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講演内容(大江氏) - 一般財団法人 ベンチャーエンタープライズセンター

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講演内容(大江氏) - 一般財団法人 ベンチャーエンタープライズセンター
【基調講演Ⅰ】
「大学・大学院におけるアントレプレナー教育」
早稲田大学インキュベーションセンター長
/早稲田大学ビジネススクール 教授
大江 建 氏
●早稲田大学とアントレプレナーシップ
簡単に自己紹介をさせていただきますと、私は今ビジネススクールで、アントレプレナーシップと
新規事業を教えています。また、早稲田大学インキュベーションセンターのセンター長を務めていま
す。
本当は「アントレプレナーシップ大学を目指して」というタイトルで話したいのですが、この次の
機会にさせていただき、「大学・大学院におけるアントレプレナー教育」というタイトルで話しま
す。
早稲田大学は正式にはアントレプレナーシップ大学を目指しているわけではありません。しかし、
早稲田大学の校歌の中に「進取の精神」というものがあり、その「進取の精神」を英訳すると、まさにア
ントレプレナーシップなのです。だから、早稲田大学は「グローカルユニバーシティー」などということより
も、「アントレプレナーシップ大学」と言うべきだと、私は思っています。
今日は少ない時間ですが、最初に、私がどのように考えているのか、どんな教育を考えているのか
ということをお話してから実際にアントレプレナーシップ大学を目指して、早稲田大学がどのような
起業家教育の取り組みを行っているのかについてお話ししようと思っています。早稲田と言っても非
常に大きく、いろいろな先生がいますので、全部をカバーすることはできません。そのため、私が何をしてい
るのかという話が主になると思います。
●不確実性と起業家教育
私が考えていることは、不確実性と起業家精神です。今の時代を私は情報時代と定義しているので
すが、これは私の考える実務的な情報時代の定義で、学術的な定義ではありません。「世界のどこに
いても、良質な情報を受信したり、発信できる」時代です。全世界でイノベーションが起こっていて、
全世界で金が集められるような時代です。昔とは完全に違う時代になっていると思います。シリコンバレ
ーのモデルは既に崩れています。
情報時代の特徴の一つは、不確実性が非常に高いということです。
不確実性の高い時代に何をしなければいけないかというと、起業家精神を発揮することです。情報
が皆平等になるわけですから、起業家精神を発揮するか発揮しないかということなのです。情報を使
うか使わないかで、勝負が決まってしまいます。今まではよく「知識のマネジメント」が必要だと言
11
われていましたが、今は、そういう時代ではありません。私は、今の時代は「仮説のマネジメント」が必
要だと思っています。
どのぐらい仮説が重要かというテーマで少し話をさせていただきます。私は実験物理学の出身であ
ります。実験物理学が物理学の発展に貢献したことを考えると、経営学でも実験経営学という分野が
あるべきだと考えております。私が行った経営学の実験の一例を話します。その実験では、学生と社
会人を公園に連れていき、仮説をつくらせた上で、物売りをさせました。彼らの立てた仮説の精度は
30%程度でした。公園で物を売るような簡単なビジネスでも、仮説は 30%しか当たりません。30%の
確率という意味では、メジャーリーガーのイチローの打率とほぼ同じなのです。
私は、経営の面白さは立てた仮説が 30%しか当たらず、それを1%でも良くしようと努力するとこ
ろにある、と勝手に思っています。イチローが簡単に打率 10 割を実現できたら野球は全然面白くない
と思います。イチローは打率3割というラインからいかにして打率を上げていくのかというところに
日夜努力しているのではないか、と私は思っています。経営者も新規事業を成功させて成長性の高い、
利益率の高い経営を目指して努力しているのではないでしようか。少しでも仮説の確率を向上させる
ところに面白さを持っているのではないか、と思います。
経営の不確実性に対応できるような起業家教育とはどのようなものでしょうか。早稲田大学で教え
ていると、「勉強はできるが勉強は嫌い」という学生がすごく多いことが非常に腹立たしく思ってお
ります。私が大学や大学院で欲しい学生は、「勉強はできなくても勉強が好きな」学生です。
図表1
不確実性の高い時代に有効な教育
なぜかといえば、不確実性の高
い時代になると常に新しいことに
取り組まなければなりませんし、
生涯勉強を続けていかなければなら
ないからです。「勉強ができて、勉
強が好きな」学生は、恐らく10%く
らいしかいないような気がします。
「勉強はできるが、勉強が嫌い」
という学生が大変多いことが非常
に私にとっては不満です。
不確実性の高い時代は、正解が
分からないわけですから、自分で
正解を考えなければなりません。そのため、教育としては、失敗を繰り返してそこから学んでいく場
を与えなければいけないということになります。
では、どんな教え方が良いかというと、医者の実践的教育で非常に有名な Duke 大学の医学センタ
ーの教育についての統計が役に立ちます。それによると、読書や聴講だけで得られる教育効果は 30%
です。体験学習をすると 75%、他人に教えると 90%と効果があがっていきます。体験する学習と、
「他
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人に教える」学習というものを教育に取り込むことが重要なのではないかと考えています。
起業家教育で重要なことは、受講生の年齢です。私は大学院で教えていますが、大学院でいくらア
ントレプレナーシップを教えてもほとんど意味がないと思っています。
図表2 早期起業家教育が必要
自営業とサラリーマンの親を持
つ大学生に起業家になりたいかど
うか一度調査をしたのですが、
早い
うちからベンチャーなどについて
習った人とか、
体験学習をしたとい
う人のうち、35%ぐらいは、起業
家になりたいと言います。
しかし大
学生になって初めてベンチャーの
話を聞いたという人は、
ほとんど起
業家になりたいとは言いません。
そ
のため、早いうちにベンチャーや起
業家等について教えておくことで、起
業家になるという選択肢を与えることができるのではないかと思っています。1996 年から小中学生を対象に早
稲田ベンチャーキッズキャンプを開催しました。このキャンプのコンセプトをベースに私のゼミ生であった平
井由紀子さんが早期起業家教育の事業会社を 2000 年に創立しました。その会社が株式会社セルフウイ
ングで、昨年[Japan Venture Awards 2008]で、中小企業長官賞をいただきました。
この早期起業家教育プログラムでは、単にビジネスを教えるというわけではなく、ビジネスの失敗
からどのように成功を導き出すかを教えるプログラムです。
このプログラムを通じた教育は、失敗を体験させ、それからどうやって立ち上がっていくのかとい
うことを2泊3日で教えます。それは同時に、ビジネスを体験し、起業を体験することでもあります。
●早稲田大学の起業家教育の取り組み
アントレプレナーシップ大学を目指している、早稲田大学の起業家教育の取り組みについては二つ
お話ししようと思います。
●●ウエルインベストメント株式会社
一つ目は、ウエルインベストメント株式会社の取り組みです。これはベンチャー学会の会長である
松田修一先生が主体になって始められたものです。早稲田大学アントレプレヌール研究会 1という約15
年の歴史を持つ、恐らくアントレプレナーシップの研究会で、日本で一番古い研究会です。この研究
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会の会員が中心になった立ち上げたベンチャーキャピタルがウエルインベストメント株式会社です。
図表3 ウエルインベストメント株式会社
私はウエルインベストメントを「しがらみフ
ァンド」と勝手に言っていますが、その理由は
早稲田大学の出身や早稲田大学の教職員の推
薦だと言ったら、好意的に考えてもらえるから
です。松田先生が会長ですので、本当は「しが
らみファンド」
などと言ってはいけないのです
が、実態ではないかと思っています。
ウエルインベストメントが投資した企業か
ら上場企業が 15 社ぐらい出ています。実は、
「しがらみ」というのはすごく重要な言葉です。
ベンチャーキャピタルが投資をするときに、「15%は技術に投資をして、85%は人材に投資」と云わ
れています。技術面がたとえたいしたことがなくても、人材面で「あいつは良いやつだ」「あいつは
信用できる」と評価されたら、投資を受けることができるわけです。この人材重視の投資方針を有効
に活用したのがウエルインベストメントだと私は思っています。そういう意味で、早稲田大学関係者
が起業するときに、きちんとした信用のおける卒業生だったら、ウエルインベストメントから資金調
達ができるわけです。
●●インキュベーションセンター
二つ目に、インキュベーションセンターです。センターのビジョンは、先ほど申し上げた「進取の
精神」です。
早稲田大学のインキュベーションセンターでは「三つの役割と二つの貢献」を考えています。三つ
の役割とはインキュベーション、教育、研究です。二つの貢献とは地域貢献と国際貢献です。
なかなか難しいのですが、全学的な支援体制を築き上げているか、理工系と経営系でどうやって協
力関係を築いていくか非常に頭を悩ませています。 先ほどご紹介致しました早稲田大学のアントレプ
レヌール研究会やビジネススクールとの連携です。アントレプレヌール研究会の方は、東出浩教先生
が、今、世話役になっています。
早稲田大学のビジネススクールでは、アントレプレヌールシップマネジメント専修、テクノロジー・
マネジメント専修、ストラテジックマネジメント専修の 3 専修があります。5 つのゼミがアントレプレ
ヌールシップ関連です。今日、大和総研のレポートをちょっと読んでみたのですが、講義科目のどれ
くらいがアントレプレナーシップの教育に入っているのか判断に悩むところです。対象となる授業は
数限りなくあるような気がしてならないのですが、いずれにせよ、数多くの授業を通じて学生に対して
実践と演習の場を与えています。そして、インキュベーションセンターのファシリテーターとしてMBA生や
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学部生など10 数人を採用して、ベンチャーの手伝いをさせています。
その他には、学内の他のキャンパスとの連携をしております。早稲田大学の本庄キャンパスには中
小企業基盤整備機構 2が整備してくれたインキュベーションセンターがあります。北九州ひびきのキャ
ンパスとも連絡を取りながら活動をしております。他大学のインキュベーションセンターや地域のイ
ンキュベーションセンターとも連携を密にしております。本日は九州大学の谷川先生が来ていらっしゃいます
が、実際に九州大学のインキュベーションセンターや財団法人京都高度技術研究所と協力してやっています。
●●●インキュベーション事業
早稲田大学のインキュベーションセンターの三つの役割のうち、まずインキュベーション事業につ
いてお話しします。
図表4 5種類のベンチャー育成
インキュベーション事業を通じて、5種
類のベンチャーを育成しようとしています。
教授ベンチャー、学生ベンチャー、企業ベ
ンチャー、協定校・地方自治体のベンチャ
ー、国際ベンチャーの5つです。
今日、パネリストとして出てくる早稲田
大学政経学部4年生の村上太一君が創立し
た株式会社リブセンスはまさに学生ベンチ
ャーの例です。
協定校・地方自治体のベンチャーの例は、
九州大学インキュベーションセンター出身
のグローバルゲイツ社や京都高度技術研究
所のインキュベーションからの紹介のベンチャーです。
国際ベンチャーは、早稲田大学の留学生が国に帰って起こしたベンチャーや、留学生のベンチャー
や、早稲田大学と提携している大学のインキュベーションセンターのベンチャーが日本に進出したい
という場合に場所を提供しています。
今までのインキュベーションセンターは早稲田実業高校の元の校舎を利用していました。2階、3階、
4階まであったのですが、残念ながら高等学校の校舎なのでエレベーターがありませんでした。私は2階のベ
ンチャーしか定期的に訪問できませんでした。3階、4階はあまり訪問できませんでした。それではいけない
と思い、今度の新しいインキュベーションセンターは、すべて全て1階に収まるようになっています。非常に
ベンチャーとのコミュニケーションがやりやすくなりました。
新しいインキュベーションセンターは個室利用型と共同利用型という2つの利用形態があります。
共同利用型は、インキュベーション・コミュニティといっています。学生ベンチャーなどは大体ここに
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入れます。利用費は一ヶ月1万円ですから非常に安いですが、住所、大学のインターネット環境、会議室、個
別ブース、等が使えます。学生のベンチャーの初年度はそれで十分だと思っております。
教授ベンチャーもここに入れようと思っています。1年間様子を見て、成長できそうとなったら個
室に移していくことを考えています。
●●●事業開発型産学連携
話は変わりますが、早稲田大学を企業に例えると売上は 1000 億円で、外部研究開発費が 100 億円
です。大学という知識を創造するところにも関わらず 10%しか、R&D費はありません。研究費も研
究費比率も少なすぎるのではないかと思っています。そういう状況では、研究開発型産学連携は大変難しいの
ではないかと思います。
トヨタを見ると、25 兆円で1兆円の研究開発費を使っております。しかも、自動車関連だけでそれ
だけの額があるということを考えると気が遠くなってしまいます。そのため、研究開発型の産学連携
という夢のような話はやめた方がよいと判断して、私が今提案しているのは事業開発型産学連携です。
研究開発型産学連携について付け加えると、企業はいろいろな技術シーズを持っているのですが、早
稲田大学では医学部や薬学部がないので、物質特許などのホームラン特許の可能性は非常に少ないです。大体
はヒット特許で大きなライセンス収入を得られるようなことはありません。
また一つライセンスを取ったとしても、企業が周辺のライセンスを全部おさえていて、TLO 3で金
をもうけようすることは、夢のまた夢です。文部科学省や経済産業省もいろいろなことを考えていら
っしゃるでしょうが、そのような夢は捨てた方がよいと私は思っています。
図表5
事業開発型産学連携
事業開発型産学連携は、企業が技術を持ってきて、
それに早稲田大学が知財を加えるモデルです。
企業に技術シーズを出してもらい、大学側が学生と
研究者と教授を参加させて、新しいノウハウや知識を
つけていく事業開発型産学連携が、日本ではうまくい
くのではないかと思っています。
少なくとも研究費が少ない大学では、事業開発型産
学連携が適しているような気がします。会社からのス
ピンアウトやカーブアウト、いろいろな取り組みがなさ
れています。このような取り組みが現在のところ、あまりうまくいっていないと私は思っていますが、大学が
連携することで良い方向へ向かっていくのではないかと考えて、今、事業開発型産学連携の実験をしている最
中です。
他にも、例えば長期間企業の中で事業化しようとしているプロジェクトを一度大学のインキュベー
ションセンターで、研究者や学生のチームで再挑戦するようなことが可能になるのではないかと思っ
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ております。もうやめたいのだけれどもやめるわけにいかないというようなプロジェクトが多く企業
の研究所にあります。新しい環境で、新しい眼で 1 年間かけて見直します。もしそれでうまくいかな
かったらあきらめてもらいます。そのような場所をインキュベーションセンターで提供することができるので
はないかと考えています。
●●●Venture Boot Camp の開催
その他にも、先ほど言いましたように、アントレプレナーシップの授業を通して、起業家を育成す
ることや、起業家マインド養成や、新しいものにチャレンジする学生を育てるためにいろいろな工夫
をしています。
インキュベーションセンターでじっと待っていても、先生や研究者が良いアイデアを持ってきませ
ん。そのため、インキュベーションセンターでは Venture Boot Camp を開いて積極的に技術シードを
探しに出かけます。
図表6 Technology Boot Camp in Hibikino Campus
国際的なベンチャーを育成するた
めに、Kauffman Foundation 4が提
唱しているGlobal
Entrepreneurship Weekに参加して
います。11 月 17 日からの 1 週間の
間に、早稲田で、三つのイベントを
開催します。具体的には、女子学生
起業家クラブの交流会、早稲田大学
インキュベーションセンターの公式
開所式、早稲田大学のベンチャーフ
ォーラムです。
早稲田大学のベンチャーフォーラ
ムは事業計画コンテストですが、もう 11 年続いています。
新しいインキュベーションセンター(Robert J. Shillman Business Innovation Center)の公式の
開所式です。
Venture Boot Camp については、ベンチャーに協力してくれそうな先生の研究室に行って、大学院
生や研究者が持っているアイデアをビジネスにすることができるかどうかを検討します。ファシリテーターと
呼んでいるMBAの学生や学部の学生を連れていくのと同時に、企業のエンジニアも連れていき、ビジネスの
アイデアをつくり上げるイベントです。ベンチャーに興味をもってくれる先生は早稲田大学でも 5%~10%
程度しかいません。
これは九州大学と一緒にやらせていただいた北九州のひびきのキャンパスで行った Boot Camp の
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案内です。画像計測などの技術シードが中心であったので、その専門的な企業の方に参加してもらい
ました。
●●●女子学生の起業家交流会
Global Entrepreneurship Week 5に合わせて開く女子学生の起業家交流会の案内です。
図表7 早稲田大学女子学生起業家交流会
早稲田大学は日本で2番目に大き
い女子大学で、1万 5000 人の女子
学生がいます。ベンチャー学会の事
務局長であり、早稲田大学客員教授
でもある田村真理子先生がオーガナ
イズして、女子学生起業家交流会を年
数回レベルで開いています。
残念ながら女子学生起業家交流会
には私は入れません。セクハラ問題
などが起こらないように、女子だけ
が参加できるのです。そのため、こ
こにあるのは後でもらった写真です
が、実際に非常に活発に活動をされていると聞いています。
去年は株式会社大和総研の鈴江栄二本部長にお話しをいただいています。ここには鈴江本部長の写
真も出ています。大和総研がスポンサーでしたので、鈴江本部長だけは特別に参加できました。寄付
をするとすばらしい利点があります。
女子学生起業家交流会には、男子学生は入れず、女子学生だけです。そちらの方がうまくいくよう
です。
●●●事業計画コンテスト
早稲田大学のベンチャーフォーラムについてですが、これはさきほども申し上げました通り、11 回
続いている事業計画コンテストです。今まで優勝したベンチャー中で、潰れた会社もあります。また
Living Dead の会社もまだ聞いたことがありません。
このフォーラムは 10 月 26 日が締め切りになっているので、ぜひ参加してください。賞金の副賞と
して、ウエルインベスト株式会社が 100 万円を用意しています。実は、アメリカの大学になると500 万
円ぐらいが賞金の相場となっています。ウエルインベストメントがもう少し賞金を上げてくれるとも
っと応募者が増えるのではないか、と期待しております。
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●●●教育の場としてのインキュベーションセンター
インキュベーションセンターの第2の役割、教育の場について話します。ベンチャー支援のための
学生のファシリテーターを採用しています。学生にベンチャー支援をさせるところに意味があるので
す。
図表8 教育を通して、ビジネスアイデアからビジネスプランへ
先ほど申し上げたように、学生が
一番身に付くのはケーススタディな
ど仮想空間で学ぶことではなく、本
物で教育をやらなくてはいけないと
いう考えからそのような取り組みをし
ています。
例えば、早稲田ベンチャーキッズ
でも、小学生に実際に商売をやらせ
てみます。そこでうまく売れなかっ
たら、なぜ売れなかったのか反省し
ながら学習させます。
ファシリテーターは、内定の決ま
った学生とMBAの学生でそれぞれチームを作ってベンチャーを支援していくという形で行い、それ
が修士論文になる場合もありますが、単位取得は考えておりません。このファシリテーターの取り組
みは大和総研にいろいろ支援していただいております。大和総研の耒本一茂さんがファシリテーター
チームの指導をしています。
学部生、大学院生が単位取得できるベンチャー関連講座は 10 以上あります。一つは、大和証券グルー
プの「起業家育成基礎講座」です。今日パネリストになる村上太一君は大学1年生のときにこの授業を履修し
て、事業アイデアを発表しました。彼のアイデアが最優秀でした。副賞として、インキュベーションセンター
に1年無料で入居しました。彼の今年度の年収を聞いた印象は、大学の先生なんかやっていてはいけな
い、と思いました。ほかにも、企業がスポンサーになっている授業がいろいろあります。
例えば、サイボーズ社寄附講座「ビジネスモデル策定」や、松田修一先生の「ICTベンチャーの
事業化」、マクロミル寄附講座の「ベンチャー企業の創出」、シルマン博士記念講座「ハイテクベンチャーマ
ネジメント」、フォーバル寄附講座「ブロードバンド起業塾」等があります。このほかにも各学部、各大学院
固有のベンチャー授業があると思いますが全ては把握しておりません。
多くの寄附講座では、講演者であるベンチャー社長と受講者の交流会を月に 2 回程度開催しており
ます。Venture Boot Camp や事業計画コンテストなどにも積極的に参加することを奨励しています。
ほかにも例えば、Moot Corp 6がありますが、これは英文のビジネスプランコンテストです。早稲田大学
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からは留学生が中心に参加しています。このコンテストは、テキサス大学から始まった全世界的なもので、ア
ジア予選はタイのタマサート大学で毎年行われます。一橋大学と早稲田大学が参加しています。早稲田大学は、
2000 年から毎年参加しています。
●●●早稲田のベンチャースキーム
ところで、早稲田大学ではビジネスアイデアを創出して、インキュベーションセンターに入居し、
成長企業を育成するスキームができております。
後でパネリストとして話してくれる村上君は、1986 年生まれなので 22 歳です。彼がいろいろ話し
てくれると思いますが、小学校時代から起業しようと考えていたとのことです。高等学校でもビジネ
スのようなことを少しされたと聞いています。
研究者ベンチャーの代表的な例は、トレード・サイエンス社です。研究者である加藤浩一さんが創
立したベンチャーです。トレード・サイエンス社は、1カ月ぐらい前にマネックス証券が 10 億円で買
収した会社です。そのため、創業者3人ぐらいは、数億円ずつ儲かったのではないでしょうか。この
資金をベースに次のベンチャーを現在構想中だと聞いております。研究者は興味がどんどん変化して
いきますから、次から次へとベンチャーを創造することが一番適しているのではないでしようか。
特に、先ほどお話ししたように、IPOを狙うなどということは今ではほとんど不可能に近い話になってき
ているので、このように事業会社に買収してもらう出口が一つのモデルになると思います。
私の教えているシルマンハイテクベンチャー講座にも、村上さんや加藤さんが来てくれて、いろい
ろと後輩のために話をしてくれます。期末の課題があり、事業計画や事業アイデアを発表させるよう
にしています。ただ話を聞くだけではなくて、実際に新規事業アイデアやベンチャーを提案してもら
います。
大学院の Entrepreneurship のコースでもやはり期末の課題に事業計画の発表をしてもらいます。
今年
度は四つのテーマを扱っています。
一つはインテル Atom CPU の新しいビジネスアイデアというテーマです。
二つ目に、ニコンのデジタルサイネージのテーマです。
三つ目に、ボストンにあるノースイースタン大学のナノテクノロジーのバイオセンサーのテーマで
す。この技術をベースに日本の戦略をつくることを考えています。
最後に、メリーランド大学から出てきた、中古ゲームのトレーディング会社の日本進出の計画をつ
くるということです。これは、今度の 1 月 16 日に発表させた後、3 月 17 日に早稲田で開かれる
Technological Entrepreneurship Workshop で発表をさせる予定です。早稲田大学の学生をできれば
ボストンにつれていき、世界戦略をディスカッションさせたいと思っています。
結局のところ、経営学は実物でやらなければ意味がないと私は思っています。情報が限定されたケ
ーススタディというものは情報時代のリーダー教育には意味があるとは思いません。日本人の学生は、
すごくケースが受験勉強のおかげで得意なのですが、本当に意味があるかどうか疑問です。
要するに、限られた情報の中から正解を求める訓練をいくらしても、あまり意味はないと思うので
20
す。
無限の情報から何をやらなくてはならないかという意思決定のトレーニングをさせるべきだと思い
ます。早稲田大学にもいろいろな先生がおります。限られた情報を与えておいて、「これはどういう答え
か」という指導をしておられる先生もいらっしゃいます。
第3の役割は、研究活動の場の提供を行っています。ゼミ生やほかの先生のゼミ生にもインキュベ
ーションセンターに来てもらい、修士論文の題材を提供しています。ファミリービジネスの研究、イ
ンキュベーションセンターの経営、大学発ベンチャーの経営、知財活用の事業計画、そのような研究
テーマを提供することによって、研究の場としています。
新しいインキュベーションセンターが 11 月 20 日にオープニングをしますので、ぜひ来てください。
●●●起業家寮をつくろう
私は、早稲田大学を起業家大学にする一番良い方法は、起業家寮をつくることだと思います。早稲
田大学のスポーツで強いところは、ラグビー部もラグビー寮を持っていますし、水泳部も卓球部も駅
伝部も最近強くなったところは、寮があります。
図表9 起業家育成寮に入り、起業家精神を涵養し、起業家ビジネスマンになる
そのため、「起業家をつくるには
もう起業家寮しかない」と考えて、
新規事業として共立メンテナンスに提
案したら、共立メンテナンスも「いいで
すよ」と話がまとまりかけました。しか
し、「早稲田という名前を付けたい」と
大学に提案したら、大反対されてしまい
ました。何で反対されたのか、いまだに
よく分かりません。
早稲田大学には5万人ぐらい学生
がいます。5万人の学生がそれぞれ
いろいろなことを考えているわけで
すから、その中でも起業家になりたいという人は一つのところに集めてみてはどうか、と思います。
漫画でトキワ荘があるように、早稲田大学で起業家寮をつくれば、毎年、かなりの数で起業家が生
まれると思います。
例えば、30 歳ぐらいになったときに、その寮で過ごした人が集まって、また起業家になっていく可
能性も高いと思います。経済産業省も文部科学省もどんどん起業家寮を大学につくっていくことに後
押しをしてくれること願っています。
大がかりなインキュベーションセンターなんかはつくらなくてもよいから起業家寮をつくって、そ
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こで教育をするという形が一番良いと思います。
三菱UFJキャピタルにも起業家寮をぜひつくっていただきたいと思います。起業家誕生を促進す
るためには、これしか解決策はないのではないかと私は思っています。
非常に残念ですが、早稲田大学ではできなかったので、ぜひほかの大学でこの計画を進めていただきたい
とも思っています。
●●●地域貢献と国際貢献
最後に、地域貢献と国際貢献について説明します。地域貢献では、墨田区と5年前から包括提携を
結んでおり、色々なプログラムがあります。ファミリービジネスや事業継承の実態調査研究をやろう
としています。
私が行った墨田区のプログラムについて簡単に触れますと、墨田区の中小企業を儲かる企業にすると
いうプログラムです。MBAの学生がコンサルティングを行って企業を大変儲かる企業に変えました。
そのプログラムをASEAN各国の大学に技術移転して、ASEANの中小企業・零細企業を助け
ています。大学4年生の期末テーマとして、Consulting Based Learning を行うことで地域活性化の
手伝いをしています。
Project Based Learning 分類されるのですが、コンサルティングをすることによって学ぶ、
「Learning from Helping」の精神です。このプログラムがASEANの起業家教育の共通のプログラムに
なりつつあります。
学生は零細企業の問題点を見つけ、解決策を作り上げ、その企業のコンサルティングをさせ、3ヶ
月ぐらいで効果を出させることが狙いです。このプログラムは「本物でやる」教育な代表例です。
最後に宣伝になりますが、
10 月23 日にBabson College のHabbershon というFidelity Investments
の Managing Director が来て、早稲田大学で「ファミリービジネスと起業家精神」という講演を行い
ます。無料ですのでぜひ参加してください。どうもありがとうございました。
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6
http://www.weru.co.jp/
http://www.smrj.go.jp/
Technology Licencing Organization(技術移転機関)
http://www.kauffman.org/
http://www.enterpriseweek.org.uk/about/global_entrepreneurship_week
http://www.mootcorp.org/
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