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グローバルな見方・考え方を育てる国際理解教育の在り方

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グローバルな見方・考え方を育てる国際理解教育の在り方
グローバルな見方・考え方を育てる国際理解教育の在り方
−高校「現代社会」の指導を通して−
教育経営研究室 橋 本 伸 一
【要 約】
地球的諸問題が深刻化し、一国だけでは解決できない状況が生まれている。問題を解決し、世界の持続的な発展
を図るには、地球益を考えていく必要がある。そのためには、グローバルな見方・考え方が重要である。そこで、
グローバルな見方・考え方について考察するとともに、高校「現代社会」では多くの地球的諸問題を扱っているこ
とから、「現代社会」の学習において、グローバルな見方・考え方を育てるための指導事例を作成した。
キーワード
グローバルな見方・考え方 地球的諸問題 現代社会 難民問題
1 研究の目的
することはできず、地球益、すなわち人類共通の利益を
地球的諸問題をグローバルな視野から取り上げ、その
考えていくことが指摘されるようになった。このような
解決を目指し、よりよい未来を築こうとする未来志向型
中で、グローバルな見方を持つことが必要となってきて
の教育として、グローバル教育が知られる。1970 年代
いる。
(2) グローバルな見方とは何か
にアメリカで始まり、日本には 1970 年代末に紹介され
て、研究・実践が始まり、地球的視野に立つ必要性や地
グローバルな見方について、早稲田大学小関一也氏の
球的諸問題の解決に向けた取組の重要性が唱えられるよ
考え方を基に整理した。
うになった。また、臨時教育審議会第二次答申(1986) で
ア 地球的視野
は、「狭い自国の利害のみで物事を判断するのではなく、
一国の力だけでは解決不可能な地球的諸問題に我々は
広い国際的、地球的、人類的視野の中で、人格形成を目
直面している。この問題を一歩でも解決に向けて考えて
指すという基本に立つ必要がある」とし、「全人類的視
いくには、地球的視野、すなわち国益のみにとらわれな
野に立って、人類の平和と繁栄、地球上の様々な問題の
い地球益を考える視点が必要である。
イ ホリスティックな見方
解決に積極的に貢献」していくことが、教育の目標の一
つとされた。このような教育の目標を実現に近付けるた
地球上のすべてのものが関連し合い、すべての出来事
めには、グローバルな見方・考え方(以下、グローバル
が影響し合う中で、世界を相互に作用し合う一つのシス
な見方と省略)を持つ広い視野が求められる。現在、地
テムとしてとらえることが大切である。これは、物事を
球的諸問題がますます深刻化する中で、グローバルな見
ばらばらに細分化して見るのではなく、複雑にかかわり
方を持つことの必要性が高まってきている。
合う、つながり合う一つのまとまり、全体として、世界
そこで、本研究では、グローバルな見方とはどのよう
をとらえようとする見方である。
な見方をいうのかを考察した。また、高校「現代社会」
グローバルな見方とは、地球的視野に立って、ホリス
で地球的諸問題を学習する中で、グローバルな見方を育
ティックに世界をとらえようとする見方であると考えら
てていくことが可能であると考え、指導事例を作成した。
れる。
2 研究の内容
(3) 高等学校「現代社会」での指導
(1) グローバルな見方の必要性
ア 地球的諸問題
交通手段の発達や情報化が著しく進む中で、国境の壁
高校「現代社会」では、様々な地球的諸問題を扱って
が低くなり、人・もの・金・情報などが容易に国境を越
いる。環境問題、開発問題、人権問題、平和問題、食糧
えて自由に行き交うようになってきた。急速にボーダレ
問題など地球的諸問題は、相互に深くかかわり合ってい
ス化が進む中で、世界の結び付きはますます強まり、世
る。そこで、問題解決への道筋をつけるためには、一つ
界は密接な相互依存関係のもとに一体化してきている。
一つの問題を個別に分析・考察するだけでなく、諸問題
このことは、一国における問題が容易に他国に波及し影
のつながりをホリスティックに見ていくことが必要であ
響を及ぼすようになることを意味している。そして、人
る。「現代社会」での地球的諸問題の学習を通して、グ
権・平和・開発・環境などの諸問題が深刻化し、一国だ
ローバルな見方を育てることができると考えられる。
けでは解決できない状況が生まれている。問題を解決し、
世界の持続的な発展を図るには、もはや国益のみを追求
−33 −
イ 教科書に使用されている言葉
出版されている 16 種類の「現代社会」の教科書の中で、
愛媛県総合教育センター教育研究紀要 第71集(2005.3)
注目すべき言葉として、表1のような言葉が使用されて
いた。これらの言葉は、グローバルな見方の必要性を強
く表すものである。
ウ 指導のポイント
「現代社会」の単元を調べ、地球的諸問題や関連する
内容を選択し、指導のポイントをまとめた(表2)。
ウ 指導上の留意点
(ア) 難民の定義
学習に当たって、どのような人々が難民であるのかを
確認しておく必要がある。1951 年に採択された難民条
約では、国際法上の厳密な意味での難民が定義されてお
り、条約難民とも呼ばれる。ところが、近年、条約難民
には必ずしも該当しないが、国際的に保護や援助を必要
とする避難民が急増している。避難民とは、内乱や内戦
などで、国外へ逃れざるを得なくなった人々のことで、
現に置かれている状況は難民と変わるところがない。国
連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、避難民に対し
ても保護や援助を行っている。さらには、条約難民や避
(4) 指導事例
難民と同様の状況に置かれながら、国境を越えることが
ア 難民問題を取り上げた理由
指導事例として、難民問題を取り上げた。その理由と
できない人々を国内避難民と言い、UNHCR は保護に乗
して、次の三つがあり、グローバルな見方を育てる上で
り出している。一般的に難民(広義の難民)とは、条約
有効であると考えられる。
難民に加えて、避難民や国内避難民を含めることが多い。
(イ) 人権の視点からとらえる難民問題
○ 難民問題は、最大の人権問題の一つである。
難民は、生命・自由への脅威から、自分の意志に反し
○ 難民問題の原因・背景には、様々な問題が相互に関
て移動を強いられた人々である。生命・自由への脅威が、
連し、構造化している。
○ 難民問題は、様々な活動主体が関与する国際問題の
人権に対する重大な侵害であることは明白である。人権
侵害を受ける者としての難民を、どう保護・援助してい
代表的な事例である。
くかという視点が、難民学習の指導には重要であり、難
イ 学習指導案
難民問題を主題とする学習指導案(表3)を作成した。
民問題を、人権の普遍性の視点からとらえて、グローバ
−34−
橋本:グローバルな見方・考え方を育てる国際理解教育の在り方
エ 総合的な学習の時間との関連
ルな見方を育てていくことが大切である。
(ウ) 構造化している難民問題
総合的な学習の時間では、「現代社会」の難民学習で
難民問題は、南北問題、食料問題、民族・宗教対立な
の基本的理解を踏まえ、調べ学習等により難民問題の学
ど、世界の抱える問題を映し出す鏡であると言われるこ
習を深化・発展させ、地球市民としての生き方を探るこ
とがある。難民問題の原因・背景には様々な問題が相互
とで、自らの生き方を考えさせていくことができるので
に関連し、構造化している。問題のつながりをホリステ
はないかと考える。調べ学習のテーマとしては、例えば
ィックに見ていくことが必要であり、「現代社会」にお
次のようなものが考えられる。
いて難民問題を指導する上で重要である。
○ 主な難民の発生国・地域の具体的な原因や背景
(エ) 難民問題にかかわる活動主体
○ 難民の子どもや女性、難民キャンプの様子
難民問題は、様々な活動主体が関与する国際問題の代
○ 主な難民の発生国・地域や受け入れ国での UNHCR
やNGOの具体的活動
表的な事例である。その中心となるのが、UNHCR であ
るが、UNHCR の難民保護活動は、各国政府や NGO な
○ 日本における難民の受け入れ状況や課題
どによる協力なしでは成り立たない。特に NGO の活動
そして、これまでの難民学習や調べ学習での発表を踏
は、市民が国際社会の新たな活動主体として登場し、ま
まえて、グループ討論やクラス討論を取り入れて、より
た、強い影響を与えるようになったことを示している。
よい未来を実現するために、地球市民としての生き方、
国家だけでなく、国家以外の様々な活動主体にも目を向
私たちにできることは何かなどを考察させたい。
け、そのつながりを視野に入れていくことが、グローバ
3 まとめと今後の課題
1974 年に出されたユネスコの国際教育勧告では、「国
ルな見方に結び付いてくると考えられる。
(オ) モザンビークの難民問題
際的側面と世界的視点をもたせること」「世界的な相互
指導事例の中では、具体的な難民問題としてモザンビ
依存関係が増大していることの認識」などが国際理解教
ークを取り上げた。モザンビークでの難民の発生につい
育の指導原則として示され、取り扱う人類の主要問題と
て、歴史的背景にも触れながら、難民を生み出す構造を
して、平和・人権・開発・環境などの諸問題が挙げられ
考えさせたい。
た。勧告からすでに 30 年が過ぎたが、この間にグロー
また、内戦終結によるモザンビークにおける難民の帰
バル化は著しく進み、地球的諸問題も深刻の度合いを強
還や再定着は、第二次世界大戦以来、最も大きな成功を
めている。このような中で、従来の異文化理解を中心と
収めた事例と言われている。UNHCR の援助活動などに
した国際理解教育の枠組みだけでは、世界の変化に十分
ついて触れながら、再び難民を発生させないためには何
に対応できなくなった。地球的諸問題にどのように向き
が必要かについて考えさせたい。
合っていくかは、地球の未来を考え、自分たちの生き方
再び難民を発生させないためにも、難民の帰還や再定
を考えることにつながる。これからの国際理解教育には、
着後の平和構築への取組は重要である。モザンビークの
グローバルな見方を育てることが重要であり、「現代社
平和構築にかかわる松山の NGO の活動を取り上げるこ
会」の授業においても取り組んでいかなければならない。
とで、難民問題のような地球的諸問題に、地球市民とし
今後の課題として、一人一人が地球的諸問題を自分の
てどのように取り組むことができるかを考えさせたい。
問題として引き寄せ、公正で持続可能な地球社会をどの
この松山の NGO は、モザンビークの NGO と連携し、松
ように実現していくかを考え、自分にできることから行
山の放置自転車をモザンビークに送る活動をしている。
動していく、すなわち地球市民として生きる力を育てる
モザンビークでは、内戦が終わってからも、人々の手元
ことが求められる。そのために、知識理解だけでなく、
に武器が回収されないままに残された。そこで、平和構
実践的な態度を育成するための具体的な学習方法や学習
築のために現地の NGO が中心となって、武器と生活物
形態について研究を進めていく必要がある。
資の交換による武器回収を開始し、成果を収めている。
主な参考文献
モザンビークに送られた自転車は、武器と交換に人々に
○小関一也ほか 『地球市民への入門講座』
三修社
2001
渡され、交通・搬送手段として役立てられている。
このような学習を通して、地球的諸問題に取り組むた
○開発教育研究会 『新しい開発教育のすすめ方Ⅱ 難
民』
めの、国境を越えた市民のつながりが生まれてきている
ことに気付かせるとともに、私たちにできることは何か
古今書院 2000
○藤原孝章 「難民問題を考える社会科の授業方略」
『富山大学教育学部研究紀要第54号』 2000
について考えさせるきっかけとしたい。
−35 −
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