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不安定性原理と - 滋賀大学学術情報リポジトリ

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不安定性原理と - 滋賀大学学術情報リポジトリ
滋賀大学経済学部研究叢書第 3
5号
不安定性原理と
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
鈴木康夫著
滋賀大学経済学部
滋賀大学経済学部研究叢書第 3
5号
不安定性原理と
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
鈴木康夫著
滋賀大学経済学部
はじめに
周知のように、現代の経済成長研究分野の中心は、いわゆる「内生的経済成長
理論」や、これに基づく長期経済政策理論や経験的な実証研究などの諸応用研究
分野にすでに移行してしまった。しかしながら、経済発展論や開発経済論、及び、
経済成長の経済史的研究においては、ハロッド=ドーマー型経済(変動)成長理
論やこれを代表とする│日経済成長理論は、いまだに意義を失ってなしこうした
分野でも、とりわけ、むしろ実際的な諸応用研究では活用されている。それゆえ、
その理論的研究もまだ意義を失ってはいない。
とはいえ、ハロッド=ドーマー型経済変動成長モデルについては解釈論的な研
究や新古典派的な拡張研究は、すでに、かなり解明されてきている。そこで、本
書では、解釈論的研究から少し離れた形で拡張研究が展開され、基本モデルその
ものの拡張研究を基礎として、公債蓄積の動学的応用分析や最適経済成長理論の
分析なども試みられる。もちろん、必要な分の解釈論的な分析も、少ないがある
程度行なわれる。
本書は基本的に過去の互いに関連ある諸論文に基づいているので、論文集の形
で出版される。したがって、以下に連なる諸章は、それぞれ別個の論文に基づい
ているが、この表題の下に収まることで内外に一層厚い脈絡を得て、一つの書物
としての有機的な意義が生まれる。本書に収録きれた諸論文との関係では(どれ
も多少の加筆と修正はあるが)、本書の構成は次の様になっている。
本書の第 1章の第 1節と第 2節は、その先頭からのほとんどの部分が新規に書
かれたものであり、末尾の段落の後半から以下の章末までが、「不安定性原理の形
8
号
、 p
p
.
式的な表現についてのノート J(大阪府立大学大学院『白鷺論叢 j 第 1
1
2
9
1
4
1、1
9
8
6
年)とほとんど同じ内容となっている。本書の第 2章は「擬似ハロッ
6
号
、 p
p
.
8
9
1
1
3、 1
9
8
4
年)の第 2
ド模型 J(大阪府立大学大学院『白鷺論叢』第 1
節後半と第 3節を除いた内容にほぼ同じで、ただし先頭の数段落が加筆・修正き
r神戸学
れている。また、本書の第 3章も「ハロッド的変動成長分析の一般化J(
4
巻第 1号
、 p
p
.
5
5
8
3、 1
9
9
2年)とほとんど同じである。本書の
院大学論集』第 2
第 4章も、第 2節の大部分を省略して次の節に統合したことを除けば「公債蓄積
r(大阪府立大学)経済研究』第 3
5
巻第 4号
、 p
p
.
1
1
3
1
2
7、
と長期財政支出政策 J(
1
9
9
0
年)とほとんど同じである。しかしながら、本書の第 5章は全く新規に書か
れた論文を収録したものである。
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論のモデル分析の研究は、しばしば何年
9
年携わって来た
もの間隔をあけて断続的に行なわれてきたけれども、思えば約 1
ことになる。この研究主題は、かつて、本学の名誉教授でもあり 3年前に退官さ
れた私の思師の玉木興乗先生の下で、初めて論文なるものに着手したときの主題
であり、また後に、故岡本武之先生の下でケインジアン研究を続けたときの主題
の一つでもある o また、学部の恩師である関根正行先生の下ではじめて経済成長
0
年を越えることになる。それゆ
理論を勉強してからするとこの種の勉強は一応2
え、個人的に思い入れが深いものであり、このように恩師のあとに続いて本学で
研究生活が送れ、かっ諸先生方と同様に研究叢書を出させていただけることに、
玉木先生と岡本先生、関根先生はもちろんのこと、故和田貞夫先生、山谷悪俊先
畢忠幸先生、橋本圭司先生、
生、宮本勝浩先生、荒井勝彦先生、駿河輝和先生、米 j
赤壁弘康先生、内上誠先生、荒木長照先生、浅羽良昌先生、伊原豊賓先生、すで
に退官された諸先生方と同僚の諸先生方、また私的に支えてくれた先輩方や友人
と家族に対して御礼を申し上げると同時に、心から深〈感謝いたします。
また、本書の審査にあたられた先生方には、不完全で、ひどく粗雑な原稿を急い
でお読みいただき、にもかかわらず多くのコメントをいただき大変ご迷惑をおか
けいたしました、重ねて御礼申し上げます。そして、経済経営研究所には本書に
関して実際上いろいろとお世話いただき誠にありがとうございました、御礼申し
上げます。
2
0
0
1年 新 世 紀 椿 の 頃
鈴木康夫
目 次
はじめに
第 l章
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
.
1
1.序:ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論研究に寄せて....・ ・
H
2
. ハロッドニドーマー型経済変動成長理論の問題………...・ ・..…… 3
H
3
. 保証成長率の存在...・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・..……………...・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
8
H
H
H
H
H
4
. 不安定性原理の諸表現例…...・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・..……………… 1
2
H
H
H
5
. 不安定性原理に対する理解...・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・..……………...・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
1
7
H
H
H
H
第 1章参考文献....・ ・
…
…
・
・
・ ・・
.
.
.
.
…
・
…
・
・
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
.
・ ・-………… .
2
0
H
第 2章
H
H
H
H
ハロッド=ドーマー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
.
.
.
.
.
・ ・..…… 2
3
1.基本的なモデル設定と分析目的…...・ ・..………・ ・ ・
H
H
H
H
2
. 所得決定と静学均衡....・ ・-……… ・ ・-…....・ ・
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
…
.
.
.
・ ・
2
5
H
H
H
H
H
H
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…2
8
3
. 静学均衡についての補足…………………...・ ・
H
H
H
4
. 擬似ハロッド模型の動学分析…-…....・ ・-……・・……・…・…… .
.
.
.
.
.
2
9
H
5
. 調和的体系のモデルと動学的経路…………...・ ・
.
.
.
.
・ ・・・
.
.
.
.
.
・ ・
3
5
H
H
H
H
H
6
. 分析結果と若干の解釈・…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
4
第 2章参考文献....・ ・
…
.
.
.
.
・ ・....…………… ・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
4
6
H
第 3章
H
H
H
H
H
H
ハロッド的変動成長分析の一般化
.
.
.
.
・ ・
… ・・
… ・・
.
.
.
.
…
…4
9
1.ハロッド的変動成長分析の目的...・ ・
H
H
H
H
H
H
2
. 分析の基本体系....・ ・..……...・ ・ ・ ・..………・……...・ ・
.
.
.
.
・ ・
…5
1
H
H
H
H
H
H
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…5
2
3
. 保証成長の基本性質…………………………………...・ ・
H
H
4
.準 H
a
r
r
o
d
i
a
n動 学 ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・5
5
5
. 伸縮的保証成長率:中期と長期・………………...・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
…5
8
H
H
H
6
. 総合的な伸縮的保証成長率と成長循環的解釈…・・…・…・…....・ ・
.
.
.
6
5
H
第
第 4章
3章参考文献……・…...・ ・..……・…………...・ ・-…・…...・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
7
4
H
H
H
H
経済成長の公債蓄積と長期財政支出政策
1.公債蓄積の事実と分析目的…・・……...・ ・
.
.
.
.
・ ・-……………… ・・
7
9
H
H
H
H
2
. 政府の財政予算制約式と公債の長期蓄積…...・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
….
8
2
H
H
H
3
. 長期財政政策と公債蓄積の動学過程・・ ・・
…
…
…
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
8
6
H
H
H
.
.
.
9
1
4
. 5つの場合の長期財政政策の動学的諸結果…・……………....・ ・
H
第
第 5章
4章参考文献....・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
… ・・
.
.
.
・ ・
.
.
…
.
.
.
・ ・
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
.
・ ・
.
9
2
H
H
H
H
H
H
H
H
H
ハロッド=ドーマー型最適経済成長理論
1.ハロッドとドーマーの動学と最適成長...・ ・
.
.
…
…
.
.
.
・ ・-… ・・
.
.
9
5
H
H
H
H
2
. ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的モデル…………………… 9
7
3
. ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的問題と解軌道…....・ ・
…9
9
H
4
. ハロッド=ドーマー型最適成長問題と確率的不安定性・…...・ ・
.
1
0
3
H
5
. ハロッド=ドーマー型最適成長と確率的不安定性を伴う基本的
モデルの試論的分析……...・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
.
.
.
・ ・
.
.
…
…1
0
6
H
H
H
H
H
第 5章参考文献....・ ・
.....……・…・・……・・…….....・ ・-…ー…… ・・
.
.
.
1
1
3
H
H
H
H
第 1章ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と
不安定性原理の表現
1.序:ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論研究に寄せて
経済成長理論の起源は、ロビンソン (
R
o
b
i
n
s
o
n[
1
9
6
2, 1
1J
)や佐藤 [
1
9
6
8,第
1章]のように、古典派に求めることもできるけれども、現代の経済成長理論の
起源ということであれば、やはりハロッドとドーマーにありと考えるのが普通で、
r
r
o
d[
1
9
3
9,1
9
4
8
,1
9
7
3
J および Dornar[
1
9
4
6,1
9
4
7,1
9
5
7
J
)。も
あろう(lIa
9
9
0年代の、いわゆる「内生的経済成長論」の盛んな研究からすると、
ちろん、 1
n
o
d
e
!
) で有
旧式の経済成長理論として、ソロ一一スワン・モデル (Solow-Swanr
Solow[
1
9
5
6
J と Swan[
1
9
5
6
J など)を強調
名な周知の新古典派経済成長理論 (
する人がいても何の不思議もない。しかしながら、新世紀を迎えた現在にあって
すら、例えば、新興アジア諸国経済の低落からの弱々しい回復状況や、少なくと
もわが国におけるように、長い不況を引きずったままの形で低迷を続けている現
実の経済事情を見る限りにおいては、ハロッドとドーマーのような考察の意義を
全く否定することはできない。まだ早計ではあるけれども、新聞報道などでもし
ばしば指摘されているよ 7に、最近のアメリカ経済の不安定な成長状況を考える
と、むしろ、彼らのような考察は、現実的にむしろ重要であり、実際上必要です
らある o 遠目には高等数学の教科書かと思わせる数理経済学の本から目を離して
まわりをよく見渡せば、高度に専門的で難解な問題以外にも、まだまだ古典的で、
古臭い経済問題が息づいているのであり、こつした十分に解決されていない問題
に研究の関心を振り向けることは、経済学が実証的な学問である以上、やはり自
然である。このような素朴な理由に、本書での考察と諸分析は基本的に動機付け
られている。
0
世紀中頃からロストウな
また、ハロッドとドーマーの経済変動成長理論は、 2
どにより経済史や経済発展・開発理論に応用されていて、現在でもそうした分野
(
1
)R
o
s
t
o
w[
1
9
6
0
J および絵所 [
1
9
9
7, 第 1章]を参照。
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
の実証分析では用いられている。もちろん、新古典派経済成長モデルや内生的経
済成長モデルの実証分析の方が全体的に見るとかなり優勢で、はあるが、基本的な
実証的考察や、特定の応用実証分析、政府部門の果たす役割が大きい場合の実証
1
9
9
9,第 3章,第 4章 J
) 例え
的考察などではいまなお用いられている(秋山 [
0
ば、対外部門のもたらす外貨資金制約の下での経済発展問題や、累積債務を伴う
経済発展問題などの応用的な経済発展問題があり、主にマクロ経済的な政策が関
1
9
9
9,第 1
0章 J
)。もちろん、解釈論的な、主にハロツ
連する問題である(秋山 [
ド理論の研究もまだ可能だし、景気変動理論や経済成長理論としても、その単純
な生産関数などの側面を改良することで、理論的な説明カと、とりわけ、予測性
を強化することは不可能で、はないと考えられる。それゆえ、偏狭な解釈論的研究
に固執せずに、さらに一層の拡張研究および応用研究を試行すれば、まだまだ新
しい成果の導出が可能で、あり、少なくとも、これまでの諸研究では経済政策的な
応用研究に、まだかなりの余地を残しているように思われる。
9
8
0年代以降でいくつかの先進国やアジアの新興工業諸国は、周知のよ
特に、 1
うに実際上長期的な不安定きを示していることもあり、経済発展の応用経済政策
的ないし総合的政策の面で、ともかく実際的な経済に関する実証研究のためにも、
いまだにハロッドとドーマーの理論研究は、基礎研究として確固たる意義がある
と言える。それゆえ、本書では、応用的ないし政策的な拡張を意識しつつ、ハロッ
ドとドーマーの理論研究が行なわれるが、すでに多大な研究が展開された均斉成
長という純粋な長期均衡自体の安定性問題にはあまり分析の関心を置かず、主に
不安定性原理の一般化と政策的な応用研究の諸考察が展開きれる。ただし、考察
の出発点として不安定性原理の再吟味もある程度行なわれるが、これについても
すでに多大な研究成果が蓄積されているので、あまり手がけられていない分析を
除き、不必要な長いサーベイやしばしば紹介を主とする解釈的な分析の展開はな
るべく避けられている。議論の出発点として、ここからは、通常よく用いられて
Jモデルという表現に注目することで、彼らの経済変動
いる「ハロットドーマ (
2
) 岩井・伊藤 [
1
9
9
4,V
I
I,p
.2
7
3
J は手短ながら構成内容がよいサーベイであり、ハロッド理
論の拡張的な非線形化研究も複雑系の分析手法を用いた新たな考察を展開していることを伝
えている。
第 1章
ハロ
y
ド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
3
成長理論の基盤となる考え方や意識とその動学的問題に接近する。
2
. ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論の問題
ハロッドとドーマーの諸研究で提示されている理論、特に数式による表現は、
しばしば一括した形でハロッドドーマー・モデルとして言及されているが、この
用語法はある程度定着しているけれども、多くの場合それは大別して二通りに用
いられていて、その使い手によって意味するところががかなり異なっている。す
なわち、第 lのものは新古典派的な用語法であり、周知のようにソローやノ〈ーマ
S
o
l
o
w[
1
9
7
0
]、 B
u
r
m
e
i
s
t
e
randDobe
l
1[
1
9
7
0
]
) などの代表
イスタードベル (
的な新古典派や関連の諸研究で広〈用いられ、これによると、ハロッドドー
マー・モデルとは、ほとんどの場合、固定係数の生産関数を採用する経済成長モ
デルのことを意味する。他方、その第 2のものはケインジアン的な用語法であり、
投資の変動が企業家の行動を通して不完全雇用の経済状態と関係する側面を備え
ている経済成長モデルのことを意味する。
このケインジアン的用語法は、要するに、企業の主体性に基づく投資関数がモ
デルに導入されているかどうかといつことを問題にしているのであり、そうであ
るが故に、投資の事前と事後の問題や、利潤率や期待調節などの側面がモデルで
特徴をなし、またモデルの動学的不安定性を左右するとりわけ重要な役割を演じ
ることとなる。これら二つの用語法で、新古典派的な用語法はしばしば普通の教
科書にも見られ多用きれているが、ケインジアン的なものは、表題や見出しなど
で導入的に用いて大きな捉え方をするだけのための場合の方がよく用いられる
が、それ以外にはあまり使われず、多くの場合は、あるいは詳細な議論の場では、
併用もあるにはあるが、考察の主要な部分ではハロッドのみが「ハロッド理論」
とか「ハロッド型理論j とかの呼称で言及きれている(本書でもこれらとほぼ同
様の用語法に従い、大分類の表題ぐらいの意味合いで連結の呼称が用いられたり、
また、ハロッドだけの表現も使用される)。
例えば、ヒックスの『資本と成長Jでは、
ドーマーの名前が出てくるのはほん
の 3回ぐらいで、ハロッドの添え物程度で何の言及もなく、ハロッド型モデルは
誘発投資に強調を置いた経済の動きを説明する理論として捉えられている。また
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
代表的なケインジアンの側で見ると、ロビンソンの『経済成長論』では、付録と
2
)において)、ハロッドについて
なっているケインズ派モデルのところで(その注(
の本文での叙述に際し、ほんの副次的に一度触れられているだけであり、しかも
投資誘因に関する定式化がないことを理由にドーマーのモデルをケインズ派から
除外している。さらに、ポストケインジアンでは、例えばクリーゲルの『政治経
済学の再構築』に至っては、ハロッドやカレツキーについての叙述はいくつも見
られるが、ドーマーについては皆無で、ある。このようなことから、ハロッドードー
マーでかそれともハロッド単独で、かの主な呼称の採否というのは、結局のところ
その呼称を採用する研究(者)の経済学的な立場の違いに依拠する。
このようにケインジアンでも、極端な立場にたつケインジアンの場合は当然に
ドーマーを無視してハロッドのみが問題とされるが、そうでない一般のケインズ
派的な経済成長研究においですら、よくてもドーマーが名ばかりの扱いに止めら
れ、その一方で、ハロッドがかなり重視あるいは強調されるのが一般的である。ま
してや、本書もそうであるが、経済変動成長動学的なモデルの考察という場合に
1
9
7
0,
Introduction]) によって、経済成
は一層そうである。かつて、セン (Sen[
長理論におけるケインズ派と新古典派の相違は明確な意味での独立な投資関数の
採否にあるということが指摘きれたが、その意味で‘ハロッドの理論はまさにケイ
ンズ派の代表的な存在である。一方、
ドーマーは、少し遅れて、動学理論として
豊かな内容が混在するハロッド理論の要点を明確にし、生産能力やこの利用係数
を重視して経済成長と投資の二重性に強調を集約することで、投資の相対的な動
的弱体化という不安定性に注目しつつも、景気変動的側面ではなく経済成長論を
19
5
7
.I
I
I
.I
V
]
)。それゆえ、固有の着想や仮説提示と
主な問題とした (Domar[
いう一次的貢献という点で、は迄かにハロッドには及ばないのであり、
ドーマーが
注目した変数もハロッドの主張の枠を越える説明力を持ち得なかったので、ハ
ロッドに対して二義的な位置付けが一般的になされるようになったと言える。
このようなことから、本書の考察では、ハロッドードーマ一理論とは言っても、
(
3
) ここで取り上げている 3冊の文献は、
Hicks[
1
9
6
5,c
h
a
p
.1
1,1
.Jと
、 R
o
b
i
n
s
o
n[
1
9
6
2,I
I
.J
および、 K
r
e
g
e
l[
1
9
7
5
Jである。また、成長理論の手短でおおざっぱな学説史的な背景につい
rems[
1
9
8
6,p
a
r
tVJ が有用である。
ては、 B
第 1章
ハロ
y
ド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
5
主にハロッドの理論に焦点を当てることがかなり多いので、それについての大ま
かな本書の基本的な立場あるいは捉え方を、その経済学的役割の面に着目して、
以下の諸議論の展開のためにもここで若干触れておしまず、この章の表題で、
すでに単に成長ではなく「変動成長」という表現を用いているが、これは、ハロッ
ドとドーマーが共に、経済動学あるいは経済の動学的過程の基盤が景気循環より
も経済成長にあるとしながらも、経済成長とこの不安定性を併せて論じていると
ここでは理解されているからである。そして、本書では、主に前半で、ハロッド
的な経済成長の不安定性の問題が論じられ、後半の半ば過ぎから、経済成長が伴
うドーマー的な公債蓄積という政策関連の応用理論問題が検討され、最後の章で
は、ハロットドーマー型の最適経済成長理論が検討される。しかしながら、以下
に連なる諸章に、経済成長政策の理論に関する一つの章が欠落していることは大
変残念であるが、この政策的考察については別の機会に展開したい。
このように、本書では、ハロッドードーマー型経済変動成長理論を論点の軸とな
る 3つの動学的問題で捉える。すなわち、第 1の問題は、短期的な局面に関連深
いもので、現実成長率 G が保証成長率 G却に収束するかどうかという、ハロッ
ドの「不安定性原理]の動学的な問題のことである。第 2の問題は、そうした短
期調整が済み、その結果現実成長率
G=G
叫がほぼ成立したときには、長期的な
局面において、どのような成長過程を経済は歩み、特に経済成長の均衡と安定性
に関する諸性質はどうかという分析的な問題である。第 3の問題は、どんな成長
過程で最適な成長が特徴づけられるのか、またその諸性質はどういうものかと
いった社会厚生に関する動学的な問題である。もっとも、より大きな捉え方をす
れば、これら 3つの前半の 2つを純粋なマクロ理論問題とし、その第 3の問題を
動学的厚生経済学の問題と捉え、さらに、これらの他に、第 1と第 2の問題に関
する経済安定成長政策や、第 3の問題で提示される最適経済成長経路を実現する
ための動学的経済政策などが、応用理論と経済政策論の両面から考察されねばな
らないという経済成長政策の問題があり、一般的な経済成長論にとってこれらは
どれも不可欠な要素である。
ここに示した 3つの動学的理論問題について、第 1と第 2の動学理論問題は、
解説書や諸研究でしばしば取り上げられ、前者は「不安定性原理Jの解釈や定式
6
不安定性原理とハロッド二ド - 7
ー型経済変動成長理論
化論争の問題となったし、後者は新古典派成長理論の出現により問題はあるもの
の長期分析による一つの解決を見た。これら 2つの問題を重視してハロッドー
1
9
7
5,
ドーマー型経済変動成長理論を捉えるのはごく普通で、、ジョーンズ(Jones[
c
h
a
p
.3
J
)や末永 [
1
9
7
4,第一部
1, I
V・3Jなど多くの文献で言及されている。
しかし、第 3の動学的理論問題もそれに含まれるとする明示的な捉え方は少なく、
ハロッドとドーマーでは均斉成長が目標として重視されているため、その第 2の
問題と外見上の違いが見えなく、ほぽ同ーの問題意識の内に両問題が扱われてい
るようである。むしろ、定式化などで明瞭に識別されるため、新古典派の最適成
長理論が、一般には代表的な最適経済成長理論ということになっている。固定係
1
9
6
9,p
p
.1
2
8
1
3
0
J
) はあるが、
数生産関数の下での新古典派定理の研究(木村 [
この種の最適成長モデルは形式上類似のものが内生的成長理論で扱われているこ
とを除くとほとんどない。
本書では、上でも触れたよフに、第 1と第 3の動学的理論問題と若干の応用政
策理論的な動学的問題とを考察するけれども、以下の諸分析はどれも、その第 1
の問題に関する分析でさえ解釈論的な色彩は薄〈、ハロッドとドーマーによる研
究での基本的な諸要素に立脚しつつも、拡張的なモデル考察を展開する。つまり、
本書での考察の目的は、ハロッドドーマー型経済変動成長理論の手短な吟味とそ
の一般化により動学的な説明力に優れた改良ないし拡張モデルを新規に提示し、
この諸性質を分析することであり、またこフしたモデルを用いてマクロ動学的な
応用問題に適用を試みることである。したがって、以下及ぴ全体での本書の考察
は、古典的なハーンマシューズのような広範なサーベイや論争についての整理を
行うことはなく、諸文献についても必要以上に言及することはない。なお、ハロッ
ド=ドーマー型経済変動成長理論という表現を用いているわかり易いもう一つの
理由は、多くの理論材料がハロッドに由来するに対して、分析の特色となる主要
(
4
) HeninandMichel [
1
9
8
2
J は投資率と雇用率による動学的利潤最大化でハロッド的な不均
衡経済成長経路を合理的に説明するモデルを提示しているが、これは最適成長ではなく普通の
実証的理論としての成長モデルである。また、最適経済成長理論については大住 [
1
9
8
5
J、斎藤
[
1
9
9
6
J、小野 [
1
9
9
2
J、吉川 [
2
0
0
0
J、 Romer 日9
9
6
J、脇田 [
1
9
9
9
J も参照。
(
5
) 文献は HahnandMatthews [
1
9
6
4
J である。
第
1章 ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
7
な変数として、経済の現実に基づく実行可能性を考慮したドーマ一流の定義て。稼
働率を用いてることである。
また、本書での以下の諸分析と同様の資本稼働率に注目した先行研究に、鴇田
[
1
9
7
6,第 6章]がある。この研究は、設備稼働率を主要な新変数とする「稼働
率で修正された加速度原理」を採用して分析の一般化を試みたが、それ以外のモ
デル設定は初期の諸ハロッド研究の成果にほとんど依存したもので、必要とも思
えない不安定性原理の動学的方程式をアド・ホックに導入するなど、モデルの過
剰な解釈論的定式化にもかかわらず、ハロッドの不安定性をやや詳しく確認する
という、その造りから当然とも思える結果以上に新しい成果は見出せず、結局新
1
9
8
2,第 8章]
変数の役割がほとんど活かせていないように見える。また、足立 [
も、稼働率を主要な変数の一つにしているが、その場合稼働率は、雇用・資本比
率のことで、資本設備の稼働率も意味するが、ハロッド的な不安定性を詳細に確
2
0
0
0
J
認している。また、本書の考察や諸分析とは関連が深くないが、最近の難波 [
は、学説史的考察やニュー・ケインジアン風の合理的なモデル分析、及び、ハロッ
ド置塩型投資関数に基づき解釈論的だか企業財務の側面で若干の拡張が見られ
る分析などを試みている。
なお、内生的経済成長理論については本書の考察がその分野と関連が薄いので、
以下では全く言及きれないが、別の機会に触れてみたい。そして、この第 1章の
残りの部分は、かつて論争的な話題となったハロッドの「不安定性原理」に関す
る手短な吟味に充てられ、また同時に以下の諸章で展開きれる諸分析の出発点と
きれている。続〈第 3節では♂(三所望貯蓄率
Sd)
とC
. (三必要資本係数 Cr)
の存在をそれぞれについて証明し、したがって、保証成長率 G却の存在が証明さ
れる。その際、 G却が経済学的な意味として均衡成長率の含意を持つということが
(
6
) より詳細な理解には、 J
o
n
e
s[
1
9
7
5,c
h
a
p
.3,3
.7
J を参照。
(
7
) ロビンソン的な要素を取り入れて、足立 [
1
9
8
2
. 第 8章]は、稼働率を主要な変数の一つに
するが、稼働率は雇用・資本比率(ニ雇用量と資本ストックの比)のことで、資本設備の稼働
率も意味し、さらに保証成長率概念を分裂させた期待成長率や特別な均衡成長率、長期期待成
長率などを導入しでも、ハロッド的な不安定性を詳細に確認する考察にすぎず、代りばえのし
ない不明瞭な要素ストックの制約も手伝っていたずらに議論を難解にしている。
8
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
わかるであろう。すなわち、 G却は、短期的側面では、代表的経済主体という平均
的な意味で社会的なある望ましい成長率として位置づけられるのである。第 4節
では、具体的な動的体系が特殊な形で与えられて不安定性原理の可否が問われる。
第 5節では、第 4節の補足と若干の結論が含められている。
3
. 保証成長率の存在
いわゆる[不安定性原理」は、初期のハロッド (
Harrod[
1
9
3
9
J
) よりも後の彼
r
r
o
d[
1
9
7
3
J
)において形式的に一般化されている。すなわち、所望貯
の文献(Ha
dが現実貯蓄率
蓄率 S
S
と区別され、 S
dは保証成長率 G即を構成し、一方、 sは
現実貯蓄率 G を構成するようにハロッド (
Harrod 口
9
7
3
J
)は
、
S
とらを与え
ている。しかも、彼は G卸が一意な値を持つものと想定する。ただし、保証成長
率 G却は、形式的にはね/C
C
r (
r=必要資本係数)に等しいものと定義されてい
るが、本質的には S
=Sdかっ C=C
C=現実資本係数)であるところの G の
r (
ある値と、強い意味合いで定義されている(Ha
r
r
o
d[
1
9
7
3
Jの第 2章の前半を見
よ
)
。
=Sdかっ C=c
γ なる G却のその定義を考慮して不安定性原
以下においては、 S
理を形式的に例証しようと試みる。なぜなら、例えば、和国 [
1
9
7
5
,1
9
7
9
J が指
Harrod[
1
9
7
3
J
)は彼自身不安定性原理の説明に成功
摘しているようにハロッド (
1
9
7
5,1
9
7
9
J はこの困難を克服しようと
していないからである。ただし、和田 [
努力しているが、上で指摘した G却の強い定義を採用せずに一般的な G却につい
て検討している。以下でも主にこの弱い定義、例えば G即 =S~/C~= (2s~)/
(
2
C~) =s~/C~ について不安定性原理を考えるであろう。
不安定性原理の研究において最も重要な役割を果たすのが企業家の主体的行動
である。従って、経済主体の行動を幾分詳細に分析することがこの原理の本質を
解明するために必要とされるのは当然で、ある。議論に先立つて、いくつかの形式
的な準備を整えておくのが物事の自然な手順であるが、その前に若干用語につい
て注意しておくことは有益で‘あろう。以下では、分析の対象がマクロ経済に限定
される。ただし、マクロ経済とはその経済における全ての経済主体の行動が社会
的平均としてのある代表的経済主体の行動によって完全に代理できると想定きれ
第 l章
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
9
る経済として定義されている o したがって、代表的経済主体についての議論はマ
クロ経済の仮定の下では常に平均的な意味で社会全体についての議論となる。即
ち、代表的経済主体の行動で社会全体の経済行動を代替的に表現できると想定す
ることがマクロ経済の仮定の意味である。
ただし、この節で用いられる数学的用語については、ドブリュー (Debreu
[
1
9
5
9
J
)及び鈴木 [
1
9
5
9
Jが参照されてる。また、この節で登場する諸変数は通
常のものと同様で、、例えば、九三予想、所得、九三所望所得、 K =資本、 S三貯蓄
であり、右下の
e は予想、を、右下の
d
は所望量をそれぞれ表わしている。
定義 1 ある経済主体がいくつかの変数に関するの予想値と所望値のそれぞ
れについて彼自身の判断により明らかな数値をいかなる状況の下でも常に有し
かつはっきりと提示できるとき、そのときに限り彼は明噺主体と呼ばれる(あ
るいは、彼のような経済主体は明断であると言われる )
0•
定義 2 ある経済主体がいくつかの変数の予想値と所望値の全てについてそ
れらの内のどの変量も必らず他の変量と一価連続な関数関係を持つものとして
o
.
諸変量をそのように常に把握ないし評価して彼自身の行動を規定するとき、そ
のときに限り彼は整合的である(あるいは整合性を持つ)と言われる
定義 3 明断かつ整合的である経済主体は作動主体(あるいは作動性を持つ)
o
.
と言われる。全構成員が作動主体である経済は作動経済(あるいは作動性を有
する)と言われる
これらのことから以下のことがわかる。マクロ作動経済を想定するとき、我々
は一般性を失うことなく分析の関心を代表的作動主体に限定することができる。
1K
代表的作動主体は、定義から明断であるから、 K や Y の増加分を表わす変数 ,
(
8
) Debreu[
1
9
5
9
] と鈴木 [
1
9
5
9
]で、特に前者の最初の章と後者の巻末の数学付録が有用で、あ
る
。
1
0 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
やL
lY についての予想値、及び、所望値を意味する諸変量、それぞ、れ、 L
IKe及
IKdと
、 L
I}ミ及び L
IYdとを考えることができる。きらに彼はこれらの諸変
びL
)
量の聞に適当な連続関数関係を見つけることができるから、 L
IKd=F (
L
IYd
、
L
IKe=G (
L
I乙)なる関係方程式を 2本立てることができる。
所定の生産技術の下では L
lYが上に有界であり、また下方有界は Y の非負性
lK の有界性も自明である。明断主体にとって L
lY 及び L
lK の可
から明らか。 L
IY
能な区間は聞と考えることができる。(複雑な経済状況下で、例えば、彼が L
eの
値を決める問題に直面してるとすると、彼の経済行動的思考は A 乙 の 可 能 な 区
間上での点列によってその困難な過程を表現されるかもしれない。このとき彼の
決める特定の値はそのような長〈複雑な点列が収束するところの触点で表わさ
れ、定義 1から明断主体はこのょっな点を選出することができなければならず、
従ってこのような点は全て変量の可能な区間に含まれねばならない。)つまり提示
された 2関数のグラフはコンパクトになり、またグラフは平面上の長方形を成す
ので凸となる。それ故、 F-1X G: (
)なる連続写
L
IK
d
'L
I乙)→ (
L
IKム L
IY
d
像を考えると、不動点定理から次の定理が成立する。
定理 l マクロ作動経済においては、(i)必要資本係数が少なくとも 1つ存
在する。(i)必要資本係数は企業主体にとって望ましい。.
ここで、(i)は不動点つまり主体的均衡点の定義を確認すれば容易に知られ得
=L
る。すなわち、不動点では L
lK戸=LlKd か っ L
IYe
IYd だから、 (
L
IK
e
)/
(
L
I乙)= (
L
IKd)/ (
L
IY
d) となり、この左辺は必要資本係数を表わしており、
一方その右辺はその左辺が望ましい値であることを我々に教えている。これまで
の所で考察の対象とされていたのは企業主体であったが、同様の考察を消費主体
に適用する必要がある。前と同じくマクロ作動経済を想定して、消費者としての
IS
e、L
IS
dないし L
I}
二
、 L
I}乍なる諸変量について、
代表的作動主体を考えれば、 L
)なる連
ISe=H(
L
I乙
)
、 L
ISd=
J(
L
IYd
主体は定義 2から整合性を持つから、 L
(
9
) 有名なブラウワーの不動点定理である。
第 1章
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
1
1
続関数を考えることができる。さらに L
1Y の、従って..15 の有界性から..1S
e
、
.
.
1S
d
、L1}二、..1Y
dも全て有界区間で定義され、また主体の明噺性から、それら
全てが閉であると考えられるので、 H と f とは同ーのコンパクトなグラフを持
)
.
.
1S
e
..
.
1Yd
→(
.
.
1S
d
. ..1乙)
つ。したがって、全く前と同様にして、 H-lXJ:(
なる連続なそれ自身への写像を考えることで次の定理が成り立つ。
定理 2 マクロ作動経済においては、(i)所望貯蓄率が少なくとも 1つ存在
する。(i)所望貯蓄率は消費主体にとって望ましい o
•
ここで(i)は、..1Se=.
.
1S
dかつ..1}
二=
.
.
1Ydより明らか。すなわち、 (
.
.
1S
e
)/
(
.
.
1乙)=(
.
.
1品)/ (
L
1Yd) となっている。上でもっぱら限界貯蓄性向について
のみ議論してきたが、これらのことは平均貯蓄率にもそのまま全く同じく適用さ
eを S
eに、..1S
dを S
dに、..1}二を乙に、..1Ydを 九 に 置 き
れる。実際、..1S
換えるだけでそれ以外の変更は何ら全く必要で、なく、しかも定理 2はこの変更に
もかかわらず成立する。ただしその場合乙や Yd の有界性を別に示す必要があ
るが、短期的には生産関数のような技術条件によって上限を有すると考えられ、
下限も明らかだから、凸かつコンパクトなグラフが容易に理解できるだろう。い
ずれにしても妥当な条件を加えることで、定理 2が平均貯蓄率に関して厳密に成
立することがわかる。以上で提出された 2つの定理を総合することによって、我々
は次の定理に到達する。
定理 3 マクロ作動経済においては、 (i)保証成長率が少なくとも 1つ存在
•
する。(i)保証成長率は企業及び消費者の両方の経済主体にとって望ましい。
た だ し (i)は、保証成長率の実行可能性を何ら全く含意していないので、留
保条件つきの望ましさを意味しているにすぎないということに注意すべきであ
sかっ C
る。また、♂ =
事
=cならば♂ /c*=s/cだから、保証成長率が実行可
能であるとき、それが望ましい成長率であるのは明らかである。しかし、最初に
1
2 不安定性原理とハロッド=ド - 7ー型経済変動成長理論
注意したようにここで主張された望ましさとは、代表的主体という社会的に平均
的な意味にすぎず、しかも短期的な側面に重点が置かれた主体的行動に関係して
いるだけで、長期的側面が厳密な仕方で考慮きれていないのである。それゆえ、
定理 3を長期に一般化することは今後の課題である。
4
. 不安定性原理の諸表現例
定理 1及び定理 2では、それぞれ、企業主体及び消費主体の、願望と予想との
調和一致という主体的均衡が問題にされていた。 ,
1K を縦軸にとり、横軸に ,
1Y
をとった平面上に関数 F と G とを描けば、それらの交点と原点とを結んだ直線
1 Y の平面
と横軸とでできる角の傾きが C*の値であった。どうように,1S と,
,
1Y) からできる
上で H とJを考え、それらの交点と原点を通る直線と横軸 (
傾きが♂であった。 C事と♂とは別々に独立に導出されたわけだから、 G却はそ
れらの比で表わきれるが、しかし重要なのは 1つの分数としての
Gw ではなく、
その分子と分母の個々の Cホと♂とであるというということができる。
定理 3で示されたように G却は、平均かっ短期的な意味で社会の望ましい産出
成長率を与えるが、しかし社会の各部分、すなわち、企業主体と消費主体、の所
望するものと両立するときにのみ G
ω はその意味で社会的に望ましい。つまり、
C=C*かつ s=♂が同時に成立するときそのときに限り、 G はその意味で社会
的に望ましいのであり、それらのいずれかの等式が満たされないときは Gw=G
であるとしても、もはやその G は望ましくないのである。なぜならその場合、社
会のある部分が少なくとも不満を表明するはずだからである。 G即と G とのあい
だに差異が生じるのは、いかなる個人も無力となるような大規模な経済の下で、
諸経済活動が、移り行〈市場過程と共に徐々に進行する変移局面のなかで、産出
の変動を考えているからであり、すなわち、不可欠な要因としての予想は、失敗
する可能性が極めて高〈、またしばしばそうなるからである。所望と予想が一致
しでも、これが現実と調和するとは限らないのであり、むしろ逆にそれらが一致
することはあまりないであろう。
H と G とは、習慣化した経済活動の繰り返しの経験から得られるものと考え
られるから、おそらく安定な関係であろフし、また遂行上の便利さなどから、♂
第
1章 ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
と C事とは一定であるものと想定する。 C と
S
1
3
とは市場過程の結果として、社
会全体の経済活動の相互作用を尽くし、総合して最終的に結果きれるものである
から、個人の力の及ぶ所にはないが、しかし企業主体は C に影響を与える最も有
力な社会部分であり、 sについては消費主体を考えるのは自然だ。このことは
S宇
♂ ま た は C宇 C本なる場合に、引き続いて生起する調整的な変動において、中心
的な役割を果たすと考えられる。
C*と♂とは主体的行動の様式的中枢を成すものであり、従って G却は具現さ
ω は経済の動的過程上での平均かつ短
れた社会全体のそれである。換言すれば、 G
期的な社会的予定を意味している。したがって所定の経済活動の結果において、
各主体が彼の行動の予定したものと、実践により得られたものとを比較照合する
ことで、彼の事前計画を実証するとき、そこに差異が認識されたならば、彼はそ
れを相殺すべき手段として、彼自身の以後の行動を調整する必要に迫られる。す
なわち現実の G と予想し所望した事前の G却との間に差異が生じるとき、社会
は何らかの調整行動をとるに違いない。このような調整は各変数の現実の絶対的
な値を管理することはできないが、しかし変数の増減方向を左右することはでき
ると考えられる。
ω であれば G が増大し、 G<G
聞ならば G
定義 4 不安定原理とは、 G>G
が減少するように G が調整されることである。(当然、 G=G
却なるときその
ときに限り G は全く何ら調整されず G加の値に留まったままとなる。)・
定義 5 5と C に関する非同次の線型連立常微分方程式体系、すなわち、
r5=α(5-5*)
(A) j
l
C=b (C-Cホ
)
は主体分立系と呼ばれる。ただし、 α=const.>0、 b=cons
t
.
>0とする。.
命題 lもし aニ bならば、マクロ作動経済では、主体分立系 (A) は不安定
性原理を含意する十分条件で、ある。.
1
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
G の成長率は、 G/G=s/s-C/C、と求められ、ここで
S
と C とに (
A)
を代入すれば、簡単に、
G/G=α-as*/s-b+bC*/
C
を得る。さらに α=bを考慮、して若干整理すれば、
G=αC
*/s (s/C-s*/C*) G
となり、 G と G却の定義を考えれば、
G=aC*/C (G-C
却
)
であるから、従って、 C>Oに注意して、
s
g
n [GJ=sgn [G-Gw
J
.
これは不安定性原理の定義 4と同値。
例 l もしも、ある「マクロ経済Jが、次の非同次連立常微分方程式体系、
(B)
rs=a' (G-G
即)、。'>0、
i. ー
l
C=b' (C -G)、 b'>0、
即
によって支配きれているならば、そのとき、そのマクロ経済は不安定性原理に
'と b
'の値はそれぞれ正の定数とする。.
よって支配されている。ただし a
命題 1と全く同様に計算することで簡単に例 1が確かめられる。実際、
G/Gニ ゲ/
s (G-Gw)-b'/C (
C G
)
山一
となるから、整理して、
G= {G・(ゲ /s+b'/C)} (G-G
)
w
とでき、この右辺では{・・}>0であるから、したがって、
s
g
n [GJ=sgn [G-GwJ
となるのが明らかにわかる。ただしここでは G>Oかつ C>Oと想定してる。
命題
1は αヰ bならば成立しないが、しかしその場合主体分立系 (
A
) がいか
なる動的様相を程するかを調べることは興味あることである。主体分立系の経済
的意味はその単純な方程式形態から明らかであろう。即ち、貯蓄に影響を与える
ことができるのは貯蓄主体のみであって主に消費主体がその中心を成しており、
第 l章
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
一方資本係数を左右するのは企業主体
1
5
第 l図
のみであるという社会的な決定力の有
力性についての集合的な主体分離を
s
(
A
) は含意している。
¥
あろう。敢えてその時の体系の動きを
図示すれば、右の第 1図のようになり、
/
¥
G弓I
=
.b なる場合の不安定性は自明で
/
タ
げ
、
平衡点 (Cヘ s
*
)は全く不安定な点で
あり、不安定性原理の定義 4をはるか
にしのぐ強力な、いわば、完全不安定
性原理あるいは点不安定性原理とでも
c
*
O
C
言うべきものが経済の動的過程を支配している。その用語に従えば不安定性原理
は点不安定性原理の 1つの特殊な場合として解され得る。次に若干、例 1を拡張
しておこう。
命題 2 もし、「マクロ経済」が次の符号決定の非同次連立常微分方程式体系、
(
B
'
)
r
s
g
n[
s
]=s伊 [Gー ら )]
i- .
=
_
-l
s
g
n [C]=sgn [
C-G]
叩
で支配されるならば、不安定性原理がその経済を支配している。.
まず G/Gの符号を調べる。変数の定義自体を考えると、
s
g
n[
G
/
G
]=sgn [s/s-c/C]
であるから、この右辺に (
B
'
) を代入したものが定義 4を満足すればよい。それ
B
'
)から [
C
D
C
D
]でプラスとなり、
ゆえ、 G>G
w ならば、上式の右辺は (
ならば明らかにゼロであり、
わかる。それ故、
G=G
却
G<G
w ならば、その右辺は [8θ]で負となるのが
(
B
'
) が不安定性原理を含意する。
しかしながら、定義 4の下での不安定性原理を主体的行動の特性から導くこと
は上で提出されたようないくつかの特定の条件に強〈依存するためそれ以上の一
般化を許きれないと考えられる。 G と G却との相違に整合的な方式で
Sや
Cと
1
6 不安定性原理とハロッド=ド - 7ー型経済変動成長理論
子 や C* との差異が対応するかどうかが不安定性原理の適用の可否を決めるの
である。つまり、
C の変動が、 G と G却の相違と主体行動特性との聞のい
Sや
かなる関係に依存しているか、ということが重要なのである。いずれにしても、
主体行動を基礎にして不安定性原理を一般的に説明ないし表現することは困難で、
ある。最後に、もう少しこの問題を形式的に検討しよう。
今
、
Sや
C の変化が s* や C事などのいくつかの定数を含む何らかの関数に
よって規定されると想定し、これを次のように与える。
(C)
rC=f (
C,s)
1
l
s=g (C,s
)、
fとg は連続微分可能と仮定する。次に、この体系 (C) をその平衡点
Cヘ s
*
)を唯一の平衡点と仮定すれば、
の近傍で線形近似して得られる体系は、 (
ただし、
i
[x v
〆
、I1111111ノ
b ,
α
Gc
一
一
l
l
Fし
(
)
-x・y
[
次のように表わされる。
ただし、 x=C-C*かつ y=s-s*である。また、係数行列は平衡点近傍でのヤ
Iである。
コビ行すJ
体系(C')の平衡点
(
x
,y
)=(0, 0)が鞍点であるものと仮定する o 従って、
C
'
)の固有値は異符号の非ゼ口実数となる。ここで、負の実根のみを考え、
体系 (
1に対
これに対応する直線軌道を(C')の相平面上で考慮するとき、負の固有値 λ
する直線軌道の傾きは、 y/x=c/λ
(l-d)、ただし
正の実固有値んを適当に与えて、さらに、
C宇
Oと仮定、と求められる。
c
/λ
( l-d)=s*/c* と仮定するなら
ば、下の第 2図から明らかなように、不安定性原理が成立する o しかしながら、
体系(C')がこれまでに提示された体系よりもわずかに形式的一般化に成功してい
ると見ることができるとしても、加えられた諸条件がいかなる経済学的含意を
(
制
。
持っているのかということについては何もわからない。
1
(0
) なお、ここでの数学的な手法の詳細は、 Haberman[
1
9
8
0
Jの第 2部の微分方程式のところ
を参照するのがわかりやすくてよい。
第
1章
ハロ
y
ド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
1
7
第 2図
F
c
*
c
*
x
ーーーーーーーーーーーーーーー句『ー・ー・'- -s
*
5
. 不安定性原理に対する理解
S
*ゃ C取の存在を示した諸定理からわかるように、 s
*や C*の値は必ずしも
1組だけが存在するとは限らない。もちろん、適当な諸条件をそれらに関する諸
関数に課すことで♂と C*の一意性を確保することは容易で、ある。しかし、一
意か否かということは先験的に判断することはできない。にもかかわらず所定の
時間区聞の下で、いかなる個人も彼自身の行動を継続的に決定し実行する必要か
ら逃れ得ないのであるから、もっと短いある時間期間に限定すれば、確定的に実
行可能であるためには、唯一組 (C*,S事)を想定することから議論を進めるとい
う手順は、必要で、はないがしかし十分に承認されるにちがいない。
いずれにしても、重要なことは、 s
*を決定するのが代表的な消費主体であり、
また、 C* を決定するのが代表的な企業主体であるという極端な単純化の想定で
あり、さらに、この想定によって議論の本質はほとんど影響きれないということ
である。前節の主体分立系
(
A
) はこのような想定に基つ守いていたが、その系の
行動的経済的意味はあいまいである。例えば
S
tを再度考えてみることにしよう。
1
8 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
もし、 S
t
>♂であったとすると、分立系 (A)によれば、 S
t
>0とならねばなら
> 0を含意するこ
ず、このときもし C*=C
tとなっているならば、 Gt>G
w が Gt
とになる。しかしながら、 S
t
>♂の場合は現実の貯蓄が過剰となっている場合で
あるから、そのとき人々は、消費をよりいっそう増大させて正常な状況での貯蓄
量を下回るように、貯蓄計画の修正を次期で行うであろう、と考えること、すな
わち、 S
t
=α 何
事
S
t
) なる方程式を想定することの方が自然であるように思われ
Harrod[
1
9
7
3,p
.3
4
/邦訳:p
.5
2
J
) での想定の一部
る。このことはハロッド (
と合致するが、もしそうならば、前節の第 l図で示されたような点不安定性原理
の状況を回避することができ、平衡点は鞍点で与えられることになる。しかしな
がら、この場合、不安定性原理を導くことはできなくなるのである。
すなわち、主体分立系 (
A)はハロッド (Harrod[
1
9
7
3
J
)の文脈を反映せずむ
しろ異なった含意をもっているが、先に提出した不安定性原理の定義を与える定
義 4に適合する可能性を持っている。従って、適当な場合を想定して常に命題 1
が成立するならば、そのとき、もしハロッドの想定を受け入れるなら、不安定性
原理が失われるであろうし、逆に不安定性原理を保持するように主体分立系 (A)
を受け入れるのなら、ハロッドの想定を捨てなければならないだろう、と言うこ
とができるかもしれない。つまり、このことは、単純には、不安定性原理の表現
H
a
r
r
o
d[
1
9
7
3
J
)の想定とがある特殊な場合においては、全く対立し、
とハロッド (
したがって両立することができないということを意味している。このことと同様
な矛盾を例 1についても考えることができるに違いない。このように、特殊な場
合にすぎないけれども、定義 4の不安定性原理とハロッド(Ha
r
r
o
d[
1
9
7
3
J
)の想
定との二者択一という矛盾は、不可避的な困難なのである。
これまで、主に、 G聞の弱い定義を用いつつ、その強い定義の含意を動学体系に
微分方程式という形に反映させることで分析が進められてきた。もし G却の強い
定義、すなわち S=♂ か つ C=C事なるときそのときに限った G の値を G却と
すること、をそのまま採用して不安定性原理を考えるならば、この強い不安定性
原理にちょうど対応するものが「点不安定性原理j ということになる。例えば、
任意の正の定数 m ヰ Oについてど =ms*かつ C'=mC* となっているならば、
ゲ/
C'= (ms*)/ (mC*) より、
(
S
'
/
C
'
)= (
s
*
/
C
*
) となるのは明らかであるが、
第 I章
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
s
'ヰ♂かっ C'宇 C*であるから s
'
/C'*-C
即となるのである。すなわち♂と
1
9
S及
び C* と C のf
直の差異が重要なのである。
命題 1に比べて例 1の経済的意味はわかりやすい。代表的個人が消費主体と企
業主体の両面性を持っとするならば、それら両方の所望きれる行動パラメーター
と整合する G却は、社会が平均かっ短期的な意味で所望する成長率である。もし
G>C
却ならば、代表的経済主体は、彼の望む成長率よりも高い成長率が実現され
たため、つまり保持すべき成長率として望ましい Gw よりも G が大なので、そ
の期の G却を保持し続ける理由はなく、その比較的大きな現実所得に対応して、
彼の現実貯蓄をいっそう拡大しようと計画を修正し、かっこのように行動するは
ずである。言うまでもないが、この場合 G即は弱い定義、すなわち G即=(s*/C勺
によって与えられている。
♂なる s
'とc'からなる G と ら
強い定義については、 s'=ms事かつ C'=m
との聞の動的過程があいまいとされる。他方、弱い定義の下では、 s
'と C
'の
G
が社会によって保持することが、望ましい成長率かどうかは、♂と C事とが行動
パラメーターであることを考えれば、貯蓄と所得の相対水準を無視できないから
多分に疑問である。そしてこれら両者に、それぞれ、主体分立系と例 1とが対応
している。強い定義は G却の経済学的含意の側面を特に重視した定義であるが、
他方、弱い定義は方程式としての分数という形式的側面に重きを置いた定義と
なっている。
このような定義の差異は、統一することができないように思われる。にもかか
わらず、このように異なる 2つの定義を並置したままで、不安定性原理を説明す
ることが困難であるということは、すでに示されたように明らかである。ハロッ
H
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1
9
7
3
J
)の失欺は、まさにこの点にあったのである。この不備を除去
ド(
するためには、きちんと G却を定義することで上の 2つの定義を統一的に統合し
て、整合的な方程式を打立てることが必要で‘ある。さもなければ、前節のように、
特殊な方程式体系を具体的に想定することで、特定の場合に応じて不安定性を説
明するしかないのである。
換言すれば、
S
と ♂
とを区別することによる
G即の一般化は、ハロッド
(Harrod[
1
9
3
9
J
)の中には存在しなかった定義上の不備を生ぜしめたために、失
2
0 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
敗に終わっているのである。このことはあたかも数直線上の元の大小関係を、 2
次平面上へそのまま適用しようとするようなものである。
1次元で成立する規則
を
、 2次元にあてはめようとする素朴で、素直な人にハロッドは似ている。彼は、
m <ρ、 n<qなるとき I次元の規則を容易に適用でき、 (m,n
)< (p, q) と
するであろうが、しかし一方、 m'>p'
、n
'<q'であるような (
m
',n
'
)と (
p
',
q
'
)との間に何とか大小をつけようとする彼の努力は、一切、無駄な苦労なのであ
る。重要なことは 1次元の規則を捨てて新しく 2次元のための他の規則を見出す
7
5,p
.2
6
J にも似た指摘がある)。
ことであろう(和田(19
第 1章 参 考 文 献
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1
9
9
9
Jr
経済発展論入門』東洋経済。
足立英之 [
1
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J 経済変動の理論J 日本経済新聞、昭和 5
7年
。
秋山祐
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.Pr../駄田井正・他訳『経済学の歴史
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物・理論・時代背景』多賀出版、 1
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lan./佐藤隆三・大住栄治訳『テキストブック
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代経済成長理論』勤草書房、 1
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m,NewYork:Wiley,1959./丸山徹訳『価値の理論』東洋経済、
昭和 5
2年
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/Economic Growth,London:
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.
/宇野健吾訳『経済成長の理論』東洋経済、昭和 3
4年
。
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J 開発の政治経済学』日本評論社。
絵所秀紀 [
Haberman,R
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第
l章 ハ ロ ッ ド = ド - 7ー型経済変動成長理論と不安定性原理の表現
2
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竹之内悠監修・稲垣宣生訳『個体群成長の数学モデル』現代数
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s,London:Macmillan/高
8年
。
橋長太郎・鈴木諒一共訳『動態経済学序説』有斐閣、昭和 2
Harrod,R
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.,[
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conomic向 mamics,London:TheMacmillanPr./宮崎
義一訳『ハロッド経済動学』丸善株式会社、 1
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。
磨・福岡正夫訳『資本と成長 1.I
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J 現代の経済理論』東京大学出版会。
岩井克人・伊藤元重 [
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:ThomasNelson/松下勝弘訳『現代経済成長理論』マクゃロウヒ
6年
。
ル好学社、昭和 5
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J 経済成長と技術進歩』中央経済、昭和 4
4年
。
木村吉男 [
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3年
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構築』日本経済評論社、昭和 5
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貨幣経済の動学理論 ケインズの復権』東京大学出版会。
[
1
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5
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長期経済計画の理論的研究』勤草書房。
2
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J ハロッド経済動学の研究』多賀出版、 2
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。
難波安彦 [
小野善康
大住圭介
Robinson
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Macmillan/LlJ田克己訳『経済成長論J東洋経済、昭和 3
8年
。
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s,McGraw-Hill./堀雅博・他訳
2
2 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
『上級マクロ経済学』日本評論社、 1
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8年
。
Rostow,W. W.,[
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.Pr../木村健康・他訳『経済成長の諸
Man
段 階Jダイヤモンド社。
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8年
。
佐藤隆三『経済成長の理論』勤草書房、 1
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J 新しいマクロ経済学
斎藤誠口 9
クラシカルとケインジアンの選遁』有斐閣。
Sen,A
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y,Oxford:TheClarendonPr・./福岡正夫訳
6年.
『成長理論』岩波書庖、昭和 4
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ゲームの理論』勤草書房。
鈴 木 光 男 口9
末永隆甫 [
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J 成長と福祉の近代経済理論』世界思想、社。
Swan,T
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J マクロ・ダイナミックス(現代インフレーションの基礎理論)j
東洋経済。
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J 経済成長と資本の理論J東洋経済、昭和 5
0年
。
和田貞夫 [
1
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JI
不安定性原理と景気循環」経済研究(大阪府立大学)、第 2
4巻
、
和田貞夫 [
4年 (
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)。
第 2号、大阪府立大学経済学会、昭和 5
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現代マクロ経済学J創文社。
1
9
9
9
J マクロ経済学のマースペクティブ』日本経済新聞社。
脇田成 [
吉川洋
2
3
第 2章ハロッド=ドーマー型変動成長理論と
擬似ハロッド模型
1.基本的なモデル設定と分析目的
現実の世界では、いくつかの国々で再び失業の長期化が重大な問題として匙り
つつある。この事実は、新古典派 (
Solow [9J
、また S
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zandUzawa [
1
0
J
にも初期の諸研究が収められている)が簡単にあしらったような単純な問題では
なく、不均衡動学としての周知のハロッド=ドーマー型経済成長理論のより精密
な再吟味を我々に要請している。相対的に見れば、動学的な投資の不安定性を特
に強調したハロッドの理論 (
Harrod[3J
)はそうした、なかなか失業が解消され
ない動学的分析には適している。しかし、彼の理論表現にはアイデア豊富な面と、
時として大胆な主張と多々あいまいな論述が混在しているため、誤解やら早合点
をしばしば誘発させてきた。そこで、以下では、 ドーマーにも共通するところも
あるけれども、主にハロッドから重要と考えられる諸要素を適宜抽出して、一層
明瞭な変動成長的な動学モデルを構築し、これを分析するものである(多種の動
a
n
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o
l
f
o [2J参照)。
学分析手法の要点比較には G
しかし、行われる考察は、ハロッド理論 (
Harrod[4J
)を忠実に解釈するとい
うことではない。むしろ、その要素を含んだある意味で一般化された動学的な模
型を陽表的に構築すること、及びその模型の巨視的特性を標準的な手法を用いて
動学的に分析することである。つまり、この擬似ハロッド模型分析を通して、ハ
ロッド的経済動学の一部を明らかにしようとするものである。従って、関心の重
点は、動的経済過程における模型の安定性に置かれている。
まず、諸変数の記号を提示しよう。 S:総供給、 D:総需要、 Y:実質総産出量、
L:総労動力存在量、 K:総資本存在量、 K:稼動資本量、 L:雇用量、 α:資本
:社会の平均消費性向、 s
:社会の平均貯蓄性向、 k:投入要素比率、
の稼働率、 c
v 資本の平均生産性、 1:粗投資、 C:総消費量、 R:総利潤量、
減価償却率、
φ:雇用の平均生産性、
β:操業時間、
W . 賃金率、
δ:
γ:標準操業時間、ただし、
2
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
諸変数は社会的なものである。また、 K と L は投入量を意味する。以上が登場
する変数の総てではないが、一応基本的な変数が提出された。後に必要に応じて
新しい変数が導入されるであろう。次に、 u、h、α及び、 φについて基本的な諸仮定
と若干の定義を与えよう。
(1)
ν三 Y/ {(β/γ) .K}.
(2)
k三 {(β/γ) ・K}/L. 0<γ=const
.
(3) α 三 {(β/γ) .K}/K. andφ=Y/L.
ここで基本的な想定を一括連記して与えておしまず、産出物は、資本財にも
消費財にも使用でき、これらは、単一種類かつ同質で、ある物理的単位で測定さ
れ、細分可能とする。 K は、生産に参加する場合、必らず βの間完全に稼動し途
中で休止しない。労働力は同質で、総労動時間で表示される。ただし、任意の労
働者一人の労働時間は、その最大値を社会的に一定とされ、雇用は可能な限りそ
の最大値に基づいてなされる。産出物はすべて供給され、次の技術条件に従う。
(4) Y=Min [
vK. φ
L] なる社会的生産関数が存在する。 (K三 K ・β/γ)
生産、分配、供給、及び、消費は瞬時に完了する。ただし分配は完全で、あり、
、
また、消費財は消費により物質的に完全に消失する。 cは
えられ、 Y について定義されている o
力供給は、企業の提示する
W
o<c<1で一定に与
kとuは、それぞれ正の定数である。労働
と雇用に全く受動的に対応するが、その水準で労働
者は生存可能とする。 γは正の定数で技術的に与えられているものとする。変数に
ついての微分可能性は適当に与えられているものとする。
この他に、基本的に政府部門や対外部門は、民間部門に対してほとんど影響し
ない活動をしているか、または存在しないと仮定する。従って、我々の模型は実
(
1
) すなわち、操業時聞は Yの単位て映表示されることになり、従って、資本の物理的量だけでな
くその時間量も重要な生産的要素となっている。
(
2
) 労働力の雇い入れや交換、投資などの総ての経済的諸行為が瞬時に完了するものと仮定する
のである。従って、体系の動的過程を支配する独立変数である時聞は、事後過程であり、かっ
連続に取り扱われるものと仮定する。
(
3
) yやβ及び労働時間と、後に導入される支配的な独立の時間変数とは全く無関係で、ある o それ
らは、あくまで生産の活動的側面の中でのこととして考えられているにすぎないのであり、形
式的には、その時間変数と全く次元の異なる量なのである。
第
2章ハロッド=ドーマー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
2
5
物経済的であるが、しかしながら、市場取引で交換の必然から何らかの意味での
貨幣が存在するのではなくてはならないが、全く中立的に機能するのでモデル経
済の実物函への影響は全くないものと仮定する。(例えば、瞬間的に入手可能かっ
利用可能で、、しかも無費用で体系外から借入きれ、社会的に通用する貨幣で、そ
の単位貨幣量と同量の産出物量が市場で交換可能で、あることを社会的に保障さ
れ、また、任意の会計期間で生産される産出物量が全部交換可能となる同量の貨
幣量がちょうど創出され、一旦産出物と交換きれた貨幣は、一回限りの交換で、
社会的にその交換能力を失い完全に返済されるなどと想定するのがそれである。)
したがって、貨幣は、我々のモデル体系において陽表的には何ら主要な役割を果
たすこことはない。
以下では、これらの基本的な諸仮定の他に、必要に応じて
追加的な諸々の仮定が設けられる。
2
. 所得決定と静学均衡
ここでの分析は静学的なので、諸々のストック変数はそれぞれ所与と仮定する。
また、もちろん任意の時点での投資は、その時点での生産に参加せず、次時点か
ら生産に参加し、任意の時点での資本ストックは、その時点での生産の完了と同
時に、その 6の割合を償却される。
W
の値は、正定値て¥また γ=β である。き
らに、ここでは投資は外生的に与えられ、また、全く在庫は存在しないと仮定し
よう。
ここで考察するような短期静学的問題について重要なのは事前過程であるが、
(
4
) 連続時間分析を仮定するので、単位期間としての会計期間は時点というべきである。
(
5
) 返済は、無費用かつ瞬間的に遂行されると仮定する。また、返済の義務は企業にあるものと
想定きれている。すなわち、企業は自己の生産量を決定すると、それに応じた額の貨幣を体系
外から借入し、運用する。取引の結果、回収された貨幣を全額返済するのである。
(
6
) 我々は、代表的企業が資本の物理的一単位をどれだけ長〈稼動させるべきかを決定するため
の基準となる平常的な望ましい yを有しているものと想定するのである。なぜなら、現実的に
を変えるのは困難でbあり、何よりも厄介なこと
は、組織的な企業が急激にかつ頻繁に生産体制l
であると考えられ、むしろ、慣習的な生産体制の方が実際の生産活動を円滑にすると考えられ
るからである。また、特定の資本を酷使し、他の資本は全〈遊休化されるような状況は現実的
ではないと考えられるからである。
2
6
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
我々は、通常用いられる想定に従って所得決定問題を考え、次節以降の分析の準
備とする。生産関数は、上の仮定を用いて、
(5)
と表わきれる。もし
Y=Min [
v
.
K
a,φL
]
Eが K に対し相対的な制約となるとしても、企業は、その
時はいつでも α を操作して王を満たすことができるから、
(
5
'
)
Y=Min [
v
,
K
.α,φL
]
とでき、さらに、
Y=v
,
K
.α
(6)
とすることができる。従って、 L は
、
L=
,
K
.α/k
(7)
で決定きれる o また、 D は、(5)を用いて、
(8)
D=
cY+1=c
v
,
K
.α+1
となる。ただし、 αの値の可能な範囲は、
(9)
0<
α 壬Maxα=Min[1,k
L
/
.
K
]
によって規定されねばならない。
我々は、事前過程が存在すると仮定しよう。すなわち、企業は、市場の数量信
号に生産計画を適応させる事前調整の結果として、 S と D が等しくなる調和的
均衡を達成し、 K を、従って L を定め、貨幣を入手し、生産を決行する、と想
定きれている。(6) と (8)から、均衡値ピ及び、 Y事は、
(
10 ) α * = I / ( s v
.
K)and Y*=I/s
と求められる。ただし、調和的な短期均衡が存在すると仮定されている。このこ
とは、図を用いることにより直覚的に理解できる。我々のこの体系を調和的体系
Y=vKaて。ある。さらに、もし、 aのある値イについ
K
a
'
>ゆーとしても、この時の任意の K>Oと L>0について、 aの定義域 O壬a三 1
て
、 v
(
7
)
(
5
'
) て¥ v
Ka三
五q
ばなら、明らかに
から、 a" 壬牟となる
a" をいつでも取ることができるから、 vKa"~ がとすることができ、
v
r
c
(
5
すから Yニ vkd'となる。逆に、 Y=vKaならば、 v
Ka三
五 φZ
である。また、 a=0は非
現実的であるから、 a宇 0と仮定してよいだろう。
(
8
) (
5
'
)で
、 v
Ka=<
t
L と置いて、これに φ=vkを代入して解けば、 vK孟 φEのときの aの
上限が得られる。
(
9
) この点は、後に触れられる。
第 2章
と呼べば、調和的体
ハロッド=ド - 7
ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
Y
2
7
(第 1図)
系の所得決定が右の
S
第 1図に描かれてい
る
。
均衡点は、 S直線
D
と D 直線との交点
で与えられてる。
Y事及び、α*は
、 Y及
cvKa
ぴ αの 均 衡 値 で あ
る。図からわかるよ
うに、 α>α*なら、
従って
y> y掌 な
ら、体系に
α*
ロlaxa
α
S>D超
過供給が発生し、逆に α
<♂、従って y<y*なら、超過需要 D>Sが体系に発
生する。このことは静学的安定を意味する。より詳細には、次の周知の企業調整
想定を仮定して安定性を考える。すなわち、企業は、もし超過供給が発生するな
ら生産計画を縮小し、逆に超過需要が発生する場合には生産計画を拡大するであ
ろうとする。従って、事前過程の調整方程式は、
d
αT
/
d
τニ u
(α
(
1
1
)
本一
α
τ
)
と表現される。ただし、 τは事前過程で、の調整を支配する独立な時間変数であり、
また
U は調整速度で、
u>0なる定数とする。または1)は、 dY
r
/dT=ゲ (y*-
y) と表現することもできる。 (
1
1
) を解けば、
( 1 2 ) α α *
+Te-u)T
を得る。ただし、必。を αの初期条件として、 T二針。一 α*である。従って τ→∞なら
ば、必→♂となり、
S=Dなる均衡点は漸近的に安定となる。
こうして、多く
の教科書に見られる周知の一般的結果がこの場合に応じた形で得られた。
(
1
0
) ここで、科は、 aが τの何らかの関数であることを表している。
(
1
1
)
eは自然対数の底であることに注意せよ。
(
12
) 形式的には若干異なるけれども、意味としては、普通、 45度線理論として解説されているも
のと同じである。
2
8
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
3
. 静学均衡についての補足
前節では均衡点の存在が仮定きれたけれども、与えられる外生変数の値によっ
てはその存在は必ずしも保証されるとは限らない。例えば、投資が極めて大きい
場合を考えてみるとよいであろう。あるいはまた、
K か Eの経済に及はす制約、
つまり生産への制約を考えてみれば明らかであろフ。体系に短期均衡が存在しな
い場合には、事前過程が調整するとしても、取引は制限的に決定される。すなわ
ち、取引量を P として、
(
1
3
)
P=Min [Max Y,MaxD]=Max Y
となる。ただし、 1>0と仮定されている。次に調和的体系の均衡存在条件を求め
る
。
S と D は共に正の勾配を持つ一次関数であるから、単調な増加関数である。
従って、これまで課された諸仮定の下で、諸外生変数が Maxα について、
(
1
4
)
MaxD孟 Max5 (=Max Y)
であるときその時に限り調和的均衡が存在する。このことは、 αが O壬 α壬Maxa
のとき、超過需要 D-Sが連続であり、かつ一意に αに対して定まり、第 1図を
見てわかるように単純な 1次関数で表されることは明らかであろう。例えば、 (
1
4
)
で MaxD=Max5なら、均衡点は、 (Y,α
)= (MaxY,Maxα) となる。
従って、具体的な (
1
4
) の意味は、
(
1
5
)
となり、他方、
K が相対的に制約となる場合には、
v詮 (
I/
s
)
/
K
Eが制約となる場合には、
(
J
司 第 1図
で、 D が S と一度も交わることなく、 Sのはるか上に位置する場合を考えて見よ。
凶つまり Maxaがかなり小さい値をとる場合のことである。
(
1
日 MaxYと MaxD は
、 M
axa'こ対応する Y と D の値を意味する。
(
1聞 も
し 1=0なら、事前過程が到達する点は、 (Y,11')=(0, 0) となる。
(
J
司 すぐ上で課したように、 1>0のときを考えている。
(
1
8
) このことは、 D-Sをaについて図示すればいっそう明らかであろう。
(
1却 この場合、 Maxa=1であることを思い出せばよい。
第
2章 ハロッド=ド - 7ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
2
9
φミ (
I/
s
)
/
L
(
1
6
)
となる。(15
)は
、 MaxS=MaxD を可能にする平均資本生産性がその外生的
1
6
)は
、 MaxS=MaxDを可能に
固定値 uを越えではならないことを意味し、 (
する平均生産労働性がその外生的に固定された値 φを越えではならないというこ
Eなら、そのいずれかが成立すればよ♂。
とを意味する。もし vK=φ
現実の社会を単純に観察すれば、 (
1
3
)となるような状況は例外的な場合かもし
れない。なぜなら、現実には常に何らかの大きさの失業が存在するのであり、ま
た、公共投資などの景気拡大政策が失業の救済にある程度成功するという事実は、
E と K の制約力が比較的に弱いという考えを可能にするからである。しかも、
技術的諸条件が十分に緩く与えられるなら、均衡存在の可能性はより広い範囲で
考えることができる。以上で我々は、静学分析を終え、次に動学分析に移る。
4
. 擬似ハロッド模型の動学分析
これまで、調和的体系について静学分析を行ってきたが、以後我々は動学分析
を試みるとしよう。すでに提示された体系の動学化の前に、若干の準備と解説的
目的を含めて、「擬似ノ、ロッド模型」とここで呼んでいる単純なモデルを導入して
基本的な変動成長経済の動学分析を行うとしよう。まず、仮定の追加と想定の確
認および拡張がはじめに示される。
動学的過程を支配する独立変数の時間は tで表記される。従って、ストック変
数は、その右下に tを添えて表記される。また tは連続と仮定きれる。さらに、
L
tは、正の一定率 tで成長する。また、動学的な制約を表現するために、新しく
変数d を導入する。
三 k
L
/
K
t
.
(
17 ) α {
この αfは
、
L
tを完全に雇用したときの αの値を意味している。前出の仮定に替え
φ=vkから、(16
)は
、 ν主 (
l/
s
)
/
k
Lと表現できるから、 vK=φEの場合、 (15) か(16
)
のいずれか一方が成立するならば、もう一方の条件も成立することになる。
自
1
) 例えば、 L,
は Eが tの何らかの関数であることを意味するという表記上の約束であり、別
にストソク変数に限ったことではない。
世
田
3
0
不安定性原理とハロッド=ドー 7 ー型経済変動成長理論
担2
て、 αt~玉 1 の時には常に β=γ という仮定を置く。ただし、ある正の定数ß が存在
<
sで、あると仮定される。従って、
して、 βは
、 γ壬β
α
tの 可 能 な 最 大 の 値 は 、 次
のように決定される。
Maxα戸 Min [
s
/γ,arJ
(
1
8
)
次に、単純な体系を導入する。企業は、利潤を最大化するように行動し、当初
にあの値を決定し、その決定された値あで生産を決行する。一方社会は、ゐで、
岡
生じる貯蓄にちょうど等しい投資を提供する、と想定することにする。従って、
体系は、
Lt
=QLt と
、
(
1
9
)
Kt=It-oKt
的
目
を考慮して、次のように表現される。
(
2
0
)
向
=at Maxαt
二
(
2
1
)
Yt=vKtat
(
2
2
)
Lt=Ktat/k
(
2
3
)
-oKt(
I
t
-sれ)
Kt svKtat
(
2
4
)
G(αn=Q-G(K
)
t
(
2
5
)
G(Yt
)=G(Lt
)=G(K
)+G(
ム
)
.
t
ω
二
この仮定は、 aの定義 (2)から、もし a,
<1なら、
K,
f
K,
く 1で、また、もし a
,
=1なら、
ニ K
,
を意味する。すなわち、企業は操業水準が低いときには、彼が標準的と考える無理の
K,
ない生産を行なうであろうし、もし遊休化される資本がもはや存在しない状況では、おそらく
楽観的に、操業時間を拡大するであろう、と考えられる。
側企業は、各時点で、彼の産出物が全部清算されるように十分な投資量が可能なムの任意の値
について常に存在することを知っていると想定されている。従って、所定の貯蓄に投資が調整
して等しくなるような、伸縮的利子率を媒介とする強力な取引過程の存在が仮定されているの
,
二 s
Y
,
は、ある正の利子率で可能であるとする。)
である。(ただし、 1
側
/dt、つまり、時間での微分を意味するように用いられている。(例.L=dL,
j
記号・は、・三 d
d
t
)
(
25
) Gは
、 fによる対数微分を( )内の変数にほどこすという意味で用いられている。 (
2
4
)
は
、 (
1
7
) に G の計算を行えば導かれる。また (
2
4
) と (
2
5
)は (
21)と (
2
2
) に G を作用
させて得られる。ここでは、主要な方程式のみ提出した。
第 2章
ハロッド=ド-'7ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
ただし、ここで (
1
8
)について、常に、
Z
3
1
旬
α
r
<
β
/
γ で、あると仮定する。これは、ム=
αfを常に意味す 。従って、 Lt=Ltとなる。また、 G(Yt
)=G(ム)=Q となる
ことも簡単に理解きれる。こうして、導入された体系は古典派的様相を強めるこ
聞
とになる o
さらに、貯蓄主体と投資主体とは同一であり、この同一主体が企業であると仮
定し、一方、 w を賃金率とする賃金所得は全部消費支出されると仮定する。総利
、
潤所得の分配率は πは
-w/(vk)}で、外生的に一定となる。また、利潤
Z 二{1
からの消費は、少なくとも
Oでない正の割合で存在すると想定する。従って、 0<
S<71<1となる。また、情報が完全な状況の下で、 S
tは可変的であるものと考え
られる。従って、 S
tについて次の仮定を設ける。すなわち、 S
tは
、 0くら <
71であ
=1-w/ゆ。さらに、
る。ただし、 π
S
tについて、
St=ム(
α
t一 1)ーん {G(K
)- Q}
t
(
2
6
)
とする。ただし、 b
1 とんはそれぞれ正の定数とする。
この (
2
6
) の仮定について、その右辺第一項の意味は、資本の標準完全利用水
面
切
準に関係して、もし資本の物的遊休が存在するときは、資本蓄積を減速しようと
し逆に広義の完全利用にあるときはその標準利用水準の意味での相対的資本不
足を解消するために資本蓄積を加速しようとするということである。また、その
。
師 ai>β/yの場合、資本は超完全利用 (
a
,
ニ β/
y) となる。すなわち、単位会計期間の問、全
〈休止することなく稼動するのである。しかし、社会の一部の産業ではそれが可能であるにし
ても、社会全体ではかなり稀な状況である。(例えば、基礎産業の生産の限界を考えてみよ。)
しかしもし、社会のどこかで何らかの資本の遊休が存在するという状況が普通と考えることが
できるならば、また、もし、 γが比較的に小さい値で与えられるならば、この (18) に関する
ai<β/yという仮定は、経済の置かれる可能な大部分を含むことになる。仮にもし、 ai>β/
Yとしても、 a,
=1を標準完全利用と呼び、 1豆町E壬
見/yを広義の完全利用とすると、もし l孟
(
l十 d
)/sv<β/yならば、完全雇用と広義の完全利用とを共に実現する可能性は十分考えるこ
とができる。
β=Min [
β ,Max {yai
,y}
]は、この場合、 β二Max {yai
,y
} となり、 ai>1なら、
間
β/γ==afとなる。
側
この体系は、調和的体系よりはるかに強い事前的な調整過程を支配する体系と解釈すること
も可能であろう。
倒すでに定義したように、標準完全利用とは供二 1の状況を意味する。
3
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
右辺第二項の意味は、労働力の成長率に対する相対的資本蓄積速度に関して、も
しこの相対的速度が正のときは、将来の資本過剰を予想して資本蓄積を減速し、
逆に相対的速度が負のときは、将来の資本不足を予想して資本蓄積を加速すると
いうことである。すなわち、企業の行動がらを媒介として
するということになるのである。
Ytに対し投資を決定
こうして、我々は、動学体系を (
2
4
)と (
2
6
)
酬
との二本の方程式系として表現することができる。これらを改めて提示すれば、
( 2 4 ' ) α [ ={Q+O-VStαnα{
St=b
α [-1
)-b
αn
1(
2( Q +δ-VSt
(
2
6
'
)
と表わされる。従って、体系は、非線型の自律系連立微分方程系として表現され
る。この連立体系の平衡点は、相速度を Oとしたときの連立方程式から簡単に求
αi
,St)ε= (
1
, < Q +δ>/ν)となり、体系に唯一存在することがわかる o
められ、 (
まず、均衡点の近傍での体系の動的なふるまいを局所的に調べるとしよう。こ
の目的のため、均衡点の近傍で (
2
4
'
)と (
2
6
'
) の右辺をそれぞれαfとらでテー
ラー展開して 2次以上の項を無視した線型近似体系を考える。均衡点でのヤコビ
行列は、
Jで表記して、
(
2
7
)
r-(Q+O)
] {(α[
,St)ε
)
}=I .
_ _.
l{b1- b2 (Q+O)}
-v 1
_ I
-b
ノl
2t
となる。ここで、 z三 α[-1と y三 St-(Q十 O)/vを定義して用いると、線型近似
,St)ε
)}を用いて、
体系は、 ] {(a[
(
2
8
)
[
;
)
=
(
:
;
1
1
;
)
t
汁 )}
=~2V]
[
:
]
となる。この係数行列について固有値を計算すれば、諸外生変数の取る値がそれ
(
湖
(
2
0
) および (
2
3
) を考慮して、また、 (
1
8
) についての仮定から、ふ =afであるから、明
こ
に
-
らかである。つまり、
U +8 叫 a
,
}a
i
s
,
=b
,(
ム l)+b,{(且 +o)-vs,
a,
l
.
二 s
fを代入したのである。
これに、 a,
。
1
) 均衡値が、経済学的に、かつ a
iと s,の定義域について有意味であるためには、(1, +8<V7r
だから、((1,十 8
)ν
/ く zを仮定する。
第 2章 ハ ロ ッ ド = ド ー 7 ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
3
3
回
らに課された諸仮定に反しないかぎり、固有値の実部は常に負値となり、体系は、
その限りにおいて常に漸近的に安定となる。
しかし、現実的な意味では、均衡が有意義な値を必ずしも与えられるとは限ら
ない。例えば、社会が低開発型であるならば、おそらく、比較的な水準として、
tが大きく与えられるであろう。もし 6を無視すれば、
U
も小さいであろうから、
また、 zも小きいであろうから、均衡値は有意な範囲には存在しないかもしれな
い。一方、社会が先進工業型ならば、比較的には、均衡存在の可能性が高いかも
しれない。ただし、相対的な意味で、
W
が低くかっ
φが高く与えられることが必
要となるであろう。従って、 πが十分に低い社会で、総需要拡大政策としてさらに
wが高〈維持きれたとしたならば、我々は、大きな危険の予感を感じずにはいれ
2
4
'
)=0= (
2
6
'
) を描いたら・ αf平面上で全く
ないであろう。つまり、もし、 (
,。
単純な推察が許されると仮定するならば、 αfはαt との決別の後に累積的な失業
(
第 3図)
a
[
t
T
山了
②
M7
①
。
J
J
πo
Q
+
o
③
z
π
,
5
v
ω 固有値λは、[- {Q叫 ん 山 . ;(Q十 日uy-4M]÷=λ で得られる。従って、
局所的な軌道の運動の様子は、
Jーの中の判別式で決まる。判別式が正なら、安定結節点、も
iと
しそれが Oなら安定退化結節点、もし負なら安定渦状点となることがわかる。このことは a
8)参照。)
らについて位相図を描けば明らかである。(文献 C
3
0
) を見よ。)
。司数学的保障は全くなく、単なる仮想上の可能性にすぎない。(前記の注 (
3
4
不安定性原理とハロッドニドーマー型経済変動成長理論
の増大を伴い、やがて爆発的な失業に至っても単線的に増加し続けるであろう、
ということである。この場合、もしも政策担当者が資本不足を軽視し、古代の手
法でピラミッドを建てることを盲信し続けるならば、軌道は悲惨な下り坂を、経
済的破綻という絶望を目ざして、ひたすら進み続けるであろう。
これまで我々は、体系の均衡点近傍で分析を進めてきた。その結果、テーラー
展開した近似体系を用いることによって、局所的漸近安定を得た。しかし、安定
性の分析の本質は、大域的な体系の動的過程にあるのである。従って、我々は、
非線型のままの体系を考えねばならない。問題の体系は非線型なので明示的に解
醐
くことはできない。しかし、若干の計算によって、大域的には極限閉軌道が存在
するかもしれないという予想を我々に示唆する。従って、もし、閉軌道が存在す
るならば、極限閉軌道を伴って、体系は循環的運動を引き起こすであろう。次に
図表を用いて説明を加えよう。
上の第 3図は概略図であり、①、②、③は、それぞれ、 Q+o>b1/b
h Q+δ<
b
/b
/b
=St=
1
1
2, Q+δ=b
2 の場合に対応する。 y 曲線と z曲線は、それぞれ、 Y
0、z=αi=0を意味している。各図は、それらの図内に提示された単純な等傾斜
線の矢印に従えば、図の中央部での安定の可能性を我々にほのめかすけれども、
同時に閉軌道存在の可能性をもまた我々に示唆している。もし、閉軌道が存在す
(
1
5
)
るとすれば、それは、各図から推察すれば、時計回りの可能性が大である。また、
/yに接近する軌道が存在するかも
①、②、③で、左上方の角の付近では、 α{=点
。
4
)
zと y を用いて
(
2
4
'
) と (
2
6
'
) を表現することにする。このとき、 (
2
4
'
) を zで偏微分し
て得られるものと (
2
6
'
) を y について偏微分して得たものの和を考えよう。これは、計算に
より、
δz, dy
+ 二 一 (Q+a+b,
v
)ー {
b
,
v十 2(Q十 a
)
} Z~ (z+1)2v
y
dz dy
と求められる。この右辺は zとyの任意の値に対して一定の符号を保つことができない。従っ
e
g
a
t
i
v
ec
r
i
t
e
r
i
o
n
) を充きない。ま
て、体系は閉軌道非存在の十分条件(ベンディクソンの n
、[8J
、[l1J
、[l2
J
た、このことは、オレッチの定理をも充さないことを意味する。(文献[7J
参照。)
(
3
5
) 閉軌道が存在するならば、その閉軌道は、その内側に平衡点を持たねばならない。従って、
我々の体系では、それが存在するなら、 ε点を囲むように与えられる o (文献[l1lo)
第 2章
ハロッド=ド - 7
ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
3
5
しれない。また、①は右下方で、②は左下方で境界へ近づく軌道が存在するかも
しれない。
しかしながら、体系に閉軌道が存在するとしても、従って極限閉軌道が存在し
でも、それによって引き起こされる αfと
S
t の循環運動に関心があるのは、企業
家だけである。なぜなら、すでに指摘したように、所得は常に fで成長し続け、
完全雇用が常に保証されるのであるから、企業家を除く社会全体では全く関心が
ないものと考えられるからである。従って、たとえ体系が不安定で、あるとしても、
それが社会的な問題を引き起こすことはないのである o せいぜいそれは企業家の
投資計画を厄介なものにするぐらいである。このことはぬと α{ とに従って変化
するにもかかわらず、それが所得の運動に対して何ら影響を与えることがないと
いうことに起因するのである。すなわち、所望された投資が常に実現され、それ
が常に貯蓄を相殺するということによって、我々の保証成長率が単なる形式的な
ものとなっているからである。この場合、保証成長率は、その本質を失い、経済
からはぽ独立となり、投資は単に企業家のみの独自的な主体的問題に帰着するに
すぎないのである。要するに、投資は、経済を素通りして、それ自身に影響する
だけなのである。
5
. 調和的体系のモデルと動学的経路
調和的体系では、投資主体と貯蓄主体とは異なる。従って我々は、前節の分析
2
6
) を捨てることにし、固定貯蓄率が採用きれることとする。次
で用いられた (
に、いくつかの追加の仮定を設定して動学体系を準備しよう。まず、明示的な投
資関数を設定しよう。供は、任意に固定される tに対して社会的に取り得る、実
行可能な稼働率の値の範圏における任意の値を表わす、と定義きれる。また、 I~ を
事前の投資と定義する。この事前の投資水準 I~ は、
(
2
9
)
I~=i( 尚一 1) .Kt+l
1
t
v
K
t
で決定きれるものと仮定される。ただし、 iは正の定数とし、めは、 αt と Ktと
に依存する次の関数で決定されるものと仮定する。
(
3
0
)
l
1t=h(
αt
,K
t
)
ここでは、偽の意味は、各 t時点ごとに社会の総ての人々に対して聞かれる財
3
6
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
市場で、総ての市場参加者に対して提示される稼働率の財市場での呼び値のこと
である。つまり事前過程における値なのであり、通常の用語法に従えば、均衡値
への調整過程で、ある模索過程における事前の稼働率を表わしているのが、 αtなの
2
9
)で
、 Ifはαtに従って変化し、 (
2
9
) は、任意に固定される
である。従って、 (
tにより、各 tでの各市場において、つまり、各 tに聞かれる事前過程において、
定数として
K
tを与えられている。こうして、
(
2
9
) は、偽を根本的な唯一の変
数する方程式として各 t時点に与えられるのである o
(
2
9
) の右辺の意味を説明しよう。右辺の第 1項は、企業の事前的な生産活動
に対する相対的な意味での遊休資本の存在あるいは資本不足の存在が、企業が経
験的に得た望ましい稼働率、すなわち、標準完全利用水準的=1に対して判断き
れ、計画投資に反映されるということを意味している。すなわち、偽<1のときは、
企業は資本過剰が発生していると判断し投資計画を減少しようとし、逆に、供>1
なら、資本不足と判断し、投資計画を拡大するのである。この意味での企業の資
本過不足の判断を表わすものを iで表示するが、 iは心理的な係数であり、それ
は、明確な遊休資本を被乗数としているのであるから、上述の意味での定数瓦に
ついて明確な判断を企業が下すと想定されている o つまり、 iは、現実的に、発生
する資本過不足の絶対量に対しどれだけの計画投資絶対量を計画すればよいか
を、企業が、企業自身の望ましい基準、すなわち、 α =1、に基づいて決定する割
合、すなわち係数を意味するのである。
次に (
2
9
) の右辺の第 2項は、計画投資全体の内の誘発的な要素と想定されて
いる。 αtは、企業の生産活動の指標としての意味を持っと理解できるから、また、
一般に、生産活動は、その運営のために短期操業が必要とする経常的な投資を伴
うと考えられるから、誘発的な投資が存在し、それは偽に依存して変化すると考
えられる。また、誘発的投資が偽に依存するにしても、それは t時点で与えられ
tの大ききによって異なるのは明らかであり、従って、 (30) と考えてよい。
るK
しかし、誘発的投資は、生産活動の技術的側面からだけ限定的に要求されるわけ
ではなく、むしろ、企業自身の生産活動の評価によって左右きれると想定きれる。
すなわち、上記の意味で誘発的投資は、産出水準によって影響されるが、 αrを通
じて期待きれる産出水準が何の偏重もなしに等しく評価きれることはない。なぜ
第 2章
ハロッド=ドーマー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
3
7
なら、彼が望ましい基準を持っときにはそれぞ、れの産出水準に対する評価は異な
り、所望の基準に近い産出水準は相対的に高い評価を持ち、それについて企業自
身の満足度も大きいと考えられるからである。
従って、標準完全利用の産出水準 v
R
tが企業の望ましい基準と考えられる。そ
R
tに対する、企業がαt を通じて期待
れ故、めは、企業が基準とする産出水準 v
する産出水準の比率を企業が評価して企業の望ましい値に修正した比率の値を意
R
tに対しより
味する。つまり、創を通じて得られる期待産出が、平常的な基準 v
よく企業によって評価される値を取るときはそうでない期待産出水準よりも大な
る誘発的投資を導くのであり、従って、引の変化は期待産出を変化させることで
誘発的投資を変化させるのである。実際、現実において、企業がより大なる産出
を期待するときは、つまり、操業の活発なときは、そっでないときよりもいっそ
う大きな、むしろやや多すぎるほどの経常的な投資を行うことがしばしば見られ
る。単純に言えば、
mは
、
α
tで決まり、平常的に望まれる産出水準 v
R
tに対し
て望ましい誘発的な投資の比である。要するに、具体的には、 (
2
9
)の右辺で、第
I項は設備の新投資を意味し、第 2項は設備の更新を含む誘発的投資を意味する
と想定されているのであり、総計画投資は、それらの和として決定きれるのである。
偽は、供三五 α{でなくてはならない。この偽について、静学的均衡条件は、投
資と貯蓄との均衡から求められるから、この場合、 (
2
9
)を考慮すると、 I
f=svR
t
a
tを解いて、
(
31
)
1
7
t
=
(
s
i
/ν)αt十 i
/
v
となる。めは、 (
3
0
) から、 α
tと瓦の関数であるが、事前過程では R
tは定数
tはαtのみの関数となり、従って、 (
31)を充すある
であるから、静学的には、 η
叫が存在すれば、それは引の均衡値である。 αfもまた、静学的には、事前過程
で定数となる。引の定義から、
o~玉 αt 三五 αf
となっていなくてはならないので、
醐
h が連続すると仮定すると、 Min17t~五小豆 Max めとなる Min17t と MaX17t とが存
在し、めは有界となる。 I
fは最小でも正の値に留まり
O以下にならないと仮定し、
i/v<Min1
7
tを仮定する。また、一般に MaX17t<1と考えてよい。ただし iは十
(
3
6
) h は一価関数と仮定する。
3
8
不安定性原理とハロッドニドーマー型経済変動成長理論
分に小さく i<vs と仮定する。
)=(s-i/v)-I(ηt-i
今
、 ξ =と(
αt> Kt
/v)と置こう。 ξと偽は、共にそれぞれ、
ユークリッド 1次元空間、つまり実数直線上で定義されるから、関数 ξは実数直線
上の点を自身に写像する。 (s-i/ν
)-1・(
MaX1
7
t
i
/
v
)豆 αfが成立するように α{
が与えられているとして、 M
i
n
.
;三
五α
t三
五M
axξ なる α
tが取ることのできる値の実
数の集合 A が存在し、 A は凸かつ有界閉集合となりコンパクトな実数直線上の
区間 A で、関数 ξ は hが連続関数であることから、 A に属する各点を A それ
自身に写す連続写像となる。従って、関数 ξ は A で少なくとも 1点の不動点を
O
8
)
持つということが、ブラウワーの不動点定理によって保証きれ、不動点 α
;は、出=
と=と (α~,
K
t
) を意味し、これは
(
31)と同値関係にあるから、 α
;は (
3
1
) を充
し、従って、 α;=α?であり、静学均衡点の存在が証明される。従って、任意に国
側
定される α
iと瓦の値について ξの定義される区間が、引の定義区間に実数直線
上で完全に含まれ、決してはみ出したり、ずれが生じることなければ、いかなる
α
iと瓦の値の組に対しても均衡点は必ず任意の tについて存在する。
K
tとα
iとが適当に与えられていて、従って事前的な調和的均衡が存在してい
ると想定してすれば、 t時点、での調整過程、すなわち、事前過程が働いて、均衡以
外のある点で経済が与えられていれば、経済を何らかの方向へ導くと考えられる。
ここでさらに、事前過程での調整規則が、
d
αt
/d
c=
jE=
j(Dt
-Y
t
)
(
3
2
)
で与えられると仮定する。ただし、 τは事前過程の調整を支配する論理的時間であ
り、創は事前的に
T の関数と想定きれている。また、
E は超過需要関数で、 E は
K
tとに依存するが、 E を含む瓦は、事前過程に任意に固定きれた定数と
<jなる定数とする。ここで、関数 hは
、 α
tと K
tとにつ
する。 E の係数 jは o
いて連続 2回微分可能と仮定する。従って、 ξ関数もまた偽と K
tについて連続
引と
2回微分可能となる。 α
tの増大は mを増大させる可能性が強いであろう。従って
間
M
i
n
ξ と Maxξ は、それぞれ M
i
n
1
7
tと M
a
X
1
7
t とに対応するとの値を意味する。ただし、
Min17t<MaX17tとする。
側 二 階 堂 (6Jの文献を参照。(その第 9章を参照。)
側
a
iは、存在それ自体には無関係で、あるが、実現性に関係している。
第
2章 ハ ロ ッ ド = ド - 7ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
3
9
/
δh
/δαtは、通常では正となることが考えられるが、 δh
/δ
αt
+i
ν<sを常に仮定
する。このとき、 P/2という関数を考えれば、 V三 P/2と置いて、 V はαt -
α?について
V=o、偽宇 α?なる αtについて
V宇 Oかっ
V>oとなり、
Vは
1
'
0
)
正定値であり、つまり V はリャプノフ関数になっている。
τ=jP(-sv+i+v.ah/θ偽)瓦で、上の仮定により、 dV/dT<
しかも、 dV/d
0、つまり任意のぬについて負の定符号となり、存在する均衡点は大域的に漸近
安定となる。しかもこのことによって、我々は、均衡点が唯一存在することがわ
かる。このようにして事前過程で終局的に到達される均衡点は、各 tでの事前過
程で無限大の調整速度で調整され、 tについてあたかも瞬間的に到達されると想
定きれる。従って、各 tで、偽は常に静学的均衡値α?に等しくなっているとする。
しかし、もし αfが適当な値を取るのでなければ、以上で述べられたことは、仮に
漸近安定の条件を仮定するにしても確かなものではなくなるのである。しかしな
tとの交点、がαf
がら、自由な偽値で存在する調和的均衡点、すなわち巴と D
のある値によって実現不可能にきれたとしても、そのときはいつでも(13
) の決
定方式が発動して所得を決定するのであり、 αr<α? であるから安定条件より
limat=α
:となる似のみが事前過程において許容される偽なのである。また、
(
1
3
) による決定も瞬間的に達成されると想定する。こうして、体系は、事前過程
の終局において t時点に連結し、そこで、諸変数の t時点での値、すなわち t時
点のフロー量を決定するのである。 t時点の決定されたフローは、それ自身の決定
と同時に、次時点の期首のストックを決定して次時点の事前過程を開始させるの
である。この場合、新しい事前過程で、の偽の初期値が旧均衡値で与えられるとし
てもきしっかえない。
(
1
3
) の決定方式を考慮すれば、尚三五 αfの意味で、 (
2
9
) が Lに等しくなるの
例)
文献、(8)、(11)を参照。
4
(1
)a
i<Maxξの場合、ないし ai<Minξの場合を考えてるが、
闘
a
iは存在するのであり、単にそ
のa
iが実現できないという場合である。
い
ま
、 a
r<aiの場合を考えているから、また dV/d
τ<0なので官tはTに従って増大し af
に至る。つまり、 at~五 ai なる a, だけを考え、その a, だけが実現可能なのである。
仰)
旧均衡値がa
iより小である場合はそうである。
4
0
不安定性原理とハロッドニドーマー型経済変動成長理論
I
t
=/f となるのは、 αfz
五α
fの時のみであり、そうでない時には、
αi>αfで
、 I
f
>
I
t
=
s
v
R
t
αfとなる。従って、 αi>αfの場合、各 t時点でその
フロー量の実現値を決定する稼動率を C
で表記すると、 α
;
=s-で、動学体系は、第
は、つまり、
2節及び第 4節を参照すると、
l=α{
G(R
)
=sv
α[-O
t
G
(
α
;
)=Q+o-sv
α
f
(
3
3
)
となる。従って、この場合、体系は α
fによって支配されることになる。逆に、
αi<
α
fが保たれる場合、s-=α? となっている。 (
3
1
)は
、 α
?によって満足きれるか
ら、実現可能性を別にすれば、新│日いずれの均衡値も (
31)を充し、また、 hの
c
その変数について連続性や微分可能性は と無関係であるから、 (
3
1
) を全微分し
て整理すると、
d
α
i (
(
3
4
)
δh
l
¥1 ahI
¥
S Eδ
dR
αl
-ai) 盃瓦 I at=a~
,
.
t
•
3
2
)の安定性に関する仮定から、 δh
となる。 (
/δKが正なら、
/δKが負なら、
に
、 δh
変化するのは
t
は正、逆
d
αi
/
d
R
d
αi
/
d
R
t
は負となる。各 tで α
fは確定するから、 αfが
R
tが変化して次時点の均衡値が確定されるときであり、従って討
は瓦に対し連続的に変化すると考えてよい。
3
4
) の左辺が常に有効としよう。 (
3
4
) は新旧の均衡値と瓦の
しかも我々は (
d
R
t
l
d
tを乗じれば、そして左辺を直接の tの
.
ぬi
J
ai=(
/d
乙
) Rt となる。このことから、 αi<αfの場合
3
4
) の両辺に
聞の関係である。 (
関数とみなせば、
の動学体系は、s-=α? となって、従って、
.
,
dαi
) Rt
αi
=(
/dR
t
-=
fs
)
=If
/R
t-o
t
iG(R
G
(
α;
)
=
Q
+δ-If/R
I
t
(
3
5
)
制以下で、
a
?が出てくるときは、必ずしも実現されている値ではなく、単に存在する a
?の
意味で用いらていることに注意せよ。
側
iの拘束から自由な Ol, の範囲についての h の性質が想定されている。たたーし引く点/
γは
O
l
保持されている。
第
2章 ハロッド=ドー 7 ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
となる。しかも、このとき α
?は常に実現きせられるから、
4
1
(
3
1
)を考慮して、 (
3
5
)
で、 svα iKt=I~ を考えれば、
Kt
s
v
α?δ).
fs=α?=x・(
(
3
5
'
)
iG(Kt)=svαi-o
α7
1G(αn=Q +o-sv
3
4
) 自体は、 α?が実現きれない
を得る。ただし、 x三 d
αi
/
d
K
t と置いている。 (
ときでも成り立っと考えられるから、 αi>α1では、
(
3
6
)
α
t
=
X(sva';-o)K
t
となることに注意しなければならない。
従って、動学体系は、 αt
>α;のときは
(
3
3
)と (
3
6
)、他方、 a
t
<
a
'
;のとき
(
3
5
'
) となり、さらにもし α?=α:ならば、その両者のいずれもが体系となること
ができる。いずれかの体系から初めに経済が出発して C
が動いて行〈時、 αf=αf
が起こり得るが、次の時点でα
?とαfとが異なれば、当初から保持されてきた体
系は、 α
?とα{との小さい方の変数に応じて転換されることになり、従って上記
の両体系は d=αfのとき接続している。つまり変数の転換が体系を転換させ、
C
は tについて α?=α{で連続であるから、諸々の速度も、それぞ?れ α?=α{では
両体系で同ーの値を取る。従って α?=αf上で経済の動き方が一通りに定まり不
定になることはなく、その動き方はいずれの体系を用いてても同じである。一方、
d 宇 α;のときはいずれかの体系が一意に保持されるから、 αi<αfないし αi>
α
{の各領域で体系に解が存在すれば、 α?=αf上で、両方の解が接続していなくて
はならない。なぜなら、各解を各体系に導入したとき計二 α
fで体系の値が同一で
なくてはならないからである。従って、この場合、統一体系にも解が存在する。
つまり各体系の解を吋 =afで接合したものが統一体系の解と考えられる。いず
れにしても、統一体系が数学的な問題を引き起こさないと想定し、かつ有効的な
ものと考えよう。少なくとも統一体系が経済学的な含意において不都合または矛
盾を引き起こすことはないのである。
次に、統一体系の考察を図を用いて試みることにしよう。下の第 4図は、経済
の動きを概略的に説明するものであり、
K
tは省かれているけれども、我々が関心
をもつのは α
? とαf とであり、そしてそれらは経済の主要な要素なのである。
4
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
(
第 4図)
②
①
(=α?ιム
s
/
r
s
/
r
司
H"
品
乙Y
a
[
a
[
(=a[
J
「
し
l
!
t
tS
l
.
_
一
一
一
一
ー
ー
vs
S
8
sv
sv
J
45。
。
Msv)(HB)/(sv) a
f
s
I
r0
B
/
(s
v
)(HB)/(sv)
a
i
j
/
r
α?詮 α;の領域では (
3
3
)と (
3
6
) が適用きれ、他方、 α?=
玉α[では、 (
3
5
'
) が適
=0,αf=
用されている o 第 4図には、これら二つの場合について、s-=0,O!i
0,Kt=0がそれぞれの領域に記入されてあり、単純な等傾斜線と諸々の速度の
符号とに従って矢印が付記されている。
5
。線より上方で、α? とα{ との値の組が与えられるときは、s-=α? と
第 4図の 4
5
'線下方に与えられれば、s-=αfとなる o s-=(Q+
なり、逆に α?とαfの値の組が4
δ
)/(
s
v
) では、 αi=0となり、一方、s-=
δ/(sv) では、
Kt=αi=0となってい
/θ'
K
t
>0の場合であり、従って d
αi
/d
K
t
=x:<0となって
る。第 4図の①は、 δh
/δI
K
t
<0の場合であり、 d
αi
/
d
K
t
=x:<0となっている。
いる。第 4図の②は、 δh
、
ここで、 α?は
0<αi<浮
/
γ、一方、 αfは
、 0<α i
<
s
/γで、定義きれている。
tとの符号は同一で、あるから、 α?と Ktとは、相互に加速し
①では、 α? と K
合う傾向にある。従って、一旦それらに正の符号が与えられると拡大し続け、 αf
をやがて減少に導き、それでもなお増加し続ける。このことは、①の図の右上方
で起こる。つまり、減価償却分を越えて増加する瓦が投資を増大きせ α?をも増
大きせ、さらにこのことが
K
t自身に影響するのである。この場合、経済は、図
の水平径路、つまり αi=(Q+o)/(sv)に至ることも可能で、あろう。この径路は、
αi
=s/yに向って限りなく近づき続け、ある意味で安定な径路と言うことができ
第
2章ハロッド=ド-7'ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
4
3
s
/γに十分近い α
?に留まって水平径
7が左方で存在し、投資を減価
路の上方で、右の方へ至る場合も考えられる。逆に α
よれしかし、その水平径路に至らずして、
償却に必要な量以下にするときは、加速傾向が逆に働いて、経済は失業と低所得
という悪状況を抜け出ることはできず、むしろその悪化を招くであろう。また、
5。線付近では、その悪状況に陥りやすいが、そうでなくより大なる
図下方では、 4
α
?で与えられるときは、経済は、上方の良好な領域に移行することができるだろ
うヒ、うまくすれば、水平径路に近づくこともできるかもしれない。水平径路で
は、斉一的均衡成長が実現することは明らかであろう。
?と K
tとの符号は逆である。
②では、逆に、 α
K
tを増大させるように α?の
値が与えられたならば、そのとき、投資の純化が生じ、
α
?を減少させる。この過
K
tが正である限り続き、労働単位当たり所得水準は、 K
t
/
K
tが大きいと
tとα?の相反する動きが、
きは大きくなり、失業をも解消するけれども、やがて K
程は、
一人当り所得の低下を発生させ、再び失業を増大させるであろう。このことは②
の図の右上方で起こり得ることであり、やがて経済は、
α
?
=
δ/
(
s
v
)なる垂直径路
に経済を近づくとと考えられるであろう。また、図の左方では、それと逆に、
K
t
の減少が投資を有利にし、 α
?を増大きせ、その垂直経路に経済を近づけるであろ
う。図の下方では、これと同様に、
α
?が増大するけれども、やがて上方へ移行し
て垂直径路に近づいて行くことが考えられるであろう。唯一図の右下方の角付近
=s/γ
lこ限りなく近づく場合を考えることができるけれども、その場合、
では、 αi
瓦はひたすら減少し続けるという状況を余儀なくきれるのである。従って、②で
は、多くの場合、経済は、垂直径路に最終的に近づいて行く傾向があると考えら
れる。また、水平径路は不安定でやあり、そこに経済が留まり得る余地はない。む
=
s
/γ線に限りなく近づくことで、ある
しろ、失業の増大を伴う垂直径路は、 αi
意味で安定となっている。いずれにしても、②では、陰うつな状況の中に経済は
常に置かれることになると考えられる。
このように、①と②が全く逆の傾向を持つということは極めて興味深い。①に
関して言えば、通常 4は十分に小さい値を取るから、 Svが十分に大きくかっ δが
十分に小きい値で与えられるならば、経済はより良好な状況の可能性がいっそう
増すであろうと考えることができる。しかし②では、諸々の外生変数がどんな値
4
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
を取るとしてさえも、陰うつな状況を避けることはできないであろう。ただし、
t宇 Oとしている。(つまり、平衡点は存在しない。)
/θ'
K
tの符号は極めて重要で、ある。資本の増加は、
統一体系の運動にとって、 δh
生産技術的な側面からすると、更新的投資を増大させるかもしれない。しかし、
めは誘発的なものであり、企業家の経済状況の評価によって左右される。従って、
/δ'
K
tの符
資本の増加が、企業家の評価にどのように影響を与えるかによって δh
号が決まると考えてよい。経済の状況を所与とすると、保有資本ストックの増大
は、それが企業家の投資意欲を向上させるといフよりも、むしろ、企業家の投資
性向を弱め、より鈍いものにするであろうと考える方が比較的に一般性が高いと
言えよう。少なくとも、その場合、企業家の投資態度は、いっそう慎重なものに
なるであろうと考えることができるだろうきらに、また、資本ストックの保有量
の増大は、資本の限界効率を低下させることで、所与の経済状況への企業家の評
/δ'
K
tは、負である方
価を低いものにすると考えることもできょう。従って、 δh
が一般的であるとすると、統一体系の運動は、第 4図の②で描かれ、陰うつな動
的過程が一般的な動的経済の特色となることがわかる。
以上のことは、諸変数の速度の符号にのみ依存して導かれることにすぎないと
いうことに注意しなければならない。しかも、囲内に示された諸々の矢印を信じ
3
2
)の大域的漸近安定の仮定が一般に充きれないものである
るとしても、もし、 (
ならば、以上で述べたことのほとんど全てが崩壊してしまう、そのとき、我々は
α?の tについて連続性すら失うことになるのである。しかし、上述の限りにお
いて、調和的体系の動的過程は不安定で、あると結論づけることができる。 (
αr
>
s
/
γのときはいっそうである。)
6
. 分析結果と若干の解釈
これまでの分析を通じて、我々は、完全雇用の仮定と事前の投資が常に実現す
るという仮定とがいかに重要な役割を呆たしているかを知ることができる。第 4
節での分析と、ソロ一、カルドアの分析はある意味で類似している。すなわち、
側 文 献 [9)。
間 文 献 [5,
) (文献 0)0)
第
2章 ハロッド=ドー?ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
4
5
完全雇用が常に実現することと、事前と事後の投資が一致することが保証きれて
いるということである。それらは、形式的にはかなり異なっているけれども、そ
の共通するこつのことにより、保証成長率から現実成長率を全〈切り離している。
すなわち、保証成長率を現実成長率と無関係なものとする一方で‘、現実成長率を
労働力成長率に等しくなることが完全雇用の仮定によって成立するのである。他
方、第 5節での分析が示すように、それらのことが成立しないときには、不安定
な成長が起こり得るのである。なぜなら、第 5節では、現実成長率と保証成長率
とが密接に関係しているからである。
従って、事前と事後の投資が常に一致することと完全雇用とは、現実成長率が
自然成長率に常に等しくなるという意味で安定な経済成長を保証する重要な一対
の十分条件と考えることができる。しかし、現実成長率が常に自然成長率に等し
い率で成長が持続されるとき、たとえ保証成長率が変動し続けるとしても、もは
や何の社会的な問題をも引き起こすことはないのである。つまり、現実成長率と
自然成長率とだけが均等しているということは、確かに斉一的均衡成長ではない
にしても、失業は全く起こらず、所得は順調に
tの率で成長するのであり、企業
家が不満と投資計画の変更から厄介さを感じるという以外には、何の不安定さも
不都合も経済に起こることはないのである。
成長理論という研究分野において、斉一的均衡成長の達成可能性とその諸性質
とについて、これまで、諸々の多大な研究が為されてきたけれども、一方におい
て、実証的な分析は、それほど詳細に探求されてこなかったように思われる。か
つて、景気変動理論が経済の絶対的運動を対象としてあまりに短期的な問題の分
析にその視野を限定してしまったために陳腐化したのと同様に、成長理論は経済
の相対的運動を対象として長期的問題に固執して、短期的要素を軽視したために、
今や、いっそう陳腐化しつつあるように見えるのである。
しかしながら、これまで行ってきた分析は、ハロッドのそれとはかなり異なっ
たものとなっていることは否めない。
(
4
8
) 文献 (
3)、(4。
)
4
6
不安定性原理とハロッド=ド - 7
ー型経済変動成長理論
第 2章 参 考 文 献
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. (邦訳、
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Y
、丸善株式会社、 1
9
7
6
宮崎義一訳、『ハロッド経済動学J
0)
(5J Kaldor,N.,
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8
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.(邦訳、富田重夫編訳、『マクロ分配理論:ケンブリッジ理論と限界
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7
年
、 (
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.13
5
.
)
生産力説』、学丈社、昭和 5
(6J 二階堂副包、『現代経済学の数学的方法』、岩波書底、 1
9
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9
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)
(8J P
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.,(ロシア語原著書)、邦訳、木村俊房・千葉克裕訳、「ポ
9
8
1。
ントリャーギン常微分方程式」、新版、共立出版(株)、 1
(9J Solow,R
.M.,
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1
J 田辺行人・藤原毅夫著、『常微分方程式.1 (東京大学基礎工学双書)、東京大
9
8
20 (
p
p
.9
5
1
2
3
)
学出版会、 1
第
C
l2
J
和田貞夫、
2章 ハロソド=ド-'7ー型変動成長理論と擬似ハロッド模型
4
7
1
2次変数動態システムについてのノート」、(研究ノート)、経
1巻、第 4号、大阪府立大学経済学会、昭和 5
1年
、
済研究(大阪府立大学)、第 2
(
p
p
.9
5
1
0
6
.
)
4
9
第 3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
1.ハロッド的変動成長分析の目的
経済の変動メカニズムを解明しようという目的に役立つ基礎的な動学理論を確
立するための準備的な考察として、本書の前章(鈴木 (
4
4
)
)では、疑似ハロッド
型モデルという 1種のハロッド型成長モデルを導入して、経済の変動成長過程の
動学的安定性を再吟味した。特に、前章では、その疑似ハロッド型モデルという
基本的な理論枠組みに基づき、新古典派的な体系とケインズ的な体系を別個に構
築し、それらの変動成長について分析を展開し、さらに、それらの分析を対比す
ることで経済変動成長理論における基本的な性質が検討きれたが、現実的な関連
が強〈、また、経済行動上の理論的含意も深いハロッド流の不安定性について充
分に言及きれなかった。しかしながら、このことは、その本来の目的が要請する
失業的かっ企業行動的変動成長の分析にとっては甚だ不満足なものである。それ
ゆえ、以下では、このよ 7な不満をできるだけ解消しよフとするハロッド的な試
みが理論的に展開される。
Harrod(
17
) 及ぴ(18
) 等)の
ハロッドの変動成長理論は、その初期の段階 (
Harrod (
19
)や (
2
0
) 等)よりも、経済の動学的不安定性
方がその後期の段階 (
を比較的に強く強調し、その後期の段階では初期の段階で強調された経済の極端
な変動性よりもむしろその成長性が強調されている o しかし、不安定性原理から
変動成長論または循環的成長論へと脱皮しようとするハロッドの努力は彼の最終
的な著作となった Harrod(
2
0
)においてすら充分で、はなく全く不満足な結果に終
4
9
) のようにそうした不満足な点を
わっている。その後の研究の中には、和田 (
解消し、かつ、明確な定式化を用いて堅固な理論体系の整備及び完成を目ざすも
4
5
)
)のように諸々
のもあるが、他方、本書の第 1章の後半(第 3節以下:鈴木 (
の基本概念構成及びそれらの聞の理論的関係と不安定性原理の考え方の中に、定
式化の上での概念的限界を指摘し、概念と原理の両方の刷新を求めるものもある。
いずれにしても、不安定景気循環論から変動成長論への変換には限界があり、
5
0
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
その限界が主に保証成長率という概念の取り扱いとそれの不安定性原理における
3
4
)(
p
p
.3
9
4
0
)
役割の複雑きとにあるのは明らかである。そうした結果は、大谷 (
も指摘するように、元来、ハロッドの景気変動論が大恐慌の激しきの説明を目的
として生まれたということに由来すると考えられる。つまり、異なる時代背景に
直面して、ハロッドの変動論の限界が露見したわけである。しかしながら、これ
らのことによって、ハロッドが提示した諸概念の経済学的重要性は少しも失われ
ることがないのでbあり、もしも他の新しい想定と理論枠組みが用意されるならば、
それらは再び経済学的含意に富む重要な役割を演じることができるはずである。
したがって、以下で行われる分析でも保証成長率の役割が極めて重要で、あるが、
分析の基本的な枠組みやその理論的背景はハロッド自身のものよりもむしろ全く
4
4
)
)のそれに依拠する。しかしながら、ハロッド的な分析においてし
前章(鈴木 (
ばしば行われるさまざまな場合分けないし限定(例えば、常に不完全雇用状態に
あって決して完全雇用の実現を許きない経済のみを想定すること等)を回避して、
できるだけ包括的な体系を構築することにより、さらに一層、分析の一般化が行
4
4
)
)の基本体系の再構成を出発点とし、新
われる。それ故、分析は、前章(鈴木 (
しく定義される変数を導入し、準備的に、表現を一新して再定式化される疑似ハ
ロッド模型の経済体系を検討することから始められる。次に、ハロッド的な動学
体系を定式化することでいわゆるハロッドの不安定性原理が確認されることにな
るが、ハロッド流の動学分析の欠点である長期的側面に関する考慮を補強するこ
とで、一層の分析の拡充が引き続いて展開され、モデル経済の変動成長過程の安
定性分析がその中心的な問題とされる。
ただし以下で展開される分析はハロッド自身に即した形での不安定性原理の
厳密な定式化やその精轍化ないし論証を含まない。以下の分析の関心は、忠実な
ハロッド解釈にあるのではなく、彼の不安定性原理を認めた上で、それを部分的
に内包する動学体系を構築し、かつ、これを用いて変動成長の安定性を考察する
ことにある。しかしながら、ハロッド的な分析が以下において主要な位置を占め
ているのは事実であり、同時に、ハロッドの不安定性を回避する可能性が、外延
的に一般化された分析の中に求められているのもまた事実である。
第 3章
ハロッド的変動成長分析の一般化
5
1
2
. 分析の基本体系
用いられる基本体系は前章(鈴木
(
4
4
)
)の分析枠組みを完全に踏襲し、模型設
定及び変数記号をその基礎的部分から若干の変更と共に借用する。 Y を総産出
量
、
S を平均貯蓄性向、 U
を生産技術的な逆資本係数(つまり資本の平均生産性)、
αを現実の資本稼働率、 K を総資本存在量、 L を総労働力存在量とし、また資本
の減耗を無視すれば、前章から不完全な次の基本体系が αの決定方程式を除いて
得られる。
(1)
Y=v
K
.
α,v=c
o
n
s
t
.> 0,andK =s
v
K
.
α,s=const.>O.
(2)
L=QL, Q =const.>O
.
(3)
αT三 k
L/K,k=cons
t
.
>O
.
(
4)
α壬 α
dY
新たに現実成長率 G=YjY
、現実逆資本係数 c三
及び保証成長率 Gwを
dK
導入する。 c=YjK と Y=GYより G=scは明らか。従って Gw三 s
vが周知
のように定義される。(1)、(2)、(3)および、 c=Gjsより次の 2つの方程式
が導かれる。 YjY=KjK+α
/
α だから、
(5)
αr
jαr=Q -sv
α,
(6)
α
/
α =sc-sv
α
.
したがって体系を閉じるためには Cの決定方程式が加えられねばならないが、
それは後の分析で詳細に検討される。(6)は αを決定するが、制約(4)が働く
場 合 に は (5)で、αの決定は補完されねばならない。ここでは今、
c=C,c=cons
t
.> 0,
(7)
を仮に与えて体系を整備するという形式的要求を満たしておく。(1)から(7)
(
1
) これらの変数は時間の何らかの関数であるが、そのための表記(例えば右下に通常付記する
t
) を一切省略して変数表現が単純化されていることに注意せよ o
(
2
) 本書の第 2章第 1節か、または同じであるが鈴木 (
4
4
) の 伸 .8
9
9
3及ぴ ρ.98が参照きれ
るべきである。なお、
U
及び G
ω の存在(導出)に関する議論が企業の主体的均衡の側面か
らM
a
r
g
l
i
n(
2
9
)、 M
orishima (
31)、本書の第 1章(または同じであるが鈴木 (
4
5
)
) で静学
的に与えられている。また
U
の選択の問題については木村
(
2
8
) を見よ。
5
2
不安定性原理とハロッドニド-'7ー型経済変動成長理論
までの方程式体系を「準 Harrodian基本体系」と呼ぶことにする。ただし (5)
と (6)の関係は注意すべきである。特に α=αTのときもし Q <scなら、(6)
のαは (5) のα
γ より値が大きくなり、そのとき (6)の与える αは (4)に矛
盾するので、したがってこの場合(6)ではなく(5)に αが支配されるというこ
とは明らかである。このことは次節で再び検討されるだろう。
3
. 保証成長の基本性質
保証成長状態 G=G
ω を持続する経済が成長過程の究極的に安定な到達点を
ω を保持する動
有するか否かということは基本的な問題である。すなわち G=G
学体系に安定な平衡点が存在するかどうかというのがその問題である。 αT
の αに
の値とは無関係で、自由に所定の変域の値を取る
対する制約を全く無視して αが αT
ことができるという想定を iHarrodian中期 j と呼ぶことにする。ただし、ここ
では自然対数の指数表現を exp (・〕とする。
定義 1 Harrodian中 期 は (4)の制約条件 α五
三αTが存在しないのと同値で
0•
ある(制約 α 三五ピの無効想定に等価)
定理 1 Harrodian中期の準 Harrodian基本体系では、次の 3つのことが
成立する。
i)平衡点が一意に存在する。 i
i
) 平衡点は大域かっ漸近的に安定
i
i
) 平衡点では YとKが同率で成長する o 圃
となる。 i
c
/
vが唯一求まる o 次に、 α=1/α とし
s
c
a
=
s
vと整理でき、
て C と 共 に (6)に代入すると(ベルヌイ型なので)、 α+
これを解けば、 α=
v/c+偽 (exp (-s
c
t
J
)、ただし a
oは αの初期条件である。
つまり、(6)と(7)から平衡点 α*二
(
3
) この限りでは、通常見られる
Harrod-Domarなる名称(例えば A
l
l
e
n [3Jなど)を用い
Domar
るべきかもしれないが、簡略化のためまた、むしろ、後続の分析の関連からして
(Domar[
l
1Jないし[l2
J
) という表記を用いなくてもよいと思われる(不安定性原理につ
a
r
r
o
dモデルと Harrod-Domarモデルな
いての場合と成長理論の一般的基本形の場合で H
ahn-Matthews [
l6
J は併用している)。
る名称を H
第
3章 ハロソド的変動成長分析の一般化
5
3
それゆえ t
→+∞で a→ v
/e となり、このことは t
→+∞で、α→ e
/
v と同値であ
る。また、
G=K/K+α/α から IIIは明らか。
命題 1 H
arrodian中期かつ保証成長過程の準 Harrodian基本体系では定
、
) i
i
)、 i
ii)が成立しさらに、経済が収束する安定な平衡点では資本
理 1の i
の標準完全利用が成立する(すなわち α*=1=e/vの場合)
0•
我々が中期だけでなく長期についても同様の分析的関心を持つことは自然であ
る。ここで、体系表現を簡易にするためにもう 1つの新変数
t を導入することは
γ
/
α と定
その分析的有用性からして非常に都合がよい。 eは雇用率の逆数で、 e=α
義される。(4)に注意すれば、 6主 1でなければならない。(5) と (6)から次
の方程式が導かれる。
(8)
e/e=Q -SC, e三 α
γ
/
α と1.
ただし、 e=1の場合、(8)は 4孟 S
Cの限りにおいて可能であるにすぎない。
そのときもし Q<
SCならば e<0となり、微小な時聞の経過 d
tの 後 に (8)の
eは制約 eミ 1に矛盾ししたがって(4)に反する。すなわち、 α=αTとなる時
τ十 d
tとすると、 α,
'
α
τ
点を τとし、イ =
で、もし Q <SC なら α~,ー α ピ =(α:
十 α,
dt 及び、α:, =α: 十 α ~dt を千尋るの
α
τ )dt<0となり(4)と不整合であるから
αは (5)に支配されねばならず、したがって e=0かつ tギSC となるので次の
ことがわかる。
補 題 1 e=1のとき、任意の
C
について、次のことが成立する。
i
) Q詮
に な る 条 件 は (8)の成立のために必要十分で、ある。 i
i
) e>1で Q <SCの時、
e=1で Q=scが満足きれなければならない。.
変 数 eを用いれば、基本体系の長期動学過程は(5) と (8)の連立小体系と
(
4
) 命 題 1は定理 1の系であり自明だ。また資本の標準完全利用については、本書の第 2章第 I
節か、または同じであるが鈴木 (
4
4
) の ρ, 98と仮定 2
2とその注 2
7、及ぴ ρ99の注 3
1の後
半を参照せよ o
5
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
↑)))~ ((
│
C
E
(
0,
1)1' ,'
i、、 a
'
;
;
(
1
3図
第 2図
第 I図
、
L
J
/
(
0,
1
)1
C
U
U
α' ロ
(
O,
l
)
'
'
'
Q'
i
s
rU
a
' a
白
補題 1とで完全に記述きれ、次の 3つの図で直覚的に理解される(ただし e
<va'
の場合が作図されてる)。
第 1図、第 2図、第 3図はそれぞれ.e=se
、.e>se
、立 <seの場合であり、ま
たα
見/γ(定数)とする。 e>vα'の場合は、上の 3つの図において縦に走る垂
線 α=e/vから左に描かれている状況が垂線 α=α'から左で同様に起こる。しか
しながらこの場合、安定性については部分的な状況が拡大されることを除けば
e<va'の場合と比べ大した違いはなく、主な定性的性質は何も変わることがな
い。かくして、上の 3つの図及びその説明から次の諸結果が得られるのは明らか
であろう。
命題 2 準 H
arrodian基本体系について次のことが成り立つ。
i)諸外生値
について.e=seのとき、そのときに限り小体系 (5) と (8)の平衡点が存在
i)小体系の平衡点は、 e"
5
.
玉山 で、あるとき、そのときに限り達成可能で、
する。 i
F
ある。 i
i
i
)小体系の平衡点は無限に多数あり、しかも大域かつ漸近安定である。
i
v
) 初期条件についてそれから出発し相軌道が到達するところの平衡点は一意
かっ連続に対応し、その相軌道は同ーの e
座標成分を保持する。 v)平衡点の e
康 標 ♂ に つ い て 、 ♂ = 1なるときそのときに限り完全雇用が成立するにすぎ
(5)β/γ については本書の第 2章第 1節か、または同じであるが鈴木 (
4
4
)の仮定 2
2、2
3(
ρ
.
9
8
)
を見よ。
(
6
) 簡単には、上の図の
ればよい。
c
/
vをイと見立ててそれを含めてその左だけを考え、他の所を無視す
第 3章
5
5
ハロッド的変動成長分析の一般化
ず、その唯一の点を除く他の全ての無数の平衡点は失業と両立する。 vi)もし
e>ばならば、
t
→+∞に対し、 α→ Min (
t
/
v,イ〕かつ e→+∞となり、す
i
i
)もし e>1で e<stならば、 t→十∞に対
なわち失業が永続的に増大する。 v
c
/v,イ〕へ、
し
、 αは Min (
E
は 1に近づくが、いったん e=1が達成きれ
α “,e**)=(e/{
s
v
},
るや否や、同時に経済は e=1上でその到達点から (
1)なる点へ収束して安定的に留まる o
•
命 題 3 保証成長過程の準 H
arrodian基本体系では次のことが成り立つ。
i
)
e=svは小体系の平衡点存在の必要十分条件
(α=1なら均斉成長) i
i
)
0
小体系の平衡点は常に達成可能で、ある。 i
i
i
)命題 2の i
i
i
)、 i
v
)及び、 v)が成立
する。 i
v
)
e>svなら、
t
→+∞で、 α→ 1、 e
→+∞。すなわち資本は標準完全
<sv なら、 t
利用状態に近づくが、失業は永続的に増大する。 v) e>1で e
→+∞、で、 e
→ 1また αは 1に近づくが、いったん完全雇用 e=1が達成され
s
v
}, 1)へ収束して安定
るや否や、経済は 6二 1上 で そ の 到 達 点 か ら は / {
的に留まる。.
4
.準 H
a
r
r
o
d
i
a
n動学
日々移り変わる経済の動学的状況に対応しなければならない企業が状況変化に
対し静学的に反応して行動を決意するということは不自然であり、むしろ時間を
通じて徐々に状況に適応して行くというのが平均的な企業の普通の姿であろう。
少なくとも、企業の生きる場が現実の中にのみ限られているという必然の拘束は
彼に厳格な実証主義的性格を強制的に植えつけると考えられる。したがって、何
らかの動学方程式の表現を用いてこれに
C
の時間を通じての運行を委ねようと
(7)上の V まで言及きれてきたものとは異なるもう 1つの平衡点と言ってもよいかもしれな
し
言
。
(
8
)
命題 3は命題 2の系となっている。
(9)β /y=イ>1から明らか。これについては本書の第 2章第 1節または、同じであるが、鈴木
(
4
4
) の仮定 2
2、 2
3(
ρ
.9
8
) を見よ。
5
6
不安定性原理とハロッド=ド - 7ー製経済変動成長理論
することは我々にとって分析的意図の論理的に自然な成り行きである。
C
の動学
的過程は、ハロッド的な動学的成長率ギャッブに対する連続的な調整と整合する
ように、
(9)
c=x(c-v),x=const.>0,
1
(
ω
という Harrod型の調整方程式によって支配されると仮定する。基本体系で(7)
を 捨 て て (9)を入れ替えた体系を単に「準
Harrodian 体系」と呼べば、準
Harrodian体 系 の 中 期 動 学 体 系 は 連 立 小 体 系 (6) と (9)とに集約される。
小 体 系 (6) と (9)とで記述される中期動学の経済状況は下の第 4図から明
瞭に理解される。この図で平衡点 (
α * cホ)= (
1
, v
) が鞍点となっていること
から小体系の動学過程は不安定で、ある。したがって次のことがわかる。
定 理 2 Harrodian中期の準 Harrodian体系では、ナイフの刃相軌道と共
に鞍点となる唯一の平衡点が存在し、不安定性原理(すなわち sgn (
G)=sgn
CG-Gw) と定義される命題)が成立する。・
準 Harrodian体 系 の 長 期 動 学 は (8) と (9)との小体系で記述され、それに
よって支配される経済の成長過程は次の 3つの図に描かれている。第 5図、第 6
図、第 7図には、それぞれ、 Q =
sv、 Q >sv、且
<svの場合の小体系の動学的ふ
るまいが視覚的に表示されている。
上の図で注意すべきことは、体系に従って経済が横軸
e=1に近づいて行くと
H
a
r
r
o
d の不安定性原理の解釈については J
o
n
e
s(
2
4
) と和田 (
4
8
)・(
4
9
) ないし Hahn
Matthews(
16
)(
特に p
p
.8
0
5
8
0
9
.)を参照せよ。また新古典派の枠組で不安定性を導いた
ものとして、 S
olow (
4
0
) と佐藤 (
3
7
) (Gw と n、特に K
e
y
n
e
s
i
a
n流の投資関数を用いて
H
a
r
r
o
d的に示した二階堂 (
3
2
) が興味深い。ここで、 (9)式は Hahna
n
dMatthews (
16
)
の p.806の(
2
)と(
3
)の組を単純化したものと解釈できる。
(
1
1
) ナイフの刃という言葉は、 S
olow(
4
0
) のはじめの部分で用いられている。また、 s
g
nは符
号保存を意味する。さらにまた、この種の体系において(9) の持つ不安定要素が極めて強力
(a
であることは (9)を若干変更することで容易に確認され得る(例えば、 (9)の右辺に O
1
)
、 θ=cons
t
.
>0、を加えて式 C を変更してみても体系の不安定性がそのまま保存きれ、ナ
イフの刃軌道が少し傾くことを除けばほぼ同様の結果がもたらされる)。
(
1
的
←
第 3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
5
7
第 4図
C
v
a
U
O
第 5図
e小
l'
,
1
a
a
第 6図
第 7図
〆〆
つ
F
/
(
0,1)'ヰ'8=~
~
(
0,
1
)
U
弘 c(
0,1
)
'
s
i v
,
Q
C
き、経済が一旦 e=1上の任意のある点に到達したならば、到達と同時にその到
Q
,/
s, 1)へ経済は跳躍して移行しなければな
達点から同じ横軸 e=1上の点 (
Q /s
,
らないということである。つまり横軸上で経済にとって可能な,点は唯一(,
1)のみなのである。例えば、第 6図や第 7図では、図の右端で跳躍が突然起こ
H
a
r
r
o
d
i
a
n跳
り、経済状況は不連続に変化する o このような e=1上での跳躍を i
躍」と呼ぶことにする。
定理 3 準 H
a
r
r
o
d
i
a
n体系では次のことが成立する。
が成り立つ。 i
i
)(
!
l/
s,
1
)を除〈無限に多数の平衡点は失業と両立し不安定
(
1
2
) 前出の補題 1を想い出せ。
(
1
3
)
i)命題 3の i
、
) i
i
)
3つの図から明らかなので証明は不要であろう。
5
8
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
である。 i
i
i
)e
>1で不安定性原理が成立する。 i
v
)Harrodian跳躍は経済を点
(Q/
s, 1) に移行きせ、点 (Q/
s, 1) は
、
Q>
sv ないし Q <sv に従って
安定的ないし不安定的となる。.
ここで、点 (Q/s, 1)が安定的であるとは、経済が体系外の要因によりその
)に
点からわずかに恭離した点に変位したとき、その後再ぴ経済が点 (Q/s, 1
必らず復帰することができる、ということを意味する。逆に、点 (Q/s, 1)が
不安定的であるとは、外的要因の変位が経済に生じたとき経済が元の点に必らず
しも再帰するとは限らずむしろ生じた黍離をますます拡大する場合が起こり得
る、ということを意味している。
Q>
svでしかも補題
1によって Harrodian跳躍が起こる場合を除けば、中期
と同様に長期においてもかなり強い不安定性が経済を支配している。もし資本主
義経済の特徴が、第 7図のような
Q<
svの場合で描写されるならば、そのとき資
本主義経済の成長過程は、結局、長期停滞の状況に陥り、遊休資本と失業の累積
的増大及び産出水準の連続的下落という景気収縮傾向から脱却できないだろう。
したがって、諸外生変数 u、s、阜の値の大小関係は極めて重要である。なぜな
ら tが比較的小さく、
いであろうし、逆に
S
と U が比較的大きいならば、第 7図の場合の可能性が高
tが比較的大きく、
S
と U が比較的小さいなら第 6図の場合
の可能性が高〈、しかも v<cなる領域をいっそう広〈与えることになるからで
ある。 v<c なる領域にある全ての相軌道はやがて横軸 e=1に近づき、結局、
Harrodian跳躍によって安定的点 (Q/s, 1)に至り完全雇用を達成する。この
意味では、
S
と U をできる限り小さくしようとする政策は社会的に望ましいかも
しれない。
5
. 伸縮的保証成長率:中期と長期
これまで Gwを一定と仮定して分析を進めてきたが、短期はともかく中期及び
1
(4
) 定理 2の復習を意味する。
1
(5
) 定義としては厳密性を欠くがここでの使用目的にとってはそれで十分である。
第 3章
ハロヅド的変動成長分析の一般化
5
9
長期の分析においては Gwを可変的に取り扱うことの方がむしろ適当である。新
4
0
) や Swan (
4
6
)は
古典派の人々、例えば、 Solow (
U
の伸縮的な可変性を通
じて Gwが変イじする成長過程を分析したが、その場合彼らの
U
は新古典派的生
産関数で与えられた生産技術としてあらかじめ指定された外生的条件の下での可
変性に基づいていた。しかしながら、
あるから、
U
U
の意味は代表的企業の行動パラメータで
の変化が外的な生産技術条件のみによって規定されると想定するこ
とは困難で、あり、むしろ、成長過程上の時々の経済状態ないしその移り変わりに
依存して Uないしその変化が規定されるような対応関係の中で
U
を取り扱う方が
適当と考えられる。なぜなら、時々の経済状態が変化するにつれて企業家か望ま
しいと判断する彼自身の行動及ぴその型も経済状況に適合するように修正される
はずだからである。
換言すれば、企業家の現実を重視する実証的性格から、理想的な望ましい値
は現実的な実行可能性を十分に考慮して設定されると考えられるので、
U
U が現実
の経済状態と強い関係を持ち、従って経済状態及びその変化は、共に作用して、
U
の変化を規定すると考えられる。つまり、企業家の行動心理は現実と理想との
聞の何らかの中間に位置する妥協点に安住の地を見出すのでなければならない。
このような意味では、調整方程式(9)は、いわば、現実と純粋な理想、との聞
の差を埋めて理想、追求に徹しようとする企業家の姿を描いている。しかしながら、
すでに示されたように、企業家は現実の拘束をまぬがれ得ないのである。それ故
企業家は、彼が認識した現実の許す範囲の下で、理想追求の行動を取ることがで
き、その制約の限りにおいてより望ましく行動を修正することができる。つまり
望ましさとは相対的なものなのである。
ここでは、導入的に後の分析の基礎として、 Gwが諸変数間での静的関数を通
じて伸縮的に変化する成長過程を分析する。提出される分析は中期的色彩の強い
ものと長期的特徴のものとの 2つの場合であり、それらは単なる準備的分析とし
てだけでなく後の分析で主要な役割を果たす考え方を含んで、いる(それらは部分
(
1
6
) 新古典派の詳細な分析は B
e
r
m
e
i
s
t
e
randD
o
b
e
l
l (7) ないし Solow (
41)と Wan (
5
0
)
で展開きれた(利子率に対する
(
J
司
U
の可変性は H
arrod (
19
) で認められた)。
Harrod (
2
0
)(
p
.1
9;邦訳、 p.30) 参照。
6
0
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
的ではあるが、しかしながら本質的な分析を同時に展開しているのがわかるだろ
う
)
。
前出の Gw と区別して、伸縮的保証成長率を
ついての調整方程式を
C
ω
C
ω
と表記するとしよう。
C
に
を用いて次のように変形された式で与えられるもの
と仮定する。
c=i
e(c-Gw/s
),
(
1
0
)
ただし i
e
=
c
o
n
s
t
.
>0としている。つまり、(9)と (
1
0
) の相違は Gω と Gw
が異なるだけである。それを用いて以下では、まず中期的な場合を、続いて長期
的な場合を考察する(もちろん明らかに、これらの相違は逆資本係数の現実的な
調節可能性の採否にある)。
場 合 1: (中期的なケース
Gω を与える方程式を、経済状況の指標と考
えられる変数と結びついた形で与える。
Gw=s (v(c)+vJ,
(
l
l
)
ただし、 dv/dc>0かつ v=
c
o
n
s
t
.>0である。つまり方程式 (
l
l
)は、企業家
にとっての理想的な値 uを、現実の経済状況が反映される v(
c
)(
企業が評価した
ω を設定す
現実)で修正することによって、企業家は彼の望ましい行動の基準 G
る、と考えるのである。 (
l
l
)式の経済的含意は次のようなものである。すなわち、
経済状況を示す要素として
C
を考え、もし c (したがって現実成長率 G) が大
なるとき企業は平常的に達成可能な望ましい値 Gwを楽観的に高〈設定し、逆に
C
が小なるとき(つまり G が低いとき ) Gw を悲観的に低〈設定するというこ
とである。換言すれば、企業は、 G が高いとき景気の経過ないし先行きを良好と
(
1
8
) 一貫して
S を一定と仮定し続けるが、それは和田
(
4
9
)(
第 1章)ないし本書の第 1章(鈴
木 (
4
5
)
) が指摘しているように Harrod (
2
0
) が S の、したがって Gwの一般化に成功して
2
0
)に従う 1つの極端に表現した体系を用いて、本書の第
いないからである。特に、 Harrod(
1章は Harrodよりも強力な不安定性が起こることを示した(その状況は星状の不安定軌道群
で表現きれ、これを点不安定性と呼んだ)。
(
J
司 企業は彼の望ましい行動の基準を純粋に理想的な部分とそうでない部分とにはっきりと分
解できるものと前提されている。
第 3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
6
1
判断し投資行動の基準を高〈設定するのである (Gが低いときは逆)。
つまり、
C
と U との食い違いの企業自身による投資行動的な評価は、彼が直面
している経済状況によって異なるのであり、経済状況が良好と判断されるときは、
G が低いときよりもより大きな
C
と U との食い違いがなければ彼は投資を加速
しようとしないのである。なぜなら、良好な状況では、 G が高い水準にあるのが
普通だから、そうでないときに比べて企業は同じ G の値をそれほど速くない(以
前の組悪な経済状況でよりも遅い)と評価するので、彼は投資行動において膨張
した基準(より高い
Gw) を用いるはずだからである(逆は逆)。要するに、 G の
高い良好な状況では、より高い
Gwを要求しでも比較的にその達成が容易なもの
と企業は判断するので、いっそう有利な条件で投資しようとする(悪化した状況
に比べて有利なのであり、良好な状況では有利で、ないと判断されるか、少なくと
もそれほど有利で、はないと企業家は判断するだろう)。
重要なのは、現実の変数と、それを錯覚に似た学習を通じて得られる企業家の
側
頭の中で評価したものとの相対速度なのである。したがって、(9)と (
1
0
) を交
換した体系を「修正 H
arrodian体系」と呼べば次のことがわかる。
a
r
r
o
d
i
a
n中期の修正 Harrodian体系で、 (
1
1
) を仮定し、さらに
命題 4 H
正の定数 C
oが存在して v(
c
o)=-Vかつ dv(c)/dc>1ならば、平衡点 (a*,
Cホ)が唯一存在して大域的に漸近安定となる。.
この命題 4が対象とする体系は (
1
1
)を (
1
0
) に代入した式と(6)の連立体
系である。まず、前者をここで提示しておく。
(
1
1
'
)
c=x {c-v(c)-v}.
dv/dc>1の仮定は c=v(c)+v を満たす
C
の値♂の存在と一意性を保証
し
、 c
。の存在は♂ >0を保証することが明らかにわかる。従って、(6)
で
、 c=
目
的
Arrow (
4
) は労働者の熟練に伴う技術向上についての生産性側面の学習効果を強調した
が、ここでは現実に対する認識の企業心理についての学習的効果が強調されまたその存在と急
激きが前提されている。
。
J
) ただし、
v(c*)jv<a'一 1と想定されている (
a
'については第 2節で前出)。
6
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
♂なるとき α = 0であるような αの値を α事によって表わすとすると、体系は、 a
Eα 一α*及
び、
c=c-c*を用いて、
(
ん =s(ム+α*)(e-v
a
)
(
12
)
l
c=x {e+c v(e十 c
*
)-v
}
本
と表現することができる。 (
1
2
) のヤコビ Oaccobi)行列/は平衡点の近傍で、
Isv
αヘ sα*
](
0,0
)= 1
o ,x(l-v')J
, 1
となるから、これを用いた線型近似体系の平衡点は安定結節点となり、命題 4の
1
2
) の位相図を考え合わせれば間接的に命題
主張が得られる。このことと共に (
の主張が明らかとなる。
' 修正 H
arrodian体系では、もし (
l
l
) を仮定し、さらに ν(ら)=
命題 4
U
なる c
。の存在及び dv/dc>1が成立するならば、次のことがわかる(ただ
(c*)/v<イ
しv
1)0 i
) Q =sc事は(8)と (
l
l
'
) の連立体系が平衡点を持
sc*かつ α=α*は均斉成長状態のために必
つために必要十分条件で・あり、 Q =
i
)無限に多数の平衡点は大域かっ漸近安定で、あり、
要かっ十分な条件である。 i
完全雇用となる唯一の平衡点
(
Q
/
s, 1)を除く他の平衡点は、どれも失業と
i
i
)Harrodian跳躍は経済を点 (Q/s
, 1)に移行きせ、点 (Q/
s,
両立する。 i
1)は、 Q >
sc*ないし Q <sc*に従って不安定的ないし安定的となる。
命題 4'の主張は前節で提出された 3つの図で
仰
U
を♂に替え、
C の増減につい
(
1
2
) の位相図は例えば右の図のように描くことができる。
ω 第 5図、第 6図、第 7図のことであるロ
a
第 3章
ハロ
y
ド的変動成長分析の一般化
6
3
ての矢印を逆方向にしたものを描けば容易に理解される。 (
1
1
)の仮定は中期の安
定を可能にしたけれども、長期の不安定性を除去することに成功してはいない。
長期の不安定性が根本的に諸パラメータの固定性に依拠しているのは明らか。
場合 2: (長期的ケース)
次に強い長期的特徴を持つ場合を考えよう。長
期においては労働市場での需給差に応じて多少伸縮的に実質賃金が調整きれる
削
ものと想定する。次の式を仮定する。
v=v(e),dv/de<O.
(
1
3
)
さらに、 d2v
/de2>0なる仮定を付加する(本質的な仮定ではない) eの増大
0
は雇用率の低下(=失業率の上昇)を意味するから、この場合実質賃金の下落が
生じる(逆は逆)ので、投資条件としてその下落は有利で、あるから投資行動の基
準である
U
を企業は先行き及ぴ経済状況を楽観的に判断することで比較的低い
値に設定する(逆は逆)と考えられる。
換言すれば、
(
1
3
)の意味は、
6が低いときは高い実質賃金と共に利潤率の低下
を期待する(少なくとも利潤率にとっては好ましくない状況と判断する)ので投
資環境が悪化しているあるいは不利なものと企業は判断するから、経済状況の低
い評価を通じて彼は
U
を比較的高〈設定することで投資態度を引き締め投資基
準を厳しくする(つまり経済状況を悲観して企業はなかなか投資しようとはしな
くなる)ということである(逆は逆)。要するに、 eの高低に対応して実質賃金が
低高となるので、所与の e
oに対する所定の実質賃金での
は
、 eミ向に対して、
C
C
と U の差 c-v(向)
を所与として c-v(
e
)ミc-v(eo) のように企業家によっ
て(彼の投資行動側面で)評価される、と考えるのである。なぜなら、手短に言
。
,ならいっそう低
えば、新しい投資によって付加される新しい生産過程は、 e>e
い、あるいはもし e<eoならいっそう高い生産費用(実質賃金)で運営されるこ
とになるからである。
。
4
) 任意の
U の値に対し
eの値は、 v=v(めから常に lより大でなければならない。なぜなら、
e
<1となるのは経済的に不合理(完全雇用の定義に反する)だからである。
6
4
不安定性原理とハロッド=ドー 7 ー型経済変動成長理論
-
JJ'
F
)U
uouv
)
}
ρvu〆t
h
i
市
/16
M-
︽
X
、J U 、・
nuu
し
-c
,
{
、
ft
III1t
一
一
一
一
・P
,
‘
,
、 、
〆aEEEEE J
(
1
4
)
e/e=Q-sc+v/vであり、 (
1
3
) より、動学体系は、
-Pν
U の変化を考慮すれば、
となり (ただし〆三 d
v
/
d
e
)、さらに、正三 c-c* と五三 e-e*、ただし c*=Q/
s
かつ♂三 v
1
(
Q
/
s
)(
V
-1は関数 v(
e
) の逆関数とする)を用いれば、 (
1
4
)は
、
(
1
4
'
)
V
'
/
V
}
l
(
五 =-se(e+e*) {1一(五+♂ )
l
e=f
{ {e+Q/s-v}
と書き換えられる(ただし、 v
'及び
U
のイ直は五+♂での値である)。これらのこ
とから、次の命題が得られる。
a
r
r
o
d
i
a
n体系の下で、もし、
命題 5 修正 H
Gw s
v かっ(13
) を仮定す
二
るならば、体系の平衡点が唯一存在しかっ局所的に不安定である。.
1
4
'
) の平衡点の近傍でのヤコビ行列の値を求めれば、
つまり、体系 (
o,-se*(l-e*v'/v)一
J(0,0
)=I ~,
l-xv,
1)
X
となるから、その対角要素の和が正となる。それ故、〆は負であるから、固有値
の実部が正となることと共に、 f 十 4f
{.s
e
*
v
'・(1-e吋 ,
/
v
)一1 が正・負・零と
なるのに対応して、平衡点は不安定結節点・不安定渦状点・不安定退化結節点と
なるのがわかる(ポントリャーギン (
3
5
J を参照)。
U の変化に対応するような
kの変化も考えることができるだろう。もし hが e
の関数として与えられるならば、形式的には、すなわち、
(
1
5
)
k=k(e),dk/de<O,
と仮定されるなら体系は新古典派的な色彩が強くなる。 (
1
3
)と (
1
5
) の組を「弱
い新古典派的想定」と呼べば次のことがわかる。
白
日 h の定義は本書の第 2章(鈴木 (
4
4
))の第 1節で与えられ生産要素投入の結合比率を意味
する。この仮定は生産要素代替を許すので新古典的であろう。
第 3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
6
5
命題 5' 弱い新古典派的想定の下で、 G
ω =svとするとき、修正 H
a
r
r
o
d
i
a
n
体系では、平衡点が唯一存在しかっ局所的に不安定となる o
•
(
15
) の導入によって、対象の動学体系 (
1
4
)は
、 e
/
eニ Q-sc+v
/
v:
か
ら
、
(
引
(
14
"
)
s
c
).e.(
l
e
v
'
/ぺ
/
k
)ー l
c
=
i
e {c-v(e)}
と変わる (
cは不変)。 きらに、
r
e=-sc(長+♂) {(l-e+♂)(
v
'
/
v
+
k
'
/
k
)
}
l
l
c
=
i
e {c+Q/s-v}.
(
14
"
'
)
このヤコビ行列を平衡点で求めれば、
r 0 ,-se* {
l-e*(v'/v+k'/k)}-l)
J(O,0)=l
'
1
l- X V,
X
となるから、前と同様に、 i
e2+ 4i
e
s
e吋'・{1-e*(
v
'/v+k'/
k
)}
lが正・負・零
となるのに対応して、それぞれ、平衡点は不安定結節点・不安定渦状点・不安定
退化結節点となり(ポントリャーギン (
3
5
)参照)、上の主張が成立する。ただし、
(
1
4
'
)の大域的な運行は不明であるが、位相図の限りでは不安定かあるいは半安
醐
定の極限閉軌道の存在の可能性が高いと思われる。
6
. 総合的な伸縮的保証成長率と成長循環的解釈
前節の中期的な場合 1と長期的な場合 2はそれぞれ企業行動の 2つの異なる独
立な側面を、現に存続する本来の経済現象からの部分的な抽象により描写してい
る。それ故それらの 2つの場合を結合した統一的な場合を想定することで、本来
側
このことは関数 νの 勾 配 が
全体的にかなり急な形で与え
られる場合に限られるだろう。
右図は (
1
4
'
) の位相図である
s
(図中の曲線は c=ν Q/
J
し
f
C
J
勺
を描いたものである)。
e
6
6
不安定性原理とハロッド=ド--:;>ー型経済変動成長理論
の経済現象への一つの論理的接近として総合的な考察を目指す理論分析を展開す
ることは興味深いことであろうし(少なくとも分析の自然な進展である)、また実
際の経済現象がそれらの側面について明確な境界を持つわけではないので、こう
した試みは、いたずらに複雑な考察といっよりはむしろ、より現実的な意味での
考察の一般化を展開することになる。以下では、前節の個々の想定を単純に結合
して総合的なモデル分析が行われる(各想定は相互に独立)。
(
1
1
) と (
1
3
) を用いて、場合 Iで用いられた体系と場合 2でのそれとを単純
に結合すれば、次の体系が得られる。すなわち、
re=(
Q-sc)・6 ・(1-ev'/v)-1
(
1
6
)
ただし、関数 uと関数
l
c~fè
U
{c-v(c)-v(e),
}
とは前述の諸性質を有するものと仮定する。前と同様
に♂三 v
-1
(Q!
s
) と c*:=Q/s を用いて、長三 e-e* と t
三c-c* とで(16
) を
表現すれば次のようになる。
(
1
6
'
)
(
長 =-se(五+♂){l一(五 +
e
*
)
v
'
/
v
}
l
l
e
=
f
e{
正+且 /s-v-v
,
}
ただし (
1
6
'
) における関数 U と U の値は、それぞれ、
C十
Q/
sでの値と
e+♂
での値である。また、 (
1
5
)の想定を導入して分析を拡張することもでき、その場
1
6つはそれぞれの第 1式 の { }の中に前節の場合 2で為された
合(16
) 及び (
若干の変更を加えられるが、すでに明らかなように模型の構造としては大した変
化はなく、何ら本質的な変更を引き起こすことはない。
)I
~二 o かつ c=v 十 v
(
1
6
)は相速度 Oで
、 c=Q/s(=c阜
I
~~ 0だから、 dc=v'dc+
v
'
d
eとなり、 de/dc=(l-v')/〆である。したがって〆と〆の符号についての
側
諸仮定から、 (
1
6
) の位相図は上の第 8図で描かれている。ただし v" と v
" とは
(
2
7
) eは (
1
4
) の式を取ったものであり、 cは
、 (
l
l
'
) と(13
) から成り、 (
1
3
)を (
l
l
'
) に代入
したものである。また記号の複雑化を避けるため前と同じ正を用いていることに注意せよ。
自
由
これまでに展開された議論においてもそうであるが、分析全体を通じて
C
は正でも負でも
任意の値を取ることができる。しばしは描かれる図は正象限のみであるが実際は
C
の負領域
も定義域に含まれているのであり、単に図による描写の簡略化のために部分的に作図されてい
るにすぎない(しかし成長過程にのみ分析の関心を限定したいのなら正象限のみに
を局限してもさしっかえないだろう)。
C
の定義
第
3章 ハロッド的変動成長分析の一般化
6
7
第 8図
e
了
D
A
-
e
ハリ
rM
U
cJ
B
c
'=
1
Y
s
常に正であるものと仮定して作図きれているが、この仮定は何ら本質的なもので
)からわかる
はない。また平衡点が一義的に与えられることは分析の想定 (v'>1
(図では〆'>1の場合が想定される)。
C
o
)二
ここで、 e=♂について ν(
v(♂)なる
C
の正の値 C
oが存在すること、
お よ び 、 〆 >1、 v
'
<0などの諸条件を伴う (16)によって動的過程が支配きれる
経済体系を「伸縮的修正 Harrodian体 系 jと呼ぶことにする。また、体系の平衡
e
*,♂)では形式的均衡成長、つまり Q =G(=sc)= G
ω、が成立する。した
点 (
~91
がって以上のことから次の結果が得られる。
補 題 2 伸縮的修正 Harrodian体系では、平衡点が唯一存在しかっ局所的に
漸近安定となる。さらに、その平衡点では、 α=Q/ {
s
v(
e
*
)
}なるときそのと
きに限り均斉(=斉一的均衡)成長が成立する。.
(
1
6
'
) のヤコビ行列は平衡点の近傍での値が第 2行 2列目の要素を除けば命題
側分析全体を通じて、微分方程式に関する議論では(特に安定性につい)、 C
o
d
d
i
n
g
t
o
n and
L
ε
v
i
n
s
o
n(
10
)、H
i
r
s
c
handSmale [
2
3
)、ポントリャーギン [
3
5
)、G
a
n
d
o
l
f
o(
13
) が参照
されている。当然のことだが、平衡点では雇用も失業も共に 4の率で成長を持続する(いわば
均衡失業成長状態がそれである)。
6
8
不安定性原理とハロッド=ド - 7
ー型経済変動成長理論
5でのそれと同じであるから、命題 5のヤコビの£を x
(
1-v')に替えれば(16
'
)
のヤコビ行列が得られる。そのヤコビ行列の対角要素の和が仮定から常に負であ
るから(その行列式の値は常に正)、体系の漸近安定が言える。また、
2
x
(1-V')2十
4x
s
e
*
v
'
(1e
*
v
'
/
v
)ー 1が正・負・零となるのに対応して、平衡点は安定結節点・
渦状点・退化結節点となる。それゆえ補題 2の主張が成立する。また均斉成長に
ついては自明である。
補題 2' 弱い新古典派的想定の下でも補題 2の主張が成立する o
•
醐
命題 5'の証明で施した命題 5でのヤコビ行列への変更を、ここでも、上の補題
2のヤコビ行列に同様の仕方で施せばよい。その変更は体系の安定性に影響しな
いから主張の成立は自明。
定理 4 伸縮的修正 H
arrodian体系に支配きれる経済は局所的には均斉成
長状態に漸近的に到達する。.
補題 2から平衡点が経済によって局所的には漸近的に到達されることがわかる
から、問題は平衡点において α =Q/{sv(♂)}が到達されるかどうかである。と
/
α =sc-sv
α-ev'/vだから、長 =e=0では α=α (
Q-sv
α
) となり、こ
ころで、α
s
v
)I
v=v(♂)が漸近的に(大域)安定だか
のαの単独微分方程式の平衡点ピ*=Q/(
i
me=l
i
me=0か
ら
、 limα=α 材、また α刊では斉一的成長が成立するので、 l
t~・+∞
t→+∞
つ l
i
m
α =Q/(
s
v
)I
e
二♂より、主張の成立は明らかである。また、補題 2と補題 2'
t
→+閣
との相違に注意すれば、この定理 4とほぼ全く同様の論法で次の命題 6が得られ
るのも明らかである。
命題 6 $~い新古典派的想定の下でも、定理 4 の主張が成立する o
。
•
0
) ヤコビ行列の第 1行第 2列自の要素での(・)-1 の中に e
*
k
'
j
kを加えることがそれであ
る
。
第
3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
6
9
しかしながら、体系の大域的安定性について確定した一般的結果を引き出すこ
とはできないが、いくつかの事例または特殊な場合を想定することで体系の安定
条件を得ることができる。にもかかわらず、そのようにして得られる安定条件の
経済的意味は強引なあるいは少なくともかなり組野なものにすぎないだろう。こ
の一例を成す場合を次に提出する。
U
の
E
についての弾力性をぬと表わせば、 (
1
6
'
) のヤコビ行列は次のように
表わされる。
E二五十♂とら
a一
-
δe
s
正
=e
v
'/
vに注意して、
(V
'e(
五
十 Eホ
)
a
es
(五+♂)
1+Ve
一
δe
'
五Z-i-u
引U
δ
もしも、
噌
AX
J
=I
FCτe
一
一
一
一
I
ae-1+v
'
"J
'
a
e
e el 1+v
l
e
l<;なる j が存在!
l
、しかも五→ eo
r
e
*のとき I
v
e
lと I
v
'
lが
共に増大するとして、常に
か'>0となると想定すれば、
ae/ac+δ正/
a
e
>0つまり -s(
正+♂)/(1+
v
)
e
F を/の転置行列として、
(
e, c
) υ(0
,0
)十 F (
0
, 0
)
]
(
n<0
が 6
宇 Oと 5
ヰ Oについて得られる。
さらに、
t宇 Oと 5
宇 Oについて e
e+cc=0とおくと、五 =
f
e{c+Q/s-v-
v
}・(1十九)/ {
(
e
+♂)
s
}だから、このとき
(
h
a
f
)
;
(
£s(
(1十九)
一
a
c
'一
a
e
) 日 ・ }cl一一}
e
+
e
*
) >0
t
J
~~
となる({・・}と反及ぴ{…}はどれも常に正である)。従って
大きく、社
I
v
'
lが十分に
I
VeI
も十分に大で、他方 S が十分に小さいなら占、加えて、そのと
(
31
) 現実の脈絡においては e
がそれほど大きな値をとることはなく、例えば大きく見積もっても
そ れ が +2 (=失業率 50%)を越えることはないだろうし、少なくとも現実的には有界である
(さもなければ経済の運動は体系に従わない)から eの存在を想定することはある意味で十分
に正当な根拠を持っと考えられる(換言すれば、 eを有界な範囲で定義する方が適当であると
現実的には考えられる)。
自
由
上記の deldc+d
clδe>0なる想定を含意する条件を意味している。
7
0
不安定性原理とハロッド二ドーマー型経済変動成長理論
きもし、
2
e
s (Ou+♂ , i , , " -i
1 r+(
1-v
'
)eI
{-e} ~sgn I
一一一{一一一一
l
1十 Ve l 1+Ve
1
-)
- ,-)
ならば(あるいは {
δe
/δt十 a
e
/δ副長を(…〕の中に含めたより弱い型式でも
よいが)、長ヰ Oかっ
2ヰ Oについて、明らかに、
(
e
,e)υ(ιe)+
F(
e
,e
)
) (~)) <0
となる。それゆえ、 M
as-Colellの系の条件が満足されるから体系の平衡点は大域
) p
.l77、系 3
.
2
.
)という結論に我々
漸近安定となる (Brock& ScheinkmanC6、
聞
は達する。
ここに提出きれた大域的安定条件の記述はあまりにも厳しすぎて、一般的には、
とても充されそうにない。しかし、このように唐突に強行された記述は、極めて
荒削りに表わせば、次のような経済的含意によって大まかに要言される。即ち、
企業家が経済状態の変化に対して十分に感応的でかつ敏速に行動し、純粋競争的
な生産要素市場の需給の程度に十分に伸縮的に対応して敏感に行動するとき、し
かも社会の平均貯蓄率が十分に小さいならば、そのとき経済は安定成長状態へ近
づく自然な傾向を持つ。換言すれば、豊富の逆説に象徴されるような Keynes的
な景気動向に関するパラメータの含意を我々は裏返しに再び確認したことになる
のかもしれない。
'
) の大域的漸近安定を主張
上述の特殊な場合を別にすれば、一般的に体系(16
することはできず、むしろ閉軌道が存在する可能性や大域的な不安定の可能性が
十分に強〈考えることもできる。もし体系に閉軌道が存在するとすれは¥それは
岡
半安定かそれとも不安定で、あろうと考えられ、少なくとも相平面上で右匝りに軌
(
3
3
) この
M
a
s
C
o
l
e
l
lの系は Hartmana
n
dOle
c
h (21)や周知の O
l
e
c
hの定理などの他の条件
よりもこの場合にとっては比較的に有用である。
(
3
4
)K
e
y
n
e
s(
2
7
)、p
p
.
3
0
3
1 (邦訳、 p
p
.
3
1
3
2
)、を参照(しかしここでの議論と直接の関連が
あるわけではないことは自明である)。
日
旧 すなわち極限閉軌道の安定性のことを意味している。
第 3章 ハ ロ ッ ド 的 変 動 成 長 分 析 の 一 般 化
7
1
国
。
道が進むはずで、ある。いずれにしても相平面上の軌道は右回り的な傾向を一般に
,
0
持っと考えてよい。この傾向を解釈することによって経済の動的過程の変動過程
としての経済的意味が明らかとなる。
(
1
6
'
) から、経済状態の運動について
醐
ているのがわかる。しかし
Eは C
E
よりも
を先行して
C
の方が主要な役割を果たし
C の運動方向を指示し C
を先導す
る。実際、このことは第 8図においてよりよく理解される。すなわち、経済状態
が領域 Aから出発するとき、経済は A→ B→ C→ D→ Aなる周期的運動の循環過
程を繰り返しながら変動し続けるのであるが、その際各領域て自の eの変化方向が
それに続〈次の領域での
化方向と Bでの
Aでは、
C
C
C
の変化方向と一致している。例えば、 Aでの eの変
のそれとは一致している(共に減少している)。
と E が共に高い水準にあるので、 Yが労働力よりも速く成長するが
実質賃金もそれほど高くはならないだろうし相対速度の基準 uもまだそれほど高
くはならないから、 Yの成長は投資と共に加速される。しかし経済が成長するに
つれて U と U の効果が大きくなるので、やがて Y と投資の加速度は正だが徐々に
小さくなって行き、遅かれ早かれ経済は領域 Bへと突入することになる。
Bでは、 eが低い水準にありまた引き続いて減少するので、実質賃金が要素市
場の小きな需給差を反映して高騰するようになるだろうし、またすでに高速の Y
の成長を経験した後の企業家にとって、相対速度の基準がかなり高く設定され、
以前の Yの成長もそれほど速くない、あるいは、遅くなりつつあると判断される
(いっそう速く成長することを投資拡大のために要求する)から、 Yも投資と共
に減速されることになる o しかし Yの成長率の絶対水準が高いので、
E
の減少も
持続され、したがっていっそう投資及び Yの減速が促進される。こうして経済は
領域 Bから領域 Cへ吸引される。
Cでは、
C
が比較的に低くなるので、労働力の成長が Yを追い越して進むから
(
3
6
) 第 8図の中の各々の矢印に注目せよ。
間例えば平衡点を中心とした途切れのある時計四りの様相を考えてみよ。
(
3
8
) 要するに、 0
6
'
)の安定性は ν関数の'性質にほとんど依存していると言える。このことは前節
での 2つの場合を比較対照することから明らかにわかる。
(
3
9
) 企業家はだんだんと経済の成長速度に慣れて行くので、彼の速度感と相対的に経済の成長速
度は彼にとって前よりも比較的に鈍〈感じられるようになる(前節の場合 1を見よ)。
7
2
不安定性原理とハロッド=ドー 7 ー型経済変動成長理論
E は上昇する。一方、相対速度の基準 uがなかなか低い水準に落ち着かないので、
依然として投資及び Yの減速が持続される。つまり投資の冷却化と失業増大が共
に進行するのである。 eの増大は実質賃金の低下をもたらすだろうが、その負の
傾向を変えることはできず、そのためには Uの十分な低下を持たねばならない。や
がて長い負の傾向を反映して、わずかな Yの成長でも相対的に速く企業家が感じ
るようになるとき、経済は領域 Cを脱出して領域 Dに移る。
Dでは、十分に低い uと共にいっそっ eが増大し続けるので、投資拡大する企
業の態度がゆるめられ、 Yの成長の相対的速度が高まるから、楽観的に投資が加速
される。したがって、 Yと投資は共に加速し合うため、 C がいっそう上昇すること
になり、経済は再び領域 Aへと返ることになる o つまり、
U
も U もなかなか大き
制
的
くならないので、比較的低い Yの成長が、企業家の投資意欲を高〈保つのである。
このように経済の循環的運動は、 G と
Gwの不安定性と共に、いわゆる景気
変動の循環的 4局面と類似の、成長過程としての諸局面を伴って起こる。すなわ
ち
、 A ・B ・C.Dの各領域は、それぞれ、成長の速さの意味では、いわば、(成
長の)繁栄・後退・沈滞・回復の各局面として捉えることができるだろう。また、
曲線 c=0付近で B とDに属する部分を除けば、上述の説明は、平衡点が結節点
となる場合、あるいは、不安定で、ある場合でも同様に(少なくとも部分的に)適
用できるはずで、ある。換言すれば、企業家自身の行動心理の中の、現実と理想、を
望ましく総合しようとする自然な主体的性向が、成長経済の循環的変動を引き起
こすのであって、その総合が相対的にしかも調和的に達成されるとき、そのとき
に限り経済は、長期均衡点に到達することができるにすぎない。重要なのは、現
ω
) これら 4つの領域の説明では、
A とDでは資本不足が発生し、また BとCでは資本過剰が発
arrodの不安定性原理についての投資調整の説明(の叙述)が省略
生しているのに応じての H
されている(その叙述の導入が上述の循環の説明に必要なのは当然である)が、このことは自
Harrod C
l
7
)
, (
18
)と (
2
0
) を参照)。
明なことなのできしっかえないだろう (
臼
1
) つまり、 Gw を Gwに修正した相対的な不安定性原理とでも言うべきもの。
(
4
2
) これらの用語は Schumpeter(
3
8
) に従う周知の景気局面分類である(しかしそれらは上述
の意味で用いられているにすぎないことに注意せよ)。したがって強いて言えば、 A とBは好
況
、 CとDは不況と考えることができる (Bumsa
ndM
i
t
c
h
e
l
l (8)流に言えば、 A とDを拡
張 BとCを収縮の過程と呼ぶこともできょう)。
第 3章
ハロッド的変動成長分析の一般化
7
3
実の企業行動が絶対的であるよりも、むしろ相対的に形成されるという想定が、
企業心理と経済成長を調和させる可能性を内包しているということである。
この節では、資本稼働率を中心とする体系の下で、修正された Harrod流の不
安定性が分析され、長期の成長均衡たる均斉失業成長状態の局所安定が結果され
たが、大域的には成長循環を暗示したにすぎない。ただし、もし経済状態と企業
行動との間に、極めて強力な敏感かっ伸縮的反応関係が存在するならば、そのと
き長期成長均衡が大域漸近安定となり得るという可能性の存在が示された。
これまで、不安定性原理にまつわる Harrod解釈に多大な努力が傾けられてき
たけれども、その多くは企業主体の期待あるいは有効需要の原理のいずれかを択
一的に強調したので、一般的な Harrodの立場よりも偏狭なものである。いずれ
(
4
3
) Hahn& M
atthews [
16
)(
p
.7
9
3
) が伝えたように、(資本)稼働率は K
e
y
n
e
s
i
a
nの典型
icks(
2
2
) や Goodwin (l4)による循環的成長の理論で重要な考
的な概念であり、古くは H
え方であったが、明示的な形式で用いられたわけではなしその概念を陽表的に変数として用
t
e
i
n(
4
2
) 及び鴇回(47)そして本書の第 2章、または同じであるが鈴木(44)で
いたのは S
あった。特に本書の第 2章または同じの鈴木(44)は明確に定義してそれを用いた(非明示的
arglin (
2
9
) がある)。また、循環的成長の理
に(資本)稼働率を用いている最近のものに M
0年代のいくつかの話題が Goodine
ta
l(
15
) に収められている(吉川 (
5
1
)は
論について 8
景気循環の理論と実証についての興味ある話題を収めている)。
制) このことは、資本主義的経済が安定成長する失業の増大を伴いながら安定な経済成長を達成
することができるという可能性を含意している。
白)
5 森本 (
3
0
) に従うと、 Harrod解釈の多くが、有効需要の原理を捨てても企業主体の期待の
役割を強調・優先する立場と、逆に有効需要の原理を堅持し企業期待よりも優先する立場との
lexander(2、
) Baumol
いずれかに大別することができる。前者に含まれるのは、例えば、 A
(6
)、鴇田(47)などがあり、他方、後者の例では、 ]
o
r
g
e
n
s
o
n(
2
5
)、置塩 (
3
3
)、 Rose(
3
6
)
などがある(置塩 (
3
3
)でも稼働率が重要な要素となっている )
0K
eynesとの関連から分類す
eynes(
2
6
) を重視する p
r
e
-K
e
y
n
e
s
i
a
n、他方、後者は Keynes(
27)を
るならば、前者は K
e
y
n
e
s
i
a
nとしてそれらを見ることもできるだろう。いずれにしてもこのよ
重視する普通の K
うな解釈の亀裂が生じた理由は H
arrodの所得決定に対する一般的な(換言すればあいまい
arrod (17)の 6の最初のパラグラフ (
p
.
1
9
) に見出き
な)立場に由来する。このことは、 H
れる(その第 2番目の文章のことであるが、これに続く第 3番目の文章の方がはるかに重要な
役割を持っていることを忘れてはならない)。普通の K
e
y
n
e
s
i
a
nの立場に基つ弓つつもこれら
2つの解釈の総合にある程度の成功を収めたと思われるものは Sen(
3
9
)であろう。一方、 p
r
e
K
e
y
n
e
s
i
a
nの立場から解釈の総合が足立(1)によって試みられた(この立場の方が形式的
には一般的であるから、解釈の一般化とむしろ言うべきであろう)。
7
4
不安定性原理とハロッド=ド - 7
ー型経済変動成長理論
にせよ、 H
arrodの功績の特長は、経済動学の本質として、人間的属性に基づく行
動原理を一般的な仕方で分析に導入した点であろう。すなわち、行動原理に必要
なのは、経済主体にとっての、理想と現実とそして経験とである。
第 3章 参 考 文 献
(1) 足立英之『経済変動の理論.1 (経済学研究双書)、日本経済新聞社、昭和 5
7
年(特に第 8章
)
。
(2J Alexander,S
.S
.,
“ Mr
.H
a
r
r
o
d
'
sDynamicModel",EconomicJ
o
u
r
n
a
l,
V0.
1LX,December1
9
5
0(
p
p
.7
2
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現代経済成長理論』勤草書房、 1
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第 3章
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論』東洋経済新報社、昭和 3
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年(第四刷) ;特にその I
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IとI
Vの各章〕。
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第 7巻)、東洋経済新報社、昭和 5
8年〕。
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J 木村吉男『経済成長と技術進歩』中央経済社、昭和 4
4年(特に補論 2・2。
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5年〔特に第 I部の第 1章〕。
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)。
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J 大谷龍造『景気変動の理論』東洋経済新報社、昭和 4
4年(特に、第 2章の
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1、及び、その第 4節
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)。
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J (経済学全集)、勤草書房、 1
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fEconomicGrowth",
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1Ec
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s,Vo.
1LXX,Febrary 1
9
6
5(
p
p
.6
5
9
4
)
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R
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g
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z& Uzawa (
e
d
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)(
4
3
J(
p
p
.5
8
8
7
)
.
.M.,G
rowthT
h
e
o
r
y,OxfordUniversityPress,1
9
7
0 (福岡正夫
(
4
1
J Solow,R
訳『成長理論』岩波新書、昭和 4
6年(特に第 1 ・ 2.3章 )
J。
7
8
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
(
4
2
) S
t
e
i
n,
]
.L
.
, MoneyandC
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p
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c
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y Growth,ColnmbiaU
n
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v
e
r
s
i
t
yP
r
e
s
s,
1
9
7
1 (佐藤隆三 訳『マネタリズムとケインジアン理論の統合J春秋社、
1
9
8
1 (特に第 3章)。
)
(
4
3
) S
t
i
g
l
i
t
z,
]
.E
.,andH.Uzawa(
e
d
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s,1
9
6
9(
1and1
1
)
.
(
4
4
) 鈴木康夫「疑似ノ、ロッド模型 Jr
白鷺論叢 J(大阪府立大学大学院経済学研
6号
、 1
9
8
4(
p
p
.8
9
1
1
4:本書の第 2章はこの主な部分を収めてい
究会)、第 1
る
)
。
(
4
5
) 鈴木康夫「不安定'性原理の形式的な表現についてのノート Jr
白鷺論叢J
第
1
8号、昭和 6
1年 (
p
p
.1
2
9
1
4
1:本書の第 1章後半に収められている)。
(
4
6
) Swan,T
.羽T,“
EconomicGrowthandC
a
p
i
t
a
lAccumulation",E
conomic
lXXXII,N
o.6
3,November1
9
5
6(
p
p
.3
3
4
6
1
)
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R
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c
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d,Vo.
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4
3
)(
p
p
.8
8
1
1
5
)
.
S
t
i
g
l
i
t
z& Uzawa (
(
4
7
) 鴇田忠彦『マクロ・ダ、イナミックス:現代インフレーションの基礎理論J
東洋経済新報社、昭和 5
1年(特に第 5章と第 6章)。
(
4
8
) 和田貞夫『経済成長の基礎理論Jダイヤモンド社、昭和 4
4年(特に、第 4
章
)
。
(
4
9
) 和田貞夫『経済成長と資本の理論』東洋経済新報社、昭和 5
0年(特に第 1
章
)
。
(
5
0
) Wan,H
.Y
.
, J
r
.,E
conomic G
r
o
w
t
h
,H
arcourtB
r
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c
sJ
o
v
a
n
o
v
i
c
h,I
n
c
.,
1
97
1
.
(
51
) 古川洋『マクロ経済学研究J東京大学出版会、 1
9
8
4(
第 2部の第 8章と第
9章)。
7
9
第 4章 経 済 成 長 の 公 債 蓄 積 と 長 期 財 政 支 出 政 策
1.公債蓄積の事実と分析目的
1
9
7
0
年代から先進資本主義諸国は徐々に財政難の傾向を強め、 1
9
8
0
年代に至っ
てその傾向は一層強いものとなった。その結果、税収の伸び悩みから政府の一般
歳出は、その比較的大きな部分を公債の増発によって賄わねはならないという状
態が一般的となった。とりわけ、日本と近年のアメリカは、強い公債依存状態の
下にあってその傾向を強めてきた。近年一層関心が高まってきている財政再建及
び税制改革に関する様々な論議の社会的な進展はこういった世界的な傾向を背景
としている。このような税収に対する政府の一般歳出の相対的増大は、財政赤字
による公債依存傾向と共に重大な長期的問題を生ぜしめる。すなわち、長期間に
渡って継続的に公債が累積的に蓄積されることから、公債残高の肥大化及びそれ
にまつわる諸問題(利払額の増大など)が発生している。
例えば、 GNPに対する長期政府債務残高の比率を見ると、日本については(加
藤 (8)
p
p
.3
8
4
3
8
5
)、 1
9
6
0
年代の前半に 2-3%の最低水準が達成された後、そ
以内の水準で一応安定していたが、 1
9
7
0
年代に入ると徐々に上昇
の後半では 5%
9
7
5
年にはついに 10%を越え、
し始め、年に約 0.5%-2%ぐらいの割合で上昇し、 1
それ以後の約 9年間にわたる相対的に速い公債蓄積過程が展開された。その 9年
9
7
4年から 1
9
8
3
年までの 1
0年間の累積過程では、当該比率が年に約2
.
間を含む 1
8-5.2%の幅での上昇をもたらし、平均すると毎年約 4.3%ずつ上昇し続けたこと
になる。 1
9
8
3
年以降の 5年間の当該比率は年に 1-3%の伸びに留まり比較的に
9
8
6
年度にその比率がついに 50%の大台に載った。
安定していたが、 1
)pp.3
8
6
3
8
7
)、 1
9
6
0
年代の前半
当該比率をアメリカについて見れば(加藤(8
9.1%から 30.6%までの低
はほぽ41-46%の幅で減少的に推移し、その後半では 3
9
7
0
年代は 2
7.1-29.7%の幅でその水準が推移し、ほぽ安定して
下が実現され、 1
9
8
0
年代に入ると、 1
9
8
1年度に、一旦、その比率が最低水準の 2
5
.
いた。その後、 1
9%を達成すると、それまで継続してきた長期の低下傾向から一変して上昇に転
8
0
不安定性原理とハロッドニド-"7ー型経済変動成長理論
じ、特に 1
9
8
4年からの 3
年間は 3.5%、 3.4%、 3.8%の高い上昇を見せ、 1
9
8
7年度
にはその比率が44.7%の水準に達した。また、同様に同じ比率を西ドイツについ
p
p
.3
9
0
3
91
)
、 1
9
6
0年代の前半のその水準がほぼ 7%台であっ
て見ると(加藤(8)
9
7
0年代前半までの 1
0年間はほぼ 6 %台を推移し、 1
9
7
0
たのに対し、その後半から 1
年代後半から毎年約 1%ぐらいの上昇を続け、 1
9
8
3年度以降は 1%未満の幅の上
9
8
4年度には当該比率が20%台の水準に達したが、続く 2つの
昇に留まり、特に 1
年度では横這いとなり、一応安定化している。この他、フランスやイギリスにつ
いても類似の考証が可能で、あるが、いずれにしても、先進資本主義諸国において
は、相対的に公債の累積がかなり進行していることが分かる。
こうした公債残高の相対的な肥大化は、第 1次オイルショック以後の長引いた
不況を打開するための長期化した継続的な景気対策としての財政政策に伴う財政
支出を公債発行に依って賄おうとしたことや、あるいは、老人医療費及び社会保
障費の増大や国防費の増大などの公共支出拡大といっ長期的な財政政策に起因す
ることが大であったと考えられる。例えば、日本に於ける公債累積過程の引き金
0年度に始まる特例公債の発行は、まさに、前者の要因に起因する
となった昭和 5
ものであり、他方、アメリカの公債累積減少の主な要因は後者である。このよう
に、長期に於いて財政政策が公債発行と結ぴ付くことにより、時聞の経過を経て、
公債累積現象が発生するのである o 従って、公債蓄積を動学的な過程として捉え、
さらに、その過程に於ける長期財政支出政策と公債蓄積の相互関係がどのように
作用し、かつ、経済がどのような推移過程を辿ってどのような状態に行き着くか
という定性的な問題が生まれる。
そこで本稿では、長期的な公債蓄積の経済分析が意図きれ、特にある種の財政
政策に基づく公債蓄積過程の経済成長過程における意義を明らかにすると共に、
前者が後者に及ぼす諸効果を検討することが分析の目的とされる。詳細には、あ
る種の財政政策に基づく公債蓄積過程と国民所得の成長過程との長期動学的な相
互作用関係を明らかにし、さらにその関係が経済体系の動学的安定性にどのよう
に係わっているかを分析することが本稿での分析の目的である。従って、以下で
(
1
) これについても加藤(8) T
T
.388-393を参照している。
第
4章
経済成長の公債蓄積と長期財政支出政策
8
1
展開きれる分析の主要なものは長期分析である。ただし、本稿では基本的な長期
分析を提出するに留まり、財政赤字の本格的なマクロ的一般均衡分析は他の機会
に譲り、ここでは、政府支出が専ら政府による財の消費に充てられるものと想定
され、政府の投資を完全に無視した基本的な問題のみに関心を集中し、公債と所
得成長の問題という古典的な定式化の枠組みの中でその問題が検討される。
omar(
4
)によって与え
公債蓄積と経済成長の関係についての古典的分析は D
omar定理(或いは法則)と呼ばれている。
られ、彼の分析結果の主要なものは D
その定理によれば、物価が不変に保たれるものとして国民所得が正の一定率で成
長を持続する経済が想定され、もしも、各期で、新発行公債額を国民所得額で割っ
た比(対国民所得新公債発行率)が正の一定率で保持され続けるならば、そのと
き、各期で、既発行公債残高を国民所得水準で割った比は、対国民所得新公債発
行比率を国民所得成長率で割った比で表される正の一定率に時間と共に収束して
いくことになる。またその場合、公債残高の利子支払い費用を課税所得(=国民
所得+公債利子費用)で割った比(=税率)も正の一定率に(=公債利子率をそれ
自身と所得成長率/対国民所得公債発行率なる比の和で、割った比率)に時間と共に
やがて収束していくことが示される(ただし利子率は一定と想定されている)。
omarのモデ
しかしながら、長期における公債蓄積と経済活動の相互関係が D
ルでは無視され、国民所得の成長率が外生的に所与ときれているということは、
公債蓄積の国民経済における諸効果を分析するには、極めて不満足な想定であり、
長期分析の本質的な役割を持つ動態的分析は、その仮定によって議論の当初から
omar(4
)
排除されることになる。従って、以下の分析では、この欠陥を除去し、 D
の分析を一層一般化することで、長期的な公債蓄積の経済分析が、経済成長理論
の枠組みの中で検討きれる。その際、政府主体によって施行きれる財政政策が経
済体系の動学的安定性に極めて重要な役割を果たすことが分かるだろう。ただし、
以下の分析では、規範的性格の強い公債負担論的分析や IS.LM分析の枠組みに
基づく短期的分析は全く除外される。なぜなら、本稿の主要な分析は専ら動学的
な側面に集中されしかも長期に限定きれているからである。
Domar(
4
) の分析は、井堀(7)の前出の部分 (
p
p
.1
1
9
2
2
)、菅(12
)(
p
p
.
2
3
0
3
2
)、及び吉田(13
)(
p
p
.2
0
21)などによって若干の一般化が行われている
8
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
が、それらは、経済体系の動学的側面を考慮していないという点で、 Domarの分
析と同様にかなり不満足なものである。また、新古典派成長理論の枠組みに、
Samuelson (
l
1J流の単純な重複世代(ただし、 2世代だけから成る)モデルを
適用した定差型のモデルを用いて、安定性を含む規範的な長期分析が、 Diamond
、 Diamond(
3Jの分析手法
(3Jによって展開された。更に、 Okuno(9Jは
を批判的に継承し、安定性分析を一般化した。
p
p
.1
3
9
4
5
)は、実証的性格の強い長期動学分
他方、井堀(7]の後出の部分 (
析を提出し、 1部門新古典成長理論の枠組みで、公債発行を含む経済体系の安定
性が検討されている。以下で展開される本章の分析の性格は、その井堀(7]の
arrod
後出の部分に最も近いが、しかしそれが基づく完全雇用は前提きれず、 H
-Domar型の枠組みが用いられる(吉田 03J も部分的に Harrod-Domar型の
モデルを用いている)。
2
. 政府の財政予算制約式と公債の長期蓄積
長期分析のため、時間を通じて物価は不変に保持されているものと想定する。
B を既発行公債残高とし、その時間変化比率、すなわち、新規発行公債の増加分
B/dtで表す。また、公債費を除く政府歳出を G で、政府の税収入を T で
をd
B
l
i
n
d
e
r
表せば、公債利子率を rとして政府の財政予算制約式は次のようになる (
& Solow (2, 3J
)
0
dB/dt=rB+G-T
この予算制約式は、経済の生産能力の側面に関して何ら全く言及していない皮
相的な動学的表現であるが、動学分析の本質は、資本蓄積を伴う経済成長で特徴
化される長期分析の中にあると考えられるから、以下では、経済成長を明示的に
取り扱う長期動学的な分析枠組みの中で、公債の蓄積過程とそれが経済成長過程
(
2
) ただし、当該考察は公債蓄積の動学的安定性にのみ関心を集中しているので、失業や景気変
動などの他の諸問題には触れない。これについては別の機会に考察したい。
(
3
) もしも、政府の一般歳出の一部が新貨幣の発行で賄われるものとすれば、この政府の財政予
M/dtで貨幣供給の時間変化率を表して、
算制約式は次のようになる。 d
dB/dt=rB十 G -T-dM/dt.
第 4章
経済成長の公債蓄積と長期財政支出政策
8
3
に及ぼす影響や、それらの動学的関係などについて考察が展開される。ここでの
分析は、規範的な脈絡に属する性格を持つものであるが、この分野の先駆的な研
究を行ったのは Domar(4)であった。彼の研究では、国民所得の成長率がパラ
メーターとして外生的に与えられていたが、それは明らかに不満足で、ありかっ不
4) の
自然な仮定である。従って、このような分析上の困難を解消し、 Domar(
分析を一般化することは望ましいと考えられるから、以下では、 Domarの単純な
分析枠組みの延長線上においてその一般化が企てられる。
4) に従って 1国 1財実物経済模型が用いられる。
以下の分析では、 Domar(
t
)、現存する
また、政府は公債発行のみによって財政政策資金を集め (G=dB/d
既発行公債ストックの利子支払い資金は、課税のみによって賄われるものとし
(rB=T)、それ以外の課税は全く無いものと仮定する。すなわち、政府支出のた
めの新貨幣発行は無いものと仮定する。ただし、現存の既発行公債ストックの利
子率 rは、一定に保持されているものと仮定する。さらに、政府の財政資金全額
は、公債の利払いを除けば、財政政策にのみ運用され、しかも財政政策支出は、
専ら財の購入に充てられ、所得再分配などの他の目的に支出されることは全くな
)のものと同じである。
いと仮定する。これらの諸仮定は、基本的には Domar(4
現存する既発行公債ストック B の利子支払い額泊は、経済内部での政府に
よる移転支出であるが、この移転は無費用かつ瞬間的に行われるものと仮定され、
民間経済の消費及ぴ貯蓄に関する支出決意は、その移転が為された可処分所得に
依存すると仮定する。特に、消費支出は、可処分所得に比例するように与えられ
るものと仮定する。ここでの分析は rB=Tを仮定しているので、被課税国民所
得と可処分国民所得は同じであり、経済主体の個人差が無視されているので、ど
ちらの所得概念で消費関数を定義しでもよい。
平均二限界)を
これらのことから、国民所得 Y は次のように決定される。 c(
消費性向とし、
o<c<1と仮定すると、
Y=cY+I+Gだから、 Iで民間投資
を表せば、均衡国民所得水準は、簡単に、
Y=(
I+G)/(1-c)
と得られる。ここで、政府による財政政策支出として購入される財は、すべて消
費として支出きれ、政府支出に向けられるものと仮定する。また、資本は 1種類
8
4
不安定f
笠原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
のみ存在し、投資は、専ら民間の経済主体によってなされるものと仮定する。従っ
て、資本ストックの形成に政府は何ら全く貢献しないものと想定されている。そ
れ故、上記の仮定より dB/dt=Gであるから、 d
B/dtは民間経済の貯蓄形成を
減じる役:割を演じる。
次に、これらのことを、いわゆる、 Harrod-Domar型成長理論の枠組みに導入
H
a
r
r
o
d C6J
、Domar C4J
)。まず、各時点での貯蓄の内
して分析を進めよう (
で、民間経済の貯蓄率を
S
で表し(つまり、
1-c=s)、民間経済が公債で保有
することになる実質額が国民所得に対して占める割合を hで表すと(つまり、 h=
(dB/d
t
)/Y)、経済全体での総貯蓄額が国民所得に対して占める比率は s-hと
なる。従って、事前的な資本係数を
U
で表記すれば、 v
!
:
1Y=!
:
1K = (
s-h) Y
となり、連続時間表示を用いて次の式が得られる。
(dY/dt)/Y=(s-h)/v
(1)
この産出高成長率は資本の完全利用による均衡国民所得の成長率を表す。
B の時間成長率を g で表し(つまり (dB/dt)/B=g)、国民所得に占める公
債ストックの比率を b(つまり b=B/Y) とすると、(1)式を用いて、 h=gbに
注意すると、
(2)
(db/d
t
)
/b=(dB/dt)/B-(dY/
d
t
)/Y=g一 (s-gb)/v
が得られる。ただし、もちろん
s<1でなければならないし、また、一般に、 gb<
1と考えられる。 hは、政府部門の民間部門に対する、経済活動状態の 1側面を
表す指標、と考えられるから、 hの水準は、
1つの、経済の全体的な状態の主な
部分を示し、ここでのモデル経済にとってはマクロ経済状態の概要を表すと解釈
できる。 (2)式で、もしも g が所与ならば、 b の変化から、その経済の状態の
変化を概略的に知ることができるので、(2)の運行を調べることにより、 bの動
学的な運動及び性質がわかる。このことは、政府と民間経済の関係についての、
動学的性質や特徴を明らかにするのに役立つ。このため、次では、考えうるいく
つかの場合を想定して、 (2)の動学的分析がなされるが、諸々の分析に際して、
g の取り扱いは、極めて重要な動学的意味を持つといつことに注意しなければな
らない。なぜならば、政府がコントロールできるのは、実際には gのみであると
考えられるからである。
第
4章 経済成長の公償蓄積と長期財政支出政策
8
5
第 2図
第 1図
b
b
。
Ib
,
=O
,
b
(
b
, =s/g-v)
まず、 g が外生的に与えられるパラメーターである場合を想定する。それゆえ、
(2)において、 g=
g
o=
c
o
n
s
t
. と置いて g
oをパラメーターとし、更に、
S
とU
もパラメーターとすると、(2)より、その長期均衡値は、 d
b/dt=0として得ら
れる 2次方程式 g
o
b2+(
v
g
o
S
)b=0の解で求まる o すなわち、因数分解して、
b
Oあるいはん =s/go-v と解が求まるが、ただし現実的には、 go>0と考え
1
二
るほうが重要だから go>0とすると、解 b
2 の方はほかのパラメーターの値次第
で正にも負にも成り得る。これら双方の場合の図を用いて考察を進めよう。
b/dtが bの 2次曲線で描かれている。 b2 の
これら双方の図には、 (2)の d
係数が正なので、 bのグラフは下に(つまり、横軸に対して)凸の形状を持ち、
第 1図すなわち s
/go<vの場合は、 b>b1 と b<b
時、 d
b/dt>0、 b
2<b<b
1
2の
の時、 db/dt<0である。また、第 2図の場合、即ち
s
/
g
o>vの場合では、 b<b
1
と b>b
zの時、 db/dt>0、 b1<b<b2 の時、 db/dt<0である。関心を非負の領
域に限定すると、第 1図は、 t
→∞で b→∞だから、長期均衡点は唯一存在しかっ
不安定で、ある。つまり公債ストックの成長率が比較的に大きく、かつ、民間経済
の貯蓄率が比較的に小さいならば、経済は、動学的に不安定で、あるということで
ある。他方、第 2図では、長期均衡点は、 b
つ存在し、 b
1 とんの 2
1 は動学的に
安定だが、 b
2 は動学的に不安定となる。比較的小なる&と比較的大なる sにつ
(
4
) もちろん、想定されているように b注 Oの範囲のみが経済的に意味がある。
8
6
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
いて、安定性の異なる 2つの長期均衡点が存在することがわかる。
何れにしても、必 >0の場合は、経済は、長期均衡点から、時間の経過に従って、
漸近的に遠ざかっていく可能性が強い。また、
U
の外生的な増大は、第 2図で、
b
2 を小さくするが、
2 の値を小きくし、五五bの外生的な増大も b
S の外生的増大は、
逆にんを引き上げる効果がある。従って、長期的な民間経済の負担がなるべく軽
減される可能性を強めるためには、 g
o と U が小さく、かつ
S
が大きく与えられ
ることが、第 2図、つまり b
2>0の場合には、望ましいと考えられる。しかし、
第 1図の場合即ちん <0となる場合には、これらのことは全く意味がない。さら
に、ここで、 y=Y/L
、ただし L は、社会に存在する総労働力現存量を表すもの
とすれば、 (
d
y
/d
t
)/
y=(dY/d
t
)/Y一 (
d
L
/
d
t
)/
L だから、
(dy/dt)/y=(s-gb)/v-n,
(3)
ただし、 nは、労働力成長率を表すパラメーターである (n=(
dL/d
t
)/
L
)。従っ
y/dt=0
て
、 b>ん に つ い て ん >0のとき、 s/v>n とすれば、 n>go なら、 d
となる bの値
rは b>b*>0となり、
2
t
→∞で b→ b1 となるが(その途中 y は
減少から増加に転じる)、その長期均衡点では、 yが一定率で成長し続ける。他方、
ん>0かつ s/v>η のとき、 n<goなら、 b*>b
2 となり、常に y は(一定率で)
成長し続ける。もし n=goつまり b*=んなら、 y は一定値に留まる。それゆえ、
r とんが正である限り、その値を出来るだけ大きくすることは
b の減少と y
の増加の可能性を動学的に高めるという意味で比較的に望ましいと考えられる。
従って、
S
が出来るだけ大きく、一方、
U
とふが出来るだけ小さく与えられる
ならば、そ
ことは望ましいであろう。もし bの 2次方程式が重解を持ち、 b
2=0
の場合 v=s/~おとなり、動学的状況は第 1 図と同様で・あり、 t→∞で b →んとな
り、砂 /
d
tについては上と同じ結果になる。
しかしながら、これらのことは、全て、 g をパラメーターと想定することによっ
てはじめて主張し得るにすぎない。分析上のこの拘束は、除去されることが望ま
しいから、次の節では、いくつかのそのような一般化の試みが行われる。
3
. 長期財政政策と公債蓄積の動学過程
前節では g を外生的に所与と仮定して、公債の蓄積過程は動学的に不安定で、あ
第
4章 経済成長の公債蓄積と長期財政支出政策
8
7
るということを明らかにした(ただし go>0の場合)。しかしここでは、 g が可
変的な場合を想定して分析を進めよう。なぜなら、政府が財政政策に依ってコン
トロールできるのはこの gにほかならないからである。ただし、ここでは、長期
的財政政策を 5つの型に特定して、規範的に長期均衡分析を展開するだけである
ので、便宜上 sを一定と仮定する o
ところで、(2) と (3)は g=h/bの表現を使って次のような単純な形に書き
替えられる。
(2*
)
db/dt=h-(s-h)b
/
v
.
(3*
)
(
砂/dt
)/
y=(
s-h
)/v-n
.
この装い新たな方程式(2勺の動学的性質は、(2)のそれよりも一層単純明瞭
で、ある。
場合 1 :まず、第 1の場合として、 hが外生的に一定に保持されている場合を
想定する。すなわち、
(4)
h=h
o=c
o
n
s
t
. (-1<h<1)
.
上記の諸仮定から、(2*)の長期均衡点の値んは、 b
/(s-ho) と求めら
2=んv
、 t
れる。それゆえ、 s>hの場合には、もし、 bくんなら、(2*)の右辺 >0で
→∞のとき
b→んであり、逆にもし b>んならば、(2*)の右辺 <0で t→∞の
時 b→んとなり、唯一存在する長期均衡点が漸近安定であることがわかる。この
ことは次の第 3図から明瞭に理解される。また、長期均衡点が bの正の水準のと
ころに存在するためには、 s>hとならねばならないことも第 3図から明らかにわ
かる。他方、 s<hの場合には、 0>ん と な り 、 均 衡 水 準 ん が b の有意な範囲
→∞の時 b→∞
に存在せず、 bのどんな値に対しでも常に(2*)の右辺 >0で t
となり、唯一存在する長期均衡点が動学的に不安定となるというのがわかる。言
うまでもなく、この長期均衡の成立を可能ならしめる財政政策の条件として、 h=
gb より、 g*=(s-ho)/vがえられる。すなわち政府が財政政策として g を調整
しなければ、この長期均衡点の達成は保証きれない。
8
8
不安定性原理とハロッド=ド-'"7ー型経済変動成長理論
場合 2 : 次に、第 2の場合と
第 3図
して、政府が、 hの水準を、長期
db
d
t
にわたって、ある一定の水準に調
h
o
整しようと行動し、そのため、財
政政策 g を用いて、その水準を達
b
。
成するように努力するという場合
を考えよう。すなわち、財政政策
g が連続的に徐々に調整されるこ
ととし、その結果を通じて hは次
のような調整関数によって調整されると仮定する。ただし αは正のパラメータ一、
五は政府が設定する hの長期目標水準を表す。
dh/dt=α(五-h)
(5)
この場合の経済動学体系 (2*
)& (5) の動学過程は、この第 4図に描かれて
*=v
h
/(s一五)は唯一存在ししかも
いる。この図からわかるように、長期均衡値 b
b
.h
)→ (
b
*
.めで
大域的に漸近安定となっている。従って、 t
→∞につれて、 (
る(逆の時は逆である)。ただし、
第 4図
と
はパラメーターと考えられて
化を起こしても、長期均衡点の動学
的安定性はそれによって全く影響さ
れない。それゆえ、公債ストックに
ついて、
1種の規則'性を持った長期
h 財政政策の下では、経済が動学的に
S
、
/
h
U
S
いるが、これらが外生的に微小の変
ヘ¥¥一
円
¥
一
¥↑一じ一
﹁-
十ーー川+
。
s-h>仰なら、長期均衡点では y が成長し続けることにな
¥
二 dx一
ある。また、もしも
安定になる(ただし yの動学過程を
除く)。言うまでもなしこの長期均
(
5
) ここで動学的安定性といっているのはもちろん漸近的安定性である。
第 4章 経 済 成 長 の 公 債 蓄 積 と 長 期 財 政 支 出 政 策
89
衡を可能ならしめる財政政策の条
件は、
第 5図
g*=(
s一
五)
/
vとなる。
b
場合 3: さらに、第 3の場合
として、政府当局が、一定の産出
成長率を長期的に達成すること
r
を、長期財政政策 g の目標とす
る場合が考えられる。この場合の
hの調整関数は、次のような式で
。
h
h
本
与えられると仮定する。ただし
G
は正のパラメータ一、
6
が設定する Y の成長率
は政府
(dY/
d
t
)/Y の長期目標水準を表すパラメーターであ
る
。
(6)
d
h
/
d
t
=α[
e
-(
s
h
)
/
v
],
この場合の動学過程は第 4図と本質的に異なるこの第 5図で記述され、また、 hの
長期均衡点での値
rが s-veとなるので、
S主
v
eならば、
r主 O、他方もし s<
v
eなら h*<0とならねばならない。この場合、長期均衡点は、明らかに鞍点で
あり、唯一存在し、かつ、動学的に不安定となることが第 5図から容易にわかる。
言うまでもなく、この長期均衡の成立を可能ならしめる財政政策の条件は、 g
*=e
となる。
場合 4 : 第 4の場合としては y の増加率に合わせるような微分型の調整関
数で、 y の長期的な安定成長を目標として財政政策がとられる場合である。この
場合の単純な調整関数として次のような線型方程式を仮定する。
(7)
d
h
/
d
t
=一β{(
の/
d
t
)
/
y
}
=β[
n一 (
s
h
)
/
v
],
ただし、 βは正のパラメーターである。この場合の体系 (2*)&(7)の動学過
程も定性的には第 5図と同じであり、長期均衡点は、唯一存在しかっ鞍点となる
9
0
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
ことがわかる。ただし、この場合、 hの長期均衡点での値
rは s-vnで与えら
れる。従って、もしも外生的にパラメーターが変化する時には、長期均衡点の変
位が考えられる。すなわち、
値 Y と
U
及 び n の外生的増大は、 b と hの長期均衡での
r を低下せしめ、従って第 4図のような相平面で、長期均衡点を左下
方へ移動きせることになる。他方、
S の外生的な増大は、
U
や nのそれは全く逆
に
、 h=h*なる垂線で表されるアイソクラインを右へシフトさせることで、 bと
rを共に増大せしめ、従って長期均衡点を右上方へ相平面上で、移動させることに
なる。ここでの分析で、常に
少なくとも
U
S はパラメーターとして分析上取り扱われているが、
や n よりも可変性が高いと考えられる。また、体系は y のある水
準で長期均衡の安定成長を達成するが、ここでは、決して完全雇用状態による制
約を受けないものと想定きれていることに注意しなければならない。言うまでも
なく、この場合の長期均衡の成立を可能ならしめる財政政策の条件は、 g*=nに
なる。
場合 5 : 第 5に
、 b のある水準 b
。を長期的に達成することを目標とする次
のような調整関数が成立する場合を検討する。すなわち、
(8)
dh/dt=γ(bo-b),
ただし γは正のパラメーターである。体系(2*
)& (8) は明らかに適当なんの
b
*,h*)=[b
,sbo/(v+bo)Jを持つ。また、
大ききについて一義的に長期均衡点 (
o
体 系 (2キ
)& (8) の Jacobi行列は、
(9)
│一 (s-h)v
, l+b/vl
│ γ o
だから、(9)の対角要素和は常に負であり、非対角要素はどちらもゼロでなくし
か も (9)の行列式は常に正となることが、前出の仮定(すなわち、 s-h>0)
からわかる。従ってその体系(2*
)& (8) は、いわゆるOlechの定理の諸条件
を満たすので大域的に漸近安定である。下の第 6図は、体系 (2*)& (8) の動
(
6
) これについては、
O
l
e
c
h(9) 及 び F
l
a
s
c
h
e
l(5)を参照。
第
4章 経 済 成 長 の 公 債 蓄 積 と 長 期 財 政 支 出 政 策
9
1
第 6図
b
つ
斗
111
﹁
。
h
h
*
5
学過程を例示している。言うまでもなくこの場合、長期均衡の成立を可能ならし
める財政政策の条件は、 g*=s/(v+b
) となる。
o
4
. 5つの場合の長期財政政策の動学的諸結果
これまでの所で hに 関 し (4) か ら (8)までの 5つの型に特定化された長期
財政政策の下での動学的安定性が検討された。第 3の場合と第 4の場合に均衡点
の一意性と動学的不安定性が結論され、その他の場合には動学的安定と均衡点の
一意性が得られた。ただし、 y の漸近安定はそれらの内のどの場合にも保証され
ず、一般にはそれらの体系の下では y は動学的に不安定となることが明らかと
なった。
そして、長期均衡の成立を可能ならしめる財政政策の条件 gは、場合 1すなわ
ち (4)のケースでは g*=(s-~)/v 、換言すれは\完全利用成長率に g を一致
させることであり、場合 2すなわち (5)のケースでは、 g*=(
s 五
)
/
v、換言す
れば完全利用成長率に g を一致させることであり、場合 3すなわち (6)のケー
スでは、 g*=eつまり目標成長率に g を一致させることであり、場合 4すなわち
(7)のケースでは、 g*=n、換言すれば、労働人口の成長率に g を一致させる
ことであり、場合 5す な わ ち (8)のケースでは、 g*=s/(v+b
)、換言すれば、
o
(公債を含む)民間総資産の成長率に g を一致させること、ということが明らか
になった。
9
2
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
なお、現実には、公債償還即ち、 dB/dt<0、あるいは、 g<0または h<0を
めぐる重要な問題があり、検討に値するが、本稿では、 G=dB/dtを仮定し、か
つ、暗黙複に永久公債の発行を仮定していた。それ故、公債償還の問題は本稿の
枠組みでは取り扱えなかった。別の機会に検討することとしたい。
第 4章 参 考 文 献
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(7] 井堀利宏『現代日本財政論J
、東洋経済新報社、昭和 5
9年
。
(8J 加藤隆俊『図説
日本の財政.1 (昭和 6
3年度版)東洋経済新報社、昭和 6
3年
。
(9J Okuno,M.,
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J
菅
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寿一「財政と経済成長 J 現代財政入門.1 (西村久・水谷守男編)、第 8
第
4章 経済成長の公債蓄積と長期財政支出政策
9
3
章
、 2
1
1
2
3
3、晃洋書房、 1
9
8
7年。
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吉田和男「財政の最適運営 J 公共選択の研究』第 7号
、 1
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9
8
6
年
。
9
5
第 5章 ハ ロ ッ ド = ド ー マ ー 聖 最 適 経 済 成 長 理 論
1.ハロッドとドーマーの動学と最適成長
短期的な局面の範囲で、現実成長率 G が保証成長率
Gw に収束する場合を想
定すれば、ハロッドの「不安定性原理]という第 Iの動学的な問題は解決された
ものと捉えられる。このとき、こうした短期調整済みの現実成長率
G=G
却は、
長期的な局面において、まず、どのような成長過程を歩むのか、また、次に、ど
んな成長過程で最適な成長を特徴づけられるのか、といった第 2 ・第 3の動学的
な問題を導き、これらの考察に進むというのは自然な展開である。この第 2の動
学的な問題は、現実=保証成長率
(G=G
w)
と自然成長率仏との関係で考える
H
a
r
r
o
d[
1
9
7
3
]および Domar[
1
9
5
7
]
)
ことができ、ハロッドとドーマーら自身 (
や、部分的にヒックス (
H
i
c
k
s[
1
9
5
0
]
) などの古典的なケインジアン動学でしば
しば考察され、 G却の長期的な調整を伴う想定とともに
Gn を成長の上限とする
olow-Swanモデルで有名な
変動成長過程として分析された。一方、いわゆる、 S
S
o
l
o
w[
1
9
5
6
] と Swan[
1
9
5
6
] など)では、完全
新古典派経済成長理論の分析 (
雇用および資本完全利用の前提に基づき、
Gn での一義的な斉一的均衡成長に収束
する漸近安定で単調な長期的調整過程としてそれが理解された。ここでの考察で
は、すでに多くの研究が試み、古典的な理解が得られたこの第 2の問題を飛び越
して、その第 3の問題に分析の関心を集中する。
その第 3の動学的な問題は、現実=保証成長率
(G=G
w) がどのような意味で
社会的に望ましい経済成長をどんな条件の下に達成できるのか、ということであ
り、ハロッド的なモデルに即して動学的にこの問題を詳細に扱っている研究はほ
とんどない。もちろん、ハロッドやドーマーら自身の著作の中にも経済政策側面
の重要性や具体的な政策についての考察がかなり見られるが、それらは明確に動
(
1
) この動学的問題は新古典派だけでなく、].ロビンソンなどの多くのケインジアンも取り扱っ
た有名な問題であり、ここでの内容としても特に繰り返す必要がない。
9
6
不安定性原理とハロッド=ド - 7
ー型経済変動成長理論
学的な政策モデル分析によるものではない(例えば H
arrod[
1
9
7
3,c
h
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p
.7
,1
0
J
は主にケインジアン的総需要管理政策を多角的に検討しているが、 Domar[
1
9
5
7,
c
h
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p
.V,
V
I
I,
V
I
I
I
J は主に投資の二重性を生産力の面で検討しつつも、特に企業
投資に関連深い法人課税の財政政策について比較的に詳しく検討している)。これ
G
u
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e
y[1953J や ~usgrave[1959 , pp.483-500J ,
らの他には、マスグレイヴなど (
Solow [
1
9
7
0,
c
h
a
p
.6
J
) と佐藤 [
1
9
6
8、第 1
3章]は、成長理論に基づきながらも
均衡成長状態と(課税政策を含む)財政政策との関係のみに注目して比較静学的
な分析を主に展開した(とりわけ、後者では、均衡成長率が最大値をとるための
条件を均衡成長税率や均衡成長政府支出などの概念や平均貯蓄率などのパラメー
タから特徴付けている)。いずれにせよ、これらの諸研究は、せいぜい比較静学的
な考察なので、本質的には、最適な成長やそのための経済政策の動学的定式化に
よる分析ではない。当該研究の目的は、まさにこれらの動学的問題の基本的なモ
デル分析の提示とその諸性質の解明にある。
当該の第 3の動学的問題としての、社会的に望ましい経済成長の動学的分析は、
通常は最適成長理論の問題とされ、新古典派最適経済成長理論が有名であり、
Solow-Swanモデルの拡張的な研究として主に資本理論的な定式化でこれまで
C
a
s
s[
1
9
6
5
J や Koopmans[
1
9
6
5
J はよく知られて
さまざまに展開されてきた (
いる)。新古典派最適成長問題は、労働単位当りの平均消費量に依存する代表的個
人の効用水準を社会効用水準とし、この計画期間での時間積分を社会厚生ストッ
クと定義することで、これを Solow-Swanモデルの動学的制約下で最大化するそ
の平均消費量の最適な時間経路を求めるという功利主義的なものである。他方、
ハロッドやドーマーらの最適成長概念の本質は、ケインジアン的で、完全雇用の
Harrod[
1
9
7
3,c
h
a
p
.2
,5
J と Domar [
1
9
5
7,c
h
a
p
.1
,
IV,VJ) であり、動
持続 (
学的には失業の解消を前提とした自然成長率の持続的達成である(後者のドー
マーについては経済政策目標としてこフいった事柄が必須で、かつ最優先に強調
されているけれども、この必要条件という意味以上には厚生経済学的な含意は見
出せず、また、最適成長という語句などの表現すら見当たらない)。以下では、こ
(
2
) またこれらの他に新古典派的枠組みの分析を発展させた Carlberg [
1
9
8
8
J もある。
第
5章
ハロッドニドーマー型最適経済成長理論
9
7
の種の最適成長問題が分析されるが、動学的分析用具は、新古典派のそれで定着
しているものを援用するので、手法上の類似も見られるが、単なる固定係数の生
産関数を持つ新古典派分析ではなく、ハロッドとドーマー的な枠組みの基本的な
最適成長モデルが分析される。ただし、ここでは基本的な分析を目的とするので、
以下で用いられるモデルは、本書の考察の前半で用いた単純な定式化のものであ
り、動学的な経済政策原理の面では最も基本的なモデル考察の試論的な段階の分
析に過ぎない。
2
. ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的モデル
ハロッドとドーマーの最適成長の最終目標を完全雇用の動学的な持続と解釈す
るものとして、本書で前出の基本的なモデルを用いて、その最適成長モデルは定
式化される。以下で用いる主な諸変数は、前出の表現をなるべく活用して、総資
、総産出量 :Y、(事前=事後)平均貯蓄
本ストック量 :K、総労働力存在量 :L
率
s
、資本の平均生産性(=逆資本係数):v
、資本稼働率 :
α 、雇用量水準 Lの
完全雇用稼働率 :
α'f (本書の前半では α
γ と表示)、および、総労働力存在量の成
長率 :
ν 、 k=K/Lであり、したがって、資本蓄積の状態方程式は、時間を表す
変数として tを用いれば、次のようになる。
dk/d
t= s
v
k
α-o(k)-vk, 0<グ
,
(1)
o~玉 k ,
0<v,s
, v,o,k
o=const.,and 0壬α豆αf
・
ただし、 δは労働力 1単位当りでの年率の資本減耗量を表し、生産要素の投入状
況に応じて資本減耗が生じると想定するので、 6だけの資本ストック量が年率で
減耗するものと仮定されている。資本減耗のこうした定式化は明確な現象解釈と
いうよりも理論的な表現の一般性を重視した結果と考えられるべきである。 ドー
マーは、資本減耗という動学的な側面を重視して詳しく考察しているが (Domar
h
a
p
.I
I
I,IV,V
I
I,V
I
I
I
] で特にその刊とVsI)、ここでは、そうした δの比
[
1
9
5
7,c
較的に一般的な表現に留めておく。またんは kの初期条件であり、かっその値
は固定きれているものとする。また、前提から、企業の期待は常に実現し、経済
(
3
) 本書の第 I章での関連記述も参照するとここでの議論に有益である.
9
8
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
の短期的状況に即座に調整されているので、
S
は総産出量に対する投資比率を意
味することになる。
さらに、雇用率:向、自然失業率を考慮、した完全雇用の雇用率:弘、雇用の平均
生産性
:
φ などの変数も以下で用いられる。雇用の平均生産性 φの水準は、生産活
動の程度や労働市場の性質や状況に関係して決定されると考えられるが、一般的
には、この φがどう決まるかを先験的に特定することはできない。しかし、この φ
の定義から、次の関係が成立すると考えられる。
(
2
)
emL=vK
α
,
/
φ , or, e
k
α
/
φ
.
m=v
こうした関係は、ドーマーでも、次のように想定されている。「……ケインズ体系
は能力の変化をとり扱っていないからである.したがって,雇用が国民所得の関
数であるというような仮定,すなわち,明らかに短期にのみ正当化されうる仮定
9
4
1年の完全雇用所得では,今日
を設けることができるのである.疑いもなく, 1
完全雇用をどうにも維持できないで、あろう.ケインズの接近一一雇用を所得の関
数とするとり扱い一一ーが合理的な第 1次近似であるにしても,われわれはさらに
一歩をすすめ,その代りに雇用労働力の総労働力にたいする比をしめす分数は国
民所得と生産能力との比の関数であると仮定しよう.これは 1つの改善にちがい
ないが,われわれは生産能力を決定することが,概念的にも統計的にも,困難で‘
あることをみとめなければならない.このことは明らかなことであり,詳細に説
明するにはおよばない.われわれは,消費者選好,価格と賃金構造,競争の強度
等々のような諸要因を所与として,いわゆる完全雇用(摩擦的失業,季節的失業
を適当に酌量した上で)における経済の総産出高が生産能力を意味するものとし
1
9
5
7,c
h
a
p
.IV,p
.8
7:邦訳, p
.
1
0
2
J
)。ここでは、このような
よう.J (Domar [
ドーマーのマクロ雇用関係の想定をさらに一歩進め、モデルの主要な変数である
αにのみ注目して、 α
/
φ をαのみに依存するある関数 O三五と (
α
)で与えられるよ
うに近似すれば、(2)は次のように書き換えられる。
(3)向L=vK~ (
α), o
r, em=vk
ξ(α), 0<~', ~"< 0.
(
4
) 用いられる諸変数については、特に説明がない限りでは前出時の条件がほぼ成立するものと
想定されている。
第 5章
ハロッド=ドーマー型最適経済成長理論
9
9
ただし、 ξ
rおよび:'.;",土、それぞれ、削ごついての 1階および 2階の微係数である。
かくして、ハロッドとドーマーの基本的な最適成長問題は、ケインジアンの短
期的なマクロ経済政策で、αが完全に短期で、操作てボきる場合を前提とするとき、次
のような確定的最適動学化問題として定式化できる。
…
(4)ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的問題:
0
1e
00
Max
m
,f
パ t
su
恥 tto
仏 en •
(1) and (3)
すなわち、この定式化は、経済政策当局による直接的なしかし連続的にのみ制御
可能な αを想定しつつ、現実の雇用率を社会厚生フローを最適性評価の基礎に置
き、その時間積分で定義きれる社会厚生ストックにて動学的な社会的価値判断を
するというもので、完全雇用の持続を明確に最終目標とする彼ら自身の最適成長
問題の連続的時間モデルによる表現であると理解できる。それゆえ、明らかにこ
れはケインジアン的な問題の動学的定式化でもある。
3
. ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的問題と解軌道
上の定式化(4)のハロッドドーマー型の基本的な最適成長問題は、周知のよ
うに、変分法や最適制御理論を適用して解くことができる。そこで、後者を用い
て解くとして、経常価値の動学的な補助変数 :
λ を導入し、経常的な価値でハミル
トニアン関数を考えると、最適制御のための主な必要条件は次のようになる。
(5)
ξ'+λs=0 andξ"<0 with (3). m
oreover
d
λ/
dt=(r-sv
α+ν +
o
'
)λ
・.,d
λ/
dt=一
V
.
;
,
(r+v+δ'-sv
α)ξ'/s-v
.
;
.
このほ)と ξの性質から、副こだけ注目すれば,この最適成長問題の動学的均衡
の存在が疑わしいような思いを覚える。つまり、 d
λ/
dt=0のためには、(5)の
後半の表現で、 (r+v+δ
'
)/
s
v α十 ξ/ξ'=0が成り立てばよいが、この左辺第 1
(
5
) ここで前提となる経済体制は、いろいろな型があり得るが、実際的には、中央集権的国家の
や、あるいは強力な経済政策手段を有する資本主義体制と解釈されるべきである.も
政治体制l
ちろんこれらの混合型経済体制でも解釈は可能である.なお、単に固定係数の生産関数を持つ
新古典派的な最適経済成長問題の│日い研究については、
益な要約と解説がある。
Takayama[
1
9
8
5,p
.4
5
0
4
5
9
J に有
1
0
0 不安定性原理とハロッド=ドー 7 ー型経済変動成長理論
項は明らかに正の定数で、この第 3項も常に正となり、この第 2項のみが負て¥
しかもこの第 3項の微係数は常に
o<1-~~" /~'2 だから、
α ↑ αf でξ' の値がと
自身に対して充分に大きければ、これら各項の単調性から動学的均衡の存在は十
分考えられ、しかもこのとき動学的均衡は一義的となるだろうが、実際は αが大き
くなれば
rも小きくなり一方 ξ自身は大きくなるからその右辺全体の値はほとん
ど変化しない可能性も強い。
いずれにせよ、ハロッドードーマー型の基本的な最適成長問題(4)の解軌道の
候補となる軌道は、状態方程式(1)とともに、最適制御を規定する(5)によっ
て動学的に記述される。ここで、その候補軌道(解軌道の主な必要条件を充たす
軌道)の明確化のために(5)を α に即した形で次のように書き換える o
(6)
d
α/
dt=(r+11+ δ'-svα)ξ'/~"+sv~/ ξ" and,
r十 ν+グ)/(
s
v
)一α}ξ'+とJ
s
v
/~".
ニ[{(
したがって、(1)と(6)の動学的連立体系の動学的均衡は、それらの式の左辺
を直接に零とおいた連立方程式から特徴づけられる。
(7)
α二 δ/
(
s
v
k
)十 ν/
(
s
v
),and, δ/k-ô' 二 svξ/~'+r.
この(7)の右の第 2の式にはすで、に左の αを代入して簡単化しているが、適当に
代入を繰り返すことで動学的均衡値 (
αぺk
*
)が得られる。しかも、その右の第
2の式で、この左辺の微係数は k について δ'/k-o/kLo" となるから、グ'の
絶対値が相対的に十分小さいものとすると、この微係数の符号は多分に負と考え
られ、一方、この右辺でξ/~' の微係数は、上記のように常に正で切に対して単調
であるから、このとき、その左の式も同様に陰関数定理が適用でき、その均衡値
kであるならば、これらの
が一義的に存在することがわかる。それとも、 δ'<δ/
ことが明確に成立することがわかる。
また、(1)と(6)の動学的連立体系に関して、その均衡近傍での局所的なヤ
コビ行列をとり、この固有値を考える。すると、次のように、(1)の αに関する
偏微係数が正で、(6)
の hについての偏徴係数は r と反対の符号になり、トレー
スの符号は正となる可能性が高いが、対角要素の符号はなかなか確定できない
(sv-o/kは経験的には正となるだろうが、 r
I
Iの符号は全く不明である)。
第 5章 ハ ロ ッ ド = ド ー マ ー 型 最 適 経 済 成 長 理 論
1
0
1
lm-s-vsdl
ô"~'/~"
r+δ'δ/
kI
(8)
ただし、との 3階微係数は、この絶対値を十分に小さいものと想定して計算では無
視している。かくして、諸前提と諸仮定から次の諸結果が得られる。
補題 l ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的問題(4)で、その解軌道
の候補軌道は、状態方程式(1)と、最適制御を規定する(5)、あるいは(1)
と(6)の動学的連立体系で完全に記述され、かっこの体系の動学的均衡は(7)
で特徴づけられる。特に、
o<o"かつ o'<o/kならば、その動学的均衡は一義
的に存在する。.
補題 2
(1)と(6)の動学的連立体系について、動学的均衡が存在する
とき、この体系が、 (8)で近似でき、しかも
o<o"であるならば、この体系
の動学的均衡は鞍点となる(このときこの体系の固有値が異符号の実数となる
ため )
0•
定理 l ハロッド=ドーマー型最適成長の基本的問題(4)で、その解軌道
の候補軌道を決定する(1)と(6)の動学的連立体系で、もしも
o<o"かつ
よ <δ/
kならば、この体系の動学的均衡は一義的に存在しかっ(7)で完全に
特徴づけられる。きらに、 ξの 3階微係数が無視し得るほど十分に小きい絶対値
を持つならば、この体系の動学的均衡は鞍点となり、したがって、その動学的
均衡へと向かう一義的で単調な特異点軌道が存在し(かつ横断性条件を明らか
に充たすので)、この軌道が問題(4)の最適成長経路であり、この軌道に沿っ
てαの最適制御と最適な状態変数経路が得られる。.
関数 δについての条件は、労働力 1単位当たりの資本減耗 δ (
k
)が、逓増的で、
δ/
kよりもその限界的
かつ、 hに対する平均の労働力 1単位当たりの資本減耗 :
(
6
) 詳しくは . H
i
r
s
c
handSmale [1974,c
h
ゆ.5,s
e
c
.4
J および鈴木 [
1
9
9
6、ρ
.
7
6:補題 2J
を参照。
1
0
2 不安定性原理とハロッド=ド マー型経済変動成長理論
な労働力 I単位当たりの資本減耗・ o
' が小さくなければならないということを、
動学的均衡が含まれるある領域で、あるいは少なくとも局所的に要求している。
したがって、もしも、 o=Dk2 でδが近似できるならば、つまり、 δが hに比例し、
しかもその比例係数もまた h自身に比例すると考えられるならば、逓増的な関数
として δを想定するというだけでは、その定理の主張は成立しない。
しかしながら、動学的均衡が含まれるある領域での 6の近似ということで(ある
いは少なくとも局所的近似として)、 Dk2 を若干変えた形で 6が近似できるなら
ば
、 hに対して逓増的で単純な関数による 6の想定は、その定理の主張と矛盾しな
い場合がある。すなわち、 D や A のパラメータを均衡点での変数値と矛盾しな
いようにとれるものとして次の近似式を考えよう。
(9)
δ =Dk2+D
o, 0< D,Do二 c
o
n
s
t
.
こ の (9)での近似によれば、 o'<o/k となるように充分に小さい D や比較
的に大きい口。を適当に選ぶことができる。この場合には、上の(6)、(7)、(8)
の表現は、状態方程式の若干の変更も考慮して、 (9)の代入で次のように書き換
えられる。
(
1
0
)
d
α /d
t=(
r+v+2Dk-sva)~' /~" +svξ/~" and
,
=[
{(
r十 v+2Dk)/(sv) 一 α}~'+ξJsv/~".
(
1
1
)
(
1
2
)
α=(D
k2+Do+v
k
)
/(
抑制, and
, Do/k-Dk=svξ/~' 十 r.
l
s
u
2
511h1
助 -V
2D~'/~"
r+Dk-Do/k
したがって、この場合の定理 1の成立も明らかである。つまり、定理 1を充たす
関数 6の存在が、具体的な単純形の関数を用いて示されたわけである。このことを
まとめて例題 1としておこう o
(7)例題 1
1;1:,単純な関数の場合についての一例に過ぎないのであるが、これは、定理 Iを充た
す dの具体的な存在を明示的に証明していることになる。
第
5章 ハロッド=ドーマー型最適経済成長理論
1
0
3
例題 l 適当な係数の値を選んで、 δを(9)で与えれば、このとき定理 lの
主張が成り立つ。.
五 αfが前提されてきたが、この条件が常に充たき
なお、ここでの分析では、 α三
れるとは限らないので注意すべきであり、特に関数との性質が重要となる。これ
は、完全雇用を可能にする αの水準として変数時が定義きれていることから明ら
かである。すなわち、
(
1
3
)
e
ξ(α'
)
v
k,人 α孟 αf-ξ-1(1/(
v
k
))
.
n=1=
それゆえ、(7)や (
1
1
) は、厳密にはこの (
1
3
) が成立していることを前提に意
o
/
(
s
v
k
)+
I
I
/
(
S
V
)豆 助=ξ一1
(
1/
(
v
k
)
)が充たされなければならない。したがって、 δ十 I
I
/
k豆
s
v
k
a
f
=SVk~-1 (
1/(
v
k
)
)が成立していなければならない.いずれにせよ、ここで
味を持つことになる。たとえば、(7)では、 hの動学的均衡水準の下で、
の考察では、この条件が充たされるように諸外生変数の水準が与えられている場
合を扱っているのである。こうした前提は以下の分析でも保持きれている。
4
. ハロッド=ドーマー型最適成長問題と確率的不安定性
この節では、上で展開されたハロッドとドーマーの最適経済成長モデルを、彼
らのもともとのモデルが備えていた短期的な傾向の強い側面および特性をある程
度考慮に入れることで拡張し、その最適成長分析の内容拡充が、単純化されたモ
デルを用いて試みられる。ここで注目する短期的な傾向の強い側面とは、いうま
でもなくケインジアン以来の投資にかかわるマクロ的な不安定性のことである。
特に、投資の不安定性を強調して、動学的にこの不安定性が拡大する傾向を主張
したのは、周知のようにハロッドであり、いわゆる「不安定性原理」としでもあ
まりに有名であるが、以下ではこうした側面の形式を重視して、表現上の単純化
によりそれを取り入れてモデルが拡張される。ここでは、本書の他の諸章で試み
たように不安定性原理自体の本質を問うような考察を回避し、もっぱら表現上の
形式にのみ注目し、立ち入った定式化には触れずに、分析の展開は、あくまで最
(
8
) これについての詳細は、主に本書の第 I章後半から同第 3章を参照。
1
0
4 不安定性原理とハロッド=ド-"7ー型経済変動成長理論
適成長モデルに関心の重点を置く。
というよりもマクロ的な不安定性を動学的に
モデルの拡張は、「不安定性原理J
取り込むという形で行われる o まず第一に、このような不安定性の導入は状態方
程式(1)の若干の変更を意味する。すなわち、上の(1)では、 G と C却の成
長率聞のギャップが生じないようにすでに調節済みの現実稼働率が前提きれてい
たけれども、ここではそうしたギャップが生じていて、そのギャップが動学的に
確定しない形で発生するものとして分析が展開される。つまり、ハロッドの「不
安定性原理」のように確定的な行動方程式型の定式化を避け、成長率ギャップに
起因して起こる投資の不安定性を不確実な投資変動と捉え、この不確実な変動分
の大きさを現実稼働率の突然の臨時的調節に帰着させるものと想定きれている。
ただし、ここでは第 3の動学的問題としての最適成長分析という長期的性格の視
座を考慮し、投資変動あるいは資本蓄積率の不安定性を連続的で相対的に小さな
不確実現象と解釈して、次のように状態方程式の変更を提示するものである。
(
1
4
)
dk/dt=svk(α+.
.
1ι
)-o(k)-v
k, 0<o',
0三
五k
, 0<v,s
,v
,δ,k
o=cons
,
.
t and 0壬 α三
五α
f
・
マクロ的不安定性で発生する撹乱的変位としての..1,の表現についても、この決
定に際しての行動的なマクロ的側面との関連を考慮するべきであり、しかも、こ
の側面はマクロ的な経済状態と強〈関連すると通常考えられるから、その表現に
は、ここで、定常的な確率過程が用いられる o
さらに、そうした..1,を用いるとしても、もっ少し特徴を与えられないと動学的
な分析の展開は困難である。そこで、多くの研究で用いられ、かつ成功している
類の定常的確率過程をここで導入するとしよう。さいわい、ここで必要なのは、
連続的で相対的に小きな不確実現象の数学的な解釈であるから、..1,の表現に
ウィーナ一過程という定常的確率過程を用いることとする(それはまたブラウン
運動と呼ばれる)。
(
1
5
)
Aι=dW,E(dW)= 0 andE(dW2) =dt
ただし、この W がウィーナ一過程であり、 E は期待値である。ここでは第一次接
第 5章
ハロッド=ドーマー型最適経済成長理論
1
0
5
近としての考察を展開しているので、分析の単純化のため、 A ιは資本成長率の調整
分そのものとして表示されている。したがって、 (
1
4
)は (
1
5
)から次のようになる。
(
1
6
)
dk={
s
v
k
α-o(k)-vk}dt+svkdW, 0<o',E(dW)=0,
E(dW2)=dt, O~玉 k ,
0<v,s,v
,δ,k
o=c
o
n
s
t
.,and 0三
五 α三
五α
f
・
ただし、「伊藤過程」とも呼ばれている時間に連続な拡散型確率過程を明示的に導
入したため、確率微分の数学的定義に従って、状態方程式も、常微分の微分係数
を用いた確定的な (
1
4
) とは異なる形式の(マルコフ型)確率微分方程式として
書き換えられている。
1
6
)の右辺の第 1項(ドリフト項/
しかしながら、この拡散型という性質は、 (
ずれ項)が期待移動率の強い方向性を持ち得ることから理解できるが、ボラティ
リティの分散率を表すその第 2項(マルチンゲール項/拡散項)の A ιで表現した
不安定性の素が由来するハロッドの不安定性原理からすると、この原理の、連続
確率過程表現による不確実現象解釈という点では不思議に適しているように見え
kの分散は、 W の性質に注意して、
る。つまり、解釈の問題ではあるけれども、 d
(
1
6
) から (
s
v
k
)2 ・d
tとなるので、 hに対して単調増大的であり、したがって、
問題の資本蓄積の不安定性の程度をその分散(または標準偏差など)の値で近似
的に理解できるならば、資本蓄積が進むにつれて不安定性の度合いがますます増
1
6
) は意味しているのである。
大する状況をもたらすということをこの方程式 (
これは、ハロッドの不安定性原理の特徴に類似していて、なかなか解消しなくて
継続的でしばしば自己増幅的な不安定性をある程度形式的には表現できている。
かくして、上述のハロッドとドーマーの最適成長問題は、この確率微分方程式
(
1
6
)という状態方程式と、こうした拡散型確率過程としての動学的不確実現象に
対応するように社会評価の無限積分期待値を用いて次のように書き換えられる。
(
17
) ハロッド=ドーマー型最適成長の確率的不安定性を伴う基本的問題:
MaxE{/
∞
。e
r
t
d
t
}
, f
… , 叫e
c
tt
o仏
m• e
e
n
. (
16
) and (3)
ただし、この場合も、 αが経済政策当局によって直接にしかし連続的にのみ制御可
(
9
) こうした「伊藤解析」または「確率解析 j については渡辺 [
1
9
7
5
J などを参照。
1
0
6
不安定性原理とハロソド=ドーマー型経済変動成長理論
能であると前提されている。他方、 L
1L あるいは dWは、そのような結果的にマ
クロ経済政.策的な変数とされる αとは全く独立に発生する不安定性変動の 1つの
表現である。
5
. ハロッド=ドーマー型最適成長と確率的不安定性を伴う基本的モ
デルの試論的分析
連続的な確率的最適成長問題は 1
9
7
0
年代にマ一トン (
M
e
r
t
o
n[
1
9
7
5,s
e
c
.5
,
p
p
.
M
a
l
l
i
a
r
i
sa
n
d
3
8
4
3
8
8
J
)などにより開拓され、しばしば「確率的ラムゼイ問題j (
.1
4
8
J
)などと呼ばれている。この種の動学的最適化問題の解法と
B
r
o
c
k[
1
9
8
3,p
しては、類似の方法でいくつかに分類されることもあるが、ここでは現在の応用
的な諸研究でよく用いられている分析手法、すなわち、ダイナミック・プログラミ
1
1
0
)
ング(: fDPj あるいは「動的計画法j
) の手法が用いられる。この手法を導入
M
a
l
l
i
a
r
i
sa
n
dB
r
o
c
k[
1
9
8
3,c
h
a
p
.3
J
) の用語法にも従って、
したマ一トンなど (
1
7
)が検討される。なお、この fDPj という手法は、もと
確率的最適成長問題 (
もと動学的な問題の解を近似探索する際などにしばしば有効なものとされている
けれども、この種の問題の他の解法に比して特別にあるいは明らかな程に分析上
優越しているわけではなく、最適(制御)解に要求される数学的性質からすると
他の解法との違いは良くも悪くもほとんどなくなってしまうが、拡散型確率過程
に関する確率解析を応用分析的に援用する際にとり扱い上都合がよく、例えば、
ここでの応用数学的な理論分析のように近似的な表現の面でも便利で、あるという
ことは明記しておく。
1
7
)は分析されるが、まずは、
いずれにせよ、 DPの手法に従って動学的問題 (
このために必要とされる概念や表現の導入などの準備からはじめるとする。そこ
1
7
)の社会厚生ストックとしての評価基準積分が、状態変数に還元できるも
で
、 (
のとして考えると(最適解がこの想定を充たすような数学的性質を備えていると
して)、最適評価指数(あるいは関数)などと呼ばれている次のような関数
が定義される o
(
1
同
DPの基本的な手法についての参照は、西村 [
1
9
9
0、p
p
.149-164] でもよい。
V
(
k
)
第
o
o
(四)
5章 ハロッド二ドーマー型最適経済成長理論
V(ん)=MaxE{fo e
m パ
,
…ιS
t
}f
仏
1
0
7
e
n
. は6
) and (3)
この積分の区間をその一部に限定する場合には、この変更だけを考慮して、同様
の仕方で関数の表現ができる。しかし、ベルマン原理や部分計画の考察では時間
と時刻を間違えずに区別する必要があるから、区間時間と明確な計画上の時刻表
現を混同しないために、積分の区間時間を T で表示して導入するが、こうする
とむしろ一般的な形で最適評価関数が次のように定義される。
(
1
9
) V(
わ
)=MaxE{I e
r(T-tJdT}f
o
rα,S
.
t
.e
1
6
)and(3)
.
m ・r
m壬向 (
,
t玉T亘 ∞
また、上の
.
1t
(
1
8
)は次のようにも書き換えられる((
1
8
) と同じ条件表現を略記)。
,
…
,
は0
) V(ん)=MaxE{~λ e- rT dT} f
二二
ここで、
九
MaxE{f
九
rrTdT+f
s
..
t
1•
…
TdT} f
e
-r
,
S
..
t
DPの手法の通常の分析手順に従って、ベルマン原理あるいはベルマ
ンの「最適性原理Jと呼ばれている基本的な考え方を導入する。つまり、ある動
学的最適化問題の最適解は、それが依存するパラメータと整合して、その部分的
な計画期間だけで定義される同じ動学的最適問題を設定すれば、この後者の最適
解にもなっているということてもり、換言すれば、この部分計画の最適解はこれ
以外の残りの部分計画の最適解と同一で、あるとする原理がそれである。この基本
2
0
) の右辺の{・・}の中の第 2項に注目して適用すれば、 (
1
9
) が利用
原理を (
でき、 (
2
0
) は、したがって
(
1
8
) も次のように書き換えられる。
(
2
1
) V(
ん
)
ニ MaxE [(
tem 'e
-庁 dT+{MaxE (I em ・e-r(T-t)dT)}
e
r
t
J,
0'
五T壬 t .
10
(
2
2
)
孟
T三五∞
.
1t
t}f
V(ん)=MaxE{I
_em 'e
-r
TdT+V(ム)e
-r
o
rα,S
.
t
.
"
。
壬 T五
三
.
1 υ
しかしながら、この (
2
2
) は、まだまだ複雑な形態をしている。とはいえ、こ
2
2
) の右辺を構成する
の (
V(
kT) 関数などを根本的な変数
k と tについて局
所的に特徴づけることで、一層明確な表現に書き換えることができる。そこで、
1
0
8
不安定性原理とハロソドニドーマー型経済変動成長理論
局所的に充分な近似をその右辺の{・・}の中の諸項に行い、特に相対的に大き
なその第 2項には、初期時点の近傍で 2次以上の項も考慮してテイラ一展開を施
せば、 (
2
2
) は次のようになる。
(
2
3
) V(ん)=MaxE{(向・
6
t+δV/δk.e
t・d
吋
).dt+V(ん)e
-r
-r
k
t.dt-rVe-吋 ・
十 δV/
δt
.e
-r
dt
+(
δ 2V/δ'
k
2
)(
d
k
)2
/2
t
)dkdt/2+δV/δk
a
k
.e-rt-raV/ak'e
-r
a
t・
+(δ 2V/δt
r
t
2
r
t
r
t
e
- ・d
t
d
k
/
2+ (
δ 2V/δt.e
- -r
δ
,V/
δt
.e
- )(
d
t)
2
/2+
r
t
2
十 rV
e
-(
d
t
)2
/
2+h.o
.t
.
}f
o
rα,s
..
t・
もちろん、これらの近似手続きは、任意の部分的計画を局所的に捉えれは¥ベル
マン原理に全く適合する処理である。また、この (
2
3
)は
、 t↓ Oとして O孟 T壬
tでの扱いだから、つまり t=0の近傍で考えられていることから、この右辺の
{・・}内第 2項は、定義から最適なので MaxEの下でも V(九)そのものと
なり、両辺からこれを相殺して、同様に時間指数項を整理すると、かなり簡素化
される。
(
2
4
) 0=MaxE{e
t+δV/δk.dk+δv/at.dt-rV'dt+(δ2V/δk2
)・
m• d
(
d
k
)2
/2+ (
δ 2V
/atak-raV/δk
)d
k
d
t
/2+δ 2V/δkat.dtdk/2+
(
δ2
V/
a
t2
-rav2/θt
)(
d
t
)
2
/
2+rV(dt)2/2+h.o.
t
.
}f
o
r α,s
..
t
さらに、これも周知の手順であるが、いわゆる伊藤の定理とか確率微分則とか
2
4
) は一層簡略化される。つまり、その公
呼ばれている公式を用いると、この (
式は、確率過程増分あるいは確率微分項聞の積に成り立つ数学的規則に特徴があ
り、要するに、同じ確率過程の増分同士の積では dW;'dW;=dtが成り立ち、異
なる確率過程の増分同士の積では dW
;
.dW;=ρu・d
tとなり ρ
( はそれらの相関
係数)、また、 d
W;.dt=0となるので、これらの積をとって dW;.d
t
.dU
'
;
.dt=
t
.dt=0つまり d
t
.dt=0も成り立つことである。それゆえ、 (
2
4
)
dW;.d眠.d
の右辺にこの公式を適用し、残った d
kに状態方程式を代入して、再度その公式
を用いると次の式が得られる。
(
1
1
) ここでは、やや長くなるが、発見的なアプローチの仕方を用いている。
第
5章 ハロッドニドーマー型最適経済成長理論
1
0
9
(
2
5
) 0=MaxE{emdt+θV/θ'
k
.dk+δV/δt
.dt+(
θ2V/δk2
)(
s
v
k
)2
d
t
/2
-rVdt} forα,s
..
t…・・.
=MaxE{e
s
v
k
α-o-vk+svkdW)dt
+δV/θt
.
m.dt+θV/ak.(
dt+(
δP/δI
k2
)(
S
V
k
)
2
d
t
/
2-rVdt} forα,s
.t
.
.
また、この右辺にはまだ
V(九)そのものを含む項があるので、この項と、制御 α
に無関係な d
tも{・・}の外に出して整理すれば、 (
2
5
) は次の (
2
6
) になる。
(
2
6
)
rV(
ん)=MaxE{e
s
v
k
α δ -vk+svkdW)十 δV/δt
m十 δV/δh・(
2
s
v
k
)2
/
2}forα,s
.t
.
.
+(δP/δk)(
この (
2
6
) は、この場合の動学的最適化問題に関する DPの基本的な偏微分方
程式であり、この一般型はしばしば、(確率的)ハミルトンーヤコビベルマンの
方程式と呼ばれている条件式である。しかも、この分析の当該の状態方程式は、
明示的にあるいは陽表的に時間を変数として表現上含まない、いわゆる自律系の
2
6
) はもっと簡素化される。
動学的方程式なので、この点に注目すると (
すなわち、上の (
2
0
) では、
V(ん)の定義が時刻 tなどの扱いに対応できるよ
うな形で与えられているが、 t自体はその定義にほとんど無関係で、ある。事実、そ
の 2番目の式に tが登場するけれども、そこで tが変化してみても、積分区聞の
中継時刻が変化するだけで、その区間自体に変化はないので、その積分の値自体
には何の影響も及ぼきないのである。つまり、 tの変化に対して V(ん)は全〈無
反応なのである。このことは、 δV(ん)/at=0が定義から得られるということを
意味している o したがって、自律系の動学的方程式の体系に特有のこの事実から、
(
2
6
) は結局次の (
2
7
) になる。
(
2
7
) rV(
九)=MaxE{e
(
s
v
k
α-o-vk十 svkdW)+ (
a2V/δk2
)・
m十 δV/δk
(
s
v
k
)2
/2} forα,s
.t
.
.
.
それゆえ、この右辺の{・・}の中は、 h に関する偏微分のみを含み、 tに関す
るそれが消滅してるので、つまり陽表的に tを含まないので、 h および k のみ
) 全体
で決定される偏微分にだけ依存することがわかる。したがって、このほ 7
も同様に hと hの偏微分のみの方程式であり、要するに、 (
2
7
) はその期待値最
1
1
0 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
大化作用を伴う自律系の常微分方程式に還元されたのである。
次に、 (
2
7
)の右辺の期待値最大化作用を処理して、一層簡明な形の表現にそれ
を変換する手続きに分析が進められる。このため、まず、その右辺の
E {・・}
を考えるとして、その{・・}の中を見ると、 svkdW以外にはもはや確率変数が
残っていないので、期待値作用素 E の役割はその項にのみ適用して終わりであ
る。つまり、 (
2
7
)は
、
(
2
8
) rV(
ん )=Max{e
s
v
k
α-o-vk)+(δ2V/δ
'
k2) (
s
v
k)
2/2}
m+aV/θk(
f
o
rα,s
.t
.
.
.
さらに、この右辺の{・・}の αに関する最大化条件は、
(
2
9
)
d
e
α+δ v/ak・
svk=ξ'vk+δV/δk.svk=0
m/a
.
;
'
+
δ V/δk.s=O,o
r
,av/δk=-.
;
'
/s,a
n
d
.
;
"<0.
これらの最大化条件を (
2
8
) で考慮しなおすと、すなわち、 (
2
9
) を充たす αの値
を α*とすると、
(
3
0
)
rV(ん)=Max{・・} f
o
rα,s
..
t……={・・} f
o
rα=α 七
rV(ん)二 .
;
(
α vk+θv/ak(svk
αホ o-v
k
)十 (
δ2
V/δk2
)(
S
V
k
)
2
/2.
キ)
また、これらの微分表現を常微分の表現に変えておくことにすると、同じことだ
が見た目でかなり表現が簡素化される。
(
2
9
)
dem/d
α
, +dV
/dk.s
v
k=ξ'vk+V'・svk=0
'
;
'
+
V
'・s=0,o
r
, V'=一ξ'
/
s,andξ"<O
.
(
3
0
)
rV(ん)=Max{・・} f
o
rα,s
..
t……={・・} f
o
rα=α へ
rV(ん)=ξ(α*)v
k十 V
'
(
s
v
k
α*-o-v
k
)+V"(
s
v
k
)2/2.
いずれにせよ、結果的には、このように比較的に簡素な V の自律系非線形 2
階常微分方程式に、基本偏微分方程式 (HJB方程式)は帰着する。
定理 2 ハロッド=ドーマー型最適経済成長の確率的不安定性を伴う基本的
問題(17
) で、その解軌道(最適経済成長経路)は、拡散型連続確率過程の意
第 5章 ハ ロ ッ ド = ド - 7
ー型最適経済成長理論
1
1
1
味で、(3)および (
1
6
) と
、 (
2
9
) と (
3
0
)の
、 k とαと V との主な変数に
関連付けられる動学的な連立方程式体系によって与えられ、完全に特徴づけら
れる(横断条件の充足は明らか )
0•
とはいえ、 (
3
0
)が非線形なのでこのままの条件で直接にこれを解くことはでき
ない。そこで、以下では、いくつかの間数のある特定化すなわち近似例とともに
未定係数試行解の代入法を用いて、その近似例についてのみ当該の動学的最適化
(
1
7
)が分析される。そこで、ごと Vを次のよう
問題つまり確率的最適成長問題
にかなり単純化した形に特定化して最適経済成長政策を分析してみる。 (
2
9
)は特
定化により、次のようにできる。
(
3
1
)
4=αand V=zki
,t
h
e
n
,ξF α
1i
1,a
nd V'=i
z
k
i
1
.
二
それゆえ、このとき (
3
0
) は代入によって次のようになる。式表現がやや長く
なるので、途中の整理についても若干示しておくのは議論を一層明確にする。
(
3
2
)
z
)11(i-1)ド.vk2
-rzki+i
z
ki
l{
s
v
k(-s
z
)附
{(
-s
1
)
.k一 (o+v
k
)}
+ (i-1)izk i- 2 • (
s
v
k
)2
/2=0,
(
-s)州-1)・ Z
i
/
(
ト
1)-1 ・
v-r
ki
-2
+i
ki-3{
s
v
k(-s
z
)山 一 l) .k-(δ+vk)}
+ (i-1)i
ki
-2・(
s
v
)2
/
2=0,
(
-s) 州
1) ・ ZI/(i -1)={rk i - 2 +ik i - 3 • ( δ +vk)+(1-i)ik i - 2 •
/{v(1-ik
(
s
v)
2/2}
,
i1
- )}
(
3
3
) z=[{rki-2+iki-3・δ
( +v
k
)+(
1-i
)i
γ-2・(
s
v
)2
/
2}
/
{v(1一幼i-l)}
J
i
1
司
J
( 式の表現が長くやや複雑なので、式の整理の途中過程をここに提示しておくことは有益であ
ろう。
(
s
)州 11 ・Z
i
/(i-l)l・v-r
ki-2十 i
k
'
3
{
s
v
k(
s
z
)山 口 .k-(O+v
k
)
}十(i- 1
)i
k
'
'・(
s
v
)
'
/
2
=
O,
i
2
i
i
3
(
S
)
i
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k-十 i
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v(
s
z
)山 一 1I_
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k
)十(iー 1
)i
k
'
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s
v
)
'
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2
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O,
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(
s
)州 1).Zll(i-l)・v-r
k
'
'
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k
'
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凶
1
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k
'
3・(0十 v
k
)+(i- 1
)i
k
'
'・(
s
v
)
'
/
2
=
O,
(
s
)州一 1) ・z
l
!
(←υ・v
i
ki-l. V
(
S
)州→)・ z山 '
)
=
r
k
'
'
+
i
ki-3・(0+此 )
+
(
l
i
)
i
k
'
'・(
s
v
)'
/
2,
v
(l-i
k
'
'
)(-5)州 1) ・Zl
!('-I)=r
k
'
'
+
i
k
'
3・(0十 ν
'
k
)十(l
i
)i
k
'
'・(
s
v
)
'
/2,
(
5
)州 1) ・z山 11={
r
k
'
'
+
i
k
'
3・(0十 v
k
)+(
1i
)i
k
'
'・(
s
v
)
/
2
}
/{v(l-i
k
'
'
)
}
,
1
1
2 不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
/(
s
)i,
したがって、 V および、αはこれを代入して次のように得られる。
(
3
4
)
v=[
{rk
i
ki-2 ・(o+v
k
)+(
1-i
)i
ki-2 ・(sv)2/2}
i-2+
i
k
i
-1) }
]
i
l・ki/(-S)i
,
/{v(1(
3
5
)
ー
ー1
α*=[
{
r
ki
,+後日・ (
δ +v
k
)+(
1- i
)i
ki
・(
s
v
)2
/2}/{v(1-i
ki
l
)}
]
/(-s).
={rki
-+ik i-2
1
・ (δ +vk)+(1-i)ik i - 1 •
(sv)2/2}
/
{
s
v
(
i
ki
-'-1
)
}
.
また、期待値の h に基づくか、あるいは経常的に h の水準に同時対応できる
ものとすると、閉ループの最適制御として最適経済成長政策を具現するものとこ
の♂が解釈できる。また、この♂に関して比較動学分析を次のように行うこと
ができる。ただし、 (
3
5
) の右辺分子を{・・・・}と略表現し、その分母も s
v
(・・.)とし、かつ(・・.)<0の仮定とともに結果を導く。
(
3
6
)
δα*/as={
r
ki
-1+i
ki
-2・(
δ +v
k
)
}• v(・・・)/{
s
v(・・・)2}<0,
(
3
7
)
δα*/θv={
r
ki
-1+i
ki
-2・(o+v
k
)
}・s
(・・・)/{
s
v(・・・)2}<0,
(
3
8
)
δ
α */av=i
k日 /
{
s
v(・・・)}
く 0,
(
3
9
)
δα*/ak=[
{
(
i- 1)rk月 十 i(
i-2)k日・ (
δ十 v
k
)+i
ki
-2(
o
'+v
)
(
i- 1)(1-i
)i
ki
l・(
s
v)
2/2}
・ s
v(・・・)-{・・・・}.
2
s
v
i(i-1)ki
}
]
/
{(
s
v
)(・・・)F>0 wheno
'<o/k
.
十
2(
δ+vk)+後i-2K (o+v
)+(
1- 2i
)ki
-1
(40)δα */ai=[{rki
-1K 十 ki
(
s
v
)
2
/
2+(
i-i2
)ki
-1 •
ー
K(
s
v
)2
/
2}.s
v(・・・)-{・・・・}.sv(ki
'+iki
-1 ・K}]/{(
s
v
)
(・・.)F<0 wheni
<1/2,whereK=logk
.
これらの比較動学効果は、あくまで(・・・)<0の仮定で決まるので、もしこ
(
13
) この(・・・)<0という仮定は、先験的に判定され得ないので、多少の可能性は考えられる
ものの、一般的に見れば便宜的に設定されているに過ぎない。
第 5章
ハロッド=ドーマー型最適経済成長理論
1
1
3
の符号が反対で、あるならば、これらの諸効果の符号も反対になることがわかる。
とはいえ、少なくとも定義から i<0なので、また iの絶対値も小きくとること
があり得るので、その表現(・・・)が負となる状況がここでの場合では想定さ
れている。また、 (
3
9
) は kの初期条件んについても適用できるので、同ーの条
α
*
/
δん>0が成り立つ。最後に、定理の Iつの系としてここで、の例につ
件の下で、 δ
いての分析をまとめておく。
例 題 2 ハロッド=ドーマー型最適成長の確率的不安定性を伴う基本的問題
(
1
7
) で、未定係数試行解 (
3
1
) を仮定すると、その解軌道(最適経済成長経
路)は、拡散型連続確率過程の意味で、(3)および(16
)と
、 (
2
9
)と (
3
0
)
の
、 hとα と V との主な変数に関連付けられる動学的な連立方程式体系 (
3
3
)・
(
3
4
)・(
3
5
) によって存在し、かつんの限りで完全に一義的に決定される。ま
たこの場合、(・・.)の符号が負ならば、最適制御 α事に対して、
S
と U とv
は正の比較動学効果をもち、 iについてもきらに i
<1/2ならば負の比較動学
効果がある。 kについては確定的ケースでの重要な条件の δ
'
<
δ/
kも成立すれ
ばα本に対して正の比較動学効果が導かれる。ただし、これらの比較動学効果は
符号条件が反対の仮定、つまり
0<(・・・)の場合はやはり反対の効果が結果
される。.
第 5章 参 考 文 献
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.
Accumulation
(
14
) ここでの不確実性下の分析では、庄の基本的な条件としての a壬めが問題にされてこなかっ
たが、これは最終的に確定的長期均衡の近傍で重大な問題となるが、ここでは第一次的考察が
目的なので、それについては他の条件と共にまた別の機会に詳しく触れたい。
1
1
4
不安定性原理とハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
Domar,E
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/宇野健吾訳『経済成長の理論』東洋経済新
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報社、昭和 3
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宮崎義一『経済動学J丸善、昭和 5
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J A CONTRIBUTION TO THE THEORY OF THE
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/古谷弘訳『景気循環論J岩波書
TRADECYCLE,O
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Musgrave,R
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NANCE,NewYork
:
McGraw-HiII./木下和夫監訳『財政理論』有斐問、 1
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[
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Jr
経済成長の理論』勤草書房。
1
9
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J 経済学のための最適化理論入門』東京大学出版会。
西村清彦 [
佐藤隆三
Solow,R
.M.,[
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鈴木康夫 [
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第 5号:経済厚生と公共政策の経済分析)西日本理論経済学会、勤草書房、
第 5章 ハ ロ ソ ド 二 ド - 7
ー型最適経済成長理論
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不安定性原理と
ハロッド=ドーマー型経済変動成長理論
平成 1
3
年 3月3
0日発行
非売品
著 者 鈴 木 康 夫
発行者
滋賀大学経済学部
印刷
西濃印刷株式会社
岐阜市七軒町 1
5
番地
TEL (
0
5
8
) 263~4101
滋賀大学経済学部研究叢書既刊目録
第 1号
中国官僚資本主義研究序説
中高太
昭和 4
5
年 3月
伊藤高義
昭和 4
6年 3月
第 3号 経 済 理 論 の 基 礎 を な す 仮 説 に つ い て
梶田
/ι~、
昭和 5
2年 3月
第 4号 情 報 会 計 の 基 礎
清水哲雄
昭和 5
4年 2月
第 5号
有馬敏則
昭和 5
4年 3月
両頭正明
昭和 5
6年 3月
帝国主義下の半植民地的後進資本制の構造一
第 2号 物 権 的 返 還 請 求 権 論 序 論
実体権的理解への疑問として
国際通貨発行特権と国際通貨制度
第 6号 現 代 西 ド イ ツ 直 接 原 価 計 算 論 序 説
一相対的直接原価計算論を中心として
第 7号
THETALEOFTHESOGABROTHERS 北 川
1
弘
昭和 5
6
年 3月
第 8号 北 欧 初 期 社 会 の 構 成
熊野
聴
昭和 5
9
年 3月
第 9号
欠損下における税効果会計の理論
西村幹仁
昭和 5
9年 3月
0号
第1
THETALEOFTHESOGABROTHERSPARTI
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5
,
1
昭和 6
0年 3月
1号
第1
ワーズワスの初期の神秘思想、
原田俊孝
昭和 6
0年 3月
2号
第1
く基礎的組織〉と政治統合
岡本仁宏
昭和 6
1年 3月
第1
3号 世 界 市 場 と 国 際 資 本 主 義 の 連 節 構 造
中罵太一
昭和 6
1年 3月
4号
第1
有馬敏則
昭和 6
2年 3月
経済体制論研究会
昭和田年 3月
森
終豪
平成元年 3月
稔
平成元年 3月
戸崎哲彦
平成 2年 3月
小西中和
平成 3年 3月
中野裕治
平成 4年 2月
M.P フォレ
y
トの研究
内外金融システムの変化と対外不均衡
5号 市 場 と 体 制
第1
経済体制論研究序説
第1
6号
プロトコルの形式的記述と検証
第1
7号 生 産 計 画 問 題 の 同 値 変 形 に よ る 解 法
吉田
凸目的関数の場合
第1
8号 唐 代 中 期 の 文 学 と 思 想
一柳宗元とその周辺ー
第1
9号
デューイ政治哲学研究序説
←思想形成過程試論
第2
0号 経 済 時 系 列 の 統 計 的 研 究
岡部の理論とその応用ー
第2
1号
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平成 4年 3月
葛 山 善 基
平 成 5年 1月
第2
3号 連 結 会 計 論
姥木
賓
平 成 5年 3月
第2
4号 ユ ー ゴ 労 働 者 自 主 管 理 の 挑 戦 と 崩 壊
藤村博之
平 成 6年 3月
第2
5
号柳宗元在永州
一永州流論期における柳宗元町活動に関する一研究
戸崎哲彦
平 成 7年 3月
6号 市 場 経 済 の 展 開 と 発 生 主 義 会 計 の 変 容
第2
久保田秀樹
平 成 8年 1月
第2
7
号
藤村博之
平 成 9年 3月
第2
8号 移 行 経 済 の 研 究
一理論と戦略
福 田 敏 治
平 成 9年 1
2月
9号 退 職 後 所 得 保 護 の 法 理
第2
ERISA研究
小棲
純
平成1
0年 2月
第3
0号 現 代 日 本 の セ ン ト ラ ル ・ バ ン キ ン グ
一金融経済環境の変化と日本銀行
小栗誠治
平成1
0
年1
2月
1号 独 占 , 蓄 積 と 環 境
第3
近藤
学
平成1
1年 1月
第3
2号 地 方 企 業 集 団 の 財 務 破 綻 と 投 機 的 経 営 者
大正期「播外│長者j 分家の暴走と金融構造の病弊
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功
2年 2月
平 成1
3
号
第3
堂 本 健 一
平成1
2年 3月
4、)11
平 成1
3
年 3月
第2
2号
ネットワークシステムにおける基本方式
日本企業の人事管理改革
ラオス経済の移行過程と国際化
第3
4号 破 綻 銀 行 経 営 者 の 行 動 と 責 任
一岩手金融恐慌を中心に
功
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