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インドの経済成長と生活水準

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インドの経済成長と生活水準
H25 年度 海外市場探求成果報告書
~インドの経済成長と生活水準~
機械創造工学課程 4 年
作花
拓
1. 調査にあたって
2013 年 9 月中旬から 5 ヶ月半の間,インドにおいて実務訓練を行った.実務訓練先は
India Institute of Technology Madras(IITM)及び,Indira Gandhi Centre of Atomic
Research(IGCAR)である.この期間で得たインドの現状及び見解を記す.特に,インフラ
の整備状況と生活水準を調査することでその課題を明らかにする.
2. インフラストラクチャー
IITM のある Chennai はインド4大都市の一つで南インド経済の中心として機能する街
である.中心部には高層ビルが立ち並ぶが(図 1),未発展の部分も多い.市内には工事中の
看板が目立ち,メトロや高速道路が建設中である.道路では常に交通渋滞が生じ,クラク
ションが絶え間なく鳴り響く(1).信号機はあまり見られず,代わりに SPEED BREAKER
という段差が各所に設置されている(図 2).交通ルールはあってないようなもので,事故が
多く,街には足など不自由な人も多く見られる.これらの状況改善のためには道路整備と
共に交通ルール遵守のための政策や意識付けも行わなければならない.
交通機関として最も利用されているのはバスである.いくつものバス路線が整備され,
運賃も 10Rs 程度(1Rs≒1.66JPY)からと手頃である.しかし,ルートが複雑なため余所者
には不便である.さらに,定員約 60 名のバスに 100 名以上が乗ることもしばしばある.リ
キシャーは街中で見かけることができ,値段は交渉性.鉄道は安いが,本数が少なくバス
以上に人が混み合う.交通渋滞の原因ともなっている自動車の普及には日本企業が一役買
っている.Chennai 周辺で見られる自動車をみると,MURUTI SUZUKI,HYUNDAI,
TATA が目立つ.そのほか,HONDA,TOYOTA,Ford 車も見られる.バイクは,HERO
HONDA,TVS (India),YAMAHA,SUZUKI とこちらも日本メーカーが多い.
図 1. Chennai 上空より
図 2. Speed Breaker(Kalpakkam にて)
電気・水道の整備も不十分である.特に Chennai では人口集中のせいか頻繁に停電・断
水が起きる.水道水は不衛生であり,飲料用の水はタンクで供給される.未処理下水の川
への流出など上下水道整備はこの国の課題である.さらには下水処理以前の問題として公
衆トイレ不足による日常的な野外排泄がある.公衆トイレは有料が多く,高いと 10Rs にも
なる.インドに来てまず気になったのはこれによる匂いである.これが感染症拡大や性的
被害の原因ともなる.また,雨が降ればすぐに道路が川と化すなど治水事業も不十分であ
る(図 3).
一方,ゴミ処理も深刻である.川を見るとゴミで埋め尽くされ (図 4),地方の道路沿いに
は未処理のゴミが積み上げられている.ゴミ処理施設を増やし,システム構築と意識改革
を行わなくてはならない.また,これに関連してスモッグや塵による公害も都市部で発生
している.このためか Chennai にいる際にしばらく咳が止まらなかった.
図 3. 雨上がりの道路(バス内より)
図 4. 川(Kalpakkam にて)
3. 生活水準・地域格差
物価は日本と比較してかなり安い.一般的な食事は日本の 1/5 程度,衣料品 1/3,交通機
関(電車・バス)1/10 程度である.電気製品は同じくらいか高く,旧式の製品が多い.パソコ
ン,カメラなどは贅沢品であるが最低限の生活が保証されていると思われる.
それでも街には(特に都市部には)多くのホームレスや乞食が見られる.乞食に関しては身
分制度の名残であろうと思われる.彼らに共通するのは英語を話せないことである.研究
所内でも研究職についている人や学生以外は英語が理解できない.学校に通えていない子
供は 30%を超え,村の学校では英語教育がなされていない.彼らは現地語(ここではタミル
語)で話しかけてくる.しかし,インドでは地域ごとに異なる言葉を用いる.現在グローバ
ル化が進んでいるために英語の重要性も増してきている.大学などの機関でも英語が必要
不可欠だ.専門書のテキスト等も英語であるため,英語は高等教育を受ける最低限のスキ
ルである.こういった事実が彼らの立場をより一層厳しいものにしている.日本では英語
を話す機会がなく感じなかったが,中学1年生で習うくらいの最低限の英語教育がどの国
においても行われるべきである.
身分制度について立ち入るのは難しいが,中流階級から乞食にお金が流れていることは
消費減退につながる.インド経済のことを考えても,長期的なビジョンを持ち,彼ら自身
の手で解決すべき問題だと思う.
Chennai には大型のショッピングセンターがいくつかあり,セキリュティーが厳しいこ
と以外,日本のショッピングセンターと比べて大きな違いはない(2).ここに来る人たちでみ
すぼらしい身なりの人はいない.ただし,釣りが足りていないという現状はインド中どの
店も同じようである.
一方 Chennai から 60km ほど離れた Kalpakkam という地域では都市部と異なった光景
が広がる(3).高層建築物はほとんどなく,一昔前にタイムスリップしたかのような町並みで
ある.海岸ではボートが並び漁師達が漁網を作る姿がよく見られる.また,ここでは自動
車よりもバイクの量が多い.
4. その他
ヒンドゥー教など宗教が生活に密接に関連している(図 5).テンプルが身近に有り,頻
繁に通う人が多い.またノンベジ料理やアルコール飲料を取り扱っている店は少ない.し
かし,こういった宗教・文化から法律も州によって全く異なる.デリーへ行った際にはイ
スラム教の影響も多く見られた.
自動車以外でよく見られた日本企業は SONY,Panasonic などの電機メーカーであった
(図 6).また,IITM,IGCAR での実験・工作機械にも日本製のものが多く見られた.とも
によく見られたのがドイツ製のものである.携帯電話端末では SAMSUNG と NOKIA が独
占している.日本企業の製品の印象として安くて高品質のイメージがあるようだ.ただし,
必ずしもそれを日本製品と認識しているわけではない.また,日本に関しては教育事情も
あり,インド人の間では東京よりも長崎,広島の認知度が高い.
図 5.学校で行われた宗教行事
図 6.Kalpakkam Shopping Centre にて
バスに乗る際に気になったことだが,男女が相席にならないことが暗黙の了解となって
いる.女性差別問題が少なからず影響しているものと考えられる.彼らは基本的に列を作
って並ばないが,女性は優先的に扱われる.
インド人に関して特筆すべきことは時間に対するルーズさである.この実務訓練中に時
間を守ったインド人を見たことがなく,時計が動いていることもまれである.インドでは
(少なくとも日本人から見て)計画通りに進むということはまずない.一方でストレスの少な
い生活を送っているとも言える.ただし,彼らの中では問題は生じないが国際的な場で支
障がないか心配である.
娯楽として最も人気なのはやはり映画である.値段は格安,ハイライトシーンでは歓声
が上がり大いに盛り上がる.TV でも映画専門チャンネルがいくつかある.とにかくほとん
どのインド人が映画好きであり,初めてあった人に言われるのがジャッキー・チェンであ
り,ブルース・リーであった.人気映画からヒットソングが生まれ,映画スターは様々な
広告に掲げられている.
前述の大型ショッピングセンターにはゲームセンターやボーリング場等の施設もある.
また,TV ゲームはそれほど浸透していない.
人気スポーツはクリケット.試合があると男子はテレビに釘付けにされ,外でも遊んで
いる光景がよく見られる.その他,バドミントンも広くプレーされている.
5. まとめ
インドでは都市部を中心に急速な経済成長が進行中である.それには日本企業も自動車
産業を中心に貢献している.しかし、急成長と同時に格差は広がり,インフラ整備の未熟
さも浮き彫りになっている.いまインドに必要なことは経済格差をなくし,国内市場を活
性化させることである.そのためには生活基盤の底上げに力を入れるべきである.日本の
参入できる事業として水・ゴミ処理や電力プラント事業などが挙げられる.廃棄物発電所
なら一石二鳥だ.生活水準が上がれば,種類の豊富でない娯楽産業にも入る余地がある.
商品販売戦略としては,映画を利用した方法が一番ではないだろうか.インドでの映画の
影響力を考えれば,大きなブームを作ることは不可能ではない.
この実務訓練を通して,皆それぞれが自らの地域・文化に誇りを持って暮らしているこ
とを実感した.お互いを尊重し,理解しようとすることが今後の発展につながる.
参照動画解説
(1)Chennai-traffic
暗くて分かりづらいが,Chennai 中心部の駅近く.道路を渡るのに悪戦苦闘している様
子.市内の道路は常に混雑しておりクラクションも絶えない.日本と比べて街灯は少ない.
(2)Chennai-shopping centre
Chennai 市内にある Spencer Plaza というショッピングセンター。比較的古くそれほど
の賑わいはないが,民族衣装や骨董品などを取り扱っている店が多く,外国人観光客も立
ち寄るようだ.一方,新しいショッピングセンターはブランド店が揃っており,若者も多
い.このようなショッピングセンターに来る人は身なりがきちんとしている.
(3)Kalpakkam
勤務地 IGCAR のある Kalpakkam というエリア内にある村.私の滞在した区域とはゲー
トで区切られており,監視がついている.建物などを見ると都市部のものと比べ,何年も
時代を遡ったかのようなものが多い.しかし,都市部に見られる乞食やホームレスの姿は
見られず,十分に生活が成り立っているといえる.
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