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電子情報通信学会ワードテンプレート \(タイトル\)
社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE
サル下側頭皮質におけるニューロン活動と刺激検出の成否の相関
土井泰次郎
藤田一郎
大阪大学大学院生命機能研究科 〒560-8531 大阪府豊中市待兼山町 1-3
E-mail: {tdoi,fujita}@bpe.es.osaka-u.ac.jp
あらまし 知覚に相関した神経活動を探るために,強制 2 択課題を用いて弁別閾値付近でのサルの知覚判断のゆ
らぎとニューロン活動のゆらぎとの相関を調べる研究が多くなされている.しかし閾値付近では自覚的な知覚がな
くとも弁別の成績が良いことがあるので,より直接的に知覚に相関した神経活動を求めるにはサルに検出課題をさ
せる必要がある.そこで本研究ではサルに図形検出課題を訓練し,この課題を遂行中のサルの下側頭皮質からニュ
ーロン活動を記録した.サルの刺激検出の成否とニューロン活動のトライアル間変動の相関を信号検出理論にもと
づいて評価したところ,下側頭皮質のニューロン活動のゆらぎは刺激の検出の成否と有意に相関していた.この結
果は,下側頭皮質の神経活動が「刺激の形が見えている」というアウェアネスに関わっていることを示唆している.
キーワード アウェアネス、検出課題、下側頭皮質
Activity of Neurons in Inferior Temporal Cortex Correlates with
Monkey’s Seen-not seen Choice Variation in a Stimulus Detection Task
Taijiro Doi and Ichiro Fujita
Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University
1-3 Machikaneyama-cho, Toyonaka-shi, Osaka, 560-8531 Japan
E-mail: {tdoi,fujita}@bpe.es.osaka-u.ac.jp
Abstract Many studies used a 2-alteranative forced choice task to investigate the correlation between monkey’s perceptual
decision and neural activity near psychophysical threshold. However, since subjects may be able to perform better than chance
level without any subjective percept (known as Unconscious Perception) in near-threshold condition, detection tasks are more
preferable to investigate neural correlates of subjective percept. We recorded neuronal activities from inferior temporal (IT)
cortex of a monkey performing a shape detection task. Evaluating correlation between monkey’s seen-not seen choice variation
and neuronal activity variation using Choice Probability index of signal detection theory, we found that variation of neuronal
activities in IT and monkey’s detection were significantly correlated. This result suggests that IT neuronal activities are linked
to visual awareness of a stimulus.
Keyword
awareness, detection task, Inferior Temporal cortex
1. ま え が き
ヒトの知覚がどのような神経活動によってもたら
う状況が存在する.そのため,知覚と神経活動の相関
を ト ラ イ ア ル 毎 に 解 析 す る こ と が 可 能 に な る .つ ま り ,
されているのかを明らかにすることは神経科学の大き
刺激条件は同一でありながらサルが A と答えたトライ
な目標の 1 つである.この問題に焦点を当てた研究は
アルでは活動が高く,B と答えたトライアルでは活動
数 多 く な さ れ て お り (for review, [1][2], ex.[3]-[7]),色 々
が低いような性質を示すニューロンを刺激 A の知覚に
な感覚モダリティで,様々な工夫を凝らした行動課題
相関したニューロンであるとみなすのである.現在,
を遂行中のサルからニューロン活動を記録した結果が
あるニューロンの活動が当該刺激の知覚に関わってい
報告されている.特によく用いられるパラダイムは,
るかどうかを示すうえで,トライアル毎の解析でサル
感覚刺激の強度を弱くして,心理物理的閾値付近で弁
の知覚とニューロン活動との相関が得られることは最
別課題をサルに行わせ,課題遂行中のニューロン活動
も有力な証拠とみなされている.このパラダイムに則
を調べるものである.心理物理的閾値付近では正答率
って知覚と神経活動の相関を調べる研究の多くは,強
が下がるため,刺激条件が物理的に同一でありながら
制 2 択 の 弁 別 課 題 を サ ル に 行 わ せ て い る ([3]-[6]).し か
被 検 体 の 選 択 (知 覚 )が ト ラ イ ア ル ご と に ば ら つ く と い
し,
「 知 覚 」と い う 言 葉 を ど の よ う に 定 義 す る か 未 だ 議
論が残るところであるが,
「主観的な感覚が生じている
円 を 多 数 組 み 合 わ せ た マ ス ク 刺 激 が 300 ミ リ 秒 呈 示 さ
状態,つまり見えたり聞こえたりしていること」とい
れ る . 続 け て , ご く 短 い 期 間 (6.2~62 ミ リ 秒 )の ブ ラ ン
う最も自然な意味で知覚という言葉を定義すると,強
ク 期 間 の 後 に 6.2 ミ リ 秒 間 テ ス ト 刺 激 が 呈 示 さ れ る .
制 2 択課題は知覚に相関した神経活動を調べる実験で
マ ス ク 刺 激 の 消 去 か ら 372 ミ リ 秒 後 (テ ス ト 刺 激 消 去
サルに行わせる課題としては適切とはいえない.強制
か ら 約 300 ミ リ 秒 後 )に 呈 示 さ れ る 3 つ の タ ー ゲ ッ ト の
2 択 課 題 で は ,呈 示 さ れ た 2 つ の 選 択 肢 A と B の う ち
中から,テスト刺激と同じ刺激を選んで注視すれば正
被検体が A を選んだ時にはその被検体には刺激 A の知
解となる.ターゲット刺激の並び方をランダムにする
覚があったとみなすことを前提にしているが,これは
ことで,正解となる刺激がどこに呈示されるかはター
心理物理的閾値付近では必ずしも成立しない.閾値付
ゲット刺激呈示期間になるまで分からないようにした.
近では,被験者が「刺激は提示されなかった」と報告
33%の ト ラ イ ア ル で は テ ス ト 刺 激 呈 示 期 間 に 何 も 提 示
しながらも強制選択させると偶然よりも遥かに良い成
されず,この時には 3 つのターゲット刺激のうちドッ
績 を 示 す こ と が あ り ([8][9]),閾 下 知 覚 と し て 知 ら れ て
トを注視すれば正解となる.マスク刺激消去からテス
いる.閾下知覚が生じる条件では,被検体が選択肢 A
ト 刺 激 消 去 ま で の 間 隔 を
を選んだとしても A の知覚が生じたとは見なせない.
Asynchrony(SOA) と 呼 び , こ の 間 隔 が 短 い ほ ど マ ス ク
この問題は,強制 2 択の弁別課題でなく検出課題をさ
刺激によるテスト刺激の知覚の妨害効果が大きい.訓
せることで解決できる.検出課題ではそもそも刺激が
練 期 間 中 に 測 定 し た サ ル の 心 理 物 理 的 閾 値
呈示されたのかどうかを被検体に問うので,その答え
(12.4-37.2ms)を 含 む よ う な 範 囲 の SOA を 用 い て 課 題 を
は被検体にとっての知覚の有無そのものとして解釈で
行わせた.
きる.そこで本研究では,図形検出課題を遂行中のサ
2.2. 神 経 活 動 の記 録
Stimulus
Offset
ルからニューロン活動を記録し,ニューロンの発火頻
1 頭 の サ ル の 右 半 球 の 下 部 側 頭 葉 皮 質 (Inferior
度とサルの知覚との相関を調べた.記録する部位とし
Temporal Cortex, IT) か ら 神 経 活 動 を 記 録 し た . 直 径
ては,物体認識において重要な役割を果たしているこ
15µm の タ ン グ ス テ ン ワ イ ヤ ー 4 本 を 束 ね た テ ト ロ ー
とが知られており,図形に対して選択的な応答を示す
ド電極を用いて細胞外活動電位を計測した.オンライ
ニューロンが多数存在する下側頭葉皮質を選んだ.
ンでは,4 チャネルのうち最も大きな振幅のスパイク
が観測されたチャネルに注目し,テンプレートマッチ
2. 方 法
ング法を用いて単一ニューロン由来のスパイクを検出
2.1. 行 動 課 題
し た . 21 種 類 の 線 画 図 形 (例 , 図 1B)を 用 い て ニ ュ ー
ロンの図形選択性を調べ,最大の応答を誘発する刺激
と最小の応答を誘発する刺激の 2 枚を選んで行動課題
に使用した.注目しているニューロンが図形刺激に対
して選択性を示した場合のみ検出課題に進んだ.細胞
外電位波形データは全て保存し,オフラインでの解析
に用いた.オフラインでは,テンプレートマッチング
法を用いたスパイク検出の後,4 つのチャネルにおけ
る振幅を用いてスパイクを 4 次元空間内の点として表
現し,クラスタリングによって単一ニューロン由来の
スパイクを同定した.本稿で示されたデータは全てオ
フラインで同定されたスパイクデータに基づいたもの
である.
2.3. データ解 析
テ ス ト 刺 激 呈 示 後 300 ミ リ 秒 間 (ニ ュ ー ロ ン 毎 に 計
算 し た 反 応 潜 時 で 補 正 )の 発 火 頻 度 を 刺 激 に 対 す る 応
図 1 行動課題及び刺激図形の例
答 と し , マ ス ク 刺 激 呈 示 前 300 ミ リ 秒 間 の 発 火 頻 度 を
自発活動とした.ニューロン活動とサルの知覚との相
マスク刺激呈示を含む図形検出課題を遂行するよ
関 は Choice Probability(CP)と 呼 ば れ る , 2 つ の 分 布 の 分
うサルを訓練した.画面中央に現れた注視点をサルが
離 度 を 0 か ら 1 で 表 す 指 標 で 評 価 し た ([3]). 2 つ の 分
注 視 す る と ト ラ イ ア ル が 始 ま る (図 1 A).300 ミ リ 秒 以
布 A と B が あ る 時 , fA と fB を A と B の 確 率 密 度 関 数
上 1300 ミ リ 秒 以 下 の ラ ン ダ ム な 注 視 期 間 後 ,線 分 や 楕
と す る と , CP は 以 下 の 式 で 定 義 さ れ る .
∞
CP =
∫
−∞
∞
f B (t ) ∫ f A (u )dudt
t
A と B の 分 布 に 重 な り が な く ,か つ A が B よ り 大 き
い 値 を 取 る 時 CP は 1 , 両 者 が 完 全 に 重 な っ て い る 時
CP は 0.5 の 値 を と る . 上 の 式 で は , CP は , A と B か
ら 1 サンプルずつランダムに抽出した場合に A から抽
出したサンプルが B から抽出したサンプルよりも大き
い確率と解釈することが出来る.
解 析 の 対 象 と な る ト ラ イ ア ル 群 は ,ト ラ イ ア ル 数 10
以 上 , か つ 刺 激 を 選 ん だ (検 出 成 功 , Hit)ト ラ イ ア ル と
ド ッ ト を 選 ん だ ト ラ イ ア ル (検 出 失 敗 , Miss)の 割 合 が
共 に 20%以 上 で あ っ た 刺 激 条 件 の ト ラ イ ア ル に 限 っ た .
テスト刺激と異なる刺激をサルが選んだトライアルは
解析対象から除いた.この条件を満たす刺激条件のト
ライアルについて,ニューロンの発火頻度を刺激条件
ご と に z 値 (平 均 0,標 準 偏 差 1 の 分 布 )に 変 換 後 全 ト ラ
イ ア ル を プ ー ル し ,サ ル の 選 択 (刺 激 を 選 ん だ か ,ド ッ
ト を 選 ん だ か )に 基 づ い て 2 群 に 分 け ,CP を 計 算 し た .
CP の 統 計 的 有 意 性 の 検 定 に は 順 列 検 定 (Permutation
test, 繰 り 返 し 2000 回 )を 用 い た .こ れ は ,ニ ュ ー ロ ン
の発火頻度とその後のサルの選択の組み合わせをラン
ダ ム に し た 擬 似 デ ー タ セ ッ ト を 準 備 し て CP を 計 算 す
る こ と を 繰 り 返 し , そ の 分 布 の 95%区 間 と 実 際 の CP
を 比 べ る 方 法 で あ る ([3]).
図2 課題遂行中のニューロン活動の例
図 3Aに 示 し た . CPが 有 意 に 0.5と 異 な っ て い た ニ ュ ー
ロ ン は 黒 で 示 し て あ る .記 録 し た 全 ニ ュ ー ロ ン の CPは
3. 結 果
平 均 約 0.58 で あ り , こ れ は 0.5 か ら 有 意 に 離 れ て い た
3.1. ニューロン活 動 とサルの知 覚 との相 関
(bootstrap test 繰 り 返 し 10000回 , P<0.0001). こ の 結 果
検 出 課 題 遂 行 中 の ニ ュ ー ロ ン 活 動 の 例 を 図 2Aに 示
は , ITの ニ ュ ー ロ ン 活 動 を も と に す れ ば サ ル に 知 覚 が
す .横 軸 は 刺 激 呈 示 の 瞬 間 を 0と し た 時 間 軸 ,縦 軸 は 発
あったかなかったかを推測できることを示している.
火 頻 度 で あ る . 上 段 は , 図 形 刺 激 14, SOA37.2ミ リ 秒
3.2. ニューロン活 動 の揺 らぎ
のトライアル群におけるこのニューロンの活動の時間
刺激呈示期間中のニューロン活動の揺らぎは何を
経過を示している.このトライアル群をサルの選択に
反映しているのだろうか.これを探るために,刺激呈
基 づ い て 2群 に 分 け た も の が 下 段 の 2本 の 曲 線 で あ る .
示 前 の 活 動 を 元 に CPを 計 算 し て み た (図 3B,C). 自 発 活
サ ル が 図 形 検 出 に 成 功 し た ト ラ イ ア ル 群 (実 線 )と 失 敗
動期間・マスク刺激呈示期間共に,全ニューロンの平
し た ト ラ イ ア ル 群 (破 線 )で は , 刺 激 呈 示 か ら こ の ニ ュ
均 CPは 0.5か ら 有 意 に 離 れ て は い な か っ た (図 3B,自 発
ー ロ ン の 反 応 潜 時 だ け ず れ た 瞬 間 (約 250ミ リ 秒 の 所 に
活 動 期 間 :平 均 0.51, P=0.0956, 図 3C,マ ス ク 刺 激 提 示
位 置 す る 破 線 )か ら 約 200ミ リ 秒 に わ た っ て , 平 均 発 火
期 間 :平 均 0.51, P=0.1638)が , 個 々 の ニ ュ ー ロ ン の CP
頻 度 が 乖 離 し て い る こ と が わ か る .図 2Bは ,横 軸 に 発
を 見 る と ,有 意 に 0.5か ら 離 れ た CPを 持 つ ニ ュ ー ロ ン の
火頻度,縦軸にトライアル数をとり,刺激に対する反
数 が 偶 然 で 予 想 さ れ る 数 (約 5個 )よ り も 多 か っ た (自 発
応 強 度 を ヒ ス ト グ ラ ム に し た も の で あ る .Hitト ラ イ ア
活 動 期 間 :25個 , P<10 -12 , マ ス ク 刺 激 呈 示 期 間 :19個 ,
ル の 発 火 頻 度 分 布 が Missト ラ イ ア ル の そ れ よ り も 全 体
P<10 -7 ).こ れ は ,刺 激 呈 示 前 の 活 動 と 刺 激 呈 示 期 間 中
的に高い方に寄っている.このニューロンの図形刺激
の活動との間に,ニューロンごとに正負がばらばらだ
に 対 す る 反 応 か ら 後 の サ ル の 選 択 (知 覚 )を ど の 程 度 予
が有意な相関があることを示している.マスク刺激呈
測 で き る の か を 評 価 す る た め に , Choice Probability
示期間の活動の揺らぎもテスト刺激呈示期間の活動と
(CP)を 計 算 (方 法 を 参 照 )し た と こ ろ 0.68で あ り , 有 意
相 関 が あ る が , 自 発 活 動 期 間 よ り は 弱 い (有 意 に 0.5か
に 0.5と は 異 な っ て い た (順 列 検 定 ,P<0.0005).記 録 し
ら 離 れ た CPを 示 し た ニ ュ ー ロ ン 数 が 少 な い ). も し こ
た 全 て の ニ ュ ー ロ ン に つ い て CPを 計 算 し ,そ の 分 布 を
れらの相関が今回記録した下部側頭葉皮質内の神経回
路の性質によってもたらされたとすると,より時間的
認 め ら れ た .図 4の Bは ,刺 激 に 対 す る 反 応 か ら 自 発 発
に離れた期間である自発活動期間の方がテスト刺激呈
火 頻 度 を 差 し 引 い た 量 と CPの 関 係 を 示 し て い る .こ れ
示期間の活動との相関が強くなることは考えにくい.
も 正 の 相 関 を 示 し た が ,図 4Aの 単 な る 発 火 頻 度 の 絶 対
どこか他の脳部位からの持続的な入力がこの相関をも
量よりも有意性の強い相関が見られた.今回の課題は
たらしていることが考えられる.
図形の検出課題なので,発火頻度の絶対量よりも視覚
図 3 Choice Probabilityの 分 布
3.3. ニューロンの基 本 的 性 質 と CP
あ る ニ ュ ー ロ ン の CPが 高 い と い う こ と は ,そ の ニ ュ
ーロンの活動がサルの行動を決定するうえで寄与が大
きいことを示唆する.それでは,ニューロンのどのよ
う な 性 質 が CPを 決 め る の だ ろ う か .例 え ば ,視 覚 刺 激
に対して高い発火頻度で応答するニューロンほど後シ
ナプスのニューロンに与える影響が大きいと仮定する
と ,発 火 頻 度 と CPの 間 に 正 の 相 関 が あ る か も し れ な い .
そこで,検出課題に移る前の,図形選択性を調べた際
の ニ ュ ー ロ ン の 反 応 と CPの 相 関 を 調 べ て み た . 図 4の
Aは , CP解 析 の 対 象 に な っ た 刺 激 が マ ス ク 刺 激 な し で
呈 示 さ れ た 場 合 の ニ ュ ー ロ ン の 反 応 と CPの 関 係 を 示
し て い る .上 述 の 予 想 の 通 り ,CPと の 間 に 正 の 相 関 が
図 4 ニ ュ ー ロ ン の 性 質 と CPの 関 係
刺激が無い状態からの変化量の方が脳にとって有用な
4.2. ニューロン活 動 の揺 らぎと Ongoing Activity
情 報 で あ る と 考 え ら れ る . 図 4Aと Bの 相 関 の 違 い は ,
刺激呈示前のニューロン活動の揺らぎがその後の
これを反映していると思われる.次に,刺激に対する
サルの選択と相関していることが示されたが,前述の
反 応 及 び 自 発 活 動 の ば ら つ き を 考 慮 し た 指 標 と し て d’
ようにこの相関は脳の他の部位からの継続的な入力に
を ニ ュ ー ロ ン ご と に 計 算 し , こ れ と CPの 相 関 を み た .
起 因 し て い る 可 能 性 が 大 き い . 脳 に は , Ongoing
d’は , 以 下 の 式 で 計 算 さ れ る . こ こ で , FRは 平 均 発 火
Activity と 呼 ば れ る , 広 範 囲 に わ た る 持 続 的 で 比 較 的
頻 度 , SDは 発 火 頻 度 の 標 準 偏 差 を 表 す .
周波数の低い活動があることが知られており,ヒトが
d'=
FRresponse − FRbaseline
自発的に行う運動との関連などが調べられている
SDresponse × SDbaseline
([12]) .Ongoing Activity が 様 々 な 脳 部 位 に ど の よ う な
ニューロンの反応はトライアルごとにばらつくが,こ
明な点が多い.本研究で見られた刺激呈示前の活動と
のばらつきが小さいほどそのニューロンの発火頻度は
刺 激 提 示 期 間 の 活 動 と の 相 関 が Ongoing Activity を 反
信頼性の高い信号であると考えられる.したがって,
映 し た も の で あ る な ら ば ,Ongoing Activity は 感 覚 皮 質
もし脳がこのばらつきをも組み込んだ情報処理を行っ
が外界からの入力を検出するうえで無視できない影響
て い る の な ら ば ,d’と CPの 間 に は , 自 発 発 火 頻 度 か ら
を与えていることになり,興味深い.その全体性,持
影響を与えているのか,またその役割は何か,まだ不
の 変 化 量 (d’の 分 子 の 部 分 )と CPの 相 関 を 示 し た 図 4Bよ
続性等の性質に加えて,感覚入力刺激の検出にも関わ
り 高 い 相 関 が 見 ら れ る と 予 想 さ れ る . d’と CPの 関 係
っ て い る と す る と ,Ongoing Activity は 脳 の 覚 醒 レ ベ ル
を 図 4Cに 示 す .d’と CPの 相 関 は 自 発 発 火 頻 度 か ら の 変
を維持しているのかもしれない.
化 量 と CPの 相 関 よ り 高 く は な く ,こ の 解 析 か ら は ニ ュ
ーロン活動の信頼性を脳が評価しているような痕跡は
認 め ら れ な か っ た .自 発 発 火 頻 度 に つ い て も CPと の 関
係 を 見 た が , 有 意 な 相 関 は 認 め ら れ な か っ た (図 4D).
5. ま と め と 展 望
今 回 の 結 果 は ,IT ニ ュ ー ロ ン の 活 動 と サ ル の 知 覚 の
相関を示した.今後,閾下知覚の状態に対応する神経
活動を調べる研究などにより,神経活動が知覚を生じ
4. 考 察
させるための必要条件を明らかにしていくことが出来
4.1. IT ニューロンの活 動 と知 覚 との相 関
ると思われる.
刺 激 呈 示 期 間 の IT ニ ュ ー ロ ン の 発 火 頻 度 を 基 に す
れば,サルに刺激の知覚があったか否かを推測出来る
ことが示された.しかし今回用いた方法では,以下の
理 由 に よ り IT ニ ュ ー ロ ン と 知 覚 と の 相 関 (平 均 0.58)
を 低 く 見 積 も っ て い る と 考 え ら れ る .(1)下 部 側 頭 葉 の
ニューロンの図形に対する選択性は複雑であり
([10][11]),21 種 の 刺 激 の ど れ も ニ ュ ー ロ ン に 高 い 応 答
を 誘 発 で き な か っ た 可 能 性 が あ る . (2)1 回 の 計 測 で 複
数のニューロン活動を同時に同定できる方法を用いて
いるが,最も振幅の大きいスパイクを出すニューロン
の反応に基づいて刺激を選んだため,同時に記録され
た 2 個 目 以 降 の ニ ュ ー ロ ン に と っ て は 21 種 類 の 中 で さ
え適刺激になっていない可能性が大きい.
本研究でサルに行わせた課題では,刺激が呈示され
た瞬間にはまだどの方向に眼球を動かせば正解となる
か が 決 ま ら な い た め ,刺 激 提 示 期 間 中 の 発 火 頻 度 が Hit
ト ラ イ ア ル 群 と Miss ト ラ イ ア ル 群 で 異 な っ て い た 事
を サ ル の 行 動 (眼 球 の 運 動 方 向 )の 違 い に 帰 属 さ せ る こ
とは出来ない.この差は,刺激あるいは行動の違いで
は な く ,サ ル の 選 択 の 違 い (刺 激 を 選 ん だ か ,ド ッ ト を
選 ん だ か )に 対 応 し て お り ,す な わ ち 刺 激 に 気 づ い た か
否かという刺激についてのアウェアネスを反映してい
ると考えられる.
文
献
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