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第 1 回 臨 床 研 修 報 告 会
〔千葉医学 88:189 ∼ 195,2012〕 〔 学会 〕 第 1 回 臨 床 研 修 報 告 会 日 時:平成24年 3 月 4 日(日) 9:00∼16:00 場 所:千葉大学医学部附属病院 第一講堂 1 .腎結石との関連性が考えられる偽性バーター症 候群の 1 例 ルする仕組みができていたことが迅速な対応につな がった。 4 .ATRA 不応急性前骨髄性白血病に対し第一寛解 辻 正樹(総合医療教育研修センター) 【緒言】腎結石を契機に発見された偽性 Bartter 症候 群を経験したので報告する。 期に自家末梢血幹細胞移植を施行した 1 歳男児 寺田和樹(総合医療教育研修センター) 【症例】23歳男性。平成22年 7 月より腎結石を繰り返 急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia: し,低 K 血症を認めたため入院。血圧112/80㎜ Hg,血 APL)の治療法は,総トランスレチノイン酸(all-trans 清 K2.7mEq/l,PRA >20ng/ ,尿中 retinoic acid: ATRA)により, 5 年生存率が80%と良 K 排泄低下から偽性 Bartter 症候群を考えた。結石は酸 好な予後が得られている。小児症例においても JPLSG 性尿酸アンモニウムであり,過度の体重減少,下剤の AML-P05プロトコールとして臨床試験が行われてい 過量服用が聴取された。 る。しかし ATRA 不応例は症例数が少なく,治療法 ,PAC137pg/ 【結語】偽性 Bartter 症候群ではしばしば病歴聴取が については明確な方針が得られていない。今回我々 困難であるが,本症例では腎結石解析が病因同定に有 は ATRA 不 応 APL の 症 例 に 対 し, 亜 ヒ 酸(Arsenic 用であった。 trioxide: ATO)による寛解導入療法施行後,第一寛解 2 .内服治療が困難であったステロイド抵抗性ネフ ローゼ症候群の 1 例 寺澤佳洋(総合医療教育研修センター) ネフローゼ症候群は糸球体性の大量の蛋白尿による 低アルブミン血症の結果,浮腫が出現する腎疾患群で ある。今回の症例は,著明な浮腫(罹患前 : 85㎏→最 大105㎏)で発症し入院時の腎生検では微小変化型と 期に自家末梢血幹細胞移植を施行した症例を経験した。 本症例は長期寛解を維持しており,小児難治性 APL の 新たな選択肢の一つとなる可能性が示唆された。 5 .多彩な合併症により治療に難渋した MRSA を起 炎菌とする感染性心内膜炎の 1 例と MRSA 性感 染性心内膜炎 6 例の検討 芝 大樹(総合医療教育研修センター) 診断されたが,ステロイド抵抗性を示した40歳女性の 71歳女性。ブドウ球菌熱傷様皮膚症候群で入院後, 患者である。免疫抑制剤(シクロスポリン)の静注投 完全房室ブロック,脳梗塞出現し,精査にて MRSA に 与や LDL 吸着療法を行った経過を報告する。 3 .千葉市内で発生した A 型肝炎のアウトブレイク について 富永敦子(総合医療教育研修センター) 【目的】市内で2011年 1 月に A 型肝炎が集団発生し た。経験した症例で A 型肝炎の臨床的検討を行った。 【対象と方法】 1 月から 2 月にかけて国立病院機構 千葉医療センターで治療した26名(男性11名,女性15 名)。 【考察】近年 A 型肝炎のアウトブレイクはほとんど よる感染性心内膜炎(IE)と診断された。胸部皮膚病 変のため手術は延期され LZD を含む抗菌薬にも反応乏 しく, 2 週後に手術施行され軽快転院となった。以上 多彩な合併症を呈し,抗菌薬ではコントロールつかず 手術で軽快した MRSA-IE の 1 例を経験した。さらに 当院の MRSA-IE 6 例から有効な治療法を検討した。 6 .皮膚筋炎の慢性経過中に間質性肺炎の急性増悪 をきたし,血栓性血小板減少性紫斑病と多臓器 不全を合併した症例 坂田みずき(総合医療教育研修センター) 見られていない。現在抗体を持たない世代への注意喚 58歳女性。10年来皮膚筋炎と間質性肺炎の既往あり。 起が示されている。ICT が院内での情報をコントロー 2011年 3 月に呼吸困難となり,間質性肺炎の増悪にて 190 第 1 回臨床研修報告会 緊急入院となった。その後血小板減少,腎機能低下, 体の動きが止まった。そして S さんは落ち着いて家族・ 破砕赤血球を伴った溶血性貧血,ADAMTS13活性低 友人に別れの言葉を告げ,看護師が家を出た20分後に 下を確認したため TTP の診断にて血漿交換を開始し血 亡くなった。 小板減少を防ぐことができた。TTP と DIC は血小板減 【考察】呼吸困難は患者の自覚症状で,呼吸をする 少,溶血,腎障害等,よく似た症状を示すが鑑別診断 ことに苦痛を感じる表現である。呼吸困難の増悪因子 は容易ではない。今回は ADAMTS-13活性測定により には低酸素血症などの要因だけでなく,心理的な要因 早期診断が可能であった例を経験した。ADAMTS-13 も関わっており,相互に影響を与える関係にある。こ について文献的考察を交えて述べる。 7 .筋炎関連間質性肺炎を疑った 3 例 島崎怜理(総合医療教育研修センター) いずれも発熱・呼吸器症状などを主訴に近医受診, うした観点から,本症例をふり返ってみる。患者は訪 問開始直前まで化学療法,免疫療法などの抗がん治療 を受け,家族と共に生を獲得することを目指していた。 しかし呼吸困難が高度となりモルヒネの持続皮下注を 開始した頃から,患者は死を直視してきたように思わ れる。死亡当日の七転八倒は,患者が家族と別れの話 抗菌薬投与後も軽快しないとして,約 1 ヶ月の経過で をしようとしたが,死を受け入れていない家族には伝 当院受診。胸部 CT で両側下葉優位に気管支血管束周 わらずに,苦しいという言葉でそれを表現したものと 囲の consolidation とスリガラス影,容量減少を認めた。 考えた。この患者の願いと家族の気持ちのギャップを 非特異的な皮疹があり,血清中アルドラーゼ高値のみ 調整したのが,看護師の一言であった。看護師は,普 で明らかな筋炎症状がなかったが,画像から筋炎関連 段から患者にとって自分の気持ちを理解してもらえる の急速進行性の間質性肺炎を考えた。 3 例ともステロ 関係を築いていた。だからこそ死亡直前も同様に,患 イド治療などで軽快した。文献的考察を加え報告する。 8 .がん終末期患者の呼吸困難を経験した 1 例 永井遼太郎(総合医療教育研修センター) 【背景】呼吸困難はがん終末期医療において,QOL 低下を引き起こす大きな問題であり,多くの医療者が 取り組む課題のひとつである。今回,我々は在宅緩和 者の思いをくみ取ることができ呼吸困難症状が緩和さ れた。患者中心のコミュニケーションをもとにした医 療の提供が苦痛困難症状を緩和するためには重要であ る。 9 .急性脳症の 1 例 長岡孝太(総合医療教育研修センター) ケア開始後,呼吸困難が増悪した終末期がん患者を経 験した。呼吸困難を通じて,終末期患者が抱える問題 に焦点を当て,具体的な増悪因子・対処方法を考察し た。 【倫理的配慮】本人が特定されないように配慮した。 【症例】48歳女性,直腸癌・多発肺転移。訪問開始 10.頭部外傷後に発症した成人型 Vanishing White Matter Disease の20歳男性例 古賀俊輔(総合医療教育研修センター) 時の主訴は,労作時呼吸困難・右腸腰筋転移部の疼 症例は生来健康な20歳男性。軽微な頭部外傷を契機 痛。訪問開始時,疼痛はモルヒネの経口投与(1,000㎎) に意識障害と四肢筋緊張亢進が出現し,症状は遷延し でコントロールされていた。一方,多発肺転移の進 た。頭部 MRI では左右対称性の大脳白質病変を認め, 展により呼吸困難は急速に増悪し,SpO2 の低下(酸 内部に FLAIR 低信号域を伴う側脳室周囲白質の T2/ 素 3L で94%→74%)やチアノーゼも出現し,治療を FLAIR 高信号病変という特徴的な所見を認めた。外 必要とする症状は疼痛から呼吸困難に変わった。モ 傷を契機に症状が顕在化した白質脳症という特徴的 ルヒネを持続皮下注射に切り替え,増量(経口換算 な病歴および画像所見より Vanishing White Matter 1,000㎎→2,000㎎)することで呼吸困難は緩和され,コ Disease と診断された。 ミュニケーション可能な状態を維持していた。しかし, それまで落ち着いて看ていた家族から,苦しがってい るので,眠らせることはできないか,と電話があり看 護師が緊急訪問した。訪問した時の光景は,苦しいと 訴えながらも,必死に起きていようとする S さんの姿 だった。そこで,一言……『頑張りましたね,S さん。 11.脳幹部毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)の 1 例 稲葉眞貴(総合医療教育研修センター) 症例は12歳男性,呼吸困難を主訴に当院呼吸器内科 みなさんそばにいますよ』。その瞬間,S さんは目を大 受診。重症睡眠時無呼吸症候群の診断となる。入院時, きく見開き,家族からは苦しがって七転八倒にみえた 重度肥満症,アデノイドを認めた。左上下肢に錐体路 191 第 1 回臨床研修報告会 症状を認めたため頭部 MRI を撮影し脳幹部に造影病変 た。リンゴ病患児との接触歴,関節痛に先行するイン を認めた。また MET-PET で著明な取り込みを認めた。 フルエンザ様の症状,四肢末梢の浮腫を伴う関節痛が 延髄の腫瘍の診断で2011年12月腫瘍摘出術を行った。 あり,パルボウイルス B19IgM 抗体にて本症と確定し 病理診断は pilocytic astrocytoma であった。以上の症 た。成人パルボウイルス感染症は,小児例との比較に 例について文献的考察を加えて報告する。 おいて,皮疹が目立たず,関節症状が主体となること 12.CIDP に呼吸不全を合併した65歳男性例 に注意する。 16.原因不明の腰痛,右下肢痛で他院より紹介と 大谷龍平(総合医療教育研修センター) なった梨状筋症候群の 1 例 症例は多発単神経炎型の臨床症状を呈する非典型 池上亜希子(総合医療教育研修センター) 的 CIDP の65歳男性。発症から約20年で両側横膜神経 麻痺に由来する呼吸不全を合併した。多発単神経炎型 22歳 女 性。 5 年 前 に 発 症 し, 4 ヶ 月 前 か ら 増 悪 し CIDP は治療反応性が乏しいとされるが長期予後は明 た腰痛及び右下肢痛の精査目的で当部を紹介受診し 確でなく,軽∼中等症例における慢性期の免疫治療継 た。体動時の大腿外側から下腿後面への電激痛を認め, 続の是非に関するコンセンサスはない。しかし,長期 Freiberg test 及び FADIR test 陽性であったことから の炎症の持続は高度の軸索変性を生じ不可逆的な神経 梨状筋症候群と診断した。腰椎 MRI で明らかな異常を 障害をきたす可能性があり,治療介入について検討が 認めない場合の坐骨神経痛の鑑別に,梨状筋症候群な 必要である。 どの末梢神経絞扼病変を含めるべきである。 13.当初,純粋自律神経不全症と考えられた AL ア 17.股関節鏡が術式選択に有効であった色素性絨毛 ミロイドーシス70歳男性例 結節性滑液胞炎の 1 例 網野 寛(総合医療教育研修センター) 貞升 彩(総合医療教育研修センター) 経過 3 年で進行した起立性低血圧の70歳男性例。便 35歳女性。 2 年前より右大腿部内側の腫瘤,鈍痛を 秘,排尿障害があり,腱反射低下を認めた。Head up 自覚,腫瘤の増大傾向を認め,近医を受診した。MRI tilt 試験にて重度の起立性低血圧があり,M 蛋白は陰性 上,悪性腫瘍を疑われ当院に紹介受診となった。針生 であった。当初純粋自律神経不全症が疑われたが,心 検,切開生検の結果は色素性絨毛結節性滑液胞炎(以 エコーにて心筋の高輝度変化,末梢神経伝導検査にて 下 PVB)の診断であった。関節内病変の確認のため 末梢神経障害を認めたため,アミロイドーシスを疑い, 股関節鏡を施行したが,腫瘍の浸潤は認めず,後日 腓腹神経生検にて AL アミロイドーシスの診断に至っ 腫瘍摘出術を施行した。股関節鏡施行により Surgical た。 dislocation が回避可能であった PVB を経験したので報 14.強迫性障害と診断されていた統合失調症の 1 例 告する。 18.前腕断端神経腫に対して Centro-central anasto- 中野まどか(総合医療教育研修センター) mosis を行い良好な経過を得た 1 例 症例は40歳女性。30歳より,確認脅迫などの,強迫 山崎貴弘(総合医療教育研修センター) 性障害の症状が出現し,認知行動療法を行うことで, 症状が一部改善したが,36歳頃より,統合失調症の症 症例は27歳男性。平成18年,労災事故にて右前腕不 状が徐々に顕在化した症例を経験したので報告する。 全切断受傷,当院当科にて前腕切断術施行。術後 3 年 なお,発表に関しては,本人,家族の同意を得て,症 後より断端部の疼痛出現し,正中神経に神経腫を触知 例の記載に関しては,匿名性が保たれるように十分配 した。平成23年 3 月より症状増悪し,尺骨神経にも神 慮した。 経腫触知した。断端神経腫に対して神経腫を切除し, 15.遷延する関節痛を主訴に受診したパルボウイル ス感染症の 1 例 花澤奈央(総合医療教育研修センター) 46歳女性。 2 ヶ月前からの関節痛で受診した。前医 で関節リウマチを疑われたが抗 CCP 抗体は陰性であっ 正 中 神 経 と 尺 骨 神 経 断 端 を 縫 合 す る Centro-central anastomosis を施行し,良好な経過を得た 1 例をここ に報告する。 192 第 1 回臨床研修報告会 19.粘膜下腫瘍様の発育形式を呈した胃癌の 1 例 高橋雅史(総合医療教育研修センター) 今回正常胃粘膜に覆われ,壁外へ進展した胃癌症例 を経験した。症例は66歳男性。固形物のつかえ感を主 訴に受診。上部消化管内視鏡検査では正常粘膜で覆わ と診断し緊急人工血管置換術を施行した。腹部大動脈 瘤は破裂部位,及び血腫の広がりの程度により重症度 が著しく異なる疾患である。若干の文献的考察を加え 報告する。 23.診断に難渋した peritoneal unilocular inclusion cyst の 1 例 れた粘膜下腫瘍様病変を認め,腹部 CT では胃壁外へ 金 佑吏(総合医療教育研修センター) 発育した腫瘍を認め,左胃動脈を巻き込み,リンパ節 腫脹も認めた。以上より胃癌を疑い胃全摘術を施行し Peritoneal unilocular inclusion cyst は,内腔が中皮 た。病理診断にて癌細胞は粘膜下層以深に主座が存在 細胞で覆われた稀な漿液性嚢胞疾患である。今回我々 していた。稀な発育形態を示した胃癌症例を経験した は,45歳女性の骨盤内に生じた本症の 1 例を経験した。 ので報告する。 CT 検査で偶然に膀胱を圧排する嚢胞性病変を指摘さ 20.胆道血腫を契機に発見された肝細胞癌の 1 例 西尾匡史(総合医療教育研修センター) 症例は79歳男性。心窩部痛と閉塞性黄疸を認めたた め総胆管結石を疑い ERC・EPT を施行。しかし,EPT 時に胆道から血腫の流出を認め,AFP・PIVKA- Ⅱ高 れ,婦人科,泌尿器科,消化器外科などを受診したが 診断が得られず,当科で切除術を行った。腫瘍は透見 性のある薄い被膜に覆われた漿液性嚢胞で,壁側腹膜 から発生した eritoneal unilocular inclusion cyst と考え られた。若干の文献的考察を加えて報告する。 24.スガマデクスが効かなかった ? 値,CT・MRI で S4 に中心部の造影効果が乏しい肝細 稲垣千晶(総合医療教育研修センター) 胞癌を認めた。以上から,肝細胞癌の胆管内浸潤によ る胆道出血・閉塞性黄疸と診断した。ENBD 留置下で TACE を施行し, ENBD 抜去後も良好に経過した。今回, 胆道出血を来たした肝細胞癌に対し ENBD 留置下での 25.頸管胎盤の 1 例 TACE が有効であった 1 例を経験したので報告する。 21.消化管穿孔をきたした Ehlers-Danlos 症候群の 1例 平島聡子(総合医療教育研修センター) 今回われわれは,頸管胎盤であり,癒着胎盤であっ た 1 例を経験した。症例は37歳, 0 経妊 0 経産。妊娠 戸部 文(総合医療教育研修センター) 29週時に頸管胎盤と診断され,超音波上癒着胎盤も強 く疑われた。36週 0 日にポロー手術を施行し,安全に Ehlers-Danlos 症候群は先天性結合組織疾患で,皮 周術期管理しえた。頸管胎盤は,前置胎盤より癒着胎 膚の過伸展・脆弱性に加え血管の破裂・解離,消化管 盤を合併する率が高く,帝王切開術時に大量出血を来 穿孔などの致命的な症状を呈する。今回は横行結腸穿 す可能性がある。分娩前に正しく診断し,分娩前に子 孔を合併し横行結腸部分切除を施行した 1 例を報告す 宮摘出の可能性や大量出血時の対策などについて,患 る。Ehlers-Danlos 症候群血管型に合併した消化管穿孔 者・家族と十分に相談しておく必要がある。 の手術症例は予後不良で,生存率は50%と報告されて いる。本症例は緊急手術により救命しえたが,今後も 26.正常子宮内妊娠を伴った子宮頚管妊娠の 1 例 厳重な経過観察が必要である。 22.腹部大動脈瘤破裂に対して人工血管置換術を行 い救命した 1 例 若林 豊(総合医療教育研修センター) 症例は75歳男性。既往に DM,HT,AP があるが外 亀井未央(総合医療教育研修センター) 28歳女性, 2 経妊 0 経産。卵管性不妊のため,前医 で凍結胚二個移植を行った。妊娠 5 週 1 日で子宮内に 胎嚢を一つ確認したが, 6 週 0 日には,子宮頸管にも 胎嚢と胎児心拍を認めたため,子宮内外同時妊娠とし て紹介。出血量が増加し,同日シロッカー氏手術と頸 来通院を中断していた。突然の腹痛,背部痛を認め, 管内胎嚢除去術を施行。術後,頸管の妊娠組織は消失 当院救急外来受診。造影 CT にて,最大径56.7㎜の腎動 し,子宮内妊娠も著変なく,術後15日目に退院。現在 脈下型腹部大動脈瘤を認めた。大動脈瘤周囲及び左後 妊娠27週で,頸管に異常所見は認めず,胎児発育も順 腹膜腔に広範に広がる血腫を認め,腹部大動脈瘤破裂 調である。 193 第 1 回臨床研修報告会 27.原発巣同定が困難であった進行癌の 1 例 戸村正樹(総合医療教育研修センター) 症例は51歳女性。腹痛および下腹部腫瘤感を主訴に 前医内科を受診し,CT で卵巣腫瘤を指摘され当院婦 人科紹介となった。 8 年前に乳癌の手術歴,父親と祖 め,来院時の血液培養から肺炎球菌が検出された。肺 炎球菌性髄膜炎の診断で MEPM 2 g × 3 回 /day へ変 更し臨床症状は改善したが,脳膿瘍が出現し増悪。感 染源と思われた左滲出性中耳炎を治療したところ膿瘍 は改善し,入院から約 9 週間後に退院した。 31.耳下腺腺腫脹を初発とした川崎病の 1 例 母に乳癌の家族歴がある。原発性腹膜癌の臨床診断で 山口真璃子(総合医療教育研修センター) 手術が施行されたが,最終病理診断は乳癌の転移で あった。その後の CT で再発が確認され,外来で化学 耳下腺腫脹を初発症状とした川崎病の 1 例を経験し 療法が開始された。本症例では遺伝子疾患である家族 た。入院時より著明な耳下腺腫脹,炎症反応高値,唾 性乳癌卵巣癌症候群が示唆されたため,若干の文献的 液腺アミラーゼ高値であり流行性耳下腺炎が疑われ 考察を含め報告する。 た。その後,胆道系酵素の上昇などを認め,急性膵炎 28.産科麻酔における術後硬膜外鎮痛でのモルヒネ の副作用についての検討 吉村晶子(総合医療教育研修センター) 当院麻酔科では,特にリスクのない帝王切開術にお いて,術後硬膜外鎮痛を行っている。これまで,術後 の疑いで加療したが解熱せず,発熱 4 日目に手掌紅斑, 四肢の硬性浮腫,眼球結膜充血,眼瞼浮腫,口唇発赤 が出現。発熱 5 日目に川崎病の診断にて 2 回の IvIG 療 法を施行したが不応であり,続いてステロイド内服療 法を施行し軽快した。 32.成人に発症した重症型手足口病の 1 例 硬膜外鎮痛の副作用として,嘔気・嘔吐,前胸部の掻 佐藤麻有子(総合医療教育研修センター) 痒感,下肢のしびれの報告があり,硬膜外鎮痛の中止 を余儀なくされる症例も散見された。そこで,嘔気・ 41歳男性。娘が手足口病を発症した 3 日後より発熱 嘔吐,掻痒感の原因として考えられるモルヒネを使用 と咽頭痛が, 4 日後より手掌足底に疼痛を伴う水疱と をせず,下肢のしびれを減少させるべく硬膜外カテー 口腔粘膜疹が出現し,歩行困難であったことから当科 テル留置高を Th11/12への変更を試みた。その結果を 紹介となった。手足口病の診断で,入院の上 1 週間の 検討し,報告する。 安静にて軽快退院となった。入院時の血液検査にてコ 29.健常者に発症した Listeria monoytogenes によ る髄膜炎の 1 例 國分 宙(総合医療教育研修センター) 症例は生来健康な45歳男性。第 3 病日,発熱・後頸 部痛を主訴に救急外来を受診。髄液検査にて細胞数 6,912(多核球82%)と著明な上昇を認め,細菌性髄膜 クサッキー A6 抗体価が 8 倍と上昇を認めた。2011年 はコクサッキー A6 による重症型手足口病の流行を認 めた。当科でも成人に発症した 1 例を経験したため報 告する。 33.高齢発症緩徐進行型 1 型糖尿病 金谷美恵子(総合医療教育研修センター) 炎の疑いにて入院。MEPM にて治療開始したが改善な 84歳女性。喘息で近医加療中だった。2010年 6 月の く,第 8 病日に死亡。その後,髄液培養にて Listeria 時点では HbA1c 6.0%だったが,2011年11月の定期採 monocytogenes(以下 LM)が検出された。LM による 血で血糖値543,HbA1c 12%と急激に悪化を認めたた 感染症は免疫力の低下した乳幼児や高齢者,妊婦に多 め同月当院糖尿病代謝内科紹介受診し精査加療目的で く,健常者で重症化する例は非常に稀であり,文献的 入院。抗 GAD 抗体陽性,インスリン分泌能の低下,臨 考察を加え,報告する。 床経過と合わせて新規高齢発症緩徐進行型 1 型糖尿病 30.細菌性髄膜炎の 1 例 玉地智英(総合医療教育研修センター) 症 例 は74歳 男 性。 発 熱, 意 識 障 害 を 主 訴 に 受 診。 CT,MRI 上明らかな出血,梗塞像を認めず,細菌性 と診断した。高齢発症の 1 型糖尿病は比較的まれであ り,文献的考察も含めて症例を提示する。 34.肺高血圧症合併妊娠の 1 例 小野久子(総合医療教育研修センター) 髄膜炎を考慮し CTRX 2 g 開始して入院した。翌日 27歳女性。 1 経妊 0 経産。20歳から肺高血圧症の治 髄液検査にて好中球の著明増多と糖の著しい低下を認 療を開始。肺高血圧症合併妊娠は妊娠中の母体死亡率 194 第 1 回臨床研修報告会 が約50%との報告もあり,避妊や必要であれば妊娠の 早期中断を推奨されている。しかし,肺高血圧症の重 症度によっては妊娠出産の危険性を十分理解し,慎重 38.顎下腺腫瘍精査で IgG4 上昇を指摘され自己免 疫性膵炎の合併がみられた 2 例 な管理をした上で,妊娠継続が可能な場合がある。本 関 聡美(総合医療教育研修センター) 症例では,早期に入院管理を開始し,呼吸器内科や救 急部などの他科と連携して治療に携わり良好な経過を 症例 1 は60歳男性。左顎下部腫脹出現し腫瘍切除術 得た。 を施行,慢性顎下腺炎だった。IgG4 1350と高値を認め 35.当院における成長期腰椎分離症に対する保存療 法の治療成績 乗本将輝(総合医療教育研修センター) 内科紹介,自己免疫性膵炎と診断された。症例 2 は56 歳の男性。両側顎下部腫脹出現し生検施行。硬化性唾 液腺炎だった。IgG 1348,IgG4 260と高値を認め内科 紹介,自己免疫性膵炎と診断された。顎下腺腫瘍精査 で IgG4 上昇を認め自己免疫性膵炎合併がみられた 2 2011年 2 月までの 6 年間に外来受診した腰椎分離症 例を経験した。耳鼻科疾患を契機に発見される無症状 143例 中,CT,MRI を 撮 像 し た63例 の 病 期 別 治 療 成 の自己免疫膵炎の増加が予想される。 績を調べた。治療期間中,軟性コルセットを装着しス ポーツ活動は中止した。MRI 輝度変化のみの分離前段 階・不全分離例は,全例骨癒合した。初期完全分離例 39.薬物乱用性頭痛に対し,入院による漢方治療が 有効だった 1 例 の骨癒合率は60∼85%だった。分離前段階は平均2.4 ヶ 石田唯人(総合医療教育研修センター) 月と,早期に治癒した。両側分離で,片側進行期+対 側完全分離より進行した症例は骨癒合しなかった。 36.当院で経験した成人孤発性動脈管開存症の 7 症 例の検討 豊田行英(総合医療教育研修センター) 30歳台女性。片頭痛に対して市販の鎮痛薬を20年以 上服用し,徐々に服用量が過剰になった。薬物(鎮痛 薬)乱用頭痛の合併と考えられ,鎮痛薬からの離脱を 目的として入院した。外来処方の大柴胡湯エキスと桂 枝茯苓丸加薏苡仁エキスを継続し,頭痛の増強時には 五苓散エキスを頓用としたところ鎮痛薬を要しなくな 動脈管開存症(PDA)は先天性心疾患の7.1−11%を り, 頭 痛 は Numerical Rating Scale で10/10か ら 6/10 占める頻度の高い疾患である。短絡の程度によっては 程度まで改善したため退院した。 幼少期に無症状で経過し,成人になって指摘されるこ とも多い。PDA は超音波など心臓画像検査において通 40.悪性中皮腫との鑑別診断に苦慮した肺癌の 1 症例 常の観察部位に含まれず,症状も非特異的で時にその 太田佑樹(総合医療教育研修センター) 発見は困難である。今回我々は当院の循環器 CT 検査 にて成人で孤発性 PDA 開存を認めた連続 7 症例を検 症例は77歳男性。左側腹部痛を主訴に当院受診。CT 討し,その診断に至った経緯や症例の特徴につき考察 では左下部胸膜がびまん性に肥厚し,一部胸壁・横隔 膜への直接浸潤像を認めた。アスベストの暴露歴,胸 した。 37.両側頚部化膿性リンパ節炎と肺病変を呈した Mycobacterium fortuitum 感染症の 1 例 鈴木健一(総合医療教育研修センター) 今回我々は,発熱,両側頚部化膿性リンパ節炎,肺 感染症を発症した健康成人の M. fortuitum 感染症の一 例を経験した。本症例は入院による IPM/CS, AMK, LVFX, CAM による 4 剤の治療と,引き続き外来によ る LVFX, CAM による内服加療が奏功した 1 例であっ た。M. fortuitum の頚部化膿性リンパ節炎,肺感染症 の併発の報告例は少ないため,若干の文献的考察も含 めて報告する。 水ヒアルロン酸高値を認め,悪性胸膜中皮腫が疑われ たが気管支鏡検査,胸水検査では悪性所見を検出でき なかった。2 ヶ月間の経過で急速に全身への多発転移 の出現,増大を認め,生前の確定診断に至らぬまま死 亡した。診断確定のために剖検を行い,肺多形癌の診 断となった。 41. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に重複下大静脈を合 併した患者に対して下大静脈フィルターが奏効 した 1 例 木下 拓(総合医療教育研修センター) 51歳女性。2010年 6 月近医にて Protein S 欠損症によ る慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の診断となっ た。治療評価目的に2011年11月 7 日当科紹介。精査の 195 第 1 回臨床研修報告会 結果,中枢性の血栓と重複下大静脈を認めた。10月に 当院にて右側の下大静脈フィルターを留置し,11月21 45.不妊症に対して,帝王切開後子宮瘢痕部楔状切 除術を行った 1 例 日血栓内膜除去術を施行。術後経過は良好であり,右 心カテーテル検査では肺動脈圧の低下および肺血管抵 林 若希(総合医療教育研修センター) 抗の改善を認めた。 42.愛情遮断症候群による低身長が疑われた 1 例 冨永真以(総合医療教育研修センター) 症例は36歳女性。 2 経妊 1 経産。2000年自然妊娠し, 帝切にて出産。2004年より不妊治療開始し,体外受精 を約10回行うも妊娠せず,2010年 1 月,不妊症を主訴 に千葉大学病院産婦人科紹介受診。エコー,MRI より 9 歳男児。 8 歳くらいから周りとの身長差が気にな 帝王切開創の離解を認め,流産後その部位に血液が貯 りだしたため近医受診。−3.2SD の低身長を認めたた 留し不妊の原因となっていると考えられたため,子宮 め,内分泌学的な精査必要と判断され当院紹介受診。 瘢痕部切除術を行った。帝切後続発性不妊を認める場 精査の結果,明らかな内分泌疾患や低身長の家族歴は 合,子宮創部陥凹性瘢痕の検査を行う必要があると考 なく,骨系統疾患など低身長をきたす疾患は見つから えた。 なかった。家庭環境が複雑であり,愛情遮断症候群が 疑われた。IGF-1 の推移より,低身長の原因として, 機能性の GH 合成・分泌不全もしくは機能性の GH 不応 症であることが予測された。 43.急性の単関節炎で発症した関節リウマチの 1 例 雨宮正和(総合医療教育研修センター) 46.Hyperleukocytosis を呈した AML の 1 例 下村 巌(総合医療教育研修センター) 症例は 2 歳男児。2011年 6 月24日,発熱を繰り返し たため前医を受診し,血液検査にて急性白血病が疑 われ当院小児科紹介入院となった。入院時血液検査 で は,WBC 19.8万 /µl(blast 94.4%),Hb 7.0g/dL, 51歳男性。 2 週間前からの右膝の疼痛,腫脹の精査 Plt 16.5万 /µl と白血球数は著増していた。骨髄穿刺を 目的で当部を紹介受診した。右膝関節に腫脹,熱感, 施行し,急性骨髄性白血病 M5a と診断した。初診時 および運動時痛を認め,関節液に結晶や細菌は認めな Hyperleukocytosis を呈しており,同日緊急的に交換輸 かった。同時期から朝のこわばりを自覚しており,血 血を行い,重篤な合併症なく化学療法開始に至った 1 液検査にて血沈亢進,RF および抗 CCP 抗体陽性であっ 例について報告する。 たことから関節リウマチと診断した。急性の単関節炎 の鑑別に早期関節リウマチを含める必要がある。 44.食後嘔吐を主訴に内科外来を受診した 1 例 古川 傑(総合医療教育研修センター) 患者は84歳女性。主訴は食後嘔吐。 2 日前より食後 に悪心,嘔吐が見られ,内科外来受診。消化管通過障 害を疑い胸腹部 CT を撮影したところ,胸部下部食道 の著明な拡張を認めた。その後の上部消化管内視鏡検 査で胸部下部食道に多量の食物残渣(木耳,蒟蒻など) の停留を認めたため,内視鏡的に除去したところ同部 位の尾側に狭窄(加齢に伴う食道裂孔ヘルニアの疑い) が見られた。その後は食事摂取可能となり,嘔吐も消 失した。