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第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み(その1)(PDF形式

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第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み(その1)(PDF形式
第3部
伸ばしていくべき神戸経済の強み
第1部で概観したように、神戸の経済は震災で大きな被害を受け、そ
の後も長引く不況に苦しんできたものの、復興に向けた懸命な努力や
2002年頃から始まった全国的な景気回復の影響もあり、一端は明る
さを取り戻した。しかし、その後のリーマンショックや欧州政府債務問
題などによる世界同時不況や、急激な円高、原油や原材料の価格高騰な
どが日本経済に大きなダメージを与え、神戸の経済にも深刻な影響を与
えている。さらに、神戸経済が今後も持続的な成長を成し遂げるには、
少子超高齢・人口減少社会の到来や国際競争の激化、電力供給の制約な
ど、多くの課題を克服していかなければならない。
第2部では、こうした現状や社会経済状況の変化をふまえ、新たな豊
かさの創造を目指すため、「神戸2015ビジョン」とその部門別計画
である「神戸市中小企業活性化プログラム」、「神戸観光プラン」、
「こうべ農漁業ビジョン2015」について概観した。
第3部では、それらの計画でも位置づけられている具体的な施策につ
いて、今後伸ばしていくべき神戸経済の強みである、「ものづくり企
業」、「ファッション産業」、「観光産業」、「小売商業」を中心に、
9つのテーマに分け、それぞれの分野ごとに説明する。
第1章 雇用確保の実現
.2万人の雇用創出
神戸市では、雇用対策に関する施策を全庁的に推進するため、平成14年₃月に神戸市雇用対策本部
を設置するとともに、市民生活を支える基盤である安定した雇用の場を確保するため、平成14年度か
ら2度にわたり「₂万人の雇用創出」に取り組み、目標を達成してきた。
平成22年度からの4ヵ年についても、第三次の取組みとして、「『知の集積』の推進」、「『ものづ
くり』の振興」、「商業・集客観光分野などの振興」、「健康福祉・教育分野などの振興」の₄本の柱に
より新たな₂万人の雇用の場の創出を目指している。
「
( )内は計画値
52 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
万人の雇用創出」年次別計画
(600)
(700)
946
789
(500)
(900)
482
732
(1,200)
(1,800)
1,578
1,584
(1,200)
(1,100)
1,474
1,970
(3,500)
(4,500)
4,483
5,075
(1,700)
(2,300)
2,165
2,193
(100)
(100)
243
271
(1,100)
(1,100)
(3,500)
1,738
(1,300)
(1,300)
(4,000)
1,214
(2,500)
(2,500)
(8,000)
3,162
(1,100)
(1,100)
(4,500)
3,444
(6,000)
0
(3,000)
(6,000)
0
(3,000)
(20,000)
9,558
(10,000)
4,358
(400)
(400)
(1,000)
514
「
万人の雇用創出」年次別計画・実績(平成18年∼21年度)
「
613
2,987
1,439
12,711
1,319
6,061
3,371
21,759
1,362
10,027
238
1,185
万人の雇用創出」実績(平成14年∼17年度)
第1章 雇用確保の実現 53
2.神戸ワーク・ネットワーク(就業促進協議会)
1)概要
若年者や女性、高齢者の就業問題、雇用のミスマッチなど、就業に関する様々な課題を克服し、就
業環境を改善するため、平成18年2月に経済界、労働界、教育界、NPO、関係行政機関(国、県、
市)などの神戸の各界で構成する「神戸ワーク・ネットワーク(就業促進協議会)」を設立した。
設立以来、協議会及び運営委員会において議論を重ね、全ての働く意欲を持った人が働くことがで
きるよう、連携・協力して就業支援への取り組みを進め、就業環境の向上を図ってきた。
2)事業の内容
⑴ 経済の活性化による多様な働く場の確保
⑵ 能力開発などによる人材の育成
⑶ 就業機会の提供、情報発信
⑷ 多様な働き方を実現する雇用環境の整備
⑸ 職業観の育成
3)主な実施事業
① 合同就職面接会・企業説明会
求職者と市内中小企業を結びつけるための合同就職面接会・企業説明会を開催する。
② 就労支援セミナー
求職者が企業の経営者から企業が求める人材像について直接話を聞くためのセミナーを開催す
る。
③ 事業創造型インターンシップ
大学と連携し、学生が受け入れ先企業の経営分析やビジネスモデル提案を行う。
④ 採用力アップセミナー
企業の魅力や情報の発信強化のためのセミナーを開催する。
⑤ メンター育成研修
新入社員の早期離職を防止するため、企業におけるメンター(指導者)を育成するセミナーを開
催する。
経済界
大 学
教育委員会
専門家
54 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
国
(兵庫労働局)
(ハローワーク)
第2章 挑戦する事業者の応援
.創業・第二創業に対する総合的な支援
1)KOBEドリームキャッチプロジェク卜
新規事業に挑戦するベンチャー・中小企業や起業家から募集したビジネスプランについて、事業内
容(アイデアの独創性・将来性等)、経営計画、経営者資質等を神戸ビジネスプラン評価委員会で評
価・認定し、その事業化を(公財)神戸市産業振興財団がワンストップで支援する。
① 応募対象
・新規創業・事業を実施する企業・個人(設立後10年以内)若しくは新分野進出、第二創業に取り
組む企業・個人(事業化後10年以内)
・神戸市内に主たる活動拠点があるか、主たる活動拠点を移転しようとするもの·
(※)
(※)
88
平成24年度
23
62
3
11
53件
3件
8件
846件
68件
201件
(※)X-KOBE(エクスコウベ):競争力があり、大きな将来性が期待できるプラン
N-KOBE(ネクスコウベ):一定の将来性が期待できるプラン
② 支援内容
国、県など他の支援機関と積極的に連携を図ることで、機関横断的・総合的な支援メニューを提
供している。
、首都圏でのビジネスマッチング支援
、商品化支援
第2章 挑戦する事業者の応援 55
2)神戸開業支援コンシェルジュ
起業家の裾野拡大を図るため、神戸商工会議所等市内支援機関と「開業支援コンシェルジュ」とし
て起業支援のチームを組み、それぞれの強みを生かし、役割分担を行いながら起業に特化した支援を
行う。
具体的には、起業相談から、専門相談、セミナー、インキュベーションなどの支援や支援機関の相
互協力・情報共有により制度のPRや起業家が相談しやすい環境を整え、開業率の向上を図り、「起業
しやすいまち神戸」を推進する。
3)神戸ベンチャー育成投資事業有限責任組合
⑴ 目的:神戸を中心とする成長牲の高い企業に成長資金の提供(投資)と企業の成長育成支援
(ハンズオン支援)をあわせて行うことにより、株式公開、企業価値向上を目指す。
⑵ ファンド総額:11億2,000万円(平成17年₈月₄日設立時は₅億3,000万円。同年12月増額)
⑶ 組合構成員:(公財)神戸市産業振興財団、
市内に本・支店を置く信用金庫等11組合員
⑷ 投資実績
20社(投資件数28件)、投資累計額₈億6,560万円
4)インキュベーション施設
神戸市では、起業支援として、産業振興センターや神戸ファッションマー卜をはじめ市内各所に低
廉なオフィススペースを提供しており、ベンチャー企業の集積を図り、そこで経営や市場の情報など
に関するソフ卜支援を一体的に行うとともに、ベンチャー企業のネッ卜ワーク化にも取り組んでいる。
56 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
また、これらのインキュベーション施設では、
入居者等に対するソフト支援も行っている。産業
振興センター、神戸ファッションマート、シュー
ズプラザの₃ヶ所には、「SOHOプラザ」を設け
て、入居企業だけでなく、市内外のベンチャー企
業やSOHO事業者、創業しようとしている学生・
主婦・ビジネスマンなどを対象に、法律・税務な
どの専門相談や交流会・セミナーの開催などのソ
フト支援を実施している。
5)第二創業支援の取り組み
SOHOプラザ/KIC創業準備オフィス
一方、市内の中小企業には、価値創造につながる優れた技術やノウハウの蓄積があり、企業の中に
はそれらを活かして、独自にあるいは共同で新しい事業を展開(第二創業)しようという動きがあ
る。しかし、その際には、技術的な課題があり解決方法がわからない、独自の販路を持っておらず
マーケティングが困難、単独では開発できないが提携先が無い、などの様々な課題がある。
こうした経営課題に対し、(公財)神戸市産業振興財団では、KOBEドリームキャッチプロジェク
トにおいて第二創業に取り組む中小企業を総合的に支援しているほか、マーケティング、経営計画立
案など実務面に詳しい専門家を派遣している。さらに、平成16年₉月より、事業構築、経営戦略等に
関して、実証研究を積んだ大学の教授が個別相談に応じる「神戸経営戦略外来」を開設している。
また、技術的な課題については、大手企業などが保有する有用な未利用特許や学術機関などの研究
成果を中小企業の具体的な製品化および事業化につなげる技術移転事業を実施している(公財)新産
業創造研究機構(NIRO)内に開設された技術移転センター(TTC)の運営を支援している。なお、
(公財)新産業創造研究機構(NIRO)では、このほか大手企業OB技術者等の「技術アドバイザー」
が、中小企業の相談にも対応している。
第2章 挑戦する事業者の応援 57
2.支援体制の充実
1)ワンストップ相談窓口の整備
神戸市では、神戸商工会議所と連携して、中小企業の経営相談のためのワンストップ窓口を設け、
金融・経営・技術に関する一般的な相談や、専門家相談等にあたっている。
相談の種類
一般窓口
相談
金融・経営相談
経営相談
(中小企業診断士)
専門家に
よる相談
相談日・時間
主な相談内容
9:00∼17:15
支援センター
078−367−2010
財務、労務管理、その他
神戸商工会議所経営
経営上の問題
支援センター
企業経営上生じる法律上
(弁護士)
の問題
(技術士)
神戸商工会議所経営
事業計画、マーケティング、 事前予約
法律相談
技術相談
078−367−2010
月∼金
企業経営上の諸問題
電話番号
事前予約
078−367−2010
神戸商工会議所経営
支援センター
工業所有権及び製造現場
で生じる加工・製作等の
技術上の問題
月∼金
078−360−3320
13:00∼16:00
兵庫県技術士会
2)中小企業支援ネッ卜ひょうご
様々な経営課題を抱える中小企業を応援するため、平成15年度に、兵庫県下26の中小企業支援機関
をネットワーク化した「中小企業支援ネットひょうご」を構築し、中小企業の立場に立った総合的な
支援を行っている。(事務局:(公財)ひょうご産業活性化センター)。
公
公
公
(公財)尼崎地域産業活性化機構、(財)明石市産業振興財団
公
公
(一社)
兵庫県発明協会、
(公社)
(一財)
(一財)
(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構
兵庫職業訓練支援センター、
平成20年₁月には、この「支援ネット」をさらに拡大・充実し、県下中小企業に対する支援事業の
広範な周知・活用を促すため、新たに「連携団体」の制度を創設した。金融機関、大学・高専、専門
家団体等がこれに加わり、金融支援や産学連携を行うための連携体制が構築されている。
58 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
3.資金面からの支援
1) 制度融資
神戸市では、兵庫県信用保証協会及び取扱金融機関との連携により、金融機関との取引が少ない企
業や、信用力・担保力が弱い企業など、市内中小企業の資金ニーズに合わせた「制度融資(神戸市中
小企業融資)」を実施することにより、経営を金融面から支援している。これにより、神戸経済を担
う市内中小企業の厳しい資金繰りを改善するとともに、更なる成長を支援する。
制度融資は、民間金融機関による融資と異なり、あらかじめ融資条件(利率・期間等)を市が制度
条件として設定しており、通常の民間金融機関による融資に比べ、低利かつ長期間、固定金利で利用
できる。この制度融資の仕組みは、市が貸付原資の一部を金融機関に預託し、それを原資に金融機関
が資金運用する「協調融資」と、国が定めた信用補完の仕組みである「信用保証制度」によって支え
られている。
2)融資制度の拡充
長引く不況に加え、東日本大震災や急速に進んだ円高の影響など、市内中小企業を取り巻く経営環
境は依然として厳しい状況にある。このため、平成24年度は、平成23年度に引き続きセーフティネッ
ト資金融資を拡充した。また、電力不足対策や省エネルギー対策を行う市内中小企業を支援するた
め、平成24年度に限り事業拡張転換資金に電力不足対策要件を追加し、市内での事業を継続しつつ海
外進出を図る中小企業を支援するため、海外進出支援要件を追加した。
3) 小規模事業者への支援
神戸市では、小規模事業者(※1)の借入負担の軽減をはかるため、神戸市中小企業融資(※2)を
利用する小規模事業者が兵庫県信用保証協会に支払う信用保証料を市が負担する。
平成24年度については、融資額500万円以下の場合に信用保証料の全額を市が負担している。
(※1)小規模事業者:従業員が20人(商業・サービス業は₅人)以下
(※2)対象融資制度:小規模企業おうえん融資
無担保無保証人融資
小規模事業資金融資
第2章 挑戦する事業者の応援 59
4)融資メニュー
(平成24年4月現在)
融資制度名
利率
(年利)
限度額
融資期間
(据置期間)
資金使途
保証付 2億円
長期事業資金融資
保証無 5億円
1.85%
10年(1年)
運転資金のみ1億円
小規模企業おうえん融資
500万円
1.55%
7年(1年,1.5年)
小規模事業資金融資
500万円
1.75%
7年(1年,1.5年)
無担保無保証人融資
500万円
1.55%
7年(1年,1.5年)
1.6%
1年
短期資金融資
季節資金融資
(夏季・冬季・年度末)
企業 5,000万円/件
組合 8,000万円/件
1.15%
6ヵ月
設備資金
1.1%
4年(一括返済)
1.4%
10年(2年)
組合 6,000万円
企業 5,000万円
高度化準備資金融資
及び
運転資金
夏季・冬季・年度末 各
企業 4,000万円
運転資金
組合 3億円
(保証付1億円)
高度化事業の
対象となる資金
保証無 10億円
産業立地促進資金融資
(神戸エンタープライズゾーンを含む)
(市長認定企業は15億円)
15,20年(3年)
保証付 2億円
運転資金
運転資金のみ1億円
及び
新技術・ICT
(情報通信技術)
神戸挑戦
企業支援
資金融資
1億円/件
1.2%
7年,10年(2年) 設備資金
1.2%
7年(2年)
導入資金
神戸ドリームキャッチ
企業 1億円
支援資金
組合 3億円
運転資金.・
事業拡張転換資金
2億円
1.2%
10年(2年)
設備資金
(一部設備のみ)
起業家支援資金
2,000万円
1.4%
創業支援
新事業創出(医療・
2,500万円
1.4%
資金融資
福祉、情報・通信
(自己資金の範囲内)
1.0%
産業ほか)資金
分社化1,000万円
(特定業種)
7年(2年)
運転5年(1年)
及び
設備7年(1年)
設備資金
雇用拡大対策資金融資
1億円
1.15%
10年(2年)
事業承継支援資金融資
1億円
1.2%
10年(1年)
1.15%
7年(1年)
セーフティネット資金融資
借換資金融資
60 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
8,000万円
1億円
5,000万円
(月額返済が減少する範囲内)
(1.85%)10年(2年)
1.85%
運転資金
10年
設備資金・
附帯運転資金
経済産業大臣
認定の資金
運転資金・
設備資金
(一部運転のみ)
運転資金
第3章 ものづくり産業の振興
.市内中小製造業の新分野への進出
神戸の中小製造業は、主に鉄鋼・造船等の重厚長大産業において大手企業のパートナーとして、そ
の能力を大いに発揮してきた。現在もその強みは健在だが、今後もその状況が続くかどうかについて
は、市場のグローバル化の進展や人口減に伴う経済規模の縮小など不安定要素が多い。
今後は、中小製造業においても、企業の存続や更なる発展のために、新分野への参入や新規事業の
展開などに挑戦することも、経営の選択肢の1つとして検討しなくてはならない時代になっていくと
思われる。そこで、神戸市では、市内中小製造業の新分野への進出を支援・後押ししている。
1)神戸挑戦企業等総合支援事業
神戸を拠点に起業、新分野進出、新事業展開などに取り組む中小企業を「挑戦企業」と位置づけ、
挑戦企業への支援を総合的に実施することで、中小企業の活性化を図っている。
① 神戸挑戦企業等支援補助
「医療・健康・福祉分野」や「環境・エネルギー分野」における新事業の展開に挑戦する市内中小
企業を支援するために、「神戸挑戦企業等支援補助制度」を設けている。
類 型
対 象
補助率及び
上限額
交付実績
①医療・健康・福祉
分野新規開発等補
助
医療・健康・福祉分野の新製品
等の実用化に向けた開発及びマ
ーケティング調査
1/2以内
上限:
単独100万円/件
共同グループ
[単年度事業]
500万円/件
[2カ年事業]
750万円/件
95件
(H14∼23)
②環境・エネルギー
分野 低炭素社会
貢献事業補助
環境・エネルギー分野の新製品
等の実用化に向けた開発及びマ
ーケティング調査
1/2以内
上限:
単独100万円/件
H24 新設
③RT(ロボットテク
ノロジー)事業開発
補助
ロボット事業に関する試作品製
作や基礎開発
1/2以内
上限:
単独100万円/件
共同グループ
250万円/件
23件
(H17∼23)
(H23で終了)
④神戸挑戦企業等事
業具体化支援補助
幅広い分野での新製品等の開発、 1/2以内
経営革新、新サービス等への挑
上限:
戦
単独100万円/件
コンソーシアム
250万円/件
51件
(H17∼23)
(H23で終了)
第3章 ものづくり産業の振興 61
② KOBEドリームキャッチプロジェク卜
市内を拠点に新事業に挑戦する中小企業・起業家等の有望なビジネスプランを評価・認定し、広
報支援、商談会による販路開拓、専門家によるビジネスプランのブラッシュアップなどの支援を、
国や県等の支援策も積極的に活用しながら横断的に行う。
2)産学官民連携の推進
地元の大学等の教育・研究機関や産業支援機関の知識・ノウハウや研究成果等を、市内中小製造業
の新たな挑戦に有効に活用するために、民・学・産と行政のネッ卜ワークの構築・強化を図る。
① 神戸リエゾン・ネッ卜ワーク
大学、公的研究機関、産業支援機関との連携による地域に密着した中小企業支援ネッ卜ワークを
活用し、市内で活躍する研究開発型の中小企業共同グループの参画を得て、ものづくりに関する連
携や情報発信を強化し、知識や知恵の交流・融合を図る。
② 神戸リエゾン・ラボ
市内中小企業と大学・高専等の教育研究機関との連携のきっかけづくりの一環として、大学サテ
ライト研究室、産学連携研究室、中小企業共同研究室を設置している。
3)医療機器等開発の支援
地元中小企業の医療機器などの開発を促進するため、医療機器開発や薬事法承認手続きの総合的な
相談窓口「医療機器サポートプラザ」の運営を支援するとともに、専門家によるアドバイザー派遣
や、新規開発等への補助を行っている。
また、医療機関とのネットワークを活用した医療機器開発のニーズの把握をはじめ、医療機関の開
発から販売まで一貫した支援を実施している。
4)ロボット関連分野の振興
近年、ロボッ卜技術の応用・高度化が進み、警備・清掃・介護・医療・エンターテイメン卜など産
業用以外の様々な分野でもロボッ卜の研究開発が進んでいる。
こうした状況の下、本市では、市内企業の高度な生産技術や神戸大学・神戸市立工業高等専門学校
等の多くの研究者の存在等の神戸の強みを活かして、ロボッ卜開発を通じたものづくり技術の高度
化・市内産業の振興等を目的に、平成14年から「神戸RT構想」を推進している。
① NIRO神戸ロボッ卜研究所
神戸RT構想の中核機関として、平成14年6月に、(公財)新産業創造研究機構(N1RO)内に
「神戸ロボッ卜研究所」が設立された。この神戸ロボッ卜研究所が中心となって、企業や大学等と
の連携により現在は、畦畔除草ロボッ卜の開発等、農業分野での取り組みを進めている。また、市
内中小企業の取組みを支援するためにセミナーの開催、技術指導やアドバイザー派遣等を行ってい
る。·
62 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
② 中小企業の支援
神戸RT(ロボットテクノロジー)構想の拠点施設「神戸ロボット工房」において、ロボット開
発による市内中小企業の高度化や活性化を目指して、ロボット開発に取り組む市内中小企業の共同
開発の支援や、RTビジネスに関わる人材の育成等、産学民官が一体となった取り組みを推進して
いる。
③ 市民への広報・PR
市民・子どもたちにロボッ卜の夢と楽しさを伝えることができるように、「レスキューロボッ卜
コンテス卜」の開催や「神戸ロボッ卜工房」において、ロボットものづくり教室の開催・ロボット
の常設展示を行っている。
④ 「神戸ロボッ卜工房」の運営
平成22年11月に、神戸RT(ロボッ卜テクノロジー)構想の拠点として、長田区の二葉小学校跡
に「神戸ロボッ卜工房」を整備し、NIRO神戸ロボッ卜研究所や国際レスキューシステム研究機構
の神戸ラボラ卜リーを、同工房内に移転した。
ここでは、市内中小企業の共同開発への技術指導や事業化支援、RTビジネスに関わる人材の育
成等に取り組むほか、レスキューロボットの研究開発、ロボット・ものづくり教室の開催、ロボッ
トの常設展示、「神戸こどもロボットクラブ」の運営を行っている。
けいはん
畦畔除草ロボット
ロボットものづくり教室
第3章 ものづくり産業の振興 63
2.次代を担うものづくりを支える技術力の向上
ものづくりの質を高めるのは、「技術力」である。「技術力」は製造業の競争力を高めるととも
に、更なる成長を実現するためには、不可欠の要素である。
一方で、ものづくり分野における技術開発は日進月歩で進んでおり、製造業においては、先端技術
をいち早く自社の事業に導入できるかどうかが生命線であるといっても過言ではない。しかし、人材
や資金などの面で制約の多い中小製造業においては、先端技術の早期導入は容易ではない。そこで、
神戸市では、技能・技術の着実な継承を含め、市内中小製造業の技術力の向上を様々なかたちで支援
する。·
1)技術相談・技術指導・技術移転
神戸市ものづくり復興工場内にある神戸リエゾン・ラボの「N1ROものづくり試作開発支援セン
ター」では、3次元CADや3Dプリンタなど、中小企業では取得が困難な機器を開放するととも
に、技術相談や技術指導等を通じて、市内中小製造業の新技術・新製品の開発を支援している。
また、大企業等が保有する特許や国内外の大学等の学術機関の研究成果を、中小企業の具体的な製
品化や事業化につなげるために、(公財)新産業創造研究機構(N1RO)の「技術移転センター」や
「TLOひょうご」が、技術者の登録、技術データベースの作成、技術移転・実用化支援等を行い、
市内中小製造業の技術の高度化を推進している。
2)市内中小製造業のデザイン力の強化
神戸市の新たな都市戦略「デザイン都市・神戸」を具体化するために、基本方針の1つに「ものづ
くりのデザイン」が掲げられている。神戸市では、デザインをものづくりに取り入れることで、もの
づくりの高度化を図っている。
まず、神戸リエゾン・ラボでは、市内中小製造業の製品やパッケージのデザインに関する相談に対
して、神戸芸術工科大学の教授陣等をコーディネートして優れたデザインの提案等を行っている。ま
た、ものづくりにおけるデザインの重要性を認識したり、工業デザインを基礎から学ぶ機会として、
神戸芸術工科大学と連携し、「KOBE工業デザイン塾」を開催している。
KOBE工業デザイン塾
64 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
3.次代を担うものづくり人材の育成・確保
ものづくりの基本は、「人」である。
神戸の中小製造業は、長きにわたり、日本を代表する重厚長大産業を支えてきたが、優秀な人材が
それを可能としてきた。これは、他地域にはない神戸の強みである。
しかし、少子高齢化の急速な進行や子どもたちの理科離れなど、今後、ものづくり人材の不足が懸
念される中で、次代のものづくりの担い手の育成が喫緊の課題となっている。また、団塊世代の熟練
工がものづくりの第一線を後にしていく中で、熟練工が持つ技能や技術の継承も重大な問題である。
そこで、神戸市としては、市内中小製造業のものづくり人材の育成・確保を積極的に支援する。·
1)ものづくり人材育成
神戸市立科学技術高校・神戸工科高校では、地元中小製造業の協力を得ながら、企業技術者による
学校での実践的指導、企業でのインターンシップや研修などを行い、地元産業界が求める優れた技術
者の育成に努めている。また、市内の他の工業高校にも、実践的教育への地元中小製造業の参画の取
り組みを広げている。さらに、神戸市立工業高等専門学校においても、地元中小製造業が講話をした
り自社の技術や取組をPRするなどの活動を実施している。
また、神戸市ものづくり復興工場内にある神戸リエゾン・ラボの「N1ROものづくり試作開発支援
センター」では、₃次元CAD等を活用した試作品開発などに関する相談やCADセミナーを通じて、
地元中小製造業の技術者がものづくり技術を修得する機会を提供している。さらに、市内の民・学・
産と行政の関係機関・団体から構成される「神戸リエゾン・ネットワーク」に参画する産業支援機
関や教育研究機関がそれぞれの持つ知識や技術を生かして、「図面セミナー」「KOBE工業デザイン
塾」など、幅広い分野にわたる講座を開講し、社内研修等の実施が困難な市内中小製造業の若手人材
の育成を支援している。
また、熟練工が持つ技能や技術の継承についても、技能等の継承の重要性を知ってもらうための
「技能・技術継承セミナー」を開講するとともに、無料で専門家を派遣し、技能や技術の着実な継承
を支援する。·
2)市内中小製造業の人材確保の支援
上記の市内の工業高校や工業高等専門学校における市内中小製造業の実践的教育への参画を通じ
て、教員や生徒・保護者に、地元中小製造業についてもっと関心を持ってもらい、地元中小製造業の
優秀な人材の確保に結びつくよう努めている。
その他にも、市内中小企業の魅力を知るきっかけとして、合同企業説明会や就職面接会、インター
ンシップを実施している。また、企業の魅力や情報の発信強化のための「採用力アップセミナー」を
開催し、中小企業の採用力強化を図っている。
第3章 ものづくり産業の振興 65
4.市内中小製造業の海外展開および販路拡大等の支援
1)神戸市アジア進出支援センターの設置
国内の企業経営環境の変化等を背景に、市内中小製造業の海外の活用に対する関心も非常に高まっ
ており、特に、成長著しいアジア新興諸国への進出が加速し、中小製造業の生き残りの為に海外進出
が重要な選択肢となっているが、市内中小製造業の海外進出を支援するため、市直轄の機能として、
「神戸市アジア進出支援センター」を設置し、各企業の海外進出の検討段階から進出後まで、常に中
小企業の目線で「寄り添い型」の支援を行う。
⑴支援対象
①対象業種 市内中小製造業
②対 象 国 ASEAN10カ国、インド、中国、韓国
⑵支援内容
①進出検討段階から進出後までの支援
・企業ニーズにあったアドバイザー派遣
・中小企業融資の拡充(海外進出を融資対象化、上限2億円)
・海外ミッションの派遣(企業と同行して現地調査)
・申請書・契約書等の翻訳料助成(1/2補助、上限10万円)
②海外進出に伴うリスクの軽減を支援
・海外進出に伴うリスクの伝達・助言・指導
・セミナー・個別相談会の実施
・アジアのお役立ち情報の提供
2)中小製造業の販路拡大及び経営力向上に対する支援
① 市内中小企業販路開拓等支援
長期化する深刻な景気後退に伴う受注の落ち込みに対応するため、地元中小製造業の販路開拓・
受注拡大を図るための支援を行う。
・神戸市内小規模製造業販路開拓支援補助
・神戸ブランド販売促進支援補助
・「神戸市内中小企業加工技術展示商談会」等による受注機会の拡大
・共同受注・共同開発支援
② 大手企業社内での展示商談会の開催
高度な技術力を保有する市内中小製造業が近畿圏外の大手企業に一団となって出向き、その施設
内等で展示商談会を開催する。大手企業の製造や資材部門の社員及び関連会社の社員に市内中小製
造業の高度な技術を直接かつ具体的に売り込み、従来からの取引がない大手企業からの発注獲得を
支援する。
③ 中小製造業の経営力強化支援
地元中小製造業が「顧客にとって新しい価値を創造し、取引先から頼りにされる企業」となるため
に、セミナー等を通じて、新製品の開発や販路の新規開拓などの積極経営に対する意識づけや、取引
先の相談に対応できる優れた提案能力の養成に取り組み、市内中小製造業の経営力の向上を図る。
66 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
第4章 ファッション産業の振興
.「ファッション都市・神戸」の発信
神戸市では、昭和48年(1973)の「ファッション都市宣
言」以来、ポー卜アイランドにおけるファッションタウン
の整備、神戸芸術工科大学の誘致(学園都市)、神戸ファッ
ションマー卜や神戸ファッション美術館、北野工房のまち、
シューズプラザなど、ファッションの拠点を市内各所に整備
してきた。
また、神戸を中心とする兵庫県下の生活文化産業の振興
を目的として、市・県をはじめ企業や業界団体の幅広い出
捐により、平成4年に(財)神戸ファッション協会が設立
された。ファッション協会では、「神戸ファッションコンテ
ス卜」や「ドラフ卜!」「洋菓子フェスタ」、「灘の酒と食を
愉しむ会」などで構成される神戸ファッションフェスティバ
ルを開催するなど、情報の収集及び発信、調査研究、企業や
人材の育成・交流、イベン卜の開催などの諸事業を行い、
ファッション都市・神戸のイメージアップと、地域経済の活
性化を図っている。·
1)神戸コレクションと連携した展開(神戸ファッションウィーク·上海における神戸ブランド発信)
民間主体の柔軟な企画力と発想力をもって、ファッション
雑誌、テレビと連携したメディアミックス展開をとる「神戸
コレクション」は日本最大級のファッション・イベン卜とし
て定着している。平成18年度からは、神戸コレクションを核
として、市内各地においてファッション関連のイベン卜を集
中的に開催するとともに、参加店舗のサービスや観光情報を
あわせて効果的に発信する「神戸ファッションウィーク」を
実施し、来訪者の増加と地域経済の活性化を図っている。
神戸コレクション
また、神戸コレクションの上海公演を活用しながら、市内
ファッション企業の共同プロモーションや神戸のまちのシ
ティープロモーションを行い、市内企業の中国進出を支援す
るとともに、中国からの観光客誘致など観光振興にも取り組
んでいく。
【参考】
神戸コレクションの開催状況(平成24年3月末現在)
神戸公演 20回 東京公演 12回 横浜公演 3回 名古屋公演 1回
上海公演 5回
神戸ファッションウィークの開催状況(平成24年3月末現在)
平成18年度〜23年度 年2回 計12回
神戸ファッションウィーク(於神戸花鳥園)
第4章 ファッション産業の振興 67
2)情報発信のための拠点施設
① 神戸ファッション美術館
ファッションに関する産業および文化の振興を図るため、人材育成・情報発信等の機能を備えた
ファッションに係る振興の拠点として、平成₉年(1997)に開設された。
平成18年度からは指定管理者制度を導入し、効率的・効果的な運営に努めている。また、他の美
術館やファッション系の学校や企業等との連携事業を推進したり、ホームページの充実をはじめと
した広報活動を強化することにより、人材育成・情報発信の機能強化を図っている。
② 北野工房のまち
平成10年(1998)開設。廃校後の小学校校舎(旧北
野小学校)を再活用し、「神戸ブランドに出逢う体験
型工房」をコンセプ卜として、神戸ブランドの発信を
行うとともに、北野観光の起点として、年間約70万人
が訪れている。
③ シューズプラザ
神戸の代表的な地場産業であるケミカルシューズ業界で
は、卸主導の古い産業構造が定着していた。震災による
壊滅的な被害に加え、海外の廉価製品との競合が進み、ま
た、従来の取引構造が縮小していく中で、メーカーの自社
ブランド確立や新たな販路を確保するための情報発信・収
集の場が必要となっていた。
こうした課題に対応するため、神戸・長田のシューズ産
業の情報発信拠点として、平成12年(2000)に「シューズ
プラザ」を設置した。「くつのまち・ながた」をPRするなど、シューズ産業の高度化・情報化や付
加価値の高い靴作りをサポー卜し、販路開拓を支援するとともに、デザイナー等に低廉なオフィス
を提供。特に、販路開拓支援では業界の推進する「神戸シューズ」のブランド化を業界団体と連携
して実施している。
68 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
2.ファッション産業の販路開拓支援
市内ファッション産業が、自社ブランドの魅力をアピールし、好条件での取引を獲得できるよう、
新たな市場への進出や新たな取引先との出会いを支援する各種施策を実施している。
① シューズ産業販路開拓支援
厳しい状況下にあるシューズ産業に対して、シュー
ズプラザを核として業界団体と連携した販路開拓支援
事業を実施している。具体的には、OEM(取引先ブ
ランドでの製造)からの脱却や自社の技術力・デザイ
ン力のアピールを図るため、各メーカーで自社ブラン
ドを掲げた百貨店における販売催事での出展や急速に
拡大しているインターネットによる販売など時期・時
流をとらえた販路開拓支援を実施している。
·
百貨店における販売催事
② Channel KOBE(チャンネル神戸)
「ファッション都市・神戸」から世界をめざすク
リエーターや中小アパレル事業者に対し、パリから
ファッションビジネスの最前線を知る専門家を招き、
海外市場で受け入れられるデザイン等に関する「セミ
ナー」やマンツーマンでアドバイスを行う「アトリエ
(個別指導)」を実施。さらに、世界中のバイヤーが
注目するパリの展示会(カプセル)への出展支援を実
施している。
カプセル(パリ)における商談
③ 上海における神戸ブランド発信事業
日本最大級のファッションイベント「神戸コレク
ション」の上海公演に「KOBEブランドブース」を出
展し、市内ファッション産業の中国市場への進出を支
援するとともに、中国からの観光客誘致という視点も
含めて、中国・上海における神戸ブランドのイメージ
定着を図っている。
④ その他
東京における大規模な展示会への出展支援を行うほ
上海ランウェイ(神戸コレクション上海公演)
「KOBEブランドブース」
か、業界団体等が取引先や消費者に自ら自社製品の魅
力を発信する取り組みに補助金を交付。
第4章 ファッション産業の振興 69
3.ファッション人材の育成
ファッション産業の振興のためには創造を担う「人材の育成」に力を入れることも重要であり、そ
のための各種支援策を実施している。
① ドラフ卜!
次世代のファッション業界を担うクリエーターを
神戸で育てるため、(公財)神戸ファッション協会が
平成14年(2002)から開催しているオーディションイ
ベン卜。参加セレク卜ショップのバイヤーなどが審
査員兼ビジネスパー卜ナーとなり、最終的にショッ
プデビューにつながる点が大きな特色となってい
る。(ショップデビュー214組)
ドラフト!
② 「神戸ファッションコンテス卜」
昭和49年(1974)から継続実施している「神戸ファッ
ションコンテス卜」では、次代を担うデザイナーの育
成に取り組んでおり、現在ではパリコレクションなど
で活躍するデザイナーも輩出している。(特選(海外
留学)受賞者85人)
神戸ファッションコンテスト
③ 神戸ものづくり職人大学
神戸の歴史の中で培われてきた「ものづくり」の優
れた技術・技能を後世に伝えるために、地場産業界
と共同で行う後継者育成事業。平成12年(2000)5月開
講。神戸洋服・神戸靴・神戸洋家具の3コース。
神戸ものづくり職人大学
70 第3部 伸ばしていくべき神戸経済の強み
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