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資料1−1 大日向委員提出資料 少子化社会対策大綱検討会 討議資料 恵泉女学園大学教授 大日向雅美 はじめに 少子化の背景に所在する諸要因についての分析、及びそれに基づく対策に関する議論は 既に出尽くされた感がある。今後は列挙された諸要因の中から重点課題を見極め、いかに実 行に移すかが重要。すなわち、今後の社会的経済的動向を踏まえて、どのようなライフスタイ ルを重点的に支援すべきなのか、子育て支援の対象を明確にした政策論議が必要である。 重点課題 1:女性の就労継続支援に政策をシフトすべき 子育て支援のあり方に関する最近の議論の特徴として、これまでの子育て支援が仕事と家 庭の両立支援に偏ってきたことが反省され、すべての子育て家庭への支援の重要性が強 調されている。子育て支援はすべての子育て家庭に行われるべきではあるが、一方で就 労家庭への支援は未だ不十分である。少子化による将来の労働力不足、女性の高学歴 化による社会参画への意欲等から判断して、女性が働くことは今後の社会に必至の傾向 となる。就労継続のための支援は最優先課題として取り組むべきである。 1少子高齢社会に突入した今日は従来と同様な経済成長や終身雇用、年金制度を 維持していくことは期待できない。高度経済成長期に中心を占めた専業主婦と いう女性のライフスタイルは今日の時代にあっては必ずしも適切とはいえな くなっている。 2高学歴化に伴い、就労継続や社会参画を求める女性が主流となっている。 3妻の就労の有無、および就労形態による家計収入の格差は、安心して子どもを 産み育てることが出来るか否かを左右する大きな要因となっている。 専業主婦家庭と共働き家庭を比べてみると、子どもの数には大差なく、むしろ共働 き家庭の方が子どもの数が多い傾向が認められる。 重点課題 2:専業主婦支援は社会参画支援の充実を 専業主婦による在宅育児への支援がさまざまに実施され始めている。しかし、支援の大 半は気軽に子連れで出かけられ、同世代の母親たちと談笑しながら子どもと遊べる 場の提供。そうした支援も重要であるが、専業主婦の苦悩は単に談笑できる仲間を もつことで解決されるものではない。切実に求めているものは、母親であると同時 に社会人として認められることであり、地域活動や再就職を通して社会的、経済的 自立の道を助ける支援である。専業主婦が訴える社会的活動からの疎外感に正面か ら応えてくれる支援は現状、極めて少ない。 1 1育児不安・育児ストレスは専業主婦として育児に専念している女性に顕著 2専業主婦の育児不安や育児ストレスは社会的活動からの疎外感が中心 専業主婦の母親が陥っている育児困難現象の実態について調査を行ってみる と社会との接点を奪われた生活に問題の所在があることが顕著に認められる。 しかしながら、現状の専業主婦への育児支援は育児に専念させる方向のもの が大半であり、専業主婦が直面している問題の真の解決に至っていない。 重点課題3:仕事と家庭の両立支援は、これまで支援が手薄な男性に対し重点的に 子育て支援や仕事と家庭の両立支援の対象が女性に偏っている限り、女性の育児 負担は軽減されない。男性の育児参加が進むことによってはじめて女性の就労継 続が可能となり、育児負担の軽減ももたらされる。家庭生活や育児参加を可能と する働き方は男性のライフスタイルにとっても益するところは大きい。 1男性は経済の主柱を担う働き手として仕事に専心せざるを得ず、子育てや家庭生 活を充分担っているとはいえない。育児や家庭生活を楽しむ権利は男性にももっ と保障されるべきである。 2「男は仕事、女は家庭(家庭も仕事も)」という性別役割分業にもとづくライフ スタイルは、男女の生活のずれを大きくし、女性の育児負担を増している。女性 の自己実現の障害となって結婚や子育てへの夢を奪っている大きな原因。 3育児支援が専ら女性を対象として実施されている現状では、かえって男性を育児 から疎外するおそれがある。 ☆重点課題1∼3を実施するための具体的対策 男女ともに仕事と家庭生活の両立を無理なくできる職場環境の整備 ・育児休業を取りやすく、職場に復帰しやすい環境整備 ・子育てしながら働き続けられる環境整備(労働時間の短縮・看護 休暇の充実等) ・専業主婦の再就職支援 ・多様な就労形態の促進(ワークシェアリング) ・子育て期の親の職住近接に配慮(単身赴任問題の改善) ・保育所機能の整備充実 ・学童期の放課後対策の充実 家庭や職場などにおける固定的な性別役割分業観の是正 2 重点課題4:親の“育児力”養成と地域の“共育力”回復を 子どもの成長発達にとって親は最も身近で大切な他者である。近年、親に育児困現 現象が顕著となっている。初めから立派な親はいない。親が子育てに必要な知識や 態度を身につけて、親として育っていくことへの支援、すなわち、親も学習して親 となることを子育て支援の基本とする視点が重要。同時に親と子を温かく見守る地 域の支援者の支援力養成も重要課題である。 1親の育児不安や育児ストレス、さらには虐待が急増。 親の育児力養成のために、社会全体で親と子を温かく見守り、適切な支援の手 を差し伸べる必要がある。 2支援者側にも若い親への対応に苦慮し、戸惑う傾向がみられる。 「子育て支援はかえって親をだめにするのではないか?」等、子育て支援の真 意を理解しない意識の所持者もいて、子育て支援が充分に機能しない懸念もあ る。 ☆重点課題4を実施するための具体的な対策 地域の子育て支援機能の充実 ・地域で親と子が気軽に集い、ふれ合いながら、相互に育ちあえる場の提供 ・女性と子どもだけでなく、男性も参加できる場とプログラムの充実 ・異世代交流 思春期から乳幼児とふれ合う体験の場の増大 中高年世代と若い親世代の交流など異世代交流機会の増大 ・企業の社員研修、ボランティア活動に子育て支援を導入 ・子育て経験や職業経験を地域の育児支援に活用する体制づくり 定年後や子育てが一段落した男女の活力を育児支援に活用 支援者の専門性の育成とそのための体制整備 ・社会全体で親と子を見守る時代に必要な地域の支援者に求められる広義の 専門性の養成 ・ 乳幼児教育・保育の知識 ・ 親のニーズの背後にある個別の生活実態を把握する力 ・ 親としてのあり方を助言する見識 ・ 助言が伝わるためのカウンセリング・マインド ・ 出来る支援、出来ない支援を見極め、他の託す識別力 ・ 地域の支援者間のネットワークに参加し、連携を保つ力 3 重点課題5:子育て支援は地域の多様性・独自性を活かしたプランの策定を 育児にあたる親の困難度が高まっているが、調査を実施してみると、背景要因は どこでも共通する原因が認められる一方で、地域に特有な原因があることも少な くない。苦労している子育て中の親に対して、各地で子育て支援に立ち上がろう とする動きも出始めている。地域の特性をいかに活かすかという視点は今後の子 育て支援に不可欠である。 1子育て困難の状況やその背景要因は、家族構成、住宅事情、地域の産業形態等に よって多様である。それぞれの地域性に十分に配慮せず、一律的網羅的な支援策 を展開することは実効性が薄いばかりか、かえって地域に根ざして機能している リソースを枯渇させる危険性も高い。 ☆重点課題5を実施するための具体的な対策 各地域ごとに主体的な調査を行い、必要な支援を取捨選択することが重要 地域の特性を勘案し、かつ住民のニーズを適切に反映させるためには、地域の人材の発掘と 活用を。ニーズ調査からプランの策定・実行に至るまで、地域の老若男女が共同参画した体 制で実施することが必要。 地域の特性に配慮した施策 都市部特有の子育て困難について(住宅事情の改善、安心して子どもが遊べる場の確保、 地域の絆の再生、待機児童の解消等) 地方の子育て環境について(三世代世帯のメリットの活用・デメリットの改善、子どもの絶対数 が少ないため、子どもどうしの交流機会の意図的設定、地場産 業の活性化等による若年世帯の導入等) 結論 1 今日の少子化をもたらしている子育て困難現象の主たる要因は「性別役割分業体制」の 歪みに起因している。子育ては女性の仕事とする戦後半世紀余りの体制から脱却し、 男性も地域の人々も、企業も参画して、皆で育児を分担する男女共同参画社会体 制づくりが急務である。 2 育児への忌避や虐待等を防ぐためには、親が親として育つことへの支援が不可欠。 「子育て支援=親育て・親育ち支援」を地域の共育力の回復につなげる努力も同 時に注力されなければならない。 <上記の重点課題遂行にあたって、貫かれるべき大切な視点> 1 少子化対策は産めよ増やせよのイメージ強調になってはならない。むしろ、個人の主体 的な選択を真に尊重する社会の実現に注力すべきである。 4 家庭や子育てに夢を持ち、子どもを安心して育てることができる環境を整備することが 重要。しかし、家庭を持つことや子育てのすばらしさを一方的かつ過剰に喧伝するこ とは、現代においては、実効性が期待しにくいのみならず、反発を招く恐れも小さくな い。むしろ、シングル、離婚、シングル・ペアレントの増加等、“家族の多様化”が進ん でいる事情を把握し、必要な支援を惜しまない配慮が必要。 2 子育て支援は社会の構造改革であるという視点なくして、真の実効性は期待できない 出生力に影響を及ぼす属性を求めて重回帰分析した結果(「出生動向基本調査」 (国立社会保障・人口問題研究所)をみると、出生数に最も影響力をもつ要因は、第 1位:妻の結婚年齢、第2位:夫の職業、第3位:居住地の人口規模、第4位:結婚形 態、第5位:妻の学歴となっている。 これまで少子化は、結婚や出産・育児を躊躇する女性側に要因があるという指摘が 一般的であった。この重回帰分析の結果においても、妻の結婚年齢の上昇と、その 背景要因の一つをなしていると推測される女性の高学歴化(それに伴う職場進出)と いう女性側の要因が大きな影響力をもっていることが示されている。しかし、同時に 夫の職業と人口規模が上位を占めており、少子化は単に女性側の要因だけに起因 しているとは限らないことにも留意する必要がある。夫の職業が農業・漁業よりもホワ イトカラーの方が、また人口集中地区の方が非人口集中地区よりも、出生数が少な い結果となっていて、少子化は産業構造と都市化現象にも原因が求められることが 示されている。 女性の高学歴化や結婚年齢の上昇も、あるいは都市化や産業構造の変化という今 日の社会的経済的要因も、ともに先進国の特性といえるものであり、少子化は先進 国にとってある意味で不可避の現象といえよう。従って、日本の出生力についても 近い将来、急激に回復させることは困難が多い。 女性側に所在する問題と今日の社会的経済的問題という2つの要因を視野に入れ た、社会の構造変化に対応した思い切った施策をいかに推進していくかにかかって いる。 3 こうした施策によって、おのずと産みたい人が安心して生める社会、自分の子どもの有 無にかかわらず子どもの成長に暖かなまなざしを注ぐ人が増えていくような社会が必要 である。目先の出生率向上を急ぐあまりに、個人の生き方と社会とのバランスのあり方を 見誤ってはならない。 ☆参考資料 新たな子育て支援活動として、03年9月から実施している“みなと子育てサポートハウス「あ い・ぽーと」”(東京都港区と日本子ども NPO センターの協働)に関する資料 ・「女性視点の子育て広場」福祉新聞03年10月13日付け ・大日向雅美 NHK視点論点 「親の“育児力”を育てる」 ・ホームページ 「あい・ポート」 http://www.kodomo-center.jp/ 大日向雅美 http://www5a.biglobe.ne.jp/~mohinata/ 5