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乳幼児の人体寸法計測に関する調査と提言 2005年8月 産業技術総合

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乳幼児の人体寸法計測に関する調査と提言 2005年8月 産業技術総合
乳幼児の人体寸法計測に関する調査と提言
2005年8月
産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センター
河内まき子・持丸正明
目次
はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ i
調査計画 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ii
第1章 子供服・ベビーカー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
1-1.アパレル分野のニーズ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 1
1-2.ベビーカー・チャイルドシート ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 4
第2章 家庭内事故 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6
2-1.家庭内事故の概況:厚生労働省人口動態統計 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 6
2-2.家庭内事故の概況:国民生活センター危害情報システム ‥‥‥‥‥ 8
2-3.家庭内事故:責任の所在(八藤後他、2003) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 11
2-4.住宅にかかわる法令・基準 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 13
2-5.まとめ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 14
第3章 遊具による事故 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15
3-1.遊具による事故の概況 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 15
3-2.遊具の安全に関する標準 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 20
3-3.まとめ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 26
第4章 国内における子供の人体寸法計測に関連した調査研究 ‥‥‥‥‥ 27
4-1.「乳幼児身体計測報告書(昭和 48 年)」製品安全協会 ‥‥‥‥‥‥ 27
4-2.「乳幼児身体計測報告書(昭和 54 年)」製品安全協会 ‥‥‥‥‥‥ 30
4-3.「幼児の行動領域についての調査研究報告書」製品安全協会
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 33
4-4.日本人の体格調査報告書―既製衣料の寸法基準作成のための−(1978年∼
1981年) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 35
4-5.建築安全計画のための乳幼児寸法計測:八藤後他、2002,2003
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42
4-6.人体の機械的特性:yokoi et al., 1986 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 46
第5章 米国における子供の人体寸法計測に関連した調査研究 ‥‥‥‥‥ 48
5-1.概要
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 48
5-2.既存データの調査 1972 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 49
5-3.Anthrokids プロジェクト 1972-75 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 51
5-4.Anthrokidsプロジェクト 1977-78 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 58
第6章
全国的調査からみた過去の乳幼児・子供の人体寸法データの有効性
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 66
6-1.乳幼児のデータ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 66
6-2.子供のデータ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 73
6-3.まとめ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 78
第7章 経済的効果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 80
7-1.市場規模:アパレル・チャイルドシート ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 80
7-2.経済損失 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 81
第8章 提言 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 82
8-1.アパレル ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 82
8-2.ベビーカー・チャイルドシート ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 83
8-3.家庭内事故 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 84
8-4.遊具による事故 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 85
8-5.ダミー開発 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 86
8-6.デジタルヒューマンモデル開発 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 87
8-7.既存の乳幼児・子供の人体寸法データ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 88
8-8.公的資金による乳幼児・子供の人体寸法計測への提言‥‥‥‥‥‥‥ 89
i
はじめに
デジタルヒューマン研究センターは、工業製品の設計に利用される人間の
形態情報を収集し、公開している。これまでに、1991 年以後に計測した 18-29
歳の青年層と 60 歳以上の高齢層の人体寸法データを無償公開してきた。
データの配布時に行ったアンケート調査の結果、子供のデータへの要望が
高いことがわかった。とくに近年は、安全性への要求からの子供の身体特性デ
ータへの要望が高い。しかしながら、計測年が比較的新しく計測人数が多いデ
ータは、1992-94 年に(社)人間生活工学研究センターが7歳以上の子供を対象
に行った調査以後はない。そこで、6 歳以下の子供を対象とした人体寸法計測を
行うことを念頭におき、子供の人体寸法データに対する要望と既存のデータに
ついて調べることにした。
子供を対象とした計測調査には、成人を対象とする調査にはない難しさが
ある。0 歳から成人までのあいだにサイズとプロポーションが大きく変化し、年
齢によって特有の体形をもつ。また、成長のタイミングの個人差が大きいこと
から、思春期のスパートがおこる年齢では、個人差が非常に大きい。乳幼児期
から小児期にかけては体形の性差は小さいが、思春期以後、体形の性差が明瞭
になってくる。このため、成長期間全体にわたり、ある程度の人数について人
体寸法データを取得しようとすると、かなり多数の人数を計測しなければなら
ない。乳児は立つことができず、骨格が発達しておらず軟部組織が柔らかいの
で、成人を測る場合と比べ、計測時の姿勢や計測方法が大きく異なる。小さい
子供はじっとしていることができないため、計測のために拘束できる時間が限
られる。また、成人にもあてはまることであるが、データの利用目的によって、
必要とされる寸法項目が大きく異なる。
限られた資金の中で現実に必要とされているデータを提供するためには、
対象年齢、計測項目を限定し、ある程度の人数を計測しなければならない。そ
こで、有効利用される可能性が高く、社会的インパクトが大きく、無償データ
を公開することによりメーカの競争力を損なわない分野を明らかにし、具体的
にどのような寸法項目をどのような方法で計測するのが有効かを調べることを
目的とした調査を行った。調査は株式会社 KRI に委託し、2004 年 4 月から 6 月
にかけて実施した。本報告書は、KRI による調査結果に、デジタルヒューマン研
究センターが独自に行った既存のデータ分析や机上調査を加えたものである。
ii
調査計画
成人の人体寸法データベース配布時に利用者のアンケート調査を行った結
果では、利用者が多かった上位 7 位は、アパレル、研究・教育機関、福祉機器、
家具、医療機器、自動車・車両、建築の分野であった(河内・持丸、2000)
。そ
こで、最も利用者が多かったアパレルと、近年問題になっている事故防止(交
通事故、遊具による事故、家庭内事故)に焦点をしぼることにした。方法は書
籍や Web 検索による机上調査、有識者へのインタビュー調査を中心とする。表
に調査計画を示す。インタビューを断られた機関等もあるため、最終的にはこ
の計画通りには進まなかった。
文献
河内まき子・持丸正明、2000:人体寸法データベース。ヒューマンインタフェ
ース学会誌、2:252-258.
iii
表.調査計画
分
類
机
上
調
査
調査項目
衣服を製作
する上での
寸法ニーズ
「子供服の分類」抽出
「子供服の分類」毎の
必要寸法
ベビーカ
「ベビーカー・チャイ
ー・チャイル ルドシートの分類」抽
ドシートを
出
製作する上
での寸法ニ
ーズ
製品市場規
模
家庭内事故
を防止する
上での寸法
ニーズ
遊具を製作
する上での
寸法ニーズ
海外の寸法
データ
内容
調査対象となる子供服(品目)をピック
アップする
製作に関して必要となる部位の特定
抽出した各グレード・方式について、必
要となる部位を調査
「ベビーカー・チャイ
ルドシート」の市場規
模と動向
「対象となる家庭内事
故」の抽出
「ベビーカー・チャイルドシート」の市
場を推定
幼児・子供の寸法計測
関する海外 DB・規格調
査
書籍
/Web
ベビーカー・チャイルドシートのグレー
ド・固定方式等をピックアップする
「ベビーカー・チャイ
ルドシートの分類」毎
の必要寸法
「乳幼児服」「子供服」
の市場規模と動向
「対象となる家庭内事
故」毎の必要寸法
「対象となる生活遊具
の分類」抽出
「対象となる生活遊具
の分類」毎の必要寸法
「anthrokids 報告書」
調査
方
法
乳幼児服・子供服市場から上記でピック
アップされた子供服市場を推定
子供の家庭内事故について調査を行い、
調査対象となる家庭内事故をピックア
ップする
抽出した事故について、必要となる部位
を調査
調査対象となる生活遊具をピックアッ
ISO/W
プする
eb
抽出した各遊具について、必要となる部
位を調査
クライアントより要望のあったサイト
について調査
http://www.itl.nist.gov/iaui/ovrt/p
rojects/anthrokids/
海外での子供の寸法や安全性について
の動向を調査
面
接
調
衣服・ベビー 子供服メーカ
カー・チャイ
ルドシート
子供服を専門に製作しているメーカに
ヒアリングを行い、衣服製作に必要な寸
法ニーズについて調べる
査
を製作する
上での寸法
ニーズ
ベビーカー・チャイル
ドシートメーカ
ベビーカー・チャイルドシートを専門に
製作しているメーカにヒアリングを
家庭内事故
を防止する
国民生活センター
家庭内事故の安全性についての動向や
対策について調査
上での寸法
ニーズ
(社)日本家族計画協
会
家庭内事故や生活遊具の安全性につい
ての動向や対策について調査
寸法計測の
課題抽出
1歳児・3 歳児の簡易寸 フォーマット作成。計測、精度、感想等 親族
法計測
をまとめる
実
験
1
第1章
子供服・ベビーカー
1-1.アパレル分野のニーズ
子供用衣服は大人用衣服に比べてゆとりが多いため、計測精度はそれほど
要求されない。また、じっと同じ姿勢を保つことが難しいため、細かい部位の
寸法は計測せず、算出寸法や参考値を用いることが多い。
具体的にどのような寸法項目が使われているかを調べるために、生後 6 ヶ
月から 2、3 歳の乳幼児を対象とした乳幼児服 9 点(ロンパース、ベビーブルマ
ース、ショートケープ、ベビースーツ(女児用)、カバーオール、オーバーオー
ル、ベビーキャップ、ベビーシューズ)、3∼6 歳の子供を対象とした子供服を
13 点(スカート(女児用)、ワンピース・ジャンパースカート(女児用)、キュ
ロットスカート(女児用)、少女用スパッツ(女児用)、幼児用パンツ、少年用
半ズボン、ジャンパー、ベスト、ポンチョ、ショートジャケット(女児用)
、コ
ート、ショート丈防寒コート、パジャマ)選び、それらの型紙から採寸項目を
特定した。表1-1、乳幼児を対象とした衣服の型紙設計に使われる人体寸法項
目の計測方法を示す。項目の定義は以下の書籍を参考にした:
ドレメファッション造形講座8
文化ファッション講座
ベビィ・子供服
子供服。
表1-2に、3∼6 歳の子供用衣服の型紙設計に使われる人体寸法項目と計
測方法を示す。
大人用衣服と子供用衣服の両方を製造しているメーカがほとんどないこと
から、それぞれ独自のノウハウを必要とし、蓄積していると考えられる。ある
大学の教官からの情報によると、子供服メーカは独自にデータを蓄積している
が、データを公開してはいない。子供服メーカは、必要とする人体寸法を自力
で計測する能力を持っており、データを持っていること自体が企業の競争力と
なっている可能性がある。
2
表1-1.アパレルのための乳幼児(0-2 歳)計測項目とその定義
項目名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
身長
体重(kg)
頭囲
頚付根囲
バスト(胸囲)
腹囲
ヒップ(腰囲)
胴縦囲
腕回り
手くび囲
掌周り(a)
掌周り(b)
大腿最大囲
下腿最大囲
背肩幅
総丈
背丈
袖丈
計測方法*
眉間点と後頭点を通る周径
バストポイントを通る周径
へそを通る周径
乳幼児の場合、オムツの上から計る
腕をまっすぐに下げ、上腕の最大囲
親指を内側に入れて計る
親指を除いた掌回り
ふとももの最も太い周径
ふくらはぎの最も太い周径
後ろ中央頚椎点からウエスト(乳児は腹囲)まで体に沿って計る
ショルダーポイントから腕に沿って肘のポイントまで計り、そこか
ら手首の点の下まで計る
ウエストから股高まで、オムツの上から計る
股から垂直に外果(外くるぶし)の中央まで
股上
股下
臥位股の高さ
臥位右上前腸骨棘
高
23 膝高
膝から床まで
24 外果高
外果(外くるぶしの中央)から床まで
25 足長
かかと中心と最長指の先端を直線で結ぶ長さ
*:ドレメファッション造形講座8 ベビィ・子供服、文化ファッション講座 子供服参照
3
表1-2.アパレルのための幼児(3-6 歳)計測項目とその定義
項目名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
身長
体重(kg)
頭囲
頚付根囲
バスト(胸囲)
ウエスト(胴囲)
下胴囲
臍位腹囲
ヒップ(腰囲)
胴縦囲
腕回り
手くび囲
掌周り(a)
掌周り(b)
大腿最大囲
下腿最大囲
背肩幅
肩幅
総丈
20 背丈
21 臍位背丈
22 袖丈
計測方法*
バストポイントを通る周径
胴の一番細いところを通る周径
少年のウエスト
ヒップが後ろに突き出た点を通る周径
腕をまっすぐに下げ、上腕の最大囲
手くび点を通る周径
親指を内側に入れて計る
親指を除いた掌回り
ふとももの最も太い周径
ふくらはぎの最も太い周径
ネックポイントからショルダーポイントまで
背丈から続けて測る。ヒップまでは身体にそわせ、そこから床まで垂
直に測る
後ろ中央頚椎点からウエストまで体に沿って計る
ショルダーポイントから腕に沿って肘のポイントまで計り、そこから
手首の点の下まで計る
ウエスト(少年の場合は下胴囲)から股高まで
股から垂直に外果(外くるぶし)の中央まで
23 股上
24 股下
25 股の高さ
26 臍高
27 上前腸骨棘高
28 胴高
ウエスト(少年の場合は下胴囲)から床まで
29 膝高
膝から床まで
30 下腿最大囲の高さ
31 外果高
外果(外くるぶしの中央)から床まで
32 足長
*:ドレメファッション造形講座8 ベビィ・子供服、文化ファッション講座 子供服参照
4
1-2.ベビーカー・チャイルドシート
安全性の観点から、ベビーカーとチャイルドシートを対象製品として選ん
だ。
ベビーカーについては、製品安全協会の認定基準(Safety Goods 基準)に
より、首がすわる生後 2 ヶ月ころから使える A 型と、おすわりができるように
なる 7 ヶ月ころから使える B 型の二種類を定めている(表1-3)
。これらは、
人体寸法よりも、乳児揺さぶり症候群(揺さぶられっ子症候群)(Shaken Baby
Syndrome)に対する危惧から、振動の吸収性を重視している。乳児揺さぶり症
候群とは、乳幼児の頭部が強く揺さぶられることにより、脳の表面と頭の骨の
裏にある静脈を結ぶ血管が引きちぎれて出血することにより、脳に障害が起こ
ったり、視力障害を起こったりすることをさす。
大きな加速度のかからないベビーカーについては、人体寸法よりも衝撃吸
収性が安全性の面からの重要項目である。
表1-3.ベビーカー(Stroller, Pushchair)の分類
比較項目
A型
B型
姿勢
使用月齢
望ましい連続使
用時間
背もたれの角度
寝かせた状態で使用できる
生後2か月∼満2才
2時間以内
背もたれに寄りかけ座らせて使用する
生後7か月∼満2才
1時間以内
リクライニング機構があって、最も倒し
たときの角度が 130°以上
180mm 以上
70%以上
110°以上(リクライニング機構がなくて
もよい)
115mm 以上
50%以上
タイヤの径
振動吸収率
チャイルドシートは対象者によって乳児用(体重10kg未満の乳児を対象。
身長70cm以下、新生児から1歳くらいまで)、幼児用(体重9∼18kg以下の幼児を
対象。身長65∼100cm以下、1∼4歳くらいまで)、学童用(体重15∼36kg以下の
子供を対象。身長135cm以下、4∼10歳くらいまで)に分けられる。チャイルド
シートの車体への固定方式には2点固定式と3点固定式がある。
国土交通省と自動車事故対策センターは、平成 13 年度から市販のチャイル
ドシートの安全性能について試験をし、その結果を公表している
(http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/crs/default.htm)。試験は前面衝突
試験(前面衝突時におけるチャイルドシートによる子供の保護性能を評価する)
と使用性評価試験(取り付け方を誤るなど、不適切な使用を防止する観点から
5
チャイルドシートの構造や表示などについて評価する)を行う。安全性能試験
では、ダミー(乳児用チャイルドシートでは9ヶ月児ダミー(P3/4)また
は6ヶ月児ダミー(CRABI6か月児ダミー)、児用チャイルドシートでは
3歳児ダミー(HybridⅢ-3Y0))を乗せたチャイルドシートを骨組みのみ
の試験用車両の 2 列目右側座席に取り付け、時速 55km での前面衝突時と
同様の衝撃を発生させる。その時のダミーの頭部、胸部にかかった衝撃や
ダミー頭部の挙動などを用いて安全性能を評価する。評価項目は、乳児用
チャイルドシートではチャイルドシート取付部等の破損、衝突時のチャイルド
シート底面の傾き、衝突時の頭部の前方への移動量、衝突によって胸部にかか
る力(胸部合成加速度)、衝突時に生じたその他の事象である。幼児用チャイル
ドシートでは、チャイルドシート取付部等の破損、衝突時の頭部の前方への移
動量、衝突によって頭部にかかる力(頭部合成加速度)、衝突によって胸部にか
かる力(胸部合成加速度)、衝突時に生じたその他の事象である。
大きな加速度のかかるチャイルドシートについては、人体寸法よりも衝突
時の人体の挙動を左右する質量配分や慣性モーメントのような、体節別の身体
特性パラメタが重要だと考えられる。
6
第2章
家庭内事故
2-1.家庭内事故の概況:厚生労働省人口動態統計
厚生労働省による平成 14 年度人口動態調査による 2003 年の年齢階級別の
死因と死亡数を表2-1に示す。1997 年〜2002 年の間、死因の順位はほぼ一定
している。不慮の事故は、1〜4 歳と 5〜9 歳では死因の1位、0 歳では死因の 4
位となっている。
不慮の事故には交通事故が含まれる。表2-2は不慮の事故の内訳である。
0 歳では家庭内事故が不慮の事故の 73%を、1〜4 歳では 44%を占めており、交
通事故の割合を上回っている。0 歳では不慮の窒息が家庭内事故の 82%を占め
ており、1〜4 歳では不慮の溺死及び溺水(32%)と不慮の窒息(25%)が、5
〜9 歳では煙、火災及び火災への暴露(49%)が主な死因となっている。表23に家庭内事故死の詳細内訳を示す。
以上から、乳幼児・子供の家庭内事故死の主因は、
「異物の誤えん」
、
「浴槽
内での溺水」
、「火災による逃げ遅れ」だと言える。
表2-1.年齢別階級別死因
7
表2-2.不慮の事故死のうちの家庭内事故死(0〜9 歳) 平成 14 年度人口動態調査より
0歳
死
亡
数
1〜4 歳
死
亡
数
割合(%)
5〜9 歳
死
亡
数
割合(%)
不慮の事故
212
331
家庭内事故
155
73.1
146
44.1
42
12
7.7
23
15.8
2
47
32.2
11
内
転倒・転落
訳
不慮の溺死及び溺水
9
5.8
その他の不慮の窒息
127
81.9
合計(0〜9 歳)
死亡
数
割合(%)
248
割合(%)
791
16.9
343
43.4
37
10.8
67
19.5
168
49.0
54
15.7
26.2
36
24.7
5
煙,火及び火災への曝露
3
27
18.7
24
熱及び高温物質との接触
1
4
0
5
有害物質による中毒及び曝露
0
2
0
2
57.1
表2-3.家庭内事故死の詳細内訳(0〜9 歳) 平成 14 年度人口動態調査より
死亡数
死因
転倒・転落
スリップ,つまづき及びよろめきによる
同一平面上での転倒
階段及びステップからの転落及びその
上での転倒
建物又は建造物からの転落
不慮の溺死及び溺水
浴槽内での溺死及び溺水
浴槽への転落による溺死及び溺水
その他の不慮の窒息
胃内容物の誤えん
気道閉塞を生じた食物の誤えん
気道閉塞を生じたその他の物体の誤え
ん
12
5
1〜4 歳
死亡数
割合
(%)
7.7
23
4
2
11
2
5.8
47
有害物質による中毒及び曝露
その他のガス及び蒸気による不慮の中
毒及び曝露
農薬による不慮の中毒及び曝露
0
32.2
81.9
36
1.9
24.7
27
26.2
5
11.9
1
0
0
18.5
24
57.1
3
27
24
0
0
0
0.6
4
2.7
0
3
0
2
0.0
0
1.4
0
0.0
0
1
0
0
0
0
146
4.8
11
0
13
7
5
1
155
11
29
12
35
19
6
1
2
0
0
127
熱及び高温物質との接触
蛇口からの熱湯との接触
15.8
3
7
2
3
5〜9 歳
死亡数 割合
(%)
0
9
煙,火及び火災への曝露
建物又は建造物内の管理されていない
火への曝露
夜着,その他の着衣及び衣服の発火又は
溶解への曝露
「家庭内事故死」総数
0歳
割合
(%)
42
8
2-2.家庭内事故の概況:国民生活センター危害情報システム
国民生活センターでは全国 20 の協力病院から商品・サービス・設備に関連
する受診情報を収集する仕組みを構築している。1992 年 8 月から 1998 年 12 月
の 6 年 5 ヶ月間に、56,040 件の事故情報を収集した。そのうち 28,464 件(51%)
が家庭内事故であった。年間平均 4,500 件となる。
表2-4に、年齢層別の家庭内事故にあった人数を示す。0〜4 歳が全件数
の 39%を占め、とびぬけて多い。
表2-5は事故発生場所別の事故件数である。居間、台所、階段が多い。
表2-6は事故に関連した商品・設備別の事故件数である。階段が多い。
表2-7は家庭内事故に関連した商品・設備の詳細内訳である。誤えんに係
わる商品・設備として、3 年齢階級共通のものとしてたばこ、コイン、ビー玉が
あり、0〜4 歳児ではこれに電池、医薬品が加わる。転倒・転落に係わる商品・
設備として、3 年齢階級共通のものとして階段、いす、テーブル、床があり、0
歳児ではこれにベッド、ベビーベッドが加わる。溺水に係わる商品・設備とし
て、3 年齢階級共通のものとして風呂場、浴槽がある。表3-8は誤えん、転倒・
転落、溺水に関連した商品・設備(0〜9 歳)別の事故件数である。
表2-4.年齢層別の家庭内事故にあった人数
年齢層
0〜4 歳
5〜9
10〜19
20〜29
30〜49
50〜64
65〜74
75〜
合計
家庭内事故にあった人
人数
割合(%)
11,144
2,246
1,675
2,539
4,126
3,071
1,952
1,711
28,464
39.2
7.9
5.9
8.9
14.5
10.8
6.9
6.0
100.0
9
表2-5.発生場所別事故件数
発生場所
件数
割合(%)
〔参考〕UK(%)
居間
7,784
35.5
33.0
台所
4,979
22.7
15.1
階段
2,949
13.4
13.0
浴槽・風呂場
1,688
7.7
4.8
庭
1,579
7.2
17.2
玄関
943
4.3
2.3
ベランダ
230
1.0
−
洗面所
203
0.9
−
その他
1,579
7.2
14.6
合計
21,934
100
100
注)場所不明の 6,530 件は除く
UK データの出典:The Department of Trade and Industry が毎年発行している Home
Accident Surveillance System レポート 1996 年版
表2-6.事故に関連した商品・設備別事故件数
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
商品・設備
件数 割合(%)
階段
3,013
包丁
1,210
たばこ
1,159
風呂場
1,006
いす
843
床
746
茶わん
734
ドア
732
コップ
598
食用油
529
なべ
496
医薬品
446
テーブル
442
ベッド
425
やかん
417
ストーブ
352
机
340
玄関
337
脚立
332
カッターナイフ
309
その他
13,998
合計
28,464
10.6
4.3
4.1
3.5
3.0
2.6
2.6
2.6
2.1
1.9
1.7
1.6
1.6
1.5
1.5
1.2
1.2
1.2
1.2
1.1
49.2
100.0
10
表2-7.家庭内事故に関連した商品・設備の詳細内訳(0〜9 歳)
0歳
順位
1〜4 歳
5〜9 歳
商品・設備
件数
割合(%)
商品・設備
件数
割合(%)
商品・設備
件数
割合(%)
たばこ
茶わん
階段
ベッド
電気ポット
いす
ベビーベッド
殺虫防虫剤
電気炊飯器
テーブル
温風暖房機
ストーブ
電池
歩行器
その他
866
141
102
95
88
85
83
49
49
46
41
39
38
37
987
31.5
5.1
3.7
3.5
3.2
3.1
3
1.8
1.8
1.7
1.5
1.4
1.4
1.3
35.9
階段
いす
茶わん
風呂場*
ドア*
たばこ
テーブル
医薬品*
床*
ストーブ
めん・もち*
コイン
ビ−玉
浴槽*
その他
868
361
306
291
281
272
262
237
224
192
121
109
61
13
4,800
10.3
4.3
3.6
3.5
3.3
3.2
3.1
2.8
2.7
2.3
1.4
1.3
0.7
0.2
57.2
階段
ドア
風呂場
茶わん
カッターナイフ
いす
ストーブ
めん・もち
机
床
テーブル
コイン
浴槽
ビー玉
その他
198
93
83
74
68
62
54
47
46
42
38
36
34
33
75
20.1
9.5
8.4
7.5
6.9
6.3
5.5
4.8
4.7
4.3
3.9
3.7
3.5
3.4
7.6
合計
2,746
(*):0 歳=0 とした推定値
100
合計
8,398
100
合計
983
100
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
表2-8.誤えん、転倒・転落、溺水に関連した商品・設備(0〜9 歳)
商品・設備
誤えんに係る商品
転倒・転落に係る商品
溺水に係る設備
1〜4 歳
5〜9 歳
0歳
件数 割合(%) 件数 割合(%) 件数 割合(%)
904
448
32.9 800
16.3 1715
304
9.5
20.4
3.6
116
386
117
11.8
39.3
11.9
文献
国民生活センター 1996:特別調査
家庭内事故に関する調査報告書(要約)
11
2-3.家庭内事故:責任の所在(八藤後他、2003)
乳幼児の事故の多くは保護者が目を離したすきにおきるものであり、保護
者の注意によって防止可能とされている。社会も保護者自身もこのように認識
しているために、製品や建築物へのクレームが出難く、工学的改善がおこりに
くい状況にある。以上の仮説に基づき、設計者の意識を喚起することを目的に、
2002〜2003 年に都内の保育園、幼稚園三カ所において、保護者を対象に調査用
紙の配布によるアンケート調査を行った。回収数は 1,734 件、回収率は 35.2%
であった。
調査内容は、22 種の事故(表2-9)について、事故がおこった責任の所
在を、A.子供自身、B. 保護者等、C. 対象物体、D. 建築や設備(周辺環境、取
り付け方法、建築方法など)
、それぞれについて 5 段階評価させた(1.全くない、
2.ほぼない、3.どちらともいえない、4.少しある、5.大いにある)。この他に、
軽微なものをふくむ事故の経験、対象児の年齢、回答者の属性と年齢、子供の
性格(1.たいへんおとなしい、2.おとなしい、3.どちらともいえない、4.活発
で外向的、5. たいへん活発で外向的)
、子供の育て方に関する考えとして、(1)
けがのないよう気配りをして遊びも制限、(2)行動を制限せずに干渉は最低限、
のどちらに共感するかを5段階評価させた(1.全く(1)、2.どちらかといえば(1)、
3. どちらともいえない、4. どちらかといえば(2)、5.全く(2))
。
子供の年齢が 1 歳から 6 歳まで高くなるにつれて、子供自身の責任評価得
点は高くなったが、最大得点が 3.0(どちらともいえない)程度にすぎないこと
から、保護者は事故の責任は子供にあるとは考えていないことがわかる。
保護者の責任評価得点は高く、ほとんどが 4.0(少しある)以上であった。
とくに、a5、g1、g2、f1、a6 で高かった。対象物自体の安全に対する配慮の責
任評価得点は回答者による差が大きく(標準偏差が大きい)
、保護者の責任評価
得点に比べると低い。対象物の責任が大きいとされた項目は a6、a5、h1、f1、
f2、対象物の責任が小さいとされた項目は a3、d2、a2、d3 であった。とくに手
すりの乗り越えや浴室内での転落やおぼれのように重大事故につながる場合は、
保護者は対象物よりも保護者自身に責任が大きいと考える傾向があり、重大な
欠陥が対象物にあり、対象物の改善が事故防止につながるという認識は少ない
と考えられる。
対象物以外の建築や設備の安全配慮の責任評価得点は全般に高く、最も低
いものでも 3.0 をこえた。とくに、a5、a6、g1 で高かった。これらの評価得点
12
は対象物自体の得点よりも 0.5 以上高く、物品や設備自体よりも設置場所や設
置方法に安全への責任が大きいと考えている。
Exhaustive CHAID による分析の結果、事故経験をもつ親は持たない親より
も子供や保護者の責任がより少なく、対象物の責任がより大きいと感じる傾向
があった。事故経験者は、事故全般について事故の責任を保護者だとするのは
無理だと感じている。しかしながら、家電製品関連の事故や建築物からの転落
では、転落事故の経験がある保護者の方が、対象物や設置環境にも責任が問え
ない、不可抗力によるもの、あるいは保護者の責任と考える傾向がある。
表2-9.調査対象とした事故の種類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
a1
a2
a3
a4
a5
a6
a7
a8
b1
b2
c1
c2
d1
d2
d3
e1
f1
f2
g1
g2
h1
i1
椅子にすわらせていたら椅子から転落
椅子や台によじのぼり転落
洗濯機をのぞき込み、頭から洗濯漕内に転落
ベッドにねかせていたらベッドから転落
ベランダの手すりをこえて転落
窓や窓の手すりをこえて転落
ひとりで階段を昇り降りし、途中で転落
階段付近までひとりで来て、一番上の段から転落
室内で歩いていて転倒
浴室の洗い場の床で転倒
歩いていてテーブルの角に頭をぶつけた
歩いていて部屋や廊下にある柱の角にぶつかった
収納ボックスを勝手にあけてものを出す
テーブルの上に置いてあるものを取り出し、落とす
棚の上に置いてあるものを取り出す
ドアを自分で操作していて手をはさんだ
暖房器具に触れてやけどした
ガスコンロのつまみやスイッチを操作してやけどした
浴室に入りこみ、浴槽をのぞいていて転落
おとなと入浴しているときに、浴槽の中でおぼれた
コンセンントに指やものを入れて感電した
寝ているうちに姿勢が変わり、息ができなくなった
文献
八藤後猛・野村歡・田中賢、2003:乳幼児の家庭内事故における責任の所在に
関する保護者の意識調査。日本建築学会計画系論文集、573:57-62.
13
2-4.住宅にかかわる法令・基準
転倒・転落は、0 歳児の死因の 3 位、1〜4 歳児の死因の 4 位である。これ
を防ぐための住宅に関する法令、基準について、ある住宅設計会社の一級建築
士にインタビューをした。建築確認申請の中で、明らかに幼児・子供を対象と
した内装制限は、小学校または中学校・高等学校・中等教育学校の生徒を対象
とした階段幅、踊場幅、けあげ、踏面、踊場位置に関するものだけである。
八藤後(2003)によると、床から窓枠までの高さ、床から手すりまでの高
さにに関する法令では、腰壁高さは幼児が足をかけてのぼれる最高の高さ(通
常 650mm)
、腰壁から手すり上面までの高さ(通常 800〜850mm)は幼児の墜落を
防止するに足る高さと定めている。しかし、幼児の墜落事故例を見ると、一般
に想定されている幼児の運動能力を超えた状況や方法で柵を越え、墜落してい
る。すなわち、現行の基準は、安全性を保証しているとは考えにくい。
文献
八藤後猛、2003:乳幼児の身体特性に基づいた住宅内事故防止のための建築安
全計画に関する研究。
14
2-5.まとめ
1〜9 歳の死因のトップである不慮の事故のうち、家庭内事故が 0 歳児では
73%、1〜4 歳児でも 44%を占めている。家庭内事故死の主な原因として、0 歳
児では誤えん(82%)、転倒・転落(8%)
、1〜4 歳児では溺死・溺水(32%)
、
誤えん(25%)、火災・煙(19%)、転倒・転落(16%)、5〜9 歳児では火災・煙
(57%)、溺死・溺水(26%)が多い。家庭内事故をおこした年齢層は 0〜4 歳
児がとびぬけて多い(約 40%)
。家庭内事故に関連する商品・設備として、転倒・
転落では階段、いす、テーブル、ベッドが、溺死・溺水では風呂場、浴槽があ
げられる。
家庭内事故については、保護者の責任という意識が強く、製品に対する苦
情があがることもないため、メーカ側としても対象物の改善が事故防止につな
がるという認識は少ないと考えられる。
住宅設計に係わる法令・基準では、高齢者を意識した推奨基準は多いが、
幼児・子供を意識した基準は階段にしかみられない。住宅の手すりについては、
手すり柵の安全性を確保するために各種の法令・基準が規定されており、その
中に幼児・子供の転落防止を意図した設置基準もある。しかし、その基準値は
建築業界の経験則であり理論的根拠はない。
家庭内事故に関する身体計測項目は、静的な人体そのものの寸法だけでな
く、発揮力や動作を伴う到達域、可動域が重要である。これらの計測には独自
の計測器具やノウハウが必要と思われる。
15
第3章
遊具による事故
3-1.遊具による事故の概況
厚生労働省による児童福祉施設等に設置された遊具で発生した事故調べ
(2001 目 10 月 29 日)より、遊具別の事故件数を表3-1に示す。この調査の対
象は、児童福祉法に規定する児童福祉施設等で、調査期間は平成 8 年度∼12 年
度の各年度である。すべり台、鉄棒・登り棒、雲梯による事故が多い。遊具別
事故内容を表3-2に示す。
表3-1.遊具別の事故件数(単位:件)
すべ
り台
鉄
棒・
登り
棒
雲梯
76
100
103
104
131
41
66
81
92
121
合計
401
構成比(%)
19.7
年度(平
成)
8
9
10
11
12
ぶら
んこ
ジャ
ング
ルジ
ム
箱型
ぶら
んこ
総合
遊具
トラ
ンポ
リン
跳び
箱・
平均
台
太鼓
橋
積み
木
その
他
38
43
49
67
85
40
42
54
49
54
28
31
25
41
43
20
29
35
34
28
11
16
21
31
28
9
18
20
26
28
6
7
13
20
22
5
8
10
9
17
3
6
6
4
6
63
79
91
127
153
340
445
508
604
716
282
239
168
146
107
101
68
68
49
25
513
2167
15.3
10.8
9.1
6.4
5.6
4.1
3.9
2.6
1.9
1
19.6
100
計
表3-2.遊具別の事故内容
滑り台
鉄棒・登り棒鉄
雲梯
ブランコ
ジャングルジム
箱型ブランコ
太鼓橋
トランポリン
跳び箱・平均台
積み木
滑り台や階段の途中から転落。頭を下にして滑り降り地面と衝突。
滑り台を逆方向から駆け上りバランスを崩して転落。
棒や登り棒にぶら下がっていて手が離れ落下
雲梯にぶら下がっていて落下、雲梯の上に昇っていて転落
ブランコからの転落・落下。動いているブランコから飛び降りて転倒。
他の子どもが遊んでいるブランコと衝突。
ジャングルジムの上から飛び降り転倒し、足を骨折。
ジャングルジムにぶら下がっていて落下し、足を骨折。
箱ブランコの外でブランコをこいでいたが、ブランコの勢いに付いていけなくなり転倒し、ブラ
ンコの踏み板と地面に頭や足挟まれる。
動いている箱ブランコから飛び降りようとして転倒し、踏み板と地面の間に挟まれる。箱ブラ
ンコと支柱の間に足を挟まれる
太鼓橋にぶら下がっていて落下。太鼓橋の上から転落。
トランポリンでジャンプしていて床に落下したり外枠に強打。
跳び箱から転落。平均台から落下。平均台を運んでいて足に落とす。
大型積み木に乗っていて、足を踏み外し又は積み木が崩れて落下。
事故の原因を表3-3に示す。また、原因別の事故内容を表3-4に示す。
16
転落・落下が過半数(57%)を占める。
表3-5に年齢別事故件数を、表3-6に性別の事故件数を示す。4∼6 歳で
事故発生件数が最も多く、男子の方が女子よりも事故件数が多い。
表3-3.事故の原因(単位:件数)
年度(平成)
8
9
10
11
12
転落・落下
転倒
衝突
飛び降り
挟む
その他
計
182
258
288
323
427
43
51
64
96
92
47
59
62
95
72
44
43
56
54
75
14
19
20
19
20
10
15
18
17
30
340
445
508
604
716
合計
1,478
346
335
272
92
90
2,613
構成比(%)
56.6
13.2
12.8
10.4
3.5
3.4
100.0
表3-4.原因別の事故内容
転落・落下
転倒
衝突
飛び降り
挟む
滑り台の途中や滑り台の上り階段の途中、ジャングルジムの上等から転がり落ちる。
ブランコの上から誤って転落。鉄棒、登り棒、雲梯などにぶら下がっていて、手が離れ
落下。
遊具に乗っていてバランスを崩す、マットに足を引っかけ転倒など
動いている遊具と衝突・接触したり床や地面に強打
ブランコ、鉄棒、登り棒、雲梯から自らの意志で飛び降りたが、着地に失敗。
箱ブランコの踏み板と地面の間、遊具と支柱の間、遊具の固定部分等に挟まれる。
表3-5.年齢別の事故件数(単位:件)
年度(平成) 1∼3 歳 4∼6 歳 7 歳以上 合計
8
9
10
11
12
93
90
115
137
149
234
325
363
422
505
13
30
30
45
62
340
445
508
604
716
合計
584
1,849
180 2,613
構成比(%)
22.3
70.8
6.9 100.0
表3-6.性別の事故件数(単位:件)
17
年度(平成) 男子
8
9
10
11
12
合計
構成比(%)
214
283
326
372
453
女子 合計
126
162
182
232
263
340
445
508
604
716
1,648
965 2,613
63.1
36.9 100.0
2002 年 3 月の国土交通省による「都市公園における遊具の安全確保に関す
る指針」の策定、2002 年 10 月の事業者団体による「遊具の安全に関する基準(案)」
の発表を受けて、国民生活センターは危害情報システムによせられた遊具の事
故情報を分析した。1997 年度∼2002 年度に国民生活センターによせられた遊具
に関する事故情報は 1,799 件であった。うち 1,788 件は危害情報収集協力病院
から、11 件は消費生活センターからである。
表3-7に年齢別性別の事故件数を示す。表3-8に危害部位別の危害内容
を示す。頭部のけがが最も多い。
表3-9に性別遊具別危害件数を、表3-10に遊具別危害内容を、表311に遊具別危害を受けた子供の平均年齢を示す。
表3-7.年齢別性別の事故件数
年齢
男
女 合計
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 以上
20 以上
4
63
110
113
152
106
120
94
101
67
115
18
3
47
86
66
74
88
93
74
62
49
63
25
表3-8.危害部位別にみた上位危害内容
7
110
196
179
226
194
213
168
163
116
178
43
18
1位
2位
部位
危害内容
件数
%
頭部
擦過傷・挫傷・打撲傷
1,121
84.7
刺し傷・切り傷
腕・手
骨折
176
68.8
脚部
擦過傷・挫傷・打撲傷
58
体幹
擦過傷・挫傷・打撲傷
88
3位
危害内容
件数
%
危害内容
140
10.6
骨折
擦過傷・挫傷・打撲傷
50
19.5
52.7
骨折
28
25.5
81.5
内臓損傷
9
8.3
件数
%
合計
39
2.9
1,323
脱臼・捻挫
17
6.6
256
脱臼・捻挫
14
12.7
110
6
5.6
108
骨折
表3-9.危害情報からみた性別遊具別危害
遊具全体
件数
(1)すべり台
%
件数
(2)ブランコ
%
件数
(3)鉄棒
%
件数
(4)ジャングルジム
%
件数
その他
%
件数
男
1,065
59.1
318
63.1
262
52.9
127
57.5
118
64.8
女
732
40.7
186
36.9
232
46.9
94
42.5
64
35.2
不明
2
0.1
0
0.0
1
0.2
0
0.0
0
0.0
合計
1799
100.0
504
100.0
495
100.0
221
100.0
182
100.0
397
表3-10.危害情報からみた遊具別危害内容
1位
遊具全体
内容
擦過傷・挫傷・打撲
件数
1,320
%
73.4
(1)すべり台
内容
擦過傷・挫傷・打撲
件数
399
%
79.2
(2)ブランコ
内容
擦過傷・挫傷・打撲
件数
382
%
77.2
(3)鉄棒
内容
擦過傷・挫傷・打撲
件数
162
%
73.3
(4)ジャングルジム
内容
擦過傷・挫傷・打撲
件数
126
%
69.2
2位
3位
4位
刺し傷・切り傷
151
8.4
脱臼・捻挫
249
13.8
脱臼・捻挫
55
10.9
刺し傷・切り傷
30
6.0
骨折
脱臼・捻挫
骨折
骨折
刺し傷・切り傷
52
10.5
骨折
内臓損傷
41
2.3
9
0.5
頭蓋内損傷
9
1.8
46
9.3
4
0.8
その他
6
1.2
刺し傷・切り傷
10
4.5
脱臼・捻挫
41
18.6
刺し傷・切り傷
17
9.3
脱臼・捻挫
27
14.8
骨折
5位
4
0.8
内臓損傷
5
2.3
2
0.9
その他
8
4.4
1
0.5
箱ブランコでけがをした子供や死亡した子供の家族が裁判を起こす例があ
る。しかしながら、事故をおこした子供は事故の状況を覚えておらず、子供の
証言は信頼性が低いとされ、子供の遊び方が適切でなかったということで片付
けられがちである。屋外遊具の場合は、製造は経済産業省、設置は国土交通省
19
の管轄であり、責任の所在がはっきりしないことが問題かもしれない。
文献
国民生活センター、2003 年 8 月 6 日公表「危害情報からみた屋外遊具の事故」
箱ぶらんこ裁判を考える会編、2004:危ない箱ブランコはかたづけて。原告は
9歳。現代書館。
20
3-2.遊具の安全に関する標準
(1)欧州の規格
遊び場の安全にかかわるヨーロッパで最初の規格は、1978 年に制定された
ドイツの DIN 7926 である。英国でも 1986 年に BS 5696 が制定された。これら
の規格は国内で改訂を経た後、1998 年に欧州 19 ヶ国統一の欧州規格 EN 1176-1
∼1176-7、EN 1177 となった。これに伴い、国内規格は廃止になっている。
EN 1177 は、オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンラン
ド、フランス、ドイツ、ギリシア、アイスランド、アイルランド、イタリア、
ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スエーデン、
スイス、イギリスの 19 カ国に共通、EN 1176 はこれらに加えてハンガリー、マ
ルタ、スロバキアの 22 カ国に共通である。以下、これらの内容の概略を紹介す
る。
EN1176-1: 1998 Playground equipment. General safety requirements and test methods
意図された、あるいは十分予測可能な使い方で遊具を使用したときに、子
供が予期する事ができなかった危険 (hazard) から子供を守るために、遊具の安全
に関する一般的要求事項を定めている。防火、化学物質、設計など対象は多岐
にわたる。設計で人体寸法に関連する事項としては、手すりの高さ、ガードレ
ールの高さ、柵の高さ、支持具の握りの直径、支持具の握り断面の最大幅、動
く遊具の地面からのクリアランスなどがある。また、はさまれ防止のための試
験物体を定義しており、頭部、首、足、手の指、衣服のはさみこみがおきない
ように隙間や凹部の形状を試験する方法を記述している。
付録 F では人体各部位について、はさまれによる事故に陥りやすい状況を
まとめている。遊具のサイズやすき間については固い材料でできた開口部の大
きさ広さ(筒の径、格子の幅など)、柔らかい材料でできた開口部の大きさ(鎖
の環の径など)、板と板の隙間の広さ、V 字形状、突き出し部、遊具が動いたと
きの場合の6項目に、人体を身体全体、頭と首(頭からはさまれる場合)、頭
と首(足の方からはさまれる場合)、手と腕、すねや足、指、衣服、髪の毛の
8項目に分けている。
EN 1176-2:1998 Playground equipment. Additional specific safety requirements and test
methods for swings
21
ぶらんこに特有の、安全に対する要求事項と試験方法について述べている。
人体寸法に関するものとしては、地面からのクリアランス、1点支持式ぶらん
この支柱などからのクリアランスがある。このほか、落下可能範囲の計算法な
どや、試験方法が記述されている。
EN 1176-3:1998 Playground equipment. Additional specific safety requirements and test
methods for slides
すべりだいに特有の安全に対する要求事項と試験方法について述べている。
EN 1176-4:1998 Playground equipment. Additional specific safety requirements and test
methods for runways
ロープウェイ(水平に張り渡されたロープにそって、滑車からつり下がっ
たロープないしシートにのって、重力の力で滑走する遊具)に特有の安全に対
する要求事項と試験方法について述べている。
EN 1176-5:1999 Playground equipment. Additional specific safety requirements and test
methods for carousels
回転台特有の安全に対する要求事項と試験方法について述べている。
EN 1176-6:1998 Playground equipment. Additional specific safety requirements and test
methods for rocking equipment
シーソー特有の安全に対する要求事項と試験方法について述べている。
EN 1176-7:1997 Playground equipment. Guidance on installation, inspection,
maintenance and operation
遊具の設置、検査、維持、操作に関する指針を述べている。
EN 1177: 1998 Impact absorbing playground surfacing − Safety requirements and test
methods
遊具から落下したときに頭部が受ける衝撃力が Head Injury Criterion
(HIC) tolerance level 1000 未満であれば、頭部のけがが致死的ではないこと
をもとに、遊具の下の地表面が十分な衝撃減衰力をもつよう、その要求事項と
22
試験方法を記述している。試験では、地表面材料に対し、規定した方法で頭部
を模擬した試験物体をいろいろな高さから落下させたときの加速度を計測する。
HIC は、計測した加速度と衝撃の開始から終了までの時間とから算出する。落下
させた高さとそのときの HIC の関係から、
HIC が 1000 のときの落下高さを求め、
これを critical fall height とする。
(2)米国の規格
米国では、100 年以上の歴史を持つ規格作成組織である ASTM International
(ASTM は American Society for Testing and Materials の略。1898 年設立)が、遊
具に関する規格を作成している。ASTM International による規格には以下のよう
なものがある。
F1487-01e1 Standard Consumer Safety Performance Specification for Playground
Equipment for Public Use
US Consumer Product Safety Commissionによると、1999年に米国の救急病院
では遊具に関連した事故によるけがで156,000人を治療した。このうち3/4が落下
によるけがであり、この他にぶらんこなど動く遊具による衝撃、突出部や鋭い
縁によるけがやはさまれによるものがある。死亡事故の原因には落下、衣服な
どがからんだ、ロープにひっかかった、頭部がはさまれた、こわれた遊具によ
る衝撃、動いているぶらんこによる衝撃がある。この規格の目的は、生死にか
かわったり身体障害をもたらようなすけがを減らすことである。このために、
公共の場に設置される様々な屋外遊具の安全と性能の基準を示す。2歳の5パー
センタイルから12歳の95パーセンタイルまでの範囲の子供を対象とする。様々
な遊具の安全性に関する要求仕様が記載されている。付録には、要求を満足し
ているか調べるための体幹部用、頭部用Probe、試験用のテンプレートとその使
い方、突出部評価用ゲージとその使い方などが、図示されている。
F1148-03 Standard Consumer Safety Performance Specification for Home Playground
Equipment
18ヶ月以上10歳までの子供が家庭で使う、様々なタイプの遊具に関する安
全に関する要求事項を示す。年齢によって事故(hazard)の性質や、これに対抗
する精神的、身体的な能力が異なるため、対象とする子供の年齢によって要求
23
事項が異なる。これらの要求事項を満たす製品を判定するための方法が記載さ
れている。安全性の内容は、一般要求事項としては材料、化学物質、塗料、と
がった先端や鋭い縁など、管の端、2つの部品の関節部、V字形の部分の角度な
どをふくむ。ぶらんこ、すべり台、組み立て式ぶらんこ、回転木馬、手でつか
む部品、構造、突出部、縄、はしご・階段・手すりについて、個別の要求事項
が示されている。付録1として試験方法が記述されている。また、付録2には
要求仕様の根拠と、
「鋭い縁」
、
「鋭い先端」などの具体的な定義や引用文献が述
べられている。付録2の要約には、要求仕様は、可能な限り、信頼のおける人
体寸法データに基づいていると述べられている。
F2223-04 Standard Guide for ASTM Standards on Playground Surfacing
公園などの所有者等が、屋外遊具の下、あるいは周辺の地表面材料を選択
し、特定するための指針を示す。地表面の設計、設置、維持管理に関連する要
求事項が述べてあり、詳細について参照すべきASTMの基準が示されている。
F1292-04 Standard Specification for Impact Attenuation of Surfacing Materials within
the Use Zone of Playground Equipment
US Consumer Product Safety Commission の2001年の調査などから、遊具に関
連した子供の事故で、遊具からの落下がけがの大きな原因になっており、頭部
への衝撃が死亡の最大の原因となっていることがわかっている。遊具等の周辺
の地表面に適切な材料を用いることで、落下に関連した生死にかかわるけがを
減らすことができる。
この規格の目的は、地表面材料の衝撃低減性能を評価、比較するための信
頼のおける方法を定めることにより、子供が遊具から落下することによる頭部
の障害の頻度と重症度を低減することである。遊具周辺の領域の地表面材料の
衝撃低減に関する最低限の要求事項と、衝撃低減性能の試験方法を示している。
子供の頭部の地表面に対する衝撃を模擬した実験方法を使って、衝撃により生
じる最大加速度(g-max)として衝撃を定量化する。障害の程度は、衝撃の強さ
と頭部への障害の関連についての文献から得た経験的な衝撃の強さの測度であ
るHead Injury Criterion (HIC)を用いる。地表面材料の衝撃低減性能への要求仕様
としては、g-maxスコアが200gを、HCIスコアが1000を超えないことと定めてい
る。
24
F1951-99 Standard Specification for Determination of Accessibility of Surface Systems
Under and Around Playground Equipment
運動機能障害をもつ子供や大人が、車いすなどを使って遊具のそばに行け
るように、遊具周辺の地表面の性能と、その試験方法を定めている。性能は、
評価対象となる材料を用いた地表面上で、車いすにのった人が一定のやり方で
直進するとき、あるいは90度曲がるときの仕事量で評価する。計測結果が、勾
配が1:14の、固くなめらかな面を直進するとき、あるいは90度回転するときの
平均仕事量よりも小さくなくてはならない。
(3)日本
日本には屋外遊具に関する工業規格はない。国土交通省が2002年3月に「都
市公園における安全確保に関する指針」を発行、(社)日本公園施設業協会が、
上記ガイドラインに準じた「遊具の安全に関する基準(案)JPFA-
S2002」を
2002年10月に発行した。しかし、この基準(案)は日本公園施設業協会の会員
用に作成されたものであり、広く普及しているわけではなく、入手方法もはっ
きりしない。
(社)日本公園施設業協会のウェブページから問い合わせメールを
出したが、回答は無かった。
(社)日本公園施設業協会による「遊具の安全に関する基準(案)
」は、EN
1176-1∼7、EN 1177、ASTM F1487を参考にしている。3歳から12歳までの子供を
対象にした公共の遊び場や広場の遊具を対象としている。遊びにおける危険性
をリスクとハザードに分け、ハザード(子供が予測できず、どのように対処す
ればよいか半断できない危険性)を除去することにより、生命の危険や重度の
障害をもたらす重大事故を防止することを目的としている。内容は引用された
欧米の規格に似ており、安全領域、落下高さ、遊具の設計、遊具の構造と強度、
遊具の材料、遊具の製造・施行・維持管理、点検、修繕などの項目がある。欧
米規格との大きな違いの1つは、万一落下したときの安全性確保のための、地
表面の性能についての記述はないことである。もう1つは、欧米規格には試験
方法が記載されているが、この部分がないことである。さらに、付属参考資料
として子供の人体寸法が引用されているが、このうち3歳と6歳のデータは計測
年がかなり古い。
プレイセイフティネットワークの代表者、山本恵梨氏によると、『日本で
は遊具設置場所に衝撃緩衝材がほとんど用いられていない。米国では資格(注)
25
をもった検査員が定期的に遊具の点検を行っている。人体寸法ニーズについて
は、欧米の規格はすべての人種を対象としているので、日本人データを規格に
反映する必要はないと思うが、規格に規定された寸法値について、その値がど
この寸法によってどのような理由で定められたかを明記しておくことが重要と
考える。日本でも、2002年から国土交通省のガイドラインや遊具協会の基準(案)
が作られ、安全規格が整備され始めているが、役所でもその存在が知られてい
ないのが現状である』。
(注)
:米国Consumer Product Safety Commissionの認定資格であるNational
Playground Safety Inspector
文献
プレイセイフティーネットワークのページ:
http://www.google.com/search?client=safari&rls=ja-jp&q=プレイセイフティー
ネットワーク&ie=UTF-8&oe=UTF-8
ASTM Internationalのページ:
http://www.astm.org/cgi-bin/SoftCart.exe/index.shtml?E+mystore
British Standardのページ:
http://bsonline.techindex.co.uk/BSI2/Dir1/sitepage.asp?LS=&PgID=0000&LR=&
LD=&Src=&Dest=&Last=&SessID=5HCU52TQT4M78P418UFEFXP77CKGDS
57&MSCSID=&ErrID=&SessStat=&Parent=&Child=&PCount=0&LogStat=&U
RLData=
26
3-3.まとめ
遊具による事故原因で最も多いのが転落・落下である(56.6%、表3-3)。
これに飛び降りを加えると、落ちることによる事故は67%を占める。部位別に
みると、頭部が最も多く、74%となる(表3-8)。欧米の遊具に関する規格に
は、特に頭部への衝撃による重篤な結果を回避することを目的とした、遊具の
下あるいは周辺の地表面の衝撃低減性能に関する独立した規格がある。上記の
ような事故の現状をみると、仮に落下したとしても重大な事故にならないよう
に、地表面を整備するのは合理的といえよう。一方、落下や衝突については、
落下防止の手すりや柵の高さを除くと、人体寸法よりも衝撃が重要である。
人体寸法がより関係するのは、挟み込みによる事故であろう。挟み込みに
よる事故は、件数としては多くない(表3-3)。しかし、EN 1176-1に規定され
ているようなクリアランスを確保するだけでも、重篤な結果をもたらす事故は
低減できるであろう。すでに欧米で規格が制定されていることから、具体的に
どのような人体寸法が遊具の設計や設置において重要かに関する情報は入手可
能であろう。一方、仮に日本人の子供が同年齢の欧米人の子供よりも小さいと
しても、規格制定においては安全率を考慮するであろうから、日本人のデータ
がなければ安全基準を作ることはできないとはいえない。しかし、日本人のデ
ータがあるならば、欧米の基準で十分であるかどうかを検討することができる
であろう。
27
第4章
国内における子供の人体寸法計測に関連した調査研究
4-1.
「乳幼児身体計測報告書(昭和 48 年)
」製品安全協会
乳幼児用の製品設計、安全基準作成に係わる 21 項目を、0 歳から 6 歳の
男女 774 名について計測した。
調査目的
乳幼児用器具類の設計のために必要な身体各部の寸法を計測し、実態を把
握するとともに、安全基準作成のための資料とすることを目的とする。
実施者
下記調査委員を委嘱して行った。実際の測定は専修大学社会体育研究所の
阿久津邦男教授を代表とする時岡醇、中原伸記、石黒弘、三沢幸雄らのグルー
プと、慈恵医科大学小児科の岡部武史医員を代表とする富田有祐らのグループ
が行った。
調査委員
内藤
寿七郎
愛育病院長
浅野
秀二
国立小児病院副院長
知久
篤
日本人間工学会常任理事
国分
義行
慈恵医科大学教授
阿久津邦男
専修大学教授
調査期間
1973(昭和 48)年 7 月 12 日∼8 月 23 日
調査対象
東京都およびその近郊の中都市における 12 団体を無作為に抽出した。年齢
別被験者数を表4-1に示す。
計測姿勢
立位姿勢:背すじを緊張することなく伸ばし、肩の力をぬいて上肢を自然
に下垂する。頭部は耳眼面水平位を保ち、前方を注視する。
28
座位姿勢:背すじを自然に伸ばした姿勢で、耳眼面水平位を保ち、前方を
注視する。左右の大腿はほぼ平行にし、膝の角度はほぼ直角とする。
表4-1.年齢別被験者数
年・月齢
男子 女子 計
0歳 1∼3
11
10
21
0歳 3∼6
53
41
94
0歳 6∼9
18
16
34
0歳 9∼12
10
7
17
1 歳 0∼6
14
10
24
1 歳 6∼12
6
9
15
2 歳 0∼6
6
8
14
2 歳 6∼12 18
9
27
3 歳 0∼6
14
10
24
3 歳 6∼12 14
8
22
4 歳 0∼6
18
25
43
4 歳 6∼12 48
55 103
5 歳 0∼6
48
57 105
5 歳 6∼12 79
66 145
6 歳 0∼5
35
51
86
合計
392
382
774
※ たとえば月齢の 1∼3 月の表示は生後 1 ヶ月以上 3 ヶ月未満を示す
計測項目
乳幼児のための保健・育児用器具などの設計のために必要と考えられる 21
項目を選んだ。計測法を表4-2に示す。1歳未満の乳児の測定は臥位姿勢で行
った。胸囲の計測法は、更に検討の余地があるため、報告書に統計量が出てい
ない。
29
表4-2.計測項目と定義
計測項目
1
2
3
4
方法
身長※
体重
座高
座面高※
立位で床面から頭頂点までの垂直距離
10g まで。原則としてパンツのみ着用
座位で座面から頭頂点までの垂直距離
座位で下腿を自然に下垂させ、足関節をほぼ直角にした際の座面上縁から
足底部までの垂直距離
5 肩峰高※
立位で床面から肩峰点までの垂直距離
6 肩幅
上肢か下垂した状態で、左右の三角筋部の肩の外側面間の幅。桿状計と皮
膚の接点間で求める
7 座位殿幅※
座位姿勢(座高参照)で左右殿部の最膨隆部位間の幅
8 胸囲
立位で右乳頭点を通る水平周長
9 胸厚さ
立位で乳頭位における胸部前後の最大突出部位間の矢状面に平行な水平
直線距離
10 腹厚さ
立位で腸骨稜点の位置における腹部前後の最大突出部位間の矢状面に平
行な水平直線距離
11 殿-膝蓋間長※ 椅子座位での、殿部後縁から膝蓋骨前縁までの水平直線距離
12 座位下肢長
座位で、下肢をできるだけ水平前方に伸ばし、足関節を直角にした状態で
の殿部後縁から踵部前縁までの直線距離
13 頭幅※
左右の側頭点間の直線距離
14 頭長※
眉間点から後頭点までの直線距離
15 全頭高※
頭部を耳眼面水平位にしたときの、頭頂点からオトガイ点までの垂直距離
16 上肢長※
立位で肩峰点から中指尖端までの垂直距離。手指は原則として前腕の延長
上に自然に伸ばす
17 手長※
橈骨茎突点と尺骨茎突点を結ぶ掌面の線の中点から指先点までの直線距
離
18 手幅※
橈側中手点から尺側中手点までの直線距離
19 股下高※
立位で、床面から会陰点までの高さ
20 足長※
立位で、踵点から足先点までの直線距離
21 足幅※
立位で脛側中足点から腓側中足点までの直線距離
※:1 歳未満の乳児は臥位姿勢で計測
文献
製品安全協会、昭和 48 年:乳幼児身体計測報告書
30
4-2.
「幼児身体計測報告書(昭和 54 年)」製品安全協会
乳幼児用の製品設計、安全基準作成に係わる 25 項目を、2 歳から 6 歳の
男女 486 名について計測した。
調査目的
「乳幼児身体計測報告書(昭和 48 年)製品安全協会」の資料を参考にして
いたが、乳幼児の発育の変化や工場や製品の複雑化に対応してより詳細で科学
的なデータに基づいた製品設計が強く求められるに至ったため、乳幼児の人体
各部位の寸法を系統的に計測し、設計改善や安全基準作成のために資料とする
ことを目的とする。
計測者
阿久津 邦夫
専修大学教授
現専修大学名誉教授(健康科学論)
石黒
弘
高千穂商科大学助教授
時岡
醇
慈恵医科大学講師
三沢
幸雄
高千穂商科大学助教授
今野
広隆
高千穂商科大学講師
現高千穂大学教授
現高千穂大学教授
現高千穂大学教授
計測期間と場所
1979(昭和 54)年 7 月 12 日∼11 月 5 日
無作為に抽出した東京都およびその近郊の中都市にある幼稚園、保育園 8
団体
計測対象
生後 2 年∼6 年 6 ヵ月までの幼児。男子 267 名、女子 219 名(計 486 名)。
表4-3参照。
計測姿勢
昭和 48 年の計測に準じる
正立位:背すじを過度に緊張することなく伸ばし、肩の力を抜いて上肢を自然
に下垂した自然な立位姿勢。頭部は耳眼面水平位に保ち、前方を注視する。
座位:自然ないす座位。大腿部は平行にして、膝関節はほぼ直角に曲げる。頭
31
部は耳眼面水平位を保ち、前方を注視。
表4-3.月齢別被験者数
年・月齢
2歳
3歳
3歳
4歳
4歳
5歳
5歳
6歳
0∼11
0∼5
6∼11
0∼5
6∼11
0∼5
6∼11
0∼5
合計
男子 女子
計
6
10
27
45
46
31
66
36
8
13
28
33
33
30
31
43
14
23
55
78
79
61
97
79
267
219
486
計測項目
乳幼児のための保険・育児用器具などの設計の基礎資料を得るためのもの
であるため、設計上必要と考えられる 25 項目を選んだ。この他に、体重と皮下
脂肪の相関性を検討するために、上腕、背部、腹部の3ケ所についての皮下脂
肪厚を計測した。表4-4参照。
文献
製品安全協会、昭和 54 年:幼児身体計測報告書
32
表4-4.計測項目
計測項目
計測器
方法
1 身長
2 体重
3 胸囲
身長計
体重計
巻尺
4 座高
5 上肢長
身長計
杆状計
6 胸部厚径
杆状計
7 腹部厚径
杆状計
8 胸幅
触角計
立位で床面から頭頂点までの垂直距離
10g まで。原則としてパンツのみ着用
立位で右乳頭点を通る水平周長。呼気と吸気の中間位
で測定
座位で座面から頭頂点までの垂直距離
立位で肩峰点から中指尖端までの垂直距離。手指は原
則として前腕の延長上に自然に伸ばす
立位で乳頭位における胸部前後の最大突出部位間の矢
状面に平行な水平直線距離。呼気と吸気の中間位で測
定
腸骨稜点の位置における腹部前後の最大突出部位間の
矢状面に平行な水平直線距離
乳頭点位における胸部の最外突出部位間の水平距離。
呼気と吸気の中間位で測定
立位での殿部の左右最外突出部位間の水平直線距離
座位姿勢での殿部の左右最膨隆部位間の横方向の水
平直線距離
座面から、手掌を内側に向けて前腕を水平にしたとき
の、肘の下端までの距離(肘頭下端高)
足底から座面までの垂直距離。下腿を自然に下垂させ、
足関節を直角にする
いす座位で、下肢をできるだけ水平前方に伸ばし、足関
節を直角にした状態での、殿部後縁から踵部前縁までの
直線距離
いす座位で上腕を自然に下垂し、手掌を内側に向けて前
腕を水平にしたときの、肩峰点から肘頭下縁までの垂直
距離
三角筋部位における上腕の最外突出部位間の横方向の
水平直線距離。Bideltoid breadth
左右の側頭点間の直線距離
眉間点から後頭点までの直線距離
第2指の爪の近位端位における指の幅
第2指の爪の近位端位における指の厚み
第2指つけねにある掌側屈曲線の中点から第2先端まで
の直線距離
橈側中手点から尺側中手点までの直線距離
橈骨茎突点と尺骨茎突点を結ぶ掌面の線の中点から指
先点までの直線距離
立位(両足均等荷重)で、踵点から足先点までの直線距
離
立位(両足均等荷重)で脛側中足点から腓側中足点まで
の直線距離
床面から第1指指節間関節上縁までの高さ
9 立位殿幅
10 座位殿幅
杆状計
杆状計
11 座面・肘頭距離
上体反し器
12 下腿高(座面
高)
13 座位下肢長
下腿高測定器
身長計
14 肩峰・肘頭距離
杆状計
15 肩幅(最大腕外
幅)
16 頭幅
17 頭長
18 第Ⅱ指幅
19 第Ⅱ指厚
20 第Ⅱ指掌側長
杆状計
触角計
触角計
滑動計
滑動計
滑動計
21 手幅
22 手長
滑動計
滑動計
23 足長
杆状計
24 足幅
滑動計
25 足指高
滑動計
33
4-3.
「幼児の行動領域についての調査研究報告書」製品安全協会
調査目的
幼児の上肢、下肢の行動領域を測定することにより、手の届く範囲と動作
や作業ができるスペースと空間やモノとの関係を分析し、寸法の適合性を検討
する。また、幼児の行動領域を計測し、安全性について考察する。
首班
坂田
種男(千葉大学)
調査期間
1982(昭和 57)年 6 月∼1983(昭和 58)年 2 月
調査1:手の届く範囲
計測対象と場所
3 歳∼5 歳の男女、約 150 名。3 カ所の保育園。
調査方法
5cm 間隔のグリッドを描いた測定板の前に被験者を立たせ、正面(約 7m)
、
側面(約 7m)、上方(約 12m)の距離から 100mm 望遠レンズを用いて写真撮影を
行った。各方向からの写真を、以下の姿勢をとらせた状態で撮影した。このと
きの、頭頂部、両手と両足の先端の位置を座標値として表した。座標系は頭頂
点を通る上下方向が X 軸、床面で左右方向が Y 軸。撮影条件による拡大は補正
した。
立位正面:1)通常の姿勢、2)両手を左右に広げた姿勢、3)両手を上に挙
げた姿勢、4)両手を左右に広げ、両足を開いた姿勢、5)両手を上に挙
げて、両足を開いた姿勢。
座位正面:座面高 28cm のいすにすわり、6)両手を左右に広げた姿勢、7)両
手をかるく上に挙げた姿勢、8)両手を思いきって上に挙げた姿勢
立位側面:9)両手を肩の高さまで前方に挙げた姿勢
座位側面:座面高 28cm のいすにすわり、10)手を肩の高さまで前方に挙げた
姿勢
34
調査2:作業面上の作業領域
計測対象と場所
3 歳 24 名、4 歳 24 名、5 歳 25 名、合計 73 名。都内の保育園1カ所。
調査方法
90cm×120cm の黒板に 5cm のグリッドを入れたものを机面とする測定台の
前においた椅子に幼児をすわらせる。幼児は両手にチョークを持ち、両手をで
きるだけ伸ばし、さらに上体も曲げて、チョークが最も遠くに届く点を求める。
それから両手を次第に広げながら身体を前方にかがませ、最終的には測定台上
に両手をいっぱいに広げた姿勢までチョークで画ける範囲を求める。
次に通常の姿勢に戻し、ごく自然な姿勢を保たせながら、5 歳児には自分
の名前を、3-4 歳児で自分の名前を書けない者には△や○などの記号を書かせ、
その測定台に対する位置を求めた。
調査3:行動域と屋内保育スペース
写真撮影とスケッチにより、一斉保育(全員が同じことをする)、自由保育
(各人が自由に行動)での個体の広がりを調べた。対象は 3-5 歳児 101 名。
調査4:行動域と屋外保育スペース
遊びに必要な空間を定量的に調べることを目的とする。
対象は 3-5 歳児 101
名(3 歳 1 名、4 歳 45 名、5 歳 55 名)。
広場、砂場、低鉄棒、雲梯、滑り台+太鼓橋、多目的遊具における、一人
当たり占有空間は、広場>低鉄棒>滑り台+太鼓橋>雲梯>多目的遊具>砂場。
文献
製品安全協会、昭和58年:幼児の行動領域についての調査研究報告書
35
4-4.日本人の体格調査報告書―既製衣料の寸法基準作成のための−(1978 年∼
1981 年)
調査目的
既製衣服のサイズ規格作成のための基礎データを取得する。この調査では
約 46,000 人を対象に計測をしたが、うち 30,549 人は 18 歳以下の子供である。
計測者
全国の被服構成学関連の大学教員
調査期間と場所
1978-81 年。全国
計測対象
全計測対象者約 46,000 人のうち、0∼2 歳の幼児が 2,954 名、2∼18 歳の子
供が 27,595 名(表4-5)。
計測姿勢
2 歳以下の乳幼児は仰臥位。その他は正立位、すなわち、左右のかかとを
そろえ、背すじを自然に伸ばし、耳眼面を水平に保持する。肩の力をぬき、上
肢を自然に下垂する。
計測項目
乳幼児は基本 15 項目、および余裕があれば測る 4 項目の、合計 19 項目(表
4-6)。幼稚園児は 26 項目(表4-7)。小学生以上は成人と同じ(表4-8)。
すなわち、男女共通項目 49、女性のみの項目 8、男性のみの項目 6(女性 57、
男性 55)。目的が衣服サイズ規格作成であるため、アパレルの項目が大部分。
基準線の定義は以下のとおり:
胸囲線:右乳頭点を通る水平位
胴囲線(男)
:右側面における腸骨稜の直上部に胴囲線用ベルトをまわして水平
位を決める
胴囲線(女)
:体幹部の最も細い位置にベルトをまわし、ベルトが自然におちつ
36
く位置。必ずしも水平ではない。
腹囲線:側面から見て腹部の最突出部における水平位
腰囲線:右転子点(大転子の外側面における中心点)を通る水平位
頚付根線:背面では頚椎点、側面では頚側点、前面では鎖骨内側端の上縁を通
る。頚付根線用チェーンを用いると決めやすい。
腕付根線:肩部から上腕部に移行する境界線で、前面では上腕骨頭のほぼ中央
を通り、後面では肩峰に沿う位置となる。腕付根線用ゴムテープを用いる
と決めやすい。
肩縫目線:肩先点と頚側点を結ぶ線で、僧帽筋上部前縁に沿う位置となる
表4-5.18 歳以下の被験者数
年齢
年 月
男
女
0
0
0
1
0
1
11 12
0
2
17 14
0
3
60 55
0 4∼6 148 153
0 7∼9 206 210
0 10∼12 220 221
1 1∼4 258 240
1 5∼8 297 283
1 9∼12 270 278
2
2
3
4
5
6
1∼6
7∼12
1∼6
合計
小計
1
23
31
115
301
416
441
498
580
548
2,954
7,762
421
462
494
880
763
940
392
433
457
843
744
933
813
895
951
1,723
1,507
1,873
7
8
9
10
11
12
855
825
834
812
849
893
805
841
850
799
807
892
1,660
1,666
1,684
1,611
1,656
1,785 10,062
13
14
15
768 773
842 812
843 831
1,541
1,654
1,674
4,869
16
17
18
833 845
804 828
792 800
1,678
1,632
1,592
4,902
合計
30,549
37
表4-6.乳幼児の計測項目
項目名
測定器
具
1 臥位身長
アント
ロポメ
ータ
巻尺
2 臥位股の高さ*
3 臥位右上前腸骨棘
高
4 右足長
アント
ロポメ
ータ
触角計
5
6
7
8
9
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
頭囲
乳頭位胸囲
臍位腹囲
腰囲 b
胴縦囲
10 頸付根囲
巻尺
11 右上腕最大囲
巻尺
12 右手くび囲*
13 右掌囲*
巻尺
巻尺
14 右大腿最大囲
15 右下腿最大囲*
巻尺
巻尺
16 臥位総丈
巻尺
17 右袖丈
巻尺
18 背肩幅
19 体重
*:余裕があったら測る
巻尺
体重計
計測方法*
両足の足底を圧着した垂直板から頭頂点までの垂直距離
両足の足底を圧着した垂直板から股の右側上端までの垂直
距離
両足の足底を圧着した垂直板から右腸棘点までの垂直距離
足底を垂直板につけた状態での踵点から足先点までの直線
距離
姿勢を問わない。眉間点と後頭点を通る周長
左右の乳頭を通る断面の周長
臍点を通る断面の周長
殿部の最後方突出部を通る断面の周長
右肩二等分の位置と股の間に巻尺をまわし、体幹部の縦方
向の周長を測る
だっこした姿勢で、頚窩点と頚椎点を通る周長を測る。頚
側点は考慮しなくてもよい
姿勢を問わない。上腕二頭筋の最もふくらんだ位置におけ
る腕の周長を、上腕の長軸の直交するように測る
姿勢を問わない。右手首点(尺骨頭の中央)を通る周長
姿勢を問わない。親指を除く掌の周長。4 本の指をそろえ
て測る
右大腿の最大周長を、大腿の長軸の直交するように測る
前方から見て幅が最も広い部位で、下腿の長軸に直交する
ように測る
横臥位で測る。背面正中線における頚椎点から腹囲線、腰
囲線までは体表にそわせ、ここから足底を圧着した垂直板
までは垂直に巻尺を伸ばす
姿勢を問わない。肩先点から上腕外側にそって肘までは腕
幅の中央を通り、ここから右手くび点(尺骨頭のふくらみ
の中央)まで
だっこした姿勢で、左右の肩先点間の体表にそった長さ
38
表4-7.幼稚園児の計測項目
項目名
1 身長
2 臍高
3 股の高さ
4 右上前腸骨棘高
5 右膝関節高
6 右下腿最大囲の
高さ
7 右外果高
8
9
10
11
12
13
右足長
頭囲
乳頭位胸囲
臍位腹囲
腰囲 b
胴縦囲
測定器具
アントロ
ポメータ
アントロ
ポメータ
巻尺
アントロ
ポメータ
アントロ
ポメータ
ものさし
ものさし
触角計
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
14 頸付根囲
15 右上腕最大囲
巻尺
巻尺
16 右手くび囲
17 右掌囲
18 右大腿最大囲
巻尺
巻尺
巻尺
19 右下腿最大囲
巻尺
20 臍位背丈
巻尺
21 総丈
巻尺
22 右袖丈
巻尺
23 背肩幅
24 背部皮下脂肪厚
巻尺
皮脂厚計
25 上腕部皮下脂肪
厚
26 体重
皮脂厚計
体重計
計測方法
床面から頭頂点までの垂直距離
床面から臍点までの垂直距離
床面から股の右側の上端までの垂直距離
床面から右腸棘点までの垂直距離
床面から右脛骨点までの垂直距離
床面から下腿最大囲位置までの垂直距離
床面から右外果点(外果)の最も側方に突出している点)ま
での垂直距離
踵点から足先点までの直線距離
眉間点と後頭点を通る周長
右乳頭点を通る水平周長
臍点を通る水平周長
殿部の最後方突出部を通る水平周長
右肩二等分の位置と、股の間に巻尺をまわし、体幹部の縦方
向の周長を測る
頚窩点、頚側点、頚椎点を通る頚付根の周長を
上腕二頭筋の最もふくらんだ位置における腕の周長を、上腕
の長軸の直交するように測る
右手首点(尺骨頭の中央)を通る周長
親指を除く掌の周長。4 本の指をそろえて測る。
右殿部直下での筋肉が最も強く内側に突出した位置で、大腿
の長軸に直角に巻尺を当てて周長を測る
前方から見て幅が最も広い部位で、下腿の長軸に直交するよ
うに測る
頚椎点から、背面正中線上につけた臍点と同じレベルの点ま
でを、肩甲骨の突出を考慮して測る。肩甲骨が突出している
場合は、セルロイド板を背面のシルエットに沿うようにあて
て計測する
背面正中線における頚椎点から腹囲線、腰囲線までは体表に
そわせ、ここから床面までは垂直に巻尺を伸ばす
肩先点から上腕外側にそって肘までは腕幅の中央を通り、こ
こから右手くび点(尺骨頭のふくらみの中央)まで
左右の肩先点間の体表にそった長さ
肩甲骨下端直下の皮下脂肪厚を測る。皮膚をつまむ位置は計
測位置の1cm 上。右上がり 45 度に、つまんだひだの両面が
平行になるようにつまむ
上腕三頭筋付着部の皮下脂肪厚を測る。皮膚をつまむ位置は
計測位置の1cm 上。つまむ方向は上腕の長軸と直角にする
39
表4-8.小学生以上の子供の計測項目(成人と同じ)
計測方法
項目名
測定器具
身長
頚椎高
右乳頭高
右肩先の高さ
右腕付根の高さ
後胴高(女性)
前胴高(女性)
中胴高(男性)
下胴高(男性)
股の高さ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
11 右上前腸骨棘高
12 右膝関節高
13 右大腿最大囲の
高さ
14 右下腿最大囲の
高さ
15 右外果高
アントロポメータ
アントロポメータ
アントロポメータ
床面から頭頂点までの垂直距離
床面から頚椎点までの垂直距離
床面から右乳頭点までの垂直距離
床面から右肩先点までの垂直距離
床面から右腕付根点までの垂直距離
床面から胴囲線と後正中線の交点までの垂直距離
床面から胴囲線と前正中線の交点までの垂直距離
床面から中胴囲線と前正中線の交点までの垂直距離
床面から下胴囲線と前正中線の交点までの垂直距離
床面から股の右側の上端に接する様にさしこんだ補助板
の上縁までの垂直距離
床面から右腸棘点までの垂直距離
床面から右脛骨点までの垂直距離
床面から下右大腿最大囲位置までの垂直距離
アントロポメータ
床面から右下腿最大囲位置までの垂直距離
床面から右外果点(外果の最も側方に突出している点)ま
での垂直距離
16 全頭高
17 胸部矢状径
18 胴部矢状径
アントロポメータ
または 10cm もの
さし
桿状計
桿状計
桿状計
19 腰部矢状径
桿状計
20 乳頭間幅(女性)
21 乳房の深さ(女
性)
22 右腕付根前後径
23 右手長
24 右足長
巻尺
10cm ものさし
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
右足幅
頭囲
乳頭位胸囲
上部胸囲(男性)
下部胸囲(女性)
胴囲
中胴囲(男性)
下胴囲(男性)
腹囲
腰囲 a
腰囲 b
胴縦囲
桿状計
桿状計
桿状計
桿状計
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
頭頂点とオトガイ点の間の投影距離。耳眼面に垂直
胸囲線における厚径(正しくは胸部厚径)
胴囲線における前後径。胴囲線が水平でない場合は前
後に傾く(正しくは胴部厚径)
腰囲線における厚径。胴囲線が水平でない場合は前後
に傾く(正しくは腰部厚径)
左右の乳頭点間の直線距離
前正中線と胸囲線の交点から左右の乳頭点を結ぶ直線
までの鉛直距離。胸囲に巻尺を当てた状態で測る
右腕付根における前後径
右手の茎突点から指先点までの投影距離
右足の踵点と第2指先端を結ぶ線を足軸として、踵点か
ら足先点までの投影長
右足の内・外側突出点間の投影距離
眉間点と後頭点を通る周長
右乳頭点を通る水平周長
男子の腕付根点を通る水平周長
女子の乳房直下部の水平周長
女子の胴部の最も細い部位の周長。水平とは限らない
男子の胴部の最も細い部位の水平周長
男子の腸骨稜直上における水平周長
側方から見て腹部の突出部における水平周長
腰囲線における周長。前面に計測補助板を当てて測る
殿部の最後方突出部を通る水平周長
右肩二等分の位置と股の間に巻尺をまわし、体幹部の縦
方向の周長を測る
40
37 頚囲(男性)
巻尺
38 頸付根囲
39 右腕付根囲
40 右上腕最大囲
巻尺
巻尺
巻尺
41
42
43
44
右前腕最大囲
右手くび囲
右掌囲
右大腿最大囲
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺
45
46
47
48
右膝囲
右下腿最大囲
右下腿最小囲
腕付根の深さ
巻尺
巻尺
巻尺
巻尺、計測補助
板
巻尺、計測補助
板
巻尺、計測補助
板
巻尺
49 背丈
50 総丈
51 B.N.P.→右 B.P.
(女性)
52 B.N.P.→右 B.P.
→W.K.(女性)
53 右肘丈
巻尺
54 右袖丈
巻尺
55 右肩幅
56 背肩幅
57 背幅
巻尺
巻尺
巻尺
58 胸幅
巻尺
59 W.L.→座面
巻尺
60 W.L.→H.L.
61 背部皮下脂肪厚
巻尺
皮脂厚計
62 上腕部皮下脂肪
厚
皮脂厚計
63 右肩傾斜角
64 体重
角度計
体重計
巻尺
男子の、喉頭隆起の直下における周長。後面では自然に
おちつく位置に巻尺をまわして測る
頚窩点、頚側点、頚椎点を通る頚付根の周長
右腕付根の周長。上肢下垂姿勢で測る
上腕二頭筋の最もふくらんだ位置における腕の周長を、
上腕の長軸の直交するように測る
右前腕の最大周長
右手首点(尺骨頭の中央)を通る周長
親指を除く掌の周長。4 本の指をそろえて測る。
右殿部直下での筋肉が最も強く内側に突出した位置で、
大腿の長軸に直角に巻尺を当てて周長を測る
右膝蓋骨の中央を通る膝の水平周長
右下腿の最大周長
右下腿の最小周長
頚椎点から右腕付根の位置(正中線上)までの長さ。計
測補助板を使う
頚椎点から胴囲線までの、背面のシルエットにそった長さ
背面正中線における頚椎点から腹囲線、腰囲線までは体
表にそわせ、ここから床面までは垂直に巻尺を伸ばす
右頸椎点から右頚側点を通り、右乳頭点まで
右頸椎点から右頚側点、右乳頭点を経て直下の胴囲線
まで
右肩先点から右肘点(肘頭の最外側突出点)までの体表
長
肩先点から上腕外側にそって肘までは腕幅の中央を通
り、ここから右手くび点(尺骨頭のふくらみの中央)まで
右頚側点から右肩先点までの長さ
左右の肩先点間の体表にそった長さ
背面における左右の腕付根間の長さ。右肩先点から腕付
根点までの体表長の中点の位置で測る
前面における左右の腕付根間の長さ。背幅と同じ高さで
測る
座位で、右体側における胴囲線から座面までの長さ。腰
の最突出部までは巻尺を体側に沿わせ、それより下方は
垂直におろす
立位で、右体側における胴囲線から腰囲線までの長さ
肩甲骨下端直下の皮下脂肪厚を測る。皮膚をつまむ位
置は、計測位置の1cm 上。右上がり 45 度に、つまんだひ
だの両面が平行になるようにつまむ
上腕三頭筋付着部の皮下脂肪厚を測る。皮膚をつまむ
位置は、計測位置の1cm 上。つまむ方向は上腕の長軸と
直角にする
右肩の傾斜角。角度計を右肩に軽くのせる
41
文献
日本規格協会編、1984:日本人の体格調査報告書―既製衣料の寸法基準作成のた
めのー(1978 年∼1981 年)、日本規格協会。
42
4-5.建築安全計画のための乳幼児寸法計測:八藤後他、2002,2003
乳幼児の安全性を考慮した生活環境の研究は十分でない。乳幼児の家庭内
事故を防止するためには建築的配慮が必要だが、必要な乳幼児のデータがない
ことから、計測装置の開発と 7 歳以下の子供について人体寸法および動作寸法
を計測した。
調査-1
目的
乳幼児の人体寸法および発達段階に応じた動作寸法を計測するための装置
を開発し、事故発生要因に関係する乳幼児の人体寸法、動作寸法を計測する。
被験者と計測場所
1歳∼6歳の子供、273 名(男子 148 名、女子 125 名)
。表4-9に年齢別被
験者数を示す。東京都内の保育所で計測。
表4-9.年齢別有効被験者数(男女こみ)
年齢
1 歳児
2 歳児
3 歳児
4 歳児
5 歳児
6 歳児
合計
人数
40
42
50
43
48
49
272
計測項目
人体寸法 15 項目、動作項目 3 項目を計測(表4-10)。
表4-10.計測項目
項目
計測方法
人体寸法
1
2
3
4
体重
身長
重心高
肩峰高
幼児向け体重計を使用
幼児向け身長計を使用
2つの体重計とベッドを用いて計測
模造紙の前に立ってもらい、肩峰高に印をつけ、スケールで
計測
43
5
6
頭幅
腕の長さ
7
8
9
10
11
12
13
14
15
にぎり内径
第2指厚
第2指幅
小指厚
小指幅
足の親指厚
足の親指幅
足の小指厚
足の小指幅
コルク素材を用いた大型ノギスを作成し、計測
肩峰高から、肩峰高と同じ方法で測った中指端高を引いて算
出
円錐を握り、親指と示指の指先が離れる直前を計測
市販のノギスを使用
同上
同上
同上
同上
同上
同上
同上
動作寸法
1
2
3
垂直距離到達範囲 壁面にパネルを取り付け、腕を伸ばしてできるだけ高い位置
にシールをはり付けさせ、シールの高さを計測。背伸びをして
もよい
水平距離到達範囲 40∼90cm の8段階に高さが変化するテーブルにスライドレー
ルを作り、レール上の人形をできるだけ遠くに押しやり、スライ
ドさせる
押す力・引く力
50・70・90cm の 3 段階に高さが変化するバーを水平に押す・
引くことで、テコの原理により力を垂直に体重計に伝えて計測
調査-2
目的
幼児の墜落事故事例を見ると、一般に想定している幼児の運動能力を超え
た状況で柵を越え、墜落に至っている。そこで、柵状部位について幼児の墜落
を防止できる条件を明らかにすることを目的とする。
被験者と計測場所
4歳∼5歳の男女 90 名(表4-11)。東京都内の幼稚園にて計測。
表4-11.被験者
年齢
男 女 合計
4 歳児 20 19
5 歳児 13 13
6 歳児 12 13
39
26
25
合計
90
45 45
44
計測項目
転落事故について、(1)台などによじのぼって柵を乗り越える、(2)足
がかり(窓枠の敷居部分)によじのぼって柵をのりこえる、
(3)離れたところ
から柵を乗り越える、という3つの状況を設定し、以下3つの実験を行った:
(1)台のぼり実験:高さ 40∼70cm を 10cm 間隔で高さ可変、台表面の面積2
種(90cm×120cm、および 30cm×70cm)を用いて、高さ何 cm の台によじの
ぼれるかを調べる
(2)足がかりよじのぼり実験:てすり条件(高さ 110cm の手すり子柵(たて
格子のはまった柵で手がかりあり)、および同じ高さの無開口柵(板状で
手がかりなし)の2種)、足がかりの高さ(5cm、10cm、20cm、30cm、40cm、
50cm、60cm、65cm、70cm の9種)、足がかりの厚み(5cm、7.5cm、10cm、
15cm の4種、および板状で手がかりなしの柵のみ 1cm、2.5cm を追加)
、
を変えて、どの条件のときに乗り越えられるか調べる
(3)柵乗り越え実験:つま先先端からベランダ柵までの水平距離(0∼60cm)
と相対柵高さ(台上面から柵上面までの高さ:40cm∼90cm)を変えて、
のりこえられる条件を調べる
結果
被験者を、身長 105cm 未満(33名、ほぼ4歳児)
、105cm 以上 115cm 未満
(45名、ほぼ5歳児)、115cm 以上(12名)に分けた。
(1)台のぼり実験:全員が 60cm にのぼることができた。70cm では低身長群で
よじ上れない子供がいるが、台大で 88%が、台小で 82%がよじのぼること
ができた。
(2)足がかりよじのぼり実験:手すり子柵では、中身長群、高身長群の全員
が、最ものぼりにくい条件(足がかりの高さ 70cm、厚さ 5cm)でも、手
すりにつかまり、足がかりに足をかけて柵を乗り越えることができた。
低身長群でも、足がかり高さが 65cm ならば、厚み 5cm でも 97%が乗り越
える事ができた。無開口柵では、最ものぼりにくい条件(足がかりの高
さ 70cm、厚さ 1cm)で柵を乗り越えることができたのは高身長群の 92%、
中身長群の 84%であった。足がかり厚が 2.5cm になると、100%が乗り越え
ることができた。低身長群では最もよじのぼりにくい条件下での成功率
は 42%だが、足がかりの高さが減少すると、成功率は急激に高くなった。
45
(3)柵乗り越え実験:相対柵高さ 50cm の場合、高身長群は、柵からの距離が
最大(60cm)でも全員が柵を乗り越えた。相対柵高さ 90cm、柵からの距
離が最大(60cm)でも、高身長群の 40%が柵を乗り越えた。
(4)足がかりおよび柵越えの複合条件達成率:幼児が手すり子柵を乗り越え
転落する状況を、(1)足がかりに足をかけ、(2)そのまま手すりにつかま
って柵を乗り越える、という二段階に分け、両方が達成できる率を調べ
た。手すり子柵で最も乗り越え難い足がかり厚 5cm のとき、低身長群で
は足がかりから手すり上部までの相対てすり高さが 70cm までは、複合達
成率がほぼ 80%以上だが、80cm で 65%程度、90cm で 40%弱となる。中
身長群では、足がかり高さの違いによる達成率の差は小さく、相対柵高
さが 70cm までは、100%近くが達成した。高身長群では、どの条件でも
ほぼ 100%が達成した。無開口柵では、低身長群では足がかり厚さが 1cm
のとき、足がかり高さによる達成率の差が大きいが、足がかり厚さが
2.5cm 以上では足がかり高さによる差が小さい。足がかり厚さが 5cm の場
合、相対柵高さが 70cm 以下ではほぼ 80%以上が達成した。中身長群では
足がかり厚さの違いによる達成率の差が低身長群より小さく、足がかり
厚さ 5cm の場合、相対柵高さが 70cm 以下ではほぼ 100%が達成した。
以上から、柵の有効高さは足がかりからの相対高さと考えるべきである。
文献
八藤後猛・田中賢・中村孝之・野村歡、2002:幼児を対象とした人体および動
作計測装置の開発と計測による建築安全計画への考察−−乳幼児の家庭内
事故防止に関する研究
その1――。日本建築学会計画系論文集、562:
187-192.
八藤後猛・野村歡・田中賢、2003:幼児の手すり柵乗り越えによる墜落防止に
関する実験研究と建築安全計画のための考察。−−乳幼児の家庭内事故防止
に関する研究
その2――。日本建築学会計画系論文集、572:67-73.
46
4-6.人体の機械的特性:Yokoi et al., 1986
加速度が大きな影響をもたらす自動車事故などでは、人体寸法よりも体節
ごとの重心位置や慣性モーメントなどの身体部分係数が重要である。日本人の
子供について、これらのデータを取得した。
目的
3∼15 歳について身体部分係数を取得し、これらを実用的に算出できるよ
うにすること
被験者
3∼15 歳の男女 255 名(表4-12)。
表4-12.被験者
年齢
男
女
合計
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
5
13
26
9
10
11
7
8
6
14
9
11
3
2
9
29
7
9
9
9
8
8
9
16
8
0
7
22
55
16
19
20
16
16
14
23
25
19
3
合計 132 123
255
方法
身体を各部分の密度が均一な 14 の体節から成る剛体リンクモデルとみな
して、各体節の重心と慣性モーメントを計算している。200mm の望遠レンズを使
って 2 台のカメラで前方と側方から被験者の写真を同時に撮影する。身体を高
さ 2cm の楕円盤の積層体と見なし、体密度データを用いて楕円盤ごとに重心位
置、体積、慣性モーメントを計算する。この結果に基づいて体節ごとの重心位
置、体積、慣性モーメントを計算する。密度データは、Clauser et al. (1969)
47
の値を用いた。
結果
算出された身体部分係数は、年齢、性別、体形により異なっていた。全身
の質量に対する質量比は、頭部では年齢とともに減少し、上腕、大腿、下腿で
は年齢とともに増大した。性差は 9 歳以後、大腿節の質量%(女>男)、大体節
と下腿節の重心位置(男の方が高い)現れた。
年齢、性別、体形により、3∼15 歳の子供を 18 群に分け、群ごとの代表値
を求めた。
29 名の被験者を使い、様々な姿勢をとらせたときの重心位置を床反力計で
計測し、取得した身体部分係数を用いて計算した推定値を評価した。推定誤差
は 3%で、成人の身体部分係数を用いた場合よりも小さかった。
文献
Yokoi,T., K. Shibukawa, and M. Ae, 1986: Body segment parameters of Japanese
children. Japanese Journal of Physical Education, 31:53-66. (横井孝志・渋川侃
二・阿江通良、1986:日本人幼少年の身体部分係数。体育学研究、31:53-66.)
48
第5章
米国における子供の人体寸法計測に関連した調査研究
5-1.概要
National Commission on Product Safety は全国的な乳幼児・子供のデー
タが必要であると考えて、1969 年から計測調査の計画を始めた。1972 年に、そ
れまでに計測された乳幼児の身体寸法データに関する調査報告書が出た
(Snyder et al., 1972)。この調査の結果、製品の安全性に係わる人体寸法は、
ほとんど存在しないことが明らかになった。
これを受けて、Consumer Product Safety Commission は、1972 年∼1975
年にわたり、ミシガン大学に乳幼児・子供の身体計測データに関する調査と計
測を委託した。目的は、米国民を代表する集団につき、製品設計に必要なデー
タを集めることである。この調査では計測装置の自動化が試みられ、約 4000 名
について 41 項目の計測が実施された(Snyder et al.,1975)
。オリジナルデー
タは残っていないが、データ表は下記ウェブページで閲覧することができる。
http://www.itl.nist.gov/iaui/ovrt/projects/anthrokids/
この後、さらに計測項目の検討を行い、計測調査を委託されたミシガン大
学が、1975-77 年にかけて乳幼児については 34 項目、2 歳以上の幼児について
は 87 項目を計測した。この計測では、さらに計測の自動化を進めている。こち
らは上記と同じウェブページから、報告書(Snyder et al., 1977)、統計量、オリ
ジナルデータが閲覧、ダウンロード可能である。
この調査以後、米国では乳幼児・子供を対象とした大規模な計測は行われ
ていない。
これらの調査結果は、非常に詳しい報告書が出ており、情報を上記のウェ
ブページから誰でも見ることができる。計測項目の選択、計測器具の自動化、
被験者の選定方法、計測調査方法など、参考になる点が多い。そこで、以下に、
文献調査、1972-75 年の調査(Anthrokids ’75)、1975-77 年の調査(Anthrokids ’77)
に分けて、詳しく報告書の内容について報告する。
49
5-2.既存データの調査
1972
約 800 の文献を調査(Snyder et al, 1972)した。うち、1929-72 年に行
われた 35 の調査から最も頻繁に計測される 23 項目を表にした。このうち 10 歳
以下のデータをのせているのは 1/3 にすぎず、多くは白人しか対象としていな
い。人体寸法には地域差、人種差、社会階層差、栄養条件による差があること
がわかった。多くの調査結果は、計測法が異なる、定義が不明確である、年齢
群の区切り方が異なる(たとえば、5 歳を 5 歳±6 ヶ月とするか、5.0 歳以上、
6.0 歳未満とするか)ため、互いに比較しにくい。さらに、身長、体重、胸囲、
頭囲のデータは多いが、安全設計への応用に利用できるようなデータは存在し
ない。
設計への応用については Young(1966)による、酸素マスク設計のための 18
項目を 1 ヶ月から 18 歳の子供 978 名について計測したデータが、最も有益であ
る。Stout(1971)は 1971 年に衝突時の運動学モデルと衝突実験用ダミーの開発
研究を行ったが、既存のデータはこれらの目的には役に立たないと述べている。
Young ら(1975)は、子供用衝突実験用ダミーの評価を行い、必要とされる人体
寸法の 60%は文献がなく、残りの 40%の多くも不適切、計測年代が古すぎる、
などの問題があると述べている。
Bennett(1928)は学校用家具のため、3,615 名について座位での寸法を計
測しているが、背すじをのばした姿勢での寸法しか発表していない。O’Braien
(1939)は既製服のサイズ分類のために 4∼17 歳の子供 147,088 名を計測して
いるが、計測者数が 266 名にのぼり、計測者間計測誤差の影響が大きいと思わ
れる。
McConville and Churchill (1964)は、子供用衝突実験用ダミーを開発する
ために必要な人体寸法 87 項目を提案し、0 ヶ月、6 ヶ月、3 歳、6 歳、8 歳、12
歳のデータを文献から収集しようとしたが、22 項目は全く存在せず、6 ヶ月児
で 25 項目、3 歳児で 29 項目、6 歳児で 39 項目がみつかっただけであった。
乳幼児と子供の重心に関する調査として、1927-29 年に行われた Palmer の
ものがある(Palmer, 1944)。この調査では、1,172 名の被験者のうち、673 名
が 0∼12 歳であった。Sweringen and Young (1965)は座位と立位での重心位置
を、5∼18 歳の子供 1,200 名について決定している。また、Sweringen(1969)
は 135 名の「泣いたり動いたりしている」着衣の幼児(∼36 ヶ月)135 名の重
心を取得している。
50
National Center for Health Statistics は 1965-65 年に 6-11 歳を対象に
(21 項目)、1970 年に 12-17 歳を対象に(人間工学関連の寸法を含まない)全
国的な調査行ったが、現在までに身長、体重、座高、皮下脂肪厚に関する報告
しか発表されていない。
1969 年の時点で、米国の子供集団を代表するような被験者について計測さ
れた、製品の安全性に係わる有用な人体計測データは存在しないことが明らか
になった。
文献
Snyder, R. G., M. Spencer, C. Owings, and P. van Eck, 1972: Source data of infant and
cild measurements interim data, 1972. Biomedical Department, Highway Safety
Reseearch Institute and Department of Pediatrics, School of Medicine, The
University of Michigan, Ann Arbor, Prepared for Children’s Hazard’s Division,
Bureau of Product Safety, Food and Drug Administration, Bethesda, Maryland.
51
5-3.Anthrokids プロジェクト
1972-75
文献調査の結果、製品の安全性に係わる有用な、米国の子供集団を代表す
るような人体計測データが存在しなかったことを受けて、乳幼児、子供の計測
調査を行った。
目的
適切な安全基準作成に必要な乳幼児・子供の計測データ、とくに機能的な
データを提供することを目的として、米国民を代表する集団につき、製品設計
に必要なデータを集める。
このために、(1)計測すべき項目を決定し、(2)計測器と計測技術を開
発し、テストし、(3)実験計画をたて、(4)0 歳から 12 歳までの、米国集団
を代表する十分なサンプルを対象に計測を実施し、
(5)設計に最も利用しやす
い形式で、データを公開した。このほかに、(a)これまでに発表された文献に基
づくデータ集、
(b)計測法を記録した 16mm カラー映画作成、
(c)3∼6 ヶ月にと
って安全な乳児用ベビーベッドの格子間隔を決めるに必要な情報を提供するた
めの実験、(d)プロジェクト全体を記述する 20 分間の 16mm 映画の作成、を行
った。
計画
代表的なメーカ、Consumer Product Safety Commission, National Bureau
of Standards の代表者、応用人類学と設計に関する有識者との話し合いにより、
必要と思われる項目を決定した。人体寸法計測は、成人については骨格上の特
徴点に基づき、熟練計測者によって精度よく計測することができる。しかし、
乳幼児は軟部組織が多いだけでなく、骨が発達途上にあるため、骨格上の計測
点が完成していない。このため、熟練した計測者が測ったとしても、精度よく
測れるとは限らない。そこで、形質人類学、小児科学、成長学、公衆衛生学、
解剖学、コンピュータの専門家によるチームによって、計測道具を試作した。
全国 8 州の 76 カ所で、合計 4,000 名を計測することにした。国民健康調査と国
勢調査のデータに基づき、計測地域、人種構成、社会階層を決めたが、計画通
りには進まなかったため、途中で調整を行い、最終的にはほぼ計画通りの被験
者構成となった。
属性データとして、以下の項目を集めた:学校名、子供の名前、住所、生
52
年月日、性別、人種、兄弟の数、姉妹の数、生まれた順位(何番目の子供か)、
既往症、母親の職業、人種、教育、父親の職業、人種、教育。親から同意書を
もらった。
計測方法
2つの計測チームを構成した。各チームは二名の調査者から成る。二名は
互いの仕事をやることができるが、原則として同じ1名が計測をし、他の1名
が計測補助、記録、コンピュータへの入力をした。計測者は 80 名以上の応募者
から選定した。1チームはアンアーバー近辺での計測調査を、他の1チームは
バンに計測装置を乗せて移動し、全国で計測をした。
学校での計測では、子供はひとりずつ計測室に入る。子供がくると、計測
者は子供が服を脱ぐのを手伝い、補助者は属性データをコンピュータに入力す
る。計測者はレコーダを使い、計測をする。計測が終了すると、補助者は次の
子供を呼びに行く。次の子供が来るころには、前の子供は服を着おわっている。
クリニックでの計測では、計測チームの一名が親のところに行って目的を
説明する。乳児ではプライバシーはそれほど問題にはならないので、どこでも
計測できる場所で計測を行った。
一日の計測人数は、多くて 16∼20 名であった。
計測誤差
計測値の信頼性を2つの方法で調べた。第一の方法では、各チームが定期
的に同じ幼児か子供を計測する。計測者には、計測結果を分析して、いずれか
の項目に問題があるかどうか、また計測技術を調べると、知らせてある。第二
の方法では、事前に知らせずに行うが、計測者はしばしば被験者が前に測った
子供であることをわかってしまう。双生児のグループに、単胎児をまぜて2度
計測させるのが有効であった。
この結果、対応ありの t 検定で計測者内にも計測者間にも差がなかった。
計測装置
動き回る乳幼児の計測は、精確さを義性にせず、迅速に効率用行う必要が
ある。このため、自動入力装置を備えた新しい計測器を開発した。
(1)自動桿状計と自動滑動計
53
長さ項目は、スイス GPM 製の桿状計と滑動計を改造し、アームにかかる圧
力と長さを同時に計測できるようにした。桿状計または滑動計の固定アーム部
分にポテンショメータをつけ、ここからバネとケーブルでつないだ可動アーム
部分までの長さを読み取る。アームには圧力センサを内蔵した透明プレクシグ
ラスをとりつけ、アームにかかる圧力と長さを同時に測れるようにした。
(2)自動巻尺
巻尺には、ばねを使ってかかる圧力を一定にする装置をつけ、ポテンショ
メータを使って長さを測るようにした。これらの値はデジタルでモニターに表
示され、これを手で記録し、後にパンチカードにパンチする。巻き尺の目盛り
は圧力が 0.5 PSI(pounds per square inch, 1 PSI=6.89475 KPa、1KPa=10g 重
/cm2; 0.5 PSI=3.447375 KPa = 34.47375 g 重/cm2)のときのものを使う。
(3)その他の計測器具
身長、座高などを測るためのアントロポメータ、握り径計測器、指の径を
測るためのテンプレート(製図用テンプレートを使用)
、手のクリアランスを計
測するための孔あきボードを用いた。読み取ったデータはすぐにキーボードで
コンピュータに入力した。
(4)重心位置計測装置
重心を測る装置は、乳幼児用と子供用を作成した。被験者は、3つのロー
ドセルで支持された板の上に、立位を想定した姿勢と座位を想定した姿勢で仰
臥する。このとき、乳幼児は頭頂を垂直板につけてねかせる。子供は、足底を
垂直板につけて仰臥する。座位の場合は、殿部と大腿後面をつけて、座位を模
した姿勢で仰臥する。3つのロードセルの出力はコンピュータに取り込まれ、
これらにかかる相対的な力から、重心位置を計算する。立位での重心は身長に
対する割合で、座位での重心は座高に対する割合で表す。
データの編集
年齢群別の計測データの分布を目で見て、はずれ値について原因を調べた
(計測ミス、生年月日の間違い、記録ミス、実際に大きい、あるいは小さいデ
ータ)
。また、身長は肩の高さより必ず高いなどの、各被験者内の寸法の大小関
係をコンピュータでチェックすることにより、異常データをみつけた。
54
被験者
4027 名について計測した。計測時の年齢は月齢で計算した。年齢群を分け
るとき、1/2 ヶ月を単位とし、たとえば 0 歳と 15 日は 0 歳に、0 歳と 16 日は 0
歳 1 ヶ月に分けた。年齢群を、表5-1に示す 22 に分けた。
年齢群別被験者数はデータ編集や計測中止などのため、項目によって異な
る。表5-1に身長の被験者数を示す。
表5-1.年齢群の分け方と身長の被験者数
月齢
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
年齢
0∼3
0∼0.25
4∼6
0.25∼0.5
7∼9
0.5∼0.75
10∼12
0.75∼1
13∼18
1∼1.5
19∼24
1.5∼2
25∼30
2∼2.5
31∼36
2.5∼3
37∼42
3∼3.5
43∼48
3.5∼4
49∼54
4∼4.5
55∼60
4.5∼5
61∼66
5∼5.5
67∼72
5.5∼6
73∼78
6∼6.5
79∼84
6.5∼7
85∼96
7
97∼108
8
109∼120
9
121∼132
10
133∼144
11
145∼156
12
男
女
合計
70
40
21
19
26
33
29
30
79
72
102
85
83
79
72
74
125
127
103
104
53
21
57
44
28
22
21
18
25
30
78
91
101
96
92
71
90
82
123
135
157
107
63
29
127
84
49
41
47
51
54
60
157
163
203
181
175
150
162
156
248
262
260
211
116
50
合計
1,447 1,560 3,007
15 日は 1/2 月とし、四捨五入
計測項目
41 項目を計測した。計測項目の定義を表5-2に示す。乳幼児の計測は、
仰臥位または横臥位または母親がだっこした姿勢で行う。子供の計測は正立位
または座位で下腿を下垂した状態で行う。表5-2で*のついた項目は子供のみ
計測、**のついた項目は乳幼児のみ計測、***のついた項目は定義自体が乳幼児
55
と子供で違っている。
表5-2.計測項目とその定義
*:子供のみ計測;**:乳幼児のみ計測;***:乳幼児と子供で定義が異なる
計測項目
1 体重
2 身長
3 座高
4 座位肩中央高*
5 股下高*
6 座位殿ー膝距離
7 座位膝高
8 座位下肢長
9 肩峰ー肘頭距離
10 前腕手長
11 手長
12 手幅
13 足長
14 足幅
15 小指長
16 小指径
方法
0.1 kg まで測る
乳幼児は仰臥位で、頭頂から右足のかかとまでを桿状計で測る。
子供は立位で、アントロポメータで測る
乳幼児は仰臥位で股関節を直角に曲げる。頭頂から右殿部下端ま
でを桿状計で測る。子供は座位姿勢で下腿を下垂し、耳眼面を水
平にする。アントロポメータで測る
子供のみ計測。頚と肩の境界と肩の外側面の中間の位置の高さを
アントロポメータで測る
子供のみ計測。アントロポメータの可動アームを股の間、右大腿
内側に接してさしこみ、股下にしっかり押し当て、両足を閉じさ
せてから測る
乳幼児は横臥位で、股関節と膝を直角に曲げる。殿部後縁から膝
の前面までを桿状計で測る。子供は座位で、桿状計で測る
乳幼児は仰臥位で膝を直角に曲げ、桿状計で測る。子供は座位で、
足首を直角に曲げ、膝の上から右足のかかとの下までを桿状計で
測る
乳幼児は横臥位で、股関節を直角に曲げ、膝をのばし、足首を直
角に曲げる。殿部の後ろから右の踵の下面までを桿状計で測る。
子供は座位で、桿状計で測る
乳幼児は仰臥位で、肘を直角に曲げる。右肩の上面から右前腕の
下面までを桿状計で測る。子供は座位で、肘を直角に曲げ、右肩
の上面から右前腕の下面までを桿状計で測る。
乳幼児は仰臥位で、肘を直角に曲げる。右肘のすぐ上の上腕後面
から右中指の先端までを桿状計で測る。子供は座位で、肘を直角
に曲げ、右肘のすぐ上の上腕後面から右中指の先端までを桿状計
で測る。
乳幼児は仰臥位で、手指をしっかり伸ばす。手首のしわから中指
の先端までを手軸に平行に滑動計で測る。子供は座位で同様に測
る
乳幼児は仰臥位で、手指をしっかり伸ばし、親指を外転させる。
第2∼5指の中手指節関節の最大幅を、手軸に直行するように滑
動計で測る。子供は座位で同様に測る
乳幼児は仰臥位。右足の踵の後面から、最も離れた指先までを足
軸に平行に滑動計で測る。子供は座位で、足を足台で支持した状
態で、同様に測る
乳幼児は仰臥位。ボールの最大幅を滑動計で測る(足軸に直交)。
子供は座位で、同様に測る
乳幼児は仰臥位で、手指を伸ばす。小指のつけねのしわから小指
の先端までを滑動計で測る。子供は座位で同様に測る
右手の小指を伸ばし、小指の遠位関節が通ることができない最大
の円の径を測る。いろいろな径の孔があいた板を使用。子供も同
様に測る
56
17 中指長
18 中指径
19 手の最小クリアランス
20 にぎり内径
21 にぎり外径
22 頭幅
23 肩幅 bideltoid
24 胸部横径
25 胴部横径***
26 下半身横径
27 頭長
28 胸部厚径
29 臀部厚径**
30 腰の厚径**
31 頭囲
32 頚囲*
33 胸囲
34 胴囲***
35 前腕囲
36 上腕囲
乳幼児は仰臥位で、手指を伸ばす。中指のつけねのしわから中指
の先端までを滑動計で測る。子供は座位で同様に測る
右手の中指を伸ばす。中指の遠位関節が通ることができない最大
の円の径を測る。いろいろな径の孔があいた板を使用。子供も同
様に測る
手を伸ばし、計測者が乳幼児の手をひっぱって通すことができる
最小の円の径を測る。いろいろな径の孔があいた板を使用。子供
の場合は、自分で通す
乳幼児に中指と親指の先端がやっと触れる位置で計測用円錐を
にぎらせる。子供も同様
計測用円錐をにぎった状態で、中指の近位指節間関節から親指の
中手指節関節までを滑動計で測る。子供も同様
乳幼児は仰臥位。耳の上後方での頭の最大幅を滑動計で測る。子
供は座位で測る
乳幼児は仰臥位で、両腕を身体の横につける。桿状計で左右の肩
の間の最大水平幅を測る。子供は立位で上肢を下垂した状態で測
る
乳幼児は仰臥位。乳頭のレベルで、胸部の最大水平幅を測る。子
供は立位で、腕を少し体幹から離した状態で測る
乳幼児は仰臥位で、下肢をまっすぐに伸ばす。腸骨稜の直下、大
転子より上で、胴の最小幅を桿状計で測る。子供は立位で自然の
ウエストの位置での胴の幅を桿状計で測る。乳幼児と子供で定義
が異なることに注意
乳幼児は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。胴部の最小幅より下
方での最大幅を桿状計で測る。通常は股下の付近。子供は立位で、
大腿上部で最大幅を桿状計で測る
乳幼児は仰臥位だが、頭を少し持ち上げる。眉間点とこれから最
も離れた点の間を滑動計で測る。子供は座位で、桿状計を使って
測る
乳幼児は横臥位。乳頭のレベルで、胸の厚径を滑動計で通常の呼
吸時に測る。子供は、座位で、桿状計で同様に測る
乳幼児のみ計測。乳幼児は横臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす(両
足をそろえなくてもよい)。後ろは殿部の後方突出部位、前方は
殿幅の計測位置での大腿前面までを桿状計で測る
乳幼児のみ計測。乳幼児は横臥位で、腸骨稜の直下で胴部横径を
測った位置での前後径を、桿状計で測る
眉間と頭部の最も後方を通る周長を巻尺で測る。子供は座位で測
る
子供のみ計測。座位で、頭部を耳眼面水平にする。頚の付け根で
水平周長を測る(写真では頚の軸に直交している)
乳幼児は仰臥位。乳頭位置での水平周長を、自然な呼吸のときに
測る。子供は立位で測る
乳幼児は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。腸骨稜の直下、大転
子の上方で、体幹の周長を測る。子供は立位で、自然なウエスト
の位置で水平周長を測る。乳幼児と子供で定義が違うことに注意
乳幼児は仰臥位。前腕の最大周長を、軸に直交するように測る。
子供は座位で測る
乳幼児は仰臥位。上腕の周長を、軸に直交するように、肩と肘の
中間のレベルで測る。子供は座位で測る
57
37 大腿中央囲
38 下腿最大囲
39 足首囲
乳幼児は仰臥位で、下肢を伸ばし、床から持ち上げる。大腿つけ
ねのしわと膝の中間のレベルで、水平周長を測る。子供は座位で、
下肢に力をいれずに膝を前方に伸ばした状態で、大腿と腹のあい
だのしわと膝の中間のレベルで、水平周長を測る
乳幼児は仰臥位で、下肢を伸ばし、床から持ち上げる。下腿が最
も後方に出たレベルで、水平周長を測る、子供は座位で、下肢に
力をいれずに伸ばした状態で、ふくらはぎが最も後方に出たレベ
ルで、水平周長を測る
乳幼児は仰臥位で、下肢を伸ばし、床から持ち上げる。内果、外
果の上方で、最小の水平周長を測る。子供は座位で、下肢に力を
いれずに膝を伸ばした状態で測る
40 立位重心位置(身長%)
41 座位重心位置(座高%)
文献
Snyder, R. G., M. Spencer, C. Owings, and L. W. Schneider, 1975: Physical
Characteristics of Children as Related to Death and Injury Consumer Product
Design and Use. Final Report. Highway Safety Research Institute, The University
of Michigan. UM-HRSI-BI-75-5.
58
5-4.米国 Anthrokids プロジェクト
1977-78
1972∼1975 年に行った計測を受けて、Consumer Product Safety Commission
はミシガン大学に委託して、2 週の乳児から 18 歳までを対象とした人体寸法計
測を行い、前回計測しなかった機能寸法を含めた 87 項目を計測した。
目的
製品設計、危険の事前評価(hazard assessment)と規格類の要求事項や推
奨事項を決定するための指針作成のために、米国の子供の人体寸法データを提
供すること。このために、以下のことを行った:(1) 計測項目の決定、(2) 計
測手順を決定し、サンプルが米国の子供を代表するようなサンプリング方法を
決定する。(3) 計測器具の改造、(4)データの収集と分析、(5) 応用を視野にい
れて、最も有効利用できるような分析結果の提示。
計測者
男性2名のチームと女性2名の2チームと、計測日程調整を行う1名の、
合計5名が計測を担当した。
計測器
コンピュータに自動入力可能な自動アントロポメータ、自動桿状計、自動
滑動計、自動巻尺を試作した。自動桿状計、自動滑動計、自動アントロポメー
タによる計測値は、アームの接触圧力が 0.1 PSI(≒0.69 KPa≒6.9g 重/cm2)の
ときの値を使った。これらの装置は、毎日校正する必要がある。
指の径を測るためのテンプレート(製図用のテンプレート)と、手のクリ
アランスを測るための孔あきボードを使用した。孔の径はコード化して、コー
ドをキーボードから入力した。握り軸到達域を測るために、握り軸にものさし
をとりつけた道具を試作した。これは、腕が水平に伸びているかどうかをチェ
ックしたり、背が高い子供では計測値を読み取るために使った。
この他に、持ち運び可能なテーブルと高さ調節可能な足台を試作した。
耳珠間幅を測るための触角計をふくめ、計測器を1セット収納可能なスー
ツケースを3セット用意した。2セットは2つの計測チームが使い、1セット
はバックアップ用である。
59
データ編集
2つの方法で異常データをチェックした
1)性別年齢別に分布を表す統計量(平均値、標準偏差、歪度など)、および最
も大きい値 10 個、最も小さい値 10 個を出力し、異常と思われる値をみつ
ける。異常と思われる値をもつ被験者のすべてのデータを出力し、これを
見て削除するかしないかを決定する。数値の変更は、明らかな桁違いのと
きだけ行う。
2)重回帰式を使用。ある項目を推定する重回帰式を作り、これによる推定値
±許容範囲を超える値を編集する。±2標準偏差の範囲内にある異常デー
タのチェックを行う。1変量統計への影響は小さいので、2変量統計のと
きにだけ行った。
被験者と計測場所
4127 名(男 2097、女 2035)。86.5%白人、11.0%黒人、0.9%アジア系、
0.1%アメリカインディアン、1.5%その他。
104 カ所で計測。乳幼児と学齢期前の子供の大部分をデトロイト近郊で計
測したので、中西部で計測した被験者が最も多い(約 30%)。
計測項目
子供を対象とする 87 項目を選定した(表5-3)。被験者ひとりあたりの拘
束可能時間が経験的に最大で 15-20 分程度であることを考えると、ひとりあた
り 40 項目が限界である。そこで、表5-3のように 87 項目を 4 つのグループに
分けた。グループ1は基本項目、グループ2は人体形状を表現する項目、グル
ープ3はリンク長に関する項目、グループ4は頭部と手の項目である。どの子
供もグループ1の項目は必ず測るが、グループ2∼4の項目については、どれ
か1つのグループの項目だけを測ることにした。このため、基本項目の被験者
数は、その他の項目の被験者数の 3 倍となる。
乳幼児は大部分の機能寸法計測姿勢をとることができないので、表5-4の
34 項目を測った。
子供の計測姿勢は、正立位(頭部は耳眼面を水平に保持。両足のかかとを
そろえ、自然に背すじを伸ばし、上肢は自然に下垂)を基本とする。
60
表5-3.子供(2 歳以上)の計測項目(No2:項目グループ別項目番号)
グループ1:基本項目
グループ2:形状を表す項目
グループ3:リンクと重心位置に関する項目
グループ4:頭部と手の項目
No
No2
計測項目
日本語名
A. 体重、身長、立位と座位で測る項目
1 1-1
Weight
体重
2 1-2
Stature
身長
3
3-1
Vertical Grip
Reach
垂直握り到達
距離
4
3-2
Frontal Grip
Reach
前方握り到達
距離
5
3-3
Lateral Grip
Reach
側方握り到達
距離
6
3-4
Step Height
ステップ高
7
3-18
Supine Stature
臥位身長
8
3-20
Standing
Center of
Gravity
立位重心位置
(身長%)
9
1-21
座高
10
2-19
11
1-18
Erect Sitting
Height
(Seated)
Eyes Height
(Seated)
Maximum Hip
Breadth
(Seated)
12
2-21
Maximum
Thigh Breadth
(Seated)
座位大腿最大
幅
13
2-20
Thigh
Clearance
座位大腿厚径
14
1-19
Buttock-Knee
Length
座位殿ー膝距
離
15
1-20
Knee Height
座位膝高
眼高
座位殿幅
定義
0.1 kg まで測る
正立位。床面から頭頂点までの垂直距離。自動アントロポメ
ータを被験者の後ろに立てて、アーム下縁で測る
被験者は右側面を壁につけて立つ。右手でグリップデバイス
のハンドルを握り、できるだけ上に腕を挙げる。自動アント
ロポメータでハンドルの遠位端までの高さを測る
被験者は背面を壁につけて立つ。右手でグリップデバイスの
ハンドルを握り、で水平前方に腕を伸ばす。計測者は、被験
者の肩が壁から離れない様に、被験者の肩を壁におしつけ
る。自動アントロポメータで壁からハンドルの遠位端までの
距離を測る
被験者は左側面を壁につけて立つ。右手でグリップデバイス
のハンドルを握り、水平側方に持ち上げる。自動アントロポ
メータで壁からハンドルの遠位端までの距離を測る
被験者は壁に向いて立ち、肩の高さで両手を壁につく。右足
をできるだけ持ち上げたときの、床面からボール足底までの
高さを自動アントロポメータのアーム上縁で測る
被験者は重心位置計測装置の上に仰臥し、足底をしっかりと
基準垂直板につける。下肢を伸ばし、腕を体側につける。装
置付属のブロックと巻尺で頭頂の位置を測る
被験者は重心位置計測装置の上に仰臥し、足底をしっかりと
基準垂直板につける。下肢を伸ばし、腕を体側につける。基
準垂直板からの重心の位置が計算され、身長に対する%で出
力される
座位姿勢(足底支持)で耳眼面を水平にする。座面から頭頂
点までを自動アントロポメータのアーム下縁で測る
座位姿勢(足底支持)で耳眼面を水平にする。座面から右外
眼角点までを自動アントロポメータのアーム先端で測る
座位姿勢(足底支持)で両膝をそろえる。膝が直角に曲がる
よう足台高さを調整する。自動桿状計で、殿部の最大幅を測
る
座位姿勢(足底支持)で両膝をそろえる。膝が直角に曲がる
よう足台高さを調整する。自動桿状計で、左右大腿の最大幅
を測る
座位姿勢(足底支持)で両足をそろえる。膝が直角に曲がる
よう足台の高さを調整する。自動アントロポメータで、右大
腿の最高点の高さを測る
座位姿勢(足底支持)で両足をそろえる。膝が直角に曲がる
よう足台の高さを調整する。自動桿状計で右殿部の後縁から
右膝の前縁まで距離を大腿の長軸に平行に測る
座位姿勢(足底支持)で両足をそろえる。膝が直角に曲がる
よう足台の高さを調整する。足台から膝蓋骨の上、後方での
右膝の上縁までを、自動アントロポメータで測る。
61
16
3-19
Supine Sitting
Height
臥位座高
17
3-21
Seated Center
of Gravity
座位重心位置
(座高%)
B. 頭顔部、頚の項目
18 1-3
Head
Circumference
19 1-22 Head Breadth
頭囲
頭幅
20
2-18
Head Length
頭長
21
4-1
頬骨弓幅
22
4-2
23
4-5
24
4-6
Bizygomatic
Breadth
Maximum
Frontal
Breadth
Lower Face
Height
Face Height
25
4-7
Head Height
全頭高
26
4-8
後頭−耳珠距離
27
4-9
28
4-10
Tragion to
Back of Head
Tragion to
Top of Head
Ear-Sellion
Depth
29
4-11
耳珠間幅
30
4-3
Bitragion
Breadth
Mouth
Breadth
31
4-4
Nose Length
鼻長
32
2-6
頚囲
33
2-17
Neck
Circumference
Lateral Neck
Breadth
C. 肩、腕、手の項目
34 3-13 Clavicale-Acro
mion Length
35 1-15 Shoulder
Breadth
36 3-16 Biacromial
Breadth
37 1-16 Shoulder-Elbo
w Length
38 3-14 Acromion-Rad
iale Length
最大前頭幅
形態学顔高
相貌学顔高
頭頂−耳珠距離
セリオンー耳
深さ
口裂幅
頚の横径
clavicale-acromi
on 長
肩幅 bideltoid
肩峰幅
肩峰ー肘頭距
離
上腕長
重心位置計測装置の上に仰臥し、膝が直角に曲がる様に高さ
を調整した補助板に下腿をのせる。殿部をしっかりと基準垂
直板につける。腕は体側につける。装置付属のブロックと巻
尺で頭頂の位置を測る
重心位置計測装置の上に仰臥し、膝が直角に曲がる様に高さ
を調整した補助板に下腿をのせる。殿部をしっかりと基準垂
直板につける。腕は体側につける。垂直板からの重心位置が
計算される、座高に対する%で出力される。
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。眉間点と後頭点を通
る周長を自動巻尺で測る。矢状面に直交するように測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。耳の上後方で、頭の
最大幅を自動滑動計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。眉間点と後頭点の間
の距離を自動滑動計で測る。
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。自動滑動計で、左右
頬骨弓間の最大幅を測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。眉弓外側縁間の距離
を自動滑動計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとり、顎をとじる。セリオ
ンからメントンまでを自動滑動計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとり、顎をとじる。クリニ
オン(髪際点)からメントンまでを自動滑動計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとり、顎をとじる。ベルテ
ックスからメントンまでを耳眼面に垂直に自動桿状計(アー
ム不等長)で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。後頭点から耳珠点ま
でを自動滑動計(アーム不等長)で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。頭頂点から耳珠点ま
での垂直距離を自動滑動計(アーム不等長)で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。セリオンから上耳底
点までを、矢状面に平行に自動滑動計(アーム不等長)で測
る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。左右の耳珠点間の距
離を触角計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。左右の口角点間の距
離を自動滑動計で測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。スブナザーレからセ
リオンまでの垂直距離を、自動滑動計で測る
被験者は立位で、頭部を耳眼面水平にする。頚の中央の高さ
で、頚の軸に直交するように、自動巻尺で周長を測る
被験者は耳眼面水平の座位姿勢をとる。頚の長さの中間で、
頚の軸に直交するように、自動滑動計で幅を測る
被験者は正立位で、右クラビカーレ(鎖骨の近位端)から右
肩峰点までを自動桿状計で測る
被験者は立位で上腕を下垂し、肘を直角に曲げる。上腕は体
側につける。自動桿状計で左右の肩の間の最大水平幅を測る
被験者は立位で上腕を下垂する。左右の肩峰点間の距離を、
自動桿状計で測る
被験者は立位で、上腕を下垂し、肘を直角に曲げる。右肩の
上面から右肘直下の前腕下面までを自動桿状計で測る
被験者は立位で上肢を下垂する。右肩峰点と橈骨点の距離
を、上腕の軸に平行に、自動桿状計(アーム不等長)で測る
62
Upper Arm
Circumference
Upper Arm
Depth
Elbow-Hand
Length
上腕囲
3-15
Radiale-Stylio
n Length
前腕長
43
1-8
前腕囲
44
2-15
Forearm
Circumference
Forearm
Breadth
45
2-8
手首囲
46
2-14
Wrist
Circumference
Wrist Breadth
47
1-13
Hand Length
手長
48
1-14
Hand Breadth
手幅
49
4-23
手の最小クリ
アランス
50
4-15
Minimum
Hand
Clearence
Thumb
Crotch-Middle
Finger Length
51
4-17
Thumb Length
親指長
52
4-22
親指径
53
4-18
Thumb
Diameter
Index Finger
Length
54
4-21
第2指径
55
4-19
Index Finger
Diameter
Middle Finger
Length
56
4-20
中指径
57
4-16
58
4-12
Middle Finger
Diameter
Middle
Finger-Thumb
Grip Length
Maximum Fist
Circumference
59
4-13
最大こぶし幅
60
4-14
Maximum Fist
Breadth
Maximum Fist
Depth
39
1-7
40
2-16
41
1-17
42
上腕厚径
前腕手長
前腕幅
手首幅
親指またから
中指
第2指長
中指長
中指から親指
のにぎり
こぶしの最大
周長
最大こぶし厚
被験者は立位で上肢を下垂する。右上腕の周長を、軸に直交
するように、肩と肘の中間のレベルで測る。
被験者は立位で上肢を下垂する。右上腕の前後径を、上腕の
長軸に直交するように、肩と肘の中間のレベルで測る
被験者は立位で、上腕を下垂し、肘を直角に曲げ、手と指を
伸ばす。右肘のすぐ上の上腕後面から右中指の先端までを、
前腕の軸に平行に、自動桿状計で測る
被験者は立位で、上腕を下垂し、手掌を前に向ける。右橈骨
点から右橈骨茎突点までを、前腕の軸に平行に、自動桿状計
(アーム不等長)で測る
被験者は立位で上肢を下垂する。右前腕の最大周長を、前腕
の軸に直交するように自動巻尺で測る
被験者は立位で、上腕を下垂し、手掌を体側に向ける。右前
腕最大囲を測ったレベルで、前腕の最大幅を、自動滑動計で
測る
被験者は立位で上肢を下垂する。尺骨の茎状突起より上方で
の前腕の最小囲を、自動巻尺で測る
被験者は立位で上腕を下垂し、手掌を体側に向ける。尺骨の
茎状突起より上方での手首の幅を、自動滑動計で測る
被験者は手掌を上にして、手と指を伸ばす。手首のしわから
中指の先端までを、指に平行に自動滑動計で測る
被験者は手掌を上にして、手と指を伸ばし、親指を外転させ
る。第2∼5指の中手指節関節の幅を(手軸に直交するよう
に)自動滑動計で測る
被験者は手を伸ばし、指先をすぼめて手の回りを最小にす
る。この状態での手が通る孔の最小の径を記録する
被験者は手掌を上にして手と指を伸ばし、親指を外転させ
る。親指のまたから中指の先端までを、指の長軸に平行に、
自動滑動計(アーム不等長)で測る
被験者は手掌を上にして手と指を伸ばし、親指を外転させ
る。親指のつけねのしわから親指の先端までを、指の長軸に
平行に、自動滑動計で測る
被験者は右手の親指を伸ばす。テンプレートを使い、親指の
指節間関節が通らない最大の径を記録する
被験者は手掌を上にして、手と指を伸ばす。示指のつけねの
しわから示指の先端までを、指の長軸に平行に、自動滑動計
で測る
被験者は右手の示指を伸ばす。テンプレートを使い、示指の
遠位指節間関節が通らない最大の径を記録する
被験者は手掌を上にして、手と指を伸ばす。中指のつけねの
しわから中指の先端までを、指の長軸に平行に、自動滑動計
で測る
被験者は右手の中指を伸ばす。テンプレートを使い、中指の
遠位指節間関節が通らない最大の径を記録する
被験者は、自動滑動計の2つのジョウを右手で握る。中指の
中節と親指の基節の距離を、両者が平行になった状態で測る
被験者は、親指が他の指にかかるようにこぶしをつくる。自
動巻尺で、親指とその他の指の中手指節関節部を通る周長を
測る(第一中手指節関節を通らない)
被験者は、親指が他の指にかかるようにこぶしをつくる。自
動滑動計で、中手指節関節部の最大幅を測る
被験者は、親指が他の指にかかるようにこぶしをつくる。自
動滑動計で、親指とその他の指の中手指節関節部の間の最大
厚径を測る
63
D. 体幹、骨盤、下肢、足の項目
61 3-5
Suprasternale
胸骨上縁高
Height
62 2-1
Chest Height at 前腋窩高
Axilla
Chest
Circumference
Chest Breadth
at Axilla
Waist Height
上部胸囲
Waist
Circumference
Waist Breadth
臍位腹囲
Natural Waist
Circumference
Iliocristale
Height
Hip Height at
Buttocks
Hip
Circumference
Hip Breadth at
Trochanter
Iliospinale
Height
Bispinous
Breadth
Gluteal Furrow
Height
Trochanteric
Height
Upper Thigh
Circumference
Upper Thigh
Depth
Tibiale Height
胴囲
Calf
Circumferece
Height
Calf
Circumference
Calf Depth
下腿最大囲高
Ankle
Circumference
Ankle Breadth
足首囲
3-10
Sphyrion
Height
内果端高
1-11
Foot Length
足長
63
1-4
64
2-4
65
2-2
66
1-5
67
2-5
68
2-7
69
3-6
70
2-3
71
1-6
72
3-17
73
3-7
74
3-12
75
3-9
76
3-8
77
1-9
78
2-13
79
3-11
80
2-10
81
1-10
82
2-12
83
2-9
84
2-11
85
86
胸部横径
臍高
臍位腹部横径
腸骨稜高
殿突高
殿囲
転子位置殿幅
上前腸骨棘高
上前腸骨棘間
幅
殿溝高
転子高
上部大腿囲
大腿厚径(殿
溝)
脛骨点高
正立位で、床面から頸切痕上縁までの垂直距離を自動アント
ロポメータで測る
正立位。被験者は最初腕を外転し、計測器を当てたら下げる。
床面から腋窩のレベルまでの垂直距離を、自動アントロポメ
ータで測る
正立位で、腋窩のレベルでの体幹水平周長を、自動巻尺で測
る。自然な呼吸時に測る
腋窩のレベルで、胸部の水平幅を自動桿状計のアーム先端で
測る。自然な呼吸時に測る
正立位。床面から臍までの垂直距離を、自動アントロポメー
タで測る
正立位。自動巻尺で、臍のレベルでの水平周長を測る。自然
な呼吸時に測る
正立位。臍のレベルでの体幹部水平横径を、自動桿状計で測
る
正立位。自然なウエストのレベルで、体幹部水平周長を、自
動巻尺で測る
正立位。床面から右腸骨稜の最高点までの垂直距離を、自動
アントロポメータで測る
正立位。床面から右殿部の最後方突出点までの垂直距離を、
自動アントロポメータで測る
正立位。殿部の最後方突出点レベルの水平周長を、自動巻尺
で測る
正立位。左右の大転子ランドマーク(大転子外側部)間の水
平距離を、自動桿状計で測る
正立位。床面から上前腸骨棘(下端)までの垂直距離を、自
動アントロポメータで測る
正立位。左右の上前腸骨棘間の距離を、自動桿状計で測る
正立位。床面から右殿溝下縁までの垂直距離を、自動アント
ロポメータで測る
正立位。床面から大転子のランドマーク(外側)までの垂直
距離を、自動アントロポメータで測る
被験者は両足を少し開いて立つ。右殿溝下縁のレベルで、大
腿の水平前後径を自動桿状計で測る
正立位。右殿溝下縁までの垂直距離を、自動アントロポメー
タで測る
正立位。床面から脛骨点までの垂直距離を、自動アントロポ
メータで測る
正立位。床面から下腿最大囲を測ったレベルまでの垂直距離
を、自動アントロポメータで測る
下腿最大囲
正立位。下腿の最大水平囲を自動巻尺で測る
下腿厚径
正立位。下腿最大囲のレベルにおける水平前後径を自動滑動
計で測る
被験者は両足を少し開いて立つ。内果外果の上方で、足首の
最小水平囲を自動巻尺で測る
被験者は両足を少し開いて立つ。内果外果の上方で、足首の
最小水平幅を自動滑動計で測る
被験者は両足を少し開いて、台の上に立つ。床面から右内果
端点までの垂直距離を自動アントロポメータで測り、台の高
さをさし引く
被験者は両足を少し開いて立つ。右足の踵の後面から最も離
足首幅
64
87
1-12
Foot Breadth
れた指先までを、足軸の平行に、自動動計または自動桿状計
で測る。足軸の定義なし
被験者は両足を少し開いて立つ。右足のボール部の幅最大幅
うぃ、自動動計で測る。斜めに測る
足幅
表5-4.乳幼児の計測項目
計測項目
方法
1
2
Weight
Crown-sole Length
体重
臥位身長
3
頭殿長
5
6
Crown-Rump
Length
Head
Circumference
Head Breadth
Head Length
7
Shoulder Breadth
肩幅 bideltoid
8
Shoulder Elbow
Length
肩峰ー肘頭
距離
9
Upper Arm
Circumference
Elbow-Hand
Length
上腕囲
前腕囲
13
Forearm
Circumference
Wrist
Circumference
Hand Length
14
Hand Breadth
手幅
15
Minimun Hand
Clearance
Maximum Fist
Breadth
Thumb Diameter
手の最小クリ
アランス
最大こぶし幅
Middle Finger
Diameter
Chest
Circumference
Chest Breadth
中指径
Waist
Circumference
Waist Breadth
胴囲
Clinical scale で 0.1 kg まで測る
被験者は下肢をのばして仰臥する。頭部は耳眼面水平とする。自動
桿状計で、踵部足底から頭頂までの距離を測る
被験者は仰臥位で、股関節を直角に曲げる。頭部は耳眼面水平とす
る。自動桿状計で、右殿部下端から頭頂までを測る
被験者の頭を少し持ち上げる。眉間点と後頭点を通る周長を自動巻
尺で測る。矢状面に対し、垂直に巻尺を当てる
座位。自動滑動計で耳の上後方での頭の最大幅を測る
被験者の頭を少し持ち上げる。眉間点後頭点の間の距離を自動滑動
計で測る
被験者は仰臥位で、両腕を身体の横につける。自動桿状計で左右の
肩の間の幅を測る
被験者は仰臥位で、上腕を体側につけ、肘を直角に曲げる。右肩の
上面から右肘の下面までを、上腕の長軸に平行に、自動桿状計で測
る
被験者は仰臥位で、腕を伸ばす。上腕の周長を、上腕の長軸に直交
するように、肩と肘の中間のレベルで、自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、右肘を90度に曲げ、手と指を伸ばす。右肘のす
ぐ上の上腕後面から右中指の先端までを自動桿状計で、前腕の軸に
平行に測る
被験者は仰臥位で、腕を伸ばす。前腕の最大周長を、前腕の長軸に
直交するように自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、腕を伸ばす。尺骨の茎状突起の近位での前腕の
最小周長を、自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、手をまっすぐに伸ばし、手掌を上に向ける。手首
のしわから中指の先端までの距離を、指に平行に、自動滑動計で測
る
被験者は仰臥位で、手をまっすぐに伸ばし、手掌を上に向け、親指を
外転する。第2∼5指の中手指節関節の幅を測る(斜め)
被験者は右手を伸ばし、指先をすぼめて手の回りを最小にする。この
状態での手が通る孔の最小の径を記録する
被験者は、親指が他の指にかかるようにこぶしをつくる。自動滑動計
で、中手指節関節部の最大幅を測る
被験者は右手の親指を伸ばす。テンプレートを使い、親指の指節間
関節が通らない最大の径を記録する
被験者は右手の中指を伸ばす。テンプレートを使い、中指の遠位指
節間関節が通らない最大の径を記録する
被験者は仰臥位。乳頭位置での周長を、自動巻尺で測る。自然な呼
吸のときに測る
被験者は仰臥位。乳頭位置での幅を、自動滑動計または自動桿状計
で測る
被験者は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。腸骨稜の直下、大転子
の上方で、体幹の周長を体幹に垂直に自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。腸骨稜の直下、大転子
No
4
10
11
12
16
17
18
19
20
21
22
頭囲
頭幅
頭長
前腕手長
手首囲
手長
親指径
胸囲
胸部横径
胴部横径
65
23
Rump-Sole Length
殿ー足底距
離
24
Rump-Knee Length
殿ー膝距離
25
Hip Circumference
殿囲
26
Hip Breadth
殿幅
27
大腿中央囲
28
Mid-Thigh
Circumference
Mid-Thigh Depth
29
Knee-Sole Length
30
Calf Circumference
31
足首囲
32
Ankle
Circumference
Ankle Breadth
33
Foot Length
足長
34
Foot Breadth
足幅
大腿中央厚
径
膝ー足底距
離
下腿最大囲
足首幅
の上方で、体幹の幅を自動滑動計または自動桿状計で測る
被験者は左を下にした横臥位をとり、右股関節を直角に曲げ、膝をま
っすぐ伸ばす。右殿部の後縁から右足の踵までを自動桿状計で測
る。足首も直角に曲げる
被験者は左を下にした横臥位をとり、右股関節と膝を直角に曲げる。
右殿部の後縁から右膝の前面までを動桿状計で測る
被験者は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。腰部の最大周長を体幹
に垂直に自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、下肢をまっすぐ伸ばす。腰部の最大幅を自動桿
状計または自動滑動計で測る
被験者は仰臥位で、右下肢を伸ばす。大腿つけねのしわと膝の中間
のレベルで、大腿の周長を自動巻尺で測る
被験者は仰臥位。右下肢をもちあげる。大腿つけねのしわと膝の中
間のレベルで、大腿の前後径を自動滑動計で測る
被験者は仰臥位で、右膝を直角に曲げる。右膝の上面から踵の底面
までを、自動桿状計で測る
被験者は仰臥位で、右下肢を伸ばす。ふくらはぎが最も後ろに出てい
る位置で、右下腿の最大周長を自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で、右下肢を伸ばす。内果外果の上方で、右下腿の
最小周長を自動巻尺で測る
被験者は仰臥位で右下肢を伸ばす。右下肢をもちあげる。内果外果
の上方で、下腿の最小幅を自動滑動計で測る
乳幼児は仰臥位。右足の踵の後面から、最も離れた指先までを足軸
の平行に自動滑動計で測る
乳幼児は仰臥位。右足ボール部の最大幅を自動滑動計で測る(斜
め)
データ処理
計測項目を3セットに分けたので、共通項目の平均値の均一性を検定する
ことにより、3セットの計測データが同じ母集団からのものと言えるかどうか
を調べた。この結果、小数の例外を除き、3つの集団には差がなかった。
文献
Snyder, R. G., L. W. Schneider, C. Owings, H, N, Reybikds, D. H. Gobomb, and M. A.
Schork, 1977: Anthropometry of infants, children, and yourths to age 18 for product
safety design. Highway Safety Research Institute, The University of Michigan.
UM-HSRI-77-17.
66
第6章
全国的調査からみた過去の乳幼児・子供の人体寸法の有効性
6-1.乳幼児のデータ
6 歳以下の乳幼児について多数の人数が計測されたデータは、1978-81 年に
全国規模で行われた既製衣料の JIS 規格作成のための体格調査(日本規格協会、
1984)が最も新しい。この調査では、6 歳以下の子供についても男女それぞれ
5000 名以上が計測された。これから約 25 年たつが、この間に 6 歳以下の子供の
体格はどれだけ変化したのであろうか。それほど大きな変化がないならば、こ
の調査で計測された項目は省き、これまでに計測されなかった項目を計測する
のが合理的である。
表6-1は、厚生労働省により 10 年ごとに行われている乳幼児身体発育調
査報告書から、1980 年度と 2000 年度に調査された身長(2 歳以下は臥位身長)
と体重の中央値を比較したものである。図6-1はこのうち身長をグラフにした
ものである。5歳までの乳幼児の身長は、この 20 年間にほとんど変化していな
いことがわかる。体重は、2000 年に計測したデータの方がむしろ軽くなってい
る。体重に認められる負の時代変化の原因は、兄弟数が減ってきたため、相対
的に第一子の人数が増えたことの影響が考えられる(Iwata and Kubota, 1997)
。
出生体重は、第1子は第2番目以後に生まれた子供よりも小さいことが、みか
け上、負の時代変化をもたらしたのであろう。
表6-1.乳幼児の体格 厚生労働省による乳幼児身体発育値のデータに基づく
A. 身長の中央値(cm)
年齢
出生時
30 日
0 年 5〜6 ヶ月
1 年 0〜1 ヶ月
1 年 5〜6 ヶ月
2 年 0〜6 ヶ月
3 年 0〜6 ヶ月
4 年 0〜6 ヶ月
5 年 0〜6 ヶ月
6 年 0〜6 ヶ月
男 身長(cm)
2000 年計測 1980 年計測
49.0
54.0
67.0
75.4
80.2
87.1
94.6
101.6
108.1
114.9
50.0
54.1
66.8
75.6
80.2
87.1
94.8
101.5
107.7
113.8
女 身長(cm)
差 2000 年計測 1980 年計測
-1.0
-0.1
0.2
-0.2
0.0
0.0
-0.2
0.1
0.4
1.1
48.5
52.6
65.4
73.8
79.1
86.0
93.7
101.0
107.6
113.8
49.2
53.3
65.3
74.1
79.1
86.2
93.9
100.9
107.0
112.9
差
-0.7
-0.7
0.1
-0.3
0.0
-0.2
-0.2
0.1
0.6
0.9
67
B.体重の中央値(kg)
男 体重(kg)
2000 年計測 1980 年計測
年齢
出生時
30 日
0 年 5〜6 ヶ月
1 年 0〜1 ヶ月
1 年 5〜6 ヶ月
2 年 0〜6 ヶ月
3 年 0〜6 ヶ月
4 年 0〜6 ヶ月
5 年 0〜6 ヶ月
6 年 0〜6 ヶ月
3.00
4.24
7.79
9.51
10.41
12.07
13.97
15.90
17.96
19.87
3.23
4.38
7.79
9.64
10.46
12.25
14.17
15.96
17.67
19.55
女 体重(kg)
差 2000 年計測 1980 年計測
差
-0.23
-0.14
0.00
-0.13
-0.05
-0.18
-0.20
-0.06
0.29
0.32
2.95
4.01
7.18
8.88
9.84
11.53
13.49
15.50
17.55
19.69
3.14
4.13
7.28
9.08
10.07
11.83
13.85
15.61
17.23
18.90
-0.19
-0.12
-0.10
-0.20
-0.23
-0.30
-0.36
-0.11
0.32
0.79
図6-1.1980 年と 2000 年に計測された乳幼児身長の比較
乳幼児については、日本安全協会が 1973 年に 0〜6 歳の、1979 年に 2〜6
歳の子供を対象に、製品設計のための人体寸法を計測している。1979 年に計測
されたデータについては、上記のとおり 1980 年と 2000 年とで 5 歳以下の体格
には大差がないことから、5 歳以下のデータは現在でも有効と考えられる。
1973 年に計測されたデータの有効性を検討するため、乳幼児身体発育調査
報告書から 2000 年に計測されたデータと 1970 年に計測されたデータを比較し
68
た(表6-2)
。平均的な出生時の体格は 2000 年の方が小さい。また、30 年間の
差は男子で 4 歳以下、女子で 2 歳以下では小さい。1970 年頃に計測されたデー
タでも、2-3 歳までのデータは現在でも有効と考えられる。
表6-2.乳幼児の体格 厚生労働省による乳幼児身体発育値のデータに基づく
A. 身長(cm)
。2000 年は中央値、1970 年は平均値
男 身長(cm)
年齢 2000 年計測 1970 年計測
出生時
0 年 5〜6 ヶ月
1 年 0〜1 ヶ月
1 年 5〜6 ヶ月
2 年 0〜6 ヶ月
3 年 0〜6 ヶ月
4 年 0〜6 ヶ月
5 年 0〜6 ヶ月
49.0
67.0
75.4
80.2
87.1
94.6
101.6
108.1
女 身長(cm)
差 2000 年計測 1970 年計測
50.2 -1.2
66.7 0.3
75.4 0.0
80.1 0.1
87.1 0.0
94.4 0.2
101.2 0.4
107.1 1.0
48.5
65.4
73.8
79.1
86.0
93.7
101.0
107.6
差
49.7 -1.2
65.2 0.2
74.2 -0.4
78.7 0.4
86.1 -0.1
93.0 0.7
99.8 1.2
106.2 1.4
B.体重(kg)
。2000 年は中央値、1970 年は平均値
男 体重(kg)
年齢 2000 年計測 1970 年計測
出生時
0 年 5〜6 ヶ月
1 年 0〜1 ヶ月
1 年 5〜6 ヶ月
2 年 0〜6 ヶ月
3 年 0〜6 ヶ月
4 年 0〜6 ヶ月
5 年 0〜6 ヶ月
3.00
7.79
9.51
10.41
12.07
13.97
15.90
17.96
3.2
7.8
9.5
10.4
12.3
14.1
15.8
17.4
女 体重(kg)
差 2000 年計測 1970 年計測
-0.20
-0.01
0.01
0.01
-0.23
-0.13
0.10
0.56
2.95
7.18
8.88
9.84
11.53
13.49
15.50
17.55
3.1
7.3
9.1
9.9
11.7
13.4
15.2
17.0
差
-0.15
-0.12
-0.22
-0.06
-0.17
0.09
0.30
0.55
過去 20 年間に乳幼児の体格があまり変化していないとしても、この間に計
測されたデータが計測当時の乳幼児の体格を代表していない場合は、そのデー
タは現在でも有効とはいえない。図6-2、図6-3は、それぞれ 1978-81 年に
計測された衣服の JIS 規格作成のための乳幼児の身長と体重の平均値を(日本
規格協会、1984)、平成 12 年度の乳幼児身体発育値と比べたものである。実際
に、両者の差は非常に小さい。体重では、むしろ平成 12 年度の値の方が小さい。
図6-4は、昭和 48 年の製品安全協会による乳幼児の身長と、平成 12 年度
の乳幼児身体発育値と比べたものである。製品安全協会のデータは被験者数が
少ないため凹凸が大きいが、それでも両者の身長差は、それほど大きくない。
69
図6-2.日本規格協会による 1978-81 年計測の乳幼児平均身長と平成 12 年度乳幼児身体発育値
の比較(2 歳以下は臥位身長)
上:男子、下:女子
70
図6-3.日本規格協会による 1978-81 年計測の乳幼児平均体重と平成 12 年度乳幼児身体発育値
の比較
上:男子、下:女子
71
図6-4.製品安全協会による 1973 年計測の乳幼児平均身長と平成 12 年度乳幼児身体発値の比
較
上:男子、下:女子
72
出生時の体格の負の時代変化の原因が何であるにせよ、ここ 20 年間で 0〜
5 歳児の全身の体格に大きな変化はないことを考えると、1978-81 年に計測され
た 0〜5 歳の子供のアパレル関連の寸法データは、現在でも役に立つと考えられ
る。また、製品安全協会が 1973 年に計測した乳幼児のデータについても、被験
者数が少ないために変異の幅を十分に把握できない可能性はあるが、0〜3 歳に
ついては現在でも十分に有用であると考えられる。
73
6-2.子供のデータ
7〜17 歳の子供については、1978-81 年に計測されたアパレル関連の寸法
を中心としたデータ(日本規格協会、1984)と、1992-94 年に計測されたアパレ
ルだけでなく人間工学全般に関する寸法を計測したデータがある(人間生活工
学研究センター)
。どちらも各年齢につき、数 100 名を計測している。
過去 20 年間における7〜17 歳の子供の体格の変化を見るため、表6-3に
文部科学省の学校保健統計調査報告書による 1980 年度、1992 年度、2003 年度
に計測された身長と体重の平均値を示す。2003 年と 1980 年の間の 23 年間の平
均値の差、2003 年と 1992 年の間の 12 年間の平均値の差も示す。
1992 年から 2003 年の間の変化は、思春期のスパートが始まる年齢(女子
で 9-12 歳、男子で 11-14 歳)の身長差がやや大きいが、これを除くと 12 年間
の平均身長の変化は数 mm にすぎない。体重の変化量も、思春期スパート開始に
関連する年齢以外は 1kg 未満である。一方、1980 年から 2003 年の間の変化は、
7 歳以上の年齢で身長差が 1cm 以上、体重差が 1kg 以上あり、特に男子の 11〜
14 歳、女子の 9〜12 歳大きい。したがって、1990 年代始めに計測された 6〜17
歳のデータは、被験者集団が当時の同年齢の子供たちを代表していたならば、
現在でも十分に役立つと考えられる。
表6-3.学齢期児童の体格 学校保健統計調査報告書による。差は 2003 年度との差
A. 身長の平均値(cm)
男 身長(cm)
年齢 2003 年 1992 年 差 1980 年
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
110.7
116.7
122.4
128.2
133.5
138.9
145.3
152.9
160.2
165.5
168.6
170.0
170.9
110.8 -0.1
116.8 -0.1
122.5 -0.1
128.1 0.1
133.5 0.0
138.7 0.2
144.6 0.7
151.9 1.0
159.3 0.9
165.0 0.5
168.2 0.4
170.0 0.0
170.7 0.2
110.3
115.8
121.4
126.9
132.0
137.3
142.9
149.8
156.9
163.6
167.0
168.9
169.7
女 身長(cm)
差 2003 年 1992 年 差 1980 年
差
0.4
0.9
1.0
1.3
1.5
1.6
2.4
3.1
3.3
1.9
1.6
1.1
1.2
0.6
0.9
1.0
1.2
1.6
1.9
2.2
1.5
1.1
0.7
0.6
0.7
0.8
110.0
115.8
121.6
127.4
133.5
140.2
147.1
152.1
155.1
156.7
157.2
157.7
157.8
109.9
115.9
121.7
127.4
133.2
139.8
146.4
151.7
155.0
156.6
157.2
157.8
157.9
0.1
-0.1
-0.1
0.0
0.3
0.4
0.7
0.4
0.1
0.1
0.0
-0.1
-0.1
109.4
114.9
120.6
126.2
131.9
138.3
144.9
150.6
154.0
156.0
156.6
157.0
157.0
74
B.体重の平均値(kg)
男 体重(kg)
年齢 2003 年 1992 年 差 1980 年
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
19.2
21.7
24.4
27.8
31.3
34.9
39.4
45.1
50.3
55.4
60.4
62.2
63.5
19.3 -0.1
21.6 0.1
24.2 0.2
27.2 0.6
30.6 0.7
34.2 0.7
38.2 1.2
44.0 1.1
49.4 0.9
54.7 0.7
59.3 1.1
61.4 0.8
62.8 0.7
19.0
20.8
23.2
26.0
28.9
32.4
36.2
41.4
46.7
52.4
56.9
59.2
60.6
女 体重(kg)
差 2003 年 1992 年 差 1980 年
差
0.2
0.9
1.2
1.8
2.4
2.5
3.2
3.7
3.6
3.0
3.5
3.0
2.9
0.3
0.9
1.2
1.4
2.0
2.1
2.7
2.2
1.6
1.3
0.9
1.2
1.4
18.8
21.2
23.8
26.9
30.5
34.7
40.0
44.8
48.1
50.9
52.3
53.4
53.5
19.0 -0.2
21.1 0.1
23.6 0.2
26.6 0.3
30.1 0.4
34.2 0.5
39.1 0.9
44.3 0.5
47.8 0.3
50.5 0.4
52.2 0.1
53.0 0.4
52.9 0.6
18.5
20.3
22.6
25.5
28.5
32.6
37.3
42.6
46.5
49.6
51.4
52.2
52.1
※ 文部省学校保健統計調査では、5 歳とは 5.0 歳以上、6.0 歳未満をさす
上記の比較結果からみて、1978〜81 年に計測された人体寸法データは、す
でに現状を反映していないと言えよう。しかし、1992-94 年に計測された人間生
活工学研究センターによる子供の寸法データは、被験者群が当時のこどもを代
表していたならば、現在でも有効である可能性がある。
人間生活工学研究センター(1997)によると、1991-92 年の計測結果の平
均身長が、平成 5 年度学校保健統計報告書および体力・運動能力調査報告書の
データと比べて低いことを確認している。しかし、どの程度低いのかを示して
おらず、またその原因についても計測法の差による可能性を指摘したに留まる。
そこで、7〜17 歳の平均身長、平均体重を、平成 15 年の文部科学省学校保健統
計の平均値と比較した。結果を図6-5に示す。比較にあたって注意すべきは、
年齢群の分け方と身長の計測法である。年齢群の分け方は、人間生活工学研究
センターの分け方では n 歳群には n±6 ヶ月の年齢の子供がふくまれ、平均年齢
はほぼ n 歳となる。これに対し、学校保健統計調査報告書では学年によって区
分するため、n 歳群には n 歳以上、n+1 歳未満の子供が含まれ、平均年齢はほぼ
n.5 歳となる。身長の計測法は、人間生活工学研究センターでは、自然に背すじ
をのばした立位での身長をアントロポメータで測ったのに対し、学校保健統計
調査ではスタジオメータを使い、背すじを垂直な柱に押し当てて身長を測る。
75
一般に後者の方が、身長が高くなる。生命工学工業技術研究所(1994)による
と、両者の差は、青年男性 217 名の平均値が 7.9mm、青年女性 204 名の平均値が
4.2mm であった。0.5 歳の年齢差を考慮すると、10 歳以下の男児の身長差は 1cm
未満、女児の身長差は 9 歳以下と 13 歳以上で 8mm 未満となり、計測法の差を考
慮すると、大差がないといえる。しかし、11 歳以上、とくに 12〜15 歳の男児と
10〜12 歳の女児では、人間生活工学研究センターのデータの方がやや身長が低
い。差は、男児で最大 1.5cm、女児で最大 1cm 程度であろう。
図6-6は、人間生活工学研究センターの体重と平成 15 年度学校保健統計
調査報告の体重を比較したものである。人間生活工学研究センターの方が、体
重が小さい傾向がある。
以上のように、1992-94 年計測の人間生活工学研究センターの子供のデー
タは、現在のデータと比べると 12〜15 歳の男子で身長がやや低く、男子で 11
歳以後、女子で 10 歳以後、体重が軽い傾向がある。学校保健統計のようなデー
タと比べ、ボランティアをつのる場合は被験者の体形に選択がかかるのかもし
れない。被験者のかたよりによって生じるデータのバイアスは、どの時点でお
こなう計測調査においても無視できない問題である。
人間生活工学研究センターによる人体寸法データでもう一つ考慮しなけれ
ばならないのは、178 項目中 88 項目が 3 次元形状計測装置により得られた形状
データから抽出されたことである。これら 3 次元形状計測装置により得られた
寸法項目は、人体寸法データベースに加えるためには、手で計測した値と同等
であることを確認しなければならないという現在の基準からみると、手計測デ
ータとの比較がなされていない点で、適切ではない(ISO/FDIS 20685)。しかし、
巻尺等を用いて人力で計測された 77 項目は、計測誤差の範囲内で信頼できるで
あろう。
76
図6-5.人間生活工学研究センターによる 1992-94 年計測の子供の平均身長と平成 15 年度学校
保健統計調査による身長データの比較
上:男子、下:女子
77
図6-6.人間生活工学研究センターによる 1992-94 年計測の子供の平均体重と平成 15 年度学校
保健統計調査による体重データの比較
上:男子、下:女子
78
6-3.まとめ
文部科学省の学校保健統計調査、厚生労働省の乳幼児体格調査は多数の人
数を対象とした全国的な調査であり、これらのデータが示す時代変化の傾向は
現実を反映していると考えられる。これらの資料に基づいて時代変化傾向を検
討した結果、1970 年頃に計測された 3 歳以下の年齢群、1980 年ころに計測され
た 5 歳以下の年齢群、1990 年頃に計測された思春期の一部の年齢を除く 17 歳以
下の年齢群の体格は、現在と大差ないことがわかった。被験者集団が計測当時
の同じ年齢群集団を代表しているならば、計測時期が古くても、現在でも十分
に有効である。
実際のデータを評価した結果、1978-81 年に計測されたアパレル関連の寸法
項目で5歳以下の子供のデータ(日本規格協会、1984)、1973 年に計測された 5
歳以下の子供のデータ(日本安全協会、1973)は、現在との体格差が小さく、
現在でも有用だと考えられる。一方、人間生活工学研究センター(1997)によ
り 1992-94 年に計測されたデータは、12-15 歳の男子、10-12 歳の女子で、身長
が低い傾向があった。
これらのデータを利用してもらうためには、これらのデータが現在でも十
分に有効であることを宣伝するとともに、誰でも容易に使えるような形式で公
開する必要がある。
文献
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index03.htm
ISO/FDIS 20685: 2004 3D scanning methodologies for internationally compatible
anthropometric databases.
Iwata, H. and T. Kubota, 1997: Factors determining the body length of Japanese neonates.
Anthropological Science, 105 (1): 54.
河内まき子・横山一也・山下樹里・横井孝志・小木元・吉岡松太郎・渥美浩章・
堀田明裕。1994:設計のための人体寸法データ集。生命工学工業技術研
究所研究報告、2(1)。
文部省、1982:学校保健統計調査報告書
昭和55年度。大蔵省印刷局。
文部省、1993:平成4年度 学校保健統計調査報告書。大蔵省印刷局。
日本規格協会編、1984:日本人の体格調査報告書—既製衣料の寸法基準作成の
79
ためのー(1978年〜1981年)
。日本規格協会。
人間生活工学研究センター、1997:日本人の人体計測データ。社団法人人間生
活工学研究センター。
製品安全協会、昭和48年:乳幼児身体計測報告書。
製品安全協会、昭和 54 年:幼児身体計測報告書。
財団法人母子衛生研究会、1971:乳幼児身体発育値
昭和45年
乳幼児身体発
昭和55年
乳幼児身体発
平成12年
乳幼児身体発
育調査報告書。母子衛生研究会。
財団法人母子衛生研究会、1981:乳幼児身体発育値
育調査報告書。母子衛生研究会。
財団法人母子衛生研究会、2002:乳幼児身体発育値
育調査報告書。母子保健事業団。
80
第7章
経済的効果
ここまで、製品や事故という視点から要求度の高い寸法項目について検討
し(第1章∼第3章)、さらに、国内外における過去の調査研究でどのような寸
法項目のデータがいつ頃計測されているかを整理した(第4章、第5章)。その
上で、これらの調査データから体格の時代変化を分析し、科学的視点から、既
存データが利用できる寸法項目を整理した(第6章)。これに対して、本章では、
経済効果という視点から、新たに計測すべき寸法項目の重要度について検討す
る。
7-1.市場規模:アパレル・チャイルドシート
人体計測データの波及効果を調べるため、ベビー関連市場の規模を調査し
た(表7-1)。
商業統計(2002)によると、子供服小売(産業分類コード:56221)の販売
額は425,894(百万円)=約4200億円であり、規模としては婦人服の1/10で漸減
傾向にある。消費者である子どもの数は少子化により減少傾向にあるが、子供
服小売りの販売額はさほど減少していない。少子高齢化で一人の子どもに投資
する大人の数が増えており、製品単価が漸増しているためと考えられる。
ベビーカー、チャイルドシートは商業統計にも工業統計にも明示的に項目
として挙げられていない。ベビーカーの国内市場は(株)コンビとアップリカ
葛西(株)の2社でシェアの大半を占めていると言われている。チャイルドシ
ートは、上記2社以外にタカタ(株)、(株)東海理化、(株)カーメイト、
(株)日本育児、(株)ミクニ、(株)ヤナセ等も製造・販売しているが、各
社の事業報告書でも確認できない程度の規模である。また、販売高は両社とも
ここ数年横ばい状態で、市場として将来的に拡大していくとは考えにくい。お
そらく年間約 400 億円程度で推移するものと推測される。
表7-1.ベビーカーの売上高(百万円)
2003 年売上高 うちベビー用品
(株)コンビ
アップリカ葛西(株)
28,824
20,250
25,604
81
7-2.経済損失
第2章で挙げたように1歳から9歳までの死因の第1位は、交通事故を含
む不慮の事故によるものである。第2章の表2-2などから明らかなように、家庭
内事故や遊具事故などで、年間900件以上の死亡事故が発生している。死亡に至
らなかった事故は、報告・集計されているだけでは年間数万件にのぼる。死亡
した0-14歳児の生涯生産額と、怪我をした0-14歳児の医療費の合計を経済損失
額と考えると、以下の試算により年間約4500億円の経済損失であることが分か
る。
(1) 事故死亡による国の総生産に及ぼす経済損失:
0-14歳の不慮の事故による死亡数(H12) 934人 x
生涯生産額 3億1050万円 = 2,900億円
生涯生産額は,1人あたりの年間生産額 690万円 x 45年で試算.
年間生産額は,2000年の(実質)国民総生産 535兆6900億円を,
労働人口(20-64歳)77,715,000人で割った値により試算.
(2) 医療費による経済損失
0-14 歳の損傷および中毒による医療費(H12)は 1,622 億円
82
第8章
提言
子供を対象とした人体計測調査で、できるだけ有効なデータを集めるため
には、予算と人的資源に応じて計測項目・被験者数・対象年齢層を絞り込む必
要がある。このためには、計測目的(なにを解決するのか)を明瞭化し、それ
に応じて既存データ(すでに使えるデータがあるか)を知り、目的に応じた必
要計測項目(なにを測るべきか)を検討しなければならない。ここでは、産業
ニーズとしてアパレル、チャイルドシートを、社会ニーズとして家庭内事故、
遊具事故を取り上げる。また、技術シーズとしてダミーとデジタルヒューマン
モデルを考え、これらの6つの目的にそれぞれについて、既存データと必要計
測項目を提案する。
8-1.アパレル
0 歳から 6 歳未満の子供については、1978-81 年に既製衣料の規格作成のた
めに計測されたデータが、現在でも有効と考えられる。6 歳以上の子供について
は、1992-94 年に人間生活工学研究センターが計測したデータが、現在でもある
程度有効と考えられる。これらは本報告書で述べた通り、子どもの時代変化が
さほど大きくないことによる。すなわち、アパレル関連の幼児・子供の人体寸
法データは、最新のデータは少ないが、過去のデータが流用できる状態にある。
また、子供服のメーカは、必要なデータを独自に計測するノウハウを持ってお
り、データ自体も持っていると推測される。したがって、もし公的事業として
アパレル向けの子供の人体寸法計測を実施するならば、網羅的な計測よりは、
既存データがない特殊な体形に計測対象を限定するのが有用であろう。
83
8-2.ベビーカー・チャイルドシート
ベビーカーに要求されるのは人体寸法の適合性よりも振動吸収であった。
チャイルドシートのように大きな加速度がかかる場合要求されるのは、人体寸
法適合性よりも体節別の重心位置や慣性モーメントのようなパラメタであった。
子供の体節別身体特性パラメタに関するデータは、外国でも少ない
(http://www.dh.aist.go.jp/bodyDB/m/index.html)。Yokoi らによる 3∼15 歳
の子供の身体部分係数が最も充実している(Yokoi et all., 1986)。0∼3 歳児
についてはデータがないので、体節別身体特性パラメタを取得するならば、こ
の年齢群について集めるのが有用であろう。写真計測法を用いれば、0 歳児でも
計測は不可能ではない。
体節別の身体特性パラメタを計算するうえで欠落しているデータは、子供
の体密度に関するデータである。通常は屍体から求められた成人のデータが使
われるが、子供の体密度は成人とは異なる可能性が高い。全身の平均的な体密
度は水置換法や体積計測装置(BODPOD など)で計測可能である。ただし、体節
別の重心位置や慣性モーメントを計算するためには、本来、部位ごとの密度分
布が必要で、生体からこれを計測するには MR 断層画像撮影などが必要になる。
現時点では、子供でこれらのデータを取得するのは難しい。
一方、ベビーカーやチャイルドシートの使用時に、指をはさむなどの事故
をおこさないためには、遊具で必要とされると同様の身体部位別寸法が有効か
もしれない。
84
8-3.家庭内事故
家庭内事故については、保護者の責任であるという考えが強く、事故の対
象物に対するクレームがメーカに届かない傾向がある。工業製品や建築物を改
善することにより事故を減らすという考え方が、消費者、メーカともに浸透し
ていないようである。遊具による事故についても、遊び方が適切でないなど、
子供自身の責任と考える傾向がある。
家庭内事故は、保護者が目を離したすきに、保護者が予測しなかったよう
な行動を子供がとることによって生じる。0 歳児では誤えん、1∼4 歳児では溺
水と誤えん、5∼9 歳児ではやけどと溺水が多い。死亡事故の割合としては多く
ないが(0 歳児 7.7%、1∼4 歳児 15.8%、5∼9 歳児 4.8%、表2-2)、家庭で
の転落や墜落を防止するためには、手すりの高さなどの規格や基準を決めるた
めの運動能力をふくめた人体寸法データが有効であろう。運動能力を含めた人
体寸法とは、机面上のどの程度の奥行きまで手を伸ばすことができるか、とい
った機能寸法である。
転落防止のための手すりや柵の高さに関する基準のための基礎データとし
て現在入手可能なのは、3∼5歳児の運動能力を含んだ人体寸法データである。
したがって、短期的に必要と思われるのは0∼2歳児、および小学校低学年(6∼
8歳程度)のデータである。ただし、筆者らは0∼2歳児の計測項目・計測方法を
決定できるだけの情報を持っていない。
また、これらの寸法計測、技術開発と並行して、家庭内事故の詳細な情報
蓄積・分析も進める必要がある。特に、事故事例において具体的にどのような
文脈・状況でどのような運動能力をもつ乳幼児が家庭内事故をおこしているか
についての情報が不足している。これらの情報を包括的・継続的に蓄積してい
く必要がある。
85
8-4.遊具による事故
遊具による事故は、落下によるものが最も多い。手すりや柵も重要である
が、欧米の規格にあるように、仮に転落しても重篤な事故にならないように、
地表面を整備するという考え方が重要であろう。欧米の規格には、首、指、足
など身体の一部がはさまれたり、ひっかかったりしないように、製品の寸法や
設置に関する規格がある。日本にはこのような規格や標準がないが、このよう
な規格や標準を制定することは長期的にみれば有用であろう。一方、すでに制
定された欧米の規格は欧米の子供のデータに基づいているのであり、欧米の子
供の体格が日本人の子供の体格とそれほど大きく違わないならば、特に日本人
のデータにこだわる必要はなく、既存の外国の規格を翻訳して用いれば良い、
という考え方も成り立つ。この場合は、欧米人の子供で大丈夫ならば、日本人
の子供でも大丈夫であることを確認するためのデータが必要かもしれない。こ
れらの事故の予防に有効な項目の選定には、欧米の規格や米国の Anthrokids プ
ロジェクトでの計測項目が参考になるであろう。
Anthrokids プロジェクトは2つのフェーズに分かれている。2 歳以下の乳
幼児について2つのフェーズで計測された項目は(表5-2、表5-4)、人間工
学分野でしばしば計測される項目を中心とし、1972-75 年の調査では、これに手
や指の細かい寸法(指が通らない最小の円の径として表現)が加えられている。
2 歳以上の幼児・子供の計測項目は、2つのフェーズでかなり異なっている。
1972-75 年計測の 39 項目は乳幼児のための項目と同様、人間工学分野でしばし
ば計測される項目を中心として、これに手や指の細かい寸法(指が通らない最
小の円の径として表現)が加えられている(表5-2)
。一方、1977-78 年に計測
された 87 項目は(表5-3)基本項目 22、形状を表す項目 21、リンクと重心に
関する項目 21、頭部と手の項目 23、というように、ダミーのリンク構造と形状
を構成することを念頭において、項目選定をしているようである。
いずれにしても、Anthrokidsプロジェクトで注目している計測項目が手指
の細かい寸法であることが分かる。遊具もふくむ工業製品の設計にかかわる日
本人の幼児・子供の人体寸法は、既存のものがある。しかし、手と指に関する
項目が少ない。工業製品や遊具の安全性にとって、はさみこみを防ぐための寸
法は重要である。身体のはさみ込みに関連した手足や頭、体幹部の幅径を中心
とする幼児・子供の人体寸法データの計測が必要である。
86
8-5.ダミー開発
ダミーとは乳幼児・子供の体型や関節の受動的特性を再現した模型で、製
品に乗せて安全性をチェックするために用いられる。受動的に動く模型である
ので、能動的な動作(手先が机のどこまで届くかなど)を模擬することはでき
ない。8-4.で述べた通り、Anthrokidsプロジェクト第2フェーズではダミー開
発を念頭に置いた計測が進められていた。
日本においても、これまでに、乳幼児の実体ダミーはいくつか製作されて
いる(心肺蘇生訓練用、自動車安全衝突実験用など)。実体ダミーの形状デー
タをとりこむことにより、受動的な挙動をコンピュータ上でシミュレーション
するデジタルヒューマンモデル(仮想ダミー)も作られている。これらの基に
なった人体のデータが何であるかははっきりしない。
形状スキャナが利用できるようになった現在(持丸、2005)、ダミーのた
めに人体形状を再現することを念頭においた寸法項目は、本調査で想定してい
る安全性の観点からはそれほど重要ではないといえよう。リンク構造のための
寸法については、計測点の三次元座標値を知るためには形状計測装置を使うこ
とも可能であるし、運動計測装置の精度が非常に高くなっているのでマーカ貼
付けタイプの運動計測装置を使う方こともできる(Ehara et al., 1997)。ま
た、関節中心位置を知りたいならば、体表上の計測点の位置から推定するので
はなく、機能的な関節中心の3次元位置を、運動計測を利用して推定する方法
も開発されている(Aoki et al., 2005)。このように考えると、リンク構造に
関する人体寸法も、それほど重要ではないといえよう。
ダミーを開発するならばその目的に適した方法で適した形態情報を取得し、
転落防止やはさみこみ防止のための情報取得が目的ならばそれに適した項目を
選択するのが総合的に考えて有効だと思われる。すなわちリンク構造モデルを
決定し、リンク毎の長さ、形状、質量、重心位置、リンク間の関節の回転中心
位置、関節可動域、基本姿勢に関するデータを取得することになる。
87
8-6.デジタルヒューマンモデル開発
ダミーをコンピュータ上で再現したものがデジタルヒューマンモデルであ
る。コンピュータ上に持ち込むことで、多様な体型を再現でき(ダミーだと体
型の数だけダミーを作る必要がある)、さらには能動的な運動を再現できるこ
とになる。
8-3.節で述べた通り、家庭内事故や遊具事故を低減させるには、静的な
人体寸法以上に、運動能力を含めた機能寸法が重要である。ところが、運動能
力を含めた機能寸法は、行動対象となる製品(机、浴槽、てすり)のデザイン
とも大きく関連しており、計測される子供のモティベーションの関与も大きい。
すなわち、運動能力を含めた人体寸法は、基本人体寸法・運動能力・モティベ
ーション・製品デザインの4つの因子によって変化すると言うことになる。想
定されるさまざまな製品についてこれらのデータを網羅的に蓄積することは不
可能である。それゆえ、デジタルヒューマンモデルによる解決が望まれること
になる。基本人体寸法と運動能力を備えた子供のデジタルヒューマンモデルが、
最大努力で到達できる寸法をコンピュータ上で模擬する技術をデータ蓄積と並
行して開発していく必要があろう。
デジタルヒューマンモデル開発には、基本人体寸法が不可欠である。さら
に、姿勢・運動生成のための運動データも必要となる。転倒や転落を模擬する
ためには重心高さの情報も重要である。また、シミュレーションの目的によっ
ては、表面形状だけではなく、内部の骨格に関する情報も必要となる。
88
8-7.既存の乳幼児・子供の人体寸法データ
表8-1は、6章で紹介した日本における乳幼児・子供の人体寸法データを
まとめたものである。製品設計にかかわる人体寸法データは既存のものがある
が、実際にはそれほど項目数が多いわけではない。特に、手や指の寸法はほと
んどない。建築/動作寸法と重心位置に関するデータは少ない。
表8-1.既存データ
分野
0∼2 歳
3∼5 歳
6∼12 歳 13∼17 歳
アパレル
規格協会 規格協会
HQL
建築/動作寸法
八藤後他
人間工学/製品設計 安全協会 安全協会
HQL
体節別慣性特性
Yokoi
Yokoi
立位重心位置
八藤後他
座位重心位置
規格協会:日本規格協会、1984
HQL:人間生活工学研究センター、1997
安全協会:製品安全協会、昭和 48 年、昭和 54 年
八藤後他:2002;2003
Yokoi: Yokoi et al., 1986
HQL
HQL
Yokoi
89
8-8.公的資金による乳幼児・子供の人体寸法計測への提言
アパレル、チャイルドシートの2つの産業ニーズ側面、家庭内事故、遊具
事故の2つの社会ニーズ側面、さらに、ダミー開発、デジタルヒューマンモデ
ル開発の2つの技術シーズ側面から、乳幼児・子供の人体寸法特性として、ど
のような既存データがあり、また、どのような必要性があるかを述べた。最後
に、これらの検討を踏まえ、公的資金投入によって乳幼児・子供の人体計測を
行うとした場合の、計測項目・被験者数・対象年齢層について具体的な提言を
したい。
短期的な成果を期待する場合、目的は社会ニーズを中心としたものとなる。
家庭内事故や遊具事故の低減が第一義となろう。このためには、以下の計測が
有効と考えられる。
(1) 計測項目:基本人体寸法(全身および身体各部のサイズを表現する20
項目程度の寸法)と運動能力を含んだ人体寸法データ
対象年齢層:0∼5歳児
被験者数:年齢別・性別ごとに30名程度
(2) 計測項目:基本人体寸法と身体のはさみ込みに関連した手足や頭、体
幹部の幅径
対象年齢層:0∼5歳児
被験者数:年齢群・性別に30名程度
さらに中長期的な成果を期待する場合では、ダミーやデジタルヒューマン
モデルの開発を通じて、製品適合性の向上や安全性の確保を図る戦略が効果的
であろう。このためには、以下の計測が有効と考えられる。
(1) 計測項目:基本人体寸法と3次元形状データ(体節別慣性特性計算の
ため)、運動データ、反力データ(運動模擬のため)
対象年齢層:1∼12歳児
被験者数:年齢別・性別ごとに10名以上
(2) 計測項目:基本人体寸法と関節受動抵抗データ
対象年齢層:1∼12歳児
被験者数:年齢群・性別に 30 名以上
90
文献
Aoki, K., K. Kawachi, M. Kouchi and M. Mochimaru, 2005: Functional Shoulder Joint
Modeling for Accurate Reach Envelopes Based on Kinematic Estimation of the
Rotation Center. SAE Technical papers 2005-01-2726.
Ehara, Y., H. Fujimoto, S. Miyazaki, M. Mochimaru, S. Tanaka and S. Yamamoto, 1997:
Comparison of the performance of 3D camera system II. Gait & Posture, 5:251-255.
持丸正明、2005:オンデマンド着装品で変わる人体形状計測。画像ラボ、16(3):
13-17.
八藤後猛・田中賢・中村孝之・野村歡、2002:幼児を対象とした人体および動
作計測装置の開発と計測による建築安全計画への考察―乳幼児の家庭内事
故防止に関する研究 その1―。日本建築学会計画系論文集、562:187-192.
八藤後猛・野村歡・田中賢、2003:幼児の手すり柵乗り越えによる墜落防止に
関する実験研究と建築安全計画のための考察。−−乳幼児の家庭内事故防止
に関する研究
その2――。日本建築学会計画系論文集、572:67-73.
Yokoi, T., K. Shibukawa and M. Ae, 1986: Body segment parameters of Japanese
children. Japanese Journal of Physical Education, 31:53-66.(横井孝志・渋川侃
二・阿江通良、1986:日本人幼少年の身体部分係数。体育学研究、31:53-66.)
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