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正常構造と機能
第 1章 正常構造と機能 第 1 章 normal structure and function of bone シウムといった石灰質が沈着しているからです。 A 骨 ちなみに,石灰質が沈着していないものが類骨で bone す。この硬さ(剛性)により骨は形を保つことが できるのです。 したがって,副甲状腺機能亢進症やビタミン D 骨は,細胞成分と細胞外基質からなります。こ の骨の役割には,造血のほか,体形の保持(体が 欠乏症などでは,骨に蓄えられていたカルシウム が欠乏し,骨の状態も変化します。 クラゲのようにグニャグニャにならないように) , 生体が必要とするカルシウムとリンの貯蔵,そし て臓器(心,肺,脳など)の保護があります(図 1 骨の分類と構造 1-1) 。 骨は多量の膠原線維からなる一種の結合組織に すぎません(ちなみに,真皮も 90 %は膠原線維) 。 a 骨の組織的分類 細胞外の基質の密度から,皮質骨と海綿骨に分 それにもかかわらず,骨が非常に硬い組織となっ ているのは,基質にリン酸カルシウムや炭酸カル 類されます。 臓器の保護 体形の保持 造血機能 カルシウム貯蔵 図1-1 骨の役割 第1章 正常構造と機能 3 線維を通すハバース管 haversian canals があり,そ 骨芽細胞 プロコラーゲン プロコラーゲンペプチダーゼ N末端テロペプチド C末端テロペプチド C末端プロペプチド 末端が切断 N末端プロペプチド トロポコラーゲン ピリジノリン( )やデオキシピ リジノリン( )によって複数の トロポコラーゲンが架橋され の骨などでみられます。 の周りには木の年輪のように規則正しく配列する 骨端では,二次骨化中心(次項参照)が形成さ 骨細胞が認められます。ハバース管は,骨化の進 れ,成長に伴って,軟骨内骨化で海綿骨(二次海 行過程で,骨芽細胞と破骨細胞の共同作業によっ 綿骨;いわゆる通常の海綿骨)が作り出され,骨 て形成されます。最外周はヘマトキシリンで青染 端が大きくなっていきます。 するセメント線で区切られており,これらを緻密 二次海綿骨の骨梁を切片にして観察すると,三 骨構造の 1 つの単位(骨単位)としてオステオン 日月型の小さな区域が重なり合っているのがわか osteon(ハバース系 haversian system)と呼んで ります。皮質骨におけるオステオンに相当するも います。さらに,この層板を横切る形でハバース ので,パケット packet と呼ばれます。オステオン 管同士をつないでいるのがフォルクマン管 と同様,このパケットでも骨芽細胞と破骨細胞に Volkmann’s canals です。 より,常に吸収と形成が繰り返されています。 第 1 章 バウムクーヘンのようなオステオン同士の間に より破壊された,オステオンの残骸である古い介 コラーゲンは分解され, は血液中や尿中に排出される 図1-7 コラーゲンの生成と骨吸収 オステオン セメント線 骨膜 新生した層板骨 断面 介在層板 皮質骨の構造 在層板 interstitial lamella が埋まっています。1 つの オステオンは 1 歳以後に見られる オステオンが骨芽細胞によって作られ,破骨細胞 骨膜動脈が,ハバース管やフォルクマ によって吸収破壊されるまでのサイクルは,100 ∼ ン管として通っている 300 日といわれています。このように,皮質骨は ※覚え方 生きているオステオンと死に至りつつある壊死骨 水平(H・orizontal)なのに V・olkmann (介在層板)が混ざり合った状態といえます。 骨小腔 (中に骨細胞が存在する) 長管骨 STEP 6 は,リモデリング remodeling の過程で破骨細胞に コラーゲン線維 b オステオンの形成 オステオンは,起立歩行を開始する 1 歳以降に 垂直(V ・ ertical)なのに H ・ aversian 二次海綿骨の構造 パケットからなり,オステオンは見ら れない なって初めて明らかになります。1 歳までは前述 した骨の外側と内側に存在する層板骨が骨組織の 中心的役割を担っています。そして,1 歳を過ぎ 動脈 るころになって,破骨細胞によって誘導された血 静脈 海綿骨小柱 および内骨膜 管内皮細胞と骨芽細胞が層板骨同士の間に進入し てきて,徐々にオステオンが形成され始めます。 これは,一次骨単位と呼ばれます。完成されたオ シャーピー線維 破骨細胞 外基礎層板 骨芽細胞 ハバース管 フォルクマン管 a 骨形成 ここでは,起立歩行を始めた 1 歳以降から,成 長軟骨板が閉鎖する前(14 ∼ 15 歳くらいまで) 4 海綿骨 について記載します。 長管骨の骨形成には,膜性骨化 membranous います(p.11)。骨膜とその直下にある皮質骨は circumferential lamellae と呼ばれる 2 ∼ 3 層の層板 シャーピー線維 Sharpey’s fibers(貫通線維 perfo- 骨が見られ,この間を骨の長軸方向に並行して,何 海綿骨はスポンジ状とも蜂の巣状とも表現され rating fibers)によって硬く結びついています。骨 層もの円筒状を示すハバース層板 haversian lamel- る構造で,これを骨梁 bone trabeculae と呼びます。 膜のすぐ内側と骨髄腔側には,外基礎層板 outer lae が走行しています。 軟骨内骨化によって形成されています。長管骨の 進行し,皮質骨を作ります。未分化間葉系細胞が 骨端と骨幹端,腸骨稜,椎体,胸骨,踵骨,小児 骨芽細胞に分化して骨基質を産生し,骨化が起こ circumferential lamellae お よ び 内 基 礎 層 板 inner 8 ステオンは二次骨単位と呼ばれます。 内基礎層板 図1-8 成長完了後のオステオンの構造と,そこで行われているリモデリングの様子 5 長管骨の成長 総 論 ハバース層板の中心には血管,リンパ管,神経 ossification と軟骨内骨化 enchondral ossification が あり,この 2 つが同時に進行しています。 膜性骨化は,横径の成長に働く機能で,骨膜で 第1章 正常構造と機能 9 単純 X 線写真による小児(左)と成人(右)の正常像の比較 単純 X 線写真による小児(左)と成人(右)の正常像の比較 ●写真中の矢印は成長軟骨に相当する部位 肩関節 脊 椎 第 4 章 肘関節 股関節 膝関節 手関節 32 総 論 第4章 検 査 33 骨棘形成などを来したのが後方型です。 E 野球肘 以下の,症状,検査,治療は,代表的な外側型 baseball elbow (肘関節離断性骨軟骨炎)の解説です。 骨片を骨釘として打ち込むものです。 られることが多いため,このように呼ばれます。 関節内遊離体の外科的除去は,変形性肘関節症 への移行を助長するので行いません。 常生活動作から発症することもあります。これは ●症 状 STEP 22 運動時の上腕骨小骨頭部に疼痛を認めますが, ●概 念 休憩すると治まります。関節内遊離体は嵌頓して 繰り返しの投球動作は,離断性骨軟骨炎 野球の投球動作の際にみられる,急性あるいは loking を起こすこともあります。さらに放置され を起こすことがある 慢性の肘関節痛の総称が野球肘です。10 歳代前半 ると,関節軟骨を損傷して変形性肘関節症を来す に多くみられます。 こともあります。 ●分 類 ●検査所見 外側型,内側型,後方型の 3 つに分類されます。 初期には餝離した骨折片は遊離していないため, 野球の投球動作の際に,肘は外反を強制され, 単純X線写真では診断できないことがあります。 40 ∼ 50 歳の女性に多くみられます。 ●症 状 上腕骨外側上顆の疼痛および圧痛,手関節背屈 時の抵抗痛,握力低下がみられます。外側上顆炎 は離断性骨軟骨炎よりも上方に症状を認めます (離断性骨軟骨炎は関節に面する) 。 ●検 査 参考 関節内遊離体 free bodies of joint 第 トムセン 骨や軟骨などの関節構成成分の一部が,関節内に 遊離したものです。この遊離体が関節内を移動する 4 疼痛誘発テストとして,Thomsen テスト(被検 章 者の手関節を背屈した状態にし,これを検者が掌 橈骨頭と上腕小骨頭が衝突します。この繰り返し しかし,進行して骨片周囲に壊死が形成されるの と,関節痛,運動制限,locking などを来すことがあ 屈させると,上腕骨外側上顆部に疼痛が生じる) , によって,軟骨とその下の骨(軟骨下骨)に餝離 に伴って,関節内遊離体周辺の透亮像や上腕骨小 ります。 中指伸展テスト(被検者の肘と中指を伸展させて, 骨折が生じ,関節内遊離体となります。これが外 頭の関節面の不規則陰影が明らかになります(写 検者が中指を掌屈させると,上腕骨外側上顆部に 側型で,肘関節離断性骨軟骨炎 osteochondritis 真 4-6)。さらに進行すると,透亮像周囲に反応性 疼痛が生じる),chair テスト(被検者に,前腕回 dissecans of elbow とも呼ばれます。外側型の関節 の骨硬化像が見られるようになります。 内遊離体は通常 1 つです。 ●治 療 投球動作の加速期に起こる外反強制(図 4-10 左) F 上腕骨外側上顆炎(テニス 肘)lateral epicondylitis of humerus 内位で肘を伸展させたままで椅子を持ち上げさせ ると,上腕骨外側上顆部に疼痛が生じる)があり ます(図 4-11)。これらは,いずれも手根伸筋や 病初期であれば,スポーツを禁止したうえで, 総指伸筋に負荷をかけて疼痛が誘発されることを に際して,内側に繰り返し牽引力が加わることで 関節内遊離体の有無を観察します。これは,関節 みられる上腕骨内側上顆炎や内側側副靱帯損傷が 内遊離体を形成することなく修復に向かうことが ●概 念 内側型です。 あるからです。 上腕骨外側上顆と外側顆上稜には,前腕の橈側 調べるものです。 炎症なので,特に X 線写真では所見が認められ ません。 最大伸展の後に一転して収縮が加わる運動(図 関節内遊離体が明らかになった場合は,骨移植 筋として長・短橈側手根伸筋と腕橈骨筋,背側筋 4-10 右)が繰り返されることで,肘後部に位置す 術を行います。この移植術はドリルで病巣部に として総指伸筋,回外に作用する回外筋が付着し ●治 療 る筋や腱に肘頭骨端線閉鎖遅延,肘頭疲労骨折, 2.5mm 程度の孔を開け,そこへ尺骨から採取した ています(回外時に機能するのは腕橈骨筋,長橈 手関節の背屈と前腕の回旋動作が負担となるの 側手根伸筋,回外筋,長母指伸筋,長母指外転筋 で,手関節および手指の運動を控えさせ(肘では など)。上腕骨外側上顆炎は,これらに負担がか ない),外側上顆の安静を図ります。前腕の筋腹 かって骨膜や腱に炎症を起こした状態です。テニ 部を締めるテニスエルボーバンドは,運動の抑制 スでバックハンドストロークを繰り返すことでみ に有効です。 加速期 フォロースルー期 図4-10 野球肘 88 短橈側手根伸筋付着部の変性を基盤として,日 外傷,スポーツによる外傷 遊離体が認められる(矢印)。 写真 4-6 肘関節離断性骨軟骨炎の単純 X 線所見(99-A-46) Thomsenテスト 中指伸展テスト chairテスト 図4-11 疼痛誘発テスト 第4章 肘関節部の外傷 89 DIP DIP 手固有筋 側索 中央索 深指屈筋 浅指屈筋 斜支靱帯 MP 手固有筋 総指伸筋 PIP 深指屈筋 横支靱帯 PIP MP 総指伸筋 固有伸筋 槌指変形の治療は,腱性の場合は保存的に槌指 ●概 念 用副子を用い,DIP 関節過伸展位,PIP 関節屈曲位 代表的な疾患が槌指 mallet finger で,腱性と骨 の整復位(指背腱膜を弛緩させた肢位)で固定し 性があります。腱性は DIP 関節の伸筋腱が損傷(腱 ます(図 6-17) 。骨性では,観血的に Kirschner 鋼 断裂)したもので,骨性は腱断裂に末節骨背側骨 線で固定することもあります。 折や末節骨掌側亜脱臼を伴うものです(図 6-16, 背側骨間筋 掌側骨間筋 虫様筋 骨間筋 虫様筋 ●治 療 b DIP 関節部損傷 伸筋腱損傷の治療 ●症 状 図6-13 伸筋腱および指関節運動の主作用筋 DIP 関節の伸展不能です。側索は中枢側へ退縮 してしまうので,強い伸展力は PIP 関節へ向かう 骨間筋 過屈曲 伸筋腱 過伸展 中央索 STEP 26 写真 6-1) 。 中央索にのみ伝達されることになります。した 側索 受傷直後 虫様筋 数日経過 すると PIP 関節部の損傷時 新鮮例の皮下断裂では副子固定 DIP 関節部の損傷時 がって,適切な治療がなされない場合は,徐々に 腱性のときは槌指用副子で固定 PIP 関節は過伸展を来し,関節リウマチ(p.294) 骨性のときは Kirschner 鋼線で固定 でよくみられるスワンネック変形と同じ変形を呈 第 します。 章 6 図6-14 ボタン穴変形 関節の伸展は不能となります。しかし,実際には 一部のみが損傷されていることが多く,受傷時に 伸筋腱断裂(スワンネック変形+) 過伸展 も伸展はある程度可能です。 腱断裂 ●症 状 切創を含む外傷の際に損傷頻度が最も高いのは, 外から触れやすい位置に存在する背側中央部にあ 図6-15 ボタン穴変形に対する副子固定 る指伸筋腱の中央索です。この指背腱膜の中央索 末節骨骨折 と掌側亜脱臼 の断裂は,関節リウマチの滑膜炎でも起こります。 上述のとおり骨間筋と虫様筋に由来する 2 本の 関節の中枢側から MP 関節まで伸展位となるよう 中央索の作用があるため,受傷直後は PIP 関節伸 に固定を行います(図 6-15)。しっかりとした固 展が可能です。しかし,数日を経過すると,中央 定が得られるように,同時に Kirschner 鋼線によ 索と,さらには側索が指の掌側に滑り落ちてしま る固定を経皮的に行うこともあります。約 4 週間 います。この結果,徐々に PIP 関節の屈曲拘縮が ののち,自動運動による理学療法を開始します。 発生し,DIP 関節は側索の拘縮による過伸展を来 陳旧化例では,癒着などを合併しているので腱形 し,ボタン穴変形 buttonhole deformity を示すよう 成術などが必要となります。 になります(図 6-14) 。 100 写真 6-1 槌指(上:腱性,下:骨性)の単純 X 線所見 ボタン穴変形に陥ったものでは,横・斜支靱帯 ●治 療 にも拘縮が出現しているので,その治療は困難で 新鮮例の皮下断裂の場合は,副子を当てて,DIP す。 外傷,スポーツによる外傷 末節骨餝離骨折 図6-16 槌指変形 図6-17 槌指変形に対するアルフェンス副子(右写真)による固定 第6章 手の外傷 101 離床を目指した治療法を検討することになります。 Kirschner 鋼線様 のガイドに中空の スクリューを通し て刺入する。 図7-6 CCHS固定 ①保存的治療 7-8,写真 7-5)。三次元の安定性を確保するため, 転位が少なく,痛みも軽度で起坐が可能な若年 通常は 3 本用います。 者の場合は,ベッド上安静だけの保存的治療が行 衫)CHS(compression hip screw)固定 われます。ギプスや牽引が不要であることもしば 大きなねじがついた固定材料です。大転子の外 しばですが,骨折線の位置と程度によっては,安 側から入れます(図 7-9,写真 7-6)。ねじは,確 静時における安定性を確保するため,そして内反・ 実な固定を得るために併用されます。 後捻変形予防のために,大腿骨顆上部に鋼線を刺 入し,直達牽引を合わせて行うこともあります。 転位がある場合は,早期離床を目的に骨接合術 X 線透視下で整復位を確認しながら,強いしな ることになります。 Gamma nail type) screw で骨折部を固定します(写真 7-7) 。 ●合併症 を行います。 衢)Ender 釘(Ender nail,Ender pin)固定 骨頭に壊死を生じて つぶれてくる 袁)髄内釘固定法(ガンマネイルタイプ 最もポピュラーな方法で,ラグスクリュー lag ②観血的治療 写真 7-3 大腿骨頸部骨折(左)とハンソンピン固定術(右) の単純 X 線所見 し,金属の弾力で骨折部を固定するものです(図 りを有する金属線(Ender 釘)を骨髄腔内に刺入 骨融合する過程で内反や後捻変形を起こすこと があります。なお,頸部骨折にみられる骨頭壊死 は事実上ありません。 STEP 29 骨折部は癒合している STEP 30 大腿骨頸部骨折 高齢女性に多い 図7-7 骨頭壊死 ソンピン(写真 7-3),Kirschner 鋼線による多鋼 線固定(multiple pinning)などの骨接合術を行い ます。 ●合併症 第 7 大腿骨転子部骨折 章 血管分布の特殊性と関節包内の骨折で 関節包外の骨折で,骨癒合は良好 あることから難治 治療は Ender 釘,CHS,髄内釘による 観血的治療法:人工骨頭置換術,若年 観血的整復固定が中心 者には骨接合術 若年者で転位がない場合は保存的治療 合併症:偽関節,遷延癒合,骨頭壊死, 褥瘡,認知症 骨折線の角度が大きいとき(Pauwels 分類の 写真 7-4 type Ⅲ)に,しばしば偽関節 nonunion や遷延癒 合 delayed union が起こります。 また,骨接合術で骨頭の整復固定が奏効した場 合,骨折部には骨癒合が始まり,そのまま治癒に trochanteric fractures ●概念・症状 2 年後に骨頭壊死を来すことがあります(症候性 頸部骨折と同様,高齢者が転倒した際にみられ 大腿骨頭壊死の 1 つ) 。これは,骨折部への血流が ることの多い骨折です。症状も基本的には頸部骨 残存していたために,同部の骨癒合は進行したに 折と同様です。 もかかわらず,骨頭への血管が損傷したために血 転子部骨折では,骨折部は関節包の外に存在し 流が途絶し,骨頭のみが壊死したものです(図 7- ます(写真 7-4)。関節包外は血流の豊富な海綿骨 7)。骨頭壊死は,単純 X 線写真上で凹凸像として 組織であるため,良好な骨癒合が期待できる点が 確認できます(late segmental collapse) 。 頸部骨折とは異なります。 した場合は,最終的には人工関節置換術を施行す 110 2 大腿骨転子部骨折 向かうようにみえます。しかし,ときに数か月∼ この骨頭壊死が変形性股関節症(p.193)に進行 外傷,スポーツによる外傷 大腿骨転子部骨折の単純 X 線所見(正面像) ●治 療 高齢者の場合は,頸部骨折のときと同様に早期 骨折部位 骨に開窓し, ここから打ち 込むように入 れる 図7-8 Ender 釘固定 写真 7-5 Ender 釘が刺入されている。 大腿骨転子部骨折の単純 X 線所見(正面像) 第7章 股関節部の外傷 111 C 上肢の神経損傷 指神経となります。第 1 総掌側指神経は母指への 前骨間神経症候群,回内筋症候群があります(p. 知覚枝,母指球筋(短母指外転筋,母指対立筋, 180 表 16-4 参照) 。 短母指屈筋浅頭)へ運動枝を出します。第 1,2 総 ●症 状 掌側指神経は示指と中指の虫様筋に筋枝を出し, ①低位正中神経麻痺 さらには知覚枝として固有掌側指神経となります (図 16-6,16-7) 。 1 正中神経の走行 参考 母指の外転 母指の外転には橈側外転と掌側外転があります (図 16-9) 。 橈側外転は,長・短母指伸筋(橈骨神経) ,長母 指外転筋(橈骨神経),短母指外転筋(正中神経) 上述のように,手関節付近の正中神経障害でみ で行われます。したがって,橈骨神経麻痺で不能 られる麻痺です。母指球筋が萎縮し,母指対立運 となります。 動や掌側外転が不能となります(図 16-8A) 。 正中神経は,肘の前方を経て円回内筋を貫通し, 2 正中神経麻痺 掌側外転は,母指対立筋(正中神経) ,短母指外 転筋(正中神経) ,短母指屈筋(浅・深あるが,基 また,母指球筋が萎縮すると,母指は示指の橈 median nerve palsy 橈側手根屈筋,長掌筋,浅指屈筋にその枝を出し 側に固定され,手の transverse arch(掌側の凹面) が消失してしまい,手指で摘んだり握ったりする ●原 因 ことができなくなります。外観が猿の手に類似す 位部)で前骨間神経と正中神経に分かれます。前 正中神経麻痺は,肘から手首に至る経路で障害 ることから猿手 ape hand とも呼ばれます(図 16- 骨間神経は,橈骨と尺骨の間の骨間膜の屈側を経 を受けたときに生じます(図 16-6)。手関節部の 8B) 。この猿手は,筋が萎縮して初めて出現するの て長母指屈筋,示指深指屈筋,方形回内筋に分枝 外傷では低位麻痺の症状を呈します(例えば,自 で,受傷後直ちに認められるわけではありません。 します。正中神経は,中指深指屈筋に枝を出して 殺を試みて手首を切ったとき)。また,肘周辺の そのほか,母指の対立運動不能は perfect O 徴候 から手根管に入り,手根管を通過すると 3 本に分 外傷では高位麻痺の症状となります。これは, で知ることができます(図 16-8C) 。これは“母指 かれます。これが第 1,2,3 総掌側指神経です。 Volkmann 拘縮の際に起こることがあります。 と示指の指尖部をくっつけて O を作るように指示 正中神経の絞扼性神経障害には,手根管症候群, 中神経麻痺で不能となり母指対立運動が不能とな ります。 てから前腕近位部(上腕骨内側上顆より約 5cm 遠 そして,MP 関節レベルでさらに 2 本の固有掌側 本的に正中神経)で行われます。したがって,正 第 16 章 しても,短母指外転筋萎縮があるとつぶれてしま 指が起きあがる方向 う= tear drop sign 陽性”という検査です。 図16-9 橈側外転(左)と掌側外転(右) 知覚障害は手掌の橈側,母指,示指,中指,環 正中神経(C6∼C8,T1) 指の橈側半分の手掌面に生じます。 高位麻痺 前腕回内不能 母指,示指の屈曲不能 内筋症候群),母指・示指・中指の屈曲不能(祈 肘窩より上のレベルの正中神経障害で起こる麻 祷指位)が加わります(図 16-10) 。 痺です。正中神経支配のすべての筋肉に麻痺が起 なお,分枝して前骨間神経となった部分が障害 橈側手根屈筋 こり,すべての支配領域に知覚障害が生じます。 された場合は,知覚障害は起こりません。それは, 長掌筋 典型的には,低位麻痺の症状に前腕回内不能(回 前骨間神経が純粋な運動神経であるためです。 円回内筋 前骨間神経 示指深指屈筋 ②高位正中神経麻痺 浅指屈筋 長母指屈筋 中指深指屈筋 方形回内筋 母指球筋 低位麻痺 母指対立運動不能 掌側外転不能 perfect O 徴候不能 総掌側指神経 固有掌側指神経 虫様筋(第1,第2) 母指球筋萎縮 母指の掌側外転で行われる。 手掌 図16-6 正中神経の走行と筋支配(前面) 168 外傷,スポーツによる外傷 手背 図16-7 正中神経の皮膚知覚支配 A 母指対立運動不能 B 猿 手 C perfect O徴候 図16-8 正中神経麻痺による低位麻痺 第 16 章 末梢神経損傷 169 衫)運動障害(筋力低下,筋萎縮) 経で短頭が S1,S2 の総腓骨神経支配です。したがっ 大腿部の内∼後面には,大腿二頭筋,半膜様筋 て,これらの高位のヘルニアでは,ハムストリン および鵞足(大腿部膝屈筋の脛骨付着部)を形成 グの筋力低下が起こります。そのほかに,L4/L5 間 する筋肉(薄筋,半腱様筋,縫工筋)があります。 ヘルニアでは母趾背屈力の低下(主に長母趾伸筋 これらの筋肉は,まとめてハムストリング筋と呼 の筋力低下),L5/S1 間ヘルニアでは母趾底屈力の ばれ,共同して膝関節屈曲に作用します。 低下(主に長母趾屈筋の筋力低下)もみられます。 縫工筋は L1 ∼ L3(大腿神経)支配,半膜様筋と 半腱様筋は L5 ∼ S2(脛骨神経)支配,薄筋は L2 ∼ L3/L4 間のヘルニアでは,大腿四頭筋腱(大腿神 L4(閉鎖神経)支配,大腿二頭筋は長頭が脛骨神 の膝蓋腱反射が消失∼減弱します。 経 L2 ∼ L4 支配) 表 9-2 C5椎体は破壊され,C5/C6間の 椎間板腔は消失している。 頸椎単純X線所見(側面像) 写真 9-6 C 5 /C 6 レベルで脊髄は圧迫され ている。 頸椎MRI所見(T2強調矢状断像) 透析性脊椎関節症(透析歴 15 年) L4/L5間ヘルニア L4 L5 ヘルニア高位 障害神経根 L3 /L4 間 L4 足背屈力低下 L4 /L5 間 L5 足趾背屈力低下(長趾伸筋 アキレス腱反射正常 筋力低下による) L5 /S1 間 S1 足底屈力および外がえし力 アキレス腱反射(−)または低下 低下(長・短腓骨筋筋力低 下による) 運動障害 反射異常 膝蓋腱反射(−)または低下 アキレス腱反射正常 が前面に出てきます。腰椎部には,神経根症状が 運動 前脛骨筋 して脊髄圧迫症状はみられません。ただし,中心 性巨大ヘルニアでは馬尾圧迫症状(p.244)という, L5 根 L5/S1間ヘルニア S1 S1 根 馬尾 図9-11 腰椎椎間板ヘルニアの好発部位 アとなります。 側彎(機能的脊柱側彎)を示すこともあります。 好発部位は,L4/L5 間と L5/S1 間で,これらで約 9 運動制限がみられ,立位では腰椎の前彎は減少 割を占めます。L4/L5 間から出るのは L4 神経根です ∼消失しています。前屈位をとると,椎間板内圧 が,一般的に,L4/L5 間ヘルニアでは L5 神経根が, が上昇し,疼痛と腰背筋の攣縮が起こるので前屈 L5/S1 間ヘルニアでは S1 神経根がそれぞれ障害さ が制限されます。疼痛が強いと腰部は板状となり, れる点に注意しましょう(図 9-11) 。 脊柱の可動性が失われることがあります(不撓 ●症 状 “重い物を持ち上げた”ことを誘因として“急 第5腰椎 ヘルニア 膝蓋腱反射 S1 運動 長・短腓骨筋 ②神経根症状 radiculopathy 衢)知覚障害 が典型的な症状です。2 ∼ 3 日安静にしていると 原則として L4/L5 間のヘルニアでは L5 領域に, いる神経根の支配域に一致する下肢痛(放散痛) L5 S1 反射 知覚 アキレス腱 反射 反射 L5 運動 長趾伸筋 知覚 性) 。 激で,体を動かせないほどの腰痛が出現”するの 腰部全体の痛みは軽減し,代わって圧迫を受けて 背屈 L4 ます。疼痛が強く,手を腰に当てて跛行すること なります(防御姿勢) 。疼痛を避けるため,疼痛性 9 章 L3 第4腰椎 間欠的な腰痛がみられ,咳やくしゃみで増強し 第 L4 L4 第3腰椎 ①局所症状 患側が生じやすいのですが,まれに中心性ヘルニ 知覚 椎体 少し異なった様相を呈することがあります。 もあります(疼痛性跛行) 。腰背筋は緊張して硬く 疾患各論 腰椎椎間板ヘルニアの高位診断 みられます。第 1 腰椎以下は馬尾なので,原則と L4 根 242 袁)反射異常(表 9-2,図 9-12) 底屈 S1 外がえし 足趾背屈 L5 L5/S1 間のヘルニアでは S1 領域に出現します。 図9-12 L4,L5,S1神経根の基本的な高位診断 第9章 椎体疾患,椎間板症 243 この基準は 6 週間以上持続することが必要なため, ●経 過 早期のリウマチの診断および治療には不向きで 最も多いのは,炎症を繰り返しながら次第に関 す。そこで,2010 年に新たな分類基準がアメリカ 節破壊が進む多相型です。 スタインブロッカー リ ウ マ チ 学 会 ( ACR) と 欧 州 リ ウ マ チ 学 会 (EULAR)から発表されました。これが表 15-3 の 進行程度による分類は Steinbrocker の病期分類 (表 15-5)があります。 「関節リウマチの新規分類基準」です。このよう に,関節リウマチは早期に治療を開始するほうが 予後が良いため,日本リウマチ学会では早期関節 2 関節症状 リウマチの診断基準(表 15-4)を作っています。 a 概 要 表 15-3 尺骨頭の骨破壊(骨侵触) (矢印)および手根骨間の関節裂隙狭小化(手根 骨がおのおの明瞭に描出されていない)が見られる。 写真 15-1 環軸椎亜脱臼(環軸椎間距離の 開大)(矢印)が見られる。 関節リウマチの単純 X 線所見(別症例。左:両手正面像,右:頸椎側面像〔後屈位〕) 表 15-1 Larsen 分類 grade 0 :正常。変化はあっても関節炎とは関係ないもの。 grade蠢:軽度の異常。関節周囲の軟部腫脹,関節近傍の骨萎縮,軽度の関節裂 隙狭小化,これらのうち 1 つ以上が存在する。 grade 蠡:初期変化。びらんと関節裂隙狭小化。びらんは非荷重関節では必須。 grade 蠱:中等度の破壊。びらんと関節裂隙狭小化。びらんは荷重関節でも必須。 grade 蠶:高度の破壊。びらんと関節裂隙狭小化。荷重関節では骨変形。 grade 蠹:ムチランス変形。関節端が原型をとどめないもの。 注)ムチランスとは,単純 X 線で骨端部の吸収が重度で骨欠損が認められるもの。 新 RA 分類基準(ACR ・ EULAR,2010 年) スコアー 6 点以上ならば RA と分類される。 関節リウマチの分類基準(アメリカリウマチ協会,1987 年) 1.少なくとも 1 時間以上持続する朝のこわばり(6 週以上持続) 2.3 か所以上の関節の腫脹(6 週以上持続) 3.手関節,MP 関節,PIP 関節の少なくとも 1 か所の腫脹(6 週以上持続) 4.対称性関節腫脹(6 週以上持続) 5.手・指の X 線像の典型的変化 6.皮下結節(リウマトイド結節) 7.リウマトイド因子の存在 以上 7 項目のうち,4 項目以上を満たすもの。 1 個の中∼大関節 0 手,手指,足ですが,障害頻度が高いのは,手関 2 ∼ 10 個の中∼大関節 1 節,MP 関節,PIP 関節です。症状は,左右対称 1 ∼ 3 個の小関節 2 性で多発性です。 4 ∼ 10 個の小関節 3 11 関節以上(少なくとも 1 つは小関節) 5 ラーセン もあります。 の程度を分類したものです。びらんは,grade Ⅱ CT では関節面の破壊の様子が,MRI では滑膜 となれば非荷重関節では必須で,grade Ⅲとなる 肥厚・炎症性肉芽の増殖の程度を知ることができ と荷重関節でも必須です。 ます。 また,手指,手関節,足趾の X 線所見から関節 病変(関節裂隙狭小化とびらん)のスコアを算出 ●診 断 アメリカリウマチ協会(現アメリカリウマチ学 シャープ して,関節の破壊の程度を評価した Sharp スコア 292 疾患各論 15 関節腫脹は,滑膜や関節包の肥厚あるいは関節 液貯留に起因するもので,膝関節部に滑液包炎を 血液学的検査 RF も抗 CCP 抗体も陰性 0 RF か抗 CCP 抗体のいずれかが低値の陽性 2 RF か抗 CCP 抗体のいずれかが高値の陽性 3 6 週間未満 0 6 週間以上 1 急性期反応 CRP も ESR も正常値 0 CRP か ESR が異常値 1 表 15-5 進行度 (stage) 上に示した Larsen 分類(表 15-1)は,関節破壊 第 膜炎ですが,症状の中心は多発性の関節腫脹や関 節痛といった関節症状です。初発する関節は,膝, 腫脹または圧痛関節数 滑膜炎の期間 表 15-2 関節リウマチで最初に起こるのは滑膜炎や腱滑 表 15-4 早期関節リウマチの診断基準 (日本リウマチ学会,1994 年) 1.3 つ以上の関節の圧痛または他動関節痛 2.2 つ以上の関節の腫れ 3.朝のこわばり 4.リウマトイド結節(皮下結節) 5.赤沈が 20mm 以上の高値または CRP 陽性 6.リウマトイド因子陽性 以上 6 項目のうち,3 項目以上を満たすもの。 関節リウマチの病期分類(Steinbrocker,1949 年) X 線所見 Ⅰ 骨破壊像なし 骨粗鬆症はあってもよい Ⅱ 骨粗鬆症がある 骨や軟骨に軽度の破壊がと きに存在する Ⅲ 骨粗鬆症 骨・軟骨の破壊像 Ⅳ Ⅲ+線維性または骨性強直 筋萎縮 関節外の罹患 (結節・腱鞘炎) 関節変形 線維性または 骨性強直 なし なし なし なし 関節周囲にあり あってもよい なし (関節運動は制限 されてもよい) なし 強度の筋萎縮 あってもよい 亜脱臼,尺側偏位, 過伸展 なし Ⅲと同じ あってもよい Ⅲと同じ あり 会)の分類基準(表 15-2)が用いられていますが, 第 15 章 非感染性関節疾患 293 章 しばしば骨膜を持ち上げる onion-peel appearance ユーイング 4 Ewing 肉腫 Ewing sarcoma を呈します。 病理組織的には,細胞質の乏しい小円形細胞の ●概念・疫学 増殖が豊富に認められます。 組織学的な細胞起源は不明ですが,免疫組織学 橈骨骨端部(橈側)に関節軟骨近傍まで 広がる骨透明像が認められる。骨皮質は菲 薄化し,骨透明巣内には一部残存した骨梁 が認められる(soap-bubble appearance)。 写真 17-8 骨巨細胞腫の単純 X 線所見(手関節正面像) 的所見から原始神経外胚葉性腫瘍と類縁性をもつ ンパ腫です。 腫瘍と考えられています。骨盤に最も多くみられ ●治 療 ますが,大腿骨や上腕骨など長管骨の骨幹にも発 化学療法と放射線療法に感受性が高いので,四 生します。悪性度の高い骨腫瘍で,ほとんどが 20 肢に発症したものには,術前と術後の化学療法, 歳未満に発症します。男女比は 2 : 1 です。 放射線療法,広範切除術を組み合わせて行います。 ●症 状 脊椎・骨盤に発症したものには,広範切除術を行 疼痛や腫脹などの局所症状だけでなく,発熱,貧 うことが難しいため,化学療法と放射線療法が中 血,白血球増加,赤沈亢進などの全身症状がみら 増殖した間質細胞の中に核を多数有する多核巨細胞が 随所に存在している。 写真 17-9 骨巨細胞腫の病理組織所見(H-E 染色) 早い時期から細胞壊死が起こり,その結果これら 第 でに肺などに転移を起こしていることがしばしば 存率は 70 %以上とされています。 は,骨が破壊された結果,骨は透明像を呈します です。 ●検査・鑑別 に石けん泡状陰影 soap-bubble appearance と呼ば 単純 X 線写真では,髄内性の虫喰い状や,浸潤 病理組織的には,類円形∼紡錘形の間質細胞が ●概 念 増殖し,その中には異型性の強い多核巨細胞 組織学的な起源は明らかでなく,良性,悪性と giant cell が認められます(写真 17-9) 。 ●概 念 性といった広範囲な骨破壊吸収像を認めます(写 長管骨の骨幹端に好発する骨腫瘍で,大腿骨遠 真 17-10)。多くの場合,周囲には骨硬化像を認め 位,脛骨近位,上腕骨近位の順に多くみられます ません。骨膜を破壊して骨外に浸潤する際には, が,骨盤に発生することもあります。好発年齢は 10 ∼ 50 歳代と広範囲です。 もに認められる骨腫瘍で,成長軟骨板閉鎖後の 20 ●治 療 ∼ 30 歳代に好発します。大腿骨遠位および脛骨 長管骨の場合は,腫瘍辺縁切除術の後に骨移植 近位の骨端部に圧倒的に多く発生しますが,仙椎 や人工関節置換術を行います。これは,骨端であ 未分化型線維肉腫および骨肉腫との鑑別が問題と に発症することもあります。この場合は,脊索腫 るため,切除が関節にまで及ぶことが多いことに なります。 (p.318)と同様に完全な摘出が不可能なため,臨 起因します。腫瘍内切除術と骨移植では,再発率 ●症 状 は高率となります。 罹患部の疼痛と腫脹を呈します。しかし,比較 床的には悪性の経過をとることになります。 骨硬化像と骨破壊像が ともに認められる。 ●症 状 芽細胞様細胞からなる腫瘍で,組織所見からは, 折を来して受診し,検査の結果発見されることも 骨巨細胞腫の単純 X 線所見 あります。 ●検査・鑑別 骨皮質を非常に薄くした骨端部の骨透 ●検 査 典型例では,長管骨の骨端部の関節軟骨近傍ま 明像 単純 X 線写真では,境界不鮮明な溶骨像と骨皮 で骨吸収を起こします。また,腫瘍の中心は骨の soap-bubble appearance 質破壊を認めます。骨膜反応は認めないことが多 中心ではなく,どちらかに偏っています。骨皮質 はとても薄くなっていますが,骨新生や骨膜を破 316 病理組織的には,組織球様細胞と紡錘形の線維 的進行が緩徐なため,症状を自覚する前に病的骨 STEP 59 罹患部に,疼痛,腫脹,病的骨折を認めます。 腫瘍の発育は緩徐です。 疾患各論 章 a 悪性線維性組織球腫 malignant fibrous histiocytoma of bone(MFH) が,骨皮質や骨梁が少し残存するので,透明巣内 れる所見を呈します(写真 17-8) 。 other tumors 17 るような骨膜反応は伴いません。単純 X 線写真で (GCT) 5 その他の腫瘍 て,診断がなされて治療を開始するときには,す や離断術を施行することもあります。5 年累積生 giant cell tumor of bone 心となります。 れるのが特徴です。増殖速度が速いので,比較的 の炎症を思わせる症状が認められます。したがっ 3 骨巨細胞腫 鑑別診断は,神経芽細胞腫の骨転移と骨悪性リ く,異常な石灰化も認めないのが一般的です。 写真 17-10 Ewing 肉腫の単純 X 線所見 第 17 章 骨腫瘍・軟部腫瘍 317