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人口オーナス下の地域の成長戦略

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人口オーナス下の地域の成長戦略
人口オーナス下の地域の成長戦略
小峰 隆夫
法政大学大学院 政策創造研究科 教授
アベノミクスは、景気を順調に拡大させつつ
も大きな課題を突きつけることになり、これを
ある。しかし、これは主に円安や公共事業の拡
乗り越えていくためには、地域の成長力を高め
大という短期的な要因によってもたらされたも
ていくことがますます重要となる。人口変化が
のだ。この景気拡大を長期的な成長につなげて
ほぼ必然である以上、これからの地域の成長戦
いくには、アベノミクスの第3の柱 「成長戦略」
略は人口の変化を踏まえた上での成長戦略であ
の効果的な実行が必要となる。この時重要なのは、
ることが必然的に求められることになる。
地域の視点からも成長戦略を考えていくことだ。
そこで本稿では、人口変化との関係に絞って地
域の成長戦略を考えていくことにする。まず、人
求められる地域からの成長戦略
日本全体の成長戦略と地域からの成長戦略は、
同時一体的に考えていく必要がある。それは次
口がこれからの地域をどう変えようとしているの
かを概観した後、特に「人口オーナス」という観
点から地域の成長戦略について考えてみる。
のような理由による。
第1に、日本全体の成長と地域の成長は相互
人口減少とこれからの地域
に関係しあっている。各地域の経済を合成した
人口という視点からこれからの地域を考えて
ものが日本の経済なのだから、日本経済全体が
みよう。国立社会保障・人口問題研究所の「日
不調であれば、地域経済もまた不調に陥らざる
本 の 地 域 別 将 来 推 計 人 口( 推 計 は 5 年 刻 み で
を得ない。経済の活性化を図る場合にも、各地
2040年まで)
」(2013年2月)に基づいて、地域
域がその持てる資源を十分に活用して潜在的な
別の人口の将来を展望すると、次のような姿が
成長力を十分に発揮していけば、日本全体の成
明らかとなる。
長力も十分に発揮されることになるだろう。
第2に、地域格差の問題がある。当然ながら、
まず人口減少について考えよう。今後は日本
全体の人口が減少するのだから、地域別に見て
経済構造には地域差があるから、地域の成長率
も人口が減るのは当然だ。推計によると、2015
にも格差が出る。例えば、2010年度の場合(こ
年から2020年には46都道府県(例外は沖縄だけ)
れが県民経済計算としては最新のデータ)、全都
で人口が減少するが、2020年から2025年には全
道府県合計の成長率は2.31%だったのだが、最も
ての都道府県の人口が減少する。市町村別にみ
高い成長率は山梨県の9.3%、最も低い成長率は
ても同じである。2015年から2020年には全1,683
鳥取県のマイナス1.9%だった。一人当たり県民
自治体のうち90.3%が人口減少となるが、2025年
所得という面でも、最高は東京都の431万円、最
から2030年にはこれが96.7%、2035年から2040年
低は沖縄県の203万円で、2倍以上の差がある。
では98.4%となる。日本の全地域が人口減少を前
成長戦略の成果が全国に行き渡るようにするた
提としてそれぞれの地域の経済社会を考えてい
めには、こうした地域間格差をなるべく小さく
かなければならないということである。
していくことが必要だ。
問題は、この人口減少度合いには地域差が大
第3に、人口問題を考えるとさらに成長が重
き い こ と だ。 都 道 府 県 別 に、2040年 の 人 口 が
要となる。今後予想される人口変化は、地域に
2010年に比べてどの程度減少するかを見ると、
’
14.7
4
小峰 隆夫(こみね たかお)
【研究分野】
日本経済論、経済政策論、人口と経済、地域再生
1947年生まれ
法政大学教授(大学院政策創造研究科)
日本経済研究センター理事・研究顧問
【主な著書】
「データで斬る世界不況」(日経BP社、2009年)、
「人口負荷社会」(日本経済新聞出版社、2010年)、
「最新日本経済入門第4版」(日本評論社、2012年)、
「日本経済論の罪と罰」
(日本経済新聞出版社、2013年)
など多数
【主な経歴】
1969年 東京大学経済学部卒業
同 年 経済企画庁入庁
1997年 経済研究所長
1998年 経済企画庁物価局長
1999年 経済企画庁調査局長
2001年 国土交通省国土計画局長
などを経て、2003年より現職
東京は6.5%程度なのだが、秋田県は実に35.5%、
青森県は32.1%も減る。
ることは想像に難くない。
しかし、これまでも都市集中の動きは強まる
市町村別に見ても同じである。2010年と2040
時期と弱まる時期が交互に訪れているから、現
年を比較すると、この間に人口が4∼6割も減
在の傾向が長く続くという想定はやや極端かも
る自治体が全体の22%、2∼4割減少が46.6%と
しれない。いずれにせよ、この部分は不確実で
なる。簡単に言えば、約半数の自治体は人口が
あり、今後変わりうる余地が大きい、またはわ
半分以下になるということだ。
れわれの努力で変えうる余地もまた大きいこと
なお、地域別人口の将来展望に関しては、最近、
に留意する必要がある。
増田寛也氏を中心とする日本創成会議の「人口
減少問題検討分科会」が、
「提言 ストップ少子
化・地方元気戦略」という報告の中で、新たな
地域別人口推計を明らかにして話題になった。
増田氏らのグループは、前述の国立社会保障・
「率」 で見た高齢化と 「数」 で見た高齢化
次に、高齢化という観点から地域の人口問題
を眺めてみよう。
日本の人口が高齢化していくことは誰もが
人口問題研究所とは異なった推計を行っている。
知っている。国立社会保障・人口問題研究所の
すなわち、国立社会保障・人口問題研究所の推
人口推計(2012年1月、出生率・死亡率中位、
計は、人口移動率がやがて一定レベルに収束す
以下同じ)によると、65歳以上の老年人口が人
ることを前提としているのだが、日本創成会議
口に占める割合は、2010年の23.0%から、2040年
では、地域間の人口移動が将来も収束しないケー
36.1%、2060年39.9%と上昇していく。これが多
スも推計しているのだ。
くの人が思い描く高齢化のイメージなのだが、
その上で、若年女性人口が2040年に5割以上
これは「率」で見た高齢化である。
減少する市町村を「消滅可能性都市」だとし、
これに対して、「高齢者の数が増えることが高
その数は896と全自治体の約半数(49.8%)にも
齢化である」と考えて、
「数」で高齢化の姿を見
上るとした。また、その中で人口規模が1万人
ると、かなりイメージが変わってくる。同じ人
を切る523の市町村(全体の29.1%)は、さらに
口推計によれば、将来の高齢者人口は、2010年
問題が深刻であるとして、これらの地域は 「こ
の2,948万人からしばらくの間は増え続けるのだ
のままでは消滅の可能性が高い」 という衝撃的
が、そのピークは2042年の3,878万人であり、そ
な結論を示したのである。
の後は減り始め、2060年には3,464万人となる。
地域別人口推計の中で、もっとも想定が難し
これは2016年の高齢者数と同じである。つまり、
いのが地域間の人口移動をどう見るかである。
数で見ると、今後しばらくの間は高齢化が進む
このところ、地方から都市部、特に東京圏への
が、やがて「負の高齢化」が進み、元に戻って
人口移動が続いているので、それが2040年まで
くるのである。
続いたら、多くの地方市町村は壊滅的な姿にな
これを地域別に見ると、率と数の違いはさら
’
14.7
5
に鮮明になる。前述の国立社会保障・人口問題
な大きな問題が浮かび上がってくる。
研究所の地域別人口推計によると、高齢者の比
しばしば「高齢化の進行の中で、今後は医療・
率は、2040年まで全ての都道府県で上昇する。
介護が産業としての成長分野になる」と言われ
この点は全国と同じである。つまり、率でみた
る。しかし、地方部ではやがて高齢者の数が減っ
高齢化は続くということだ。
ていくので、医療・介護需要も減っていくはず
し か し、 こ れ を 数 で 見 る と、 高 齢 者 の 数 は
2020年まではすべての都道府県で増加するのだ
が、その後は減少に転ずる県が現われはじめる。
だから、産業としてはあまり期待できないこと
になる。
逆に、大都市圏では、このまま推移すると、
例えば、秋田県、島根県、高知県の高齢者人口
やや想像を絶する医療・介護需要が発生するこ
は減少を続けて、2040年の高齢者数は2010年を
とになりそうだ。私は、日本経済研究センター
下回るまでになる。
の松崎いずみ氏と、2040年時点での地域別の要
一方、数で見た高齢化が圧倒的規模で進行す
介護者数を推計したことがある。その結果を示
るのが大都市圏だ。図表1は、都道府県別に65
したのが図表2なのだが、2040年の要介護者は、
歳以上の高齢者数を2010年と2040年で比較した
東京都単独でも71万人、東京、千葉、神奈川、
ものだ。これを見ると、高齢者の増加分のほと
埼玉を合わせると205万人となる。東京都の全国
んどは、東京、神奈川、大阪、愛知、埼玉など
総数に占めるシェアは9%、これに千葉、神奈川、
の大都市圏で生ずることがわかる。
埼玉を合わせると27%となる。要介護者の4分
こうして「数」で高齢化を見ると、次のよう
の1は、首都圏に集中するということである。
図表1 地域別に見た高齢者人口の推移
(万人)
450
400
350
300
2040年
2010年
250
※全国
(2010年2,948万人→2040年3,868万人)
200
150
100
50
0
東神大愛埼千北兵福静茨広京宮新長岐栃群福岡三熊鹿滋奈愛沖長山青岩石大宮山富秋香和山佐福徳高島鳥
京奈阪知玉葉海庫岡岡城島都城潟野阜木馬島山重本児賀良媛縄崎口森手川分崎形山田川歌梨賀井島知根取
都川府県県県道県県県県県府県県県県県県県県県県島県県県県県県県県県県県県県県県山県県県県県県県
県
県
県
(注)左から2040年で人口の多い順に配置。下記資料を基に日本経済研究センターの松崎いずみ氏が作成。
(資料)「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)、全国は平成24年1月推計
’
14.7
6
図表2 地域別に見た介護サービス受給者の見通し
(千人)
800
700
600
2040年
500
2010年
400
300
200
100
0
東神大埼北愛千兵福静広京茨新宮長岡群岐熊福三栃鹿長愛青奈沖滋山大岩石宮富和秋山香徳佐福山島高鳥
京奈阪玉海知葉庫岡岡島都城潟城野山馬阜本島重木児崎媛森良縄賀口分手川崎山歌田形川島賀井梨根知取
都川府県道県県県県県県府県県県県県県県県県県県島県県県県県県県県県県県県山県県県県県県県県県県
県
県
県
(出所)小峰隆夫・松崎いずみ「人口オーナス下の地域再生:要介護者推計を中心に」日本経済研究センター「地域から考える成
長戦略」研究分科会最終報告第6章(2013年3月)より
医療についても同じようなことになるだろう。
というのは、人口の動きが経済にプラスに作用
現在のシステムのままで、これほど多くの医療・
する状態を示す言葉であり、概ね、従属人口指
介護需要を処理することはほぼ不可能だろう。
数(「老年人口と年少人口の合計」を「生産年齢
このように、今後、医療・介護需要の現われ
人口」で割ったもの)が低下している局面がこ
方が、都市部と地方部で大きく異なることを考
れに当たる。逆に、従属人口指数が上昇するの
えると、都市部において増加する需要を地方で
が「人口オーナス(人口の重荷)」である。
対応するという、地域間調整の考え方が必要と
少子化が始まってしばらく経つと、高い出生
なってくるかもしれない。具体的には、高齢者
率の時代に生まれた人々が生産年齢人口になっ
の地方部への移住を促進したり、地方部の介護
ていくため、従属人口指数は大きく低下する。
施設を都市部の要介護者が利用できるようにす
この時が人口ボーナスの時代であり、日本の高
るといったことが考えられる。
度成長の時代がこれであった。
しかし、さらに時間が経過すると、新たに生
日本の地域を襲う「人口オーナス」の波
産年齢人口に加わってくる人の数は減っていく
次に「人口オーナス」という観点からこれか
一方で、かつて出生率が高まった時代に生まれ
らの地域を考えてみよう。まず 「人口オーナス」
た人々が次々に高齢者になっていくため、従属
という概念を簡単に解説しておこう。
人口指数は上昇していく。これが人口オーナス
「人口オーナス」は「人口ボーナス」の逆の概
の時代であり、日本は1990年頃からこの段階に
念として出てきたものである。
「人口ボーナス」
入っている。人口オーナスの下では、労働力人
’
14.7
7
口が不足したり、貯蓄率が低下したり、社会保
移動を引き起こす。すると、地方部の人口オー
障制度が行き詰まったりする。このように見て
ナスはますます加速してしまう。つまり、人口
くると、人口オーナス現象こそが人口問題にとっ
オーナス度合いの差が発展性の格差を生み出し、
ての根本的な問題だと言える。
その格差が人口移動を引き起こすことによって
この人口オーナスは、地域にとっても大きな
人口オーナスの地域差をさらに大きくし、それ
問題となる。地域で人口オーナスが進むと、地
が発展性の格差をさらに拡大させるという悪循
域の働き手が少なくなるため、地域の活力が衰
環が生じているのである。
えることになるからだ。そこで地域別に従属人
この悪循環を防ぐには、地域の安定的な雇用
口指数の状況を見ると(図表3)、過去(1970年)
、
機会を増やし、生産年齢人口の移動を小さくし
現在(2010年)、将来(2040年)いずれも、概ね
ていくことが必要だ。これこそが日本の地域か
発展性の高い都市部(東京、神奈川など)で人
らの成長戦略の最大の政策目標であろう。
口オーナスの度合いが低く、発展性が低かった
地方部(島根、秋田など)でその度合いは高い
ことが分かる。
成功事例から導かれること
ここで述べてきたような人口オーナスという
こうした発展性の格差は、発展性の低い地方
逆境を乗り越えて、地域を活性化させることは
部から発展性の高い都市部への生産年齢人口の
難しい課題である。しかし、立派に成果を上げ
図表3 都道府県別に見た人口オーナス
従属人口指数【(年少人口+老年人口)/生産年齢人口】の都道府県別推移
110
100
90
80
70
60
50
40
30
20
1970年
2010年
2040年
10
0
東神埼千愛沖宮栃大滋福茨京北兵奈群石静広三山岐青福岡新佐香福富徳熊愛長鳥大宮岩和鹿長山山高秋島
京奈玉葉知縄城木阪賀岡城都海庫良馬川岡島重梨阜森島山潟賀川井山島本媛崎取分崎手歌児野形口知田根
都川県県県県県県府県県県府道県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県県山島県県県県県県
県
県県
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(2013年3月)より
1970年は、同所Webサイト掲載の「人口統計資料集」2013年版より
(出所)日本経済研究センター松崎いずみ氏の作成による
’
14.7
8
ている地域もある。私が最近実見してきた地域
事例の共通項を絞り込んでみると、次のような
の例として、島根県海士町と長野県下條村のケー
ことになるのではないか。
スを紹介しよう。
第1は、結局は「人」が重要ということである。
島根県隠岐島の海士町は、町長の強力なリー
「人」といってもその姿は多様であり、「ビジョ
ダーシップの下で、Iターン者が集まるようにな
ンと熱意を持って全体をリードする人」「地域資
り、人口の社会移動がプラスになっている。海
源を見出して、それを活性化のため資源として
士町は、財政が危機的状況になる中で、町長を
育てていく人」「それぞれの地域の現場で活動す
初めとして職員が給与をカットして地域再生に
る人」など、多くの「人」が関係している。地
取り組み、岩ガキなどのブランド化、CAS(細胞
域活性化が一時的な成功に終わることなく、持
を壊すことなく保存できる急速冷凍施設)の導入、
続的なものとなっていくためには、地域を支え
地元高校の活性化の取り組みなどにより、地域
る人材を継続的に再生産していくような仕組み
再生のモデル地区として、見学者が引きも切ら
が必要であろう。こうした点については、日本
ない状況となっている。
全体の人の流動性を高めていくこと、今後大量
長野県の下條村も、町長の強いリーダーシッ
に発生する団塊の世代の退職者を地域再生に生
プの下に、まずは村役場の職員全員を民間のホー
かしていくこと、女性の力を活用していくこと、
ムセンターに派遣して意識改革を行い、財政を
大学などの組織的な教育機関との連携を深める
健全化した。その上で、自己資金で低家賃の住
ことなどが有効な施策の方向として考えられる
宅を建設し、子育て層の移住を促進した。その
だろう。
結果、一時は出生率が2を上回るという成果を
挙げた。
特に、地域のリーダーの役割は重要だ。前述
の海士町や下條村には多くの見学者が来るのだ
また、海外では、ヨーロッパ諸国の農林水産
が、これら地域の真似をして活性化に成功した
業が注目される。欧州の先進諸国では、農林水
地域はあまり見られない。おそらく地域のリー
産業の生産性を高め、高い所得を稼ぎ出す産業
ダーは、ある程度のリスクを覚悟で、特定の方
として地域経済を支える例が続出している。そ
向に地域をリードする必要があるのだろう。そ
の主な例としては、オランダの農業、デンマー
のリードがツボにはまれば、成功事例になりう
クの養豚業、ノルウェーの漁業、フィンランド
る。しかし、「誰か勉強して来い」 といって関係
やドイツの林業などがある。いずれも、イノベー
者を送り込むだけでは、結局似たり寄ったりの
ションの仕組みが整備されていること、経営・
活性化策しか出て来ず、その多くはうまくいか
流通・マーケティングなどの幅広い科学や知識
ないということになってしまうのではないか。
の活用が図られていること、業界と大学が協力
第2は、民間活力を十分に発揮させていくこ
して人材育成に取り組んでいることなどが共通
とだ。官主導型の場合は、首長の交代、予算の
している。
制約、選挙の結果などにより政策の方向が一貫
こうした事例を真似すればいいというわけで
はないことは言うまでもないが、強いて、成功
しない場合がありうる。民間の経済主体による、
収益性に基づいた地域再生が軌道に乗れば、イ
’
14.7
9
ンセンティブも継続するから、継続的な活動が
散」を促進するというコンセプトが維持されて
行えるようになるはずである。こうした観点か
きた。しかし、この考え方もまた時代に合わな
らは、ソーシャル・ビジネスの推進、起業の促進、
くなってきており、近年ではむしろ 「集中化」
産官学の連携、地域ブランドの確立などが必要
が志向されるようになってきた。サービス化の
となろう。
流れや情報通信革命が都市集中をもたらし、人
第3は、経済社会の大きな流れに乗ることだ。
口減少の中でコンパクトな地域づくりを目指す
地域にあっても、日本全体の流れに抗すること
ようになってきたからである。企業、研究機関
は出来ない。経済・社会の大きな流れを見極め、
などが地域的に集まることによって相乗効果を
こうした流れに沿った成長戦略を考えることが
発揮していくという「クラスター」の考え方も、
有効であろう。こうした流れの例としては、
「グ
集中化の動きの一つである。
ローバル化の進展」「豊かな文化的活動への欲求
の高まり」「再生エネルギーへの期待の高まり」
「嗜好の多様化」などが考えられる。自らが保有
する地域資源と経済社会の流れを踏まえた成長
戦略が必要となろう。
また、地域ごとにどんな発展の方向を目指す
かという点についても、全国一律ではなく、各
地域が地域資源を生かして個性的な方向を目指
すようになってきた。
第3は、「どんな地域を対象にするか」という
点である。地域政策はもともと「伸ばすべき地
求められる地域づくりのイノベーション
域を伸ばす」政策と、
「取り残された地域を救う」
地域からの成長戦略をさらに有効にしていく
という政策に二分されるのだが、従来型の地域
ためには、地域づくりのイノベーションが必要
づくりは、政策の中心は「遅れた地域をいかに
である。その方向としては次のようなことが考
救うか」ということだった。
えられる。
しかし、近年のように成長率の底上げが求め
第1は、「誰が地域の活性化を担うのか」とい
られるようになると、地域においても、地域の
う点だ。従来型の地域づくりでは、国が地域政
成長力をいかに最大限に発揮するかが問われる
策の主役だった。国土作りについての基本的な
ようになってきた。もちろん、後進地域への配
方針は国が策定する「全国総合開発計画」によっ
慮は必要だが、これからは「本当に必要な地域
て示され、それに基づいて国の施策が次々に立
を選択的に助ける」ことが求められる。地域づ
案されていった。しかし、こうした国主導型の
くりは「伸びる地域をできるだけ伸ばし、立ち
地域政策は、財源の制約などにより限界に達し
遅れた地域は対象を絞って集中的に助成する」
た。それに代わって近年では、地方が開発の主
という方向に進むべきだろう。
役になり、地方政府、企業、大学、NPO、市民
第4は、どんな手段を使うかである。従来型
など多様な主体が地域づくりに参画するように
の地域づくりでは、公共投資の拡大を中心とし
なっている。
たハード路線が中心であった。しかし、この方
第2は、「どんな方向を目指すのか」というこ
式もまた限界に達しており、近年では、ハード
とだ。従来型の地域づくりでは、
「集中」を抑え「分
面よりも、歴史的な伝統や人間同士の信頼関係
’
14.7
10
などの「ソーシャル・キャピタル」をベースと
して地域を成長させていくという考え方や、大
学、研究拠点、起業環境などの知的資源を組み
合わせることによって地域の成長力を高めてい
くという発想が強まりつつある。
各地域がどうやってこうしたイノベーション
を進めていくかに地域の将来がかかっているよ
うに思われる。
(参考文献)
・ 経済財政諮問会議地域の未来ワーキンググループ
(2014)「主査サマリー ∼集約・活性化と個性を活
かした地域戦略∼」2014年5月
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/
future/0513/shiryou_03.pdf
・ 国土交通省国土審議会長期展望委員会(2011)
「国土
の長期展望 中間とりまとめ」
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_
sg_000030.html
・ 国立社会保障・人口問題研究所(2013)
「日本の地域
別将来推計人口−平成22(2010)∼ 52(2040)年
−(平成25年3月推計)
」
http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson13/
6houkoku/houkoku.asp
・ 日本経済研究センター 希望と成長による地域創造
研究会(2013)「地域振興の主役は地域、成否のカギ
は『人材』」2013年3月、
「地域から考える成長戦略」
研究分科会最終報告
http://www.jcer.or.jp/report/research_paper/
detail4583.html
・ 日本創成会議(2014)
「人口減少問題検討分科会 提
言 ストップ少子化・地方元気戦略」
http://www.policycouncil.jp/
・ 増田寛也+人口減少問題研究会(2013)「2040年地
方消滅。『極点社会』が到来する」中央公論、2013年
12月号
・ 増田寛也+日本創生会議・人口減少問題検討分科会
(2014)
「 ス ト ッ プ『 人 口 急 減 社 会 』」 中 央 公 論、
2014年6月号
’
14.7
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