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SSII2002 Word版テンプレート
スペクトルビジョンシステムの構築 とその応用 ような不均質誘電体材料である[4].2 色性反射モ デルは反射光の分光エネルギー分布が界面(鏡 面)反射成分 LI (λ ) と内部(拡散)反射成分 LB (λ ) の2 つの加法成分から成ることを仮定している[5]. 2 つの成分の空間的な分布は異なる.界面反射 による反射光は鏡のような反射で,角度が限定さ れる.他方内部反射による散乱光は,全方向にわ たって等しく現れる.界面反射成分は入射光と同 じ分光組成をもつことになる.すなわち LI (λ ) = E (λ ) .他方内部成分は LB (λ ) = S (λ ) E (λ ) と して記述され,物体色を生成する. 大阪電気通信大学 総合情報学部 富永 昌治 1. はじめに 人間は物体の見えを判定するとき照明光の影響 を減少させる能力をもつ.この能力は色恒常性と 呼ばれ,色を観測して表面反射率関数と照明光分 光分布に無意識のうちに分離する能力といえる. そこで近年色彩科学やコンピュータ画像処理の 分野において,物体表面と照明光成分を分離する ための手法が数多く提案されてきた([1]参照) . 本講では,カメラによる画像データから照明光 の分光分布や物体表面の分光反射率を推定のた めの最新アプローチとその応用を紹介する.本ア プローチの特長は,分光放射輝度計や分光測色計を 用いずに,カメラで自然環境の分光情報を獲得しよ うとする点にある.例えば, (1)遠距離の物体を照明している分光分布を求める. (2)標準白色板がなくても照明光分光分布を求める. (3)複雑な形状をした物体表面の分光反射率を知る. (4)光沢やハイライトなど鏡面反射成分を含む物体 表面の分光反射率を知る. (5)絵画のように局所的に色が複雑に変化している 表面の分光反射率を連続的に求める. このような状況ではカメラの利用が有効になるこ とが多い.つまりカメラによる画像獲得と画像処理 という計算機技術に基づいて分光情報を推定するこ とが近年注目されつつある([2-3]参照) . 図 1 画像生成の過程 2. 画像生成と表面反射 図 2 物体表面での光反射のモデル 図1は画像生成の過程を示す.光源から放射さ れた光は物体表面を照明し,反射光(色信号)が 人間の視覚系に入射して色刺激を生成する.人間 の視覚系は 400-700nm の可視の波長域で 3 種類の 分光応答関数を持っている.これらは色信号を 3 つの色チャンネルに変換する.物体の色の見えは 照明光の分光エネルギー分布 E (λ ) と表面分光反 射率 S (λ ) によって影響を受ける.しかし色恒常性 によって照明光の影響は軽減され,物体の表面反 射率の寄与が色信号のスペクトル組成の寄与よ りも大きくなる. 図2は物体表面での光反射のモデルを示す.自 然界におけるたいていの材質はプラスチックの 3. 照明光と反射率のモデル化 有限次元線形モデルは照明光分布と表面反射率 の分光関数を記述するために使用される.連続ス ペクトルの分光関数をいくつかの基底関数を用 いて表現するとき,このモデルは分光関数推定に おける未知数の数を大幅に減少させることがで きるので,非常に有用である. まず照明光の分光分布 E (λ ) は m 個の基底関数 の線形結合で表現できると仮定する. m E (λ ) = ∑ ε i Ei (λ ) , i=1,2,.., 6 i =1 1 (1) ここで Ei (λ ) は照明光に対する基底関数の集合で, 反射率の基底関数を図 5 に示す. (1)-(2)式で基底関数はあらかじめ既知であるの ε i はそれらの重み係数である.次に空間位置xに で,推定問題はカメラ出力から重み係数 {ε i } と おける分光反射率関数は n 個の基底関数の線形結 合として表現できると仮定する. {σ i } の 2 つの集合を推測する問題に帰着する. n S ( x, λ ) = ∑ σ i ( x) Si (λ ) , i=1,2,.., 6 (2) i =1 ここで Si (λ ) は反射率の基底関数の集合であり σ i はそれらの重み係数である. 図 3 は Judd ら[6]によるモデル表現である.彼 らは異なった時刻,異なった天候条件,異なった 場所で,昼光の分光分布を多数計測した.このと き,全昼光スペクトルは平均曲線と 2 つの主成分 の重みつき和によって表現することができた. 図 4 代表的な光源から得た光源基底関数 図 5 分光反射率の5つの基底関数 4.カメラシステム 通常のカラーカメラではセンサ数が3に固定さ れ,線形モデルにおける自由度が少ない.そこで 我々はマルチバンドのカメラ系を試作し,表面分 光反射率と照明光の分光分布に対してより高次 の線形モデルが利用可能にしている. 図 6 は開発したカメラシステムである.システ ムはモノクロ CCD カメラ,標準写真用レンズ, カラーフィルタ,そしてパソコンから成る.現在 6 つの異なったカラーセンサをもつ.センサの数 は照明光と反射率分光関数を表現するために必 要なモデル次元から決定した.つまり分光関数の 信頼できる表現を考慮して,6 つの波長帯を使用 する.図 7 は 6 つのセンサに対する総合分光分布 感度関数を示す.可視光の波長域が 6 つの帯域に 図 3 昼光の線形モデル表現 (上:異なった条件 での相対分光分布,下:線形モデルスペクトル) 我々はシーン照明を記述するための基底関数を 決定した.まず CIE の標準光源やいくつかの実際 の光源からの分光分布を解析した.図 4 は照明光 の基底関数を示す.3つの照明光の基底関数を示 す.さらに分光反射率の基底関数を求めるために 分光反射率データベースを利用した.このデータ ベースは Macbeth Color Checker や Vrhel ら[7] のデータに基づいている.これから得られた分光 2 分割され,各バンドに対応する分光画像がカメラ システムで観測される. m の(i, j)成分は ∑ ε k ∫ Ek (λ ) Si (λ ) R j (λ ) d λ と k =1 E j (λ ) Ri (λ ) d λ である.それゆえ推定問題はセ ∫ ンサ出力からシーンパラメータ σ と ε を推定する ことに帰着する. パラメータ推定は 2 段階で達成される.まず, 照明パラメータ ε を推定し,次に反射パラメータ σ を推定する.6 次元のセンサ出力ベクトルは 2 つのベクトル Λ ε σ と H ε の線形結合である.これ ら 2 つのベクトルは 6 次元ベクトル空間で 2 次元 の部分空間を張る. 図 8 は一つの鏡面反射する物体表面に対して観 測された画像のヒストグラムを示す.ヒストグラ ムはマットクラスタとハイライトクラスタの 2 つ から成る.ハイライトクラスタの方向はベクトル H ε に一致する.それゆえ照明光はハイライトク ラスタの方向ベクトルから推定することができ, 反射率パラメータ Λ ε σ はマットクラスタの方向 ベクトルから推定することができる([8]参照) . 図 6 6 色カメラシステム 図 7 6 色カメラの総合分光感度 5.推定アルゴリズム 画像は空間位置 x における 6 つのセンサ出力か ら成る.色信号 C ( x, λ ) とセンサの分光感度 Ri (λ ) は出力 ρi ( x) に次のように関係付けられる. ρi ( x ) = ∫ C ( x, λ ) Ri (λ ) d λ , i=1,2,.., 6 図 8 鏡面物体の画像ヒストグラム例 6.実験結果 (3) 図 9 はプラスチックのおもちゃの車のシーンで ある.この物体は白熱電球で照明された.赤いボ ール,赤い車輪,緑の車輪,そして青い車輪の上 のいくつかの白い領域が,ハイライト領域として 抽出された.光源推定をこれらの 4 つの領域を用 いて実施した.図 10 はこの推定結果を示す.推 定値は実線で表示され,破線は分光放射輝度計で 直接測定した照明光の分布である.推定分光分布 は白熱光の直線的な分光分布の特徴をよく再現 している.また図 11 は反射率推定結果である. 応用として,照明の影響を含まない正規化した センサ出力を暗い背景を除く全画素で計算した. いくつかの稠密なクラスタが 6 次元空間のヒスト いま物体表面は不均質誘電体物質から成ると仮 定しよう.このとき 2 色性反射モデルから色信号 は内部反射成分と界面反射成分の 2 つの加法成分 から成る.センサ出力と照明・反射関数の間の関 係を次式のようにマトリクス形式でまとめるこ とができる. ρ( x ) = α ( x ) Λ ε σ + β ( x ) H ε (4) ここで,ベクトル ρ( x) は 6 つのセンサ出力から形 成される縦ベクトルである.ベクトル σ と ε は m と n の次元をもち,反射率と照明光に対する重み ベクトルを表す.Λ ε と H は 6×m 行列であり,そ 3 グラムに基づいて検出され,画像はいくつかの領 域に分割された.図 12 は分光反射率情報に基づ いた領域分割結果である.そこでは物体表面が 6 つの色領域に分割されている. 図 12 シーンの領域分割結果 7.おわりに カメラを用いて,自然環境下で照明光の分光分布 や物体表面の分光反射率といった分光情報を推定す る手法を述べた.対象物体は不均質誘電体で,自然 界における物体のほとんどに適用できる.物体表面 は自由形状で,ハイライトのような鏡面反射を含む ことを許した.今後,カメラが計測機器として普及 するのは確実で,画像データに基づいた色彩と分光 解析に限らず,色彩画像処理を含む多くの IT 関連分 野で応用がある([9]参照) . 図 9 推定対象のシーン 参考文献 [1]日本色彩学会編:色彩科学ハンドブック,第 27 章 "カラー画像の情報処理",東大出版会,1998. [2]富永昌治:色知覚と色彩メディア処理(完),信 学会誌,82(1),62-69,1999 [3]富永昌治:カメラを用いた分光情報の計測と推定, 日本色彩学会誌, 24(1), 24-28, 2000 [4] S. Tominaga et al.: The standard surface reflectance model and illuminant estimation, J. Opt. Soc. Am. A, 6(4), 576-584, 1989. [5] S. Tominaga: Dichromatic reflection models for a variety of materials, CRA, 19 (4), 277-285, 1994. [6] D.B. Judd et al.: Spectral distribution of typical daylight as a function of correlated color temperature, J. Opt. Soc. Am., 54, 1031-1040, 1964. [7] M.J. Vrhel et al.: Measurement and analysis of object reflectance spectral, CRA, 19, 4-9, 1994. [8] S. Tominaga: Multichannel vision system for estimating surface and illumination functions, J. Opt. Soc. Am. A, 13(11), 2163-2173, 1996. [9] S. Tominaga et al.: Natural scene illuminant estimation using the sensor correlation method, Proceedings of IEEE, 90 (1), 42-56, 2002. 図 10 光源の推定結果 図 11 分光反射率の推定結果 4