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QoS モニタシステム

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QoS モニタシステム
QoS モニタシステム
QoS モニタシステム
QoS Monitoring System
水 田 淑 也 *1
永 田 和 生 *2
MIZUTA Toshiya
NAGATA Kazuo
三 宅 正 二 *2
松 浦 裕 之 *3
MIYAKE Shouji
MATSUURA Hiroyuki
インターネットの普及に伴い,ネットワークのサービス品質(QoS:Quality of Service)
が重要となっている。
QoS の評価・常時監視を目的として QoS モニタシステム
(QoS プローブ,QoS マネージャソフトウェア)を開発
した。ネットワークのエンド−エンドに設置したQoSプローブIQ1000によりユーザ実パケットをパッシブ測定
し,測定データを QoS マネージャソフトウェアに転送・収集,解析し,片方向ずつのパケット遅延時間,遅延
揺らぎ,パケットロス,帯域
(スループット)を求める。実パケットの測定は専用ハードウェアにより行い,取
りこぼしのない確実な測定を実現するとともに,測定は全てリアルタイムで行われ,連続測定が可能である。ま
た,QoSマネージャソフトウェアは,ネットワーク管理用プロトコルSNMP MIB出力を備え,一般的なネット
ワーク管理ソフトに,QoS モニタシステムを組み込むことが可能である。
With the explosive growth of the Internet, Quality of Service (QoS) over the networks becomes
important. In order to evaluate the networks, we have developed the QoS Monitoring System with QoS
Probe and QoS Manager Software. The QoS Probe IQ1000 captures and measures the users’ actual
packets with passive measurement, and then transmits the measured data to the QoS Manager Software. The QoS Manager Software collects the measured data and calculates packet delay (latency),
latency variation (jitter), packet loss and bandwidth (throughput) of each one-way end-to-end communication networks. The IQ1000 has the dedicated hardware, so that it assures less packet-capturing
loss. With Simple Network Management Protocol Management Information Base (SNMP MIB) function, the QoS Monitoring System can be incorporated into general network management software.
1.
は じ め に
インターネットは,ネットワーク全体で最大限の努力
ターネット電話では,ネットワーク上で発生するパケッ
ト遅延時間や遅延揺らぎの大きさにより,著しく音声の
品質に影響を与えたり,通話が途切れたりする。
はするがサービスの保証のない,いわゆるベストエ
高品質な通信サービスの実現のためには,ネットワー
フォート型で発展してきた。しかし,インターネットの
ク機器の開発,ネットワークの導入・試験・運用の場面
爆発的な普及に伴い,ユーザがキャリア
(通信事業者)や
で,それぞれネットワークの特性測定が必要となる。QoS
ISP(Internet Service Provider)
に対して求めるものは,
従来のベストエフォート型から,サービスの品質(QoS:
Quality of Service)
の重視へと変化しつつある。特に,通
信技術や画像圧縮技術などが進歩してきたことで,VoIP
(Voice over Internet Protocol)や画像伝送,音楽配信,
インターネットビデオ会議,対戦ゲームなどのリアルタ
イムアプリケーションが現実となり,インフラとしての
通信の質が問われている。例えば,VoIPを利用したイン
*1 通信事業センター 技術部 1 部
*2 通信事業センター 技術部 2 部
*3 R&D センター フォトニクスデバイス PJT センター
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図 1 QoS プローブ IQ1000 の外観
横河技報 Vol.46 No.2 (2002)
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QoS モニタシステム
QoS Manager
Software
Carrier/ISP
Network
QoS Probe
QoS Probe
PBX
Voice Gateway
QoS Probe
QoS Probe
Router
Servers
Router
NY
LA
Los Angeles office
VoIP
Latency
Jitter
Packet Loss
Throughput
New York office
VoIP
図 2 システム構成例
制御方式としてMPLS
(MultiProtocol Label Switching)
,
御・フィルタリングなどが行われており,テストパケッ
Diffserv
(Differentiated Services)
などの技術開発が進め
トとユーザ実パケットとの取り扱いが異なる場合に,特
られているが,これらを実現するネットワーク機器の開
に問題である。また,テストパケットそのものが対象
発において,品質測定が重要である。特に運用の場面で
ネットワークに負荷をかけることになる。さらに,ユー
は,サービス向上のために通信品質を常時監視し,異常
ザのサーバやクライアント内のソフトウェアによりアプ
の発生やその原因を早期に発見し,正常化しなければな
リケーションのパフォーマンスを測定する場合には,
らない。キャリア,ISP はサービスレベルの明確化,客
ネットワークのみのパフォーマンスを切り分けられない。
観的評価を進めており,一部の ISP で,アベイラビリ
パッシブ測定は,ユーザ実パケットそのものを測定す
ティ,障害通知時間,月平均往復遅延時間,月平均パケッ
るため,正確な評価が可能であり,テストパケットを発
トロスなどを保証する SLA
(Service Level Agreement)
生しないため,対象ネットワークに負荷をかけずに測定
を開始している。今後,プレミアムなSLAのため,より
できる利点がある。問題としては,ユーザ実パケットを
詳細な測定の必要性が高まると考えられる。
取りこぼしなく確実に測定するためには,高速な処理が
このようなネットワーク特性評価・管理のために品質
必要となることである。
QoS モニタシステムは,専用ハードウェアによりパッ
測定を随時行い,また,SLAのための品質測定で常時監
視を目的として,QoS モニタシステム(QoS プローブ,
QoSマネージャソフトウェア)
を開発した。QoSプローブ
IQ1000 の外観を図 1 に示す。
2.
ネットワーク品質測定技術
ネットワーク品質の尺度,即ちQoSパラメータとして
は,主に次の 4 つがある。
・パケット遅延時間 ・遅延揺らぎ
・パケットロス ・帯域
(スループット)
これらのパラメータの測定方法には,アクティブ測定
とパッシブ測定がある。
シブ測定を行う。
3.
システム構成・特長
QoSモニタシステムは,所望の測定点にQoSプローブ
を設置し,ネットワーク上を流れるパケットを測定する。
各QoSプローブの測定データを,専用ソフトQoSマネー
ジャソフトウェアをインストールした管理パソコンに転
送・収集し,QoS パラメータを求める。
IP-VPN
(IP Virtual Private Network)
サービスを応用
したVoIP内線電話の評価を例として,QoSモニタシステ
ムの構成を図2に示す。この例では,Los Angelesオフィ
アクティブ測定では,テストパケットの送受信により
スと New York オフィス間の VoIP 電話に着目し,キャ
ユーザパケットをエミュレートして測定する。測定の相
リアのエンドポイントである図中LA,NY点に,それぞ
手となる機器に,通常の IP 機能のみ必要なもの(例:
れ QoS プローブを設置している。
ping)
と,機器内へエージェントソフトウェアなどをイン
LA点のQoSプローブは,通過するパケットのうち,指
ストールする必要があるものとがある。例えば,往復遅
定されたパケットの指定部分のみを,通過時刻のタイ
延時間RTT
(Round Trip Time)
,パケットロスは標準的
ムスタンプとともに QoS プローブ内のメモリに保存す
な ping により測定可能である。アクティブ測定の欠点
る。NY点に設置したQoSプローブでも同様に保存する。
は,測定結果とユーザ実パケットとのずれや測定自体が
両者のメモリ内の測定データを QoS マネージャソフト
不可能となることである。これはQoS制御として優先制
ウェアに収集し,同一パケットを識別する。そして,タ
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横河技報 Vol.46 No.2 (2002)
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QoS モニタシステム
port1
Buffer
Amp
Filter
Time Stamp
Memory
Control
SDRAM
Controller
128 MB
SDRAM
Buffer
Amp
Filter
Time Stamp
Memory
Control
SDRAM
Controller
128 MB
SDRAM
CPU
Memory
Measurement Interface
(10Base-T/100Base-TX)
port2
Control Interface
port3
(10Base-T/100Base-TX)
Ethernet
Controller
Console Interface
(RS-232)
GPS
図 3 QoS プローブ IQ1000 ブロック図
Packet
Header Payload
Header Payload
Header Payload
Header Payload
Header Payload
Packet Flow
Time
Packet filter
Data filter
Header Payload
Header Payload
Time stamp
Parts of Header and Payload
Time stamp
Parts of Header and Payload
図 4 フィルタ機能
イムスタンプの差から遅延時間を求めると同時に,各
間分解能50μs)
を付けてメモリ(SDRAM128 MB×2)
に
QoSパラメータを計算する。データは全てファイルに保
保存する。さらに,メモリ内の測定データを port3 から
存される。
QoSマネージャソフトウェアに送出する。ミラーポート
また,QoS マネージャソフトウェアはネットワーク管
機能を持つスイッチなどに port1 あるいは port2 を接続
理用プロトコル SNMP(Simple Network Management
し,ミラーポート出力パケットを測定する形態も可能で
Protocol)
管理情報データベースMIB
(Management Infor-
ある。各 port は,10 Base-T/100 Base-TX に対応する。
mation Base)
を備え,一般的なネットワーク管理ソフト
に QoS モニタシステムを組み込むことが可能である。
QoS モニタシステムの特長は,次の通りである。
・片方向ずつの遅延時間(分解能 50 μ s),遅延揺らぎ,
パケットロス,帯域の測定。
・ユーザの実パケットを用いたパッシブ測定。
・リアルタイムな連続測定。
・専用ハードウェアを用いた確実な測定。
フィルタ機能について説明する。フィルタ機能には大
きく分けて,パケットフィルタ機能とデータフィルタ機
能とがある。図 4 に,フィルタの概念図を示す。
パケットフィルタは流れる全パケットから指定のパ
ケットのみを選択する。パケットフィルタは,任意のヘッ
ダおよびペイロード部分に 1 ビット単位で設定できる。
データフィルタは,パケットフィルタを通過したパ
ケットに対して,取り込み保存する部分を選択する。
QoS プローブを測定点に設置することにより,エンド
データフィルタで選択された部分は,QoSマネージャソ
−エンドの片方向ずつのQoSパラメータの測定が可能で
フトウェアがパケットの比較を行い,パケットを識別す
ある。ネットワーク上では,往路と復路で伝送経路,ト
るときのマッチングパターンとして使用される。通常は
ラフィック量,QoS制御などが異なる場合があり,従来
測定したパケットを一意に特定できる箇所を指定する。
の測定方法,例えばpingによりネットワークの片側だけ
これらのフィルタによりQoSマネージャソフトウェアへ
から測定する方法では,往復の遅延時間しか測定できず,
の通信量を最小限に抑えている。
ネットワークの正しい品質測定は不可能であった。
例えば,VoIP電話の評価の場合,パケットフィルタで
パケットをパッシブにキャプチャし,タイムスタンプ
プロトコル
(IP/UDP:User Datagram Protocol)
と電話機
を付加する一連のルーチンは全て QoS プローブの専用
のIPアドレスを指定し,データフィルタでパケット識別
ハードウェアにより行い,通過する狙ったパケットを取
子を選択すれば良い。
りこぼすことなく確実な測定を実現する。測定は全てリ
アルタイムで行われ,連続測定が可能である。
4.
QoS プローブ構成・特長
次に測定モードについて説明する。QoS モニタシステ
ムでは,使用方法に応じて連続モードとウィンドウモー
ドの 2 種類の測定モードが用意されている
(図 5)
。
連続モードでは,QoS プローブを通過するパケットを
図 3 に,QoS プローブのブロック図を示す。port1 と
常に測定する。全てのパケットをフィルタリングの対象
port2間を通過するパケットを測定して,フィルタにより
とするので,ネットワーク上で発生する問題の解決に威
指定パケットの指定部分を取り出し,タイムスタンプ
(時
力を発揮する。
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QoS モニタシステム
■Continuous Mode
市−山梨県甲府市間の VoIP 電話の測定結果例を,図 6,
Packet
Window Mode 1
Window 1
Capture Time
b
Window Mode 2
Window 1
a a
Time
Filtered Packets
■Window Mode
表示している。この例では,遅延時間は武蔵野市から甲
Time
Filtered Packets
b
Window 3
Window 4
c c
よるレポート例)。図には,遅延時間の平均値/最大値,
遅延揺らぎ
(ジッタ),パケットロス数を 1 分間隔で統計
Window 1
Capture Time
c
Window 2
7に示す
(米国InfoVista社の,SLM/SLAソフトウェアに
Window 1
d
府市への方が大きく,パケットロス数は甲府市から武蔵
野市への方が大きいことが分かる。
この例のように,片方向ずつのQoSパラメータをリア
a
Time
Filtered Packets
ルタイムに測定することにより,ネットワーク品質をよ
り詳細かつ正しく把握し,監視・問題解決に役立てるこ
図 5 測定モード
ウィンドウモードでは,一定の測定間隔で,ある設定
時間
(Capture Time)
のみ,通過するパケットを測定対象
とする。QoSマネージャソフトウェアでのデータ処理を
とが可能となる。
6.
お わ り に
QoS モニタシステムの構成,特長の概要を紹介した。
実パケットによりネットワークの片方向の遅延時間,
節約できるので,多数のQoSプローブを接続した測定や,
遅延揺らぎ,パケットロス,帯域が測定できるQoSモニ
ネットワークのトラフィックの増大にも対応可能である。
タシステムは,高品質通信サービス提供のために,ネッ
常時監視が必要な SLA の実現を容易にする。
トワーク品質の評価,S L A のためのレポート作成等,
また,ウィンドウモードでは,ウィンドウ毎に
(最大32
ネットワーク機器の導入時の評価や,導入後のネット
ウィンドウ)
それぞれ独立したフィルタ条件を設定するこ
ワーク監視に非常に有用である。キャリア,ISP,ASP
とが可能で,多種多様なパケットの測定に対応する。
(Application Service Provider)
や製造業,学校,官公庁
図 5 の Window Mode 2 は 4 ウィンドウの例で,それぞ
などのネットワーク管理部門,およびネットワークシス
れのウィンドウで2つのフィルタ条件を設定できるので,
テム・機器設計,開発事業者などでの貢献が期待できる
この例では最大 8 つの条件設定が可能となる。
と考えている。
絶対遅延時間を測定するためには,各QoSプローブの
時刻同期を行う必要がある。N T P(N e t w o r k T i m e
Protocol)を用いて NTP サーバに同期する方法,GPS
(Global Positioning System)
を用いる方法が選択可能で
ある。さらに,外部1ppsクロックの入出力による時刻同
期も可能である。
5.
測定結果例
WAN上でのIP-VPNサービスを利用した東京都武蔵野
図 6 測定結果例
(武蔵野市→甲府市)
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横河技報 Vol.46 No.2 (2002)
参 考 文 献
(1)鶴正人 他,
“インターネットの特性計測技術とその研究開発動
向”,情報処理,vol. 42,no. 2,2001,p. 192-197
(2)谷口浩久 他,
“IPネットワーク品質測定技術の現状”
,NTT技
術ジャーナル,vol. 13,no. 3,2001,p. 71-74
(3)住本順一 他,“インターネットの品質・トラヒック管理[II]−
IP層の測定項目・測定手段を中心にして−”,電子情報通信学会
誌,vol. 82,no. 12,1999,p. 1256-1263
図 7 測定結果例
(甲府市→武蔵野市)
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