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関節リウマチと検査 MMP
関節 リウマ チ と検 査 一 MM卜 3の臨床的意義 を中心 に一 第 一化学薬品株 式会社 カスタマ ーサポ ー トセ ンター 山 下 由紀子 [はじめに] 関節 リウマ チ は、 国民 のお よそ0.6%(推 定息者数70∼80万人)が 罹息す る頻度の高 い進 行性 の疾息 で、関節破壊 によ り運動障害 を来た し、長期の治療 を必要 とす る難病 で ある。全 身 の 関節 で慢性増殖性滑膜炎 が発生 し、滑膜細抱や滑膜 に浸 潤 した炎症細胞 に由来す る多 く の 因子 に よって 関節 の軟骨 ・骨破壊 が進行す る。それ らの因子の中で もマ トリックスメタロ 3:MMP-3)は プ ロテイナ ー ゼ (matrixmetalloproteinase 関節組織破壊 に関わ る重要 な酵 素 であ り、関節 リウマ チの滑膜細胞 によって大量 に産生 される ことか ら、関節 リウマ チに特 異的 な酵素 として注 目されて きた。 関節 リウマ チの よ うな難治性疾息 にお い ては、早期診断 ・早期治療が息者 の予後 の改善 に 重要である。関節 リウマ チは変形性 関節症 な ど他 の 関節疾息 との鑑別が難 しく、関節 リウマ チの早期診断 の難 しさがある。 従来か ら関節 リウマ チの診断や経過観察 に、 リウマ チ因子や血沈 な どが使用 されて い る。 しか しこれ らの検査法 は免疫 異常や炎症反応 を反映 してお り、関節異常 の病態 を とらえる も の としては十分 とは言 えなかった。 この よ うな背景 か らMMP-3の 測定法が 開発 され、近年汎用 自動分析 装置用試薬 も開発 さ れ臨床 の場 に役 立 つ よ うになって きた。 ここでは関節 リウマ チ とその治療、及 び検査 として のMMP 3測走 につい て考察 してみた い。 [関節 リウマ チ とは] 関節 リウマ チ (RA)と は 自己免疫疾息 の 1つ で、 多 くの場合 自己抗体 (リウマ トイ ド因 子)を 生 じる。関節 リウマ チでは関節の滑膜が増殖 ・炎症 をお こす ため、多発性 の 関節炎 に よ り腫 れや疼痛 を起 こす。 また、増殖 した滑膜が関節 の歌骨や骨 を破壊 し、関節 の変形脱 臼 を起 こして運動機能が障害 され、最終的には寝 た き りとなる。 [関節 リウマ チ治療の 目的] 関節 リウマ チ治療 の 目的 を大別 す る と 。痛 みの制御 -116- 一 中 一 であ り、そ のために薬剤、 リハ ビ リ、外科 的処置 一 離 ・骨破壊 の 防止 ・QOLの 向上 等が行 われる。 (図 1)に 示 した もの は、 関節 リウマ チの治 療 にお いて、早期診断 と早期 の治療 開始が鍵 で ある ことを示 して い る。 早期 か ら強力 な治療 を行 えば、全体 の15%が 寛 解 し、50%で 全 身活動性 が軽減す る とい う学会発 (図 1) 表 が なされて い る。 [ 関節 リウマ チの治療] 関節 リウマ チの治療薬 としては次の 3 種 に大 別 される。 ・非 ステロイ ド性鎮痛抗炎症薬 ( N S A I D S ) 比較 的早 い鎮痛作用 ・ス テ ロ イ ド剤 強力 な抗炎症作用、副作用 ・抗 リウマ チ薬 (DMARDs) 免疫抑制作用 免疫異常 を是正 して炎症 を沈静化、関節破壊 を 10年 以上か けて徐 々に進 行する。 遅 らせ る 効果発現 は遅 い 息者 に よ り有効性 が異 なる 醸 長期連用 によ り効果 の減弱があ る ピラミッド方式 しか しなが ら、 ここ最近 (10年以内)に ある よ 発症後2年以内 れ, 思 蹴 」 着 ステップダウンブ _!ト リッジ方式 無 F発 的 定早期か功 ウマチ栗あ紅 せ 需ゑ 智 為 R転 路 把 啓 鮮境 愚擢 阜 うに関節 リウマ チの病態 に対す る認識及 び治療法 が大 きく変 わって きて い る (図 2)。 (図 2) 即 ち、関節破壊 は徐 々 に進 行す るよ り発症早期 に進 む場合が多 く、早期か ら強力 な治療 を行 い炎 症が軽減すれ ば薬剤 を減 らす とい うもので ある。 関節 リウマチの新治療 指針 観 │ = │■1 ‐ 申 醐 │ 新 た な薬剤 例 と して は生 物 製剤 で あ る抗TNFα 抗体 な どがある。 つ ま り、関節 リウマ チの治療 にお いて重要 なポ イ ン トは早期診断、 つ ま リリウマ チなのかそれ以 外 の病態 なのか を区別す る事、そ してその後の経 (図 3) 過観察が重要 となる (図 3)。 一-117-一 [関節 リウマ チの診断 ] リウマ チの診断には従来、息者 の 自覚症状や医 RAの 診断(分類)基準 (米国リ ウマ チ 学会1987) 師 の診察 に よる診断結果が大 きなウエ イ トを 占め て い る。最 も基本的な診断基準である米国 リウマ 1)朝のこわばり 2)3領域以上の関節腫ほ 3)手指の関師の関節腫脹 4)対称性の関節腫ほ 5)皮下結節 6)リウマトイド因子 7)X線上の変化 チ学会 の診断基準 で も臨床検査 としては リウマ ト イ ド因子の有無 とX線 写真 による変化 のみが採用 され、 日本 にお け る診断基準 もほぼ同様 の項 目を 判定基準!7項 目中4項目以上を満たすものをRAを 有しているものとする。 用 い て い る (図 4)。 リウマ トイ ド因子等 は関節 リウマ チ にお け る免 (図 4) 疫学的異常 を反映す る もので あ り、 これに加 えて 関節 マ ー カー としての視点 でMMP 3を 測定す るこ とによ り、関節 リウマ チの病態 をよ り正 確 に把握す ることが可 能 と考 える。 [ M M P - 3 と は] 関節 の軟骨 は、歌骨細胞 と軟骨細胞か ら分泌 された細胞 外 マ トリックスか ら構成 され、細 胞外 マ トリックスの コ ラー ゲ ン、 プ ロテオグ リカ ン、 ラ ミニ ンな どが 3 次 元的に結合 し、 関 節歌骨 の粘度や弾性 を維持 して い る。 MMP-3は 滑膜細胞 や、軟骨細 胞 で 産生 され る が、 この 細 胞外 マ トリ ックス を分 解 す るプ ロ テ アー ゼで あ る と共 に、他 のMMP群 を活性 化 す る ことが知 られ、軟骨 破壊 のキ ーエ ンザ イム と考 え 関節リウマチ患者の関節における変化 田節り才 巧К彫ゆi申 であり、病日は 赤だ明らド酎まありませは その主たる府館は特似ける慢性 組 知 搬 帥 ており執 られて い る。 関節 リウマ チは慢性 の全 身性炎症疾 患 で あ り、病 因 は明 らかではないが、その主たる 病態 は関節 にお い て持続す る慢性滑膜炎 で ある と されて い る。滑膜 の増殖 につ れてMMP 3の 産生 が増加 し軟骨の破 壊 や骨破壊酵 素 の活性化 に進 む (図 5) (図 5)。 す なわち、関節 リウマ チ にお い て、 関節 の滑膜 が増殖 し、 これ に伴 いMMP-3産 生 が元進 す る。 割 をはた し、 関節局所 のMMP-3産 生元進 は血 中 濃度 に反映 される。 帥 抑 和 加 口 的 ?L〓〓 aEヽc︶ このMMP-3が 直接 問接 的 に関節破 壊 の 中心 的役 ース欠複lgG抗 RA患 者 におけるMMP-3、RF、杭カラ ク ト 体 の相関性 [MM卜 3と臨床デ ー タ] ・RA息 者 にお け る他 の免疫 マ ー カー との 相 関性 MMP 3は リウマ チ 因子 や、 リウマ チ因子 と同 -118- (図 6) RAに おける血清中MMP-3値 。 一 m 的 狗 加 合Eヽ こ 中︱ 住〓〓子 来 g 多 ︰︰ ⋮⋮ ⋮ l i 工 こ 悟 健常者分布〕 〔 女性 男性 (図 8) (図 7) じ由来 による抗 ガラク トー ス欠損IgG抗体 とは全 く相 関が見 られ ない。 尚、 リウマ チ因子 と 抗 ガ ラク トー ス欠損IgG抗体 は良 い相 関 を示 して い る。 この事 か らもMMP-3は リウマ チ 因 子や抗 ガラク トー ス 欠損IgG抗体 とは異 なる もの をみて い る事が分か る (図 6)。 ・MMP 3の健常者分布 生化学校査値お よび 関節 に異常 を認めず、 日常生活 になん ら支障のない もの を健常者 とし てMMP-3の 健常者分布 をみた ところ、男性 の基準値上 限 は121ng/ml、女性 で は60ng/mlと な り、有意 な差が見 られた (図 7)。 尚、年齢 による差 は見 られなか った。 ・関節 リウマ チ にお け る血清 中MMP 3値 健常者、早期 リウマ チ、 リウマ チ、悪性 関節 リウマ チ息 者 におけ るMMP 3値 をみたのが (図 8)で あ る。健常者 に比 べ い ずれ も有意 に高値 を示 し、特 に早期 RAで も女性81.8%、 9%と 高 い 陽性率 を示 した。 男性 76。 ,関 節 リウマ チ以外 の疾患 にお け るMMP-3値 (図 9)に RA以 外 の 関節疾患及 び肝疾息 における血清 中MMP _ 3値 を示 した。 関節 リウマチ以外 で 関節炎 を伴 う変形性 関節症 (OA)、通風 (GOUT)や 外傷性 関節炎 (TA)で は血清中MMP 3値は上昇せず、 ほぼ基準値付近 に分布 してい る。 また、 リウマ トイ ド因子 (RF)が 肝疾息 で上昇す ることか ら血清 中MMP 3値について も 肝疾息 の影響 を検討 した。その結果、血清 中MMP 3値は肝疾患の影響 を受ける ことな く、 ほぼ基準値以下 となった。骨粗 しょう症 (OP)で も基準値以下 であ った。 (図10)に RA以 外 の疾息 でMMP 3値が高値 となる症例 を示 した。 血清中MMP-3値 は癌症例 でまれに高値 を示す場合がある。 また、腎機能障害 の伴 う疾息 で高値 を示す場合がある。同様にSLE症 例 で も高値 を示す場 合があ るので注意が必要である。 ・MMP-3に おける臨床例 次にMMP-3値 の関節破壊 に関す る予後予測 に関す る有用性 と薬剤投与 に関す る臨床例 を お示 しする。 図11は、血清中MMP 3が早期RAの 進行 を予測する因子 として有用 であるか どうかを、早 -119- RA以 外の関節症及び肝疾患における 血清中MMP-3値 が高値 m 的普mIm 拘 抑 男性 〓ヽ ﹀Φ 住〓〓≡栄増 ︵ モ ゝ こ 01 住EE■ 娯 g ︵ 。 嬬 樹 警 & 督 辞 m蜘 m m 加 6 仰︲ 女性 RA以外の疾患で血清中MMP-3値 〔 を示す症例〕 OA、 痛日との低別に有用です。 (図 9) (図10) 早期 RA関 節破壊の予後予測と血 清 中MMP-3値 続性に低値 OL00の のいCOの﹂Gコ 0 如 1 釣 ? 住〓〓■無 目 3E\習 ︶ 網 0 。 。 0 0。 0 0 10 4 2 皿 蜘 6 血清 中MMP 3値が 可卜持続性 に高値 理津 低値 → 高値 ‖幹 高値 → 低値 鞠 0 1 2 3 0 初診後の年数 1 2 3 初診後の年数 平成 1 0 年 度厚生科学研究費補助金免夜 アレルギー 等研究車業研究報告書 ( 東京女子 医科大学 山中寿) 関節破 壊 の 予後 予測 に有 用です 。 ( 図1 1 ) 期R A に お い て初 診か らその後 3 年 間 の血清 中M M P - 3 値 と骨破壊 の程度 によ り4 群 に分 け て 比較検 討 した結果である。 ①群 :初診時の血清中MMP 3値が低値であり、その後も低値を持続したまま推移した群、 ②群 :初診時の血清中MMP 3値が高値であ り、その後も高値を持続したまま推移した群、 ③群 :初診時の血清中MMP-3値 は低値であったが、 1年後高値に転 じ、その後高値のまま 推移した群、④群 :初診時の血清中MMP 3値は高値であったが 1年後低値に転 じ、その後 低値で推移した群である。①群は、ラーセンススコアも低値のまま推移しており、骨破壊は 一-120-― 薬剤投与 と血 清 中MMP-3値 RF 関節 点数 IgG― 寧 n M< H ョ 3 ・ P 劇 か 町 嗣 町 M o ﹄ 嗣 町 叫 嗣 掛 叫o 嗣 町 叫 嗣 ﹁ 明 1鞠 の挙動 6 2 3 2 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 ︲ ︲ H ︲ 4 2 2 2 一 0 2 MMP-3 8 1 _rl_ 6 ︲ 関節 点数 4 2 ︲ ︲ 一 IgG―RF 0 ︲ 8 6 4 2 0 6 ︲ 井 5 中 秀紀 ら1第41回 日本 リウマチ 学 会 発 表 要 旨,37(4101997 MMP-3は RA治 療の経過観察に有用です― 。 ( 図1 2 ) 殆 ど進行 してい ない。②群は、 1年 後 にラーセ ンススコアが急上昇 してお り、骨破壊が急激 に進行 してい る。③群 はラーセ ンススコアが徐 々に上昇後急 上昇 に転 じてお り、結果的には 骨破壊が進行 してい る。④群 はラーセ ンススコアの上昇 は緩やかであ り、骨破壊 の急激な進 行 はみ られてい ない。 *ラ ーセ ンススコア :エ ックス線検査 による関節変化 の進行度を判定する際に用 い られる 6 段階評価 の方法 であ り、関節破壊 の程度を表 してい る。 12は血 図 清中MMP 3値がRAの 症状 を速やかに反映 してい ることを示 したものである。薬 剤 の変更、追加 による治療経過 にお いて血清 中MMP 3は関節点数 とほぼ同 じ動 きを示 し治 療効果 を反映 して い る。す なわち、無効 と思 われる薬剤 1か ら、薬剤 2、 3へ 変更 した結 果、関節点数 とMMP-3の 両指標 は変動 しなが ら最終的に薬剤 4の 効果 を反映 して低下 して いる。 この様に血清中MMP 3値は薬剤 の効果に よる症状 の改善や悪化 を鋭敏で速やかに反 映する ことがわかる。尚、 この症例で同時に観察 したIgG一 RFは 殆 ど変動 を示 していない。 3測定のタイミング] MMP-3の 臨床的意義についてご紹介 させていただいたが、測定 のタイ ミングとしては以 [MMP 下のような場合 が考え られる。 ・リウマチ 因子校査結果 と臨床症状が一致 しない とき -121- ・他 の関節痛を伴 う疾息 と区別が難 しい とき ・治療効果がみ とめ られない とき [MM卜 3の測定法 について] MM卜 3測定用試薬 としては、平成13年にELISA法 によるものが発売 されてい る。 しか し なが らELISA法 をルチ ン項 目として一般病院で導入す ることは難 しく、外注 による測定が 主流であった。 平成17年に汎用 自動分析装置 に適用で きる、パ ナクリアMMP 3「ラテ ックス」が発売 さ れ、簡単に院内導入が可能 となったので試薬 と基礎デー タについてご紹介する。 製品名 :パ ナクリアMMP-3「 ラテックス」 原 理 :ラ テ ックス凝 集免疫比濁法 効能及 び効果 :血清又 は血案中のMMP-3の 測定 (血策 !ヘ パ リン血策) 製品概要 とパ ラメー ター については (図13)と (図14)に 示す。 製品概要 ・ ラテックス」 宴品名 :バナクリアMMP‐3「 ・ 原理 づラックス海集免技比潟法 ・ 者劫翔岡 :2∼8℃ 8ケ月 ・ 角確及び拘兵 :血清スは血舞中のW取酔 3の調定 (血策;ヘパリン血擁) 。 特長 : ①■用自動分析機に適用可能な減状嵐亮 の調定原祖はチ ックス免住比周法 お 持埠路 篭+ 1 議 パ ラメー タと製 品 包 装 ・ 標準パラメータ: S : R l : 整■5 μl : 1 5 0 μ l:50rri ・ Rl:30miX 2、R2110miX 2 減薬 ・ キャリブレータ lmi用X5出 産(0、 50、200、400、800ng/ml) ・ コントロール lmi用X4(約 100ng/mけ 口 2miX l 機体希釈液 (図14) (図13) 基 本 性 能 ( 再現 性 、直 線 性 ) 象 説 的 臨 い帥観 20 2tr,96 1 2 1,じ 8 F2 一-122-一 E L I S A 法 との 相 関 約 率 的 玉 卓 ” 眠軽基苦 ■卓球 様 ⋮“ t ど せ. F 盤■弱 叫就 叫胡 測定原理 として は、検 体 中 のMMP 3と マ ウス抗 ヒ トMM卜 3モ ノ ク ロー ナ ル抗 体感作 ラ テ ックスが反応 し生 じた濁 りを測定す る。 検量線 は 0濃 度 を含 む 5点 で、 最高濃度 はお よそ800近辺である。 従 って 直線性 範 囲 もお よそ800ng/mlとなる。 この範 囲 を超 えた検 体 につ い ては検体希釈 波 で希釈測定す る。 基本性能 基本性能 として再現性、直線性、ELISA法 との相関 を次 表 に示 す。 直線性 にお い てはお よそ800ng/mlまで 良好 で あ り、ELISA法 との 相 関 も血清、血案 とも 良好 で ある。 [まとめ] 関節 リウマ チの治療 は近 年 目覚 しい進歩 を とげて い るが、 なによ りも早期診断 ・早期治療 が息者 の予後 の改善 に重要である とい える。 これ までMMP 3の測 定 は外注 が主流であ り、結果が で るまで 時間 を要 して い たが、 汎用 自動分析 装置 に適用 す るこ とで、 院内測定が可 能 になれ ば、息 者 の 治療 効果が直 に判定 で き、 リウマ チ専 門 の 医師 のみ な らず息者 に とっての満足度向上 につ なげる ことが可能 と思わ れる。 ―-123-一