Comments
Description
Transcript
画像入力用のほぼノイズのない A/Dコンバータ・ドライバ
設計上のアイデア 画像入力用のほぼノイズのない A/D コンバータ・ドライバ Derek Redmayne CCD(電荷結合デバイス)やその他のセンサは、サンプリング・レートと信号対ノイズ比の両方の観点から デジタイザに厳しい要求を突き付けています。センサの出力は、通常はグランドを基準にした一連のアナロ グ・レベル(画素)であり、画素の境界でトランジェントが発生する可能性があります。画素数が増えると、画 像を取り込むために必要な A/D コンバータのサンプリング・レートも同様に高くなるので、ダイナミックレン ジの広い大半のアプリケーションでは 20Msps のパイプライン A/D コンバータで十分です。サンプリングし た信号の SNR を確保するためには、A/D コンバータのドライバ回路が低インピーダンス、高速セトリングを 実現した上で、広帯域ノイズを発生させず、またセンサに対して高い入力インピーダンスを持つようにする 必要があります。 この記事では、SNR 性能を損なわない、センサ そこには次のようなジレンマがあります。A/D コ があるか、あるいは利得が 1 より小さい(ノイズ と高性能 A/D コンバータの間のインタフェース ンバータの SNR を損なうことなくシングルエン の利得が 2 より小さい)場合の安定度が低く、リ 回路について説明します。16 ビットのパイプラ ドから差動への変換を実行できる差動アンプ ンギングを発生しがちであるなどの問題を抱え イン A/D コンバータ・ファミリである LTC2270 は、必然的に入力インピーダンスが低くなり、素 ています。多くのアンプ は、 1.8V の A/D コン は、ハイエンドの画像入力アプリケーションを対 早く16 ビット精度までセトリングする必要がある バータとコモンモードの互換性がないか、 二 象としています。このファミリの 84.1dB の SNR ので、A/D コンバータ自体の消費電力の約 4 倍 重終端フィルタまたはアンプの後段でのレベル は画 像 入 力 用として魅 力 的ですが、SFDR も の電力を消費すると考えられます。差動アンプ シフトに対応する余裕がありません。それでは 非常に優れています(100dB 超)。入力範囲は LTC6409 は良好な結果をもたらす一例ですが、 LTC6404 について見てみましょう。このデバイ 2.1VP–Pと、大半の画像入力デバイスの出力よ 260mW を消費し、レベルシフトを行うためだけ スはユニティゲインで安定しており、他のアン り非常に狭いので、減衰とレベルシフト処理が に周辺の回路網の電力損失が約 40mW 必要で プがリンギングする場合もリンギングが発生せ 必要です。 す。さらに、低ノイズを実現し、位相余裕を維持 ず、アンプの後段に減衰器を接続して使用でき するために必要な比較的値の小さな抵抗でも信 る可能性があります。それでいて入力換算ノイ 号の電力を損失します。 ズは 1.5nV です。これは LTC6409 の 1.1nV に これらの A/D コンバータの入力は、十分にバラ ンスのとれた差動信号で駆動する必要がありま す。通常センサから得られるシングルエンドの出 結果として、これらの差動アンプは低入力イン 力を直接取り込むことは、内部の仮想グランドに ピーダンスになります。CCDに対して高インピー 同相入力電流が流れることを意味しており、性 ダンスを持つことが必要なバッファにもジレンマ 能の低下につながります。これらの A/Dコンバー があります。それには、低ノイズ、 25nsec 未満 タは、80mW/ チャネルと非常に低消費電力でも でのセトリング能力、トランジェント時に閉ルー あります。シングルエンド駆動では A/D コンバー プ動作を維持するために十分な dV/dt 性能の タ内に安定した内部リファレンス点を維持する スルーイング能力が必要です。さらに、差動アン ための余分な電力が必要なので、低消費電力動 プの低い入力インピーダンスを駆動できること 作のためには差動駆動が必須です。これらのデ も必要です。にもかかわらず、アプリケーション バイスは 1.8V 電源で動作し、それに近い入力 は低消費電力を要求しています。アンプが単電 電圧範囲を取るので、デジタル信号線からは遠 源レールで動作することを要求されている場合、 ざけてください。内部保護ダイオードの電圧可 このジレンマはさらに大きくなります。 変容量による差動位相誤差の発生を防ぐために は、デジタル信号線からなるべく遠ざけることが 重要です。 匹敵します。LTC6404 のノイズ密度のピークは 100MHz より相当高い周波数に位置し、消費 電力は 175mW であり、 LTC2270 が要求する 900mV のコモンモード電圧には適合しません。 LTC6404 の後段にフィルタとレベルシフト回路 を置いた場合には、インピーダンスは低くする 必要があり、分割抵抗で約 80mW を消費するこ とになります。場合によってはアンプを +3.3V お よび –2V で動作させ、アンプの後段にレベルシ フト回路を置かずに同相互換性の問題を解決し て大振幅の信号を発生させることができます。し かし、負電源が設計者にとって好ましいことはあ まりありません。 大半の差動アンプは、アンプの後段での帯域 制限をセトリングに影響する程度まで行う必要 2013年7月: LT Journal of Analog Innovation | 31 16 ビットのパイプライン A/D コンバータ・ファミリである LTC2270 は、ハイエンドの画像入 力アプリケーションを対象としています。このファミリの 84.1dB の SNR は画像入力用として 魅力的ですが、SFDR も非常に優れています(100dB 超)。入力範囲は 2.1VP–P と、大半の 画像入力デバイスの出力より非常に狭いので、減衰とレベルシフト処理が必要です。 R16 100Ω R23 120Ω R3 BUFF+ 402Ω – CCD R1 75Ω R21 50Ω + L7 220nH + U2 LT1395 R24 1.5k – R19 604Ω BUFF– C6 22pF L3 22nH R14 8.2Ω L4 22nH L1 47nH L5 27nH C4 3.3pF R13 22Ω C9 3.3pF L2 47nH L6 27nH C3 3.3pF R18 8.2Ω C8 3.3pF R22 22Ω R26 100Ω BUFF+ PROVIDED BY IMAGING SUPPLY BOARD CMA+ V5 0.9V–1.1V R27 100Ω R11 50Ω R7 820Ω R4 453Ω R17 332Ω R6 820Ω R5 453Ω R15 332Ω + + – + U1 LT1395 – CFAOUT LTC2270 AIN+ R9 25Ω C1 17pF C5 1.8pF C2 1.8pF R10 25Ω AIN– R12 50Ω CMA+ – T1 tD = 300ps Z0 = 50Ω C7 17pF C10 1.8pF T2 tD = 300ps Z0 = 50Ω COMMON MODE SERVO CMA– R25 1.5k + – V2 8V + – V4 5V + – V1 2V + – V3 5V BUFF– R20 604Ω R2 100Ω + – V6 LTC6655 2.25V CMA– 図 1.CCD と高性能 A/D コンバータのインタフェースを行う、ほぼノイズのない回路 アンプがクロック・サイクル全体をセトリング時 ると、フィルタによるセトリングのための時間は 150MHz に広げて、外乱に対するアンプのセト 間として利用できるとは限りません。信号源がこ 十分には残りません。 リング時間をある程度見込む必要があることを れに影響する場合がありますが、クロックの反対 側のエッジには A/D コンバータによって外乱が 生じるので、アンプがその他の点では乱されて いない場合でも、セトリングのためにフィルタに 与えられるのはクロック・サイクルのわずか半分 にすぎません。この状況によってアンプが乱され 32 | 2013年7月: LT Journal of Analog Innovation 単純な RC フィルタでは、16 ビット精度までセト リングするまでに時定数の 14 倍の時間が必要 であり、 20Msps の場合、これは約 90MHz の 帯域幅になります。いずれにせよアンプはサンプ リングによってある程度乱されるので、このこと は単純な後置フィルタの帯域幅を 130MHz∼ 意味しています。残念ながら、これではアンプの ノイズがピークを示す帯域がフィルタを通過して しまいます。高次のフィルタを使えば低域のナイ キスト・ゾーンからのノイズの影響を除去できる かもしれませんが、必ずしも高速にセトリングす るわけではありません。 設計上のアイデア 画像入力アプリケーションで SNR の高い A/D コンバータが必要な場合は、 CCD からの信号を A/D コンバータに送るためにシングルエンド / 差動変換が 必要です。この変換では、信号の振幅を減衰させて、大きなノイズを加える ことなく、非常に安定した同相出力レベルを実現する必要があります。 図 2.画像入力基板の試作品 図 3.0.5 平方インチの 4 出力電源の 試作品 ここで説明した方法では、 84.1dB の SNR およ 一見エミッタからのように見えますが、実際の電 れより狭い場合、これは不要である可能性があ び 17pF のサンプル・コンデンサをもつ 25Msps 力は出力から供給されます。 ります。 の LTC2270 ファミリを駆動できます。20Msps 以下のサンプリング・レートでは、インピーダン スを高くして消費電力を減少させることができま す。30Msps より高いサンプリング・レートでは、 高速バッファの後段に LTC6409 のような差動 アンプを置いた、より従来型の回路構成が必要 です。その場合には、代わりに LTC6404-1 を 使用できます。 ほぼノイズのない推奨回路 図 1 の 回 路 は、LTC2270 ファミリを 使 用し、 SNR の損 失 がほとんどないにもか か わらず、 25Msps で 1 画素以内に 16 ビット精度までセト リングできる推奨の駆動方式を示しています。ノ イズが(すべて込みで)–84.0dB ということは、 必ずしも 1 フレームでは 16 ビットの解像度は得 られないが、複数のフレームを平均化すること により 16 ビットの精度が得られることを意味し ています。 バッファ・アンプ(U2)は、基本的にエミッタ・フォ ロワとして使用される電流帰還アンプです。出力 電流のほとんどは R16 を経由して取り出され、 反転入力でのインピーダンスは帰還回路網と比 R24 は万一の場合の備えであり、将来は U2 を べて低いので、出力ノイズは反転入力で減衰さ 出力から電力を取り出せる別のアンプに交換す れ、その結果、反転入力のノイズ電流はあまり る可能性を想定しています。必要なスルーイン 影響を及ぼしません。このアンプの電圧ノイズ グ能力に応じて、いくつかの代替手段が考えら 規格は 4.5nV/ √Hz ですが、単位利得バッファと れます。低ノイズでセトリングが高速の FET アン して使用した場合は、反転入力のノイズ電流が プを単電源で使用できるかもしれません。レー 最小値の帰還抵抗に流れると 10.1nV/ √Hz のノ ル・トゥ・レール・アンプでは、正のレールを 6V イズが発生します。ただし、このエミッタ・フォロ にして 2 つの入力段間の遷移領域(歪みを生じ ワのような動作モードでは、1.5nV/ √Hz∼2nV/ る領域)を通過しないようにする必要がありそう √Hz 程度になると考えられます。 です。LT1395 を使用する場合で、 0V∼5V の アンプの周囲には帰還ループがあり、このアン プでは帰還抵抗を 400Ω 以上に設定する必要 信号を受け取る予定の場合は、VCC を 7.5V∼ 8V にして VSS を –2V にする必要があります。 があります。ただし、周波数が低いとき帰還イン 画素間のフルスケール・ステップを通じてセトリ ピーダンスは 400Ωと R23 の並列になるので、 ングする必要がない場合は、 LT6252 などの低 出力で必要な電圧変位は減少します。しかし周 消費電力アンプを使用できます。ただし、不良 波数が高いときは、 400Ω 以上の帰還抵抗にな 画素は後続の画素をにじませると考えられます。 ります。 クロックの回り込みが存在する場合や実際に使 出力で発生する必要な電圧変位を下げるためだ けに、 R24 を経由して出力から取り出される少 えるセトリング時間によっては、これらの選択が 制限される可能性があります。 量の出力電力があります。しかし、多くの場合、 たとえばビデオ信号の範囲が 0V∼4V またはそ 2013年7月: LT Journal of Analog Innovation | 33 図 4.70kHz での –7.022dBfs 正弦波による 2トーン・テスト、 ナイキスト・ゾーンでは –7.01dB の同期方形波 2番目のアンプもLT1395ですが、アプリケーショ 下のテストは R1 を 75Ω にして、50Ω の信号源 この回路構成が実用的なのは、A/D コンバータ ンがグランド電位を中心にした信号を必要とし で行いました。 この回路は、CCDの出力インピー の入力電圧範囲が約 2VP–P で、CCD の信号が ていない限り、これをデュアルの LTC1396 に置 ダンスが 50Ω∼200Ω の範囲にあるか、保持コ 0V∼4V または 0V∼5V 程度である場合だけで き換えることはできません。この 2 段目は 5V お ンデンサへの電荷移動によって数百 Ω の実効イ す。この回路構成では、同相電圧を制御するこ よび –5V で動作させる必要があります。それは、 ンピーダンスが発生する場所に適しています。 とによってバラン動作を実現するために必要な シンク電流を流し、約 2.5V の同相電圧から0.9V 高速 FET バッファを使用することにより、非常に 減衰をうまく利用しています。これは伝送線路バ の同相電圧へのレベルシフトを実行するためだ 高い信号源インピーダンスを受け入れられる可 ラン・トランスに似ています。伝送線路バラン・ けでなく、同相電圧の制御によって差動での駆 能性があります。 トランスは、AC グランドに対称的に終端した場 動を実現するためです。このアンプのノイズと歪 みが影響するのはその同相成分だけなので、ア ンプ周辺の回路網が完全に対称になっていると 仮定すると、ノイズと歪み影響の大部分は A/D コンバータの CMRR によって除去されます。 CCD か ら の ト ラ ン ジ ェ ン ト 時 の dV/dt が LTC1395 のスルーレートを超える場合や RFI が存在する場合には、22pF のコンデンサ C6 が 合、入力ポートと出力ポートの間の同相インピー ダンスが高いために、結果として平衡駆動にな ります。 必要です。CCD はこれ位の大きさの容量性負 図に示すようにフィルタはガウス分布のような応 荷には耐えられるように思われます。LTC1395 答を示し、約 40MHz で 3dB 低下します。U1 の 弊 社では、 5V 単 電 源 入 力 から必 要 な 4 種 類 の出力段に保持能力がない場合は、入力保護ダ 誤差の影響を同相として維持する対称な回路網 の電圧をすべて供給する電源基板を開発しま イオードの導通によって入力インピーダンスは を実現するため、フィルタは別個に 2 回折り返さ した。この電 源 回 路は 4 チャネルの電 力を供 大幅に低下します。この導通は、ほとんどすべて れます。 給できるにもか か わらず、 LT3471 が 使 用 す の帰還アンプで起こります。そして電荷移動構造 る 1.2MHz のスイッチング・レ ートの 影 響 が がこの入力電流にさらされた場合は、CCD 内部 –125dBFS 以下に抑えられています。 でバッファされていたとしても、誤差が発生しま 既に示したように、このドライバは A/D コンバー タとの組み合わせにより、電源基板による影響 を含めて 84.0dB の SNR 性能を発揮します。以 34 | 2013年7月: LT Journal of Analog Innovation す。R21 は、 C6とアンプの間の距離が長くなっ た場合、信号源の終端として望ましい可能性が あります。 R7、R4、R17 とこれらの対になる抵抗が U1 の安定性の要件を満たし、0V∼5V の信号を ±1V に減衰してレベルシフトも実現します。こ れらの素子は、実際には A/D コンバータの後段 に置いて終端として動作させることができます。 こうすると、セトリング時間は多少短くなります。 設計上のアイデア 図 5.70kHz での同一の印加 電力レベル、ただしナイキスト・ ゾーンでは電力を除去 CCD と A/D コンバータとの距離が離れている および 5MHz)と、重畳された –20dB の正弦波 場合は、シミュレーション結果によると、 1 対の (200kHz)であり、 1 対の「白黒画素」での大 50Ω 抵抗間の伝送経路を長くして R16 を置き換 きな同期電圧変位に起因する歪みは正弦波に えてもかまいません。距離が 30cm から最大で 現れていません。 約60cmの場合、 ケーブルは75Ωにしてください。 その場合は信号源の終端抵抗を 75Ω にして、 反対側を 25Ω にします。可能な場合は、 PCBト レースを 75Ωより高くしてください。 たとえば LTC2185 へ の 駆 動を目 的としてい る場 合 は、350psec の 伝 送 経 路 が 可 能です。 LTC2270 ファミリを 使 用 する場 合 は、17pF のサンプル・コンデンサにより、この伝送線路 (図 1 の T1 および T2)を 40psec(約 1cm)に することが要求されます。 この条件を満たすために実行するテストでは、 CCD 信号のほかに小オフセット周波数のデジ タル化信号を使用します。信号レベルは ¼FS および ½FS で、サンプリング周波数は 20Msps および 25Msps で す。信 号 の 詳 細 は 300kHz –1dBFS の正弦波(–92dB の SFDR、2 次およ び 3 次高調波)、CCD 信号の dV/dt の代表値、 ならびにフルスケールに近い方形波(10MHz 図 4 の時間領域プロットでの 2 つの波形の外観 は、方形波の 2 つのレベル間でサンプリング 1 回おきに切り替わることが原因なので注意してく ださい。 まとめ 画像入力アプリケーションで SNR の高い A/D コンバータが必要な場合は、CCD からの信号 を A/D コンバータに送るためにシングルエンド / 差動変換が必要です。この変換では、信号の 振幅を減衰させて、大きなノイズを加えること なく、非常に安定した同相出力レベルを実現す る必要があります。ここに示した回路はまさにそ れを実行できます。データシートの SNR 規格が 逆 FFT ウィンドウは時間軸方向に拡大されてお 84.1dB の低消費電力 A/D コンバータと連携さ り、ナイキスト・ゾーンのトーンだけを示してい せると、この回路は 84.0dB を実現しました。こ ます。これは 70kHz 領域での電力を選択的にマ れは、変換にほぼノイズがなかったことを意味し スキングすることで実現しています。 ています。n 図 5 では、低周波のトーンには明らかな電力の 変化はなく、依然 –7.022dBFS を維持しており、 歪み成分の変化は比較的小さいことを示してい ます。これは、大振幅の方形波を加えてもピー クで圧縮が生じていないことを示しています。 ½FS の方形波に重畳された 70kHz のトーンは、 画素の端付近でサンプリングされた CCD 信号 波形の代表的な dV/dt およびセトリングを模擬 していると考えられます。 2013年7月: LT Journal of Analog Innovation | 35