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少 害厚件の実名報道

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少 害厚件の実名報道
1
少 年事件 の 実名 報道
一 英 国 バ ル ガ ー 事 件 に み る 少 年 手 続 と報 道 一
辻
脇
葉
子
は じめ に
1997年6月
神 戸 市 児 童 殺 害 事 件 で 少 年 が 逮 捕 さ れ た 後 、新 聞 、週 刊 誌 、
テ レ ビで は 、 少 年 犯 罪 に関 して の 各 国 の 司法 制 度 を紹 介 す る記 事 が 多 く
見 ら れ た 。 そ れ ら の 記 事 の 中 で しば し ば 言 及 さ れ た の は 、5年
リ ス の リバ プ ー ル で 、 当 時10歳 の 少 年2人
が2歳
前、 イギ
の 幼 児 を 誘 拐 して 殺 害
した 事件 で あ っ た。 とい うの は 、 そ の 殺 害 方 法 の残 虐 性 や 殺 害 後 の 状 況
の 異 常 性 と 、 「犯 人 」が 予 想 以 上 に 幼 か っ た こ と で 社 会 が 受 け た 衝 撃 の 大
き さ が 、 神 戸 市 の 事 件 と共 通 す る た め で あ っ た 。 こ の 事 件 で 起 訴 さ れ た
2人 の 少 年 は 「無 期 懲 役 」 が 言 い 渡 さ れ 、 イ ギ リ ス の 新 聞 、 テ レ ビ は 少
年 の 実 名 と写 真 を 報 道 し た 。
他 方 、 日本 に お い て は 、顔 写 真 報 道 で 渦 中 の 『フ ォ ー カ ス 』 『
週 刊新 潮』
が 、 こ の イ ギ リ ス の 事 件 を取 り上 げ る こ と で 、 日 本 の 少 年 法 の 甘 さ と 、
顔 写 真 報 道 の11三当 性 をk張
、 さ らに は 、 写 真 掲 載 へ の 新 聞 、 テ レ ビ に よ
る 批 判 は 、 「人 権 の 呪 縛 に 囚 わ れ た 日 本 の マ ス コ ミ1の
「エ セ ・ヒ ュ ー マ
ニ ズ ム 」 に す ぎ な い と 反 論 し た{η。
は た し て イ ギ リ ス で は 少 年 犯 罪 者 の 人 権 に 「囚 わ れ 」 な い た め 実 名 報
道 が 行 わ れ て い る の で あ ろ うか 。
少 年 事 件 の 報 道 に 関 す る 第1の
視 点 は 、 少 年事 件 報 道 が 、 少 年 法 制 の
基 本 理 念 と密 接 に 関 連 し て い る 点 に あ る 。 少 年 に よ る事 件 を 、 「犯 罪 」と
し て 大 人 と同 じ刑 事 司 法 的 観 点 か ら 捉 え る か 、 あ る い は 「非 行 少 年 」 「要
2
保 護 少 年 」 と し て 、 福 祉 ・保 護 的 観 点 か ら 捉 え る か に よ っ て 、 報 道 の 位
置 づ け は 異 な っ て くるか ら で あ る。
少年 の 実 名 報 道 を認 め るか 否 か は 、 比 較 法 的 に 見 る と少 年法 制 の 基本
理 念 と 表 裏 一'体の 関 係 に あ る 。 イ ギ リ スや ア メ リ カ で は 一 部 の 凶 悪 事 件
つ い て は 少 年 の 実 名 が 報 道 さ れ て い る。 そ れ は そ の 国 に お け る少 年法 制
の 歴 史 の 中 で 福 祉 ・保 護 的 機 能 よ り も刑 事 司 法 的 機 能 が 優 先 さ れ る よ う
に な っ た経 緯 が あ るか らあ り、 そ の 意 味 で 、 少 年 法 制 の刑 事 司 法 的 な 基
本 理 念 を そ の ま ま 反 映 して い る の で あ る 。
こ れ に 対 し て 、B本
の 少 年 法 は 福 祉 ・保 護 的 機 能 を 基 本 理 念 と す る 。
こ の た め 審 判 の 非 公 開 ・匿 名 原 則 を 貫 い て い る 。 実 名 報 道 に よ っ て 少 年
や そ の 家 族 に もた ら され る犯 罪 者 の 烙 印や 社 会 的 生 活 基盤 の 喪 失 は 、少
年 の 社 会 復 帰 ・更 生 に と っ て 致 命 的 と も な り う る か ら で あ る。
1985年 国 連 で 採 択 さ れ た 「少 年 司 法 運 営 に 関 す る 最 低 基 準 規 則 」 が8
条 に お い て 、 「1.少
年 の プ ラ イ バ シ ー の 権 利 は 、不 当 な 公 表 や ラ ベ リ ン
グ に よ っ て 生 ず る 害 を避 け る た め に 、 あ ら ゆ る段 階 で 尊 重 さ れ な け れ ば
な ら な い 。2.原
則 と して 、 少 年 犯 罪 者 の 特 定 に 結 び つ き う る い か な る
情 報 も公 表 し て は な ら な い 。」 と い う規 定 を 設 け て い る 。
日本 の 少 年 法 は こ の 国 際 的 な 共 通 認 識 の 上 に 立 脚 す る の で あ る 。
少 年 事 件 報 道 に 関 す る 第2の
視 点 は 、 広 く成 人 も 含 め た 犯 罪 報 道 ・裁
判 報 道 全 般 の 問題 で あ る。
神 戸 市 児 童 殺 害 事 件 の 報 道 は 、 マ ス コ ミに よ る 犯 罪 報 道 の 現 状 へ の 批
判 も惹 起 し た 。 加 害 者 や そ の 家 族 の み な らず 、 被 害 者 を 「さ ら し者 」 に
す る興 味 本 位 の 取 材 や 記事 が もた らす 深 刻 な プ ラ イバ シー 侵 害 、 警 察 の
… 方 的 情 報 に 基 づ く犯 人 視 報 道
、 「ペ ー
一パ ー一・トラ イ ア ル1に
よ る 公正 な
裁 判 へ の 悪 影 響 。 女 子 高 生 コ ン ク リー ト詰 め 殺 人 事 件 、 連 続 幼 女 誘 拐 殺
人 事 件 、 松 本 サ リ ン事 件 、 東 電 女 性 杜 員 殺 害 事 件 と 、 犯 罪 報 道 に よ る 深
刻 な被 害 の 実 例 は 枚 挙 に い と まが 無 い。 これ は 週 刊 誌や 夕刊 紙 、 ス ポー
ツ 紙 と い っ た1イ
エ ロー ・ペ ー パ ー 」 ば か りで な く、 日本 の3大
一般 紙
3
で あ る 朝 日 、 読 売 、 毎 日新 聞 に お い て も変 わ り な い 。
確 か に イ ギ リ ス の マ ス コ ミ報 道 は 、 タ ブ ロ イ ド紙 を 中 心 と し た 王 室 ス
キ ャ ン ダ ル 報 道 の 加 熱 ぶ り で は 悪 名 高 く、 新 聞 報 道 の 法 的 規 制 措 置 の 導
人 論 も 出 て い る ほ ど で あ る。 しか し 、 少 な く と も 犯 罪 報 道 ・裁 判 報 道 に
関 し て 言 え ば 、 日本 と の 隔 た り は 大 き い 。特 に タ イ ム ズ 、 ガ ー デ ィ ア ン 、
イ ン デ ィ ペ ン デ ン トな ど の 英 国 高 級 誌 と 日 本 の 三 大 紙 を 比 較 す れ ば そ の
違 い は 歴 然 と し て い る。 こ の 違 い を 考 慮 し な い ま ま に 、 イ ギ リ ス の 少 年
の 実 名 ・顔 写 真 の 報 道 を論 拠 に し て 日本 で も 報 道 す べ き で あ る と論 ず る
の は 、 早 計 に 失 す る。 少 年 事 件 の 実 名 報 道 の 是 非 は 、 日本 の 犯 罪 報 道 の
現 状 考 察 を抜 き に 論 ず る こ と は で き な い の で あ る 。
以 上 の よ う に 、少 年 事 件 の 報 道 は 、少 年 法 の 問 題 と、 犯 罪 報 道 の 問 題 、
この 二 つ が 交 錯 す る問 題 領 域 で あ る。
本 稿 で は 、 英 国 の 幼 児 誘 拐 殺 害 事 件 と 日本 の 児 童 殺 害 事 件 の 比 較 を通
し て 、 少 年 事 件 報 道 の 相 違 点 を 明 確 に し、 そ の 相 違 の 背 景 に あ る イ ギ リ
ス の 少 年 法 制 と 裁 判 報 道 の 特 色 を概 観 し た い と考 え る 。 そ こ で 、 第1章
で は 、 ま ず 少 年 事 件 の 実 名 報 道 を め ぐ る 日本 の 議 論 を 整 理 し、 第2章
で
は 、 イ ギ リ ス の バ ル ガ ー 事 件 を通 し て 少 年 手 続 と報 道 の 現 状 を 検 証 し、
第3章
で 、 イ ギ リ ス に お け る 少 年 法 制 の 特 質 と裁 判 報 道 に 対 す る法 的 規
制 に つ い て 論 じた い 。
1少
年事 件 の実 名報 道 をめ ぐる 日本 の議 論
1.神
戸 市 児 童 殺 害 事 件 の 顔 写 真 報 道 が 提 起 した問 題 点
1997年6月28日
、 神 戸 市須 磨 区 の 小 学 生殺 害 事 件 で容 疑 者 と して 逮捕
さ れ た の は 、14歳 の 少 年 で あ っ た 。 翌 朝 、 犯 罪 記 事 に 関 し て は 通 常 扱 い
の 小 さ いH本
経 済 新 聞 も含 め て 、 新 聞 各 紙 は 一 面 で 、 逮 捕 の 事 実 、 殺 害
方 法 な ど に つ い て す で に 一 部 自 供 を 始 め て い る 旨 を 大 き く報 じ た 。 テ レ
ビ 、 週 刊 誌 が い っせ い に こ の 問 題 を 取 り上 げ た 中 で 、7月2日
発 売 の写
4
真 週 刊 誌 『フ ォ ー カ ス 』(新 潮 社7月9日
号)は
、 「14歳 酒 鬼 薔 薇 聖 斗 の
学 校 と殺 人 動 機 」 との 見 出 し で 、 逮 捕 さ れ た 少 年 の 顔 写 真 を掲 載 し た 。
『フ ォ ー カ ス 』 の 顔 写 真 報 道 で 誰 もが 想 起 し た の は 、1989年4月
に 『週
刊文 春 』 が 、 女 子 高 生 コ ン ク り一 ト詰 め 殺 害 事 件 の 被 疑 者 少 年 の 実 名 を
公 表 し た こ と で あ ろ う。
1988年11月
、 東 京 の 足 立 区 綾 瀬 で 女 子 高 生 が 監 禁 さ れ 、 翌 年3月
に ド
ラ ム 缶 に コ ン ク リー ト詰 め に さ れ た 死 体 で 発 見 さ れ た 事 件 で 、 少 年4人
が 逮 捕 さ れ た 。 今 回 の 事 件 と 同 様 、 マ ス ・メ デ ィ ア は 被 害 者 の 遺 体 の 状
況 や 暴 行 の 詳 細 を 報 道 し セ ン セ ー シ ョナ ル に 事 件 を取 り上 げ る 中 で 、『
週
刊 文 春 』4月20E」
せ よ!」
号 が 、 「女 子 高 生 惨 殺 事 件 第2弾
と い う 見 出 し で 、 逮 捕 さ れ た4人
・
加 害 者 の 名 前 も公 表
の 少 年の 実 名 、 さ らに 両 親 の
実 名 と職 業 ま で 公 表 し た の だ っ た 。
少 年 事 件 の 場 合 、 氏 名 や 顔 写 真 等 本 人 を特 定 し う る事 項 を報 道 す る こ
と、 す な わ ち 実 名 報 道 は 、 少 年 法 に よ っ て 禁 じ ら れ て い る 。 少 年 法61条
は 、「家 庭 裁 判 所 の 審 判 に 付 さ れ た 少 年 又 は 少 年 の と き 犯 し た 罪 に よ り公
訴 を提 起 さ れ た 者 に つ い て は 、 氏 名 、 年 齢 、 職 業 、 住 居 、 容 ぼ う等 に よ
りそ の 者 が 当 該 事 件 の 本 人 で あ る こ と を 推 知 す る こ と が で き る よ う な 記
事 又 は 写 真 を新 聞紙 そ の他 の 出版 物 に掲 載 して は な らな い 」 と規 定 して
い る。 罰 則 規 定 が な い こ と も原 因 して 、 こ の よ う な法 の 存 在 に もか か わ
ら ず 、 凶 悪 事 件 が 発 生 して 少 年 の 実 名 が 報 道 さ れ た 例 は こ の2つ
の事件
に とど ま ら な い。 そ して そ の度 に 少 年 事 件 の 実 名 報 道 の 是 非 をめ ぐる議
論 が な さ れ て き た の で あ る(2}。
少 年 事 件 の 実 名 報 道 の 是 非 を め ぐ る 議 論 の 論 点 を 整 理 す る と、 実 名 報
道 を 肯 定 す る論 拠 と して 挙 げ ら れ て い る の は 、 ① 少 年 に よ る 凶 悪 犯 罪 の
抑 止 効 果 、 ② 現 行 少 年 法 の 保 護 主 義 へ の 疑 問(少
年犯 罪の 処罰 強化 の必
要 性)、 ③ 社 会 防 衛 、 ④ 報 道 の 自 由 、 ⑤ 国 民 の 知 る権 利 、 で あ る 。 こ れ に
対 し て 、 実 名 報 道 を 否 定 す る 論 拠 は 、 ① 少 年 法 の 基 本 理 念(保
護 ・健 全
育 成)、 ② 冤 罪 の 場 合 の 名 誉 ・プ ラ イ バ シ ー 回 復 の 困 難 性 、 ③ 「無 罪 推 定 」
5
を 受 け る 権 利 、 ④ 公 平 な 裁 判 を 受 け る権 利 、 ⑤ 社 会 的 制 裁(リ
否 定 で あ る 。 議 論 の 論 点 は 、 上 述 し た よ うに 、2つ
理 で き る 。 第1に
ン チ)の
の 基 本 的 な問 題 に整
、 少 年 法 の 基 本 理 念 を め ぐる 対 立 で あ る 。 肯 定 す る 論
拠 の ① ② と否 定 す る 論 拠 の ① が お お よ そ そ れ に 当 た る 。 第2に
、犯 罪報
道 の あ り方 を め ぐ る 対 立 で あ る 。 肯 定 側 の ③ ∼ ⑤ と否 定 側 の ② ∼ ⑤ が そ
れ に 当 た る と 言 え る だ ろ う。
2.少
(1)少
年 法 の 基 本 理 念 をめ ぐる対 立
年 事 件 の 実 名 報 道 を 肯 定 す る 中 心 的 な 論 拠 は 、 凶 悪 犯 罪 を 犯 した
少 年 に は 保 護 で は な く成 人 な み の 厳 罰 が ふ さ わ し い と す る こ と に あ る。
例 え ば 、 今 回 の 顔 写 真 掲 載 を正 当 化 す る 主 張 を ま とめ る と以 下 の よ うに
な る で あ ろ う。
「大 人 顔 負 け の 凶 悪 な事 件 を 犯 し て い な が ら 、 少 年 と い う だ け で 保 護
さ れ るの は お か しい 。 少 年 法 が 制 定 され た時 代 に お い て は、 少 年 の 保 護
と い う理 念 は 妥 当 し た か も知 れ な い が 、 少 年 事 件 が 凶 悪 化 して い る 今U
に お い て 、 少 年 の 保 護 ・健 全 育 成 と い う理 念 を も ち だ す の は ナ ン セ ン ス
で あ る 。 と くに 、 凶 悪 事 件 で あ っ て も 少 年 院 か ら2年
る。 そ の 犯 し た 罪 に 対 し て2年
で社 会 に 戻 って く
で は 制 裁 と して は 軽 す ぎ る し、 更 生 し な
い ま ま帰 っ て く る の で あ る か ら 社 会 に と っ て 危 険 で あ る 。 し た が っ て 、
少 年 の 実 名 ・顔 写 真 を 公 表 す る こ と に よ っ て 、 社 会 を 防 衛 す べ き で あ る
し 、 軽 す ぎ る 処 分 に 代 わ る 社 会 的 制 裁 を 課 す べ き で あ る。」(3)
少 年 事 件 の 実 名 報 道 を 必 要 とす る 考 え 方 の 根 底 に あ る の は 、 制 定 時 と
今 日 との 社 会 状 況 の 変 化 に 視 点 を 据 え た 、 現 行 少 年 法 の 保 護 ・健 全 育 成
と い う理 念 に 対 す る 疑 問 提 起 で あ り、 社 会 防 衛 ・厳 罰 化 へ の 傾 倒 で あ る 。
少 年 事 件 の 報 道 の あ り方 は 、 比 較 法 的 に 見 て も そ の 国 の 少 年 法 の 基 本
理 念 と密 接 に 関 連 し て い る 。 む し ろ 理 念 の 制 度 的 具 体 化 の 一一
つ と言える
だ ろ う。 ア メ リ カ や イ ギ リ ス に お い て は 少 年 の 実 名 ・顔 写 真 が 報 道 さ れ
て い るが 、 そ れ は 以 下 に 述 べ る よ う に そ れ ぞ れ の 国 に お け る少 年 裁 判
所 ・少 年 法 に 対 す る 基 本 的 な 姿 勢 の 現 れ な の で あ る。
6
(2)ア
メ リ カ に お い て 、1899年 シ カ ゴ で 初 め て 創 設 さ れ た 少 年 裁 判 所 は 、
刑 罰 で は な く少 年 の 保 護 ・更 生 を 目的 と す る 福 祉 機 関 と し て 、 刑 事 裁 判
所 か ら分 離 さ れ 発 展 し て き た 。 少 年 裁 判 所 に と っ て 、 審 判 の 公 開 や 少 年
の 実 名 の 報 道 は 、 少 年 に 犯 罪 者 の 烙 印 を押 す こ と を 引 き起 こ し、 少 年 の
社 会 復 帰 に と っ て 有 害 で あ る と 考 え られ た 。 こ の た め 少 年 裁 判 所 の 成 立
後 しば ら く は 、 手 続 の 非 公 開 お よ び 匿 名 原 則 は 、 少 年 裁 判 所 が そ の 福 祉
的 機 能 を は た す う え で 本 質 的 な要 素 と考 え ら れ て い た の で あ る 。
しか し1970年 代 に 入 る と 、 少 年 裁 判 所 の 保 護 処 分 が 現 実 に は 自 由 の 束
縛 と社 会 的 烙 印 を も た ら す 点 に お い て 刑 罰 と 異 な ら な い こ と が 認 識 さ
れ 、 少 年 手 続 の 適 正 手 続 化 の 要 請 が 強 くな っ て い っ た 。 ま た 他 方 で 、 少
年 に よ る 凶 悪 犯 罪 の 増 大 が 、 そ れ ま で の 保 護 主 義 の 潮 流 を後 退 さ せ 、 厳
罰 化 に 向 け て 反 転 して い っ た の で あ る。 この 刑 罰 主義 へ の 方 向 転 換 は 、
同 時 に 、 非 公 開 ・匿 名 原 則 で 少 年 を 保 護 す る よ り も 、 公 表 に よ っ て 市 民
の 安 全 を 守 る と い う社 会 防 衛 の 利 益 を 優 先 す る 理 念 の 変 化 へ と結 び つ い
て い っ た の で あ る 〔4)。
(3)イ
ギ リ ス に お い て は 、 第3章
にお い て 詳 述 す る よ うに 、 少 年 手 続 は
ア メ リ カ と は 異 な り、 当 初 か ら 基 本 的 に は 刑 事 裁 判 所 的 な 色 彩 が 濃 か っ
た 。 少 年 裁 判 所 は 、 現 在 で も 組 織 上は 、 比 較 的 軽 微 な 成 人 の 犯 罪 を扱 う
治 安 裁 判 所 の 特 別 部 と し て 設 置 さ れ て お り、 そ こ で の 手 続 も刑 事 手 続 と
ほ とん ど変 わ ら な い 。 た だ 少 年 裁 判 所 で は 、 非 公 開 ・匿 名 原 則 は 貫 か れ
て い る。 こ れ に 対 して 少 年 事 件 の うち特 に 殺 人 等 の 重 罪 の場 合 は、 刑 事
法 院(CrownCourt)に
お い て 公 開 の 陪 審 裁 判 が 、 成 人 と 全 く同 様 の 手
続 で 行 わ れ 、 そ して 成 人 に 準 じ た 刑 が 課 せ ら れ る。 し た が っ て 、 重 罪 事
件 の場 合 は 犯 罪 行 為 の 重 大性 が 重 視 され る ため 、 ま さ に刑 事 裁 判 そ の も
の と し て 、 成 人 と 同 様 の 公 開 裁 判 ・報 道 の 自 山 が 本 来 保 障 さ れ る の で あ
る。 た だ し 、 少 年 とい う存 在 の 特 殊 性 を 考 慮 し て 、 例 外 的 に 裁 判 官 が 裁
量 に よ っ て 報 道 を制 限 す る こ と が で き る だ け で あ る 。 イ ギ リ ス の 少 年 手
続 を 全 体 と し て 見 る と、 刑 事 裁 判 に 近 い の で あ る 。
7
こ の よ う に 、 ア メ リ カ ・イ ギ リ ス で 実 名 の 報 道 が 行 わ れ て い る の は 、
そ の 少 年 法 制 の 基 本 的 理 念 が 刑 事 司 法 的 側 面 に 重 点 が あ る こ とに 由 来 し
て い る。
こ れ に 対 し て 、 日本 の 少 年 法 は 少 年 の 福 祉 ・保 護 を 基 本 理 念 と して い
る た め 非 公 開 ・匿 名 原 則 を 採 用 して い る の で あ る(1条
、22条2項 、61条)。
少 年事 件 の 実 名 報 道 をす る とい う こ とは 、 上 述 した 少 年 法 の 基 本 理 念 の
対 立 点 を視 野 に 入 れ つ つ 、 ま ず こ の 基 本 理 念 の 見 直 しの 議 論 を 前 提 と し
な け れ ば な ら な い は ず で あ る(5}(6}。
3.犯
(1}少
罪 報 道 の あ り方 を め ぐ る 対 立
年 事 件 の 実 名 報 道 を め ぐ る 第2の
対 立 は 、 報 道 の 自 由 ・国 民 の 知
る権 利 と 犯 罪 報 道 被 害 の 現 実 と を め ぐ っ て 従 来 か ら 議 論 さ れ て い る 問 題
で あ る。
イ ギ リスで は 、 バ ル ガ ー 事 件 の よ うに 少年 事 件 であ っ て も凶悪 な ケー
ス で あ れ ば 、 成 人 と同 様 に 実 名 ・顔 写 真 が 報 道 さ れ て い る。 こ の 点 が 、
今 回 の 神 戸 市 児 童 殺 害 事 件 で の 顔 写 真 報 道 を 正 当 化 す る 理 由 と して 挙 げ
ら れ た 。 しか し 、そ の よ う な 論 者 が 見 落 と し て い る 決 定 的 な ポ イ ン トは 、
そ も そ も 成 人 の 犯 罪 報 道 ・裁 判 報 道 の あ り方 が イ ギ リ ス と 日本 と で は 質
的 に も 量 的 に も 異 な る こ と で あ る。
衆 知 の よ う に 、 現 在 の 日本 に お け る 犯 罪 報 道 は 、 野 放 し状 態 に あ る 。
少 年 法61条 を 除 け ば 犯 罪 報 道 に 対 す る 直 接 の 法 的 規 制 は な い 。 確 か に 刑
法 の 名 誉 棄 損 罪(230条)は
報 道 規 制 的 な 性 格 を 持 っ て い る 。 しか し、 報
道 し た 事 実 の 公 共 性 、ll的 の 公 益 性 、 内 容 の 真 実 性 と い う3要 件 を満 た
し て い る場 合 に は 、 名 誉 棄 損 罪 は 成 立 し な い(230条
の2)。
そ して 、起
訴 さ れ る 前 で あ っ て も 被 疑 者 の 犯 罪 に 関 す る 事 実 は 公 共 的 な性 質 の あ る
事 柄 と さ れ る(同
条2項)う
え に、 た とえ 報 道 した 事 実 が 真 実 で は な く
誤 っ た 報 道 で あ っ て も、 報 道 側 が 真 実 だ と 誤 信 した こ と に つ い て 、 確 実
な 資 料 ・根 拠 が あ り誤 信 す る の もや む を 得 な い 場 合 に は 、 名 誉 棄 損 罪 は
成 立 し な い と さ れ て い る(最 大 判 昭 和44年6月25日
刑 集23巻7号975頁)。
8
し た が っ て 、警 察 の 発 表 に 基 づ い て 報 道 し た 場 合 に は 、た と え 誤 認 逮 捕 ・
誤 判 で あ る こ とが 後 に 判 明 した場 合 で あ っ て も、 報 道 機 関 は刑 事 責 任 を
問 わ れ る こ と は な い 。 こ れ が 、 ・一
種 の抜け道 となって、警察発表や 捜査
官 の リー ク で 得 た 情 報 を も と に 、 犯 行 の 動 機 、 取 調 べ の 進 行 状 況 や 自 白
の 内 容 、 留 置 場 や 取 調 室 に おけ る被 疑 者 の 態 度 を詳 述 す る紙 面 を生 み だ
す 要 因 と な っ て い る。
ま た メ デ ィ ア に よ る 名 誉 や プ ラ イ バ シ ー 侵 害 に 対 す る 損 害 賠 償(民
709条 、710条)と
法
い う民 事 的 な 救 済 措 置 は 存 在 す る が 、 裁 判 に 長 い 時 間
と 高 い 費 用 を 要 す る に もか か わ ら ず 、 著 し くそ の 賠 償 額 が 低 い 上 に 、 民
事 裁 判 に 訴 え る こ とに よ っ て 生 ず る 二 次 的 な報 道 被 害 を恐 れ て 、 司法 的
な救 済 を 求め る者 は 少 な い。 こ の ため 法 が 報 道 を規 制 す る機 能 を果 して
い な いの が 現 状 で あ る。
以 上 の よ うな 日本 に お け る法 的 規 制 の 仕 組 み が 整 備 され て い な い現 状
に 加 え て 、 マ ス ・メ デ ィ ア の 自 主 規 制 と して 、 例 え ば 新 聞 倫 理 綱 領(昭
和21年7月23日
制 定 、 昭 和30年5月15日
補 正)が
あ る も の の 、 市民 か ら
の 被 害 や 苦 情 を処 理 す るた め の プ レ ス評 議 会 や オ ンブ ズマ ン制 度 は 存 在
し な い。
こ れ に 対 し て 、 イ ギ リ ス で は 、 名 誉 棄 損 法 の 他 に も 事 件 ・裁 判 の 報 道
に は 厳 し い 報 道 規 制 が あ る。 公 正 な 裁 判 を 維 持 す る こ と を 目的 と し 、 そ
の 歴 史 を12世 紀 ま で 遡 る こ とが で き る 法 廷 侮 辱 法 の 存 在 で あ る 。 さ ら に
プ レ ス 苦 情 処 理 委 員 会(PCC)と
い う メ デ ィア の 自 主 規 制 機 関 が 存 在 す
る{η。
こ の よ う に イ ギ リ ス の 場 合 に 比 較 し て み る と 、 法 的 規 制 も、 有 効 な 自
主 規 制 の 制 度 も 存 在 し な い ま ま の 日本 の 現 状 に お い て 、 少 年 事 件 も実 名
報 道 を す る と い う こ と は 、 報 道 被 害 を ま す ます 広 げ る こ と を 意 味 す る の
で あ る。
で は 次 に 、 イ ギ リ ス の バ ル ガ ー 事 件 の 例 を通 し て 、 少 年 手 続 と 報 道 の
現 状 を 見 る こ と に し よ う。
9
IIバ
1.事
ル ガ ー 事 件 と報 道 ⑧
件 の発生
1993年2月12日
、 被 害 者 で あ る ジ ェ ー ム ズ ・バ ル ガ ー(当
時2歳)は
、
母 親 に 連 れ ら れ て リバ プ ー ル に あ る ブ ー トル の シ ョ ッ ピ ン グ セ ン タ ー に
買 い物 に 来 て い た。 事 件 が 起 きた の は 、 母 親 が 肉屋 で買 い 物 を して 彼 か
ら 目 を 離 し た ほ ん の 数 分 の 問 で あ る 。15時37分51秒
、 シ ョッピングセ ン
ター の 防 犯 カ メ ラ は ジ ェ ー ム ズ が 母 親 と 肉 屋 に 向 か う姿 を 記 録 して い る
が 、 そ の5分
後 の15時42分32秒
(10歳 ∼14歳
に は 、 別 の 防 犯 カ メ ラ が 、 ふ た りの 少 年
ぐ ら い の 年 格 好 の 少 年)が
ジ ェ ー ム ズ を連 れ 去 る 姿 を 捉 え
て い る。
通 報 を受 け た 警 察 は 、 捜 索 を 開 始 。 テ レ ビ ・ニ ュ ー ス で 事 件 が 放 送 さ
れ る と、 目 撃 情 報 が 次 々 寄 せ ら れ た 。 泣 い て い る ジ ェ ー ム ズ を 無 理 矢 理
引 き ず っ て い る 少 年 た ち の 姿 を 目 撃 し た 店 貝 。 泣 き 叫 び な が ら走 る 男 の
子 を 抱 き ヒげ る 少 年 た ち の 姿 を 目撃 し た ドラ イ バ ー 。 ま た 、 シ ョ ッ ピ ン
グ セ ン タ ー か ら1.6キ ロ 程 離 れ た 場 所 で 、行 方 不 明 に な っ て か ら ほ ぼ45分
後 に 、 あ る女 性 が 目 撃 し た と い う情 報 も あ っ た 。
し か し事 件 か ら2日
後 の2月131{、
シ ョ ッ ピ ン グ セ ン ター か ら 約4キ
ロ 離 れ た ウ ォ ル トン 地 区 の 鉄 道 線 路 上で 、 ジ ェ ー ム ズ は 死 体 で 発 見 さ れ
た。 死 体 は 線 路 上 に 放 置 され て い た の だ ろ う、 線 路 を通 過 した機 関 車 に
よ っ て 腰 の 辺 りか ら 切 断 さ れ て い た 。 ド半 身 は 裸 の 状 態 で 、 脱 が さ れ た
ジ ェー ム ズの ソ ッ ク ス、 靴 、 ズ ボ ン、 パ ン ツ は 、上 半 身 の 周 囲 に 散 乱 し
て い た 。 ズ ボ ンに は 青 い ペ ン キが 付 着 して い た。 顔 や 胴 体 は 蹴 られ 、鈍
器 で 殴 打 さ れ た ため か 頭 蓋 骨 は 砕 け て い た。 しか し この 時 警 察 の 公 式 発
表 と して は1死
体 は 列 車 に よ っ て 損 傷 を受 け た 」 と い う表 現 に と ど め ら
れた。
翌 朝2月15日
付 け の ガ ー デ ィ ア ン紙 は 、 ジ ェ ー ム ズの 死 体 発 見 を 報 じ
10
て い る 。 一一面 で あ る が 扱 い は 非 常 に 小 さ い 。
2.被
(1)結
疑 者 の 逮 捕 ・取 調 べ
局 、 寄 せ ら れ た 情 報 の 中 の 一iつが 被 疑 者 逮 捕 に つ な が っ た 。 テ レ
ビ で 放 映 さ れ た 少 年 の う ち 一 人 が 、 知 人 の 息 了 に 似 て お り、 そ の 子 は 事
件 当 日の 金 曜 日に 学 校 を さぼ っ た う え、 夜 遅 く帰 宅 した と きに は ジ ャ
ケ ッ トに ペ ン キ を 付 け て い た と い う。 こ の 情 報 に 基 づ い て 、 事 件 発 生 後
6日 目 の2月18日
の 朝 、 二 人 の 少 年 が 逮 捕 さ れ た 。 逮 捕 さ れ た 二 人 は10
歳 の 子 ど もで あ っ た。
イ ギ リ ス(イ
ン グ ラ ン ドと ウ ェ ー ル ズ)で
年 は 「青 年 」(YoungPersons)と
は 、14歳 以 上18歳 未 満 の 少
呼 ば れ 、 刑 事 責 任 能 力が 認 め ら れ るが 、
10歳 以 上14歳 未 満 の 少 年 は 「児 童 」(Children)と
呼 ば れ て 、 犯 罪 を犯 す
能 力 は な い と推 定 さ れ て い る 。 しか し、 善 悪 を 判 断 し て 行 動 で き る 能 力
が あ る こ と を 証 拠 に よ っ て 反 証 す る こ とが 認 め られ て い る の で 、 反 証 を
許 す 推 定(arebuttablepresumption)で
あ る と され て い る。 こ の 点 で 、
10歳 未 満 の 少 年 に は 刑 事 責 任 能 力 が 全 く認 め ら れ な い の と 異 な る(ChildrenandYoungPersonsAct1933,s50amendedbyCYPA1963,s.16
(1))。
逮 捕 ・勾 留 、 捜 索 ・押 収 と い う捜 査 手 続 き に 関 して は 、 基 本 的 に は 、
大 人 と少 年 の 区 別 は な い 。 した が っ て 、 逮捕 した 被 疑 者 を警 察 に拘 禁 で
き る の は 原 則 と し て24時 間 ま で で あ り、 そ の 時 点 で 起 訴 か 釈 放 か を 決 め
な け れ ば な ら な い(Police&CriminalEvidenceActl984,s.41)。
し重 大 な 犯 罪 に 限 っ て は 、 警 視(superintendent)か
ただ
そ れ 以 上の ラ ン ク の
刑 事 の 許 可 が あ れ ば36時 間 ま で は 身 柄 拘 束 を 延 長 で き る(s.42)。
さ らに
例 外 的 な ケ ー ス に 限 っ て 、 治安 裁 判 所 に 身柄 拘 束 の 延 長 を請 求 す る こ と
が 可 能 で あ る が 、 こ の 場 合 で も逮 捕 か ら96時 間 を 越 え る こ と は で き な い
と さ れ て い る(s.43,s.44)。
口本 に お い て は 、 「少 年 」は20歳 未 満 の 者(少
年 法2条)を
さ し、 イ ギ
リ ス と 異 な り年 長 少 年 と年 少 少 年 を概 念 上 区 別 し て そ の 法 的 な 取 扱 い に
11
差 を 設 け て い な い 。 た だ し 、 刑 法 臼4歳 未 満 の 少 年 は 刑 事 責 任 能 力 が 否
定 さ れ(41条)、
さ ら に 少 年 法 が16歳 未 満 の 少 年 に つ い て は 検 察 官 送 致 を
認 め て い な い(20条
但 書)の
で 、16歳 未 満 の 少 年 は 刑 事 裁 判 所 で 犯 罪 者
と し て 刑 事 責 任 が 問 わ れ る こ と は な い 。 捜 査 に つ い て は 、 少 年 で も刑 事
訴 訟 法 の 適 用 が あ る の は イ ギ リ ス と 同 じ で あ る。 し た が っ て 、 捜 査 手 続
と し て は 、 犯 罪 を犯 し た と 疑 わ れ る 少 年 が 逮 捕 さ れ る と 、 少 年 の 身 柄 は
48時 間 は 警 察 の 手 元 に 置 か れ 、取 調 べ を 受 け る(刑 訴 法198、199、203条)。
取 調 べ の 際 、 弁 護 十 や 家 族 の 立 会 い は 認 め られ て い な い の は 、 後 述 す る
イ ギ リ ス の 状 況 とは 大 き く異 な る 。 そ の 後 、 事 件 は 検 察 官 に 送 ら れ 、 検
察 官 の 取 調 べ を受 け る が 、 必 要 が あ る と 判 断 す る と き は 、 裁 判 官 に 対 し
て 少 年 の 勾 留 が 請 求 さ れ る(205条)。
こ の 勾 留 請 求 が 裁 判 官 に よ っ て許
可 さ れ る と 、 少 年 は10日 間 身 柄 が 拘 束 さ れ 、 場 合 に よ っ て は 、 さ ら に10
日 間 勾 留 の 延 長 が 認 め ら る(208条)。
こ の 勾 留 期 間 中 、 少 年 の 身柄 が 収
監 さ れ る 場 所 は 、原 則 と し て は 拘 置 所 と さ れ て い る が(監 獄 法1条1項)、
少 年 の 場 合 に は 少 年 鑑 別 所 に 拘 禁 す る こ とが で き る と さ れ て い る(少
法48条2項)。
年
し か し 現 実 に は 、 警 察 の 留 置 場(代 用 監 獄)に 収 容 され る
こ とが 多 い 。 成 人 同 様23日 間 、 警 察 の 留 置 場 に 拘 禁 し 取 調 べ す る こ とが
認 め ら れ る 点 で 、 イ ギ リ ス と大 き く 異 な る(9)。
具 体 的 に どの よ うに イ ギ リスの 取 調 べ が 異 な るの か 、 以 下 にや や 詳 細
に 見 て お きた い 。
(2)1993年2月18B、
と 少 年B(ジ
木 曜 日 の 朝 、 少 年A(ロ
ョ ン ・ベ ナ ブ ル ス)は
バ ー一 ト ・ トン プ ソ ン)
自 宅 で 逮 捕 され た 。 同 時 に 捜 査 令 状
に 基 づ い て 家 宅 捜 索 が 行 わ れ た 。 少 年Aの
家 か らは 、 血 痕 の付 い た 靴 、
ズ ボ ン 、 ジ ャ ン パ ー 、 ジ ャ ケ ッ ト類 が 押 収 さ れ 、 少 年Bの
家 か らは 、 青
い ペ ン キ が 付 着 し た か ら し 色 の ア ノ ラ ッ ク ・ コー ト、 青 い ペ ン キ が 付 着
した ズボ ン、 な どが 押 収 され た。
ふ た り は 別 々 の 警 察 署 に 収 容 さ れ 、 そ の 夜6時
頃 か ら、 事 務 弁 護 上
(solicitor)と 、 母 親(時 に は 父 親 が)が 立 ち あ っ て 、 ふ た り に 対 す る 取
12
調 べ が 始 まっ た 。 イ ギ リス で は 、 被 疑 者 取 調 べ に は 弁 護 人 の 立 会 い が 認
め られ る と と も に 、 少 年 の 場 合 に は 親 な ど の 立 会 い が 義 務 づ け さ れ て い
る か ら で あ る(CodeofPracticefortheDetention,Treatmentand
QuestioningofPersonsbyPoliceOfficerspara.6.8,para.11.14)。2
月20日
ま で 、 お よ そ3日
間 、 総 計7時
間 余 りに わ た る 取 調 の 内 容 は す べ
て テ ー プ に 録 音 さ れ(ThePolice&CriminalEvidenceAct1984,s.60
に よ っ て テ ー プ 録 音 が 義 務 づ け ら れ て い る)、 後 に 公 判 で 聴 取 さ れ る こ と
に な る。
少 年Aの
取 調 に は 、事 務 弁 護1:と
母 親 が 立 ち 会 っ た 。録 音 テ ー プ に は 、
母 親 と事 務 弁 護 士 が 同 席 し て い る こ と を録 音 し て か ら初 め て 、 事 件 当 日
の 行 動 に つ い て 質 問 が 行 わ れ た 。3日
少 年Aは
間 に わ た る取 調 に もか か わ ら ず 、
、 ジ ェ ー ム ズ ・バ ル ガ ー の 殺 害 に 関 与 し た こ と を … 切 認 め よ う
とは しなか った。 殺 害現 場 に は い た もの の 、 ジ ェ ー ム ズに 対 す る暴 行 は
す べ て 少 年Bが
行 っ た も の で あ り 、自 分 は 幼 児 に は 触 っ て い な い し 、殴 っ
て も い な い と い う供 述 に 終 始 し た 。
少 年Bに
対 し て も 同 様 の 手 続 で 取 調 べ が 開 始 さ れ た 。 少 年Bは
犯 行 を 否 認 し て い た が 、 両 親 が1お
当初 は
前 の こ とを と て も愛 して るん だ 。 だ
か らわ 、 本 当 の こ と を 言 っ て も い い ん だ よ 。 た と え お 前 が ど ん な こ と を
して い て も… … 、 パ パ た ち は 決 して叱 っ た りし な い。 絶 対 に お 前 を 見 捨
て た り な ん か し な い よ 」と い う 説 得 が き っ か け と な り 、 「僕 が あ の 子 を 殺
し た ん だ 」 と 堰 を 切 っ た よ う に 自 白 を 始 め た の だ っ た 。(10}
3.起
訴
1993年2月20日
、 午 後6時
頃 、 警 察 は 、 ジ ェ ー ム ズ ・バ ル ガ ー の 誘 拐
な ら び に 殺 害 と 、別 の 幼 児 の 誘 拐 未 遂 容 疑 で 、ふ た り の 少 年 を 起 訴 し た 。
イ ギ リ ス で は10歳
以 上18歳
れ る の が 原 則 で あ る,,し
(homicide)〔12)事
(CrownCrout)で
未 満 の 少 年 の 事 件 は 、 少 年 裁 判 所{11)で 審 理 さ
か し 、 そ れ に は 例 外 が あ り、 ま ず 、 殺 人
件 に つ い て は 、 少 年 裁 判 所 に 裁 判 権 は な く、 刑 事 法 院
の 正 式 裁 判 が 行 わ れ な け れ ば な ら な い 。 さ ら に 、14
13
歳 以h18歳
未 満 の 青 年(YoungPersons)に
つ いては、強盗 、強姦事件
の よ うな 重 罪 事 件 は 、刑 事 法 院 で の 正 式 裁 判 が 行 わ れ る こ とに な っ て い
る。(Magistrates'CourtsAct1980,s.24,CYPA1933,s.53)
少 年 裁 判 所 で の 審 理 は 、 非 公 開 で 、 民 間 人 の 治 安 判 事3名
に よる審判
が 行 わ れ る 。 こ れ に 対 し て 刑 事 法 院 で の 正 式 裁 判 は 、 陪 審 裁 判 で あ り、
裁 判 官 、検 察 側 代 理 人 、被 告 側 弁 護 人 に は 、い ず れ も法 廷 弁 護i:(Barris・
ter)と
し て10年 以 上実 務 に 従 事 し た 者 の 中 か ら 選 ば れ た 勅 選 法 廷 弁 護 士
(Queen'sCounsel,略
称 はQ.C.)が
選 任 され る。
バル ガー
一事 件 の 場 合 、 少 年 た ち は10歳 で は あ っ た が 、 殺 人 事 件 で あ っ
た た め に 、 刑 事 法 院 で の 陪 審 裁 判 を受 け る こ と に な っ た 。 少 年 た ち が 殺
人事 件 で起 訴 され る と、 治安 裁 判所 に 出 頭 す るが 、 そ こで 保 釈 され な い
場 合 に は 、 治 安 裁 判 所 は 、 保 護 施 設 へ の 収 容 を 決 定 す る。(CYPA1969,
assubstitutedbytheChildrenAct1989,s.108(4)andSched.12)・
種
の 未 決 勾 留 で あ る。
出 頭 し た 少 年 た ち が ブ ー トル の 治 安 裁 判 所 を 出 る と、250人 余 りの 群 衆
が 沿 道 を 埋 め て い た 。 「人 殺 し!」
「ろ くで な し!」
と罵 声 を 浴 せ 掛 け る
者 、警 官 の 警 備 の 列 を く ぐ り抜 け て 少 年 を 乗 せ た 護 送 車 を 拳 で た た く者 、
石 や 卵 を 投 げ る 者 も い た 。 こ の 騒 乱 の 中6人
4.公
が 逮 捕 さ れ て い る(13)。
判 開 始 と報 道 規 制
1933年11月1日
、 リバ プ ー ル か ら北 に30キ ロ 離 れ た プ レ ス トン 刑 事 法
院 で 少 年 た ち の 公 判 は 開 か れ る こ と に な っ た 。 事 件 の 発 生 した リバ プ ー
ル に も刑 事 法 院 は あ っ た が 、 被 告 の 罪 状 に 関 し て 先 入 観 を 抱 い て い な い
陪 審 貝 を選 出 す るの が 困 難 で あ る上 に 、 少 年 た ちが 治 安 裁 判 所 に 出 頭 し
た と き発 生 し た 混 乱 を 考 え る と 、 市民 が 暴 徒 化 す る 危 険 性 を お そ れ た 治
安hの
配 慮 が あ った と され る。
公 判 開 始 を 前 に 、 裁 判 所 は マ ス コ ミに た い し て 報 道 の 規 制 に 関 す る 記
者会 見 を して 、 裁 判 に 対 す る 偏 見 を避 け 様 々 な 利 益 を 守 る た め に 、 被 告
の 少 年 た ち の 姓 名 を 公 表 して は な ら な い こ と 、 証 人 が 子 ど も で あ る 場 合
14
に も 同 様 で あ る こ と、 ま た 、 評 決 が ドさ れ る ま で は 、 証 人 や 被 告 人 又 は
そ の 家 族 に 対 し 、 嫌 が ちせ を し た り、 し つ こ く 追 い か け た り、 イ ン タ
ビ ュ ー を 求 め た り し て は な ら な い と命 じ た 。 こ れ に よ り、 ロ バ ー ト ・ ト
ン プ ソ ン は 少 年A、
そ し て ジ ョ ン ・ベ ナ ブ ル ス は 少 年Bと
し て 報 道 され
る こ とに な っ た。
1933年 児 童 ・青 少 年 法(CYPA1933)の49条
歳 未 満)事
に よ る と、 少 年(10∼18
件 が 少 年 裁 判 所 で 審 理 さ れ る と き は 次 の こ と を報 道 す る こ と
は 禁 止 さ れ て い る(14}。① 少 年 裁 判 所 に お け る 手 続 に 関 与 す る 少 年(被
者 、 証 人 、 被 害 者 を 問 わ な い)に
疑
つ いては、 氏名、住所 、学校 そのほか
少 年 を特 定 し う る事 柄 、 お よ び ② 上 記 の 少 年 の 写 真 で あ る 。
こ れ に 対 し て 、 事 件 が 少 年 裁 判 所 以 外 の 裁 判 所(本
件 で は 刑 事 法 院)
で 審 理 さ れ る と きに は 、 少 年 の 実 名 報 道 に 関 す る49条 の 制 限 は な い 。 た
だ 、 裁 判 所 は 、 裁 量 に よ り少 年 を特 定 す る 報 道 を 禁 止 す る 命 令 を 下 す こ
とが で き る(s.39)。
こ れ は 、 少 年 が 被 告 で あ る 場 合 だ け で な く、 目 撃 者
や 被 害 者 で あ る場 合 も同 じで あ る。 新 聞 社 は 独 白の ル ー ル を も って い る
が 、 裁 判 所 の 命 令 が な い か ぎ り、 殺 人 罪 の よ う な 凶 悪 犯 罪 で 起 訴 さ れ て
刑 事 法 院 で 審 理 が 行 わ れ る 場 合 に は 、通 常 、少 年 の 名 前 を報 道 し て い る 。
また 、 強 制 わ いせ つ事 件 の 被 害 者 が 子 ど もの 場 合 に は 、 裁 判 所 の 命 令 の
有 無 に か か わ ら ず 、 被 害 者 の 名 前 は 報 道 し な い 、 とす る の が 、 通 常 各 新
聞 社 の ル ー ル で あ る(15}。
さ らに 、 後 述 す る よ うに 、 イ ギ リスに は 法 廷 侮 辱 罪 に関 して コモ ン ・
ロ ー 上 の 規 制 と 、 法 廷 侮 辱 法(ContemptofCourtAct1981)が
あ り、
報 道 規 制 に 関 す る 裁 判 所 の 命 令 に 違 反 し た り、 裁 判 の 公 正 を 害 す る 報 道
を した 場 合 に は 、 懲 役 ・罰 金 の 刑 が 言 い 渡 さ れ る 。
つ ま り、 バ ル ガ ー 事 件 の 公 判 に つ い て は 、 刑 事 法 院 で 審 理 さ れ る こ と
か ら 、 実 名 報 道 に 関 し て49条 の 制 限 は な い の だ が 、 裁 判 所 の 裁 量 に よ っ
て 報 道 を 禁1『す る 命 令(CYPAl933,s.39)を
出 し た こ と に な る。
し か し 、 公 判 前 か ら タ ブ ロ イ ド紙 を 中 心 に マ ス メ デ ィ ア の 報 道 は す で
15
に 過 熱 して い た。 匿 名 で は あ っ た が 、 少 年 た ちが 犯 人 で あ る と断 定 す る
感 情 的 な記 事 や 事 実 に 基 づ か な い 記事 も 多か っ た た め 、 被 告 側 の 勅 選 法
廷 弁 護1:か ら 、 公 正 な 裁 判 は も は や 不 可 能 で あ り 、 裁 判 手 続 き の 停 止 を
求 め る 申 し立 て が な さ れ るほ どで あ っ た。
11月1日
審 理 が 始 ま る と 、 公 判 で の 弁 論 や 証 拠 調 べ の 内 容 は 、 連 日報
道 さ れ た 。 検 察 側 の 冒 頭 陳 述 、40人 を超 え る 目撃 者 の 証 人 喚 問 。 現 場 で
発 見 され た 血 痕 の 付 い た 煉 瓦、 石 、 鉄 片 が どの よ うに殺 害 に 使 わ れ たか
を 説 明 す る 法 医 学 者 に よ る鑑 定 。 遺 体 の 検 屍 を し た病 理 学 者 に よ る 遺 体
の 状 況 や 傷 の 説 明 。少 年 達 の 靴 に は 血 痕 が 付 着 し て お り、そ れ はDNA鑑
定 に よっ て ジ ェー
一ム ズ ・バ ル ガ ー の 血 液 で あ る こ と が 、 証 明 さ れ た こ と。
少 年Aの
靴 ひ もに は 頭 髪 が あ り、 そ れ も ま た 鑑 識 に よ っ て ジ ェ ー ム ズ の
毛 髪 で あ る こ と。 犯 行 現 場 に 残 され て い た も の と 同 じ青 い ペ ン キ が 、 少
年Bの
ジ ャ ケ ッ トの 袖 か ら 発 見 さ れ た こ と。 鑑 識 の 分 析 に よ る と 、 そ れ
は ペ ン キ に まみ れ た ジ ェー ム ズ の小 さ な手 で つ け られ た可 能 性 が 大 で あ
る とい うこ とだ った。 ジ ェー ム ズの 頬 に つ い て い た靴 の 後 は踏 み 付 け ら
れ た た め に で き た も の で あ る と思 わ れ 、 そ の 靴 の 跡 は 、 少 年Aが
履 いて
い た靴 の 一
一部 と一 致 し て い る こ と。 少 年 た ち の 刑 事 責 任 能 力 に 関 す る 精
神 鑑 定 の 結 果 。 取 調 の 内 容 が 記 録 さ れ た 録 音ニ
テー プ の 聴 取 。
5.有
罪 評 決 、 不 定 期 の 禁 鋼 刑 の 言 い 渡 し、 そ し て 報 道 規 制 の 解 除
1993年11月24日
、17日 間 に わ た る 審 理 が 終 わ り 、陪 審 員 は ジ ェー ム ズ ・
バ ル ガー に 対 す る誘 拐 お よ び殺 害 につ い て 全 員 致 で有 罪 の 評 決 に達 し
た こ とを 法廷 に伝 え た。 この 評 決 を受 け 、 裁 判 官 は 、 次 の よ うに不 定 期
の 禁 鋼 刑 を言 い 渡 した。
1ボ ビ ー ・ トン プ ソ ン と ジ ョ ン ・ベ ナ ブ ル ズ。 ジ ェー ム ズ ・バ ル ガ ー
の 殺 害 は 前 例 の な い 邪 悪 で 残 虐 極 ま りな い 行 為 で す 。 こ の2歳
母 親 か ら 引 き 離 さ れ 、4キ
の幼 児は
ロ も 歩 か さ れ た あ げ く 、 無 慈 悲 に も線 路 で 撲
殺 さ れ た の で す 。 そ の う え 、 死 体 は 線 路 の 上 に 放 置 さ れ ま し た 。 そ うす
れ ば 列 車 に 擬 ね ら れ 、 殺 害 し た こ と を 隠 す こ とが で き る と い う た く ら み
16
が あ っ た か ら です 。 君 た ち の行 為 は 、 狡 婿 で極 め て邪 悪 な もの で あ る と
私 は 判 断 し ま す 。 私 は 君 た ち 二 人 に た い し て 不 定 期 刑(16}の宣 告 を し ま
す 。 君 た ち は 国 務 大 臣 が 決 定 す る場 所 と状 況 の 下 で 監 禁 さ れ る こ と に な
り ます 。 君 た ち が 成 長 し 完 全 に 社 会 復 帰 が 可 能 に な り、 ま た 君 た ち が も
う危 険 な 人 物 で な い と の 判 断 を 国 務 大 臣 が 下 す ま で 、 非 常 に 長 い 期 間 、
厳 重 に 監 禁 さ れ る こ と に な り ま す 。 ふ た り を 連 れ て い き な さ い 。」(17)
さ ら に 、有 罪 判決 以 前 は 一 切 禁 止 され て い た 被 告 人 の 氏 名 や 写 真 の 報
道 に つ い て は 、 先 の 公 判 開 始 時 の 命 令 を 変 更 して 、 裁 判 所 は 少 年 た ち の
氏 名 と写 真 を 公 表 す る こ と を 許 可 し た の で あ る 。 こ れ を 受 け て 、 マ ス コ
ミは 、い っ せ い に 二 人 の 実 名 と写 真 を 報 道 し た 。 さ ら に 、「問 題 児 」で あ っ
た と い う近 所 で の 評 判 や 、 か っ て の 住 い の 様 子 、 両 親 の 別 居 や 離 婚 、 学
校 で の い じめ や 、 し ょ っ ち ゅ う学 校 を さ ぼ っ て は 玩 具 や キ ャ ン デ ィ を 万
引 き して い た こ と な ど 、 詳 細 な 報 道 が あ ふ れ だ し た の で あ る。
例 え ば 、 有 罪 の 評 決 が ドっ た 翌 日 の ガ ー デ ィ ア ン 紙 の 一 面 で は 、 全 面
を使 っ て 、 事 件 の 裁 判 結 果 を 報 じ て い る 。 こ のU、
26ペ ー ジ の 紙 面 の う ち6ペ
III英
1.イ
ガ ー デ ィ ア ン紙 は 、
ー ジ を この 事 件 の報 道 の ため に使 っ て い る。
国 に お け る 少 年 法 制 と実 名 報 道
ギ リ ス の 少 年 裁 判 所 の 特 質(ls}
イ ギ リス に お い て は 、1908年 児 童 法(ChildrenAct1908)の
制定 に よっ
て 、 少 年 裁 判 所 が 設 置 さ れ 、 少 年 犯 罪 者 を成 人 犯 罪 者 か ら 区 別 し て 手 続
而 で も処 遇 面 に お い て も 取 り扱 わ れ る こ とに な っ た 。 しか し 、 少 年 裁 判
所 は あ く ま で も 刑 事 司 法 の … 部 で あ っ た 。 ア メ リ カ やH本
に お け る少 年
裁 判 所 の 創 設 が 、 「少 年 犯 罪 者 」 で は な く 「要 保 護 少 年 」 の 福 祉 ・教 護 を
め ざ す 福 祉 的 機 能 を 果 す 裁 判 所 と し て 成 立 し た の と は 大 き く異 な る 。
しか し 、 そ の 後 、 少 年 犯 罪 が そ れ を犯 す 少 年 自 身 に よ り も 、 そ の 環 境
に こ そ 責 任 が あ り、 む し ろ 少 年 は 劣 悪 な 社 会 環 境 の 被 害 者 で あ る と い う
17
視 点 が 、 次 第 に 強 くな り、 刑 事 司 法 的 ア プ ロ ー チ か ら福 祉 的 ア プ ロ ー チ
へ の 転 換 へ と 動 き だ し た 。 こ の よ う な 刑 罰 主 義 か ら保 護 主 義 へ と い う移
行 す る趨 勢 を 背 景 と し て 制 定 さ れ た の が 、1969年
andYoungPersonsAct1969)で
児 童 ・少 年 法(Children
あ る。
当時 の 労働 党 政 府 の 立 法 目 的 は 、 非 行 問 題 を、 刑 事 司 法行 政 か ら 児童
福 祉 行 政 の 一 環 へ と移 行 し、 手 続 的 に も処 遇 面 に お い て も 社 会 福 祉 の 視
点 か ら 再編 す る こ とに あ っ た と い わ れ る。
しか し、1970年
代 に は い る と、 「法 と秩 序 」に 重 点 を 置 く保 守 党 政 府 が
青 少 年 犯 罪 対 策 に お い て も保 護 主 義 か ら刑 罰 主 義 へ の 転 換 を 図 り、 そ の
後 、1982年
刑 事 裁 判 法(CriminalJusticeAct1982)、1988年
(CriminalJusticeAct1988)、1989年
刑 事裁 判法
児 童 法(ChildrenAct1989)、
1991年 刑 事 裁 判 法(CriminalJusticeAct1991)の
制 定 と 続 き、 紆 余 曲
折 を経 て 現 在 に 至 っ て い る。 そ の 紆 余 曲折 を含 め て現 行 の 少 年 法 制 の 特
質 を 整 理 す る と 、 以 下 の4点
①
に 集 約 す る こ と が で き る で あ ろ う。
刑 事 裁 判 所 と して の 少 年 裁 判 所
イ ギ リス の 少 年 裁 判 所 は、 基 本 的 に は 刑 事 裁 判 所 的 な色 彩 が 濃 い。 ア
メ リ カ や 、 日本 の 少 年 裁 判 所 が 、 少 年 の 保 護 ・更 ノ
ヒ と い う福 祉 的 機 能 を
果 す イ ン フ ォ ー マ ル な 手 続 と し て 創 設 さ れ 、 組 織 的 に も、 刑 事 裁 判 所 と
は 完 全 に独 立 した特 別 裁 判 所 で あ るの に 対 して 、 イ ギ リスに お け る少 年
裁 判 所 は 治 安 裁 判 所(Magistrates'court)の
特 別 部 と し て 位 置 づ け られ
て い る。
そ れ で も最 近 ま で 、 少 年 裁 判 所 に お い て も17歳 未 満 の 少 年 に 関 す る 刑
事 的 手 続(犯
罪 事 実 の 認 定 と処 遇 の 決 定)の
年 の 審 理 と処 遇 決 定)も
他 に 民 事 的 手 続(要
保護 少
統 合 され 審 理 され て い た。
し か し1989年 児 童 法 に よ っ て 、 犯 罪 を 犯 して も刑 事 責 任 が 問 え な い 触
法 少 年 な ど の 要 保 護 少 年 を あ つ か っ て い た 保 護 手続(careproceeding)
が 、 少 年 裁 判 所 の 管 轄 か らは ず され 治安 裁 判 所 に新 設 され た 家 庭 裁 判 所
(familyproceedingcourt)の
管 轄 に移 さ れ る こ とに な っ た。 この た め 、
18
少 年 裁 判 所 に は 少 年 犯 罪 者 の 刑 事 責 任 を 問 う 刑 事 手 続(criminalproceeding)だ
け が 残 さ れ る こ と に な り、 犯 罪 を 犯 し た 少 年 を 扱 う刑 事 裁 判
所 と して の性 格 が 徹 底 さ れ る こ と に な っ た。
②
少 年 裁 判 所 の裁 判 権
少 年 裁 判 所 の 裁 判 権 は 、 治 安 裁 判 所 の 管 轄(川 が そ の 基 礎 に あ る。 基 本
的 に は 重 罪 は 刑 事 法 院 で陪 審 裁 判 が 行 わ れ な け れ ば な ら な い が 、 比 較 的
軽 微 な 犯 罪 に つ い て は 治 安 裁 判 所 の 略 式 手 続 き に よ っ て 審理 され る。 前
述 の よ う に 、 ま ず10歳 か ら18歳 未 満 の 少 年 が 殺 人(謀
殺 お よ び 故 殺)を
犯 し た 場 合 は 少 年 裁 判 所 に 裁 判 権 は な い 。 さ ら に14歳 以 上 の 少 年 が 、 強
姦 や 武 器 を使 用 した 強 盗 、 傷 害 を犯 した 場 合 に も、 少 年 裁 判 所 の 裁 判 権
は 否 定 さ れ る 。 し た が っ て 、 こ れ ら の 場 合 に は 成 人 と全 く 同 じ陪 審 裁 判
を刑 事 法 院 で受 け る こ とに な る。
つ ま り、H本
の 場 合 の よ うに家 庭 裁 判 所 が 少 年 事 件 の す べ て を まず 審
理 す る と い う 管 轄 権 は 、イ ギ リ ス の 少 年 裁 判 所 に は 存 在 し な い の で あ る 。
日本 で は 、 家 庭 裁 判 所 が 少 年 の 犯 罪 事 件 の 全 事 件 の 送 致 を受 け(全
件送
致 主 義 、少 年 法41条 、42条)、 ま ず 家 庭 裁 判 所 に お け る 審 理 が 行 わ れ た 上
で刑 事 処 分 が 相 当 と さ れ る例 外 的 な 場 合 に 成 人 の 刑 事 裁 判 所 に 送 致 さ れ
る こ と に な っ て い る(保
③
護 優 先 主 義 、20条)。
少 年 裁 判 所 の 審理 方 式
少 年 裁 判 所 の 審 理 方 式 は 、 非 公 開 で 保 護 者 の 出 頭 義 務 が あ る他 は 、 有
罪 ・無 罪 の 答 弁 、 対 審 構 造 な ど 成 人 の 刑 事 手 続 と ほ ぼ 同 様 に 行 わ れ る。
④
犯 罪 少 年 に 対 す る処 遇
拘 禁 刑(custodialsentence)、
短 期 収 容 所(detentioncentre)等
ボ ー ス タ ル 訓 練 所(Borstaltraining)、
と、 か つ て は 非 行 の 特 質 に 応 じた処 遇
をす る た め に 多 様 な 刑 事 施 設 へ の 収 容 処 分 が 設 け ら れ て い た が 、1982年
刑 事 裁 判 法 に よ っ て拘 禁 刑 とボ ー ス タル 訓 練 所 が廃 止 され 青少 年拘 禁 刑
(youthcustody)が
新 設 さ れ 、1988年
刑 事 裁 判 法 に よ って 短 期 収 容 所 と
青 少 年 拘 禁 刑 が 統 合 さ れ て 、 少 年 拘 禁 施 設 収 容 命 令(detentionina
19
youngoffenderinstitution)に
一 本 化 され た。 また 、 不 定 期 刑 は廃 止 さ
れ 定 期 刑 と な り、 そ の 拘 禁 期 間 は 犯 罪 の 重 大 性 に 比 例 し て 決 め ら れ る こ
と に な っ た(CriminalJusticeActl982,s.1(4))。
こ の た め 、 施 設収 容 処
分 は 、 少 年 の 更 生 ・教 護 に 必 要 な 期 間 を 定 め る教 育 的 な 処 遇 で は な く、
犯 し た 犯 罪 の 重 大 性 に 対 応 す る 罰 と し て の 応 報 的 な 処 遇 と い う性 格 が 明
確 に な っ た の で あ る。
以 上 の よ う に 、1969年
の 児 童 ・少 年 法 は 刑 罰 主 義 か ら保 護 主 義 へ の 移
行 を 目指 した もの で あ っ た が 、そ の 後 の 保 守 党 政 権 下 の 諸 立 法 に よ っ て 、
現 在 の イギ リスの 少 年 裁 判 所制 度 は刑 事 司 法 の 一 部 と して位 置づ け られ
て い る こ とが 明 ら か で あ ろ う。
2.イ
(1)少
ギ リス に お け る少 年 事 件 報 道
年 手 続 は 、 刑 事 司 法 の 一 部 で あ る と い う基 本 的 姿 勢 は 、 イ ギ リ ス
に お け る 少 年 事 件 報 道 の あ り方 に そ の ま ま 反 映 さ れ て い る 。 す な わ ち 殺
人 等 の 重 大 な 事 件 で 刑 事 法 院 で 審 理 が 行 わ れ る場 合 に は 、成 人 と同 様 に 、
公 開 の 法 廷 で 陪 審 に よ る裁 判 を受 け る よ う に 、 そ の 事 件 の 報 道 も 基 本 的
に は 成 人 と同様 の 報 道 が行 わ れ る の が 原 則 で あ る。
た だ し、前 述 の よ うに刑 事 法 院 等 の 裁 判 所 は 、 裁 量 に よ り少 年 を特 定
す る 報 道 を禁 止 す る こ と が で き る と し て い る(CYPA1993,s.39)。
これ
は 、 そ の 名 前 な どの 報 道 に よ っ て 、 子 ど も に 深 刻 な 影 響 を 及 ぼ す 危 険 性
が あ る こ と に 配 慮 し た も の で あ り、 考 慮 の 対 象 は 被 告 人 に と ど ま ら ず 、
被 害 者 や 目 撃 者 な ど が 子 ど も で あ る 場 合 も含 ま れ る 。 子 ど も の 保 護 ・福
祉 の 観 点 か らの 具 体 的 状 況 に 応 じ た 対 応 が で き る よ うに 、 裁 判 官 の 裁 量
を認 め て い る の で あ る。
こ れ に 対 し て 、 少 年 裁 判 所 で 審 理 が 行 わ れ る場 合 に は 、 少 年 の 保 護 を
最 優 先 に し、 親 の 氏 名 も 含 め て 少 年 を特 定 し う る 事 項 の 報 道 は 禁 止 され
る(s.49)。
少 年 裁 判 所 に 関 して は 、 少 年 事 件 の 特 有 性 が 優 先 さ れ て い る
わ け で あ る。 し た が っ て 、少 年 事 件 で 顔 写 真 や 実 名 が 報 道 さ れ う る の は 、
殺 人 罪 等 の 凶 悪 な事 件 で 刑 事 法 院 で 裁 判 が 行 わ れ る と き だ け で あ る 。
20
(2)具
体 的 に は 、 ど の よ う な場 合 に 少 年 の 名 前 は 実 名 で 報 道 さ れ あ る い
は 匿 名 と な っ て い る の で あ ろ うか 。
比 較 的 占 い 事 件 で 有 名 な の は 、 メ ア リー ・
ベ ル(MaryBell)事
る 。 こ の 事 件 は1968年
ベ ル と い う少 女 が4歳
件 であ
、ニ ュ ー キ ャ ッ ス ル で 発 生 し た 、11歳 の メ ア リー ・
と3歳
の ふ た りの 幼 児 を 絞 殺 し、 故 殺 で 有 罪 と
な っ た 事 件 で あ る 。 こ の 事 件 で は 、 バ ル ガ ー 事 件 と 異 な り報 道 禁 止 の 裁
判 所 命 令 が 出 さ れ た の で 、 有 罪 判 決 後 も実 名 で は 報 道 さ れ な か っ た 劇 。
また 、 バ ル ガ ー事 件 の 公 判 当時 の ガ ー デ ィア ン紙 に は 、 少 年 の 事 件 報
道 に 関 し て3つ
の 例 が 紹 介 さ れ て い る(21)。ま ず 、13歳 の 少 女 を 監 禁 し た
上 で 強 姦 し た 罪 で 刑 事 法 院 に 正 式 起 訴 さ れ た 事 件 で15歳 と16歳 の 被 告 の
少 年 は 、 起 訴 当時 は 氏 名 の 報 道 が 禁 止 され て い た もの の 有 罪 判 決 後 に 裁
判 官 は 、「少 年 た ち が 犯 し た 罪 は 、少 年 た ち が 住 む コ ミ ュ ニ テ ィ ー に 明 ら
か に さ れ る べ き で あ る 」 と そ の 理 山 を 説 明 し禁 止 命 令 を 解 除 し た 。 別 の
事 件 で 、 や は り強 姦 罪 で 起 訴 さ れ た16歳 と17歳 の 少 年 の ケ ー ス で は 、 裁
判 官 は 「君 た ち は 強 姦 罪 を犯 す こ と が で き る 年 齢 な の だ か ら 、}'分 に そ
の 罰 を受 け て も お か し くな い 年 齢 で あ る 」 と そ の 理 由 を 説 明 し氏 名 公 表
を 許 可 して い る。 しか し、 別 の15歳 の 男 子 生 徒 が 同 級 生 を 森 に 引 き ず り
込 ん で強 姦 した事 件 で は 、 氏 名 は 公 表 は許 され なか っ た。
(3)1933年
児 童 ・青 少 年 法39条 は 、 刑 事 法 院 等 の 裁 判 所 は 、(a)事 件 の 被
害 者 、 加 害 者 、 証 人 そ の 他 手 続 に 関 与 す る 児 童 ・少 年 に つ い て 、 そ の 氏
名 、 住 所 、 学 校 そ の ほ か 児 童 ・少 年 を 特 定 し う る 事 項 の 報 道 を 禁 止 す る
命 令 、(b)上 記 の 児 童 ・少 年 の 写 真 の 報 道 を 禁 止 す る 命 令 を 出 す こ と が で
き る 、 と規 定 す る 。
この 規 定 に よれ ば 、 どの よ うな場 合 に 報 道 禁 止 命 令 を 出 す か につ い て
は 、 裁 判 官 の 裁 量 に 委 ね て お り、 具 体 的 な 判 断 基 準 は 示 し て い な い 。 こ
の た め 裁 判 官 の 裁 量 の 妥 当性 が 上 級 裁 判 所 で 争 わ れ る こ と も生 じ る。 上
級 裁 判 所 で 争 わ れ た ケ ー ス で 判 例 集 に 掲 載 さ れ て い る 判 例 で は 次 の2つ
が あ る 。 と も に 公 判 開 始 時 に 出 さ れ た 報 道 禁 止 命 令 を 、 判 決 言 い 渡 し時
21
に 解 除 す る決 定 を し て 実 名 報 道 を 認 め た 裁 判 官 の 裁 量 の 妥 当性 が 争 わ れ
た もの で あ る。
①RvCrownCourtatLeicester,exparteS(aminor)(1992)2All
ER659
12歳 の 少 年 が 消 防 署 に 放 火 し、 約250万 ポ ン ドの 損 害 を 与 え た 事 件 で 、
少 年 は 起 訴 さ れ た が 、 刑 事 法 院 で の 初 公 判 の 日に 裁 判 官 は39条 に 基 づ い
て 、 被 告 で あ る少 年 の 氏名 そ の他 少 年 を特 定 し うる事 項 の 報 道 を禁 止 し
た 。 そ の 後 、 少 年 は 有 罪 の 答 弁 を し5年
の 拘 禁 刑(detention)が
言 い渡
さ れ た 際 に 、 裁 判 官 は 、 本 事 案 は 報 道 規 制 が 解 除 さ れ る べ き稀 な ケ ー ス
の … つ に 当 た る と して 報 道 禁 止 命 令 を 解 除 す る 決 定 を ドし た 。
こ の 報 道 禁 止 解 除 の 決 定 の 妥 当 性 に つ い て 高 等 法 院 女 王 座 部(Queen'
sBenchDivision)は
、 以 下 の よ うに 判 断 した。
確 か に 、 市 民 が 刑 事 手 続 の 公 正 で 正 確 な 報 道 を受 け 、 ま た 犯 罪 を 犯 し
て 有 罪 と な っ た 者 つ ま り地 域 社 会 に お い て 危 険 な 人 物 の 存 在 を 知 る こ と
は 合 法 的 な 市 民 の 利 益 で あ る。 しか し、 そ れ に 優 越 す る 児 童 ・青 少 年 の
保 護 と い う 利 益 が あ る 場 合 に は 、裁 判 の 報 道 は 制 限 さ れ う る も の で あ り、
そ れ が39条 の 趣 旨 で あ る 。 し た が っ て39条 に よ る 報 道 制 限 を し な い 決 定
や 、す で に 命 じ られ た 報 道 禁 止 を解 除 す る 決 定 は 、「稀 で 例 外 的 な ケ ー ス 」
(rareandexceptionalcases)に
限 ら れ る べ き で あ る 、 と裁 量 の 判 断 基
準 を示 し た。
しか し原 決 定 は、 なぜ この ケ ー
一ス が 実 名 報 道 を 認 め る1稀
で例外的 な
ケ ー ス 」 と い え る の か 、 そ の 理 山 を 明 ら か に し て い な い し、 ま た 少 年 の
身 元 が 明 ら か に さ れ る こ と に よ っ て 、 少 年 の 施 設 内 で の 教 育 ・更 生 、 少
年 の 家 族 に 及 ぼ す 悪 影 響 を 考 慮 して い る と は い え な い 、 と し て 報 道 禁 止
解 除 の 原 決 定 を破 棄 した 。
②RvLee(1993)2AIIER170
1991年11月
、 被 告 で あ る14歳 の 少 年 は 、14歳 の 少 女 を 強 姦 し た 罪 で 起
訴 さ れ た が 、 こ の 事 件 の 初 公 判 に お い て 、 裁 判 官 は39条 に 基 づ き 、 少 年
22
を特 定 し う る 事 項 の 報 道 を禁 止 す る 命 令 を 下 し た 。 そ の 後 有 罪 の 評 決 が
ドさ れ2年10カ
月 の 拘 禁 刑 を言 い渡 され た と きに は 、 先 の 報 道 禁 止 命 令
は解 除 され な か っ た。
し か し、 こ の 時 点 で す で に 、 保 釈 中 の 身 で あ り な が ら 強 盗 お よ び 模 造
拳 銃 所 持 事 件 を お こ し て い た 。 こ の 第2の
事 件 の 初 公 判 に お い て も、 前
回 と 同 じ く報 道 禁 止 命 令 が 出 さ れ た が 、 今 回 は 裁 判 官 は 拘 禁 刑 の 言 い 渡
し時 に 報 道 禁 止 命 令 を 解 除 し た 。
こ れ に 対 して 被 告 側 が 報 道 禁 止 を 求 め て 控 訴 院(theCourtofAppel)
にh訴
を し た の が こ の 事 案 で あ る(22)。
そ の 判 決 に お い て 、 控 訴 院 は 以 下 の よ う な 判 断 を 示 し た 。39条 に 基 づ
く裁 判 官 の 報 道 制 限 に 関 す る 裁 量 は 、 厳 格 に 拘 束 さ れ る べ き で な い 。 報
道 禁 止 の 命令 を 出 さ な い 判 断 、 また は 報 道 禁 止命 令 を解 除 す る 判 断 が 許
容 さ れ る の は 「稀 で 例 外 的 な ケ ー ス に お い て 」 に 限 る 、 と39条 が 規 定 し
て い る わ け で は な い 。 も し39条 に お け る 裁 量 を 狭 く限 定 し て し ま う と、
少 年 裁 判 所 に お け る手 続 と刑 事 法 院 にお け る手 続 の違 い は 無 くな っ て し
ま う で あ ろ う。 ま た 、 本 事 案 に お い て は ① の 事 案 とは 異 な り、 裁 判 官 は
少 年 の 更 生 に 及 ぼ す 影 響 と犯 人 の 名 前 を 知 る 市 民 の 利 益 を 比 較 考 量 し て
判 断 し て い る の で 、 裁 判 官 の 妥 当 な 裁 量 の 範 囲 内 で あ る 、 と 判 示 し原 判
決 を支 持 した。
以 上 二 つ の 判 例 の 具 体 的 結 論 は 異 な る が 、 共 通 す る点 は 、 市 民 の 利 益
と 少 年 の 教 育 ・更 生 の 利 益 を比 較 考 量 す る こ と を 裁 判 官 の 裁 量 に 委 ね る
の が39条 の 趣 旨 で あ る と す る点 で あ る 。公 正 で 正 確 な 裁 判 の 報 道 を受 け 、
危 険 な 人 物 か ら地 域 社 会 を 守 る 市 民 の 利 益 と 、 報 道 が も た らす 少 年 の 教
育 や 家 族 に 対 す る 悪 影 響 を 具 体 的 状 況 に 応 じ て 比 較 考 量 す る こ と が 、39
条 の 立 法 意 図 で あ る。
他 方 、 判 断 を異 に す るの は、 報 道 制 限 を しな い 決 定 や 、 す で に 命 じら
れ た 報 道 禁 止 を解 除 す る 決 定 を 出 す こ とが で き る の は 、 「稀 で 例 外 的 な
ケ ー ス 」 に 限 定 す る か 否 か の 点 で あ る 。 す な わ ち 、 市 民 の 利 益 と少 年 の
23
教 育 ・更 生 の 比 較 考 量 に お い て 、 刑 事 裁 判 所 に お い て も 少 年 裁 判 所 と 同
様 に 少 年 の 利 益 を 可 能 な か ぎ り優 先 し よ う とす る の が 前 者 で あ り、 刑 事
裁 判 所 に お い て は 市 民 の 利 益 を 優 先 す る の が 後 者 で あ る と い え よ う。
しか し、 い ず れ の 判 例 に お い て も、 具 体 的 な 判 断 に 至 る 経 緯 に お い て
少 年 の 利 益 と 市 民 の 利 益 と を}一分 比 較 考 量 し て い る こ とが 明 ら か で あ る
こ と を 、39条 の 裁 量 の 妥 当性 の 判 断 基 準 と し て い る 。 こ の 意 味 で 、 実 名
報 道 を 認 め る 際 に も慎 重 な 配 慮 を 制 度1要
求 す る もの で あ る点 に 注 目 し
た い。
3.公
(1)少
正 な 裁 判 を 受 け る 権 利 と報 道 の 自 由
年 の 実 名 報 道 が 許 さ れ た と し て も、 決 して 無 制 限 な 報 道 が 認 め ら
れ る わ け で は な く、 イ ギ リ ス で は 裁 判 報 道 に 関 し て い くつ か の 法 律 上 の
制 限 が あ る 。 そ の 中 核 を な す の が 「法 廷 侮 辱 罪 」 で あ る。 歴 史 的 に は12
世 紀 ま で 遡 る こ とが で き る コ モ ン ・ロ ーEの
法廷 侮辱 罪は、厳格 な無過
失 責任 を メ デ ィ ア に 対 し て 追 及 し て き た 。 出 版 ・報 道 が 予 断 ・偏 見 を 生
み だ す こ とに よ って 、 陪 審 員 に よ る審 理 や 治安 判事 に よ る裁 判 に 影 響 を
及 ぼ す こ と を 防 ぎ、 裁 判 の 公 正 を 維 持 す る こ と を そ の 目 的 と す る 。 実 名
は 報 道 で き る が 、 事 件 の 詳 細 や 被 疑 者 の 素 姓 ・経 歴 ・前 科 等 の 報 道 は 、
陪 審 貝 ・裁 判 官 ・証 人 に 対 す る 影 響 な ど を 考 慮 し て 厳 し く制 限 さ れ て い
る。 そ こ で は あ くまで 裁 判 の 公 正性 の 維 持 に 対 す る配 慮 が 優 先 され て い
るの で あ る。
た だ し、 現 在 で は 、1981年
法 廷 侮 辱 法 の 成 立 に よ っ て 、 コ モ ン ・ロ ー
上 の 厳 格 な 無 過 失 責 任 の 原 則 に 限 定 が 加 え ら れ て い る 。 報 道 の 自由 に 対
す る 考 慮 か ら、 メデ ィア の 責 任 は 若 下緩 和 され て い る の で あ る。
1981年 法 に よ っ て メ デ ィ ア が 無 過 失 責 任 を 問 わ れ る の は 、 ① 特 定 の 裁
判 の 公 正 さ に 深 刻 な 影 響 を 及 ぽ す 具 体 的 危 険1才("asubstantialriskof
seriousprejudice",s.2(1))の
存 在 す る 場 合 で 、 か つ ②9続
る こ と("active",s.2(3))と
い う要 件 を満 た す 場 合 に 限 定 さ れ た の で あ
る。
が進行 中で あ
24
この ため 特 定 の 裁 判 の 公 正 に 及 ぼ す 影 響 が 、 抽 象 的 な もの で あ っ た り
軽 微 で あ る と 考 え られ る場 合 が 除 外 され た こ とに な る。 ま た手 続 の 進 行
中 と い う要 件 が 加 わ っ た こ と で 、 逮 捕 、 逮 捕 状 の 発 布 、 召 喚 、 起 訴 に よ
り 手 続 が 開 始 し て か ら 、 無 罪 判 決 、 有 罪 判 決 、 公 訴 の 取 り下 げ な ど裁 判
が 確 定 し て 手 続 が 終 了 し た と き ま で と、 法 廷 侮 辱 罪 が 適 刑 さ れ る 時 間 的
な 範 囲 も明 確 に さ れ た わ け で あ る 。
し か し、 上 記 の2条
件 を 満 た さ な い 場 合 で も、 裁 判 の 公 正 を 阻 害 す る
こ と に 関 し て メ デ ィ ア の 故 意 ・過 失 が 証 明 さ れ れ ば 、 コ モ ン ・ロ ー に よ
る 処 罰 も 可能 で あ る。例 え ば 、ま だ 手 続 が ス ター ト し て い な い 段 階 で も、
近 い 将 来 に 予 想 さ れ る場 合 に は 、 そ の 事 件 に 関 す る 報 道 は 制 限 さ れ る 。
ま た 、 脅 迫 事 件 の 被 害 者 の 名 前 を 報 道 し た り、 裁 判 の 証 人 を 中 傷 し た り
と い っ た 、 特 定 の 事 件 の 裁 判 に は 影 響 し な くて も将 来 の 裁 判 の 適 正 な 遂
行 に 影 響 を 及 ぼ す 危 険 の あ る 報 道 も制 限 さ れ る 。
ま た 、1981年
法 に よ っ て 、 裁 判 所 は 裁 判 の 公 正 を害 す る危 険 が あ る場
合 に は 、 当 該 事 件 に 関 す る 報 道 を 必 要 と考 え る 期 聞 禁 止 す る 権 限 も 与 え
ら れ て い る(s.4)。
(2)実
際 に刑 事 事件 の 報 道 で どの よ うな場 合 に 法 廷 侮 辱 罪 に 問 わ れ る の
で あ ろ うか 。WalterGreenwood&TomWelshに
LawforJournalists"は
よ る 著 書"Essential
、 以 下 の 具 体 例 を 挙 げ て い る(23)。1977年 、 被 告
が 逮 捕 さ れ た 時 ま だ 覆 面 を し て い た と実 名 入 り で 報 じ た ス コ ッ トラ ン ド
の 新 聞 社 と編 集 者 は 、250ポ ン ドの 罰 金 を 科 せ ら れ た 。 そ の 理 山 は 、被 告
に まだ 判 決 が 下 ら な い うち に有 罪 と断 定 した 報 道 を した た め 、 被 告 人 の
公 正 な 裁 判 を 受 け る権 利 を 害 し た と す る も の で あ っ た 。 ま た 、 ま だ 殺 人
で 起 訴 さ れ た だ け の 段 階 で 、 被 害 者 が 「殺 さ れ た 」 と報 じ て は な ら な い
と し て い る 。 言 う ま で も な く、 殺 人 か ど う か は 裁 判 所 が 決 す る こ と で あ
る か ら だ 。 さ ら に 被 告 人 の 素 姓 ・経 歴 を 報 じ た り、 裁 判 報 告 に 無 関 係 な
事 柄 や コ メ ン トを 加 え た り、 特 に 前 科 な ど に 触 れ る こ と は 、 法 廷 侮 辱 罪
と な り う る 。1979年
ス コ ッ トラ ン ドの 新 聞 は 、 麻 薬 事 件 で 逮 捕 さ れ た 被
25
疑 者 の 前 科 を 報 道 し た こ と で 新 聞 社 は2万
ポ ン ド、編 集 者 は750ポ ン ドの
罰 金 を 言い 渡 さ れ て い る。 以 上 は 、 上 記 文 献 の 示 す 例 で あ る。
イ ギ リスに お け る法 廷 侮 辱 法 の 存 在 は 、 報 道 の 自由 は 尊 重 され るべ き
で は あ るが 、 公 正 な裁 判 を受 け る権 利 を脅 か す もの で あ っ て は な ら ず 、
そ の 点 で 公 正 な 裁 判 を受 け る権 利 が 優 先 さ れ て い る こ と に 基 づ く も の で
あ る 。 そ れ は 、 ペ ー パ ー ・ トラ イ ア ル に 対 す る 警 戒 に 由 来 す る も の で あ
る と さ れ て い る(24}。こ の よ う な イ ギ リ ス の 状 況 と 、 口 本 の 報 道 の 現 状 と
が い か に 異 な るか を次 に具 体 的 に確 認 して お きた い。
(3)日
本 で は イ ギ リスの 少年 事 件 報 道 に 関 して は 、 顔 写 真 の 掲 載 や 実 名
の 報 道 だ け が 取 り上 げ ら れ て い る 。 し か し犯 罪 報 道 ・裁 判 報 道 と 裁 判 の
公 正 性 の 保 障 と の 関 係 で 言 え ば 、 そ の 根 底 に お い て 日本 と イ ギ リ ス と で
は 異 な って い る の で あ る。
例 え ば 、 日本 の 報 道 を特 色 付 け て い る の は 、5WIHと
い う報 道 す る
上 で の 基 本 的 事 実 よ り も、 そ れ 以 外 の 事 実 の 報 道 に 重 点 を 置 く点 で あ
る{25)。犯 人 の 素 姓 、 家 族 構 成 、 生 育 歴 、 生 活 習 慣 ・嗜 好 、 性 格(そ
の凶
暴 性 、 異 常 性)、 自 白 の 内 容 な ど を 詳 述 し 、 記 事 全 体 を 読 む と、 被 疑 者 ・
被 告 人 が 「犯 人 」 で あ る こ と を 強 く印 象 づ け る構 成 と な っ て い る 。 こ の
犯 人視 に 基 づ い た マ ス ・メデ ィ ア に よ る情 報 の 洪 水 は 、 公 正 な裁 判 に 深
刻 な 影 響 を 及 ぼ しか ね な い 。
ま た 事 件 に 関 す る 報 道 は 、 逮 捕 後 す ぐの 捜 査 段 階 で の 報 道 に 集 中 し 、
裁 判 所 に お け る 審 理 ・裁 判 に な る と極 端 に 報 道 量 が 少 な くな る の が 日 本
の 特 徴 で あ る。 こ れ に 対 し て 、 イ ギ リス に お い て は 、 裁 判 が 開 始 し て か
らの 報 道 が 事 件 報 道 の 大 半 を 占め る。 イ ギ リスに お い て は
「犯 罪 報 道 」
で は な く 「裁 判 報 道 」 な の で あ る 。
例 え ば、 神 戸 市 児 童 殺 害 事 件 で 被 疑 者 少 年 か 逮 捕 され た と きの 口本 の
新 聞 記 事 と、 バ ル ガ ー事 件 の 被 疑 者 少 年 か 逮 捕 さ れ た と き の イ ギ リ ス の
新 聞 記 事 とを比 較 してみ れ ば そ の 違 い は 歴 然 と して い る。
日本 の 新 聞 は 、逮 捕 さ れ た 少 年 を 有 罪 視 し、少 年 や 家 族 の プ ラ イ バ シ ー
26
に わ た る 詳 細 な 記 事 を 掲 載 し て い る。1997年6月29U付
は 一 面 で 、「淳 君 事 件 ・中 三 男 子 を 逮 捕/殺
け 朝 日新 聞 朝 刊
害 容 疑 認 め る 供 述/兵
庫 県警 、
自宅 で ナ イ フ 発 見 」 の タ イ トル で 被 疑 者 の 逮 捕 を 以 ドの よ う に 報 ず る。
「… … 捜 査 本 部 は 周 辺 の 聞 き 込 み 捜 査 か ら 、猫 を 殺 し た こ と か あ っ た り、
『
学 校 に 復 讐 す る』 と も ら し て い た こ の 男 了 生 徒 が 事 件 に 関 係 して い る
と の 見 方 を 強 め 、28日 朝 か ら 任 意 同 行 を 求 め 事 情 を 聞 い て い た と こ ろ 、
犯 行 を 自供 。 自宅 か ら 凶 器 と 見 ら れ る ナ イ フ が 発 見 さ れ た た め 逮 捕 に 踏
み 切 っ た 。 … … 調 べ に 対 し て 男 了 生 徒 は 『淳 君 で な く て も よ か っ た 』 と
話 し 、 殺 害 方 法 に つ い て は 、 『切 断 は の こ ぎ り な ど を 使 っ た 』と供 述 。 切
断 場 所 に つ い て は 、 『タ ン ク 山 の ア ン テ ナ 施 設 の フ ェ ン ス 内 』と話 し て い
る と い う。 犯 行 声 明 文 を 神 戸 新 聞 社 に 送 りつ け た こ と に つ い て 、 男r生
徒 は 『捜 査 の か く乱 を狙 っ た 』 と供 述 し て い る。」
ま た 逮 捕 後2日
目 の6月30Hの
朝 日新 聞 の 記 事 で は 、 「14歳 『心 の 闇 』
/緊 急 報 告 ・児 童 殺 害 」 の 中 で 、 小 学 校 の 卒 業 記 念 論 文 集 に つ づ っ た 少
年 の 作 文 を 一一
・
部 引 用 して 、 そ れ が神 戸 新 聞 社 に 届 い た 犯行 声 明 文 の 表 現
と よ く似 て い る と指 摘 す る 。 さ ら に 、「淳 君 の 事 件 が 起 き た5月24Hの
数
日前 、 少 年 が 通 う 市 立 友 が 丘 中 学 校 の 正 門 前 に 、 足 を 切 断 さ れ た 猫 の 死
体 が 置 い て あ るの が 見つ か っ た。 その 直後 、 同学 年 の一 人が 近 所 の 書 店
で 偶 然 少 年 に 出 会 い 、 『話 し で も し よ う か 』と北 須 磨 公 園 に 向 か っ た 。 ベ
ン チ に 座 り な が ら 、 少 年 は 『学 校 に 仕 返 し し た る』 『猫 を殺 し た 』 と 打 ち
明 け た 。 … … 『猫 殺 し』 の 話 し は 、 仲 間 う ち で は よ く知 ら れ て い た 。 あ
る友 人 は事 件 前 、 少 年が 切 断 した猫 の 舌 を 、 び ん に 詰 め て 持 っ て い るの
を 見 て 驚 い た 、 と い っ た 。 あ る 女 子 中 学 生 は 小 学 校 時 代6年
生だ った少
年 が 自 宅 近 く で 淳 君 と遊 ぶ 姿 を 見 て い る 。… … 少 年 は 、淳 君 を か わ い が っ
て い る よ う に 見 え た が 、 遊 ぶ ふ り を し て 時 々 足 を踏 ん だ りつ ね っ た り し
て い た 、 と い う。」
こ の 後 連 日、 朝 ロ新 聞 で は こ の 事 件 の 取 調 べ の 状 況 、 裏 付 け 捜 査 の 進
行 状 況 が報 道 され て い る。 少 年 の 名 前 は 伏 され て い る とは い え 逮 捕 直 後
27
の 段 階 で 、 自 白 内 容 を 詳 述 し、 少 年 の 通 う 中 学 校 名 を 公 表 し た う え 、 同
級 生 や 近 所 の 住 民 に 取 材 し て 少 年 の 異 常 性 ・凶 悪 性 を 強 調 す る 記 事 を 掲
載 して い るの で あ る。
日本 に お け る 「犯 罪 報 道 」 が 、 イ ギ リス の 「裁 判 報 道 」 に 対 す る 基 本
姿 勢 とい か に 懸 け 離 れ て い るか は 明 瞭 で あ ろ う。 そ こ に は 「ペ ー パ ー ・
ト ラ イ ア ル 」 に 対 す る 警 戒 と い う視 点 が 全 く欠 落 し て い る の で あ る 。
こ れ に 対 して 、 バ ル ガ ー 事 件 で は 、 イ ギ リス で は タ イ ム ズ 紙 と並 ん で
朝1:ll紙の 代 表 で あ る ガ ー デ ィ ア ン 紙(1993年2月20日
付)は
、 「10歳 の 少
年 が 殺 人 事 件 で 身 柄 拘 束 」 と被 疑 者 逮 捕 を 初 め て 報 じ て い る(こ
の段 階
で は 匿 名 で あ る)。
「先 週 発 生 し た2歳
の ジ ェ ー ム ズ ・バ ル ガ ー の 誘 拐 お よ び 殺 害 の 容 疑
に 関 し て 、 治 安 判 事 は 、 昨 夜 、 リバ プ ー ル の ウ ォ ル トン 地 区 在 住 の10歳
の 少 年2人
を さ ら に36時 間 取 調 べ る た め に 身 柄 拘 束 す る こ と を 認 め た 。
少 年 た ち は 、 木 曜 のBBCの
『ク ラ イ ム ウ ォ ッ チ 』 とい う テ レ ビ 番 組 が 放
映 され る前 に逮 捕 され た 。 こ の番 組 はバ ル ガ ー 事 件 を特 集 したが 、 この
放 映 を き っ か け に 、 ジ ェ ー ム ズ 君 が ブ ー トル に あ る ス ト ラ ン ド ・シ ョ ッ
ピ ン グ ・セ ン タ ー か ら 誘 拐 さ れ た 事 件 に つ い て の 目 撃 情 報 が 殺 到 し た 。
捜 査 を 指 揮 す る ア ル バ ー ト・カ ー ビ ー 警 視 は 、 『二 人 の 少 年 が 、 木 曜 の 午
後8時30分
に 逮 捕 さ れ 、 ジェー ム ズ君 の 誘 拐 お よ び殺 人 の 罪 で取 調 べ を
受 け て い る。 今 の 段 階 で は 起 訴 を す る か ど うか は ま だ 分 か ら な い 。 少 年
た ち は 、 別 々 の 警 察 署 に 、 弁 護 人 と 家 族 と… 緒 に い る 』 と語 っ た 。 カ ー
ビ ー 警 視 は 、ラ ジ オ の イ ン タ ビ ュ ー に 、『少 年 た ち は 非 常 に 慎 重 に 優 し く
扱 わ な け れ ば な ら な い 。 ま だ 少 年 た ち は10歳 に しか 過 ぎ な い の で あ る。
取 調 べ は 時 間 を か け て ゆ っ く り と進 め る つ も り で あ る』と 答 え た 。 … … 」
既 述 の と お り こ の 時 点 で 少 年 の う ち 一 人 は す で に 自供 を 始 め て い た の で
あ る が 、 報 道 は 自 白 に つ い て は … 切 触 れ て お らず 、 ま た 逮 捕 さ れ た 少 年
二 人 の 生 い 立 ち 、 家 族 構 成 な ど の 記 事 も な い 。 被 疑 者 の 少 年 に 対 す る感
情 を 交 えず に客 観 的 な事 実 だ け が 冷 静 に書 か れ て い るだ け で あ る。 そ の
28
後 も ガ ー デ ィ ア ン紙 で は 、2日
後 の2月22日
、 少 年 た ち が 起 訴 され た こ
とが 報 道 され た が 、 や は り日 白や 少 年 二 人 に 関 す る個 人 的 情 報 は 報 じら
れ て い な い 。 公 判 が 開 始 す る まで に ガー デ ィア ンに 掲 載 さ れ た事 件 に 関
す る 報 道 は 、 次 の2回
2月22日
、2人
を 除 け ば ほ と ん ど な い 。 そ の う ち1回
は 、1993年
の 少 年 が 、 起 訴 後 公 判 まで の 間保 護 施 設 に収 容 され る命
令 を 受 け る た め に 治 安 裁 判 所 に 出 頭 し た 際 に 、 裁 判 所 の 周 りの 沿 道 に 集
ま っ た 群 衆 が も み 合 い の 末 に6人
の 記 事 で あ り、2回
る(1993年3月2il記
逮 捕 さ れ た 時(1993年2月23日
記 事)
目は 、 被 害 者 で あ る ジ ェー ム ズ 君 の 葬 儀 の 記 事 で あ
事)。
被 害 者 に 関 して も 、 イ ギ リ ス で は 報 道 が 制 限 さ れ て い る 。 前 述 の と お
り児 童 ・青 少 年 法 が 被 害 者 が 児 童 ・少 年 で あ る 場 合 に そ の 氏 名 等 の 報 道
を 制 限 し て い る(39条
、49条)ば
性 犯 罪 法(Sexua10ffencesActl976)は
か り で な く、 成 人 で あ っ て も 、1976年
、性犯 罪の被 害者 の氏名 の公
表 を 制 限 して い る 。
{4)他
方 、 バ ル ガ ー 事 件 報 道 で も、 『サ ン 』 や 『ミ ラ ー 』 と 言 っ た タ ブ ロ
イ ド紙 の 取 材 や 報 道 に は 目 に 余 る もの も あ っ た の は 事 実 で あ る 。例 え ば 、
公 判 を 目 前 に し た1993年10月7日
に は 、 『サ ン 』 紙 は 、 ぺ ろ ぺ ろ キ ャ ン
デ ィ ー を 手 に 持 っ た ジ ョ ン が 、 プ レ ス トン刑 事 法 院 に 入 っ て い く様 子 を
写 した写 真 を、 法 廷 侮 辱 罪 に な ら な い よ うに ジ ョ ンの 顔 をぼ か す 処 理 を
し た11で 、1面
で 大 き く掲 載 して い る。 さ ら に 裁 判 を 待 つ 間 保 護 施 設 で
生 活 す る 少 年 達 の 暮 ら しぶ り を 詳 細 に 報 じ て い る が 、 内 容 は 誤 っ た も の
で あ っ た(26}。
い わ ゆ る 「イ エ ロ ー ・ペ ー パ ー 」 の レ ベ ル で 比 較 す れ ば 、 日 本 と イ ギ
リス の マ ス コ ミの 間 に は 大 差 は な い と い う指 摘 も あ る で あ ろ う 。し か し、
そ れ ぞ れ の 国 を 代 表 す る 一 般 紙 の レベ ル で 比 較 し た と き 、 そ の 差 は 歴 然
と して い る。 裁 判 報 道 に つ い て 言 え ば 、 法 廷 侮 辱 法 の 存 在 が そ の 差 を 決
定 づ け て い る と い え る だ ろ う。
29
お わ りに
以 上、 少 年 事 件 の 実 名 報 道 と い う 問 題 を 中 心 に 、 最 近 の 日本 と イ ギ リ
ス に お け る 具 体 的 な 事 件 を 取 り上 げ て 考 え て き た 。 実 名 報 道 を 契 機 と し
た 少 年 司 法 お よ び 犯 罪 報 道 の 比 較 法 的 考 察 に よ って 明 ら か に さ れ た の
は 、 少 年 の み な ら ず 成 人 を も 含 め た 刑 事 司 法 全 体 の 根 幹 に わ た る違 い で
あ っ た 。 す な わ ち 、 一 つ は 、 公 正 な 裁 判 の 維 持 とい う観 点 か ら 加 え ら れ
る 報 道 規 制 で あ り、 も う一 つ は 、 捜 査 手 続 の 適 正 化 と 人 権 に 対 す る 制 度
的 保 障 で あ る。
報 道 に つ い て 言 え ば 、 イ ギ リス に お い て は 法廷 侮 辱 法 の 存 在 に 端 的 に
現 れ て い る よ うに、 興 味 本 位 の 無 責任 な報 道 や 犯 人視 報 道 が 公 正 な裁 判
を 阻 害 す る と い う 自覚 の 上 に 、 報 道 を め ぐ る 制 限 が 経 験 的 に 積 み 上 げ ら
れ て き た。 そ れ は 少 年 事 件 で も同 じ で あ っ て 、 実 名 報 道 の 許 否 をめ ぐる
裁 判 所 の 裁 量 判 断 、 警 察 広 報 担 当 官 の 慎 重 な 発 言、 一 般 新 聞 報 道 に お け
る 自制 な ど に 、 そ れ が 具 体 的 に 現 れ て い る。
捜 査 手 続 に つ い て 言 え ば 、 警 察 拘 禁 期 間 の 厳 しい制 限 、取 調 べ へ の 弁
護 上の 立 会 請 求 権 、 取 調べ の 録 音に 見 られ る よ うに 、 取 調 べ 過 程 の 適 正
化 、 被 疑 者 の 人権 へ の配 慮 が 制 度 的 に保 障 さ れ て い る。 こ れ に 加 え て 、
被 疑 者 が 少 年 で あ る ため に 、取 調 べ 時 間や 、 取 調べ へ の 親 の 立 会 い を義
務 づ け る な ど の 特 別 の 配 慮 を し て い る。
翻 っ て 、 日本 の 場 合 は ど う で あ ろ う か 今
捜 査 も含 め 少 年 手 続 全 体 が 保 護 主義 を 基 本 理 念 と し て い る は ず で あ る
に もか か わ ら ず 、 代 用 監 獄(長 期 間 に 及 ぶ 警 察 で の 身 柄 拘 束)、 長 期 間 ・
長 時 間 の 取 調 べ 、 被 疑 者 取 調 べ へ の 弁 護 人(付 添 人)の 立 会 い 権 の 否 定 、
強 要 ・偽 計 を 用 い た 被 疑 者 取 調 べ 等 、H本
の 刑 事 司法 全 体 の 水 準 は 国 際
的 に も イ ギ リ ス の 水 準 と比 べ て も低 い 。 日 英 二 つ の 事 件 を例 に と っ て 比
べ て み る と、 少 年 の 置 か れ て い る 人 権 状 況 に は 著 し い 違 い が あ る。 こ の
30
状 況 の 改 善 こ そ 焦 眉 の 課 題 と い え よ う。
ま た 犯 罪 報 道 ・裁 判 報 道 に つ い て 言 え ぱ 、 そ の 歴 史 的 背 景 、 厳 し い 法
的 制 限 の 存 在 、 犯 罪 報 道 の 現 状 の 違 い を 抜 き に し て 、 単 に 実 名 ・顔 写 真
の 点 の み を 取 り上 げ て 、 イ ギ リ ス と 同 様 に 報 道 す べ き で あ る と い う議 論
は 短 慮 の 誘 り を 免 れ な い こ と は 明 ら か に な っ た と考 え る 。 こ こ で 敢 え て
言 う な ら ば 、 イ ギ リス と 日本 と の 間 に 見 られ る 法 一 般 に 関 る文 化 の 違 い
が 背 景 に あ り、 そ れ に つ い て の 考 察 と論 議 の 深 ま り が 前 提 と な っ て 、 初
め て 両 者 の 比 較 が 可 能 に な る の で あ る と考 え る 。
深 刻 な 報 道 被 害 を 引 き起 こ し て い る 日本 の 犯 罪 報 道 の 現 状 の 下 で 、 少
年 事 件 の 実 名 報 道 を行 う こ と は 、 今 以 上 に 報 道 被 害 を 拡 大 す る も の で し
か ない。
最 後 に 、 少 年 法 制 の 基 本 理 念 と関 連 し て 、 現 在 少 年 手 続 に 刑 事 司 法 的
要 素 を 導 入 す る こ とが 議 論 さ れ て い る が 、 次 の 事 実 を 記 し て お き た い 。
バ ル ガ ー 事 件 で は 、 大 人 の た め に 作 られ た 被 告 人 席 で は 少 年 た ち の 視
界 を遮 っ て し ま う た め に 、 特 別 に 高 さ25セ ン チ の 壇 を 組 み 立 て 、 そ のk
に 置 か れ た 椅 了 に 少 年 た ち を 座 わ らせ て 審 理 を 行 わ な け れ ば な ら な か っ
た(27}。こ れ は 、 大 人 を 想 定 し た 刑 事 裁 判 の シ ス テ ム の 中 で 少 年 を裁 くこ
との 困 難 性 を象 徴 的 に示 して い る。
1994年5月
、 バ ル ガ ー 事 件 は ヨ ー ロ ッ パ 人 権 裁 判 所(EuropeanCourt
ofHumanRights)に
提 訴 さ れ 、 今 度 は バ ル ガ ー 事 件 裁 判 の 正 当性 が 争
わ れ る こ とに な っ た 。10歳 の 少 年 に 刑 事 責 任=能力 を 認 め 、 大 人 の 刑 事 裁
判 所 で 裁 く こ と 、 不 定 期 の 禁 固 刑 、 そ れ ぞ れ がr一 ど も の 入 権 を 脅 か す も
の と し て 、 批 判 が 向 け ら れ て い る の で あ る(28)。
日本 も ま た 、 国 際 的 な視 野 の 中 で 、 少 年 法 制 の あ り方 、 公 正 な 裁 判 と
報 道 、 報 道 の 自 由 ・国 民 の 知 る 権 利 の 真 に 意 味 す る と こ ろ を 、 慎 重 に 検
討 す る こ と が 必 要 な の で あ る。
31
〈注 〉
ω 例 え ば 、 「編 集 長 取 材 メ モ ・『14歳 少 年 』 禁 じ ら れ た 写 真 の 呪 縛 」(『 フ ォ ー カ
ス』1997年7∬
ラ ビア
」16日 号6頁
「OBSERVER・
新 潮 社)で
あ り、 ま た 『週Fl噺 潮 』7月17日
号のグ
幼 児 惨 殺 少 年 を実 名 で 報 じた 英 国 ジ ャ ー ナ リズ ム 」 や
同 号 の 特 集 記 事 で あ る。
{2噺 井 直 之
「少 年 犯 罪 ・実 名 報 道 問 題 の 本 質 」 世 界1989年529号15頁
「メ デ ィ ア に よ る"子
ど も 殺 し"に
つ い て 」 本 の 雑 誌1989年7月
「女]三高 生 惨 殺 事 件 の 匿 名 報 道 」JCCD(犯
誌1989年6月
号4頁
田宗一
、大塚 英志
号 、菊 田幸一
罪 と 非 行 に 関 す る 全 国 協 議 会)機
関
号24頁 、 沢 登 俊 雄 「マ ス コ ミの 変 な 正 義 感 」ジ ュ リ ス ト1989年934
、 津 田 玄 児 「『実 名 報 道 』 と 少 年 法61条 」新 聞 研 究1989年456号63頁
「少 年 犯 罪 『実 名 報 道 制 限 』 の 歴 史 と 論 理 」 東 京 弁 護 上 会 編
る 側 の 権 利 』 日本 評 論 社1990年181頁
時 報1991年63巻12号53頁
、森
『取 材 さ れ
、 酒 井 安 行 ・村 山 裕 「少 年 事 件 報 道 」 法 律
、 大 庭 絵 里 「少 年 事 件 と 犯 罪 報 道 」法 学 セ ミナ ー1998
年517号65頁
(3)例え ば 、 現 行 少 年 法 の 欠 陥 を 理 由 と す る 例 と し て 、 『フ ォ ー カ ス 』 編 集 長 ・田
島
・
昌 氏 が 顔 写 真 掲 載 に 至 っ た 理 由 に つ い て 語 っ た1編
集 長 取 材 メ モ 『14歳 少
年 』禁 じ ら れ た 写 真 の 呪 縛 」 を 挙 げ る こ と が で き る(『 フ ォ ー カ ス』1997年7月
16日 号6頁
新 潮 社)。 ま た 、 社 会 防 衛 を 挙 げ る の は 、 大 橋 幸 ・日 本 大 学 教 授 「犯
罪 者 情 報 の 公 開 を1で
は10歳 の 少 年2人
あ る(『 週F‖文 春 』1997年7月17H号50頁)。
が2歳
「イ ギ リ ス で
の 子 ど も を 誘 拐 し て 殺 害 し 、死 体 を 線 路 に お い て 引 か
せ る と い う残 酷 な 事 件 が あ り ま し た が 、少 年 の 顔 写 真 、実 名 は 報 道 さ れ て い ま
す 。 一 方 、 ア メ リ カ で は 、性 犯 罪 を 繰 り返 し た 犯 罪 者 が コ ミ ュ ニ テ ィ ー に 帰 っ
て く る と 、そ の 犯 罪 者 の 家 に は こ う い う 犯 罪 を 犯 し た 人 間 で あ る と い う ス テ ッ
カ ー が 貼 ら れ る の で す 。 そ の 考 え 方 の 基 本 に あ る の は 、 犯 人 の 人 権 よ り も、 ま
ず 平 和 な 市 民 生 活 を 侵 さ な い と い う 大 前 提 で す 。平 和 な 市 民 生 活 を 営 む う え で
犯 罪 者 の 情 報 を 得 て 警 戒 す る の は 当 然 の 権 利 な ん で す 。… 加 害 者 の 人 権 が 過 剰
に 尊 重 さ れ る こ と は 公 益 に な る こ と は あ り ませ ん 。二
(4)StephenJonas
,"PressAccesstotheJuvenileCourtroom:Juvenile
AnonymityandtheFirstAmendement",ColumbiaJournalofLawand
SocialProbtems,Vol.17,1982,pp.287;AllysonDunn,"JuvenileCourt
Records:ConfidentialityVS.ThePublic'sRighttoKnow",American
CriminalLawReview,Vol.23,1985,pp.379;ArthurR.Blum,"Disclosing
theIdentitiesofJuvenileFelons:IntroducingAccountabilitytoJuvenile
Justice",LoyolaUniversityChicagoLawJourna1,Vol.27No.2,1996,pp.349
32
⑤神 戸 市 児童 殺 害 事 件 を き っ か け に 少 年 法 制 に批 判 か相 次 ぎ、少 年 法 の 改正 を
求 め る 声 も 多 い 。 少 年 の 逮 捕 直 後 の7月1日
の 記 者 会 見 で 梶lll官 房 長 官 が 、4
日 の 閣 議 後 に は 武 藤 嘉 文 総 務 庁 長 官 が 、少 年 法 改 正 を 検 討 す る 必 要 が あ る との
考 え を 明 ら か に し て い る 。 ま た 、 白 民 党 の 「少 年 の 犯 罪 防 止 と健 全 育 成 に 関 す
る 特 別 委 貝 会 」 で は 、 現 行 少 年 法 に 対 し 「保 護 ・育 成 の 観 点 に 偏 り過 ぎ て い る 」
とす る批 判 が相 次 ぎ、法 改 正 も念 頭 に い れ て、少 年 犯 罪 の 防 止策 を検 討 す る こ
と を 決 め て い る(1997年7月25日
予 防)と
再 犯 防 止(特
別 予 防)の
朝 日新 聞 朝 刊)。 少 年 の 凶 悪 犯 罪 の 防 止(一 般
点 か ら現 行 少 年 法 は批 判 され て い る。
㈲ し か し 、 凶 悪 犯 罪 の 抑 止 と い う点 に つ い て 言 え ば 、 厳 罰 や 実 名 報 道 に よ る威
嚇 に 、 少 年 犯 罪 を 抑 止 す る 効 果 が あ る と実 証 さ れ て い る わ け で は な い 。
そ も そ も 、H本
で 少 年 の 凶 悪 犯 罪 が 増 加 し て い る の か と い う 疑 問 が あ る。
こ の 点 に つ い て は 、 斉 藤 豊 治 「14歳 の 犯 罪 と 少 年 法 」法 律 時 報69巻10号2頁
以 下 、 津 田 玄 児 「少 年 法 『改 正 』 論 の 前 提 を 問 う 」法 学 セ ミナ ・-514号8頁
以 下
が 詳 細 な検 証 を さ れ て い る。
さ ら に 再 犯 防 止 の 観 点 に つ い て 見 る と 、法 務 省 が 行 っ た 凶 悪 事 件 を 起 こ し た
年 少 少 年 の 再 犯 状 況 に つ い て の 調 査 結 果 に よ れ ば 、殺 人 、 強 盗 殺 人 な ど の 凶 悪
事 件 を 起 こ し た 少 年 が 、交 通 事 故 な ど も 含 め た 再 犯 率 は42%で
様 の 凶 悪 事 件 を 起 こ し た ケ ー ス は2%に
あ る が 、再 び 同
と ど ま っ て い る(1997年7月24日H経
新 聞 朝 刊)。
の プ レ ス 苦 情 処 理 委 員 会 に つ い て の 詳 細 は 、 田 島 泰 彦 「イ ギ リ ス に お け る マ ス
メ デ ィ ア と 市 民 の 権 利 一 苦 情 申 立 て 制 度 の 考 察1清 水 英 夫 編 『マ ス コ ミ と 人 権 』
三 省 堂(1987年)、
堀 部 政 男 「イ ギ リ ス の マ ス メ デ ィ ア ・プ ラ イ バ シ ー 保 護 強 化
論 一カ ル カ ッ ト報 告 書 の 概 要 と影 響1ジ
ュ リ ス ト964号(1990年)、
代 イ ギ リ ス の プ レ ス のtS・1由と プ ラ イ バ シ ー(ヒ)(下)」
田 島 泰 彦 「現
新 聞 研 究474号
(1991年)c
(8}事件 の 詳 細 に つ い て は 、 デ ー ビ ッ ド ・ジ ェ ー ム ズ ・ス ミ ス 著 北 野
ど も を 殺 すf'ど
・475号
・
世訳
『f'
も た ち 』 翔 泳 社1997年(DavidJamesSmith,"THESLEEP
OFREASON:TheJamesBulgerCase"1994)、
事 件 ・裁 判 当 時 の 『ガ ー デ ィ
ア ン 』紙 の 記 事 と 、 菊 池 和 典 「バ ル ガ ー 事 件 と そ の 影 響 」ケ ー ス 研 究241;J-1994
年 を参 考 に した。
《9榊戸 市 児 童 殺 害 事 件 で は 、 付 添 人(弁
護 団)に
よ る再 三 の神 戸 地 裁 へ の 準 抗
告 、最 高 裁 へ の 特 別 抗 告 に も か か わ ら ず 、被 疑 者 の 少 年 は6月2811の
再 逮 捕 を は さ ん で7月25日
家 裁 に 送 致 さ れ る ま で 、約1ヵ
逮捕 か ら
月 に わ た っ て代 用 監
獄 で あ る 須磨 署 の 留 置場 に 身 柄 を拘 束 さ れ て い た 。
(10}神戸 市 児 童 殺 害 事 件 の 場 合 、代 用 監 獄 に 収 容 さ れ て い た 少 年 の 取 調 べ に は 弁
33
護 十 や 親 は 立 ち 会 っ て い な い 。 犯 行 声 明 の コ ピ ー を 見 せ て 取 調 官 が 「こ れ は 君
が 書 い た も の で あ る こ と は 、 は っ き り し て い る 」と 言 っ て 、 筆 跡 鑑 定 で 声 明 文
が 少 年 の 文 字 ど 一致 し た と 説 明 し た た め 、そ れ を 聞 い て 少 年 は 自 供 を 始 め た 。
し か し 後 に 第1回
審 判 の 当 日 、少 年 が 付 添 人 の 弁 護 士 か ら 、 「類 似 点 は 多 い が 、
同 一 人 の 筆 跡 か ど うか 判 断 す る の は 困 難 」と い う 筆 跡 鑑 定 の 結 果 を聞 か さ れ た
の で あ っ た 。 「だ ま さ れ た 】と 、 そ の と き 少 年 は つ ぶ や い た そ う で あ る 。(1997
年11月11日
朝 日新 聞 朝 刊 「神 戸 連 続 児 童 殺 傷 事 件 ・暗 い 森 」)家 裁 も こ の 事 実 を
認 定 し 、少 年 の 警 察 官 に 対 す る 供 述 調 書 を偽 計 に よ る 自 白 と し て 証 拠 能 力 を 否
定 し て い る(「 処 分 決 定 要 旨ll997年10月18H朝
日新 聞 朝 刊)。
{11)CriminalJusticeAct1991(1991年
刑 事 裁 判 法)は 、 そ れ ま で の 少 年 裁 判 所
の 年 齢 管 轄 を17歳 未 満 か ら18歳 未 満 に 引 き 上 げ 、 さ ら に 従 来 のJuvenileCourt
(少 年 裁 判 所)か
らYouthCourt(青
本 稿 で は 、YouthCourtに
少 年 裁 判 所)に
名 称 を変 更 し た 。 た だ し
該 当 す る 場 合 もJuvenileCourtに
該 当 す る場 合 も、
少 年 裁 判所 の 名 称 を使 用 した 。
(i2}murder(謀
殺)とmanslaughter(故
(13)TheGuardian
(i4}1997年12月
殺)を
含 む。
.1993.2.23
ド旬 に ジ ャ ッ ク ・ス ト ロ ー 英 内 相 の 長 男(17歳)が
、大麻 販売 の
疑 い で 逮 捕 さ れ た 事 件 で は 、 イ ン グ ラ ン ド・ウ ェ ー ル ズ の 新 聞 社 や 放 送 局 は 、
18歳 未 満 の 少 年 に よ る 刑 事 事 件 に つ い て 実 名 報 道 を 禁 じ た 法 律 を 尊 重 し 、匿 名
で 報 道 し て い た,,し か し 、1月
に な っ て 、16歳 以 上 を 成 人 扱 い す る ス コ ッ ト ラ
ン ドの 三 紙 が 、 イ ン タ ー ネ ッ トで 実 名 が 広 く知 れ 渡 っ て い る こ と を 理 由 に あ
げ 、実 名 報 道 に 踏 み 切 っ た 。 こ の た め 実 名 の 公 表 差 し止 め を 命 じ て い た 英 高 等
法 院(HighCourtofJustice)は
、 差 し止 め が 事 実 上 意 味 を 持 た な く な っ た と
し て 命 令 を 撤 回 し た 。(1998年1月4U朝
o5)TomWelsh&WalterGreenwood
日新 聞 朝 下ID
,McNae'sEssentialLawforJournal-
ists,Eleventhedition,Butterworths,1990,pp.32
(16)イギ リ ス で は 、 少 年(18歳
未 満)が
殺 人 罪 で有 罪 に な っ た場 合 、終 身 刑 や 死
刑 の 代 わ り に 、 不 定 期 の 禁 鋼 刑(tobedetaihedduringHerMajesty'spleaSure)が.}い
渡 さ れ る。 そ して 国 務 大 臣 が 決 定 す る場 所 と 条件 の 下 で 拘 禁 され
る こ と に な る 。ChildrenandYoungPersonsAct,1933,s.53(1)バ
ル ガ ー一事
件 で は15年 の 拘 禁 刑 に 決 め ら れ た 。
{17)デー ビ ッ ト ・ ジ ー一ム ズ ・ ス ミ ス ・前 掲 書 、437頁
(18)イギ リ ス の 少 年 裁 判 所 の 歴 史 に つ い て は 、 瀬 川 晃 「世 界 の 少 年 法 一 イ ギ リ ス
/カ
ナ ダ 」 法 学 セ ミナ ー 増 刊 『少 年 非 行 』196頁 、 大 谷 實 「イ ギ リ ス に お け る 少
年 犯 罪 に 対 す る 司 法 的 処 遇 」 罪 と罰18巻4号5頁
、 柳 本 正 春 「英 国 の 新 児 童 少
34
年 法(E)」
警 察 研 究44巻12号66頁
堂 、1989年
、278頁
40頁
164頁
、145頁
、 瀬 川 晃
、 村 井 敏 邦
、 柳 本 正 春
『イ ギ リ ス に お け る 罪 と 罰 』 成 文
『イ ギ リ ス 刑 事 法 の 現 代 的 展 開 』 成 文 堂 、1995年
、
「イ ギ リ ス の 少 年 司 法 】 季 刑 ・刑 事 弁 護9号(1997年)
、CarolineBall,"YoungOffendersandtheYouthCourt",theCriminal
LawRewiew,April1992,pp.277を
09,成 人 の 場 合
、犯 罪 の 性 質 に よ っ て 事 物 管 轄 は 以 下 の 三 つ に 分 類 さ れ る 。① 刑
事 法 院(crowncourt)で
offence、
参 照 した 。
陪 審 裁 判 を 行 う た め 正 式 起 訴 す べ き 犯 罪(indictable
殺 人 、 強 姦 事 犯 な ど)、 ② 治 安 裁 判 所(magistrates'court)に
略 式 手 続 き(summaryproceeding)を
offence、
お け る
行 う た め 略 式 起 訴 す べ き 犯 罪(summary
比 較 的 軽 微 な 交 通 事 犯 な ど)、 ③ い ず れ で 裁 判 を し て も よ い 犯 罪(窃
盗 事 犯 な ど)
(,o)J.Nev川eTurner,"TheJamesBulgercase",LawInstituteJournal
Augustl994,734-737,Footnotesl1,デ
ー ビ ッ ド ・ ジ ェ ー ム ズ ・ ス ミ ス ・前 掲
書 、1頂
(21)TheGuardian
,1993.3.4
(22)判 例 ① で 分 か る よ う に 、刑 事 法 院 裁 判 官 の 解 除 命 令 に 対 す る 異 議 峰ぽ
い て は 高 等 法 院(HighCourtofJustice)に
て に つ
裁 判 権 が あ る。 と こ ろ が 、 本 件 の
弁 護 人 は 、解 除 命 令 に 対 す る 異 議 申 立 て と い う 形 式 で は な く 、全 く別 個 の 新 し
い 報 道 禁 止 命 令 を 控 訴 院 に 求 め る と い う 形 式 を と っ た の で あ る。 し か し 、控 訴
院 は 、 こ の 事 件 が 控 訴 院 に 係 属 し て い る わ け で は な い の で39条
の 報 道 禁 止 命 令
を 出 す 権 限 は な い と し た 。 そ の う え で 、訴 え の 理 由 を 刑 事 法 院 裁 判 官 の 解 除 命
令 に 対 す る 異 議 申 立 て に 変 更 す る こ と を 弁 護 人 に 促 し 、訴 訟 経 済 を 考 慮 し て 控
訴 院 裁 判 官 は 、 高 等 法 院 の 裁 判 官 と し て 、訴 え を 取 り上 げ る こ と に し た の で あ
る(RvMiall(1992)3AllERl53参
照)。
(23)op .cit,pp.99100
{24}GeoffreyRobertson&AndrewG
.L.Nicol,MediaLaw:TheRightsof
JournalistsandBroadcasters,1984,ppユ61
(25}五 十 嵐 二 葉
『犯 罪 報 道 」 岩 波 ブ ッ ク レ ッ トNO
{26)デ ー ビ ッ ド ・ ジ ェ ー ム ズ ・ ス ミ ス ・ 前 掲 書
.192、9頁
、373頁
。
(27}デ ー ビ ッ ド ・ ジ ェ ー ム ズ ・ ス ミ ス ・ 前 掲 書 、372頁
。
(28)英 国 紙TheIndependent
、1994.6.3は
、 イ ギ リ ス の 法 律 家 の 間 で は10歳
ど も を刑 事 裁 判 所 で 裁 く こ とに 疑 問 を抱
の 子
く者 の 多 い こ と を 紹 介 し て い る 。 ま
た 、 オ ー一ス ト ラ リ ア のJ.NevilleTurner,op.cit,pp.734は
け る 権 利 、 少 年 た ち の 実 名 報 道 、10歳
以 下
、 公 正 な 裁 判 を受
の 刑 事 責 任 能 力 、子 ど もの権 利 条 約 違 反
の 観 点 か らバ ル ガ ー 事 件 を批 判 して い る。
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