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82 第8章 提言 子供を対象とした人体計測調査で、できるだけ有効な

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82 第8章 提言 子供を対象とした人体計測調査で、できるだけ有効な
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第8章
提言
子供を対象とした人体計測調査で、できるだけ有効なデータを集めるため
には、予算と人的資源に応じて計測項目・被験者数・対象年齢層を絞り込む必
要がある。このためには、計測目的(なにを解決するのか)を明瞭化し、それ
に応じて既存データ(すでに使えるデータがあるか)を知り、目的に応じた必
要計測項目(なにを測るべきか)を検討しなければならない。ここでは、産業
ニーズとしてアパレル、チャイルドシートを、社会ニーズとして家庭内事故、
遊具事故を取り上げる。また、技術シーズとしてダミーとデジタルヒューマン
モデルを考え、これらの6つの目的にそれぞれについて、既存データと必要計
測項目を提案する。
8-1.アパレル
0 歳から 6 歳未満の子供については、1978-81 年に既製衣料の規格作成のた
めに計測されたデータが、現在でも有効と考えられる。6 歳以上の子供について
は、1992-94 年に人間生活工学研究センターが計測したデータが、現在でもある
程度有効と考えられる。これらは本報告書で述べた通り、子どもの時代変化が
さほど大きくないことによる。すなわち、アパレル関連の幼児・子供の人体寸
法データは、最新のデータは少ないが、過去のデータが流用できる状態にある。
また、子供服のメーカは、必要なデータを独自に計測するノウハウを持ってお
り、データ自体も持っていると推測される。したがって、もし公的事業として
アパレル向けの子供の人体寸法計測を実施するならば、網羅的な計測よりは、
既存データがない特殊な体形に計測対象を限定するのが有用であろう。
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8-2.ベビーカー・チャイルドシート
ベビーカーに要求されるのは人体寸法の適合性よりも振動吸収であった。
チャイルドシートのように大きな加速度がかかる場合要求されるのは、人体寸
法適合性よりも体節別の重心位置や慣性モーメントのようなパラメタであった。
子供の体節別身体特性パラメタに関するデータは、外国でも少ない
(http://www.dh.aist.go.jp/bodyDB/m/index.html)。Yokoi らによる 3∼15 歳
の子供の身体部分係数が最も充実している(Yokoi et all., 1986)。0∼3 歳児
についてはデータがないので、体節別身体特性パラメタを取得するならば、こ
の年齢群について集めるのが有用であろう。写真計測法を用いれば、0 歳児でも
計測は不可能ではない。
体節別の身体特性パラメタを計算するうえで欠落しているデータは、子供
の体密度に関するデータである。通常は屍体から求められた成人のデータが使
われるが、子供の体密度は成人とは異なる可能性が高い。全身の平均的な体密
度は水置換法や体積計測装置(BODPOD など)で計測可能である。ただし、体節
別の重心位置や慣性モーメントを計算するためには、本来、部位ごとの密度分
布が必要で、生体からこれを計測するには MR 断層画像撮影などが必要になる。
現時点では、子供でこれらのデータを取得するのは難しい。
一方、ベビーカーやチャイルドシートの使用時に、指をはさむなどの事故
をおこさないためには、遊具で必要とされると同様の身体部位別寸法が有効か
もしれない。
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8-3.家庭内事故
家庭内事故については、保護者の責任であるという考えが強く、事故の対
象物に対するクレームがメーカに届かない傾向がある。工業製品や建築物を改
善することにより事故を減らすという考え方が、消費者、メーカともに浸透し
ていないようである。遊具による事故についても、遊び方が適切でないなど、
子供自身の責任と考える傾向がある。
家庭内事故は、保護者が目を離したすきに、保護者が予測しなかったよう
な行動を子供がとることによって生じる。0 歳児では誤えん、1∼4 歳児では溺
水と誤えん、5∼9 歳児ではやけどと溺水が多い。死亡事故の割合としては多く
ないが(0 歳児 7.7%、1∼4 歳児 15.8%、5∼9 歳児 4.8%、表2-2)、家庭で
の転落や墜落を防止するためには、手すりの高さなどの規格や基準を決めるた
めの運動能力をふくめた人体寸法データが有効であろう。運動能力を含めた人
体寸法とは、机面上のどの程度の奥行きまで手を伸ばすことができるか、とい
った機能寸法である。
転落防止のための手すりや柵の高さに関する基準のための基礎データとし
て現在入手可能なのは、3∼5歳児の運動能力を含んだ人体寸法データである。
したがって、短期的に必要と思われるのは0∼2歳児、および小学校低学年(6∼
8歳程度)のデータである。ただし、筆者らは0∼2歳児の計測項目・計測方法を
決定できるだけの情報を持っていない。
また、これらの寸法計測、技術開発と並行して、家庭内事故の詳細な情報
蓄積・分析も進める必要がある。特に、事故事例において具体的にどのような
文脈・状況でどのような運動能力をもつ乳幼児が家庭内事故をおこしているか
についての情報が不足している。これらの情報を包括的・継続的に蓄積してい
く必要がある。
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8-4.遊具による事故
遊具による事故は、落下によるものが最も多い。手すりや柵も重要である
が、欧米の規格にあるように、仮に転落しても重篤な事故にならないように、
地表面を整備するという考え方が重要であろう。欧米の規格には、首、指、足
など身体の一部がはさまれたり、ひっかかったりしないように、製品の寸法や
設置に関する規格がある。日本にはこのような規格や標準がないが、このよう
な規格や標準を制定することは長期的にみれば有用であろう。一方、すでに制
定された欧米の規格は欧米の子供のデータに基づいているのであり、欧米の子
供の体格が日本人の子供の体格とそれほど大きく違わないならば、特に日本人
のデータにこだわる必要はなく、既存の外国の規格を翻訳して用いれば良い、
という考え方も成り立つ。この場合は、欧米人の子供で大丈夫ならば、日本人
の子供でも大丈夫であることを確認するためのデータが必要かもしれない。こ
れらの事故の予防に有効な項目の選定には、欧米の規格や米国の Anthrokids プ
ロジェクトでの計測項目が参考になるであろう。
Anthrokids プロジェクトは2つのフェーズに分かれている。2 歳以下の乳
幼児について2つのフェーズで計測された項目は(表5-2、表5-4)、人間工
学分野でしばしば計測される項目を中心とし、1972-75 年の調査では、これに手
や指の細かい寸法(指が通らない最小の円の径として表現)が加えられている。
2 歳以上の幼児・子供の計測項目は、2つのフェーズでかなり異なっている。
1972-75 年計測の 39 項目は乳幼児のための項目と同様、人間工学分野でしばし
ば計測される項目を中心として、これに手や指の細かい寸法(指が通らない最
小の円の径として表現)が加えられている(表5-2)
。一方、1977-78 年に計測
された 87 項目は(表5-3)基本項目 22、形状を表す項目 21、リンクと重心に
関する項目 21、頭部と手の項目 23、というように、ダミーのリンク構造と形状
を構成することを念頭において、項目選定をしているようである。
いずれにしても、Anthrokidsプロジェクトで注目している計測項目が手指
の細かい寸法であることが分かる。遊具もふくむ工業製品の設計にかかわる日
本人の幼児・子供の人体寸法は、既存のものがある。しかし、手と指に関する
項目が少ない。工業製品や遊具の安全性にとって、はさみこみを防ぐための寸
法は重要である。身体のはさみ込みに関連した手足や頭、体幹部の幅径を中心
とする幼児・子供の人体寸法データの計測が必要である。
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8-5.ダミー開発
ダミーとは乳幼児・子供の体型や関節の受動的特性を再現した模型で、製
品に乗せて安全性をチェックするために用いられる。受動的に動く模型である
ので、能動的な動作(手先が机のどこまで届くかなど)を模擬することはでき
ない。8-4.で述べた通り、Anthrokidsプロジェクト第2フェーズではダミー開
発を念頭に置いた計測が進められていた。
日本においても、これまでに、乳幼児の実体ダミーはいくつか製作されて
いる(心肺蘇生訓練用、自動車安全衝突実験用など)。実体ダミーの形状デー
タをとりこむことにより、受動的な挙動をコンピュータ上でシミュレーション
するデジタルヒューマンモデル(仮想ダミー)も作られている。これらの基に
なった人体のデータが何であるかははっきりしない。
形状スキャナが利用できるようになった現在(持丸、2005)、ダミーのた
めに人体形状を再現することを念頭においた寸法項目は、本調査で想定してい
る安全性の観点からはそれほど重要ではないといえよう。リンク構造のための
寸法については、計測点の三次元座標値を知るためには形状計測装置を使うこ
とも可能であるし、運動計測装置の精度が非常に高くなっているのでマーカ貼
付けタイプの運動計測装置を使う方こともできる(Ehara et al., 1997)。ま
た、関節中心位置を知りたいならば、体表上の計測点の位置から推定するので
はなく、機能的な関節中心の3次元位置を、運動計測を利用して推定する方法
も開発されている(Aoki et al., 2005)。このように考えると、リンク構造に
関する人体寸法も、それほど重要ではないといえよう。
ダミーを開発するならばその目的に適した方法で適した形態情報を取得し、
転落防止やはさみこみ防止のための情報取得が目的ならばそれに適した項目を
選択するのが総合的に考えて有効だと思われる。すなわちリンク構造モデルを
決定し、リンク毎の長さ、形状、質量、重心位置、リンク間の関節の回転中心
位置、関節可動域、基本姿勢に関するデータを取得することになる。
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8-6.デジタルヒューマンモデル開発
ダミーをコンピュータ上で再現したものがデジタルヒューマンモデルであ
る。コンピュータ上に持ち込むことで、多様な体型を再現でき(ダミーだと体
型の数だけダミーを作る必要がある)、さらには能動的な運動を再現できるこ
とになる。
8-3.節で述べた通り、家庭内事故や遊具事故を低減させるには、静的な
人体寸法以上に、運動能力を含めた機能寸法が重要である。ところが、運動能
力を含めた機能寸法は、行動対象となる製品(机、浴槽、てすり)のデザイン
とも大きく関連しており、計測される子供のモティベーションの関与も大きい。
すなわち、運動能力を含めた人体寸法は、基本人体寸法・運動能力・モティベ
ーション・製品デザインの4つの因子によって変化すると言うことになる。想
定されるさまざまな製品についてこれらのデータを網羅的に蓄積することは不
可能である。それゆえ、デジタルヒューマンモデルによる解決が望まれること
になる。基本人体寸法と運動能力を備えた子供のデジタルヒューマンモデルが、
最大努力で到達できる寸法をコンピュータ上で模擬する技術をデータ蓄積と並
行して開発していく必要があろう。
デジタルヒューマンモデル開発には、基本人体寸法が不可欠である。さら
に、姿勢・運動生成のための運動データも必要となる。転倒や転落を模擬する
ためには重心高さの情報も重要である。また、シミュレーションの目的によっ
ては、表面形状だけではなく、内部の骨格に関する情報も必要となる。
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8-7.既存の乳幼児・子供の人体寸法データ
表8-1は、6章で紹介した日本における乳幼児・子供の人体寸法データを
まとめたものである。製品設計にかかわる人体寸法データは既存のものがある
が、実際にはそれほど項目数が多いわけではない。特に、手や指の寸法はほと
んどない。建築/動作寸法と重心位置に関するデータは少ない。
表8-1.既存データ
分野
0∼2 歳
3∼5 歳
6∼12 歳 13∼17 歳
アパレル
規格協会 規格協会
HQL
建築/動作寸法
八藤後他
人間工学/製品設計 安全協会 安全協会
HQL
体節別慣性特性
Yokoi
Yokoi
立位重心位置
八藤後他
座位重心位置
規格協会:日本規格協会、1984
HQL:人間生活工学研究センター、1997
安全協会:製品安全協会、昭和 48 年、昭和 54 年
八藤後他:2002;2003
Yokoi: Yokoi et al., 1986
HQL
HQL
Yokoi
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8-8.公的資金による乳幼児・子供の人体寸法計測への提言
アパレル、チャイルドシートの2つの産業ニーズ側面、家庭内事故、遊具
事故の2つの社会ニーズ側面、さらに、ダミー開発、デジタルヒューマンモデ
ル開発の2つの技術シーズ側面から、乳幼児・子供の人体寸法特性として、ど
のような既存データがあり、また、どのような必要性があるかを述べた。最後
に、これらの検討を踏まえ、公的資金投入によって乳幼児・子供の人体計測を
行うとした場合の、計測項目・被験者数・対象年齢層について具体的な提言を
したい。
短期的な成果を期待する場合、目的は社会ニーズを中心としたものとなる。
家庭内事故や遊具事故の低減が第一義となろう。このためには、以下の計測が
有効と考えられる。
(1) 計測項目:基本人体寸法(全身および身体各部のサイズを表現する20
項目程度の寸法)と運動能力を含んだ人体寸法データ
対象年齢層:0∼5歳児
被験者数:年齢別・性別ごとに30名程度
(2) 計測項目:基本人体寸法と身体のはさみ込みに関連した手足や頭、体
幹部の幅径
対象年齢層:0∼5歳児
被験者数:年齢群・性別に30名程度
さらに中長期的な成果を期待する場合では、ダミーやデジタルヒューマン
モデルの開発を通じて、製品適合性の向上や安全性の確保を図る戦略が効果的
であろう。このためには、以下の計測が有効と考えられる。
(1) 計測項目:基本人体寸法と3次元形状データ(体節別慣性特性計算の
ため)、運動データ、反力データ(運動模擬のため)
対象年齢層:1∼12歳児
被験者数:年齢別・性別ごとに10名以上
(2) 計測項目:基本人体寸法と関節受動抵抗データ
対象年齢層:1∼12歳児
被験者数:年齢群・性別に 30 名以上
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文献
Aoki, K., K. Kawachi, M. Kouchi and M. Mochimaru, 2005: Functional Shoulder Joint
Modeling for Accurate Reach Envelopes Based on Kinematic Estimation of the
Rotation Center. SAE Technical papers 2005-01-2726.
Ehara, Y., H. Fujimoto, S. Miyazaki, M. Mochimaru, S. Tanaka and S. Yamamoto, 1997:
Comparison of the performance of 3D camera system II. Gait & Posture, 5:251-255.
持丸正明、2005:オンデマンド着装品で変わる人体形状計測。画像ラボ、16(3):
13-17.
八藤後猛・田中賢・中村孝之・野村歡、2002:幼児を対象とした人体および動
作計測装置の開発と計測による建築安全計画への考察―乳幼児の家庭内事
故防止に関する研究 その1―。日本建築学会計画系論文集、562:187-192.
八藤後猛・野村歡・田中賢、2003:幼児の手すり柵乗り越えによる墜落防止に
関する実験研究と建築安全計画のための考察。−−乳幼児の家庭内事故防止
に関する研究
その2――。日本建築学会計画系論文集、572:67-73.
Yokoi, T., K. Shibukawa and M. Ae, 1986: Body segment parameters of Japanese
children. Japanese Journal of Physical Education, 31:53-66.(横井孝志・渋川侃
二・阿江通良、1986:日本人幼少年の身体部分係数。体育学研究、31:53-66.)
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