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知的障害特別支援学校に在籍する生徒を対象とした 他

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知的障害特別支援学校に在籍する生徒を対象とした 他
1-1
知的障害特別支援学校に在籍する生徒を対象とした 他者の指示に基づく行為の遂行に関する事例的研究 石川 緑里
Ⅰ 問題
2 手続き
他者からの指示を理解し、それを遂行できるこ
作業学習の時間を中心に、非交流観察によって
とは、学校生活や社会生活において求められる重
生徒の様子を記録した。観察は、X‐1 年 11 月中
要な力の一つである。しかし、知的障害者では、
旬から X 年 3 月までに 9 回実施した。
この指示に基づく行為の遂行に困難を示すことが
3 結果
指摘されている。知的障害者の課題遂行の特徴を
教師から出された指示に基づいて作業を進めて
調べた研究は、精神年齢が低い場合、プロセスの
いくことが十分にできていないとみられる場面が
弱さがみられることを指摘している。例えば田
観察されたが、その状態は多様であった。研究 2
坂・伊藤(2010)は、知的障害者が課題解決にお
では、保護者から研究協力の許可を得ることので
いて支援者のモデルに依存する傾向が強いことか
きた 2 名の生徒を対象として、指示に基づく行為
ら、プランニングの弱さを指摘している。この点
の遂行の特徴を分析し、遂行のつまずきに対する
については、渡邉(2008)もまた、課題全体を捉
支援の手立てを考察する。
えたプランニングに困難があると指摘している。
4 行為遂行の分析に必要な観点
こういった困難に対する支援手立ては、支援者
行為を目標にそって方向づける力については、
のかかわり方や環境整備という観点から多く検討
近年、実行機能の点から論じられることが多い。
されている。支援手立ての決定は、対象生徒の見
実行機能とは、目標到達のために意識的に行動を
られた行動を基に行われていたが、支援に必要な
制御する心理機能である(森口, 2012)。一般に、
条件の心理機能に着目して十分に行われてきたと
実行機能の下位機能として「抑制」、「切替え(シ
は言い難い。よって、支援手立てを考察するうえ
フティング)」、「更新(アップデーティング)」と
で、対象生徒の行為について、心理機能の面から
いう 3 つ(Miyake et al., 2000)が想定されてい
分析することが必要だと考える。
る。知的障害を伴う発達障害児を対象として実行
Ⅱ 目的
機能の経年変化を検討した浮穴(2008)は、精神
本研究は、知的障害特別支援学校に在籍する生
年齢の高さにかかわらず、切替えと抑制に困難を
徒を対象として、他者からの指示に基づく行為の
示す場合があることを報告している。また、指示
遂行について、行為の遂行過程に注目して分析し、
に基づく行為の遂行には相手とのコミュニケーシ
行為の遂行の向上につながる支援手立てを考察す
ョンの状態が反映されるが、言語発達の遅れや他
る。
者の表情認知の困難など、知的障害者にはコミュ
Ⅲ 研究 1
ニケーションに係わる問題を有していることが知
研究 1 は、知的障害特別支援学校に在籍する生
られている。そこで研究 2 では、実行機能と他者
徒を対象として、他者からの指示に基づく行為の
とのコミュニケーションの観点から行為の遂行の
遂行状況を把握し、必要な支援を考察する上で必
特徴を分析し、特徴に応じた必要な支援を検討す
要な観点を検討することを目的とした。
ることを目的とする。
1 対象生徒
Ⅳ 研究 2
知的障害特別支援学校高等部に在籍する 1、2
1 対象生徒
年生の生徒を対象とした。
知的障害特別支援学校高等部 3 年生に在籍する
1-2
A さん、B さんの 2 名を対象とした。
行った。B さんもまた、運動機能に著しい問題は
2 手続き
なく、人形作成に必要な工程の遂行に困難は見ら
作業学習の時間を中心に、教師からの指示に基
れなかった。見本の人形が用意されている場合は、
づく行為の遂行状況を非交流観察によって記録し
自ら作った物と比較しながら作業の見直しを行う
た。X 年 6 月下旬から X 年 11 月上旬にかけて、
ことができていた。しかし見本が用意されていな
計 11 回の観察を行った。
い場合、作業が一通りできており、作った人形の
コミュニケーションに関しては、まず①教師と
仕上がりを自分でチェックすることはできている
のやり取りの様子から特徴的な点を抽出した。加
にも係わらず、人形に入れる綿の量が足りないこ
えて、②広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度
と、パーツの縫い付けが緩いことをよく指摘され
(PARS)による評価を行った。また、他者との
ていた。
コミュニケーションの基礎には、相手が発する社
また B さんは、作業から掃除や休憩への移行等、
会的刺激の一つである視線に敏感に反応できるこ
活動の切替えをスムーズに行えないときがあった。
とが考えられるため、③コンピュータ画面に現れ
このような傾向は、活動の切替えを伝える声掛け
るターゲット検出に対する、人の視線の影響の程
が全体に対して行われた場合に見られやすかった
度を測定した(Senju et al., 2004)。
が、教師から個別に声掛けがあった場合は切替え
3 結果
がスムーズにできることもあった。
1)対象生徒 A さん
(2)他者への注目の傾向
(1)行為の遂行の特徴
PARS の結果、広汎性発達障害傾向の可能性は
A さんは、作業学習において木板の水磨きを主
低かった。社会的刺激にひきつけられるという傾
に行った。作業に必要な運動機能の問題があるわ
向はあったが、他者からの社会的刺激(視線)に
けではなく、教師から口頭で指示された箇所を磨
特に強くひきつけられるという明確な傾向は見ら
くこと自体には困難がみられなかった。しかし A
れなかった。
さんは、周囲にある物や他者の行動等、行うべき
4 考察
作業内容とは直接関係しない事柄に行動が逸れて
1)A さんに必要な支援
しまうことがみられ、最終的な目標に向けて作業
(1)行動の逸脱に対する支援
を続けることに困難を示す様子が多く観察された。
A さんは、作業と直接関係のない人、事柄に注
また A さんには、指示や作業経過の確認を教師
意が逸れてしまいやすい傾向がみられた。こうい
に対して何度行うといった様子が見られ、作業が
ったことの背景として、他者からの社会的刺激に
途中で中断してしまうことがよく見られた。
引きつけられる傾向が弱かったことから、作業前
しかし、作業中の A さんに対して、教師が「で
の指示を聞いて保持することに弱さがあり、その
きてるよ」などの声掛けを適時行った場合、作業
結果、作業から注意が逸れ易くなっているといっ
の中断や注意の逸脱がなく、集中して作業に取り
たことが考えられる。こういった事に対しては、
組むことができていた。
指示内容の確認を十分に行うこと、教師から適時、
(2)コミュニケーションに関する特徴
注意を作業に集中させる声掛けを行うといったこ
PARS の結果、広汎性発達障害傾向の可能性は
とが支援として考えられる。
低かった。また、他者からの社会的刺激(視線)
(2)行動の自己評価に対する支援
にひきつけられる傾向は弱かった。
A さんには、作業を中断して教師に作業経過を
2)対象生徒 B さん
何度もチェックしてもらうという行動がみられた。
(1)行為の遂行の傾向
こういった場合、作業は何度か中断されるが、注
B さんは、手芸班で主にピエロの人形の制作を
意自体は作業そのものに向けられ続けている。こ
1-3
のような場合、A さんにとっての困難は自分の行
生徒の指示に基づく行為の遂行の特徴の分析、お
った事がどれだけ目標に近づいているかを自己評
よび遂行上の困難に対する支援を考察した。本研
価することとみることができる。教師が、作業の
究では、特に実行機能と他者とのコミュニケーシ
進み具合に関する声掛けを適時行っていた場合に
ョンの状態に着目した検討を行った。しかし、本
は作業の中断がみられなかったことから、作業経
研究では、行為の遂行特性の分析結果とそれに応
過について随時フィードバックを与えることが、
じた支援手立ての妥当性を検証することができな
このような問題に対する支援の一つになりうると
かった。今後の研究においては、考えられた支援
考えられる。また、作業の進み具合を目標と関連
手立てを実践し、その妥当性を確認していくこと
づけてより具体的に把握できるよう、随時参照で
が必要である。
きる視覚的な見本を提示すること等も支援の一つ
文献
になりうるであろう。
Miyake, A., Friedman, N. P., Emerson, M. J.,
2)B さんに必要な支援
Wiztki., & Howerter, A. (2000) The unity and
(1)行動の自己評価に対する支援
diversity of executive functions and their
B さんは、見直しを含め、必要な作業工程を逸
contributions to complex “frontal lobe” tasks:
脱することなく一人で進めることができていた。
A
しかし、作品の見本がない場合には、作業の見直
Psychology, 41, 49-100.
しはしていても、チェックが甘くなってしまう様
子がみられた。見本がなくても見直しを行ってい
latent
variable
analysis.
Cognitive
森口佑介(2012)わたしを律するわたし:子ども
の抑制機能の発達. 京都大学学術出版会.
たことから、B さんには作業に必要な行程が内的
Senju, A., Tojo, Y., Dairoku, H., & Hasegawa, T.
に保持されていると考えられた。しかし B さんに
(2004) Reflexive orienting in response to eye
は、他者の発する社会的刺激にひきつけられる傾
gaza and an arrow in children with and
向が弱いという様子がみられたため、作業に関し
without autism. Journal of Child Psychiatry,
て与えられた指示が行動を調整する上で十分に機
45(3), 445-458.
能しないといったことが考えられる。見本が用意
田坂裕子・伊藤良子(2010)広汎性発達障害児の
された際には作業のチェックが十分に行えていた
構成課題解決における遂行‐知的障害児および
ことから、口頭での指示に加えて視覚情報による
健常児との比較‐. 東京学芸大学紀要(総合教
目標状態の提示を行うといった事が支援として必
育科学系Ⅱ), 61, 85-96.
要であると推測される。
(2)行動の切替えに対する支援
浮穴寿香・橋本創一・出口利定(2008)知的障害
を伴う発達障害児の実行機能の特徴‐ルール切
B さんには、作業から掃除へといったような活
り替えを含む課題を用いた経年的視点からの検
動の切替えがスムーズに行えないことがあった。
討. 東京学芸大学紀要(総合教育科学系), 59,
ただし、行動の切替えに関する指示が教室全体に
183-189.
対してではなく、B さん個人に向けられた場合は、
渡邉雅俊(2008)構造化されていない問題におけ
行動の切替えが出来ていた。これは、作業に対す
る知的障害児のプランニングに関する研究. 特
る集中の深さが行動の切替えの困難の原因である
殊教育学研究, 46(3), 149-161.
可能性を示唆しており、行動を切換えるきっかけ
がより明瞭に伝わるように工夫することが支援の
一つになりうると考えられる。
Ⅴ 今後の課題
本研究では、知的障害特別支援学校に在籍する
2-1
訪問教育における複数教師による個別の指導計画の作成・活用について
石渡 あかり
Ⅰ
問題
平成 21 年告示の特別支援学校学習指導要領で
1 目的
訪問教育における個別の指導計画の作成・活用
は、児童生徒の障害の重度・重複化、多様化に対
について、実態把握、個別の指導計画の目標・内
応し、一人ひとりに応じた指導を一層充実させる
容設定、授業計画の目標・内容設定、授業実施と
ことがあげられている。そのため、個々の実態を
記録、授業の評価・改善という 5 つのプロセスの
的確に把握した上で、個別に指導目標や具体的な
実態と教師のかかわり方について明らかにする。
指導内容を記述した個別の指導計画を作成するこ
2 方法
ととなっている。個人で個別の指導計画を作成す
全国特別支援学校長会(2012)による全国特別支
ることについて、安藤(2001)は「予断や独断に関
援学校実態調査において訪問教育を行っていると
するチェック機能を欠きやすい」ことを指摘して
確認できた特別支援学校から、無作為に抽出した
おり、個別の指導計画の作成にあたっては、児童
学校のうち、協力可との回答があった 98 校の訪
生徒を多様な視点から捉えられることや、きめ細
問教育担当教師 98 名に郵送による質問紙調査を
やかな指導や手厚い指導ができることから、複数
実施した。調査項目は予備調査で指摘のあった項
教師による作成にメリットがある。
目について加除修正し、以下の項目に確定した。
西村(2002)は、訪問教育における個別の指導計
1)回答者の属性
画の作成・活用について、
「基本的に児童生徒と教
2)実態把握のプロセスと教師のかかわり方
師 1 対 1 で授業が行われることから児童生徒の実
3)個別の指導計画の目標・内容設定のプロセスと
態把握、指導目標、指導内容と方法等を一人で責
任を負わなければならず、そのために孤立感に悩
む担当者は多い」とし、全国訪問教育研究会(2010)
教師のかかわり方
4)授業の計画(指導案等)の目標・内容設定のプロ
セスと教師のかかわり方
は「訪問教育担当者の半数が一人で指導内容を決
5)授業実施のプロセスと教師のかかわり方
めている」と報告している。
6)授業の評価・改善のプロセスと教師のかかわり
これらの問題解決の方途として、安藤(2001)の
示すプロセスを踏まえた、複数教師による個別の
指導計画の作成・活用(授業への関連付け)があげ
られる。
Ⅱ
目的
訪問教育における複数教師による個別の指導計
方
7)現在行っているプロセスについての良い点及び
課題
3 結果と考察
98 校中 90 校から回答があり(回収率 91.8%)、
複数名での回答があったため、93 名の回答を得た。
画の作成・活用について検討するため、研究Ⅰに
プロセスの実態については、実態把握、個別の
おいて実態把握、個別の指導計画の目標・内容設
指導計画の目標・内容設定、授業の計画 (指導案
定、授業計画の目標・内容設定、授業実施と記録、
等)の目標・内容設定、授業実施と記録、授業の評
授業の評価・改善という 5 つのプロセスの実態と
価・改善という 5 つのプロセスを経ている学校が
教師のかかわり方について明らかにし、研究Ⅱに
多いものの、安藤(2001)が示した、
「複数教師の関
おいて複数教師の関与したプロセスを経ることが
与」したプロセスを経るという点では十分な状況
できた背景要因について明らかにする。
ではないことが明らかとなり、
「予断や独断に関す
Ⅲ
るチェック機能を欠きやすい」状態で個別の指導
研究Ⅰ
2-2
表 3 現在行っているプロセスの課題(担任単独)
自由記述 n=65 [ ]内数
表 1 個別の指導計画の指導内容の設定
カテゴリ
人数
%
担任が単独で設定している
担任が単独で設定し、
他の担当者が確認している
複数の担当者に意見をもらい、
担任がまとめて設定している
複数の担当者で話し合って
設定している
特に設定していない
未記入
26
28.0
39
41.9
10
10.8
15
16.1
0
3
0.0
3.2
計
93
100.0
表 2 授業の計画(指導案等)の授業内容の設定
カテゴリ
人数
カテゴリ
不安・負担感
担任を中心に個別の指導計画を作成・
活用することによる客観性への不安
学校体制によるやりづらさ
実際に複数訪問ができないことによる客
観性への不安
困難感
重度の障害による個別の指導計画作成
の難しさ
保護者や関係者との連携の難しさ
%
42
45.2
27
29.0
9
9.7
10
10.8
0
5
0.0
5.4
計
93
100.0
計画の作成・活用が行われていると推察された。
各プロセスにおける教師のかかわり方について、
個別の指導計画の指導内容の設定における教師の
33(50.7%)
[21(32.3%)]
[9(13.8%)]
[3( 4.6%)]
19(29.2%)
[10(15.3%)]
[9(13.8%)]
2( 3.0%)
その他
担任が単独で設定している
担任が単独で設定し、
他の担当者が確認している
複数の担当者から意見をもらい、
担任がまとめて設定している
複数の担当者で話し合って
設定している
特に設定していない
未記入
回答数
12(18.4%)
記入なし
表 4 現在行っているプロセスの課題(複数教師)
自由記述 n=25 [ ]内数
カテゴリ
回答数
9(34.5%)
不安感・負担感
実際に複数訪問ができないことによる客
観性への不安
全体で話し合う機会の少なさ
[5(19.2%)]
困難感
計画通りに授業を進めること
5(19.1%)
[3(11.5%)]
個別の指導計画作成の難しさ
期待感
福祉や医療と連携していくことへの期待
複数教師で個別の指導計画を作成・活
用することによる客観性の確保
[4(15.3%)]
[2( 7.6%)]
4(15.3%)
[2( 7.6%)]
[2( 7.6%)]
かかわり方では、
「担任が単独で設定している」割
その他
4(15.3%)
合が 28.0%であるが (表 1)、一方で授業の計画の
記入なし
4(15.3%)
授業内容の設定における教師のかかわり方では、
訪問教育担当教師を支援する校内体制があるとの
45.2%という結果となり(表 2)、教師のかかわり方
回答は半数以上を占め、その内容として「訪問先
に違いがあることが明らかとなった。この結果か
や校内で指導を受けられる」、
「人的・物的・時間
ら、個別の指導計画の作成・活用(授業への関連付
的配慮が受けられる」等があげられた。この結果
け)に課題があると推察された。
から、分掌の有無そのものよりも、訪問教育を支
現在行っているプロセスについての課題を尋ね
援する体制があることが重要であると考えられる。
た結果、複数の担当者でかかわっている教師は、
Ⅳ 研究Ⅱ
担任として単独で行っている教師と比較して、実
1 目的
態把握や長期目標の設定、指導内容の選択に対す
複数教師の関与したプロセスを経ることができ
る不安や困難等の課題が少ないことが明らかとな
た背景要因について明らかにする。
った(表 3, 表 4)。この結果から、複数で決定して
2 方法
いくプロセスを経ることが心理的負担を低減させ
ることに繋がると推察された。
研究Ⅰで行った質問紙調査の結果、全てのプロ
セスにおいて、
「複数の意見をもらい担任がまとめ
訪問教育にかかわる分掌の有無からみた教師の
て行っている」または「複数で話し合って行って
かかわり方については、全体として分掌ありも分
いる」という十分な内容の回答が得られた回答者
掌なしも、
「担任が単独で行っている」割合が最も
の学校(以下,A県立B特別支援学校)の訪問教育担
多く、
教師のかかわり方に違いは見られなかった。
当教師 2 名に対し、半構造化面接を実施した。調
2-3
査項目は以下の 3 点とした。
行うことができるようにすることの重要性が示唆
1)現在のプロセスの詳細について
された。
2)現在のプロセスを行うに至った経緯について
全国訪問教育研究会(2010)は、訪問教育担当教
3)他職種との連携について
師の経験年数について、5年未満の教師が6割以
3 結果と考察
上を占めることから、「訪問教育における指導方
A 県立 B 特別支援学校では、個別の指導計画の
法・内容の未確立、教員の様々な精神的、身体的
作成・活用のプロセスにおいて最低 5 回の話し合
な負担、教師としてのアイデンティティの課題等、
いの段階を踏んでおり、
その際にかかわる教師は、
この教育の魅力さの欠如があるのかもしれない」
担任・副任の他に、訪問教育経験のある教務主任
と述べている。しかし、今回の調査の結果から、
や重度・重複教育担当教師、同学部の教師等、多
訪問教育の指導体制や、訪問教育担当教師を支援
くの教師がかかわっていることが明らかとなった。 する体制等にも課題があることで、訪問教育を離
その背景要因として 2 点が示唆された。
1 点目に、
れていく教師が多いのではないかと考える。訪問
多くの教師に訪問教育のことや、訪問教育を受け
教育を離れていく教師、孤独感を感じながら指導
る児童生徒のことを知ってもらい、身近な存在に
を行う教師が今後増えていくことがないよう、複
させるため、作品を学校の廊下に貼ったり、ビデ
数教師で個別の指導計画の作成・活用を行い、心
オレターのやりとりをしたりする等の PR をする
理的負担感を低減した状態で、充実した指導を行
ことである。猪狩(2007)は、
「日頃から校内で訪問
えるようにする必要がある。
学級が『見えている』ことが大切」と述べ、これ
今回の調査から背景要因として 2 点が明らかと
らの働きかけが訪問教育において「担任任せにし
なった。この結果から、訪問教育担当教師が訪問
ない校内体制」(猪狩,2007)をつくることに繋がる
教育のことや、訪問教育を受ける児童生徒のこと
ことが示唆された。2 点目に管理職や教務主任が
について校内の教職員に PR すること、管理職や
率先して訪問教育に理解を示し、複数教師で個別
教務主任が率先して訪問教育の推進に関与し、指
の指導計画の作成・活用ができる体制をつくるこ
導体制を工夫することが、複数教師で個別の指導
とである。A 県立 B 特別支援学校では、訪問教育
計画の作成・活用ができるようにするための 1 つ
の経験がある教務主任が話し合いに入ることも多
の方策であると考える。
い。西川(2000)は、指導案の作成、授業研究など
文献
を、学年会や学校全体などで行うことも指導の効
阿部芳久(1997)障害児教育 授業の設計.日本文化科学社,93-9
5.
安藤隆男(2001)自立活動における個別の指導計画の理念と実践.
川島書店,89-105.
猪狩恵美子(2007)制度・条件編 生き生きと学ぶために.全国訪問
教育研究会(編),訪問教育入門 せんせいが届ける学校.クリエ
イツかもがわ,85-89.
長 沼 俊 夫 (2010) 訪 問 教 育 の 歩 み と 現 状 . 肢 体 不 自 由 教
育,193,42-45.
西川公司(2000)重複障害児の指導ハンドブック.全国心身障害児
福祉財団,109-155.
西村圭也(2002)訪問教育の現状・課題・展望.障害者問題研
究,30(1),2-9.
大野由三(1995)障害児指導のためのチームティーチング.明治図
書,12-13.
全国特別支援学校長会(2012)全国特別支援学校実態調査.
全国訪問教育研究会(2007)訪問教育入門 せんせいが届ける学
校.クリエイツかもがわ.
全国訪問教育研究会(2010)訪問教育の現状と課題Ⅵ~訪問教
育に関する第六次調査報告~.
果を高めるために大切なことであるとし、
「校長や
教頭等の管理職が指導体制の工夫改善に果たす役
割は大きく、指導力を発揮して指導体制の活性化
を図るように努めることが必要」と述べており、
校長や教頭、教務主任等が訪問教育の推進に関与
し、指導体制について工夫をすることが重要であ
ることが示唆された。
Ⅴ
総合考察
研究Ⅰにおける現在行っているプロセスの良い
点及び課題の結果や研究Ⅱの結果から、複数教師
で個別の指導計画の作成・活用を行うことが心理
的負担を低減させることに繋がると推察され、複
数教師が関与して個別の指導計画の作成・活用が
3-1
中等度難聴児への聞き返しの指導に関する事例的研究
野住 明美
Ⅰ
問題の所在
開始は 5 歳 7 ヶ月であった。新スクは受けておら
近年,新生児聴覚スクリーニング検査(以下新
ず,発音の歪みにより耳鼻科を受診し難聴が発見
スクと表す)の導入により,軽度や中等度の難聴
された。6 歳 0 ヶ月時より教育相談を開始した。
も早期発見が可能となった。しかしながら未だ全
2 聴覚的評価
出生児が検査を受けてはおらず,進行性の難聴や
聴力レベルは右耳 67dB,左耳 63dB で聴力型
疾病などで検査後に難聴になることもあるが,軽
は谷型である。また,補聴器装用下での語音聴力
度・中等度難聴児は音に対し反応があるため発見
検査(67-S 語表)の静音下の結果は,提示音圧が
と対応が遅れがちである。軽度・中等度難聴児の
45dB より小さくなると受聴明瞭度が下がり,提
言語発達について評価した研究は散見される。杉
示音圧が 40dB では受聴明瞭度が 45%となった。
内・佐藤・浅野・杉尾・寺島・洲崎(2001)や,井
また異聴傾向があることが示された。騒音下での
上・大沼・原・鈴木・佐野・岡本(2005)は,軽度・
検査結果では,提示音圧 55dB,SN 比-5dB で
中等度難聴児を対象にウェクスラー系知能検査を
70%であった受聴明瞭度が,提示音圧 50dB,SN
実施した。その結果,両者とも動作性 IQ に比べ
比-10dB では 30%に下がった。対象児が在籍し
て言語性 IQ が優位に低い例が半数以上であった
ていた保育所と進学先の小学校の音環境調査と情
と報告している。中等度難聴児を対象とした事例
報収集を行ったが,どちらも騒音レベルの方が教
研究は少なく,平島(2009)による,小学校 4 年
師や保育士の声よりもはるかに大きいことがあり,
生の中等度難聴児を対象とした聞き返しの事例研
対象児にとって話が聞き取れない場面の存在が示
究はあるが,幼児や低学年という年齢を対象とし
唆された。
た研究は見られない。
3 言語的評価
日本人の苗字は「かとう・さとう・はとう」な
絵画語彙発達検査と ITPA 言語学習能力診断検
どのように一部だけが違う苗字も存在する。しか
査を行った結果,語彙年齢,言語学習年齢とも実
しながら,その一部の音の聞き取りに異聴傾向が
年齢より 1 歳以上の遅れが見られた。
ある場合には,
聞き取りに困難な場面が想定され,
4 聴覚・言語指導の結果と課題
聞き返し方を身につけておくことは重要であると
対象児の異聴音を用いた聞き取り弁別学習を週
考える。
1 回 1 時間の指導の 10 分程度で実施した。また,
Ⅱ
語彙の不足と聴覚学習経験の不足を改善するため
目的
本研究では,異聴傾向のある中等度難聴の児童
に,なぞなぞやクイズ,絵本の読み聞かせを行っ
1 名に対し,聞き取り困難場面を解決するための
たが,よく知っているものでも,名前が分からな
聞き返し方を指導し,
その方略の定着を図ること,
いなど知っていることばに偏りが見られた。指導
そして対象児の聞き返しの変化について分析する
8 ヶ月後には受聴明瞭度の改善が見られたが,異
ことを目的とする。
聴傾向については明らかな改善は見られず,聞き
Ⅲ
返しの指導の必要性が示された。
対象児の実態
1 対象者
対象児は,普通小学校通常学級に在籍する小 1
の女児 1 名で難聴発見が 5 歳 6 ヶ月,補聴器装用
3-2
Ⅳ
方法
不明瞭な音のみを繰り返す聞き返し方について
1 聞き返しの指導場面
指導は,X 年 9 月から A 大学研究室にて,週 1
回 1 時間の指導で全 7 回実施した。
学習した。
4) STEP4:同姓 3 名から人物を特定するための聞
き返し(属性や特徴を利用した聞き返し)
2 指導内容
同姓 3 名の中から人物を特定するにはメガネ
本研究では,対象児の異聴傾向がある音を含む
の色の違いなど人物の特徴を使って聞き返したり,
苗字の聞き取りに関しての聞き返しの学習を設定
学年や組などの属性の情報や名前情報を使ったり,
した。指導には,聞き取り困難場面を想定したス
苗字に付け加えて聞き返したりすることが有効で
トーリーを作成し,文章と絵で表わしたワークシ
あることを学習した。
ートと,登場人物のペープサートを用意した。指
5)STEP5:苗字が部分的に聞き取れない場合の
導場面での基本的な流れは,ワークシートのスト
聞き返し(属性や特徴を用いた聞き返し)
ーリーを読み上げた後,まず聞き取れなかった場
苗字が部分的に聞き取れない場合にも STEP4 の
合の対応を対象児に考えさせた。また,ペープサ
方略を使用して聞き返しができることを学習した。
ートを用いて指導者と対象児が聞き返し役と相手
6)STEP6:指導効果の測定
STEP1 と同様にぬり絵ゲームを行い,対象児の
役に分かれ,ワークシートの一連のストーリーに
沿って役割を演じた。本文中では,この役割を演
自発の聞き返しを評価した。
じる一連の流れを「シミュレーション」と表現し
3
記録と分析の方法
て用いる。シミュレーション場面でスムーズに適
指導の様子はデジタルビデオカメラ 1 台で撮影
切な聞き返しができたことで,聞き返しが定着し
し,その映像データから指導者と対象児の発話,
たと評価した。指導内容を以下の 6 つのステップ
行動・表情・視線,支援内容などを文章化した。
に分けて指導を行った。
指導場面の VTR と文章化したプロトコルデータ
1)STEP1:指導前の実態把握
を分析対象とした。聞き返しの機能分類と表現形
指導に使う苗字の選定のため,指導者が対象児
式,表現形式の下位分類は福富(2012)のものを用
の斜め後ろから異聴音が入った苗字を読み上げ,
いた。
対象児が苗字をポインティングするという形で対
Ⅴ 結果
象児の聞き取りを正解数で評価した。また,聞き
指導前(STEP1)でのぬり絵ゲームで見られた
返しの実態を把握するために,ぬり絵のワークシ
対象児の聞き返しを表 1 に,指導後(STEP6)で
ートを用意し,指導者と対象児が異聴音の入った
見られた聞き返しを表 2 に示す。
苗字を使って,色を塗る場所の指示を出すゲーム
複合エコー型とは,福富(2012)の分類では「繰
(以下,ぬり絵ゲームとする)を行い,対象児の
り返し+α」や「繰り返し+疑問詞」
「間投詞+繰
聞き返しを評価した。
り返し」である。確認型は,
「相手の発話をくり返
2)STEP2:話の内容が聞き取れない場合の聞き
さないが,相手に確認を求めるもの」である。
返し
また,指導場面を一貫し,
「かとう?」のように
「もう一度言ってください」の繰り返し要求と
苗字全てを繰り返す聞き返し(単純エコー型)や,
「だれ?」
「なに?「どこ?」などの聞き返し方
「か?」のように苗字の一部を繰り返す聞き返し
について学習した。
(不完全エコー型)が見られた。同様に,
「もう一
3)STEP3:苗字が部分的に聞き取れない場合の
回言ってください」というステップ 2 で学習した
聞き返し
聞き返しは,その後の指導場面においてよく使わ
「かとうさん?」のように苗字全部を繰り返す
れていた。
聞き返し方と,
「か?」などのように聞き取りが
3-3
表 1 指導前のぬり絵ゲームでの聞き返し
対象児の
表現形式の
機能分類
表現形式
聞き返し
下位分類
事後評価場面のゲームでは,「かたのゆうきさ
ん?」という「苗字+名前」の複合エコー型の聞
き返しが自発的に用いられていた。この聞き返し
は,STEP 4 と 5 で取り上げて学習したものであ
さかのさん?
聞き取り確認要求
エコー型
単純エコー
かたのさん?
聞き取り確認要求
エコー型
単純エコー
活場面でも応用できる可能性があると考えられる。
か?
聞き取り確認要求
エコー型
不完全エコー
さらに,
「かたのさんですか?」という「苗字+で
は?
聞き取り確認要求
エコー型
不完全エコー
ズボンも?
聞き取り確認要求
エコー型
単純エコー
り,ゲーム場面で見られたということは,日常生
すか?」という複合エコー型の聞き返しも見られ
た。この聞き返し方は意識的に指導したものでは
なく,指導者が指導場面内で頻繁に使用した言い
回しであった。
「かたのさん?」より「かたのさん
手も?(2 回)
理解確認要求
お鼻?
聞き取り確認要求
非エコー型
エコー型
確認型
単純エコー
表 2 指導後のぬり絵ゲームでの聞き返し
対象児の聞き
表現形式の
機能分類
表現形式
返し
かたのゆうきさ
下位分類
聞き取り確認要求
エコー型
複合エコー
んですか?
かたのさんです
ですか?」の方が意識的に聞き返しを行なってい
るという印象を受ける。
Ⅶ 研究のまとめと今後の課題
本研究では,聞き取りが困難な場面での聞き返
し方をステップに分けて指導した。指導後の評価
場面では,本研究で指導した複合エコー型の聞き
返し方を使用しており,繰り返し学習したことで,
聞き返しの方略が指導前よりも増加した。方略の
使用と定着に関しては,今後は日常生活場面で細
聞き取り確認要求
エコー型
複合エコー
か?(2 回)
かく対象児の様子を観察し総合的に評価していく
必要がある。また,対象児が自分の聞き取りの曖
はたのさんです
複合エコー
聞き取り確認要求
エコー型
聞き取り確認要求
エコー型
単純エコー
かたのさん?
聞き取り確認要求
エコー型
単純エコー
か?
(2 回)
聞き取り確認要求
エコー型
不完全エコー
Ⅵ
考察
か?
昧さをどこまで認識しているのかについては不明
なままであった。自身の聞き取りに関しての自覚
はたのさん?
を促す指導も,今後は行っていく必要があると考
える。
文献
福富奈美(2012)接触場面の日本語会話における「聞
き返し」 : どのような「聞き返し」が効果的なス
単純エコー型の聞き返しや,不完全エコー型の
聞き返しは対象児がその音の聞き取りに曖昧さを
感じているために使用していたと考えられる。し
かしながら,それと同様の状況を想定したストー
トラテジーと言えるか.四天王寺大学紀要 (53),
275-290.
平島ユイ子(2009)中等度難聴児の聴覚学習~確実な
聴取のための聞き返しの学習~.教育オーディオ
ロジー研究,3,27-29.
井上理絵・大沼幸恵・原由紀・鈴木恵子・佐野肇・
リーでは別の聞き返し方を行っていた。すなわち,
岡本牧人(2005)軽度・中等度難聴児の実態と補聴
不完全エコー型(聞き取りが不明瞭な音を繰り返
器装用-新生児聴覚スクリーニング施行前出生
す聞き返し)は頻繁に使用するものの,意図的・
児.Audiology Japan,48(5) ,593-594.
意識的に行ったものではなかったのだと推察され
杉内智子・佐藤紀代子・浅野公子・杉尾雄一郎・寺
た。また,
「もう一回言ってください」という繰り
島啓子・洲崎春海(2001)軽度・中等度難聴児 30
返し要求は,対象児にとって使いやすい方略にな
ったと考えられる。
症例の言語発達とその問題.日本耳鼻咽喉科學
會會報 104(12), 1126-1134.
4-1
NICU(新生児集中治療室)に長期入院する超重症児の表出とやりとりに関する事例的研究
岡 麻衣子
Ⅰ 問題と
問題と目的
新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care
手との双方向の相互作用成立へと変容させる条件
を明らかにすることを目的とした。
Unit,以下NICU)は、早産などによる低体重
Ⅱ 方法
児や先天性の重い病気を持つ新生児を受け入れ、
1 対象児
専門医療を行う場である。保育器や人工呼吸器、
A県立病院小児科NICUに長期入院する、濃
心拍や呼吸の監視装置の常備、患者3人に対して
厚な医療的ケアの必要な超重症児M(研究開始
看護師1人以上などの厳しい条件が定められてい
時:2歳3か月)
。超重症児スコアは 34 点。骨形
る(厚生労働省,2008)。しかし、最優先される
成不全のため気管切開手術ができず、NICU退
のが医療であるために、医療スタッフは処置や看
院の見込みは立っていない。筋緊張亢進があるた
護に忙しい。NICUは、治療を要する新生児の
め鎮痙剤を服用中で、一日のほとんどの時間を寝
増加に病床数が追いつかず、慢性的な人手不足に
て過ごしている。
より、充分には機能していない(松永,2007)
。
2 資料収集及び
資料収集及び資料分析の
資料分析の方法
近年の新生児医療や救命救急医療技術の進歩は、
20XX 年9月4日から 20XX+1 年9月 21 日ま
レスピレーターなどの呼吸管理を必要とする、濃
での期間に、全 150 セッション(30 セッション
厚医療が継続して必要な最重度の障害児の増加を
×5期)活動を実施した。A県立病院小児科NI
きたした。要医療・要介護度が濃厚な一群は従来
CUの面会時間内で、M自身の体調がよく、他の
の重症心身障害児の概念を超え、超重度障害児(超
入院児に緊急の処置等がない時間を見計らってか
重症児)という概念が出現した(山田・鈴木,2005)。 かわった。
超重症児は、身体の動きが極めて微弱かつ微細
活動は、Mの枕元にかかわり手が位置取り、ベ
であり、相互交渉のありようを見いだすことは困
ッド上で左右側臥位の姿勢で行った。BGMとし
難であることが多く、まずは彼らの、外界との相
てアンパンマンのマーチ、アンパンマンたいそう
互交渉のありようを浮き彫りにすることが重要で
の2曲を使用した。
ある。また、子どもの変化とともに、それに先立
実施期間は全5期に分けた。第Ⅰ期「見守り条
つかかわり手の変化、子どもの行動への気づき、
件」
、第Ⅱ期「タッピング/腰条件」
、第Ⅲ期「タ
行動の読み取りとその意味の仮定、それに基づく
ッピング/手条件」
、第Ⅳ期「振動条件」、第Ⅴ期
働きかけなどの変化、そのときどきにかかわり手
「再現条件」とかかわりの方針を変えて活動を進
が考えていたことを明確にすることが重要である
めた(表1)。かかわりの方針は、各期における
(岡澤・川住,2005)
。
M の表出の様子や変化、かかわり手の反省、M に
さらに、超重症児における微弱な応答の確立に
は長い時間を要する。安定した応答が認められる
期待する姿などを考慮し、ゼミでの話し合いで決
定していった。
ようになった事例について、どのような指導が有
Mとかかわり手の活動場面をビデオ映像に記録
効であったか検討することは重要であるが、超重
し、資料として収集した。行動の生起数を身体部
症児に対する教育の観点からの研究は、まだ非常
位(足、腕、唇、まぶた、頭)別にカウントし、
に少ないのが現状である(川住ら,2008;高木ら,
単位時間における生起頻度を算出した。また、M
1998)。以上のことから、本研究では、長期入院
の応答行動の発現頻度、表出方法の変化を見た。
する超重症児の表出を促し、超重症児とかかわり
4-2
音楽2での第Ⅱ期からの持続する行動発現の増
表1 各活動期の設定
加は、Mの表出を促すためのかかわりの方針の変
各活動期の設定条件
音楽1-アンパンマンの
音楽2-アンパンマン
マーチ
たいそう
第Ⅰ期
行動発現の有無にかか
行動発現の有無にかかわらずMの様
(BL)
わらずMの様子を見守
子を見守り、実態把握を行う
2 タッチ・
タッチ・キューへの
キューへの応答
への応答
活動でタッチ・キューを行うことにしたのは、
かかわり手が何の前触れもなく突然活動を始め
て、Mを驚かせないようにしたいという理由から
り、実態把握を行う
第Ⅱ期
化を評価することができる(図1)
。
音楽に合わせて腰をタッピングし、行
であった。結果は「はじまり」よりも「おわり」
発現部位には表出確認
動発現部位には表出確認と声掛けを
への応答が圧倒的に多かった(図2)。このこと
(撫でる)と声掛けをし
してMの表出を促す
からタッチ・キュー「はじまり」が重要なのは当
Mの様子を見守り、行動
1)
然であるが、これがMに確実に伝わっていないこ
てMの表出を促す
第Ⅲ期
Mの様子を見守り、行動
音楽に合わせて手をタッピングし、行
とも推察される。「はじまり」以上に最後に「お
発現部位には表出確認
動発現部位には表出確認と声掛けを
わり」を伝えることが重要なのではないか考える。
(撫でる)と声掛けをし
してMの表出を促す
3 CU(
CU(コミュニケーション・
コミュニケーション・ユニット)
ユニット)の成立
タッチ・キュー「スイッチ」からぬいぐるみの振
てMの表出を促す
2)
3)
動終了後 10 秒以内にMに応答行動が発現した場
第Ⅳ期
Mの様子を見守り、行動
スイッチを hand under hand で一緒に
発現部位には表出確認
押し、腹部に置いたぬいぐるみを10
(撫でる)と声掛けをし
秒間振動させる。行動発現部位には表
てMの表出を促す
出確認と声掛けをしてMの表出を促
合に、CUが成立していると定義した。第Ⅳ期以
降では、Mとの十分なやりとりの時間を確保する
ために、音楽2を同様の条件で2回繰り返して実
施したが、セッション前半、中盤、後半のいずれ
すとともに相互作用成立を目指す
も音楽2の2回目にCUの成立頻度が高くなるこ
第Ⅴ期
Mの様子を見守り、行動
スイッチを hand under hand で一緒
発現部位には表出確認
に押し、腹部に置いたぬいぐるみを1
(撫でる)と声掛けをし
0秒間振動させる。行動発現部位に
てMの表出を促す
は、表出確認と声掛け。加えてかかわ
とが分かった(図3)。同じ曲を同じ条件で2回繰
り返しても、その結果は異なる。すなわち、同じ
曲でも1回目と2回目ではMにとってその意味が
異なることが推察される。また、活動を単純に繰
り手が腹部のぬいぐるみの振動の再
り返しすることも、一概に無意味なこととはいえ
現し、表出確認と声掛けをしてMの表
ない。活動の時間を長く取ることで、活動の前半
出を促すとともに相互作用成立を目
では成立しにくいかかわり手との相互作用が次第
指す
に成立しやすくなったことも推察される。
1)応答行動のあった場合にのみ、行動発現部位を撫でながら表出確認した。その際は
4 持続する
持続する行動発現
する行動発現のきっかけ
行動発現のきっかけ
「動いたね」「アンパンマン聴こえるね」などとMに言葉を掛けた。
最も多かったのはぬいぐるみの振動であったが、
2)パシフィックサプライ社製。押しボタンの直径64mm。
3)Mが一人でスイッチを押すことはできないため、スイッチの上にかかわり手が手を
(秒)
3000
置き、さらにその上にMの手を乗せ、一緒に押すこととした。
2500
Ⅲ 結果と
結果と考察
2000
音楽1
音楽2
1 持続する
持続する行動
する行動の
行動の発現
1500
発現した応答行動のうち1回に 10 秒以上持続
1000
して行動が見られたものを「持続する行動」とし
500
た。10 秒以上持続するMの行動というところに、
0
ピクつき様の不随意運動ではないMの意図性、随
第Ⅰ期
第Ⅱ期
第Ⅲ期
第Ⅳ期
図1 持続する行動の発現推移
意性を見取ることができると考えたためである。
4-3
振動の再現、表出確認も僅差で多かった(図4)。
第一にMにとってどうであったかを考えて、活動
このことから、刺激の強い振動や振動の再現と同
を通しての結果と考察や反省をもとに次期の方針
様にかかわり手の表出確認も重要であることがわ
を考えることが必要であった。また、かかわり手
かる。持続する行動にMのより強い意志や随意性
が活動におけるMの行動発現の増加や僅かな変化
があると考えた場合、持続する動きの表出の促進
に気付き、活動を進めるにあたって焦点を絞って
を目指すには、振動や振動の再現と同じかそれ以
より意識的に観察し、
より積極的に介入を行った。
上に、かかわり手がMの行動表出部位を撫でて、
このかかわりの手の気づきとかかわりの方針の変
「動いたね~」
「そうなんだね~」と声掛けをする
容過程を明らかにすることも、Mとの相互作用を
ことが大きな意味を持っているといえる。
生み出す条件を考える際には重要であった。
超重症児は、身体の動きが極めて微弱かつ微細
Ⅳ 全体考察
Mとかかわり手との活動を振り返るときには、
であり、活動の時間や場所にも制限を受ける。し
かしながら、たとえ活動の場が床上に限られダイ
(回)
18
ナミックな遊びができないとしても、劇的な展開
16
のない見た目には地味な活動だとしても、その子
14
12
第Ⅰ期
第Ⅱ期
第Ⅲ期
第Ⅳ期
10
8
未実施
6
4
どもにとって出来得る限りの活動を、地道に、そ
してかかわり手と共に行うことで、子どもは非常
にゆっくりとではあるが変化を見せるといえる。
そして、その変化を確実に見取り、共に喜び合え
2
0
る複数のかかわり手の存在は極めて重要である。
「はじまり」
「おわり」
今後の課題として、超重症児における微弱な応
図2 タッチ・キューへの応答
答の確立には長い時間を要するため、約一年とい
(回)
S11-20
う研究期間はあまりにも短かった。さらに継続し
50
S21-30
て活動を行うことで、Mの相互作用の成立過程を
9
40
4
明らかにできるのではないかと考える。
S1-10
30
振動終了後
10秒以内
振動中
3
8
文献
11
20
川住隆一・佐藤彩子・岡澤慎一・中村保和・笹原未来(2008)応
10
36
36
24
10
答的環境下における超重症児の不随意的微小運動と心拍数の
19
13 15
変化について.特殊教育学研究,46(2),81-92.
音
楽
音 2- 1
楽
22
音
楽
音 2- 1
楽
22
音
楽
音 2- 1
楽
22
0
厚生労働省(2008)基本診療料の施設基準等.
松永雅道(2007)新生児医療の現状と展望.新潟医学会雑誌,120
図3 CU(コミュニケーション・ユニット)の成立頻度
(6)
,312-318.
岡澤慎一・川住隆一(2005)自発的な身体の動きがまったく見い
(回)
だされなかった超重症児に対する教育的対応の展開過程.特殊
30
25
教育学研究,43(3)
,203-214.
20
高木尚・岡本圭子・森屋晶代・阪田あゆみ・小池敏英(1998)超
15
重度障害児における応答の特徴とその表出を促す指導につい
10
て.特殊教育学研究,36(1)
,21-27.
5
0
山田美智子・鈴木康之(2005)超重症児,準超重症児の概念と対
ー
ュ
・キ
チ
ッ
タ
動
現
再
認
確
振
出
表
の
動
振
図4 持続する行動発現のきっかけ
注)頻度は修正値
応.江草安彦(監修)
,重症心身障害療育マニュアル(第2版).
医歯薬出版,157-164.
5-1
けしちゃだめ
(あける)
小集団指導における知的障害児の運動遂行の促進 補助指導者の役割の観点から
坂上 俊介
Ⅰ 問題 2学年の軽度精神遅滞男児、P4 は2学年の知的発
知的障害児の運動技能の向上や運動習慣の形成
達の遅れを示すウエスト症候群女児、P5 は1学年
は、彼らの生活をより豊かにする。運動技能の向
の精神遅滞男児であった。P1 と P2 は、対象児5
上や運動習慣の形成のためには、学童期の十分な
名の中では、正確に動作模倣することができ、運
運動の経験が重要である。しかし、知的障害児は、
動遂行レベルも高かった。P3〜P5 は、体の動きが
地域や家庭で運動する機会に乏しく、学校での運
ぎこちなく、バランスも悪かった。P5 は、体操中
動の必要性は高い。特別支援学校や支援学級での
に走り回る、指導者に抱きつく、床に座る反応が
運動課題は、小集団指導で取り組まれることが多
認められた。 い。小集団指導では、主指導者(以下、MT)と補
2 指導場面と指導内容 助指導者(以下、ST)の役割分担に基づくティー
A大学研究センターのプレールーム(11.9m×
ムティーチング(以下、TT)が実施されることが多
11.6m)において、X年5〜11 月までの約7か月
い。TT が効果的に機能するためには、ST の役割や
間、週 1 回のペースで行い、全 26 回実施した。指
位置取りが重要であると考えられる。米持・村中
導時間は、1回約 40 分間であった。指導者は3名
(2011)では、小集団指導の音楽活動において、
(MT1名、ST2名)であった。MT は、主に一斉指示
ST の役割や位置取りの設定は、対象児の課題遂行
を出し、授業を統括する役割を担い、ST は、動作
に影響を及ぼすことが示唆されている。この研究
モデルの提示、技能補助、逸脱反応の対応などの
では、打楽器演奏や手遊びの音楽課題を取り上げ
役割を担当した。 たため、対象児は着席して課題を遂行した。運動
運動課題には、体操、リズム運動、サーキット
課題では、その課題内容に応じて、対象児には多
運動を設定した。体操は、立ち位置から動かずに
様な動きが求められ、ST も対象児の動きに応じた
指導者の動作を模倣して身体を動かす課題であっ
役割や位置取りが求められる。しかし、小集団指
た。リズム運動は、左回りに繰り返し周回しなが
導の運動課題において ST の役割や位置取りの違
ら、音楽に合わせていろいろな歩き方や走り方を
いが対象児個々の運動遂行に及ぼす影響について
する運動であった。サーキット運動は、左回りに
の検討は十分でない。また、ST の役割や位置取り
繰り返し周回しながら平均台渡りや玉入れなどの
は、運動課題の特性によっても異なることが推測
4種類の課題を行う運動であった。体操、リズム
される。本研究では、知的障害児5名の小集団指
運動、サーキット運動は、課題の内容がそれぞれ
導において、内容の異なる複数の運動課題を実施
異なっていた。 し、ST の役割や位置取りが対象児の運動遂行に及
3 運動課題の指導デザインと条件 ぼす影響を検討した。 1)指導デザイン Ⅱ 方法 各運動課題において、ST の役割や位置取りの設
1 対象児 定が対象児の運動遂行に及ぼす影響を検討するた
対象児(participant)は、小学校特別支援学級
めに、体操は4つ、リズム運動は5つ、サーキッ
の1〜2学年に在籍する知的障害児5名(P1〜P5)
ト運動は6つのフェイズで指導を構成し、フェイ
とした。P1 は1学年のダウン症女児、P2 は 1 学年
ズごとに各条件を導入した。 で知的発達の遅れを示す高機能自閉症男児、P3 は
5-2
けしちゃだめ
2)ST の役割と位置取りの条件 数とした。
体操課題は、ST1 が P5 の側方に位置取り動作モ
Ⅲ 結果 デルを提示する条件(ST1 側方・P5 個別条件)、P5
1 体操課題 の前方に位置取り動作モデルを提示する条件(ST1
P1、P2、P3 の遂行レベルは、ST の役割と位置取
前方・P5 個別条件)、P5 と次に遂行レベルの低い
りによるフェイズ間の差は認められなかった。図
P3 の中間点前方に位置取り2名の対象児に対し
1に、第一体操における P4 と P5 の正・誤反応率
て動作モデルを示す条件(ST1 中間点前方・P3P5
を示した。P4 の正反応率は、第一体操におけるフ
条件)、P5 と P3 の中間点前方に位置取り P5 と P3
ェイズ2の ST1 前方・P5 個別条件で、他のフェイ
に対して動作モデルを示し、ST2 が3番目に遂行
ズよりも高まった。P4 の正反応率は、フェイズ4
レベルの低い P4 と P3 の中間点前方に位置取り、
の ST1ST2 中間点前方・P3〜P5 条件で、フェイズ
P4 に対して動作モデルを示す条件(ST1ST2 中間点
1の ST1 側方・P5 個別条件やフェイズ3の ST1 中
前方・P3〜P5 条件)の4条件で実施した。 間点前方・P3P5 条件よりも微増した。P5 の遂行率
リズム運動とサーキット運動は、全対象児を支
は、フェイズ1では、ほとんどで0であったが、
援対象にコースを周回して動作モデルを示す条件
フェイズ2とフェイズ4で微増した。P5 では、フ
(ST 動作モデル提示・P1〜P5 条件)、全対象児を
ェイズ1とフェイズ2で、逸脱反応の一つである
支援対象にコースの内側に位置取り、言語指示や
立ち位置を離れる割合が高かったが、フェイズ4
言語賞賛を与えるが、動作モデルは示さない条件
では低下した。フェイズ3からフェイズ4にかけ
(ST 動作モデル提示なし・P1〜P5 条件)、遂行レ
て、P5 の ST に抱きつく、押す反応の割合が増加
ベルの低い対象児2名に対して個別に動作モデル
した。 を示す条件(ST 動作モデル提示・P4P5 個別条件と
2 リズム運動 ST 動作モデル提示・P3P4 個別条件)の3条件で実
P3 では、フェイズ1とフェイズ3の ST 動作モ
施した。 デル提示・P1〜P5 条件で、フェイズ2の ST 動作
4 運動課題の評価方法 モデル提示なし・P1〜P5 条件やフェイズ4の ST
体操課題では、課題項目ごとの正反応と誤反応
動作モデル提示・P4P5 個別条件に比べて、周回の
を定義し、
「正反応数(誤反応数)÷全課題項目数×
100(%)」の計算式で正・誤反応率を算出した。正・
100"
誤反応率を合わせて遂行率とした。加えて、逸脱
80"
反応の割合を評価した。リズム運動では、スキッ
ST1
P5
ST1
P5
ST1
P4P5
"
ST1ST2
P3 P5
60"
40"
プやサイドステップなどの動きにおける正・誤反
20"
応を定義し、10 秒の部分インターバル記録法を使
0"
6/15"
7/6"
7/20" 8/24" 9/14" 10/5" 10/26" 11/9" 11/24" 12/7"
用した。対象児の正・誤反応が生起した割合を「8
秒以上の正反応(誤反応)が生起したインターバル
数/全インターバル数×100(%)」の計算式で算
出した。加えて周回の正・誤反応数を評価した。
周回の正反応を4本のコーンの外側を左方向に回
ること、周回の誤反応を2〜3本のコーンの外側
100"
ST1
P5
80"
ST1
P5
ST1
P4P5
"
ST1ST2
P3 P5
60"
40"
20"
0"
6/15"
7/6"
7/20" 8/24" 9/14" 10/5" 10/26" 11/9" 11/24" 12/7"
を回ることと定義した。サーキット運動では、平
均台や玉入れなどの各課題の正・誤反応を定義し、
その数を評価した。正・誤反応数を合わせて遂行
図1 P4 と P5 の第一体操課題における正・誤反応率
■は正反応率、□は誤反応率を示す。
横線(破線)は、各フェイズ内の平均正反応率を示す。
5-3
けしちゃだめ
正反応は微増し、周回の誤反応数は減少した。P4
増し、P5 の遂行数が増加した。 と P5 では、フェイズ4の ST 動作モデル提示・P4P5
Ⅳ 考察
個別条件で、他のフェイズに比べて遂行の割合が
体操課題では、ST の P4 や P5 の前方に位置取り
高まった。 動作モデルを示す役割により、P4 の正反応率や P5
3 サーキット運動 の遂行率が微増したと考えられる。ST が P4 や P5
図2に、サーキット運動における P2、P4、P5
の前方から正しい動作モデルを示すことで、動作
の正・誤反応数を示した。P2 の正反応数は、フ モデルが遂行反応の生起を促す手がかりとなった
ェイズ1の ST 動作モデル提示なし・P1〜P5 条件
と推察される。
の後半で増加したが、フェイズ2の ST 動作モデル
本研究では、リズム運動とサーキット運動の両
提示・P1〜P5 条件で減少した。フェイズ3の ST
方で、ST が全対象児に動作モデルを示す役割を行
動作モデル提示・P1〜P5 条件で再び増加し、フェ
った。この役割により、リズム運動では P3 の周回
イズ4の ST 動作モデル提示・P4P5 個別条件でも
の正反応数は微増したが、サーキット運動では P2
高いレベルを維持した。P3 の正反応数は、フェイ
の正反応数は減少した。このように、STの全対
ズ間で差が認められなかった。P4 と P5 では、フ
象児に動作モデルを示す役割の効果は、運動課題
ェイズ4の ST 動作モデル提示・P4P5 個別条件に
の特性により左右されることがあると考えられる。
おいて、他のフェイズに比べて、P4 の遂行数が微
リズム運動は、周回しながら、音楽に合わせてス
キップやケンケンパなどの様々な動きを行う内容
140"
120"
100"
! 80"
60"
40"
20"
0"
P1 P5
P1 P5
P1 P5
であった。サーキット運動とは異なり、対象児が
P4P5
P1 P5
周回する動線上に障害となる運動器具は置かれて
いなかった。そのため、ST の動作モデル提示の役
割は、P3 の周回の正反応を促進しやすかったと考
えられる。指導場面では、運動課題の特性に応じ
6/15"
7/6"
7/20" 8/24" 9/14" 10/5" 10/26" 11/9" 11/24" 12/7"
て、ST の動作モデル提示が対象児の運動遂行へ及
ぼす影響が異なることに配慮して、ST の動作モデ
30"
P1 P5
P1 P5
P1 P5
ルの提示を行う視点が重要と考えられる。 P4P5
P1 P5
20"
リズム運動とサーキット運動では、P4 と P5 だ
けに支援する ST の役割が、P4 と P5 の運動遂行を
10"
高めたと考えられる。P4 と P5 の運動遂行は、ST
による個別の動作モデル提示や言葉かけ、身体ガ
0"
6/15"
7/6"
7/20" 8/24" 9/14" 10/5" 10/26" 11/9" 11/24" 12/7"
イドにより高められたものと推察される。しかし、
全対象児に支援する ST の役割では、対象児の運動
50"
P1 P5
P1 P5
P5
40"
P1
P4P5
P3P4
遂行は十分に高まらなかった。対象児の運動遂行
P1 P5
30"
! 20"
が十分に高まらなかった要因として、P5 の逸脱反
応や運動課題の難易度など、ST の役割と位置取り
以外の変数の影響が考えられる。 10"
0"
6/15"
7/6"
7/20" 8/24" 9/14" 10/5" 10/26" 11/9" 11/24" 12/7"
文献
米持早苗・村中智彦(2011)小集団指導における広汎性発達障害
図2 P2・P4・P5 サーキット運動課題における正・誤反応数
■は正反応、□は誤反応数を示す。
横線(破線)は、各フェイズ内の正反応数の平均を示す。
児の音楽活動への参加促進と指導者の位置取り.特殊教育学研
究,49,157-170. 6-1
特別支援学校(知的障害)における教科「福祉」に関する研究
重富 弘恵
Ⅰ 問題
Ⅱ
目的
近年の知的障害高等部(本科)の卒業生で、保
本研究では、特別支援学校(知的障害)高等部
育や介護の分野で補助スタッフとして就職してい
における教科「福祉」の取り組みの現状や課題、
る者が増加している(渡辺,2009b)。
社会福祉関連の事業所への就労状況を調査し、教
このような状況から、
特別支援学校
(知的障害)
科「福祉」のもつ可能性や今後の職業教育のあり
高等部において、生徒の実態に応じて、社会福祉
方を検討する。
に関する内容を指導することが増加しつつあり、
Ⅲ
職業教育を充実させる観点から、教科「福祉」が
1 調査対象と方法
新設された(文部科学省,2009)。
方法
全国の高等特別支援学校(知的障害)と特別支
教科「福祉」の意義を考えるとき、これまで援
援学校(知的障害)高等部から無作為に 295 校抽
助の対象であった生徒が、援助の担い手となって
出し、学部主事を対象とした郵送法による質問紙
援助活動を行うことも注目される点である
(渡辺,
調査を行った。調査期間は、2012 年 9 月 23 日~
2009b)。リースマンのいう「ヘルパー・セラピー
10 月 23 日とした。
原則」
は、
「援助をする人が最もよく援助を受ける」
2 質問調査内容
という意味で、福祉のもつ「癒し」の機能であり
・教員の属性、学校の属性
(久保・石川,1998)、高橋(1995)は、この原
・高等部の教育課程
則は福祉を特徴づけ、価値づける大切な性質であ
・教科「福祉」の学習内容
るという。
・教科「福祉」に関する内容を指導するに当たっ
田中(2004)は、高等学校の専門教科「福祉」
ての工夫
の役割について、福祉教育は他者とのかかわりの
・社会福祉関連事業所への就労状況
なかで、自分を客観化し、自己の存在意義を見い
・教科「福祉」の学習成果
だし、生きる喜びを感じることができると述べて
Ⅳ
いる。また、渡辺(2009a)は、自己肯定感がも
結果と考察
169 校から回収し、3校が無記入であった。回
てずにいた生徒が利用者への援助を行うことで、
収率は、57.3%であった。
自己を肯定的に受け入れ、自信を持つようになっ
1 教科「福祉」の実施方法
たことを紹介している。
キャリア発達の視点からも、
「福祉」
(介護)の
「ほとんど実施していない」との回答が、132
校と 79.5%をしめていた。実施している学校では、
学習活動を加えることは、職業的(進路)発達に
「作業学習として実施している」
が 11 校で 6.6%、
かかわる諸能力を育成する点からいって重要な意
「実習前など期間限定で実施している」が 6 校で
義があると同時に、新たな職業教育の展開が期待
3.6%、
「学科として実施している」
「コースとして
できる(渡辺,2009b)。
実施している」がそれぞれ 5 校で 3.0%、
「その他
教科「福祉」については、先行研究がほとんど
特色ある実施方法」が 4 校で 2.4%であった
(表 1)
。
なされておらず、全国的な調査をすることは、今
生徒個々の実態や就労へのニーズに合わせて、
後、教科「福祉」を進めていく上での指針となる
高等部段階での教科「福祉」に関する指導の充実
と考える。
が望まれる。
6-2
害者への理解もあり、特別支援学校での教育や就
表 1 教科「福祉」の実施(設置)の方法
項目
校数
割合(%)
労に向けた取り組みに協力的であると考えること
ができる。
132
79.5
11
6.6
現場実習での問題点や課題は、
「就労先で求めら
実習前など期間限定で実施している
6
3.6
れる能力に生徒の実態が合わない」
「就労にはつな
学科として実施している
5
3.0
がらない」
「まわりの理解や人間関係が難しい」
「事
コースとして実施している
5
3.0
故対応が難しい」
「支援がない」
「施設までの公共
その他特色ある実施方法
4
2.4
交通機関が無い場合が多い」などがあった。
未記入
2
1.2
6 社会福祉関連の事業所への就労状況
不明
1
0.6
「社会福祉関連の事業所」への就労状況におけ
合計
166
100.0
る全体の就労人数は、平成 19 年度の 61 名から
ほとんど実施していない
作業学習として実施している
2 教科「福祉」に関連した教員の資格
福祉科の教員免許状を所有している教員がいる
学校は 24.1%、いない学校は 52.4%であった。
3 教科「福祉」の学習内容と工夫
123 名としだいに多くなっていた(図 1)。就労し
た者の職務内容は、掃除、調理補助、洗濯、介護
補助、ベッドメイキング、話し相手、レクリエー
ション補助、送迎バスの補助、外出付き添い、移
「介護」が 26 校、
「家事援助」が 16 校、
「保育」
乗補助、お茶出し、事務補助、バイタル確認、リ
が 2 校であった。工夫としては「社会福祉施設で
ハビリ補助、変則勤務、夜勤などがあげられてい
介護に関するビデオを借りてきて教材として利用
している。今後、施設の職員と連携を図って授業
を充実させたい」
「生徒用の指導書を作成している
途中である」などであった。
教科「福祉」に取り組んでいる学校は、何とか
既存の施設・設備で対応したり、高等学校と連携
したり、自校の小学部で保育実習をしたりするな
どの工夫がみられた。
4 教科「福祉」の授業での問題点や課題
「『福祉』の専門性のある教員の確保が難しい」
た。
保育関係の事業所では、保育補助、遊び相手、
教材の作成補助などあった。高齢者施設以外では
医療機関、障害者施設などがあった。
就労継続できている理由は、
「職場の理解」「ア
フターケアがあったから」
「就労先の仕事と本人の
適性」
「保護者のサポート」「本人の意欲」などで
あった。就労継続できなかった理由は、
「人間関係」
「労働意欲の弱さや低下」
「本人の能力が職場の要
求に合っていなかった」
「職場の理解が充分ではな
が 87 校、
「施設・設備を整える場所の確保が難し
い」が 80 校、
「生徒の実態と合う学習内容を見つ
けるのが難しい」68 校などであった。
5 社会福祉関連の事業所での現場実習
社会福祉関連の事業所の現場実習先は、
「なんと
か確保できている」が 93 校で 56.0%、
「確保でき
ないときがある」が 19 校で 11.4%、
「ほとんど確
保できていない」が 11 校で 6.6%、
「十分確保で
きている」が 10 校で 6.0%であった。
実習先の分野では「介護」分野が 104 校、
「家
事援助」分野が 22 校、
「保育」分野が 16 校であ
った。
同じような社会福祉分野でもあることから、障
図 1 社会福祉関連の事業所別の就労人数の内訳
6-3
ることによって、自己有能感が増した結果ではな
表 2 教科「福祉」によって生徒に育まれたと思える力
(複数回答)n=46
項目
校数
いかと考える。
Ⅴ
結論と今後の課題
思いやりや優しさが見られるようになった
26
現場実習ができても「福祉」の場での就労はま
コミュニケーション能力の向上が見られた
25
だかなり難しいのが実状であるが、補助という仕
周囲への気配りができるようになった
22
事をどこまでできるのか、コミュニケーションに
検定への挑戦や資格取得などで自信をつけた
12
課題のある生徒が多いが、福祉の場で様々な人々
積極的になった
12
とかかわるなかで、コミュニケーション能力を伸
進路選択が主体的にできるようになった
12
ばしている実践も多かった。キャリア発達の視点
学習や仕事に対する意欲が高まった
11
からも、教科「福祉」の学習活動を加えることは、
将来の見通しがもてるようになった
11
職業的発達にかかわる諸能力を育成する点からい
現場の即戦力となれる知識や技術が身についた
10
っても重要な意義がある。
自己理解が深まった
8
今後の特別支援学校(知的障害)高等部では、
その他 生徒に育まれたと思える力
3
施設・設備にかかわる予算や専門の教員が不足し
かった」
「家庭のサポートが難しかった」などであ
ている状況であっても、
従来の専門教科に
「福祉」
った。
の教科を加えて、教育課程に位置づけ、3 年間の
本人の指導だけではなく、本人を支える家庭や
職業教育の指導計画を綿密に立案し、様々な工夫
他機関との太く緊密なネットワークを築いておく
をすることによって、実践を積み重ねていくこと
ことや予防的なアフターケアが非常に重要になる。 が重要である。
今後は学校現場で、思いやりやコミュニケーシ
7 教科「福祉」で育まれたと思える力
「思いやりや優しさ」
「コミュニケーション能力
の向上」「周囲への気配り」「検定への挑戦や資格
ョン能力、積極性、主体性を培うことができる教
科「福祉」の実践に取り組んでいきたい。
取得などで自信」
「積極的になった」
「進路選択が
文献
主体的にできるようになった」が多かった(表 2)
。
久保紘章・石川到覚(1998)セルフヘルプ・グループの理論と展
そう感じた理由や場面として具体的にあげられ
ていたのは、
「どのような人の役に立つ仕事なのか
を考えたり、理解したりしながら仕事をすること
で、教師から見えない場所でもまじめに責任をも
開-我が国の実践を踏まえて-.中央法規.9‐10.
文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説総則等編(高
等部).
高橋
智(1995)「人権としての福祉教育」の創造をめぐる理論
って仕事をするようになった」
「
『どうぞ』
『ありが
問題「福祉を学ぶ権利」の保障と「国民的福祉教養」の形成.
とう』
『通らせてください』『失礼します』など、
障害者問題研究,23(2),4‐11.
気持ちの良い言葉が自然に出て来る場面が増えた」
田中泰惠(2004)高等学校福祉教育に期待される専門教科「福祉」
「授業以外や実習時に、
『何かやることありますか』
の役割-施設体験学習とその意義を中心に-.上越教育大学大
という問いかけが出た時に感じた」
「実習先から、
学院修士論文.
コミュニケーション能力の向上が指摘された」
「入
渡辺明広(2009a)知的障害高等特別支援学校(特別支援学校高
学した頃と比べ、大きな声で会話ができるように
等部)における「流通・サービス」の実施状況についての調査
なってきた」などがあった。
研究.特殊教育学研究,47(1),23‐35.
その他では、
「スキルの向上」
「他者理解」
「社会
性」などがあげられた。
家族や教師、まわりの人々から援助を受けるこ
とが多かった生徒が、他の人の支援に回る役を得
渡辺明広(2009b)特別支援学校(知的障害)における教科「福
祉」の展開と課題-先行的な指導実践(学習内容、指導計画等)
についての調査をもとに-.発達障害研究,31(5),413‐424.
7-1
知的障害特別支援学校高等部における企業と連携した
作業学習の実施方法に関する研究
鈴木 康
Ⅰ
問題
知的障害生徒は,情報を抽象化したり,注意を
集中・持続したりすることへの困難さから生じる
業と連携した作業学習を実践する研究Ⅱで構成し
た。
Ⅲ
方法
「情報不足」によって,学習が成立しない状況に
研究Ⅰでは,一般企業への就労を目指す知的障
置かれていることが考えられる。また,社会経験
害生徒,知的障害特別支援学校の教師,知的障害
が制約されることによって,行動が消極的になっ
者を雇用している企業,一般企業で働く知的障害
てしまう傾向があることも指摘されている。古
特別支援学校の卒業生に対し調査を行い,
「作業学
賀・菅野(2011)によると,知的障害特別支援学校
習で指導すべきこと」
と「学校と企業の連携方法」
を卒業し一般就労をした半数以上の知的障害者が
を導き出した。その後作業学習の授業計画を立て,
卒業時に「就労に対する意欲」の課題を抱えてい
一般企業への就労を目指した作業学習の指導内容
たことが報告された。また,原田(2011)によると,
を明らかにした。
教師が「職業教育が実際の職業生活と結び付いて
研究Ⅱでは,研究Ⅰで導き出された「指導内容」
いないのではないか」という問題意識をもってい
と「企業との連携方法」をもとに,図 2 のように
ること,
「授業において企業との関わりをもってい
「一般企業で働くことに対する自己効力感」に働
ないこと」が報告された。このような状況の中,
きかける指導を行い,
「企業と連携した作業学習」
各学校においては,時代のニーズに合った就労に
研究Ⅰ:企業と連携した授業実践に必要な情報収集のための調査研究
つながる職業教育に関する教育課程の見直しや,
①調査の実施
就労に向けた支援方法の開発を推進することが求
められている(文部科学省,2009)。このように知
的障害特別支援学校の職業教育における課題とし
て,知的障害生徒の「就労への意欲」をどのよう
に育成するか,通常の作業学習において,
「企業と
の連携」をどのように進めるか,作業学習での「指
導内容」をどのように選定するか,の 3 点が挙げ
○生徒・教師・企業・卒業生の意識を把握
◇「指導内容」「連携方法」の選定
②授業実践に向けた準備
○調査結果の分析
◇授業実践方法の策定
◇授業実践に必要な情報収集
○授業検討会
◇作業担当教師との検討→◇協力企業への情報提供→◇授業計画の作成
目的①:一般企業への就労を目指した作業学習の指導内容を明らかにする
られる。以上のことから,知的障害特別支援学校
の職業教育において,生徒の自立と社会参加を目
指した,一般企業への就労につながる企業と連携
した作業学習の実施方法の在り方を追究すること
は,意義のあることだと考えた。
Ⅱ
目的と研究の全体構造
本研究では,知的障害特別支援学校高等部にお
研究Ⅱ
企業と連携した作業学習の授業実践的研究
①作業学習の授業実践
○自己効力感に働きかける指導
○企業と連携した指導
◇卒業生の働く姿を観察
◇企業のもつ情報を活用
◇企業からのアドバイス・評価
◇生徒の取組のアドバイス・評価
②授業実践の評価
○作業学習の指導方法の評価
◇生徒への質問紙・インタビュー
○連携方法の評価
◇教師・企業担当者へのインタビュー
いて,一般企業への就労に結び付けるための地元
企業と連携した作業学習の実施方法を明らかとす
目的②:企業と連携した授業実践とその評価
ることを目的とした。
一般企業への就労に結び付けるための企業と連携した作業学習の実施方法を検討
本研究は,図1のように授業実践に必要な情報
を得るための調査と授業計画を立てる研究Ⅰと企
図 1 研究の内容とその関連性
7-2
を実践第 1 期に 4 回,第 2 期に 12 回の 16 回実施
きかける指導を行った。
した。授業実践後に「自己効力感に働きかけた指
1)授業の導入場面で,研究Ⅰの調査結果を紙面
導方法」と「学校と企業の連携方法」の評価につ
で,卒業生が職場で働いている姿や実際に職場で
いて,作業担当教師と協力企業の担当者へのイン
取り組まれていることをビデオ映像で提示した。
タビューを行い,知見を得た。
Ⅳ
結果
1
研究Ⅰ:企業と連携した授業実践に必要な情
2)企業の方から作業学習の取組に対する評価・
アドバイスを,生徒にフィードバックした。
高等部 3 年生の生徒 A は,表1のように本実践
報収集のための調査研究
を通して,
「一般企業で働くことに対する自己効力
「一般企業で働く上で大切なこと」
について生徒,
感」は一定のレベルで維持された。導入場面で自
教師,企業,卒業生が共通で挙げた「一般企業で
身の実習先以外の職場や仕事の様子や企業の方か
働く上で必要となるコミュニケーションに関する
らの評価・アドバイスに関する情報を視聴したこ
力」について,実際に職場で行われている接客場
とで,働くことに対する気持ちが高まった。また,
面や従業員同士のコミュニケーション場面と実際
「職場でのコミュニケーション場面」に関する情
の授業場面を関連付けて取り上げていくことにし
報を視聴したことで,自身の課題(職場でのコミュ
た。また,企業と卒業生が重視していて,教師が
ニケーション)に対しての意識が高まり,その結果,
注目していない項目に「職場の規則やルールを守
作業学習の活動が将来働くことに役立つ期待(結
る」が挙げられた。職場全体で共通理解し重点的
果期待)が更に高まった。
に取り組まれている「職場規範」に関することを
高等部 1 年生の生徒 B は,表 2 のように本実践
作業学習での活動場面と関連付けて取り上げてい
を通して「一般企業で働くことに対する自己効力
くことにした。企業との連携方法について,本研
感」は,全体的に下がったが,一定なレベルで維
究では,
「企業現場の情報を授業で活用する」とい
持された。導入場面で提示した卒業生の働く様子
う視点の連携方法とした。研究Ⅱに向けて,調査
や自身の実習先以外の職場の様子を視聴したこと
対象の企業の中から卒業生の協力を得られる 2 社
で「一般企業で働くこと」への理解が深まった。
と知的障害特別支援学校高等部の農業班に研究の
企業の担当者からの肯定的な評価を受けたり,学
依頼をし,協力を得た。
校生活や作業学習で取り組んでいることに共通す
2
る取組の場面を視聴したりしたことで,
「一般企業
研究Ⅱ:企業と連携した作業学習の授業実践
的研究
で働くこと」を意識するようになり,
「自分にもで
研究Ⅱでは,
研究Ⅰで導き出された
「指導内容」
きそうだ」という印象をもち続けた。また,
「作業
と「企業との連携方法」をもとに,以下のような
学習の内容」と「一般企業で働くこと」を結び付
「一般企業で働くことに対する自己効力感」に働
けて捉え,作業学習の活動が将来働くことに役立
つ期待(結果期待)が高まった。
授業実践後に行ったインタビューにおいて,本
研究の実施方法について,
作業担当者教師から
「概
ね問題はなく今後も実施・継続可能」,
「単元を設
け,
系統的に実施できると,より教育効果がある」
,
「卒業生にアプローチすることは,連絡すること
に負担がかからず,教育効果が大きい」という回
答を得た。
協力企業の担当者から
「概ね問題なく,
実施・継続が可能」,
「知的障害生徒や特別支援学
校の理解につながった」
,
「現場実習の受け入れの
図 2 自己効力感に働きかける指導のイメージ
際に現場(店舗)に伝える材料が増えた」という回
7-3
表1 生徒 A の自己効力感の変容
質問項目
表 2 生徒 B の自己効力感の変容
実践第
実践第
実践第
実践第
1 期前
1 期後
2 期前
2 期後
1.一般企業に就職すること
3
3
3
3
2.一般企業で働くこと
3
3
3
3
3
4
3
3
4
4
4
3
3.自分のやりたい職業を見つけること
4.働くことに必要な力を身に付けるた
めに努力すること
5.将来就きたい職業や会社の仕事内容
を知ること
6.自分が職場で働いている姿をイメー
ジすること
7.日常の生活において具体的な目標を
立てること
8.まわりの人と一緒に仕事をすること
9.与えられた役割を果たすこと
質問項目
実践第
1 期前
実践第
1 期後
実践第
2 期前
実践第
2 期後
1.一般企業に就職すること
2.一般企業で働くこと
3
4
3
3
3
3
3
3
3.自分のやりたい職業を見つけること
4
3
3
3
4.働くことに必要な力を身に付けるた
めに努力すること
4
3
3
3
4
3
3
3
3
3
3
3
5.将来就きたい職業や会社の仕事内容
3
4
4
4
3
3
3
3
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
8.まわりの人と一緒に仕事をすること
4
3
3
3
3
3
4
4
9.与えられた役割を果たすこと
4
3
3
4
4(非常に自信がある),3(少しは自信がある),2(あまり自信がない),1(非常に自信がない)
を知ること
6.自分が職場で働いている姿をイメー
ジすること
7.日常の生活において具体的な目標を
立てること
4(非常に自信がある),3(少しは自信がある),2(あまり自信がない),1(非常に自信がない)
答を得た。連携について,作業担当教師からは「作
取り込みやすい情報であったこと,授業において
業班ごとに教材の準備をすることは負担」
,
「学校
「情報に触れる機会」と「活動の振り返りを行う
として組織的,計画的に企業の情報を収集する方
機会」が保証されていたことが要因だと考える。
法を構築する必要がある」という回答を得た。企
今後の課題として,自己効力感を把握する評価方
業担当者は「企業にとって,事業活動してメリッ
法,
「能力」と「自己効力感」の関係を考慮した上
トがないと継続できない」
,「担当部署がない企業
での「適切な自己効力感」の捉え方についての検
では,会社全体の方針として協力できる体制がな
討が必要となる。
いと,連携が難しい」という回答を得た。
Ⅴ
考察
学校と企業との連携方法について,インタビュ
ーより,
「企業の情報を授業に活用する」という視
研究Ⅰの調査結果と研究Ⅱの授業実践の結果を
点に立った今回の方法は,学校と企業双方にとっ
もとに,一般企業での就労に結び付けるための作
て概ね適切なものであった。今後は学校側の連携
業学習の実施方法について考察する。
のための組織的,計画的な取組を支える体制の整
指導内容について,授業実践結果より,
「職場に
備と学校側から企業側への積極的な働きかけや学
おけるコミュニケーションに関する力」と「職場
校と企業が情報を共有する機会の設定,連携する
規範」は,一般企業での就労を目指す作業学習の
ことの「企業側のメリット」の追求に対する検討
指導の内容として,生徒と教師,企業のニーズに
が必要である。
沿った適切なものであったといえる。
「企業現場で
文献
実際に取り組まれていること」と「作業学習の指
Bandura , A . (1977)Self-efficacy : Toward
導場面」を関連付けて取り上げたことで,
「一般企
unifying theory of behavioral change .
業で働くこと」についての理解が深まった。今後
Psychological Review,84,191-215.
の課題として,学年の違いや生徒の発達段階を考
原田公人(2011)特別支援学校高等部(専攻科)にお
慮した「指導内容の精選」と「指導の系統性」の
ける進路指導・職業教育プログラム開発.独立
検討が必要である。
行政法人国立特別支援教育総合研究所アンケー
指導方法について,授業実践結果とインタビュー
ト調査報告書(速報版).
より,企業からの情報を活用した今回の指導は,
古賀基樹・菅野敦(2011)知的障害児の職業教育に
自己効力感に働きかける上で概ね適切であった。
関する研究-就労の継続に向けた支援領域の作
このことは,生徒にとって身近なモデルとなる卒
成と卒業生の実態-.東京学芸大学教育実践研
業生の姿を観察する「代理体験」と企業からの活
究支援センター紀要,7,99‐108.
動の評価・アドバイスを受ける「社会的説得」の
要素を取り入れたこと,ビデオ映像や紙面資料が
文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説
高等部総則等編(高等部).
8-1
(発表順とページを挿入すること↑)
学位論文発表会用抄録ひな形
(あける)
高等学校における聴覚障害生徒に対する支援や配慮の現状とその課題に関する調査研究
浪川 元秀
(あける)
Ⅰ 問題と目的
郵送法や手渡し,メールによる質問紙調査を行っ
聴覚障害児は特別支援学校だけではなく,通常
た。調査項目は鈴木・原・岡本(2002)や伊東・四
の小・中学校や大学等の高等教育機関にも数多く
日市(1999)等を参考にし,聴覚障害者 7 名への予
在籍している(文部科学省,2012; 加藤・我妻・藤
備調査を経て作成した。項目は以下の通り。
原,2009; 日本学校保健会,2004; 根本,2006; 日本
1 フェイスシートの項目
学生支援機構,2012)。その中間にあたる高等学校
性別,高校生当時の聴力レベルなど(12 項目)
についても聴覚障害生徒が少なからず在籍してい
2 主に授業における支援や配慮に関する項目
ることが考えられる。
通常学校に在籍する聴覚障害児は,聴覚障害の
程度にかかわらず,
「先生の声が聞こえにくい」と
いった聴覚的な困難をはじめとし,コミュニケー
ションや人間関係において問題が起こりやすい
(日本学校保健会,2004; 佐藤・杉内・齊藤・調
所,2008; 根本・石原・小畑,1995; 四日市,2006)。
それらに対する支援や配慮が,通常学校に在籍す
る聴覚障害児には必要である。
しかし,高等学校における支援や配慮の状況に
ついては,小・中学校や大学等の高等教育機関に
比べ,
調査研究等も少なく不明な点が多い。
今後,
学校側からの支援・配慮など(7 項目)
3 授業外のコミュニケーションに関する項目
会話の理解しやすさの要因など(10 項目)
4
聞こえの状態や聞こえにくさに対する対処
と影響に関する項目
会話中は口元を見るかなど(10 項目)
5 その他の項目 ※自由記述
学校生活上における支援や配慮について
Ⅲ 結果と考察
1 回収数とフェイスシートについて
71 名の回答があり,このうち対象が異なるとみ
られた 1 名を除いた 70 名を有効回答とした。
高等学校における支援や配慮のあり方を考えるた
フェイスシートについて,性別は男が 31 名
めには,まず支援や配慮の実態を明らかにするこ
(44%),女が 38 名(54%),無記入が 1 名(2%)であ
とが求められる。また,学校生活における過ごし
った。性別による回答の違いはあまり見られなか
やすさは,支援や配慮の状況だけでなく,教師や
った。高校生当時の聴力レベルは 70dB 以上(高度
同級生等の関わり方次第によっても変わってくる
難聴)が 41 名(59%),50~69dB(中等度難聴)が 7
と考える。
名(10%),30~49dB(軽度難聴)が 2 名(3%)であっ
そこで本研究では,高等学校における聴覚障害
た。無記入なども多く,結果として,軽度・中等
生徒が有する聞こえやコミュニケーションの問題, 度難聴の回答者が少なかった。このため,聴力レ
およびその学校における支援や配慮の状況やその
ベルによる回答の違いは検討していない。
背景,教師や同級生の関わり方について明らかに
2 主に授業における支援や配慮について
する。それを通して,高等学校における聴覚障害
学校側からの支援や配慮について全体の 7 割強
生徒への支援や配慮のあり方を検討する。
が「支援や配慮あり」と回答した(図 1)。多かった
Ⅱ
支援や配慮は
「試験の別室受験などの特別な措置」
方法
大学に在学する聴覚障害学生で以前,通常の高
等学校(高等専門学校を含む)に在籍したことのあ
る者を対象とし,2012 年 7 月中旬~10 月中旬に
であり,少なかった支援や配慮は「手話通訳者の
派遣」であった。
また,授業中の教師からの支援や配慮は 9 割弱
学位論文発表会用抄録ひな形
が,授業中の同級生からの支援や配慮は 8 割弱が
8-2
(発表順とページを挿入すること↑)
強量が増えるなど,他の聴生徒に比べて負担が重
「あった」と回答した(図 2)。多かった支援や配慮
くなっている可能性もあり,その場合は何らかの
は,教師からは「座席位置の配慮」,同級生からは
支援や配慮があった方がよいと考える。
「ノートを見せてもらった」であった。一方,少
3 授業外のコミュニケーションについて
なかった支援や配慮は,教師からは「個別に指導
「静かな所で話す」など聴覚的な理解がしやす
する時間を作る」
,同級生からは「授業の要点を教
い「良条件場面」と,
「うるさい所で話す」など聴
えてもらった」であった。
覚的な理解がしにくい「悪条件場面」を設定し,
支援や配慮の内容を見てみると,
「座席位置の配
会話の頻度や理解度についてたずねた。その結果,
慮」というような比較的支援や配慮がしやすいも
「悪条件場面」での会話の頻度が高い人が一定数
のは多いのに対し,
「個別に指導する時間を作る」
みられながら(図 4),会話の理解度は「良条件場面」
というような支援や配慮に特別な時間を割く必要
よりも「悪条件場面」の方が 1%水準で有意に低
のあるものは少ない傾向にあることが分かる。
かった(χ2(4)=25.139, p.<01) (図 5)。会話が理解し
支援や配慮を受けたことに対する所感としては
「とてもよかったと思う」(41%)よりも「少しよ
独学など、自力で解決した
かったと思う」(55%)が多かった。支援や配慮を
先生に相談した
受けて良かったとは思う人は多いが,それが十分
同級生に相談した
なものかどうかまでは言い切れない結果となった。
どうすればよいかわからな
かった
支援や配慮の課題としては,支援や配慮を受け
何もしなかった
ていない人も 1~2 割前後みられ(図 2),本来は必
家族やろう学校の先生、聴覚
障害の友人などに相談した
要なのに受けられていない人がいる可能性がある。
困ったことはなかった
また,授業において何らかの困難があった時の
0
対処としては「独学など,自力で解決した」が多
かった(図 3)。実際には英語のリスニングなどを諦
20
40
(人)
60
図 3 授業で何らかの困難があった時の対処
めている人もいて,自力で解決しようとすると勉
良条件場面
学校側からの
支援や配慮
悪条件場面
0%
0%
20%
支援や配慮あり
40%
60%
80%
支援や配慮なし
100%
無記入
N=70
20%
40%
60%
常にあった
よくあった
少しあった
全くなかった
図 1 学校側からの支援や配慮
80%
100%
時々あった
N=69
図 4 場面別の会話の頻度
良条件場面
悪条件場面
教師からの
支援や配慮
0%
20%
40%
60%
80%
同級生からの
支援や配慮
0%
20%
支援や配慮あり
40%
60%
80%
支援や配慮なし
100%
無記入
N=70
図 2 授業中における支援や配慮(教師/同級生)
全て理解
だいたい理解
半分くらい理解
少しだけ理解
全く理解できなかった
N=69
図 5 場面別の会話の理解度
100%
学位論文発表会用抄録ひな形
にくい場面が常にある人が存在し,それに対して
8-3
(発表順とページを挿入すること↑)
慮をしやすくするための有効な手立てとしては,
何らかの支援や配慮が必要だと思われる。
同級生への障害の周知などが考えられる。
会話の理解しやすい相手については,
教師は
「担
今後の課題としては,高校生や軽度・中等度難
任教師」
,
同級生は
「同じ部活動をしている同級生」
聴の聴覚障害生徒を対象とした研究が必要である。
が多く挙げられ,かかわりの頻度が高い人ほど,
文献
会話の理解しやすい人になりやすいと考えられる。 伊東靖雄・四日市章 (1999) 通常の学級における
一方,会話のしにくい条件としては「早口で話す
聴覚障害高校生の学習環境. 聴覚言語障害, 28,
など話し方がわかりにくい」が多かった。
151-162.
4
聞こえの状態や聞こえにくさに対する対処
や影響について
10 項目について 5 件法でたずねた結果,
「よく
加藤哲則・我妻敏博・藤原満 (2009) 地域の小・
中学校に在籍する難聴児の実態と学校健康診断
に関する調査. Audiology Japan, 52, 166-171.
ある」との回答が最も多かったのは,聞こえにく
文部科学省 (2012) 特別支援教育資料(平成 23 年
さに対する対処「会話中は相手の口元を見る」
度)<http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/
(60%)であった。
tokubetu/material/1322973.htm>(2013 年
一方,
「よくある」との回答が最も少なかったの
1 月 29 日).
は聞こえの状態「先生の声が聞こえない」であっ
根本匡文 (2006) 通常の小・中・高等学校におけ
た(6%)。一方で別の選択肢,聞こえの状態「先生
る教育と支援 第 3 節 高等学校. 中野善達・根
の話がわからない」は 25%であり,
「先生の声が
本 匡 文 ( 編 著 ), 聴 覚 障 害 教 育 の 基 本 と 実 際 ,
聞こえない」より多い。このことから,聞こえの
151-157. 田研出版.
状態については,声が聞こえそのものよりも話が
根本匡文・石原保志・小畑修一 (1995) 聴覚障害
わからないという問題の方が多いことが分かる。
学生の心理的発達と経験のかかわり. 筑波技術
5
短期大学テクノレポート, 2, 37-4.
その他(学校生活上の支援や配慮について)
学校生活上の支援や配慮について自由記述を求
日本学校保健会 (2004) 難聴児童生徒へのきこえ
めた。
その結果,
要約筆記などがあればよかった,
の支援. <http://www.gakkohoken.jp/
自分も支援や配慮について考えればよかったとい
modules/books/index.php?fct=photo&p=35>
う記述がみられた。支援や配慮は十分でないとい
(2013 年 1 月 29 日).
う現状があるものの,必要な支援や配慮を考えた
佐藤紀代子・杉内智子・齊藤真衣子・調所廣之
り実際に行ったりすることで,学校生活上の困難
(2008) 聴 覚 障 害 児 の 通 常 学 級 で の 現 状 .
がより改善されると考えられる。
Audiology Japan, 51(5), 593-594.
Ⅳ
まとめ
鈴木恵子・原由紀・岡本牧人 (2002) 難聴者によ
高等学校における支援や配慮については,何ら
る聴覚障害の自己評価―「きこえについての質
かの形で行われることが多かった一方で,支援や
問 紙 の 解 析 」 ― . Audiology Japan, 45(6),
配慮を受けていない人もいた。また,コミュニケ
704-715.
ーション面では早口で話すなど,わかりにくい話
し方をされるといった問題が多くみられた。
これらの問題の背景として,障害に対する理解
不足,支援や配慮の必要性に対する認識不足など
が考えられる。そこで,生徒のニーズに応じて必
要な支援や配慮をすることが今後はますます検討
されなければならないであろう。また,支援や配
四日市章 (2006) 聴覚障害児の言語とコミュニケ
ーションの方法. 中野善達・根本匡文(編著), 聴
覚障害教育の基本と実際, 25-40. 田研出版.
9-1
特別支援学級に在籍する児童を対象とした学校生活の交流場面における
他者とのかかわりを促すための支援方法に関する事例的研究
行方 桃子
Ⅰ 問題と目的
2 月から X 年 12 月の期間、週 2 回の参与観察を
近年、
「中1ギャップ」が問題視されている。そ
行った。その中で、D 児の参加の様子や他児との
の原因の 1 つとして、新しい環境での人間関係形
かかわり、支援者集団の D 児へのかかわりの様子
成や集団への参加が困難であることが挙げられる
を観察・支援を行った。交流場面への参加や観察
(西川・生島,2010)。特に、集団への参加に困難を
場面を、①学校行事②朝の会、全校(児童)朝会③
示したり、他児とかかわりながら協力して活動が
交流学級での授業④休み時間、給食・掃除の 4 場
できなかったりする等の障害特性から困難を示す
面とし、観察・支援内容をエピソード記録として
児童がいる(松岡・納富,2008)。また、知的障害児
まとめた。本研究者(S1)の位置づけとして、D 児
は自信を喪失する経験を普段から多くしており、
と共に交流場面に介入して活動を共にしたり、必
同時に活動参加や他者とのかかわりへの意欲も低
要に応じて他児への働きかけをしたりする等のか
下しがちである。高い意欲をもって活動に取り組
かわりを行う共同活動者であった。D 児が、集団
めることが必要であり、そのために支援者は児童
参加が可能である場面においては、観察者に徹す
の動機づけに働きかける支援が必要である (川
ることとした。
村,2003)。動機づけの中には、内発的動機づけが
3 個別支援における手続き
あり、それを高めるためには、自己決定感、有能
F 大学研究センターにおいて、X-1 年 5 月から
感、
交流感を充足させることが必要である。
また、
月 2 回来所してもらい、約 1 時間のかかわりをも
その中でも交流感の充足が重要とされている(川
った。活動を通して、S1 と D 児の交流感を充足
村,2008)。
することをねらった。毎回の活動をビデオ記録し、
これらの問題を踏まえて、本研究では、特別支
交流感を促すことによる D 児の S1 に対するかか
援学級に在籍する児童を対象に、新しい環境での
わりの変化を分析した。X-1 年 5 月から X 年 1 月
集団参加や人間関係構築が求められる中学校への
までは D 児の傍らで共に活動し、活動の見本とし
移行がスムーズに行われるよう、小学校の交流場
て の 役 割 を 果 た す Sub Teacher as a
面における集団参加や他者とのかかわりを促す支
Cooperator(以下、STc)として、X 年 2 月からは
援方法について動機づけの観点から検討すること
MT(主支援者)としてかかわった。
を目的とする。
4 研究の全体構造
Ⅱ 方法
1 対象児
対象児は、小学校特別支援学級に在籍する 6 年
生(以下,D 児)である。D 児が 8 歳 6 ヶ月に行っ
た S-M 社会生活能力検査の結果から、移動や意志
交換、集団参加は低い傾向にあった。他者とのコ
ミュニケーションを必要とする場面における力の
習得が今後必要になってくることが考えられた。
2 学校における手続き
D 児の在籍する B 市内の小学校において、X 年
本研究は、実態把握期、第 1 期、第 2 期、第 3
期に分かれている。
実態把握期:X-1 年 5 月から X 年 1 月までの個
別支援の場での様子を 11 回。
第 1 期:X 年 2 月から X 年 3 月までの前年度の
様子。学校は 8 回、個別支援は 1 回
第 2 期:X 年 4 月から X 年 7 月までの一学期間
の様子。学校は 14 回、個別支援は 4 回。
第 3 期:X 年 9 月から X 年 12 月までの二学期
間の様子。学校は 17 回、個別支援は 5 回。
9-2
Ⅲ 結果
に行われた教科交流へもスムーズに参加できるこ
1 実態把握期(X-1 年 5 月から X 年 1 月)
とが多かったが、集団参加が困難な時には、S1
この期間、D 児と S1 のかかわりは個別支援の
が活動のモデルを示すことで、活動参加に繋がっ
場だけであった。S1 は、STc として活動した。活
た。また、年度初めての学校行事で、過去には参
動当初、課題解決場面では、MT に促されると S1
加困難であった運動会への参加や、児童朝会では
に「どうする?」と相談する様子が見られた。第
学年を代表して「今、夢中になっていること」を、
6回目以降、文章を書く活動において、最初は文
D 児の得意とする一輪車について発表することも
章を書くことに抵抗を示していたが、作文用紙の
可能であった。
半分まで書き上げ、
「残りは S1 が書いてください。
」
個別支援では、D 児が「STc に一輪車を教える」
と言い、S1 を頼る場面が見られた。また、S1 が
活動を設定して取り組んだ。D 児は STc に言葉や
活動のモデルとしたり、D 児の気持ちを肯定的に
身体表現で教える様子が見られた。学校では、個
受け止めたり、活動を行う上で困難が生じた場合
別支援での活動を振り返る発言も聞かれた。
には相談し合ったりすることを繰り返すことで、
4 第 3 期の観察記録(X 年 9 月から X 年 12 月)
徐々に交流感が充足された。
2 第 1 期の観察記録(X 年 2 月から X 年 3 月)
級友の声掛けがなくても朝の会に参加ができる
ことが多く、
また、
多くの学校行事が行われたが、
D 児は、登校の段階から他児と集団登校するこ
過去に参加することが困難であった行事にも参加
とが困難であり、遅刻して学校に登校してくるこ
が可能であった。交流授業への参加は第 2 期より
とが多く見られた。そのため、交流学級での朝の
もスムーズに行われていた。しかし、D 児は活動
活動・朝の会や全校朝会が既に始まっており、途
への見通しがもてないと不安になるため、特別支
中から活動に入ることができないでいた。また、
援学級担任は、体育や音楽の教科交流の移動教室
S1 と一緒に朝の会に参加しても、途中で泣き出し、 の前には、授業内容を伝えると共に、
「今日は、参
活動の途中で教室から出て行ってしまうこともあ
加できそうですか?みんなと一緒に活動に参加で
った。気持ちの切り換えが困難であり、給食時間
きないときは、この前みたいにボール拾いや得点
まで教室に戻って来られないこともあった。その
係をすればいいからね」というように、D 児の参
ため、個別の学習場面にも支障をきたしていた。
加への意欲を確認しながら参加できないときの代
また、教科交流に対しても、D 児から「行きたく
替活動を提示していた。他児と同じように活動に
ないな」という消極的な発言が聞かれることが多
参加できないときには、特別支援学級の担任が提
かった。
示した活動に取り組み、集団から離れずに活動に
個別支援では、S1 が MT(主支援者)として活動
参加することができた。また、休み時間では、D
を進行した。S1 が MT であることに驚きを示し
児が得意とする一輪車遊びを通して下学年の F 児
たが、D 児の S1 に対するかかわりは安定して第 1
とのかかわりが生まれた。最初は、S1 が F 児を
期と同様であった。S1 に対して、学校での出来事
誘ったことがきっかけで活動が展開された。徐々
を積極的に話す姿が見られた。
に、D 児から、「今日も F ちゃんは一緒に遊んで
3 第 2 期の観察記録(X 年 4 月から X 年 7 月)
くれるかな?」という発言が聞かれた。最終的に
交流学級の級友の声掛けがきっかけとなり、朝
は、D 児自ら F 児を誘うことができていた。
また、
の会や朝の活動への参加が定着してきたが、D 児
活動中には、
「次は、○○ちゃんや○○ちゃんも一
が教室に入ることをためらっている時には、S1
緒にやってくれるかな?」という発言も聞かれた。
がさりげなく先に教室に入るなどのモデルを示す
個別支援の場でも、継続して「STc に一輪車を
ことで、スムーズに教室に入り、活動参加ができ
教える」活動を行った。活動を通して、D 児が支
ていた。朝の会への参加が可能であると、その日
援者を気に掛ける発言や行動が増えた。また、同
9-3
時に、他者を意識できるように、ルールのある一
場面への参加を促すことが有効であると考えられ
輪車ゲームを設定したことにより、順番を意識し
た。朝の会などの日常交流は、毎日同じメンバー
たり、応援したりする姿が見られた。
で、同じ流れで活動が進行されるため、活動への
Ⅳ 考察
見通しがもちにくい D 児にとっても活動への見
1 動機づけを高めるための支援
通しがもちやすく、負担の少ない活動であったと
個別支援の場で交流感を充足させた支援者が学
考えられる。最初は、級友からの声掛けで、朝の
校に存在することで、S1 との交流感を基盤として、 会に参加していたが、参加回数を重ねるごとで交
集団への参加や他者とのかかわりを促すことがで
流感が育まれ、誘いがなくても参加が可能になっ
きたと推測される。交流感を充足するために、個
た。日常交流への集団参加の積み重ねが自信とな
別支援の場では、D 児の気持ちを肯定的に受け止
り、集団規模の大きい行事交流への参加へと繋が
めたり、活動を行う上で困難が生じた場合には相
ったと推測された。また、朝の会への参加が可能
談し合い、解決させたりするかかわりが必要であ
であった日には、その日に行われた教科交流にも
った。また、個別支援の場に限らず、学校でも共
スムーズに参加できる場面が多かったことから、
同活動者として同様の働きかけを行った。このよ
1 日の学校生活のスタートである朝の会への参加
うに、交流感を充足させた共同活動者である S1
は、D 児にとっては重要な位置づけであったと言
が近くに存在したため、参加困難な場面への参加
える。
にもつながった。
集団場面への参加が可能になり、
また、体育や音楽などの教科交流への参加を促
D 児の交流感や有能感が少しずつ充足され、今ま
す際には、他の児童と同じ活動を行えないことを
で参加できなかった場面への参加や、他者から注
想定して事前に、代替となる活動を特別支援学級
目を受ける場面での活動に取り組むきっかけとな
担任が提示することで、D 児の活動参加を促して
った。
いることが多かった。D 児の自己決定感に働きか
また、学校の休み時間での一輪車遊びでは、最
ける特別支援学級担任の声掛けが有効であった。
初は S1 が F 児を誘い、活動が展開されていた。
そのため、自分ができる範囲の中で活動を行うこ
D 児は、活動を通して F 児との交流感を充足させ、
とで有能感の充足、集団から離れずに活動を行え
D 児自ら F 児を誘うことに繋がった。S1 は、D
たことで同時に交流感を充足させ、動機づけを高
児との交流感を充足させるだけではなく、普段の
めることに繋がったと推測された。
学校生活の中で F 児との間にも交流感を充足させ、 Ⅴ
今後の課題
D 児と F 児との架け橋となる役割が重要であった
今回は、交流感と有能感の相互の関連により、
と言える。また、一輪車は、D 児の得意とする遊
集団参加への動機づけが高まった場面が多く見ら
びであるため、F 児とのかかわりは交流感だけで
れた。しかし、自己決定感の側面からも、有能感
はなく、有能感も充足させ、動機づけを高めるこ
や交流感との関連を考え、更なる支援方法を検討
とに繋がったと考えられた。
する必要がある。
2 集団への参加を促すための特別支援学級担任
文献
の働きかけと配慮点
川村秀忠(2003)学習障害児の内発的動機づけを支援するために求められる教師や保護者の基本姿勢-.LD 研究,12,288-297.
川村秀忠(2008)係わり合いの中で学習意欲を高める.教育と医
学,56(6),523-528.
松岡恭平・納富恵子(2008)小学校体育科における自閉症児に対す
る支援-特殊学級での個別支援のあり方の検討-.福岡教育大学
障害児治療教育センター年報,21,37-46.
西川絹恵・生島博之(2010)小学校から中学校への変換期を支える
特別支援に関する実践血球-広汎性発達障害児に対するスクー
ルカウンセラーに関わりを中心に-.愛知教育大学教育実践総合
センター紀要,13,225-231.
第 2 期では、級友の声かけをきっかけに、朝の
会に参加することが定着し始め、過去に参加する
ことのできなかった学校行事の参加と繋がった。
交流場面への参加を促す際には、朝の会や朝の
活動といった集団規模の小さい日常交流から、集
団規模の大きい学校行事へと、段階を踏んだ交流
10-1
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
(あける)
小学校・中学校・高等学校における特別支援教育コーディネーターの
研修需要に関する調査研究
花野 悠
(あける)
Ⅰ 問題
本調査の前に調査可否を問うため、はがきを校
各学校において特別支援教育を推進するために
長宛に郵送し、協力可能だった学校に再度質問紙
中核を担う役割として特別支援教育コーディネー
を郵送した。本調査は 2012 年6月下旬~8月下
ターが配置されており、文部科学省(2011)の調
旬に行った。
査では、特別支援教育コーディネーターの指名状
3 調査項目
況は、公立小・中・高等学校で 99%であることが
報告されている。
先行研究(徳永,2003;河合,2004;柳本・小
柘植ら(2007)及び安藤・坂本(2010)を参考
に質問紙を作成した。
質問項目は①学校の概要、②回答者のプロフィ
畑,2005;八木,2006)から、特別支援教育コーデ
ール、③回答者が特別支援教育コーディネーター
ィネーターの資質・役割が多岐にわたっているこ
として行っている活動、④特別支援教育コーディ
とが明らかとなっており、特別支援教育コーディ
ネーター養成研修の参加状況、⑤特別支援教育コ
ネーターには様々な知識や技能などの専門性が必
ーディネーター養成研修の内容と形態、⑥特別支
要となることが考えられる。
援教育コーディネーター養成研修の研修需要
(「A
専門性を身に付けるため、安藤(2009)は、教
特別支援教育全般に関する知識」
「B外部との連携
員の専門性に基づく役割の遂行と研修の重要性を
に関する知識」
「C具体的な指導に関する知識」
「D
示しており、花熊(2007)は、特別支援教育コー
校内体制に関すること」
「E発達障害のある児童・
ディネーターの養成研修が急務であることを述べ
生徒について」
)
、とした。
ている。これより特別支援教育コーディネーター
Ⅳ 結果及び考察
の専門性を高める上で養成研修には重要な意味が
1 回収率
調査可否の結果、900 校のうち 213 校から調査
あると考えられる。
しかし学校種ごとで特別支援教育の現状や課題
可能の回答が得られ、後日質問紙を郵送したとこ
が違うため、特別支援教育コーディネーターの役
ろ 165 名(小学校 70 名・中学校 46 名・高等学校
割や資質が異なることが考えられ、学校種に合わ
49 名)の特別支援教育コーディネーターから回答
せた養成研修を行うことが必要である。
を得た(回収率 77.5%)
。
Ⅱ
2
目的
小学校・中学校・高等学校における特別支援教
特別支援教育コーディネーター養成研修の
参加状況
育コーディネーターの研修需要を明らかにし、学
過去 1 年間に参加した研修の総時間数は、小学
校種に応じた養成研修の在り方について検討する
校では「5~10 時間未満」
「10~20 時間未満」の
ことを目的とした。
順で高く、中学校では「10~20 時間未満」
「5~
Ⅲ
方法
10 時間未満」
、高等学校では「20~50 時間未満」
1
対象
「10~20 時間未満」の順で高い結果であった。特
東京都・神奈川県・千葉県の公立小学校・中学
校・高等学校 900 校(各校種 300 校)の特別支援
教育コーディネーターとした。
2
調査方法及び期間
に高等学校は「20~50 時間未満」が小学校や中学
校よりも高いことが明らかとなった(図1)
。
実習・演習の時間数については、全ての学校種
で「1~5時間未満」が高い結果であり、0時間
10-2
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
(受けていない者)が、小学校で 19.4%、中学校
集団活動の指導方法(68.6%)において高い研修需
で 13.6%、高等学校で 27.3%と多く見られた(図2)
。 要がみられた。
3
特別支援教育コーディネーター養成研修の
内容と形態
2)中学校の場合
中学校では、担任への支援方法(73.9%)
、特別
「保護者相談・連携の在り方」
「校内支援体制の
支援教育コーディネーターの役割・活動内容につ
構築」
「発達障害の理解や指導」
「様々な障害に関
いての知識理解(73.9%)
、発達障害のある児童・
する理解や指導」
「特別支援教育の理念や基本的な
生徒の行動面の対応方法(71.7%)
、児童・生徒に
考え」
「特別支援教育コーディネーターの役割」の
対する生活面での指導法の知識(69.6%)
、発達障
項目で講演・講義を望む声が多かった。これらに
害のある児童・生徒を含む集団活動の指導方法
関しては基本的な知識の理解を中心とする内容で
(69.6%)において高い研修需要がみられた。
あることより、講演・講義を望む回答が多かった
3)高等学校の場合
ことが考えられる。
高等学校では、発達障害のある児童・生徒の行
また「個別の教育支援計画の作成」
「個別の指導
動面の対応方法(87.8%)
、担任への支援方法
計画の作成」
「心理検査の方法や結果の解釈」の項
(71.4%)
、学習支援の方法(69.4%)
、不登校児童・
目は実習・演習を求める声が多かった。これらは
生徒への対応(67.3%)
、特別支援教育コーディネ
実際に作成、実施するものであることから、具体
ーターの役割・活動内容についての知識理解
的かつ直接的な研修方法を望んでいることが考え
(65.3%)において高い研修需要がみられた。
られる。
5 学校種に共通した研修需要と学校種で異な
そして自由記述では、事例報告、事例紹介、事
例検討など現場で行われていることを知りたいと
っている研修需要
1)学校種に共通した研修需要
いう意見や、パネルディスカッション、施設見学
全ての学校種に共通して求められる研修需要は
が求められていた。柳本・小畑(2005)は、実習・
「①特別支援教育コーディネーターの役割・活動
演習などの形態が少なく、質的な改善の必要性を
内容についての知識理解」
「②教職員への特別支援
指摘しており、これより今後は実践的な指導力を
教育の理解・啓発」
「③担任への支援方法」
「④保
向上させるためにも、講演・講義以外の形態を充
護者支援の方法」
「⑤福祉機関との連携方法」
「⑥
実させていくことが求められる。
発達障害のある児童・生徒の行動面の対応方法」
4
「⑦学習支援の方法」があげられた。
特別支援教育コーディネーター養成研修の
研修需要について
①②③④は特別支援教育コーディネーターとし
1)小学校の場合
ての基本的な知識や、行うべき役割であることか
小学校では、学習支援の方法(82.9%)
、担任へ
ら研修需要が高くなったと考えられる。
の支援方法(80.0%)
、発達障害のある児童・生徒
⑤は児童虐待の深刻化・少年犯罪の低年齢化・
の行動面の対応方法(75.7%)
、福祉機関との連携
ネット犯罪の急増など社会全体の環境が変化して
方法(68.6%)
、発達障害のある児童・生徒を含む
きたことで、福祉機関との連携が強まり、研修需
3.0
13.6
30.3
28.8
18.2
3.2
6.1
小学校
8.1 16.1
53.2
19.4
小学校
6.8
36.4
20.5
31.8
4.5
中学校
2.3 2.3 6.8
13.6
70.5
4.5
中学校
42.2
22.2
13.3
15.6
6.7
2.3 9.1
高等学校
27.3
34.1
27.3
高等学校
0%
10%
20%
30%
40%
50%
50~100時間未満
20~50時間未満
1~5時間未満
0時間(過去1年なし) 未回答
図1
60%
70%
10~20時間未満
研修の総時間数
80%
90%
5~10時間未満
100%
0%
10%
20~30時間未満
20%
30%
40%
10~20時間未満
図2
50%
5~10時間未満
60%
70%
1~5時間未満
実習・演習の時間数
80%
0時間
90%
未回答
100%
10-3
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
要が高くなったと考えられる。
小学校や中学校と比べて不登校生徒やうつ病・統
⑥は発達障害のある児童生徒の支援をする際に、 合失調症の生徒が多く在籍していることから、他
特に行動面の支援で多くの教師が悩んでいる現状
校種と比べ、これらに関する研修需要が高くなっ
であることが示唆される結果となった。
たと考えられる。
⑦は担任や保護者を支援する際に、特別支援教
また小学校・中学校と高等学校で異なっている
育コーディネーターとして持つべき知識であるこ
研修需要として、
「①児童・生徒に対応する生活面
とから研修需要が高くなったことが考えられる。
での指導法の知識」
「②発達障害のある児童・生徒
2)学校種で異なっている研修需要(図3)
を含む集団活動の指導方法」があげられた。生活
小学校で他校種と比べて高かった研修需要とし
面や集団行動の指導は在籍している子どもの年齢
て、
「①実態把握(検査方法含む)の方法」
「②校
が低い学校ほど多く行われることから、小学校と
内関係者との連絡調整」があげられた。実態把握
中学校で研修需要が高くなったと考えられる。
については、小学校では中学校や高等学校より多
さらに小学校・高等学校と中学校と異なってい
く行われていることから、他校種よりも高い研修
る研修需要として、
「専門家チームとの連携方法」
需要になったと考えられる。
があげられた。本調査では高等学校は専門家など
中学校で他校種と比べて高かった研修需要とし
と連携していないという回答が 4 割であった。し
て、
「①保護者との連携方法」
「②校内委員会の企
かし専門家チームの研修需要は高いことから、専
画・運営」があげられた。学校種に共通した研修
門家チームを必要としている現状であることが伺
需要の「保護者支援の方法」でも、中学校は他校
える結果となった。
種に比べて研修を求めており、中学校では保護者
Ⅴ まとめ
との連携に関する研修を他校種よりも高く求めて
いることが示唆される。
本研究より学校種に共通する研修需要と異なる
研修需要があることが明らかとなった。
高等学校で他校種と比べて高かった研修需要と
共通する研修需要に関しては、学校種を超えて
して、
「①障害に関する医学的・心理学的・社会学
特別支援教育コーディネーターが必要としている
的な基礎知識」
「②カウンセリングに関する方法」
資質・能力、役割であるため、効率良く、かつ効
「③不登校児童・生徒への対応方法」
「④うつ病・
果的な研修を学校種に共通して企画・立案して実
統合失調症のある児童・生徒への対応方法」
「⑤発
施することが望まれる。
達障害のある児童・生徒に対する話し方・発問の
また異なっている研修需要に関しては、今後の
仕方に関する方法」
があげられた。
高等学校では、
養成研修は研修需要をもとに、より具体的な内容
や方法について学校種ごとに検討していくことが
100%
求められる。
50%
0%
A3
A4
A5
B1
B3
小学校
C1
中学校
C6
C7
D1
D5
E2
E6
高等学校
A3
A4
A5
B1
B3
C1
C6
C7
D1
D5
E2
実態把握(検査方法含む)の知識
障害に関する医学的・心理学的・社会学的な基礎知識
カウンセリングに関する知識
保護者との連携方法
専門家チームとの連携方法
児童・生徒に対する生活面での指導法の知識
不登校児童・生徒への対応方法
うつ病・統合失調症のある児童生徒への対応方法
校内関係者との連絡調整
校内委員会の企画・運営
発達障害のある児童・生徒に対する話し方・発問の仕方に関
する方法
E6 発達障害のある児童・生徒を含む集団行動の指導方法
図 3 学校種ごとで異なった研修需要
文献
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教育学.明石書店,338-341.
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校・中学校の特別支援教育コーディネーターの特別支援教育推
進のための連携に関する意識の相違についての調査研究.発達
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ーディネーターを養成する立場から-.特別支援教育コーディ
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と医学,52(12),32-39.
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徳永 豊(2003)特別支援教育コーディネーターって何?.月刊
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八木成和(2006)特別支援教育における今後の課題.四天王子国
際仏教大学紀要,43,189-201.
柳本雄次・小畑文也(2005)第三節 特別支援教育コーディネー
ターの養成研修と資格化.日本特殊教育学会免許問題等研究委
員会(第二期),免許問題等研究委員会報告(Ⅲ)―特別支援
教育教員の専門性の確保・向上についての研究―.特殊教育学
研究,43(3),246-249.
11-1
生活単元学習の指導における指導計画作成・活用の実態とその関連要因
正木 真弓
Ⅰ
問題
3 各教科等の指導計画作成・活用に関する校内
知的障害教育においては、各教科等を合わせた
指導という独自の指導方法が多くの学校で実践さ
体制の実態
4
教師の生活単元学習の指導に対する意識及び
れてきており、その中でも生活単元学習は代表的
指導計画作成・活用に関する校内体制が生活
な形態の一つとして行われてきている。児童生徒
単元学習の年間指導計画作成・活用の実態に
の重度・重複化や多様化、個別の指導計画の作成
及ぼす影響
により個々のニーズに応じた指導の具体化が求め
Ⅲ
られるなど、特別支援教育を取り巻く環境が変化
1 調査方法・時期
している中で、
各教科等を合わせた指導において、
方法
郵送による質問紙調査を 2012 年 7 月下旬から
授業の改善や学部間の系統性の確保についての課
8 月中旬に実施した。
題意識を教師が持っている(木村,2009)との指
2 対象
全国の知的障害特別支援学校の Web サイト上
摘がある。
また一方で、大西(2012)は、学級や課題別の
で、教育課程に生活単元学習実施と表記があった
小グループ又は学部単位の大きな集団の指導にお
学校から抽出した 264 校のうち、調査協力可能と
いても個別の指導計画に基づき、幼児児童生徒の
の回答のあった 152 校。教務主任 144 名、小学部
実態に応じた指導が行われることの必要性を指摘
主事・中学部主事各 125 名の計 394 名。
しており、川間(2008)は、各教科等を合わせた
Ⅳ
結果
指導について、グループごとで設定する単元と個
生活単元学習の指導に対する教師の意識及び年
別の指導計画が関連していないことが多いと指摘
間指導計画作成・活用の実態について、5 段階の尺
している。各授業場面での個別の指導計画の活用
度で測定し、得点化して因子分析を行った。教師
については未だ課題も多く残されていると言える。 の意識は、因子Ⅰ「生活単元学習の指導及び年間指
そこで、知的障害特別支援学校では、指導計画
導計画活用に対する困難さ」、因子Ⅱ「各教科等の
がどのような手続きで作成され、実践及び、評価・
既習の内容及び個々のニーズに基づいた単元設
改善が行われているのか実態を調査し、教師の生
定」、因子Ⅲ「生活単元学習の年間指導計画作成・
活単元学習に対する意識がどのように影響を及ぼ
活用による個々の課題や支援方法の明確化」、因子
しているか、また、指導計画作成に関連する校内
Ⅳ「恒例の単元を行うことの有用感」の 4 因子が抽
の体制が指導計画の作成・活用にどのように影響
出された。
を及ぼしているのかを中心に明らかにしたいと考
また、年間指導計画作成・活用の実態は、因子
えた。
Ⅰ「個々の実態や目標・評価を基にした年間指導計
Ⅱ
画の作成・活用」、因子Ⅱ「具体的な手続きを用い
目的
本研究では、特別支援学校で行う生活単元学習
た年間指導計画の活用」、因子Ⅲ「各教科等の目
の指導計画作成・活用について検討を行うため以
標・内容に基づく単元や目標の設定」、因子Ⅳ「前
下の点を明らかにする。
年度の単元を踏襲した年間指導計画の作成」の 4 因
1 生活単元学習の年間指導計画作成・活用の実
子が抽出された。教師の意識を独立変数、指導計
態
2 教師の生活単元学習の指導に対する意識
画作成・活用の実態を従属変数として重回帰分析
を行った(表 1)
。「個々の実態や目標・評価を基に
11-2
した年間指導計画の作成・活用」に対して、「生活
制を独立変数、生活単元学習の年間指導計画作
単元学習の指導及び年間指導計画活用に対する困
成・活用の実態を従属変数として、分散分析を行
難さ」、「各教科等の既習の内容及び個々のニーズ
った(表 2)。その結果、「個別の指導計画の意義及
に基づいた単元設定」、「生活単元学習の年間指導
び作成」と「実態把握」についての研修「あり」群が、
計画作成・活用による個々の課題や支援方法の明
「なし」群よりも、「各教科等の目標・内容に基づく
確化」が有意に正の影響を、「恒例の単元を行うこ
単元や目標の設定」を行っているとの結果が得ら
との有用感」が有意に負の影響を及ぼしていた。
れた。また「学習指導要領」についての研修「あり」
「具体的な手続きを用いた年間指導計画の活用」に
群が、「なし」群よりも「個々の実態や目標・評価を
対しては、「恒例の単元を行うことの有用感」が有
基にした年間指導計画の作成・活用」を行っている
意に正の影響を及ぼしていた。「各教科等の目標・
との結果が得られた。各教科等を合わせた指導の
内容に基づく単元や目標の設定」に対して、「生活
年間指導計画を作成するための、関連する領域・
単元学習の指導及び年間指導計画活用に対する困
教科の話し合いの有無について、話し合い「あり」
難さ」、「恒例の単元を行うことの有用感」が有意に
群が「なし」群よりも、「各教科等の目標・内容に基
正の影響を、「生活単元学習の年間指導計画作成・
づく単元や目標の設定」及び「前年度の単元を踏襲
活用による個々の課題や支援方法の明確化」が有
した年間指導計画の作成」を行っているとの結果
意に負の影響を及ぼしていた。「前年度の単元を踏
が得られた。各教科等を合わせた指導の年間指導
襲した年間指導計画の作成」に対しては、「各教科
計画の書式に、関連する領域・教科の学習内容や
等の既習の内容及び個々のニーズに基づいた単元
指導目標に関して記載する項目の有無について、
設定」が有意に正の影響を、「生活単元学習の年間
「あり」群が「なし」群よりも、「各教科等の目標・内
指導計画作成・活用による個々の課題や支援方法
容に基づく単元や目標の設定」を行っているとの
の明確化」が有意に負の影響を及ぼしていた。
結果が得られた。授業や単元について各教科等の
各教科等の指導計画作成・活用に関する校内体
年間指導計画を基に評価を行う機会の有無につい
11-3
表 2 各教科等の指導計画作成・活用に関する校内体制と生活単元学習の指導計画作成・活用の実態の関係
(一元配置:対応なし)
て、「なし」群が「あり」群よりも、
「個々の実態や
が明確に単元設定に結びついていないことが推察
目標・評価を基にした年間指導計画の作成・活用」
される結果となった。このことは、単元の目標設
を行っているとの結果が得られた。各教科等の年
定のプロセスと個別の指導計画が関連していない
間指導計画について、取り組みの成果を測るため
ことが多いとする川間(2008)の指摘と一致する。
の評価基準やマニュアルの有無について、「なし」
群が「あり」群よりも「前年度の単元を踏襲した年
また、前年度の単元や学習内容は資料としての位
置づけが大きいことも改めて明らかとなり、個々
間指導計画の作成」を行っているとの結果が得ら
れた。各教科等の年間指導計画の作成手続きや書
のニーズや各領域・教科との関連を網羅しつつ、
どれだけ設定内容の妥当性や具体性を高めていけ
式について定期的に検討する機会の有無につい
て、機会が「なし」群が「あり」群よりも「個々の実
るかが重要であると考えられる。そのためには、
指導計画作成・活用にあたっての具体的な手続き
態や目標・評価を基にした年間指導計画の作成・
について、検討機会の設定、書式の検討などを含
活用」を行っているとの結果が得られた。
め、校内体制として取り組むことにより教師間で
Ⅴ
の共通理解を図っていくことが求められる。
考察
今回の結果から、単元設定への個々のニーズの
文献
反映や、年間指導計画を個々に対する明確な支援
につなげようとの意識が、個々のニーズを踏まえ
木村宣孝(2009)新学習指導要領を踏まえた「合わせた
た年間指導計画の作成・活用の実態に影響を及ぼ
していることが明らかとなった。しかし一方で、
大西孝志(2012)個別の指導計画の作成による一人一人
個々の指導目標に対する評価と、授業の計画の基
となる年間指導計画の評価とが必ずしも一体のも
川間健之介(2008)領域・教科を合わせた指導の考え方
のとなっていないことや、個々の各教科等の目標
指導」のよさ,特別支援教育研究,618,2-5.
に応じた指導,特別支援教育,43,20-23.
とその課題,肢体不自由教育,185,4-9.
12-1
聴覚特別支援学校における情報保障の観点から見た
避難訓練の現状と課題に関する調査研究
森本 悠希
Ⅰ
問題
現在の日本では、立て続けに地震等の自然災害
2
東日本大震災前後での避難訓練や情報保障に
関する取り組みの変化について考察する。
が発生し、
実効性の高い防災が求められており
(村
Ⅲ
山,2009)
、東日本大震災を受け、学校における防
1
災教育等の諸課題についての解決が急がれている
方法
調査対象
全国の聴覚特別支援学校(分校を含む 106 校)で、
(東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に
避難訓練を担当している教員
関する有識者会議,2011)
。
2
防災教育の内容の一つである避難訓練について、
大阪市教育委員会(2007)は、災害時に安全に避
調査方法
郵送法による質問紙調査
3
調査期間
難できる態度や能力を体得し、防災教育の指導内
容について実践的に理解を深める場として極めて
2012 年 2 月~3 月
4
有効であると述べている。
田中(1995)によると、一般に、障害者は異常
調査項目
安東ら(2001)、村山(2009)
、森本(2011)を
参考に作成した。内容は、以下の通りである。
覚知が遅れがちとなるが、特に、聴覚障害者の場
1)学校の概要(5 項目)
合には遅れる危険性が高いと述べている。また、
2)避難訓練について(9 項目)
異常や緊急を伝える情報は基本的に音声であり、
3)情報保障について(4 項目)
入手には困難が伴うとし、情報の補完が必要であ
4)東日本大震災前後の避難訓練や情報保障に対す
ると示していることから、聴覚特別支援学校で避
る取り組みの変化(3 項目)
難訓練を行う際には、情報保障に配慮して行うこ
Ⅳ
結果
とで、より実践的な訓練となるようにすることが
1
回収率
必要である。
しかし、
聴覚特別支援学校における避難訓練や、
避難訓練での情報保障についての現状と課題につ
いての先行研究はあまり見られないことから、こ
調査対象とした 106 校中、66 校(62.3%)を有
効回答とし、分析の対象とした。
2
調査結果
調査結果を以下に示す。表 6 以外は全て複数回
れらを明らかにすることは意義あることと考える。 答の質問項目である。
また、東日本大震災を受け、避難訓練や情報保
避難訓練の計画は、複数の教員で作成していた
障にどのような取り組みの変化があったのか明ら
り(86.4%)
、消防署等の他の機関(54.5%)と連携
かにすることは、震災の教訓を踏まえ、実際の災
して作成していた(表 1)
。避難訓練で想定する災
害時に活かすことのできる実践的な避難訓練を考
害は火災(95.5%)が最も多く、その他様々な災害
察していく上で重要であると考える。
を各学校で想定して行っていた(表 2)。内容は、
Ⅱ
避難誘導(98.5%)の他、様々なものを扱う学校が
1
目的
聴覚特別支援学校における避難訓練での情報
見られた(表 3)
。避難訓練の課題は、教員がいな
保障に関する設備の設置状況や活用の実態につい
い場合を想定した訓練(47.0%)
、適切な教材がな
て明らかにし、避難訓練における情報保障のあり
いこと(24.2%)や、避難訓練における情報保障の
かたについて考察する。
方法が確立していないこと(22.7%)などが見られ
12-2
表 1 避難計画の作成方法
作成の方法
(n=66)
回答数
表 4 避難訓練の課題
(n=66)
割合(%)
課題
回答数
割合(%)
31
47.0
避難訓練担当の複数の教員で計画
57
86.4
教員がいない場合を想定した訓練が
難しい
他の機関と連携して計画
36
54.5
適切な教材がない
16
24.2
教員全体で検討
30
45.5
情報保障が確立していない
15
22.7
学部ごとに検討
6
9.1
教職員間の共通理解ができていない
13
19.7
避難訓練担当の 1 名の教員で計画
4
6.1
教職員の研修が少ない
9
13.6
その他
5
7.6
避難訓練の時間を十分に取れない
6
9.0
指導方法がよく分からない
4
6.1
地域から協力を得るのが難しい
4
6.1
特に問題はない
15
22.7
6
27.3
表 2 避難訓練で想定する災害
災害名
(n=66)
回答数
割合(%)
火災
63
95.5
地震
61
92.4
不審者侵入
41
61.2
津波
15
22.7
その他
10
15.2
表 3 避難訓練の内容
内容
6 その他
表 5 避難訓練で最初に伝える内容
内容
(n=66)
回答数
(n=66)
割合(%)
災害の内容
63
95.5
災害が発生した場所
47
71.2
避難の方法
40
60.6
1
1.5
回答数
割合(%)
避難誘導
65
98.5
消防署や警察署、地域との連携
57
86.4
初期消火
50
75.8
災害についての外部の人の講話
41
62.1
災害に関する情報伝達
33
50.0
地震体験車体験
23
34.8
スモークハウス体験
22
33.3
保護者への引き渡し訓練
12
18.2
どの緊急時専用のものと、パトライト(78.8%)な
応急処置の技能
10
15.2
どの学校生活でも使用する機器を用いていた(表
その他
15
22.7
7 )。課題としては、全員に伝わる方法の配慮
6 その他
表 6 避難訓練時に用いるコミュニケーション手段
(n=63)
手段
回答数
割合(%)
普段の手段のみ
53
84.1
普段の手段+他の手段
10
15.9
(60.0%)、電源が確保できない場合の情報保障
た(表 4)
。
避難訓練で最初に伝える情報の内容は、地震や
(45.0%)などがあった(表 8)
。
東日本大震災前後で取り組みの変化については、
火事などの災害の内容に関する情報をほとんどの
避難訓練の内容では、マニュアル・計画・内容の
学校で伝えていた。災害の発生した場所や避難の
項目でいずれも何らかの変化のあった学校の割合
方法も伝える学校や、災害の内容のみを伝えるな
が高くなっており、変化のなかった学校は約 30%
ど、学校によって違いが見られた(表 5)
。避難訓
であった。一方、情報保障に関する取り組みは、
練時のコミュニケーション手段は、普段用いる手
変化のない学校が最も多く、約 60%を占めていた。
段に加え、絵カードなどの視覚的に分かりやすい
機器の導入を行ったり、情報保障の方法を変える
手段を加えている学校(15.9%)もあった(表 6)
。
などの変化のあった学校は約 20%と少数であった。
機器の活用については、火災警報装置(83.3%)な
12-3
情報保障ができないことを避難訓練で想定して、
表 7 避難訓練で使用している情報保障機器
(n=66)
機器
回答数
割合(%)
様々な条件下での避難訓練と情報保障を行うこと
で、実際の災害時に対応できるようにしていくこ
火災警報装置
55
83.3
とも求められる。
パトライト
52
78.8
3
スピーカー
48
72.7
マニュアルや計画、内容については、津波の対
非常灯
21
31.8
策や避難方法の変更など、様々な取り組みの変化
集団補聴システム
13
19.7
が多く見られたが、情報保障については変化のあ
ディスプレイ
10
15.2
った学校が少なかった。現在でも機器の導入が十
メール配信
9
13.6
分になされている為、変化がなかった学校や、機
電光掲示板
7
10.6
器を導入したいがすぐにはできなかった学校など、
テレビ
7
10.6
様々な要因で情報保障についての変化の割合が低
その他
19
28.8
くなったと考えられる。
東日本大震災前後での取り組みの変化
文献
表 8 避難訓練における情報保障の課題
課題
回答数
(n=60)
割合(%)
安東孝治・渡辺隆・清水豊・松井智・須藤正彦・
志水康雄・大沼直紀・平根孝光・荒木勉(2001)
全員に伝わる方法の配慮
36
60.0
聾学校の緊急時における情報保障について.筑
実際の災害発生時の想定
30
50.0
波技術短期大学テクノレポート,8(1)
,9-14.
電源が確保できず機器が使用
できない場合の情報保障
27
45.0
その他
10
16.7
東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関
する有識者会議(2011)
「東日本大震災を受けた
防災教育・防災管理等に関する有識者会議」中
Ⅴ
1
考察
聴覚特別支援学校における避難訓練の現状
各学校で、様々な災害・内容を取り入れた訓練
が行われているが、今後は更に、可能な限り多様
な状況を想定した訓練を行うことが課題として挙
げられる。登下校時や休み時間など、教員がいな
い場合でも避難ができるような訓練を取り入れる
ことや、消防署等の機関と連携した取り組みによ
って、
より実践的な訓練とすることが求められる。
また、聴覚障害児に適した教材や、教員の研修、
教員間や外部との連携の更なる強化も課題である。
2
避難訓練における情報保障
聴覚障害児、聴覚障害教員、重複障害児、他の
障害部門の子どもが一斉に参加する訓練であるた
め、様々なコミュニケーション手段のニーズ、年
齢を考慮し、全員に分かるような方法で情報保障
を行うことが課題である。
また、停電や機器の故障など、機器を活用した
間とりまとめ.初等教育資料 (880), 140-148.
森本明(2011)緊急災害時における情報伝達手段
保障支援の状況分析.福島大学東日本大震災総
合支援プロジェクト 報告書.
村山良之(2009)山形県の学校における防災教育
の実態と課題.山形大学教職・教育実践研究.4,
83-92.
大阪市教育委員会(2007)子どもの安全を守るた
めの防災指導の手引き 平成 19 年度改訂版.
田中淳(1995)阪神・淡路大震災と身体障害者:
聴覚障害者を中心として.地域安全学会論文報
告集,
(5)
,123-128.
13-1
小学校特別支援学級の交流及び共同学習における指導計画の作成・活用について
山本 喜和子
Ⅰ
問題
業計画(授業案)作成の実態を明らかにし、障害の
2004 年 6 月に一部改正された障害者基本法の
ある児童一人一人のニーズに応じた、交流及び共
第 14 条において「障害のある児童及び生徒と障
同学習推進に向けての指導計画の作成とその活用
害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積
について検討する。
極的に進めることによって、その相互理解を促進
Ⅲ 研究Ⅰ
すること」が規定された。
1 目的
2010 年現在、小学校の特別支援学級の 85%に
交流及び共同学習に関する指導計画作成・活用
おいて交流及び共同学習を実施している(星野・佐
の手続き及び指導計画を活用した授業計画(授業
藤、2011)が、関戸・岡島(2000)が行った障害児の
案)作成の実態を明らかにする。
交流教育に対する意識調査では、特別支援学級担
2 方法
任から見て、特別支援学級の児童が交流に「喜ん
Web サイト上で、研究テーマとして、
「交流及
で行っている」と回答した者は、小学校で 34.8%
び共同学習の推進」、
「共生・共育推進」等を取り
であり、現在も喜んで交流及び共同学習に参加し
上げている小学校 21 校の特別支援学級担任 21 名
ている児童の割合が少ないことが懸念される。ま
を対象に、郵送による質問紙調査を実施した。調
た、位頭(1997)は、交流及び共同学習で実施する
査期間は、2012 年 7 月~8 月であった。調査項目
教科の内容について、児童が興味を持てないこと
は予備調査で確定した以下の質問項目を用いた。
が授業中の学習外動作や孤立行動に結びついてい
1)回答者の属性
ると述べている。
2)交流及び共同学習に関する学校体制について
佐藤・坂栄(2000)が行った交流及び共同学習に
関する調査の中では、学校全体の交流教育体制に
ついて、全体計画を作成している学校は 3 割弱で
3)交流及び共同学習に関する指導計画作成・活用
の手続き
4)交流及び共同学習に関する授業計画(授業案)の
あり、寺島(2007)は、交流及び共同学習に関する
作成手続き
指導計画を作成している学校は 18%であると報
3 結果と考察
告している。谷崎(2003)は、交流及び共同学習実
1)回収率
施に関して、
「無計画な交流では、障害児へのマイ
21 校中 17 校(81.0%)から回答が得られた。
ナスなイメージを植え付けるばかりか、障害のあ
2)交流及び共同学習に関する学校体制について
る子どもの自尊感情を傷つける」と述べている。
学校教育計画への交流及び共同学習の記述につ
児童の実態に基づき、意欲を持って参加できる交
いて、17 校中 13 校(76.5%)で「記述あり」であっ
流及び共同学習を実現するために、交流学級担
た。具体的な記述内容については、児童全体の集
任・特別支援学級担任(以下、両担任)で交流及び
団生活の向上等「交流の側面」が重視されており、
共同学習のねらい等を明確にした指導計画を作成
「共同学習の側面」があまりみられなかった。さ
し、それを活用して学習を進められるようにして
らに、交流及び共同学習を推進するための校内組
いく必要がある。
織は 17 校中 8 校(47.1%)の学校で設置されており、
Ⅱ
全体のおよそ半数であった。特別支援教育コーデ
目的
本研究では、交流及び共同学習に関する指導計
ィネーターや交流学級担任の所属も見られたが、
画作成・活用の手続き及び指導計画を活用した授
ほとんどの学校で特別支援学級担任が主として担
13-2
表 1 校内組織の所属者(n=8)(複数回答)
カテゴリ
度数
特別支援学級担任
8
特別支援教育コーディネーター
6
交流学級担任
5
管理職
3
養護教諭
3
その他
2
表 2 指導計画の作成手続き(n=12)(複数回答)
カテゴリ
度数
特別支援学級担任が作成する
9
両担任で話し合い、特別支援学級担任が作成する 2
両担任で話し合い、交流学級担任が作成する
1
表 3 交流及び共同学習における目標内容
(n=9)(複数回答)
カテゴリ
度数
大きな集団での活動を体験させる
9
社会性を養う
8
他者と協調する態度を養う
5
友だち作りの機会とする
5
健常児の良い円にふれ、好ましい態度を養う
5
教科学習の能力を高める
1
画を作成している 12 校のうち、7 校(54.5%)であ
った。このことから、 交流及び共同学習に関する
指導計画は作成しているが、指導計画(授業案)が
当しており、管理職等の校内組織への所属は、わ
日々の授業に結びついていない(小倉、2003)可能
ずかであった(表 1)。このことから、校内組織の整
性があることが示唆された。
備はまだ不十分であるといえる。
Ⅳ 研究Ⅱ
3)交流及び共同学習に関する指導計画作成・活用
1 目的
の手続き
交流及び共同学習に関する何らかの指導計画を
交流及び共同学習に関する具体的な取り組みや
学校体制、交流及び共同学習に関する指導計画の
作成している学校は、17 校中 12 校(70.6%)であり、 作成・活用の具体的な手続き、交流及び共同学習
個別の指導計画内に、または交流指導計画として
を踏まえた学級づくりについて明らかにする。
単独で作成されていた。交流及び共同学習に関す
2 方法
る指導計画の作成手続きでは、両担任で話し合っ
研究Ⅰの調査結果から、指導計画を両担任で作
て作成していた学校は 12 校中 3 校(25.0%)であっ
成し、指導計画をもとに授業計画(授業案)を作成
た(表 2)。
していると回答のあった A 市立 B 小学校の特別支
交流及び共同学習に関する指導計画に児童の個
援学級担任に半構造化面接による調査を行った。
別の目標を記述していた学校は、12 校中 9 校
3 結果と考察
(75.0%)であり、具体的な目標の内容として、「大
1)交流及び共同学習に関する具体的な取り組みや
きな集団での活動を体験させる」等の「交流の側
学校体制
面」が目標として多く設定され、
「教科学習の能力
B 小学校では、学校全体として、
「わかる授業・
を高める」等の「共同学習の側面」を設定してい
生活しやすい環境」をモットーにして、ユニバー
た学校は、1 校のみであった(表 3)。今後は、児童
サルデザインを日々の教育活動の中で実践してお
の実態に応じて、
「交流の側面」と「共同学習の側
り、どの児童にとってもわかりやすい授業を意識
面」のそれぞれについて児童の目標や活動を設定
して実施していた。交流及び共同学習に関する具
していく必要がある。さらに、目標設定の手続き
体的な学校全体の取り組みに関しては、年度初め
では、両担任で児童の実態を見て設定している学
に全児童に対して一貫した指導を行うための話し
校は少数であった。位頭(2007)が、個別の指導計
合いの場や、交流及び共同学習の目的を全職員で
画の作成等を通して関係者の連携・協働作業が望
共通理解するための機会を持ち、両担任が協働し
まれると述べているように、今後は両担任の協働
ていくことを学校全体に周知していた。このこと
による交流及び共同学習全体にかかる目標設定が
から、両担任で協働する機会が持ちやすく、年度
課題としてあげられる。
初めに児童の目標やどのような対応をしていくか
4)交流及び共同学習に関する授業計画(授業案)の
について話し合いが重ねられ、両担任によって交
作成手続き
流及び共同学習に関する指導計画が作成されてい
交流及び共同学習に関する指導計画をもとにして
たのではないかと考えられる。渡辺(2010)は、連
授業計画(授業案)を作成している学校は、指導計
携を機能させるためには、まず年度初めの段階で
13-3
特別支援学級担任と交流学級担任とが一緒に学年
としてあげられた「交流学級担任と実態把握や情
経営の方向性について話し合うことが重要である
報交換等をする時間が持てない」などが影響して
と述べている。このことから、年度初めの両担任
いると考えられる。一方で、両担任で指導計画を
が揃っての話し合いの場を設けていくことは授業
作成し、授業計画(授業案)や週案等に活用してい
を進めていく上で重要であると考えられる。
た学校では、全職員で交流及び共同学習の目的を
2)交流及び共同学習に関する指導計画作成・活用
共通理解する場を設けることや、両担任で協働し
の具体的な手続き
て交流及び共同学習を実施していくことを学校全
両担任で作成した交流及び共同学習に関する指
体に周知した上で交流及び共同学習を実施してい
導計画は、授業計画(授業案)を作成する際に、活
た。このことが、両担任が協働していくことの一
用されていた。しかし、毎授業の授業計画(授業案)
つのきっかけとなり、
両担任で指導計画を作成し、
まで両担任で作成することは難しく、その代わり
それを授業計画(授業案)や週案に活用しながら、
に、週の授業計画で、授業の中で配慮してほしい
交流及び共同学習を実施することができていたの
こと、要望などが記入され、両担任の情報交換の
ではないかと考えられる。吉田・佐久間(2008)は、
ツールとして活用されていた。
交流及び共同学習を実施する条件として、校内体
3)交流及び共同学習を踏まえた学級づくり
制の整備をあげている。両担任が協働して指導計
交流及び共同学習を踏まえた学級づくりでは、
画を作成し、その指導計画を授業に生かしていく
障害理解教育等の特別な場は設けず、クラス全体
ためには、担任同士の連携だけでなく、管理職を
でコミュニケーション能力の向上を目指し、SST
含め学校全体の特別支援教育の理解を深め、学校
等が取り上げられていた。日々の授業の中でユニ
体制の整備を進める必要があることが示唆された。
バーサルデザインの視点が取り入れられ、全体か
さらに、今後は、両担任で作成した指導計画を授
ら個別へという流れを大切にしていた。
業の計画に反映させながら実践していくことが、
交流及び共同学習を実施する上で、児童がスム
障害のある児童一人一人のニーズに応じた交流及
ーズに参加し、児童の学びを実現するために、両
び共同学習につながるのではないかと考えられる。
担任で作成した指導計画を(授業案)、出来る範囲
文献
星野謙一・佐藤慎二(2011)特別支援学級における交流及び共同学
習に関する実態調査-交流及び共同学習の形態に焦点を当てて
-.植草学園短期大学研究紀要,12,85-89.
位頭義仁(1997)わが国における交流教育の現状と課題.発達障害
研究,19,12-19.
位頭義仁(2007)知的障害児の統合教育・インクルージョンに関す
る研究.風間書房.
小倉靖範(2003)評価にむすびつく個別の指導計画の作成を目指
して-「主体的に学ぶ力」を支える個別の指導計画と評価のあ
り方-.情緒障害教育研究紀要,22,129-136.
佐藤比登美・坂栄三恵子(2000)知的障害をもつ児童の交流教育に
関する研究-小学校知的障害児学級担任へのアンケート調査-.
島根大学教育実践研究指導センター紀要,11,37-48.
関戸英紀・岡島育雄(2000)小・中学校における交流教育の現状と
課題-横浜市立小・中学校特殊学級担任への意識調査を通して
-.横浜国立大学教育人間科学部教育実践研究指導センター紀
要,16,67-80.
谷崎和一郎(2003)すぐに使える交流及び共同学習のアイディア
交流及び共同学習のポイント.発達の遅れと教育,556,32-33.
寺島啓行(2007)交流及び共同学習における担任間の連携につい
ての一考察-よりよい交流及び共同学習の展開を目指して-.福
島県養護教育センター研究紀要,22,48-51.
吉田恵美子・佐久間宏(2008)小学校における交流教育に関する研
究-教員及び保護者へのアンケート調査を通して-.宇都宮大学
教育学部教育実践総合センター紀要,31,325-332.
渡辺淳(2010)小学校における児童同士の相互理解が深まる交流
及び共同学習の推進に関する一考察-特別支援学級担任と交流
学級担任との連携の在り方を通して-.特別支援教育センター
研修 A.
の中で授業計画(授業案)や週案に生かし、児童の
目標や配慮等を共通理解した上で、授業を実施し
ていくことや、ユニバーサルデザインを意識した
学級づくりをすることが必要なのではないかと考
えられる。
Ⅴ
総合考察
寺島(2007)は、交流及び共同学習に関する指導
計画の作成について、
「児童の実態や交流する目的、
目標等を共通理解するために活用でき、日常的な
情報を支援や連携に生かす土台となる」と述べて
いる。本研究では、調査対象が交流及び共同学習
等を研究テーマとして取り上げている学校とした
ことから、交流及び共同学習に関する指導計画を
作成している学校は 7 割であった。しかし、指導
計画の作成状況においては、両担任での作成はわ
ずかであった。その理由として、交流及び共同学
習に関する指導計画を作成・活用することの課題
14-1
知的障害児が在籍する特別支援学校の教師の国語科に関する意識構造と影響要因
吉田 泰子
Ⅰ
問題と目的
を行うこと,といった機能を有すると考えられる
知的障害者である児童生徒に対する教育を行う
校務分掌国語部(係)に着目し,国語部(係)の機能
特別支援学校の国語科(以下,知的障害教科国語
の実態,国語部(係)の機能が国語科に関する意識
科)の小学部の目標は「日常生活に必要な国語を
に与える影響を明らかにする。そして,研究2に
理解し,伝え合う力を養うとともに,それらを表
おいて国語部(係)の機能整備の経緯と課題を明ら
現する能力と態度を養う。」とされ(文部科学
かにする。研究1,2から校務分掌国語部(係)の
省,2009)
,小学校学習指導要領における国語科の
機能の在り方について考察することを目的とする。
示し方とは異なる。
Ⅱ
さらに,知的障害特別支援学校では,知的障害
のある児童生徒の学習上の特性から,各教科,道
方法
1 研究1
1)対象
徳,特別活動及び自立活動の全部又は一部につい
全国特別支援学校(知的障害および知・肢併置)
て合わせて授業を行うことができる(文部科学
106 校,国語部(係)の教師あるいは教務主任か研
省,2009)
。教育内容は各教科と領域に分けて示さ
修主任 103 名,学級担任 275 名
れているが,実際は生活単元学習や作業学習など
2)手続き
の指導の形態で指導するという「教育課程の二重
3)調査項目
構造性」が存在し(齋藤,2011),教師においては,
①各学校で行われている国語科の指導体制
知的障害教育課程の分かりにくさやあいまいさが
②国語部(係)の活動内容
あると考えられる。
③学級担任の知的障害教科国語科に関する意識
今回の学習指導要領の改訂により,各教科にわ
たって個別の指導計画を作成することが求められ
た。横山(2010),太田(2010)は自立活動,各教科,
郵送による質問紙調査
4)分析の視点
①教師の知的障害教科国語科に関する意識につい
て因子分析を行う。
他の特質を理解し,それぞれを関連させたうえで
②国語部(係)の機能,
知的障害教科に対する研修,
個々に応じて計画していくことの必要性を述べて
および国語科の指導体制を独立変数,知的障害
おり,国語科の個別の指導計画作成においては,
教科国語科に関する意識を従属変数として分散
国語科に対する教師の理解が求められる。
しかし,
分析を行う。
特別支援学校の教師が,分かりにくさやあいまい
2 研究2
さがあると考えられる知的障害教科国語科に対し
1)対象
てどのような意識を持っているのか,そしてその
国語部(係)および校内研修において国語科につ
意識に影響を与える要因については明らかになっ
いての研究を行っている教師4名
ていない。
2)手続き 半構造化面接
そこで本研究では,研究1において特別支援学
3)調査内容
校の教師の国語科に関する意識構造を明らかにす
①国語部(係)の機能整備の経緯
る。また,各学校において①学校教育計画の下,
②今後,国語部(係)の機能として行っていきたい
国語科の指導を充実させられるよう体制を整える
こと,②国語科指導に対する教師の専門性の向上
を図ること,③管理職や研究主任との連絡・調整
と考えることと,その理由
③所属校の教員に身に付けてほしい知的障害教科
国語科に対する専門性
14-2
表1
学級担任の国語科に関する意識尺度の因子分析結果(プロマックス回転,主因子法)
項目番号
因子Ⅰ α=.852 指導に対する不安・あいまいさ
国語科を指導するにあたり,本当にこの内容でよいのか自信がない。
現在行っている指導が,児童生徒のどのような将来の姿に結び付くものなのか,不安に思いなが
ら指導することがある。
児童生徒に対し,国語科の指導内容として,偏りのある指導を行っているのではないかと不安に
思う。
国語科の授業について,指導内容があいまいな授業を行っていると感じる。
私は,教科等を合わせた指導において国語科の指導を行うことに難しさを感じる。
知的障害教育の教育課程は,よく分からない。
その子の特性と,知的障害の程度を考慮した指導内容を設定することは難しい。
児童生徒が,興味・関心を持てる国語科の指導を行うのは難しい。
知的障害教科国語科では,何を教えたらよいのかがあいまいである。
ある児童生徒に対し,小・中・高等学校の国語科の下学年適用とするか,知的障害教科国語科と
するかで迷う。
私は,自立活動と知的障害教科の違いを明確に説明することができる。*逆転項目
因子Ⅱ α=.728 教科としての位置付け
国語科の指導は,国語に対する関心・意欲・態度を育てることが目的である。
国語科の指導は,児童生徒の国語に対する思考・判断・表現の力を育てることが目的である。
国語科の指導を行う際,児童生徒は,我が国の文化の継承の担い手であることを意識している。
国語科の指導は,児童生徒の国語に対する知識・理解を育てることが目的である。
教科等を合わせた指導や,国語科の教科別の指導において,自立活動が担う部分と,国語科が担
う部分を明確にして指導計画を立て,指導を行っている。
私は,国語科の指導を行う際,指導内容の系統性や,発展性を重視している。
国語科の指導は,児童生徒に国語に対する技能を身に付けることが目的である。
教科等を合わせた指導において,系統的に国語科の学習が行えるように活動内容を設定している。
因子Ⅲ α=.738 知的障害教科の独自性
重度の知的障害のある児童生徒に対する国語科の指導を「国語科」
「教科」と言うのには抵抗が
ある。
知的障害教科国語科がめざす目標は,通常の小・中学校の国語科がめざす目標とは異なる。
国語科の教科別の指導を行うには,ある程度知的障害の状態が軽度であることが必要であると思
う。
重度の知的障害のある児童生徒に,国語科の指導をするのは難しい。
知的障害教科国語科は,一斉授業では実施しにくい。
知的障害教科国語科は,個別に指導した方がよい。
因子Ⅳ α=.655 日常生活上のニーズのための指導
知的障害教科国語科では,日常生活で経験する身近な内容を中心に教えることが必要である。
知的障害教科国語科は,生活に密着した内容にしぼって指導するべきである。
国語科としての系統性よりも,児童生徒の興味関心や,その時の生活に必要な事柄を指導内容と
して選定している。
国語科で取り扱う指導内容は,保護者のニーズを優先して決めている。
自分の名前の読み書きを学習することは,国語科の中心的な指導内容である。
因子間相関
因子Ⅱ
因子Ⅲ
因子Ⅳ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
.74
.73
-.09
.06
-.05
.00
.06
-.07
.66
.07
-.14
-.02
.63
.60
.55
.55
.54
.53
.48
-.04
.19
-.10
-.01
.05
-.09
.32
.08
.15
.03
.11
.08
.06
.17
-.03
-.12
-.04
-.06
.01
.11
-.05
-.45
.28
.17
-.08
.04
.06
.18
.11
-.12
.61
.54
.53
.51
.48
-.15
-.27
.11
-.22
.05
.06
.11
-.21
.17
-.11
-.03
.07
-.20
.46
.45
.42
-.04
-.10
.05
-.02
.15
.08
.09
-.10
.64
-.05
-.09
.08
-.17
-.03
.58
.56
-.03
-.05
.07
.01
-.02
-.05
-.05
.14
.52
.48
.39
-.03
.27
.22
-.10
-.17
.05
.07
-.04
-.10
-.00
.07
.05
.55
.54
.52
.05
.13
.18
.03
-.02
.05
.49
.48
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
-.07
-.02
.32
-.21
.19
.16
④機能整備を進めていく上での困難
「初任者・新任者・経験者研修」
「認定講習や更新
4)分析の視点
講習」
「自主的に参加した研修会」の受講経験,各
対象者 4 名の面接内容を逐語化し,木下(2003)
研修の内容として「教科別の指導,教科等を合わ
に基づく M-GTA を参考に分析を行う。
せた指導などの指導形態に関する内容」
「指導内容
Ⅲ
の設定の仕方・目標の立て方についての内容」,校
結果
研究1では,国語科に関する教師の意識につい
内の指導体制として「国語科の教科別の指導」の
て5段階の尺度で測定し,得点化して因子分析を
なし群が有意に得点が高かった。また「教科とし
行った。教師の意識として,
「指導に対する不安・
ての位置づけ」に対し,
「初任者・新任者・経験者
あいまいさ」
「教科としての位置づけ」
「知的障害
研修」の受講経験,研修の内容として「指導内容
教科の独自性」
「日常生活上のニーズのための指導」 の設定の仕方,目標の立て方について」の内容の
の4因子が抽出された(表1)
。
抽出された4因子を従属変数,学級担任の研修
あり群が有意に得点が高かった。
「知的障害教科の
独自性」に対し,
「知的障害教科に対する研修経験」
経験や校内体制を独立変数とし分散分析を行った
のなし群が有意に得点が高かった。
「日常生活上の
ところ,
「指導に対する不安・あいまいさ」に対し,
ニーズのための指導」に対しては,
「初任者・新任
14-3
表2
研修や研修内容,校内体制と知的障害教科国語科に関する教師の意識尺度下位尺度得点の平均値・
SDと分散分析結果
指導に対する不安・あいまいさ
教科としての位置づけ
知的障害教科の独自性
M
SD
F値
M
SD
F値
M
知的障害教科に対する研修経験の有無
あり
196
29.81
6.35
2.86
24.84
4.12 1.85
17.86
なし
45
31.64
7.50
23.91
4.16
19.27
知的障害教科に対する初任者・新任者・経験者研修の有無
あり
159
29.28
5.95
5.87*
25.19
4.03 6.29*
17.79
なし
37
32.06
7.50
23.31
4.25
18.19
知的障害教科に対する認定・更新講習の有無
あり
88
28.75
6.20
4.50*
25.12
4.38 .69
18.33
なし
108
30.67
6.36
24.62
3.91
17.48
自主的に参加した研修会の有無
あり
115
28.96
6.67
5.09*
25.04
4.27 .68
17.84
なし
81
31.01
5.67
24.55
3.92
17.90
各研修における教科別の指導,教科等を合わせた指導などの指導形態に関する内容の有無
あり
146
29.18
6.20
5.74*
24.90
4.09 .11
17.80
なし
50
31.64
6.48
24.67
4.27
18.04
各研修における指導内容の設定の仕方,目標の立て方についての内容の有無
あり
127
28.98
6.50
6.22*
25.31
4.07 4.74*
17.83
なし
69
31.32
5.80
23.97
4.11
17.93
教科別の指導の時間の有無
あり
162
29.57
6.28
4.24*
24.91
4.03 2.21
17.90
なし
79
31.43
7.14
24.06
4.32
18.53
日常生活上のニーズのため
の指導
M
SD
F値
SD
F値
3.95
4.43
4.42*
16.21
16.62
2.69
2.83
.83
4.00
3.85
.31
16.40
15.43
2.65
2.74
3.92*
3.93
3.94
2.25
16.63
15.88
2.60
2.73
3.78
4.18
3.62
.01
15.91
16.64
2.66
2.69
3.54
3.95
3.97
.14
16.25
16.10
2.64
2.86
.12
3.86
4.13
.03
16.36
15.94
2.67
2.73
1.09
4.14
3.88
1.31
16.04
16.79
2.82
2.44
4.01*
*p<.05
者・経験者研修」の受講経験のあり群が,校内の
という理解だけでなく,通常の小・中・高等学校
指導体制として「国語科の教科別の指導」のなし
の国語科に準ずるという理解もしており,
さらに,
群が有意に得点が高かった(表2)
。
知的障害教育の教育課程編成について不安やあい
研究2では,国語部(係)の教員は,学校の特性
まいさも感じている,ということが考えられた。
や教員の専門性といった学校内部の要因や,外部
また,知的障害教科に関する研修経験や研修内
の要因から,特に自校の教員の実態に着目し,教
容と,教師の国語科に関する意識とは強く関連し
員の専門性や指導力の向上を図り,そこから個々
ていることが明らかになった。各学校において行
の児童生徒に対し妥当性のある指導を行いたい,
われる研修が校内研修である。国語部(係)は,
という思いをもっていた。そのため,国語部(係)
校内研修と連携を図り,自校の教師の専門性を高
の機能整備をすすめる上で校内研修との関連を図
めていくとともに,研修が終わった後でも教育課
るようにしていた。その結果,自校の教員に変容
程を改善していくこと,さらに研修の内容を自校
が見られるようになるが,同時に全ての教員に研
の教師に定着させていくことといった機能が求め
修の意図や意義を周知することや,研修内容が積
られていると考えられる。
み上がっていかないといった,機能整備上の課題
を感じていた。これは,国語部(係)の教員が初め
に感じていた学校内部の要因とも重なる部分であ
り,循環する構造の中で,学校をよりよくしてい
こうとしていた。
Ⅳ
考察
知的障害教育においては,戦後より生活中心教
育として実践が重ねられてきて現在に至るが,こ
の調査の結果からは,知的障害児が在籍する特別
支援学校に勤務する学級担任の国語科に関する意
識は,知的障害教科国語科は独自なものである,
日常生活上のニーズのために指導するものである,
文献
文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解説 総則等
編(幼稚部・小学部・中学部).
木下康仁(2003)グラウンデッド・セオリーアプローチの実
践.株式会社弘文堂.
太田俊己(2010)座談会・新しい学習指導要領とこれからの
特別支援教育.太田俊己・木村宣孝編著,平成 21 年度特
別支援学校新学習指導要領ポイントと授業づくり特別
支援教育[知的障害・発達障害].東洋館出版社,Ⅱ-Ⅷ.
齋藤一雄(2011)学習指導要領と埼玉県教育課程編成要領
の変遷.上越教育大学特別支援教育実践研究センター紀
要,17,25-32.
横山孝子(2010)座談会・新しい学習指導要領とこれからの
特別支援教育.太田俊己・木村宣孝編著,平成 21 年度特
別支援学校新学習指導要領ポイントと授業づくり特別
支援教育[知的障害・発達障害].東洋館出版社,Ⅱ-Ⅷ.
学位論文発表会用抄録ひな形
(あける)
15-1
(発表順とページを挿入すること↑)
昭和 30 年代初頭までの光明学校における「治療」に関する研究
-副題-(副題がない場合はあける)
内田 暢一
(あける)
Ⅰ 問題及び目的
わが国最初の公立肢体不自由児学校である光明
学校では、1932(昭和7)年の開校当初から独自の
教育内容である「治療」が行われ、戦前に実践と
研究が進められたことが明らかになっている。し
かし、
終戦後の 1946(昭和 21)年から養護学校へと
変わる 1957(昭和 32)年までの間における光明学
校の実践については明らかになっておらず、戦前
の光明学校で行われていた「治療」が戦後まで引
き継がれたとする松本(2005)と丹野(2008)の考察
を検証する必要がある。そのため、1932(昭和7)
年から 1957(昭和 32)年までの光明学校における
「治療」
の実態とその展開を明らかにすることで、
光明学校における「治療」の連続性を検討するこ
とができると考えられる。
本研究では、昭和 30 年代初頭までの光明学校に
おける「治療」の実態とその展開を明らかにし、
光明学校における「治療」の連続性を検討するこ
とを目的とした。
Ⅱ
方法
本研究では、主として、a.「東京市立光明学校
表1
論文の構成
Ⅰ 序章 本研究の問題と目的、方法
Ⅱ 本章 本研究の結果及び考察
第1節 「治療」の概念整理
第2節 教育目標
第1項 教育目標
第2項 設立の趣旨
第3節 施設・設備
第1項 麻布校舎時代
第2項 校舎移転後の世田谷本校・麻布分校時代
第3項 長野県上山田温泉での疎開時代
第4項 疎開引き揚げ後
第5項 光明学校における施設・設備の展開
第4節 教育対象
第1項 入学資格・選考方法
第2項 在籍児童生徒数
第3項 在籍児童生徒の障害
第4項 在籍児童生徒の知能
第5項 クラス編成
第5節 教育内容
第1項 「治療」の内容
第2項 教育との関連について
第3項 主体者
第4項 配当時数
第5項 成果
第6節 組織
第1項 職員構成
第2項 校務分掌
第7節 考察
第1項 各視点における考察
第2項 研究課題・研究仮説の検討
Ⅲ 終章 本研究のまとめと今後の課題
概要第一輯」
・
「東京市立光明学校紀要(第二輯~第
「治療」で行われていた、治療体操、玩具治療、
七輯)」
、b.疎開時における光明学校の学校通信・
マッサージ、歩行訓練、日光浴、物理療法、矯正
卒業生通信である「学寮通信」・「仰光通信」、c.
体操は戦後も存在しており、戦前と比較して「治
光明学校の周年記念誌、d.当時光明学校に勤務し
療」の概念は大幅には変化していないことが明ら
た教師、看護婦、保母ならびに当時在籍した児童
かになった(図1)。
生徒の手記、e.東京都教育史などの当時の史料や
第二に、教育目標については、開校当初の目標
文献を用いて文献研究を行った。併せて、本研究
を受け継ぐ一方で、
戦後において生活信条を設け、
では光明学校の卒業生3名に対して、半構造化面
新たな教育活動を行おうとしていたことが明らか
接法による聞き取り調査を実施した。
になった。また、設立の趣旨としては、光明学校
Ⅲ
では戦前において普通教育を施すとともに治療矯
結果
本研究では、
「治療」の概念整理、教育目標、施
正を施すという2つの目的を設定しており、戦後
設・設備、教育対象、教育内容、組織の6つの視
においてもこの2つの目的は大きく変わっていな
点から、光明学校の「治療」の実態とその展開を
いことが明らかになった。
明らかにした(表1)。
第一に、
「治療」の概念整理については、戦前の
第三に、施設・設備については、光明学校では
戦前から障害の改善・克服を強く意識し、
「治療」
学位論文発表会用抄録ひな形
表2
1932年
スロープ
児童休養
及び娯楽室
診療治療室
兼マッサージ室
15-2
(発表順とページを挿入すること↑)
「治療」に関する施設・設備の展開(1932 年~1957 年)
1938年
-
1939年
スロープ
1941年
-
1942年¹⁾²⁾
-
1943年¹⁾²⁾
-
1944年¹⁾²⁾
-
1946 ~1947年³⁾⁴⁾
-
1952年²⁾
-
1957年²⁾
-
-
休養室
休養室
休養室
-
-
-
-
-
治療室
処置室
診察室
処置室
診察室
処置室
診察室
処置室
診察室
処置室
治療室
診察室
兼測定室
診察室
兼測定室
-
マッサージ
マッサージ
兼物理療法
兼矯正体操室
-
マッサージ治療 マッサージ室 マッサージ室 マッサージ室 マッサージ室
兼物理療法
物療室
物療室
物療室
物療室
兼矯正体操室
矯正体操室
治療体操遊園
ギプス室
ギプス室
ギプス室
ギプス室
ギプス室
太陽灯室
太陽灯照射
太陽灯室
太陽灯室
太陽灯室
太陽灯室
日光浴室
日光浴
日光浴室
日光浴室
日光浴室
日光浴室
兼玩具治療室
玩具治療
玩具室
玩具療法室
玩具療法室
玩具療法室
レントゲン室 レントゲン室 レントゲン室 レントゲン室
浴室
水治室
水治療室
水治療室
水治室
1)1942年、1943年、1944年は、本校のみ。
2)1942年から1957年までの網掛部分は、「治療的設備」の区分に属する。
3)1946年から1947年までは、長野県上山田温泉への疎開期間に含まれる。
4)1946年から1947年までの実際の外科的手術は、近くの旧陸軍療養所(長野国立病院)で行っている。
出典:東京市立光明学校(1932;1938;1939;1941),東京市立光明国民学校(1942;1943;1944),戦災孤児等学童集団合宿教育所(1946;1947),
東京都立光明小・中学校(1952b),東京都立光明養護学校(1957).
のための施設・設備が充実していたが、戦後にお
治療体操遊園
日光浴室
兼玩具治療室
-
ていたことが明らかになった。
いては在籍児童生徒数の増加により教室を増やす
第五に、教育内容については、戦前の「治療」
とともに、治療的設備も整備・充実されたことが
のうち、治療体操、玩具治療は肢体不自由の治療
明らかになった(表2)。
を目的としながらも教育的性格を持ち併せており、
第四に、教育対象については、戦前に在籍した
マッサージ、歩行訓練、矯正体操などとともに戦
児童生徒の障害は脳性まひを中心とし、その程度
後に継続された一方で、
太陽灯照射、
ギプス療法、
は比較的軽度で、
知的な遅れは見られなかったが、
観血的治療(手術)はなくなっていることが明らか
終戦直後を除き、1960 年代初頭まで在籍児童生徒
になった。また、戦前の「治療」に対する教師の
中における脳性まひ児の相対的な比率が漸次増加
関わりは治療体操などにおいて限定的なものであ
するとともに(表3)、知的障害を伴う児童生徒が
り、戦後でも大きく変化していないことも明らか
増加し、脳性まひ児の相対的な増加と在籍児童生
になった。
徒の障害の重度・重複化という2つの課題を抱え
治療体操
玩具治療
第六に、組織については、職員構成として、戦
前において各クラスに1名看護婦が配置されたが、
戦後は教員数の増加と看護婦数の減少が見られた
ほか、校医を多く配置していたことが明らかにな
マッサージ
「
治
療
」
った(表4)
。また、校務分掌としては、長野県で
歩行練習
の疎開中においても、校務分掌の中に「治療」が
日光浴
存在し、看護婦がそれを担当していたことが明ら
かになった。
物理療法
矯正体操
治療室における処置
校医による診察
Ⅳ
考察
光明学校における「治療」は、戦前の実践を下
地として、1950 年代中葉まで続けられたと考えら
れる。戦後における治療体操、玩具治療、マッサ
ージ、歩行訓練、日光浴は、分析の視点である「治
観血的治療に対する処置
図1 戦後の光明学校における「治療」の概要
(1946~1956 年)
出典:東京都立光明小・中学校(1951;1952a;1952b),東京都立光明養護学校(1957),
波田野(1958),卒業生の証言.
療」の概念整理、施設・設備、教育内容から分析
した際に、戦前と比較してその内容が類似・共通
していたことが明らかになった。そのため、第二
15-3
(発表順とページを挿入すること↑)
学位論文発表会用抄録ひな形
表3
光明学校の卒業児童生徒中における脳性まひ児数
とその割合の推移(1935 年~1957 年)
1935年度
1936年度
1937年度
1938年度
1939年度
1940年度
1941年度
1942年度¹⁾
1943年度¹⁾
1944年度¹⁾
1945年度¹⁾
1946年度¹⁾
1947年度²⁾
1948年度²⁾
1949年度²⁾
1950年度²⁾
1951年度²⁾
1952年度²⁾
1953年度²⁾
1954年度²⁾
1955年度²⁾
1956年度²⁾
1957年度²⁾³⁾
1958年度²⁾³⁾
1959年度²⁾³⁾
1960年度³⁾⁴⁾⁵⁾
1961年度³⁾⁴⁾⁵⁾
合計
脳性 その他
まひ 障害
計
4
5
6
9
7
5
4
10
9
16
8
3
4
7
6
9
11
5
16
14
16
20
22
22
23
43
50
354
11
16
11
16
16
16
12
17
19
24
16
11
12
12
10
17
14
13
23
26
32
32
32
32
32
54
63
589
7
11
5
7
9
11
8
7
10
8
8
8
8
5
4
8
3
8
7
12
16
12
10
10
9
11
13
235
表4
教諭
看護婦
(訓導含む)
卒業児童生徒に占める
脳性まひ児童生徒の割合(%)
36
31
55
56
44
31
33
59
47
67
50
27
33
58
60
53
79
38
70
54
50
63
69
69
72
80
79
1)1942年度から1946年度までは、高等小学校も含む。
2)1947年度から1959年度までは、中学校・養護学校中学部も含む。
3)1957年度以降は養護学校(小学部・中学部)へ転換している。
4)1960年度と1961年度は、中学校・養護学校中学部,養護学校高等部も含む。
5)1960年度からは高等部が設置されている。
出典:東京都立光明養護学校(1962).
光明学校における教職員構成の変遷
(1932 年~1957 年)
1932年11月
1935年4月
1942年11月¹⁾
1943年5月³⁾
1944年4月³⁾
1946年
1947年4月
1952年⁵⁾
1957年9月⁶⁾
4
6
17
11
10
5⁴⁾
5
25
27⁷⁾
4
7
13²⁾
10
8
2⁴⁾
2
2
学校医
その他の
校医
歯科医 教職員
(治療医含む)
1
2
1
4
2
1
2
2
1
6
2
1
17
2
14
16
3
20
4
2
26
計
11
18
35
30
38
23
21
50
61
1)1942年11月は、本校・分校・寄宿舎を含む。
2)1942年11月の看護婦の配置内訳は、本校7名・分校5名・寄宿舎1名となっている。
3)1943年5月と1944年4月は、本校(初等科、高等科)、分校(初等科)を含む。
4)1946年の教諭・看護婦は、それぞれ1名が本校勤務となっている。
5)1952年は、本校・分校を含む。
6)1946年の給仕の項目と1957年9月は、本校(小学部・中学部)、分校(小学部・中学部)を含む。
7)1957年9月の教諭のうち1名は、CP(Cerebral Palsy:脳性まひ)クラスを担当している。
出典:東京市立光明国民学校(1942), 東京都立光明小・中学校(1947;1952b),
東京都立光明養護学校(1957),松本(1993).
律第 152 号)が完全施行された 1957(昭和 32)年4
月には養護学校に転換している。そして、戦後の
光明学校では、脳性まひ児の相対的な増加や、知
的障害のある児童生徒の増加による在籍児童生徒
の障害の重度・重複化が進む中で、従来の小・中
学校に準ずる教育と「治療」を行うことの困難さ
を抱えていたと考えられ、その克服の過程で 1950
次世界大戦と長野県での疎開を経て、1950 年代中
年代末葉の光明学校において見られた、訓練と教
葉まで光明学校では戦前の実践を引き継ぎ、「治
科指導をつなぐ教育実践が生まれてきたと考えら
療」を実施していたものと考えられる。このこと
れる。
から、光明学校における「治療」は、戦前、戦中、
文献
波田野忠雄(1958)玩具治療に就いて.東京都立光明養護学
校校内資料.
松本昌介(1993)疎開の記録.光明学校の学童疎開を記録す
る会(編),信濃路はるか 光明学校の学童疎開.田研出
版,77-160.
松本昌介(2005)竹澤さだめ 肢体不自由児療育事業に情
熱を燃やした女医.田研出版.
戦災孤児等学童集団合宿教育所(1946)仰光通信 第 14 号.
戦災孤児等学童集団合宿教育所(1947)仰光通信 第 17 号.
丹野傑史(2008)1958 年~1962 年における東京都立光明養
護学校のカリキュラム開発に関する研究.筑波蛍雪,
3,73-128.
東京市立光明学校(1932)東京市立光明学校概要 第一輯.
東京市立光明学校(1938)東京市立光明学校紀要 第五輯.
東京市立光明学校(1939)東京市立光明学校紀要 第六輯.
東京市立光明学校(1941)東京市立光明学校紀要 第七輯.
東京市立光明国民学校(1942)創立十周年記念誌.高橋淳
子・平田勝政(解説),知的・身体障害者問題資料集成 戦
前編 第 15 巻(1941 年-1943 年).不二出版,176-193.
東京市立光明国民学校(1943)昭和十八年五月 東京市立光
明国民学校 現況.
東京都光明国民学校(1944)昭和十九年四月 東京市立光明
国民学校 概覧.
東京都立光明小・中学校(1947)学寮通信 第 21 号.
東京都立光明小・中学校(1951)仰光通信 第 47 号.
東京都立光明小・中学校(1952a)仰光通信 第 49 号.
東京都立光明小・中学校(1952b)創立二十周年記念誌.障害
児教育・福祉年史集成 第Ⅰ期 第7巻.日本図書センタ
ー.
東京都立光明養護学校(1957)創立 25 周年記念誌.
東京都立光明養護学校(1962)光明三十年.
戦後を通して連続的なものであると考察され、戦
前の光明学校で行われていた「治療」が戦後まで
引き継がれたとする松本(2005)と丹野(2008)の考
察を裏付ける形となった。
戦前の「治療」においては、治療体操や玩具治
療の中に肢体不自由という機能障害を改善・克服
し、全人的な発達を促そうとする養護・訓練、自
立活動の理念に通じる点が見られ、教育的な性格
を持ち併せていた。また、
「治療」は学校教育計画
全体の中に組み込まれ、各教科の中にも「治療」
的配慮が見られた。ただ、
「治療」は戦前からその
成果を上げる一方で、肢体不自由の治療という医
療的な側面が強く、その主体者は医師と看護婦で
あり、教師の関わりはあくまでも限定的なもので
あった。
戦後において、光明学校は学校教育法(昭和 22
年法律第 26 号)の下で義務教育諸学校に位置づけ
られ、公立養護学校整備特別措置法(昭和 31 年法
16-1
(発表順とページを挿入すること↑)
学位論文発表会用抄録ひな形
(あける)
知的障害特別支援学校の日常生活の指導における
学部間の一貫性・系統性に関する調査研究
(氏名は明朝 10.5po, 姓と名の間一字あけて右寄せ) 岡部 龍彦
(あける)
Ⅰ 問題
日常生活の指導の目標や内容については、年齢
及び発達段階が高くなるにつれて、年齢相応の別
と返信があった学校に再度、
調査用紙を郵送した。
Ⅳ 結果及び考察
1
回収率
の中心課題に移行していくことが望ましいが、朝
調査は 2012 年 8 月下旬に行った。調査協力可
野(2011)は、学部段階に応じた目標設定や、指
否の回答は 296 校中 181 校からあり、
「協力可能」
導が行われていない現状を示唆している。
と回答した学校は 133 校であった。133 校の普通
名古屋(2012)は、日常生活の指導について、
学級担任 1215 名に質問紙を配布し、895 名(回
「キャリア教育の観点から捉え直すことが可能で
収率 73.7%)から回答があった。回答に不備のあ
ある」と述べており、朝野(2011)や金子(2012)
った 18 名を除き、877 名を有効回答とした。
も、発達全体の促進を目指す取り組みの基礎とし
2
日常生活の指導の時間
て、キャリア教育の観点から見直すと、日常生活
日常生活の指導の時間は、全学部で、9 割以上
の指導における小学部から高等部に至る支援の系
が帯状の時間割を設定しており、教育活動の基礎
統性が見えてくるのではないかと指摘している。
であると考えられる。一日の指導時間について、
以上のことから、日常生活の指導の内容を、国
小学部では「151 分以上」の 40.8%、中学部では
立特別支援教育総合研究所(2010b)の知的障害
「51~100 分未満」の 41.8%、高等部では「1~50
のある児童生徒の「キャリアプランニング・マト
分未満」の 64.3%が、最も多い比率であることが
リックス(試案)
」に基づき、キャリア教育の観点
明らかになった。学部が上がるにつれて、指導の
から検討することは、意義のある事だと考えた。
時間が減っていく傾向が見られ、授業時数自体が
Ⅱ
少なくなっていくことが伺える。また、
全学部で、
目的
知的障害特別支援学校の日常生活の指導につい
7 割以上が時間割に設定されている以外で日常生
て、各学部で重視されている内容を明らかにし、
活の指導を行っており、授業時数が少なくなって
学部間の一貫性・系統性を検討することを目的と
いく中学部や高等部においては、時間割の指導よ
した。
りも、時間割に設定されている以外の指導の時間
Ⅲ
に比重を置いていることが明らかになった。
方法
全国の小学部から高等部まで設置されている知
3
日常生活の指導の内容の設定に関すること
的障害特別支援学校 296 校の、今年度日常生活の
学校の教育目標・学部の目標、個別の指導計画・
指導を行っている、各学部の普通学級担任を対象
個別の教育支援計画については、全学部において、
にした。田村(2011)のアンケート用紙及び、国
8 割以上の人が参考にしたり、活用したりしてい
立特別支援教育総合研究所(2010a)
、国立特別支
ることが明らかになったが、
個別の指導計画を「活
援教育総合研究所(2010b)、文部省(1994)を
用している」と回答した人が、小学部 85.8%、中
参考に質問項目を、①フェイスシート、②指導の
学部 83.2%、高等部 74.0%であったのに対し、個
時間、③内容の設定に関すること、④具体的な取
別の教育支援計画を「活用している」と回答した
り組み、⑤児童生徒の日常生活との関連、⑥指導
人は、小学部 59.5%、中学部 67.9%、高等部 50.2%
の課題とし、調査用紙、依頼書、調査協力可否の
という結果となり、個別の教育支援計画の一層の
はがきとともに校長あてに郵送した。
「協力可能」
活用が今後の課題であると言える。
16-2
(発表順とページを挿入すること↑)
学位論文発表会用抄録ひな形
4
日常生活の指導の具体的な取り組み
重を置いている」という回答が多かったのは、当
日常生活の指導における学部間の一貫性・系統
該学部において育てたい力であり、ある程度生活
性については、日常生活の指導の具体的な取り組
年齢を踏まえた対応が意識されていると考えられ
みに対して、
「衣服の着脱」
、
「排泄」
、
「手洗い・洗
る。
「援助不要」の児童生徒に対しては、
全学部で、
面」の 3 つの指導の、
「挨拶・清潔・身だしなみ」、
当該学部において育てたい力に「比重を置いてい
「社会資源の活用とマナー」
、
「習慣形成」
、
「自己
る」という回答が最も多く、学部間の一貫性・系
選択」の 4 つの内容について、
「援助が必要な児
統性が保たれていると言える。
童生徒」
(以下、
「要援助」
)
、
「どちらかというと援
図 2 の、
「排泄」の「自己選択」の内容につい
助が必要な児童生徒」
(以下、
「少援助」
)
「どちら
ても、
「要援助」の児童生徒に対しては、
全学部で、
かというと援助が必要でない・援助が必要でない
小学部段階において育てたい力に「比重を置いて
児童生徒」
(以下、
「援助不要」
)の 3 つの児童生
いる」という回答が最も多く、学部間の一貫性・
徒の実態ごとに結果をまとめた。本稿では、特徴
系統性が不十分であると言える。
「援助不要」の児
的な差が見られた内容のうち、
「要援助」と「援助
童生徒に対しては、全学部で、当該学部において
不要」の結果を抜き出した。各図の①は小学部、
育てたい力に「比重を置いている」という回答が
②は中学部、③は高等部段階において育てたい力
最も多く、学部間の一貫性・系統性が保たれてい
を表している。
ると言える。また、「援助不要」の児童生徒におい
図 1 の、
「衣服の着脱」の「挨拶・清潔・身だ
ては、小学部段階において育てたい力に最も比重
しなみ」の内容については、
「要援助」の児童生徒
を置いていたのは、高等部であることが明らかに
に対しては、全学部で、小学部段階において育て
なった。この結果については、名古屋(2012)が
たい力に「比重を置いている」という回答が最も
「卒業後の社会生活がよりリアルにイメージでき
多く、学部間の一貫性・系統性が不十分であると
るため、これまで培ってきた日常生活の諸活動を
言える。しかし、中学部・高等部で二番目に「比
首尾よく遂行する能力を検証し、ブラッシュアッ
小
中
小
小
小小
高
要
要
援 中
援
助 中
助
要
援要
要
助援
援 中
中
助
助
高
高
高高
小
小
小小
援
助
不 中
要
援
援
援助
助
助不
不 中
不要
中中
要要
高
高
高高
図 1 衣服の着脱に関する指導の、
「挨拶・清潔・身だしなみ」
の内容における、児童生徒別の、学部ごとの質問項目の比較
図 2 排泄に関する指導の、
「自己選択」の内容における、児童
生徒別の、学部ごとの質問項目の比較
16-3
(発表順とページを挿入すること↑)
学位論文発表会用抄録ひな形
プしていくことが大切な時期である」と述べてい
重を置いている」という回答が最も多く、児童生
ることから、高等部でも、小学部段階において育
徒の実態によっては、学部間の一貫性・系統性を
てたい力に比重が置かれているのだと考えられる。 保つことが難しいと考えられる。児童生徒の実態
図 3 の、
「手洗い・洗面」の「自己選択」の内
を考慮しつつも、生活年齢を踏まえた対応を意識
容については、
「要援助」の児童生徒に対しては、
していくことが、今後の課題であると言える。
全学部で、小学部段階において育てたい力に「比
5
重を置いている」という回答が最も多く、また、
日常生活の指導と児童生徒の生活との関連
日常生活の指導で学んだことについては、全て
同じ「自己選択」の内容でも、
「排泄」に比べて、
の学部で、
「児童生徒の日常生活に反映されている
全学部で、中学部・高等部段階において育てたい
と思うか」に対して「やや反映されていると思う」
力に、
「比重を置いている」という回答が少ないこ
が小学部 51.7%、中学部 50.7%、高等部 51.9%、
とが明らかになった。
この結果については、
「排泄」
「反映状況を把握しているか」に対しても「やや
の確立が基本的生活習慣の中でも、重要視されて
把握している」という回答が小学部 65.4%、中学
いるからだと考えられる。
「援助不要」の児童生徒
部 78.7%、高等部 63.2%で、最も多い比率である
に対しては、全学部で、当該学部において育てた
ことが明らかになった。また、反映状況を把握す
い力に「比重を置いている」という回答が最も多
る方法については、
「保護者との会話を通して」と
く、学部間の一貫性・系統性が保たれていると言
いう回答が小学部 77.5%、「保護者との連絡帳を
える。
通して」が、中学部 87.0%、高等部 75.8%で、最
全体を通じて、学部間の一貫性・系統性があっ
も多い比率となり、今後、児童生徒の日常生活と
た取り組みは、全てが「援助不要」の児童生徒に
の関連を強めていくためには、保護者との連携が
対するものであった。また、
「要援助」の児童生徒
不可欠であると考えられる。
については、
「習慣形成」以外の 9 つにおいて、
6
全学部で、小学部段階において育てたい力に「比
日常生活の指導の課題
日常生活の指導の課題について、
「家庭との協力
が難しい」と回答した人が小学部 32.9%、中学部
33.2%、高等部では「個別化と集団化のバランス
小
小
要
要
援
援
助
助
を図ることが難しい」という回答が 33.6%で最も
多い結果となり、保護者との連携の重要性と、高
中
等部では、日常生活の指導の時数が少なくなるこ
とで、小学部や中学部とは異なる課題があること
高
高
が伺えた。
文献
小
小
援
助
不
要
援
援
助
助
不
不
要
要
中
中
高
図 3 手洗い・洗面に関する指導の、
「自己選択」の内容におけ
る、児童生徒別の、学部ごとの質問項目の比較
朝野浩(2011)領域・教科を合わせた指導~日常生活の指導~(知
的障害教育の授業づくり).特別支援教育研究,644,32-35.
金子健(2012)第 11 分科会 日常生活の指導 生きる力を育む日
常生活の指導.特別支援教育研究,654,20.
国立特別支援教育総合研究所(2010a)本試案及び観点解説の活
用に当たっての留意事項.
国立特別支援教育総合研究所(2010b)知的障害のある児童生徒
の「キャリアプランニング・マトリックス(試案)」
.
文部省(1994)日常生活の指導の手引(改訂版)
.
名古屋恒彦(2012)特別支援教育 青年期を支える「日常生活の
指導」Q&A.東洋館出版社.
田村典子(2011)特別支援学校における領域・教科を合わせた指
導の充実に関する研究-領域・教科を合わせた指導の実態調査に
基づく授業づくりのための資料作成を通して-.岩手県立総合教
育センター.
17-1
重度・重複障害児担当教師の協働的効力感が教育活動に及ぼす影響 落合 正彦
Ⅰ 問題と目的 表1 重度・重複障害児担当教師の教職経験年数 重複障害児の指導について、特別支援学校学習
カテゴリ 度数 % 指導要領解説総則等編(文部科学省, 2009a)では、
教職経験年数 1〜10 年 84 28.7 それぞれの障害について専門性を有する教師間で
11〜20 年 72 24.6 の連携が大切であることを述べている。また、重
21 年〜 137 46.8 複障害の児童生徒の指導について必要に応じて専
特別支援教育 1〜10 年 115 39.2 門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求め
経験年数 11〜20 年 89 30.4 ること、家庭及び地域や医療、福祉、保健、労働
21 年〜 89 30.4 等の業務を行う関係機関との連携を図り、個別の
重度・重複障害 1〜10 年 219 74.7 支援計画を作成することが平成 21 年3月告示の
教育経験年数 11〜20 年 53 18.1 特別支援学校学習指導要領に規定された。これら
21 年〜 21 7.2 のことから、重度・重複障害児の教育では教師間
の連携に限らず、医師をはじめ専門家等の関係者
活動の実践の場面での個業性(安藤, 2001)、学校
とも幅広く連携する必要があると考えられる。こ
組織としての疎結合構造(佐古, 1996)といった
うした関係者や関係機関と連携することについて、
課題が指摘されている。そこで、本研究では重度・
西川(2008)は「連携に代わって協働という言葉
重複障害児担当教師の協働的な教育活動の遂行を
を用いることで、関係者や関係機関とのより一層
図るため、重度・重複障害児担当教師の教育活動、
の協力関係を強調する」と述べている。 協働的効力感、所属学校の職場風土の実態を明ら
淵上・西村(2004)は教師が協働関係を構築し、
かにする。そして、重度・重複障害児担当教師の
望ましい人間関係を形成していくための効力感と
教育活動に及ぼす協働的効力感の影響、重度・重
して「支え合いの自覚」をはじめとする6因子構
複障害児担当教師が属する職場風土と協働的効力
造の協働的効力感を明らかにした。学校内外を問
感の関係について分析及び検討することを目的と
わず、様々な人と協働が求められている特別支援
した。 学校の重度・重複障害児の担当教師は、一人一人
Ⅱ 方法 の教師がこの協働的効力感を高く持つことによっ
1 調査方法・時期 て、専門的な知識を有する教師や医師、専門家と
郵送による質問紙調査を 2012 年7月下旬から
の協働的な関係を構築していくことができると考
10 月上旬に実施した。 えられる。さらに、淵上・西村(2004)は教師の
2 対象 協働的効力感の形成にかかわる一要因として、職
重度・重複障害児が在籍しており調査協力可能
場風土と協働的効力感との関係について検討し、
と回答があった肢体不自由を対象とする特別支援
協働的職場風土の高群に属する教師の協働的効力
学校 98 校、355 名の重度・重複障害児担当教師に
感が同調的職場風土の高群に属する教師よりも有
質問紙を送付し、有効回答を 98 校 293 名とした。 意に高いことを明らかにした。 3 調査項目 障害の重度・重複化により教師の協働が求めら
1)重度・重複障害児担当教師の属性 れる一方で、学校組織における先行研究では教育
2)重度・重複障害児担当教師の教育活動 17-2
3)重度・重複障害児担当教師の協働的効力感 互いの立場の尊重」、「現状で最善を尽くす意欲」
4)重度・重複障害児担当教師の属する職場風土 の5つの因子が抽出された。重度・重複障害児担
Ⅲ 結果 当教師が属する職場風土については「支え合いに
教師の属性として、特別支援教育における教職
よって職務意欲が保てる職場風土」、「多様な意見
経験年数には偏りがない一方で、重度・重複障害
を交わせる職場風土」の2つの因子が抽出された。 教育の経験年数については、10 年未満の 74.7%に
重度・重複障害児担当教師の協働的効力感の5
大きく偏っている実態が明らかになった(表1)。
因子「同僚との関係づくり」、「学校改善に向けて
長沼(2010)は肢体不自由教育経験の短い教師の
の発信」、「仕事受け入れの積極性」、「お互いの立
急増を指摘しているが、重度・重複障害の教育に
場の尊重」、「現状で最善を尽くす意欲」を独立変
ついても同様の傾向があることが示された。 数、重度・重複障害児担当教師の教育活動の4因
重度・重複障害児担当教師の教育活動、協働的
子「ティーム・ティーチングにおける互いの役割・
効力感、職場風土を5段階の尺度で測定し、得点
専門性の発揮」、「教師間における指導の計画・評
化して因子分析を行った。重度・重複障害児担当
価の共通理解」、「外部専門家や保護者の助言の活
教師の教育活動は「ティーム・ティーチングにお
用」、「ケース会議を通した指導の検討」を従属変
ける互いの役割・専門性の発揮」、「教師間におけ
数として重回帰分析を行った(図1)。「お互いの
る指導の計画・評価の共通理解」、「外部専門家や
立場の尊重」が重度・重複障害児担当教師の教育
保護者の助言の活用」、「ケース会議を通した指導
活動の4因子、
「ティーム・ティーチングにおける
の検討」の4つの因子が抽出された。協働的効力
互いの役割・専門性の発揮」、「教師間における指
感については「同僚との関係づくり」、「学校改善
導の計画・評価の共通理解」、「外部専門家や保護
に向けての発信」、「仕事受け入れの積極性」、「お
者の助言の活用」、「ケース会議を通した指導の検 *p<.05,**p<.01,***p<.001 図1 重度・重複障害児担当教師の教育活動に及ぼす協働的効力感の影響 17-3
表2 支え合いによって職務意欲が保てる職場風土に属する教師の協働的効力感 表3 多様な意見を交わせる職場風土に属する教師の協働的効力感 討」の全てに正の影響を及ぼしていた。また、
「テ
ことから、教職経験年数や役職といった立場の違
ィーム・ティーチングにおける互いの役割・専門
いを尊重しながら教育にあたる必要があると考え
性の発揮」については、
「お互いの立場の尊重」に
られる。 加え「同僚との関係づくり」の2因子から正の影
また、重度・重複障害児担当教師の教育活動を
響を受け、
「ケース会議を通した指導の検討」は「お
支える協働的効力感を高めていくには、重度・重
互いの立場の尊重」に加え「現状で最善を尽くす
複障害児担当教師の職場風土として「支え合いに
意欲」の2因子から正の影響を受けていた。 よって職務意欲が保てる職場風土」や「多様な意
重度・重複障害児担当教師の職場風土の「高群」
見を交わせる職場風土」を形成していくことの必
と「低群」を独立変数、重度・重複障害児担当教
要性が示唆された。 師の協働的効力感を従属変数として分散分析を行
文献 った。
「支え合いによって職務意欲が保てる職場風
安藤隆男(2001)自立活動における個別の指導計画の
理念と実践-あすの授業を創造する試み-. 川島書店. 淵上克義・西村一生(2004)教師の協働的効力感に関
する実証的研究.教師学研究,5・6 併号,1-12. 淵上克義・小林川裕子・下津雅美・棚上奈緒・西山久
子(2004)学校組織における意志決定の構造と機能
に関する実証的研究(Ⅰ).岡山大学教育学部研究集
録,126,43-51. 文部科学省(2009a)特別支援学校学習指導要領解説 総則等編. 文部科学省(2009b)特別支援学校 小学部・中学部学
習指導要領・高等部学習指導要領. 長沼俊夫(2010)特別支援学校(肢体不自由)の教員の
専門性が機能し向上するための3つの視点.肢体不
自由のある子どもの教育における教員の専門性向上
に関する研究 研究成果報告書.国立特別支援教育
総合研究所,41-45. 西川公司(2008)肢体不自由教育の歴史と理解,筑波
大学附属桐が丘特別支援学校(編著),肢体不自由教
育の理念と実践,ジアース教育新社. 佐古秀一(1996)学校の組織特性と教師, 蘭千壽・古
城和敬(編著),教師と教育集団の心理.誠信書房,
154-175. 土」の分散分析では、
「支え合いによって職務意欲
が保てる職場風土」の「高群」に属する教師の協
働的効力感、5因子全てが「低群」の教師よりも
有意に高いことが認められた(表2)。「多様な意
見を交わせる職場風土」の分散分析では、
「多様な
意見を交わせる職場風土」の「高群」に属する教
師の協働的効力感、5因子全てが「低群」の教師
よりも有意に高いことが認められた(表3)。 Ⅳ 考察 障害が重度・重複化、多様化している現在、重
度・重複障害児担当教師の協働的な教育活動を高
めていくためには、重度・重複障害児担当教師の
協働的効力感である「お互いの立場の尊重」が高
く求められていると推察される。さらに、重度・
重複障害児の教育は幅広い教職経験年数の教師が
ともに教育にあたっている実態が明らかになった
○18-1
聴覚障害特別支援学校の生徒における規範意識に関する調査研究
金子 智樹
*
Ⅰ
問題
規範意識の低下は、規則やマナーを守らない子
質問項目は、以下の通りである。
1)きまりやマナーの知識(13 項目)
どもの増加を招いている。平成 19 年の学校教育
規範意識に関係するきまりやマナーについ
法では、第 21 条において、規範意識を育むこと
ての知識を「知っている」
「知らない」の 2 件
などが義務教育の目標として新たに規定された。
法で尋ねた。
特別支援教育においても、主体的に社会の形成に
2)きまりやマナーに関する経験(14 項目)
参画するため、生徒が自他の生命を尊重し、自分
規範意識に関係する生徒の経験について知る
の将来を考え、法やきまりの意義の理解を深める
ため「よくある」
「ときどきある」
「あまりない」
配慮が必要(文部科学省,2009)と述べられている。
「まったくない」の 4 件法で尋ねた。
聴覚障害生徒は、学力や言語習得上の問題、コ
3)慣習的価値への態度(12 項目)
ミュニケーション上の制約により社会的規範や道
規範意識に関係する生活信条、一般道徳につ
徳理解に困難があり(中野・根本,2006)、社会規
いて「とても大切」
「大切」
「少し大切」
「大切で
範や道徳規範の発達に課題があるものがいる(中
ない」の 4 件法で尋ねた。
野・斉藤,1996)。そこで、聴覚障害生徒の規範
意識を育成するために、
規範意識の現状を把握し、
4)言い訳条件付加での規範意識(12 項目)
「言い訳条件」が付いた場合に規範意識の低
規範意識を高めるための要因を検討することは意
い行動に対して、
どの程度悪いと思うのかを「悪
義のあることだと考える。
くない」「あまり悪くない」「少し悪い」
「悪い」
Ⅱ
の 4 件法で尋ねた。
目的
聴覚特別支援学校に在籍する中学部・高等部生
なお、ここでいう「言い訳条件」とは、規範
徒の規範意識の特徴を明らかにし、聴覚特別支援
意識の低い行動に対して悪さの意識を軽減させ
学校生徒の規範意識を高めるための要因や行動に
るような状況要因のことである。
ついて検討する。
Ⅲ
方法
1 調査対象
全国の聴覚特別支援学校から地域に偏りが出な
5)規範意識の内面化について
規範意識の低い行動に対して、悪いと判断す
る理由を尋ねることにより、何によって規範が
内面化されているかを探る項目である。
いように考慮して 30 校を抽出し、中学部・高等
Ⅳ 結果及び考察
部に在籍する生徒を対象とした。
1 回収率
2 調査方法
郵送法による質問紙調査を実施した。
3 調査期間
2012 年 10 月~11 月
4 調査項目
(12 項目)
質問紙を送付した聴覚特別支援学校 30 校(1038
名)のうち、
回答のあった学校数は 17 校(56.7%)、
生徒数は 555 名(53.5%)であり、うち有効回答数
は、536 名(51.6%)であった。
2 きまりやマナーの知識
総 務 庁 青 少 年 対 策 本 部 (1988 , 1993) 、 高 野
きまりやマナーの知識は、
「知っている」と回答
(1989)、栃木県総合教育センター(2011)を参考に
した割合が多く、
「知っている」の割合が 95%を
してフェイスシート及び質問項目を作成した。
超えた項目が 13 項目中 10 項目あった。聴覚障害
○18-2
生徒は、きまりやマナーについての知識をしっか
変わっても学校が変わらないので、環境の変化が
り身につけていることが示唆された。
少ないことが影響しているのではないかと考える。
3 きまりやマナーに関する経験
5 言い訳条件付加での規範意識
聴覚障害生徒は、
「家族に挨拶をする」
の項目で、
このカテゴリーには、
「迷惑をかけていないから
「よくある」
「ときどきある」の合計が、中 2 が
夜遅くまで遊ぶ」
「先に叩かれたので叩く」等の合
80.0%、高 2 が 80.9%であった。長崎県教育セン
理化された言い訳条件に当たる質問項目が 4 項目
ター(2008)が一般生徒に実施した先行研究では、
含まれていた。合理化された言い訳とは、侵害の
中 2 が 70.1%、
高 2 が 68.3%という結果であった。
否定や相手への非難等を言い訳にする場合で、
「誰
聴覚障害生徒は、一般生徒よりも家庭で挨拶を良
にも迷惑がかからないので」
「みんながいけないの
くしており、学年に関わらず挨拶する割合が高い
で」というような内容である。
傾向が得られた。
物事を一面的ではなく多面的に見て柔軟に判断
また、
「意見が合わないときでも家族が意見を聞
できることは、社会的成熟度が高く望ましい(総務
いてくれる」の項目では、
「よくある」
「ときどき
庁青少年対策本部,1995)とされているが、合理
ある」の合計が、中 2 が 63.5%、高 2 が 62.6%で
化の言い訳条件あり・なしにおいて結果に差が見
あった。栃木県総合教育センター(2011)が一般生
られなかった。この結果は、言い訳条件が付加さ
徒に実施した先行研究では、中 2 が 78.9%、高 2
れても規範意識に緩みが生じないということと、
が 74.1%であり、聴覚障害生徒の方が低い数値と
融通が利かないという 2 つの意味があると考えら
なった。
れる。聴覚障害生徒は、適応性に欠ける(南出,
4 慣習的価値への態度
1991)性格特性があると述べられており、その影
規範意識の低さを反映する「非行を許容する文
響もあるのではないかと考える。また、言い訳条
化の項目」
(
「人にいいところを見せる」
「指示を受
件付加での規範意識においても、学年の上昇に伴
けない」
「将来より今を楽しくやる」の 3 項目)
って規範意識が低下する傾向は見られなかった。
について、
「とても大切」
「大切」と回答した割合
6 規範意識の内面化
は、
「人にいいところを見せる」52.7%、「指示を
法律に触れるような重大な違反と考えられる
受けない」38.4%、
「将来よりも今を楽しくやる」
「万引きをする」
「タバコを吸う」「お酒を飲む」
64.9%であった。一方、総務庁青少年対策本部
では、
「法律やきまりを破ることになるので悪い」
(1988)が一般生徒に実施した先行研究では、
「人に
という、法律による規範の内面化がされていた。
いいところを見せる」17.8%、
「指示を受けない」
慣習的に守られている行為や校則違反に該当す
25.1%、
「将来よりも今を楽しくやる」41.5%であ
る行為と考えられる「夜遅くまで遊ぶ」
「悪口を言
り、一般生徒よりも聴覚障害生徒のほうが「とて
う」
「遅刻をする」では、
「先生に悪いと言われた
も大切」
「大切」と回答している割合が高かった。
ことがあるから悪い」や「それをすると怒られた
一方でこの項目以外では、聴覚障害生徒の方が一
り、罰があるから悪い」といった、先生や罰によ
般生徒よりも規範意識が高い傾向が見られた。
る規範の内面化の割合が高くなっていた。聴覚障
また、一般生徒は学年の上昇に伴って規範意識
害生徒は、その行為が法律に触れるような重大な
が低下する傾向がある(廣岡・横矢,2006)と述べ
違反であるのか、慣習的に守られている行為であ
られているが、聴覚障害生徒ではそのような傾向
るのか、校則違反に該当する行為であるのかによ
が見られなかった。滝(2006)は、異学年交流によ
って、規範の内面化が異なると考えられる。
って上級生に自覚や責任感が育まれると述べてい
7 対象群間の比較
る。特別支援学校は、異なる学部が併置されてい
きまりやマナーの知識(13 項目)を除いた 50 項
るため、異学年交流が容易であることや、学部が
目について、性別とインテグレーションの経験の
○18-3
有無により群を分け、2 群間で t 検定を行った。
Ⅴ まとめ
有意水準 5%以下で、性別では、50 項目中 17 項
先行研究から、聴覚障害生徒の規範意識が低い
目、インテグレーション経験の有無では、50 項目
可能性が示唆されていた。しかし、今回の結果か
中 6 項目に有意差が見られた。性別による比較で
ら、
きまりやマナーを知識として身に付けており、
は、有意差が見られた 17 項目は、すべて女子の
一般生徒と比べても規範意識が低いとは言えない
方が規範意識が高いことを示す結果であった。先
ことがわかった。
行研究において、臼井・橘川(2007)が、中学生の
聴覚障害生徒に見られる規範意識の主な特徴とし
規範意識は女子よりも男子の方が規範意識の低下
て、以下のことが言える。
がおこりやすいと述べている点と一致していた。
・ 学年が上昇しても規範意識が下がらない。
インテグレーションの経験の有無では、インテ
グレーション経験のある生徒は、規範意識が高い
が、きまりに対して受動的他律的な考えを持つと
・ 非行を許容する文化に肯定的である。
・ 言い訳条件が付加されても規範意識に緩みが
生じない。
いう結果が示された。インテグレーション経験に
・ インテグレーション経験のある生徒は、規範
より聴者の世界とろう者の世界のどちらにも馴染
意識が高いが、きまりに対して受動的他律的
みきれず、
中途半端な第三の存在場所が誕生して、
な考えを持つ。
アイデンティティ形成に問題が生じるものがいる
また、高い規範意識につながる要因として、家
(上農,2003)ことや通常学校での授業が分から
族が学校や先生のことをほめる環境、家族に挨拶
ない経験、コミュニケーションがスムーズにでき
をする、いじめの傍観者にならない、教室のゴミ
ない経験が影響しているのではないかと考える。
を拾うが見出された。
8 規範意識を高めるための要因や行動
文献
クロス集計の結果、以下の 4 点が示された。
・ 生徒の家族が学校や先生をほめる割合が高い
と挨拶や家庭学習をする割合が高い。
・ 家族に挨拶をする生徒は、目上の人に礼儀正
しくすること、親や先生の注意に従うこと、
校則を守ることを大切に思っている割合が高
い。
・ いじめをとめない生徒は、ゴミをポイ捨てし
たり、友達の悪口を言う傾向がある。
・ ゴミを拾わない生徒は、学校に遅刻したり、
ゴミをポイ捨てしたり、電車やバスで騒ぐ傾
向がある。
結果から、学校と家庭が連携して良好な関係を
築いていくことで生徒の規範意識を高められると
考える。
学校教育では、
いじめの傍観者とならず、
いじめを認めないという意識を持った生徒を育て
ることが重要だと示された。また、生徒の規範意
識の実態を知る手掛かりの一つとして、教室に落
ちているゴミをきちんと拾っているかどうかを把
握することが有効であると示唆された。
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19-1
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
(あける)
発話が困難な状態にある一全盲児の音声表出に関する研究
-副題-(副題がない場合はあける)
氏名は明朝 10.5po, 姓と名の間一字あけて右寄せ)
( 柄澤 安喜子
(あける)
Ⅰ 問題と目的
視覚障害児の発達の困難として、自発性や積極
覚以外の感覚や運動機能に困難は見られない。両
親以外への自発的な働きかけはほとんど見られず、
性が育ち難いという問題(五十嵐,1993)や、外界
他者に対しては自ら言葉を発することはまれで、
への関心が育ち難く、
発達の滞りが生じる (猪平,
様々なイントネーションをつけて「うん」と返事
2005)ということが指摘されている。天野(1990)
をしている。感情表出は豊かで、笑顔や困った顔な
は、子どもの言語発達において、発達に作用する
どの表情、情動に伴った手足の動きが見られる。
聴覚や視覚、運動障害などの器質的な障害がある
かかわり手 A・B は M が小学部6年生時から、
場合には、種々の言語障害や言語発達遅滞の原因
かかわり手 C・D は小学部5年時から教育相談に
となると述べている。以上のことから、視覚的情
参加している大学院学生である。
報の入手に困難がある視覚障害児にとって言語発
2
20XX 年 12 月 13 日、20XX+1 年1月 10 日、
達は課題といえる。
障害を持つ子どものコミュニケーションにおい
資料収集の方法と対象場面
2月 14 日にかかわり手と M のやりとりにおいて、
て、表出方法が制限されることや発信の困難から
M の発声が多かった来所の場面、課題の場面のぽ
かかわり手が理解し難いことによって受信側にな
っち取り、タイル入れ、スライディングブロック
る事が多い(徳永,1995:土谷,2006)
。そのため、
の活動 12 セッションにおける M とかかわり手の
かかわり手が子どもの体調の変化や表情、声、体
やりとりを対象とした。ビデオ記録はやりとりの
の向きの変化、自発的な行動などを細かく感じ取
様子が分かり、全体が映るように配慮してビデオ
り、それらに意味を見出していくことが必要とさ
カメラで撮影した。音声については、M にワイヤ
れている(鯨岡,1990;中澤,2001;土谷,2006)
。
レスマイクを付け、IC レコーダーで録音した。
音声によるコミュニケーションの中のパラ言語
3
資料分析の視点と方法
について石井・石黒・萩田(2006)は、円滑なコ
資料分析は以下の5点について行った。IC レコ
ミュニケーションを実現するには、言語情報の理
ーダーで録音した M の音声表出を基に①聴覚的
解と発話の意図や態度、感情を表現しているパラ
に分類した聴覚的分類項目を作成し(表1)、M
言語を抽出し、理解していくことが重要性である
の音声表出について分類を行った。また、ビデオ
と述べている。
記録を基に②トランスクリプトを作成した。この
以上のことから、本研究では発話が困難な状態
トランスクリプトを基に、③かかわり手の働きか
にある先天性全盲児の音声表出について、パラ言
けについて、三宅ら(1973)のカテゴリーを参考
語情報の観点から音声表出を聴覚的に分類し、表
に新たに<翻訳><存在の知らせ><状況の説明
出の種類を明らかにすること(目的1)及び、発
>を加えて作成したかかわり手の働きかけのカテ
話が困難な状態にある先天性全盲児のかかわり手
ゴリー(表2)を用いて、どのような働きかけを
からの働きかけに対する音声表出の特徴について
行っているのかを分析した。さらに、④生起頻度
明らかにすること(目的2)を目的とした。
が高い働きかけに対する M の応答と、生起頻度が
Ⅱ
方法
高い M の聴覚的分類項目に対する働きかけにつ
1
対象児
いて分析し、⑤その関係性についても分析した。
発達に困難のある視覚障害(全盲)の M。研究
開始当時、盲学校小学部6年に在籍していた。視
19-2
学位論文発表会用抄録ひな形
表1 聴覚的分類項目
声の長さ
l(長)
m(中)
Hl↗ Hm↗
Hl→
Hm→
Hl↘ Hm↘
Ml↗
Mm↗
Ml→
Mm→
Ml↘
Mm↘
Ll↗
Lm↗
Ll→
Lm→
Ll↘
Lm↘
1)
H
(高)
2)
声
の
M
高
(中)
さ
3)
L
(低)
(発表順とページを挿入すること↑)
s(短)
Hs↗
Hs→
Hs↘
Ms↗
Ms→
Ms↘
Ls↗
Ls→
Ls↘
1)↗は語尾が上がる
Ⅲ
結果と考察
1
対象児の音声表出の特徴
M の音声表出の使い分けについて、全ての項目
が生起するわけではなく、Hs→、Mm→、Mm↘、
Ms→の生起頻度が高かった(図1)。かかわり手
との関係でみると、共通して Mm→、Ms→の生
起の生起頻度が高いものの、
かかわり手 C と D に
対してはほぼ同様の表出項目のパターンであった。
さらに、活動種では違いがあるものの、共通して
2)→は語尾が平坦
3)↘は語尾が下がる
Mm→、Mm↘、Ms→の生起頻度が高く、生起頻
度の高い項目はほぼ共通していた。以上のことか
表2 かかわり手の働きかけのカテゴリー
上位カテゴリー 下位カテゴリー 内容
Ⅰ
要請
相手の援助・協力を求めることば
指示・命令
相手に特定の行動を求める
注意・禁止
相手の現在の行動の修正や終了を求める
提案・誘い
相手に自分の考えを伝え相手の意見、意思を求める
質問
呼びかけ
問いかけ、相手の説明・返事を求める
相手のことばを聞き取れなかったり理解できなかったときに相
手の再発話を求める
何かを言うことによって相手の注意を喚起する
提示
何かをさしだすことによって相手の注意を喚起する
受容・承認
相手の働きかけや反応に対する肯定・承認・賛成
了解
返事
相手の働きかけや反応に対して理解できたことを示す。
相手の働きかけに対して不賛成やひきうけたくない気持ちを示
す
相手の働きかけに対し拒絶はしないが曖昧にし核心をわざと
はずそうとする
相手の問いかけに対するうん、はいなど肯定否定
説明
相手の問いかけに対する解答・説明
あいづち
相手の発話に対する軽いうなづき
賞賛
相手の行動に対するほめ
批判
相手の行動所産に対して否定的内容をのべる
教示
相手に新しい知識や情報をあたえる
誘導
相手をある課題を解決する方向に導く
確認
相手の気持・了解度をたしかめる
報告
過去・現在・未来についてあるがままにのべる
意思・主張
自分のしたいことを考えをのべる
訴え
自分で不可能だったこと・不可能そうなことをのべる
疑問
自分でよくわからないことをつぶやき的にのべる
独語
相手に伝達する意図をもたないことば
感嘆
感動・感情・驚嘆を示すことば
反復・模倣
相手のことばをそのまままねをしていうことば
かけ声
動作に付随することば
歌
うた・はなうた・独語
翻訳
Mがしたことをことばにして返すことば
存在の知らせ
誰がきたかを伝えることば
状況の説明
今どんな状況なのかを伝えることば
聞き返し
Ⅱ
拒否
消極的返事
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
※Ⅰ…相手からの何らかの反応を期待して発話されるもの
Ⅱ…相手の何らかの働きかけに対して発話されるもの
ら、M の音声表出は4種類の項目を多用し、かか
わり手との関係でその頻度を変えているものの、
活動種によって変わらないことが明らかになった。
2
かかわり手の働きかけの特徴
かかわり手のカテゴリーは全体的に M に対し
ては、状況を伝える<状況の説明><報告><翻
訳>、行動を要求する<指示・命令><提案・誘
い><誘導>、注意を喚起する<呼びかけ>、行
動を認める<受容・承認>の8パターンのカテゴ
リーが多く生起していた(図2)。それに対し、否
定的な働きかけや相手の発話をもとにする働きか
けのカテゴリーは生起しておらず、Mに対して行
っていないことが明らかになった。
かかわり手ごとでは、共通して<状況の説明>
と<呼びかけ>の生起頻度が高かった。その中で
も A と B は<指示・命令><報告>といった行動
の要求や状況を伝える働きかけが高く、C と D は
<提案・誘い><賞賛><翻訳>と言った行動の
提案や誘うような働きかけと、M の行ったことを
伝えるたり褒める働きかけの生起頻度が高くなっ
Ⅲ・Ⅳ…必ずしも相手の働きかけを期待せず、相手の働きかけを必要としない発話
Ⅴ…周囲の状況やMの状況を説明するもの
た。こうしたことから、かかわり手によってMに
対する働きかけに特徴があるといえる。
(回)
700
700
600
600
500
500
400
400
300
300
200
200
100
100
0
0
(%)
図 1 各項目の総生起回数
図 2 かかわり手のカテゴリーの総生起回数
19-3
学位論文発表会用抄録ひな形
活動ごとでは、共通して<指示・命令><呼び
(発表順とページを挿入すること↑)
Ⅳ
全体考察
Mは聴覚的分類項目の生起頻度の高い4項
かけ><報告><状況の説明>の生起頻度が高
かった。その中でも来所は<指示・命令>の生起
目を主に使用してコミュニケーションをとっ
頻度が高く、移動や身支度、活動の確認などが
ていることが明らかになった。また、かかわり
あることから、直接行動を要求する働きかけが
手の働きかけとMの音声表出の関係から、受容
特徴と考えられる。学習課題のぽっち取りでは
的な働きかけに対しては音声表出していない
<指示・命令>が高く、タイル入れは<指示・
ことが明らかになった。また、周囲の状況を伝
命令><提案・誘い><誘導>が高く、特に<
えることや行動要求、注意喚起の働きかけが多
誘導>の生起頻度が高かった。スライディング
いことは、Mの実態として他者に自ら働きかけ
ブロックでは、<指示・命令><提案・誘い>
ることが少ないことや全盲であり周囲の状況
<状況の説明>が高く、その中でも<提案・誘
が把握し難いためと推察できる。本研究で行っ
い><状況の説明>の生起頻度が高かった。タ
た量的な観点からではMの表出の意味を見出
イル入れとスライディングブロックは行動を
すことは出来なかったが、Mの自発的な表出で
誘うような働きかけが多いことが特徴と考え
ある音声表出とかかわり手の働きかけを合わ
られる。その中でも、スライディングブロック
せて検討していくことは、Mの音声表出の種類
は見本に合わせて操作する複雑な活動がある
と使い分けについて明らかにしていく上で有
ため、他の活動に比べて<状況の説明>が最も
効であったと推察される。
多く生起することが特徴と考えられる。
Ⅴ
3
働きかけと音声表出の関係性
今後の課題
本研究では、M の音声表出を応答の意味として
かかわり手の働きかけで多く生起した8パ
抽出するまでには至らなかった。今後は全カテゴ
ターンのカテゴリーに対する聴覚的分類項目
リー、全聴覚的分類項目を対象とした分析と、か
の生起頻度では、カテゴリーによって違いはあ
かわり手の働きかけとして頻度の高い8カテゴリ
るが、全体的にHs→、Mm→、Mm↘、Ms
ーに対してその特性と関連させて M の4種の表
→の生起頻度が高くなっていた。その中でも、
出の意味のカテゴリー分析を進めるための新たな
<誘導>に対しては、Hs→、Mm↗、Mm→、
手法を開発する必要がある。
Ms→が高く、この4項目を使い分けているこ
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とが分かる。また、<受容・承認>では、ほと
んどの聴覚的類項目が生起しておらず、働きか
けに返答をしない<返答なし>が突出して生
起していることから、<受容・承認>の働きか
けに対しては、Mは音声表出で返答していない
ことが明らかになった。
逆に、聴覚的分類項目で多く生起した4項目
に対する働きかけのカテゴリーの生起頻度で
は、どの項目においても<状況の説明>に対し
ての生起頻度が突出して生起していたが、全体
的にどの働きかけのカテゴリーにおいても、M
の音声表出の多い4項目(Hs→、Mm→、Mm
↘、Ms→)を使い分けて表出していることが示
された。
20-1
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
(あける)
重度の肢体不自由で視機能に困難のある重複障害児の
手によるものへの接近行動に関する事例的研究
草柳 翔平
(あける)
Ⅰ 問題及び目的
視覚障害のある子どもは、視覚的刺激を受容
されている。視覚障害と診断されていないが、視
機能に困難があると推察される。
しにくく、周囲の環境に対する情報の乏しさか
2 資料収集の方法
ら、周囲の状況の把握や体の動きに制約がある
1)実施期間
(杉山・森・猪平・柿澤,2011;ウォーレン, 1998)。
B特別支援学校のA児の教室及びその隣の教室
加えて、肢体不自由のある重複障害児や心身
で実施した。研究の期間は 20XX 年 11 月中旬から
に障害のある子どもは、姿勢などの身体的理由
20XX+1 年 10 月中旬まで、週1回から2回程度
の他に、知的障害の重篤なことから自発的に手
活動を実施した。
足を動かすことが困難である(岡本・中
島,1997;境・佐藤・槻木・奈良・仙石,1996)。
そこで、重度の肢体不自由や視覚障害児の接
記録については、各セッションをビデオ録画し、
資料として収集した。
2)資料分析の視点
近行動を促進するために、リトルルームという
手伸ばしの全生起回数、平均生起回数、ものご
箱 型 の 教 材 が あ る 。 Dunnett(1997) や
との生起頻度、位置による生起頻度、左右別の手
Nielsen(1992)によると、リトルルームは様々
伸ばし生起頻度、ものと位置による手伸ばし生起
な興味を起こさせるものを天井などにゴムヒモ
頻度に関する分析を各セッションの概要も加えて
で備えつけられる。そして、子どもが中に備わ
行った。
っている触覚や聴覚、視覚を刺激するものに触
3)研究で使用するものの選定について
れ、刺激を受けることで喜びを感じ、動きが活
(1)目的
発的になると述べている。
また、机座位での接近行動の促進を目指す上
で、ポジションボードというボード型の教材が
本研究で使用するものを選定するため、A児の
興味のあるものを明らかにした。
(2)条件
ある。Nielsen(1992)によると、ポジションボ
A児が仰臥位の状態のときに、左手に
ードは大きな1枚板にリトルルームと同様に複
Nielsen(1992)が使用したものを参考に、聴覚的
数のものを設置することができる。子どもは、
なもの、触覚的なもの、振動するもの、光のある
車椅子に座った状態で手の活動を進め、机上で
ものを1つずつ渡し、A児が手に持ってから離す
も学習することができると述べている。
までの持続時間を測った。
以上のことから、本研究では、重度の肢体不
(3)結果
自由と視機能に困難のある重複障害児に対し、
表1に示す通り、鈴、エクステ、電動歯ブラシ
リトルルーム及びポジションボードを用いた活
が同程度の時間であったため、使用するものとし
動を行うことが、手による接近行動の促進を促
た。また、光に対しては興味を示さなかった。
す上で有効であることを事例的に明らかにする
4) 手続き1 リトルルーム活動
ことを目的とした。
(1)目的
Ⅱ
方法
1 対象
リトルルームを用いて、仰臥位における手伸ば
しの促進を明らかにした。
B特別支援学校に通う小学部3年生A児である。 (2)条件
脳原性上肢機能・移動機能障害、小児マヒと診断
1セッションの時間を 20 分間とし、12 セッシ
20-2
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
実施計画2では、1セッションの時間をA児が
表1 研究で使用するものの選定の結果
聴覚的なもの
触覚的なもの
振動するもの
計量スプーン
12:45
楽器の鈴 7:09
タンバリン 3:17
そろばん 3:13
鉄アレイ型の玩具
2:36
鈴
0:53
カスタネット
0:28
カーラー 1:28
エクステ 1:13
マッサージ機 2:52
電動歯ブラシ 1:08
9つ全てのものを取るまでとしたため、時間は固
定せずに行い、①実施計画1から、A児がものを
取る頻度が高かった位置の順序に沿って1つずつ
かかわり手が置いて、A児に取ってもらう。②3
ョン行った。リトルルームにおけるものの配置は
分間ほどずっと持っているようなら、かかわり手
以下の通りである。
が預かり、かごに入れる。③3分間経っても取ら
①ものの選定の結果から、A児の好きな各感覚に
なかったら打ち切り、ガイドして一緒に行う。④
働きかけるものと同じものをそれぞれ3個ずつ
再び①と②又は③を行い④を繰り返す。⑤実施計
用意し、縦横同じ特徴のものが並ばないようにリ
画1で取り残したところはA児の肘の近くからも
トルルームの左右中央に配置する。②ものの配置
のを置いていき、ガイドした。
は、各感覚に働きかけるものがランダムになるよ
電動歯ブラシ、鈴それぞれを 25~28 セッショ
うに3回位置を変えて行った。
ンまで実施計画1を行い、29、30 セッションは実
5) 手続き2 ポジションボード(対面)活動
施計画2を行った。そして再び実施計画1を 31
(1)目的
~34 セッション行い、計 10 セッションで、研究
ポジションボードを対面に用いて、机座位にお
実施計画2の前後の手伸ばしの頻度を比較した。
ける手伸ばしの促進を明らかにした。
Ⅲ
(2)条件
1 リトルルームでの活動
手続き1と同様の配置で 12 セッション行った。
結果と考察
手続き1では、図1に示した通り、6セッショ
異なることとしては、ポジションボードを書見台
ン目まで徐々に手伸ばしの生起回数が増えたこと
のように立てて机上に設置し、
ゴムヒモではなく、
から促進されたと言える。
マジックテープを使用した。そして、A児がもの
しかし、7セッション目からは手伸ばしに差が
を落とした場合、
「元の場所に戻すね」とかかわり
出てしまったが、図2のように、12 セッションの
手が言って行った。
活動を前半後半に分けて平均生起回数で表してみ
6) 手続き3 ポジションボード(平面)活動
(1)目的
(頻度:回)
30
25
20
ポジションボードを平面に用いて、机座位にお
ける手伸ばしの促進を明らかにした。
(2) 条件
15
10
5
0
1
2
3
条件は2つあり、以下の手順で進めた。
実施計画1では、1セッションの時間を 20 分
間とし、①ポジションボードの9つ全ての場所に
4
5
6
7
7
8
9
セッション
10 11 12
図1 手伸ばしの全生起回数
(頻度:回)
16
14
12
10
手続き1と2の結果を踏まえて、電動歯ブラシ及
び鈴の2種類をそれぞれ同じものを用意して提示
8
6
4
2
0
前半(1~6)
する。②A児に自由に取ってもらう。③3分間ほ
後半(7~12)
(セッション)
図2 手伸ばしの平均生起回数
どずっと持っているようならかかわり手が預かり、
(頻度:回)
かごに入れる。④②と同じく様子を見る。(連続し
35
手伸ばし回数
30
取った回数
て取る動きがある場合は②、③、④を繰り返す)
25
⑤3分間経っても取らなかったら打ち切り、ガイ
20
15
10
5
ドして一緒に行った。
0
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
図3 手伸ばしの全生起回数
23
24
(セッション)
20-3
学位論文発表会用抄録ひな形
(発表順とページを挿入すること↑)
ると、7セッション目以降は6セッション目まで
の前半に比べて手伸ばしの回数が多くなったため、
手続き1の活動は有効であると言える。
3 ポジションボード(平面)での活動
手続き3の活動は、図4に示した通り、実施計
画1での手伸ばしの生起回数は実施計画2を行っ
この結果について、A児が仰臥位で身体を自由
た後も含め、回数を重ねるごとに増加し、自力で
に動かせたことと、リトルルームのゴムヒモにつ
取る回数も増加した。平均生起回数も図5に示し
いたものが身体に触れることで、A児が手を伸ば
た通り、自力で取ったもの、ガイドして取れたも
して取っていた様子があったため、身体を自由に
の両方とも増加した。また、図6に示した実施計
動かせた姿勢とゴムヒモが、手伸ばしを誘発とし
画2の結果も回数が増加したことから、手続き3
たと考えられる。
での活動を行うことは有効であると言える。
2 ポジションボード(対面)での活動
これは、かかわり手がガイドすることで、A児
手続き 2 の活動は、図3に示した通り、16 セッ
が手を使用する意識とポジションボード内に配置
ション目が特異的に伸びたが、手伸ばしの生起回
されたものの範囲を把握することができることか
数が 19 セッション目まで増えていく傾向が見ら
ら、手伸ばしが促進されたと考えられる。
れた。しかし、20 セッション目以降は手伸ばしの
Ⅳ
総合考察
回数が減っていった。また、取る回数も最後まで
3つの活動の結果を比較すると、手続き1、手続
増えることはなかったことから、手伸ばしは促進
き3の活動は、A児の手による接近行動が促進さ
されなかったと言える。
れたと言える。それは、手続き1の活動では、仰
この結果について、ポジションボードは、リト
臥位の姿勢で行うことでA児が身体を自由に動か
ルルームと異なり、姿勢も車椅子に固定され、前
せたという姿勢の影響や、リトルルームのゴムヒ
に手を伸ばさない限り触れられないため、手伸ば
モと、ポジションボード(平面)での、かかわり
しが促進されなかったと考えられる。それでも、
手がA児と一緒にガイドをしたというもののつけ
手を伸ばす様子は少なからず見られたため、手を
方やガイドの入り方が要因だと考えられる。
意識して伸ばせるよう改善することで、手による
Ⅴ
接近行動が促進されるのではと考えられる。
(頻度:回)
10
ガイドして取ったもの
今後の課題
手の接近行動の効果があまりなかった手続き 2
の活動は、手続き 3 のように、かかわり手がA児
自力で取ったもの
8
をガイドして行うことで、手による接近行動を促
3
6
4
2
4
進させることができるのではないかと推察される。
0
4
4
2
0
4
2
0
2
0
1
25
26
27
28
5
31
文献
6
4
4
32
33
34 (セッション)
図4 実施計画1の手伸ばし全生起回数
(頻度:回)
5
4.5
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
4.75
前半(25~28セッション)
後半(31~34セッション)
2.5
2.75
1.25
自力で取ったもの
ガイドして取ったもの
図5 手伸ばしの平均生起回数
(頻度:回)
10
ガイドして取ったもの
9
自力で取ったもの
8
7
6
5
4
3
2
1
0
29セッション目 電動歯ブラシ
30セッション目 鈴
図6 実施計画2 の手伸ばし全生起回数
Dunnett (1997) Nielsen's little- room : It’s use with a young
blind and physically disabled girl. Journal of Visual
Impairment & Blindness, 91, 145-150.
Nielsen,L. (1992) Space and self, Active learning by means
of the Little Room. Sikon:Copenhagen.
岡本恵里・中島いずみ (1997) 重症心身障害児の機能回復への
援助-運動・感覚,言語,社会性の3分野の視点から. 小児看護,
20(12), 1699-1705.
境信哉・佐藤直子・槻木マキ・奈良進弘・仙石泰仁 (1996) 視
覚障害を伴う重症心身障害児に対する自発的活動の獲得援助スィッチ操作活動を通して. 北海道リハビリテーション学会,
24, 57-61.
杉山・森・猪平・柿澤 (2011) 肢体不自由・知的障害を併せ有
している視覚障害幼児の視覚活用への支援-視覚活用実態把握
表(試案)を活用した事例研究から. 弱視教育, 49(1),
13-21.
ウォーレン,D.H. (1998) 視覚障害と発達. 二瓶社, 27-29.
21-1
聾学校における聴覚障害を持った教師の役割に関する調査研究
楠八重 隼人
Ⅰ
問題
現在、聾学校に勤務している聴覚障害をもった
事、聴覚障害教師の授業を受けている中学部・高
等部の生徒を対象とし、それぞれに質問紙を郵送
教職員(以下、聴覚障害教師とする)は 301 名いる
した。
と報告されている(全国聴覚障害教職員協議会,
2
質問項目
2011)。職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害
質問項目は以下の通りである。
者雇用対策課(2012)の施策により、今後も、聴覚
①フェイスシート(聴覚障害教師、生徒)
障害教師は増えることが予想される。
②コミュニケーションに関する項目。聴覚障害教
全国聴覚障害教職員協議会(2010)は、障害のあ
師と児童生徒のコミュニケーションの成立や手話
る教職員の役割について以下を挙げている。①同
の指導についてを質問したものである。
じ障害のある児童生徒が自己の将来像を描く上で
③学校内のバリアフリーに関する項目(聴覚障害
の指針、②障害のない教職員との良き関係を示す
教師、主事)。学校内での聴覚障害によるバリアを
ことによる望ましい社会参加の関係モデルの提供、 どのように改善しているのかについて質問したも
③障害に応じた指導方法の工夫の実践と提案、④
のである。
当事者としての体験に基づいた保護者支援、⑤障
④障害認識やアイデンティティに関する項目、児
害に即した職場環境の整備とバリアフリーのモデ
童生徒のろう者としてのアイデンティティの形成
ルの提供、⑥個々の児童生徒に見合った多様なコ
について質問したものである。
ミュニケーションの提供、である。さらに、
「聴覚
また、聴覚障害教師、主事、生徒のそれぞれに
障害のある教員は、当事者としての経験と知見を
合わせて質問項目を選定した。
教育現場に反映させていく意味で聴覚特別支援学
3
期間
2012 年 2 月中旬から 3 月下旬。
校における中核的役割をになう位置にあり、また
今後の聴覚障害教育のありように影響を及ぼすも
Ⅳ 結果と考察
のである」と述べている。
1
回収率と有効回答数
しかし聴覚特別支援学校において聴覚障害教師
42 校(45.7%)から回答があった。学部主事は 42
がどのような役割を果たしているのかについての
校の 54 人、聴覚障害教師は 42 校の 57 人、生徒
調査はほとんど行われておらず、確かなことはわ
は 42 校のうち 27 校(29.3%)の 110 人からの回答
かっていない。そこで、聴覚障害教師の役割につ
を有効回答とした。
いてどのような状況であるのかを知ることは意味
2
があると考える。
較
Ⅱ
目的
聴覚障害教師群/学部主事/生徒群の群間比
聴覚障害教師の授業の分かりやすさについては
聴覚障害教師が聾学校において、どのような役
3 群とも 4~5 割が「どちらともいえない」と回答
割を果たしているかを明らかにし、聴覚障害教師
したが、その一方、3~5 割が「分かりやすい」と
の役割の在り方について考察する。
回答していた。特に生徒は「かなり分かりやすい」
Ⅲ
という回答が多かった。
「分かりにくい」と回答し
1
方法
対象
中学部と高等部を設置している聾学校 92 校の
聴覚障害教師と聴覚障害教師が所属する学部の主
た者はほとんど見られなかった。以上のことから
聴覚障害教師の授業はある程度「分かりやすい」
と評価されていると思われる(表 1)
21-2
表 3 聴覚障害教師による児童生徒へのろう者としての
表1 聴覚障害教師の授業の分かりやすさ
項目名
聴障教師
主事
生徒
かなり分かりやすい
9(15.8)
5(9.3)
32(29.1)
少し分かりやすい
16(28.1)
15(27.8)
27(24.5)
とてもそう思う
11(19.3)
24(44.4)
どちらともいえない
29(50.9)
31(57.4)
45(40.9)
少しそう思う
17(29.8)
20(37.0)
少しわかりにくい
2(3.5)
3(5.6)
4(3.6)
どちらともいえない
22(38.6)
8(14.8)
かなりわかりにくい
0(0.0)
0(0.0)
1(0.9)
あまりそう思わない
4(7.0)
1(1.9)
未記入・不明
1(1.8)
0(0.0)
1(0.9)
全くそう思わない
2(3.5)
0(0.0)
57(100.0)
54(100.0)
110(100.0)
未記入・不明
1(1.8)
1(1.9)
(
)内は%
合計
57(100.0)
54(100.0)
合計
アイデンティティ形成の影響
項目名
聴障教師
表 2 聴覚障害教師による指導方法の提案の頻度
項目名
聴障教師
主事
5(8.8)
8(14.8)
時々提案している
28(49.2)
31(57.4)
めったに提案していない
11(19.3)
7(13.0)
全く提案していない
4(7.0)
その他
未記入・不明
いつも提案している
合計
主事
(
)は%
表 4 聴覚障害教師による体験談の児童生徒への影響
聴障教師
主事
生徒
とても参考になっている
16(28.1)
35(64.8)
54(49.1)
少し参考になっている
31(54.0)
10(18.5)
39(35.5)
4(7.4)
どちらともいえない
8(14,0)
8(14.8)
12(10.9)
4(7.0)
5(9.3)
あまり参考になっていない
1(1.8)
0(0.0)
2(1.8)
4(7.0)
1(0.2)
全く参考になっていない
0(0.0)
0(0.0)
0(0.0)
57(100.0)
54(100.0)
未記入・不明
1(1.8)
1(1.9)
1(0.9)
57(100.0)
54(100.0)
110(100.0)
(
)は%
項目名
合計
また、障害に応じた指導方法の工夫を自身の経
(
験をもとに実践し、提案もしているとの回答が 6
~7 割あり、評価されている傾向にある(表 2)。
個々の児童生徒に見合った多様なコミュニケー
)は%
生徒にとって、聴覚障害教師の体験談は、障害
認識やアイデンティティ形成につながるものでは
ないかと思われる。
ションモデルの提供に関しては、回答にばらつき
3
が見られ、聴覚障害教師自身のコミュニケーショ
1)所属学部間の分析
聴覚障害教師群内の比較
ン手段やコミュニケーションの相手の生徒等の要
聴覚障害教師は小学部群 17 人(29.8%)、中学部
因により、聴覚障害教師に個人差があると推測さ
群 9 人(15.8%)、高等部群 17 人(29.8%)にわけら
れた。
れた。
学校内のバリアフリーの整備への関与について
聴覚障害教師による授業の分かりやすさにおい
は学校による整備の必要性の有無に関係している。 て、小学部の聴覚障害教師の 7 割は評価が難しい
必要性がある学校では、聴覚障害教師の 5~7 割
ようであった。中学部と高等部の聴覚障害教師の
が積極的に関与していることが分かった。
5 割は分かりやすいと評価していた。指導方法の
生徒自身の障害認識やアイデンティティ形成の影
提案は、高等部の聴覚障害教師は 6 割が「提案し
響について、最も多く見られた回答は、聴覚障害
ている」と回答した。
教師では「どちらともいえない」(38.6%)であっ
対応手話や日本手話の指導について、小学部で
たのに対し、主事は「とてもそう思う」(44.4%)
は、日本手話より対応手話を教えている傾向があ
であった(表 3)。また、生徒は聴覚障害教師の体験
った。高等部では、逆に対応手話より日本手話を
談について「とても参考になっている」が 4 割超
教えている傾向が見られた。
と、最も多くが回答していた(表 4)。このことから、
学校内のバリアフリーの整備に関しては、全体
21-3
的に関与している傾向が見られた。特に小学部と
ニケーションの相手である生徒の関係により、ば
中学部の聴覚障害教師の 7 割は、入学式や卒業式
らつきが目立った。
等の学校行事において、積極的に関与しているこ
小学部に所属している聴覚障害教師は、授業の
とが分かった。
分かりやすさにおいて他の学部と比べ、
「どちらと
2) コミュニケーションモード間の分析
もいえない」という回答が最も多く、評価が難し
聴覚障害教師に日常的に使用するコミュニケー
いようであった。また、バリアフリーに関する項
ション手段について質問を行い、対応手話・日本
目において、入学式や卒業式等の学校行事におい
手話・口話群 31 人(54.4%)、対応手話・日本手話
て、積極的に関与している傾向が見られた。
群 9 人(15.8%)、対応手話・口話群 11 人(19.3%)
に分けて分析した。
児童生徒との手話や口話によるコミュニケーシ
ョンの成立について、
回答にばらつきが見られた。
対応手話・日本手話・口話の 3 種類を使用して
聴覚障害教師の役割のあり方について、全国聴
覚障害教職員協議会が挙げた役割はある程度果た
しているように思われた。
文献
我妻敏博(2008)聾学校における手話の使用状況
いる聴覚障害教師は、手話や口話によるコミュニ
に関する研究(3).ろう教育科学,50 (2),
ケーションは概ね成立し、対応手話と日本手話の
27-41.
指導もしていると回答した人が多かった。
4
職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対
生徒群内の聴覚障害教師による学級担任の経
策課(2012)障害者雇用が進んでいない 17 都道
験の有無
県の教育委員会に対して障害者採用計画の適正
生徒に聴覚障害教師に学級を担任してもらった
実施を勧告|厚生労働省 2012 年 3 月 30 日
ことがあるかを質問し、
「ある」と「今してもらっ
<http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520
ている」と答えた群(以下ある群)40 人(36.4%)、
「な
0000263m7.html>(2012 年 9 月 26 日)
い」と答えた群(以下ない群)66 人(60.0%)にわけら
れた。
全国聴覚障害教職員協議会(2010)文部科学省中
央教育審議会「特別支援教育の在り方に関する
障害認識やアイデンティティに関する項目につ
特別委員会」
への意見書|文部科学省 2010 年 1
いて、ある群とない群を比較したところ、大きな
0 月 22 日<http://www.mext.go.jp/b_menu/sh
違いは特に見られなかった。手話を使用する健聴
ingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1298642.htm
教師が増えたこと(我妻,2008)や、聴覚障害に対す
>(2012 年 3 月 26 日)
る理解が深まったこと、聴覚障害教師と健聴教師
全国聴覚障害教職員協議会(2011)SSKP 通巻.492
が協力し合って望ましい人間関係を築いているこ
5 号.全聴教第 5.18-19
とが児童生徒のろう者としてのアイデンティティ
形成に良い影響を与えているのではないかと思わ
れる。
Ⅴ
まとめ
聴覚障害教師は授業の分かりやすさ、学校内の
バリアフリーなどにある程度役割を果たしている
と思われた。特に生徒の障害認識やアイデンティ
ティの形成については、大きな影響力を持ってい
ると思われていることが分かった。
コミュニケーションに関する項目については、
聴覚障害教師のコミュニケーション手段やコミュ
22-1
(発表順とページを挿入すること↑)
(あける)
知的障害者入所施設における利用者主体の余暇活動の形成
-仲間同士での選択機会の設定-
斎藤 千晴
(あける)
Ⅰ 問題
暇活動となった。対象グループは、B 寮男子と C
余暇活動の充実は人の生活を豊かにし、知的障
寮男子であった。各寮の利用者数は 25 名(B1か
害者にとっても大切な活動の一つである。
しかし、
ら B25、C1から C25 さん)であり、平均年齢は
知的障害者入所施設(以下、施設)では、日課に
B 寮男子が 51.2 歳、
C 寮男子が 52.3 歳であった。
余暇活動の時間が設定されていても、職員配置の
知的障害の程度は重度の利用者がほとんどであり、
不足や多忙さにより、生活に欠かせない日課に支
話し言葉でやりとりできる利用者は少なかった。
援が多く割かれ、余暇活動の充足まで支援が行き
2 余暇活動の実態把握(アセスメント期)
届かない実態が推測される。施設での余暇活動の
エピソード記録での直接観察を2回ずつ行った。
充実を図るアプローチでは、
職員の支援に頼らず、
B 寮男子では継続してカラオケ活動、C 寮男子で
利用者が主体となって仲間と共に運営する集団で
は DVD 鑑賞や自由時間の活動が行われた。活動
の余暇活動を形成し、施設生活の日課として定着
中、
利用者同士のやりとりはほとんど認められず、
させる視点が重要である。
座っているだけの利用者も少なくなかった。
集団での余暇活動では、仲間同士のやりとりが
生じる。しかし、施設において集団での余暇活動
3 余暇活動の形成期
1)手続き
を設定するだけでは、利用者は職員とのやりとり
期間は約2か月半、B 寮男子は計 11 セッショ
によって活動を進め、利用者同士のやりとりは生
ン、C 寮男子は計 10 セッションであった。協議
じにくいと推測される。集団での余暇活動におい
の結果、活動内容は B 寮男子でカラオケ、C 寮男
て、仲間同士のやりとり機会を設定し、仲間が協
子でゲーム機を用いた太鼓ゲームとなった。B 寮
力して進行することで、職員の支援に頼らない利
男子では、アセスメント期から行われていた活動
用者主体の活動が形成されると考えられる。さら
を継続し、C 寮男子では新たな活動内容を設定し
に、主体的な参加を促すために、やりとりの一つ
た。各活動は、寮の談話室で準備や片づけを含め
である選択機会の設定が挙げられる。先行研究で
て約1時間で行った。余暇活動の形成期(以下、
は、集団での余暇活動の設定や利用者同士のやり
形成期)では、利用者の活動手続きの習得と支援
とりを促す支援方法、利用者同士での選択のやり
者とのやりとりの形成を目的とした。
とりや選択を提供する者への支援方法(Parsons
et al. , 1997)についての検討は十分でない。
活動を形成するために、談話室の物の配置と活
動の手続きの設定を行った。支援者は、活動の進
本研究では、知的障害者入所施設において、利
行役と選択機会の提供役(以下、提供役)を行っ
用者の主体的な活動参加や仲間同士でのやりとり
た。談話室の物の配置は、談話室の前方中央に活
や選択のやりとりを促し、利用者主体の集団での
動で用いる主要なカラオケ機器やゲーム機器、選
余暇活動を形成する。利用者の主体的な活動参加
択する場所の机と椅子を配置した。物を配置する
を促す活動の設定と仲間同士でのやりとりや選択
以外に、視覚的な手がかりは付加しなかった。聞
機会での提供と応答を促す支援方法を検討する。
き手には、鈴やタンブリン等の楽器を配布し、楽
Ⅱ
方法
器を演奏する活動を設定した。
1
支援対象と対象者
施設との協議の結果、支援対象は休日午後の余
活動の手続きには、2つのやりとり機会を設定
した。歌い手やプレイヤーの指名のやりとり機会
22-2
(発表順とページを挿入すること↑)
では、進行役が「歌いたい人/やりたい人は手を
動に毎回参加し、話し言葉でやりとりができた利
挙げてください」と発問し、利用者は挙手をして
用者 B7と C10 さんであった。支援者は、B7、
応答した。進行役は挙手した利用者を指名し、指
C10 さんに形成期で支援者が行っていた手続きを
名された利用者は立ち上がり前に出て応答した。
そのまま教示した。
歌う曲やプレイ曲の選択のやりとり機会では、提
支援計画Ⅱ期(以下、支援Ⅱ期)の期間は約1
供役と選択する利用者が「選択お助けツール」を
ヶ月、計5セッションであった。支援Ⅰ期の課題
介して選択のやりとりを行った。選択お助けツー
であった指名する利用者の偏りを改善するために、
ル(以下、ツール)とは、選択カード(以下、カ
B7さんにはまだ歌い手になっていない利用者を
ード)と選択ボードで構成された視覚的な手がか
職員に聞く手続きを設定した。C10 さんには、プ
りであった。カードには、曲名と曲に関連した写
レイヤーになった利用者の写真カードを箱に移す
真やイラストを示した。選択ボードは、複数のカ
手続きを設定した。また発音が不明瞭な C10 さん
ードを並べて同時に提示するためのものであった。 の進行役を手伝う役として C2さんを設定した。
カラオケでは 42 枚、太鼓ゲームでは9枚のカー
2)結果
ドを同時に提示した。提供者はツールを提示して
図1には C10 さんの進行役の自発率、図2には
「どれがいいですか」と発問し、選択する利用者
C10 さんの提供役の自発率を示した。支援Ⅰ期に
は自分の要求をカードを指さす選択反応で示した。 おいて、C10 さんの進行役と提供役の自発率は、
提供役は選択されたカードを手に取って提示し
支援者のプロンプトを遅延すると高く安定した。
「これでいいですか」と選択結果を確認した。
B7さんも同様であった。図1に示したプレイヤ
2)結果
ーの一人目の指名の課題項目について、支援Ⅰ期
両活動において、利用者には進行役の声かけに
では、13、17 セッションに仲間の支援ありによる
対する挙手や前に出るという応答行動の自発が認
生起が含まれた。C10 さんは発音が不明瞭であっ
められた。選択のやりとりでは、始めから支援な
たため、指名した利用者に応答が認められなかっ
しで選択反応が生起した利用者と選択反応を促す
た際に、近くにいる他の利用者から指名された利
支援が必要な利用者が認められた。選択反応を支
用者の名前を呼ぶ援助行動が生起した。支援Ⅱ期
援なしで生起する利用者は、セッションを重ねる
において C10 さんの手伝い役として設定された C
ごとに増加した。曲を選択した利用者は、選択し
2さんは、C10 さんへの援助行動を支援なしで自
た曲の活動を最後まで行った。
これらの経過から、
発的に生起できるようになった。C10 さんの支援
支援者と利用者のツールを介した選択のやりとり
Ⅱ期での自発率の平均は、支援Ⅰ期よりも高まっ
は形成され、利用者はツールを用いて自分の要求
た。支援Ⅱ期の自発率は、支援Ⅰ期に比べて仲間
に基づく選択ができるようになったと評価した。
聞き手は、楽器を演奏する活動と談話室に居る行
動を参加率として評価した。聞き手の参加率は、
セッションを重ねると高まる利用者が多かった。
4
支援計画Ⅰ期とⅡ期
1)手続き
支援計画Ⅰ期(以下、支援Ⅰ期)の期間は約1
ヶ月半、
計7セッションであった。
支援Ⅰ期では、
利用者同士のやりとりの形成を目的とした。形成
期で支援者が行っていた進行役と提供役を選出し
た利用者に移行した。選出した利用者は、余暇活
支援計画Ⅰ期
100
指導期
支援計画Ⅱ期
プロンプト遅延期
80
60
40
20
自
発 0
率
(
% 100
)
80
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
60
自発
□仲間の支援
あり
40
20
0
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
セッション
図1
C10 さんの進行役の自発率
上:
「やりたい人は手を挙げてください」と言う
下:一人目のプレイヤーを指名する
22-3
(発表順とページを挿入すること↑)
の支援ありの割合が大きく増加し、支援なしの自
形成期と同様のレベルで選択反応を維持する利用
発の割合は減少した。
者がほとんどであった。両活動の利用者の選択結
進行役への応答や聞き手の参加率は形成期と同
果は、形成期と支援Ⅰ期・Ⅱ期で同様の傾向が認
じレベルで維持された利用者がほとんどであった。 められた利用者がほとんどであった。利用者が提
進行役を利用者に移行しても、利用者の活動参加
供役であっても、選択する利用者は自分の要求に
は維持された。
基づく選択反応を生起し、ツールを介した利用者
支援Ⅱ期で設定した B7さんの職員に聞く行動
は、支援者の言語指示により生起し、自発は認め
同士の選択のやりとりが形成された。
Ⅲ 考察
られなかった。C10 さんのプレイヤーの一人目の
設定した仲間同士のやりとり機会は、進行役や
写真カードを箱に移す行動は、支援者の言語指示
提供役という役割行動を促すやりとりを含んでい
や指さしで生起し、自発は安定しなかった。しか
た。役割を含むやりとり行動を形成することで、
し、B7、C10 さんは支援計画Ⅰ期よりも多くの
支援者や職員の支援が減り、利用者主体の集団で
利用者を指名することができた。C10 さんの手続
の余暇活動を形成することができた。活動環境の
きは提供役のやりとりの前に追加され、その手続
物の配置では、多様な視覚手がかりを付加しなく
きが安定しなかったことから、提供役の自発率が
ても、カラオケ機器を談話室の中央に置く簡易な
支援Ⅱ期では支援Ⅰ期より低い割合で推移した。
物の配置を行うだけで、活動の起点を生じさせ、
図3には、B18 さんの選択反応と選択反応を促し
歌い手やプレイヤー、聞き手の役割活動の自発的
た支援行動を示した。B18 さんは、提供役が支援
な遂行を促すことができたと考えられる。
者から利用者に移行した支援Ⅰ期においても、形
利用者同士の選択のやりとりでは、ツールを用
成期で形成したカードを指さす選択反応の自発を
いることで、提供役の利用者は、話し言葉を用い
維持した。両活動において、B18 さんのように、
なくても複数の選択肢を同時に提示できた。選択
支援計画Ⅰ期
指導期
100
する利用者は、選択肢が提示され続けるため何度
支援計画Ⅱ期
も見て確認してから選択することができた。話し
プロンプト遅延期
80
言葉がなくても、カードを指さす選択反応を示す
60
40
ことで自分の要求を伝えることができた。仲間同
20
自
発 0
率
(
%
)100
80
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
士の選択のやりとりを促すには、話し言葉だけで
なく、選択肢が見てわかる形で残るツールを用い
60
た手だてが有効であると考えられる。
40
20
0
11
12
13
14
図2
15
16
17
セッション
18
19
20
21
22
提供役、選択する役という役割を担って余暇活動
に参加したことは、利用者のやりがいになり、活
C10 さんの提供役の自発率
上:「どれにしますか」と言う
下:選択されたカードを提示して「これでいいですか」と確認する
提供役:支援者
支援計画Ⅰ期
動参加の支えになったと考えられる。施設生活で
支援の受け手になることが多い利用者にとって、
提供役:利用者B7さん
余暇活動の形成期
利用者が歌い手やプレイヤー、聞き手、
進行役、
支援計画Ⅱ期
自分たちで決めたり、仲間のために役割を果たし
9
8
選7
択6
反
応5
の4
レ
3
ベ
ル2
1
0
たり、仲間と協力し合いながら行う集団での余暇
活動の形成は、余暇活動の充実と施設生活を豊か
1
図3
2
3-1 3-2 4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
セッション
B18 さんの選択反応と選択反応を促した支援行動
選択反応は、9:指さし+曲名と歌手名を言う、8:指さし+曲名を言う、
7:指さし+歌手名を言う、6:指さし+言語(「これ」と言う)
、5:指
さし、4:カードを取る、3:曲名を言う、2:歌手名を言う、1:頷く
とした。支援行動は、●:支援なし(自発)、○:再度発問をする、□:カ
ードを教える、◇:少数提示、△:ペア提示、×:曲の提案とした。
にする支援であったと考えられる。
文献
Parsons, M. B., Harper, V. N., Jensen, J. M., & Reid, D. H. (1997)
Assisting older adults with severe disabilities in expressing leisure
preferences: A protocol for determining choice-making skills.
Research in Developmental Disabilities, 18(2), 113-126.
23-1
特別支援学校における教師の教育課程に対する意識とその影響要因
佐藤
Ⅰ
問題と目的
貴宣
紙を送付した。115 校から返信があり、内訳とし
特別支援学校においては、
「個」に応じることを
て教育課程を推進する係の教師 104 名、学級担任
前提としつつ、その総体である「学校」としての
の教師 445 名から回答を得られ、回答用紙に未記
教育課程の編成と、その説明責任が求められる(一
入であったものを除き、教育課程を推進する係の
木,2012)。さらに、特別支援学校としての目的の
教師 103 名、学級担任の教師 415 名を有効回答と
達成や学校の自律性を確立するためには、教育課
した。
程編成において、教師一人一人の主体的な関与が
3 調査項目
求められる。しかし、教師一人一人の教育課程編
1)特別支援学校の教育課程編成の体制
成に対する意識の低さが課題としてあげられてい
2)教師の教育課程に対する意識
る。教師一人一人が教育課程に対する認識を高め、
3)教師の指導目標に対する意識
主体的に教育課程編成・改善に関与していくため
4 分析の視点
には、学校における教育課程編成の体制において、
1)教師の教育課程に対する意識について因子分
教師が参加できる仕組みがあることが重要である
析を行う。
(大野・河合,1994;天野,2006)といわれているが、
2)特別支援学校の教育課程編成の体制について
関連については検討されていない。これらを踏ま
度数の集計及びχ 2 検定を行う。
えて、教育課程編成への関与、特に、学校の教育
3)教職経験年数及び、各教育目標の改善への関
目標等の改善への関与が教師の教育課程の意識に
与を独立変数、教師の教育課程に対する意識を従
どのように影響を及ぼすのかを検討する必要があ
属変数として分散分析を行う。
ると考える。そこで本研究では、多様な教育課程
Ⅲ
のある肢体不自由及び病弱特別支援学校を対象に
結果
教師の教育課程に対する意識について因子分析
し、
特別支援学校の教師の教育課程に対する意識、
を行い、4因子が抽出された。第1因子「職務の
学級担任の教師の属性、学級担任と教育課程に対
中心性」は、教育課程編成・改善を日頃から意識
する関わり、教育課程を編成するための学校の体
していること、教育課程の編成・改善等を自分自
制を明らかにするとともに、学級担任の教師の属
身の職務の中心としていることに特徴がある。第
性や教育課程に対する関わりが教師の教育課程に
2因子「教育課程編成に対する困難」は、教育課
対する意識に与える影響について分析及び検討を
程編成に対する不安や、
保護者に説明する困難さ、
行うことを目的とした。
教育課程編成自体の理解の難しさ等の教育課程編
Ⅱ
方法
成に対する不安や難しさを感じていることに特徴
1
調査方法・時期
がある。第3因子「教育課程編成・改善に関与す
郵送による質問紙調査を 2012 年7月下旬から
ることへの困難」は、教育課程編成に対して手が
8月中旬に実施した。
出せないことや、教育課程改善の必要性を感じて
2
も、変えることができないといった教育課程編
対象
調査協力可能との返信があった全国の肢体不
成・改善に関与や参加することが難しいことに特
自由特別支援学校(併置を含む)と病弱特別支援
徴がある。第4因子「教育課程の妥当性に対する
学校(併置を含む)124 校、教育課程を推進する
不安」は、教育課程が子どもに合ったものか不安
係の教師 124 名、学級担任の教師 509 名に調査用
に感じているという特徴がある。
23-2
表1 学級担任の教師の教育課程に対する意識の因子分析結果(主因子法,Promax 回転)
項目
第1因子α=.894 職務の中心性
私は、教育課程改善について、普段から意識している。
教育課程の開発は、私にとって職務の中心である。
私は教育課程の改善・評価は日常の仕事として捉えている。
教育課程の編成と評価は、私にとって職務の中心である。
私は、日常の教育活動の記録や評価を、教育課程の改善資料として活用している。
私は、長期的な視点で子どもたちの成長を考え、教育課程の改善について検討している。
私は、主体的に教育課程の改善に関わっている。
私は、学校の教育計画を見返しながら指導計画の作成を行っている。
私は、教育課程の編成と評価は、学校で行われるすべての教育活動の基本であると思う。
私は、教育効果を上げるためには、教育課程は定期的に見直すべきであると普段から意識している。
私は、子どもたちの卒業後の生活に必要な力を育むことを目的に教育課程改善の検討を行っている。
小中高等部一貫した教育課程の検討は、私にとって、重要な職務である。
私は、教育課程編成において、卒業時までに指導する内容を整理し、
指導の系統性を確保するようにしている。
私は、教育課程は常に改善されるべきものだと思う。
第2因子α=.844 教育課程編成に対する困難
私にとって教育課程編成は、難しいイメージがある。
私にとって系統性・統一性のある教育課程を編成するのは困難なことである。
担任する子どもたちの教育課程について保護者に説明することは、私にとって難しいことである。
私は、教育課程編成の手順を理解している。*
私は、教育課程編成の意義がどういうものかを説明できる。*
私にとって教育課程編成は、よくわからないものである。
第3因子α=.810 教育課程編成・改善に関与することの困難
私にとって教育課程編成は、手が出せない領域である。
教育課程改善の必要性を感じても、私には何も変えることができない。
私には、教育課程の改善について発言する機会がない。
教育課程編成に携わるのは、管理職や教務主任、学部主事等の一部の教師である。
第4因子α=. 688 教育課程の妥当性に対する不安
私の学校の教育課程は、妥当なものであると思う。*
私は、本校の教育課程が子どもたちに合ったものであるか不安を感じる。
因子間相関
2
3
4
1
2
3
4
共通性
.75
.73
.71
.66
.64
.63
.59
.56
.54
.52
.51
.50
-.02
-.13
-.20
-.16
.09
.08
-.09
.02
.11
.26
.14
-.15
-.01
.15
.13
.13
-.04
-.14
-.28
.13
-.05
-.26
-.33
-.02
.15
-.08
.09
-.07
-.19
.01
.02
-.30
.00
.19
-.07
-.05
.61
.56
.61
.50
.39
.44
.66
.34
.26
.38
.42
.37
.47
-.18
.12
-.13
.30
.46
.21
-.18
.20
.27
.04
.08
.11
.20
.37
.00
.78
.59
.57
-.57
-.50
.50
.04
.14
.24
-.04
.06
.38
-.08
.07
-.04
.01
.15
-.01
.59
.42
.44
.51
.54
.57
.06
.01
-.02
-.01
.28
.19
.02
.11
.70
.70
.69
.47
.04
.07
.10
.01
.72
.66
.51
.29
.15
.07
1
-.53
-.47
.01
.08
-.05
2
-.07
.14
3
-.78
.68
.60
.47
.50
.16
-.01
*は逆転項目
これらの意識との関連をみるために、教師の属性、
る際に、学校の教育目標等の何を基にすることが
教育課程を編成する学校の体制を独立変数、学級
決まっているかについて、教育課程を推進する係
担任の教師の教育課程に対する意識を従属変数と
の教師と学級担任による差を比較した。学級、年
して、分散分析を行った。その結果、
「職務の中心
間指導計画、単元指導計画、授業の目標の設定に
性」
「教育課程編成に対する困難」
「教育課程編成・
ついて、
「学校の教育目標」、
「年度の重点目標・努
改善に関与することの困難」には、教職経験年数
力目標」
、
「目指す子ども像」を基に設定すること
による有意な差が認められた。
が「学校の体制として決まっている」
、
「学校の体
学校の教育目標、年度の重点目標・努力目標、
制として決まっていない」の人数比の偏りを分析
目指す子ども像の改善への関与の有無による有意
するためにχ 2 検定を行った。その結果、学級の目
な差が4因子すべてに認められ、学部の教育目標、
標、年間指導計画の目標、単元指導計画の目標、
学部の各教科等の目標の改善への関与の有無によ
授業の目標の決定において、学校の取り決めとし
る有意な差が「教育課程の妥当性に対する不安」
て決まっていないとする教師が決まっているとす
以外の3因子に認められた。いずれの質問項目も、
る教師よりも有意に多かった。
第1因子はあり群がなし群よりも、第2因子、第
Ⅳ 考察
3因子、第4因子では、なし群があり群よりも得
点が有意に高かった。
また、学校の体制として授業等の目標設定をす
教育課程に対する意識には、教育課程編成は自
分自身の職務であると考えているものの、教育課
程自体に対する不安や、参加や関与ができないと
23-3
表2 学級担任の教師の教育課程に対する意識尺度下位尺度得点の平均値・SD と分散分析結果
因子Ⅰ
n
教
年職
数経
験
学
校
教
育
目
標
重
点
・
努
力
目
標
目
指
す
子
ど
も
像
学
部
の
教
育
目
標
各
教
科
等
の
目
標
①1~5 年
②6~10 年
③11~20 年
④21 年~
委員会の
メンバー
授業等の
評価
学校評価
委員会の
メンバー
授業等の
評価
学校評価
委員会の
メンバー
授業等の
評価
学校評価
委員会の
メンバー
授業等の
評価
学校評価
委員会の
メンバー
授業等の
評価
学校評価
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
M
SD
35
3.01
.51
63
3.18
.56
108
3.20
.57
209
3.29
.62
多重比較④>①
47
3.64
.63
367
3.15
.57
19
3.55
.51
395
3.19
.60
56
3.36
.57
358
3.18
.60
53
3.63
.63
365
3.14
.57
26
3.35
.71
389
3.20
.59
64
3.37
.58
351
3.18
.60
42
3.74
.60
369
3.15
.57
22
3.44
.48
389
3.19
.60
49
3.38
.58
362
3.19
.60
111
3.44
.65
304
3.12
.56
あり
52
3.31
.56
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
あり
なし
363
57
358
78
335
119
294
32
381
3.19
3.33
3.19
3.52
3.13
3.33
3.15
3.34
3.19
.60
.46
.62
.56
.58
.54
.61
.56
.60
因子Ⅱ
F
4.00**
28.94***
6.73*
4.04*
33.16***
1.51
5.66*
39.76***
3.64
4.34*
23.53***
1.84
2.63
29.59***
7.61**
1.88
M
SD
因子Ⅲ
F
3.18
.67
9.35***
3.04
.68
2.78
.73
2.64
.71
多重比較①>③④
2.29
.67
25.67***
2.84
.71
2.25
.57
10.59***
2.81
.73
2.69
.72
.91
2.79
.73
2.32
.69
25.25***
2.85
.71
2.37
.65
8.89**
2.81
.73
2.69
.70
1.15
2.80
.73
2.12
.60
41.57***
2.85
.71
2.44
.67
5.49*
2.80
.73
2.67
.70
1.25
2.79
.73
2.45
.67
33.16***
2.90
.71
2.53
.67
2.82
2.83
2.77
2.51
2.85
2.67
2.83
2.85
2.78
.73
.68
.74
.69
.72
.70
.74
.65
.73
7.18**
.31
14.14***
4.33*
.33
M
SD
因子Ⅳ
F
M
SD
F
2.74
.68
7.41***
2.60
.59
2.33
.54
2.35
.58
多重比較①②>③④
2.07
.42
18.84***
2.46
.60
2.25
.55
1.54
2.42
.59
2.22
.52
7.20**
2.45
.60
2.14
.47
13.43***
2.46
.60
2.16
.52
5.09*
2.43
.59
2.22
.49
8.53**
2.45
.60
2.02
.44
21.51***
2.46
.59
2.38
.53
.00
2.42
.59
2.23
.52
5.49*
2.44
.60
2.16
.45
29.72***
2.51
.61
2.53
2.50
2.59
2.47
.96
.79
.74
.79
.57
2.25
2.54
2.26
2.52
2.50
2.51
2.27
2.54
2.37
2.52
2.45
2.52
2.27
2.53
2.25
2.52
2.43
2.52
2.43
2.54
.71
.80
.61
.80
.74
.80
.70
.80
.74
.80
.70
.81
.73
.80
.57
.80
.73
.80
.80
.79
5.99*
2.45
.71
2.38
.73
1.69
2.41
2.38
2.42
2.23
2.46
2.39
2.43
2.47
2.42
.57
.56
.60
.47
.61
.62
.58
.60
.59
2.53
2.51
2.51
2.35
2.55
2.40
2.55
2.58
2.50
.80
.70
.81
.80
.79
.71
.82
.76
.80
0.22
.28
10.30***
.32
.25
1.93
.01
5.39*
.90
.48
4.06*
2.83
.54
1.39
.00
3.73
3.30
.27
*
p<.05**p<.01***p<.001
いう不安、さらには教育課程が子どもに合ってい
が教育課程編成に関与できるような学校の体制の
るかという妥当性の不安などがあることがわかっ
整備を行う必要であると考えられる。教師が参加
た。教育課程に対する意識が低いということが先
できる仕組みがあることが重要である(大野・河
行研究で報告されていたが、教師の教育課程に対
合,1994;天野,2006)と述べているように、今後は、
する意識は主に不安であることが明らかになった。
各学校において教師一人一人が教育課程編成に関
教職経験年数が長い教師群が短い群よりも、また
与できる体制づくりを具体的にどのように工夫し
各教育目標の改善への関与のあり群がなし群より
て行っているかを明らかにすることが必要である。
も 第1因子では教育課程を職務の中心と捉える
文献
傾向にあり、第2因子、第3因子、第4因子は、
天野正輝(2006)評価を生かしたカリキュラム開発と授業
教育課程に対して不安が低い傾向があった。教育
課程に対する不安を軽減させるために、また教育
課程を意識しながら日々の教育活動を行うために
改善.晃洋書房.
一木薫(2012)重複障害教育におけるカリキュラム研究の
到達点と課題.特殊教育学研究,50(1),75-86.
は、教職経験が少ない教師に対して困難を低減さ
大野由三・河合康(1994)肢体不自由養護学校の学校教育目
せ、教育課程編成を職務の中心として位置づけて
標に関する研究-学校長の意識を通して-.上越教育大学
いく手だてを考えること、さらには教師一人一人
研究紀要,13(2),231-241.
24-1
放課後児童クラブにおける障害児指導に関する指導員への支援について
澁谷 司
Ⅰ
問題
ブの管轄が教育委員会である自治体(市区町村)24
労働等により保護者が昼間家庭にいない児童の
ヶ所の児童クラブ担当職員を対象に,郵送による
放課後の生活の場となることを目的とした放課後
質問紙調査を実施した.調査項目は予備調査で確
児童クラブ(以下:児童クラブ)において,障害児
定した以下の質問項目を用いた.
の受け入れが増加している.受け入れている障害
1)児童クラブにおける障害児への指導体制の実態
児の障害の重度化・多様化が進む中,こども未来
(1)児童クラブの概要
財団(2005)は,障害児の受け入れを前提とした指
(2)児童クラブでの当該障害児に関する情報収集
導システム作りが必要と述べている.また,児童
クラブの指導員の障害児指導に関する専門性の向
の方法について
(3)当該障害児の在籍する小学校や,特別支援学校
上が課題となっている.
柳沢(2003)は,児童クラブの指導員は障害児と
等関係機関との連携について
2)児童クラブ指導員に対する障害児指導に関する
どのように関わっていくかについて悩み,試行錯
誤していると述べており,大崎(2000)は,職員研
支援の実態
(1)児童クラブの指導員に対する研修会や指導員
修の拡充,加配職員の配置,専門家による巡回相
談の整備など,障害児指導に関する指導員への支
の加配,巡回指導,指導・助言について
(2)指導員の障害児指導に関するニーズの把握方
援の必要性を述べている.
児童クラブの内容を充実させていくためには,
事業主体である自治体の役割が大きく(田丸・井戸
法,内容について
3 結果と考察
1) 回収率
24 ヶ所中 21 ヶ所(87.5%)の自治体から回答を
垣・倉地,1998),研修体制,職員間の協働体制
が重要な要素である(李,2012).また,三山(2008)
得ることができた.
は,
指導員のニーズを把握し,
支援効果を確認し,
2)
支援方法を確立することの重要性を述べている.
Ⅱ
目的
障害児への指導体制の実態
児童クラブに障害児を受け入れているとした自
治体は 90.5%であった.登録している障害児の障
本研究では,各自治体における①児童クラブに
害の種類は,
「肢体不自由」
,
「自閉症」など幅広い
おける障害児への指導体制の実態,②指導員に対
障害種を受け入れていることが明らかとなった.
する障害児指導に関する支援の実態,③児童クラ
児童クラブの指導員になるための条件として,何
ブにおける障害児受け入れの課題を明らかにする. らかの条件を定めている自治体は,47.6%であり,
そして,障害児指導に対する指導員への支援の方
条件が定められていない自治体が 52.4%と,定め
法や内容について検討する.
ていない自治体が多かった.
Ⅲ
研究Ⅰ
1 目的
①児童クラブにおける障害児への指導体制の実
態,②児童クラブ指導員に対する障害児指導に関
障害児が児童クラブを利用登録する際に,保護
者から当該障害児の情報を得ていると回答した自
治体は,85.7%であり,
「話し合い」による情報収
集が最も多かった.得ている情報の内容で最も
する支援の実態を明らかにする.
多かった回答は,
「当該児童への配慮事項」であっ
2 方法
た.学校から当該障害児の情報を得ていると回答
関東・甲信越地域 1 都 8 県において,児童クラ
した自治体は 90.4%であり,
「指導員と教員の話
24-2
表 2 障害児指導に関する指導員への支援の内容
表 1 障害児指導に関する指導員への支援
あり
なし
回答数
(%)
13(72.2)
5(27.8)
あり
なし
18(85.7)
3(14.3)
あり
4(19.0)
なし
17(81.0)
あり
20(95.3)
なし
1(4.7)
項目
障害児指導に関する研修会実施
n=18
指導員の加配
n=21
専門家による巡回指導
n=21
自治体からの指導・助言
n=21
項目
研修会の内容
(複数回答)n=13
巡回指導の内容
(複数回答)n=4
自治体からの指
導、助言の内容
(複数回答)n=21
し合い」
による情報収集が最も多い方法であった.
得ている情報の内容で最も多かった回答は,
「当該
障害児との関わり方について」であった.
当該障害児の在籍する学校以外の関係機関と連
携をしている自治体は 47.6%であり,最も多かっ
た連携先は「保育所・幼稚園」であった.連携の
内容は,
「子どもの過去歴の情報を得る」などがあ
げられた.また,
「支援会議」
,
「各現場へのアドバ
イス」などの内容で,
「特別支援学校」と連携して
いる自治体もあることが明らかとなった.
3) 指導員に対する障害児指導に関する支援の実
態
指導員への支援として以下の 4 点について結果
を示した(表 1,表 2).
障害児指導に関する研修会を今年度実施,実施
予定の自治体は 68.4%であった.障害児指導に関
する研修会の頻度で最も多かった回答は,
「年間に
1 回」であり,内容は,
「障害についての知識・理
解」に多くの回答が得られた.
障害児の受け入れに対する指導員の加配を行っ
ている自治体は 85.7%であり,
「障害児の状況に
より加配人数を検討」している自治体が最も多か
った.
障害児の受け入れに対する巡回指導を行ってい
る自治体は 19.0%であり,巡回指導にあたってい
る担当者は,
「大学の教員」
,
「自治体の担当者」な
ど,多職種にわたることが明らかとなった.
指導員の障害児指導に関するニーズを把握してい
る自治体は 81.0%であり,指導員のニーズの把握
方法として最も多かった回答は,
「巡回指導などで
回答数
障害についての知識・理解
11
障害児の問題行動や困難と
その対応
11
その他
障害児への対応について
5
3
保護者や学校、その他関係機
関との連携
3
その他
障害児への指導の計画
1
6
学校との情報交換に関すること
14
直接聞く」であった.また,最も多かったニーズ
の内容は,
「当該障害児への対応について」であっ
た.把握したニーズへの対応方法として,
「特別
支援学校の先生や市の障害福祉担当へ問い合わせ
る」などがあげられ,指導員のニーズに合わせた
対応をしているということが考えられる.
日々の活動の中で障害児の様子について学校と
共通理解を図るように指導・助言をしている自治
体は 81.0%であった.障害児のために指導の計画
を作成するように指導員に指導・助言をしている
自治体は 28.6%であり,障害児のために指導の計
画を作成している自治体は少ないと考えられる.
Ⅳ
研究Ⅱ
1 目的
児童クラブでの障害児受け入れに対する具体的
な対応,自治体の障害児指導に関する指導員への
具体的な支援の方法・内容,児童クラブにおける
障害児の受け入れに関する課題や課題に対する対
応を明らかにする.
2 方法
研究Ⅰにおいて,
学校との情報交換,
巡回指導,
研修など指導員への支援を行なっていると回答が
得られた 3 ヶ所の自治体の児童クラブ担当職員
(研究Ⅰの回答者)を対象に,以下の 3 つについて
半構造化面接による調査を行った.
1) 児童クラブでの障害児の受け入れに対する具
体的な対応
2) 指導員への支援として行なっている研修や巡
回指導,
指導・助言などの具体的な内容,
及び,
学校との連携の具体的な内容
24-3
3) 児童クラブにおける障害児受け入れに関する
かった.巡回指導は,指導員のニーズを聞く役割
課題の内容
も担っていることが明らかとなり,今後,巡回指
3 結果と考察
導を行う担当者,頻度等を検討し,巡回指導の充
1) 障害児の受け入れに対する対応
実を図ることが必要であると考える.
障害児を受け入れる基準を設けているか尋ねた
障害児指導に関する研修会の内容は,発達障害
結果,全ての自治体において基準を設けていなか
に関することが多いことが明らかとなった。指導
ったが,児童クラブの現状を踏まえ,今ある児童
員が,発達障害児に対する指導に困難を抱えてい
クラブにおいて受け入れ可能かどうかを判断する
ることが推測される.しかし,様々な障害種の障
ということであった.
害児が児童クラブを利用している実態があること
2) 指導員への支援
から,発達障害以外の障害種を扱った研修も行っ
研修会のテーマはどの自治体においても発達障
ていくことも必要であることが考えられる.
害に関することが中心であり,児童クラブにおけ
児童クラブと当該障害児の在籍する学校におい
る発達障害児の増加と,発達障害児への対応に困
て,必要があるときは,すぐにやりとりができる
難を抱えている現状があることが考えられる.指
体制となっていることが明らかとなった.本研究
導員の経験年数別にテーマを設定し,各指導員に
においては,教育委員会が児童クラブを管轄して
合わせた研修会を行っている自治体もあった.し
いることから,学校との連携が円滑に行われてい
かし,数少ない研修会で指導員の変容を期待する
ることが推測される.しかし,必要があるときだ
ことは難しいという回答もあり,研修会の内容や
けの連携ではなく,佐藤ら(2008)が述べるように,
頻度に関して評価し検討していく必要があると考
学校,児童クラブが児童の姿を伝え合うことが可
える.当該児童が在籍する学校と児童クラブは必
能となる有効なツールを作成,活用するなど,日
要な時に情報交換を行い,連携をしているという
常的に当該障害児に関する情報交換を行える体制
ことが分かった.必要があれば学校との情報交換
を作ることも必要であると考える.
をすぐに行うことができる体制にあるということ
当該障害児に対して,児童クラブ,学校で一貫
が考えられる.
した指導を行うためにも,自治体として,児童ク
3) 児童クラブにおける障害児受け入れに関する
ラブだけでなく,教員にも当該障害児の情報共有
課題の内容
の必要性についての理解啓発をしていくことも必
児童クラブでの障害児の受け入れの課題につい
要であると考える.
て,人的な面だけでなく,制度面や,地域におけ
る障害児への放課後支援の場の不足があげられた.
これらの課題への対応については,2 つの自治体
において,現在検討中ということであり,自治体
として課題の解決に取り組まなければいけないと
いうことが明らかとなった.
Ⅴ
総合考察
田丸ら(1998)は,児童クラブの質の向上におけ
る自治体の役割の重要性を述べており,このこと
は,児童クラブにおける障害児の受け入れにも共
通して言える.大崎(2000)は,専門家による巡回
指導の有効性を述べているが,本研究において,
巡回指導は 19.0%の自治体でしか行われていな
文献
こども未来財団(2005)放課後児童クラブにおける障害
児の受け入れと対応についての調査研究[研究報告].
李 智(2012)学童保育・児童館の実践構造と職員の力
量形成.東北大学大学院教育学研究科研究年報,60(2),
153-173.
三山 岳(2008)統合学童保育の巡回相談に求められる
支援ニーズ:都内のある自治体における学童保育指導員
への質問紙調査から.発達心理学研究,19(2),183-193.
大崎広行(2000)児童福祉法改正後の「学童保育」
(放課
後児童健全育成事業)の動向に関する一考察.宮城学院
女子大学・同短期大学付属幼児教育研究所研究年報,9,
71-81.
佐藤智恵・上村眞生・松井剛太・七木田敦(2008)放課
後児童クラブと小学校の連携に関する研究.広島大学大
学院教育学研究科紀要,57(3),313-319.
田丸敏高・井戸垣直美・倉地詔子(1998)学童保育と家
庭支援の課題―鳥取利の放課後児童クラブの調査を通
して―.鳥取大学教育学部研究報告.教育科学,40(2),
207-224.
柳沢君夫(2003)学童クラブにおける一自閉症児の統合
保育―保育者の意図的介入の検討―.特殊教育学研究,
40(5),517-526.
25-1
学
(あける)
聴覚障害部門と知的障害部門を併置する
特別支援学校(聴覚障害)における学校行事の実態調査
中越 健太
(あける)
Ⅰ 問題
聴覚障害部門と知的障害部門を併置する特別支
現在,複数の各教育部門を設置する特別支援学
援学校 8 校のうち,元々聾学校だったのが知的障
校が出てきている。その組み合わせは様々である
害部門を併置された 7 校に質問紙による回答を依
が,2011 年には,複数の障害種を対象とする特別
頼した。回答者は,聴覚障害部門の主幹教諭また
支援学校が全部で,10 種類あることが報告されて
は学校行事に詳しい教師とした。
いる(文部科学省,2011)
。その 10 種類の中,聴
2 実施期間
覚障害を他の障害種別と併置する組み合わせは,
3 種類ある。そのうち,元々聾学校だったものが,
2012 年 8 月から 9 月に行った。
3 調査項目
のちにほかの障害が併置された学校は,聴覚障
調査項目は,聴覚障害部門と知的障害部門を併
害・知的障害と視覚障害・聴覚障害・知的障害・
置する特別支援学校(聴覚障害)のフェイスシー
肢体不自由・病弱の 2 種類である。
ト(2 項目),運動会(体育祭)についての項目(12
財団法人全日本ろうあ連盟(2010)は,障害児
項目)
,文化祭(学習発表会)についての項目(10
個々のニーズの対応が必要であり,聴覚に障害の
項目)とした。
ある児童・生徒は視覚による情報保障と手話言語
Ⅳ 結果と考察
が求められる。また,児童・生徒同士の集団的な
1 回収数
教育環境の保障も考慮するべきである。そこで他
質問紙を送付した聴覚障害部門と知的障害部門
の障害を持つ児童・生徒は聴覚機能が使えるので
を併置する特別支援学校(聴覚障害)7 校のうち,
使われている言語の手段が異なる幼児児童生徒が
回答のあった学校数は 5 校であった。
一緒に学ぶ環境では,教育効果が期待できないと
2 児童・生徒の人数
述べている。その一方で,聴覚障害児と知的障害
回答のあった 5 校のうち 3 校は高等部のみ聴覚
児が交流する場面におけるメリットや問題点には
障害部門と知的障害部門を併置していた。それぞ
何があるのかを考えていく必要がある。そこで,
れ聴覚障害部門は 5 人~7 人であり,知的障害部
聴覚障害部門と知的障害部門が合同で行っている
門は 10 人~40 人であった。残り 2 校は,小学部
教育課程の一つとしての特別活動を取り上げ,学
から中学部,高等部まで聴覚障害部門と知的障害
校行事を合同で行った時のメリットや問題点を明
部門を設置していた。それぞれ聴覚障害部門は 11
らかにすることには意義があると考える。
人~17 人で,知的障害部門は 42 人~227 人であ
Ⅱ
った。そのことから,併置している学部の児童生
目的
本研究では聴覚障害部門と知的障害部門を併置
徒数では,知的障害部門の児童・生徒のほうが多
する特別支援学校(聴覚障害)の運動会及び文化
いことが分かる(表1)
。
祭(学習発表会を含む)の実態について明らかに
3 運動会(体育祭)
し,聴覚障害児と知的障害児が合同で行っている
運動会(体育祭)で合同で行われている競技に
学校行事におけるメリットや問題点について検討
ついて,聴覚障害部門と知的障害部門の児童・生
する。
徒が交流できる,障害を理解したうえでお互い認
Ⅲ
方法
め合い支えあう気持ちを育てることができること
1
対象
から団体競技が多く取り上げられていることが示
25-2
学
表1 併置している学部の児童・生徒の在籍数
A校
小
中
B校
高
小
中
C校
高
小
中
D校
高
小
中
E校
高
小
中
合計
高
聴覚
-
-
5
-
-
6
-
-
7
8
9
0
4
3
4
46
知的
-
-
40
-
-
24
-
-
10
15
11
16
31
24
127
299
表2 合同で行われている競技
表3 部門別に行われている競技
競技名
競技名
・赤白対抗リレー(学部・部門種目)
(A)
・大玉送り(A)
・ソーラン(A)
団体競技
・赤白対抗競技(聴小・聴中・聴高)
(D)
・綱引き(B)
・徒競争(A)
・ボール送りレース(B)
団体競技
・フォークダンス(C)
・演技(知小・知中)(D)
個別競技
・障害物レース(ペア)(B)
・短距離走(B・D)
・タイヤ取り(C)
・加技競技(C)
個別競技
その他
・玉入れ(A・B・D)
めることができた」,
「教員同士と話題が共有出来
・紅白リレー(B・C・D)
た」など,教師の資質の向上につながる内容が多
・短距離走(100m走、200m走)(C)
く挙げられた。問題点について,児童・生徒に関
・開会式(A)
しては,
「合同で行う内容で生徒同士での意思の疎
・閉会式(A)
通を図るのが難しい」や「誤解によってストレス
・エール交換(A)
を感じた」など障害の違いから生ずる問題点が示
・応援合戦(C)
された。また,
「学部や部門ごとに時程が違うので,
・準備体操(D)
合同練習の時間が取れない問題」も挙げられた。
・整理体操(D)
教師に関しては「連絡不足」や「伝統を壊さない
でできるか心配」などが挙げられた。
された(表2)
。
部門別に行われている競技については,各部
門・学部で教育している体育科を中心とした日常
の成果を発表するためや知的障害部門の児童・生
徒には,ルールの把握や対人関係,当日の状態に
よる順位が変わったり,大差がつかないようにす
るためなどに配慮した競技になっている。
(表3)。
運動会(体育祭)におけるメリットについて,
児童・生徒に関しては,
「日頃の学校生活ではあま
り交流がないが,運動会(体育祭)を通して,お
互いに協力して交流することができることが挙げ
られた」など交流や協力する場面が多く挙げられ
た。教師に関しては「指導のスキルや経験値を高
問題点の改善の工夫に関しては,
「運動会(体育
祭)の後もお互いに関わりを持たせ相互の障害特
性など理解を促進するように工夫した」や「昼食
時間や昼休みの時間をずらして合同練習の時間帯
を確保するように工面をした」という意見もあっ
た。
4 文化祭(学習発表会)
文化祭(学習発表会)での,打ち合わせ会議,
出し物の準備,生徒会活動それぞれについて,合
同で行っている学校と、部門別に行っている学校
に分かれた。
文化祭(学習発表会)におけるメリットについ
て,児童・生徒に関しては,
「日頃の学校生活では
25-3
学
交流はないが,文化祭(学習発表会)を通して,
Ⅵ 今後の課題
相互理解を深めるきっかけになった」や「お互い
今後の課題として,教師の観点だけでなく児
の学習発表を見るのを楽しみにしている」などが
童・生徒または保護者からの観点で調査を行うこ
挙げられた。教師に関しては,
「文化祭(学習発表
とにより聴覚障害部門と知的障害部門を併置する
会)を通して,障害の異なる児童生徒を同じ活動
特別支援学校の学校行事の指導や配慮について考
に取り組ませるためにはどうしたらよいか考える
えることができると思われる。
良い機会となった」や「学校行事を通して,お互
文献
いの障害を知る機会となった」と挙げられた。問
文部科学省(2011)特別支援教育資料,第2部データ
編.
財団法人全日本ろうあ連盟(2010)第五回障がい者
制度改革推進会議,意見提出.
題点について,児童・生徒に関しては「コミュニ
ケーションの手段が異なる」や「お互いの疎通が
うまくいかず,伝え合うのをあきらめてしまう」
など,障害の違いから生ずる問題点が示された。
教師に関しては,
「情報の掲示」や「合同で全体練
習を行うときの日程や時間の調整が困難なこと」
が挙げられた。
問題点の改善の工夫に関しては,
「手話通訳」や
「文字情報の掲示を行ったり,話し合いの場面で
意思疎通がうまくいくよう,お互いに手話を使っ
ている」など,コミュニケーション手段による課
題の解決を図っているという意見も見られた
Ⅴ
まとめ
聴覚障害部門と知的障害部門が合同で行う学校
行事(運動会と文化祭)においての最大のメリッ
トは,聴覚障害部門と知的障害部門の教育課程や
時程が違うので普段からの交流はないが,学校行
事を通して交流を深め,協力して活動に取り組む
ことができたことである。そして、最大の問題点
は,聴覚障害部門の児童・生徒と知的障害部門の
児童・生徒のコミュニケーションの手段が違うこ
とから,合同で行われている学校行事の活動の話
し合いで誤解を招いたり、意思疎通がうまくいか
ないことが挙げられた。それぞれの問題点を解決
するために、日ごろから知的障害児童・生徒に簡
単な手話を学んだり,活動の話し合いの場で,教
師が間に入り手話通訳または音声通訳をすること
でコミュニケーション問題の解決を図ろうとして
いることが分かった。コミュニケーションなどで
課題があるものの,概ね大きな問題もなく実施さ
れており,相互理解の面などでのメリットが示さ
れた。
26-1
小学校における特別支援教育支援員活用の現状と課題
長谷川 裕太
Ⅰ
問題と目的
特別支援教育支援員(以下,支援員)は 2007 年に
分程度の半構造化面接を実施した。許可を得た上
で会話を録音し、逐語録を作成した。
文部科学省から財政措置によって配置することが
Ⅲ
結果
決定され,各自治体での採用が進んでいる。文部
1 対象校における特別支援教育の目標設定
科学省(2007)は支援員の有効な活用のために,管
14 校全てで特別支援教育の目標の設定が行わ
理職,特別支援教育コーディネーター(以下,コー
れていた。また,特別支援教育の目標は学校の教
ディネーター),担任教師,支援員との間で,支援
育目標と関連させて設定されていた。
員の役割,活動内容の把握を行い,連携を取るこ
2
とが必要であるとしている。
支援員への期待と役割
対象者の逐語録から,支援員への期待と役割と
しかし,武田・斎藤・新井・神(2011)は支援員
して 3 カテゴリーと 10 サブカテゴリーが抽出さ
との連携の時間が少なく,支援員から情報が受け
れた(表 1)。「担任との関係」は,黒子的,同僚的
取れないなど,支援員活用の体制構築が課題であ
に担任を支えるという内容であった。
「支援員の介
るとしている。一方,山崎(2012)や大内(2011)は,
入で期待すること」では,学級経営の安定,児童
支援員との連携の取り方について研究を行ってい
の生活面学習面での自立等が挙げられた。
「支援員
るが,これらは担任と支援員の連携に関する研究
の活動内容」は,困難の多い児童へのサポート,
であり,支援員の活用について,学校の体制とし
ティームティーチングなどであった。支援員に対
てどう整備していくかは検討されていない。支援
して,黒子的に補助を行い,担任を支える同僚と
員活用のための学校体制づくりはまだ検討段階で
しての期待があることが分かった。
あると考えられ,各学校における活用に関する現
3
状と課題について具体的に明らかにしていく必要
があると考えた。
そこで,校内での特別支援教育の体制作りに関
支援員との連絡連携の状況
支援員との連絡連携についての語りの中から,
2 カテゴリーと 8 サブカテゴリーが抽出された(表
2)。
「支援員への情報提供」では,会議への参加に
わっているコーディネーターを対象に,支援員の
よる情報の共有,
休憩時間などを活用しての連携,
活用における担任教師との連携,研修等について
立ち話などでの情報共有が挙げられた。しかし,
の取り組みの実態と課題について明らかにし,支
会議への参加の時間や担任の思いを伝える時間が
援員活用に関する学校の体制を構築するための基
取れないなど,連携のための時間確保に追われて
礎的な知見を得ることを目的とする。
いる実態もあった。
「支援員からの情報提供」では
Ⅱ
方法
短い時間での立ち話などが挙げられた。情報共有
1 対象
の時間が限られている中,メモやノートを活用し
平成 20 年の文部科学省発達障害等支援・特別
た連携がみられた。また,休憩時間や放課後に連
支援教育総合推進事業においてグランドモデル地
携を行う等,支援員が勤務時間外にサービス的に
域に指定された,A 県 B 市において支援員を配置
連携を行っている実態も明らかになった。
している学校 18 校のコーディネーター18 名のう
4
ち,
研究協力可との返答をいただいた 14 校 14 名。
2
調査方法
対象者の勤務する学校で, 一人当たり 30~40
支援員への研修・指導の状況
支援員への研修・指導についての語りの中から
1 カテゴリーと 5 サブカテゴリーが抽出された(表
3)。
「支援員への研修・指導」では校内外での研修
26-2
表 1 支援員への期待と役割
カテゴリー
担任との関
係
支援員の介
入で期待す
ること
サブカテゴリー
担任を支える黒
子的な役割
担任を支え,一
緒に考えていく
同僚
一斉授業運営の
補助
個別のきめ細か
い指導
語り(抜粋)
あくまでも黒子的な役割。
担任と子どもをつないでくれる。
一緒にその子のために何ができ
るかを考えて行く仲間って感じ。
児童が安心でき
るクラスづくり
あのー,学級集団が落ち着いて学
習できたり,活用できたりってと
ころの活用ですかね。
通常の学級の支援を必要として
いる子が,担任一人の支援でいけ
るようになった。
特別支援のお子さんのニーズが
重いというか,そういうことがあ
ったので。
おもに一年生の TT といった形で
入ってもらっています。
高学年の算数への TT 指導。
個別というか,具体的な声掛けを
して学級の子どもたちが一時間
一時間の授業をきちんと理解し
て,活動する。
○年生が通常学級のほうで,支援
の必要な児童が多いので,おもに
そちらに TT で入ってもらってい
ます。
児童が一人で活
動できるよう促
す
特別支援学級で
の支援
支援員の活
動内容
担任及び級外と
のティームティ
ーチング
全体指導で動け
ない児童へのサ
ポート
困難のある学級
への重点的なサ
ポート
表 3 支援員への研修・指導の状況
カテゴリー
サブカテゴリー
市の研修への参
加
支援員が入ることで担任が授業
を,全体指導でやっていける。
子どもをきめ細かく見ていくこ
とができますよね,はい。
校内の会議,研
修
支援員への
研修・指導
支援員からの質
問
特別支援の授業
観察
研修への参加が
ない
表 4 支援員活用による成果
カテゴリー
サブカテゴリー
学級経営の安定
表 2 支援員との連絡連携の状況
カテゴリー
サブカテゴリー
会議への参加が
ある
休み時間,授業
後など短い時間
での立ち話
メモやノートを
取る
語り(抜粋)
子供を語る会とか,学期に一度あ
るようなのは無理をいって出て
もらう。
どうしても時間が限られてくる
ので会議や計画立案の場への同
席はない。
金曜日の6限に特学3人の担任
と支援員さんと茶を飲む機会が
設けられていて,そこでと話がで
きるんです。
毎回じゃないけど,特にこの子に
付いてくださいとか,声かけして
くださいとか,そういうのを話し
合ってるところは見ますね。
不適切な行動が,それほどでもな
い場合についてはちょっと,担任
からも要求っていうのは少ない
ですかね。
休み時間ですよね,放課後会えれ
ば会うけど,そこでどんなことあ
ったって話をしてます。
いっぱいもらってますね。付箋に
書いてもらって。
特別支援教室関
係者によるお茶
会の実施
放課後お茶のみの時間などに特
別支援に関係のある先生で集ま
って話し合いはしていますね。
会議へ参加がで
きていない
支援員への
情報提供
休憩時間におけ
る情報交換
担任が自分の考
えを伝える
担任が自分の考
えを伝えていな
い
支援員から
の情報提供
語り(抜粋)
外の研修会とかはお誘いします
が,家庭の都合もあってなかなか
難しいで。でも 2 回くらい出てい
ただきました。
一学期の間は,勤務時間の間は支
援員さんにも時間の中で出てい
ただく。長期休業のときに何回か
出ていただきました。
普段の情報交換の中で,こういう
風にするといいんだよとか,具体
的にいったりだとか。
校長を中心に,肢体不自由の子が
いるクラスにまずいって,そのク
ラスの担任もいるので,そこで対
応の仕方を見てもらってってい
うのがありましたね。
必要に応じてだと思います,内容
によって声はかけると思うんで
すけど,勤務もあるので,大丈夫
かなって思うところははい。
支援員を活
用しての成
果
児童の安全の確
保
児童の自信の向
上
保護者の安心
語り(抜粋)
個別に支援員さんが入ってくだ
さるので,全体を担任が指導でき
るんだなと思っています。
担任一人の支援でやっていける
ようになったことが大きいです
ね。
生活面とか,休み時間にこんな風
に遊んでて,友達との関係とか,
逆に困ってる視点も多く入りま
すよね。
学習面においては,自身の持てる
子がふえた。できない子達をフォ
ローしてくれるので,自信につな
がってるなって思います。
担任一人では勉強も進まない。そ
うすると保護者の中ではだれだ
れがいるから勉強が進まないっ
て流れになってきます,でも,支
援員がいてくれるから大丈夫っ
て思ってもらえる。
の中での学習といった OJT 的な研修が多くなっ
ていた。勤務時間の都合上,休憩時間や放課後な
ど,時間を見つけて研修にあたっている現状がう
かがえた。そのような中,研修期間確保のため,
特別支援学級での授業見学の期間を校長が中心と
なって設定し,実施するなどの取り組みもみられ
た。また,支援員が自主的に校外の研修会に参加
していることも分かった。
やコーディネーターへの質問が挙げられた。
5
支援員活用による成果
勤務時間の影響から校内での研修を挙げた学校
支援員を活用して得られた成果の語りの中から
は少なく,コーディネーターへの質問や日常会話
1 カテゴリーと 4 サブカテゴリーが抽出された(表
4)。
「支援員を活用しての成果」では,学級経営の
26-3
カテゴリー
表 5 支援員活用における課題
用が担任によって差があるなど,支援員の具体的
サブカテゴリー
支援員との情報
交換の時間がな
い
な役割の共有が行えていないという語りもみられ
支援員の役割の
共有
支援員活用
の課題
全職員が支援員
を活用できる体
制
勤務時間の延長
語り(抜粋)
情報を伝えていく時間の工夫で
すよね。情報を引き出すやりくり
も大事だなって思います。
先生方によってとらえがまちま
ちだったり,継続していく,同じ
体制で同じ支援のやり方でって
いうのができるようになるのが
必要かなと思うんです。
どの学級でも必要なときに支援
員の助けが受けられるっていう
か,そういう風になるのがいいか
なと思ってます。
結局休み時間なしでやってもら
うので,勤務時間ずらしたりして
いただいたりすると,ほとんどサ
ービスで5限の終わりまでいて
もらってる感じですね。
た。
しかし,連携や研修のための時間の確保が困難
である中,お茶会や,メモ・ノート,授業観察期
間の設定などを行い,連携や研修を行っている学
校もみられた。支援ノートという形で継続的に支
援員からの情報を得ている学校,学校長を中心と
して支援員の研修時間を確保するために特別支援
学級での授業観察の期間を設けた学校など,学校
の体制として支援員との連携や研修の機会を確保
している学校もあるなど,様々な取り組みがなさ
れていた。
安定,児童の自信向上などが挙げられた。支援員
を学級で活用することで,指導に対する悩みなど
が共有され,担任教師の負担が減少していること
が分かった。また,生活面学習面において安定が
図られ,自信をもって活動する場面が増え,児童
の自立につながることが分かった。保護者の特別
支援教育への理解,安心にもつながっていた。
6
支援員活用における課題
支援員を活用する上での課題についての語りの
中から,1 カテゴリーと 4 サブカテゴリーが抽出
された(表 5)。
「支援員活用の課題」では勤務時間
の短さから連携研修の課題が挙げられた。情報交
換の時間が短く,支援員から得た情報を指導に生
かせない,支援員に対して担任の意図が伝えられ
ず支援内容に食い違いが出るといった現状がある
ことが分かった。また,支援員の活用について担
任によって差があるといったことから,全職員の
支援員との連携では,休み時間,授業後の短い
時間を使っての立ち話という語りが多くみられ,
担任と支援員の間での個別的な取り組みとして行
われている実態が多く,支援員との連携の取り方
が全職員で共有されているとは言えなかった。そ
のような中で,学校の体制としてメモや授業観察
期間の設定などの取り組みを定め,支援員と情報
を共有し,課題解決を行っている学校の実態は,
今後の支援員活用の体制構築のための一助になる
と考えた。
今回の研究では,各学校がどのようなプロセス
を経て,支援員との連携の取り組みに着目し,校
内体制として位置づけるに至ったのかは明らかに
できなかった。支援員活用の有効な体制を構築し
ていくためにも,現在体制として位置づけられて
いる取り組みが成立したプロセスについて調査し
て行くことが必要ではないかと考えた。
支援員の役割理解のための説明機会の設定や,支
援員との情報交換を明確にするための連携体制の
構築も課題として挙げられた。
Ⅳ
考察
武田ら(2011)が課題として挙げていた,勤務時
間の都合から連携や研修を行う時間の確保が困難
であることは,B 市でも課題となっていた。支援
員と時間を取って情報共有を行うことができず,
支援員の見取った情報が支援に反映されなかった
り,担任の意図と支援員の活動にずれが生じたり
する現状があることが分かった。また支援員の活
文献
文部科学省(2007)「特別支援教育支援員」を活用するため
に.
大内典子(2011)支援シートを活用した特別支援教育支援
員への効果的なサポートについて―通級指導担当の立
場から―.特別支援教育コーディネーター研究,7,7-11.
武田篤・斉藤孝・新井敏彦・神常雄(2011)特別支援教育支
援員の現状と課題 ―特別支援教育支援員へのアンケー
ト調査から―.秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要,
33,189-193.
山崎彰(2012)小学校における特別支援教育支援員の効果
的な活用―特別支援教育支援員による適切な支援行動
を具体化する手立て―.教育実践研究,22,279-284.
27-1
特別支援学校(知的障害)における数量概念の指導と教材・教具
吉田 新
I 問題
特別支援学校学習指導要領解説(文部科学省,
し、知的障害児の数学的な力と生きる力の関連に
ついて検討する。
2009)は、特別支援学校(知的障害)における算
III 方法
数の内容を「児童が具体的な生活や活動をとおし
1
対象と方法
て直接的に経験を広げたり、その経験を深めたり
全国の知的障害者を対象とする国公立特別支援
するようにし、できるだけ児童の数量的な感覚を
学校の小学部・中学部の「算数」
「数学」の授業を
豊かにすることが大切である」と示している。
担当する教師を対象に、郵送による質問紙調査を
遠山(1972)は、数値化された量ではなく、そ
行った。対象校は無作為に抽出した 188 校とし、
れ以前の段階である数値化されていない
「大きさ」
376 部郵送した。7 月に発送し、回収期日を8月
や「長さ」などの量を未測量と呼び、数量概念の
20 日とした。
出発点となるとし、未測量の概念の指導の重要性
2
を示している。
・回答者のプロフィールについて
知的障害児は認知機能の言語系と思考との関係
が弱く、認知が知覚的で映像的であるとともに、
動作的な様式に傾きやすく、さらに言語系の機能
が弱いことにより、動作系も弱くなり、発達に遅
れが生じる(寺田,1982)。また、知的障害児は、
調査内容
・算数・数学に関する授業について
・大きさと長さにおける未測量の比較に関する教
材・教具と使用している言葉
・未測量の比較の指導場面と指導の目標と生きる
力の関連
幼児期の生活経験の圧倒的な不足によって、概念
IV 結果と考察
の形成が遅れる(藤原,1978)
。
1
回収結果
野口・吉田・天野・藤井・武田(2010)は、知
188 校のうち 113 校、224 名(小学部教師は 112
的障害児を対象に、主に未測量の段階での数量感
名、中学部教師は 112 名)から回答があり、回収
覚を育てる指導を行い、活動をとおした授業や児
率は 59.6%であった。
童の気づき、言葉の重要性を示した。
2
そこで、未測量の概念の段階において、どのよ
大きさや長さを比較する指導についての教
師の考え方
うな活動や指導が望ましいのかを検討するにあた
大きさの比較と長さの比較の指導とも、2つの
って、具体的な教材・教具としてどのようなもの
具体物を並べて比較する活動が重要だと考えてい
が使用されているか、数量概念に結びつくどのよ
る教師が多かった(Table1)。大きさや長さの比較
うな言葉を使っているのか、
「生きる力」との関連
の指導の両方で重要だと考えられている言葉かけ
はどうかなどについて、調査する必要があると考
は、
「こっちのほうが大きい(長い)ね」であった
えた。
(Table2)。これらから、大きさや長さの未測量の
II 目的
比較の指導における活動が、2つの具体物の比較
知的障害児に対する大きさや長さの未測量の比
を中心に行われていることと、言葉かけについて
較の指導において、特別支援学校の算数・数学の
も2つの具体物の比較において使う言葉が重要だ
授業を担当する教師が用いている教材・教具、そ
と考えていることがわかった。未測量の比較を中
の教材・教具や指導についての考え方を明らかに
心課題とした活動では、言葉かけの方法も考慮し
27-2
Table1 よいと考える大きさ(長さ)の比較の指
導における活動
絵本や本
2つの具体物の大
きさを比較する
さまざまな大きさ
のものを作る
だんだん大きくす
る
身体をつかって大
きさを測る
Table3 よいと考える大きさ(長さ)の指導にお
(n=224)
ける教材・教具
大きさを変えら 大きさの決まっ
れる具体物 ている具体物
大きさ 長さ 大きさ 長さ
126
150
132
140
大きさ
140
長さ
131
35
40
33
45
41
28
19
12
48
22
43
35
27
36
12
2
5
13
Table2 よいと考える大きさ(長さ)の比較の指
導における言葉かけ
生活の中にある具体物
形や大きさ(長さ)の決
まっている具体物
大きさ(長さ)を任意に変
えられる具体物
絵本や絵
(n=224)
大きさの指導に 長さの指導にお
おける教材・教具 ける教材・教具
割合
割合
回答数
回答数
(%)
(%)
173
77.2
170
75.9
136
60.7
135
60.3
51
22.8
70
31.3
49
21.9
38
17.0
Table4 未測量の比較の指導ができる場面
(n=224)
(n=224)
回答数
割合(%)
生活単元学習
算数・数学
個別の学習の時間
給食の時間
休み時間等遊びの時間
朝の会・帰りの会
国語
音楽
登校時
160
138
126
111
79
24
10
6
0
71.4
61.6
56.3
49.6
35.3
10.7
4.5
2.7
0.0
その他
12
5.4
大きさの指導に 長さの指導にお
おける言葉かけ
ける言葉かけ
割合
割合
回答数
回答数
(%)
(%)
こっちのほうが大きい(長い)ね 149
66.5
140
62.5
これとこれは違う大きさ(長さ)
84
37.5
79
35.3
だね
これとこれは同じ大きさ(長さ)
82
36.6
64
28.6
だね
端っこを揃えて比べよう
61
27.2
115
51.3
こっちのほうがたくさんあるね
32
14.3
14
6.3
さっきより大きく(長く)なったね 24
10.7
18
8.0
ながら、算数・数学の系統性を重視し、2つの具
部・小学部・中学部)
(文部科学省,2009)におけ
体物の大きさや長さの比較の指導を中心に行って
る「大小や多少などに関心をもつ」ことと結びつ
いることが示唆された。
いている。
これらの指導のための教材・教具については、
また、生活スキルとして活用できる学習を行う
生活の中にある具体物を使用した指導が重要であ
ために、日常生活や給食の時間、遊びの場面で数
ると考える教師が多かったが、指導の目標におい
学的な意図を盛り込んでいたり、生活単元学習や
ては、
「身体をつかった活動」や「生活に必要な初
作業学習等で数学的内容を指導したりしているこ
歩的な事柄を理解すること」が重要だと考えてい
ともわかった(Table4)
。これは、「生活に必要な
ることがわかった。
初歩的な事柄を理解すること」を目標として教師
大きさや長さの未測量の比較の指導において、
が重要だと考えていたことと一致する。
2つの具体物の比較を中心としながら、日常生活
これらの力と未測量の指導を結びつけるために、
における初歩的な理解や身体を使った活動を重視
教科別の学習として「算数・数学」で行う学習と
している教師が多いことがわかった。
日常生活や生活単元学習で行う学習を結び付けて
3 教材・教具と指導場面
いくことが重要となると考える。
未測量の比較の指導において「生活の中にある
4
未測量の比較と「生きる力」
具体物」を使用した指導が重要だと考える教師が
知的障害児に身につけさせたい「生きる力」と
多かった(Table3)。生活の中にある具体物は、身
して、
「自分に適した量や大きさを判断する」がも
近にあるあらゆるものが考えられる。それらを使
っとも重要だと考えている教師が多く、
「物の大小
って未測量の比較の指導が行われるということは、 の判断」などと同等に重要であると考えているこ
特別支援学校学習指導要領解説総則等編(幼稚
とがわかった(Table5)
。
「自分に適した量や大き
27-3
Table5 回答者の考える「生きる力」 (n=224)
洋服や食事など、自分に適した量や大きさを
判断する
2つの物の大小や同等を判断する
回答数
111
46.9
90
89
86
56
48
45
11
2
15
40.2
39.7
38.4
25.0
21.4
20.1
4.9
0.9
6.7
その他
や困難
割合(%)
49.6
105
複数の物の大小を判断する
お金の使い方を理解して買い物ができる
複数の物から好きな大きさのものを選ぶ
2つの物から好きな大きさのものを選ぶ
ケーキなどを人数分に均等に分ける
ケーキなどを半分に分ける
メートル、グラム等の単位を使って測量する
将来を考えて貯金する
Table6 未測量の比較の指導をする上での課題
(n=168)
回答数
割合(%)
50
45
44
10
7
29.8
26.8
26.2
6.0
4.2
1.8
0.6
0.6
1.8
1.2
1.2
認知、理解、概念化
教材・教具、指導法
日常に活かす
学習場面の設定
個別への対応
系統的な学習
評価
他の教師への引継
教室数、教師数、時間
保護者との連携
教師の専門性を高める
3
1
1
3
2
2
さ」というものは、例えば食事の場面において「お
様に、大きさや長さなどの未測量を判断する力が
腹のすき具合によって盛るごはんの量」、
買い物の
必要である。その力を身につけるために、生活の
場面において「自分にちょうどよい洋服を選ぶ」
中で少しでも数や量の概念を意識した活動を増や
などが考えられる。このような場面では、大小や
すことが大切であり、児童生徒の気づきの経験を
同等の判断といった未測量の比較をする力ととも
多く積み重ねることが、数学的な生きる力を身に
に、自分の価値判断に基づいた選択をする力が重
つけるために重要だと考える。また、学習におけ
要であると教師は考えていることもわかった。
る児童生徒のひとり言や、子どもの数学的な気づ
しかし、未測量の比較の指導を日常生活に活か
きを教師や保護者などの他者による言葉をともな
すことが重要だと考える教師が多かった(Table6)
。 った活動を取り入れた指導が、知的障害による発
日常生活において未測量を比較し判断する力が
達の遅れについても、よい効果が期待できるので
「生きる力」として重要だと教師が考えているか
はないだろうか。
らだと考える。さらに、その未測量に関する概念
文献
化を図るためには、野口ら(2010)の示したよう
藤原鴻一郎(1978)第1章「数と計算」指導の意
に、知的障害児が様々な場面でひらめいたり気づ
義とねらい.川口 延(監修)藤原鴻一郎(編
いたりする数学的な経験を積み重ねるなかで、経
1
著)
,段階式ちえ遅れの子どもの算数・数学 □
験と言葉を結びつけていくことが重要だと考える。
数と計算編.学習研究社,7-9.
V まとめ
本研究を通して、特別支援学校において、教師
はどのように考えながら知的障害児に対して数学
文部科学省(2009)特別支援学校学習指導要領解
説総則等編(幼稚部・小学部・中学部).
野口佳子・吉田伸哉・天野ちさと・藤井 隆・武
の指導を行っているかの一面をみることができた。
田幸造(2010)知的障害児の数量感覚に関する
また、児童生徒にどのような生きる力を身につけ
実践的研究 第 X 報.大阪教育大学紀要,第 V
させるかを考え、そこを目指して未測量の比較の
部門,59(1),81-87.
指導を行っていることがわかった。
寺田 晃(1982)
第6章 数概念の形成と指導 3
知的障害児にとって、
「生きる力」を身につける
障害児(精神薄弱児)における数概念の発達的
うえで、数学はやはり重要な学習内容であると考
特徴.宮本茂雄(編著)講座「障害児の発達と
える。価値観に基づいて好きなものを選択する力
教育」第6巻 発達と指導 IV 概念形成.学苑
や、自分に合ったものを選択する力など、比較し
社,185-198.
て選択する力を身につけることが必要であり、同
遠山 啓(1972)歩きはじめの算数.国土社.
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