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Gernsback Intersection読書会

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Gernsback Intersection読書会
Gernsback Intersection 読書会
舩戸
2008 年 4 月 28 日
1
作者について
円城塔。2007 年 6 月発売の『Self-Reference ENGINE』でデビュー、とみせて実際には第 104 回文學界新人賞に輝いた「オブ・
ザ・ベースボール」が文學界に掲載されたのが先なのでそちらがデビューとするのがよろしいか。ポスドクを六年やってた経歴か
ら、理系的な専門用語を駆使した衒学的作風が一部の人に受けている。やたらちゃんと更新されるはてなキーワードなど参照。本
人更新だったりはしないと思う。
2
作品について
恋愛小説集と銘打たれている短編集『Boy’s Surface』収録。カバー裏の惹句を引くと「その未来にいない私と僕の超遠距離恋愛」。
3
ガーンズバック連続体について
これの読解をする上で有益なので、できれば「ガーンズバック連続体 (Gernsback Continum)」について知っていることが望まし
い。残念ながら、そのように前置きされた読書会ではないので、軽く説明しておく。
といっても、ちゃんとした話ではなく、1960 年代の建築の撮影を頼まれたカメラマンが、その頃の未来像を幻視するようになる、
というだけの話。
構造だけを言ってしまえば、過去に夢見られた未来が現在(=過去における未来)へ幻として逆流してくる話。そういった作品を
タイトルの元ネタとして使っている意味は何かあるはずで、そのあたりをとっかかりにして解釈してみたい。
4
解釈とか
構成についてざっくりと。追い詰められて混乱して、なんだかわけがわからなくなっているのは仕様です。いつものことです。わ
からない点は本人に聞いてくれれば適宜うけつけます。
4.1
前置き
まず、この話では男の子と女の子がいる。女の子は章ごとに挿入される図の上で、♀マークで宣言される。同様に男の子は♂マー
クで宣言される。おそらくは男の名前はヒューゴー・ガーンズバックといい、女の子の名前はアガートという。
作中の図は二次元であり、縦方向と横方向のベクトルがある。
ここで、横方向のベクトルを、縦ベクトルから想像されうる可能世界(=多世界解釈の多世界)と考えてみる。便宜上、これを
ガーンズバック連続体とする。
また、図中での交点を、ガーンズバック連続体におけるある過去と未来の交点ということで、ガーンズバック交点とする。この場
所に展開された空間を、作中の用語に従い架想空間と呼ぶ。その性質については後述。この場所において、男の子と女の子は、中
身と外面の性別が入れ替わっている。特にここでの外面描写について言及する場合、男の子を少女、女の子を少年(本文中では男
の子)と記述する。
最後にもう一つ前置き。♂マーク、♀マーク、二つの時間軸を語るわけだから、当然ここではメタ時間で全体を把握する必要があ
る。メタ時間とはなんなのかは各自調べられたし。
前置きはこんな感じで。あとは順番にいってみよう。最初に♂マークと♀マークの移動方向について。その次に架想空間について。
最後に特異点、特異塵について。
1
4.2
図の移動方向について
♂マークと、♀マークの移動方向はどうなっているのか。
把握が容易であるので、先に♀マークから。下からきて、上へ進む。下が過去で、上が未来。左右は可能性だと思ってもらってい
い。特異点への激突を避けるため、左方向へターンして、図中に示されている斜め方向へと進む。結果として、花嫁という名のト
ヴェフスキー特異点に突っ込むことになる。ガーンズバック交点を中心として、下と左に一マスずつ存在する空白は、特異塵とし
てしまうがよかろう。じゃあ、進むはずじゃなかったガーンズバック交点になんで女の子がいるのか、という問いにはあとで架想
空間について説明しつつ解答する。
で、次は♂マークの方。作中の図に従えば、♂マークは右から左へと向かう左右方向へのベクトルを持った直線を進んでいる。左
が未来で、右が過去、現在は自分のいる場所と定義したらいいかもしれない。作中ではガーンズバック交点から左に二マス行った
ところだけ使用されているから、そこにしておこうか。未来と過去という風に方向をとるならば、右から左へ進むのが正しいが、
過去への想像を花嫁たちに遮断されたこと。(P.205,L.5)
少女は首を傾げてみせて、僕たちの真っ直ぐ進む未来とはすれ違っているはずの過去の歴史へ接続する。僕たちの未
来とすれ違った、別の未来から過去へ遡航している彼女にとっての過去の歴史、つまりはこれから僕が向かうべき未
来へと接続をする。(P.238)
という記述に従うならば、♂マークこと男の子は自分たちの世界における過去(曲がりきれなかった二十世紀と思われる)のため
に特異点と戦い、結果、過去へと向かってしまった。離れた弾丸を止めるものはなく、架想空間での、女の子との一瞬の邂逅の後、
どこかへと消え去る運命にある。
「一つの特異点を通り抜けて、気がついたらこの姿でここにいた」(P.238)
この文章から、それが証明されるように思う。
ところで、架想空間に現れる前の、♂マークの住むほうの世界はどういう軌道を通ってきたかを考えてみる。
二十一世紀は二十一世紀初頭で回頭した。(P.205)
他にも多々あるが、とりあえず最初に曲がるほうのターンのなんたるかを説明しているのは男の子のほうである。だから当然、彼
のほうでもターンがあった。女の子の方ではターンが「あった」のではなく、
「あるはずだ」なんだけど、そこはおいておく。ター
ンをしたならば、どこからターンしたのか。同じ軌道をとっているのでは話がおかしなことになる。やはり、ここは、先ほどの記
述 (P.238 のやつ) および次の記述、
過去から未来へ向かう直線。未来から過去へ向かう直線。それぞれの線は、カーブの手前より発し、先から発し、荒
野で交わる (P.228)
とあることだし、ガーンズバック交点より伸びてきたと考えて相違ない。では、それより以前はどうだったのか? ターンをした
ならば、その点で曲がっていなければいけない。しかし、図に示されている直線は他になく、
まあそれでも被害は二十世紀のみに留まり、残りの戦列世紀はかろうじて沈没を免れた。(P.205)
から多分女の子の通るはずだった直線を通ってきたのだと考える。こう考えるには同じ時間軸が時間差で繰り返されているという
想像を巡らせる必要がある。なんだかおかしなことを言っているように聞こえるが、あいにくこれはメタ時間なので、こういった
想像も可能だ。
♀マークの通った世界と途中まで同じ道を通ったのならば、ある種の可能世界の一つだったのだ、♂マーク側は、♀マーク側の世
界の。
ちょっと混乱してきたので、おさらい。ここまでのまとめ。
男の子はガーンズバック交点でターンした一つの可能世界の住人。未来に進み、なぜだか現れたトヴェフスキー特異点のために、
過去方向へと進むことを強いられ、女の子と架想空間で出会った。
女の子はメタ時間で、男の子よりあとの時間の世界からやってきた人間。ターンすることが決定づけられた世界で、架想空間によ
り、ガーンズバック交点で、男の子と出会っている。
4.3
架想空間について
次は架想空間の話。これがなんなのかということについて。まず二人がどうやってここにやってきたか。
男の子は、
「一つの特異点を通り抜けて、気がついたらこの姿でここにいた」(P.238)
女の子は、本人言うところの超馬鹿計算、
空想によって無数の仮想宇宙に橋を架ける、論理的トラベリング (P.240)
によってこの場所にやってきた。もしくは、この場所を空想した。妄想した。
架想空間がなぜ、仮想空間と書かれずに架想空間とされるか。それは女の子が超馬鹿計算によって、存在するはずのない場所に無
理矢理橋を架けることで、作り出した場所だからだ。二人がガーンズバック交点にいるときの図をみれば、下と左に直線が書いて
あり、それすなわち橋だとできるのがわかる。また、それによって無理矢理に橋を架けたことによって、男の子は特異点を飛び出
して、どこにも出られないはずが架想空間に出てしまう。一度は消えた時間線に無理矢理に架けられた橋が場所をつくり、ついつ
い男の子は引っかかってしまったと考える。ここもうちょい詰められる気もするけど(δε論法とかで)、今はこれが精一杯。
少々話がずれるが、最初にいくつか指定した前提の一つに話を戻す。
ガーンズバック連続体。そういう風に、左右方向のベクトルについて宣言してみたが、終盤に出てくる
「多分、この時代の多宇宙理論。量子力学と様相論理の奇妙な混合物のあれ」(P.239)
2
からして、♀マークの世界、もしくはターンを決める前の世界での論理では、可能世界が眼前に広がっていると考えられる。ガー
ンズバック連続体はこの世界においては成立する。
可能世界が連続的に存在するならば、ある法則が法則たりえる世界が存在し、どこかでその法則は存在しえない可能世界にたどり
着く。εδ論法みたく、切り分けることができそうにない可能世界の似姿。
もし、数学が実行的なものであり、それとも生成的なものであり、もし、この世がそのようなものであって、もし、
私がそのように望むことがあり、かつ、その場合に限り、if and only if, iff then 時間線をひん曲げうることを示すの
が、大部、ノートの半ページを費やした私の計算だ。(P.222)
ゆえに彼女の世界はこのようなものであったと、考えられる。超馬鹿計算が成り立つのは、このような場所においてのみ。
しかし、それは間違いだとすぐに訂正される。
「再発見されてしまうんだな。量子力学が。量子力学のほんの可能性の一枚にすぎないはずの、古典宇宙で」(P.240)
わかりにくい人はこう読むといい。
決定論=古典宇宙
非決定論=量子宇宙
つまるところ、多くの可能性から選び出されるはずだった女の子の世界は、どうにも決定論的必然によって、ターンすることが最
初から決まっていたことになる。しかしながら、困ったことに、そうなるとおかしなことになる。
非決定的だった量子宇宙を背景にしていた女の子の理論、本人いうところの超馬鹿計算――架想空間が成立しなくなる。可能世界
がガーンズバック連続体として、進路に横たわっているがゆえにできるのが超馬鹿計算のはずである。無数に横たわっている仮想
宇宙が存在しなければ、架けられる橋もない。
では、どのようにして、橋は架けられたか。
全く間違った理論であったにもかかわらず、結果の一致したターン前後の二つの計算。(P.231)
過去から未来へ伸びる直線は、法則に則って予測された未来予想図。未来から過去へ伸びる線は、来歴を失った未来
からの空想線。交わって手を握り、お互いを脇から支え合うふたつの空想。(P.228)
まだ見ぬ語り手、名もなきガーンズバックは、架想空間の正体をそのように語る。奇跡なしには存在しえないともいう。ゆえに女
の子はこの小説を、奇蹟からはじめる。
奇蹟からしか始められないものがあるならば、奇蹟でしか終われないものがあっても構わない。(P.191)
奇蹟によって架けられた橋の上、架想空間においてはじまる物語はもちろんのところ、奇蹟よりはじまり、最後は奇蹟を祈って終
わる。実際のところ、男の子の方もたぶん計算を間違えており、そもそもがその性質上、突入できるはずがない特異点に突入でき
ている時点で計算は誤っている。両者が誤っていたことを最後に指摘しておく。
わかりにくいので、例によってまとめ。
女の子は量子論的世界、多数の可能世界が重ね合わされて存在する世界を仮定している。しかし、それは誤りである。実際には、
古典宇宙の重なりあった世界の中に、量子宇宙も存在している。それはどういうことかといえば、可能性を包含しながら、決定論
によって物事が進む世界だ。そこでは、女の子が仮定していた超馬鹿計算は覆され、成立しなくなる。しないはずだが、男の子の
側からも特異点を乗り越えるという誤った行為――間違った計算を行うことによって、奇蹟がおきて架想空間は見いだされる。二
人はそこで出会う。出会います。出会っている。
観念をひっくり返された女の子は、こう言う。
御都合主義だ。こんなこと全てが度を越した御都合主義の連続じゃないか。(P.243)
奇蹟と決定論によって支えられた架想空間。その姿を端的に現しているのは、上の台詞で、つまりはそういうことなのだと思う。
4.4
特異塵について
最後に、特異塵について。
分布場所はおそらくが、ガーンズバック交点から左側と下側。架けられた橋と、架想空間の場所。そこに特異点が稠密に集まった
もの――特異塵は存在している。
それは図において、♂パートにおいても、♀パートにおいても、そこ 3 マスが空白となっって、全体と切り離されていることから
判断できる。
特異塵なる存在も、実はこの遭遇が発生したことによって生まれた、派生物のほうだったりはしないだろうか。一度
何かが交叉したことで、それからも交叉を続ける羽目に陥っている構造を僕は一つ知っている。名をヘテロクリニッ
ク軌道。(P.246)
架想空間による二人の邂逅。それが原因で、特異塵は発生したのではないかと、女の子は考える。この軌道の名前にヘテロって
くっついてるから性別が入れかわっているのだろうね、というのは余談。
女の子の一人称パートにおいて、男の子の側と、女の子の側の、架想空間を空想しえる人間の数を数えるシークエンスがある。な
らば、もっと多くの架想空間が存在しなくてはいけない計算になる。
どのようにして架想空間ができるか、それは前の章で散々説明した。けれども、あれではまだ不十分だ。推測になるから避けてい
たけれど、本当のところ、架想空間は花婿が花嫁に突入することで発生するように思う。花婿の正体は、男の子(たち)だ。なら
ば、花嫁は?
おそらく花嫁は、架想空間を想像できる女の子(たち)だ。彼女たちが架想空間へと橋を架ける。その橋は、男の子の側の未来に、
特異点として現れる。可能世界を信じる彼女たちが、もはや存在しえない可能世界を妄想しているのだから、それは矛盾している
3
に相違なく、それすなわち例外として処理されるべき特異点だ。
女の子が想定する他に何千人といるはずの、自分と同じことができるはずの人間。その人たちも一様に橋を架けようとし、一様に
失敗したのかもしれない。もしかすると何度も何度も失敗している。意識されることない失敗が無数の特異点を産み出し、存在し
ないはずの可能世界を食い荒らしているのが、ガーンズバック連続体で起こっているできごとかもしれない。
そうしたとき、女の子のすべきことはなにか。最後に男の子に託される未来。それは多くの可能世界によって食いつぶされて、ど
んどんと逃げ場所を失っている未来に、なんとかかんとかターンをしてたどり着いて、特異点から逃げ切ることなのだと思う。
まとめ。花嫁はたぶん女の子たちの架想空間の妄想。失敗した架想空間こそが特異点としてそこに残り、凝り集まって特異塵へと
変化する。
4.5
小ネタ
最後に小ネタ。
架想空間を空想によってつくりだす少女アガートが一応は主人公だと考えると、「時を架ける少女」なんていうくだらない言葉が
思いつく。この前の細田映画版になぞらえると、何度となくアガートが言う「待って」とか、映画のキャッチフレーズの「待って
られない、未来がある」など符合する点が多くて面白い。最後のアガートとヒューゴーの別れのシーンなんかも。なかなか邪推の
しがいがあって愉快。
もう一個邪推。花嫁につっこむ花婿のパートがやたら性的なメタファーになっているのは、もしかして『アインシュタイン交点』
あとがきの『ノヴァ』解説の影響かなあとぼやいてみる。さすがにこれはないと思う。
4.6
課題
二人の子供とは結局なんなのか。
特異塵てなんでできたの? どういう仕組みなの?
5
ネタについて(わかる範囲で)
Gernsback Intersection(タイトル)
ウィリアム・ギブスン「ガーンズバック連続体」、サミュエル・R・ディレイニー『アインシュタイン交点 (The Einstein Intersection)』
を足したものか?(後者は不明。前者は間違いなく)
我はデルタなりエプシロンなり。
途上なり。部分なり。
――Rev.22:13(冒頭引用部)
εδ論法をさすと思われ。εδ論法については、下記の専門用語参照。また、元ネタはヨハネの黙示録 22 章 13 節。結構有名な
あれ。詳細は下記。
I am the Alpha and the Omega, the First and the Last, the Beginning and the End.
わたしはアルファであり、オメガ である。最初であり、最後である。初めであり、終わりである。
北に故郷から百万光年。西に五十六億七千万歩(P.192,L.13)
前者は、ジェイムス・ティプトリー・Jr.『故郷から百万光年 (Ten Thousand Light-Years From Home)』。ちなみにこれはこれ
で、ローリングストーンズの曲「2000 光年のかなたで (Two Thousand Light-Years From Home)」から引いてます。後者は弥
勒。書かなくてもいいかと思ったけど、僕が忘れていたので書く。西方浄土ですね。
未知なるカダスを夢に求めて(P.193,L.8)
H・P・ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」
インドラの網の綻ぶツェラ高原 (P.193,L.9)
インドラの網とツェラ高原という言葉の連なりは、宮沢賢治「インドラの網」より。
4
無慈悲な夜の女王(P.193,L.13)
ロバート・A・ハインライン『夜は無慈悲な夜の女王』
ヒューゴー(P.194,L.2)
ヒューゴー・ガーンズバック:1926 年、世界初の SF 専門誌『アメージング・ストーリーズ』を創刊し、過去の優れた SF 作品の
再録や投書欄、読者の作品コンテストが人気を集めた。これにより彼は“ アメリカ SF の父 ”、
“ 現代 SF の父 ”と呼ばれるように
なった。1940 年代以降、『アスタウンディング』の隆盛などで段々とその権威は衰えていくが、それはまた別の話。
十八が最も美しい年齢だと、誰にも言わせるつもりがないのと同じように(P.202,L.10)
僕はそのとき20歳だった。
それが人生の中で一番輝かしい時期だなどとはだれにも言わせない。
フランスの作家、ポール・ニザン『アデンアラビア』の冒頭の文章。
”This is Mnemonic”, ”Red Star”, ”Hinterlands”, ”Chrome Blue”, ”Dogfight”, Winter Market (P.206)
上記すべてウィリアム・ギブスンの短編タイトルが元ネタ(括弧内は原題)。順番に、
「記憶屋ジョニー (Johnny Mnemonic)」
「赤い
星、冬の軌道 (Red Star, Winter Orbit)」
「辺境 (Hinterlands)」
「クローム襲撃 (Burning Chrome)」
「ドッグファイト (Dogfight)」
「冬のマーケット (Winter Market)」。
ネクロマンサー (P.206,L.12)
ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』のタイトルの元となった言葉「ネクロマンサー」より。言わずとしれた死霊術師の意。
鶏や猫や犬や驢馬の音楽隊 (P.208,L.17)
言うまでもなく。
アントリオン (P.209,L.10)
上半身がライオン、下半身がアリという幻獣。聖書の誤訳によって生みだされた。ちなみに蟻地獄の英語名でもありますね。なん
でここで出てくるかは不明。
ツァラトゥストラはこう宣った (P.209,L.15)
これもまあ言うまでもなく。
俺の赤は俺のもの (P.210,L.10)
ジェイムス・ティプトリー.Jr「愛はさだめ、さだめは死」冒頭
思い出す――聞こえるか、おれの赤、かわいい赤?
と思われ。
天使も踏むを恐れるブラッディ・ハイウェイ・オブ・パーム (P.212,L.4)
EM フォスター『天使も踏むを恐れるところ』。ちなみにこれはこれで、18 世紀イギリスの詩人アレグザンダー・ポープの「批評
論」の有名な一節「天使も足を踏み入れるのをためらう場所に、愚か者は飛び込む」からの引用。後半の英語は不明。
5
薔薇窓 (P.212,L.6)
こちらもウィリアム・ギブスンの短編から。「ホログラム薔薇のかけら (Fragments of a Hologram Rose)」かと。もしかしたら
「ニュー・ローズ・ホテル (New Rose Hotel)」のほうかも。実は両方でしたオチのほうが信憑性が高い。
コングラッチュレイション、ミスター・ローレンス (P.215,L.4)
言わずとしれた坂本龍一の曲「メリー・クリスマス、ミスター・ローレンス」。
グッド・バイ (P.215,L.5)
こうやって書いてあると太宰治っぽくはないかね?
大日本帝国謹製宇宙戦艦とかギャラクティカ (P.222,L13)
前者は言わずとしれてる。後者は米国の SF テレビドラマシリーズおよび映画『宇宙空母ギャラクティカ』に登場する架空の宇宙
空母であろう。
アガートおよびフレガート (P.215 に始まる節に登場)
ボードレール「悲しくて放浪性の」より。アガートは不特定の人物名を指すと思われる。フレガートはフリゲート艦。このタイト
ルが冠された岩波の翻訳では「快速船」と訳されておりルビもないため、韻の響きは楽しめない。また、日本文学的には高橋源一
郎の『さようなら、ギャングたち』に登場する台詞(であり章題)の「アガートは大好きさ、フレガートが」を参照するとよいか
もしれない。でも、これはボードレールを引いたコクトーの『恐るべき子供たち』の孫引き。もう何がなにやら。
レオナルド・ロンドン (P.225,L.6)
「Boy’s Surface」に出てくるのはベンジャミン・ロンドン。
エックハルトの原理 (P.233,L.3)
十二世紀のキリスト教神学者マイスター・エックハルトからか?
君はまるでコロンボみたいだ (P.245,L.13)
犯人が一度安心したところで呼び止めて真実を開陳するのが、コロンボの定型ですよね。って知ってるよね?
留数定理 (カバー帯)
∫
Love dz = 2πi(boy + girl)
(1)
C
留数定理の公式のアレンジ。
留数定理とは、関数 f(z) が閉曲線C内に孤立特異点 ai を持ち、それ以外の閉曲線CおよびCで囲まれた領域D上で正則であると
したとき、以下の式が成り立つというもの。積分計算ではわりと重要な式。
∫
f (z) dz = 2πi
C
n
∑
k=1
6
Res[f (z), ai ]
(2)
6
専門用語について
ϵδ 論法(イプシロンデルタ論法)
任意の ϵ > 0 に対して、ある数δ > 0 が存在し、
|x − a|< δ であるどんな x に対しても|f (x) − f (a)|< ϵ が成り立てば f は a
で連続である。という定義をもつ関数の連続性の定義方法。
特異点(シンギュラリティ)
ある系における基準が適用できない点。数学や物理学で主に扱われる。SFではもっぱら技術的特異点の話が持ち出されるが、今
回はどちらかというと数学的特異点。
創発
部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れることである。局所的な複数の相互作用が複雑に組織化すること
で、個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される。
Fitz-Hugh・南雲方程式
神経細胞膜に見られる非線形現象について表現した 2 変数系の方程式である。4 変数系のホジキン-ハックスレー方程式を簡単化し
たものであるが、神経系に見られる興奮性/振動性を再現するだけでなく、非線形系の一般的なモデルとしてよく用いられる。こ
のモデルは、非線形振動子のモデルとして知られるファン・デル・ポル方程式から導かれ、Bonhoeffer が提案した神経モデルと
似ているため、 BVP 方程式とも呼ばれている。
dx
x3
= c(x −
+ y + z)
dt
3
x + by − a
dy
=−
dt
c
(3)
(4)
ここで、x は細胞膜電位の符号反転値、y は不応性、z は外部入力である。パラメータ a, b, c の条件により、興奮性、振動性を
示す。
ニコマコス倫理学
アリストテレス著。全 10 巻の大著。中身は自分で調べてください。
アトラクター
非線形力学システムにおいて過渡状態を経た後に定常的に観察される状態である。マルチになるとどうなるかは勉強不足により、
説明不可。
ヒルベルト空間
完備な内積空間、すなわち、内積の定義されたベクトル空間であって、その内積から導かれるノルム によって距離を入れるとき、
距離空間として完備となるような位相ベクトル空間のことである。ヒルベルト空間は、関数解析学において中心的な役割を果たし
ており、また、物理学、特に量子力学の数学的基礎づけに深く関連している。量子力学における状態あるいは固有関数はヒルベル
ト空間上の正規化されたベクトルであるといえる。また、弱収束する部分列を取り出すには、関数列の有界性だけで十分である
(弱コンパクト性)。
多宇宙解釈
正確には「エヴェレットの多宇宙解釈」。パラレルワールドの存在を肯定するので有名な量子力学解釈の一つ。イーガンとか好ん
で使う。
7
フランス王の禿げ頭に関する深遠な議論
バートランド・ラッセルなどが議論している論理学上のわりと有名らしい命題。禿げ頭の定義、フランス王の不在を交えたややこ
しい話。
クリプキ・フレーム
様相論理における、空でない集合MとM上の二項関係Rの対(M,R)のこと。さっぱりわからないので、皆さん自分で調べてく
ださい。
if and only if, iff then
「if and only if」を略して、iff ともいう。否定排他的論理和 (XNOR) に等しい。IFF で敵味方識別装置 (Identification Friend
or Foe) の略でもあるのだけど、これにもかかっていたりするのか?
ブラウン代数
無限ループなんかができるブール代数のよう。詳しいことはしんない。観測、非観測の話が絡むとかなんとか。
ブール代数
基本演算は、論理否定 ¬ (not)、論理和 ∨ (or)、論理積 ∧ (and) からなる論理数学の代表的概念。
完備性
内積空間がこれを持つとヒルベルト空間に進化できるのだけど、よくわからないという向きにはとりあえずみんなで線形代数だ!
と勧誘する以外の手段を僕は持っていない。
ヘテロクリニック軌道
力学系において、ヘテロクリニック軌道とは、二つの不動点をつなぐ解軌道である。 同じ不動点の場合は、ホモクリニック軌道
である。
セパラトリクス
そういう図形的構造。磁場とかプラズマとかの領域でよく出てくるっぽい。よくわかんない。
7
創作と思われる用語
ピルマン投射点
ドートルクールのパラドクス
エックハルトの原理
トヴェフスキー特異点
8
引用元および対象作品
『Boy’s Surface』(早川書房)
8
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