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今月の技術

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今月の技術
平成25年11月1日
第481号
今月の技術
農 政 部 農 業 経 営 課
目
次
1 雪害・霜害に対する農作業管理 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
(久田浩志 加藤高伸 成田久夫 尾関 健)
(1) 大 豆 ~収穫期の雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・
1
(2) 野 菜 ~雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
(3) 野 菜(高冷地) ~雪害対策~ ・・・・・・・・・・・・・
3
(4) 果 樹 ~早霜害対策~ ・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
2 専門項目に関する情報 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
(1) 国産小麦の品種動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
(久田浩志)
(2) 夏秋ナス独立袋栽培の現地実証と普及性 ・・・・・・・・・・・ 9
(加藤高伸)
(3) 果樹の温暖化の影響とその適応技術 ・・・・・・・・・・・・ 11
(尾関 健)
雪害・霜害に対する農作業管理
1 大 豆 ~収穫期の雪害~
(1)速やかな収穫
①降雪時の対策
収穫体制を整えて速やかに収穫し、乾燥調製を行う。品質の低下が懸念されるが、全面積の収穫に向け
て、大豆の水分がやや高めでも収穫作業を進める。大豆の水分が高くて、コンバインでの収穫ができない
場合は、バインダー等による刈取りを検討する。
②長期にわたる積雪時の対策
事前に融雪の状況、ほ場の乾燥状態の把握に努める。収穫に当たっての水分の目安は、茎水分60%、
粒水分25%とする。
積雪期間が長い場合は腐敗粒が発生するが、腐敗粒発生の目安として黒変莢を調査する方法がある。莢
の黒変率が50%以上となる莢が全体の80%以上を占めた場合は、内部の子実のほぼ100%が腐敗粒
となり、収穫不能と判断することができる。黒変率が30%未満の莢では内部の子実が健全であることが
多いので、慎重な収穫作業が求められる。
(2)汚損粒対策
汚損粒の発生を防ぐため、コンバインの刈取り高を通常より高く(15cm 程度)して、刈り取りを行う。
大豆クリーナー設備があるところでは、必要に応じて大豆クリーナーを使用する。
(3)乾燥時のしわ粒、裂皮粒の回避対策
しわ粒や裂皮粒の発生をできるだけ防ぐため、通風温度を通常より低めに設定して乾燥する。子実水分が
20%以上の場合は常温で通風し、20%まで水分を下げてから通常より低めの温度で丁寧に乾燥する。
2 野 菜 ~雪害対策~
今年は、10月後半まで気温の高い状態が続き、大型の台風も日本に上陸するか付近を通過するなど、農
作物や農作業への影響が懸念される。
今後の気象予想では、11月にはようやく平年並みの気温となり、12月はやや低めの気温で降雪日もあ
るとされている。急な天候の変化には十分に注意し、以下のとおり早めの対策を行う。
(1)冬春作物の対策
①事前対策
・大雪が予想される場合は、ハウス支柱を太くしたり、支柱間隔を狭くする。また所々、棟に向けて支
柱を立てて補強する。
・被覆資材の弛み、抑え材の緩みがないか、また、雪の滑落を妨げる突起物等がないか点検しておく。
・暖房機の点検と燃料の点検をしておく。
・融雪剤を準備しておく。融雪剤にはカーボンブラック、焼きもみ殻、苦土石灰等がある。
・融雪水が滞水しないよう排水を良くしておく。
②降雪時対策
・雪が積もったら速やかに雪下ろしを行う。
・無加温施設では、内張りカーテンを開放し、地熱放射により雪の滑落を促進する。
・加温施設は、可能な範囲で施設内温度を高め、内張りカーテンを開放し雪の滑落を図る。
・東西方向のハウスでは、南側屋根の雪が早く融け、一時的に北側屋根に雪が残ることがある。また、
施設の奥行き方向が、冬期の風向きに対し直交する場合には、風上側の雪が風下側に吹き寄せられる
ことになる。
- 1 -
このように施設の片側に偏って積雪すると、倒壊の危険が増す。除雪作業は、積雪が一方に偏らない
ようバランスを考慮しながらなるべく速やかに雪を下ろす。
・降り積もった雪や屋根から滑落した雪が堆積すると、屋根雪の滑落を妨げる。また、ハウスサイドに
雪が堆積すると横圧による被害発生する。そのため、連棟谷部の堆積雪や単棟ハウス間の雪は速やか
に除く。
・散水により屋根雪を流すことは、水を含んだ雪の重量が予想以上に増大し、施設を倒壊させることが
あるので行わない。
・連棟ハウスでは、豪雪時にハウス骨組みを保護するため、被覆資材を破ることも考える。
③事後対策
ア 全壊、半壊ハウスの場合
ハウス周囲の除雪を行い、ハウス資材、ビニールの手配、準備が整ってから立て替える。この場合、
中に作物があるので、できれば晴天の日に1日で行うとよい。生産組合等関係者で協力するとともに、
普及指導員も積極的に協力する。
イ ハウスが健全な場合
ハウス周囲に屋根から滑落し堆積した雪が次の降雪時に屋根雪の滑落を妨げるので、速やかに除雪す
る。
ウ トンネル栽培
圧雪でトンネル支柱が下がったり、被覆資材が緩んだりするので、降雪後早めに手直しする。また、
降雪後の強い日差しで、葉焼けをおこすことがあるので、換気等を行い予防する。
エ 露地栽培
露地栽培では、圧雪で生育が一時的に停滞するので、降雪後トンネルやベタ掛け資材を活用し、生育
を促す。
オ 融雪促進
融雪剤を用い、融雪を促進する。このとき、融雪後の水により湿害が起きないよう溝などを設置し、
排水を促す。
カ 低温害対策
イチゴでは、被害の状況に応じて、摘果(花)、摘葉を行うとともに、葉面散布剤等により早急に株
の回復を図る。
ダイコンでは、2~5℃の低温に15~20日間遭遇すると抽台が発生するが、生育初期(本葉2枚
程度まで)は日中の高温(30~35℃)により夜間の低温感応が打ち消されるので、日中の高温管理
に努める。
葉菜類では、回復の見込みがないものは、早めに株を整理して、再播種できるものは播き直す。
野菜類全般では、雪による損傷、冷害などによって灰色カビ病等の発生が多くなるので、防除の徹底
を図る。
(2)被覆ビニール除去済みハウスの豪雪時対策
③
①事前対策
⑥
・直管(図1の①②③)より上に雪がある
①
と、融雪ともに直管が引き下げられ、ハウ
②
ス倒壊の原因となる。
⑤
このため多雪地帯では、予め直管を外して
おく。
⑧
・トマト等の栽培あとで、ハウスの梁の位置
(図1の⑥)に針金やマイカー線が残って
④
いると、この上まで雪があった時、下へ引
⑦
き込むので、予め除去しておく。
図1 被覆ビニール除去済みハウス
- 2 -
・ホウレンソウ用サイド灌水管は低い位置(図1の⑦⑧)にあるので、取り外しておく。
②降雪時対策
・ハウス肩部の直管が雪に埋まらないよう、新雪のうちに図1の④の線のように肩部下の外又は内側の除
雪を行っておくことで、次回の雪が肩部直管に近くなっても、除雪する場所を確保することができる。
・積雪が多くなってきた場合でも、図1の⑤の線のように直管は雪に埋まらないよう除雪やこまめな踏み
込みを行う。
3 野 菜(高冷地) ~雪害対策~
平成24年11月14日に発生した季節はずれの大雪による
パイプハウスへの被害は飛騨市・高山市・郡上市の広範囲に及
び、標高600mの旧高山市内ハウスでも被害が報告されてい
る(高山観測所最深積雪量は4cm)。高標高地域を中心に、こ
れまでにも度々急激な気象変化により、雪害に見舞われている
ことから、気象情報には十分注意するとともに、所有するパイ
プハウスの特性を理解し、事前の対策を怠らないようにする。
(1)雪の重さ
粉雪状の新雪の比重は0.05~0.15だが、湿った雪で
図2 雪害発生事例(高山市)
は約0.3となる。この時期は、比重の重い湿った雪の降るこ
とが多く、僅かな積雪でも大きな被害となる事が多い。また間口の広い7.2mハウスは、被覆面積が広い
ためハウスに積もる雪の総重量が多くなり、雪害に弱い傾向があるため、特に注意が必要となる。
<参考>
比重0.3の雪が20㎝積もると、1平方メートル当たり60㎏となる。
(2)パイプハウスの太さ
パイプの太さは、太ければ太いほど耐雪性が向上する。パイプの強度は断面係数に比例するため、22.
2mm のパイプを25.4mm にすると約1.3倍強くなり、22.2mm のパイプを31.8mm にすると約2.
8倍強くなるとされている。所有するハウスがどのパイプで建てられているかは、事前に把握しておくこと
は重要である。
(3)ハウスの構造
パイプハウスの屋根形状は、一般にアーチ型となって
いるが、
屋根部分の傾斜が緩い
(ライズ比f[アーチ高さ]
/L[ハウス幅]が小さい)ほど、上からの荷重に対して
変形しやすいとされていることから、傾斜の緩やかな形
状のハウス(7.2m間口ハウス等)は特に注意が必要
である。
(4)事前対策
・作付けのないハウスのビニールは早めに除去する。全
てのビニール除去が困難な場合は、天井部だけでも取
- 3 -
図3 ハウス形状とたわみ・曲げモーメント
関係(日本施設園芸協会 1999)
り除く。
・作物等がありビニールが除去できない場合は、ハウス
内の室温を確保し雪の滑落を促進させるため、必ずサ
イドビニールを被覆する。
・内部被覆(二重カーテン)が設置されている場合は、
内部被覆を開放し、地熱の放射により室温を上昇させ
ることで雪の滑落を図る。
・著しい積雪が予想される場合は、補強用の支柱を設置
しハウスを補強する。補強資材については、予め利用
しやすい場所に整備・保管しておく。支柱は、丸太や
竹等を3m程度の間隔で取り付ける(強度は1.4倍
に向上)。
その際、雪の重みで支柱が土中にめり込まないよう、
図4 予め支柱を設置して栽培
支柱の下に土台等を設置すると良い。
・暖房機が準備できる場合は、電源、配線、燃油量等について正常に機能するか事前に確認する。また、対
流式ストーブ等の簡易暖房機の利用も雪の滑落を促進させる効果は大きいことから、事前に準備すると良
い。
(5)降雪時対策
・ハウスパイプの太さや構造等により耐雪性が異なることから、危険性の高いハウスから速やかに雪下ろし
を開始する。また、2年目以降の古ビニールを使用している場合も滑性が劣り倒壊の危険性が高いため、
優先して除雪を行う。
・風向き等により屋根の片側だけに偏って積雪がある場合は、パイプに予想外の大きい力が加わり、ハウス
倒壊の危険が生ずることもあるので、速やかに除雪する。また、ハウスの片側だけを除雪すると片荷重に
より倒壊する恐れがあるので、両側から均等に除雪を行う。
・ハウスの除雪が困難で倒壊の危険がある場合は、ハウス本体の倒壊を防ぐため、ビニールを切ってハウス
の倒壊を防止する。ビニールの切断は、棟パイプに対して左右対称に行う。 なお、ハウス内に入り切断す
る場合は、落雪や倒壊に細心の注意を払い作業を行う。
(6)降雪後対策
・降雪後、ハウス倒壊の恐れがなくなったことを確認の上、速やかにパイプハウス各部の損傷、緩み、弛み
などの有無を総点検し、補修する。特に、主管をつなぐジョイントや専用金具が緩んでいる場合が多いの
で、注意して確認する。
・ハウスの損傷やビニールの切断等を早急に修復し、室温の確保に努め、低温による作物の生育障害・枯死
等の被害を防止する。
3 果樹 ~早霜害対策~
(1)果樹の早霜害について
11月に入ると霜が降り始める。岐阜地方気象台の観測では岐阜市の
初霜日の平年値は11月20日となっているが、年によって強い霜が早
く降りることもある。県内ではかき(富有)やみかん(温州みかん)が
収穫期間となっており、年によって果実へ多大の被害が生じることもあ
る。
かきの場合、強い霜が降りると表面が凍り、それが解けて部分的に軟
化し(図5)、出荷できなくなる。
みかんの果実は、凍害に遭うと果皮の水分が抜け、果皮にハリがな
- 4 -
図5 凍害を受けた富有柿
くなり、苦みを発生させることがある。また、霜の程度によっ
ては落葉することもある。
(2)早霜対策
・気象予報に十分注意しながら、収穫期に達した果実は早めに
収穫する。
・樹全体を被覆資材等で被覆する。(0.5~1℃の保温と防
霜効果がある)(図6)
図6 寒冷紗を被覆したみかん園
- 5 -
専 門 項 目 に 関 す る 情 報
国産小麦の品種動向
1 はじめに
国産小麦の品種については、平成11年度からの「麦新品種緊急開発プロジェクト」以降、実需者のニー
ズを踏まえつつ、耐病性、耐倒伏性に優れた新品種の開発が進められており、生産現場への導入が進んでい
る。一方、国産小麦の流通は、平成12年度に政府管理から民間流通に移行して以降、生産量の増加や品質
の向上もあって、小麦市場における国産小麦の地位は次第に向上してきており、新品種への転換に追い風と
なっている。また、「攻めの農林水産業」の具体化に向け、新品種・新技術の開発、普及や知的財産の保護
による「強み」のある農畜産物の創出が求められており、新品種の導入による「強み」のある産地づくりの
取り組みが推進されている。
本県においても小麦の安定生産と高品質化を図るため、平成29年産から新品種「さとのそら」の本格的
導入を検討しているところである。「さとのそら」は「農林61号」に比べ、短稈で耐倒伏性、耐病性(コ
ムギ縞萎縮病)に優れる有望な品種であり、当県での導入に際しては、他産地の動向等を踏まえ着実に推進
する必要がある。ここでは、国産小麦の主要産地として、北海道、九州の各産地と関東・東海の各県におけ
る品種導入・転換に関する動向を紹介する。
2 国産小麦主要産地の品種動向
北海道は他の産地と異なり、生産される麦類のほとんどが小麦である。また、水田作は全体の25%ほど
であり、畑作における輪作作物として栽培されている。平成24年産小麦の作付面積は11万9千ヘクター
ルで、生産量は58万9千トンと他の産地を圧倒している。北海道の品種は、平成21年から23年にかけ
ての3年間で普通小麦の主要品種であった「ホクシン」が「きたほなみ」へ全面的に転換されている。「き
ほたなみ」は、主に製麺用に用いられ、従来の「ホクシン」より収量が1〜2割多く、栽培特性に優れてい
る。また、製粉歩留まりが高く、製麺適性も「ホクシン」より優れている。「ホクシン」が広く浸透してい
たため、全面的な転換に伴い、「ホクシン」の廃止を惜しむ声も強かったが、新たに導入された「きたほな
み」は、実需者、生産者の双方から高い評価を得ている。北海道では強力小麦でも新しい品種が多く、「春
よ恋」は平成13年、「キタノカオリ」は平成14年、「ゆめちから」は平成23年にそれぞれ品種登録さ
れている。このうち「ゆめちから」は、輪作体系でも作りやすい秋まき小麦であり、今後の面積拡大が見込
まれている。
九州の平成24年産小麦の作付面積は3万4千ヘクタールで、生産量は10万6千トンであるが、これと
は別に大麦・裸麦が2万3千ヘクタール栽培されている。九州における小麦の主産地は、福岡県、佐賀県、
熊本県、大分県の4県で全体の98%を占めている。九州の普通小麦は、栽培されている品種が多いだけで
はなく、導入してから長い間同じ品種が栽培されており、今のところ転換される予定はない。作付面積の最
も多い「シロガネコムギ」は昭和49年に登録された品種であり、近年、評価が高まり需要が拡大している
「チクゴイズミ」でも平成5年の登録である。「チクゴイズミ」は、「農林61号」と同様に長い間、品質
面で「ASW」より劣るため、日本麺でも「ASW」とのブレンド用の需要が中心であった。しかし、近年
になって「チクゴイズミ」は、うどんやつけ麺で使用すると外国産小麦では出せないモチモチとした食感が
でるため、製麺業者からの評価が上がり、需要が増えている。一方、強力小麦では、新しい品種の作付けが
増加しており、「ミナミノカオリ」は平成16年、「ちくしW2号」は平成20年に登録された品種である。
「ミナミノカオリ」は、パンの比容積(ふくらみ)や官能試験での評価が高く製パン適性に優れ、原粒タン
パク質が高く醤油醸造用にも適する。中華麺でも評価されており、北海道産の強力小麦に比べ品質面で劣る
ものの、割安感から人気が高く、需要に生産が追いつかない状況である。「ちくしW2号」は、福岡県が全
国に先駆けて開発したラーメン用の品種であり、地産地消により福岡ラーメンの魅力を高めるため、「ラー
麦」の愛称で推進されている。
- 6 -
3 関東・東海各県の品種動向
茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県の4県は、北関東として北海道、九州につぐ国内第三の産地である。こ
の北関東4県を含む関東と当県が属する東海の各県について、先日行われた関東東海北陸農業試験研究推進
会議・関東東海水田作畑作部会冬作研究会での報告をもとに品種動向を紹介する。
茨城県では、麦の作付面積の約6割が小麦であり、平成24年産の作付面積は4千4百ヘクタール強とな
っている。栽培品種は平成21年産から導入した「さとのそら」が急増している(平成25年産では「農林
61号」の廃止に伴い作付面積の91%を占めている)。他には、「農林61号」より栽培特性に優れ、ア
ミロース含量がやや低く、麺(うどん)の粘弾性が改良された製麺適性が優れる「きぬの波」を認定品種と
しており、作付面積の9%弱を占めている。
栃木県は、ビール大麦の栽培が盛んで作付面積の8割が大麦となっており、小麦は約2割で平成24年産
の作付面積は2千6百ヘクタールとなっている。「イワイノダイチ」と「タマイズミ」が奨励品種であるが、
「さとのそら」と強力小麦の「ゆめかおり」が認定品種に採用されており、作付面積が増加している。特に
「さとのそら」は、「農林61号」の減少に伴い、最も作付面積の多い小麦品種となっており、小麦全体の
33%を占めている。
群馬県は、麦類の作付面積のうち75%が小麦であり、平成24年産の面積は5千6百ヘクタールとなっ
ている。「さとのそら」は群馬県の農業技術センターが育成した品種であり、平成23年の「農林61号」
廃止に伴い、作付面積の約70%を占めている。他には「つるぴかり」、「ダブル8号」、「きぬの波」と
平成13〜15年に登録された自県育成品種が栽培されている。
埼玉県は、麦類の作付面積のうち小麦が占める割合が86%と高く、平成24年産の面積は5千5百ヘク
タールと群馬県に次ぐ規模となっている。平成24年産では作付けの9割弱が「農林61号」であるが、平
成22年産から導入された「さとのそら」が徐々に増えている(平成25年産では「さとのそら」が19%
まで増加し、「農林61号」は72%に減少している)。他には、低アミロースの「あやひかり」と強力小
麦の「ハナマンテン」が栽培されている。
千葉県、東京都、神奈川県及び山梨県は、麦類の生産が盛んではなく、平成24年産の小麦の作付面積は、
千葉県で7百ヘクタール弱となっている以外、30~70ヘクタール程と非常に少ない。千葉県の小麦品種
は、「農林61号」のみであるが、平成26年産から「さとのそら」の本格的導入が予定されている。
長野県では、麦の作付面積の約8割が小麦であり、平成24年産の作付面積は2千1百ヘクタール強とな
っている。倒伏に強く良質多収で粉色が白く製麺適性が良い「シラネコムギ」が最も多く、作付面積の48%
を占めている。他には「ハナマンテン」、「しゅんよう」、「ユメセイキ」、「ゆめかおり」が栽培されて
いる。
群馬県と同様に麦類の育種を行っているため自県育成の品種が多いが、
新しい品種の作付けは少ない。
静岡県は、麦類の生産が盛んではなく、平成24年産の小麦の作付面積は、8百ヘクタール弱となってい
る。品種は、平成21年産では「イワイノダイチ」と「農林61号」がほぼ半数であったが、現在では「イ
ワイノダイチ」のみとなっている。
愛知県は、麦類のほとんどが小麦であり、平成24年産の小麦の作付面積は5千2百ヘクタール強となっ
ている。品種は、「農林61号」が54%、「イワイノダイチ」が47%、「きぬあかり」が3%となって
いるが、平成30年には小麦品種の大部分を自県育成の「きぬあかり」に切り替える予定としている。「き
ぬあかり」は穂が長く多収であり、加工面においても日本麺に適した生地の強さと麺のコシを出すことがで
きると評価が高い。
三重県は、麦類の作付面積のうち小麦が占める割合は95%であり、平成24年産の作付面積は5千8百
ヘクタール弱となっている。三重県では、地元特産品「伊勢うどん」に、麺が滑らかで食感が良くなる低ア
ミロース品種「あやひかり」の利用を進めており、「あやひかり」は作付面積の44%を占めている。他に
は「ニシノカオリ」が23%、「農林61号」が21%、「タマイズミ」が12%栽培されている。このう
ち、「農林61号」は平成26年産から「さとのそら」へ全て品種転換することが予定されている。
4 岐阜県の品種動向
本県における麦類の生産は、近年徐々に作付面積が増加しており、平成24年産の作付面積は3,243ヘ
クタールであり、うち小麦は3,040ヘクタールとなっている。栽培品種ごとの作付面積割合は「農林61
- 7 -
号」が50%、「イワイノダイチ」が41%、「タマイズミ」が8%となっているが、平成29年産からの
「さとのそら」本格導入に向けて大規模実証を進めており、平成25年産では30ヘクタールが作付された
ところである。「さとのそら」の導入に伴い「農林61号」は平成30~31年産での切り替えが予定され
ており、国内第三の小麦主産地である北関東の動向に同調したかたちとなっている。「農林61号」はコム
ギ縞萎縮病の発生、拡大により安定生産が困難になりつつあるため、新品種「さとのそら」への転換は、生
産者、実需者の双方にメリットが大きい。しかしながら、小麦は、民間流通に移行してから実需者との連携
が一層重要となっており、今後「さとのそら」への転換に向けては、実需者の求める良質小麦の生産技術を
早急に確立する必要がある。
表 平成11年以降に開発された小麦の主な新品種
北海道
東北
日本麺用
日本麺用
きたほなみ(北海道)
ネバリゴシ(青森・岩手・秋田・山形)
きたもえ(北海道)
きぬあずま(福島)
パン用秋まき
パン用春まき
あおばの恋(宮城)
キタカオリ(北海道)
春よ恋(北海道)
ふくあかり(福島)
ゆめちから(北海道)
はるきらり(北海道) パン用
ゆきちから(青森・岩手・秋田・山形・宮城・
福島)
関東・東海
北信越
日本麺用
日本麺用
あやひかり(埼玉・三重)
ユメセイキ(長野)
イワイノダイチ(栃木・静岡・愛知・岐阜)
パン用
きぬの波(群馬・茨城・埼玉)
ユメアサヒ(長野)
さとのそら(群馬・栃木・茨城・埼玉・千葉)
ゆめかおり(長野)
きぬあかり(愛知)
ハナマンテン(長野)
パン用
ニシノカオリ(三重)
ユメホウシ(茨城)
ゆめかおり(茨城・栃木)
醤油・中華麺用
タマイズミ(岐阜・栃木・三重)
九州
近畿・中国・四国
日本麺用
日本麺用
トワイズミ(福岡)
ふくさやか(滋賀・山口)
パン・中華麺用
ふくほのか(兵庫)
ニシノカオリ(佐賀・熊本・大分)
ミナミノカオリ(福岡・熊本・大分・長崎)
さぬきの夢2009(香川)
パン用
ちくしW2号(福岡)
ニシノカオリ(京都・山口)
ミナミノカオリ(広島)
注)品種名の後の( )内は、奨励都道府県(平成25年3月現在)
- 8 -
夏秋ナス独立袋栽培の現地実証と普及性
1 夏秋ナス独立袋栽培技術の開発
夏秋ナス独立袋栽培の研究開発は、岐阜県中山
間農業研究所において平成22年~24年の3か
年間、農林水産省の新たな農林水産政策を推進す
る実用技術開発事業を活用し、「夏秋果菜類の土
壌病害を回避する新たな超低コスト栽培システム
の開発」として取り組まれた。
概略は図1のとおりであるが、従来よりも小さ
めの畝表面を厚めのマルチシートで覆い、人工培
土を詰めたポリ袋培地にナスを定植し、被覆した
化成肥料を基肥・追肥として栽培する方法である。
2 平成24年度までの現地実証による成果と課題
実用開発事業の一環で、県下数か所に現地実証ほを設置
図1 夏秋ナス独立袋栽培の概略図
(中山間農業研究所作成)
し、開発された技術の現地適応性や普及性について検討し
た。
表1
表2
表5-1-2 現地試験での病害発生状況
栽培株数 罹病株数 発生率
(株)
(株)
(%)
※
1482
2
0.1
ナス
※※
※※※
1921
7.6
トマト
146
※ナスにおける対照土耕栽培での病害発生率は5~10%
※ナスにおける対照土耕栽培での病害発生率は 5~10%
※※トマトは前年度青枯れ病によりほぼ全滅の圃場での作付
※作付期間中通路マットが株元にめくれ上がるなど管理上の不手際もあった
※※※作付期間中通路マットが株元にめくれ上がるなど管理上の不手際もあった
※表1,2は「平成24年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業事後評価用報告書」より抜粋
現地実証の結果、土壌病害の発生はほとんどなく、産地を悩ます青枯れ病や半身萎ちょう病には極めて有
効な技術であることが改めて確認された。
株当たりの収獲量は、1~2割少ない傾向で、3割以上少ないほ場もみられた。
生育及び草勢については、初期の生育や発蕾・開花・着果は慣行栽培より早まったが、梅雨開け以降、枝
の伸長や生育がやや停滞する傾向があり、側枝の発芽等も慣行より劣るほ場があった。
果実品質についても、慣行栽培より「つや無果」や「曲がり果」、「電球果」などの発生が多い等現地普
及に向けては多くの課題が残った。
- 9 -
3 平成25年度の新技術導入広域推進事業への取り組み
平成24年度で実用開発事業が終了したことから、平成25年度から「新技術導入広域推進事業」におい
て残された課題の解決に取り組んだ。
新技術導入広域推進事業は平成24年度から3か年実施するとされている事業で、平成23年度に「協同
農業普及事業の運営に関する指針」において新たに位置づけされた「農業革新支援専門員」が核となって、
国や各県等で開発された新技術を現地実証等を通して効率よく普及しようとする事業である。
平成24年度までの実用技術開発事業にかかる現地実証で問題となった点は、
・単位面積当たりの収獲量が安定しない
・梅雨明け後の高温・強日照下での生育の遅延や草勢の低下が著しいほ場がある
・中・後半より、果実品質が低下しやすい
・8月下旬以降の側枝の発芽が抑制される
などであった。
平成24年度の現地実証の実績検討のなかで、盛夏の炎天下では無色透明の袋資材であるため培地温度が
上がり過ぎすぎることが根の活力を低下させ、その結果、果実品質の低下や側枝の発芽抑制の要因となって
いるのではないかという指摘があったため、
栽培途中から袋培地を白色シートで覆い経過を観察したところ、
生育・草勢上の改善が見られた。
そこで、平成25年度は梅雨開け直前から袋部分を白色シートで覆い、培地温度の抑制と草勢の維持を重
点改善項目として現地実証を行った。
4 平成25年度の現地実証の経過と結果及び新たな課題について
現地実証は、揖斐、恵那、飛騨の3地域4地点で実施した。
平成25年度は、各産地の苗が導入される4月中下旬~5月上旬にかけて極端に気温が下がり、実証担当
農家においても一部霜害や寒害を受けた。また、ほ場の準備が遅れて順調な栽培開始とはならなかった。
梅雨開け以降の7、8月は昨年よりかなりの高温傾向となり、慣行栽培においても花落ちや生育停滞が見
られた。また、9月は初旬の大雨による冠水や中旬の台風の襲来による暴風雨、その後連続した台風の襲来
等の影響から、一部ほ場では実証を中止せざるを得ない事態となった。
こういった状況のなかでの実証であったが、培地部分の白色シート被覆については、シート被覆なしに比
べ夏季の日中で3~4℃、夜間でも2℃程度地温を低下する事が出来た(図2)。
生育についても、ほ場での観察からは、シート被覆区ではシート被覆なしに比べ、生育の遅延や草勢低下
の程度は軽減されており、白色シート被覆による地温低下の効果があったものと考えられた。
(℃)
40
土耕(黒マルチ)
袋(タイベック被覆なし)
袋(タイベック被覆あり)
35
30
25
20
8/10 0:00
8/10 1:00
8/10 2:00
8/10 3:00
8/10 4:00
8/10 5:00
8/10 6:00
8/10 7:00
8/10 8:00
8/10 9:00
8/10 10:00
8/10 11:00
8/10 12:00
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図2 被覆資材を利用した袋内培地温度と慣行栽培の地温との比較
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5 新たな課題と普及性について
新技術導入広域推進事業にかかる現地実証では、袋培地部分を白色シートで被覆することで、培地温の上
昇を抑え、これにより生育遅延や草勢低下への影響を軽減することができた。
最終的な収量、果実品質等については、現在データ集計中であり、今後最終成果の取りまとめを行う予定
であるが、培地被覆を行う事で、追肥作業に手間がかかる事、被覆することで昨年度作成されたマニュアル
の潅水量について見直しが必要になった事等、今後改善に向けて取り組む必要のある課題も新たに発生して
きた。
引き続き次年度も現地実証に取り組み、
より普及性の高い技術として確立させる必要があると考えている。
果樹の温暖化の影響とその適応技術
1 はじめに
近年、地球温暖化を身近なところで感じること多くなってきた。春は桜の開花日などは次第に早くなり、
逆に秋は紅葉が遅くなっていることなど、その季節になると話題にされている。
わが国における 1898 年から 2004 年までのおよそ百年間の気温の長期変化の傾向は、全国で平均気温が
1.06±0.25度上昇している。この値は、北
半球における平均気温の上昇値0.77度を上回っ
ており、将来的には21世紀末で1.1~6.4度
の気温上昇の可能性があることが指摘されている。
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
(農
研機構)が行った温暖化によるわが国の農業への影
響に関する調査では、すでにほとんどの作物で温暖
化の影響が見られ、果樹ではりんごやぶどうの着色
不良、温州みかんの浮皮、なしの発芽不良などが報
告されている。永年生作物の果樹は、気候変動に対
し作期調節による対応ができず、気温上昇が直接生
育に影響を与える。また、果樹生産は樹を植えた後
の数年間は収穫がなく、初期投資をその後の数十年
図1 温暖化が果樹生産に与える影響(杉浦)
間で回収するため、一度植えたら数十年間は同一樹
で生産を続けなければ、経営的に不利となる。すなわち、果樹は他の作目と比べて温暖化の影響が著しい上
に、他の作目より
10年以上早くからその対策をとる必要がある。
ここでは、果樹に対する温暖化の影響について示し、現段階での適応策、研究成果等を紹介する。
2 果樹における温暖化の影響
果樹は果実の生育の違いによって、温暖化の影響による生育反応が異なる(図1)。ナシ、モモ、クリ等
は、春先の気温の上昇により発芽・開花期が前進し、それに伴い果実生育期も前進し、その結果収穫期も前
進するタイプ(果実生育期前進型)である。この場合、収穫期が前進し生産者にメリットが生じるが、収穫
期の高温の影響で果実障害、日焼けが多発するなどの影響が出る。
一方で、カキ、ブドウ、リンゴ、ミカン等は発芽・開花期が前進化しても、夏以降の気温の低下が成熟反
応を促すため、生育期間が拡大し、収穫期が遅れるなどの影響を受けるタイプ(果実生育期延長型)である。
このタイプは、生育期間が長くなるため果実肥大は促進され大玉傾向になるが、高温障害、着色不良・遅延、
果実軟化、貯蔵性の低下、糖度の低下などの影響がでる。
また、全ての樹種における樹体への影響として、春先の気温の上昇に伴い発芽・開花期が前進化すると、
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降霜地域では晩霜の被害に遭遇しやすい。
以下では、温暖化が進み、気温が高く推移した場合に予測される影響について、樹種別に紹介する。
(1)カキ
春先の高温による発芽期の前進化の影響で、晩霜害の増加が懸念される。また、夏期の高温・干ばつは、
果実の小玉化や日焼け等の高温障害の発生につながる。さらに、夏秋期の高温は、着色遅延や熟期遅延につ
ながる。さらに果実軟化や貯蔵性の低下が増加する。
一方、メリットとしては、果実肥大促進や、渋残りで現在は甘ガキ栽培不適地である地域でも甘ガキ栽培
が可能となる。
(2)ナシ
カキと同様に晩霜害に遭う頻度が高まり、変形果、傷果などの障害果が増加する。夏期の高温は皮色の着
色遅延や日焼け果の増加につながる。また、果実は、「豊水」では果肉先熟によるみつ症、褐変みつ症が発
生し、「新高」では果肉の水浸、す入り症、硬化障害、やけ症などが発生する。また、「幸水」では芯腐れ
果の発生が増加する。
西南暖地では、休眠期の低温不足により自発休眠覚醒が不十分となり、不発芽を起こす可能性が懸念され
る。
メリットとしては、果実肥大が促進され、収穫期が前進化し、「幸水」では盆前出荷の割合が高まる。ま
た、晩生種では適熟期が拡大する。
(3)ブドウ
黒色・赤色品種において、着色期から収穫期にかけての高温により、着色不良が多発する可能性がある。
地域によっては果実肥大期の高温による縮果症、成熟期の高温による穂軸褐変枯死、袋内脱粒などが懸念さ
れる。
施設栽培では、ナシと同様に休眠期の低温不足により自発休眠覚醒が不十分となり、発芽の不揃いや結実
不良が発生しやすい。
メリットとしては、豪雪地帯で棚が維持できなかった地帯でも栽培可能になること、加温栽培での暖房費
が低減される。
(4)カンキツ
カンキツでは秋芽の発生が増え、花芽分化の遅延が生じる。晩夏からの高温により、早生種で着色遅延・
不良が増加する。また、浮皮、水腐れ症、腐敗果などの生理障害も増え、貯蔵性の低下も問題となる。
メリットとしては、果実への寒害の被害が減少し生産が安定するとともに、す上がりや苦み果の減少につ
ながる。また、開花から収穫期までの期間が延長するため果実肥大が促進され、完熟果の収穫ができる。さ
らに、ハウス用の暖房費の低減、出荷の前進化にもつながる。
(5)クリ
冬期の気温の上昇により、耐凍性(ハードニング)が不十分となり、幼木や若木で凍害が発生する可能性
が高まる。高温・干ばつにより早生種を中心に小粒果や乾燥果、果肉の変質の発生が増える。
(6)モモ
温暖化により発芽期及び開花期が早まり、それに伴い晩霜による影響を受けやすくなる。また、クリと同
様に暖冬により耐凍性が不十分になり、幼木、若木で凍害が発生する可能性が高まる。果実は高温の影響で、
みつ症などの高温障害の発生が増加する傾向にある。
また、成熟期が前進化し、販売が有利になったり不利になったりする地域が出てくることが推測される。
施設栽培では、ナシと同様に十分な休眠覚醒が得られないまま加温すると、開花・結実が不良になる。
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(7)リンゴ
春先の高温による発芽期の前進化の影響で、晩霜害の増加が懸念される。夏秋期の高温により落葉期の遅
延を引き起こし、雪害や凍害を増加させる。果実では着色不良、果実軟化、貯蔵性の低下とともに日焼け果、
成熟不良果などの障害が増える。
メリットとしては、積雪量の減少により、わい化栽培での雪害が減少する。また、果実肥大の促進につな
がる。
(8)栽培環境
温暖化により樹体や果実だけでなく、栽培環境に与える影響も大きい。
害虫では発生の早期化、長期化がすすんでいる。リンゴやモモではモモシンクイガやハマキムシ類、ナシ
ではナシヒメシンクイ、カキではカキノヘタムシガなどの発生の長期化が確認されている。また、カメムシ
も暖地系のツヤアオカメムシが北上しており、
高温・干ばつにより各樹種でハダニ類の発生が増加している。
暖冬の影響で越冬可能な環境ができ、総じて害虫は多発化する傾向にある。さらに南方からミカンキジラミ
やミナミアオカメムシが北上して日本に侵入してきている。
病害は、リンゴやナシの輪紋病、炭疽病が北上しており、南方からはカンキツグリーニング病が北上して
いる。
雑草は、温暖化で生育が促進され、年間の除草回数が増える傾向にある。
3 温暖化に対する適応技術
(1)各産地の取組
各都道府県の試験研究機関への調
表1 現在の対策
査結果から、当面の対応策の事例を
種 類
表1に示した。一般的に慣行技術や
着色不良
着色系統の導入、Nの遅効き防止(リンゴ),適正着果量の厳守、樹下を明るく保つ
(ブドウ)、環状剥皮、果実周辺の摘葉(カキ)、反射マルチの敷設(ウンシュウミカン)
基本技術が対応策となっているもの
果実軟化
適期収穫の徹底、カルシウム剤散布(リンゴ)
もあるが、各試験研究機関で開発し
生理障害
遮光率の高い果実袋、新梢を多く配置(日焼け)、大玉生産抑制、硬度2kgまでに収
穫(モモ、みつ症)、連日収穫、有機物の施用等樹勢の安定(クリ、変質果)、扇状着
果による大玉抑制、カルシウム剤、エチクロゼート剤散布(ウンシュウミカン、浮皮)
貯蔵性低下
収穫期前進、カルシウム剤散布、光センサー利用(リンゴ)、タイベック簡易貯蔵(ウン
シュウミカン)
生理落果
カルシウム剤散布
結実不良
品種構成の検討、ミツバチの導入(ウメ)
①ブドウの着色改善のための環状
隔年結果
交互結実栽培、樹冠上部摘果(ウンシュウミカン)
剥皮技術
花芽形成不良 弱せん定(リンゴ)
た技術も挙げられている。
果実
(2)農研機構果樹研究所の研究成果
着色不良の問題を抱える赤色系
品種(安芸クイーン)の着色促進
花芽
樹体
当 面 の 対 応 策
自発休眠覚醒 一時的に露地への転換、被覆後の温湿度管理の徹底、加温時期の再検討、土壌改
不足
良(ハウスナシ)
わら巻(多数)、耐寒性品種や台木の導入(リンゴ)、主幹部へのせん定傷減少(モ
モ)、株緩め処理(クリ)
凍害
のため、着果量削減と環状剥皮を
葉焼け・日焼け 白塗剤の塗布
併用することで着色向上に大きな
輪紋病・炭疽
病・褐斑病
効果をあげることができる。
また、
糖度の向上も認められ、実用化技
防除暦の改訂、薬剤散布時期・農薬の種類についての再検討、天候により散布間隔
の短縮
カンキツグリー
罹病樹の伐採、ミカンキジラミの防除、苗木の持ち出し自粛
病害虫等 ニング病
カメムシ類
生産団地ごとの一斉防除、ヒノキ・スギへの薬剤防除
術としてマニュアルも作成された。
ただし、樹勢が弱い樹には行わな
ダニ類
効果の高い薬剤を発生初期に使用
雑草発生
年間の除草回数の増加
いなどの留意点もあり、注意が必要である。
②ミカンの浮皮防止のための植物ホルモン(ジベレリンとジャスモン酸)利用技術
ミカンの浮皮防止のため、これまではカルシウム剤やエチクロゼート剤の散布が行われてきた。ジベレ
リン(GA)の浮皮軽減効果は古くから知られていたが、薬害の発生などで実用化できなかった。しかし、
ジャスモン酸(PDJ)と混用することにより、実用化された。
③低温要求性落葉樹の自発休眠覚醒判定方法の開発
自発休眠覚醒期と考えられる12月下旬頃に大きく導管液糖含量が増加するのは、自発休眠覚醒と低温
反応(0℃近くの低温遭遇)の 2 つの生理現象が関与している。このことを利用して、休眠覚醒期を判定
し、加温栽培における加温開始時期を決定することで、休眠不足による不発芽現象等が解消される。
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④高温でも着色の良いブドウやリンゴの育成
リンゴでは果実の着色能力の簡易評価方法を利用し、既存の品種の中で着色よいものの着色特性を調査
している。その結果、「秋映」や「さんたろう」などはアントシアニン生成量が多く、温暖化対応が見込
める。また、アントシアニンの少ない黄色系の品種「もりのかがやき」の利用も検討の余地がある。
赤系ブドウでは「クイーンニーナ」などが着色良好とされる中で、「シャインマスカット」などの黄色
系の育種も進められている。
4 おわりに
冒頭に記述したように、果樹生産は一度植えたら数十年間は同一樹で生産を続けなければならないため、
他の品目と比べると10年以上早くからその対策をとる必要がある。温暖化に適応する技術の開発が試験研
究機関等で一層進められる中で、将来の方向などをしっかり見据え、今農家が何をすべきかを考え、的確な
情報と技術を正確に伝達していくことが普及指導員の役割である。産地を守り、発展させていくために積極
的に活動してもらいたい。
(参考文献)
・平成 25 年度革新的農業技術習得支援事業革新的技術に関する研修「果樹の温暖化適応技術」テキスト
・農業に対する温暖化の影響の現状に関する調査.独立行政法人農業生物系特定産業技術研究機構総合企画
調整部研究調査室.平成 18 年 3 月
・杉浦俊彦ら.温暖化が果樹生産に及ぼす影響と適応技術.地球環境 14,207-214
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