る が ,2 0 0 4 ~
2013 年 ま で の 標 津 町 内 の 9 月 1~ 5 日 間 の シ ロ ザ ケ の 水 揚 金 額 は 年 間 水 揚
金 額 の 1 . 8 % で あ り , 11 月 11 日 以 降 の 水 揚 金 額 は 年 間 水 揚 金 額 の 1 . 5 % に
過ぎない。そのため,漁業者の負担を少ない実現可能な方策として,水揚
金 額 の 少 な い 9 月 上 旬 お よ び 11 月 中 旬 以 降 な ど の 期 間 に , 河 川 遡 上 促 進
の た め の 自 主 的 漁 獲 規 制 な ど が 考 え ら れ る 。そ の 期 間 の 沿 岸 漁 獲 を 大 幅 に
低下させることにより,河川遡上数を増加させることが考えられた。
13.
シロザケが産卵する小規模河川は市町村が管理もしくは管理可能な準
用 河 川 と 一 般 河 川 が 多 く ,こ う し た 小 河 川 に 遡 上 す る シ ロ ザ ケ の 産 卵 環 境
の保全と維持は,野生魚の再生産を促す可能性を秘めている。例えば,標
津 町 が 独 自 予 算 で 実 施 し て い る 小 河 川 の 落 差 工 の 改 修 な ど は ,地 域 行 政 が
できる人工ふ化放流魚と野生魚が共存可能な資源保全と持続的利用に資
するものと評価できる。
92
14.
野生魚を増やすためにはそれぞれの地域,河川に根ざした,きめ細や
かな管理体制づくりが必要であると考えられる。そのためには,地域主
体の資源管理方針の策定が有効であると考えられた。野生魚を漁業資源
として捉えることにより,現状の河川生態系における諸問題を地域単位
で解決する原動力となる可能性がある。
93
謝
辞
本研究を取りまとめるにあたり,懇切なるご指導とご校閲を賜った北海道大
学大学院水産科学研究院海洋生物資源科学部門資源生物学分野の桜井泰憲特任
教 授 な ら び 綿 貫 豊 教 授 ,同 部 門 海 洋 生 物 資 源 保 全 管 理 学 分 野 の 工 藤 秀 明 准 教 授 ,
中央水産研究所経営経済研究センターの牧野光琢博士,そして北海道大学国際
本部の帰山雅秀特任教授に心から感謝申し上げます。
本研究を行う上で,数々のご協力を頂いた北海道大学大学院水産科学研究院
日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員( PD)の 越 野 陽 介 博 士 に 感 謝 い た し ま す 。 本 研 究 の
実施にあたり,標津町サケマス自然産卵調査協議会のメンバーである標津町役
場農林水産課の熊谷純郎参事,山崎忠仁係長,標津漁業協同組合の織田美登志
専務,西山易男課長,標津サケ定置部会の中村憲二部会長,根室管内さけ・ま
す増殖事業協会の吉川正基専務,蠣崎宏参事,北海道区水産研究所さけます資
源部伊茶仁さけます事業所の小野郁夫事業所長をはじめとする関係団体の職員
の皆様にはサンプリングに対して多大なご協力を賜りました。また,中央水産
研 究 所 の 柳 本 卓 主 任 研 究 員 に は DNA 解 析 の 解 析 を 行 っ て い た だ き , 釧 路 市 立
博物館の野本和宏博士にはフィールド調査の手法をご指導いただきました。水
中写真家の内山りゅう氏には,シロザケとカラフトマスの交雑の瞬間を撮影し
た貴重な写真の使用をご許可いただきました。日本大学生物資源科学部海洋生
物資源科学科の牧口祐也助教,豊平川さけ科学館の佐藤信洋氏には産卵床調査
に関してご助言を頂いた。心から感謝申し上げます。
最後になりましたが,終始研究にご協力と激励をいただいた標津サーモン科
学 館 の 西 尾 朋 高 副 館 長 ,福 地 久 美 子 氏 ,大 畠 鐘 子 氏 ,大 久 保 誠 氏 ,村 上 眞 澄 氏 ,
小野寺小百合氏,菊池勝祀氏をはじめとする職員の皆様に心から感謝いたしま
す。
94
引
用
文
献
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