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ふっ素及びその化合物分析法の検討 (2) -56ー
広島市衛生研究所年報第2 1号 ∞ ( 22 ) ふっ素及びその化合物分析法の検討 ( 2 ) 常政典貴 中冨光信 馬部文恵 小中ゆかり 佐伯彩路 橋本和久 尾川 今村光徳 健 前報において, ]ISに定められたふっ素及びその化合物の分析法に従った操作 においても,金属陽イオンによる妨害を受けることが明らかとなった。そこで今 回,蒸留水・環境水・事業場排水に,ふっ素及び影響を与えると思われる陽イオ ンを加えて添加回収試験を行い,妨害している金属を調べた。その結果,アルカ 0 0 p p mを越えるあたりから, リ土類金属であるカルシウム,マグネシウムの濃度が 1 影響が急激に大き くなるこ とが分かつた。 D T A さらに,妨害を除去するための検討を行った結果,試料の濃縮時に 10%の E 溶液 1 0 m lを加えることにより,妨害が除去できることが分かつた。 キーワード D T A ふっ素,アルカリ 土類金属, E はじめに 株式会社 水質汚濁防止法施行令が改正され,工場・事業 場の排水基準に,有害物質としてふっ素が追加さ I C P S 8 0 0 0 を用いた。 2 蒸留操作 3 4 . 1の ( 3 )蒸留操作の方法に従って行った 。 れた。そのため,水質汚濁防止法の対象となる工 場・事業場のすべての排水に,ふっ素の排水基準 島津製作所製 特に注意した点は以下のとおり 。 2 ) -受器の全量フラスコ 2 5 0 m lには水 2 0 m lを加え 2 0 g /l)を滴加して微アル 水酸化ナトリウム溶液 ( が適用されることとなった 。 前報でも述べたように, ]IS に定められたふっ 素及びその化合物の分析法に従 って いても,添加 回 収 試 験 の 回 収 率 が 70%前 後 に 留 ま る 事 業 場 排 水が存在した。そこで今回は,工場・事業場排水 カリ性とし,逆流止めの先端は水面下に保った 0 ・蒸留フラスコを直接加熱し,蒸留フラスコ内の 4 0Cに達してから,水蒸気を通した 0 液温が約 1 0 ・蒸留温度を 1 4 5: t5C,留出速度を 3 . . . . . . . . 5 ml/m i n 0 中の妨害物質除去などについて検討を行ったので に調節し,受器の液量が約 2 2 0 m lになるまで蒸留 報告する。 した。 .]IS の規定には,硫酸銀を加えることは 書かれ j 去 方 ていてないが,留出液が強酸性になるのを防ぐた ふっ素の排水基準に係 る検定方法は, ]IS K O I 0 2 の3 4に定める方法と規定されている 。 1 ) ]IS K O I 0 2の 3 4に定める試験方法は, 3 4 .1のラ めに,今回すべての試料に約 19ずつ加えた。 3 定量操作 3 4.1の ( 4 )の操作に従って行った 。 ンタンーアリザリンコンプレキソン吸光光度法及 4 .2のイオン電極法の 2方法である び3 特に注意した点は以下のとおり。 。 発色のための時間は,十分に取って測定した。 1 ) 今回 は,前処理として水蒸気蒸留 を行い,定量 方法としてランタンーアリザリンコンプレキソン 4 検討事項 (1)添加回収試験 5 0 0 m lの ビ ー カ ー に , 蒸 留 水 , 環 境 水 , 事 業 場 吸光光度法を用いて検討を行った。 1 器具及び装置 0 0 m l及びふっ素 1000μg加えて試料とし, 排水 5 (1)蒸留装置 フェノールフタレイン溶液 2,3摘 を 加 え , 水 酸 化 株式会社杉山元医理器製 自動温調式ふっ 2 0 g/1)を滴加して微アルカリ性 ナトリウム溶液 ( P 3 4 1 E L C )を用い た。 素蒸留装置 ( 0 m lに濃縮した。その後, とした後,加熱して約 3 ( 2 ) 光度計 蒸留操作,定量操作を行い,回収率を求めた。 株式会社 島津製作所製 ( 3 )I C P発光分析装置 U V2 4 5 0を用いた。 また事業場排水については,回収率に影響する C P発 光 分 析 装 置 を 重金属をつきとめるために, I -5 6ー ∞ 広島市衛生研究所年報第2 1号 ( 2 2 ) 表 1 蒸留水,環境水,事業場排水からの回収率 使って金属イオン濃度を調べた。 ( 2 ) 重金属陽イオンの妨害について a (ふつ素 1000μg添加) 蒸留を行わない場合 添加前 ふっ素を排水基準の 8 mg/lになるように添加し 回収量回収率 蒸留水 A Oμg 970μg 97% 鉛,鉄,ニ ッケル,コバルトの各重金属イオンを 蒸留水 B Oμg 930μg 93% .2, 0.5,1 .Oppmの濃度に加えて それぞれ 0.1,0 環境水 A 50μg 960μg 91% 環境水 B 60μg 980μg 92% 事業場 A -1 60μg 790μg 75% 事 業 場 A-2 82μg 850μg 78% ッケ ル , コ バ ル ト の 各 重 金 属 イ オ ン を そ れ ぞ れ 事業場 B 72μg 910μg 85% 0 . 1,0.2,0.5, 1.0ppm の濃度に加えて濃縮,蒸 事業場 C 82μg 990μg 92% 0 m lの比色管に,アルミニウム,カドミウム, た5 定量操作を行い,吸光度に与える影響を調べた 。 b 蒸留を行った場合 00mlI こふっ素を排水基準の 8mg/lの濃 蒸留水 5 0 0 m lのビーカー 度になるよ うに添加した試料を 5 に取り,アルミニウム,カドミウム,鉛,鉄,ニ 留操作,定量操作を行い,吸光度に与える影響を A:冷 凍 食 品 製 造 業 調べた。 C:乳製品製造業 ( 3 ) アルカリ金属,アルカリ土類金属イオンの妨 結 果 は 表 1の と お り で , 蒸 留 水 , 環 境 水 か ら の 害について 回収率は 90%を越え,良好な結果となった。しか I C P 発光分析装置を用いた,事業場排水中の金 属イオン濃度の結果から,アルカリ金属,アルカ し事業場排水では,業種によっては低い回収率に 留まるものがあった。 リ土類金属 の影響が疑われたので,以下の 方 法に より妨害を調べた。 a B: 下水処理業 C P 発光分析装置を使って事業場排水中 また, I の金属イオン濃度を調べた結果は,表 2のとおり 蒸留を行わない場合 で,事業場 Aの排水中には,他の事業場に比べて 5 0 m lの比色管にふ っ素を排水基準の 8mg/lにな カルシウムが多く含まれていることが分かつた。 るよ うに添加し,ナトリウム,カリウム,マグネ ( 2 ) 重金属陽イオンの妨害について 0, シ ウム,カル シ ウムの各金属イオ ンをそれぞれ 1 a 2 0,5 0,1 0 0, 1 5 0,200ppmの濃度に加えて定量操 作を行い,吸光度に与える影響を調べた。 b 蒸留を行わない場合 1,1 2のとおりで, 吸光度を調べた結果は図 1 カドミウム,鉛についての影響はみられなかった 蒸留を行った場合 が , ア ル ミ ニ ウ ム は 5割程度減少し,鉄,ニッケ 0 0 m lにふっ素を 8mg/lの濃度になるよ 蒸留水 5 00mlのビーカーに取り,ナ うに添加した試料を 5 トリウム,カリウム,マグネシウム,カノレ シ ウム ル,・コバルトは 3割程度増大した。 蒸留を行った場合 b 重金属陽イオンの影響による,吸光度の増大減 0, 1 0 0, 1 5 0, 2 0 0, の各金属イオンをそれぞれ 5 少はみられなかった。 300ppmの濃度に加えて濃縮,蒸留操作,定量操作 ( 3 ) アルカリ金属,アルカリ土類金属イオンの妨 を行い,吸光度に与える影響を調べた。 害について ( 4 ) 金属陽イオ ンの妨害除去について 表 2 事業場排水中の金属イオン濃度 蒸留水 5 0 0 m lにふっ素を 8 m g / lの濃度になるよ 0 0 m lのビーカーに取り,マ うに添加した試料を 5 Cd グネ シ ウム,カルシウムの各金属イオンをそれぞ Pb れ 200ppmの濃度に加えて濃縮,蒸留操作, 定量操 Fe N i Co A l Na K Mg Ca 作を行い,回収率を求めた。また濃縮操作,蒸留 操作の際, 10%EDTA10mlを添加し,金属陽イオ ン の妨害除去を試みた。 結 ( 1 ) 添加回収試験 一57- A 1 ND ND 0.020 ND 0.0 0 1 O .023 1 2 0 9 .3 2.5 1 7 0 A-2 ND ND 0.029 ND 0.002 O. 023 1 1 0 1 0 2.5 1 6 0 B ND ND 0.017 ND ND O .009 1 4 0 2 0 1 5 3 6 ( m g /1 ) C ND ND 0.034 ND 0.003 0.10 1 3 0 1 3 1 .9 7 1 広島市衛生研究所年報第 2 1号 ( 2 0 0 2 ) 0. 7 0. 7 0. 6 0. 6 0 . 5 0. 5 制 0. 4 世 話 0 . 4 民 ヨ R go3 ' a I0. 3 0 . 2 0. 1 22 ア 。 。 0. 2 i 一+ーカドミウム ' -ー鉄 一 」 一台ーコバルト L一一一一 一一一 0. 2 0. 1 。 。 1 . 2 0. 4 0. 6 0. 8 陽イオンの漫度 (mg / I ) 0 . 4 0 . 6 1 .2 0 . 8 陽イオンの湿度 (mg / I ) 図1 2 重金属陽イオンの妨害 図1 1 重金属陽イオンの妨害 0. 5 0. 2 ー • 0. 4 0. 3 )→ーカリウム Jートカルシウム 制 0. 2 司4 援 0 . 1 。 0 . 1 。 0 . 2 ~ 1 0 0 1~ 楊イオンの濃度 (mg / I ) ~ 2~ o 因 子 1 アルカリ金属・アルカリ土類金属の妨害 1 0 0 1 5 0 200 陽イオンの濃度 (mg/l ) 250 図 2-2 l J ,I約金属・アルカリ土類金属の妨害 0. 5 0. 5 0. 4 0. 4 i -←カリウム 一一一一!-・ーカルシウム 』 制 0. 3 制 0. 3 ー ~ 言 語 0. 2 ~ E 語 0. 2 0. 11 一三 一一 o 一 0. 11 -' 一一一←一一---- -~ . - ・一 一一一 。 →ーナトリウ五寸 --・ーマグネシウム ト一一 一一一一一一 一 一一一 一一 0 100 200 300 400 o 陽イオンの;a度 (mg / I ) 1 0 0 200 300 陽イオンの湿度(mg/O 400 因子4 アルカリ金属・アルカリ土類金属の妨害 図 2-3 アルカリ金属 'lJ~カ 1) 土類金属の妨害 a 5 0 蒸留を行わない場合 吸光度を調べた結果は図 2 3,2 4のとおりで, 吸光度を調べた結果は図 2 1,2 2のとおりで, ナトリウム,カリウム,の場合は,影響はみられ ナトリウム,カリウムはほとんど影響なかった。 なかった。マグネ シ ウム,カルシウムの場合は, マグネシウムは,濃度があがるに従って吸光度が 150ppmの濃度において吸光度が急激に低下した。 次第に低下した。 カルシウムは,いずれの濃度の b 場合も極端に吸光度が低下した。 蒸留を行った場合 戸 b n δ ∞ 広島市衛生研究所年報第2 1号 ( 2 2 ) 表3 1 金属陽イオンの妨害除去 表 3-2 金 属 陽 イ オ ン の 妨 害 除 去 (ふっ素 4000μg添加) SampleA SampleB SampleC SampleD 蒸留 なし あり あり あり EDTA添加 なし なし 濃縮時 蒸留時 回収量 2480μg 3760μg 3680μg 3720μg (ふっ素 4000μE添加) 回収率 62% 94% 92% 93% SampleA SampleB SampleC SampleD 蒸留 なし あり あり あり EDTA添加 なし なし 濃縮時 蒸留時 回収量 2960μg 1280μg 4000μg 1440μg 回収率 74% 32% 100% 36% *妨害物質として,カルシウムを 100mg添加 * 妨 害 物 質 と し て , マ グネシウムを 100mg添加 ( 4 ) 金属陽イオンの妨害除去について に含まれる陽イオンによる妨害が考えられたので, 回収率を求めた結果は 表 3-1 ,3-2のとおりであ ICP 発 光 分 析 装 置 に よ り 金 属 陽 イ オ ンの分析を 行 った。マグネシウムは,蒸留時添加,濃縮時添加 った。金属イオン添加回収試験,金属陽イオンの ともに, 90%以上の回収率が得られ,蒸留をすれ 分 析 結 果 か ら , カ ル シウ ムが影響していることが ば妨害を防げることがわかった。カノレシウムは, 判明 した。カ ル シ ウ ム は ふ っ 素 と 結 合 す る と , 水 蒸留時添加では改善がみられなかったが,濃縮時 へ の 溶解 度 が 非 常 に 低 い 化 合 物 を 作 る こ と が 分 か 添加では 100%の回収率が得られた。 っている。濃縮操作をした際,ビーカーの器壁に ざらざ らし た物質が付着することがあり,この物 質 が カ ル シウ ムとふっ素の化合物であると推定さ 考 察 今回 ,ふっ 素分析法について検討した結果,蒸 留水・環境水を使った添加回収試験では, 90%以 れ た 。 こ の 物 質 を 生 成 さ せ な い た め に 10%印 TA 溶液を添加したところ,良好な結果が得られた。 上の回収率が得られ, JIS 解説書に書かれている 文 献 数値を確認することができた。しかし事業場排水 1 ) (財)日本規格協会:3 4 .ふっ素化合物, JISKOI02 を使った添加 回収試験 では,受器の水をアルカリ 性にしたり,塩酸成分の留出を防ぐために硫酸銀 工場排水試験法, 1 0 6 " ' ' 1 1 1( 19 9 8 ) を加えるなど改善を施したにもかかわらず,低い 4 .ふ っ 素 化 合 物 , 詳 解 2 )(財)日本規格協会:3 回収率に留まるもの があった。原因として 排水中 , 1 9 6 " ' ' 2 0 7( 19 9 9 ) 工場排水試験法改訂 3版 -5 9ー