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本文 - J
薬剤疫学
Jpn J Pharmacoepidemiol, 13113 June 2008:11
〇活動報告
レセプトデータベースの活用による医薬品の安全確保
のための実効性のあるシステム構築に向けて
日本薬剤疫学会からの意見書と要望書
*
レセプトデータベース特別委員会
レセプトをオンライン化し,ナショナルデータ
ベースを構築して有効に活用する計画が進行して
いる.IT 戦略は政府により 2001 年から推進され
4 月 5 日)
,下記に掲載されている.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/
//
/ /
/ /
/
070726honbun.pdf
てきたが,2006 年 1 月に公表された「IT 新改革
2007 年 7 月には厚生労働省保険局に「医療サー
戦略」の中で「レセプトのデータベース化とその
ビスの質的向上等のためのレセプト情報等の活用
疫学的活用」が IT 政策の重点の 1 つとして初め
に関する検討会」
(以下,
「検討会」
)が設置されて,
て掲げられ,2011 年度当初までに完成される計画
データベース化とその疫学的活用を 2011 年度当
である.
初までに実現することを目標とする具体的検討が
欧米先進諸国において医薬品の安全確保への活
始まった.本学会では,2007 年 10 月 20 日に開催
用が当然とされている大規模データベースがわが
された第 11 回評議員会において,行政の進み方
国には欠如しており,実効性のある医薬品の安全
に対してさらに迅速・アクティブに対応するため,
対策の大きな障害となっている.レセプトのデー
「レセプトデータベース特別委員会」の設置を決
タベース化は,こうした現状を打開し,国民が繰
定した.特別委員会は,11 月 15 日に会合を開い
り返し被っている薬害リスク,すなわち被害拡大
て厚生労働大臣に要望書を提出することとし,そ
を未然に予防しうる医薬品リスクを軽減する絶好
の草案を 12 月 7 日の第 46 回理事会に諮った.そ
の機会といえる.レセプトデータベースの具体化
して,
「医薬品等の安全確保のためのレセプト情
の動きが最近加速しており,本学会では 2007 年
報活用に関する要望書」を取りまとめ,12 月 17
度にレセプトデータベースに関する意見書および
日には理事長名の要望書を厚生労働大臣に提出す
要望書を提出した.今回,本学会の活動の一環と
るとともに,行政の主な担当部署・担当者に写し
して,この意見書と要望書の全文を掲載する.
を送付した.今回掲載したこの要望書は本学会の
意見書は,2007 年 5 月 29 日に内閣官房 IT 担
下記のホームページに既に掲載しているものであ
」に対
当室から公示された「重点計画―2007(案)
るが,その関連資料も掲載していることから併せ
するパブリック・コメントとして取りまとめたも
て参照願いたい.
のであり,「レセプトデータベースの薬剤疫学的
http://www.jspe.jp/taskforce[3]080118.html
//
/
活用による医薬品の安全・安心の確保」の推進を
なお,本会誌には,検討会の委員であった岡本
目指して 6 月 24 日に提出したものである.なお,
悦司氏による関連する解説が掲載されているの
案のとれた「重点計画―2007」は,現在(2008 年
「レセプト
で,参照されたい(p. 17〜19).また,
*
レセプトデータベース特別委員会:大橋靖雄,岡本悦司,折井孝男,小出大介,久保田潔,津谷喜一郎,
藤田利治(委員長)
12
活動報告
データ等の第三者(学術研究者等)による活用」
医薬品等の安全・安心の確保という国民の喫緊
について記載された検討会の報告書は,下記に掲
の課題に対して,国民の貴重な情報が国民のため
載されている.
に適切かつ有効に活用されることが,強く望まれ
http:/
//www.mhlw.go.jp/shingi/2008/01/s0130/
/
/
/ /
る.
16.html
「重点計画―2007(案)」に関する意見
レセプトデータベースの疫学的活用による
医薬品の安全・安心の確保に向けて
日本薬剤疫学会理事長
景山
茂
「重点計画―2007(案)
」の中でレセプトの完全オンライン化の実現が掲げられ,非常に
熟考された内容を有しており,全体として高い評価に値するものと考えます.
」に記載されている「レセプトのデータベー
日本薬剤疫学会は,
「重点計画―2007(案)
ス化とその疫学的活用」
(該当分野(22)
:41-42 ページ)に,特に重大な関心を持っていま
す.安全・安心社会確立が喫緊の課題となっていますが,医療は安全・安心社会の重要な
領域のひとつであることは言うまでもありません.質の高い大規模データベースを構築
し,薬剤疫学的活用を図ることにより,医療,特に医薬品の安全・安心の確保が飛躍的に
改善されます.
「Ⅲ1.1」の「③ レセプトの完全オンライン化の実現」
(41 ページ)におい
て,
「レセプトのデータベース化とその疫学的活用により『医療の安全・安心の確保や』予
防医療等を推進し」と「医療の安全・安心の確保」を追加して,医療,特に医薬品の安全
性確保を強力に推進する施策を講じることを要望します.
以下では,上記の要望について,若干の補足説明を行います.
ઃ) 医薬品の安全・安心の確保のためには,質の高い大規模データベースが必須です.
(該当ページ:41-42 ページ)
医薬品は,
厳格な市販前の開発プロセス及び承認プロセスを経て社会に導入されますが,
未知のリスクがないことを完全に保証することはできません.すべての医薬品はリスクを
伴うものであり,リスクの新しい知見はしばしば市販後に明らかになります.市販後にお
いて引き続き医薬品の安全性監視や臨床研究が続けられる必要があり,特に迅速な安全性
にかかわる科学的評価システムの強化が強く求められています.
医薬品に関わる重篤な稀な安全性の懸念に対して迅速に,安価に,そして高い精度で科
学的評価を行い,対策を講じるためには,質の高い大規模データベースの存在は必須です.
副作用の自発報告制度を補完する情報基盤が,欧米諸国を中心に整備されています.
医薬品による未知・重篤な副作用のかかわる仮説を作り出すための最も重要で効率的な
薬剤疫学
Jpn J Pharmacoepidemiol, 13113 June 2008:13
システムは,副作用の自発報告制度です.日本では医薬品等安全性情報報告制度および企
業報告制度といった自発報告制度により副作用情報収集の努力が重ねられています.しか
し,安全性の重大な仮説にかかわる定量的評価を行うことは自発報告制度のみでは困難で
あり,それを補完する情報基盤もまた必要とされています.薬剤疫学が機能している欧米
諸国では大規模なデータベースが構築されて,自発報告などからの安全性仮説の検証など
のための情報基盤として重要な役割を果しています.
国際薬剤疫学会(International Society for Pharmacoepidemiology)のホームページには
60 にのぼるデータベースが公表されています.
http://www.pharmacoepi.org/resources/summary_databases.pdf
//
/
/
そのほとんどは,欧州と北米のものです.保険請求データベースとしては,米国の 5 千
万人を超える Medicaid 受給者についての各州で管理されているデータベース,カナダ
Saskatchewan 州 の 100 万 人 超 の Health Services Database,オ ラ ン ダ の 50 万 人 超 の
PHARMO などがあります.より精度の高い豊富な情報を含む医療記録データベースとし
て,55 万人超の Group Health Cooperative や 7 地域計で 800 万人規模の Kaiser Permanente Medical Care program などの米国の HMO(Health Maintenance Organization)の
データベース,英国の 300 万人超の General Practice Research Database などが紹介され
ています.こうした大規模データベースは,欧米のそれぞれの国での保険医療のシステ
ム・制度の下で構築されたものです.欧米では,こうしたデータベースを用いて医薬品に
かかわる稀な健康事象(副作用など)についての薬剤疫学研究が迅速に,安価に,そして
高い精度で実施され,市販後医薬品の安全性確保のための社会的役割を果しています.
国際薬剤疫学会のホームページにおいて紹介されている欧米以外の地域のデータベース
としては,韓国の健康保険データベースが唯一のものです.レセプトオンライン化の先進
国である韓国の健康保険データベースについては,日本医療情報ネットワーク協会による
「医療分野における情報化促進のための国内外の実態調査」報告書―レセプトオンライン
(全体総括:岡本悦司氏)において,詳細な報告がなされていま
化に関する韓国実態調査―
す.
一方,日本には医薬品の安全性確保のための大規模データベースは存在しません.自発
報告制度から医薬品の安全性にかかわる懸念が提起されたとしても,ほとんどの場合,懸
念を迅速に科学的に確かめる情報基盤がないのが実情です.こうした中で,今回の IT 戦
略本部から公表されている「重点計画―2007(案)」での「レセプトのデータベース化とそ
の疫学的活用」は極めて重要な意味を持っています.
レセプトのデータベース化とその薬剤疫学による適切な利活用によって,医薬品の安
全・安心の確保が飛躍的に改善されます.このレセプトによるデータベースは国際的にも
最大規模のデータベースとなり,世界における医薬品の安全・安心の確保に対しても日本
が大きな貢献を果すことができます.
઄) データベース化には,データの標準化が必要です.
(該当ページ:38-40 ページ)
医療情報やレセプト情報のデータベース化において,その有効活用を推進するために
データの標準化が重要であることは既に記載されています.この点について,国際的な動
向を十分に把握しておく必要があると考えます.
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活動報告
データ標準とは,データの収集,交換(転送)
,申請,保存を共通の形式で行うための仕
様等の取り決めのことです.国際的なデータの標準化については,CDISC(Clinical Data
Interchange Standards Consortium)等の取組みに注目する必要があります.CDISC の
データ標準化は,医薬品の承認申請前(開発段階)のデータ標準として活動を開始されま
した.FDA では CDISC の STDM(Study Data Tabulation Model)による申請を奨励して
おり,治験データのデータ標準として国際的に確立されつつあります.さらに,CDISC は
すべての医療情報の標準化を目指しており,FDA,NCI,HL-7,NIH などとの共同プロジェ
クトとして BRIDG Model(Biomedical Research Integrated Domain Group Model)を立ち
上げ,2010 年完成を目途としています.また,その ISO(国際標準化機構)化を目指し,
ISO Technical Committee 215 で検討がなされている現状です.
こうした国際的動向の中で,日本におけるレセプト完全オンライン化の際にはレセプト
データを国際的なデータ標準に準拠させ,データの交換規約等を世界に先駆けて実施し,
大規模なデータベースの構築・利活用を推進すべきであると考えます.
(平成 19 年 6 月 24 日)
平成 19 年 12 月 17 日
厚生労働大臣
舛添 要一 殿
日本薬剤疫学会
理事長
景山
茂
医薬品等の安全確保のためのレセプト情報活用に関する要望書
私たち日本薬剤疫学会は,人の集団における薬物使用による効果と安全性を疫学的手法
を用いて研究することを目的とした学術団体です.近年,薬効の明らかな医薬品が開発さ
れて人類の健康福祉に役立っていますが,医薬品はその効果と安全性の両者を正しく把握
して初めて適切な評価が可能になります.薬剤疫学は医薬品の安全性研究により大きな力
点を置いています.
さて,政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が平成 18 年 1 月 19 日に公表
いたしました「IT 新改革戦略」に基づき,貴省が 2011 年度までにレセプト完全オンライ
ン化ならびに電子化されたレセプト情報の有効活用を目指すナショナルデータベース構築
を現在進めていると伺っております.
その有効活用の一環として,適正な薬物療法の確保,未知で重篤な副作用の早期発見,
副作用への迅速かつ的確な対応など医薬品の安全確保の飛躍的改善があると,私ども日本
薬剤疫学
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薬剤疫学会は考えております.例えば,現在,フィブリノゲン投与による C 型肝炎ウイル
ス感染が問題になっておりますが,レセプト情報が適切にデータベース化されていたなら
ば当該患者を迅速に特定でき,必要な対応が取りえたと考えております.実際,韓国では
データベース化されたレセプト情報から不適正な血液製剤が投与された患者が特定されて
必要な対応が取られたと報告されています.また,レセプト情報を死亡情報やがん登録情
報と連結すれば,死亡やがんと医薬品との関係について迅速かつ効率的に調査することが
可能になります.
いずれにせよ医薬品に関わる重大な安全性の懸念には迅速に対応することが肝要です.
その際,高い精度での迅速な科学的評価が求められますが,それには質の高い大規模デー
タベースが必須です.国際的には,国際薬剤疫学会(ISPE)のホームページに 60 を超え
るデータベースが収載されています.これらのデータベースは各国の固有の医療システム
下で構築されたものですが,これらを用いて医薬品副作用に関する薬剤疫学研究が高い精
度で迅速に実施され,市販後医薬品の安全確保が推進されています.しかし,我国にはか
かる大規模データベースが存在しておりませんので,世界から遅れを取っています.
現在貴省保険局では「医療サービスの質向上等のためのレセプト情報等の活用に関する
検討会」を設け,レセプト情報等の活用のあり方についての検討が行なわれています.し
かしながら,医薬品の安全・安心の確保を含めたレセプトデータベースの有機的な包括的
活用を推進するためには,全省的な取り組みが必須と考えられます.
日本薬剤疫学会は医薬品の安全確保を目指す学術団体として,国際シンポジウムを開催
して海外における情報を収集し,
また内部にレセプトデータベース特別委員会を設置して,
同データベースの望ましいあり方を検討しております.貴省において急速にレセプトデー
タベース構築に向けて動かれていることをお聞きし,日本薬剤疫学会は以下の点を要望い
たします.国民の医薬品等に関わる安全・安心の確保という喫緊の課題についてのこれら
の要望が実現されますようお願い申し上げます.
記
ઃ.医薬品等の安全確保を含むレセプト情報の包括的活用を図るために,全省的体制の下
でレセプトデータベース構築を推進すること.
઄.重大な副作用への緊急対応時のため,レセプトデータベースに基づく当該患者の特定
が図れる要件を盛り込むこと.
અ.医薬品の安全確保に関する公益性の高い疫学研究のために,構築されたレセプトデー
タベースを第三者が利用できるようにすること.
以上
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